(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024135595
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】信号電源分離回路、信号伝送回路及び車両
(51)【国際特許分類】
H03H 7/01 20060101AFI20240927BHJP
H01F 17/06 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
H03H7/01 A
H01F17/06 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023046371
(22)【出願日】2023-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000231512
【氏名又は名称】日本精機株式会社
(72)【発明者】
【氏名】殷 軍
【テーマコード(参考)】
5E070
5J024
【Fターム(参考)】
5E070AB07
5E070BA16
5J024AA01
5J024CA03
5J024DA01
5J024DA22
5J024EA08
5J024KA03
(57)【要約】
【課題】インピーダンスの周波数特性が改善された信号電源分離回路を提供する。
【解決手段】本開示の信号電源分離回路11は、信号および直流バイアス電源が重畳して伝搬する信号線13と直流バイアス電源を出力するバイアス供給源14との間に接続されて、基板に実装される信号電源分離回路11であって、直列に接続されるフェライトビーズFBと第1インダクタL1と第2インダクタL2を備える。また、本開示の信号伝送回路12では、上記の信号電源分離回路11が用いられて信号線13における信号と直流バイアス電源とが分離される。また、本開示の車両Vでは、上記の信号伝送回路12が用いられて車載電子機器間の通信が行われる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
信号および直流バイアス電源が重畳して伝搬する信号線と前記直流バイアス電源を出力するバイアス供給源との間に接続されて、基板に実装される信号電源分離回路であって、
直列に接続されるフェライトビーズと第1インダクタと第2インダクタを備え、
前記フェライトビーズは、インピーダンス周波数特性において、100MHzから5GHzの帯域に亘って1kohm以上を示し、
前記第1インダクタは、
第1抵抗が並列に接続され、
自己共振周波数が100MHzから600MHz未満であるフェライトインダクタであり、
直流に対する抵抗値が0.4ohm以下であり、
前記第2インダクタは、
第2抵抗及び第1コンデンサが直列に接続される直列RC回路が並列に接続され、
自己共振周波数が4MHz以上6MHz未満であるフェライトインダクタであり、
直流に対する抵抗値が2.4ohm以下であり、
前記第1抵抗は、前記第1インダクタと前記基板との間に生じる浮遊容量が起こす反共振を低減する抵抗値を示し、
前記第2抵抗及び前記第1コンデンサは、5MHz未満におけるインピーダンスを上昇するように構成される
信号電源分離回路。
【請求項2】
インピーダンスの周波数特性が、1MHzから1GHzまでの周波数帯域全体で1kohm以上を示す
請求項1に記載の信号電源分離回路。
【請求項3】
前記信号が伝搬する前記信号線に前記直流バイアス電源を重畳させて通信が行われる信号伝送回路において、請求項1から請求項2のいずれか1項に記載の信号電源分離回路が用いられて前記信号線における前記信号と前記直流バイアス電源とが分離されることを特徴とする信号伝送回路。
【請求項4】
請求項3に記載の信号伝送回路が用いられて車載電子機器間の通信が行われることを特徴とする車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、信号電源分離回路、信号伝送回路及び車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の信号電源分離回路として、例えば特許文献1が示す構成がある。特許文献1に記載の信号電源分離回路は、信号及び直流バイアス電源が重畳して伝搬する信号線(13)と、直流バイアス供給源(14)との間に接続される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この信号電源分離回路は、第1インダクタと第2インダクタを備えることで、反共振を弱め、インピーダンスの周波数特性を改善していた。