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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024135625
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】水中洗浄装置
(51)【国際特許分類】
   B63B 59/10 20060101AFI20240927BHJP
   B08B 3/02 20060101ALI20240927BHJP
   B08B 5/02 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
B63B59/10 A
B08B3/02 F
B08B5/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023046409
(22)【出願日】2023-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】720001060
【氏名又は名称】ヤンマーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001933
【氏名又は名称】弁理士法人 佐野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 暁大
(72)【発明者】
【氏名】増▲崎▼ 能
(72)【発明者】
【氏名】神田 効一
【テーマコード(参考)】
3B116
3B201
【Fターム(参考)】
3B116AA46
3B116AB52
3B116AB54
3B116BB22
3B116BB43
3B116BB57
3B116BB59
3B116BB62
3B116CD42
3B116CD43
3B201AA46
3B201AB52
3B201AB54
3B201BB22
3B201BB43
3B201BB62
3B201BB90
3B201BB92
3B201CD42
3B201CD43
(57)【要約】
【課題】水中において洗浄対象の底面を適切に自動洗浄することができる技術を提供する。
【解決手段】例示的な水中洗浄装置は、水中を移動しながら洗浄対象を洗浄する洗浄機と、前記洗浄機の姿勢を検出する姿勢センサと、前記姿勢センサから得られる情報に基づき前記洗浄機の移動制御を行う制御部と、を備える。前記制御部は、前記姿勢センサから得られる前記洗浄機のピッチ角に基づいて、前記洗浄対象の底面と側面との境界を判定する。
【選択図】図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中を移動しながら洗浄対象を洗浄する洗浄機と、
前記洗浄機の姿勢を検出する姿勢センサと、
前記姿勢センサから得られる情報に基づき前記洗浄機の移動制御を行う制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記姿勢センサから得られる前記洗浄機のピッチ角に基づいて、前記洗浄対象の底面と側面との境界を判定する、水中洗浄装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記境界を検出するまで前記洗浄機を直進移動させる、請求項1に記載の水中洗浄装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記ピッチ角が所定範囲から外れると前記境界を検出して前記洗浄機の移動方向の変更を行う、請求項2に記載の水中洗浄装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記洗浄機の移動制御を前記側面から開始可能に設けられる、請求項1に記載の水中洗浄装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記洗浄機の前記底面における最初の直進移動である第1直進移動により前記境界を検出すると、前記洗浄機を90°旋回させる、請求項3に記載の水中洗浄装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記90°旋回を行った前記洗浄機に対して、前記第1直進移動と直交する方向への直進移動である第2直進移動を、前記境界の検出に伴う180°旋回を行わせながら複数回繰り返させる、請求項5に記載の水中洗浄装置。
【請求項7】
2つの前記第2直進移動の間に行われる前記180°旋回の旋回方向は、前記第2直進移動が複数回繰り返される間において、交互に反転される、請求項6に記載の水中洗浄装置。
【請求項8】
前記制御部は、前記境界の検出に伴い行われる旋回の前に、前記洗浄機に対して第1後進を行わせる、請求項6に記載の水中洗浄装置。
【請求項9】
前記制御部は、前記洗浄機の旋回後に、前記洗浄機に対して第2後進を行わせる、請求項6に記載の水中洗浄装置。
【請求項10】
前記制御部は、前記180°旋回後における、前記姿勢センサから得られる前記洗浄機のロール角に基づき前記底面の洗浄作業の終了を判定する、請求項6に記載の水中洗浄装置。
【請求項11】
前記制御部は、
前記底面の直進移動と、
前記直進移動に伴う前記境界の検出に応じた180°旋回と、
前記180°旋回後の前記洗浄機の前記側面への乗り上げ判定と、
前記側面へ乗り上げていないと判定される場合における再度の前記直進移動と、
前記側面へ乗り上げたと判定される場合における前記直進移動の方向の方向転換と、
を含む一連の動作を、前記洗浄機に対して繰り返し実行させる、請求項1から4のいずれか1項に記載の水中洗浄装置。
【請求項12】
前記制御部は、前記洗浄機の前記側面への乗り上げ回数に基づいて前記一連の動作の繰り返しを終了すると判定する、請求項11に記載の水中洗浄装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中洗浄装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自立走行型の清掃装置が知られる(例えば特許文献1参照)。特許文献1に開示される清掃ロボットは、操舵と駆動が可能な走行装置によって走行し、水槽などの底面の清掃エリアを清掃する。当該清掃ロボットは、清掃エリアの境界壁面に向けて超音波を発射する超音波発振装置と、超音波の反射波を受信する受信装置と、受信装置によって受信した反射波によって、走行装置を駆動するための制御信号を発生する制御装置とを備える構成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第2882356号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、海中等に配置される化繊養殖網は、形状が不定である。洗浄対象の形状が不定である場合、清掃ロボットから境界壁面(側面)までの距離が一定とは限らないために、超音波を利用して境界壁面までの正確な距離を計測することは困難である。境界壁面までの正確な距離を計測出来ない場合、洗い残しや、洗浄効率の低下が生じる可能性がある。
【0005】
本発明は、水中において洗浄対象の底面を適切に自動洗浄することができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の例示的な水中洗浄装置は、水中を移動しながら洗浄対象を洗浄する洗浄機と、前記洗浄機の姿勢を検出する姿勢センサと、前記姿勢センサから得られる情報に基づき前記洗浄機の移動制御を行う制御部と、を備える。前記制御部は、前記姿勢センサから得られる前記洗浄機のピッチ角に基づいて、前記洗浄対象の底面と側面との境界を判定する。
【発明の効果】
【0007】
例示的な本発明によれば、水中において洗浄対象の底面を適切に自動洗浄することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】水中洗浄装置の概略の構成を示すブロック図
図2】洗浄機の概略の構成を示す斜視図
図3】洗浄機を図2と異なる方向から見た概略斜視図
図4】洗浄機の概略の構成を示す側面図
図5】水中洗浄装置を用いた養殖網の洗浄例について説明するための図
図6】水中洗浄装置を用いた養殖網の他の洗浄例について説明するための図
図7】第1実施形態に係る底面の自動洗浄方法を実現する制御部の機能を示すブロック図
図8A】第1実施形態の制御部によって実行される底面の自動洗浄処理の流れを例示するフローチャート
図8B】第1実施形態の制御部によって実行される底面の自動洗浄処理の流れを例示するフローチャート
図9】養殖網の底面の自動洗浄時における洗浄機の移動制御について説明するための模式図
図10】底面の洗浄処理の終了判定について説明するための模式図
図11】第2実施形態に係る底面の自動洗浄方法を実現する制御部の機能を示すブロック図
図12】第2実施形態の制御部によって実行される底面の自動洗浄処理の流れを例示するフローチャート
図13】第2実施形態に係る底面の自動洗浄処理の概要を模式的に示す図
図14A】方向転換時に発生する問題点を説明するための模式図
図14B図14Aに関わる参考情報を説明するための模式図
図14C】方向変換時に起こる可能性がある問題を回避する手法について説明するための図
図15A】機体座標系における洗浄機の姿勢推移を示す模式図
図15B】固定座標系における洗浄機の姿勢推移を示す模式図
図16A】洗浄機が方向転換を行う際の移動経路について説明するための模式図
図16B】洗浄機が方向転換を行う際の移動経路について説明するための模式図
