(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024135532
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】車両用空調システム
(51)【国際特許分類】
B60H 1/22 20060101AFI20240927BHJP
F25B 1/00 20060101ALI20240927BHJP
F25B 1/10 20060101ALI20240927BHJP
F25B 5/02 20060101ALI20240927BHJP
H01M 10/613 20140101ALI20240927BHJP
H01M 10/615 20140101ALI20240927BHJP
H01M 10/663 20140101ALI20240927BHJP
H01M 10/625 20140101ALI20240927BHJP
【FI】
B60H1/22 651A
F25B1/00 399Y
F25B1/10 R
F25B1/10 D
F25B1/00 331E
F25B1/00 304F
F25B5/02 530Z
H01M10/613
H01M10/615
H01M10/663
H01M10/625
F25B1/10 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023046273
(22)【出願日】2023-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000001845
【氏名又は名称】サンデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129425
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 護晃
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100168642
【弁理士】
【氏名又は名称】関谷 充司
(74)【代理人】
【識別番号】100217076
【弁理士】
【氏名又は名称】宅間 邦俊
(72)【発明者】
【氏名】粕谷 潤一郎
【テーマコード(参考)】
3L211
5H031
【Fターム(参考)】
3L211AA10
3L211AA11
3L211BA22
3L211BA23
3L211BA32
3L211DA26
3L211DA28
3L211DA30
5H031AA09
5H031HH06
5H031KK08
(57)【要約】
【課題】電力消費の抑制を図りつつ所定の車載機器の温度を調節する。
【解決手段】車両用空調システム1は、冷媒を気液の相変化を繰り返して循環させるヒートポンプユニット2と、冷媒と熱交換された熱媒体との熱交換によって温度調節された空調風を生成し、該空調風を車室内に吹き出す空調ユニット3と、車両に搭載される所定の車載機器Xの温度を調節する機器温調ユニット5と、を含む。ヒートポンプユニット2は、冷媒について、少なくとも、第1温度の高温冷媒Rhと、第1温度よりも低い第2温度の低温冷媒Rcと、第1温度と前記第2温度の間の第3温度の中温冷媒Rmと、を生成し、機器温調ユニット5は、中温冷媒Rmを用いて車載機器Xの温度を調節する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒を気液の相変化を繰り返して循環させるヒートポンプユニットと、
前記冷媒との熱交換によって又は前記冷媒と熱交換された熱媒体との熱交換によって温度調節された空調風を生成し、該空調風を車室内に吹き出す空調ユニットと、
車両に搭載される所定の車載機器の温度を調節する機器温調ユニットと、
を含む、車両用空調システムであって、
前記ヒートポンプユニットは、前記冷媒について、少なくとも、第1温度の高温冷媒と、該第1温度よりも低い第2温度の低温冷媒と、前記第1温度と前記第2温度の間の第3温度の中温冷媒と、を生成し、
前記機器温調ユニットは、前記中温冷媒を用いて前記車載機器の温度を調節する、
車両用空調システム。
【請求項2】
複数のポンプ及び複数の流路切替弁を有し前記熱媒体が流れるように構成された熱媒体流路網を、含み、
前記空調ユニットは、前記熱媒体流路網を流れる前記熱媒体との熱交換によって前記空調風を生成し、
前記機器温調ユニットは、前記中温冷媒と熱交換された前記熱媒体を介して前記車載機器の温度を調節する、請求項1に記載の車両用空調システム。
【請求項3】
前記ヒートポンプユニットは、少なくとも、前記高温冷媒と前記熱媒体との熱交換を行う高温熱交換器と、前記低温冷媒と前記熱媒体との熱交換を行う低温熱交換器と、前記中温冷媒と前記熱媒体との熱交換を行う中温熱交換器と、を有している、請求項2に記載の車両用空調システム。
【請求項4】
前記ヒートポンプユニットは、前記冷媒の流れ方向について直列に配置される複数の圧縮機を有すると共に、前記高温冷媒の一部を膨張させて前記複数の圧縮機のうちの最下流に配置される圧縮機以外の圧縮機に戻すように構成されている、請求項1に記載の車両用空調システム。
【請求項5】
前記ヒートポンプユニットは、多段圧縮式の一つの多段圧縮機を有すると共に、前記高温冷媒の一部を膨張させて前記多段圧縮機内の中間圧領域に戻すように構成されている、請求項1に記載の車両用空調システム。
【請求項6】
前記空調ユニットは、空気を前記車室内に導くダクトと、該ダクト内において前記空気を前記車室内に向けて送風する送風機と、前記ダクト内に空気の流れ方向において直列に配置され前記空気を加熱又は冷却する複数の室内熱交換器と、を有し、
前記車両用空調システムが冷房モードで作動するとき、前記中温熱交換器で熱交換された前記熱媒体は前記機器温調ユニットと前記複数の室内熱交換器のうちの風上側室内熱交換器を流れ、前記低温熱交換器で熱交換された前記熱媒体は前記複数の室内熱交換器のうちの風下側室内熱交換器を流れる、請求項3に記載の車両用空調システム。
【請求項7】
前記ヒートポンプユニットは、冷媒流路において前記高温熱交換器と直列に配置され、前記高温熱交換器から吐出した前記高温冷媒と、前記中温熱交換器に流入する前記中温冷媒又は前記中温熱交換器から吐出した前記中温冷媒との熱交換を行う、過冷却熱交換器を有する、請求項3に記載の車両用空調システム。
【請求項8】
前記過冷却熱交換器に分流させる前記中温冷媒の流量を調節する流量調節弁を有する、請求項7に記載の車両用空調システム。
