(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024135570
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】吸収性物品
(51)【国際特許分類】
A61F 13/535 20060101AFI20240927BHJP
A61F 13/511 20060101ALI20240927BHJP
A61F 13/537 20060101ALI20240927BHJP
A61F 13/494 20060101ALI20240927BHJP
A61F 13/495 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
A61F13/535 200
A61F13/511 300
A61F13/511 400
A61F13/535 100
A61F13/537
A61F13/537 310
A61F13/494 120
A61F13/495
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023046328
(22)【出願日】2023-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】390029148
【氏名又は名称】大王製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 彩
(72)【発明者】
【氏名】大島 彩
【テーマコード(参考)】
3B200
【Fターム(参考)】
3B200AA01
3B200BB17
3B200CA11
3B200DA14
3B200DB05
3B200DB15
3B200DB18
3B200DC07
(57)【要約】
【課題】軟便の鼠径部及び臀部からの漏れを効率的に抑制することができる吸収性物品を提供する。
【解決手段】吸収性物品は、トップシート10は、多数の開孔11が形成され、吸収体30の吸水シート50側には、一方の鼠蹊部に対応する領域から他方の鼠蹊部に対応する領域まで延び肛門対向位置Pを囲むように延びて、ろ過シート20側に開口する下側凹部31と、長手方向において下側凹部31に隣接して設けられ下側凹部31よりも相対的にろ過シート20側に突出する下側凸部32とを含む、凹凸構造70が設けられ、ろ過シート20は、下側凹部31及び下側凸部32に倣って断面視で凹凸状をなし、吸水シート50は、高吸収性樹脂を液透過性シートで厚さ方向に挟んで形成され、かつ、下側凸部32上の平面視で鼠径部に対応する部分及び幅方向における中央部分に高吸収性樹脂が相対的に多く配置されている。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向に沿って腹側部と、背側部と、前記腹側部と前記背側部との間に位置する股下部とを有し、厚さ方向において、着用者の肌に近い側から順に、トップシート、ろ過シート、吸水シート、吸収体が積層された吸収性物品であって、
前記トップシートは、多数の開孔が形成され、
前記吸収体の吸水シート側には、一方の鼠蹊部に対応する領域から他方の鼠蹊部に対応する領域まで延び肛門対向位置を囲むように延びて、前記ろ過シート側に開口する下側凹部と、前記長手方向において前記下側凹部に隣接して設けられ前記下側凹部よりも相対的にろ過シート側に突出する下側凸部とを含む、凹凸構造が設けられ、
前記ろ過シートは、前記下側凹部及び前記下側凸部に倣って断面視で凹凸状をなし、
前記吸水シートは、高吸収性樹脂を液透過性シートで厚さ方向に挟んで形成され、かつ、前記下側凸部上の平面視で鼠径部に対応する部分及び幅方向における中央部分に前記高吸収性樹脂が相対的に多く配置されている吸収性物品。
【請求項2】
前記下側凸部は、前記長手方向において前記下側凹部を挟むように設けられ、
前記下側凹部及び前記下側凸部は、いずれも平面視で前記背側部に向かって凸となる円孤状に形成されている請求項1に記載の吸収性物品。
【請求項3】
前記下側凹部及び前記下側凸部は、前記腹側部から前記背側部にかけてそれぞれ複数形成されている請求項1又は請求項2に記載の吸収性物品。
【請求項4】
複数形成された前記下側凸部のうち、前記肛門対向位置に近い側に形成された前記下側凸部上に配置される前記高吸収性樹脂は、前記肛門対向位置に遠い側に形成された前記下側凸部上に配置される前記高吸収性樹脂よりも前記背側部側に配置される請求項3に記載の吸収性物品。
