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特開2024-135611インクジェットインク組成物及び記録方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024135611
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】インクジェットインク組成物及び記録方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/322 20140101AFI20240927BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20240927BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
C09D11/322
B41M5/00 120
B41J2/01 501
B41J2/01 401
B41J2/01 305
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023046391
(22)【出願日】2023-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】住吉 昭信
(72)【発明者】
【氏名】内田 健太
(72)【発明者】
【氏名】水瀧 雄介
【テーマコード(参考)】
2C056
2H186
4J039
【Fターム(参考)】
2C056EA01
2C056EA04
2C056EA13
2C056EA14
2C056EC12
2C056EC31
2C056FA04
2C056FA10
2C056FA13
2C056FC01
2H186BA10
2H186DA14
2H186FB11
2H186FB15
2H186FB16
2H186FB17
2H186FB25
2H186FB29
2H186FB30
2H186FB48
2H186FB58
4J039AD09
4J039AD14
4J039BA04
4J039BC07
4J039BC33
4J039BE01
4J039BE22
4J039CA06
4J039EA38
4J039EA41
4J039EA42
4J039EA43
4J039EA46
4J039GA24
(57)【要約】
【課題】得られる画像の発色性が良好かつ堅牢性が良好で、ノズルの目詰まりが生じにくいインクジェットインク組成物を提供する。
【解決手段】自己分散顔料と、水溶性樹脂と、ベタインと、を含有し、前記自己分散型顔料が、顔料にリン含有基が導入された自己分散顔料であり、前記水溶性樹脂が、酸価が250mgKOH/g以上600mgKOH/g以下であり、前記自己分散顔料の含有量が、インク組成物の総質量に対し3.5質量%以上8.5質量%以下であり、前記水溶性樹脂に対する前記自己分散顔料の質量比(自己分散顔料/水溶性樹脂)が、2.8以上30未満であり、前記ベタインの含有量が、インク組成物の総質量に対し2.5質量%以上9.5質量%以下である、水系のインクジェットインク組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自己分散顔料と、水溶性樹脂と、ベタインと、を含有し、
前記自己分散型顔料が、顔料にリン含有基が導入された自己分散顔料であり、
前記水溶性樹脂が、酸価が250mgKOH/g以上600mgKOH/g以下であり、
前記自己分散顔料の含有量が、インク組成物の総質量に対し3.5質量%以上8.5質量%以下であり、
前記水溶性樹脂に対する前記自己分散顔料の質量比(自己分散顔料/水溶性樹脂)が、2.8以上30未満であり、
前記ベタインの含有量が、インク組成物の総質量に対し2.5質量%以上9.5質量%以下である、水系のインクジェットインク組成物。
【請求項2】
請求項1において、
前記リン含有基がホスホン酸基である、インクジェットインク組成物。
【請求項3】
請求項1又は請求項2において、
前記水溶性樹脂の含有量が、インク組成物の総質量に対し0.3質量%以上2質量%以下である、インクジェットインク組成物。
【請求項4】
請求項1又は請求項2において、
樹脂粒子の含有量が、インク組成物の総質量に対し0.1質量%未満である、インクジェットインク組成物。
【請求項5】
請求項1又は請求項2において、
前記水溶性樹脂が、アクリル系樹脂又はマレイン酸系樹脂から選択される、インクジェットインク組成物。
【請求項6】
請求項1又は請求項2において、
前記水溶性樹脂における水溶性単量体の構成比が、水溶性樹脂の全単量体を100質量%としたときに、30質量%以上60質量%以下である、インクジェットインク組成物。
【請求項7】
請求項1又は請求項2において、
前記ベタインが、トリアルキルグリシンから選択される、インクジェットインク組成物。
【請求項8】
請求項1又は請求項2において、
吸収性記録媒体への記録に用いられるものである、インクジェットインク組成物。
【請求項9】
請求項1又は請求項2において、
標準沸点が280℃超のポリオール類を含有する、インクジェットインク組成物。
【請求項10】
インクジェットヘッドを有するインクジェット記録装置を用いて行われ、
前記インクジェットヘッドからインクジェットインク組成物を吐出して記録媒体へ付着させる工程を備え、
前記インクジェットインク組成物は、請求項1又は2に記載のインクジェットインク組成物である、
記録方法。
【請求項11】
請求項10において、
記録速度が20枚/分以上である、記録方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットインク組成物及び記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
幅広い分野でインクジェット記録が行われている。インクジェット記録は、家庭用、ビジネス用にも盛んに採用されている。さらに、リモートワーク、SOHOも増え、家庭での印刷も増加している。
【0003】
例えば、特許文献1には、インク組成物を補充可能なインク室と開閉可能なインク注入口とを有し、前記インク室が外気と連通可能なインク容器に注入されるインク組成物であって、顔料と、樹脂と、有機溶剤と、を含有するインク組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015-061896号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電子写真方式などの印刷方法と比較して、インクジェット印刷物は普通紙での発色に劣る。これは、インクジェットインク組成物が液体である特性上、インクと共に色材が記録媒体内に浸透してしまい表面に残らないことが一因である。また、記録媒体上の画像の耐擦過性向上のために、分散体樹脂(樹脂粒子)を用いると、インクジェットインク組成物の乾燥時に、樹脂粒子が乾燥・膜化することで固化してしまい、記録装置の目詰まり時の回復性が悪化する場合があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るインクジェットインク組成物の一態様は、水系のインクジェットインク組成物であって、
自己分散顔料と、水溶性樹脂と、ベタインと、を含有し、
前記自己分散型顔料が、顔料にリン含有基が導入された自己分散顔料であり、
前記水溶性樹脂が、酸価が250mgKOH/g以上600mgKOH/g以下であり、
前記自己分散顔料の含有量が、インク組成物の総質量に対し3.5質量%以上8.5質量%以下であり、
前記水溶性樹脂に対する前記自己分散顔料の質量比(自己分散顔料/水溶性樹脂)が、2.8以上30未満であり、
前記ベタインの含有量が、インク組成物の総質量に対し2.5質量%以上9.5質量%以下である。
【0007】
本発明に係る記録方法の一態様は、
インクジェットヘッドを有するインクジェット記録装置を用いて行われ、
前記インクジェットヘッドからインクジェットインク組成物を吐出して記録媒体へ付着させる工程を備え、
前記インクジェットインク組成物が、上述のインクジェットインク組成物である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】インクジェット記録装置の一例の概略図。
図2】インクジェット記録装置の一例のブロック図。
図3】実施例の組成物の配合等を示す表(表1)。
図4】実施例及び比較例の組成物の配合等を示す表(表2)。
図5】比較例及び参考例の組成物の配合等を示す表(表3)。
図6】実施例の組成物の評価結果を示す表(表4)。
図7】実施例及び比較例の組成物の評価結果を示す表(表5)。
図8】比較例及び参考例の組成物の評価結果を示す表(表6)。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に本発明の実施形態について説明する。以下に説明する実施形態は、本発明の例を説明するものである。本発明は以下の実施形態になんら限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される各種の変形形態も含む。なお、以下で説明される構成の全てが本発明の必須の構成であるとは限らない。
【0010】
1.インクジェットインク組成物
本実施形態のインクジェットインク組成物は、自己分散顔料と、水溶性樹脂と、ベタインと、を含有する水系の組成物である。
【0011】
1.1.自己分散顔料
本実施形態のインクジェットインク組成物は、顔料にリン含有基が導入された自己分散顔料を含有する。自己分散顔料とは、樹脂あるいは界面活性剤などの分散剤なしに水性媒体中に分散及び/又は溶解することが可能な顔料である。ここで、「分散剤なしに水性媒体中に分散及び/又は溶解」とは、顔料を分散させるための分散剤を用いなくても、その表面の親水基により、顔料が水性媒体中に安定に存在している状態を指す。
【0012】
自己分散顔料を含有するインクジェットインク組成物は、顔料を分散させるための分散剤を含有させる必要が無く、分散剤に起因する気泡の発生や消泡性の低下がほとんど無く、吐出安定性に優れたものとしやすい。また、分散剤に起因する気液界面での乾燥による異物の発生が抑えられることから吐出信頼性にも優れる。また、分散剤に起因する大幅な粘度上昇が抑えられるため、顔料をより多く含有させることが可能となり、印字濃度をより高めることができる場合がある。
【0013】
さらに、自己分散顔料は、記録媒体にカルシウムが含まれる場合には、これと反応することにより、発色性に優れた画像を形成しやすい。本実施形態の自己分散顔料は、リン含有基が表面に結合した自己分散顔料であるので、そのような発色性が得られやすい。特にホスホン酸基が表面に結合した自己分散顔料においてこの傾向が強い。
【0014】
