IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ダイキン工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-分析装置、分析方法及びプログラム 図1
  • 特開-分析装置、分析方法及びプログラム 図2
  • 特開-分析装置、分析方法及びプログラム 図3
  • 特開-分析装置、分析方法及びプログラム 図4
  • 特開-分析装置、分析方法及びプログラム 図5
  • 特開-分析装置、分析方法及びプログラム 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024135591
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】分析装置、分析方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G06N 20/00 20190101AFI20240927BHJP
   G05B 23/02 20060101ALI20240927BHJP
   G06F 18/27 20230101ALI20240927BHJP
【FI】
G06N20/00 130
G05B23/02 G
G06F18/27
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023046365
(22)【出願日】2023-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】川畑 真一
【テーマコード(参考)】
3C223
【Fターム(参考)】
3C223AA17
3C223BA01
3C223CC01
3C223DD01
3C223EB01
3C223EB02
3C223FF04
3C223FF05
3C223FF16
3C223FF23
3C223FF26
3C223GG01
3C223HH02
(57)【要約】
【課題】機器の動作特性に影響する設計パラメータを分析する。
【解決手段】分析装置が有する制御部が、機器の設計パラメータと物理現象との関係を表す物理現象式に基づいて第1データセットを生成し、第1データセットに基づいて物理現象と機器の動作特性との関係を学習した第1モデルを生成し、第1モデルに基づいて第1データセットから抽出した第2データセットに基づいて第2モデルを学習する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御部を有する分析装置であって、
前記制御部は、
機器の設計パラメータと物理現象との関係を表す物理現象式に基づいて第1データセットを生成し、
前記第1データセットに基づいて前記物理現象と前記機器の動作特性との関係を学習した第1モデルを生成し、
前記第1モデルに基づいて前記第1データセットから抽出した第2データセットに基づいて第2モデルを学習する、
分析装置。
【請求項2】
前記第1データセットは、複数の前記物理現象式に基づく複数の物理量を含み、
前記制御部は、前記複数の物理量から1以上の前記物理量を選択した前記第2データセットを抽出する、
請求項1に記載の分析装置。
【請求項3】
前記制御部は、
前記第2モデルの予測結果を統計解析することで、前記物理現象式を検証する、
請求項2に記載の分析装置。
【請求項4】
前記第1モデルは、ラッソ回帰モデルであり、
前記第2モデルは、重回帰モデルである、
請求項3のいずれかに記載の分析装置。
【請求項5】
前記機器は、空気調和装置が備える機器である、
請求項1から4のいずれかに記載の分析装置。
【請求項6】
前記機器は、圧縮機である、
請求項5に記載の分析装置。
【請求項7】
前記動作特性は、油上がり率、油濃度、騒音、振動又は信頼性を含む、
請求項1から4のいずれかに記載の分析装置。
【請求項8】
前記制御部は、
前記第2モデルを用いて前記動作特性を予測する、
請求項1から4のいずれかに記載の分析装置。
【請求項9】
前記制御部は、
前記第2モデルを用いて前記動作特性に影響する前記設計パラメータを特定する、
請求項1から4のいずれかに記載の分析装置。
【請求項10】
分析装置が有する制御部が、
機器の設計パラメータと物理現象との関係を表す物理現象式に基づいて第1データセットを生成し、
前記第1データセットに基づいて前記物理現象と前記機器の動作特性との関係を学習した第1モデルを生成し、
前記第1モデルに基づいて前記第1データセットから抽出した第2データセットに基づいて第2モデルを学習する、
分析方法。
【請求項11】
分析装置が有する制御部に、
機器の設計パラメータと物理現象との関係を表す物理現象式に基づいて第1データセットを生成し、