【請求項5】
複数形成された前記下側凹部のうち、隣接する前記下側凹部同士を連通する連通凹部が形成される請求項3に記載の吸収性物品。
【請求項6】
前記凹凸構造は、前記吸収体に形成された凹凸パターンにより構成されている請求項1又は請求項2に記載の吸収性物品。
【請求項7】
前記凹凸構造は、前記吸水シートに形成された凹凸パターンにより構成されている請求項1又は請求項2に記載の吸収性物品。
【請求項8】
前記吸水シートの前記高吸収性樹脂が相対的に多く配置されている部分のうち、前記下側凸部上で前記鼠径部に対応する領域に配置されている部分は、平面視で立体ギャザーと重なる位置に配置されている請求項1又は請求項2に記載の吸収性物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸収性物品に関する。
【背景技術】
【0002】
使い捨ておむつの内側に重ねて使用される補助的な吸収性物品であるインナーパッドとして、主に軟便の吸収を目的とした軟便パッドが知られている。一般的なインナーパッドは、水分である尿を主に吸収することを目的として構成されている。一方、軟便は固形分を含むため、一般的なインナーパッドでは、固形分がトップシート上に残留し易い。そして、固形分がトップシート上に残留すると、固形分と肌との接触が長く継続し、肌のトラブルが発生するおそれがある。
【0003】
そこで、軟便に適したインナーパッド(以下、軟便パッドという。)は、着用者の肌に直接触れるトップシートに、軟便の固形分を下層に移行させるための大きな孔が複数形成された開孔シートが使用されている。開孔シートを備えた軟便パッドは、軟便の固形分を、開孔シートの開孔を通して下層のろ過シートに移行させることができる。この結果、軟便パッドは、肌に接触するシート上に固形分が留まるのを抑制して、肌のトラブルが発生するのを防止又は抑制することができる(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
特許文献1で開示された軟便パッドは、更に、ろ過シートに、部分的に凹ませた凹部を形成し、軟便を凹部に収容することで、軟便を拡散して吸収する速度を高めるとともに、軟便の保持性を高めることができる。
【0005】
また、トップシートの下層に吸収体を有し、溝状の凹部が格子状に延設された積層体を有するおむつにおいて、吸収体における凹部の幅方向の外側に土手部を設けることにより、凹部から幅方向の外側への軟便の拡がりを抑制し、着用者の脚部周辺への軟便の漏れ(横漏れ)を防止することができる技術も提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2021-153897号公報
【特許文献2】特開2020-43901号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
先行技術文献1の軟便パッドは、排泄量が多い場合や、繰り返しの排泄がある場合、凹部において軟便を充分に吸収することができないおそれがある。また、先行技術文献2のおむつは、軟便の鼠径部及び臀部からの漏れを充分に防止できない虞がある。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みなされたものであり、軟便の鼠径部及び臀部からの漏れを効率的に抑制することができる吸収性物品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、長手方向に沿って腹側部と、背側部と、前記腹側部と前記背側部との間に位置する股下部とを有し、厚さ方向において、着用者の肌に近い側から順に、トップシート、ろ過シート、吸水シート、吸収体が積層された吸収性物品であって、前記トップシートは、多数の開孔が形成され、前記吸収体の吸水シート側には、一方の鼠蹊部に対応する領域から他方の鼠蹊部に対応する領域まで延び肛門対向位置を囲むように延びて、前記ろ過シート側に開口する下側凹部と、前記長手方向において前記下側凹部に隣接して設けられ前記下側凹部よりも相対的にろ過シート側に突出する下側凸部とを含む、凹凸構造が設けられ、前記ろ過シートは、前記下側凹部及び前記下側凸部に倣って断面視で凹凸状をなし、前記吸水シートは、高吸収性樹脂を液透過性シートで厚さ方向に挟んで形成され、かつ、前記下側凸部上の平面視で鼠径部に対応する部分及び幅方向における中央部分に前記高吸収性樹脂が相対的に多く配置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る吸収性物品によれば、軟便の鼠径部及び臀部からの漏れを効率的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の第1の実施形態(実施形態1)に係る軟便パッドの内面側の平面視を示す平面図である。