自己分散顔料は、顔料粒子の表面にアニオン性樹脂を物理的に吸着させたものや、アニオン性樹脂で顔料を包含して分散された樹脂分散顔料と比べ、画像の定着性はやや劣る傾向があるが、本実施形態のインクジェットインク組成物は、後述する水溶性樹脂を用いることにより画像の定着性を優れたものとできる。
【0015】
リン含有基が導入された自己分散顔料としては、リン含有基が直接又は他の原子団を介して顔料表面に結合してなる顔料が挙げられる。
【0016】
自己分散顔料の表面が有するリン含有基としては、リン酸基、ホスホン酸基、-POHM、-PO、などが挙げられる。これらの中でも、リン酸基がより好ましい。式中のMは、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、又は有機アミンを表し、Rは、炭素原子数1以上12以下のアルキル基又は置換基を有していてもよいナフチル基を表す。
【0017】
また、他の原子団としては、炭素原子数1以上12以下の直鎖又は分岐のアルキレン基、フェニレン基、ナフチレン基、アミド基、スルホニル基、アミノ基、カルボニル基、エステル基、エーテル基及びこれらの基を組み合わせた基などが挙げられる。
【0018】
これらの自己分散顔料としては、公知の方法によりリン含有基を顔料粒子の表面に結合させたものや、ジアゾカップリングなどリン含有基を含む官能基を顔料粒子の表面に結合させたものが挙げられ、いずれも好適に用いることができる。顔料粒子の表面にアニオン性樹脂を結合させた自己分散顔料を用いてもよく、親水性ユニットとして、少なくともリン含有基を有するユニットを有する樹脂が、顔料粒子の表面に直接又は他の原子団を介して結合してなるものである。
【0019】
自己分散型とし得る顔料としては、特に制限されず、顔料種としては、カーボンブラック、炭酸カルシウム、酸化チタンなどの無機顔料、アゾ顔料、イソインドリノン顔料、ジケトピロロピロール顔料、フタロシアニン顔料、キナクリドン顔料、アントラキノン顔料などの有機顔料などを用いてもよい。
【0020】
ブラック顔料としては、No.2300、No.900、MCF88、No.33、No.40、No.45、No.52、MA7、MA8、MA100、No.2200B等(以上、三菱化学株式会社製)、Raven 5750、Raven 5250、Raven 5000、Raven 3500、Raven 1255、Raven 700等(以上、コロンビアカーボン社製)、Rega1 400R、Rega1 330R、Rega1 660R、Mogul L、Monarch 700、Monarch 800、Monarch 880、Monarch 900、Monarch 1000、Monarch 1100、Monarch 1300、Monarch 1400等(以上、キャボット社製)、Color Black FW1、Color Black FW2、Color Black FW2V、Color Black FW18、Color Black FW200、Color B1ack S150、Color Black S160、Color Black S170、Printex 35、Printex U、Printex V、Printex 140U、Special Black 6、Special Black 5、Special Black 4A、Special Black 4(以上、デグッサ社製)等が挙げられる。
【0021】
ホワイト顔料としては、C.I.ピグメントホワイト 1(塩基性炭酸鉛)、4(酸化亜鉛)、5(硫化亜鉛と硫酸バリウムの混合物)、6(酸化チタン),6:1(他の金属酸化物を含有する酸化チタン)、7(硫化亜鉛)、18(炭酸カルシウム),19(クレー)、20(雲母チタン)、21(硫酸バリウム)、22(天然硫酸バリウム)、23(グロスホワイト)、24(アルミナホワイト)、25(石膏)、26(酸化マグネシウム・酸化ケイ素)、27(シリカ)、28(無水ケイ酸カルシウム)等が挙げられる。
【0022】
イエロー顔料としては、C.I.ピグメントイエロー 1、2、3、4、5、6、7、10、11、12、13、14、16、17、24、34、35、37、53、55、65、73、74、75、81、83、93、94、95、97、98、99、108、109、110、113、114、117、120、124、128、129、133、138、139、147、151、153、154、167、172、180等が挙げられる。
【0023】
マゼンタ顔料としては、C.I.ピグメントレッド 1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、14、15、16、17、18、19、21、22、23、30、31、32、37、38、40、41、42、48(Ca)、48(Mn)、57(Ca)、57:1、88、112、114、122、123、144、146、149、150、166、168、170、171、175、176、177、178、179、184、185、187、202、209、219、224、245、及びC.I.ピグメントバイオレット19、23、32、33、36、38、43、50等が挙げられる。
【0024】
シアン顔料としては、C.I.ピグメントブルー 1、2、3、15、15:1、15:2、15:3、15:34、15:4、16、18、22、25、60、65、66、及びC.I.バットブルー 4、60等が挙げられる。
【0025】
ブラック、ホワイト、イエロー、マゼンタ及びシアン以外の顔料としては、例えば、C.I.ピグメントグリーン 7、10、及びC.I.ピグメントブラウン 3、5、25、26、及びC.I.ピグメントオレンジ 1、2、5、7、13、14、15、16、24、34、36、38、40、43、63等が挙げられる。
【0026】
なお、カラー顔料としては、カラーインデックスに記載されているピグメントイエロー、ピグメントレッド、ピグメントバイオレット、ピグメントブルーなどの顔料の他、フタロシアニン系、アゾ系、アントラキノン系、アゾメチン系、縮合環系などの顔料が挙げられる。また、黄色4号、5号、205号、401号;橙色228号、405号;青色1号、404号などの有機顔料や、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、酸化鉄、群青、紺青、酸化クロームなどの無機顔料が挙げられる。
【0027】
上記例示した顔料は、リン含有基が直接又は他の原子団を介して粒子表面に結合してなる顔料とすることができる。
【0028】
一方、カーボンブラック以外の顔料の自己分散顔料としては、例えば、顔料表面にフェニル基を介してリン含有基を結合させたものが挙げられる。リン含有基である上記官能基あるいはその塩を顔料表面にフェニル基を介して、結合させる表面処理手段としては、種々の公知の表面処理手段を適用することができる。
【0029】
自己分散顔料(固形分)の含有量は、インクジェットインク組成物の総質量に対し3.5質量%以上8.5質量%以下である。また、自己分散顔料(固形分)の含有量は、インクジェットインク組成物の総質量に対し、好ましくは4質量%以上であり、より好ましくは4.5質量%以上である。また、自己分散顔料(固形分)の含有量は、インクジェットインク組成物の総質量に対し、好ましくは8質量%以下であり、より好ましくは7.5質量%以下であり、特に好ましくは7質量%以下である。自己分散顔料の含有量が上記範囲内にあると、発色性や目詰まり回復性により優れる場合がある。
【0030】
本実施形態のインクジェットインク組成物においては、水溶性樹脂に対する自己分散顔料の質量比(自己分散顔料/水溶性樹脂)は、2.8以上30未満となるように、両者の配合量が設定される。また、かかる質量比は、3.0以上28未満が好ましく、3.2以上25未満がさらに好ましい。
【0031】
自己分散顔料に対して水溶性樹脂の量が少ないと、画像の耐擦性が劣る場合があり、自己分散顔料に対して水溶性樹脂の量が多いと、目詰まり性が悪くなる場合がある。
【0032】
なお、リン含有基を有する自己分散顔料は、リン含有基以外のアニオン性基を含んでもよい。さらに、本実施形態のインクジェットインク組成物は、リン含有基を有しない自己分散顔料を含んでもよい。
【0033】
1.2.水溶性樹脂
本実施形態のインクジェットインク組成物は、酸価が250mgKOH/g以上600mgKOH/g以下である水溶性樹脂を含有する。また、かかる水溶性樹脂の含有量は、水溶性樹脂に対する自己分散顔料の質量比(自己分散顔料/水溶性樹脂)が、2.8以上30未満である。
【0034】
水溶性樹脂は、主として画像の定着性に寄与する。水溶性樹脂は、樹脂粒子とは異なり、気液界面においてより異物化し難い。しかし、やはり気液界面などで乾燥した場合には、乾燥固化した成分により、目詰まり性を悪化させる場合があった。水溶性樹脂は親水性が強いので、水が乾燥し、疎水性の環境となった時に、異物化し、これが再溶解しにくくなることがある。特に、水溶性樹脂と、親水化処理された自己分散顔料とが、水が乾燥し、疎水性の環境となった時に、複合異物化し、これが再溶解しにくくなると推測する。
本実施形態のインクジェットインク組成物では、後述するベタインを含むことにより、ベタインが水溶性樹脂を取り込んだ(吸収した)状態が形成されていると考えられ、これにより、水溶性樹脂の異物化が抑制され、異物化したとしても再溶解性が得られると推測できる。これにより目詰まり性が良好となると考えられる。
【0035】
また、水溶性樹脂は、インクジェットインク組成物中の自己分散顔料など他の成分と混合した異物を生じる場合もあるが、本実施形態のインクジェットインク組成物では、後述するベタインを含むことにより、ベタインが水溶性樹脂を含む異物を取り込んだ(吸収した)状態が形成されていると考えられ、これにより、異物化が抑制され、異物化したとしても再溶解性が得られると推測できる。これにより目詰まり性が良好となると考えられる。
【0036】
また水溶性樹脂は、画像の堅牢性も高めることができる。画像の堅牢性を高めるという水溶性樹脂のメカニズムは、分散体粒子による画像の堅牢性向上のメカニズムとは異なる。水溶性樹脂は、記録媒体に含むCa(カルシウム)との反応により記録媒体に画像を定着させる作用を有すると考えられる。一方、樹脂粒子は、水分蒸発による樹脂の定着が主なメカニズムであり、樹脂の定着には比較的時間を要する。そのため、印刷からある程度時間が経過すると有意差は見られないが、印刷直後で比較すると水溶性樹脂のほうがより早期に優れた堅牢性を発揮できる。水溶性樹脂は、このような記録媒体のCaとの反応によりインク成分を記録媒体上に早期に定着させるので発色性にもより優れる。
【0037】
本明細書では、水溶性樹脂は、顔料を分散させるために用いられる顔料分散用の樹脂(顔料分散樹脂)とは異なり、顔料に吸着などにより付着したものではなく、インク中で溶解している樹脂を指す。なお、本明細書において、「水溶性」とは、20℃のイオン交換水に対して、3質量%以上溶解することが可能な特性をいい、5質量%以上溶解することが好ましく、10質量%以上溶解することがより好ましく、25質量%以上溶解することがさらに好ましい。
