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特開2024-135530積層ポリエステルフィルム、車両用ディスプレイ、車両用電子部品
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  • 特開-積層ポリエステルフィルム、車両用ディスプレイ、車両用電子部品 図1
  • 特開-積層ポリエステルフィルム、車両用ディスプレイ、車両用電子部品 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024135530
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】積層ポリエステルフィルム、車両用ディスプレイ、車両用電子部品
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/36 20060101AFI20240927BHJP
   B05D 7/04 20060101ALI20240927BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20240927BHJP
   G02B 1/04 20060101ALI20240927BHJP
   G02B 5/30 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
B32B27/36
B05D7/04
B05D7/24 302V
G02B1/04
G02B5/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023046261
(22)【出願日】2023-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】園田 和衛
(72)【発明者】
【氏名】岩谷 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】山本 彩香
(72)【発明者】
【氏名】太田 一善
【テーマコード(参考)】
2H149
4D075
4F100
【Fターム(参考)】
2H149AA01
2H149AB12
2H149AB13
2H149AB16
2H149BA02
2H149CA02
2H149EA12
2H149EA29
2H149FA12X
2H149FD25
2H149FD42
2H149FD47
4D075BB92Z
4D075CA13
4D075CB06
4D075DA04
4D075DB48
4D075DC21
4D075EB32
4D075EB35
4D075EB45
4F100AA08A
4F100AA20A
4F100AH03B
4F100AK01B
4F100AK36B
4F100AK41A
4F100AK41B
4F100AK42A
4F100BA02
4F100CA02B
4F100CC00B
4F100EH46B
4F100EJ38A
4F100EJ55A
4F100GB31
4F100GB41
4F100JB04B
4F100JL11
4F100JN01
4F100YY00B
(57)【要約】
【課題】 本発明は、対象物との初期密着性に優れ、且つ湿熱雰囲気下においても密着性と透明性を維持することができる積層ポリエステルフィルムを提供することをその課題とする。
【解決手段】 ポリエステルフィルムの少なくとも片側の最表層に、樹脂層Xを有する積層ポリエステルフィルムであって、前記樹脂層Xの表面自由エネルギーが35.0mN/m~55.0mN/mであり、温度85℃、湿度85%の環境下で500時間の湿熱処理を施した後の前記樹脂層Xの表面自由エネルギーにおける極性力と水素結合力の合計値の変化量が0.0mN/m~3.0mN/mであることを特徴とする、積層ポリエステルフィルム。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルフィルムの少なくとも片側の最表層に、樹脂層Xを有する積層ポリエステルフィルムであって、
前記樹脂層Xの表面自由エネルギーが35.0mN/m~55.0mN/mであり、
温度85℃、湿度85%の環境下で500時間の湿熱処理を施した後の前記樹脂層Xの表面自由エネルギーにおける極性力と水素結合力の合計値の変化量が0.0mN/m~3.0mN/mであることを特徴とする、積層ポリエステルフィルム。
【請求項2】
原子間力顕微鏡(AFM)で測定した1μm四方の前記樹脂着層Xの弾性率ばらつき像におけるドメイン面積が500nm以下である、請求項1に記載の積層ポリエステルフィルム。
【請求項3】
前記樹脂層Xがポリエステル樹脂を含む、請求項1または2に積層ポリエステルフィルム。
【請求項4】
前記樹脂層Xが、以下の特徴1~3を全て満たす塗料組成物より形成される、請求項1または2に記載の積層ポリエステルフィルム。
特徴1:バインダー樹脂、メラミン化合物、カルボジイミド化合物をすべて含む。
特徴2:塗料組成物におけるバインダー樹脂の含有量を100質量部としたときに、メラミン化合物の含有量Aが10質量部以下であり、カルボジイミド化合物の含有量Bが5質量部~30質量部である。
特徴3:A/Bが0.50以下である。
【請求項5】
前記樹脂層Xが、以下の特徴4及び5をともに満たす塗料組成物より形成される、請求項1または2に記載の積層ポリエステルフィルム。
特徴4:バインダー樹脂を含む。
特徴5:塗料組成物に含まれるバインダー樹脂の10質量%以上が、水酸基と多官能アクリロイル基を有する樹脂である。
【請求項6】
前記樹脂層Xの厚みが50nm以下である、請求項1または2に記載の積層ポリエステルフィルム。
【請求項7】
車両用ディスプレイに使用される、請求項1または2に記載の積層フィルム。
【請求項8】
車両用電子部品に使用される、請求項1または2に記載の積層フィルム。
【請求項9】
請求項1または2に記載の積層ポリエステルフィルムを使用した、車両用ディスプレイ。
【請求項10】
請求項1または2に記載の積層ポリエステルフィルムを使用した、車両用電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水系塗材の塗布均一性および密着性に優れた積層ポリエステルフィルム、それを用いた車両用ディスプレイ、車両用電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂フィルム、中でもポリエステルフィルムは、機械的性質、電気的性質、寸法安定性、透明性、耐薬品性などに優れた性質を有することから磁気記録材料、包装材料、フラットディスプレイ等における反射防止フィルムや拡散シート、プリズムシート等の光学フィルム、透明タッチパネルなど幅広く使用されている。しかしながら、これらの用途に好適に用いるために、ポリエステルフィルムに他の材料を塗布積層して所望の機能を有する層を形成させる場合、使用される材料によっては接着性が悪くなる欠点がある。
【0003】
そこで、ポリエステルフィルムの表面に接着性を付与する方法の一つとして、ポリエステルフィルムの表面に各種樹脂を塗布し、接着機能を持つ塗布層(以下、易接着層ということがある。)を設ける方法が知られている。具体例としては、例えば、ポリウレタン樹脂や親水性官能基を導入したアクリル樹脂やポリエステル樹脂からなる塗剤により、ポリエステルフィルムの表面に易接着層を設けることで接着性の向上を図る手法が知られている(特許文献1、2)。
【0004】
また、近年、液晶パネルを搭載する自動車が増加している。このような自動車に搭載されている液晶パネルは高温下や高湿下に長時間さらされることが多いため、液晶パネル構成する易接着フィルムにも、耐湿熱性及び高温耐久性が求められてきている。
【0005】
湿熱雰囲気に曝された易接着フィルムは、フィルム内部から表面に異物が析出することにより、以下に示すような問題が生じる。例えば、析出物が光を散乱してフィルム透明性を阻害する、粘着剤やハードコートとの積層に用いている場合に析出物が界面に堆積して密着性が低下する、偏光素子を含む偏光板を貼合した保護フィルムとして用いている場合に析出物が偏光子樹脂に浸透して偏光特性の低下や色抜けなどの特性劣化を生じる、等である。このような問題を解決する手法として、架橋剤量を低減して耐熱水性や高温高湿下での密着性を向上させた易接着フィルムが知られている(特許文献3、4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009-214531号公報
【特許文献2】特開2011-140140号公報
【特許文献3】特許第5042161号公報
【特許文献4】特開2014-65887号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献3、4に開示されている方法では、湿熱試験後の透明性と密着性をともに満足する性能を具備する易接着フィルムは得られないのが現状である。本発明者らが、湿熱試験後に透明性と密着性が低下する原因を検証したところ、湿熱雰囲気下で発生する表面析出物は、易接着層に含まれる反応性化合物の残渣物であることが判明し、反応性化合物量を低減化すれば、これらの問題点が改善することが判明した。一方、本発明者らの検討においては、反応性化合物は易接着層の強度や対象物との初期密着性に強く関連しており、単に反応性化合物量を低減するだけでは十分な密着性を得られないことも明らかとなった。
【0008】
そこで、本発明は上記の欠点を解消し、対象物との初期密着性に優れ、且つ湿熱雰囲気下においても密着性と透明性を維持することができる積層ポリエステルフィルムを提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明の積層ポリエステルフィルムは次の構成からなる。すなわち、本発明の積層ポリエステルフィルムは、ポリエステルフィルムの少なくとも片側の最表層に、樹脂層Xを有する積層ポリエステルフィルムであって、前記樹脂層Xの表面自由エネルギーが35.0mN/m~55.0mN/mであり、温度85℃、湿度85%の環境下で500時間の湿熱処理を施した後の前記樹脂層Xの表面自由エネルギーにおける極性力と水素結合力の合計値の変化量が0.0mN/m~3.0mN/mであることを特徴とする、積層ポリエステルフィルムである。
