(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024135561
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】押出機
(51)【国際特許分類】
B29C 48/96 20190101AFI20240927BHJP
B29C 48/80 20190101ALI20240927BHJP
B29C 48/92 20190101ALI20240927BHJP
B29B 7/58 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
B29C48/96
B29C48/80
B29C48/92
B29B7/58
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023046315
(22)【出願日】2023-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000004215
【氏名又は名称】株式会社日本製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】馬場 貴之
(72)【発明者】
【氏名】上田 能貴
【テーマコード(参考)】
4F201
4F207
【Fターム(参考)】
4F201AJ08
4F201AM04
4F201AM10
4F201AP08
4F201AR05
4F201AR06
4F201BA01
4F201BC02
4F201BD05
4F201BK02
4F201BK13
4F201BK26
4F201BK77
4F207AJ08
4F207AM04
4F207AM10
4F207AP05
4F207AP08
4F207AR06
4F207KA01
4F207KA17
4F207KM04
4F207KM14
4F207KM20
(57)【要約】
【課題】故障の発生を抑制することができる押出機を提供する。
【解決手段】一実施の形態に係る押出機1は、所定の安全温度T1を記憶した記憶部180と、シリンダ100の実測温度PVが設定温度SVになるようにシリンダ100の加熱または加熱冷却を制御する制御部190と、を備え、制御部190は、シリンダ100の内部で材料133を回転させ、混練及び溶解により状態を変化させるスクリュ130の回転が停止した場合の設定温度SVとして安全温度T1を設定する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の安全温度を記憶した記憶部と、
シリンダの実測温度が設定温度になるように前記シリンダの加熱又は加熱冷却を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記シリンダの内部で材料を回転させ、混練及び溶解により状態を変化させるスクリュの回転が停止した場合及び前記シリンダへの前記材料の供給が停止した場合の少なくともいずれかの前記設定温度として前記安全温度を設定する、
を備えた押出機。
【請求項2】
前記記憶部は、前記スクリュの前記回転が停止する前であって、前記スクリュの前記回転を開始させた時の前記設定温度を前記安全温度として記憶する、
請求項1に記載の押出機。
【請求項3】
前記記憶部は、前記シリンダへの前記材料の前記供給が停止する前であって、前記シリンダへの前記材料の前記供給を開始させた時の前記設定温度を前記安全温度として記憶する、
請求項1に記載の押出機。
【請求項4】
前記記憶部は、予め設定した温度を、手動で前記安全温度として記憶する、
請求項1に記載の押出機。
【請求項5】
前記制御部は、前記スクリュの前記回転を開始させる前において、前記実測温度が前記設定温度に達した場合に前記スクリュの回転を開始させる、
請求項2に記載の押出機。
【請求項6】
前記制御部は、前記シリンダへの前記材料の前記供給を開始させる前において、前記実測温度が前記設定温度に達した場合に前記シリンダへの前記材料の前記供給を開始させる、
請求項3に記載の押出機。
【請求項7】
前記スクリュの回転中に前記設定温度を手動で、または、あらかじめ自動的に変化するように設定したシークエンスで前記安全温度と異なる変更温度に変更させる変更手段をさらに備えた、
請求項1に記載の押出機。
【請求項8】
前記変更温度は、前記材料の融点よりも低い温度であり、
前記安全温度は、前記材料の融点以上の温度である、
請求項7に記載の押出機。
【請求項9】
前記変更温度は、前記シリンダの運転開始時よりも低い温度であり、
前記安全温度は、前記材料の運転中よりも高い温度である、
請求項7に記載の押出機。
【請求項10】
前記変更温度は、前記材料の劣化または熱分解が発生する温度であり、
前記安全温度は、前記材料の劣化または熱分解が発生しない温度であって、前記変更温度よりも低い温度である、
請求項7に記載の押出機。
【請求項11】
前記制御部は、