【請求項9】
前記ヒートポンプユニットは、前記冷媒の流れ方向について直列に配置される複数の圧縮機を有すると共に、前記高温冷媒の一部を膨張させて前記複数の圧縮機のうちの最下流に配置される圧縮機以外の圧縮機に戻すように構成されており、
前記流量調節弁は、前記最下流に配置される前記圧縮機の回転数が所定の閾値より高い場合には、前記流量を増加させ、前記最下流に配置される前記圧縮機の回転数が前記所定の閾値以下の場合には、前記流量を減少させる、請求項8に記載の車両用空調システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車室内を空調する車両用空調システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、冷媒が流れる回路上に圧縮機、凝縮器、膨張弁及び蒸発器を有するヒートポンプユニットと、複数のポンプ及び複数の流路切替弁を有すると共に熱媒体が流れるように構成された熱媒体流路網と、空気ダクト内に配置された複数の車室内熱交換器を有する車室内空調ユニットと、を含む車両用空調システムが記載されている。この車両用空調システムにおいて、ヒートポンプユニットは冷媒を循環させることにより凝縮器で高温冷媒を生成すると共に蒸発器で低温冷媒を生成し、熱媒体流路網の熱媒体はヒートポンプユニットを循環する冷媒(高温冷媒又は低温冷媒)との熱交換によって加熱又は冷却され、車室内空調ユニットはヒートポンプユニットの冷媒と熱交換された熱媒体との熱交換によって温度調節された空調風を生成しこの空調風を車室内に吹き出すことで車室内の空調を行う。そして、特許文献1には、車両に搭載されたバッテリがヒートポンプユニットの低温冷媒と熱交換された熱媒体によって冷却されることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示された車両用空調システムでは、車両に搭載されたバッテリを冷却するための冷媒として、低温冷媒により冷却された車室内冷房に用いる熱媒体を用いているため、バッテリが過度に冷却されるおそれがある。また、必要とする温度よりも低い熱媒体温度を用いると、バッテリの冷却だけを考慮すると、圧縮機の圧縮比が過度に大きくなり、必要とする温度より低温の熱媒体が流れるので配管(流路)からの放熱も多くなるので、エネルギーが無駄に消費され得る。
【0005】
なお、このようなおそれは、空調ユニットが冷媒と熱交換された熱媒体との熱交換によって空調風を生成する場合に限られるものではなく、空調ユニットが冷媒との直接的な熱交換によって空調風を生成する場合にも同様に生じ得ると考えられる。そして、温度を調節する対象は、バッテリに限られるものではなく、モータなどの他の所定の車載機器も想定される。
【0006】
そこで、本発明は、電力消費の抑制を図りつつ所定の車載機器の温度を調節することのできる車両用空調システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面によると、冷媒を気液の相変化を繰り返して循環させるヒートポンプユニットと、前記冷媒との熱交換によって又は前記冷媒と熱交換された熱媒体との熱交換によって温度調節された空調風を生成し、該空調風を車室内に吹き出す空調ユニットと、車両に搭載される所定の車載機器の温度を調節する機器温調ユニットと、を含む、車両用空調システムが提供される。この車両用空調システムにおいて、前記ヒートポンプユニットは、前記冷媒について、少なくとも、第1温度の高温冷媒と、該第1温度よりも低い第2温度の低温冷媒と、前記第1温度と前記第2温度の間の第3温度の中温冷媒と、を生成し、前記機器温調ユニットは、前記中温冷媒を用いて前記車載機器を冷却する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、電力消費の抑制を図りつつ所定の車載機器を冷却することのできる車両用空調システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る車両用空調システムの全体構成を示す概略図である。
【
図2】前記車両用空調システムの冷房モードの動作の例を示す図である。
【
図3】前記車両用空調システムの冷房モードの別の動作の例を示す図である。
【
図4】前記車両用空調システムの中間期モードの動作の例を示す図である。
【
図5】前記車両用空調システムの除湿暖房モードの動作の例を示す図である。
【
図6】前記車両用空調システムの暖房モードの動作の例を示す図である。
【
図7】前記車両用空調システムのバッテリ加熱モードの動作例を示す図である。
【
図8】前記車両用空調システムの変形例を説明するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0011】
図1は、本発明の第1実施形態に係る車両用空調システムの全体構成を示す概略図である。実施形態に係る車両用空調システム1は、車両に搭載され、車両の車室内に空調風を吹き出すことで車室内を空調するように構成されている。以下の説明において、車両は電気自動車であるものとするが、ハイブリッド自動車であってもよい。
【0012】
本実施形態では、車両用空調システム1は、ヒートポンプユニット2と、空調ユニット3と、熱媒体流路網4と、機器温調ユニット5と、を含む。
【0013】
ヒートポンプユニット2は、冷媒を気液の相変化を繰り返して循環させるユニットである。ヒートポンプユニット2は、冷媒が流れる流路である冷媒流路21上に、圧縮機、熱交換器、膨張機構などを備えた、冷凍サイクル(冷凍回路)を構成している。
【0014】
具体的には、ヒートポンプユニット2において、冷媒流路21(冷媒回路21とも言う)には、複数(ここでは、2個)の圧縮機(22、23)と、高温熱交換器24と、第1の膨張機構EX1と、低温熱交換器25が冷媒の流れ方向に順番に設けられている。
【0015】
複数の圧縮機(22、23)は、冷媒流路21において冷媒の流れ方向について直列に配置されている。本実施形態では、2個の圧縮機(22、23)が直列に設けられており、以下では、冷媒の流れ方向について、2個の圧縮機(22、23)のうちの上流側に配置される圧縮機を低圧側圧縮機22(又は下段圧縮機22)と呼び、2個の圧縮機(22、23)のうちの下流側に配置される圧縮機を高圧側圧縮機23(又は上段圧縮機23)と呼ぶ。各圧縮機(22、23)は、電動モータを内蔵した電動圧縮機であり、図示を省略された空調制御装置からの制御信号に基づいて動作する。
