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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024135643
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】窒化物半導体発光素子
(51)【国際特許分類】
   H01L 33/14 20100101AFI20240927BHJP
   H01L 33/32 20100101ALI20240927BHJP
【FI】
H01L33/14
H01L33/32
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023046430
(22)【出願日】2023-03-23
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業「紫外レーザの作製および評価」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】599002043
【氏名又は名称】学校法人 名城大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩谷 素顕
(72)【発明者】
【氏名】岩山 章
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 亮太
(72)【発明者】
【氏名】西林 到真
【テーマコード(参考)】
5F241
【Fターム(参考)】
5F241AA24
5F241CA05
5F241CA40
5F241CA60
5F241CA65
5F241CA74
5F241CA92
(57)【要約】
【課題】オーミック特性に近い特性を有する窒化物半導体発光素子を提供する。
【解決手段】窒化物半導体発光素子1は、積層方向Lの一方側が露出面Esとして形成される第1n-AlGaN層12Bと、露出面Esに積層されるTi/Pt/Au電極Neと、第1n-AlGaN層12Bを挟みTi/Pt/Au電極Neと反対側に積層される第2n-AlGaN層12Cと、を備え、第1n-AlGaN層12BのAlNのモル分率は、第2n-AlGaN層12CのAlNのモル分率よりも小さい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層方向の一方側が露出面として形成される第1層と、
前記露出面に積層される電極と、
前記第1層を挟み前記電極と反対側に積層される第2層と、
を備え、
前記第1層のAlNのモル分率は、前記第2層のAlNのモル分率よりも小さい、窒化物半導体発光素子。
【請求項2】
前記第1層のAlNのモル分率は、0.42以下である、請求項1に記載の窒化物半導体発光素子。
【請求項3】
前記積層方向における前記第1層の厚みは、前記積層方向における前記第2層の厚みよりも薄い、請求項1又は請求項2に記載の窒化物半導体発光素子。
【請求項4】
前記第1層は、AlNのモル分率が0.42以下の第1AlN組成層と、AlNのモル分率が0.42よりも大きい第2AlN組成層と、が前記積層方向に交互に積層されている、請求項2に記載の窒化物半導体発光素子。
【請求項5】
前記第1層の前記露出面は、凹凸状に形成されている、請求項4に記載の窒化物半導体発光素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は窒化物半導体発光素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、紫外光のレーザ発振が可能な窒化物半導体素子が開示されている。このものは、上部ガイド層の表面に組成傾斜層及びp型半導体層をこの順に積層して結晶成長しており、上部ガイド層に近いp型半導体層の部位に、活性層から表面側に向かう電子をブロックする機能を付与している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-184456号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