前記スクリュの前記回転が停止した場合の前記シリンダの前記内部に残留した前記材料の量を取得し、
取得した前記材料の前記量に基づいて、前記設定温度を前記安全温度に設定する、
請求項1に記載の押出機。
【請求項12】
前記制御部は、
前記シリンダへの前記材料の前記供給が停止した場合の前記シリンダの前記内部に残留した前記材料の量を取得し、
取得した前記材料の前記量に基づいて、前記設定温度を前記安全温度に設定する、
請求項1に記載の押出機。
【請求項13】
前記制御部は、
前記スクリュの前記回転が停止した場合の前記シリンダの前記内部に残留した前記材料の位置を取得し、
取得した前記材料の前記位置に基づいて、前記設定温度を前記安全温度に設定する、
請求項1に記載の押出機。
【請求項14】
前記制御部は、
前記シリンダへ前記材料の前記供給が停止した場合の前記シリンダの前記内部に残留した前記材料の位置を取得し、
取得した前記材料の前記位置に基づいて、前記設定温度を前記安全温度に設定する、
請求項1に記載の押出機。
【請求項15】
前記制御部は、前記スクリュの回転が停止したときの前記シリンダの前記実測温度が前記安全温度よりも低い場合に前記設定温度として前記安全温度を設定する、
請求項1に記載の押出機。
【請求項16】
前記制御部は、前記シリンダへの前記材料の前記供給が停止したときの前記シリンダの前記実測温度が前記安全温度よりも低い場合に前記設定温度として前記安全温度を設定する、
請求項1に記載の押出機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、押出機に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ヒータを備えた押出機が記載されている。特許文献1の押出機は、シリンダの実測温度が設定温度になるように加熱して樹脂等の材料を混練するとともに、押し出す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
押出機のスクリュの回転を開始させた後に、シリンダの設定温度を下げることがある。例えば、材料のせん断発熱が加わることでシリンダの内部における材料の温度が上昇するため、シリンダの設定温度を材料の融点以下に下げる場合がある。設定温度を融点以下に下げた状態で、スクリュの回転を停止させた場合に、スクリュを再度回転させる時の材料の温度を上げることを忘れ、材料の温度が融点以下に低下している場合がある。そうすると、スクリュを回転させようとした場合、スクリュが未溶融の樹脂等によりロックされ、押出機の故障につながるリスクが有る。
【0005】
その他の課題と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一実施の形態にかかる押出機は、所定の安全温度を記憶した記憶部と、シリンダの実測温度が設定温度になるように前記シリンダの加熱又は加熱冷却を制御する制御部と、を備え、前記制御部は、前記シリンダの内部で材料を回転させ、混練及び溶解により状態を変化させるスクリュの回転が停止した場合及び前記シリンダへの前記材料の供給が停止した場合の少なくともいずれかの前記設定温度として前記安全温度を設定する。
【発明の効果】
【0007】
前記一実施の形態によれば、故障の発生を抑制することができる押出機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態1に係る押出機を例示した全体外形図である。
【
図2】実施形態1に係る押出機において、シリンダブロックの断面図であり、
図1のII-II線の断面を示す。
【
図3】比較例に係る押出機の制御方法において、設定温度及び実測温度を例示したグラフであり、横軸は時間を示し、縦軸は、温度を示す。
【
図4】実施形態1に係る押出機の制御方法を例示したフローチャート図である。
【
図5】実施形態1の別の例に係る押出機の制御方法を例示したフローチャート図である。
【
図6】実施形態1の別の例に係る押出機の制御方法において、設定温度及び実測温度を例示したグラフであり、横軸は時間を示し、縦軸は、温度を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
説明の明確化のため、以下の記載及び図面は、適宜、省略、及び簡略化がなされている。また、各図面において、同一の要素には同一の符号が付されており、必要に応じて重複説明は省略されている。
【0010】
(実施形態1)
実施形態1に係る押出機を説明する。
図1は、実施形態1に係る押出機を例示した全体外形図である。
図2は、実施形態1に係る押出機において、シリンダブロックの断面図であり、
図1のII-II線の断面を示す。以下、二軸押出機を例に説明するが押出機は単軸押出機であっても良いし、射出成形機であっても同等な効果が得られる。
【0011】
図1及び
