(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024135534
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】再生品の不純物量の推定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 5/04 20060101AFI20240927BHJP
G02B 5/30 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
G01N5/04 A
G02B5/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023046278
(22)【出願日】2023-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】513099603
【氏名又は名称】兵庫県公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】110001748
【氏名又は名称】弁理士法人まこと国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安江 拓朗
(72)【発明者】
【氏名】松尾 吉晃
(72)【発明者】
【氏名】稲本 純一
【テーマコード(参考)】
2H149
【Fターム(参考)】
2H149AB26
2H149AB29
2H149BA02
2H149BB02
2H149FA03W
(57)【要約】
【課題】 再生品中の不純物の量を簡易な方法で推定する。
【解決手段】 偏光子の製造廃液から回収した再生品中の不純物量を推定する方法において、第1不純物及び第2不純物を含む前記再生品を第1温度まで加熱して第1加熱品を得る第1加熱工程、前記第1加熱工程後の第1加熱品の質量を測定する第1質量取得工程、前記第1加熱品を前記第1温度を超える第2温度まで加熱して第2加熱品を得る第2加熱工程、前記第2加熱工程後の第2加熱品の質量を測定する第2質量取得工程、前記第1加熱品の質量から前記第2加熱品の質量を減算して、前記再生品中に含まれる第2不純物の含有量を推定する工程、を有する。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
偏光子の製造廃液から回収した再生品中の不純物量を推定する方法において、
第1不純物及び第2不純物を含む前記再生品を第1温度まで加熱して第1加熱品を得る第1加熱工程、
前記第1加熱工程後の第1加熱品の質量を測定する第1質量取得工程、
前記第1加熱品を前記第1温度を超える第2温度まで加熱して第2加熱品を得る第2加熱工程、
前記第2加熱工程後の第2加熱品の質量を測定する第2質量取得工程、
前記第1加熱品の質量から前記第2加熱品の質量を減算して、前記再生品中に含まれる第2不純物の含有量を推定する工程、
を有する、再生品の不純物量の推定方法。
【請求項2】
前記偏光子の製造廃液から回収した再生品の有効成分が、ヨウ化カリウムである、再生品の不純物量の推定方法。
【請求項3】
前記第1加熱工程が、前記再生品中の前記第2不純物の量を変えることなく、前記第1不純物を前記再生品中から消失させる工程である、請求項1の再生品の不純物量の推定方法。
【請求項4】
前記第2加熱工程が、前記第2不純物を前記第1加熱品中から消失させる工程である、請求項3に記載の再生品の不純物量の推定方法。
【請求項5】
前記第1加熱工程において、前記再生品の質量測定を行なうことなく、前記再生品を加熱する、請求項1に記載の再生品の不純物量の推定方法。
【請求項6】
前記第1質量取得工程において、前記第1加熱品を前記第1温度から低下させた後に前記第1加熱品の質量を測定し、
前記第2質量取得工程において、前記第2加熱品を前記第2温度から低下させた後に前記第2加熱品の質量を測定する、請求項1に記載の再生品の不純物量の推定方法。
【請求項7】
前記第1不純物が、ホウ酸であり、前記第2不純物が、炭素を含む化合物である、請求項1に記載の再生品の不純物量の推定方法。
【請求項8】
前記炭素を含む化合物が、ポリビニルアルコール系樹脂を含む、請求項7に記載の再生品の不純物量の推定方法。
【請求項9】
前記第1加熱工程及び第2加熱工程の昇温速度が、1℃/min~6℃/minである、請求項1に記載の再生品の不純物量の推定方法。
【請求項10】
前記第1加熱工程によって第1温度まで加熱し、その温度を3時間~5時間の間保った後に、前記第1質量取得工程を行なう、請求項1に記載の再生品の不純物量の推定方法。
【請求項11】
前記第2加熱工程によって第2温度まで加熱し、その温度を3時間~5時間の間保った後に、前記第2質量取得工程を行なう、請求項1に記載の再生品の不純物量の推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光子の製造廃液から回収した再生品中の不純物の含有量を簡易に推定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液晶表示装置や偏光サングラスなどの構成材料として、偏光子を含む偏光フィルムが使用されている。前記偏光子は、代表的には、ポリビニルアルコール系樹脂層又はポリビニルアルコール系樹脂フィルムを、染色液で染色し、延伸することによって製造される。環境保護の観点から、前記偏光子の製造時に使用されたヨウ化カリウムを回収し、再利用することが望ましい。