【
図2】
図1に示した軟便パッドのA-A線に沿った面による厚さ方向Dの断面を示す断面図である。
【
図3】
図1に示した軟便パッドのB-B線に沿った面による厚さ方向Dの断面を示す断面図である。
【
図4】実施形態1に係る軟便パッドの凹部の詳細を示す、
図3相当の断面図である。
【
図5】実施形態1に係る軟便パッドの凹凸構造とともに軟便の拡散過程を示す平面図である。
【
図6】実施形態1に係る軟便パッドの作用を説明する
図4相当の模式図であり、SAP部の膨潤後の状態を示す。
【
図7】本発明の第2の実施形態(実施形態2)に係る軟便パッドの凹凸構造を示す平面図である。
【
図8】本発明の第3の実施形態(実施形態3)に係る軟便パッドの凹凸構造を示す平面図である。
【
図9】本発明の第4の実施形態(実施形態4)に係る軟便パッドの部分断面図である。
【
図10】本発明の第5の実施形態(実施形態5)に係る軟便パッドの
図3相当の部分断面図であり、SAP部の膨潤前の状態を示す。
【
図11】本発明の実施形態5に係る軟便パッドの
図3相当の部分断面図であり、SAP部の膨潤後の状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係る吸収性物品の実施形態は、以下において、図面を参照して説明される。
【0013】
<実施形態1>
[構成]
図1は軟便パッド100の内面側の平面視を示す平面図、
図2は
図1に示した軟便パッド100のA-A線に沿った面による厚さ方向Dの断面を示す断面図、
図3は
図1に示した軟便パッド100のB-B線に沿った面による厚さ方向Dの断面を示す断面図、
図4は軟便パッド100の下側凹部31の詳細を示す、
図3相当の断面図、
図5は凹凸構造とともに軟便の拡散過程を示す平面図である。
【0014】
図示の軟便パッド100は、本発明に係る吸収性物品の一実施形態である。軟便パッド100は、使い捨ておむつ(以下、おむつという。)に重ねて使用され、おむつが着用者に着用された状態において、おむつの、着用者の肌面に近い側である内面側に、重ねて使用される。軟便パッド100は、特に、着用者の軟便を吸収するのに適したインナーパッドである。なお、軟便パッド100は、使い捨ておむつに重ねて使用されるものに限定されず、使い捨てではないおむつ、例えば布タイプのおむつ、に重ねて使用されてもよい。
【0015】
軟便パッド100は、
図1に示すように、腹側部110と股下部120と背側部130とが長さ方向(長手方向あるいは前後方向)Lに連なって形成されている。軟便パッド100は、
図1に示した平面図において、長さ方向Lに直交する方向を幅方向Wとする。腹側部110は、おむつの着用者の前面である腹側の主に下腹部を覆う部分に相当し、股下部120は着用者の主に股間部を覆う部分に相当し、背側部130は着用者の主に臀部を覆う部分に相当する。
【0016】
なお、軟便パッド100は、背側部130と股下部120との間や、腹側部110と股下部120との間に、境界や構造的な差異があるわけではなく、軟便パッド100の領域を特定して説明する便宜上、おおまかな3つの部分として、背側部130、股下部120及び腹側部110に分けているに過ぎない。
【0017】
軟便パッド100は、
図2に示すように、着用者の肛門に対向する位置(以下単に「肛門対向位置P」と称する)を含む周辺領域(以下単に「肛門対応領域」と称する)を除いて、厚さ方向Dにおいて、トップシート10、ろ過シート20、吸収体30及びバックシート40が、この順序で積層して形成されている。トップシート10は厚さ方向Dにおいて着用者の肌面に最も近い側(以下、内側又は肌面側ということもある。)に配置され、バックシート40は厚さ方向Dにおいて着用者の肌面から最も遠い側(以下、外側又は非肌面側ということもある。)に配置されている。
【0018】
また、軟便パッド100は、
図3に示すように、肛門対応領域において、厚さ方向Dにおいて、トップシート10、ろ過シート20、吸水シート50(以下、SAPシート50という)、吸収体30及びバックシート40が、この順序で積層して形成されている。つまり、軟便パッド100は、肛門対応領域では、それ以外の領域には設けられていないSAPシート50が、ろ過シート20と吸収体30との間に設けられている。