前記第1データセットに基づいて前記物理現象と前記機器の動作特性との関係を学習した第1モデルを生成し、
前記第1モデルに基づいて前記第1データセットから抽出した第2データセットに基づいて第2モデルを学習する、
処理を実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、分析装置、分析方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
学習済みモデルを用いて機器の動作を推定する技術がある。例えば、特許文献1には、機器の各センサによる測定値、機器の異常診断結果、機器に対する制御の結果又は機器に関する条件に基づいて、機器が有する部品に関する値を推定する学習済みモデルを生成するか否かを判定する情報処理装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2022-52545号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、機器の動作特性と設計パラメータとの関係を分析することは容易ではない。機器の動作特性と設計パラメータとの関係が明らかでないと、機器の動作特性を向上するための設計を効率的に検討することができない。
【0005】
本開示は、機器の動作特性に影響する設計パラメータを分析する技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の第1の態様に係る分析装置は、制御部を有する分析装置であって、前記制御部は、機器の設計パラメータと物理現象との関係を表す物理現象式に基づいて第1データセットを生成し、前記第1データセットに基づいて前記物理現象と前記機器の動作特性との関係を学習した第1モデルを生成し、前記第1モデルに基づいて前記第1データセットから抽出した第2データセットに基づいて第2モデルを学習する。
【0007】
本開示の第1の態様によれば、機器の動作特性に影響する設計パラメータを分析することができる。
【0008】
本開示の第2の態様は、第1の態様に係る分析装置であって、前記第1データセットは、複数の前記物理現象式に基づく複数の物理量を含み、前記制御部は、前記複数の物理量から1以上の前記物理量を選択した前記第2データセットを抽出する。
【0009】
本開示の第3の態様は、第1の態様又は第2の態様に係る分析装置であって、前記制御部は、前記第2モデルの予測結果を統計解析することで、前記物理現象式を検証する。
【0010】
本開示の第4の態様は、第1の態様から第3の態様のいずれかに係る分析装置であって、前記第1モデルは、ラッソ回帰モデルであり、前記第2モデルは、重回帰モデルである。
【0011】
本開示の第5の態様は、第1の態様から第4の態様のいずれかに係る分析装置であって、前記機器は、空気調和装置が備える機器である。
【0012】
本開示の第5の態様によれば、空気調和装置の動作特性に影響する設計パラメータを分析することができる。
【0013】
本開示の第6の態様は、第5の態様に係る分析装置であって、前記機器は、圧縮機である。
【0014】
本開示の第6の態様によれば、圧縮機の動作特性に影響する設計パラメータを分析することができる。
【0015】
本開示の第7の態様は、第1の態様から第6の態様のいずれかに係る分析装置であって、前記動作特性は、油上がり率、油濃度、騒音、振動又は信頼性を含む。
【0016】
本開示の第7の態様によれば、油上がり率、油濃度、騒音、振動又は信頼性に影響する設計パラメータを分析することができる。
【0017】
本開示の第8の態様は、第1の態様から第7の態様のいずれかに係る分析装置であって、前記制御部は、前記第2モデルを用いて前記動作特性を予測する。
【0018】
本開示の第8の態様によれば、機器の動作特性を予測することができる。
【0019】
本開示の第9の態様は、第1の態様から第8の態様のいずれかに係る分析装置であって、前記制御部は、前記第2モデルを用いて前記動作特性に影響する前記設計パラメータを特定する。
【0020】
本開示の第9の態様によれば、機器の動作特性に影響する設計パラメータを特定することができる。
【0021】
本開示の第10の態様に係る分析方法は、分析装置が有する制御部が、機器の設計パラメータと物理現象との関係を表す物理現象式に基づいて第1データセットを生成し、前記第1データセットに基づいて前記物理現象と前記機器の動作特性との関係を学習した第1モデルを生成し、前記第1モデルに基づいて前記第1データセットから抽出した第2データセットに基づいて第2モデルを学習する。
【0022】