しかしながら、この構成であっても、反共振の影響は残り、インピーダンスの周波数特性が急激な変化を生じる周波数帯域が存在した。従って、更にインピーダンスの周波数特性が緩やかに変化する信号電源分離回路が求められていた。そこで本開示の目的とするところは、上述課題に着目し、インピーダンスの周波数特性を更に改善した信号電源分離回路を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明に係る信号電源分離回路は、
信号および直流バイアス電源が重畳して伝搬する信号線と前記直流バイアス電源を出力するバイアス供給源との間に接続されて、基板に実装される信号電源分離回路であって、
直列に接続されるフェライトビーズと第1インダクタと第2インダクタを備え、
前記フェライトビーズは、インピーダンス周波数特性において、100MHzから5GHzの帯域に亘って1kohm以上を示し、
前記第1インダクタは、
第1抵抗が並列に接続され、
自己共振周波数が100MHzから600MHz未満であるフェライトインダクタであり、
直流に対する抵抗値が0.4ohm以下であり、
前記第2インダクタは、
第2抵抗及び第1コンデンサが直列に接続される直列RC回路が並列に接続され、
自己共振周波数が4MHz以上6MHz未満であるフェライトインダクタであり、
直流に対する抵抗値が2.4ohm以下であり、
前記第1抵抗は、前記第1インダクタと前記基板との間に生じる浮遊容量が起こす反共振を低減する抵抗値を示し、
前記第2抵抗及び前記第1コンデンサは、5MHz未満におけるインピーダンスを上昇するように構成される。
【0006】
上記目的を達成するため、本発明に係る信号伝送回路は、
信号が伝搬する信号線に直流バイアス電源を重畳させて通信が行われる信号伝送回路において、上記の信号電源分離回路が用いられて前記信号線における前記信号と前記直流バイアス電源とが分離される。
【0007】
上記目的を達成するため、本発明に係る車両は、
上記の信号伝送回路が用いられて車載電子機器間の通信が行われる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施形態による信号電源分離回路が適用された信号伝送回路の概略構成を示すブロック図である。
【
図2】一実施形態による信号電源分離回路を示す回路図である。
【
図3】一実施形態に因る信号電源分離回路のインピーダンスの周波数特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本開示の信号電源分離回路及び信号伝送回路を車両Vに搭載された実施形態として例にあげ、添付図面を用いて説明する。
【0010】
[第一実施形態]
<1-1.構成の説明>
図1は、自動車などの車両Vに搭載された信号電源分離回路11が適用された信号伝送回路12の概略構成を示すブロック図である。
【0011】
信号伝送回路12は、同軸ケーブルによって構成される1本の信号線13に信号と直流バイアス電源とを重畳させて、1本の同軸ケーブルを使って通信を行うPoc(Power Over Coax.)と呼ばれる伝送技術を使っている。
【0012】
この信号伝送回路12は、
図2に示されるように構成される信号電源分離回路11により、信号線13を伝搬する信号と、バイアス供給源14から信号線13へ供給されるDC5[V]の直流バイアス電源とを分離している。すなわち、信号電源分離回路11は、信号線13からバイアス供給源14へ信号が流れるのを阻止し、バイアス供給源14から出力される直流バイアス電源を信号線13へ通す。
【0013】
信号線13は各SerDes(Serializer Deserializer:サーデス)回路15,16間にわたって配線されている。SerDes回路15,16は、複数本の信号線を経由して送られて来たパラレル信号をシリアル信号にシリアライズ(Serialize)して1本の信号線へ送出し、1本の信号線を経由して送られて来たシリアル信号をデシリアライズ(Deserialize)してパラレル信号に変換し、複数本の信号線へ送出する回路である。バイアス供給源14から出力される直流バイアス電源は、SerDes回路16に直接供給されると共に、SerDes回路16側の信号電源分離回路11を通って信号線13を伝搬する。