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特開2024-13560送りねじ装置及びこれを備えた直動アクチュエータ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024013560
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】送りねじ装置及びこれを備えた直動アクチュエータ
(51)【国際特許分類】
   F16H 25/20 20060101AFI20240125BHJP
   F16H 25/22 20060101ALI20240125BHJP
【FI】
F16H25/20 H
F16H25/20 E
F16H25/22 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022115731
(22)【出願日】2022-07-20
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100155457
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】上岡 広樹
(72)【発明者】
【氏名】奥 雄太
【テーマコード(参考)】
3J062
【Fターム(参考)】
3J062AA07
3J062AB22
3J062AC07
3J062BA40
3J062CD02
3J062CD04
3J062CD23
3J062CD79
(57)【要約】
【課題】直動部材を固定側の部材で軸方向から係止してストロークを規制する送りねじ機構を低コスト化する。
【解決手段】送りねじ装置は、内周面に雌ねじ31aを有する回転部30A(ナット31)と、雌ねじ部31aに対して直接的又は間接的に螺合する雄ねじ部32aを外周面に有する直動部30Bと、回転部30A及び直動部30Bを収容するハウジング5と、ハウジング5に固定された外輪6a、回転部30Aと一体又は別体に形成され、回転部30Aと一体に回転する内輪6b、及びこれらの間に配された複数のボール6cを有する転がり軸受6とを備える。直動部30Bを転がり軸受6の外輪6aで軸方向から係止することで、直動部30Bのストロークを規制する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に雌ねじ部を有する回転部と、
前記雌ねじ部に対して直接的又は間接的に螺合する雄ねじ部を外周面に有する直動部と、
前記回転部及び前記直動部を収容するハウジングと、
前記ハウジングに固定された固定輪、前記回転部と一体又は別体に形成され、前記回転部と一体に回転する回転輪、及びこれらの間に配された複数の転動体を有する転がり軸受とを備え、
前記回転部の回転運動を前記直動部の直線運動に変換する送りねじ装置であって、
前記直動部を前記転がり軸受の固定輪で軸方向から係止することで、前記直動部のストロークを規制することを特徴とする送りねじ装置。
【請求項2】
前記ハウジングを含む固定側が、軸方向に延びるガイド部を有し、
前記直動部が、前記回転部の回転方向で前記ガイド部と係合しながら、軸方向に移動可能な回り止めを有し、
前記回り止めを前記転がり軸受の固定輪で軸方向から係止することで、前記直動部のストロークを規制する請求項1に記載の送りねじ装置。
【請求項3】
前記ハウジングが、前記転がり軸受の固定輪が固定された第1ハウジングと、前記ガイド部を有するガイド部材が固定され、又は前記ガイド部が直接形成された第2ハウジングとを有し、
前記第2ハウジングが、前記第1ハウジングよりも強度の低い材料で形成された請求項2に記載の送りねじ装置。
【請求項4】
前記直動部と前記転がり軸受の固定輪とを、スラスト軸受を介して当接させた請求項1~3の何れか1項に記載の送りねじ装置。
【請求項5】
前記直動部が、前記雄ねじ部を有するねじ軸と、前記回り止めとを有し、
前記ねじ軸と前記回り止めが、軸方向の相対位置を調整可能な構造で固定された請求項2又は3に記載の送りねじ装置。
【請求項6】
前記回り止めが、前記ガイド部と前記回転方向で係合する係止部と、前記係止部から軸方向で前記固定輪側に突出した突出部とを有し、
前記突出部が、前記係止部からの軸方向突出量を調整可能な構造で前記係止部に固定された請求項2又は3に記載の送りねじ装置。
【請求項7】