【0038】
溶解することが可能とは、水と樹脂とを混合し攪拌後、溶け残りや白濁や層分離が見えないことをいう。また樹脂が水に分散している樹脂分散体(樹脂粒子)ではなく、樹脂が水に溶解している。
【0039】
水溶性樹脂の特性としては、アニオン性樹脂、ノニオン性樹脂、カチオン性樹脂が挙げられる。本実施形態のインクジェットインク組成物では、アニオン性樹脂用いることが好ましい。水溶性樹脂は、構造中に酸性基を有し、酸価を有することが好ましい。酸性基は塩になっていてもよい。酸性基としては、カルボキシ基、スルホニル基、リン酸基などが挙げられ、カルボキシ基がより好ましい。
【0040】
本実施形態で使用する水溶性樹脂の酸価は、250[KOHmg/g]以上600[KOHmg/g]以下であるが、300[KOHmg/g]以上500[KOHmg/g]以下が好ましく、350[KOHmg/g]以上450[KOHmg/g]以下であることがより好ましい。さらには400[KOHmg/g]以上450[KOHmg/g]以下であることがより好ましい。
【0041】
酸価は滴定により測定する。例えば、JIS K 0070:1992記載の方法(電位差滴定法)により測定することができる。
【0042】
水溶性樹脂の酸価が上記範囲内にあると、疎水基及び親水基のバランスが良好であるので、水への溶解性に優れつつ、耐水性の良好な画像を得ることができる。
【0043】
一方、水溶性樹脂の酸価が上記範囲未満であると、水溶性樹脂の水への溶解性が低下して、異物を生じやすくなる場合がある。また、水溶性樹脂の酸価が上記範囲を超えると、水溶性樹脂の水への溶解性が高くなりすぎて、画像の耐水性が低下する場合がある。なお、「酸価」とは、上記水溶性樹脂1gを中和するのに要するKOH(mg)の量である。
【0044】
水溶性樹脂の種類としては、例えば、アクリル系樹脂、マレイン酸系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂などが挙げられ好ましい。
【0045】
アクリル系樹脂は、アクリル系単量体を少なくとも用いて重合させた樹脂である。
【0046】
マレイン酸系樹脂は、マレイン酸又はマレイン酸誘導体を少なくとも用いて重合させた樹脂である。より具体的には、アクリル系樹脂、スチレン-アクリル系樹脂、スチレン-マレイン酸系樹脂、アクリロニトリル-アクリル系樹脂、酢酸ビニル-アクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂が挙げられる。また、水溶性樹脂は、アクリル系樹脂又はマレイン酸系樹脂から選択されることが好ましい。
【0047】
さらに、スチレン-マレイン酸系樹脂のようなマレイン酸又はマレイン酸誘導体を少なくとも用いて重合させたマレイン酸系樹脂がより好ましい。言い換えると、マレイン酸系樹脂とは、マレイン酸類に由来する構造を有する高分子化合物である。
【0048】
なおアクリル系単量体と、マレイン酸又はマレイン酸誘導体と、を少なくとも用いて重合させた樹脂は、マレイン酸系樹脂とする。
【0049】
マレイン酸類としては、エチレンの炭素-炭素二重結合で結合する隣り合う炭素原子のそれぞれにカルボキシル基が1つずつ結合した構造を有する化合物や、これの誘導体である化合物が挙げられる。
【0050】
マレイン酸類の具体例としては、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、無水シトラコン酸、メサコン酸等が挙げられる。マレイン酸類は、上記の隣り合う炭素原子のそれぞれに結合したカルボキシル基が、脱水環化したものや、エステル化したものでもよい。カルボキシル基が塩を形成したものもカルボキシル基に含める。
【0051】
上記の誘導体としては、カルボキシル基が上記のように誘導されたものや、エチレン骨格がさらに置換基を有するものなどが挙げられる。
【0052】
マレイン酸類の中でも、マレイン酸や、マレイン酸のカルボキシル基が誘導されたものを用いることが好ましい。
【0053】
マレイン酸系樹脂は、マレイン酸類に由来するカルボキシル基が、脱水環化したものや、エステル化したものでもよい。カルボキシル基が塩を形成したものもカルボキシル基に含める。
【0054】
マレイン酸類に由来する構造を有する高分子化合物は、マレイン酸類が少なくとも用いられて重合や共重合が行われて得られた高分子化合物であることができる。
【0055】
マレイン酸系樹脂は、マレイン酸類の重合体であってもよいし、マレイン酸類及び他のモノマーの共重合体であってもよい。この場合の他のモノマーとしては、例えば、スチレン、ビニルナフタレン、酢酸ビニル等のビニルモノマーや、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸のエステル類等のアクリルモノマーを挙げることができる。
【0056】
マレイン酸系樹脂は、マレイン酸類に由来する構造を有し、隣り合う炭素原子にカルボキシル基又はカルボキシル基に由来する構造を有する。ここで、例えばアクリル酸の重合体は、一般的に公知の手法によって重合すると、いわゆるヘッド-テイルで重合することから、隣り合う炭素にカルボキシル基が配置されることは、統計的にまれである。そのため、アクリル酸類の重合体は、マレイン酸類を重合する場合と比較すれば、重合体においてカルボキシル基が主鎖の炭素鎖において隣り合って配置されることはまれである。これにより、例えばNMR(核磁気共鳴法)等により、隣り合うカルボキシル基の由来がマレイン酸類に由来するものかどうかの確認が可能である。
【0057】
マレイン酸系樹脂のカルボキシル基は、エステル化されたものであってもよい。例えば、水酸基を有する化合物によりエステル化されたものでもよい。マレイン酸類に由来する構造の2つのカルボキシル基は、エステル化されていなくてもよいし、一方がエステル化されていてもよいし、両方がエステル化されていてもよい。
【0058】
また、マレイン酸類に由来する構造のカルボキシル基がエステル化されていない場合には、水系のインクジェットインク組成物中でカルボン酸として存在してもよいし、アンモニア、アルカノールアミン又はアルキルアミンで部分的あるいは完全に中和されていてもよい。
【0059】
マレイン酸系樹脂は、マレイン酸類のカルボキシル基に由来する構造を多く含むことから水溶性を有する。そのため、水系のインクジェットインク組成物中では、マレイン酸系樹脂の分子鎖が広がりを有している。これにより、インクジェットインク組成物と凝集剤とが混合した場合に、マレイン酸系樹脂が凝集剤と出会う確率が高まっている。そのため、マレイン酸系樹脂は、凝集性が良好であり、これによりインクセットを用いて得られる画像の画質を高めることができる。
【0060】
マレイン酸系樹脂のマレイン酸類に由来する構造の2つのカルボキシル基のうち、一方がエステル化されると、得られる画像の耐水性が向上する傾向がある。また、マレイン酸類に由来する構造の2つのカルボキシル基がエステル化されていない場合には、得られる画像の耐水性が低下する傾向がある。エステル化の程度により、マレイン酸系樹脂の親水性及び疎水性のバランスを調節することができ、これによりインクジェットインク組成物の保存安定性をより良好とできるとともに、得られる画像の耐水性をさらに向上することができる。例えば、スチレン無水マレイン酸ハーフエステル共重合体塩は、親水性及び疎水性のバランスの点で好ましい。これはエステル化されたカルボキシル基は疎水性が高く、反応時の不溶化、固液分離を促進しているためと推測される。
【0061】
なおマレイン酸系樹脂が、無水マレイン酸に由来する構造を含む場合、水中では、無水物が加水によりカルボキシル基になっていると考えられる。
【0062】
なお、マレイン酸系樹脂は、水溶性樹脂であり、顔料分散剤とは異なり、インクジェットインク組成物中で顔料などに吸着等をせずインクの溶媒成分である水に溶解した溶液として存在するものを用いる。本項で説明しているマレイン酸系樹脂は、インクが顔料分散剤で分散された顔料を含有する場合、顔料分散剤とは別途、インクに含有されるものである。
【0063】
マレイン酸系樹脂は、その粒子を構成する樹脂の骨格や官能基の数、性質に依存して、後述するプロピオン酸カルシウム等の凝集剤の作用により凝集性を示す。
【0064】
マレイン酸系樹脂は、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基等の酸性基を有することが好ましい。すなわち、マレイン酸類に由来するカルボキシル基が酸又は塩の状態で存在する場合や、マレイン酸類に由来するカルボキシル基の全部がエステル化された場合であっても骨格やエステル基にカルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基等の酸性基を酸又は塩の状態で有することが好ましい。また、当該酸性基は、アンモニア、アルカノールアミン又はアルキルアミンで部分的あるいは完全に中和されていてもよい。
【0065】
マレイン酸系樹脂の市販品としては、例えば、SNディスパーサント5027、5029(以上、サンノプコ株式会社製)、サンスパールPS-8(三洋化成工業株式会社製)、マリアリムHKM-50A、150A、AKM-0531、SC-0505K、ポリスターOMA(以上、日油株式会社製)、デモールP、EP、ST、ボイズ520、521(以上、花王株式会社製)、ポリティA550(ライオン株式会社製)、アラスター703S、ポリマロン1318、351T、385、372、375CB、482、482S、1329(以上、荒川化学工業株式会社製)、XIRAN1440H、2625H、1000H、2000H、3000H(以上、ポリスコープ社製)、イソバン-104(株式会社クラレ製)、フローレンG-700AMP、G-700DMEA(以上、共栄社化学株式会社製)等が挙げられる。
【0066】
アニオン性の水溶性樹脂において、その分子構造における水溶性単量体の構成比は、水溶性樹脂の全単量体を100質量%としたときに、70質量%以下が好ましく、60質量%未満であることが好ましく、50質量%以下であることがより好ましい。また、アニオン性の水溶性樹脂の分子構造における水溶性単量体の構成比は、水溶性樹脂の全単量体を100質量%としたときに、25質量%以上であることが好ましく、30質量%以上であることがより好ましい。さらには40質量%以上が好ましい。
【0067】
アニオン性の水溶性樹脂の分子構造における水溶性単量体の構成比が、上記範囲よりも小さいと、十分な水溶性が得られず、水溶性ポリマーとみなせず、分散樹脂(樹脂粒子)の様相となる。一方、上記範囲よりも大きいと、水分蒸発時すなわちインクジェットインク組成物が、疎水的な状態になった際に、水溶性樹脂が析出しやすく、目詰まり性が悪化する場合がある。