【0016】
高温熱交換器24は、冷媒流路21において高圧側圧縮機23に対して下流側(吐出側)に配置される。高温熱交換器24には、低圧側圧縮機22及び高圧側圧縮機23によって2段階に圧縮された高温高圧の冷媒が流れる。高温熱交換器24に流れる冷媒は冷凍サイクルにおいて最高温度である第1温度の高温冷媒Rhである。この例では、高温熱交換器24は、高温冷媒Rhと熱媒体流路網4を流れる熱媒体との熱交換を行う熱交換器である。その結果、高温熱交換器24においては、ヒートポンプユニット2の高温冷媒Rhが凝縮する際に放出する凝縮熱により、熱媒体流路網4を流れる熱媒体が加熱される。高温熱交換器24は凝縮器(加熱器)として機能している。
【0017】
第1の膨張機構EX1は、高温熱交換器24側から流れる冷媒の圧力を急激に下げると共に該冷媒の温度を下げる機構である。第1の膨張機構EX1としては、電子膨張弁、固定オリフィス、キャピラリーチューブ等の膨張機構が用いられる。第1の膨張機構EX1では、冷媒の圧力が高温冷媒Rhの圧力より低い所定の低圧力まで下げられ、冷媒の温度が高温冷媒Rhの第1温度よりも低く冷凍サイクルにおいて最低温度である第2温度まで下げられる。
【0018】
低温熱交換器25は、冷媒流路21において第1の膨張機構EX1と低圧側圧縮機22との間に配置される。低温熱交換器25には、第1の膨張機構EX1を通過した低圧低温の冷媒が流れる。低温熱交換器25に流れる冷媒は第1温度よりも低く冷凍サイクルにおいて最低温度である第2温度の低温冷媒Rcである。この例では、低温熱交換器25は、低温冷媒Rcと熱媒体流路網4を流れる熱媒体との熱交換を行う熱交換器である。その結果、低温熱交換器25においては、ヒートポンプユニット2の低温冷媒Rcが蒸発する際に吸収する蒸発熱により、熱媒体流路網4を流れる熱媒体が冷却される。低温熱交換器25は蒸発器(冷却器)として機能している。
【0019】
そして、ヒートポンプユニット2は、冷媒の循環過程において、冷媒について、少なくとも3つの異なる温度の冷媒を生成するように構成されている。本実施形態では、ヒートポンプユニット2は、3つの異なる温度の冷媒を生成する。つまり、ヒートポンプユニット2は、冷媒について、第1温度の高温冷媒Rhと、第1温度よりも低い第2温度の低温冷媒Rcと、第1温度と第2温度の間の第3温度の中温冷媒Rmと、を生成するように構成されている。
【0020】
本実施形態では、ヒートポンプユニット2は、前述のように複数の圧縮機(22、23)を有している。そして、ヒートポンプユニット2は、高温冷媒Rhの一部を膨張させて複数の圧縮機(22、23)のうちの最下流に配置される圧縮機以外の圧縮機(この例では、高圧側圧縮機23)に戻すインジェクション回路Zを有する。
【0021】
具体的には、ヒートポンプユニット2は、高温熱交換器(凝縮器)24から吐出した冷媒の一部を高圧側圧縮機23に戻すインジェクション流路21aと、インジェクション流路21aに設けられる第2の膨張機構EX2と、インジェクション流路21aにおいて、第2の膨張機構EX2と圧縮機側流路端との間に設けられる中温熱交換器26と、を有する。ヒートポンプユニット2は、インジェクション流路21a、第2の膨張機構EX2及び中温熱交換器26により構成されるインジェクション回路Zを有している。
【0022】
インジェクション流路21aは、冷媒流路21において、高温熱交換器24と第1の膨張機構EX1との間の所定位置から分岐し、低圧側圧縮機22と高圧側圧縮機23との間の所定位置に合流している。
【0023】
第2の膨張機構EX2は、インジェクション流路21aに分流された冷媒の圧力を急激に下げると共に該冷媒の温度を下げる機構である。第2の膨張機構EX2として、電子膨張弁、固定オリフィス、キャピラリーチューブ等の膨張機構が用いられる。第2の膨張機構EX2では、冷媒の圧力が高温冷媒Rhの圧力と低温冷媒Rcの圧力との間の所定の中間圧力まで下げられ、冷媒の温度が高温冷媒Rhの第1温度と低温冷媒Rcの第2温度との間の第3温度まで下げられる。
【0024】
中温熱交換器26には、第2の膨張機構EX2を通過した中間圧中温の冷媒が流れる。中温熱交換器26に流れる冷媒は第1温度と第2温度の間の第3温度の中温冷媒Rmである。この例では、中温熱交換器26は、中温冷媒Rmと熱媒体流路網4を流れる熱媒体との熱交換を行う熱交換器である。その結果、中温熱交換器26においては、例えば、ヒートポンプユニット2の中温冷媒Rmが熱媒体流路網4を流れる熱媒体を第3温度程度の中温に冷却又は加熱する。
【0025】
このように、ヒートポンプユニット2は、高温冷媒Rhと熱媒体との熱交換を行う高温熱交換器24と、低温冷媒Rcと熱媒体との熱交換を行う低温熱交換器25と、中温冷媒Rmと熱媒体との熱交換を行う中温熱交換器26と、を有している。具体的には、高温熱交換器24、低温熱交換器25及び中温熱交換器26は、ヒートポンプユニット2の冷媒流路21及びインジェクション流路21aからなる冷媒回路において並列的に設けられており、それぞれ異なる回路箇所において個別に(独立して)熱交換を実行可能に構成されている。
【0026】
本実施形態では、ヒートポンプユニット2は、冷媒流路21において高温熱交換器24と直列に配置され、高温熱交換器24から吐出した高温冷媒Rhと、中温熱交換器26に流入する中温冷媒Rmとの熱交換を行う、過冷却熱交換器27を有する。
【0027】
具体的には、ヒートポンプユニット2は、インジェクション流路21aにおける第2の膨張機構EX2と中温熱交換器26との間の部分に並列に接続されるバイパス流路21bを有し、過冷却熱交換器27はバイパス流路21bに設けられ且つ高温熱交換器24の吐出側において高温熱交換器24と直列に配置される。
【0028】
本実施形態では、ヒートポンプユニット2は、さらに、過冷却熱交換器27に分流させる中温冷媒Rmの流量を調節する流量調節弁28を有する。流量調節弁28は、外部信号により前記流量を調節可能に構成された3方弁である。流量調節弁28は、例えば、インジェクション流路21aからバイパス流路21bへの分岐点に設けられている。流量調節弁28は、前記空調制御装置からの制御信号に基づいて、中温冷媒Rmの分流量を調節するように動作する。但し、流量調節弁28は、低圧側圧縮機22及び後述する第2ポンプ42を停止させる中間期モードの運転時には、中温冷媒Rmの全量を中温熱交換器26に流し、中温冷媒Rmを過冷却熱交換器27に流さない(後述の