特許文献1及び2には、このような偏光子の製造時に発生する廃液からヨウ化カリウムを回収して再生する廃液処理方法が開示されている。前記特許文献1及び2の方法によれば、不純物の含有量が低減化されたヨウ化カリウム再生品を得ることができる。
前記再生品を偏光子の製造に再び使用することにより、資源の有効利用を図ることができ、循環型社会の形成に貢献できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6650652号公報
【特許文献2】特許第7165344号公報
【発明の概要】
【0004】
前記再生品に比較的多くの不純物が含まれている場合、当該再生品を偏光子の製造に再利用すると、偏光子の品質などに悪影響を与えるおそれがある。特に、ポリビニルアルコール系樹脂などの炭素を含む化合物は、偏光子の製造に悪影響を与えるおそれがある。特許文献1及び2の方法によれば、純度の高い再生品を得ることができるが、不純物を全く含まない再生品を得ることは困難である。特許文献1及び2に記載のように、偏光子の製造に生じる廃液には、ヨウ化カリウムのほか、ポリビニルアルコール系樹脂及びホウ酸が含まれているところ、前記廃液から得られた再生品にはポリビニルアルコール系樹脂及びホウ酸などの不純物が微量に含まれる。
従って、再生品を偏光子の製造に再利用する際には、当該再生品に含まれる不純物(特に炭素を含む化合物)の量を把握し、そのまま再利用して良いか否かを判断することが好ましい。前記不純物の含有量は、一般に、再生品の成分分析を行なうことによって把握できる。再生品は前述のように製造廃液から得られるところ、再生品の製造ロット毎にその不純物の含有量が異なっている可能性が高い。このため、再生品のロット毎に前記成分分析を行なう必要がある。
【0005】
しかしながら、再生品のロット毎に精密な成分分析を行うことは、偏光子の製造コストの上昇を招くため好ましくない。他方、再利用可能な再生品には不純物量の許容範囲があり、再利用する再生品が前記許容範囲にあるかどうかを知ることができれば、必ずしも再生品の精密な成分分析を行なう必要もない。
このようなことから、再生品の不純物の含有量を比較的低コストで簡易に知ることができる方法が求められている。
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、再生品中の不純物の量を簡易な方法で推定することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1形態に係る再生品の不純物量の推定方法は、偏光子の製造廃液から回収した再生品中の不純物量を推定する方法において、第1不純物及び第2不純物を含む前記再生品を第1温度まで加熱して第1加熱品を得る第1加熱工程、前記第1加熱工程後の第1加熱品の質量を測定する第1質量取得工程、前記第1加熱品を前記第1温度を超える第2温度まで加熱して第2加熱品を得る第2加熱工程、前記第2加熱工程後の第2加熱品の質量を測定する第2質量取得工程、前記第1加熱品の質量から前記第2加熱品の質量を減算して、前記再生品中に含まれる第2不純物の含有量を推定する工程、を有する。
【0008】
本発明の第2形態に係る再生品の不純物量の推定方法は、前記第1形態の推定方法において、前記偏光子の製造廃液から回収した再生品の有効成分が、ヨウ化カリウムである。
本発明の第3形態に係る再生品の不純物量の推定方法は、前記第1又は第2形態の推定方法において、前記第1加熱工程が、前記再生品中の前記第2不純物の量を変えることなく、前記第1不純物を前記再生品中から消失させる工程である。
本発明の第4形態に係る再生品の不純物量の推定方法は、前記第1乃至第3形態のいずれかの推定方法において、前記第2加熱工程が、前記第2不純物を前記第1加熱品中から消失させる工程である。
本発明の第5形態に係る再生品の不純物量の推定方法は、前記第1乃至第4形態のいずれかの推定方法において、前記第1加熱工程において、前記再生品の質量測定を行なうことなく、前記再生品を加熱する。
本発明の第6形態に係る再生品の不純物量の推定方法は、前記第1乃至第5形態のいずれかの推定方法において、前記第1質量取得工程において、前記第1加熱品を前記第1温度から低下させた後に前記第1加熱品の質量を測定し、前記第2質量取得工程において、前記第2加熱品を前記第2温度から低下させた後に前記第2加熱品の質量を測定する。
本発明の第7形態に係る再生品の不純物量の推定方法は、前記第1乃至第6形態のいずれかの推定方法において、前記第1不純物が、ホウ酸であり、前記第2不純物が、炭素を含む化合物である。
本発明の第8形態に係る再生品の不純物量の推定方法は、前記第7形態の推定方法において、前記炭素を含む化合物が、ポリビニルアルコール系樹脂を含む。