図2に示すように、押出機1は、シリンダ100、記憶部180、制御部190及び変更手段200を備えている。シリンダ100は、複数のシリンダブロック111~117、及び、複数のヒータ121~122を備えている。複数のシリンダブロック111~117を総称してシリンダブロック110と呼ぶ。複数のヒータ121~122を総称してヒータ120と呼ぶ。
【0012】
なお、
図1には、7個のシリンダブロック111~117が示されているが、シリンダブロック110の個数は、7個に限らない。シリンダ100は、例えば、上流側より供給・輸送ゾーン、溶融・混練ゾーン及び押出ゾーンを含んでもよい。各シリンダブロック110は、供給・輸送ゾーン、溶融・混練ゾーン及び押出ゾーンのいずれかに属してもよい。1つのゾーンに複数のシリンダブロック110が属してもよい。
【0013】
図2には、シリンダブロック112に配置された2個のヒータ121~122が示されているが、1個のシリンダブロック110に配置されるヒータ120の個数は、2個に限らない。また、シリンダブロック112以外のシリンダブロック110にもヒータ120は配置されてもよい。
【0014】
シリンダ100は、スクリュ130、駆動機131及びフィーダ132をさらに備えてもよい。スクリュ130は、一方向に並んで接続された複数のシリンダブロック110の内部に形成された空洞内に配置されている。つまり、シリンダ100は、複数のシリンダブロック110をフランジ及びタイバー等により接続して形成された円筒状の内部にスクリュ130を組み込んだ構成となっている。シリンダブロック110は、2本のスクリュ130を収納可能なように、2つの円弧が連通した断面形状のスクリュ収納部を有している。
【0015】
2本のスクリュ130は、互いに噛合うように収納されており、駆動機131にて同方向に回転駆動がなされる。スクリュ130は、二軸押出機1の上流側より供給・輸送ゾーン、溶融・混練ゾーン、押出ゾーンからなり、各目的によりゾーン毎にスクリュ構成が異なってもよい。
【0016】
フィーダ132は、シリンダ100の空洞内に材料133を供給する。なお、図面において、フィーダ132は簡略させて示している。材料133は、例えば、樹脂を含む。なお、材料133は、シリンダ100の空洞内で混練され、シリンダ100から押し出されるものであれば、樹脂を含むものに限らない。フィーダ132から供給された材料133は、スクリュ130の回転により、押出機1の上流側から下流側へ移動する。スクリュ130は、シリンダ100の空洞内で材料133を混練する。
【0017】
記憶部180は、制御部190と情報伝達可能な状態で接続されている。記憶部180は、所定の安全温度を記憶する。安全温度は、スクリュ130を安全に回転させることができる温度を含む。安全温度は、例えば、材料133の融点以上の温度である。なお、安全温度は、スクリュ130を安全に回転させることができる温度であれば、材料133の融点以上の温度に限らない。記憶部180は、スクリュ130の回転を開始させた時のシリンダ100の設定温度を安全温度として記憶してもよい。記憶部180は、予め設定した温度を、手動で、安全温度として記憶してもよい。
【0018】
制御部190は、記憶部180と情報伝達可能な状態で接続されている。制御部190は、記憶部180に安全温度を記憶させる。
【0019】
制御部190は、シリンダ100と情報伝達可能な状態で接続されている。制御部190は、シリンダ100の設定温度を設定する。制御部190は、シリンダ100の実測温度が設定温度になるようにシリンダ100を加熱するヒータ120の出力を制御する。これにより、ヒータ120は、シリンダ100の実測温度が設定温度になるようにシリンダ100を加熱する。また、制御部190は、シリンダ100を冷却する冷却機能を制御してもよい。冷却機能は、例えば、冷媒及び冷風等であるが、シリンダ100を冷却することができれば、これらに限らない。このように、制御部190は、シリンダ100の実測温度が設定温度になるように、シリンダ100の加熱又は加熱冷却を制御する。
【0020】
制御部190は、駆動機131と情報伝達可能な状態で接続されてもよい。制御部190は、スクリュ130を回転させる駆動機131の動作を制御してもよい。例えば、制御部190は、スクリュ130の回転を開始させる前において、実測温度が設定温度に達した場合にスクリュ130の回転を開始させてもよい。また、制御部190は、スクリュ130の回転状態を検出してもよい。制御部190は、シリンダ100の内部で材料133を回転させ、混練及び溶解等により状態を変化させるスクリュ130の回転が停止した場合のシリンダ100の設定温度として安全温度を設定する。なお、材料133の状態の変化は、材料133の混練及び溶解の少なくともいずれかを含む。また、制御部190は、シリンダ100への材料133の供給が停止した場合のシリンダ100の設定温度として安全温度を設定してもよい。制御部190は、スクリュ130の回転が停止した場合及びシリンダ100への材料133の供給が停止した場合の少なくともいずれかの設定温度として安全温度を設定してもよい。