【0068】
水溶性のウレタン系樹脂としては、分子構造中に極性基を有する水溶性のウレタン樹脂を意味する。極性基は塩の状態であってもよい。また、極性基は酸性基であることが好ましい。酸性基は、例えば、カルボキシル基、スルホン酸基、及びリン酸基などのリン含有基などが挙げられる。
【0069】
水溶性のウレタン系樹脂は、ポリイソシアネート、及びポリオールに由来する繰り返し単位を有するが、その中でも酸基を有するポリオールに由来する繰り返し単位を有するものが好ましく、ポリイソシアネート、酸基を有しないポリオール、及び酸基を有するポリオールのそれぞれに由来する繰り返し単位を有する樹脂が好ましい。水溶性のウレタン系樹脂は、さらに、ポリアミンに由来する繰り返し単位を有していてもよい。
【0070】
水溶性のポリエステル系樹脂は、ポリエステル構造を有する樹脂であればよい。水溶性樹脂は、他にも、ノニオン性の水溶性樹脂としては、ポリエチレンオキシド、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、酢酸セルロース、ポリビニルアルコール、又はこれらの塩などが挙げられる。
【0071】
水溶性樹脂の重量平均分子量Mwは、5000以上150000以下が好ましく、10000以上100000以下がより好ましく、15000以上50000以下がさらに好ましく、20000以上30000以下がよりさらに好ましく、20000以上23000以下が殊更に好ましい。
【0072】
分子量範囲が下限値以上であることで、インクジェットインク組成物の粘度を好適にでき、例えば良好な発色性を得ることができる。分子量範囲が上限値以下であることで、インクジェットインク組成物の粘度がインクジェット法においてより好適なものとなる。
【0073】
本明細書において、水溶性樹脂の分子量は、GPC法により、測定されるものをいい、標品に対する分子量である。分子量の測定は、水溶性樹脂単体で行ってもよいし、インクジェットインク組成物としたものについて行ってもよい。この場合、インクジェットインク組成物に含有されている成分が特定されていることが好ましい。
【0074】
水溶性樹脂の含有量は、インクジェットインク組成物の総質量に対し、0.1質量%以上10.0質量%以下であることが好ましく、0.2質量%以上5.0質量%以下であることがより好ましく、0.3質量%以上2質量%以下である、0.4質量%以上1.8質量%以下であることがより好ましい。このような範囲であれば、十分な画像の定着性を得ることができる。また、このような範囲であると、インクジェットインク組成物の粘度をより適切な範囲にしやすい。また耐目詰まり性もより優れる。
【0075】
本実施形態のインクジェットインク組成物においては、水溶性樹脂に対する自己分散顔料の質量比(自己分散顔料/水溶性樹脂)は、2.8以上30未満となるように、両者の配合量が設定される。また、かかる質量比は、3.0以上28以下が好ましく、3.2以上25以下がさらに好ましい。さらに3.5~20が好ましく、4.0~10.0が好ましく、5.0~8.0がより好ましく、5.5~7.0がさらに好ましい。
【0076】
自己分散顔料に対して水溶性樹脂の量が少ないと、画像の耐擦性が劣る場合があり、自己分散顔料に対して水溶性樹脂の量が多いと、目詰まり性が悪くなる場合がある。
【0077】
1.3.ベタイン
ベタインとは、正電荷と負電荷を同一分子内の隣り合わない位置に有しており、正電荷を持つ原子には解離しうる水素が結合しておらず、分子内塩を構成し得るものであり、分子全体としては電荷を持たない化合物を意味する。本実施形態において、ベタインは、正電荷部位が第4級アンモニウムカチオンであるものが好ましい。
【0078】
インクジェットインク組成物がベタインを含むことにより、インクジェットインク組成物がインクジェットヘッドのノズルで乾燥することに起因するインクジェットインク組成物の飛行曲がりや不吐出を抑制することができ、目詰まり性を優れたものにできる。また、すでに述べたが、ベタインが上述の水溶性樹脂を取り込んだ(吸収した)状態が形成されていると考えられ、これにより、水溶性樹脂の異物化が抑制され、異物化したとしても再溶解性が得られると推測できる。これにより目詰まり性が良好となると考えられる。
【0079】
ベタインとしては、特に制限されないが、例えば、トリメチルグリシン、トリエチルグリシンなどのトリアルキルグリシン、γ-ブチロベタイン、ホマリン、トリゴネリン、カルニチン、ホモセリンベタイン、バリンベタイン、リジンベタイン、オルニチンベタイン、アラニンベタイン、スタキドリン、及びグルタミン酸ベタイン等が挙げられる。その中でも、インクジェットインク組成物に含有されるグリシンとして、トリアルキルグリシンから選択されることが好ましく、トリメチルグリシンを含むことがより好ましい。トリアルキルグリシンは、グリシンの窒素原子にアルキル基が3個置換した化合物である。それにより、目詰まり性がより向上する傾向にある。なお、ベタインは、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0080】
ベタインを構成する炭素数は、好ましくは4以上12以下であり、より好ましくは4以上7以下であり、さらに好ましくは4以上6以下である。ベタインの炭素数が上記範囲内であることにより、上記作用がより顕著となる傾向にある。
【0081】
ベタインの含有量は、インクジェットインク組成物の総質量に対して、2.5質量%以上9.5質量%以下である。また、ベタインの含有量は、インクジェットインク組成物の総質量に対して、好ましくは3質量%以上8質量%以下であり、さらに好ましくは4質量%以上8質量%以下である。ベタインの含有量が上記範囲内であることにより、水溶性樹脂の異物化を抑制できる。ベタインの含有量が上記範囲よりも少ないと、水溶性樹脂の乾燥固化の抑制が不十分となりやすく、目詰まり性が劣る場合がある。また、ベタインの含有量が上記範囲よりも多いと、ベタイン自身が乾燥したときのベタインの乾燥固化が増える傾向があり、目詰まり性が悪化する場合がある。
【0082】
1.4.水
本実施形態のインクジェットインク組成物は、水を含有する水系の組成物である。「水系」の組成物とは、水を主要な溶媒の1つとする組成物のことである。水としては、例えば、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、及び蒸留水等の純水、並びに超純水のような、イオン性不純物を低減したものが挙げられる。また、紫外線照射又は過酸化水素の添加等によって滅菌した水を用いると、インクジェットインク組成物を長期保存する場合に細菌類や真菌類の発生を抑制することができる。
【0083】
水の含有量は、インクジェットインク組成物の総量(100質量%)に対して、30質量%以上、好ましくは40質量%以上であり、より好ましくは45質量%以上であり、さらに好ましくは50質量%以上である。また、水の含有量の上限は、インク組成物の総量(100質量)に対して、好ましくは97質量%以下、さらには90質量%以下であり、より好ましくは85質量%以下であり、さらに好ましくは80質量%以下である。
【0084】
1.5.その他の成分
本実施形態のインクジェットインク組成物は、上記成分の他に、以下の成分を含有してもよい。
【0085】
1.5.1.有機溶剤
本実施形態のインクジェットインク組成物は、有機溶剤を含有してもよい。有機溶剤としては、例えば、アルキルポリオール、グリコールエーテル、含窒素類等が挙げられる。
【0086】
1.5.1.1.アルキルポリオール
本実施形態のインクジェットインク組成物は、アルキルポリオールを含んでもよい。アルキルポリオールは、骨格部分を有し、2個以上の水酸基を有する(2個以上の水酸基で置換された)化合物である。骨格部分は、アルキル鎖、ポリアルキレンオキシ鎖などがあげられる。分子中の水酸基数は2以上であり、2以上4以下が好ましく、2又は3個がより好ましい。分子中の炭素数は2以上10以下が好ましい。
【0087】
アルキルポリオールには、多価アルコールが概念上含まれるが、アルキルポリオールを含む場合には、インクジェットインク組成物の保湿性を高め、インクジェット法による吐出安定性を優れたものとしつつ、長期放置時による記録ヘッドからの水分蒸発を効果的に抑制することができる。また、これにより、ノズルの目詰まりを生じやすい種の色材を用いた場合でも、放置回復性や連続吐出安定性をより良好に維持することができる。
【0088】
アルキルポリオールの具体例としては、1,2-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,2-ヘプタンジオール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2-エチル-2-メチル-1,3-プロパンジオール、2-メチル-2-プロピル-1,3-プロパンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、3-メチル-1,3-ブタンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチルペンタン-2,4-ジオール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール等が挙げられる。これらのアルキルポリオールは、1種単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。
【0089】
インクジェットインク組成物は、アルキルポリオールのうち、炭素数3以上6以下のアルカンジオールを含むことがより好ましい。炭素数3以上6以下のアルカンジオールとしては、1,2-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,2-ヘプタンジオール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2-エチル-2-メチル-1,3-プロパンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、3-メチル-1,3-ブタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチルペンタン-2,4-ジオールを挙げることができる。
【0090】
インクジェットインク組成物が、炭素数3以上6以下のアルカンジオールを含む場合には、粘度がさらに抑制され、かつ、より良好な吐出安定性(連続吐出信頼性)を高めることができる場合がある。また、色材の溶解性や分散性を良好としやすく、良好な目詰まり回復性を得ることができる。
【0091】