本開示の第11の態様に係るプログラムは、分析装置が有する制御部に、機器の設計パラメータと物理現象との関係を表す物理現象式に基づいて第1データセットを生成し、前記第1データセットに基づいて前記物理現象と前記機器の動作特性との関係を学習した第1モデルを生成し、前記第1モデルに基づいて前記第1データセットから抽出した第2データセットに基づいて第2モデルを学習する処理を実行させるためのプログラムである。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】分析装置のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
図2】分析方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。
図3】回帰モデルの予測精度の一例を示すグラフである。
図4】統計評価前の予測モデルの予測精度の一例を示すグラフである。
図5】統計評価後の予測モデルの予測精度の一例を示すグラフである。
図6】設計パラメータの分析結果の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、各実施形態について添付の図面を参照しながら説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省略する。
【0025】
[実施形態]
本開示の一実施形態は、機器の動作特性を分析する分析装置である。本実施形態おける機器は、一例として、所定の室内空間の空気調和を行う空気調和装置が備える機器である。空気調和装置が備える機器の一例は、冷媒を圧縮することで冷媒の温度を調節する圧縮機である。
【0026】
圧縮機の動作特性の一つに、油上がりがある。油上がりは、圧縮機から冷凍機油が流出する現象である。圧縮機の内部では冷凍機油が循環している。微粒子化した冷凍機油は、吐出管を通じて冷媒と共に圧縮機の外部に流出することがある。圧縮機の外部に流出した冷凍機油は、空気調和装置に様々な影響を与える。
【0027】
圧縮機における油上がりを評価する指標として、油上がり率がある。油上がり率は、圧縮機が用いる冷凍機油のうち、圧縮機の外部に流出した冷凍機油の比率である。したがって、油上がり率を低減することができる圧縮機の設計が求められている。
【0028】
従来、圧縮機における油上がり率の改善は、実測試験又は流体シミュレーションにより行われてきた。実測試験では、圧縮機に設けられた観察窓から冷凍機油の流れを高速度カメラ等で撮影し、その映像を解析することで油上がりを分析する。一方、流体シミュレーションでは、圧縮機の内部における冷凍機油の流れを仮想空間上で計算する。油上がり率の改善では、実測試験又は流体シミュレーションにより求めた油上がり率と設計パラメータとの相関関係を確認し、油上がり率と相関がある設計パラメータを中心に油上がり率を改善する設計を検討することが行われる。
【0029】
しかしながら、実測試験及び流体シミュレーションでは、油上がりのメカニズムを完全に解析することができない。例えば、実測試験では、実際に圧縮機の内部における冷凍機油の流れを可視化できるが、観察窓近傍の流れに限定される。流体シミュレーションでは、圧縮機の内部全体における冷凍機油の流れを検討することができるが、実際の冷媒や冷凍機油の流れを完全に追跡するためには多大なコストがかかる。
【0030】
従来の油上がり率に対する改善手法では、圧縮機の設計パラメータと油上がりが生じるメカニズムとが直結しておらず、効果的に油上がり率を改善できる設計パラメータを精度よく特定することができていない。そのため、設計作業における手戻りが発生することが多く、効率よく設計を進めることができていない。
【0031】
本実施形態は、圧縮機の油上がり率に影響する圧縮機の設計パラメータを分析することを目的とする。一の側面では、本実施形態によれば、圧縮機の油上がり率に影響する圧縮機の設計パラメータを精度よく分析することができる。また、他の側面では、本実施形態によれば、圧縮機の設計パラメータに基づいて油上がり率を予測することができる。
【0032】
なお、本実施形態は、圧縮機の油上がり率の分析に限定されず、様々な機器の動作特性の分析に利用することができる。例えば、機器は、空気調和装置が備える任意の機器でもよく、空気調和装置以外の任意の機器でもよい。例えば、動作特性は、圧縮機の油濃度でもよく、機器の騒音、振動又は信頼性でもよい。
【0033】
<ハードウェア構成>
図1は、本実施形態における分析装置100のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。図1に示されているように、分析装置100は、プロセッサ101、メモリ102、補助記憶装置103、操作装置104、表示装置105、通信装置106、ドライブ装置107を有する。分析装置100の各ハードウェアは、バス108を介して相互に接続されている。
【0034】