【0021】
制御部190は、シリンダ100の内部に残留した材料133の量を取得してもよい。例えば、制御部190は、シリンダ100に配置されたセンサ等により、残留した材料133の量を取得してもよいし、フィーダ132から供給された材料133の量と、押し出された材料133の量との差分から、残留した材料133の量を取得してもよい。
【0022】
制御部190は、スクリュ130の回転が停止した場合のシリンダ100の内部に残留した材料133の量を取得する。そして、制御部190は、取得した材料133の量に基づいて、設定温度を安全温度に設定する。例えば、スクリュ130の回転が停止した場合にシリンダ100の内部に残留した材料133の量が所定の閾値よりも大きい場合には、制御部190は、設定温度を安全温度に設定する。これにより、残留した材料133の固化を抑制し、故障の発生を抑制することができる。また、残留した材料133の量が所定の閾値以下の場合には、設定温度を安全温度に設定しない。これにより、空焚き等を抑制し、故障の発生を抑制することができる。なお、制御部190は、シリンダ100への材料133の供給が停止した場合にも、スクリュ130の回転が停止した場合と同様の処理を行ってもよい。また、以下の明細書中において、制御部190は、スクリュ130の回転が停止した場合に行う処理を、シリンダ100への材料133の供給が停止した場合にも適宜行ってもよい。また、以下の明細書中において、停止させたスクリュ130の回転を開始させることを、停止させたシリンダ100への材料133の供給を開始させることに置き換えてもよい。
【0023】
制御部190は、シリンダ100の内部に残留した材料133の位置を取得してもよい。例えば、制御部190は、シリンダ100に配置されたセンサ等により、残留した材料133の位置を取得してもよいし、スクリュ130の回転から算出された材料133の移動速度から、残留する材料133の位置を取得してもよい。
【0024】
制御部190は、スクリュ130の回転が停止した場合のシリンダ100の内部に残留した材料133の位置を取得する。そして、制御部190は、取得した材料133の位置に基づいて、設定温度を安全温度に設定する。例えば、スクリュ130の回転が停止した場合にシリンダ100の内部に残留した材料133の位置が、シリンダ100の中央等の所定の位置の場合には、制御部190は、設定温度を安全温度に設定する。これにより、残留した材料133の固化を抑制し、故障の発生を抑制することができる。また、残留した材料133の位置が、シリンダ100の端部等の所定の位置の場合には、設定温度を安全温度に設定しない。これにより、空焚き等を抑制し、故障の発生を抑制することができる。
【0025】
制御部190は、スクリュ130の回転が停止したときのシリンダ100の実測温度が安全温度よりも低い場合に設定温度として安全温度を設定する。つまり、制御部190は、スクリュ130の回転が停止したときのシリンダ100の実測温度が安全温度よりも高い場合には、設定温度として安全温度を設定しなくてもよい。このように制御することにより、シリンダ100の内部に残留する材料133が固化する場合のみ安全温度に設定するので、余分な電力の消費を抑制することができる。
【0026】
変更手段200は、設定温度を手動で変更させる手段である。変更手段200は、例えば、制御部190におけるキーボード及びマウス等の入力装置でもよい。変更手段200は、例えば、オペレータ等の作業者により、設定温度を手動で安全温度と異なる変更温度に変更させる。なお、スクリュ130の回転中に設定温度をあらかじめ自動的に変化するように設定したシークエンスで安全温度と異なる変更温度に変更させてもよい。変更温度は、例えば、材料133の融点よりも低い温度である。具体的には、変更温度は、例えば、材料133の融点よりも低く、室温以上の温度である。安全温度は、具体的には、材料133の融点以上であり、押出機1の使用上限温度以下の温度である。例えば、スクリュ130の回転中に、材料133のせん断発熱が加わることでシリンダ100の内部の温度が上昇した場合に、オペレータは、変更手段200により、設定温度を手動で変更温度に変更させる。なお、変更温度は、シリンダ100の運転開始時よりも低い温度であり、安全温度は、材料133の運転中よりも高い温度でもよい。また、変更温度は、材料133の劣化または熱分解が発生する温度であり、安全温度は、材料133の劣化または熱分解が発生しない温度であって、変更温度よりも低い温度でもよい。
【0027】
次に、本実施形態の押出機1の制御方法を説明する前に、比較例に係る押出機1の制御方法を説明する。
図3は、比較例に係る押出機1の制御方法において、設定温度及び実測温度を例示したグラフであり、横軸は時間を示し、縦軸は、温度を示す。
【0028】