図4参照)。
【0029】
ヒートポンプユニット2の運転中に、低圧側圧縮機22により圧縮された冷媒は高圧側圧縮機23に流入して圧縮される。高圧側圧縮機23から吐出された高温冷媒Rhは、高温熱交換器24に流入して凝縮した後、主に、第1の膨張機構EX1を経て、低温熱交換器25に流入して蒸発する。そして、低温熱交換器25から吐出した熱交換後の低温冷媒Rcは、低圧側圧縮機22に還流し再び圧縮される。本実施形態では、ヒートポンプユニット2の運転中に、高圧側圧縮機23から吐出された高温冷媒Rhの一部は、インジェクション流路21aを通じて第2の膨張機構EX2を通過することで減圧されて、中温冷媒Rmになる。中温冷媒Rmは、中温熱交換器26を流れる。中温熱交換器26から吐出した熱交換後の中間圧の中温冷媒Rmは、高圧側圧縮機23に低圧の低温冷媒Rcと一緒に還流し再び圧縮される。なお、後述する中間期モードでは、低圧側圧縮機22は停止しているので、低圧側圧縮機22を経由する冷媒流れはほぼ生じない。
【0030】
空調ユニット3は、温度調節された空調風を生成し、該空調風を車室内に吹き出すことで、車室内を空調するユニットである。
【0031】
本実施形態では、空調ユニット3は、熱媒体流路網4を流れる熱媒体との熱交換によって空調風を生成するように構成されている。
【0032】
本実施形態では、空調ユニット3は、空気を車室内に導くダクト31と、ダクト31内において空気を車室内に向けて送風する送風機32aと、ダクト31内に空気の流れ方向において直列に配置され空気を加熱又は冷却する複数(ここでは、2個)の室内熱交換器(33、34)と、を有する。以下では、複数の室内熱交換器(33、34)のうち、空気の流れ方向について、風上側に配置される車室内熱交換器を風上側室内熱交換器33と呼び、風下側に配置される車室内熱交換器を風下側室内熱交換器34と呼ぶ。
【0033】
ダクト31の上流側には、送風機32aを含む送風機ユニット32が設けられている。送風機ユニット32は、送風機32aと、吸込口形成部材32bと、内外気切替ドア32cと、を含む。
【0034】
送風機32aは、電動モータを有した電動送風機である。吸込口形成部材32bには、車室内空気(以下「内気」という)をダクト31内に導入するための内気吸込口と、車室外空気(以下「外気」という)をダクト31内に導入するための外気吸込口とが形成されている。内外気切替ドア32cは、電動アクチュエータによって駆動され、回動位置に応じて吸込口モードを内気吸込モード、外気吸込モード又は内外気吸込モードに切り替えることが可能に構成されている。送風機32aは、内気吸込口から導入された内気及び/又は外気吸込口から導入された外気を車室内に向けて送風するように構成されている。送風機32aの電動モータと内外気切替ドア32cの前記電動アクチュエータは、前記空調制御装置からの制御信号に基づいて動作する。
【0035】
熱媒体流路網4は、複数(ここでは、3つ)のポンプ(41、42、43)及び複数の流路切替弁(V1、V2、V3、V4、V5、V6)を有し、熱媒体が流れるように構成された流路網である。また、熱媒体流路網4には、室外熱交換器44も配置されている。熱媒体は、例えば、エチレングリコールなどの不凍液である。ただし、外気温が氷点以下にならない環境でのみ使用される場合には、熱媒体(ブライン)として、水を用いることもできる。
【0036】
本実施形態では、空調ユニット3は、前述のように、ヒートポンプユニット2を流れる冷媒と熱交換された熱媒体との熱交換によって温度調節された空調風を生成するように構成されている。つまり、本実施形態では、ヒートポンプユニット2の冷媒流路21を流れる冷媒は熱媒体流路網4を流れる熱媒体と熱交換を行い、冷媒と熱交換された熱媒体はダクト31内の複数の室内熱交換器(33、34)を流れてダクト31内の空気と熱交換を行い、これにより、温度調節された空調風が生成される。
【0037】
本実施形態では、熱媒体流路網4には、冷媒の第1温度、第2温度及び第3温度に対応した異なる3つの温度の熱媒体のそれぞれが流れるように、3個のポンプ(41、42、43)が設けられている。以下では、第1温度の高温冷媒Rhと熱交換させる熱媒体を送り出すポンプを第1ポンプ41と呼び、第2温度の低温冷媒Rcと熱交換させる熱媒体を送り出すポンプを第2ポンプ42と呼び、第3温度の中温冷媒Rmと熱交換させる熱媒体を送り出すポンプを第3ポンプ43と呼ぶ。各ポンプ(41、42、43)は、電動ポンプであり、前記空調制御装置からの制御信号に基づいて動作する。
【0038】
第1ポンプ41は、ヒートポンプユニット2の高温熱交換器24における熱媒体の入口側に配置されており、熱媒体を高温熱交換器24に送り出し、高温冷媒Rhの凝縮熱により加熱された熱媒体を熱媒体流路網4に送り出す機能を有している。なお、第1ポンプ41は、高温熱交換器24の入口側又は出口側であり、且つ、熱媒体流路網4の分岐前であれば、どこに配置されてもよい。
【0039】
第2ポンプ42は、ヒートポンプユニット2の低温熱交換器25における熱媒体の出口側に配置されており、低温熱交換器25において低温冷媒Rcの蒸発熱により冷却された熱媒体を熱媒体流路網4に送り出す機能を有している。なお、第2ポンプ42は、低温熱交換器25の入口側又は出口側であり、且つ、熱媒体流路網4の分岐前であれば、どこに配置されてもよい。
【0040】
第3ポンプ43は、ヒートポンプユニット2の中温熱交換器26における熱媒体の出口側に配置されており、中温熱交換器26において中温冷媒Rmにより第3温度程度の中温に冷却又は加熱された熱媒体を熱媒体流路網4に送り出す機能を有している。なお、第3ポンプ43は、中温熱交換器26の入口側又は出口側であり、且つ、熱媒体流路網4の分岐前であれば、どこに配置されてもよい。
【0041】
室外熱交換器44は、例えば、車両の前面に配置され、送風機45などによって流入する車室外の空気と熱媒体との熱交換を行う熱交換器である。送風機45は電動モータを有した電動送風機であり、前記空調制御装置からの制御信号に基づいて動作する。
【0042】
熱媒体流路網4においては、流路切替弁(V1、V2、V3、V4、V5、V6)が前記空調制御装置からの制御信号に基づいて動作することにより、後述する各運転モードにおいて、第1ポンプ41により送り出された高温の熱媒体が循環する高温熱媒体回路4aと、第2ポンプ42により送り出された低温の熱媒体が循環する低温熱媒体回路4bと、第3ポンプ43により送り出された中温の熱媒体が循環する中温熱媒体回路4cとが形成される(後述の