プロセッサ101は、CPU(Central Processing Unit)等の各種演算デバイスを有する。プロセッサ101は、補助記憶装置103にインストールされている各種プログラムをメモリ102上に読み出して実行する。
【0035】
メモリ102は、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等の主記憶デバイスを有する。プロセッサ101とメモリ102とは、いわゆるコンピュータ(以下、「制御部」ともいう)を形成し、プロセッサ101が、メモリ102上に読み出した各種プログラムを実行することで、当該コンピュータは各種機能を実現する。
【0036】
補助記憶装置103(以下、「記憶部」ともいう)は、各種プログラムや、各種プログラムがプロセッサ101によって実行される際に用いられる各種データを格納する。
【0037】
操作装置104は、分析装置100のユーザが各種操作を行うための操作デバイスである。表示装置105は、分析装置100により実行される各種処理の処理結果を表示する表示デバイスである。
【0038】
通信装置106は、通信ネットワークを介して外部装置と通信を行うための通信デバイスである。
【0039】
ドライブ装置107は、記憶媒体109をセットするためのデバイスである。ここでいう記憶媒体109には、CD-ROM、フレキシブルディスク、光磁気ディスク等のように情報を光学的、電気的あるいは磁気的に記憶する媒体が含まれる。また、記憶媒体109には、ROM、フラッシュメモリ等のように情報を電気的に記憶する半導体メモリ等が含まれていてもよい。
【0040】
なお、補助記憶装置103にインストールされる各種プログラムは、例えば、配布された記憶媒体109がドライブ装置107にセットされ、記憶媒体109に記憶された各種プログラムがドライブ装置107により読み出されることでインストールされる。あるいは、補助記憶装置103にインストールされる各種プログラムは、通信装置106を介してネットワークからダウンロードされることで、インストールされてもよい。
【0041】
<分析方法の流れ>
図2は、本実施形態における分析装置100が実行する分析方法の流れの一例を示すフローチャートである。
【0042】
ステップS1において、分析装置100の制御部は、分析に用いる実験データを収集する。次に、分析装置100の制御部は、収集した実験データを記憶部に記憶する。実験データは、設計パラメータに関する情報、及び動作特性に関する情報を含む。設計パラメータは、例えば、圧縮機における各部の寸法等を含む。動作特性に関する情報は、例えば、圧縮機の油上がり率の実測値又はシミュレーション結果を含む。
【0043】
ステップS2において、分析装置100の制御部は、物理現象式の入力を受け付ける。物理現象式は、機器の設計パラメータと物理現象との関係を表す数式である。具体的には、物理現象式は、機器の設計パラメータを代入するための変数を有し、それらの変数を用いて所定の物理量を計算する数式である。物理現象式は、1の設計パラメータを変数としてもよく、複数の設計パラメータを変数としてもよい。物理現象式は、異なる物理量を計算する複数の数式であってもよい。
【0044】
物理現象式は、物理量を計算する公知の数式でもよい。物理現象式は、分析装置100を利用する設計者が、過去の知見に基づいて定式化した数式であってもよい。物理現象式は、実験データを解析することで得られた数式であってもよい。解析手法は、例えば、多変量解析でもよく、主成分分析等でもよい。
【0045】
ステップS3において、分析装置100の制御部は、記憶部に記憶されている実験データに基づいて、第1データセットを生成する。第1データセットは、ステップS2で受け付けた物理現象式により計算した物理量、及び動作特性に関する情報を含む。なお、第1データセットは、設計パラメータに関する情報をさらに含んでもよい。以下、第1データセットのうち、動作特性に関する情報以外の項目を「候補パラメータ」と呼ぶ。したがって、候補パラメータは、物理現象式により計算した物理量を含み、設計パラメータ自体を含んでもよい。
【0046】
具体的には、まず、分析装置100の制御部は、実験データを記憶部から読み出す。次に、分析装置100の制御部は、実験データに含まれる設計パラメータを用いて物理現象式を計算する。そして、分析装置100の制御部は、物理現象式により計算した物理量を含む候補パラメータと、動作特性に関する情報とを関連付ける。これにより、物理現象式により計算した物理量を含む第1データセットが生成される。
【0047】
ステップS4において、分析装置100の制御部は、第1データセットに対してデータクレンジングを行う。本実施形態におけるデータクレンジングは、物理現象式の適切性の検証、候補パラメータ間の相関関係の検証、及び外れ値の削除を含む。
【0048】