GaN系発光デバイスでは、レーザーリフトオフ(LLO)技術によりサファイア基板からGaN系窒化物半導体結晶を剥離して、その裏面(窒素極性面)にn電極を形成することによって縦方向(積層方向)に電流を流し得る薄膜構造のデバイスを作製する方法がある。この方法を利用してAlGaN系窒化物半導体結晶で縦方向に電流を流し得るデバイスを作製した。この構造のデバイスは、支持体にp電極及びパッド電極を表面に形成したAlGaN系窒化物半導体結晶をAuSn等の金属で支持基板に共晶接合した後、LLO技術を用いサファイア基板から剥離する。そして、剥離して露出した露出面にn電極を形成する。n電極形成後の熱処理温度は、結晶にクラックが生じないようにするため、あまり高温にすることができず、せいぜい300℃程度である。窒素極性のAlGaNのn電極として、AlGaN系の金属極性面で実績があるV/Al/Ti/Au電極、GaN系デバイスにおいて金属極性面又は窒素極性面のGaNにノンアロイでオーミック特性が得られるCr/Ni/Au、Ti/Pt/Au電極で検討を行った。その結果、熱処理温度300℃までの制約条件の中では、Ti/Pt/Au電極を用いた場合、最もよい結果が得られたが、その特性は、ショットキー特性であった。このため、オーミック特性とするべく、さらなる改善が望まれている。オーミック特性とは、電流-電圧特性が概ね線形状の特性を示すことを意味する。ショットキー特性とは、ある電圧値を境にして電流値が変化する度合いが大きく変化する特性を示すことを意味する。
【0005】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、オーミック特性に近い特性を有する窒化物半導体発光素子を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の窒化物半導体発光素子は、
積層方向の一方側が露出面として形成される第1層と、
前記露出面に積層される電極と、
前記第1層を挟み前記電極と反対側に積層される第2層と、
を備え、
前記第1層のAlNのモル分率は、前記第2層のAlNのモル分率よりも小さい。
【0007】
この構成によれば、印加する電圧が小さくても良好に電流が流れる特性(オーミック特性)に近づけることができ、消費電力を抑えつつ良好に発光することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施例1の窒化物半導体発光素子の構造を示す模式図である。
図2】LLOを実行する前の窒化物半導体発光素子の構造を示す模式図である。
図3】(A)は、実施例1の窒化物半導体発光素子を化学的機械的研磨して第1n-AlGaN層の露出面を露出させた状態を示し、(B)は、露出面にSiO2層を積層して、露出面の中央部を露出させた状態を示し、(C)は、露出面に突部を形成した状態を示し、(D)は、突部を形成した露出面にn電極を設けた状態を示す。
図4】実施例1、比較例1、2のサンプルにおいてAlNのモル分率に対する立ち上がり電圧、及び微分抵抗値を示すグラフである。
図5】実施例1、比較例1、2のサンプルにおける電流-電圧特性を示すグラフである。
図6】実施例2の窒化物半導体発光素子の構造を示す部分拡大模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明における好ましい実施の形態を説明する。
【0010】
本発明の窒化物半導体発光素子において、第1層のAlNのモル分率は、0.42以下であり得る。この場合、印加する電圧が小さくても良好に電流が流れ易くすることができる。言い換えると、電流-電圧特性をオーミック特性に近づけることができる。
【0011】
本発明の窒化物半導体発光素子の積層方向における第1層の厚みは、積層方向における第2層の厚みよりも薄くし得る。この場合、第1層の厚みを第2層の厚みよりも抑えるので、第1層による素子へのストレスを低減することができる。
【0012】
本発明の窒化物半導体発光素子の第1層は、AlNのモル分率が0.42以下の第1AlN組成層と、AlNのモル分率が0.42よりも大きい第2AlN組成層と、が積層方向に交互に積層され得る。この場合、第1層による素子へのストレスをより良好に低減することができる。
【0013】
本発明の窒化物半導体発光素子の第1層の露出面は、凹凸状に形成され得る。この場合、AlNのモル分率が0.42以下の第1AlN組成層を確実に露出させてこの層に電極を接触させることができる。
【0014】
次に、本発明の窒化物半導体発光素子を具体化した実施例1について、図面を参照しつつ説明する。
【0015】
<実施例1>
実施例1の窒化物半導体発光素子1は、図1に示すように、第1層である第1n-AlGaN層12B、第2層である第2n-AlGaN層12C、第1ガイド層13A、二重量子井戸活性層13B、ガイド層である第2ガイド層13C、電子ブロック層14、クラッド層15、p-AlGaN層16、p-GaN層17、Ni/Pt/Au電極Pe、及びTi/Pt/Au電極Neを備えている。実施例1の窒化物半導体発光素子1は、MOVPE法(有機金属気相成長法)を用いて積層して結晶成長する。窒化物半導体発光素子1は、UV-Bの波長域の紫外線をレーザ発振する紫外半導体レーザ素子である。