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の例示的な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。水中洗浄装置が備える洗浄機の説明における方向は、図面中に示す3次元直交座標系であるxyz座標系に基づく。以下では、このxyz座標系における、x方向を前後方向、y方向を左右方向、z方向を上下方向とする。なお、+x側が前側、-x側が後側とする。+y側が左側、-y側が右側とする。後方から前方に向かって左となる側が左側であり、右となる側が右側である。+z側が上側、-z側が下側とする。また、洗浄機の旋回方向について、+z側(上方)から洗浄機を平面視した場合を想定して、時計回り方向(右回り方向)および反時計回り方向(左周り方向)といった表現を用いる。なお、これらの方向は単に説明のために用いられる名称であって、実際の位置関係及び方向を限定する意図はない。
【0010】
<1.水中洗浄装置の概要>
図1は、本発明の実施形態に係る水中洗浄装置100の概略の構成を示すブロック図である。水中洗浄装置100は、水中にて洗浄対象を洗浄するための装置である。本実施形態において、洗浄対象は養殖網である。養殖網は、詳細には、生簀を構成する網である。養殖網は、例えば化繊や金属によって構成される。養殖網は、例えば、直径30m、深さ15mの有底円筒形状である。ただし、養殖網の形状やサイズは、適宜変更可能である。養殖網の形状は、平面視において円形状に限らず、楕円形状や多角形状等の他の形状であってもよい。また、洗浄対象は、養殖網に限らず、例えばプールや水槽等であってもよい。図1に示すように、水中洗浄装置100は、洗浄機1と制御部2とを備える。水中洗浄装置100は、記憶部3と、高圧水ポンプ4と、操作部5と、表示部6とをさらに備える。
【0011】
洗浄機1は、水中を移動しながら洗浄対象を洗浄する。本実施形態では、洗浄機1は、洗浄対象を走行しながら洗浄する。本実施形態の洗浄機は、自走式洗浄機である。なお、洗浄機1は、自走式洗浄機以外であってもよい。例えば、洗浄機は、浮遊或いは航行しながら洗浄対象の洗浄を行う構成であってもよい。すなわち、本発明の洗浄機は、自走式のものだけでなく、それ自体に備わった動力で移動するものを広く含む。
【0012】
図1に示すように、洗浄機1は、モータ1aと、カメラ1bと、水深センサ1cと、姿勢センサ1dとを備える。すなわち、水中洗浄装置100は、姿勢センサ1dを備える。水中洗浄装置100は、モータ1aと、カメラ1bと、水深センサ1cとをさらに備える。
【0013】
モータ1aは、洗浄機1が養殖網上を走行するための駆動力を与える。カメラ1bは、洗浄機1の周囲の状況を撮影可能に設けられる。カメラ1bは、撮影情報を制御部2に出力する。水深センサ1cは、洗浄機1の適所に配置されて、洗浄機1が存在する位置の水深を検知可能に設けられる。本実施形態においては、水深センサ1cは圧力センサである。姿勢センサ1dは、洗浄機1の姿勢を検出する。姿勢センサ1dは、洗浄機1の適所に配置される。本実施形態において、姿勢センサ1dは、IMU(Inertial Measurement Unit)である。IMUは、3軸角速度センサと3軸加速度センサとを含む。水深センサ1cおよび姿勢センサ1dにより取得されたセンサ情報は、制御部2に出力される。
【0014】
制御部2は、水中洗浄装置100の全体を制御する。例えば、制御部2は、モータ1aの動作を制御して、洗浄機1の移動制御を行う。例えば、制御部2は、姿勢センサ1dから得られる情報に基づき洗浄機1の移動制御を行う。姿勢センサ1dを用いた移動制御の詳細については後述する。
【0015】
制御部2は、例えば、CPU(Central Processing Unit)等の演算回路を含むプロセッサであってよい。制御部2は、複数のプロセッサを含んで構成されてもよい。本実施形態では、制御部2は、陸上又は船上等の洗浄機1以外の場所に配置される。制御部2は、例えば通信線および給電線を含む複数の電線を束ねた電線束7によって洗浄機1と電気的に接続される。なお、制御部2は、洗浄機1に配置されてもよい。また、制御部2は、洗浄機1と、陸上や船上等の水中以外の場所とに分散して配置されてもよい。
【0016】
記憶部3は、揮発性メモリおよび不揮発性メモリを含んで構成される。揮発性メモリには、例えばRAM(Random Access Memory)が含まれてよい。不揮発性メモリには、例えば、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ、又は、ハードディスドライブが含まれてよい。不揮発性メモリには、コンピュータにより読み取り可能なプログラムおよびデータが格納されてよい。記憶部3は、制御部2に含まれる構成であっても、制御部2とは別の装置として設けられてもよい。記憶部3は、制御部2と同様、洗浄機1に配置されても、洗浄機1以外に配置されてもよい。
【0017】
高圧水ポンプ4は、高圧水を洗浄機1に供給する。高圧水ポンプ4は、例えば、陸上又は船上に配置される。高圧水ポンプ4は、ホース8によって洗浄機1と接続される。洗浄機1は、高圧水ポンプ4からホース8を介して供給される高圧水を利用して養殖網の洗浄を行う。なお、洗浄機1は、高圧水を利用せず、ブラシを用いて洗浄対象の洗浄を行う構成であってもよい。
【0018】
操作部5は、制御部2と有線又は無線により接続される。洗浄作業(清掃作業)を行うオペレータは、操作部5を用いて制御部2に指令を出すことができる。操作部5は、洗浄機1の手動操作を可能とする。オペレータが操作部5を用いて行った動作指令に応じて、制御部2は、洗浄機1の動作を制御可能である。また、操作部5は、洗浄機1の運転モードの選択を可能とする。詳細には、操作部5は、手動モードと、自動モードとの選択を可能に設けられる。手動モードが選択されると、オペレータは、操作部5を用いて洗浄機1の手動操作を行うことができる。自動モードが選択されると、洗浄機1は、自動で移動しながら養殖網の洗浄を行う。なお、操作部5は、オペレータが操作するために、陸上又は船上に配置される。
【0019】
表示部6は、例えば液晶ディスプレイ等の表示装置によって構成され、制御部2と電気的に接続される。表示部6は、操作部5と同様に、陸上又は船上に配置される。表示部6は、例えば、洗浄機1が備えるカメラ1bで撮影された画像を表示可能に設けられる。また、表示部6は、制御部2によって生成された画像を表示可能に設けられる。なお、表示部6は、制御部2を介することなく、カメラ1bと直接接続される構成であってもよい。
【0020】
<2.洗浄機の概要>
図2は、本発明の実施形態に係る洗浄機1の概略の構成を示す斜視図である。図3は、本発明の実施形態に係る洗浄機1を図2と異なる方向から見た概略斜視図である。図2は、洗浄機1を斜め上方から見た図である。図3は、洗浄機1を斜め下方から見た図である。図4は、本発明の実施形態に係る洗浄機1の概略の構成を示す側面図である。図4は、洗浄機1を右方から見た図である。
【0021】
図2から図4に示すように、洗浄機1は、走行体11と、洗浄ユニット12と、プロペラ13と、環状体14とを備える。
【0022】
走行体11は、走行体本体部111と、4つの車輪112とを有する。4つの車輪112は、詳細には、左前輪112a、右前輪112b、左後輪112c、および、右後輪112dで構成される。各車輪112は、走行体本体部111内に配置される別々のモータ1aからの回転動力を伝達可能に、走行体本体部111の側部に配置される。換言すると、走行体本体部111内に配置されるモータ1aには、左前輪112a用のモータと、右前輪112b用のモータと、左後輪112c用のモータと、右後輪112d用のモータとが含まれる。各車輪112は、各モータ1aの駆動によって別々に回転する。なお、各モータ1aは、上述の電線束7(図1参照)に含まれる給電線に接続される。
【0023】
各モータ1aの回転数を同じとして同方向に回転させることにより、走行体11は前後方向に直進する。すなわち、走行体11は前後方向に直進走行する。走行体11が前進走行するか、後進走行するかは、モータ1aの回転方向によって決まる。また、例えば、走行体11が前進走行している状態で、右側の車輪112b、112d用のモータの回転数を、左側の車輪112a、112c用のモータの回転数よりも大きくすると、走行体11は左に向けて曲がる。逆に、左側の車輪112a、112c用のモータの回転数を、右側の車輪112b、112d用のモータの回転数よりも大きくすると、走行体11は右に向けて曲がる。
【0024】
なお、走行体11が後進走行している状態においても、同様に進行方向を変えることができる。また、左側の車輪112a、112c用のモータと、右側の車輪112b、112d用のモータとを、互いに逆方向に回転させると、走行体11を旋回(超信地旋回)させることもできる。また、走行体本体部111内に収容されるモータの数は、4つに限らず、例えば2つであってもよい。例えば、左前輪112a用のモータと右前輪112b用のモータとの2つのモータを備える構成としてもよい。この構成の場合、左前輪112aと左後輪112cとをベルト機構またはチェーン機構で連結し、右前輪112bと右後輪112dとを同様にベルト機構またはチェーン機構で連結する構成としてよい。
【0025】
洗浄ユニット12は、走行体11の下方に配置され、洗浄対象を洗浄する。詳細には、洗浄ユニット12は、高圧水ポンプ4からホース8を介して供給される高圧水を洗浄対象である養殖網に向かって噴射し、当該噴射により生じる噴流によって養殖網の洗浄を行う。
【0026】