前記回転部と前記転がり軸受の回転輪とが、一部品として一体に形成された請求項1~3の何れか1項に記載の送りねじ装置。
【請求項8】
前記回転部の雌ねじ部と前記直動部の雄ねじ部とをボールを介して螺合させたボールねじ機構を有する請求項1~3の何れか1項に記載の送りねじ装置。
【請求項9】
前記回転部の雌ねじ部と前記直動部の雄ねじ部とを直接的に螺合させたすべりねじ機構を有する請求項1~3の何れか1項に記載の送りねじ装置。
【請求項10】
請求項1~3の何れか1項に記載の送りねじ機構と、前記回転部を回転駆動する電動モータとを備えた直動アクチュエータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転運動を直線運動に変換する送りねじ装置及びこれを備えた直動アクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両等の省力化、低燃費化を目的とした電動化が進んでおり、例えば、自動車の自動変速機やブレーキ、ステアリング等の操作を電動モータの力で行うシステムが開発され、市場に投入されている。このような用途に使用されるアクチュエータとして、電動モータの回転運動を直線運動に変換する送りねじ装置を備えた直動アクチュエータが知られている。
【0003】
例えば、下記の特許文献1には、図8及び図9に示すような直動アクチュエータが示されている。この直動アクチュエータは、外周に雄ねじ部101aが形成されたねじ軸101と、内周に雌ねじ部103aが形成されたナット103と、ねじ軸101の雄ねじ部101aとナット103の雌ねじ部103aとの間に配された多数のボール(図示省略)とからなるボールねじ機構を有する。電動モータ130でナット103を回転駆動することにより、ねじ軸101が自身の軸方向(図中左右方向)に往復動する。ねじ軸101が後方(図中右側)のストロークエンドに達したら、ねじ軸101の外周に固定された回り止め部材102の案内突起102aと、ナット103から軸方向に突出した係止部104とがナット103の回転方向で係合し、ねじ軸101のストロークが規制される。
【0004】
上記の直動アクチュエータでは、ねじ軸101のストロークエンドの位置を一定にするために、ねじ軸101に対する回り止め部材102の固定位置の位相を管理する必要があるため、組立難度が高く、コスト増大につながる。また、ナット103の係止部104が案内突起102aに当接する一回転前(1リード前)の状態では、係止部104と案内突起102aとが当接しないようにする必要がある。そのため、案内突起102aや係止部104の形状がねじ溝(雄ねじ部101a、雌ねじ部103a)のリードによって制限され、具体的には、案内突起102aと係止部104との当接部の軸方向寸法L1をねじ溝のリードL2未満とする必要がある(図8参照)。
【0005】
これに対し、特許文献2のアクチュエータに設けられた送りねじ装置は、図10に示すように、ねじ軸201及びナット202を有し、ねじ軸201の端部を、ハウジング203に設けたストッパ204に軸方向で当接させることで、ねじ軸201のストロークを規制している。この場合、部材間の位相合わせが必要なくなると共に、部材の形状がねじ溝のリードによって制限されることもない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第5293887号公報
【特許文献2】特開2009-228767号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、図10に示す送りねじ装置では、ハウジング203のうち、ねじ軸201が当接する部分に、強度の高い材料で形成されたストッパ204を配する必要があるため、コスト高を招く。
【0008】
そこで、本発明は、直動部材を固定側の部材で軸方向から係止することでストロークを規制する送りねじ機構を低コスト化することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために、本発明は、内周面に雌ねじ部を有する回転部と、前記雌ねじ部に対して直接的又は間接的に螺合する雄ねじ部を外周面に有する直動部と、前記回転部及び前記直動部を収容するハウジングと、前記ハウジングに固定された固定輪、前記回転部と一体又は別体に形成され、前記回転部と一体に回転する回転輪、及びこれらの間に配された複数の転動体を有する転がり軸受とを備え、前記回転部の回転運動を前記直動部の直線運動に変換する送りねじ装置であって、