図3に示すように、比較例において、まず、シリンダ100の実測温度PVがシリンダ100の設定温度SVに達した場合に、スクリュ130の回転を開始させる。具体的には、制御部190は、シリンダ100の実測温度PVが設定温度SVに達した場合に、駆動機131におけるモータ等を起動させることにより、スクリュ130の回転を開始させる。設定温度SVは、例えば、安全温度T1である。材料133の温度は、例えば、実測温度PVと同じ温度である。
【0029】
次に、時間t=Iにおいて、例えば、オペレータは、運転時の設定温度SVを手動で変更温度T2に変更する。例えば、材料133のせん断発熱が加わることで、材料133の温度が上昇するため、シリンダ100の設定温度SVを材料133の融点Tm以下に下げる。そうすると、実測温度PVは、設定温度SVに追随するように変化する。変更温度T2が安全温度T1よりも低い場合には、実測温度PVは、低下する。
【0030】
次に、時間t=IIにおいて、設定温度SVを変更温度T2にしたままで、モータ等を停止させることにより、スクリュ130の回転を停止させる。設定温度SVを材料133の融点Tm以下に下げた状態で、スクリュ130の回転を停止させた場合に、スクリュ130を再度回転させる時の材料133の温度を融点Tm以上に上げることを忘れる場合がある。そうすると、比較例の押出機1の制御方法では、融点Tm以下のシリンダ100の実測温度PVの状態が保持されるため、樹脂等の材料133が固化し、スクリュ130がロックし、押出機1が故障してしまう。
【0031】
次に、本実施形態の押出機1の制御方法を説明する。
図4は、実施形態1に係る押出機1の制御方法を例示したフローチャート図である。
図4のステップS11に示すように、所定の安全温度T1を記憶部180に記憶させる。具体的には、制御部190は、ステップS11において、スクリュ130の回転が停止する時間t=IIよりも前であって、スクリュ130の回転を開始させた時間t=Iの時のシリンダ100の設定温度SVを安全温度T1として記憶部180に記憶させる。
【0032】
次に、ステップS12に示すように、シリンダ100の実測温度PVが設定温度SVになるように、シリンダ100の加熱又は加熱冷却を制御する。
【0033】
次に、ステップS13に示すように、シリンダ100の内部で材料133を回転させるスクリュ130の回転が停止した場合の設定温度SVとして安全温度T1を設定する。このように、本実施形態では、制御部190は、スクリュ130の回転が停止した場合に、設定温度SVを安全温度T1に設定するので、樹脂等の材料133の固化を抑制し、スクリュ130の回転のロックを低減することができる。よって、押出機1の故障の発生を抑制することができる。
【0034】
なお、ステップS13において、制御部190は、スクリュ130の回転が停止した場合のシリンダ100の内部に残留した材料133の量を取得してもよい。そして、制御部190は、取得した材料133の量に基づいて、設定温度SVを安全温度T1に設定してもよい。また、ステップS13において、制御部190は、スクリュ130の回転が停止した場合のシリンダ100の内部に残留した材料133の位置を取得してもよい。そして、制御部190は、取得した材料133の位置に基づいて、設定温度SVを安全温度T1に設定してもよい。
【0035】
さらに、本実施形態の押出機1の制御方法を、比較例と対比させて説明する。
図5は、実施形態1の別の例に係る押出機1の制御方法を例示したフローチャート図である。
図6は、実施形態1の別の例に係る押出機1の制御方法において、設定温度及び実測温度を例示したグラフであり、横軸は時間を示し、縦軸は、温度を示す。
【0036】
図5のステップS10及び
図6に示すように、シリンダ100の実測温度PVが設定温度SVに達した場合にスクリュ130の回転を開始させる。具体的には、制御部190は、スクリュ130の回転を開始させる前において、実測温度PVが設定温度SVに達した場合にスクリュ130の回転を開始させる。なお、ステップS10より前に、シリンダ100の実測温度PVが設定温度SVになるようにシリンダ100の加熱又は加熱冷却を制御するステップがあってもよい。
【0037】
次に、ステップS11に示すように、
図4のステップS11と同様に、安全温度T1を記憶部180に記憶させる。
【0038】
次に、ステップS11aに示すように、時間t=Iにおいて、例えば、オペレータは、スクリュ130の回転中に設定温度SVを手動で変更温度T2に変更させる。なお、スクリュ130の回転中に設定温度SVを、あらかじめ自動的に変化するように設定したシークエンスで変更温度T2に変更させてもよい。
【0039】
次に、ステップS12及びステップS13を実行する。ステップS12及びステップS13は、
図4のステップS12及びステップS13と同様である。すなわち、