【0010】
また、本発明の積層ポリエステルフィルムは以下の態様とすることもでき、本発明の積層ポリエステルフィルムを用いて車両用ディスプレイや車両用電子部品を得ることもできる。
(1) ポリエステルフィルムの少なくとも片側の最表層に、樹脂層Xを有する積層ポリエステルフィルムであって、前記樹脂層Xの表面自由エネルギーが35.0mN/m~55.0mN/mであり、温度85℃、湿度85%の環境下で500時間の湿熱処理を施した後の前記樹脂層Xの表面自由エネルギーにおける極性力と水素結合力の合計値の変化量が0.0mN/m~3.0mN/mであることを特徴とする、積層ポリエステルフィルム。
(2) 原子間力顕微鏡(AFM)で測定した1μm四方の前記樹脂着層Xの弾性率ばらつき像におけるドメイン面積が500nm以下である、(1)に記載の積層ポリエステルフィルム。
(3) 前記樹脂層Xがポリエステル樹脂を含む、(1)または(2)に積層ポリエステルフィルム。
(4) 前記樹脂層Xが、以下の特徴1~3を全て満たす塗料組成物より形成される、(1)~(3)のいずれかに記載の積層ポリエステルフィルム。
特徴1:バインダー樹脂、メラミン化合物、カルボジイミド化合物をすべて含む。
特徴2:塗料組成物におけるバインダー樹脂の含有量を100質量部としたときに、メラミン化合物の含有量Aが10質量部以下であり、カルボジイミド化合物の含有量Bが5質量部~30質量部である。
特徴3:A/Bが0.50以下である。
(5) 前記樹脂層Xが、以下の特徴4及び5をともに満たす塗料組成物より形成される、(1)~(4)のいずれかに記載の積層ポリエステルフィルム。
特徴4:バインダー樹脂を含む。
特徴5:塗料組成物に含まれるバインダー樹脂の10質量%以上が、水酸基と多官能アクリロイル基を有する樹脂である。
(6) 前記樹脂層Xの厚みが50nm以下である、(1)~(5)のいずれかに記載の積層ポリエステルフィルム。
(7) 車両用ディスプレイに使用される、(1)~(6)のいずれかに記載の積層フィルム。
(8) 車両用電子部品に使用される、(1)~(6)のいずれかに記載の積層フィルム。
(9) (1)~(7)のいずれかに記載の積層ポリエステルフィルムを使用した、車両用ディスプレイ。
(10) (1)~(6)、(8)のいずれかに記載の積層ポリエステルフィルムを使用した、車両用電子部品。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、特に耐湿熱処理後の透明性および密着性に優れた積層ポリエステルフィルムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施態様(実施例1の態様)にかかる樹脂層X表面の弾性率ばらつき像である。
図2】本発明が解決しようとする課題を抱える積層ポリエステルフィルム表面の弾性率のばらつき像である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の積層ポリエステルフィルムは、ポリエステルフィルムの少なくとも片側の最表層に、樹脂層Xを有する積層ポリエステルフィルムであって、前記樹脂層Xの表面自由エネルギーが35.0mN/m~55.0mN/mであり、温度85℃、湿度85%の環境下で500時間の湿熱処理を施した後の前記樹脂層Xの表面自由エネルギーにおける極性力と水素結合力の合計値の変化量が0.0mN/m~3.0mN/mであることを特徴とする。以下、本発明の積層ポリエステルフィルムについて詳細に説明する。
【0014】
本発明の積層ポリエステルフィルムは、樹脂層Xの表面自由エネルギーが35.0mN/m~55.0mN/mであることが重要である。表面自由エネルギーとは、液体との濡れやすさの指標であり、それぞれ分散力、極性力、水素結合力の3成分の合計値で表される。樹脂層Xの表面自由エネルギーが高い程、水系塗剤と樹脂層Xの表面との親和性が上がり、推計塗剤の塗布性や粘着剤やハードコートなどの加工層との密着性が向上する。樹脂層Xの表面自由エネルギーが35.0mN/mを下回ると、水系塗剤との親和性が不足し、加工層との密着性が不十分となる。樹脂層Xの表面自由エネルギーの上限については、特性上の好ましい値は存在しないが、本発明の積層ポリエステルフィルムにおける樹脂層Xを形成するにあたり好ましい塗料組成物、製造方法で現実的に達成可能な範囲から、55.0mN/mである。
【0015】
樹脂層Xの表面自由エネルギーは、純水、エチレングリコール、ホルムアミド、ジヨードメタンの4種の液体のそれぞれの接触角を用いて、畑らによって提案された「Fowkes式を拡張した式(拡張Fowkes式)」に基づく幾何平均法により算出することができる(詳細な測定方法は後述する。)。
【0016】
樹脂層Xの表面自由エネルギーを35.0mN/m~55.0mN/mとする方法は特に制限されないが、例えば、ポリエステルフィルムの表面に易接着性プライマー(後述する樹脂層X)を塗布して硬化させる方法や、コロナ放電処理等を施して表面を活性化させる方法を採ることができる。
【0017】
本発明の積層ポリエステルフィルムは、温度85℃、湿度85%の環境下で500時間の湿熱処理を施した後の樹脂層Xの表面自由エネルギーにおける極性力と水素結合力の合計値の変化量が0.0mN/m~3.0mN/mであることが重要である。ここで表面自由エネルギーにおける極性力とは、極性基同士の相互作用の強さを表すパラメータであり、水素結合力は水分子との相互作用の強さを表すパラメータである。樹脂層Xは、対象との密着性を高めるために極性基や水素結合を持った反応性化合物を含むことが好ましいが、このような反応性化合物は湿熱条件雰囲気下に長期間保管することで最表面に析出する。そこで我々は表面自由エネルギーの変化に着目し検討したところ、表面析出物量と、極性力と水素結合力の合計値の変化量に相関性があることを突き止め、樹脂層Xの表面自由エネルギーにおける極性力と水素結合力の変化量が0.0mN/m~3.0mN/mの範囲であると、湿熱雰囲気下の白化や密着性低下が抑制されることを見出した。この変化量が3.0mN/mより大きいと、表面の析出物量が多くなり、白化や密着性低下が問題となる。上記観点から、当該変化量はより好ましくは0.0mN/m~1.5mN/mの範囲であり、さらに好ましくは0.0mN/m~1.4mN/mの範囲であり、特に好ましくは0.0mN/m~1.0mN/mの範囲である。
【0018】
樹脂層Xの極性力および水素結合力は、純水、エチレングリコール、ホルムアミド、ジヨードメタンの4種の液体のそれぞれの接触角を用いて、畑らによって提案された「Fowkes式を拡張した式(拡張Fowkes式)」に基づく幾何平均法により算出することができ、その方法の詳細は後述する。また、樹脂層Xの表面自由エネルギーにおける極性力と水素結合力の変化量は、樹脂層Xに含まれる成分や樹脂層Xの形成方法、およびその組み合わせによって制御することができる。具体的には、構成成分である樹脂や化合物が側鎖に有する官能基種、ポリマーを使用する場合における単位構造の分子量、架橋反応の進行度等により、調整することが可能である。好ましい構成材料や製造方法の詳細については後述する。
【0019】
本発明の積層ポリエステルフィルムは、樹脂層Xの表面自由エネルギーにおける極性力と水素結合力の合計値の変化量を低くすることと、湿熱処理後の密着性低下を抑制する観点から、原子間力顕微鏡(AFM)で測定した1μm四方の前記樹脂層Xの弾性率ばらつき像におけるドメイン面積が500nm以下であることが好ましい。弾性率は、AFM(Atomic Force Microscope:原子間力顕微鏡)を用いたフォースカーブ法による測定の後、JKR接触理論に基づいた解析を行うことで測定・算出することができ、詳細な方法や条件は後述する。AFMで測定した1μm四方の弾性率分布には好ましい形態が存在し、具体的には、後述の測定方法で測定した弾性率像(すなわちDMT Modulusチャンネルのデータ)を解析ソフト「NanoScopeAnalysis V1.40」のFlattenモードにてOrder:3rdにて平滑化し、平均値を0MPaにオフセットした「弾性率ばらつき像」に好ましい形態が存在する。具体的には前述の「弾性率ばらつき像」において、弾性率のばらつき幅が小さいことが好ましく、かつ粗大なドメインを有さないことが、表面の密着性を均一に保ち、湿熱処理後の密着性低下を最小限に抑えることから特に好ましい。
【0020】
図1は本発明の一実施態様にかかる樹脂層X表面の「弾性率ばらつき像」であり、図2は比較対象となる従来の積層ポリエステルフィルムの市販品の「弾性率ばらつき像」である。樹脂層X表面の「弾性率ばらつき像」の黒色部(図1、2中、「弾性率ばらつき像内の代表的な黒色部分」(符号1))は相対的に弾性率が低い領域を表し、白色部(図1、2中「弾性率ばらつき像内の代表的な白色部分」(符号2))は相対的に弾性率が高い領域を表す。樹脂層X表面の弾性率ばらつき像の各ドメインは、使用するバインダー樹脂や反応性化合物の局所的な凝集によって形成され、図2のようにドメインが粗大化した場合、すなわち構成材料の凝集が見られる場合には、樹脂層Xに対する湿熱処理後の密着性が低下する傾向がある。
【0021】
弾性率のばらつき幅は前述の「弾性率ばらつき像」をRoughnessモードで解析したImage Rmaxに相当し、5GPa未満が好ましく、2GPa未満が特に好ましい。一方、樹脂層Xの弾性率ばらつき像におけるドメイン面積は、Bearing AnalysisモードにてBearing Area Percent:10%にて着色した各ドメインの平均面積で表され、500nm以下であることが好ましく、300nm以下であることがより好ましく、100nm以下であることがさらに好ましい。弾性率のばらつき幅およびドメイン面積の測定方法の詳細については後述する。ドメイン面積は、樹脂層Xの構成成分である樹脂や、反応化合物種、架橋反応の進行度(塗料組成物を170℃以上で熱硬化することで高めることができる。)等により調整することができる。上記観点からの好ましい塗料組成物や製造方法の詳細については後述する。