物理現象式の適切性の検証では、物理現象として適切であるかを検証する。物理現象として不適切な物理現象式があれば、その物理現象式に基づく物理量は第1データセットから削除すればよい。
【0049】
候補パラメータ間の相関関係の検証では、候補パラメータの各組み合わせについて相関が高い組み合わせがあるか否かを検証する。相関が高い候補パラメータの組み合わせがある場合、一方の候補パラメータを削除すればよい。
【0050】
外れ値の削除では、候補パラメータの各組み合わせについて、外れ値とみなすことができる実験データを削除する。外れ値は、候補パラメータ間の関係を二次元平面にプロットしたときに他の実験データと傾向が異なる実験データである。
【0051】
ステップS5において、分析装置100の制御部は、第1データセットを第1学習データと第1検証データとに分割する。第1学習データは、例えば、第1データセットを4分割した部分データのうち3個の部分データである。また、第1検証データは、第1データセットのうち学習データに含まれない1個の部分データである。
【0052】
次に、分析装置100の制御部は、第1学習データに基づいて、回帰モデル(第1モデルの一例)を学習する。分析装置100の制御部は、学習済みの回帰モデルを記憶部に記憶する。回帰モデルは、候補パラメータを説明変数とし、動作特性に関する情報を説明変数とする回帰モデルである。回帰モデルの説明変数は、物理現象式により計算した1以上の物理量を含む。したがって、回帰モデルは、物理現象と機器の動作特性との関係を学習した機械学習モデルであると言える。
【0053】
回帰モデルは、例えば、ラッソ(Lasso)回帰モデルである。ラッソ回帰は、重回帰分析にL1正則化を用いた正則化手法である。L1正則化は、目的関数に重みの絶対値の和を加えた正則化であり、他のパラメータからの距離が大きいパラメータの重みを0にすることで、スパース性を高める手法である。したがって、ラッソ回帰モデルを学習することで、機器の動作特性に与える影響が小さい候補パラメータを自動的に削除することができる。
【0054】
ステップS6において、分析装置100の制御部は、回帰モデルに基づいて、候補パラメータを検証する。本実施形態における候補パラメータの検証では、予測精度の検証、及び寄与度が低い説明変数の特定を行う。
【0055】
予測精度の検証では、ステップS5で生成した第1検証データを用いて学習済みの回帰モデルの予測精度を計算する。具体的には、分析装置100の制御部は、第1検証データの候補パラメータを学習済みの回帰モデルに入力し、回帰モデルが出力した予測結果と第1検証データの正解値(動作特性に関する情報)との誤差に基づいて予測精度を計算する。予測精度が予め定めた閾値未満である場合、候補パラメータの検証で問題が発見されたものとして扱う。
【0056】
図3は、回帰モデルの予測精度の一例を示す図である。図3には、横軸を実測値とし、縦軸を予測値として、回帰モデルによる予測結果を二次元平面にプロットしたグラフが示されている。図3に示されているように、回帰モデルの予測結果は、概ね右上がりの曲線となっており、ある程度の予測精度を達成していることがわかる。
【0057】
寄与度が低い説明変数の特定では、予測結果に対する寄与度が低い(影響が小さい)説明変数を特定する。回帰モデルがラッソ回帰モデルである場合、予測結果に対する寄与度が低い説明変数は、重み(係数)が0に設定される。したがって、回帰モデルにおいて重みが0となった説明変数を特定すればよい。寄与度が低い説明変数が特定された場合、候補パラメータの検証で問題が発見されたものとして扱う。
【0058】
候補パラメータの検証により問題を発見しなかった場合(OK)、分析装置100の制御部はステップS7に処理を進める。一方、候補パラメータの検証により問題を発見した場合(NG)、分析装置100の制御部はステップS1に処理を戻す。ステップS1に処理を戻した後、分析装置100の制御部は、候補パラメータの検証で問題が発見されたことを、分析装置100を利用する設計者に通知する。例えば、分析装置100の制御部は、候補パラメータの検証で問題が発見された旨を表示装置105等に出力する。設計者は、実験データ及び物理現象式を検証し、見直し後の実験データ及び物理現象式を分析装置100に再度入力することができる。
【0059】
ステップS7において、分析装置100の制御部は、第1データセットから第2データセットを抽出する。具体的には、分析装置100の制御部は、第1データセットのうち、回帰モデルの説明変数として選択された候補パラメータに関するデータを抽出する。以下、第2データセットとして抽出した候補パラメータを「選択パラメータ」と呼ぶ。
【0060】
ここで、回帰モデルの説明変数とは、ステップS6において問題を発見しなかったと判定されたときの回帰モデルの説明変数である。すなわち、選択パラメータは、相関が高い候補パラメータ及び予測結果への寄与度が低い候補パラメータを除いた候補パラメータである。