洗浄ユニット12は、円盤状の回転体121を有する。回転体121は、上下に延びる回転軸15の下端部に取り付けられ、回転軸15と共に回転する。なお、回転軸15は、走行体本体部111に回転可能に支持される。詳細には、回転軸15は、走行体本体部111内に配置されるロータリジョイント(不図示)によって回転可能に支持される。高圧水ポンプ4からロータリジョイントに供給された高圧水は、回転軸15および回転体121内を通って、回転体121の下面に配置される洗浄ノズル122に送られる。本実施形態では、洗浄ノズル122の数は2つである。ただし、洗浄ノズル122の数は適宜変更されてよい。
【0027】
洗浄ノズル122は、所定角度だけ下方に傾斜して配置されており、洗浄時において洗浄ノズル122の高圧水の噴射方向は、養殖網の表面に向く。洗浄ノズル122から高圧水が噴射された場合、この高圧水の噴射に伴って発生する噴射反力により、回転体121が回転軸15と共に回転する。洗浄ユニット12は、回転軸15を中心として回転しながら養殖網の表面に高圧水を噴射することによって、養殖網に付着している海草藻や貝類等を広範囲に亘って除去することができる。
【0028】
プロペラ13は、走行体11の上方に配置される。プロペラ13は、回転軸15の上端部に取り付けられる。プロペラ13は、回転軸15と共に回転する。洗浄ノズル122から高圧水が噴射され、その噴射の反力によって回転体121と共に回転軸15が回転すると、プロペラ13も回転する。プロペラ13は、回転により走行体11を洗浄対象に押し付ける推力を発生する。
【0029】
環状体14は、プロペラ13を囲む。環状体14は、上下方向からの平面視において、中央部に大径の開口141を有する環状である。プロペラ13は、環状体14が有する開口141内に配置される。環状体14は、詳細には、走行体本体部111との上下方向間に配置される連結体16によって走行体11と連結される。連結体16は、上下方向に延びる支柱である。本実施形態では、連結体16の数は2つであり、2つの連結体16は、走行体本体部111の前後方向の中央部に配置される。2つの連結体16のうちの一方は、走行体本体部111の左端部に配置され、他方は走行体本体部111の右端部に配置される。
【0030】
環状体14はフロートとしての機能を有する。フロートとして機能する環状体14が設けられることにより、洗浄機1は、水の中に入れられた際に浮く。本実施形態では、洗浄機1は、水の中に入れられた際に、環状体14を上、走行体11を下とする姿勢となり、環状体14の上面が水面と同等の高さ位置になって浮く。洗浄機1が浮いた状態において、プロペラ13は水中に存在する。
【0031】
なお、本実施形態においては、環状体14の前端部と後端部とのそれぞれに、カメラ1bが取り付けられる。カメラ1bには、洗浄機1の前方を撮影するフロントカメラ1bFと、後方を撮影するリアカメラ1bRとが含まれる。なお、カメラ1bの数や配置は適宜変更されてよい。
【0032】
走行体11と環状体14とは上下方向に離れており、走行体11と環状体14との上下方向間には、水の導入路として機能する導入空間10が形成される。プロペラ13が回転すると、導入空間10からプロペラ13に向けて水が導入され、開口141から水が吹き出す水流が発生する。プロペラ13の回転により生じる水流によって、洗浄機1に推進力が発生し、各車輪112が養殖網に所定の圧力で当接した状態が維持される。
【0033】
<3.水中洗浄装置を用いた洗浄の概要>
水中洗浄装置100を用いて養殖網の洗浄を行う場合には、陸上または船上からクレーンを利用して、洗浄機1が養殖網で囲まれた養殖用スペース内(水の中)に入れられる。水の中に入れられた時点で、洗浄機1は浮く。この後、高圧水ポンプ4の駆動により、高圧水がホース8を介して洗浄機1の洗浄ユニット12に供給される。これにより、洗浄ユニット12と共にプロペラ13が回転する。プロペラ13の回転による推進力によって、洗浄機1は養殖網に押し付けられる。洗浄機1が養殖網に押し付けられた状態で、モータ1aの駆動により車輪112が回転すると、洗浄機1は養殖網の表面に沿って走行する。当該走行中に洗浄ユニット12が回転しながら洗浄ノズル122から高圧水を噴射するために、養殖網を広範囲に洗浄することができる。
【0034】
図5は、本発明の実施形態に係る水中洗浄装置100を用いた養殖網200の洗浄例について説明するための図である。養殖網200の洗浄に際しては、操作部5を利用した手動走行により、洗浄機1が開始位置SPに移動される。図5に示す例では、開始位置SPは、養殖網200の側面201に設定される。洗浄機1は、開始位置SPから自動走行による洗浄(自動洗浄)を開始する。なお、養殖網200の、洗浄機1が走行した部分は、洗浄ユニット12の動作により洗浄される。
【0035】
図5に示す例では、洗浄機1は、制御部2による制御のもと、側面201に沿って海底側に向けて直進移動(前進)を開始する。洗浄機1は、側面201に沿って前進して底面202に到達し、そのまま前進を続けて底面202に沿った前進を開始する。この後、洗浄機1は、制御部2による底面洗浄用の移動制御にしたがって底面202を洗浄しながら移動する。底面202における洗浄機1の移動制御の詳細については、後述する。
【0036】
なお、図5に示す例では、自動洗浄の開始位置SPが側面201に設定されたが、これは例示にすぎない。開始位置は、底面202に設定されてもよい。また、底面202の洗浄が終了した場合に、洗浄機1は、自動で水面(海面)側に移動する構成でも、手動で水面側に戻される構成でもよい。
【0037】
図6は、本発明の実施形態に係る水中洗浄装置100を用いた養殖網200の他の洗浄例について説明するための図である。図6に示す例では、洗浄機1は、制御部2の移動制御のもと、側面201の自動洗浄を行った後に、底面202の自動洗浄を行う。なお、図6に示す例でも、洗浄機1は、操作部5を利用した手動走行により、側面201に設定される開始位置に移動される。開始位置は、養殖網200の水面に近い位置に設定される。
【0038】
側面201の自動洗浄においては、洗浄機1は、開始位置から一定の水深(目標水深)を保ちながら前進或いは後進を行う。洗浄機1は、一定の水深を維持しながら、養殖網200の側面201(内周面)に沿って一周する。洗浄機1は、養殖網200の内周面に沿って一周すると、現在の水深より深い目標水深まで自機の位置を下げる。
【0039】
図6に示す例において、太線で示す目標水深TD1から破線で示す目標水深TD2へと変更することが、目標水深の変更の一例に該当する。洗浄機1は、変更された目標水深を維持しながら、養殖網200の内周面に沿って一周する。この際、洗浄機1は、前回の目標水深の場合と反対方向に走行する。例えば、前回の走行方向が反時計回り方向であれば、今回の走行方向は時計回り方向とされる。このように進行方向を反転させると、洗浄機1から延びるホース8等が捻じれることを抑制できる。
【0040】
洗浄機1は、目標水深を維持した周回動作と、目標水深の変更とを繰り返す。これにより、洗浄機1は、養殖網200の側面201について、水面側の端部から海底側の端部までの洗浄を行う。側面201の洗浄の終了は、例えば、水深センサ1cやカメラ1bから得られる情報によって判定されてよい。
【0041】
制御部2は、養殖網200の側面201の洗浄を終了すると、例えば姿勢センサ1dからの情報を利用して、洗浄機1の姿勢を、海底側に向けて前進可能な姿勢にさせる。制御部2は、この後、上述の図5の場合と同様の手法で洗浄機1の移動制御を行って、底面202の自動洗浄を開始させる。底面202における洗浄機1の移動制御の詳細については、後述する。
【0042】
なお、図6に示す例の場合も、底面202の洗浄が終了した場合に、洗浄機1は、自動で水面(海面)側に移動する構成でも、手動で水面側に戻される構成でもよい。また、先に底面202の自動洗浄が行われた後に、側面201の自動洗浄が行われる構成としてもよい。
【0043】
<4.底面の自動洗浄>
以下、水中洗浄装置100を用いた、養殖網200の底面202の自動洗浄方法について詳細に説明する。
【0044】
[4-1.第1実施形態]
まず、本発明の第1実施形態に係る、底面202の自動洗浄方法について説明する。
【0045】
(4-1-1.制御部の機能)
図7は、第1実施形態に係る底面202の自動洗浄方法を実現する制御部2Aの機能を示すブロック図である。なお、制御部2Aは、図1に示す制御部2の具体例である。図7に示すように、制御部2Aは、その機能として、移動制御部21と、境界判定部22と、作業終了判定部23とを備える。本実施形態においては、制御部2Aの機能は、記憶部3(図1参照)に記憶されるプログラムにしたがった演算処理を、CPU等の演算回路が実行することによって実現される。
【0046】
なお、各機能部21~23は、1つのプログラムにより纏めて実現されてもよいが、例えば、機能部ごとに別々のプログラムにより実現される等、複数のプログラムにより実現されてもよい。また、各機能部21~23は、別々の演算装置により実現されてもよい。
【0047】
また、各機能部21~23は、上述のように、CPU等のプロセッサにプログラムを実行させること、すなわちソフトウェアにより実現されてよいが、他の手法により実現されてもよい。各機能部21~23の少なくとも一部は、例えば、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等を用いて実現されてもよい。すなわち、各機能部21~23は、専用のIC等を用いてハードウェアにより実現されてもよい。また、各機能部21~23は、ソフトウェアおよびハードウェアを併用して実現されてもよい。また、各機能部21~23は、概念的な構成要素である。1つの構成要素が実行する機能が、複数の構成要素に分散されてもよい。また、複数の構成要素が有する機能が1つの構成要素に統合されてもよい。