【0022】
以下、本発明の積層ポリエステルフィルムの好ましい形態について詳細を説明する。
【0023】
<ポリエステルフィルム>
本発明の積層ポリエステルフィルムは、ポリエステルフィルムの少なくとも片側の最表層に樹脂層Xを有する。ポリエステル樹脂とは、エステル結合を主鎖の主要な結合鎖とする高分子の総称であって、エチレンテレフタレート、プロピレンテレフタレート、エチレン-2,6-ナフタレート、ブチレンテレフタレート、プロピレン-2,6-ナフタレート、エチレン-α,β-ビス(2-クロロフェノキシ)エタン-4,4‘-ジカルボキシレートなどから選ばれた少なくとも1種の構成成分を主要構成単位とするものを好ましく用いることができる。
【0024】
ここで主要構成単位とは、樹脂を構成する全構成単位を100モル%としたときに、50モル%を超えて100モル%以下含まれる構成単位をいう。なお、ポリエステル樹脂における主要構成成分は70モル%を超えて含まれることが好ましい。また、積層ポリエステルフィルムとは、少なくとも2つの層を有し、ポリエステル樹脂を主成分とするシート状の成形体をいう。主成分とは、フィルムの全構成成分中に50質量%を超えて100質量%以下含まれる成分をいう。ポリエステルフィルムとは、積層ポリエステルフィルムを構成するシート状の材料であって、ポリエステル樹脂を主成分とするものをいう。ポリエステルフィルムは単層構成、積層構成のいずれであってもよい。
【0025】
本発明の積層ポリエステルフィルムにおけるポリエステルフィルムとしては、耐熱性、平滑性の観点から、ポリエチレンテレフタレートフィルムを用いることが好ましい。また、積層ポリエステルフィルムに熱や収縮応力などが作用する場合には、耐熱性や剛性に優れたポリエチレン-2,6-ナフタレートフィルムを用いることが好ましい。ここで、ポリエチレンテレフタレートフィルムとは、フィルムを構成する全成分の50質量%より多く100質量%以下をポリエチレンテレフタレート(共重合体も含む。)が占めるフィルムをいい、ポリエチレン-2,6-ナフタレートフィルムについても同様に解釈できる。
【0026】
上記ポリエステルフィルムは、熱安定性、機械的強度の観点から、二軸配向されたもの、すなわち二軸配向ポリエステルフィルムであるのが好ましい。二軸配向ポリエステルフィルムとは、広角X線回折で直交する二軸に配向したパターンを示すポリエステルフィルムをいう。一般に、二軸配向ポリエステルフィルムは、未延伸状態のポリエステルシートを直交する2方向に延伸することで得られ、例えば、長手方向と幅方向に各々2.5~5.0倍程度延伸した後、熱処理を施して結晶配向を完了することで得られる。ポリエステルフィルムとして二軸配向ポリエステルフィルムを用いることにより、得られる積層ポリエステルフィルムの熱安定性、特に寸法安定性や機械的強度が向上する他、平面性も向上する。ここで長手方向とは、製造工程中をフィルムが走行する方向(フィルムロールにおいてはフィルムの巻き方向がこれに相当する。)をいい、幅方向とはフィルム面内で長手方向に直交する方向をいう。
【0027】
また、ポリエステルフィルムは、各種添加剤、例えば、酸化防止剤、耐熱安定剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、有機系易滑剤、顔料、染料、有機又は無機の微粒子、充填剤、帯電防止剤、核剤などを、その特性を悪化させない程度に含むことができる。なお、これらの添加剤は単独で使用しても複数種を組み合わせて使用してもよい。
【0028】
ポリエステルフィルムの厚みは特に限定されるものではなく、用途や種類に応じて適宜選択されるが、機械的強度、ハンドリング性などの点から、通常は好ましくは10μm~500μm、より好ましくは20μm~250μm、特に好ましくは30μm~150μmである。また、ポリエステルフィルムは、共押出しによる複合フィルムであってもよいし、得られたフィルムを各種の方法で貼り合わせたフィルムであってもよい。
【0029】
また、本発明の積層ポリエステルフィルムは、ヘイズ値が2.0%以下であることが好ましく、1.0%以下であることが特に好ましい。積層ポリエステルフィルムのヘイズ値を上記の範囲とすることで透明性が高まるため、透明性が求められる光学フィルムにも好適に用いることができる。ヘイズ値は低ければ低いほど好ましく、下限に特に制限はないが、実現可能性の観点から下限は0.1%となる。なお、ヘイズ値は「ヘーズ」と呼ぶこともある。
【0030】
積層ポリエステルフィルムのヘイズ値は、JIS「透明材料のヘーズの求め方」(K7136 2000年版)に準ずる方式で測定することができ、その詳細は実施例に示す。また、積層ポリエステルフィルムのヘイズ値を2.0%以下とする方法としては、例えばポリエステルフィルムの最表面に形成した塗布層の表面形状や屈折率を調整することで、空気との界面における反射率を低減させる方法が挙げられる。
【0031】
また、本発明の積層ポリエステルフィルムは、温度85℃、湿度85%の環境下で500時間の湿熱処理を施した前後のヘイズ上昇値が1.5以下であることが好ましく、さらに好ましくは1.0以下である。前記上昇値が1.5以下であると、車両用ディスプレイに使用しても透明性が維持されているため好ましい。
【0032】
<樹脂層X>
樹脂層Xは、後加工により別の層(後加工層、後述する加工層Yがこれに相当する。)を形成する際に、ポリエステルフィルムと後加工層の中間に位置することとなり、両者の密着性を高める役割を担う。樹脂層Xがこのような役割を担う観点から、本発明の積層ポリエステルフィルムにおいては、ポリエステルフィルムの少なくとも片側の最表層、好ましくは片側の最表層が樹脂層Xとなる。このような態様とすることにより、樹脂層Xを介してポリエステルフィルムと後加工層を積層させたときに、当該積層体を一体の積層体として取り扱うことが容易となる。なお、樹脂層Xは、水系塗材の塗布性および密着性を考慮して設計することができる(詳細は後述)。
【0033】
また、樹脂層Xはウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂などの各種バインダー樹脂を含むことが好ましく、樹脂層Xがポリエステルフィルムとの密着性を担うことを考慮すると、樹脂層Xがポリエステル樹脂を含むことがより好ましい。樹脂層Xがポリエステル樹脂を含む場合、樹脂層Xがポリエステルフィルムの表面と共通の化学構造を有することとなり、密着性が高まる。
【0034】
本発明の積層ポリエステルフィルムにおいては、樹脂層Xの厚みが300nm以下であることが好ましく、より好ましくは100nm以下、さらに好ましくは50nm以下である。樹脂層Xの厚みの下限は特に制限はないが、前述の密着性を十分に確保することができる水準を考慮すると、10nmとなる。一方、樹脂層Xの厚みを300nmより厚くしても密着性の向上効果は見られず、むしろ表面に析出する析出物量が多くなるため好ましくない。厚みを50nm以下とすることにより、表面に析出する析出物量が少なくなり、表面自由エネルギーにおける極性力と水素結合力の合計値の変化量を0.0mN/m~3.0mN/mに調整することが容易となる。なお、樹脂着層Xの厚みは、塗剤を塗工して形成して乾燥させた後の厚みであり、これは透過型電子顕微鏡(TEM)を用いてフィルム面に垂直な方向(厚み方向)の断面を観察し、得られた画像より測定することができる(詳細は後述)。
【0035】
<樹脂層Xを形成する塗料組成物>
以下、本発明の積層ポリエステルフィルムの樹脂層Xを形成するための塗料組成物について説明する。本発明の積層ポリエステルフィルムの樹脂層Xは、ポリエステル樹脂やウレタン樹脂、アクリル樹脂などの各種バインダー樹脂、オキサゾリン化合物、カルボジイミド化合物、メラミン化合物から選ばれる少なくとも一つの反応性化合物を含有する塗料組成物から形成されることが好ましい。
【0036】
樹脂層Xの塗料組成物に含まれるバインダー樹脂は、ポリエステルフィルムとの密着性の観点からポリエステル樹脂であることがより好ましく、また、表面に析出する析出物量を抑制し、表面自由エネルギーにおける極性力と水素結合力の合計値の変化量を0.0mN/m~3.0mN/mの範囲に調整する観点から、水酸基と多官能アクリロイル基を有する樹脂を用いてもよい。樹脂層Xの塗料組成物に含まれる反応性化合物は、メラミン化合物とカルボジイミド化合物であることがより好ましい。
【0037】
なお、上記塗料組成物を構成する各成分は、樹脂層Xの表面自由エネルギーが35.0mN/m~55.0mN/mとなり、かつ温度85℃、湿度85%の環境下で500時間の湿熱処理を施した後の樹脂層Xの表面自由エネルギーにおける極性力と水素結合力の合計値の変化量が0.0mN/m~3.0mN/mとなるように、その種類が選択され、含有量が調整される。
【0038】
ポリエステル樹脂の原料となるジカルボン酸成分としては、芳香族、脂肪族、脂環族のジカルボン酸が使用できる。芳香族ジカルボン酸としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、フタル酸、2,5-ジメチルテレフタル酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、1,2-ビスフェノキシエタン-p-p’-ジカルボン酸、フェニルインダンジカルボン酸などを用いることができる。脂肪族及び脂環族のジカルボン酸としては、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸、ダイマー酸、1,3-シクロペンタンジカルボン酸、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸など、及びそれらのエステル形成性誘導体を用いることができる。
【0039】