【0019】
軟便パッド100は、幅方向Wの両側部において、トップシート10の幅方向Wの両側部を、トップシート10の
図2の上方(内面側)から覆う立体ギャザー60がそれぞれ設けられている。立体ギャザー60は幅方向Wの外側端部がバックシート40に接合され、幅方向Wの内側端部に糸ゴム61が固定されていて、糸ゴム61の弾性力によって、幅方向Wの内側、厚さ方向Dの内面側に立ち上がるように形成されている。立体ギャザー60は液不透過性である。
【0020】
(トップシート)
トップシート10は、液不透過性のシートであり、
図1に示すように、厚さ方向Dに貫通した多数の開孔11が形成されている。開孔11は、トップシート10上に排出された軟便のうち固定状の成分(固形分)を、厚さ方向Dにおいてトップシート10の下層に通過させる。開孔11は、例えば、幅方向Wの寸法に比べて長さ方向Lの寸法が長い長円状に形成されている。開孔11の長円は、一例として、幅方向Wの寸法が3[mm]、長さ方向Lの寸法が4[mm]である。開孔11の具体的な寸法は、この例に限定するものではなく、軟便の固形分を、ある程度、通過し得る程度の寸法であれば、他の寸法で形成されてもよい。なお、トップシート10は、液透過性のシートであってもよい。
【0021】
また、開孔11は、長さ方向Lに長い長円状に限定するものでもなく、幅方向Wに長い長円であってもよいし、長さ方向Lと幅方向Wとの寸法が等しい真円であってもよいし、また、円に限定されず、ひし形や矩形やその他の多角形であってもよい。
【0022】
トップシート10は、開孔11が、長さ方向Lと幅方向Wとに対してそれぞれ傾いた斜め方向に並んで形成されている。つまり、多数の開孔11は、
図1に示すように、千鳥状に配列されている。なお、トップシート10は、開孔11が千鳥状に配列されたものに限定されず、長さ方向Lと幅方向Wとに並ぶ格子状に配列されたものであってもよい。
【0023】
なお、開孔11が千鳥状に配列されたトップシート10は、開孔11が格子状に配列されたトップシートに比べて、開孔11を形成する密度を高めることができ、軟便を開孔11に導き易くすることができる。
【0024】
(ろ過シート)
ろ過シート20は、トップシート10の直下に配置されている。ろ過シート20は、液透過性である。ろ過シート20は、トップシート10の開孔11を通過した軟便から固形分を絡めとることで濾し取り、固形分が濾し取られた後に残った液状成分を下層に通過させる、ろ過作用を有する。ろ過シート20は、厚さ方向Dの寸法であるかさ高が、例えば10~20[mm]程度に形成されている。
【0025】
ろ過シート20は、一定の厚みを有するシート状の部材であり、吸収体30の凹凸形状に倣って断面視で凹凸状をなしている。具体的には、
図1に示すように、ろ過シート20は股下部120から背側部130に跨る部分に、吸収体30の下側凹部31に倣うことで形成される上側凹部21と、吸収体30の下側凸部32に倣うことで形成される上側凸部22とを有している。即ち、ろ過シート20は、肛門対応領域において上側凹部21及び上側凸部22が形成されている。肛門対応領域では上側凹部21は吸収体30の下側凹部31と平面視で重なる位置に形成され、上側凸部22は吸収体30の下側凸部32と平面視で重なる位置に形成されている。
【0026】
(吸収体)
吸収体30は、繊維質のパルプに粒状のSAPを絡めて配置された吸収部材30Aと、この吸収部材30Aを包む包装体30Bとを有して構成されている。吸収部材30Aは、SAPが接した水分を吸収して膨潤することで、水分を保持する。包装体30Bは、例えばクレープ紙等の液透過性の材料で形成されている。なお、吸収部材30Aは、繊維質のパルプのみで形成され、SAPを含んでいなくてもよい。
【0027】
図4は、肛門対応領域における軟便パッド100の部分拡大断面図である。肛門対応領域では、厚さ方向Dにおいて、トップシート10、ろ過シート20、吸水シート50(以下、SAPシート50という)、吸収体30及びバックシート40が、この順序で積層して形成されている。
【0028】
図4に示すように、吸収体30のトップシート10側には、凹凸構造70が設けられている。具体的には、凹凸構造70は、断面視で凹凸形状をなす凹凸パターンであり、下側凹部31と下側凸部32とを有して構成されている。下側凹部31はトップシート10側に開口し、下側凸部32は下側凹部31に隣接してトップシート10側に凸となるように形成されている。下側凸部32は、吸収体30の中で、下側凹部31よりも肌面側に一段高くなるように形成されている。