【0016】
[窒化物半導体発光素子の製造手順について]
次に、窒化物半導体発光素子1の製造手順について説明する。先ず、C面((0001)面)が表面(表は図2における上側である、以下同じ)のサファイア基板10Aを用意する。そして、サファイア基板10Aの表面に、スパッタ法を用いて第1AlN層10Bを積層する。第1AlN層10Bの厚みは450nmである。第1AlN層10Bを積層したところで、N2(窒素)雰囲気中で1700℃、3時間アニールを行う。こうして、サファイア基板10A、及び第1AlN層10Bを有するスパッタ法を用いたAlNテンプレート基板10を作製する。その後、MOVPE法を用いて層構造を形成する。
【0017】
MOVPE法を実行することができる反応炉(以下、単に、反応炉ともいう)内にAlNテンプレート基板10を配置し、AlNテンプレート基板10の表面(第1AlN層10Bの表面)にN(窒素)原料であるNH3(アンモニア)を流しながら(以下、供給は停止しない)、H2(水素)雰囲気中で、AlNテンプレート基板10の温度を1200℃まで昇温した後、10分間保持する。
【0018】
次に、第1AlN層10Bの表面に第2AlN層11を積層して結晶成長する。第2AlN層11の厚みは1550nmである。第2AlN層11は、AlNテンプレート基板10の温度を1200℃にした状態で、Al(アルミニウム)原料のTMAl(トリメチルアルミニウム)を反応炉内に供給して形成する。第1AlN層10Bと第2AlN層11との厚みの合計は2000nmである。
【0019】
次に、第2AlN層11の表面に積層方向Lに柱状をなして延びる複数の凸部11Aを形成する凸部形成工程を実行する。具体的には、第2AlN層11の表面にスパッタ装置を用いてSiO2層を420nm積層させる。そして、SiO2層の表面にナノインプリント用樹脂を塗布して樹脂膜を形成した後に、ナノインプリント装置を用いて、ピッチ1000nm、外径500nmの微細なパターンを樹脂膜に形成する。そして、ICP装置を用いて、SiO2層をCF4ガスにて誘導結合プラズマエッチングを実行し、続いて、バッファードフッ酸を用いて、SiO2層の残渣を除去する。そして、Cl2ガスを用いて、第2AlN層11の表面側を300nmの深さになるように誘導結合プラズマエッチングを施す。その後、マスクとして利用したSiO2層及びレジスト膜をフッ酸を用いて除去する。こうして、凸部形成工程を実行する。
【0020】
次に、凸部11Aを形成した第2AlN層11の表面にu-AlGaN層12Aを積層して結晶成長させる。具体的には、凸部11Aを形成したAlNテンプレート基板10を再び反応炉に配置する。そして、AlNテンプレート基板10の温度を1200℃まで昇温し、所定の温度に達したら、AlNのモル分率が0.68になるようにH2、Ga(ガリウム)の原料であるTMGa(トリメチルガリウム)、TMAl、NH3を反応炉内に供給する。u-AlGaN層12Aの厚みは、3μmである。u-AlGaN層12Aの厚みを3μmにすることによって、凸部11Aが形成された第2AlN層11の表面を埋め込んで平坦化させることができる。u-AlGaN層12Aには、SiやMg等の不純物を添加していないが、u-AlGaN層12Aに変えて、Siなどをドーピングしたn-AlGaN層としても良い。ここで、u-AlGaN層12Aの厚みは、凸部11Aの基端からu-AlGaN層12Aの表面までの寸法である。
【0021】
次に、u-AlGaN層12Aの表面に、第1n-AlGaN層12Bを積層して結晶成長させる。具体的には、H2、TMGa、TMAl、NH3の反応炉内への供給を継続しつつ、SiH4を反応炉内に供給する。第1n-AlGaN層12BにおけるSiの添加濃度は6×1018cm-3になるように原料の供給流量を調整する。第1n-AlGaN層12Bの厚みは、例えば1μmである。第1n-AlGaN層12Bの厚みは、1μm以上、2μm以下が好ましい。第1n-AlGaN層12BのAlNのモル分率は、0.42である。
【0022】
次に、第1n-AlGaN層12Bの表面に第2n-AlGaN層12Cを積層して結晶成長させる。第2n-AlGaN層12CにおけるSiの添加濃度は第1n-AlGaN層12Bと同様である。第2n-AlGaN層12Cの厚みは、例えば3μmである。つまり、積層方向Lにおける第1n-AlGaN層12Bの厚みは、積層方向Lにおける第2n-AlGaN層12Cの厚みよりも薄い。第2n-AlGaN層12CのAlNのモル分率は、0.62になるように原料の供給流量を調整する。つまり、第1n-AlGaN層12BのAlNのモル分率は、第2n-AlGaN層12CのAlNのモル分率よりも小さい。