図6に示すように、制御部190は、シリンダ100の実測温度PVが設定温度SV(変更温度T2)になるようにシリンダ100の加熱又は加熱冷却を制御する。そして、シリンダ100の内部で材料133を回転させ、混練及び溶解等により状態を変化させるスクリュ130の回転が停止した場合に、制御部190は、設定温度SVとして安全温度T1を設定する。これにより、制御部190は、実測温度PVが設定温度SV(安全温度T1)に追随するようにヒータ120の出力を制御する。よって、実測温度PVは安全温度T1まで上昇する。なお、材料133の状態の変化は、材料133の混練及び溶融の少なくともいずれかを含む。
【0040】
次に、本実施形態の効果を説明する。本実施形態の押出機1の記憶部180は、安全温度T1を記憶する。そして、スクリュ130を回転させる運転中に、オペレータが設定温度SVを下げても、押出機1が停止した時に、制御部190は、設定温度として自動的に記憶部180に記憶させた安全温度を設定する。よって、オペレータによる設定温度SVの戻し忘れがあっても、シリンダ100の内部に残留した材料133の固化を抑制し、押出機1の故障の発生を抑制することができる。
【0041】
例えば、記憶部180は、スクリュ130を回転させる駆動機131が起動したタイミングで、安全温度として設定温度を記憶してもよい。これにより、スクリュ130が回転する際の材料133の温度を安全温度として記憶することができ、押出機1の故障の発生を抑制することができる。例えば、安全温度を、材料133の融点以上の温度とすることにより、シリンダ100の内部に残留した材料133の固化を抑制することができる。
【0042】
時間t=IIにおけるスクリュ130の停止は、オペレータによる意図的な停止でもよいし、押出機1の異常発生によるものでもよい。このような場合でも、シリンダ100の内部に残留した材料133の固化を抑制することができる。なお、あらかじめプログラムされた熱処理シークエンスにおいて、スクリュ130の回転が停止した場合の設定温度が安全温度よりも低い場合に、本実施形態を適用させてもよい。
【0043】
なお、本開示は、上記実施形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
【0044】
実施形態1及び比較例の各構成を組み合わせたものも、本実施形態の技術的思想の範囲に含まれる。また、押出機1の制御方法をコンピュータに実行させる制御プログラムも、本実施形態の技術的思想の範囲に含まれる。
【0045】
本実施形態の制御部190は、上述したように、PC、サーバ等の情報処理装置でもよい。情報処理装置は、プロセッサ、メモリ及び記憶装置を備えてもよい。記憶装置は、制御部190の各構成が行う処理をプログラムにして記憶してもよい。また、プロセッサは、記憶装置からプログラムをメモリへ読み込ませ、当該プログラムを実行してもよい。これにより、プロセッサは、制御部190における各機能を実現する。情報処理装置は、制御方法に対応するプログラムを、メモリ及び記憶装置を参照しながらプロセッサが実行することによって、制御部190の機能を実現してもよい。
【0046】
制御部190が有する各構成は、それぞれが専用のハードウェアで実現されてもよい。また、各構成要素の一部又は全部は、汎用または専用の回路(Circuitry)、プロセッサ等やこれらの組合せによって実現されてもよい。これらは、単一のチップによって構成されてもよいし、バスを介して接続される複数のチップによって構成されてもよい。各構成要素の一部又は全部は、上述した回路等とプログラムとの組合せによって実現されてもよい。また、プロセッサPRCとして、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、FPGA(Field-programmable Gate Array)、量子プロセッサ(量子コンピュータ制御チップ)等を用いることができる。
【0047】
また、制御部190の各構成要素の一部または全部が複数の情報処理装置や回路等により実現される場合には、複数の情報処理装置や回路等は、集中配置されてもよいし、分散配置されてもよい。例えば、情報処理装置や回路等は、クライアントサーバシステム、クラウドコンピューティングシステム等により、各々が通信ネットワークを介して接続される形態として実現されてもよい。また、制御部190の機能がSaaS(Software as a Service)形式で提供されてもよい。
【0048】
プログラムは、コンピュータを含む制御部190等に読み込まれた場合に、実施形態で説明された1又はそれ以上の機能をコンピュータに行わせるための命令群(又はソフトウェアコード)を含む。プログラムは、非一時的なコンピュータ可読媒体又は実体のある記憶媒体に格納されてもよい。限定ではなく例として、コンピュータ可読媒体又は実体のある記憶媒体は、random-access memory(RAM)、read-only memory(ROM)、フラッシュメモリ、solid-state drive(SSD)又はその他のメモリ技術、CD-ROM、digital versatile disc(DVD)、Blu-ray(登録商標)ディスク又はその他の光ディスクストレージ、磁気カセット、磁気テープ、磁気ディスクストレージ又はその他の磁気ストレージデバイスを含む。プログラムは、一時的なコンピュータ可読媒体又は通信媒体上で送信されてもよい。限定ではなく例として、一時的なコンピュータ可読媒体又は通信媒体は、電気的、光学的、音響的、またはその他の形式の伝搬信号を含む。