前記直動部を前記転がり軸受の固定輪で軸方向から係止することで、前記直動部のストロークを規制することを特徴とする。
【0010】
上記のように、直動部を転がり軸受の固定輪で軸方向から係止することで、直動部のストロークを規制する際の荷重を転がり軸受の固定輪で受け持つことができる。転がり軸受の軌道輪は、通常、高強度の材料(例えば軸受鋼)で形成されるため、転がり軸受の固定輪で直動部のストロークを規制する際の荷重を受け持つことで、高強度の材料で形成されたストッパを別途設ける必要がなくなるため、低コスト化が図られる。
【0011】
上記の送りねじ装置では、直動部材の回転を規制するために、ハウジングを含む固定側に軸方向に延びるガイド部を設け、直動部に、回転部の回転方向でガイド部と係合しながら、軸方向に移動可能な回り止めを設けることがある。この回り止めを転がり軸受の固定輪で軸方向から係止することで直動部のストロークを規制すれば、固定輪に係止させるための別途の部材を直動部に設ける必要がないため、部品数を削減できる。
【0012】
ところで、図8及び図9に示す直動アクチュエータにおいて、操作対象からねじ軸101に軸方向の荷重が加わると、この荷重が、ねじ軸101→雄ねじ部101aと雌ねじ部103aとの間に配されたボール→ナット103→転がり軸受110→ハウジング120へと伝達される。一方、ねじ軸101がストロークエンドに達して、ナット103の係止部104が回り止め部材102の案内突起102aに回転方向で当接すると、この係止部104と案内突起102aとの衝突による荷重が、ガイド部材140を介してハウジング120に伝達される。以上のように、ねじ軸101に軸方向の荷重が加わったときと、ねじ軸101がストロークエンドに達して係止部104が案内突起102aに衝突したときとで、荷重がハウジング120に伝わる経路が異なる。そのため、ハウジング120のうち、転がり軸受110の外輪が取り付けられる部分121(図9参照)と、ガイド部材140が取り付けられる部分122とを、上記の荷重に耐えられる高強度の材料で形成する必要がある。
【0013】
また、図10に示す直動アクチュエータにおいて、操作対象からねじ軸201に軸方向の荷重が加わると、この荷重が、ねじ軸201→ねじ軸201とナット202との間に配されたボール→ナット202→転がり軸受205→ハウジング203へと伝達される。一方、ねじ軸201がストッパ204に当接したとき、このときの荷重は、ストッパ204を介してハウジング203に伝達される。以上のように、ねじ軸201に軸方向の荷重が加わったときと、ねじ軸201がストッパ204に当接したときとで、荷重がハウジング203に伝わる経路が異なる。そのため、ハウジング203のうち、少なくとも転がり軸受205の外輪が取り付けられる部分と、ストッパ204が取り付けられる部分とを、上記の荷重に耐えられる高強度の材料で形成する必要がある。
【0014】
これらに対し、上記のように、直動部に設けた回り止めを転がり軸受の固定輪で軸方向から係止することで直動部のストロークを規制する場合、直動部のストロークを規制する際の衝撃は、転がり軸受の固定輪を介してハウジングへと伝達される。一方、直動部に軸方向の外力が加わったときは、上記の従来品と同様に、直動部→転動体→回転部→転がり軸受→ハウジングという経路で荷重が伝達される。以上のように、直動部のストロークを規制するときの荷重と、直動部に軸方向の外力が加わったときの荷重とが、何れも転がり軸受の固定輪を介してハウジングに伝達される。従って、ハウジングのうち、転がり軸受の固定輪が取り付けられる部分のみを高強度化すればよい。例えば、ハウジングが、転がり軸受の固定輪が取り付けられた第1ハウジングと、ガイド部が取り付けられ、又は前記ガイド部が直接形成された第2ハウジングとを有する場合、第2ハウジングを、第1ハウジングよりも強度の低い安価な材料で形成することで、第2ハウジングの材料コストを低減できる。
【0015】
直動部が転がり軸受の固定輪に強い力で押し付けられると、この接触部を起点としてねじ部(雄ねじ部と雌ねじ部との直接的又は間接的な螺合部)で噛み込みが生じ、回転部の再始動を阻害する恐れがある。そこで、直動部と転がり軸受の固定輪とを、スラスト軸受を介して当接させることが好ましい。これにより、直動部と転がり軸受の固定輪との接触部における摩擦力が低減されるため、この接触部を起点としたねじ部の噛み込みが生じ難くなり、回転部をスムーズに再始動させることが可能となる。