本発明の第9形態に係る再生品の不純物量の推定方法は、前記第1乃至第8形態のいずれかの推定方法において、前記第1加熱工程及び第2加熱工程の昇温速度が、1℃/min~6℃/minである。
本発明の第10形態に係る再生品の不純物量の推定方法は、前記第1乃至第9形態のいずれかの推定方法において、前記第1加熱工程によって第1温度まで加熱し、その温度を3時間~5時間の間保った後に、前記第1質量取得工程を行なう。
本発明の第11形態に係る再生品の不純物量の推定方法は、前記第1乃至第10形態のいずれかの推定方法において、前記第2加熱工程によって第2温度まで加熱し、その温度を3時間~5時間の間保った後に、前記第2質量取得工程を行なう。
【発明の効果】
【0009】
本発明の方法によれば、第1不純物及び第2不純物を含む再生品中の第2不純物の含有量を簡易に推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】本発明の推定方法における各工程の順序を示すフロー図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施形態について説明する。
本明細書において、「下限値X~上限値Y」で表される数値範囲は、下限値X以上上限値Y以下を意味する。前記数値範囲が別個に複数記載されている場合、任意の下限値と任意の上限値を選択し、「任意の下限値~任意の上限値」を設定できるものとする。
本明細書において、用語の頭に、「第1」、「第2」を付す場合があるが、この第1などは、用語を区別するためだけに付加されたものである。
【0012】
[再生品]
本発明の処理対象は、偏光子の製造廃液を回収し、その廃液から再生した再生品である。前記再生品は、例えば、特許文献1及び2に記載された廃液の処理によって得ることができる。ただし、本発明の再生品は、前記特許文献1及び2に記載された廃液処理方法によって製造される再生品に限定されない。本発明を、特許文献1及び2に記載の方法以外の方法によって製造された再生品に適用してもよい。
【0013】
前記偏光子の製造廃液は、代表的には、ポリビニルアルコール系樹脂を含むフィルムを染色・延伸して偏光子を製造する方法(いわゆる湿式処理法)を実施した際に生じる廃液を例示できる。かかる湿式処理法によって偏光子を製造する装置は、従来公知である。簡単に説明する、偏光子製造装置は、例えば、上流側から順に、膨潤処理浴と、染色処理浴と、架橋処理浴と、延伸処理浴と、洗浄処理浴と、乾燥部と、を有する。湿式処理法によって次の各工程を行なうことにより、偏光子が得られる。ポリビニルアルコール系樹脂を含むフィルムを膨潤処理浴に搬送し、水又はヨウ化カリウム水溶液などの膨潤液にて膨潤させる(膨潤工程)。前記膨潤させたフィルムを、染色処理浴に搬送し、ヨウ素などの二色性物質及びヨウ化カリウムを含む染色液にて染色する(染色工程)。前記染色したフィルムを、架橋処理浴に搬送し、ホウ酸などのホウ素化合物水溶液などの架橋液にて架橋する(架橋工程)。前記フィルムを、延伸処理浴に搬送し、延伸する(延伸工程)。染色・延伸したフィルムを、洗浄処理浴に搬送し、水などの洗浄液にて洗浄する(洗浄工程)。前記洗浄したフィルムを、乾燥部にて乾燥する(乾燥工程)。このようにポリビニルアルコール系樹脂を含むフィルムに各工程を施すことによって、当該フィルムが偏光特性を生じる(つまり、偏光子が得られる)。この各製造工程で使用されている液が廃液となり、かかる廃液を処理することによって、有効成分と不純物とを含む再生品が得られる。
【0014】
前記再生品の有効成分は、偏光子の廃液に含まれる任意の成分であり、特に限定されない。前記湿式処理法から得られる廃液の場合、湿式処理法の各工程を考慮すると、偏光子の製造廃液中には、ヨウ化カリウム、ホウ酸、ポリビニルアルコール系樹脂などが含まれる。このような廃液から得られる再生品の有効成分としては、例えば、ヨウ化カリウムである。かかる再生品(ヨウ化カリウム再生品)は、有効成分としてヨウ化カリウムを多量に含み、複数の不純物を微量に含んでいる。なお、有効成分は、その再生品の目的となる成分(換言すると再生対象となっている成分)をいい、不純物は、有効成分以外の成分をいう。
【0015】
前記不純物は、偏光子の廃液に含まれる任意の成分であり、特に限定されない。不純物には、少なくとも2種類の不純物(以下、そのうちの一方を「第1不純物」といい、もう一方を「第2不純物」という)が含まれる。不純物としては、例えば、ホウ酸;ホウ酸以外のホウ素化合物;ポリビニルアルコール系樹脂;ポリビニルアルコール系樹脂以外の有機ポリマー;有機酸;無機化合物及びその塩;などが挙げられる。このような中から例に採ると、第1不純物は、例えば、ホウ酸であり、第2不純物は、例えば、ポリビニルアルコール系樹脂などの炭素を含む化合物である。前記炭素を含む化合物は、その化合物の分子中に炭素原子を含む化合物を意味する。前記炭素を含む化合物としては、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂以外の有機ポリマー、有機酸、製造工程で用いられる有機還元剤などが挙げられる。