信号線13を伝搬した直流バイアス電源は、SerDes回路15側の信号電源分離回路11を通って信号線13から分離して、SerDes回路15へ供給される。各SerDes回路15,6と信号線13との間にはそれぞれコンデンサC1が直列に接続され、信号線13を伝搬する直流バイアス電源の各SerDes回路15,16への通過が、コンデンサC1によってカットされている。信号線13を伝搬する高周波の信号はコンデンサC1を経由して各SerDes回路15,16へ伝えられる。各信号電源分離回路11,11は、コンデンサC1と信号線13の端部に設けられる図示しない同軸ケーブルコネクタとの間に接続されている。各信号電源分離回路11,11の理想的なインピーダンスの周波数特性は、直流では0[Ω]、高周波ではハイインピーダンスを示す特性である。
【0014】
なお、各SerDes回路15,16は、各車載電子機器を制御する各ECU(電子制御ユニット)に接続されている。本開示に示される信号電源分離回路や信号伝送回路を搭載した車両であれば、信号線13に重畳される信号と直流バイアス電源とが良好に分離されて、車載電子機器間の通信が行われる車両Vが提供される。
【0015】
一方のSerDes回路15には例えばイメージセンサ17が複数本の信号線18を介して接続され、SerDes回路15は、イメージセンサ17から複数本の信号線18を介して入力される広帯域の映像信号をシリアライズして1本の信号線13へ送出する。この際、SerDes回路15は、シリアライザ(Serializer)として働き、パラレル信号をシリアル信号に変換して出力する送信器(Tx)となる。
【0016】
他方のSerDes回路16には例えばディスプレイ19が複数本の信号線20介して接続され、SerDes回路16は、信号線13を介してSerDes回路15から送られてくるシリアル映像信号をデシリアライズして、複数本の信号線20を介してディスプレイ19へ出力する。この際、SerDes回路16は、デシリアライザ(Deserializer)として働き、シリアル信号を元のパラレル信号に変換して受信する受信器(Rx)となる。
【0017】
また、SerDes回路16からSerDes回路15側へ、1本の信号線13を逆方向へ制御信号が伝搬し、イメージセンサ17がディスプレイ19側の回路によって制御される。この際、SerDes回路16はシリアライザとして働き、パラレル信号をシリアル信号に変換して出力する送信器(Tx)となる。また、SerDes回路15は、デシリアライザ(Deserializer)として働き、シリアル信号を元のパラレル信号に変換して受信する受信器(Rx)となる。
【0018】
図2は、本実施形態における信号電源分離回路11の構成を示す回路図である。なお、同図において
図1と同一または相当する部分には同一符号を付してその説明は省略する。
【0019】
信号電源分離回路11は、信号および直流バイアス電源が重畳して伝搬する信号線13と直流バイアス電源を出力するバイアス供給源14との間に、フェライトビーズFB及び第1インダクタL1及び第2インダクタL2が直列に接続されて構成されている。さらに、第1インダクタL1には第1抵抗R1が、第2インダクタL2には第2抵抗R2及び第1コンデンサCの直列RC回路がそれぞれ並列に接続されている。
【0020】
図3は、フェライトビーズFBのインピーダンスは100MHzから5GHzの帯域に亘って1000[Ω]以上、第1インダクタL1及び第2インダクタL2のインダクタンス値がそれぞれ10[μH],150[μH]、第1インダクタL1及び第2インダクタL2の直流に対する抵抗値がそれぞれ0.4[Ω],2.4[Ω]、第1抵抗R1及び第2抵抗R2の抵抗値が3300[Ω],1500[Ω]、第1コンデンサCの容量値が100[pF]のときにおける、信号電源分離回路11のインピーダンスの周波数特性を示すグラフである。同グラフの横軸は周波数f[Hz]、縦軸はインピーダンスZ[Ω, ohm]を表す。
【0021】
このように構成される信号電源分離回路11では、フェライトビーズFBは、数百MHzから数GHzの周波数帯信号成分が信号線13からバイアス供給源14へ流入することを阻止する。
【0022】
また、信号電源分離回路11を構成するインダクタ群は、バイアス供給源14が接続された方向へ向かって、フェライトビーズFB、第1インダクタL1、第2インダクタL2の順に直列に配置されることで、低い周波数から高い周波数の信号の流入を阻止できる。
【0023】