ポリエステル樹脂の原料となるジオール成分としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、2,4-ジメチル-2-エチルヘキサン-1,3-ジオール、ネオペンチルグリコール、2-エチル-2-ブチル-1,3-プロパンジオール、2-エチル-2-イソブチル-1,3-プロパンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2,2,4-トリメチル-1,6-ヘキサンジオール、1,2-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、2,2,4,4-テトラメチル-1、3-シクロブタンジオール、4,4’-チオジフェノール、ビスフェノールA、4、4’-メチレンジフェノール、4、4’-(2-ノルボルニリデン)ジフェノール、4,4’-ジヒドロキシビフェノール、o-、m-、及びp-ジヒドロキシベンゼン、4,4’-イソプロピリデンフェノール、4,4’-イソプロピリデンビンジオール、シクロペンタン-1、2-ジオール、シクロヘキサン-1,2’-ジオール、シクロヘキサン-1、2-ジオール、シクロヘキサン-1,4-ジオールなどを用いることができる。
【0040】
また、ポリエステル樹脂としては、ホモポリエステルの他、変性ポリエステル共重合体、例えば、アクリル、ウレタン、エポキシなどで変性したブロック共重合体、グラフト共重合体などを用いることも可能である。
【0041】
上記ポリエステル樹脂は、後述の反応性化合物との架橋反応により緻密な塗膜を形成し、樹脂層Xの表面自由エネルギーを容易に35.0mN/m~55.0mN/mの範囲に調整する観点から、側鎖に官能基を有することが特に好ましい。側鎖に有する官能基の好ましい例としては、例えば、水酸基、カルボン酸基、アミド基、グリシジル基、イソシアネート基、スルホン酸基などが挙げられる。側鎖の官能基量については、酸価や水酸基価を代表値に選択することが可能であり、例えばポリエステル樹脂の酸価が5KOH/mgを下回ると加工層Yとの密着性が低下する場合があるため、当該水準以上とすることが好ましい。
【0042】
アクリル樹脂としては、特に限定されることはないが、アルキルメタクリレート及び/またはアルキルアクリレートから構成されるものが好ましい。アルキルメタクリレート及び/またはアルキルアクリレートとしては、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸n-ヘキシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル、アクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸n-ヘキシル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸2-ヒドロキシエチル、アクリル酸ヒドロキシプロピル、マレイン酸、イタコン酸、アクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミドなどを用いるのが好ましい。これらは1種もしくは2種以上を用いることができる。
【0043】
上記アクリル樹脂は疎水性の樹脂であることから、側鎖の構造にも影響されるが、樹脂層Xの表面自由エネルギーは低下する方向に働く。特に、樹脂層Xが、水酸基と多官能アクリロイル基を有する樹脂を含む塗料組成物より形成される場合、樹脂層Xの表面自由エネルギーにおける極性力と水素結合力の合計値の変化量を低く抑えることが可能な点で好ましい一方、水酸基と多官能アクリロイル基を有する樹脂の重量比率が大きくなりすぎると初期密着が低下する傾向にある。そのため、当該樹脂を用いる場合は両者のバランスから、樹脂層Xが、以下の特徴4及び5をともに満たす塗料組成物より形成されることが好ましい。
特徴4:バインダー樹脂を含む。
特徴5:塗料組成物に含まれるバインダー樹脂の10質量%以上が、水酸基と多官能アクリロイル基を有する樹脂である。
【0044】
樹脂層Xが「塗料組成物より形成される」とするのは、塗料組成物を塗工、乾燥することにより形成されることを意味する。樹脂層Xをこのように製造方法を含むような表現で特定するのは、塗工、乾燥後は水酸基と多官能アクリロイル基を有する樹脂が後述する反応性化合物と架橋構造を形成するため、当該樹脂成分の含有量が変化すること、樹脂層Xが乾燥により薄膜化しているため、その中の架橋構造を分析して特定することが極めて困難なことによるものである。なお、後述する反応性化合物について同様の表現を用いている理由も同様である。
【0045】
ウレタン樹脂としては、ポリヒドロキシ化合物とポリイソシアネート化合物を、乳化重合、懸濁重合などの公知のウレタン樹脂の重合方法によって反応させて得られる樹脂であることが好ましい。ポリヒドロキシ化合物としては、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレン・プロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、テトラメチレングリコール、1,5-ペンタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリカプトラクトン、ポリヘキサメチレンアジペート、ポリヘキサメチレンセバケート、ポリテトラメチレンアジペート、ポリテトラメチレンセバケート、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ペンタエリスリトール、ポリカーボネートジオール、グリセリンなどを挙げることができる。ポリイソシアネート化合物としては、例えばヘキサメチレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、トリレンジイソシアネートとトリメチレンプロパンの付加物、ヘキサメチレンジイソシアネートとトリメチロールエタンの付加物などを用いることができる。
【0046】
上記ウレタン樹脂およびその共重合体(例えばアクリル・ウレタン共重合体やウレタン変性ポリエステルなど)は親水性の高い架橋構造を有することから、過剰に添加することで樹脂層Xの表面自由エネルギーは増加しやすい傾向にある。具体的な添加量の上限はその他のバインダー樹脂との組み合わせにも影響されるが、ウレタン樹脂の配合量がバインダー樹脂全体の5質量%を超えると、密着性に影響を及ぼす場合がある。
【0047】
エポキシ樹脂としては、例えば、ソルビトールポリグリシジルエーテル系架橋剤、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル系架橋剤、ジグリセロールポリグリシジルエーテル系架橋剤及びポリエチレングリコールジグリシジルエーテル系架橋剤などを用いることができる。エポキシ樹脂として、市販されているものを使用してもよく、例えば、ナガセケムテック株式会社製エポキシ化合物“デナコール”(登録商標)EX-611、EX-614、EX-614B、EX-512、EX-521、EX-421、EX-313、EX-810、EX-830、EX-850など)、坂本薬品工業株式会社製のジエポキシ・ポリエポキシ系化合物(SR-EG、SR-8EG、SR-GLGなど)、大日本インキ工業株式会社製エポキシ架橋剤“EPICLON”(登録商標)EM-85-75W、あるいはCR-5Lなどを好適に用いることができ、中でも、水溶性を有するものが好ましく用いられる。上記のエポキシ樹脂は親水性の樹脂であることから、側鎖の構造にも影響されるが、樹脂層Xの表面自由エネルギーを増加させる方向に働く。
【0048】
本発明の樹脂層Xを形成する塗料組成物は、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂等を単独で又は複数種類組み合わせ、上記範囲を満たすように構成して使用することが可能である。また、これらの複数の樹脂を組み合わせた場合には、樹脂層Xの弾性率ばらつき像におけるドメイン面積が大きくなる傾向があり、500nm以下とすることが難しくなる場合があるため、同一種樹脂のバインダー樹脂で行うことが好ましい。さらにドメイン面積を小さくする観点から、バインダーは組成が全く同じ単一の樹脂を用いることが好ましい。
【0049】
<反応性化合物>
本発明の樹脂層Xにおいて、反応性化合物は架橋反応を十分に進行させ、且つ加工層Yとの密着性を高める役割を担う。反応性化合物としては、オキサゾリン化合物やカルボジイミド化合物、メラミン化合物、イソシアネート化合物などを、単独であるいは任意の組み合わせで使用することが可能である。但し、温度85℃、湿度85%の環境下で500時間の湿熱処理を施した後の樹脂層Xの表面自由エネルギーにおける極性力と水素結合力の合計値の変化量を容易に0.0mN/m~3.0mN/mの範囲とする観点から、樹脂層Xが、以下の特徴1~3を全て満たす塗料組成物より形成される、ことが好ましい。
特徴1:バインダー樹脂、メラミン化合物、カルボジイミド化合物をすべて含む。
特徴2:塗料組成物におけるバインダー樹脂の含有量を100質量部としたときに、メラミン化合物の含有量Aが10質量部以下であり、カルボジイミド化合物の含有量Bが5質量部~30質量部である。
特徴3:A/Bが0.50以下である。
【0050】
このとき、バインダー樹脂、メラミン化合物、カルボジイミド化合物に該当する成分が複数ある場合は、それぞれ各成分の含有量は全ての成分を合算したものとして扱う。
【0051】
反応性化合物は、樹脂層Xの強度を高め、加工層Yとの密着性を高めるために必要不可欠である一方、最表層面に析出して透明性や密着性を悪化させることがある。そのため、反応性化合物量を上記の要件を満たす範囲とすることで、高温高湿雰囲気下での最表層面への析出が軽減され、透明性と密着性の悪化を抑えることができる。特に、メラミン化合物は他の反応性化合物よりも析出しやすく、樹脂層Xの弾性率ばらつき像におけるドメイン面積に影響しやすいことから、加工層Yとの密着性や樹脂層Xの強度とのバランスを鑑みて、A/Bを0.05以上0.35以下とすることがより好ましく、さらに好ましくは0.18以上0.35以下である。
【0052】
また、塗布性や密着性を向上させる観点から、原子間力顕微鏡(AFM)で測定した1μm四方の樹脂着層Xの弾性率ばらつき像におけるドメイン面積を容易に500nm以下とする観点から、メラミン化合物を使用せず、オキサゾリン化合物、カルボジイミド化合物を単独で又は組み合わせ、その含有量を塗料組成物の全構成成分中5質量%~40質量%として使用することも好ましい。