前記再生品に含まれる有効成分の量は、再生品全体を100質量%とした場合に、95質量%以上100質量%未満であり、好ましくは、98質量%以上100質量%未満であり、より好ましくは、99質量%以上100質量%未満である。前記再生品に含まれる不純物の量は、再生品の量から有効成分を減算することにより求められる。
【0016】
前記湿式処理法による偏光子の製造廃液から得られたヨウ化カリウムの再生品は、例えば、不純物としてホウ酸及びポリビニルアルコール系樹脂を含んでおり、その他の任意の不純物も含んでいる。ただし、ホウ酸及びポリビニルアルコール系樹脂の含有量は、ヨウ化カリウムの再生品の製造ロット毎に異なる場合がある。なお、前記ヨウ化カリウムの再生品に含まれるその他の任意の不純物(ホウ酸及びポリビニルアルコール系樹脂以外の不純物)の含有量は、ホウ酸及びポリビニルアルコール系樹脂の含有量に比して少量である。
【0017】
[本発明の技術思想]
本発明者等は、偏光子の製造時に生じる廃液に含まれると考えられるヨウ化カリウム、ホウ酸及びポリビニルアルコール系樹脂を加熱する、予備的実験を行った。具体的には、市販の純正品であるヨウ化カリウムを8mg秤量し、質量計測器が付随した電気炉(株式会社日立ハイテクサイエンス製の商品名「STR200RV」)を用いて、前記ヨウ化カリウムを加熱しながら、その質量を逐次測定した。加熱は、室温(23℃)から550℃まで行い、昇温速度を10℃/minとし、5秒毎に質量を測定した。その結果を、
図1に示す。
図1の縦軸は、質量の変化の割合を示す。質量変化(質量%)は、(質量計測時の試料の質量/当初に秤量した試料の質量)×100、で求めた。純正品のホウ酸及び純正品のポリビニルアルコール系樹脂のそれぞれについても、ヨウ化カリウムと同様にして、加熱による質量変化を測定した。
【0018】
図1の結果から、次のことが判った。ヨウ化カリウムは、室温から550℃の間で質量変化がない、すなわち、室温から550℃まで加熱しても質量がほぼ変わらない。ホウ酸は、室温から約170℃の間で質量が変化し且つ約170℃から550℃まで加熱しても質量がほぼ変わらない。ポリビニルアルコール系樹脂は、室温から約170℃の間で質量がほぼ変わらず且つ約170℃から約520℃の間で質量が変化し、約520℃で質量がほぼ零になる。
【0019】
ホウ酸は、加熱によって熱分解し、酸化ホウ素と水を生じる。反応式:2H
3BO
3→B
2O3+3H
2O。ホウ酸は、約170℃で酸化ホウ素と水に分解され、それ自身は消失する。酸化ホウ素と水は、ホウ酸に起因する化合物と言える。
図1のホウ酸のグラフは、ホウ酸とホウ酸から生じた酸化ホウ素及び水との合計質量の変化であり、水は蒸発するので、実質的には、ホウ酸と酸化ホウ素の合計質量の変化である。
図1のホウ酸のグラフは、正確に言うと、約170℃まではホウ酸と酸化ホウ素の合計質量の変化を表し、約170℃を超えると、酸化ホウ素の質量の変化を表している。なお、ホウ酸のグラフにおいて、約170℃を超えてからも質量が若干低下している理由は、約170℃を超えてからも残存したホウ酸の熱分解が継続し、それによって生じた水が蒸発しているためと考えられる。これは、予備的実験は連続して加熱したこと、昇温速度10℃/minという比較的速く昇温させたことが原因と考えられる。
ポリビニルアルコール系樹脂は、約520℃で質量がほぼ零になることから、加熱によって燃焼され、それ自身は消失する。
【0020】
図1のホウ酸のグラフを参照して、ホウ酸は、約170℃で消失し、約170℃から約520℃の間で、ホウ酸及び/又はホウ酸に起因する化合物が量的に変化しない化合物であると評価できる。
図1のポリビニルアルコール系樹脂のグラフを参照して、ポリビニルアルコール系樹脂は、室温から約170℃で量的に変化せず、約170℃から約520℃の間で消失する化合物であると評価できる。なお、ポリビニルアルコール系樹脂以外の炭素を含む化合物についても、ポリビニルアルコール系樹脂と同様に、室温から約170℃で量的に変化せず、約170℃から約520℃の間で消失すると推定される。
図1のヨウ化カリウムのグラフを参照して、ヨウ化カリウムは、室温から約520℃の間で量的に変化しない化合物であると評価できる。
ここで、本明細書において、「消失」は、化合物が無くなること、及び、化合物が化学的に変化して他の化合物に置き換わる結果、元の化合物が無くなること、を含む意味である。さらに、「消失」は、化合物が完全に消失する場合の他、化合物が微量に残存している場合を含む意味である。同様に、「量的に変化しない」、「質量が変わらない」などの質量が変わらないことを表す用語は、化合物の質量が全く変わらない場合の他、微量に変化する場合を含む意味である。すなわち、これらの用語は、化学的反応で許容される微差範囲を含む意味である。
【0021】
本発明者等は、上記予備的実験から、ヨウ化カリウムとホウ酸とポリビニルアルコール系樹脂の混合物の、ポリビニルアルコール系樹脂の含有量を簡易に推定できる方法を見出した。