【0048】
移動制御部21は、操作部5を用いて選択された運転モードに応じて洗浄機1の移動制御を行う。運転モードが手動モードであれば、移動制御部21は、オペレータの操作部5を用いた指令にしたがって洗浄機1の移動制御を行う。また、運転モードが自動モードであれば、移動制御部21は、水深センサ1cや姿勢センサ1d等のセンサから得られる情報に基づいて移動制御を行う。なお、運転モードが自動モードである場合に、移動制御部21は、センサ情報に加えてカメラ1bから得られる情報を用いて移動制御を行ってもよい。移動制御は、詳細には、前後左右の4つのモータ1aの駆動制御により実現される。
【0049】
境界判定部22は、養殖網200の底面202と側面201との境界を判定する。境界の判定は、姿勢センサ1dから得られる洗浄機1のピッチ角に基づいて行われる。すなわち、制御部2Aは、姿勢センサ1dから得られる洗浄機1のピッチ角に基づいて、洗浄対象200の底面202と側面201との境界を判定する。なお、ピッチ角は、洗浄機1の、左右を軸とした回転の回転角である。
【0050】
本実施形態では、洗浄機1の傾斜変化(ピッチ角の変化)のみを指標として、養殖網200の底面202と側面201との境界を検出することができる。すなわち、洗浄機1から側面201までの正確な距離を計測出来なくても、底面202と側面201との境界を検出して、底面202の洗浄を効率良く行うことが可能である。例えば養殖網200が化繊で構成されて形状が変化し易い場合でも、本実施形態の構成によれば、底面202と側面201との境界を適切に検出することができる。また、本実施形態の洗浄機1のように高圧水を噴射することで養殖網200の洗浄を行う構成では、洗浄作業時に気泡が発生する。例えば音波を用いた測距センサを利用とする場合には、この気泡がノイズとなり、底面202と側面201との境界を正確に検出できなくなることがある。この点、本実施形態によれば、気泡の発生に関係なく、底面202と側面201との境界を正確に検出することができる。
【0051】
詳細には、境界判定部22は、ピッチ角が所定範囲から外れると底面202と側面201との境界を検出する。所定範囲は、例えば-45°から+45°である。移動制御部21は、境界判定部22により境界が検出されると、洗浄機1の移動方向の変更を行う。すなわち、制御部2Aは、ピッチ角が所定範囲から外れると境界を検出して洗浄機1の移動方向の変更を行う。境界の検出に応じて洗浄機1の移動方向を変更することにより、底面202の洗浄を効率良く行うことができる。なお、移動方向の変更には、前後進の切り替え、および、旋回が含まれてよい。移動方向の変更の詳細については後述する。
【0052】
作業終了判定部23は、洗浄機1による養殖網200の底面202の洗浄作業の終了を判定する。本実施形態では、作業終了判定部23は、姿勢センサ1dから得られる洗浄機1のロール角に基づき底面202の洗浄作業の終了を判定する。なお、ロール角は、洗浄機1の、前後を軸とした回転の回転角である。底面202の洗浄作業の終了判定の詳細については後述する。
【0053】
(4-1-2.底面洗浄方法)
図8Aおよび図8Bは、第1実施形態の制御部2Aによって実行される底面202の自動洗浄処理の流れを例示するフローチャートである。図8Aは、処理の前段部分を示す。図8Bは、処理の後段部分を示す。
【0054】
なお、本実施形態では、制御部2Aは、洗浄機1の移動制御(自動洗浄のための移動制御)を、側面201から開始可能に設けられる。そして、図8Aおよび図8Bに示す例において、洗浄機1の移動制御の開始位置(自動洗浄開始位置)は側面201である。自動洗浄開始位置において、洗浄機1は、前方を下方(海底)に向けて、側面201に配置される。側面201から自動移動制御が開始されることにより、洗浄機1を手動で底面202まで移動させる必要をなくすことができ、オペレータの作業負担を低減できる。また、側面201に沿って移動を行う場合には、重力方向に直進すればよいために、移動走行開始時の位置合わせの負担を低減できる。なお、自動洗浄開始位置は、底面202であってもよい。
【0055】
ステップS1では、制御部2Aは、モータ1aを制御して洗浄機1を前進させる。なお、前進は前方への直進移動(直進走行)である。本実施形態では、直進移動中は、洗浄機1の位置制御は行われず、姿勢センサ1dから得られる姿勢角を用いた姿勢制御のみが行われる。なお、姿勢センサ1dから得られる姿勢角には、ピッチ角、ロール角、および、ヨー角が含まれる。ヨー角は、洗浄機1の、上下を軸とした回転の回転角である。例えば、制御部2Aは、ヨー角が0°となるように、左右の車輪112の速度の制御を行う。
【0056】
なお、本実施形態では、姿勢制御のみを用いて直進移動を行う構成となっている。ただし、これは例示である。制御部2Aは、例えば、車輪112の回転数を計測するエンコーダを用いて得られる前後方向の移動距離と、姿勢センサ1dから得られる移動方向とを用いて底面202上における位置を推定し、直進移動時において位置制御を行ってもよい。
【0057】
図9は、養殖網200の底面202の自動洗浄時における洗浄機1の移動制御について説明するための模式図である。図9において、矢印は洗浄機1の移動方向を含む移動状態を示す。各矢印には、図8Aおよび図8Bに示す各ステップに付される符号(S1など)と対応付けられた符号が付されている。また、図9中の星印は、ピッチ角に基づいて底面202と側面201との境界203が検出されたことを示す。以下、図8Aおよび図8Bにおける自動洗浄処理の説明にあたって、図9を適宜参照して説明を行う。図9に示されるように、側面201に設けられる開始位置SPから前進を開始した洗浄機1は、側面201から底面202へと移り、底面202を横断する。洗浄機1の前進が開始されると、次のステップS2に処理が進められる。
【0058】
ステップS2では、制御部2Aは、ピッチ角が第1規定値以下であるか否かを判定する。第1規定値は、洗浄機1の前進時に境界203を検出することができるように設定される。本実施形態では、ピッチ角は、洗浄機1が水平となる姿勢の場合に0°となるように、予め設定されている。また、前方が後方に対して上となるように傾斜した際のピッチ角は、0°よりも小さくなる(負となる)ように設定されている。また、後方が前方に対して上となるように傾斜した際のピッチ角は、0°よりも大きくなる(正となる)ように設定されている。なお、当該設定は例示であり、ピッチ角の設定の仕方は適宜変更されてよい。
【0059】
開始位置SP(図9参照)におけるピッチ角は、例えば略+90°である。第1規定値は、例えば-45°である。開始位置SPから前進を開始して側面201から底面202へと移行した時点において、洗浄機1のピッチ角は略0°である。この時点では、ピッチ角が-45°よりも大きいために、境界203は検出されない。図9に示すように、洗浄機1は、底面202上の前進を続け、境界203に到達する。境界203に到達した状態で前進を続けると、洗浄機1が側面201への乗り上げを開始する。乗り上げが開始した状態でさらに前進を続けると、ピッチ角が-45°以下となる。これにより、制御部2Aは境界203を検出する。
【0060】
すなわち、本実施形態では、制御部2Aは、境界203を検出するまで洗浄機1を直進移動させる。このために、底面202の外縁まで洗浄を行うことができる。また、制御部2Aは、洗浄機1が底面202の最初の直進移動である第1直進移動を開始した後に、最初の境界203を検出する。このように構成すると、自動洗浄の開始位置SPを側面201とした場合でも、複雑な処理を行うことなく、底面202の洗浄時に必要となる境界203の検出を行うことができる。ピッチ角が第1規定値以下となると(ステップS2でYes)、境界203が検出されて次のステップS3に処理が進められる。一方、ピッチ角が第1規定値よりも大きい場合には(ステップS2でNo)、洗浄機1の前進が維持された状態で、ステップS2の処理が繰り返される。
【0061】
なお、水中においては、潮流による影響等で底面202が波打った形状となり、底面202の移動中においても、洗浄機1のピッチ角が瞬間的に第1規定値以下となることが起こり得る。この点を考慮して、ピッチ角が第1規定値以下となる状態が所定時間(例えば数秒等)継続した場合に、境界203が検出される構成としてもよい。
【0062】
また、本実施形態では、ピッチ角にのみ基づいて境界203を検出する構成であるが、これは例示である。上述のように、ピッチ角と時間とに基づいて境界203が検出されてよい。また、例えば、ピッチ角に加えて、洗浄機1の底面202における移動距離も参照して境界203が検出される構成としてもよい。この場合、洗浄機1の移動量は、例えば車輪112の回転数を計測するエンコーダを用いて得られてよい。また、境界203の位置は、予め得られている養殖網200の形状情報および寸法情報を用いて求められてよい。場合によっては、境界203は、ピッチ角を用いることなく、養殖網200の形状情報および寸法情報と、洗浄機1の底面202における移動距離情報とによって検出されてもよい。
【0063】
ステップS3では、制御部2Aは、洗浄機1の後進時間を設定する。すなわち、境界203が検出されると、洗浄機1は、前進を辞めて後進を行う。後進は、後方への直進移動(直進走行)である。ステップS3の時間設定は、当該後進を行うための準備処理である。後進を行う理由、および、後進時間の設定に関する詳細については、後述する。後進時間が設定されると、次のステップS4に処理が進められる。
【0064】