【0016】
直動部が、雄ねじ部を有するねじ軸と、ねじ軸に固定された回り止めとを有する場合、ねじ軸と回り止めを、軸方向の相対位置を調整可能な構造で固定することが好ましい。この場合、ねじ軸に対する回り止めの軸方向位置を調整することで、直動部のストロークエンドの位置を調整することができる。
【0017】
回り止めが、ガイド部と回転部の回転方向で係合する係止部と、前記係止部から軸方向で前記固定輪側に突出した突出部とを有する場合、この突出部を、係止部からの軸方向突出量を調整可能な構造で係止部に固定してもよい。この場合、係止部からの突出部の軸方向突出量を調整することで、直動部のストロークエンドの位置を調整することができる。
【0018】
上記の送りねじ装置は、回転部の雌ねじ部と直動部の雄ねじ部とをボールを介して螺合させたボールねじ機構、あるいは、回転部の雌ねじ部と直動部の雄ねじ部とを直接的に螺合させたすべりねじ機構を有することができる。
【発明の効果】
【0019】
以上のように、本発明の送りねじ装置によれば、直動部を軸方向から係止してストロークを規制する別途の高強度の部材(ストッパ)を設ける必要がなくなるため、低コスト化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の第1実施形態に係る直動アクチュエータの断面図である。
図2】上記直動アクチュエータに設けられるボールねじ機構の斜視図である。
図3】上記直動アクチュエータの図1のX-X線における矢視断面図である。
図4】本発明の第2実施形態に係るボールねじ機構の断面図である。
図5】本発明の第3実施形態に係るボールねじ機構の断面図である。
図6】本発明の第4実施形態に係るボールねじ機構の断面図である。
図7】本発明の第5実施形態に係るボールねじ機構の断面図である。
図8】従来(特許文献1)の直動アクチュエータの断面図である。
図9図8の直動アクチュエータのY-Y線における矢視断面図である。
図10】従来(特許文献2)の直動アクチュエータの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の第1実施形態を図1~3に基づいて説明する。
【0022】
図1に示す電動アクチュエータは、出力部材が軸方向に進退移動(直線運動)する、いわゆる直線運動型の電動アクチュエータ(直動アクチュエータ1)である。この直動アクチュエータ1は、電動モータ2と、回転部30A及び直動部30Bを有する運動変換機構3と、電動モータ2から運動変換機構3の回転部30Aに回転駆動力を伝達する伝達ギヤ機構4と、これらを収容するハウジング5とを備える。尚、以下の説明では、運動変換機構3の回転部30Aの回転軸方向(図1の左右方向)を「軸方向」と言い、軸方向で直動部30Bの先端側{操作対象が取り付けられる端部側(図1の左側)}を「前方」、その反対側(図1の右側)を「後方」と言う。
【0023】
本実施形態においては、組み立ての都合上、ハウジング5が複数の部材に分割されている。図示例では、ハウジング5は、第1ハウジング5aと、第1ハウジング5aの前方側に取り付けられた第2ハウジング5bと、第1ハウジング5aの後方側に取り付けられた第3ハウジング5cとで構成される。第1ハウジング5aは、電動モータ2が取り付けられる第1環状部5a1と、運動変換機構3の外周に配された第2環状部5a2とを一体に有する。本実施形態では、第1ハウジング5aが金属、例えばアルミニウム合金で形成され、第2ハウジング5b及び第3ハウジング5cが樹脂で形成される。尚、ハウジング5の構成は上記に限らず、例えば、第1ハウジング5aと第2ハウジング5bを一部品として一体形成したり、第1ハウジング5aと第3ハウジング5cを一部品として一体形成したりしてもよい。また、第2ハウジング5bおよび第3ハウジング5cの一方又は双方を金属、例えばアルミニウム合金で形成してもよい。
【0024】
運動変換機構3は、筒状のナット31を有する回転部30Aと、ナット31の回転に伴って直線運動するねじ軸32を有する直動部30Bと、複数のボール33とを備えたボールねじ機構30で構成される。ボールねじ機構30とハウジング5とで、本発明の第1実施形態に係る送りねじ装置が構成される。