具体的には、理論上で、ヨウ化カリウムとホウ酸とポリビニルアルコール系樹脂の混合物(ただし、それぞれの質量%は不明)を、所定量取り出す(この所定量の混合物を「混合物(1)」という)。前記混合物(1)を約170℃まで加熱した後、その質量を測定する(約170℃まで加熱した後の混合物を「混合物(2)」という)。さらに、前記混合物(2)を約520℃まで加熱した後、その質量を測定する(約520℃まで加熱した後の混合物を「混合物(3)」という。混合物(1)から混合物(2)になるまでの間、ヨウ化カリウムとポリビニルアルコール系樹脂の質量は変わらず、ホウ酸の質量が変化し、約170℃でホウ酸及びホウ酸に起因する化合物の質量は変わらない。混合物(2)から混合物(3)になるまでの間、ヨウ化カリウムとホウ酸及びホウ酸に起因する化合物の質量は変わらず、ポリビニルアルコール系樹脂の質量が変化し、約520℃でポリビニルアルコール系樹脂の質量が零になる。
よって、混合物(1)に含まれているポリビニルアルコール系樹脂の質量は、混合物(2)の質量-混合物(3)の質量、と推定できる。また、混合物(1)に含まれているポリビニルアルコール系樹脂の質量割合は、(混合物(2)の質量-混合物(3)の質量)/混合物(1)の質量、で求めることができる。
このような方法によれば、加熱した後の混合物の質量を2回測定するだけでポリビニルアルコール系樹脂の含有量を推定できるので非常に簡便であり、また、かかる方法はコスト的にも安価に行える。
【0022】
さらに、前記方法は、ヨウ化カリウム、ホウ酸及びポリビニルアルコール系樹脂に限られず、次の(a)乃至(c)を満たす化合物に広く適用できる。
(a)第1不純物(例えば上記ではホウ酸)は、室温(例えば23℃)から第1温度(例えば上記では約170℃)で消失し、第1温度から第2温度(例えば上記では約520℃)の間で、第1不純物及び/又は第1不純物に起因する化合物が量的に変化しない化合物であること。
(b)第2不純物(例えば上記ではポリビニルアルコール系樹脂)は、室温(例えば23℃)から第1温度で量的に変化せず、第1温度から第2温度の間で消失する化合物であること。
(c)有効成分(上記では例えばヨウ化カリウム)は、室温(例えば23℃)から第2温度で量的に変化しない化合物であること。
このような知見に基づいて、本発明者等は、様々な再生品の中のある不純物の含有量を簡便に推定できる方法を提供する。
【0023】
[再生品の不純物量の推定方法の概要]
本発明の推定方法は、偏光子の製造廃液から回収した再生品中の不純物量を推定する。その方法は、再生品を第1温度まで加熱して第1加熱品を得る第1加熱工程、前記第1加熱工程後の第1加熱品の質量を測定する第1質量取得工程、前記第1加熱品を前記第1温度を超える第2温度まで加熱して第2加熱品を得る第2加熱工程、前記第2加熱工程後の第2加熱品の質量を測定する第2質量取得工程、前記第1質量取得工程で得られた前記第1加熱品の質量と前記第2質量取得工程で得られた前記第2加熱品の質量とを差分して、前記再生品中に含まれる第2不純物の含有量を推定する工程、を有する。以下、再生品の不純物量の推定方法の説明において、各工程での再生品を用語上区別するために、第1加熱工程によって得られる再生品を「第1加熱品」といい、第2加熱工程によって得られる再生品を「第2加熱品」という。第1加熱品は、第1加熱工程の完了から第2加熱工程の完了直前までの再生品であり、第2加熱品は、第2加熱工程の完了後の再生品である。
【0024】
[推定方法の具体的な手順]
<前工程>
前工程は、所定量の再生品を取り出す工程である。
再生品は、有効成分と、第1不純物及び第2不純物を含む不純物と、を含んでいる。
廃液から得られる再生品は、その製造ロット毎にバラツキがあるが、数kg~数十kg程度のマススケールで提供される。
このようなマススケールの再生品から、所定量の再生品をサンプリングする。再生品の量が余りに多いと、後述する第1及び第2加熱工程で多くの熱量が必要となり、再生品の量が余りに少ないと、測定誤差が生じるおそれがある。かかる観点から、加熱する対象の再生品は、例えば、3g~100gであり、好ましくは、5g~30gである。
再生品は、標準状態下で固体であり、例えば結晶化している。前記標準状態は、23℃、1気圧、50%RHの状態をいう。なお、再生品を第1加熱工程で加熱処理すると、水分が蒸発するので、半固体或いは液体の再生品に本発明を適用することもできる。
【0025】
<第1加熱工程>
第1加熱工程は、前記所定量の再生品を第1温度まで加熱する工程である。第1加熱工程により、第1温度まで加熱した後の再生品である、第1加熱品が得られる。
詳しくは、第1加熱工程は、前記再生品を第1温度まで加熱して、前記再生品中の有効成分及び第2不純物の量を変えることなく、第1不純物を再生品中から消失させる工程である。第1温度まで加熱することにより、第1加熱品が得られる。また、第1加熱工程は、前記再生品の質量測定を行なうことなく、前記再生品を第1温度まで加熱する工程である。
【0026】
前記所定量の再生品を、耐熱性容器に入れ、従来公知の加熱炉を用いて加熱する。加熱炉の方式は、特に限定されず、高周波電圧加熱方式(誘電加熱方式)やマイクロ波加熱方式などの電気炉、ガス炉、オイル炉などが挙げられ、取り扱いが簡便であることから電気炉を用いることが好ましい。