【0029】
図4に示すように、ろ過シート20のうち上下方向で下側凹部31に重なる位置には、上側凹部21が形成されている。また、ろ過シート20のうち上下方向で下側凸部32に重なる位置には、上側凸部22が形成されている。
【0030】
(吸水(SAP)シート)
SAPシート50は、粒状の高吸収性樹脂(SAP;SUPERABSORBENT POLYMERS)を、厚さ方向Dの内面側及び外面側からそれぞれ、液透過性の不織布で形成された液透過性シートで挟んで、シート状に形成したものである。このSAPシート50は、SAPが重点的に配置されたSAP部51を有している。つまり、SAPシート50は、単位面積当たりのSAPの量が相対的に多く配置されたSAP部51と、SAP部51に比べて単位面積当たりのSAPの量が少ないか又はSAPが全く配置されていない非SAP部52とが、平面視において分布して形成されている。なお、SAPは、接した水分を吸収して膨潤することで、水分を保持する。
【0031】
なお、このようなSAP部51と非SAP部52との領域の仕切りは、内面側の液透過性シートと外面側の液透過性シートとを厚さ方向Dに接合することによって、容易に形成することができる。SAPシート50が、非SAP部52を、SAPが全く配置されていない領域として形成されている場合、非SAP部52は、内面側の液透過性シートと外面側の液透過性シートとが重ね合わされただけの領域となる。
【0032】
図5は、下側凹部31及び下側凸部32からなる凹凸構造70を示すとともに軟便Xの拡散過程を示す模式的な平面図である。なお、
図5では、説明の便宜上、凹凸構造70以外の構成要素の図示は省略する。
【0033】
凹凸構造70は、肛門対向位置Pにおいて排出された軟便Xの拡散を抑制するように、長さ方向Lに沿って軟便Xの拡散方向における下流側に設けられる。凹凸構造70は、一対の下側凸部32と、その間に下側凹部31を有して構成されている。
【0034】
下側凹部31は、一方の鼠径部に対応する領域(以下単に「第1鼠径部対応領域G1」と称する)から、お尻の割れ目に対応する領域(以下単に「臀裂部対応領域F」と称する)を介して他方の鼠径部に対応する領域(以下単に「第2鼠径部対応領域G2」と称する)まで延びている。下側凹部31は、肛門対向位置Pを囲むように延びて、長さ方向Lにおける後側に向かって凸となる円弧状に形成されている。即ち、下側凹部31は、前後方向において少なくとも鼠蹊部と重なる位置を含み、肛門対向位置Pを中心とする略半円状に形成されている。下側凹部31は、全周に亘り均一な幅の細溝状に形成されていることが望ましい。なお、以下の図中、第1鼠径部対応領域G1及び第2鼠径部対応領域G2(以下単に「鼠径部対応領域G」と称する)を一点鎖線で示し、臀裂部対応領域Fを二点鎖線で示す。臀裂部対応領域Fは、軟便パッド100幅方向Wにおける中央部分に位置する領域に相当する。
【0035】
円弧状に形成された下側凹部31の両端がなす角度(中心角)は、半円状を形成する180度以外の数値であってもよい。例えば、下側凹部31の平面視の形状は、2/5円弧形状や1/4円弧形状等の半円形状以外の円弧形状であってもよい。また、下側凹部31の平面視の溝の形状は円弧状に限定されず、平面視で肛門対向位置Pを囲むように形成されているのであれば、平面視三角形状、四角形状等いかなる形状であってもよい。
【0036】
下側凸部32は、肛門対応領域において下側凹部31に隣接して設けられ、下側凹部31よりトップシート10側に突出した部分である。即ち、一対の下側凸部32は、平面視で下側凹部31を挟むように設けられている。下側凸部32は、下側凹部31と同様に、第1鼠径部対応領域G1から第2鼠径部対応領域G2に亘って設けられ、肛門対向位置Pを囲むように平面視で背側部130側に向かって凸となる円弧状に形成されている。なお、下側凸部32は、下側凹部31と同様に必ずしも平面視で円弧状に形成されなくてもよい。
【0037】
下側凹部31及び下側凸部32により構成される凹凸構造70は、吸収体30の一部として形成されている。凹凸構造70のうち、例えば下側凹部31は吸収体30のうち平坦な部分の高さを減少させるあるいは削ることにより形成され、下側凹部31以外の平坦な部分を下側凸部32として機能させるようにすればよい。
【0038】