【0023】
次に、第2n-AlGaN層12Cの表面に第1ガイド層13A、及び二重量子井戸活性層13Bをこの順に積層して結晶成長させる。具体的には、AlNテンプレート基板10の温度を1050℃まで降温する。そして、TMGaからTEGa(トリエチルガリウム)に切り替える。そして、AlNテンプレート基板10の温度が所定の温度に達したら、50nmの厚みの第1ガイド層13A(AlNのモル分率は、0.45)、4nmの厚みの井戸層(AlNのモル分率は、0.35)及び8nmの厚みの障壁層(AlNのモル分率は、0.45)が2組積層された二重量子井戸活性層13Bを積層させる。
【0024】
次に、AlNテンプレート基板10の温度を、二重量子井戸活性層13Bを積層した条件に保持しつつ、活性層である二重量子井戸活性層13Bの表面に第2ガイド層13Cを積層して結晶成長させる。第2ガイド層13CにおけるAlNのモル分率が0.45となるように、反応炉内への原料の供給流量を調整する。第2ガイド層13Cの厚みは、55nmである。こうして、第2ガイド層13C(AlNのモル分率は、0.45)を積層させる。
【0025】
次に、二重量子井戸活性層13B側からの電子の流れを阻止する電子ブロック層14を第2ガイド層13Cの表面に積層して結晶成長させる。具体的には、反応炉内へIII属原料のみ供給し、所定時間保持する。電子ブロック層14におけるAlNのモル分率が0.9となるように、反応炉内への原料の供給流量を調整する。このとき供給するIII属原料は、TMGa、及びTMAlである。こうして、第2ガイド層13Cの表面に、5nmの厚みの電子ブロック層14(AlNのモル分率は、0.9)を積層させる。
【0026】
次に、電子ブロック層14の表面にクラッド層15を積層して結晶成長させる。具体的には、クラッド層15におけるAlNのモル分率が0.9になるように、反応炉内への原料の供給流量を調整する。そして、所定時間かけてAlNのモル分率を0.9から0.6に徐々に変化させるように、反応炉内への原料の供給流量を調整する。こうして、電子ブロック層14の表面に320nmの厚みのクラッド層15を積層させる。こうして積層されたクラッド層15のAlNのモル分率は、二重量子井戸活性層13Bから積層方向Lに離れる向きに小さくなるように組成傾斜している。
【0027】
次に、クラッド層15の表面に、p-AlGaN層16を積層して結晶成長させる。具体的には、クラッド層15の結晶成長が完了した後、所定時間かけてAlNのモル分率を0.6から0に徐々に変化させるように、反応炉内への原料の供給流量を調整する。こうして、クラッド層15の表面に75nmの厚みのp-AlGaN層16を積層させる。クラッド層15と、p-AlGaN層16とは、積層方向Lにおける単位厚み当たりのAlNのモル分率の変化の割合が異なっている。
【0028】
次に、p-AlGaN層16の表面に、Ni/Pt/Au電極Peとのコンタクト層として機能するp-GaN層17を積層して結晶成長させる。そして、TMGa、及びTMAlの反応炉内への供給を停止して、結晶成長を終了させ、H2とNH3を反応炉内に流しながら室温までAlNテンプレート基板10の温度を降温する。AlNテンプレート基板10の温度が室温になった後、反応炉のパージを十分行い、AlNテンプレート基板10を反応炉から取り出す。
【0029】
次に、p-GaN層17の表面に、レジスト膜でp電極パターンを形成した後、Ni/Pt/Au(10nm/10nm/40nm)を順次蒸着してリフトオフした後、酸素雰囲気中で700℃、1分の熱処理を施すことにより、Ni/Pt/Au電極Peを形成する。そして、レジスト膜でパッド電極パターンを形成した後、Ti/Au(50nm/800nm)を蒸着してリフトオフすることにより、パッド電極(図示せず)を形成する。
【0030】
次に、サファイア基板裏面に鏡面研磨を施した後、窒化物半導体発光素子をパッド電極でAuSnにて支持基板に貼り付ける。その後、レーザーリフトオフ(LLO)を実行して、u-AlGaN層12Aを第2AlN層11から剥離する。具体的には、支持基板と接合した窒化物半導体発光素子1の裏面側(すなわち、サファイア基板10Aの裏面側)から、波長257nm、エネルギー密度0.53J/cm2のレーザ光を裏面全体に満遍なく照射する。これにより、u-AlGaN層12Aを第2AlN層11から剥離することができる。
【0031】