図2参照)。なお、後述の
図2から
図6において、冷媒流路21は細い実線で示され、高温熱媒体回路4aは太い実線で示され、低温熱媒体回路4bは太い点線で示され、中温熱媒体回路4cは太い長破線で示され、熱媒体の流れていない熱媒体流路網部分は細い点線で示されている。
【0043】
機器温調ユニット5は、車両に搭載される所定の車載機器Xの温度を調節するユニットであり、ヒートポンプユニット2の中温冷媒Rmを用いて車載機器Xの温度を調節するように構成されている。特に限定されるものではないが、車載機器Xは、例えば、車両走行用の電気モータに電力を供給するバッテリである。バッテリは、例えば、リチウムイオン電池であり、作動時において外気や自己発熱などに高温になり得る。機器温調ユニット5は、バッテリの劣化抑制などのため、バッテリの温度を調節するように構成されている。例えば、極寒地域以外の地域では、バッテリは、バッテリ温度が30℃程度の管理温度に収まるように、冷却される。また、バッテリの温度が管理温度より低くなる極寒地域では、バッテリの温度が加熱され得る。機器温調ユニット5は、機器冷却ユニットでもあり機器加熱ユニットでもある。
【0044】
バッテリである車載機器Xは、例えば、バッテリケースの内部に収容されている。機器温調ユニット5は、例えば、バッテリケースに空気を導く導風ダクトと、該導風ダクトを介して空気をバッテリケース内に送風する送風機と、導風ダクト内に配置され空気を冷却又は加熱するための機器用熱交換器51と、を有する。各図では、前記バッテリケース、前記導風ダクト、送風機は図示を省略されている。
【0045】
本実施形態では、機器温調ユニット5は、中温冷媒Rmと熱交換された熱媒体を介して車載機器Xの温度を調節するように構成されている。つまり、冷媒流路21を流れる中温冷媒Rmは熱媒体流路網4を流れる熱媒体と熱交換を行い、中温冷媒Rmと熱交換された熱媒体は前記導風ダクト内の機器用熱交換器51を流れて導風ダクト内の空気と熱交換を行う。これにより、前記バッテリケースに送風される冷風又は温風が生成される。機器温調ユニット5は、中温冷媒Rmを用いて導風ダクト内で生成した冷風又は温風をバッテリケース内に送風することで車載機器Xであるバッテリを冷却又は加熱する。
【0046】
以上のように構成された車両用空調システム1は、熱媒体流路網4上に配置された複数の流路切替弁(V1、V2、V3、V4、V5、V6)を前記空調制御装置により適宜に制御して、それぞれの態様で適宜に高温熱媒体回路4a、低温熱媒体回路4b及び中温熱媒体回路4cを形成することによって、各運転モード(第1冷房モード、第2冷房モード、中間期モード、除湿暖房モード、暖房モード等)で運転される。各運転モードについては、後に詳述する。
【0047】
次に、室外熱交換器44、機器用熱交換器51、室内熱交換器(33、34)、各流路切替弁(V1、V2、V3、V4、V5、V6)の配置箇所などについて、
図2に示された状態の熱媒体流路網4を基準に説明する。
図2は車両用空調システム1の第1冷房モードにおける動作及び熱媒体の流れの例を示す図である。
【0048】
図2を参照すると、室外熱交換器44は、高温熱媒体回路4a(図中、太い実線で示された回路)において、高温熱交換器24の出口側に配置されている。第1流路切替弁V1及び第2流路切替弁V2は、それぞれ電磁駆動式の4方弁であり、第1流路切替弁V1は高温熱交換器24と室外熱交換器44との間に配置され、第2流路切替弁V2は室外熱交換器44と第1ポンプ41との間に配置されている。
【0049】
機器用熱交換器51は、中温熱媒体回路4c(図中、太い長破線で示された回路)において、中温熱交換器26の入口側に配置されている。熱媒体流路網4は、中温熱媒体回路4cにおける機器用熱交換器51をバイパスするバイパス流路4dを有する。
図2に示された熱媒体流路網4では、バイパス流路4dは中温熱媒体回路4cの一部を構成している。
【0050】
風上側室内熱交換器33は、バイパス流路4dに配置されている。第3流路切替弁V3、第4流路切替弁V4、第5流路切替弁V5及び第6流路切替弁V6は、それぞれ電磁駆動式の3方弁であり、バイパス流路4dにおいて、直列に配置されている。第3流路切替弁V3及び第4流路切替弁V4は風上側室内熱交換器33に対して下流側に配置され、第5流路切替弁V5及び第6流路切替弁V6は風上側室内熱交換器33に対して上流側に配置され、第3流路切替弁V3は第4流路切替弁V4に対して下流側に配置され、第5流路切替弁V5は第6流路切替弁V6に対して下流側に配置されている。
【0051】
熱媒体流路網4は、第1流路切替弁V1と第3流路切替弁V3とを接続する第1接続流路4eと、第1流路切替弁V1と室外熱交換器44との間の流路から分岐して第4流路切替弁V4に接続する第2接続流路4fと、室外熱交換器44と第2流路切替弁V2との間の流路から分岐して第5流路切替弁V5に接続する第3接続流路4gと、第2流路切替弁V2と第6流路切替弁V6とを接続する第4接続流路4hと、第1接続流路4eと第4接続流路4hとを接続する第5接続流路4iと、を有する。そして、風下側室内熱交換器34は、第5接続流路4iに配置されている。
【0052】
次に、車両用空調システム1の各運転モードにおける動作及び熱媒体の流れについて、
図2から
図6を参照して説明する。
【0053】
図2から
図6は車両用空調システム1の各運転モードにおける動作及び熱媒体の流れを説明するための概略図である。
図2は前述のように第1冷房モードを、
図3は第2冷房モードを、
図4は中間期モードを、
図5は除湿暖房モードを、
図6は暖房モードを、それぞれ示す。なお、
図2から
図6において、三方弁(第3流路切替弁V3から第6流路切替弁V6)について、黒塗り部分は閉状態を示し、白抜き部分は開状態を示している。圧縮機(低圧側圧縮機22、高圧側圧縮機23)について、黒塗り圧縮機は停止しており、白抜き圧縮機は作動しており、ポンプ(第1ポンプ41から第3ポンプ43)について、黒塗りポンプは停止しており、白抜きポンプは作動している。
【0054】