このような凹凸構造70を有する肛門対応領域において軟便Xが排出されると、肛門対向位置Pを中心として軟便Xが放射状に拡散する。軟便Xが繰り返して排出されたり、量の多い軟便Xが排出されたりした場合には、軟便Xが肛門対向位置Pに近い内側の下側凸部32を乗り超えてそれまで軟便Xが到達していない下側凹部31に浸入する。
【0039】
下側凹部31に浸入した軟便Xは、背側部130に位置する下側凸部32により後側への拡散がせき止められつつ、下側凹部31に沿って周方向に拡散する(
図5の白抜き矢印参照)。即ち、下側凸部32により軟便Xの拡散方向が前後方向から幅方向Wへと変化する。なお、軟便Xが下側凹部31に浸入するかどうかは、軟便Xの拡散速度及び拡散された量に応じて決定される。
【0040】
ところで、着用者の体には凹凸があるため、単に凹凸構造70を設けたのみでは、着用者と軟便パッド100との間に生じる隙間を埋めることが難しい。例えば、臀裂部対応領域F及び鼠径部対応領域Gでは、それ以外の部分よりも着用者と軟便パッド100との間により隙間が生じやすく、軟便Xの漏れを防止するためには凹凸構造70を設けるだけでは不十分である。そこで、軟便Xの漏れが生じやすい臀裂部対応領域F及び鼠径部対応領域Gにおいて、凹凸構造70上にSAP部51を配置して、SAP部51の膨潤により着用者と軟便パッド100との間に生じる隙間を少なくすることとする。
【0041】
図6は、軟便Xの排出に伴うSAP部51が膨潤する過程を示す図である。ここでは、吸収体30に下側凸部32が2ヶ所形成され、いずれの下側凸部32の上にもSAP部51が配置された例を示す。なお、紙面奥行方向が、
図5の円弧状に形成された下側凹部31あるいは下側凸部32の周方向に相当する。
【0042】
着用者が排泄した軟便Xは、徐々に上側凹部21の周方向に拡散する。軟便Xのうち固形分は、トップシート10の開孔11を通って、下層であるろ過シート20に移行する。軟便Xの液状成分は、固形分とともに開孔11を通ってろ過シート20に移行する他、トップシート10の開孔11以外の部分も通ってろ過シート20に移行する。
【0043】
ろ過シート20は、そのろ過作用によって、軟便Xの固形分を濾し取ることで固形分を保持し、軟便Xの液状成分を拡散して通過させる。ろ過シート20を通過した軟便Xの液状成分は、ろ過シート20の下層のSAPシート50に到達する。
【0044】
SAPシート50に到達した軟便Xの液状成分のうち、平面視で下側凸部32に重なる位置に配置されたSAP部51に到達した液状成分は、SAP部51のSAPに吸収されて保持される。このとき、SAP部51のSAPは、
図6に示すように、液状成分の吸収によって膨潤する。液状成分は、このSAPによって保持される。そして、SAP部51は、膨潤による体積の増大によって、ろ過シート20の上側凸部22の底の部分を、厚さ方向Dの内面側に押し上げる。即ち、
図4に示すSAP部51の膨潤前の状態と比較して、
図6に示すSAP部51の膨潤後の状態では上側凸部22の部分が押し上げられた状態となる。
【0045】
このように、軟便Xの拡散方向における下流側に設けられた下側凸部32により背側部130への軟便Xの拡散を防止することができる。また、下側凸部32により背側部130への拡散がせき止められた軟便Xは、下側凹部31の周方向に沿って拡散する。即ち、前後方向においてせき止められた軟便Xは、軟便パッド100の幅方向Wに拡散する。これにより、後方側への軟便Xの流れを左右方向への流れへと変更させて、軟便Xの背側部130への漏れを防止することができる。
【0046】
更に、SAP部51を臀裂部対応領域F及び鼠径部対応領域Gに配置することにより、軟便Xを吸収して膨潤したSAP部51がろ過シート20を押し上げる。その結果、着用者の体と軟便パッド100との間の隙間が減少する。これにより、体と軟便パッド100との間に隙間が生じやすい臀裂部対応領域F及び鼠径部対応領域Gにおける軟便の漏れを効率的に防止することができる。
【0047】
<実施形態2>
以下、本発明の第2の実施形態(実施形態2)について、
図7を参照して説明する。
図7は、本発明の実施形態2に係る軟便パッドの肛門対応領域周辺の拡大平面図であり、肛門対応領域を肌面側から見た状態を示している。なお、ここでは、凹凸構造70Aを中心に説明し、その他の構成要素については適宜説明及び図示を省略する。
【0048】
実施形態2では、吸収体30に設けられる凹凸構造70Aが、複数の下側凹部31と下側凸部32から構成されている点が実施形態1と異なっている。具体的には、