【0061】
ステップS8において、分析装置100の制御部は、第2データセットを第2学習データと第2検証データとに分割する。第2学習データは、例えば、第2データセットを4分割した部分データのうち3個の部分データである。また、第2検証データは、第2データセットのうち学習データに含まれない1個の部分データである。
【0062】
次に、分析装置100の制御部は、第2学習データに基づいて、予測モデル(第2モデルの一例)を学習する。分析装置100の制御部は、学習済みの予測モデルを記憶部に記憶する。予測モデルは、選択パラメータを説明変数とし、動作特性に関する情報を説明変数とする回帰モデルである。予測モデルは、回帰モデルと同様に、物理現象と機器の動作特性との関係を学習した機械学習モデルであると言える。予測モデルは、例えば、重回帰モデルである。
【0063】
ステップS9において、分析装置100の制御部は、予測モデルを統計的に評価する。具体的には、分析装置100の制御部は、第2検証データの選択パラメータを学習済みの予測モデルに入力し、予測モデルが出力した予測結果を統計解析する。
【0064】
例えば、分析装置100の制御部は、予測結果に対して仮説検定を行う。仮説検定は、第2検証データに対する予測結果に基づいて、T値及びP値を計算することで行う。P値が高い選択パラメータは、実際には機器の動作特性に強く影響を与えるものではなく、データクレンジング及び候補パラメータの検証で偶然選択されたものと考えられる。そのため、P値が予め定めた閾値以上の選択パラメータがあれば、統計評価で問題が発見されたものとして扱う。
【0065】
図4は、統計評価前の予測モデルの予測精度の一例を示す図である。図4には、横軸を実測値とし、縦軸を予測値として、統計評価前の予測モデルによる予測結果を二次元平面にプロットしたグラフが示されている。統計評価前の予測モデルとは、P値が高い選択パラメータを説明変数に含む回帰モデルであることを意味する。図4に示されているように、統計評価前の予測結果では、平均二乗誤差(MSE; Mean Squared Error)が0.06768…となった。
【0066】
図5は、統計評価後の予測モデルの予測精度の一例を示す図である。図5には、横軸を実測値とし、縦軸を予測値として、統計評価後の予測モデルによる予測結果を二次元平面にプロットしたグラフが示されている。統計評価後の予測モデルとは、P値が高い選択パラメータを説明変数に含まない回帰モデルであることを意味する。図5に示されているように、統計評価後の予測結果では、平均二乗誤差が0.03022…となり、統計評価前の予測結果と比べて、予測精度が向上していることがわかる。
【0067】
統計評価により問題を発見しなかった場合(OK)、分析装置100の制御部はステップS10に処理を進める。一方、統計評価により問題を発見した場合(NG)、分析装置100の制御部はステップS2に処理を戻す。ステップS2に処理を戻した後、分析装置100の制御部は、統計評価で問題が発見されたことを、分析装置100を利用する設計者に通知する。例えば、分析装置100の制御部は、候補パラメータの検証で問題が発見された旨を表示装置105等に出力する。設計者は、物理現象式を検証し、見直し後の物理現象式を分析装置100に再度入力することができる。
【0068】
ステップS10において、分析装置100の制御部は、学習済みの予測モデルに基づいて、設計パラメータを分析する。設計パラメータの分析では、機器の動作特性に影響する設計パラメータを特定する。分析装置100の制御部は、設計パラメータの分析結果を表示装置105等に出力する。設計パラメータの分析結果は、機器の動作特性に影響する設計パラメータを示す情報を含む。
【0069】
設計パラメータの特定は、予測モデルにおける説明変数の寄与度に基づいて行う。具体的には、分析装置100の制御部は、まず、予測モデルの各説明変数の寄与度を取得する。次に、分析装置100の制御部は、寄与度が最も高い説明変数を特定する。特定した説明変数が物理量である場合、分析装置100の制御部は、その物理量を計算した物理現象式に基づいて、設計パラメータを特定する。物理現象式は、1以上の設計パラメータを変数として用いるため、分析装置100の制御部は、物理現象式で変数として用いられる設計パラメータを抽出すればよい。
【0070】
図6は、設計パラメータの分析結果の一例を示す図である。図6には、学習済みの予測モデルにおける動作特性と物理量との関係、及び各物理量と設計パラメータとの関係の一例が示されている。
【0071】