ステップS4では、制御部2Aは、モータ1aを制御して洗浄機1を後進させる。後進により、洗浄機1の状態を、側面201に乗り上げた状態から、側面201に乗り上げていない状態へと変更することができる。洗浄機1の後進が開始されると、次のステップS5に処理が進められる。
【0065】
ステップS5では、制御部2Aは、ピッチ角が第2規定値以上であるか否かを判定する。第2規定値は、洗浄機1の側面201への乗り上げが解消されたことを確認できるように設定される。第2規定値は、例えば-5°等であってよい。ピッチ角が第2規定値以上である場合(ステップS5でYes)、次のステップS6に処理が進められる。一方、ピッチ角が第2規定値よりも小さい場合(ステップS5でNo)、洗浄機1の後進が維持された状態で、ステップS5の処理が繰り返される。
【0066】
ステップS6では、制御部2Aは、洗浄機1が先に設定(ステップS3で設定)した時間後進したか否かを判定する。洗浄機1を設定した時間後進させる処理は、この後に行われる旋回時に、洗浄機1が境界203を跨がないようにするために設けられる。このために、ステップS3における設定時間は、例えば、洗浄機1のピッチ角が第2規定値以下となった状態から、洗浄機1が機体長(前後方向の長さ)の半分の長さに旋回半径を加算した長さ以上後進するように設定される。当該時間設定は、例えば実験やシミュレーション等によって決定されてよい。設定時間後進したと判定された場合(ステップS6でYes)、次のステップS7に処理が進められる。設定時間後進していないと判定された場合(ステップS6でNo)、洗浄機1の後進が維持された状態で、ステップS6の処理が繰り返される。
【0067】
以上からわかるように、ステップS4で行われる後進処理は、洗浄機1が側面201に乗り上げた状態を解消するための後進である。より詳細には、ステップS4で行われる後進処理は、側面201への乗り上げの解消に加えて、底面202内での旋回スペースを確保するための後進である。以下、このような目的で行われる後進のことを第1後進と表現することがある。
【0068】
ステップS7では、制御部2Aは、モータ1aを制御して洗浄機1を90°旋回させる。本実施形態では、洗浄機1は、予め行った設定に応じて時計回り方向に90°旋回を行う(図9も参照)。なお、洗浄機1は、反時計回り方向に90°旋回を行う構成であってもよい。また、好ましい形態として、洗浄機1は超信地旋回を行う。旋回を超信地旋回とすることにより、旋回に伴う位置ずれを小さくすることができる。90°旋回を行わせると、次のステップS8に処理が進められる。
【0069】
以上からわかるように、本実施形態では、制御部2Aは、洗浄機1の底面202における最初の直進移動である第1直進移動により境界203を検出すると、洗浄機1を90°旋回させる。このような構成とすると、洗浄機1の洗浄経路を、底面202を一度横断させた後に底面202の縦断を繰り返しながら横断開始地点に戻す構成とすることができる。この場合、底面202の洗浄終了位置が横断開始地点、或いは、その近辺となるために、オペレータの操縦負担を低減することができる。90°旋回後の洗浄経路の詳細については以下で説明する。
【0070】
また、本実施形態では、制御部2Aは、境界203の検出に伴い行われる旋回の前に、洗浄機1に対して第1後進を行わせる。より詳細には、制御部2Aは、境界203の検出に伴い行われる90°旋回の前に、洗浄機1に対して第1後進を行わせる。第1後進が行われることにより、洗浄機1が側面201(傾斜面)で旋回することを避けることができる。傾斜面で旋回が行われると、洗浄機1がずり落ちて位置ずれを発生する可能性が高くなる。本実施形態の構成によれば、このような位置ずれが旋回時に発生することを抑制することができるために、洗い残しの発生や、同じ箇所を繰り返し洗浄する繰り返し洗浄の不必要な発生を抑制することができる。
【0071】
ステップS8では、制御部2Aは、モータ1aを制御して洗浄機1を後進させる(図9も参照)。当該後進は、境界203付近における洗い残しを少なくするために行われる。当該後進は、上述の側面201への乗り上げの解消を目的とする第1後進と異なる後進である。以下、洗い残しの発生を少なくすることを目的として行われる後進のことを第2後進と表現することがある。以上からわかるように、本実施形態では、制御部2Aは、洗浄機1の旋回後に、洗浄機1に対して第2後進を行わせる。詳細には、制御部2Aは、90°旋回の後に、洗浄機1に対して第2後進を行わせる。洗浄機1の第2後進が開始されると、次のステップS9に処理が進められる。
【0072】
ステップS9では、制御部2Aは、ピッチ角が第3規定値以上であるか否かを判定する。第3規定値は、洗浄機1の後進時に境界203を検出することができるように設定される。第3規定値は、例えば+45°等であってよい。ピッチ角が第3規定値以上である場合(ステップS9でYes)、洗浄機1が後進により境界203まで到達して洗い残し領域の発生を抑制できると判断できるために、次のステップS10に処理が進められる。一方、ピッチ角が第3規定値よりも小さい場合(ステップS9でNo)、洗浄機1が後進により境界203まで到達していないと判断できるために、洗浄機1の後進が維持された状態で、ステップS9の処理が繰り返される。
【0073】
ステップS10では、制御部2Aは、モータ1aを制御して洗浄機1を前進させる(図9も参照)。なお、この際の前進方向は、ステップS1における前進方向に対して90°回転している。すなわち、制御部2Aは、洗浄機1に対して第1直進移動と直交する方向への直進移動である第2直進移動を実行させる。洗浄機1の前進が開始されると、次のステップS11に処理が進められる。
【0074】
ステップS11では、制御部2Aは、ピッチ角が第1規定値以下であるか否かを判定する。当該処理は、洗浄機1の前進時における境界検出のための処理であり、先に説明したステップS2と同様の処理である。このために、詳細な説明は省略する。ピッチ角が第1規定値以下となると(ステップS11でYes)、境界203が検出されて次のステップS12に処理が進められる。一方、ピッチ角が第1規定値よりも大きい場合には(ステップS11でNo)、洗浄機1の前進が維持された状態で、ステップS11の処理が繰り返される。
【0075】
ステップS12では、制御部2Aは、洗浄機1の後進時間を設定する。当該後進時間の設定処理は、第1後進時の後進時間を設定する処理であり、先に説明したステップS3と同様の処理である。このために、詳細な説明は省略する。後進時間が設定されると、次のステップS13に処理が進められる。
【0076】
ステップS13では、制御部2Aは、モータ1aを制御して洗浄機1を後進させる(図9も参照)。当該後進は、第1後進であり、先に説明したステップS4と同様の処理である。このために、詳細な説明は省略する。洗浄機1の後進が開始されると、次のステップS14に処理が進められる。
【0077】
ステップS14では、制御部2Aは、ピッチ角が第2規定値以上であるか否かを判定する。当該処理は、洗浄機1の側面201への乗り上げが解消されたことを確認するための処理であり、先に説明したステップS5と同様の処理である。このために、詳細な説明は省略する。ピッチ角が第2規定値以上である場合(ステップS14でYes)、次のステップS15に処理が進められる。一方、ピッチ角が第2規定値よりも小さい場合(ステップS14でNo)、洗浄機1の後進が維持された状態で、ステップS14の処理が繰り返される。
【0078】
ステップS15では、制御部2Aは、先に設定(ステップS12で設定)した時間後進したか否かを判定する。洗浄機1を設定した時間後進させる処理は、この後に行われる180°旋回時に、洗浄機1が境界203を跨がないようにするために設けられる。当該処理は、先に説明したステップS6と同様の処理である。このために、詳細な説明は省略する。制御部2Aは、設定時間後進したと判定された場合(ステップS15でYes)、次のステップS16に処理が進められる。設定時間後進していないと判定された場合(ステップS15でNo)、洗浄機1の後進が維持された状態で、ステップS15の処理が繰り返される。
【0079】
ステップS16では、制御部2Aは、モータ1aを制御して洗浄機1を180°旋回させる。本実施形態では、洗浄機1は、設定に応じた方向に180°旋回を行う(図9も参照)。詳細には、180°旋回の方向は、デフォルト設定では時計回り方向である。最初の180°旋回の方向を時計回り方向とすることにより、直前の第2直進移動の経路を基準として、未だ洗浄を行っていない側に洗浄位置をずらすことができる。また、好ましい形態として、洗浄機1は超信地旋回を行う。旋回を超信地旋回とすることにより、旋回に伴う位置ずれが大きくなり過ぎることを抑制することができ、洗い残しの発生を抑制することができる。180°旋回を行わせると、次のステップS17に処理が進められる。
【0080】
ステップS17では、制御部2Aは、180°旋回の旋回方向の設定について、現在の旋回方向と逆方向に設定する。ステップS16における旋回方向が時計回り方向であった場合、旋回方向の設定が、時計回り方向から反時計回り方向に変更される。ステップS16における旋回方向が反時計回り方向であった場合、旋回方向の設定が、反時計回り方向から時計回り方向に変更される。旋回方向の設定の反転が行われると、次のステップS18に処理が進められる。
【0081】
ステップS18では、制御部2Aは、ロール角が所定範囲外であるか否かを判定する。ステップS18は、底面202の全体の洗浄が終了したか否かを判定するために設けられる。すなわち、制御部2Aは、180°旋回後における、姿勢センサ1dから得られる洗浄機1のロール角に基づき底面202の洗浄作業の終了を判定する。本実施形態では、洗浄機1の現在位置を養殖網200に対して予め準備したマップと照らし合わせる必要がなく、洗浄作業の終了判定処理を単純化することができる。判定基準として用いられる上述の所定範囲の詳細については、後述する。