【0025】
ナット31の内周面には、螺旋状の溝から成る雌ねじ部31aが設けられている。ねじ軸32の外周面には、螺旋状の溝から成る雄ねじ部32aが設けられている。ナット31の内周にねじ軸32を挿通した状態では、雌ねじ部31aと雄ねじ部32aとが半径方向で対向し、これらの間に複数のボール33が収容されている。これらのボール33を介して雌ねじ部31aと雄ねじ部32aとが螺合することにより、ねじ軸32が、電動モータ2の回転軸2aと平行な状態で支持される。
【0026】
ナット31は、第1ハウジング5aの第2環状部5a2の内周面に設けられた転がり軸受6によって回転自在に支持されている。転がり軸受6としては、例えば玉軸受やころ軸受が使用可能であり、図示例では深溝玉軸受が使用される。転がり軸受6は、第1ハウジング5aの内周面に取り付けられた固定輪としての外輪6aと、ボールねじ装置30の回転部30A(ナット31)と一体回転可能に設けられた回転輪としての内輪6bと、これらの間に配された複数の転動体としてのボール6cとを有する。転がり軸受6の外輪6a及び内輪6bは、金属、例えば鋼、特に軸受鋼で形成される。ボール6cは、金属、例えば鋼、特にステンレス鋼で形成される。ナット31は、金属、例えば鋼で形成される。本実施形態では、ナット31と内輪6bとが一部品として一体に形成されている。
【0027】
ねじ軸32の先端には、操作対象を取り付けるための取付部32bが設けられる。図示例では、ねじ軸32が、雄ねじ部31aを有する本体32cと、取付部32bを有する先端部32dとを有する。尚、ねじ軸32の本体32c及び先端部32dを一部品として一体に形成してもよい。
【0028】
直動部30Bは、ねじ軸32の軸心周りの回転を規制する回り止め34を有する。回り止め34は、図2に示すように、ねじ軸32の外周に固定された円盤部34aと、円盤部34aから外径側に突出した係止部34bと、係止部34bから後方に突出した突出部34cとを有する。図示例では、係止部34bが、周方向等間隔の複数箇所(図2では2箇所)に設けられ、各係止部34bに突出部34cが設けられている。突出部34cは、転がり軸受6の外輪6aと軸方向で対向する位置に設けられる。すなわち、突出部34cが、軸方向から見て外輪6aの少なくとも一部と重なるように配される(図3参照)。突出部34cは、転がり軸受6の内輪6bよりも外径側に配される(図1参照)。回り止め34は、金属、例えば鋼で形成される。図示例では、円盤部34a、係止部34b、および突出部34cが一部品として一体に形成されている。
【0029】
図1及び図3に示すように、第2ハウジング5bの内周面にはガイド部材35が固定される。ハウジング5及びガイド部材35が固定側となる。ガイド部材35は、金属や樹脂で形成される。ガイド部材35は、回り止め34の係止部34bに対応して設けられ、図示例では、周方向等間隔の2箇所に設けられる。各ガイド部材35は、軸方向に延びるガイド溝35aを有し、このガイド溝35aがガイド部となる。図3に示すように、各ガイド溝35a内に、回り止め34の各係止部34bが配される。係止部34bが、ガイド部材35とナット31の両回転方向(正回転方向及び逆回転方向)で係合することにより、回り止め34及びねじ軸32の回転が規制される。また、係止部34bは、ガイド溝35aと隙間を介して嵌合している。これにより、係止部34bがガイド溝35aと摺動しながら、ねじ軸32及び回り止め34を含む直動部30Bが一体に軸方向に移動可能とされる。尚、ガイド部材35を、第2ハウジング5bと一体に形成してもよい。すなわち、第2ハウジング5bに、ガイド部となるガイド溝35aを直接形成してもよい。
【0030】
回り止め34は、ねじ軸32に対して、軸方向の相対位置を調整可能な構造で固定される。図示例では、ねじ軸32の外周面に円筒面が設けられ、回り止め34の内周面に円筒面が設けられ、両円筒面が嵌合している(図1参照)。ねじ軸32の円筒面は、回り止め34の円筒面よりも軸方向寸法が大きい。これにより、回り止め34の円筒面をねじ軸32の円筒面に嵌合させながら、軸方向に移動可能とされる。このように、ねじ軸32に対する回り止め34の軸方向位置を調整することにより、ねじ軸32がストロークエンドの位置を調整することができる。そして、回り止め34をねじ軸32に対して所定の軸方向位置に配した状態で、回り止め34をねじ軸32に固定する。例えば、ねじ軸32の肩部と回り止め34との軸方向間に適当な厚さのシムを介在させた状態で、回り止め34を加締めや溶接によりねじ軸32に固定する。