【0053】
オキサゾリン化合物としては、化合物中に官能基としてオキサゾリン基を有するものであり、オキサゾリン基を含有するモノマーを少なくとも1種以上含み、かつ、少なくとも1種の他のモノマーを共重合させて得られるオキサゾリン基含有共重合体が好ましい。
【0054】
オキサゾリン化合物において、オキサゾリン基を含有するモノマーに対して用いられる少なくとも1種の他のモノマーは、オキサゾリン基を含有するモノマーと共重合可能なモノマーであり、例えば、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸-2-エチルヘキシル、メタクリル酸-2-エチルヘキシルなどのアクリル酸エステルあるいはメタクリル酸エステル類、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸などの不飽和カルボン酸類、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどの不飽和ニトリル類、アクリルアミド、メタクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、N-メチロールメタクリルアミドなどの不飽和アミド類、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのビニルエステル類、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテルなどのビニルエーテル類、エチレン、プロピレンなどのオレフィン類、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニルなどの含ハロゲン-α,β-不飽和モノマー類、スチレン及びα-メチルスチレンなどのα,β-不飽和芳香族モノマー類などが挙げられ、これらは本発明の範囲を満たす限りにおいて単独で用いても複数種を混合して用いてもよい。
【0055】
オキサゾリン基を含有するモノマーの具体例としては、2-ビニル-2-オキサゾリン、2-ビニル-4-メチル-2-オキサゾリン、2-ビニル-5-メチル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-4-メチル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-5-エチル-2-オキサゾリン等を挙げることができ、これらは本発明の範囲を満たす限りにおいて、単独で用いても複数種を混合して用いてもよい。
【0056】
カルボジイミド化合物とは、化合物中に官能基としてカルボジイミド基、またはその互変異性の関係にあるシアナミド基を分子内に少なくとも1個有する化合物である。このようなカルボジイミド化合物の具体例としては、ジシクロヘキシルメタンカルボジイミド、ジシクロヘキシルカルボジイミド、テトラメチルキシリレンカルボジイミド及びウレア変性カルボジイミド等を挙げることができ、これらは本発明の範囲を満たす限りにおいて、単独で用いても複数種を混合して用いてもよい。具体的なポリカルボジイミド化合物としては“カルボジライト”(登録商標)V-02、“カルボジライト”(登録商標)V-02-L2、“カルボジライト”(登録商標)SV-02、“カルボジライト”(登録商標)V-04(いずれも日清紡社製)が、着色が少なく、密着性に優れる。特に、カルボジライトV-02-L2は架橋性が高く、高温高湿雰囲気下で最表層面に架橋剤の析出を抑止する効果に優れる。
【0057】
本発明の積層ポリエステルフィルムにおいて好適に用いることのできるメラミン化合物は、1分子中にトリアジン環、及びメチロール基をそれぞれ1つ以上有しているメラミン化合物を挙げることができる。係るメラミン化合物を用いることで、樹脂層X内にメチロール基同士の架橋構造を持たせることができる。
【0058】
メラミン化合物としては、例えば、メラミン、メラミンとホルムアルデヒドを縮合して得られるメチロール化メラミン誘導体、メチロール化メラミンに低級アルコールを反応させて部分的あるいは完全にエーテル化した化合物、及びこれらの混合物などを用いることができる。また、メラミン化合物は、単量体または2量体以上の多量体からなる縮合物のいずれでもよく、これらの混合物でもよい。エーテル化に用いられる低級アルコールとしては、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブタノール及びイソブタノールなどが挙げられる。官能基としては、イミノ基、メチロール基、あるいはメトキシメチル基やブトキシメチル基等のアルコキシメチル基を1分子中に有しており、例えば、イミノ基型メチル化メラミン化合物、メチロール基型メラミン化合物、メチロール基型メチル化メラミン化合物及び完全アルキル型メチル化メラミン化合物などが挙げられる。特にメチロール化メラミン化合物としては、例えばモノメチロールメラミン、ジメチロールメラミン、トリメチロールメラミン、テトラメチロールメラミン、ペンタメチロールメラミン、ヘキサメチロールメラミンを挙げることができる。なお、これらは本発明の範囲を満たす限りにおいて、単独で用いても複数種を混合して用いてもよい。
【0059】
特にメラミン化合物は前述の水に馴染みやすい材料であるため、湿熱雰囲気下で表面に析出しやすい。塗料組成物がメラミン化合物を含む場合、その含有量はバインダー樹脂100質量部に対して10質量部以下であることが好ましく、5質量部以下であることが特に好ましい。メラミン化合物の含有量がバインダー樹脂100質量部に対して10質量部以下であることにより、湿熱処理を施した後の樹脂層Xの表面自由エネルギーにおける極性力と水素結合力の合計値の変化量を0.0mN/m~3.0mN/mとしやすい。
【0060】
<塗料組成物の調製方法>
塗料組成物を調製する場合は、溶媒または分散媒(以下、総称して溶媒と省略する。)が含まれていてもよい。すなわち、各種成分を溶媒に溶解または分散せしめて、塗料組成物とし、これをポリエステルフィルムに塗布してもよい。このような方法を採用した場合、塗布後に溶媒を乾燥させ、かつ加熱することでポリエステルフィルムに樹脂層Xが積層された積層ポリエステルフィルムを得ることができる。
【0061】
本発明の積層ポリエステルフィルムでは、溶媒として水系溶媒を用いることが好ましい。ここで、水系溶媒とは水、または水とメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類など水に可溶である有機溶媒が任意の比率で混合させているものを指す。水系溶媒を用いることで、加熱工程での溶媒の急激な蒸発を抑制でき、より均一な樹脂層Xを形成できるだけでなく、環境負荷の点でも優れているためである。
【0062】
本発明において樹脂層Xを形成するための好ましい塗料組成物は、必要に応じて水分散化または水溶化したバインダー樹脂、反応性化合物および水系溶媒を任意の順番で所望の質量比で混合、撹拌することで作製することができる。次いで必要に応じて易滑剤や無機粒子、有機粒子、界面活性剤、酸化防止剤、熱開始剤などの各種添加剤を、塗料組成物により設けた樹脂層Xの特性を悪化させない程度に任意の順番で混合、撹拌することもできる。混合、撹拌する方法は、容器を手で振る方法、マグネチックスターラーや撹拌羽根で攪拌する方法、超音波照射、振動分散などを用いる方法等を用いることができる。
【0063】
使用する粒子としては、コロイダルシリカ、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、カーボンブラック、ゼオライト粒子などの無機粒子や、アクリル粒子、シリコーン粒子、ポリイミド粒子、“テフロン”(登録商標)粒子、架橋ポリエステル粒子、架橋ポリスチレン粒子、架橋重合体粒子、コアシェル粒子などの有機粒子が挙げられ、これらは単独で用いても複数種を併用してもよい。中でも、ブロッキングを抑制する効果を得るための硬度や積層ポリエステルフィルムの好ましい製造方法に熱性の観点から、無機粒子が好ましく、コロイダルシリカがより好ましい。無機粒子として、上記のコロイダルシリカを用いると、無機粒子が樹脂層X中に良好に分散し、樹脂層Xの平均粗さRaを容易に20nm以下とすることができる。コロイダルシリカとしては例えば、日産化学工業(株)社製の“スノーテックス”(登録商標)”シリーズや日揮触媒化成(株)社製の“カタロイド(登録商標)”シリーズなどを好適に用いることができる。
【0064】
これら粒子の数平均粒子径は、30nm以上1000nm以下の範囲内であることが好ましい。ここで数平均粒子径とは、JIS H7008(2002)において単一の結晶核の成長によって生成した粒子と定義される一次粒子の粒子径を足し合わせ、個数で除した値(数平均)である。粒子の数平均粒子径は、より好ましくは80nm以上450nm以下の範囲内、さらに好ましくは100nm以上300nm以下の範囲内である。なお粒子には、単分散粒子を用いても、複数の粒子が凝集した凝集粒子を用いてもよい。また、場合によっては数平均粒子径の異なる複数種の粒子を併用してもよい。粒子の数平均粒子径は、塗料組成物の形態であれば動的光散乱法を用いた粒度分布解析から、積層ポリエステルフィルムの形態であればSEM-EDXを用いた形状解析からそれぞれ計測することが可能である。
【0065】
<積層ポリエステルフィルムの製造方法>
本発明の樹脂層Xを形成させる方法は、ポリエステルフィルムの少なくとも一面に、前述の好ましい塗料組成物を塗布・加熱(乾燥)して、樹脂層Xを形成せしめる工程を有する方法が好ましい。この形成方法において塗料組成物は、例えば、ポリエステル樹脂やウレタン樹脂、アクリル樹脂などの各種バインダー樹脂、メラミン化合物、オキサゾリン化合物、カルボジイミド化合物から選ばれる少なくとも1種以上の化合物、架橋触媒、易滑剤や無機粒子、有機粒子、界面活性剤、酸化防止剤、熱開始剤などの各種添加剤を含んでいてもよい。
【0066】