【0082】
なお、ロール角は、例えば、洗浄機1が水平となる姿勢の場合に0°となるように、予め設定される。また、左方が右方に対して上となるように傾斜した際のロール角は、0°よりも大きくなる(正となる)ように設定される。また、右方が左方に対して上となるように傾斜した際のロール角は、0°よりも小さくなる(負となる)ように設定される。なお、当該設定は例示であり、ロール角の設定の仕方は適宜変更されてよい。
【0083】
ロール角が所定範囲外である場合(ステップS18でYes)、制御部2Aは、底面202の洗浄が終了したと判定されるために、図8Aおよび図8Bに示す処理フローを終了する。底面202の洗浄の終了後、洗浄機1が水面方向(重力と反対方向)に自動直進を行う構成としてよい。この際、水面付近にビーコンやマーカ等を設定して、洗浄機1を特定位置まで帰還させる構成としてよい。
【0084】
一方、ロール角が所定範囲内である場合(ステップS18でNo)、制御部2Aは、底面202の洗浄が完了していないと判断し、処理をステップS8に戻す。これにより、ステップS8以降の処理が繰り返される。すなわち、制御部2Aは、90°旋回を行った洗浄機1に対して、第1直進移動(ステップS1の前進)と直交する方向への直進移動である第2直進移動を、境界203の検出に伴う180°旋回を行わせながら複数回繰り返させる。図9に示すように、180°旋回を行わせながら第2直進移動を繰り返すことによって、第1直進移動により最初に検出された境界203の位置から、第1直進移動の進行方向と反対方向きに底面202の洗浄処理を進めていくことができる。
【0085】
図10は、底面202の洗浄処理の終了判定について説明するための模式図である。なお、図10中の星印は、ピッチ角に基づいて底面202と側面201との境界203が検出されたことを示す。
【0086】
図10において、洗浄機1は、上述の第2直進移動の繰り返しにより、底面全体の洗浄処理を終了する位置近傍に到達している。洗浄機1は、図8BのステップS10に対応する前進を行うことで、底面202の全体の洗浄を終了する位置に到達する。底面全体の洗浄を終了した場合、洗浄機1の一方側の側方が、側面201(境界203)の近傍に位置する。このために、前進(図8BのS10)後の、第1後進(図8Bの13)、および、その後の180°旋回(図8BのS16)が行われた場合、洗浄機1は側面201に乗り上げる。なお、図10において、十字印は洗浄機1の側面201への乗り上げを示す。洗浄機1が180°旋回により側面201へ乗り上げた場合、洗浄機1はロール方向に傾く。図8BのステップS18における所定範囲は、洗浄機1の側面201への乗り上げを検出できるように設定される。所定範囲は、例えば-45°から+45°の範囲である。
【0087】
上述のように、図8Aおよび図8Bに示す底面202の自動洗浄処理では、ステップS17で示す旋回方向の設定の反転処理が行われる。このために、本実施形態では、2つの第2直進移動の間に行われる180°旋回の旋回方向は、180°第2直進移動が複数回繰り返される間において、交互に反転される。上述のように、本実施形態では、洗浄機1には、電線束7およびホース8(以下、ケーブル類7、8と表現することがある)が接続されている。ケーブル類7、8の捻じれは、洗浄機1の移動時に重荷となる。本実施形態のように180°旋回の旋回方向が交互に反転されることにより、ケーブル類7、8が同一方向に連続して回転することを避けられ、捻じれに伴う重荷が大きくなり過ぎることを抑制することができる。具体的には、ケーブル類7、8が同一方向に360°以上連続して回転することを避けることが好ましく、本実施形態の構成によれば、これを実現できる。
【0088】
また、本実施形態では、制御部2Aは、境界203の検出に伴い行われる180°旋回の前に、洗浄機1に対して第1後進を行わせる。第1後進が行われることにより、洗浄機1が側面201(傾斜面)で旋回することを避けることができる。傾斜面で旋回が行われると、洗浄機1がずり落ちて位置ずれを発生する可能性が高くなる。本実施形態の構成によれば、このような位置ずれが旋回時に発生することを抑制することができるために、洗い残しや、不必要な繰り返し洗浄の発生を抑制することができる。
【0089】
また、本実施形態では、制御部2Aは、180°旋回の後に、洗浄機1に対して第2後進を行わせる。第2後進が行われることにより、洗い残し領域の発生を抑制することができる。
【0090】
以上からわかるように、本実施形態の構成によれば、水中における自己位置を検出することが困難な養殖網200の底面洗浄において、高価なセンサを用いることなく、自動洗浄を適切に行うことができる。
【0091】
[4-2.第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態に係る、底面202の自動洗浄方法について説明する。第2実施形態に係る底面202の自動洗浄方法を説明するに際して、第1実施形態に係る底面202の自動洗浄方法と重複する内容については、特に説明の必要がない場合には、その説明を省略する。
【0092】
(4-2-1.制御部の機能)
図11は、第2実施形態に係る底面202の自動洗浄方法を実現する制御部2Bの機能を示すブロック図である。なお、制御部2Bは、図1に示す制御部2の具体例である。図11に示すように、制御部2Bは、その機能として、移動制御部21と、境界判定部22と、作業終了判定部23と、側面乗り上げ判定部24とを備える。第1実施形態と同様に、本実施形態においても、制御部2Bの機能は、記憶部3(図1参照)に記憶されるプログラムにしたがった演算処理を、CPU等の演算回路が実行することによって実現される。
【0093】
移動制御部21および境界判定部22は、第1実施形態と同様であるために、その説明は省略する。
【0094】
作業終了判定部23は、洗浄機1による養殖網200の底面202の洗浄作業の終了を判定する。この点、第1実施形態と同様であるが、終了判定手法は異なる。終了判定方法の詳細については後述する。
【0095】
側面乗り上げ判定部24は、洗浄機1が旋回後に側面201に乗り上げたか否かを判定する。詳細には、側面乗り上げ判定部24は、洗浄機1が180°旋回後に側面201に乗り上げたか否かを判定する。旋回後に側面201に乗り上げたか否かの判定の手法は、第1実施形態における作業終了判定の手法と同様である。すなわち、洗浄機1が側面201に乗り上げたか否かは、姿勢センサ1dから得られる洗浄機1のロール角に基づいて判定される。詳細には、洗浄機1のロール角が、所定範囲外となった場合に側面201への乗り上げが検出される。所定範囲は、例えば-45°から+45°の範囲である。
【0096】
(4-2-2.底面洗浄方法)
図12は、第2実施形態の制御部2Bによって実行される底面202の自動洗浄処理の流れを例示するフローチャートである。図13は、第2実施形態に係る底面202の自動洗浄処理の概要を模式的に示す図である。なお、図13において、黒丸は、各エリアAR1~AR4の洗浄の開始点を示す。また、図13において、底面202上に記載される直線は洗浄経路を示す。図13に示すように、第2実施形態においては、底面202に想定される複数のエリアAR1~AR4を順次洗浄していく構成となっている。以下、図12および図13を参照しながら、第2実施形態における底面202の自動洗浄処理の詳細について説明する。
【0097】
なお、自動洗浄の開始時の洗浄機1の位置は、第1実施形態の場合と同様であってよく、例えば側面201であってよい。以下では、側面201から自動洗浄の制御が開始されることとする。
【0098】
ステップS21では、制御部2Bは、変数nを1に設定する。変数nが1に設定されると、次のステップS22に処理が進められる。
【0099】
ステップS22では、制御部2Bは、第nエリアARn(n:変数)の洗浄を開始させる。第nエリアARnの洗浄が開始されると、次のステップS23に処理が進められる。なお、自動洗浄の開始直後では、変数nは1であり、第nエリアARnは、第1エリアAR1である。
【0100】
ステップS23では、制御部2Bは、モータ1aを制御して洗浄機1を前進させる。前進が開始されることにより、第1実施形態と同様に、洗浄機1は、側面201に沿って海底側に向かって移動し、側面201から底面202へと移り、底面202を横断する。洗浄機1の前進が開始されると、次のステップS24に処理が進められる。
【0101】
ステップS24では、制御部2Bは、底面202と側面201との境界203を検出したか否かを判定する。境界203の検出手法は、第1実施形態の場合と同様であってよい。詳細には、ピッチ角が第1規定値(例えば-45°)以下であるか否かを判定することで、境界203の検出が行われてよい。境界203が検出されると(ステップS24でYes)、次のステップS25に処理が進められる。一方、境界203が検出されなかった場合には(ステップS24でNo)、洗浄機1を前進させた状態でステップS24の監視処理が継続される。
【0102】