特に限定されるものではないが、ヒートポンプユニット2は、例えば、外気温度が35℃の場合、第1冷房モード及び第2冷房モードにおいて、45℃の高温冷媒Rhと20℃の中温冷媒Rmと5℃の低温冷媒Rcを生成する。ヒートポンプユニット2は、例えば、外気温度が25℃の場合、中間期モードでは、35℃の高温冷媒Rhと20℃の中温冷媒Rmと5℃の低温冷媒Rcを生成する。そして、ヒートポンプユニット2は、例えば、外気温度が15℃の場合、除湿暖房モードでは、60℃の高温冷媒Rhと20℃の中温冷媒Rmと5℃の低温冷媒Rcを生成する。また、ヒートポンプユニット2は、例えば、外気温度が-5℃の場合、暖房モードでは、60℃の高温冷媒Rhと20℃の中温冷媒Rmと-15℃の低温冷媒Rcを生成する。
【0055】
図2を参照すると、車両用空調システム1が第1冷房モードで作動するとき、中温熱交換器26で熱交換された熱媒体は機器温調ユニット5(機器用熱交換器51)と風上側室内熱交換器33を流れ、低温熱交換器25で熱交換された熱媒体は風下側室内熱交換器34を流れる。
【0056】
具体的には、
図2を参照すると、第1冷房モードでは、(1)中温熱媒体回路4cを循環する熱媒体は、第3ポンプ43から送り出され、機器用熱交換器51と風上側室内熱交換器33とに分流し、その後、中温熱交換器26を経て第3ポンプ43に還流する。この中温熱媒体回路4cの熱媒体は、機器用熱交換器51及び風上側室内熱交換器33で吸熱し、中温熱交換器26で放熱して冷却される。熱媒体は、機器用熱交換器51において空気から吸熱することで、該空気を冷却する。この冷却された空気が冷風として車載機器Xに送風されることで、車載機器Xが冷却される。熱媒体は、中温熱交換器26において放熱することで冷却される。そして、熱媒体は、風上側室内熱交換器33において空気から吸熱することで、空気を予冷する。この予冷された空気が風下側室内熱交換器34に向けて送風される。(2)そして、第1冷房モードの低温熱媒体回路4bを循環する熱媒体は、第2ポンプ42、第2流路切替弁V2、風下側室内熱交換器34、第1流路切替弁V1及び低温熱交換器25を経て第2ポンプ42へ還流する。熱媒体は、風下側室内熱交換器34で吸熱し、低温熱交換器25で放熱して十分に冷却される。熱媒体は、風下側室内熱交換器34において空気から吸熱することで、該空気を十分に冷却する。この冷却された空気が空調風として車室内に送風される。(3)さらに、第1冷房モードの高温熱媒体回路4aを循環する熱媒体は、第1ポンプ41、高温熱交換器24、第1流路切替弁V1、室外熱交換器44及び第2流路切替弁V2を経て第1ポンプ41へ還流する。熱媒体は、高温熱交換器24で吸熱して加熱され、室外熱交換器44で放熱する。(4)第1冷房モードにおいて、車両用空調システム1は、車載機器Xの冷却のために中温冷媒Rmを用いており、低い蒸発温度の低温冷媒Rcを用いていない。そのため、例えば、車載機器Xとしてのバッテリを30℃程度に冷却するために、低温冷媒Rcを無駄に用いる必要がない。したがって、車両用空調システム1は、従来に比べて電力消費の抑制を図りつつ車載機器Xを冷却することができる。(5)さらに、第1冷房モードでは、車両用空調システム1は、風下側室内熱交換器34に導かれる空気を、予め風上側室内熱交換器33によって予冷することができる。そして、この風上側室内熱交換器33を流れる熱媒体は、中温冷媒Rmの第3温度程度の中温の熱媒体であるため、風上側室内熱交換器33の表面における結露の発生が抑制される。その結果、風上側室内熱交換器33の熱交換率が向上する。
【0057】
図3を参照すると、第2冷房モードでは、(1)中温熱媒体回路4cは、熱媒体が風上側室内熱交換器33に流れていない点を除いて、第1冷房モードの中温熱媒体回路4cと同じ経路を辿っている。(2)そして、第2冷房モードの低温熱媒体回路4bは、熱媒体が第1接続流路4e、バイパス流路4d、風上側室内熱交換器33及び第4接続流路4hを経由する流路を流れている点を除いて、第1冷房モードの低温熱媒体回路4bと同じ経路を辿っている。(3)また、第2冷房モードの高温熱媒体回路4aは、第1冷房モードの高温熱媒体回路4aと同じ経路を辿っている。(4)第2冷房モードでは、車両用空調システム1は、車載機器Xの冷却のための電力消費を抑制しつつ、風上側室内熱交換器33と風下側室内熱交換器34とによって、ダクト31内の空気を強力に冷却することができる。
【0058】
図4を参照すると、中間期モードでは、(1)低温熱媒体回路4bは形成されていない。中間期では、車室内の温度が冷房を必要とするほど高くないので、低温冷媒Rcと熱交換された低温の熱媒体は不要である。そのため、第3ポンプ43が停止され、低温熱媒体回路4bは形成されない。低圧側圧縮機22も停止されている。(2)そして、中間期モードの中温熱媒体回路4cは、第1冷房モードの中温熱媒体回路4cと同じ経路を辿っている。(3)また、中間期モードの高温熱媒体回路4aは、第1冷房モードの高温熱媒体回路4aと同じ経路を辿っている。(4)中間期モードでは、第3ポンプ43及び低圧側圧縮機22が停止されているので、その分、電力消費の抑制がさらに図られる。なお、図示を省略するが、熱媒体流路網4は、中間期モードにおいて、中温熱媒体回路4cがさらに風下側室内熱交換器34を辿るように構成されてもよい。
【0059】
図5を参照すると、除湿暖房モードでは、(1)低温熱媒体回路4bを循環する熱媒体は、第2ポンプ42、第2流路切替弁V2、室外熱交換器44、第1流路切替弁V1及び低温熱交換器25を経て第2ポンプ42へ還流する。但し、第2流路切替弁V2と室外熱交換器44との間の流路から分岐し、室外熱交換器44をバイパスする流路が、第3接続流路4g、第5流路切替弁V5、バイパス流路4d及び第4流路切替弁V4により形成されている。熱媒体は、風上側室内熱交換器33及び室外熱交換器44で吸熱し、低温熱交換器25で放熱して十分に冷却される。バイパス流路4dを流れる熱媒体は、風上側室内熱交換器33において空気から吸熱することで、該空気を露店温度以下まで適度に冷却する。これにより、風上側室内熱交換器33において、空気内の水分が凝縮して除去され、空気の除湿がなされる。この除湿された冷気は風下側室内熱交換器34に導かれる。(2)除湿暖房モードの高温熱媒体回路4aを循環する熱媒体は、第1ポンプ41、高温熱交換器24、第1流路切替弁V1、風下側室内熱交換器34及び第2流路切替弁V2を経て第1ポンプ41へ還流する。熱媒体は、高温熱交換器24で吸熱して加熱され、風下側室内熱交換器34で放熱する。熱媒体は、風下側室内熱交換器34において空気に放熱することで、空気を十分に加熱する。この加熱された空気が空調風として車室内に送風される。(3)そして、除湿暖房モードの中温熱媒体回路4cを循環する熱媒体は、第3ポンプ43から送り出され、機器用熱交換器51に流入し、その後、中温熱交換器26を経て第3ポンプ43に還流する。熱媒体は、機器用熱交換器51で吸熱し、中温熱交換器26で放熱して冷却される。機器用熱交換器51において冷却された空気が冷風として車載機器Xに送風されることで、車載機器Xが冷却される。熱媒体は、中温熱交換器26において放熱することで冷却される。(4)除湿暖房モードでは、除湿され且つ加熱された空調風を車室内に送風することができる。そして、除湿暖房モードでも、各冷房モード及び中間期モードと同様に、車載機器Xの冷却のために中温冷媒Rmが用いられている。したがって、車両用空調システム1は、車載機器Xの冷却のための電力消費を抑制しつつ、除湿され且つ加熱された空調風によって車室内の暖房を行うことができる。