塗料組成物のポリエステルフィルムへの塗布方法はインラインコート法、オフコート法のどちらでも用いることができるが、好ましくはインラインコート法である。インラインコート法とは、ポリエステルフィルムの製造工程内で塗料組成物の塗布を行う方法である。具体的には、ポリエステル樹脂を溶融押し出ししてから二軸延伸後に熱処理して巻き上げるまでの任意の段階で塗布を行う方法を指し、通常は、溶融押出し後・急冷して得られる実質的に非晶状態の未延伸(未配向)ポリエステルフィルム(以下、Aフィルムということがある。)、その後に長手方向に延伸された一軸延伸(一軸配向)ポリエステルフィルム(以下、Bフィルムということがある。)、またはさらに幅方向に延伸された熱処理前の二軸延伸(二軸配向)ポリエステルフィルム(以下、Cフィルムということがある。)の何れかのフィルムに塗布する。
【0067】
本発明では、結晶配向が完了する前のポリエステルフィルムのAフィルム、Bフィルムの何れかに塗料組成物を塗布して溶媒を蒸発させ、その後、ポリエステルフィルムを一軸方向又は二軸方向に延伸し、加熱してポリエステルフィルムの結晶配向を完了させることで、樹脂層Xを設ける方法を採用することが好ましい。この方法によれば、ポリエステルフィルムの製膜と、塗料組成物の塗布と溶媒の乾燥、および加熱(すなわち、樹脂層Xの形成)を連続した工程で行うことができる。特に、Bフィルムに対して塗布を行った場合、ポリエステルフィルム幅方向への延伸後の熱処理工程(熱固定)と、塗料組成物の乾燥、および加熱(すなわち熱硬化による樹脂層Xの形成)を同一の工程内で行うことが出来る。そのため、製造コスト上のメリットがあるばかりでなく、乾燥後にポリエステルフィルムの結晶配向を完了させることで、ポリエステルフィルムの変形や熱収縮を軽減しつつ塗布層に高温の熱処理を施すことが可能になる。その結果、塗布により形成した樹脂層Xの架橋が促進され、水系の機能性材料を塗布した際に、加工層Yとの密着効果が高まる。更に、塗布後に延伸を行うために樹脂層Xの厚みをより均一に薄膜化することが容易であることも利点である。
【0068】
なお、塗布層に施す熱処理(熱硬化)には前述の樹脂層Xの架橋反応を十分に進行させて加工層Yとの密着性を大きくさせる観点から好ましい温度条件が存在する。具体的には熱処理温度は170℃以上で熱硬化することにより、樹脂層Xを形成することが好ましく、熱硬化温度は180℃以上であることがより好ましく、200℃以上であることがさらに好ましく、230℃以上であることが特に好ましい。熱処理温度を上げていくことにより、弾性率ドメイン径は小さくなる傾向にあり、湿熱処理後の密着性が向上する。なお、熱処理温度の上限は、ポリエステルフィルムの耐熱温度の観点から260℃が好ましい。熱処理温度が260℃以下であることにより、ポリエステルフィルムの変形が抑えられ、より均一な積層ポリエステルフィルムを得ることが容易となる 。
【0069】
中でも、長手方向に一軸延伸されたフィルム(Bフィルム)に、塗料組成物を塗布し、溶媒を乾燥させ、その後、幅方向に延伸して加熱する方法が優れている。当該方法は、未延伸フィルムに塗料組成物を塗布した後に二軸延伸する方法に比べ、塗料組成物により形成される層が経る延伸工程が1回少ないため、延伸による樹脂層Xの欠陥や亀裂が発生しづらく、透明性や平滑性に優れた樹脂層Xを形成できるためである。また、塗料組成物による工程汚染を軽減できる点も利点である。
【0070】
一方、オフラインコート法とは、上記Aフィルムを一軸又は二軸に延伸し、加熱処理を施しポリエステルフィルムの結晶配向を完了させた後のフィルム、またはAフィルム自体に、フィルムの製膜工程とは別工程で塗料組成物を塗布する方法である。本発明では、上述した種々の利点から、インラインコート法を用いることが好ましいが、オフラインコート法により樹脂層Xを形成する場合にも、その加工温度が170℃以上であることが好ましく、180℃以上であることがより好ましく、200℃以上がさらに好ましい。加工温度を170℃以上とすることにより、架橋反応を進行させて薄膜の樹脂層Xを十分に硬化させることができる。一方、オフラインコート法は、樹脂層Xによる加熱で、幅方向の変形が大きいためインラインコートの方が好ましい。
【0071】
特に前述の樹脂層Xの架橋反応を十分に進行させて加工層Yとの密着性を大きくさせる観点から、同一のバインダー処方を用いた場合でも、加工温度を170℃以上としなければ、樹脂層内に未反応物が多く残存し、加工層Yとの密着性が大きく低下する場合がある。なお、加工温度の上限については、ポリエステルフィルムの耐熱温度から260℃が好ましい、加工温度が260℃以下であることにより、ポリエステルフィルムの変形が抑えられ、均一な積層ポリエステルフィルムを得ることが容易となる。
【0072】
ここで、ポリエステルフィルムへの塗料組成物の塗布方式は、インラインコート法、オフラインコート法共に、公知の塗布方式、例えばバーコート法、リバースコート法、グラビアコート法、ダイコート法、ブレードコート法等から選択した任意の方式を用いることができる。
【0073】
したがって、本発明において好ましい樹脂層Xの形成方法は、水系溶媒を用いた塗料組成物を、ポリエステルフィルム上にインラインコート法を用いて塗布し、乾燥、熱処理することによって形成する方法である。より好ましくは、一軸延伸後のBフィルムに塗料組成物をインラインコートする方法である。本発明の積層ポリエステルフィルムの製造方法において、乾燥は塗料組成物の溶媒の除去を完了させるために、80℃~130℃の温度範囲で実施することが好ましい。また、熱処理はポリエステルフィルムの結晶配向を完了させるとともに塗料組成物の熱硬化を完了させ樹脂槽Xの形成を完了させるために、170℃~260℃の温度範囲で実施することが好ましい。
【0074】
次に、本発明の積層ポリエステルフィルムの製造方法について、ポリエステルフィルムとしてポリエチレンテレフタレート(以下、PET)フィルムを用いた場合を例に、より具体的に説明するが、本発明の積層ポリエステルフィルム及びその製造方法はこれに限定されるものではない。
【0075】
まず、PETのペレットを十分に真空乾燥した後、押出機に供給し、260℃~280℃でシート状に溶融押出し、冷却固化せしめて未延伸(未配向)PETフィルム(Aフィルム)を作製する。(この際、シート状に溶融押し出ししたシート状物の冷却固化は、温度10℃~40℃のキャストドラムで行うことが好ましい。)この未延伸PETフィルムを80℃~120℃に加熱したロールで長手方向に2.5倍~5.0倍延伸して一軸配向PETフィルム(Bフィルム)を得る。さらに、このBフィルムの片面に所定の濃度に調製した前述の塗料組成物を塗布する。
【0076】
このとき、塗料組成物を塗布する前に一軸配向PETフィルムの塗布面にコロナ放電処理等の表面処理を行ってもよい。コロナ放電処理等の表面処理を行うことで、塗料組成物の一軸配向PETフィルムへの濡れ性が向上するため、塗料組成物のはじきを防止し、より均一な塗布厚みの樹脂層Xを形成することができる。塗料組成物の塗布後、一軸配向PETフィルムの端部をクリップで把持して80~130℃の熱処理ゾーン(予熱ゾーン)で塗料組成物の溶媒を乾燥させる。中でも塗料組成物を塗布した一軸配向PETフィルムを熱処理ゾーンに送る際には、前記一軸配向PETフィルムの幅方向両端未塗布部をクリップで把持してテンターに導くようにして、実施することが好ましい。乾燥後、幅方向に1.1倍~5.0倍に延伸し、引き続き170℃~260℃の熱処理ゾーン(熱固定ゾーン)へ導いて1秒間~30秒間の熱処理を行い、結晶配向を完了させる。
【0077】
この熱処理工程(熱固定工程)で、必要に応じて幅方向、あるいは長手方向に3%~15%の弛緩処理を施してもよい。その後、積層ポリエステルフィルムを室温まで冷却し、公知のレザー刃等で積層ポリエステルフィルムを長手方向と平行に切断することで、クリップが把持していた幅方向両端未塗布部を除去した後、ロール状に巻き取ることも可能である。かくして得られる積層ポリエステルフィルムは、水系塗材の塗布性、密着性および透明性に優れた積層ポリエステルフィルムとなる。なお、スリッターで切断除去した幅方向両端未塗布部のフィルムは、後述するリサイクル原料として使用することができる。
【0078】
本発明の積層ポリエステルフィルムを構成するポリエステルフィルムは、層構成に制限はなく、例えば、A層のみからなる単層構成や、A層/B層の積層構成すなわち2種2層積層構成、A層/B層/A層の積層構成すなわち2種3層積層構成、A層/B層/C層の積層構成すなわち3種3層積層構成等の構成を挙げることができる。
【0079】
本発明の積層ポリエステルフィルムを構成するポリエステルフィルムにおける積層方法は制限されるものではなく、例えば、共押出法による積層方法、貼り合わせによる積層方法、これの組み合わせによる方法等を挙げることができるが、透明性と製造安定性の観点から、共押出法を採用することが好ましい。積層体とする場合、それぞれの層に異なる機能を付与すること目的として、異なる樹脂構成としてもよい。このような方法としては、例えば、A層/B層/A層の積層構成すなわち2種3層積層構成とし、透明性の観点からB層をホモポリエチレンテレフタレートで構成し、A層には、易滑性付与のために粒子を添加する等の方法を挙げることができる。
【0080】
<加工層Y>
以下、本発明の積層フィルムを用いた積層体について説明する。当該積層体は、本発明の積層ポリエステルフィルムの樹脂層Xの表面に、加工層Yを有する。すなわち、本発明の積層ポリエステルフィルムは、その樹脂層Xの上に更に加工層Yを形成した積層体の製造に使用されることが好ましい。また、加工層Yの形成にはウェットコーティング法を用いることが好ましく、加工層Y形成用の塗材の溶媒または分散媒は水か有機溶剤のどちらでも構わない。加工層Yの形成方法としては公知の塗布方式、例えばバーコート法、リバースコート法、グラビアコート法、ダイコート法、ブレードコート法等から選択した任意の方式を用いることができる。
【0081】
また、加工層Yはポリエステルフィルムに異なる物理特性を付与する機能付与層であることが好ましい。付与される機能としては例えば、傷付き防止、導電および帯電防止、粘接着性の付与、汚れなどの各種付着防止、赤外-可視-紫外の各種光線の透過吸収、被着体の保護・転写加工に利用可能な易剥離、などの機能が挙げられる。中でも本発明の積層体においては、加工層Yが、ハードコート剤、粘着剤、印刷インキの少なくとも一つを含むことが、例えば、密着性、透明性を有する積層ポリエステルフィルムの用途として特に好ましい。