ステップS25では、制御部2Bは、洗浄機1を180°旋回させる。180°旋回は、例えば超信地旋回である。詳細には、洗浄対象となっている第nエリアARnの洗浄が進んでいくように、180°旋回が行われる。より詳細には、第nエリアARnを洗浄する最初の直進移動経路FPを基準として、洗浄機1の進行方向右側と左側とのうち一方に向けて洗浄が進んで行くように、180°旋回が行われる。本実施形態では、一例として、進行方向右側に向けて洗浄が進んで行くように、180°旋回が行われる。最初の180°旋回は、時計回り方向である。なお、180°旋回の旋回方向は、旋回ごと反転される。すなわち、初回の180°回転の旋回方向が時計回り方向である場合、2回目の180°旋回の旋回方向は反時計回りであり、3回目の180°旋回の旋回方向は時計回り方向である。180°旋回を行わせると、次のステップS26に処理が進められる。
【0103】
なお、詳細には、本実施形態においても、第1実施形態と同様に、制御部2Bは、180°旋回の前に、洗浄機1に対して第1後進を行わせる。これにより、洗浄機1を底面202で旋回させることができる。また、第1実施形態と同様に、制御部2Bは、180°旋回の後に、洗浄機1に対して第2後進を行わせる。これにより、洗い残しの発生を抑制することができる。
【0104】
ステップS26では、制御部2Bは、180°旋回により洗浄機1が側面201に乗り上げたか否かを確認する。上述のように、側面201に乗り上げたか否かは、洗浄機1のロール角に基づいて判定される。側面201への乗り上げ判定は、第nエリアARnの洗浄が完了した否かを判定するために行われる。側面201への乗り上げが検出された場合、第nエリアARnの洗浄が完了したと判断される。側面201への乗り上げが検出された場合(ステップS26でYes)、次のステップS27に処理が進められる。一方、側面201への乗り上げが検出されなかった場合(ステップS26でNo)、処理がステップS23に戻されて、180°旋回後の前進が開始される。
【0105】
ステップS27では、制御部2Bは、変数nに1を加算する加算処理を行う。加算処理が行われると、次のステップS28に処理が進められる。
【0106】
ステップS28では、制御部2Bは、変数nが「5」であるか否かを判定する。変数nが「5」である場合(ステップS28でYes)、制御部2Aは、想定した全てのエリアAR1~AR4の洗浄が完了したと判定されるために、図12に示す処理フローを終了する。なお、変数nは、洗浄機1の側面201への乗り上げの検出に応じて加算される。このために、本実施形態では、制御部2Bは、洗浄機1の側面201への乗り上げ回数に基づいて底面202の洗浄の終了を判定していると言える。変数nが「5」でない場合(ステップS28でNo)、制御部2Aは、想定した全てのエリアAR1~AR4の洗浄が完了していないと判定されるために、ステップS29に処理を進める。
【0107】
ステップS29では、制御部2Bは、直進移動(前進)の方向の方向転換を行う。詳細には、制御部2Bは、直前の洗浄領域である第(n-1)エリアARn-1における直進移動(前進)の方向に対して直交する方向に直進移動が行われるように方向転換を行う。方向転換が行われると、ステップS22に処理が戻され、第nエリアARnの洗浄が開始される。
【0108】
以上の図12および図13に関わる説明からわかるように、本実施形態では、制御部2Bは、一連の動作を、洗浄機1に対して繰り返し実行させる。一連の動作は、底面202に想定される各エリアAR1~AR4を洗浄するために行われる動作である。一連の動作が繰り返されることにより、複数のエリアの洗浄を行うことができる。
【0109】
一連の動作には、底面202の直進移動と、直進移動に伴う境界203の検出に応じた180°旋回と、180°旋回後の洗浄機1の側面201への乗り上げ判定と、側面201へ乗り上げていないと判定される場合における再度の直進移動と、側面201へ乗り上げたと判定される場合における直進移動の方向の方向転換と、が含まれる。
【0110】
また、本実施形態では、制御部2Bは、洗浄機1の側面201への乗り上げ回数に基づいて一連の動作の繰り返しを終了すると判定する。好ましい形態として、一連の動作の繰り返し回数は4回である。側面201への乗り上げ回数が4回以上となると、一連の動作の繰り返し(すなわち、底面202の洗浄)を終了すると判定される。なお、繰り返し4回目においては、一連の動作のうち、直進移動の方向の方向転換は行われてもよいが、行われなくてもよい。一連の動作が4回繰り返されることによって、4つのエリアAR1~AR4を洗浄することができる。
【0111】
本実施形態のような構成とすると、底面202の全体を縦方向と横方向との2方向から洗浄することができる。底面202を2度洗浄することができるために、洗い残しが生じる可能性を低減することができる。また、縦方向と横方向とから洗浄することができるために、底面202に撓みが発生しているような場合でも、洗い残しを生じ難くすることができる。また、本実施形態のように構成すると、底面202における洗浄開始位置TSPと洗浄終了位置TEP(図13参照)とを、同じ位置、或いは、近くとすることができる。このために、洗浄機1の回収作業を容易とすることができる。
【0112】
詳細には、図13に示すように、一連の動作の1回目で、底面202を縦方向において2分割した2つの領域の一方側に対応する第1エリアAR1が洗浄される。一連の動作の2回目で、底面202を横方向において2分割した2つの領域の一方側に対応する第2エリアAR2が洗浄される。一連の動作の3回目で、底面202を縦方向において2分割した2つの領域の他方側に対応する第3エリアAR3が洗浄される。一連の動作の4回目で、底面202を横方向において2分割した2つの領域の他方側に対応する第4エリアAR4が洗浄される。
【0113】
(4-2-3.方向転換)
以下、図12におけるステップS29における方向転換について詳細に説明する。
【0114】
図14Aは、方向転換時に発生する問題点を説明するための模式図である。図14Aは、第1エリアAR1(図13参照)の洗浄が完了して、境界203の検出後の180°旋回により、洗浄機1が側面201に乗り上げた状態を想定する。図14Aにおける十字印は、洗浄機1の側面乗り上げ検知地点を示す。
【0115】
図14Aにおいて、側面乗り上げ検出地点は、底面202を横(左右)方向において二等分する中心線CLよりも右側である。この場合、洗浄機1が側面乗り上げ検出地点で90°旋回(超信地旋回)を行うと、第2エリアAR2の洗浄開始位置が中心線CLよりも右側になる。この場合、図13も参照してわかるように、第2エリアAR2は中心線CLよりも右側に形成されることになる。このために、本来は洗われることを想定しているにもかかわらず洗われない洗い残し領域300(図14参照)が発生することになる。
【0116】
なお、側面乗り上げ検出地点が、中心線CLよりも左側である場合には、上述の洗い残し領域300は生じない。図14Bは、図14Aに関わる参考情報を説明するための模式図である。図14Bも、図14Aと同様に、第1エリアAR1(図13参照)の洗浄が完了して、境界203の検出後の180°旋回により、洗浄機1が側面201に乗り上げた状態を想定する。図14Bにおける十字印は、洗浄機1の側面乗り上げ検知地点を示す。
【0117】
図14Bにおいては、側面乗り上げ検出地点は、中心線CLよりも左側である。この場合、洗浄機1が側面乗り上げ検出地点で90°旋回(超信地旋回)を行うと、第2エリアAR2の洗浄開始位置が中心線CLよりも左側になる。このために、図14Bに示す例では、本来想定する領域よりも洗浄領域がやや広くなるが、図14Aで示すような洗い残し領域300は発生しない。
【0118】
図14Cは、方向変換時に起こる問題を回避する手法について説明するための図である。詳細には、図14Cは、図14Aで説明する問題を回避する手法である。図14A図14Bと比較してわかるように、上述の洗い残し領域300の発生は、境界203の検出後に行われる180°旋回の旋回方向が、時計回り方向である場合に生じ、反時計回り方向である場合には生じない。このために、図14Cの問題回避手法は、時計回り方向の180°旋回後に側面乗り上げが検知された場合にのみ行われればよい。なお、洗浄機1の旋回方向は、姿勢センサ1dのヨー角の変化を参照することにより検出することができる。
【0119】
図14Cは、図14Aと同様に、第1エリアAR1(図13参照)の洗浄が完了して、180°旋回により、洗浄機1が側面201に乗り上げた状態を想定する。図14Cにおける十字印は、洗浄機1の側面乗り上げ検知地点を示す。図14Cに示すように、洗浄機1は、側面乗り上げ検出地点で90°旋回をせずに、中心線CLよりも左側へと移動してから90°旋回すればよい。このようにすれば、第2エリアAR2の洗浄開始位置が中心線CLよりも左側になるために、洗い残し領域300の発生を回避できる。
【0120】
自動で中心線CLよりも左側に移動してから90°旋回する構成とするために、ピッチ角の変化が利用されてよい。具体的には、側面乗り上げ検出地点における洗浄機1のピッチ角がX°である場合、ピッチ角が(X-2X)°となった位置で90°旋回を行う構成としてよい。この構成では、側面乗り上げ検出地点に対して、中心線CLを基準として線対称となる位置で90°旋回することになる。
【0121】
なお、上記の例では、洗浄機1における側面移動時のピッチ角が必要となる。以下、図15Aおよび図15Bを参照して、側面移動時のピッチ角の導出について説明しておく。なお、図15Aは、機体座標系における洗浄機1の姿勢推移を示す模式図である。図15Bは、固定座標系における洗浄機1の姿勢推移を示す模式図である。
【0122】