図6において、動作特性と物理量とを繋ぐ矢印は、動作特性(予測結果)に対する物理量(説明変数)の寄与度を示している。また、物理量と設計パラメータとを繋ぐ矢印は、物理量を計算する物理現象式で変数として用いられている設計パラメータを示している。図6に示す例では、物理量1~5のうち、物理量1が最も寄与度が大きい。また、物理量1を計算するために、設計パラメータ2~4が用いられている。したがって、図6に示す分析結果は、設計パラメータ2~4が動作特性に影響することを示している。
【0072】
ステップS11において、分析装置100の制御部は、機器の設計パラメータに基づいて、機器の動作特性を予測する。予測モデルは、選択パラメータを説明変数とし、動作特性を示す情報を目的変数とする回帰モデルである。そのため、予測モデルに設計パラメータを入力することで、機器の動作特性を予測することが可能である。
【0073】
分析装置100を利用する設計者は、ステップS10で出力された分析結果に基づいて、油上がり率を低減するように圧縮機の設計パラメータを検討することができる。また、設計者は、油上がり率を低減するように決定した圧縮機の設計パラメータを学習済みの予測モデルに入力することで、その設計パラメータにおける油上がり率を予測することができる。このようにして設計者は、設計パラメータの検討と油上がり率の予測とを繰り返し、油上がり率を向上できる設計パラメータを効率的に検討することができる。
【0074】
<まとめ>
以上、本開示の一実施形態によれば、機器の動作特性に影響する設計パラメータを分析することができる。例えば、分析装置100は、機器の設計パラメータと物理現象との関係を表す物理現象式に基づいてデータセットを生成し、データセットに基づいて物理現象と機器の動作特性との関係を学習したモデルを生成する。学習済みのモデルにおいて説明変数の寄与度を解析することで、機器の動作特性に影響する物理現象を特定することができ、物理現象式に基づいて物理現象と関係する設計パラメータを特定することができる。したがって、本開示の一実施形態によれば、機器の動作特性に影響する機器の設計パラメータを分析することができる。
【0075】
分析装置100は、空気調和装置が備える機器の動作特性を分析してもよい。特に、分析装置100は、圧縮機を分析対象としてもよい。また、分析装置100は、空気調和装置が備える機器の騒音、振動又は信頼性を分析してもよい。特に、分析装置100は、圧縮機の油上がり率又は油濃度を分析してもよい。空気調和装置が備える機器の動作特性は、様々な物理現象が関係するため、機器の動作特性に影響する設計パラメータを特定することは容易ではない。物理現象式に基づく物理量を説明変数とするモデルを分析することで、機器の動作特性に影響する設計パラメータを精度よく特定することができる。
【0076】
分析装置100は、物理現象式に基づく複数の物理量を含むデータセットを用いてラッソ回帰モデルを学習することで、機器の動作特性に対する影響が小さい物理量を自動的に削除する。また、分析装置100は、重回帰モデルの予測結果を統計解析することで、機器の動作特性に対する影響が小さい物理量を特定する。従来、機器の動作特性に影響する設計パラメータの選択は設計者の経験や勘等に依存していた。本開示の一実施形態によれば、設計者によるバイアスを排除し、精度よく設計パラメータを選択することができる。
【0077】
分析装置100は、学習済みの予測モデルに基づいて、機器の動作特性に影響する設計パラメータを分析する。また、分析装置100は、学習済みの予測モデルに基づいて、機器の設計パラメータから機器の動作特性を予測する。本開示の一実施形態によれば、機器の動作特性に影響する設計パラメータの特定と、機器の動作特性を向上するための設計の検証とを、同一の学習済みモデルに基づいて繰り返すことができ、機器の動作特性を向上するための設計を効率的に進めることができる。
【0078】
[補足]
上記で説明した実施形態の各機能は、一又は複数の処理回路によって実現することが可能である。ここで、本明細書における「処理回路」とは、電子回路により実装されるCPU(Central Processing Unit)又はGPU(Graphics Processing Unit)のようにソフトウェアによって各機能を実行するようプログラミングされたプロセッサや、上記で説明した各機能を実行するよう設計されたASIC(Application Specific Integrated Circuit)、DSP(Digital Signal Processor)、FPGA(Field Programmable Gate Array)や従来の回路モジュール等の機器を含むものとする。
【0079】
以上、実施形態を説明したが、特許請求の範囲の趣旨及び範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能なことが理解されるであろう。
【符号の説明】
【0080】
100 分析装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6