インクジェットインク組成物は、アルキルポリオールを含む場合には、標準沸点が280℃超のポリオール類を含有することがより好ましい。標準沸点が280℃超のポリオール類としては、グリセリン、トリエチレングリコール等が挙げられる。このようなポリオール類を含むことにより、インクジェットインク組成物の乾燥速度を抑制でき、目詰まり性や吐出安定性をより良好にできる場合がある。
【0092】
アルキルポリオールを含む場合、その含有量は、インクジェットインク組成物の全量に対して、2質量%以上30質量%以下が好ましく、5質量%以上20質量%以下がより好ましく、8質量%以上15質量%以下がさらに好ましい。
【0093】
1.5.1.2.グリコールエーテル
本実施形態のインクジェットインク組成物は、グリコールエーテルを含んでもよい。グリコールエーテルとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールから選択されるグリコールのモノアルキルエーテル又はジアルキルエーテルを挙げることができる。より具体的には、メチルトリグリコール(トリエチレングリコールモノメチルエーテル)、ブチルトリグリコール(トリエチレングリコールモノブチルエーテル)、ブチルジグリコール(ジエチレングリコールモノブチルエーテル)、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル等が挙げられ、典型例としてジエチレングリコールモノブチルエーテルが挙げられる。
【0094】
インクジェットインク組成物は、グリコールエーテルのうち、下記式(1)で表されるグリコールエーテルから選択される1種以上を、含有することがさらに好ましい。
-O-(CH-CH-O)-R ・・・(1)
(式(1)中、Rは、H又は炭素数1以上4以下のアルキル基を表し、Rは、炭素数1以上4以下のアルキル基を表し、nは、2以上3以下の整数を表す。)
【0095】
式(1)で表されるグリコールエーテルとしては、メチルトリグリコール(トリエチレングリコールモノメチルエーテル)、ブチルトリグリコール(トリエチレングリコールモノブチルエーテル)、ブチルジグリコール(ジエチレングリコールモノブチルエーテル)、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル等を例示できる。
【0096】
グリコールエーテルは、複数種を混合して用いてもよい。また、グリコールエーテルを用いる場合、その配合量は、インクジェットインク組成物の粘度調整、保湿効果による目詰まり抑制の点から、インクジェットインク組成物の全量に対して合計で、0.5質量%以上30質量%以下、好ましくは1.0質量%以上20質量%以下、より好ましくは3.0質量%以上10.0質量%以下である。
【0097】
1.5.1.3.含窒素類
本実施形態のインクジェットインク組成物は、含窒素類を含んでも良い。含窒素類は、例えばアミド類が好ましい。アミド類は、環状アミド、非環状アミドが挙げられる。含窒素類は、インクジェットインク組成物の固化や乾燥を抑制するという効果を期待できる。
【0098】
環状アミドとしては、アミド基を含む環構造を有する化合物が挙げられる。そのような化合物としては、2-ピロリドン、1-メチル-2-ピロリドン(N-メチル-2-ピロリドン)、1-エチル-2-ピロリドン(N-エチル-2-ピロリドン)、1-プロピル-2-ピロリドン、1-ブチル-2-ピロリドン、N-ビニル-2-ピロリドン(NVP)等のγ-ラクタム類、β-ラクタム類、δ-ラクタム類、ε-カプロラクタム等のε-ラクタム類等が挙げられる。これらの環状アミドは、1種単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。
【0099】
1.5.1.4.その他の有機溶剤
本実施形態のインクジェットインク組成物は、その他の有機溶媒を含んでもよい。その他の有機溶剤の例としては、γ-ブチロラクトン等のラクトン類、ベタイン化合物等が挙げられる。
【0100】
有機溶剤の含有量は、インクジェットインク組成物の全量に対して、2質量%以上30質量%以下が好ましく、5質量%以上20質量%以下がより好ましく、8質量%以上15質量%以下がさらに好ましい。
【0101】
1.5.2.樹脂粒子
インクジェットインク組成物は、樹脂粒子を含有してもよい。樹脂粒子を分散体樹脂ともいう。樹脂粒子は、目詰まり性の低下を招きやすいので、含有する又は含有しない場合において、インクジェットインク組成物の総質量に対し、1質量%以下が好ましく、0.5質量%以下がより好ましく、0.3質量%以下がさらに好ましく、0.1質量%以下がより好ましく、0.1質量%未満であることが特に好ましい。また、同様の理由で、樹脂粒子は、インクジェットインク組成物に含有されないことがより好ましい。
【0102】
インクに樹脂粒子が含まれると、樹脂を分散するための界面活性剤(分散剤)が一因となって、泡立ち易く、気泡が発生しやすくなる。特に、インク収容容器にインク注入口からインクを注入する際に気泡が発生しやすくなる。またインク収容容器内で、樹脂粒子自体が気液界面で異物化しやすくなる。
【0103】
なお、気泡が発生すると、気液界面が増え、気液界面での異物も発生しやすくなる。また、樹脂粒子は、水に溶けないので、インクが自然環境に流出した際のマイクロプラスチックによる環境問題が懸念される。樹脂分散体としては、界面活性剤により分散した分散体樹脂、界面活性剤を用いずに分散したソープレス分散体樹脂などがあげられる。
【0104】
1.5.3.界面活性剤
本実施形態に係るインクジェットインク組成物は、界面活性剤を含んでもよい。界面活性剤は、インクジェットインク組成物の表面張力を低下させ記録媒体との濡れ性、例えば布帛等への浸透性を調整、向上させるために用いることができる。界面活性剤としては、ノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、両性界面活性剤のいずれも使用することができ、さらにこれらは併用してもよい。また、界面活性剤の中でも、アセチレングリコール系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、及びフッ素系界面活性剤をより好ましく用いることができる。
【0105】
アセチレングリコール系界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、サーフィノール104、104E、104H、104A、104BC、104DPM、104PA、104PG-50、104S、420、440、465、485、SE、SE-F、504、61、DF37、CT111、CT121、CT131、CT136、TG、GA、DF110D(商品名、Air Products and Chemicals Inc.社製)、オルフィンB、Y、P、A、STG、SPC、E1004、E1010、PD-001、PD-002W、PD-003、PD-004、PD-005、EXP.
4001、EXP.4036、EXP.4051、EXP.4123、EXP.4200、EXP.4300、D-10PG、AF-103、AF-104、AK-02、SK-14、AE-3(商品名、日信化学工業社製)、アセチレノールE00、E00P、E40、E100(商品名、川研ファインケミカル社製)が挙げられる。
【0106】
シリコーン系界面活性剤としては、特に限定されないが、ポリシロキサン系化合物が好ましく挙げられる。当該ポリシロキサン系化合物としては、特に限定されないが、例えばポリエーテル変性オルガノシロキサンが挙げられる。当該ポリエーテル変性オルガノシロキサンの市販品としては、例えば、BYK-306、BYK-307、BYK-333、BYK-341、BYK-345、BYK-346、BYK-348(商品名、BYK社製)、KF-351A、KF-352A、KF-353、KF-354L、KF-355A、KF-615A、KF-945、KF-640、KF-642、KF-643、KF-6020、X-22-4515、KF-6011、KF-6012、KF-6015、KF-6017(商品名、信越化学工業社製)が挙げられる。
【0107】
フッ素系界面活性剤としては、フッ素変性ポリマーを用いることが好ましく、例としては、BYK-340(商品名、ビックケミー・ジャパン社製)が挙げられる。
【0108】
インクジェットインク組成物に界面活性剤を配合する場合には、インクジェットインク組成物全体に対して、界面活性剤の合計で0.01質量%以上3質量%以下、好ましくは0.05質量%以上2質量%以下、さらに好ましくは0.1質量%以上1.5質量%以下、特に好ましくは0.2質量%以上1質量%以下配合することが好ましい。
【0109】
インクジェットインク組成物に界面活性剤を配合する場合には、消泡性を有する界面活性剤を選択することがより好ましい。インクジェットインク組成物が界面活性剤を含有することにより、ヘッドからインクを吐出する際の安定性が増す傾向がある。
【0110】
1.5.4.キレート化剤
本実施形態のインクジェットインク組成物は、キレート化剤を使用してもよい。キレート化剤は、インクジェットインク組成物中の所定のイオンを除去することができる。
【0111】
キレート化剤の例としては、EDTA、EDTA-2Na(エチレンジアミン四酢酸二水素二ナトリウム塩)、EDTA-3Na(エチレンジアミン四酢酸一水素三ナトリウム塩)、EDTA-4Na(エチレンジアミン四酢酸四ナトリウム塩)、及び、EDTA-3K(エチレンジアミン四酢酸一水素三カリウム塩)などのエチレンジアミン四酢酸及びその塩類、DTPA、DTPA-2Na(ジエチレントリアミン五酢酸二ナトリウム塩)、及び、DTPA-5Na(ジエチレントリアミン五酢酸五ナトリウム塩)などのジエチレントリアミン五酢酸及びその塩類、NTA、NTA-2Na(ニトリロ三酢酸二ナトリウム塩)、及び、NTA-3Na(ニトリロ三酢酸三ナトリウム塩)などのニトリロ三酢酸及びその塩類、エチレンジアミン-N,N’-ジコハク酸及びその塩類、3-ヒドロキシ-2,2’-イミノジコハク酸及びその塩類、L-アスパラギン酸-N,N’-二酢酸及びその塩類、L-グルタミン酸二酢酸及びその塩類、N-(1-カルボキシラトメチル)イミノ二酢酸及びその塩類、並びに、N-(2-ヒドロキシエチル)イミノ二酢酸及びその塩類を挙げることができる。
【0112】
また、酢酸アナログ以外のキレート化剤の例としては、エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸及びその塩類、エチレンジアミンテトラメタリン酸及びその塩類、エチレンジアミンピロリン酸及びその塩類、並びに、エチレンジアミンメタリン酸及びその塩類等が挙げられる。
【0113】
本実施形態のインクジェットインク組成物にキレート化剤を含有させる場合、上記例示したものから選択して1種又は2種以上を用いることができる。
【0114】
1.5.5.pH調整剤