次に、図3(A)に示すように、第2AlN層11から剥離して露出したu-AlGaN層12Aの露出面を化学的機械的研磨して、第1n-AlGaN層12Bを露出面Esとして露出させる。第1n-AlGaN層12Bは、積層方向Lの一方側が露出面Esとして形成されている。露出面Esは、窒素極性面である。次に、露出した第1n-AlGaN層12Bの露出面Esに、レジストでパターニングした後にスパッタ装置を用いてSiO2層18を420nm積層させリフトオフする。こうして、第1n-AlGaN層12Bの露出面Esの中央部が露出する(図3(B)参照)。
【0032】
そして、SiO2層18から露出した第1n-AlGaN層12Bの露出面Esにn電極を形成する。真空蒸着法を用いて、n電極としてTi/Pt/Au電極Neを積層する(図3(D)参照)。具体的には、レジストでパターニングした後に真空蒸着法を用いてTi/Pt/Au(50nm/50nm/100nm)を蒸着しリフトオフする。n電極をリフトオフ法で形成する場合、電極蒸着部は現像液にさらされる。現像液としてTMAH2.38%水溶液を使用する場合、第1n-AlGaN層12Bの露出面Esは、図3(C)に示すように、凹凸状に形成される。具体的には、露出面Esには、山形状をなした複数の突部Cが形成される。積層方向Lにおける突部Cの寸法は、およそ200nmである。こうして、図1に示す窒化物半導体発光素子1が完成する。図3(D)に示すように、第2n-AlGaN層12Cは、第1n-AlGaN層12Bを挟みTi/Pt/Au電極Neと反対側に積層されている。
【0033】
次に、こうして完成した窒化物半導体発光素子1の電気的特性を測定した結果について説明する。電気的特性を測定するパターンは、第1n-AlGaN層12Bとのコンタクト抵抗を測定するテストパターンであるTLM測定用のパターンとした。窒化物半導体発光素子1と比較するために、第1n-AlGaN層12BのAlNのモル分率を0.51、0.62とした比較例1、2のサンプルを用意した。比較例1、2のサンプルは、第1n-AlGaN層12BのAlNのモル分率を除いて、窒化物半導体発光素子1と同様の構成である。図4、5に示すように、比較例2(AlNのモル分率0.62)のサンプルにおいて電流が流れ始める電圧(立ち上がり電圧)は、およそ2.4Vであった。比較例1(AlNのモル分率0.51)のサンプルにおいて電流が流れ始める電圧(立ち上がり電圧)は、およそ1Vであった。窒化物半導体発光素子1(AlNのモル分率0.42)において電流が流れ始める電圧(立ち上がり電圧)は、およそ0.2Vであった。
【0034】
つまり、第1n-AlGaN層12BのAlNのモル分率が小さくなるにつれて電流が流れ始める電圧(立ち上がり電圧)が小さくなり、電流-電圧特性がオーミック特性に近づくことが分かった。図4における第1n-AlGaN層12BのAlNのモル分率の値に対する電流が流れ始める電圧のグラフに着目すると、第1n-AlGaN層12BのAlNのモル分率をおよそ0.38にすると、電流が流れ始める電圧を0V(すなわち、オーミック特性)にすることができると考えられる。従って、第1n-AlGaN層12BのAlNのモル分率を0.42以下とすることによって、窒化物半導体発光素子1の電流-電圧特性を良好にすることができる。
【0035】
比較例2のサンプルにおける微分抵抗値は、およそ1.0×102Ωであった。比較例1のサンプルにおける微分抵抗値は、およそ6.0×101Ωであった。窒化物半導体発光素子1における微分抵抗値は、およそ4.1×101Ωであった。つまり、第1n-AlGaN層12BのAlNのモル分率が小さくなるにつれて微分抵抗値が小さくなることが分かった。
【0036】
次に、上記実施例における作用を説明する。
窒化物半導体発光素子1は、積層方向Lの一方側が露出面Esとして形成される第1n-AlGaN層12Bと、露出面Esに積層されるTi/Pt/Au電極Neと、第1n-AlGaN層12Bを挟みTi/Pt/Au電極Neと反対側に積層される第2n-AlGaN層12Cと、を備え、第1n-AlGaN層12BのAlNのモル分率は、第2n-AlGaN層12CのAlNのモル分率よりも小さい。この構成によれば、印加する電圧が小さくても良好に電流が流れる特性(オーミック特性)に近づけることができ、消費電力を抑えつつ良好に発光することができる。
【0037】
窒化物半導体発光素子1において、第1n-AlGaN層12BのAlNのモル分率は、0.42以下である。この場合、印加する電圧が小さくても良好に電流が流れ易くすることができる。言い換えると、電流-電圧特性をオーミック特性に近づけることができる。