また、第1抵抗R1は、第1インダクタL1と基板の間の浮遊容量によって生じる反共振を抑制するので、インピーダンスの周波数特性を緩やかな変化に抑えられる。
【0024】
また、第2抵抗R2及び第1コンデンサから構成される直列RC回路は、低周波領域(例えば5MHz以下)のインピーダンスの周波数特性を上昇させることで、よりインピーダンスの周波数特性の変化を緩やかにできる。
【0025】
このような本実施形態によれば、インピーダンスの周波数特性が改善された信号電源分離回路11を提供することができる。また、この信号電源分離回路11が用いられて信号線13における信号と直流バイアス電源とが分離される信号伝送回路12が構成されるため、信号線13に重畳される信号と直流バイアス電源とが良好に分離されて、各SerDes回路15,16間で通信が行われる信号伝送回路12が提供される。
【0026】
[効果例]
第一に、本開示の信号電源分離回路11は、
信号および直流バイアス電源が重畳して伝搬する信号線13と直流バイアス電源を出力するバイアス供給源14との間に接続されて、基板に実装される信号電源分離回路11であって、
直列に接続されるフェライトビーズFBと第1インダクタL1と第2インダクタL2を備え、
フェライトビーズFBは、インピーダンスの周波数特性において、100MHzから5GHzの帯域に亘って1kohm以上を示し、
第1インダクタL1は、
第1抵抗R1が並列に接続され、
自己共振周波数が100MHz上から600MHz未満であるフェライトインダクタであり、
直流に対する抵抗値が0.4ohm以下であり、
第2インダクタL2は、
第2抵抗R2及び第1コンデンサCが直列に接続される直列RC回路が並列に接続され、
自己共振周波数が4MHz以上6MHz未満であるフェライトインダクタであり、
直流に対する抵抗値が2.4ohm以下であり、
第1抵抗R1は、第1インダクタL1と基板との間に生じる浮遊容量が起こす反共振を低減する抵抗値として、例えば3300[Ω]を示し、
第2抵抗及び前記第1コンデンサは、5MHz未満におけるインピーダンスを上昇するように1500[Ω]と100[pf]などで構成される。
【0027】
このように構成された信号電源分離回路は、インピーダンスの周波数特性の変化を緩やかにできる。特に、基板が多層基板である場合、本発明の効果は更に発揮される。特に、多層基板の内層にグランド層が含まれている場合、効果は更に発揮される。これらの場合では、インダクタとの間に浮遊容量が生じやすく、反共振を起こしやすい。そのような場合であっても、第1抵抗による反共振の抑制機能が作用することにより、インピーダンスの周波数特性は緩やかな変化を維持できる。したがって、上記の基板は、多層基板であり、特に内層にグランド層を含むことが望ましい。
【0028】
第二に、信号電源分離回路11は、インピーダンスの周波数特性が、1MHzから1GHzまでの周波数帯域全体で1kohm以上を示す。
【0029】
第三に、信号伝送回路12は、信号が伝搬する信号線13に直流バイアス電源を重畳させて通信が行われる信号伝送回路12において、上記の信号電源分離回路11が用いられて信号線13における信号と直流バイアス電源とが分離される。
【0030】
第四に、車両Vは、上記の信号伝送回路12が用いられて車載電子機器間の通信が行われる。
【0031】
なお、本発明の信号電源分離回路及び信号伝送回路及び車両を上述した実施の形態の構成にて例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、他の構成においても、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の改良、並びに表示の変更が可能なことは勿論である。
【0032】
例えば、インダクタや抵抗、コンデンサは、インダクタンス値、抵抗値、容量値が上記のように示されたが、これらの値は本発明の効果が発揮される範囲において他の値であってもよい。
【0033】
このような各変形例による各信号電源分離回路11によっても上記の実施形態と同様な作用効果が奏される。
【符号の説明】
【0034】
11…信号電源分離回路
12…信号伝送回路
13…信号線
14…バイアス供給源
15,16…SerDes回路
17…イメージセンサ
19…ディスプレイ
V …車両
FB…共振抑制用インダクタ
L1…第1インダクタ
L2…第2インダクタ
R1…第1抵抗
R2…第2抵抗
C …第1コンデンサ