前記加熱炉は、質量計測器を有するものでもよく、或いは、質量計測器を有さないものでもよい。安価に入手できることから、質量計測器を有さない加熱炉を用いることが好ましい。
【0027】
第1加熱工程の再生品の昇温速度は、特に限定されないが、余りに速いと、予期せぬ反応が起こり、測定誤差が生じるおそれがあり、余りに遅いと、第1加熱工程の実施時間が長くなりすぎる。かかる観点から、第1加熱工程の昇温速度は、1℃/min~6℃/minであることが好ましく、2℃/min~5℃/minであることがより好ましい。
前記第1温度は、再生品中の有効成分、第1不純物及び第2不純物の種類に応じて適宜設定される。第1温度は、有効成分及び第2不純物の量が変わらず且つ第1不純物が消失する温度で設定される。再生品中の水分の影響を無くす点から、第1温度は、100℃以上であることが好ましい。
【0028】
第1温度まで到達した時点で、加熱を終了してもよく、或いは、第1温度まで到達した後、その温度を所定時間保持してもよい。
上記[本発明の技術思想]の欄で説明したように、第1温度に達した後も第1不純物の消失が続く可能性があることから、第1温度まで到達した第1加熱品を、その温度で所定時間保持することが好ましい。前記第1温度に第1加熱品を保持する時間は、例えば、2時間~6時間であり、好ましくは、3時間~5時間である。この場合、前記保持した後の第1加熱品の質量を測定する。
【0029】
<第1質量取得工程>
第1質量取得工程は、前記第1温度まで加熱した後の第1加熱品の質量を測定する工程である。
第1加熱品の質量は、第1加熱品が第1温度になっている状態で測定してもよく、或いは、第1加熱品の温度を第1温度から低下させた後に測定してもよい。取り扱いに優れることから、第1加熱品の温度を第1温度から低下させた後に、第1加熱品の質量を測定することが好ましい。この場合の測定時の第1加熱品の温度は、特に限定されないが、作業者が耐熱性容器などに手で触れても熱く感じない程度の温度、例えば、0℃~50℃程度であり、好ましくは、10℃~40℃程度に低下させる。第1加熱品を第1温度から低下させる方式は、特に限定されず、自然放冷、送風機や冷却装置などを用いた強制冷却のいずれかが用いられる。
本発明によれば、室温下で(23℃)、第1加熱品の質量を測定することもでき、容易に測定作業を行なうことができる。
【0030】
<第2加熱工程>
第2加熱工程は、前記質量を測定した後の第1加熱品を第2温度まで加熱する工程である。第2加熱工程により、第2温度まで加熱した後の再生品である、第2加熱品が得られる。
詳しくは、第2加熱工程は、前記質量を測定した後の第1加熱品を第2温度まで加熱して、前記第1加熱品中の有効成分の量を変えることなく、第2不純物を前記第1加熱品中から消失させる工程である。また、第2加熱工程は、前記第1加熱品の質量測定を行なうことなく、前記第1加熱品を第2温度まで加熱する工程である。
【0031】
第2加熱工程は、上記<第1加熱工程>の欄と同様にして、耐熱性容器に入れた第1加熱品を、従来公知の加熱炉を用いて加熱する。
第2加熱工程の第1加熱品の昇温速度は、特に限定されないが、余りに速いと、予期せぬ反応が起こり、測定誤差が生じるおそれがあり、余りに遅いと、第2加熱工程の実施時間が長くなりすぎる。かかる観点から、第2加熱工程の昇温速度は、1℃/min~6℃/minであることが好ましく、2℃/min~5℃/minであることがより好ましい。
【0032】
前記第2温度は、第1温度を超える温度である(第2温度>第1温度)。
第2温度は、再生品中の有効成分及び第2不純物の種類に応じて適宜設定される。第2温度は、有効成分の量が変わらず且つ第2不純物が消失する温度で設定される。
【0033】
第2温度まで到達した時点で、加熱を終了してもよく、或いは、第2温度まで到達した後、その温度を所定時間保持してもよい。
第2温度に達した後も第2不純物の消失が続く可能性があることから、第2温度まで到達した第2加熱品を、その温度で所定時間保持することが好ましい。前記第2温度に第2加熱品を保持する時間は、例えば、2時間~6時間であり、好ましくは、3時間~5時間である。この場合、保持した後の第2加熱品の質量を測定する。
【0034】
<第2質量取得工程>
第2質量取得工程は、前記第2温度まで加熱した後の第2加熱品の質量を測定する工程である。
第2加熱品の質量は、第2加熱品が第2温度になっている状態で測定してもよく、或いは、第2加熱品の温度を第2温度から低下させた後に測定してもよい。取り扱いに優れることから、第2加熱品の温度を第2温度から低下させた後に、第2加熱品の質量を測定することが好ましい。この場合の測定時の第2加熱品の温度は、特に限定されないが、作業者が耐熱性容器などに手で触れても熱く感じない程度の温度、例えば、0℃~50℃程度であり、好ましくは、10℃~40℃程度に低下させる。第2加熱品を第2温度から低下させる方式は、特に限定されず、自然放冷、送風機や冷却装置などを用いた強制冷却のいずれかが用いられる。
【0035】
<推定工程>