【0031】
図1に示すように、伝達ギヤ機構4は、電動モータ2の回転軸2aに固定された第1伝達ギヤ41と、第1伝達ギヤ41と噛み合う第2伝達ギヤ42によって構成されている。第2伝達ギヤ42とナット31とは、一体回転可能な状態で固定される。図示例では、第2伝達ギヤ42とナット31とが、キー43を介して回転方向で係合することで、これらが一体に回転可能とされる。
【0032】
上記の如く構成された直動アクチュエータ1において、電動モータ2の回転軸2aが回転すると、その回転運動が第1伝達ギヤ41及び第2伝達ギヤ42を介してナット31へ伝達される。そして、ナット31が回転すると、複数のボール33が、雌ねじ部31a及び雄ねじ部32aと図示しない循環部材とで形成される循環路を循環しながら、ねじ軸32が軸方向に前進又は後退する。このとき、ねじ軸32は、ナット31の回転運動によって連れ回ろうとするが、ねじ軸32に設けられた回り止め34の係止部34bがガイド部材35のガイド溝35aに回転方向で係合することにより、ねじ軸32の回転が規制される。これにより、ねじ軸32が回転することなく前進又は後退する。
【0033】
ねじ軸32を後退させてストロークエンド(後端位置)に達すると、図1に示すように、回り止め34の突出部34cが転がり軸受6の外輪6aにより軸方向後方側から係止される。図示例では、突出部34cが外輪6aに軸方向前方側から当接する。これにより、回り止め34及びねじ軸32のそれ以上後方への移動が規制される。すなわち、回り止め34の突出部34cが、転がり軸受6の外輪6aで係止されてねじ軸32のストロークを規制するストローク規制部として機能する。このように、直動部30Aに設けられた突出部34cを、軸受鋼等の高強度の金属で形成された外輪6aで係止してねじ軸32のストロークを規制することで、別途の高強度の部材を設ける必要がないため、コストが低減される。本実施形態では、ねじ軸32の回転を規制する回り止め34に、ストローク規制部として機能する突出部34cを設けているため、部品数が削減されてコストがさらに低減される。
【0034】
図1のように回り止め34の突出部34cが外輪6aに軸方向から当接すると、このときの衝撃が外輪6aを介してハウジング5に伝達される。一方、ねじ軸32に軸方向の外力F(図1参照)が加わったとき、この外力Fは、直動部30B(ねじ軸32)→ボールねじ機構30のボール33→回転部30A(ナット31)及び内輪6b→転がり軸受6のボール6c→外輪6a→ハウジング5という経路で伝達される。以上のように、何れの場合にも、転がり軸受6の外輪6aを介してハウジング5に荷重が伝達されるため、ハウジング5のうち、外輪6aが取り付けられる部分(図示例では第1ハウジング5a)を高強度の材料で形成すれば、上記の何れの荷重にも耐えることができる。これにより、ハウジング5のその他の部分(図示例では、第2ハウジング5b及び第3ハウジング5c)を、第1ハウジング5aよりも強度(特に、引張強度)の低い安価な材料(例えば樹脂)で形成することができるため、さらなる低コスト化が図られる。
【0035】
本発明は上記の実施形態に限られない。以下、本発明の他の実施形態を説明するが、上記の実施形態と同様の点については重複説明を省略する。
【0036】
図4に示す第2実施形態では、回り止め34の突出部34cと転がり軸受6の外輪6aとを、スラスト軸受50を介して当接させている点で、上記の実施形態と異なる。スラスト軸受50としては、例えば転がり軸受、具体的には針状ころ軸受を使用できる。スラスト軸受50は、円盤状の一方の軌道輪と、円盤状の他方の軌道輪と、両軌道輪の軸方向間に配された複数の転動体(例えば針状ころ)とを有する。両軌道輪には、ナット31の軸心を中心とした環状の軌道面が設けられる。両軌道輪は軸方向で互いに対向し、これらの間に複数の転動体が配される。両軌道輪は、回転部30Aの軸心周りに相対回転自在とされる。
【0037】