本実施形態のインクジェットインク組成物は、pH調整剤を添加することができる。pH調整剤としては、特に限定されないが、酸、塩基、弱酸、弱塩基の適宜の組み合わせが挙げられる。そのような組み合わせに用いる酸、塩基の例としては、無機酸として、硫酸、塩酸、硝酸等、無機塩基として水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、アンモニア等が挙げられ、有機塩基としては、トリエタノールアミン、トリプロパノールアミン、ジエタノールアミン、モノエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリスヒドロキシメチルアミノメタン(THAM)等が挙げられ、有機酸として、アジピン酸、クエン酸、コハク酸、乳酸、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-2-アミノエタンスルホン酸(BES)、4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸(HEPES)、モルホリノエタンスルホン酸(MES)、モルホリノプロパンスルホン酸(MOPS)、カルバモイルメチルイミノビス酢酸(ADA)、ピペラジン-1,4-ビス(2-エタンスルホン酸)(PIPES)、N-(2-アセトアミド)-2-アミノエタンスルホン酸(ACES)、コラミン塩酸、N-トリス(ヒドロキシメチル)メチル-2-アミノエタンスルホン酸(TES)、アセトアミドグリシン、トリシン、グリシンアミド、ビシン等のグッドバッファー、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、トリス緩衝液等を用いてもよい。さらに、これらのうち、pH調整剤の一部又は全部として、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン等の第三級アミン、及び、アジピン酸、クエン酸、コハク酸、乳酸等のカルボキシル基含有有機酸、が含まれることが、pH緩衝効果をより安定に得ることができるため好ましい。
【0115】
1.5.6.尿素類
インクジェットインク組成物の保湿剤として、あるいは、染料の染着性を向上させる染着助剤として、尿素類を使用してもよい。尿素類の具体例としては、尿素、エチレン尿素、テトラメチル尿素、チオ尿素、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン等が挙げられる。尿素類を含有する場合には、その含有量は、インクジェットインク組成物の全質量に対して、1質量%以上10質量%以下とすることができる。
【0116】
1.5.7.防腐剤、防かび剤、防錆剤
インクジェットインク組成物は、防腐剤、防かび剤を使用してもよい。防腐剤、防かび剤としては、例えば、安息香酸ナトリウム、ペンタクロロフェノールナトリウム、2-ピリジンチオール-1-オキサイドナトリウム、ソルビン酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、1,2-ジベンゾイソチアゾリン-3-オン(ゼネカ社のプロキセルCRL、プロキセルBDN、プロキセルGXL、プロキセルXL-2、プロキセルTN、プロキセルLV)、4-クロロ-3-メチルフェノール(バイエル社のプリベントールCMK等)などが挙げられる。防錆剤としては、例えば、ベンゾトリアゾールなどが挙げられる。
【0117】
1.5.8.糖類
インクジェットインク組成物は、糖類を含有してもよい。糖類の具体例としては、グルコース、マンノース、フルクトース、リボース、キシロース、アラビノース、ガラクトース、アルドン酸、グルシトール(ソルビット)、マルトース、セロビオース、ラクトース、スクロース、トレハロース、及びマルトトリオース等が挙げられる。
【0118】
1.5.9.その他
さらに上記以外の成分として、例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、酸素吸収剤、溶解
助剤など、インクジェット用のインクジェットインク組成物において通常用いることができる添加剤を含有してもよい。
【0119】
1.6.製造及び物性
本実施形態のインクジェットインク組成物は、上述の成分を任意の順序で混合し、必要に応じて濾過などを行い、不純物を除去することにより得ることができる。混合方法としては、メカニカルスターラーやマグネチックスターラー等の撹拌装置を備えた容器に順次材料を添加して撹拌混合する方法が好適に用いられる。濾過方法として、例えば、遠心濾過やフィルター濾過などを必要に応じて行うことができる。
【0120】
本実施形態のインクジェットインク組成物は、インクジェット用インクとしての信頼性の観点から、20℃における表面張力が20mN/m以上40mN/m以下であることが好ましく、22mN/m以上35mN/m以下であることがより好ましい。また、同様の観点から、インクの20℃における粘度は、1.5mPa・s以上10mPa・s以下であることが好ましく、2mPa・s以上8mPa・s以下であることがより好ましい。表面張力及び粘度を前記範囲内とする一つの手法としては、上述した水溶性樹脂、有機溶剤、界面活性剤の種類、及びこれらと水の添加量等を調整することが挙げられる。
【0121】
1.7.作用効果等
本実施形態のインクジェットインク組成物によれば、自己分散顔料がリン含有基を顔料表面に有するので、得られる画像の発色性に優れる。また、水溶性樹脂を含むことで、画像の定着が早く、記録媒体の表面に顔料が残りやすいので発色性に優れる。さらに、定着性が不十分となりがちな自己分散顔料であっても、水溶性樹脂により画像の十分な定着性が得られる。さらに、ベタインを含有することにより、ノズルやインク供給経路における水溶性樹脂の乾燥固化が抑制され、目詰まりを生じにくい。
【0122】
2.記録方法
本実施形態の記録方法は、インクジェットヘッドを有するインクジェット記録装置を用いて行われ、インクジェットヘッドからインクジェットインク組成物を吐出して記録媒体へ付着させる工程を備える。当該インクジェットインク組成物は、上述のインクジェットインク組成物である。
【0123】
本実施形態の記録方法で用い得るインクジェット記録装置の一例について、図を参照しながら説明する。図1は、インクジェット記録装置を模式的に示す概略斜視図である。図1に示すように、インクジェット記録装置1は、記録ヘッド2と、キャリッジ9と、プラテン11と、キャリッジ移動機構13と、搬送手段14と、制御部CONTを備える。インクジェット記録装置1は、図1に示す制御部CONTにより、インクジェット記録装置1全体の動作が制御される。
【0124】
記録ヘッド2は、インクを記録ヘッド2のノズルから吐出して付着させることにより記録媒体Mに記録を行う構成である。図1に示す、記録ヘッド2は、シリアル式の記録ヘッドであり、記録媒体Mに対して相対的に主走査方向に複数回走査してインクを記録媒体Mに付着させるものである。記録ヘッド2は図1に示すキャリッジ9に搭載される。記録ヘッド2は、キャリッジ9を記録媒体Mの媒体幅方向に移動させるキャリッジ移動機構13の動作により、記録媒体Mに対して相対的に主走査方向に複数回走査される。媒体幅方向とは、記録ヘッド2の主走査方向である。主走査方向への走査を主走査ともいう。
【0125】
またここで、主走査方向は、記録ヘッド2を搭載したキャリッジ9の移動する方向である。図1においては、記録媒体Mの幅方向、つまりS1-S2で表される方向が主走査方向MSであり、T1→T2で表される方向が副走査方向SSである。なお、1回の走査で主走査方向、すなわち、矢印S1又は矢印S2の何れか一方の方向に走査が行われる。そして、記録ヘッド2の主走査と、記録媒体Mの搬送である副走査を複数回繰り返し行うことで、記録媒体Mに対して記録する。
【0126】
記録ヘッド2にインクを供給するカートリッジ12は、独立した複数のカートリッジを含む。カートリッジ12は、記録ヘッド2を搭載したキャリッジ9に対して着脱可能に装着される。複数のカートリッジのそれぞれには異なる種類のインクを充填させることができ、カートリッジ12から各ノズルにインクが供給される。なお、図1及び図2では、カートリッジ12はキャリッジ9に装着される例を示しているが、これに限定されず、キャリッジ9以外の場所に設けられ、図示せぬ供給管によって各ノズルに供給される形態でもよい。
【0127】
記録ヘッド2の吐出には従来公知の方式を使用することができる。ここでは、圧電素子の振動を利用して液滴を吐出する方式、すなわち、電歪素子の機械的変形によりインク滴等を形成する吐出方式を使用する。
【0128】
キャリッジ9の下方には、記録媒体Mを支持するプラテン11と、キャリッジ9を記録媒体Mに対して相対的に移動させるキャリッジ移動機構13と、記録媒体Mを副走査方向に搬送するローラーである搬送手段14を備える。キャリッジ移動機構13と搬送手段14の動作は、制御部CONTにより制御される。
【0129】
<電気的制御>
図2は、インクジェット記録装置1の機能ブロック図である。制御部CONTは、インクジェット記録装置1の制御を行うための制御ユニットである。インターフェース部101(I/F)は、コンピューター130(COMP)とインクジェット記録装置1との間でデータの送受信を行うためのものである。CPU102は、インクジェット記録装置1全体の制御を行うための演算処理装置である。メモリー103(MEM)は、CPU102のプログラムを格納する領域や作業領域等を確保するためのものである。CPU102は、ユニット制御回路104(UCTRL)により各ユニットを制御する。なお、インクジェット記録装置1内の状況を検出器群121(DS)が監視し、その検出結果に基づいて、制御部CONTは各ユニットを制御する。
【0130】
搬送ユニット111(CONVU)は、インクジェット記録の副走査(搬送)を制御するものであり、具体的には、記録媒体Mの搬送方向及び搬送速度を制御する。さらに具体的には、モーターによって駆動される搬送ローラーの回転方向及び回転速度を制御することによって記録媒体Mの搬送方向及び搬送速度を制御する。
【0131】
キャリッジユニット112(CARU)は、インクジェット記録の主走査(パス)を制御するものであり、具体的には、記録ヘッド2を主走査方向に往復移動させるものである。キャリッジユニット112は、記録ヘッド2を搭載するキャリッジ9と、キャリッジ9を往復移動させるためのキャリッジ移動機構13とを備える。
【0132】
ヘッドユニット113(HU)は、記録ヘッド2のノズルからのインクの吐出量を制御するものである。例えば、記録ヘッド2のノズルが圧電素子により駆動されるものである場合、各ノズルにおける圧電素子の動作を制御する。ヘッドユニット113により各インクの付着のタイミング、インクのドットサイズ等が制御される。また、キャリッジユニット112及びヘッドユニット113の制御の組合せにより、1走査あたりのインクの付着量が制御される。
【0133】