【0082】
本発明の積層ポリエステルフィルムは、車両用ディスプレイに好適に使用されるのが好ましい。車両用ディスプレイとは、車両に取り付けることができる、または備え付けられている画像表示装置をいい、例えば、カーナビやディスプレイオーディオ、ヘッドアップディスプレイ等が挙げられる。特にヘッドアップディスプレイは、前方の視認性に優れることが求められることから透明性が非常に重要である。本発明の積層ポリエステルフィルムを用いることにより、車内の高温高湿下に長期間置いても、視認性が低下する問題が生じにくい。また、本発明のヘッドアップディスプレイとは、本発明の積層ポリエステルフィルムを使用したヘッドアップディスプレイである。
【0083】
本発明の積層ポリエステルフィルムは、車両用電子部品に使用されるのが好ましい。車両用電子部品とは、車両に使用される電子部品であり、例えば、フレキシブルプリント配線板(FPC)やフレキシブルフラットケーブル(FFC)、電気自動車のモータ駆動用インバータ回路フィルムコンデンサ等が挙げられ、近年EV車や自動運転車への切り替えにより、これらの車両用電子部品におけるフィルムの搭載量が増えている。本発明の積層ポリエステルフィルムを用いることにより、車内の高温高湿下に長期間置いても、蒸着層や接着剤層との密着性が長期間保たれる。なお、本発明の車両用電子部品とは、本発明の積層ポリエステルフィルムを使用した車両用電子部品である。
【実施例0084】
次に、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、必ずしもこれに限定されるものではない。なお、本発明における各特性の測定方法、および各効果の評価方法は以下のとおりである。
【0085】
[特性の測定方法および効果の評価方法]
(1)樹脂層Xの表面自由エネルギー
まず、積層ポリエステルフィルムを室温23℃相対湿度65%の雰囲気中に24時間放置した。その後、同雰囲気下で、樹脂層Xに対して、純水、エチレングリコール、ホルムアミド、ジヨードメタンの4種の液体のそれぞれの接触角を、接触角計DM-501(協和界面科学(株)社製)により、それぞれ5点測定し、その測定値の平均値をそれぞれの液体の接触角とした。次に、得られた4種類の液体の接触角を用いて、畑らによって提案された「Fowkes式を拡張した式(拡張Fowkes式)」に基づく幾何平均法により、固体の表面自由エネルギー(γ)を分散力成分(γ )、極性力成分(γ )、および水素結合力成分(γ )の3成分に分離し、本発明の分散力、極性力、水素結合力及び分散力と極性力の和である表面エネルギーを算出した。以下、具体的な算出方法を示す。各記号の意味について下記する。
γ : 樹脂層と表1に記載の既知の溶液の表面エネルギー
γ: 樹脂層の表面エネルギー
γ: 表1に記載の既知の溶液の表面エネルギー
γ : 樹脂層の表面エネルギーの分散力成分
γ : 樹脂層の表面エネルギーの極性力成分
γ : 樹脂層の表面エネルギーの水素結合力成分
γL : 表1に記載の既知の溶液の表面エネルギーの分散力成分
γL : 表1に記載の既知の溶液の表面エネルギーの極性力成分
γL : 表1に記載の既知の溶液の表面エネルギーの水素結合力成分
ここでγ は固体と液体の界面での張力である場合、数式(1)が成立する。
γ =γ+γ-2(γ ・γ )1/2-2(γ ・γ )1/2-2(γ ・γ )1/2 ・・・ 数式(1)。
【0086】
また、平滑な固体面と液滴が接触角(θ)で接しているときの状態は次式(2)で表現される(Youngの式)。
γ=γ +γcosθ ・・・ 数式(2)。
【0087】
これら数式(1)、数式(2)を組み合わせると、次式が得られる。
・γ )1/2+(γ ・γ )1/2+(γ ・γ )1/2=γ(1+cosθ)/2 ・・・ 数式(3)。
【0088】
実際には、水、エチレングリコール、ホルムアミド、及びジヨードメタンの4種類の液体に接触角(θ)と、表1に記載の既知の液体の表面張力の各成分(γL 、γL 、γL )を数式(3)に代入し、4つの連立方程式を解いた。その結果、連立方程式の解として、固体の表面エネルギー(γ)、分散力成分(γ )、極性力成分(γ )、および水素結合力成分(γ )を算出した。
【0089】
【表1】
【0090】
(2)湿熱処理後の極性力と水素結合力の合計値の変化量
85℃・90RH%の高温高湿槽オーブン(エスペック製、型式LHK-113)に500時間サンプルを置き、(処置後の極性力成分(γ )+水素結合力成分(γ ))から(処置前の極性力成分(γ )+水素結合力成分(γ ))の値を、樹脂層Xの極性力と水素結合力の合計値の変化量と定義した。
【0091】
(3)樹脂層Xの膜厚
樹脂層Xの膜厚は、ミクロトームを用いて断面を切り出したサンプルについて、電子顕微鏡観察により求めた。より具体的には、透過型電子顕微鏡(TEM)H-7100FA型(日立製作所製)を用いて断面を観察することにより、ポリエステルフィルム上の樹脂層Xの厚みを測定した。樹脂層の厚みは、TEMにより20万倍の倍率で撮影した画像から読み取った。合計で20点の樹脂層の膜厚を測定して平均した値を樹脂層Xの膜厚とした。
【0092】
(4)原子間力顕微鏡(AFM)による弾性率ばらつき像を用いたドメイン面積
樹脂層の表面の弾性率測定は、AFM(Burker Corporation製 DimensionIcon)を用い、PeakForceQNMモードにて測定を実施した。得られたフォースカーブから付属の解析ソフト「NanoScopeAnalysis V1.40」を用いて、JKR接触理論に基づいた解析を行い、弾性率分布を求めた。具体的には、まず積層ポリエステルフィルムの測定面(樹脂層X面)が上面に来るように両面テープを用いて試料台に固定した。次いでPeakForceQNMモードのマニュアルに従い、カンチレバーの反り感度、バネ定数、先端曲率の構成を行った後、下記の条件にて測定を実施し、得られたDMT Modulusチャンネルのデータを樹脂層の弾性率として採用した。測定条件は下記に示す。
測定装置:Burker Corporation製原子間力顕微鏡(AFM) (型番DimensionIcon)
測定モード:PeakForceQNM(フォースカーブ法)
カンチレバー:ブルカーAXS社製RTESPA-300
測定雰囲気:23℃・大気中
測定範囲:5(μm)四方
分解能:512×512
測定速度:0.977 Hz
カンチレバー移動速度:10(μm/s)
押し込み荷重(Setpoint):40(nN)
ポアソン比:0.4。
【0093】
次いで得られたDMT Modulusチャンネルのデータを解析ソフト「NanoScopeAnalysis V1.40」にて解析し、Roughnessにて処理することにより得られた、ResultsタブのImage Raw Meanの値を樹脂層Xの弾性率とした。次いで得られたDMT Modulusチャンネルのデータを解析ソフト「NanoScopeAnalysis V1.40」にて解析した。まずFlattenモードにてOrder:3rdにて平滑化し、「弾性率ばらつき像」を得た。次いで前記の「弾性率ばらつき像」をRoughnessモードで解析し、Image Rmaxをばらつき幅とした。
【0094】
一方、ドメイン面積の解析については、前記の「弾性率ばらつき像」について、CommandsタブのAdjust Image Color ScaleからColor tabel:7を選択し、グレースケールの画像に変換した(図1図2に示す画像に相当する)。更に、Bearing AnalysisモードにてBearing Area Percent:10%にて弾性率ばらつき像を着色した。次いで画像処理ソフトImageJ/開発元:アメリカ国立衛生研究所(NIH)のColor Thresholdを用いて色相から着色部を選択した。更にAnalize Particles(粒子解析)機能により各ドメインの平均面積を算出した。なおAnalize Particles(粒子解析)の測定条件設定にてSize範囲を5-Infinity(Pixel^2)とすることで、ノイズ部分の面積を除外した。以上の操作によって得られた各ドメインの平均面積をドメイン面積として採用した。
【0095】
(5)湿熱処理後のヘイズ変化量
一辺が5cmの正方形状の積層ポリエステルフィルムサンプルを5点(5個)準備し、日本電色工業(株)製濁度計「NDH5000」を用いて、JIS「透明材料のヘーズの求め方」(K7136 2000年版)に準ずる方式でヘイズを測定した。次にこのサンプルを(2)と同様の条件で湿熱処理を行った後にヘイズを測定した。(湿熱処理後のヘイズ5点平均値-湿熱処理前のヘイズ5点平均値)を湿熱処理後のヘイズ変化量とした。
【0096】
(6)加工層Yの密着性
荒川化学工業(株)製 UV硬化型樹脂 Z7415(固形分20%)をワイヤーバーコート法で厚み約1μmになるように、積層ポリエステルフィルムの樹脂層X表面に塗布し、90℃で1分間乾燥後、照射強度120W/cmの紫外線ランプを用い、照射距離(ランプと水系塗材の塗布面との距離)12cm、コンベア速度2m/分、積算強度約300mJ/cmの条件でUV照射し、硬化させた(こうして形成した層を加工層Yとする。)。以後このフィルムをハードコート積層ポリエステルフィルムと呼ぶ。上記にて得られたハードコート積層ポリエステルフィルムサンプルの加工層面に、JIS5600-5-6(1999年制定)に準拠し、カット間隔2mmで5×5の25マスの切れ目を入れる。次に、切れ目を入れた部分に、18mm“セロテープ”(登録商標)(ニチバン社製 品番:CT-18S)を、切れ目が見えるようにしっかりと指で擦り、押さえつけた。そして、ハードコート層に対して約60°の角度で“セロテープ”(登録商標)を瞬間的に引き剥がした。その後、ハードコート層が残留したマスの数をカウントした。評価回数は5回とし、その平均値(小数点以下切り上げ)でハードコートの密着性を、以下の評価基準で評価した。
S:剥離が全くない(合格)
A:残留マス数が99~95個(合格)
B:残留マス数が96~90個(合格)
C:残留マス数が89~70個(不合格)