【0038】
窒化物半導体発光素子1の積層方向Lにおける第1n-AlGaN層12Bの厚みは、積層方向Lにおける第2n-AlGaN層12Cの厚みよりも薄い。この場合、第1n-AlGaN層12Bの厚みを第2n-AlGaN層12Cの厚みよりも抑えるので、AlNのモル分率が小さい第1n-AlGaN層12Bによる素子へのストレスを低減することができる。
【0039】
<実施例2>
次に、実施例2に係る窒化物半導体発光素子2について図6を参照しつつ説明する。実施例2に係る窒化物半導体発光素子2は、第1n-AlGaN層112Bが、互いにAlNのモル分率が異なる第1AlN組成層112D及び第2AlN組成層112Eが積層方向Lに交互に積層されている点が実施例1と異なる。実施例1と同じ構成については、同一符号を付し、構造、作用及び効果の説明は省略する。
【0040】
図6に示すように、第1n-AlGaN層112Bは、第1AlN組成層112D及び第2AlN組成層112Eを有している。第1AlN組成層112D及び第2AlN組成層112Eは、AlGaNで形成されている。第1AlN組成層112DのAlNのモル分率は、0.42以下の0.3である。第2AlN組成層112EのAlNのモル分率は、0.42よりも大きい0.62である。第1AlN組成層112D及び第2AlN組成層112Eは、積層方向Lに交互に複数積層されている。第1AlN組成層112D及び第2AlN組成層112Eの各々の厚みは、例えば25nmである。第1AlN組成層112D及び第2AlN組成層112Eが積層される数は、例えば40層である。第1AlN組成層112D及び第2AlN組成層112Eは、所謂、超格子構造である。
【0041】
実施例1と同様に、第1n-AlGaN層112Bを化学的機械的研磨によって露出させた露出面EsにTi/Pt/Au電極Neを設ける場合、露出面Esに対して現像液であるTMAH水溶液(2.38%)にさらされてエッチングされている。この場合、露出した第1n-AlGaN層112Bの露出面Esには、山形状をなした複数の突部Cが形成される。各突部Cの斜面に着目すると、第1AlN組成層112D及び第2AlN組成層112Eの両方が共に露出した状態である。これにより、Ti/Pt/Au電極Neと、第1AlN組成層112D及び第2AlN組成層112Eと、を確実に接触させることができる。低AlNモル分率層である第1AlN組成層112DにTi/Pt/Au電極Neが接触することで、より良好に電流を流すことができる。
【0042】
窒化物半導体発光素子2の第1n-AlGaN層112Bは、AlNのモル分率が0.42以下の第1AlN組成層112Dと、AlNのモル分率が0.42よりも大きい第2AlN組成層112Eと、が積層方向Lに交互に積層されている。この場合、第1層による素子へのストレスをより良好に低減することができる。
【0043】
窒化物半導体発光素子2の第1n-AlGaN層112Bの露出面Esは、凹凸状に形成されている。この場合、AlNのモル分率が0.42以下の第1AlN組成層112Dを確実に露出させ、この層にTi/Pt/Au電極Neを接触させることができる。
【0044】
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施例1に限定されるものではなく、例えば次のような実施例も本発明の技術的範囲に含まれる。
(1)実施例1では、n型不純物としてSiを添加しているが、これに限らず、n型不純物である、Ge、Te等であっても良い。また、p型不純物としてMg、Zn,Be、Ca、Sr、及びBa等を添加してもよい。
(2)実施例1ではサファイア基板を使用しているが、AlN基板等の他の基板にAlN層を積層して結晶成長しても良い。
(3)実施例1では、スパッタで作製したAlN層を含めているが、スパッタに変えて、MOVPE成長のAlN層のみでも良い。
(4)実施例1とは異なり、露出面を凹凸状に形成せずにTi/Pt/Au電極を設けてもよい。
(5)窒化物半導体を用いた発光ダイオードに本発明を適用してもよい。
(6)露出面をKOH水溶液等のアルカリ性の液体でエッチングしてもよい。
(7)第1AlN組成層及び第2AlN組成層が積層される数は、40層に限らない。また、第1AlN組成層及び第2AlN組成層の厚みは、25nmに限らない。
【符号の説明】
【0045】
1…窒化物半導体発光素子
12B,112B…第1n-AlGaN層(第1層)
12C…第2n-AlGaN層(第2層)
112D…第1AlN組成層
112E…第2AlN組成層
Es…露出面
L…積層方向
Ne…Ti/Pt/Au電極(電極)
図1
図2
図3
図4
図5
図6