上記のインクジェット記録装置1は、記録ヘッド2を搭載するキャリッジ9を主走査方向に移動させる動作と、搬送動作(副走査)とを交互に繰り返す。このとき、制御部CONTは、各パスを行う際に、キャリッジユニット112を制御して、記録ヘッド2を主走査方向に移動させるとともに、ヘッドユニット113を制御して、記録ヘッド2の所定のノズル孔からインクの液滴を吐出させ、記録媒体Mにインクの液滴を付着させる。また、制御部CONTは、搬送ユニット111を制御して、搬送動作の際に所定の搬送量(送り量)にて記録媒体Mを搬送方向に搬送させる。
【0134】
インクジェット記録装置1では、主走査(パス)と副走査(搬送動作)が繰り返されることによって、複数の液滴を付着させた記録領域が徐々に搬送される。記録媒体Mに付着させた液滴を乾燥させて、画像が完成する。その後、完成した記録物は、巻き取り機構によりロール状に巻き取られたり、フラットベット機構で搬送されたりしてもよい。または排紙トレイに記録媒体を排出してもよい。連続印刷する場合は、排紙トレイに記録媒体を排出し積層してもよい。
【0135】
インクジェットインク組成物を記録媒体へ付着させる工程は上述のインクジェット記録装置を用いて行うことができる。すなわち、インクジェットインク組成物を所定のノズルから吐出できるように、インクジェットヘッドに充填し、その状態で所定のタイミングで記録媒体に対して吐出させることで、インクジェットインク組成物を記録媒体へ付着させる工程を行うことができる。
【0136】
また、本実施形態の記録方法は、適宜、記録媒体を加熱する工程を備えてもよい。記録媒体を加熱する工程は、例えば、インクジェット記録装置を用いる場合には、上述の乾燥手段等を用いて行うことができる。また、インクジェット記録装置に限らず、適宜の乾燥手段により行うことができる。これにより得られる画像を乾燥させ、画像の滲みを抑制したり、より効率的に定着させたりすることができる。
【0137】
本実施形態の記録方法は、さらに、他の工程を適宜付加することができ、例えば、他の組成物を付与する工程、洗浄工程等を有してもよい。本実施形態の記録方法によれば、上述のインクジェットインク組成物を用いるので、インクジェットインク組成物の良好な発色性。耐擦性の画像を形成することができる。
【0138】
本実施形態の記録方法は、上述の例の様なシリアル式の記録装置で行う記録方法の他に、ライン式の記録装置で行う記録方法としてもよい。
【0139】
記録媒体としては、特に限定されず、液体を吸収する記録面を有するものであっても、液体を吸収する記録面を有しないものであってもよい。したがって記録媒体としては、特に制限はなく、例えば、紙、フィルム、布、金属、ガラス、高分子等を用いることができる。また、記録媒体に対して昇華転写を行うための転写紙についても記録媒体であり得る。また、記録媒体の大きさや長さも限定されない。
【0140】
本実施形態の記録方法で記録を行う記録媒体としては、液体吸収性の記録媒体であることがより好ましい。液体吸収性の記録媒体は、「ブリストー(Bristow)法において接触開始から30msec1/2までの水吸収量が10mL/m超である記録媒体」を指す。ブリストー法は、短時間での液体吸収量の測定方法として最も普及している方法であり、日本紙パルプ技術協会(JAPAN TAPPI)でも採用されている。試験方法の詳細は「JAPAN TAPPI紙パルプ試験方法2000年版」の規格No.51「紙及び板紙-液体吸収性試験方法-ブリストー法」に述べられている。
【0141】
液体吸収性の記録媒体としては、記録媒体の表面に液体を吸収する受容層が設けられていることによって液体吸収性の記録媒体になっているものでもよい。例えば、インクジェット用紙(インクジェット専用紙)などが挙げられる。液体を吸収する受容層としては、液体吸収性の樹脂、液体吸収性の無機微粒子などから構成された層が挙げられる。
【0142】
液体吸収性の記録媒体としては、記録媒体の基材そのものが液体吸収性である記録媒体も挙げられる。例えば、繊維からなる布帛、パルプを成分とする紙などが挙げられる。紙としては、普通紙、厚紙、ライナー紙などが挙げられる。ライナー紙は、クラフトパルプ、古紙などの紙から構成されるものが挙げられる。
【0143】
上記説明したインクジェット記録装置を用いて、インクジェットヘッドから本実施形態のインクジェットインク組成物を吐出して記録媒体へ付着させる工程を行うことができる。これにより、発色性に優れた画像を形成できる。また、画像の定着性に優れるとともに、ノズルの目詰まり回復性にも優れる。さらに、ノズルやインク供給経路における水溶性樹脂の乾燥固化が抑制される。また、水溶性樹脂による画像の定着が迅速であるので、液体吸収性の記録媒体に記録する場合には、インク成分の沈み込みが抑制され、より発色性の良い画像が得られる。
【0144】
また、本実施形態の記録方法では、上述のインクジェットインク組成物を用いるので、水溶性樹脂による画像の定着が迅速で、早期に耐擦性が得られる。そのため、より高速な記録を行うことができる。例えば、記録媒体がA4サイズの紙であれば、記録速度を30枚/分以上、好ましくは20枚/分以上、より好ましくは10枚/分以上、とした場合でもスタックした記録媒体間での転写を抑制できる。また、両面印刷をする場合などに、インクジェットインク組成物が付着した後の記録媒体の搬送経路でローラー等にインクが付着しにくい。
【0145】
このような効果は、記録媒体がロール紙であっても得られ、例えば、ラインプリンターを用いても、記録後に記録媒体を巻き取った場合でも、インクジェットインク組成物の裏移りを抑制できる。
【0146】
この記録方法によれば、自己分散顔料がリン含有基を顔料表面に有するので、得られる画像の発色性に優れる。また、水溶性樹脂を含むことで、画像の定着性に優れるとともに、ノズルの目詰まり回復性にも優れる。さらに、定着性が不十分となりがちな自己分散顔料であっても、水溶性樹脂により画像の十分な定着性が得られる。さらに、ベタインを含有することにより、ノズルやインク供給経路における水溶性樹脂の乾燥固化が抑制される。この効果は、リン含有基を有する自己分散顔料、水溶性樹脂及びベタインの特定の配合による相互作用により奏される。
【0147】
3.実施例及び比較例
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。以下、「部」「%」は、特に記載のない限り、質量基準である。なお評価は、特に断りが無い場合は、温度25.0℃、相対湿度40.0%の環境下で行った。
【0148】
4.1.インクジェットインク組成物の調製
表1~表3の組成になるように各成分を容器に入れて、マグネチックスターラーで2時間混合及び攪拌した後、孔径5μmのメンブランフィルターで濾過することで、実施例及び比較例に係るインクジェットインク組成物を得た。
【0149】
表1~表3中の物質は以下のとおりである。
【0150】
・リン含有基処理型自己分散顔料:以下のように製造した。
顔料20.0g、((4-アミノベンゾイルアミノ)-メタン-1、1-ジイル)ビスホスホン酸一ナトリウム塩11.0mmol、硝酸20.0mmol、及び純水200mLを混合した。
顔料としては、カーボンブラック(商品名「ブラックパールズ880」、キャボット製)を用いた。そして、シルヴァーソン混合機を用いて、室温にて6,000rpmで混合した。30分後、この混合物に少量の水に溶解させた20.0mmolの亜硝酸ナトリウムをゆっくり添加した。
亜硝酸ナトリウムを添加することによって混合物の温度は60℃に達した。この状態で1時間反応させた。その後、そのあと、水で洗浄後、水酸化ナトリウム水溶液を用いて混合物のpHを10に調整した。
得られた顔料は、顔料の粒子表面に、-C-CONH-CH-(PO(OH)(ONa))(PO(OH))基が結合している自己分散顔料であった。
【0151】
・非リン含有基処理型自己分散顔料:CAB-O-JET(登録商標)300(キャボット・スペシャリティ・ケミカルズ・インク社製)
【0152】
・分散体樹脂(樹脂粒子):以下のように製造した樹脂粒子である。
攪拌機、還流コンデンサー、滴下装置、及び温度計を備えた反応容器に、イオン交換水900g及びラウリル硫酸ナトリウム1gを仕込み、攪拌下に窒素置換しながら70℃まで昇温した。内温を70℃に保ち、重合開始剤として過硫酸カリウム4gを添加し、溶解後、予めイオン交換水450g、ラウリル硫酸ナトリウム3gにアクリルアミド20g、スチレン365g、ブチルアクリレート545g、及びメタクリル酸30gを攪拌下に加えて作製した乳化物を、反応溶液内に連続的に4時間かけて滴下した。滴下終了後3時間の熟成を行った。得られた樹脂エマルジョンを常温まで冷却した後、イオン交換水と水酸
化ナトリウム水溶液を添加して固形分40質量%、pH8に調整した。得られた水性エマルジョンにおける樹脂粒子のガラス転移温度は-6℃であった。
【0153】
・水溶性ポリマー1:以下のように製造した。
ガス導入管、温度計、コンデンサー、撹拌機を備えた反応容器にブタノール93.4部を入れ、窒素ガスで置換した。110℃に加熱した後、スチレン101.1部、アクリル酸38.5部、マレイン酸60.0部、及び重合開始剤(商品名「V-601」、富士フイルム和光純薬製)6部の混合物を2時間かけて滴下し、重合反応を行った。110℃で3時間反応させた後、重合開始剤0.6部をさらに添加し、110℃で1時間反応を続けて、樹脂の溶液を得た。室温まで冷却してからジメチルアミノエタノール37.1部を添加して中和し、水100部をさらに添加した。100℃以上に加熱して水と共沸させることでブタノールを留去し、濃度を調整した。これにより、樹脂の含有量が20.0%である、水溶性樹脂1を含む液体を得た。水溶性樹脂1の酸価は滴定法により440mgKOH/gであり、水溶性単量体の比率は49質量%であり、重量平均分子量は12000であった。
【0154】
・水溶性ポリマー2:以下のように製造した。
ガス導入管、温度計、コンデンサー、撹拌機を備えた反応容器にブタノール93.4部を入れ、窒素ガスで置換した。110℃に加熱した後、スチレン101.5部、アクリル酸98.5部、及び重合開始剤(商品名「V-601」、富士フイルム和光純薬製)6部の混合物を2時間かけて滴下し、重合反応を行った。110℃で3時間反応させた後、重合開始剤0.6部をさらに添加し、110℃で1時間反応を続けて、樹脂の溶液を得た。室温まで冷却してからジメチルアミノエタノール37.1部を添加して中和し、水100部をさらに添加した。100℃以上に加熱して水と共沸させることでブタノールを留去し、濃度を調整した。これにより、水溶性樹脂2の含有量が20.0%である、水溶性樹脂2を含む液体を得た。水溶性樹脂2の酸価は滴定法により383mgKOH/gであり、水溶性単量体比率は49質量%であり、重量平均分子量は12000であった。
【0155】
・水溶性ポリマー3(水溶性単量体60%以上):以下のように製造した。