【0049】
以下に示す押出機1の制御方法及び押出機1の制御プログラムも本実施形態の技術的思想の範囲に含まれる。
【0050】
(付記1)
所定の安全温度を記憶部に記憶させるステップと、
シリンダの実測温度が設定温度になるように前記シリンダの加熱又は加熱冷却を制御させるステップと、
前記シリンダの内部で材料を回転させ、混練及び溶解により状態を変化させるスクリュの回転が停止した場合及び前記シリンダへの前記材料の供給が停止した場合の少なくともいずれかの前記設定温度として前記安全温度を設定するステップと、
を備えた押出機の制御方法。
(付記2)
前記所定の前記安全温度を前記記憶部に記憶させるステップにおいて、
前記スクリュの回転が停止する前であって、前記スクリュの回転を開始させた時の前記設定温度を前記安全温度として記憶させる、
付記1に記載の押出機の制御方法。
(付記3)
前記所定の前記安全温度を前記記憶部に記憶させるステップにおいて、
前記シリンダへの前記材料の前記供給が停止する前であって、前記シリンダへの前記材料の前記供給を開始させた時の前記設定温度を前記安全温度として記憶させる、
付記1に記載の押出機の制御方法。
(付記4)
前記所定の前記安全温度を前記記憶部に記憶させるステップにおいて、
予め設定した温度を、手動で、前記安全温度として記憶させる、
付記1に記載の押出機の制御方法。
(付記5)
前記スクリュの前記回転を開始させる前において、前記実測温度が前記設定温度に達した場合に前記スクリュの回転を開始させるステップをさらに備えた、
付記2に記載の押出機の制御方法。
(付記6)
前記シリンダへの前記材料の前記供給を開始させる前において、前記実測温度が前記設定温度に達した場合に前記シリンダへの前記材料の前記供給を開始させるステップをさらに備えた、
付記3に記載の押出機の制御方法。
(付記7)
前記スクリュの回転中に前記設定温度を手動で、または、あらかじめ自動的に変化するように設定したシークエンスで前記安全温度と異なる変更温度に変更させるステップをさらに備えた、
付記1に記載の押出機の制御方法。
(付記8)
前記変更温度は、前記材料の融点よりも低い温度であり、
前記安全温度は、前記材料の前記融点以上の温度である、
付記7に記載の押出機の制御方法。
(付記9)
前記変更温度は、前記シリンダの運転開始時よりも低い温度であり、
前記安全温度は、前記材料の運転中よりも高い温度である、
付記7に記載の押出機の制御方法。
(付記10)
前記変更温度は、前記材料の劣化または熱分解が発生する温度であり、
前記安全温度は、前記材料の劣化または熱分解が発生しない前記温度であって、前記変更温度よりも低い温度である、
付記7に記載の押出機の制御方法。
(付記11)
前記設定温度として前記安全温度を設定するステップにおいて、
前記スクリュの前記回転が停止した場合の前記シリンダの前記内部に残留した前記材料の量を取得し
取得した前記材料の前記量に基づいて、前記設定温度を前記安全温度に設定する、
付記1に記載の押出機の制御方法。
(付記12)
前記設定温度として前記安全温度を設定するステップにおいて、
前記シリンダへの前記材料の前記供給が停止した場合の前記シリンダの前記内部に残留した前記材料の量を取得し、
取得した前記材料の前記量に基づいて、前記設定温度を前記安全温度に設定する、
付記1に記載の押出機の制御方法。
(付記13)
前記設定温度として前記安全温度を設定するステップにおいて、
前記スクリュの前記回転が停止した場合の前記シリンダの前記内部に残留した前記材料の位置を取得し
取得した前記材料の前記位置に基づいて、前記設定温度を前記安全温度に設定する、
付記1に記載の押出機の制御方法。
(付記14)
前記設定温度として前記安全温度を設定するステップにおいて、
前記シリンダへ前記材料の前記供給が停止した場合の前記シリンダの前記内部に残留した前記材料の位置を取得し、
取得した前記材料の前記位置に基づいて、前記設定温度を前記安全温度に設定する、
付記1に記載の押出機の制御方法。
(付記15)
前記設定温度として前記安全温度を設定するステップにおいて、
前記スクリュの回転が停止したときの前記シリンダの前記実測温度が前記安全温度よりも低い場合に前記設定温度として前記安全温度を設定する、
付記1に記載の押出機の制御方法。
(付記16)
前記設定温度として前記安全温度を設定するステップにおいて、
前記シリンダへの前記材料の前記供給が停止したときの前記シリンダの前記実測温度が前記安全温度よりも低い場合に前記設定温度として前記安全温度を設定する、
付記1に記載の押出機の制御方法。
(付記17)
所定の安全温度を記憶部に記憶させるステップと、
シリンダの実測温度が設定温度になるように前記シリンダの加熱又は加熱冷却を制御させるステップと、