図7に示すように、それぞれ複数の下側凹部31と下側凸部32が軟便Xの拡散方向に沿って交互に形成され、肛門対向位置Pを囲むように配置されている。なお、
図7の例では、下側凹部31が2重(下側凸部32が3重)に形成されている例を示すが、下側凹部31は3重(下側凸部32が4重)以上であってもよい。
【0049】
それぞれの下側凹部31及び下側凸部32は、いずれも肛門対向位置Pを中心とした同心円の一部をなすように、円弧状に形成されている。それぞれの下側凹部31及び下側凸部32は、第1鼠径部対応領域G1から臀裂部対応領域Fを介して第2鼠径部対応領域G2まで延びている。複数の下側凸部32は等間隔に設けられており、下側凸部32間の下側凹部31はそれぞれ細溝状に形成されている。下側凹部31及び下側凸部32はそれぞれ周方向において均一な幅を有しているが、この幅は特に限定されるものではない。また、下側凹部31同士の幅、下側凸部32同士の幅は、互いに異なってもよい。
【0050】
このように、肛門対応領域に複数の下側凹部31が形成されていることで、一部の下側凹部31が軟便Xにより目詰まりして幅方向Wへの拡散が抑制されたとしても、目詰まりしていない他の下側凹部31により軟便Xの幅方向Wへの拡散が促進される。また、複数の下側凹部31が形成されていることで、肛門対向位置Pから近い側の下側凹部31から遠い側の下側凹部31へと順次軟便Xが拡散する。従って、肛門対応領域において軟便Xをより効率的に吸収することができる。
【0051】
なお、下側凸部32が複数設けられている場合には、それぞれの下側凸部32上の鼠径部対応領域Gに対応する位置にSAP部51を配置することができる。その上で、腹側部110側に形成された下側凸部32上に配置されるSAP部51は、背側部130側に形成された下側凸部32上に配置されるSAP部51よりも背側に配置されることが望ましい。即ち、肛門対向位置Pに近い側の下側凸部32上のSAP部51(
図7中において白抜きで示す楕円)は、肛門対向位置Pから遠い側の下側凸部32上のSAP部51(
図7中においてドットパターンで示す楕円)よりも前後方向において後ろ側に配置することが望ましい。このような構成により、SAP部51をより鼠径部対応領域Gに沿わせ、鼠径部対応領域Gにおいて体と軟便パッド100との間に隙間を少なくすることにより、軟便の漏れを効率的に防止することができる。なお、一部の下側凸部32には、SAP部51が配置されていなくてもよい。
【0052】
<実施形態3>
以下、本発明の第3の実施形態(実施形態3)について、
図8を参照して説明する。
図8は、本発明の実施形態3に係る軟便パッドの肛門対応領域周辺の拡大平面図であり、肛門対応領域を肌面側から見た状態を示している。なお、ここでは、凹凸構造70Bを中心に説明し、その他の構成要素については適宜説明及び図示を省略する。
【0053】
実施形態3に係る凹凸構造70Bでは、
図8に示すように、円弧状に形成された下側凸部32を挟んで形成された下側凹部31同士を連通させる放射状に延びた連通凹部33が形成されている点が、先の実施形態2と異なっている。具体的には、
図8に示すように、一部の下側凸部32に軟便Xの拡散方向に沿って延びる複数の直線状の溝である連通凹部33が、下側凸部32の周方向に沿って複数形成されている。連通凹部33の幅及び深さは、下側凹部31と同じであってもよく、異なっていてもよい。なお、腹側部110側への軟便Xの漏れを防止する観点から、一番外側に位置する下側凸部32には連通凹部33が形成されないことが望ましい。
【0054】
連通凹部33は、下側凹部31と同様に軟便Xが通過する経路として機能する。例えば、
図8の矢印に示すように、内側の下側凹部31に浸入した軟便Xは、連通凹部33を通過して外側の下側凹部31に拡散する。即ち、下側凸部32に連通凹部33が形成されている場合には、軟便Xは下側凸部32を乗り越えるのではなく、連通凹部33により拡散方向下流側の下側凹部31に誘導される。
【0055】
このような軟便Xの通路としての連通凹部33は、鼠径部対応領域Gに隣接する部分に形成されていることが望ましい。このように、SAP部51が配置される鼠径部対応領域Gに軟便Xの通路として連通凹部33を形成することで、SAP部51から離れている位置に連通凹部33を形成する場合よりも効率的にSAP部51を膨潤させることができる。
【0056】