【0060】
図6を参照すると、この例の暖房モードでは、(1)低温熱媒体回路4bは、熱媒体が風上側室内熱交換器33に流れていない点を除いて、除湿暖房モードの低温熱媒体回路4bと同じ経路を辿っている。詳しくは、暖房モードの低温熱媒体回路4bでは、第3接続流路4g、第5流路切替弁V5、バイパス流路4d及び第4流路切替弁V4を経由して、室外熱交換器44をバイパスする流路が形成されていない。(2)そして、暖房モードの高温熱媒体回路4aは、熱媒体が風上側室内熱交換器33に流れている点を除いて、除湿暖房モードの高温熱媒体回路4aと同じ経路を辿っている。詳しくは、暖房モードの高温熱媒体回路4aでは、第1接続流路4e、バイパス流路4d及び第4接続流路4hを経由する流路が形成されている。バイパス流路4dを流れる熱媒体は、風上側室内熱交換器33において空気に放熱することで、空気を加熱する。この加熱された空気は風下側室内熱交換器34に導かれ、さらに、風下側室内熱交換器34において十分に加熱される。(3)また、暖房モードの中温熱媒体回路4cは、除湿暖房モードの中温熱媒体回路4cと同じ経路を辿っている。(4)暖房モードでも、車載機器Xの冷却のために中温冷媒Rmが用いられている。ここで、室外熱交換器44を流れる熱媒体が低い外気温(例えば、-5℃)の空気から吸熱するためには、低温冷媒Rcの温度(蒸発温度)は外気温よりさらに低い温度(例えば、-15℃)に設定される。暖房モードでは、このような極めて低い温度の低温冷媒Rcが車載機器Xの冷却のために用いられていない。したがって、車両用空調システム1は、車載機器Xの冷却のための電力消費を顕著に抑制しつつ、風上側室内熱交換器33と風下側室内熱交換器34とによって、ダクト31内の空気を強力に加熱することができる。
【0061】
なお、図示を省略するが、暖房モードにおいて、高温熱媒体回路4aは熱媒体を風上側室内熱交換器33に流さず、中温熱媒体回路4cは熱媒体を風上側室内熱交換器33に流すように、各回路(4a、4c)が構成されてもよい。また、高温熱媒体回路4aは熱媒体を風下側室内熱交換器34にも流さず、中温熱媒体回路4cは熱媒体を風上側室内熱交換器33に流すように、各回路(4a、4c)が構成されてもよい。さらに、中温熱媒体回路4cは熱媒体を風上側室内熱交換器33と風下側室内熱交換器34に流すように、各回路(4a、4c)が構成されてもよい。
【0062】
また、車両用空調システム1は、始動時などに車載機器Xとしてのバッテリを、中温冷媒Rmを用いて加熱するバッテリ加熱モードを実行可能に構成されてもよい。つまり、極寒地域において車両始動時などに、車載機器X(バッテリ)が加熱を要するほど低温になっている場合などには、車両用空調システム1は、車両始動時などに、バッテリ加熱モードを実行することで、バッテリ加熱を優先する。バッテリ加熱モードにおいては、
図7に示すように、(1)高温熱媒体回路4aは形成されない。(2)低温熱媒体回路4bは、暖房モードの低温熱媒体回路4bと同じ経路を辿っている。(3)高圧側圧縮機23が停止され、中温熱媒体回路4cは、暖房モードの中温熱媒体回路4cと同じ経路を辿り、中温冷媒Rmにより加熱された熱媒体を、機器用熱交換器51経由で循環させるように構成される。
【0063】
また、暖房モードにおいて、風上側室内熱交換器33を流れる熱媒体の流量は、風下側室内熱交換器34を流れる熱媒体の流量よりも小さくなるように構成されている。風上側室内熱交換器33の熱交換量は低下するが、風下側室内熱交換器34における空気入口温度と空気出口温度との温度差が比較的に大きくなることで、風下側室内熱交換器34での熱交換量が顕著に増えることになり、熱交換効率の向上が図られる。
【0064】
以上説明したように、実施形態に係る車両用空調システム1は、上述のように、各運転モードにおいて、車載機器Xの冷却のために中温冷媒Rmを用いており、低い蒸発温度の低温冷媒Rcを用いていない。したがって、車載機器Xが過度に冷却されることはない。したがって、バッテリ冷却のための高圧側圧縮機の圧縮比は比較的に小さくなるので、電力消費の抑制が図られると共に無駄な制御の低減も図られる。このように、車両用空調システム1によれば、電力消費の抑制を図りつつ所定の車載機器Xの温度を調節することができる。また、過度な冷却を抑制するために、電気ヒータによって熱媒体を温めたり、膨張機構を調節したりする必要もない。また、車載機器Xを加熱する場合には、高温冷媒Rhではなく、中温冷媒Rmが用いられ、過度な加熱が抑制される。したがって、車両用空調システム1は、車載機器Xの温度調節のために、適度な温度の冷媒を用いることで、車載機器Xの温度調節を効率的に行うことができる。
【0065】
そして、空調ユニット3は熱媒体流路網4を流れる熱媒体との熱交換によって空調風を生成し、機器温調ユニット5はヒートポンプユニット2により生成された中温冷媒Rmと熱交換された熱媒体を介して車載機器Xの温度を調節(冷却又は加熱)するように構成されている。したがって、車両用空調システム1は、冷媒と熱交換された熱媒体との熱交換によって空調風を生成する方式の空調システムにおいて、車載機器Xを低電力で冷却又は加熱することができる。
【0066】
また、ヒートポンプユニット2は、高温熱交換器24と低温熱交換器25と中温熱交換器26とを有している。したがって、車両用空調システム1は、3つの異なる温度の冷媒をそれぞれ異なる回路箇所において個別に(独立して)、熱交換に利用することができる。そのため、冷媒利用の自由度の向上が図られている。
【0067】