ガス導入管、温度計、コンデンサー、撹拌機を備えた反応容器にブタノール93.4部を入れ、窒素ガスで置換した。110℃に加熱した後、スチレン101.5部、アクリル酸38.5部、マレイン酸210.0部、及び重合開始剤(商品名「V-601」、富士フイルム和光純薬製)6部の混合物を2時間かけて滴下し、重合反応を行った。110℃で3時間反応させた後、重合開始剤0.6部をさらに添加し、110℃で1時間反応を続けて、樹脂の溶液を得た。室温まで冷却してからジメチルアミノエタノール37.1部を添加して中和し、水100部をさらに添加した。100℃以上に加熱して水と共沸させることでブタノールを留去し、濃度を調整した。これにより、水溶性樹脂3の含有量が20.0%である、水溶性樹脂3を含む液体を得た。水溶性樹脂3の酸価は滴定法により664mgKOH/g、水溶性単量体比率は71質量%であり、重量平均分子量は12000であった。
【0156】
・水溶性ポリマー4(水溶性単量体60%未満):以下のように製造した。
ガス導入管、温度計、コンデンサー、撹拌機を備えた反応容器にブタノール93.4部を入れ、窒素ガスで置換した。110℃に加熱した後、スチレン150.0部、アクリル酸25.0部、マレイン酸30.0部、及び重合開始剤(商品名「V-601」、富士フイルム和光純薬製)6部の混合物を2時間かけて滴下し、重合反応を行った。110℃で3時間反応させた後、重合開始剤0.6部をさらに添加し、110℃で1時間反応を続けて、樹脂の溶液を得た。室温まで冷却してからジメチルアミノエタノール37.1部を添加して中和し、水100部をさらに添加した。100℃以上に加熱して水と共沸させることでブタノールを留去し、濃度を調整した。これにより、水溶性樹脂4の含有量が20.0%である、水溶性樹脂4を含む液体を得た。水溶性樹脂4の滴定法による酸価は236mgKOH/gであり、水溶性単量体比率は27質量%であり、重量平均分子量は12000であった。
【0157】
・オルフィンE1010:日信化学工業株式会社製、アセチレングリコール系界面活性剤
・オルフィンEXP4300:日信化学工業株式会社製、アセチレングリコール系界面活性剤
・オルフィンD-10PG:日信化学工業株式会社製、アセチレングリコール系界面活性剤
【0158】
4.2.評価方法
4.2.1.記録試験
セイコーエプソン株式会社製 PX-S840(カートリッジ型)の改造機を用意した。記録試験の記録に用いた記録媒体は、XeroxP(富士ゼロックス社製)とした。記録媒体へのインクの付着量を、4mg/inchとして単色100%Dutyパターン101を記録した。
【0159】
4.2.2.印字直後LM性(記録直後のラインマーカー試験)
記録直後の画像に対して、ラインマーカーを用いて1回又は2回擦って、目視した結果を以下の基準で評価した。評価結果を表4~表6に記載した。印刷直後であることから、B以上であることが望ましく、A以上であることがより望ましい。
A:2回擦りでもこすれが目立たない
B:1回擦りでこすれが目立たない
C:1回擦りでこすれが目立つ
【0160】
4.2.3.印字5分後LM性(記録後、5分経過時点のラインマーカー試験)
記録後、5分間放置した時点の画像に対して、ラインマーカーを用いて1回又は2回擦って、目視した結果を以下の基準で評価した。評価結果を表4~表6に記載した。印刷後、5分間放置したことから、A以上であることが望ましい。
A:2回擦りでもこすれが目立たない
B:1回擦りでこすれが目立たない
C:1回擦りでこすれが目立つ
【0161】
4.2.4.目詰まり性
記録装置のカートリッジに各例のインクをそれぞれ充填し、記録試験後、ヘッドキャップがされていない状態で40℃20%RH環境に7日放置し、ヘッドクリーニングを行う。クリーニング回数により目詰まりの回復性を以下の基準で判定して結果を表4~表6に記載した。
A:6回以内で回復する
B:7回又は8回で回復する
C:8回で回復しない
【0162】
4.2.5.光学濃度(OD値)
単色100%Dutyパターン101を、測色機で測定した。得られたOD値により、以下の基準で評価した。評価結果を表4~表6に記載した。B以上であることが望ましい。
A:OD値1.1以上
B:OD値0.9以上1.1未満
C:OD値0.9未満
【0163】
4.2.6.転写性評価
上記記録装置で普通紙XPに A4サイズに表4~表6中の記録速度で記録した。片面印刷。印刷パターンは10cm×10cmのベタパターン(インク付着量7mg/inch)とした。排紙トレイに100枚積み重ねた。印刷後以下の基準で評価した。
A:裏面へのインク転写がみられない
B:裏面にややインクの転写がみられる
C:裏面にかなり転写がみられる
【0164】
4.2.7.マイクロプラスチック対応評価
水不溶性の樹脂がインクに含まれるか否かを判定した。結果を表1~表3に記載した。Aであることが望ましい。
A:インクに水不溶性樹脂含まず
B:インクに水不溶性樹脂含む
【0165】
4.3.評価結果
表4~表6をみると、顔料にリン含有基が導入された自己分散顔料と、水溶性樹脂と、ベタインと、を含有し、水溶性樹脂の酸価が250mgKOH/g以上600mgKOH/g以下であり、自己分散顔料の含有量が、インク組成物の総質量に対し3.5質量%以上8.5質量%以下であり、水溶性樹脂に対する自己分散顔料の質量比(自己分散顔料/水溶性樹脂)が、2.8以上30未満であり、ベタインの含有量が、インク組成物の総質量に対し2.5質量%以上9.5質量%以下である、各実施例のインクジェットインク組成物は、耐目詰まり性、耐擦性、及び発色性が良好であることが判明した。
【0166】
本発明は、実施の形態で説明した構成と実質的に同一の構成、例えば、機能、方法及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【0167】
上述した実施形態及び変形例から以下の内容が導き出される。
【0168】
インクジェットインク組成物は、水系であって、
自己分散顔料と、水溶性樹脂と、ベタインと、を含有し、
前記自己分散型顔料が、顔料にリン含有基が導入された自己分散顔料であり、
前記水溶性樹脂が、酸価が250mgKOH/g以上600mgKOH/g以下であり、
前記自己分散顔料の含有量が、インク組成物の総質量に対し3.5質量%以上8.5質量%以下であり、
前記水溶性樹脂に対する前記自己分散顔料の質量比(自己分散顔料/水溶性樹脂)が、2.8以上30未満であり、
前記ベタインの含有量が、インク組成物の総質量に対し2.5質量%以上9.5質量%以下である。
【0169】
このインクジェットインク組成物によれば、自己分散顔料がリン含有基を顔料表面に有するので、得られる画像の発色性に優れる。また、水溶性樹脂を含むことで、画像の定着が早く、記録媒体の表面に顔料が残りやすいので発色性に優れる。さらに、定着性が不十分となりがちな自己分散顔料であっても、水溶性樹脂により画像の十分な定着性が得られる。さらに、ベタインを含有することにより、ノズルやインク供給経路における水溶性樹脂の乾燥固化が抑制され、目詰まりを生じにくい。
【0170】
上記インクジェットインク組成物において、
前記リン含有基がホスホン酸基であってもよい。
【0171】
このインクジェットインク組成物によれば、さらに画像の定着性が良好である。
【0172】
上記インクジェットインク組成物において、
前記水溶性樹脂の含有量が、インク組成物の総質量に対し0.3質量%以上2質量%以下であってもよい。
【0173】
このインクジェットインク組成物によれば、画像の定着性がより適切で、また、粘度がより良好である。
【0174】
上記インクジェットインク組成物において、
樹脂粒子の含有量が、インク組成物の総質量に対し0.1質量%未満であってもよい。
【0175】
このインクジェットインク組成物によれば、さらに異物の発生が抑制される。
【0176】
上記インクジェットインク組成物において、
前記水溶性樹脂が、アクリル系樹脂又はマレイン酸系樹脂から選択されてもよい。
【0177】
このインクジェットインク組成物によれば、得られる画像の画質をさらに良好にできる。
【0178】
上記インクジェットインク組成物において、
前記水溶性樹脂における水溶性単量体の構成比が、水溶性樹脂の全単量体を100質量%としたときに、30質量%以上60質量%以下であってもよい。
【0179】
このインクジェットインク組成物によれば、目詰まりのさらなる低減及びより十分な水溶性が得られる。
【0180】
上記インクジェットインク組成物において、
前記ベタインが、トリアルキルグリシンから選択されてもよい。
【0181】
このインクジェットインク組成物によれば、水溶性樹脂の凝集をより起こさせにくくできる。
【0182】
上記インクジェットインク組成物において、
吸収性記録媒体への記録に用いられるものであってもよい。
【0183】
このインクジェットインク組成物によれば、吸収性記録媒体であっても、より発色性の良い画像を形成できる。
【0184】
上記インクジェットインク組成物において、
標準沸点が280℃超のポリオール類を含有してもよい。
【0185】
このインクジェットインク組成物によれば、さらに目詰まりを抑制しやすい。
【0186】
記録方法は、インクジェットヘッドを有するインクジェット記録装置を用いて行われ、
前記インクジェットヘッドからインクジェットインク組成物を吐出して記録媒体へ付着させる工程を備え、
前記インクジェットインク組成物は、上述のインクジェットインク組成物である。
【0187】
この記録方法によれば、自己分散顔料がリン含有基を顔料表面に有するので、得られる画像の発色性に優れる。また、水溶性樹脂を含むことで、画像の定着性に優れるとともに、定着が早いので、発色性、高速記録にも優れる。さらに、定着性が不十分となりがちな自己分散顔料であっても、水溶性樹脂により画像の十分な定着性が得られる。さらに、ベタインを含有することにより、ノズルやインク供給経路における水溶性樹脂の乾燥固化が抑制される。この効果は、リン含有基を有する自己分散顔料、水溶性樹脂及びベタインの特定の配合による相互作用により奏される。
【0188】
上記インクジェットインク組成物において、
記録速度が20枚/分以上であってもよい。
【0189】
この記録方法によれば、画像の定着が早いので、高速記録ができる。
【符号の説明】
【0190】
1…インクジェット記録装置、2…記録ヘッド、9…キャリッジ、11…プラテン、12…カートリッジ、13…キャリッジ移動機構、14…搬送手段、101…インターフェース部、102…CPU、103…メモリー、104…ユニット制御回路、111…搬送ユニット、112…キャリッジユニット、113…ヘッドユニット、114…乾燥ユニット、121…検出器群、130…コンピューター、CONT…制御部、MS…主走査方向、SS…副走査方向、M…記録媒体
図1
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図8