D:残留マス数が70個未満(不合格)。
【0097】
(7)湿熱処理後の加工層Yの密着性
(6)と同様の方法にて、ハードコート積層ポリエステルフィルムを得た。次いで、得られたハードコート積層ポリエステルフィルムを85℃・90RH%の高温高湿槽内に500時間サンプルを置き、(6)と同様の方法にて密着性測定を行った。
【0098】
[樹脂]
まず塗料組成物の作製にあたり下記の樹脂を取得した。
【0099】
(参考例1)樹脂1
下記の共重合組成からなるポリエステル樹脂の水分散体を得た。反応器に下記の共重合成分、及び触媒としてシュウ酸チタンカリウム0.1部を加え、常圧、窒素雰囲気中で攪拌混合しながら200℃に昇温した。次に、4時間かけて反応温度を250℃にまで徐々に昇温しエステル交換反応を終了させた。こうして得られたポリエステル樹脂15質量部及び水85質量部を溶解槽に加え攪拌下、温度80~95℃で2時間かけて分散させ、ポリエステル樹脂の15質量%水系分散体を得た。これを樹脂1とした。
<共重合成分>
(ジカルボン酸成分)
2,6-ナフタレンジカルボン酸ジメチル:88モル%
5-スルホイソフタル酸ジメチルナトリウム:12モル%
(ジオール成分)
1モルのビスフェノールSに対して2モルのエチレンオキサイドを付加した化合物:86モル%
1,3-プロパンジオール:14モル%
(参考例2)樹脂2
窒素ガス雰囲気下かつ常温(25℃)下で、容器1に、水100質量部、ラウリル硫酸ナトリウム1質量部および過硫酸アンモニウム0.5質量部を仕込み、これを70℃に昇温してラウリル硫酸ナトリウムを溶解させ、70℃の溶液1を得た。常温(25℃)下で、容器2に、水30質量部、ラウリル硫酸ナトリウム2質量部を添加して、ラウリル硫酸ナトリウムを溶解せしめた後、これにポリアルキレンオキサイドを有するアクリルモノマー成分として13.3質量部のポリエチレンオキサイドモノメタクリレート(エチレンオキサイドの繰り返し単位が10)を添加し、更にその他のモノマー成分としてアクリル酸エチルを29.7質量部、メタクリル酸メチルを50.0質量部、N-メチロールアクリルアミドを5.0質量部添加し、攪拌して溶液2を得た。窒素ガス雰囲気下で、溶液1を反応器に移して反応器内の溶液の温度を70℃に保ちつつ、溶液2を溶液1に3時間かけて連続滴下せしめた。滴下終了後に更に85℃で2時間攪拌した後、25℃まで冷却し、反応を終了させてアクリル樹脂のエマルジョンを得た。これを樹脂2とした。
【0100】
(参考例3)樹脂3
窒素ガス雰囲気下かつ常温(25℃)下で、容器3に、ポリエステル系ウレタン樹脂(DIC(株)製“ハイドラン”(登録商標)AP-40(F))66質量部、メタクリル酸メチル35質量部、アクリル酸エチル29質量部、N-メチロールアクリルアミド2質量部を仕込み、溶液3を得た。次いで乳化剤(ADEKA(株)製“リアソープ”ER-30)を7質量部加え、更に溶液の固形分が50質量%となるように水を添加し、溶液4を得た。常温(25℃)下で、容器4に、水30質量部を添加し、60℃に昇温した。その後攪拌しながら、溶液4を3時間かけて、容器4へ連続滴下せしめた。更に同時に5質量%過硫酸カリウム水溶液3質量部を、容器4へ連続滴下せしめた。滴下終了後に更に2時間攪拌した後、25℃まで冷却し、反応を終了させてアクリル・ウレタン共重合樹脂の水分散体を得た。これを樹脂3とした。
【0101】
(参考例4)樹脂4
参考例1と同様に、テレフタル酸(88モル%)、5-ナトリウムスルホイソフタル酸(12モル%)、エチレングリコール(95モル%)、ジエチレングリコール(5モル%)から構成されるポリエステル樹脂(Tg:80℃)の水分散体を得た。これを樹脂4とした。
【0102】
(参考例5)樹脂5
参考例1と同様に、テレフタル酸(99モル%)、5-ナトリウムスルホイソフタル酸(1モル%)、エチレングリコール(70モル%)、ネオペンチルグリコール(30モル%)から構成されるポリエステル樹脂5(Tg:66℃)の水分散体を得た。これを樹脂5とした。
【0103】
(参考例6)樹脂6
ステンレス反応容器に、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ヒドロキシエチル、ウレタンアクリレートオリゴマー(根上工業(株)製、“アートレジン”(登録商標)UN-3320HA、アクリロイル基の数が6)を70:20:5(質量比)で仕込み、乳化剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを2質量部加えて撹拌し、混合液1を調製した。次に、攪拌機、環流冷却管、温度計、及び滴下ロートを備えた反応装置を準備し、混合液1、イソプロピルアルコール、重合開始剤としての過硫酸カリウムを60:200:5(質量比)で反応装置に仕込んだ後、60℃に加熱して混合液2を調製し、これを60℃の加熱状態のまま20分間保持した。次に、混合液1、イソプロピルアルコール、過硫酸カリウムを40:50:5(質量比)で混合して混合液3を調製した。続いて、滴下ロートを用いて混合液3を2時間かけて混合液2へ、同量滴下して混合液4を調製し、これを60℃に加熱した状態のまま2時間保持した。得られた混合液4を50℃以下に冷却した後、攪拌機、減圧設備を備えた容器に移し、濃度25質量%のアンモニア水60質量部、及び純水900質量部を加え、60℃に加熱しながら減圧下にてイソプロピルアルコール及び未反応モノマーを回収した。こうして得られたアクリル樹脂のエマルジョンを樹脂6とした。
【0104】
[その他成分]
その他、反応性化合物、界面活性剤等として、それぞれ以下の材料を使用した。
反応性化合物1:カルボジイミド水系架橋剤(日清紡ケミカル(株)“カルボジライト”(登録商標) V-02-L2)
反応性化合物1-2:カルボジイミド水系架橋剤(日清紡ケミカル(株)“カルボジライト”(登録商標) V-04)
反応性化合物2:オキサゾリン含有ポリマー水系分散体((株)日本触媒製“エポクロス”(登録商標) WS-500)
反応性化合物3:メラミン樹脂ウォーターゾル(DIC(株)製“WATERSOL”(登録商標) S-695)
界面活性剤:フッ素系界面活性剤(互応化学工業(株)製 “プラスコート”(登録商標)RY-2)
無機粒子1:数平均粒子径170nmのシリカ粒子(日産化学工業(株)製 “スノーテックス”(登録商標) MP-2040)。
無機粒子2:数平均粒子径100nmのシリカ粒子(日産化学工業(株)製 “スノーテックス”(登録商標) MP-1040)。
【0105】
(実施例1)
<塗料組成物>
始めに、樹脂1:反応性化合物1:反応性化合物2を100:30:30(質量比)で混合し、さらに、無機粒子1をバインダー樹脂(樹脂1)100質量部に対して0.1質量部、無機粒子2をバインダー樹脂(樹脂1)100質量部に対して0.4質量部加えた。さらに溶媒として水で濃度を調整した後、水の合計100質量部に対して0.03質量部の界面活性剤を加え、塗布性を調整した。ここで、水による濃度の調整方法について詳細を説明する。具体的には狙いとする樹脂層Xの厚みに応じて以下の方法で濃度を決定した。樹脂層Xの厚みは、塗料組成物の濃度、塗布厚みに比例し、幅方向の延伸倍率と樹脂層Xの比重に反比例する。このうち、塗布厚みはバーコートに使用する番手から、延伸倍率は製膜条件から一意に決定される。そこで予め、塗料組成物の濃度を複数用意し、樹脂層Xの厚みを前述の方法で測定することで検量線を作成し、目標とする樹脂層Xの厚みに合う塗料組成物の濃度を決定した。得られた塗料組成物の濃度は概ね2.5質量%から4.5質量%であった。こうして塗料組成物を得た。
【0106】
<積層ポリエステルフィルム>
2種類の粒子(1次粒径0.3μmのシリカ粒子を4質量%、1次粒径0.8μmの炭酸カルシウム粒子を2質量%)を含有したPETペレット(極限粘度0.64dl/g)を十分に真空乾燥した後、押出機に供給して280℃で溶融し、T字型口金よりシート状に押し出して静電印加キャスト法により表面温度25℃の鏡面キャスティングドラムに巻き付けて冷却固化せしめた。こうして得られた未延伸フィルム(Aフィルム)を90℃に加熱して長手方向に3.1倍延伸し、一軸延伸フィルム(Bフィルム)とした。次いで一軸延伸フィルムに空気中でコロナ放電処理を施した後、上記塗料組成物をバーコート(ワイヤーバー#4)で塗布した。続いて、塗料組成物を塗布した一軸延伸フィルムの幅方向の両端部をクリップで把持して予熱ゾーンに導いた。予熱ゾーンの雰囲気温度は90~100℃にし、塗料組成物の溶媒を乾燥させた。引き続き、連続的に100℃の延伸ゾーンで幅方向に3.6倍延伸し、240℃の熱処理ゾーンで20秒間熱処理を施して樹脂層Xを形成せしめた。さらに同温度にて幅方向に5%の弛緩処理を施してポリエステルフィルムの結晶配向の完了した積層ポリエステルフィルムを得た。得られた積層ポリエステルフィルムにおいてPETフィルム(ポリエステルフィルム)の厚みは50μm、樹脂層Xの厚み(膜厚)は80nmであった。評価結果を表2に示す。
【0107】
(実施例2~11、比較例1~4)
塗料組成物の組成、乾燥温度(最大加工温度)、樹脂層の膜厚を表2の通りとした以外は実施例1と同様に積層ポリエステルフィルムを得た。得られた積層ポリエステルフィルムにおいてPETフィルム(ポリエステルフィルム)の厚みは50μmであり、他の評価結果を表2に示す。
【0108】
(比較例6)
上記塗料組成物の塗布工程を実施しない以外は、実施例1と同様に厚み50μmのポリエステルフィルムを得た。評価結果を表2に示す。
【0109】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0110】
本発明は、長期間湿熱雰囲気下に保存しても、透明性と密着性に優れる易接着フィルムに関するものであり、防犯用フィルム、カーナビやディスプレイオーディオ、ヘッドアップディスプレイ等の車両用ディスプレイ、フレキシブルプリント配線板(FPC)やフレキシブルフラットケーブル(FFC)、電気自動車のモータ駆動用インバータ回路フィルムコンデンサ等の車両用電子部品用フィルム等への利用が可能である。
【符号の説明】
【0111】
1:弾性率ばらつき像内の代表的な黒色部分
2:弾性率ばらつき像内の代表的な白色部分
図1
図2