前記シリンダの内部で材料を回転させ、混練及び溶解により状態を変化させるスクリュの回転が停止した場合及び前記シリンダへの前記材料の供給が停止した場合の少なくともいずれかの前記設定温度として前記安全温度を設定するステップと、
をコンピュータに実行させる押出機の制御プログラム。
(付記18)
前記所定の前記安全温度を前記記憶部に記憶させるステップにおいて、
前記スクリュの回転が停止する前であって、前記スクリュの回転を開始させた時の前記設定温度を前記安全温度として記憶させる、
ことをコンピュータに実行させる付記17に記載の押出機の制御プログラム。
(付記19)
前記所定の前記安全温度を前記記憶部に記憶させるステップにおいて、
前記シリンダへの前記材料の前記供給が停止する前であって、前記シリンダへの前記材料の前記供給を開始させた時の前記設定温度を前記安全温度として記憶させる、
付記17に記載の押出機の制御プログラム。
(付記20)
前記所定の前記安全温度を前記記憶部に記憶させるステップにおいて、
予め設定した温度を、手動で、前記安全温度として記憶させる、
付記17に記載の押出機の制御プログラム。
(付記21)
前記スクリュの前記回転を開始させる前において、前記実測温度が前記設定温度に達した場合に前記スクリュの回転を開始させるステップと、
をさらにコンピュータに実行させる付記18に記載の押出機の制御プログラム。
(付記22)
前記シリンダへの前記材料の前記供給を開始させる前において、前記実測温度が前記設定温度に達した場合に前記シリンダへの前記材料の前記供給を開始させるステップをさらに備えた、
付記19に記載の押出機の制御プログラム。
(付記23)
前記スクリュの回転中に前記設定温度を手動で、または、あらかじめ自動的に変化するように設定したシークエンスで前記安全温度と異なる変更温度に変更させるステップと、
をさらにコンピュータに実行させる付記17に記載の押出機の制御プログラム。
(付記24)
前記変更温度は、前記材料の融点よりも低い温度であり、
前記安全温度は、前記材料の前記融点以上の温度である、
付記23に記載の押出機の制御プログラム。
(付記25)
前記変更温度は、前記シリンダの運転開始時よりも低い温度であり、
前記安全温度は、前記材料の運転中よりも高い温度である、
付記23に記載の押出機の制御プログラム。
(付記26)
前記変更温度は、前記材料の劣化または熱分解が発生する温度であり、
前記安全温度は、前記材料の劣化または熱分解が発生しない前記温度であって、前記変更温度よりも低い温度である、
付記23に記載の押出機の制御プログラム。
(付記27)
前記設定温度として前記安全温度を設定するステップにおいて、
前記スクリュの前記回転が停止した場合の前記シリンダの前記内部に残留した前記材料の量を取得し
取得した前記材料の前記量に基づいて、前記設定温度を前記安全温度に設定する、
ことをコンピュータに実行させる付記17に記載の押出機の制御プログラム。
(付記28)
前記設定温度として前記安全温度を設定するステップにおいて、
前記シリンダへの前記材料の前記供給が停止した場合の前記シリンダの前記内部に残留した前記材料の量を取得し、
取得した前記材料の前記量に基づいて、前記設定温度を前記安全温度に設定する、
付記17に記載の押出機の制御プログラム。
(付記29)
前記設定温度として前記安全温度を設定するステップにおいて、
前記スクリュの前記回転が停止した場合の前記シリンダの前記内部に残留した前記材料の位置を取得し
取得した前記材料の前記位置に基づいて、前記設定温度を前記安全温度に設定する、
ことをコンピュータに実行させる付記17に記載の押出機の制御プログラム。
(付記30)
前記設定温度として前記安全温度を設定するステップにおいて、
前記シリンダへ前記材料の前記供給が停止した場合の前記シリンダの前記内部に残留した前記材料の位置を取得し、
取得した前記材料の前記位置に基づいて、前記設定温度を前記安全温度に設定する、
付記17に記載の押出機の制御プログラム。
(付記31)
前記設定温度として前記安全温度を設定するステップにおいて、
前記スクリュの回転が停止したときの前記シリンダの前記実測温度が前記安全温度よりも低い場合に前記設定温度として前記安全温度を設定する、
ことをコンピュータに実行させる付記17に記載の押出機の制御プログラム。
(付記32)
前記設定温度として前記安全温度を設定するステップにおいて、
前記シリンダへの前記材料の前記供給が停止したときの前記シリンダの前記実測温度が前記安全温度よりも低い場合に前記設定温度として前記安全温度を設定する、
付記17に記載の押出機の制御プログラム。
【符号の説明】
【0051】
1 押出機
100 シリンダ
110、111、112、113、114、115、116、117 シリンダブロック
120、121、122 ヒータ
130 スクリュ
131 駆動機
132 フィーダ
133 材料
180 記憶部
190 制御部
200 変更手段
PS 電源