上述した側面移動時の洗浄機1のピッチ角は、本来は側面201では検出できない。側面乗り上げ前の機体座標系におけるZ軸の回転をヨー角、X軸の回転をロール角、Y軸の回転をピッチ角としたZXY系オイラー角を想定する。そして、側面201の傾斜角度が90°であるとする。この場合、洗浄機1を側面乗り上げ姿勢とするために、Z軸を-90°、X軸を90°回転させる必要がある(図15Aの(a)、(b)参照)。しかし、X軸を90°度回転させるため、Y軸とZ軸が重なりジンバルロックが発生し、側面乗り上げ後にY軸の回転(ピッチ角)は、Z軸の回転(ヨー角)として姿勢センサ(IMU)1dから出力される。よって、姿勢センサ1dは、ピッチ角を出力せず、姿勢センサ1dのデータだけではピッチ角は動作していないように見える。また、ジンバルロックによってZXY系オイラー角のY軸回転がZ軸の回転に吸収されるため、ZXZ系オイラー角として表現されることになる。
【0123】
そこで、本実施形態では、ジンバルロック中のピッチ角を算出するため、機体座標系から固定座標系へ座標変換を行う。ZXZ系オイラー角の回転行列を転置することで、Z´X´Z´系固定角の回転行列へ座標変換できる。よって、ZXZ系オイラー角の回転行列と、ZXZ系オイラー角の回転行列を転置した行列(Z´X´Z´系固定角の回転行列)の各成分からZ´X´Z´系固定角の姿勢パラメータを導出できる。
【0124】
Z´X´Z´系固定角の姿勢パラメータ導出の際、固定座標系における既知の情報として第1軸の回転量と第2軸の回転量がある。固定座標系にて図5(c)と同じ姿勢にするには、第1軸(Z´軸)回転を-180°、第2軸(X´軸)回転を-90°回転、第3軸(Z´軸)回転をθ°回転する必要がある(図15B参照)。洗浄機1のピッチ角は、第3軸の回転量から求めることができる。図15Bに示す通り、第2軸(X´軸)を回転させた時、側面201と洗浄機1の後面が垂直状態になっているため、第3軸(Z´軸)回転後の洗浄機1のピッチ角は、(90-θ)°となる。ここで求められた(90-θ)°を、洗浄機1のピッチ角とみなして利用することができる。
【0125】
次に、方向転換を行う際の洗浄機1の移動経路について、図16Aおよび図16Bを参照しながら説明する。図16Aおよび図16Bは、洗浄機1が方向転換を行う際の移動経路について説明するための模式図である。図16Aおよび図16Bにおいて、実線の矢印は本実施形態の移動経路を示し、破線の矢印は比較例の移動経路を示す。また、図16Aおよび図16Bにおいて、図中に示す角度は、洗浄機1に接続されるケーブル類7、8の捻じれ角度を示す。また、図16Aは、側面201への乗り上げを引き起こした180°旋回(側面乗り上げ旋回)が時計回り方向(CW)である場合を示す。図16Bは、側面乗り上げ旋回が反時計回り方向(CCW)である場合を示す。
【0126】
図16Aに示す例の場合、時計回り方向の側面乗り上げ旋回(180°旋回)前のケーブル類7、8の捻じれ角度は0°である。ここで、時計回り方向の側面乗り上げ旋回の後に、方向転換のために、図16Aに破線矢印で示す時計回り方向の90°旋回が行われたとする。この場合、時計回り方向の180°旋回および90°旋回により、ケーブル類7、8の捻じれ角度は、-270°(=0°+(-180°)+(-90°))となる。方向転換後に行われる直進移動(前進)後の時計回り方向の180°旋回も含めると、ケーブル類7、8の捻じれ角度は-450°(=(-270°)+(-180°))に達する。上述のように、ケーブル類7、8は同一方向に360°以上連続して回転することを避けることが好ましいために、方向転換のために破線矢印で示す90°旋回を行うことは好ましくない。
【0127】
そこで、本実施形態では、方向転換のために、図16Aに実線で示す反時計回り方向の270°旋回を行う構成としている。この場合、時計回り方向の180°旋回(側面乗り上げ旋回)、および、反時計回り方向の270°旋回により、ケーブル類7、8の捻じれ角度は、90°(=(-180°)+270°)となる。方向転換後に行われる直進移動(前進)後の時計回り方向の180°旋回も含めても、ケーブル類7、8の捻じれ角度は-90°(=90°+(-180°)である。すなわち、ケーブル類7、8の捻じれを小さく抑えることができる。
【0128】
図16Bに示す例の場合、反時計回り方向の側面乗り上げ旋回(180°旋回)前のケーブル類7、8の捻じれ角度は-180°である。ここで、反時計回り方向の側面乗り上げ旋回の後に、方向転換のために、図16Bに破線矢印で示す時計回り方向の270°旋回が行われたとする。この場合、反時計回り方向の180°旋回、および、時計回り方向の270°旋回により、ケーブル類7、8の捻じれ角度は、-270°(=(-180°)+180°+(-270°))となる。方向転換後に行われる直進移動(前進)後の時計回り方向の180°旋回も含めると、ケーブル類7、8の捻じれ角度は-450°(=(-270°)+(-180°))に達する。上述のように、ケーブル類7、8は同一方向に360°以上連続して回転することを避けることが好ましいために、方向転換のために破線矢印で示す270°旋回を行うことは好ましくない。
【0129】
そこで、本実施形態では、方向転換のために、図16Bに実線で示す反時計回り方向の90°旋回を行う構成としている。この場合、反時計回り方向の180°旋回(側面乗り上げ旋回)および90°旋回により、ケーブル類7、8の捻じれ角度は、90°(=(-180°)+180°+90°)となる。方向転換後に行われる直進移動(前進)後の時計回り方向の180°旋回も含めても、ケーブル類7、8の捻じれ角度は-90°(=90°+(-180°)である。すなわち、ケーブル類7、8の捻じれを小さく抑えることができる。
【0130】
以上からわかるように、方向転換のために行う旋回の旋回方向および旋回角度は、直前に行われた180°旋回(側面乗り上げ旋回)の旋回方向に応じて変更されることが好ましい。
【0131】
<5.留意事項等>
本明細書中に開示される種々の技術的特徴は、その技術的創作の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えることが可能である。また、本明細書中に示される複数の実施形態および変形例は可能な範囲で組み合わせて実施されてよい。
【0132】
<6.付記>
本明細書における例示的な水中洗浄装置は、水中を移動しながら洗浄対象を洗浄する洗浄機と、前記洗浄機の姿勢を検出する姿勢センサと、前記姿勢センサから得られる情報に基づき前記洗浄機の移動制御を行う制御部と、を備え、前記制御部は、前記姿勢センサから得られる前記洗浄機のピッチ角に基づいて、前記洗浄対象の底面と側面との境界を判定する構成(第1の構成)であってよい。
【0133】
上記第1の構成の水中洗浄装置において、前記制御部は、前記境界を検出するまで前記洗浄機を直進移動させる構成(第2の構成)であってよい。
【0134】
上記第1又は第2の構成の水中洗浄装置において、前記制御部は、前記ピッチ角が所定範囲から外れると前記境界を検出して前記洗浄機の移動方向の変更を行う構成(第3の構成)であってよい。
【0135】
上記第1から第3のいずれかの構成の水中洗浄装置において、前記制御部は、前記洗浄機の移動制御を前記側面から開始可能に設けられる構成(第4の構成)であってよい。
【0136】
上記第1から第4のいずれかの構成の水中洗浄装置において、前記制御部は、前記洗浄機の前記底面における最初の直進移動である第1直進移動により前記境界を検出すると、前記洗浄機を90°旋回させる構成(第5の構成)であってよい。
【0137】
上記第5の構成の水中洗浄装置において、前記制御部は、前記90°旋回を行った前記洗浄機に対して、前記第1直進移動と直交する方向への直進移動である第2直進移動を、前記境界の検出に伴う180°旋回を行わせながら複数回繰り返させる構成(第6の構成)であってよい。
【0138】
上記第6の構成の水中洗浄装置において、2つの前記第2直進移動の間に行われる前記180°旋回の旋回方向は、前記第2直進移動が複数回繰り返される間において、交互に反転される構成(第7の構成)であってよい。
【0139】
上記第6又は第7の構成の水中洗浄装置において、前記制御部は、前記境界の検出に伴い行われる旋回の前に、前記洗浄機に対して第1後進を行わせる構成(第8の構成)であってよい。
【0140】
上記第6から第8のいずれかの構成の水中洗浄装置において、前記制御部は、前記洗浄機の旋回後に、前記洗浄機に対して第2後進を行わせる構成(第9の構成)であってよい。
【0141】
上記第6から第9のいずれかの構成の水中洗浄装置において、前記制御部は、前記180°旋回後における、前記姿勢センサから得られる前記洗浄機のロール角に基づき前記底面の洗浄作業の終了を判定する構成(第10の構成)であってよい。
【0142】
上記第1から第4のいずれかの構成の水中洗浄装置において、前記制御部は、前記底面の直進移動と、前記直進移動に伴う前記境界の検出に応じた180°旋回と、前記180°旋回後の前記洗浄機の前記側面への乗り上げ判定と、前記側面へ乗り上げていないと判定される場合における再度の前記直進移動と、前記側面へ乗り上げたと判定される場合における前記直進移動の方向の方向転換と、を含む一連の動作を、前記洗浄機に対して繰り返し実行させる構成(第11の構成)であってよい。
【0143】
上記第11の構成の水中洗浄装置において、前記制御部は、前記洗浄機の前記側面への乗り上げ回数に基づいて前記一連の動作の繰り返しを終了すると判定する構成(第12の構成)であってよい。
【符号の説明】
【0144】
1・・・洗浄機
1d・・・姿勢センサ
2、2A、2B・・・制御部
100・・・水中洗浄装置
200・・・養殖網(洗浄対象)
201・・・側面
202・・・底面
203・・・境界
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図9
図10
図11
図12
図13
図14A
図14B
図14C
図15A
図15B
図16A
図16B