第2加熱工程で得られた第2加熱品は、第1加熱品から実質的に第2不純物のみが除かれたものである。また、第1不純物は、第1温度に達すると消失し、第1温度から第2温度の間では第1不純物及び/又は第1不純物に起因する化合物の質量は変わらない。
このため、第1加熱品の質量から第2加熱品の質量を減算すると、再生品に含まれていた第2不純物の量を推定できる。
再生品中の第2不純物の質量=第1加熱品の質量-第2加熱品の質量。
上記前工程で、再生品(第1加熱工程前の再生品)の質量が特定されるので、当該再生品の第2不純物の質量割合を求めることができる。
再生品の第2不純物の質量割合(質量%)=(第2不純物の質量/再生品の質量)×100。
第2不純物の質量割合を推定した結果から、再生品の再利用の可否を判断できる。例えば、第2不純物が、ポリビニルアルコール系樹脂などの炭素を含む化合物である場合、第2不純物の含有量の閾値を0.5質量%として、それ未満の再生品を、偏光子の製造に再利用することができる。
【0036】
図2は、本発明の推定方法の好ましい1つのフローを示す。
図2を参照して、本発明の推定方法は、時系列を追って、所定量の再生品を秤量する前工程a、前記再生品を第1温度にまで加熱することによって第1加熱品とする第1加熱工程b、前記第1加熱品の温度を下げる第1降温工程c、前記第1加熱品を秤量する第1質量取得工程d、前記第1加熱品を第2温度にまで加熱することによって第2加熱品とする第2加熱工程e、前記第2加熱品の温度を下げる第2降温工程f、前記第2加熱品を秤量する第2質量取得工程g、第1加熱品の質量と第2加熱品の質量とから再生品に含まれていた第2不純物の量を推定する推定工程h、を順に有する。
【0037】
[本発明の推定方法の効果]
本発明の方法によれば、再生品を加熱して秤量を2回行なうことにより、再生品に含まれる第2不純物の量を推定できる。再生品を連続的に加熱しながら所定時間毎に秤量する方式を実施するには、比較的高額な試験装置を用いる必要がある。
本発明の方法は、第1及び第2不純物の種類がそれぞれ判っているが第2不純物の含有量が不明な再生品の、第2不純物の含有量を推定できる。本発明の方法は、加熱炉と質量計測器を容易すれば実施できるので、簡易に行なうことができる。さらに、本発明の方法は、第1温度に昇温させた第1加熱品を、例えば、室温下に冷却して質量を測定することもでき、作業者の手作業でも容易に実施することができる。また、本発明の方法は、僅かな量の再生品をサンプリングして実施できる。
【実施例0038】
以下、実施例及び比較例を説明し、本発明を更に詳述する。但し、本発明は、下記実施例に限定されるものではない。
【0039】
[再生品の準備]
湿式処理法による偏光子の製造廃液から得られた再生品(以下、この再生品を「再生品A」という)を準備した。前記再生品Aは、ヨウ化カリウムを有効成分とする。前記再生品Aの原料及びその製造過程から、前記再生品Aには、ホウ酸(第1不純物)及びポリビニルアルコール系樹脂(第2不純物)が含まれ、これら以外の不純物も含まれていることが判っている。ただし、ホウ酸及びポリビニルアルコール系樹脂の具体的な含有量は、不明である。
この再生品Aに含まれる不純物の量を特定するため、精密な成分分析を行なった。
前記成分分析は、ホウ酸などの無機物に対する分析法としてICP-AES(高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法)を、ポリビニルアルコール系樹脂などの有機物に対する分析法としてTOC測定(TC-IC法)を行なった。
成分分析の結果、再生品Aに含まれるホウ酸の含有量は、0.3質量%であり、ポリビニルアルコール系樹脂の含有量は、0.22質量%であり、これら以外の不純物の含有量は、0.05質量%であった。なお、ポリビニルアルコール系樹脂の含有量は、TOC測定で得られたC元素濃度の値を、計算により、ポリビニルアルコール系樹脂に対応するC元素、H元素及びO元素を含む値に換算した。
【0040】
[実施例1]
再生品Aを10.000g秤量し、これを測定用のサンプルとした。前記サンプルを耐熱皿に載せ、これを市販の電気炉(アズワン株式会社製の商品名「NMF-2」)を用いて昇温速度2℃/minで、170℃(第1温度)まで昇温させた。170℃になったところでその温度を4時間保持した後、加熱を止めて室温(23℃)下で4時間放置した。放置後、170℃加熱後のサンプルである第1加熱品の質量を、市販の電子天秤(アズワン株式会社製の商品名「ASR423/E」)を用いて測定したところ、9.916gであった。
引き続き、前記第1加熱品を前記電気炉を用いて、昇温速度2℃/minで、520℃(第2温度)まで昇温させた。520℃になったところでその温度を4時間保持した後、加熱を止めて室温(23℃)下で4時間放置した。放置後、520℃加熱後のサンプルである第2加熱品の質量を測定したところ、9.895gであった。第1加熱品の質量-第2加熱品の質量=0.021gであった。
この結果から、再生品Aのポリビニルアルコール系樹脂の含有量は、0.021gで、当該樹脂は、0.21質量%含まれていると推定した。
【0041】
[実施例2]