なお、SAP部51を効率的に膨潤させるという観点からすると、鼠径部対応領域Gに近い部分の下側凹部31に軟便Xに含まれる水分を集中させることが望ましい。そのため、周方向に沿って円弧状に延びる下側凹部31の領域のうちで、鼠径部対応領域Gの手前側に位置する部分の深さが、それ以外の部分よりも深いことが望ましい。このように、下側凹部31のうち鼠径部対応領域Gの手前に位置する部分を他の部分よりも深くすることにより、この深い部分に軟便Xが流れ込みやすくなる。また、流れ込んだ軟便Xに含まれる水分を、SAP部51が吸収することにより、SAP部51が膨潤しやすくなる。従って、体と軟便パッド100との間に隙間が生じやすい臀裂部対応領域F及び鼠径部対応領域Gにおける軟便の漏れを効率的に防止することができる。
<実施形態4>
【0057】
以下、本発明の第4の実施形態(実施形態4)について、
図9を参照して説明する。
図9は、本発明の実施形態4に係る軟便パッド200の部分断面図である。なお、ここでは、凹凸構造70Cを中心に説明し、その他の構成要素については適宜説明及び図示を省略する。
【0058】
実施形態1では、凹凸構造70は、吸収体30の一部として形成されていた。これに対し、実施形態4に係る凹凸構造70Cは、SAPシート50に形成された凹凸パターンにより構成されている点が異なっている。
【0059】
図9に示すように、凹凸構造70Cは、平坦部50aと、第1凸部50bと、第2凸部50cとを有して構成されている。平坦部50aは、吸収体30の上面30cに沿って面状に延びる部分である。第1凸部50bは、平坦部50aから肌面側に突出する部分であり、実施形態1の下側凸部32に相当する部分である。第2凸部50cは、第1凸部50bから更に肌面側に突出する部分である。なお、単位面積当たりのSAPの量を適宜変更することにより平坦部50a、第1凸部50b及び第2凸部50cの厚さを変更することができる。
【0060】
このように、軟便パッド100の構成要素として吸収体30上に配置されるSAPシート50自体を凹凸パターンの一部として用いる。これにより、本来用いられる構成要素を有効に活用して、簡易な構成で凹凸パターンを形成することで、吸収体30に凹凸パターンを形成する手間を省くことができる。
【0061】
<実施形態5>
以下、第5の実施形態(実施形態5)について、
図10及び
図11を参照して説明する。
図10及び
図11は、実施形態5に係る軟便パッド300の部分断面図である。なお、上記実施形態と同一の構成要素については同一の符号を付して重複する説明を省略する。
【0062】
実施形態5では、吸水シートの前記高吸収性樹脂が相対的に多く配置されている部分であるSAP部51のうち、下側凸部32上で鼠径部対応領域Gに配置されている部分は、平面視で立体ギャザー60と重なる位置に配置されている。具体的には、
図10に示すように、肛門対向位置Pから一番遠い下側凸部32上において鼠径部対応領域Gに配置されているSAP部51は、立体ギャザー60の下方側に位置している。
【0063】
図11に示すように、立体ギャザー60の下方側に位置するSAP部51付近に軟便Xが移動してくると、軟便Xに含まれる液状成分を吸収することによりSAP部51が膨潤する。SAP部51の膨潤に伴い、立体ギャザー60を下方側から支える上側凸部22の高さが高くなる。これにより、上側凸部22を立体ギャザー60の起立の支えとすることができる。従って、立体ギャザー60を鼠径部対応領域Gに沿わせることが可能となり、鼠径部対応領域Gに対する軟便パッド300のフィット性が向上して鼠径部対応領域Gにおける軟便Xの漏れを効率的に防止することができる。
【0064】
なお、膨潤し過ぎたSAP部51が立体ギャザー60の高さを超えると、排泄物(軟便X)が立体ギャザー60を乗り越えて、立体ギャザー60の外側に漏れてしまう可能性がある。従って、SAP部51が膨潤する高さは、立体ギャザー60の高さ以内とすることが望ましい。
【0065】
上述した本発明に係る吸収性物品の各実施形態1~5については、2つ以上の形態を組み合わせて構成してもよく、そのように2つ以上の形態が組み合わされた実施形態も、本発明に係る吸収性物品の実施形態である。
【符号の説明】
【0066】
10 トップシート
11 開孔
20 ろ過シート
30 吸収体
31 下側凹部
32 下側凸部
33 連通凹部
50 吸水シート(SAPシート)
51 SAP部
70、70A、70B、70C 凹凸構造
100、200、300 軟便パッド(吸収性物品)
D 厚さ方向
L 長さ方向
P 肛門対向位置
W 幅方向
X 軟便