本実施形態では、スラスト軸受50が、回り止め34の突出部34cの後方端部に設けられる。具体的に、スラスト軸受50の一方の軌道輪は、突出部34cの後方端部に固定され、あるいは、突出部34cの後方端部に一体に設けられる。スラスト軸受50の他方の軌道輪は、一方の軌道輪に対して回転自在であり、且つ、転がり軸受6の外輪6aに対して軸方向に接近離反可能とされる。この他、スラスト軸受50を、転がり軸受6の外輪の前方端部に設けてもよい。この場合、スラスト軸受50の他方の軌道輪は、転がり軸受6の外輪6aの前方端部に固定され、あるいは、外輪6aの前方端部に一体に設けられる。スラスト軸受50の一方の軌道輪は、他方の軌道輪に対して回転自在であり、且つ、突出部34cに対して軸方向に接近離反可能とされる。
【0038】
図1に示すように回り止め34の突出部34cが転がり軸受6の外輪6aに当接したとき、突出部34cを外輪6aに強く押し付けると、これらの接触部を起点としてボールねじ機構30に噛み込みが生じることがある。この場合、その後にナット31を逆回転させてねじ軸32を前進させようとしても、上記の噛み込みによりナット31の再始動が阻害される。図4に示す実施形態では、突出部34cと転がり軸受6の外輪6aとをスラスト軸受50を介して当接させることで、この接触部における摩擦力が低減される。この場合、突出部34cが外輪6aに強く押し付けられた状態でも、係止部34bとガイド部材35との間の周方向隙間(図3参照)の分だけ、係止部34b及び突出部34cが外輪6aに対して自由に回転することができるため、突出部34cと外輪6aとの接触部を起点としたボールねじ機構30の噛み込みが生じ難くなり、ナット31をスムーズに再始動させることができる。
【0039】
図5に示す第3実施形態は、回り止め34の係止部34bと突出部34cとが別部材で形成されている点で上記の実施形態と異なる。具体的に、係止部34bに軸方向の貫通孔34dを形成すると共に、この貫通孔34dにピン60を挿入して固定する。貫通孔34dとピン60とは、例えば圧入により固定される。ピン60のうち、係止部34bから後方に突出した部分が突出部34cとなる。この場合、係止部34bからのピン60の軸方向突出量を調整することにより、ねじ軸32の後方側のストロークエンドの位置を調整することができる。
【0040】
図6に示す第4実施形態では、回り止め34に突出部34cが設けられておらず、転がり軸受6の外輪6aを軸方向前方に延長した点で上記の実施形態と異なる。外輪6aの前方側の端面は、内輪6b(ナット31)の前方側の端面よりも前方に配される。ナット31を回転させてねじ軸32を後退させ、回り止め34の係止部34bの後方側の端面が外輪6aの前方側の端面と当接すると、ねじ軸32のストロークが規制される。すなわち、この実施形態では、回り止め34の係止部34bが、ねじ軸32のストロークを規制するストローク規制部として機能する。
【0041】
図7に示す第5実施形態では、ナット31と内輪6bとが別体に形成されている点で、上記の実施形態と異なる。内輪6bは、ナット31の外周に例えば圧入により固定される。図示例では、ナット31の外周面の前方端部に小径部31bが設けられ、この小径部31bに内輪6bが固定される。内輪6bを、小径部31bの後方端部から外径側に延びる肩面31cに前方から当接させることで、内輪6bがナット31に対して軸方向に位置決めされる。
【0042】
以上の実施形態では、ねじ軸32の回転を規制する回り止め34に、ねじ軸32のストロークを規制するストローク規制部(突出部34c)を設けた場合を示したが、これに限らず、ねじ軸32の回転を規制する回り止め34と、ねじ軸32のストロークを規制するストローク規制部とを別部材としてもよい。
【0043】
また、以上の実施形態では、運動変換機構3がボールねじ機構30である場合を示したが、これに限らず、雄ねじ部32aと雌ねじ部31aとをボール33を介さずに直接的に螺合させるすべりねじ機構であってもよい。
【符号の説明】
【0044】
1 直動アクチュエータ
2 電動モータ
3 運動変換機構
4 伝達ギヤ機構
5 ハウジング
5a 第1ハウジング
5b 第2ハウジング
5c 第3ハウジング
6 転がり軸受
6a 外輪(固定輪)
6b 内輪(回転輪)
6c ボール(転動体)
30 ボールねじ機構
30A 回転部
30B 直動部
31 ナット
32 ねじ軸
33 ボール
34a 円盤部
34b 係止部
34c 突出部(ストローク規制部)
35 ガイド部材
35a ガイド溝(ガイド部)
41 第1伝達ギヤ
42 第2伝達ギヤ
50 スラスト軸受
60 ピン
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10