また、ヒートポンプユニット2は、直列に配置される複数の圧縮機(22、23)を有している。そして、ヒートポンプユニット2は、高温冷媒Rhの一部を膨張させて、複数の圧縮機(22、23)のうちの最下流に配置される圧縮機以外の圧縮機(この例では、高圧側圧縮機23)に戻すインジェクション回路Zを有している。これにより、中間圧の冷媒が高圧側の圧縮機(高圧側圧縮機23)に中間圧のまま確実に供給されるので、インジェクション回路Zによる暖房能力及びCOP(成績係数)の向上が、より確実に図られる。
【0068】
また、車両用空調システム1が冷房モード(この例では第1冷房モード)で作動するとき、中温熱交換器26で熱交換された熱媒体は機器温調ユニット5(機器用熱交換器51)と風上側室内熱交換器33を流れ、低温熱交換器25で熱交換された熱媒体は風下側室内熱交換器34を流れる。これにより、冷房運転時において、風上側室内熱交換器33の表面における結露の発生が抑制される。その結果、風上側室内熱交換器33の熱交換率が向上し、冷房能力の向上や冷房時の低電力化が図られる。
【0069】
また、ヒートポンプユニット2は、過冷却熱交換器27によって、高温熱交換器24から吐出した高温冷媒Rhと中温熱交換器26に流入する中温冷媒Rmとの熱交換を行うことができる。これにより、冷房能力などの向上が図られる。なお、図示を省略するが、過冷却熱交換器27は、高温冷媒Rhと中温熱交換器26に流入する中温冷媒Rm(換言すると、中温熱交換器26の入口手前の中温冷媒Rm)との熱交換に限らず、高温冷媒Rhと中温熱交換器26から吐出した中温冷媒Rmとの熱交換を行ってもよい。
【0070】
そして、ヒートポンプユニット2は、さらに、過冷却熱交換器27に分流させる中温冷媒Rmの流量を調節する流量調節弁28を有している。流量調節弁28は、過冷却熱交換器27への流量を調節して中間圧での吸熱負荷を制御することによって、高圧側圧縮機23の不足圧縮量及び過圧縮量を低減させることができる。その結果、電力消費の低減が図られる。具体的には、車両用空調システム1は、低圧側圧縮機22の回転数が所定の閾値より高い場合には、過冷却熱交換器27への流量(過冷却熱交換流通冷媒量)を流量調節弁28によって増加させて過冷却度合を大きくすることで、低圧側圧縮機22の吸入側の冷媒-熱媒体熱交換器である低温熱交換器25における冷媒エンタルピー差を大きくし、低圧側圧縮機22の回転数を下げる。一方、車両用空調システム1は、低圧側圧縮機22の回転数が所定の閾値以下の場合には、過冷却熱交換器27への流量(過冷却熱交換流通冷媒量)を流量調節弁28によって減少させて過冷却度合を小さくすることで、低圧側圧縮機22の吸入側の低温熱交換器25における冷媒エンタルピー差を小さくし、低圧側圧縮機22の回転数を上げる。
【0071】
なお、第1実施形態では、ヒートポンプユニット2は冷媒を圧縮する複数の圧縮機(22、23)を有しているが、これに限定されるものではない。
図8に示された変形例のように、ヒートポンプユニット2は、複数の圧縮機(22、23)に替えて、多段圧縮式の一つの多段圧縮機29を有してもよい。例えば、この例では、多段圧縮機29には、冷媒の圧力領域として、低圧領域P1と、低圧領域P1より高い高圧領域P3と、低圧領域P1と高圧領域P3の中間の中間圧領域P2とが形成されている。そして、ヒートポンプユニット2は、高温冷媒Rhの一部を膨張させて多段圧縮機29内の中間圧領域P2に戻すように構成されている。
【0072】
また、車両用空調システム1において、空調ユニット3は、熱媒体を介さず、冷媒との直接的な熱交換によって温度調節された空調風を生成し、該空調風を車室内に吹き出すように構成されてもよい。この場合、中温熱交換器26が機器温調ユニット5の導風ダクト内に機器用熱交換器51として配置され、中温冷媒Rmが中温熱交換器26(機器用熱交換器51)において導風ダクト内の空気と熱交換し、熱交換後の空気が車載機器Xに送風されることで、車載機器Xが冷却又は加熱される。つまり、この場合においても、機器温調ユニット5は中温冷媒Rmを用いて車載機器Xの温度を調節しており、車両用空調システム1は電力消費の抑制を図りつつ所定の車載機器Xの温度を調節することができる。
【0073】
上記各実施形態において、ヒートポンプユニット2は、3つの異なる温度の冷媒を生成しているが、これに限定されるのではなく、4つ以上の所定数の異なる温度の冷媒を生成してもよい。ヒートポンプユニット2は、冷媒について、少なくとも、第1温度の高温冷媒Rhと、第1温度よりも低い第2温度の低温冷媒Rcと、第1温度と第2温度の間の第3温度の中温冷媒Rmと、を生成すればよい。そして、ヒートポンプユニット2は、少なくとも、高温冷媒Rhにより熱交換を行う高温熱交換器24と、低温冷媒Rcにより熱交換を行う低温熱交換器25と、中温冷媒Rmにより熱交換を行う中温熱交換器26と、を有していればよい。また、上記各実施形態では、機器温調ユニット5は、中温冷媒Rmを用いて冷却又は加熱した空気を車載機器Xに送風することで車載機器Xの温度を調整するように構成されているが、これに限定されるものではない。機器温調ユニット5は、中温冷媒Rmを用いて冷却又は加熱した水(冷水又は温水)を流通させる水路が内部に形成された冷温水プレートであって、車載機器Xに接触させた状態で配置される冷温水プレートを有してもよい。機器温調ユニット5は、この冷温水プレートを流れる温度調節された水によって、車載機器Xを冷却又は加熱する。
【0074】
また、冷却する(温度を調節する)車載機器Xはバッテリに限られるものではなく、モータなどの他の所定の車載機器であってもよい。
【0075】
以上、本発明の実施形態及び変形例について説明したが、本発明は、上述の実施形態や変形例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいてさらなる変形が可能であることはもちろんである。
【符号の説明】
【0076】
1…車両用空調システム、2…ヒートポンプユニット、21…冷媒流路、22、23…複数の圧縮機、22…低圧側圧縮機、23…高圧側圧縮機、24…高温熱交換器、25…低温熱交換器、26…中温熱交換器、29…多段圧縮機、3…空調ユニット、31…ダクト、32a…送風機、33、34…複数の室内熱交換器、33…風上側室内熱交換器、34…風下側室内熱交換器、4…熱媒体流路網、41、42、43…複数のポンプ、41…第1ポンプ、42…第2ポンプ、43…第3ポンプ、5…機器温調ユニット、Rh…高温冷媒、Rc…低温冷媒、Rm…中温冷媒、V1、V2、V3、V4、V5、V6…複数の流路切替弁、X…車載機器