170℃まで加熱し、その温度を2時間保持したこと、及び、520℃まで加熱し、その温度を2時間保持したこと以外は、実施例1と同様にした。
その結果、170℃加熱後の第1加熱品の質量は、9.951gで、520℃加熱後の第2加熱品の質量は、9.934gであった。第1加熱品の質量-第2加熱品の質量=0.017gであった。この結果から、実施例2の方法では、再生品Aのポリビニルアルコール系樹脂の含有量は、0.017gで、当該樹脂は、0.17質量%含まれていると推定した。
【0042】
[実施例3]
170℃まで加熱して4時間保持した後、放置することなく直ちに第1加熱品の質量を測定したこと、及び、520℃まで加熱して4時間保持した後、放置することなく直ちに第2加熱品の質量を測定したこと以外は、実施例1と同様にした。
その結果、170℃加熱後の第1加熱品の質量は、9.929gで、520℃加熱後の第2加熱品の質量は、9.919gであった。第1加熱品の質量-第2加熱品の質量=0.010gであった。この結果から、実施例3の方法では、再生品Aのポリビニルアルコール系樹脂の含有量は、0.010gで、当該樹脂は、0.10質量%含まれていると推定した。
【0043】
[実施例4]
170℃まで加熱する際の昇温速度を8℃/minとしたこと、及び、520℃まで加熱する際の昇温速度を8℃/minとしたこと以外は、実施例1と同様にした。
その結果、170℃加熱後の第1加熱品の質量は、9.891gで、520℃加熱後の第2加熱品の質量は、9.859gであった。第1加熱品の質量-第2加熱品の質量=0.032gであった。この結果から、実施例4の方法では、再生品Aのポリビニルアルコール系樹脂の含有量は、0.032gで、当該樹脂は、0.32質量%含まれていると推定した。
【0044】
[比較例]
再生品Aを10.000g秤量し、これを測定用のサンプルとした。前記サンプルを耐熱皿に載せ、市販の電気炉(アズワン株式会社製の商品名「NMF-2」)を用いて昇温速度2℃/minで、520℃まで昇温させた。520℃になった時点で、加熱を止め、室温(23℃)下で4時間放置した。放置後のサンプルの質量を測定したところ、9.895gであった。この場合、再生品Aの質量-加熱後のサンプルの質量=0.105gであった。
この結果から、再生品Aのポリビニルアルコール系樹脂の含有量は、0.105gで、当該樹脂は、1.05質量%含まれていると推定した。
【0045】
[評価]
表1において、実施例及び比較例の結果を纏めると共に、再生品Aのポリビニルアルコール系樹脂の含有量を併せて併記している。
表1に示す通り、実施例1乃至4の方法によって推定されたポリビニルアルコール系樹脂の含有量は、再生品Aの成分分析で得られたポリビニルアルコール系樹脂の含有量に近似している。実施例の方法は、少量の再生品を加熱し、質量を2度測定するという簡便な方法でありながら、再生品Aに含まれるポリビニルアルコール系樹脂の含有量を比較的正確に推定できることが判る。
実施例1乃至4の推定値(含有量)を比較すると、実施例1の方法によって得られた推定値が分析値(含有量)に最も近かった。
実施例2は、実施例1と比して、加熱した後に温度を保持する時間が短い。このため、実施例2の方法では、170℃でホウ酸の全てが分解せず、170℃から520℃に加熱している間でもホウ酸の熱分解が継続していたと考えられる。これが、実施例1の方が良好な結果を得た要因と考えられる。
実施例3は、実施例1と比して、加熱後に温度を低下させることを行なわない。実施例1などでは、温度を低下させている間に熱分解が起こっていると考えられるところ、降温させない実施例3では、その間の熱分解反応が起こらないため、未反応不純物が存在した可能性がある。また、質量測定に使用した電子天秤は、一般に測定対象物が高温であるほど測定誤差が大きくなる傾向にある。これらが、実施例1の方が良好な結果を得た要因と考えられる。
実施例4は、実施例1と比して、昇温速度が速い。このため、複数の反応が同時に起こることによって局所的に高温部分が発生し、反応してほしくないヨウ化カリウムなどが反応してしまっていたと考えられる。これが、実施例1の方が良好な結果を得た要因と考えられる。
なお、再生品Aには、ホウ酸及びポリビニルアルコール系樹脂以外の不純物が少量含まれている。この点、実施例1などの方法によって再生品Aに含まれていたポリビニルアルコール系樹脂の含有量を比較的正確に推定できたことから、再生品Aに含まれていたホウ酸及びポリビニルアルコール系樹脂以外の不純物は、520℃(第2温度)までの加熱で分解しないものであると考えられる。また、当該不純物はホウ酸などに比して少量であるため、仮に加熱中にその一部又は全量が分解したとしても、ポリビニルアルコール系樹脂の含有量の推定に殆ど影響を与えないとも考えられる。
【0046】
前記第1加熱工程によって第1温度まで加熱し、その温度を3時間~5時間の間保った後に、前記第1質量取得工程を行なう、請求項1に記載の再生品の不純物量の推定方法。
前記第2加熱工程によって第2温度まで加熱し、その温度を3時間~5時間の間保った後に、前記第2質量取得工程を行なう、請求項1に記載の再生品の不純物量の推定方法。