(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024135644
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】ステントグラフト形成基材
(51)【国際特許分類】
A61F 2/24 20060101AFI20240927BHJP
【FI】
A61F2/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023046431
(22)【出願日】2023-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】505210115
【氏名又は名称】国立大学法人旭川医科大学
(71)【出願人】
【識別番号】518383828
【氏名又は名称】バイオチューブ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003465
【氏名又は名称】弁理士法人OHSHIMA&ASSOCIATES
(72)【発明者】
【氏名】武輪 能明
(72)【発明者】
【氏名】寺澤 武
(72)【発明者】
【氏名】井上 雄介
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 康史
(72)【発明者】
【氏名】中山 泰秀
【テーマコード(参考)】
4C097
【Fターム(参考)】
4C097AA27
4C097BB01
4C097CC01
4C097DD01
4C097DD09
4C097DD10
4C097DD15
4C097MM01
4C097MM06
4C097SB03
(57)【要約】
【課題】ステントを埋設する管状のグラフトを所望の厚さに形成することのできるステントグラフト形成基材の提供。
【解決手段】円柱状の基材本体5を設ける。基材本体5の外周側に筒状のカバー基材6を配置する。基材本体5とカバー基材6との間に所望の厚さのグラフト形成空間7を構成する。グラフト形成空間7にステント2を配置する。ステントグラフト形成基材1を生体組織材料の存在する環境に設置する。グラフト形成空間7に生体組織材料を侵入させて結合組織を形成して弁付きグラフト3とする。筒状のステント2と管状の弁付きグラフト3とを一体化した構造のステントグラフト4が得られる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体組織材料の存在する環境に設置して基材形状に沿わせて結合組織を形成し、筒状のステントと管状のグラフトとを一体化した構造のステントグラフトを形成するためのステントグラフト形成基材であって、
円柱状の基材本体と、該基材本体の外周側に配置される筒状のカバー基材とを備え、前記基材本体とカバー基材との間に、前記ステントを配置すると共に、前記結合組織を形成してグラフトとするグラフト形成空間が構成されたことを特徴とするステントグラフト形成基材。
【請求項2】
前記グラフトを構成する結合組織の前記ステントへの付着を部分的に促進する付着促進部が設けられたことを特徴とする請求項1に記載のステントグラフト形成基材。
【請求項3】
前記カバー基材に、グラフト形成空間に生体組織材料を侵入させる複数の侵入孔が形成されると共に、該侵入孔による開口率が相対的に大きい高開口率部と、相対的に小さい低開口率部とが設けられ、前記高開口率部が前記付着促進部とされたことを特徴とする請求項2に記載のステントグラフト形成基材。
【請求項4】
前記カバー基材の端部に、前記グラフト形成空間の端部を塞ぐと共に、前記開口率を0%に設定してなる盲端部が設けられたことを特徴とする請求項3に記載のステントグラフト形成基材。
【請求項5】
前記付着促進部として、前記ステントを構成する線材を局所的に蛇行させてなる蛇行部が形成されたことを特徴とする請求項2に記載のステントグラフト形成基材。
【請求項6】
前記グラフトは、半径方向内向きに膨出する複数の弁尖を有することを特徴とする請求項2に記載のステントグラフト形成基材。
【請求項7】
前記ステントは、端部が大径で中央部が小径の鼓状とされたことを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載のステントグラフト形成基材。
【請求項8】
前記基材本体及びカバー基材は、その全長に亘って等径状に形成されたことを特徴とする請求項7に記載のステントグラフト形成基材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体組織材料の存在する環境に設置して基材形状に沿わせて結合組織を形成し、筒状のステントと管状のグラフトとを一体化した構造のステントグラフトを形成するためのステントグラフト形成基材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
病気や事故で失われた細胞、組織、器官を、人工素材や細胞により再び蘇らせる再生医療の研究が数多くなされている。
【0003】
通常、身体には自己防衛機能があり、体内の浅い位置にトゲ等の異物が侵入した場合には、これを体外へ押し出そうとする。また、体内の深い位置に異物が侵入した場合には、その周りに繊維芽細胞が徐々に集まって、主に繊維芽細胞とコラーゲンからなる結合組織体のカプセルを形成して異物を覆うことにより、体内において異物を隔離することが知られている。この後者の自己防衛反応を利用して生細胞から生体由来組織を形成する技術として、生体内に異物としての基材を埋入して結合組織体を形成する技術が複数報告されている(特許文献1~3参照)。
【0004】
さらに、特許文献4は、生体内などに基材を配置して基材表面に結合組織を形成し、外管部から半径方向内向きに膨出する複数の弁葉(弁尖)を有すると共に、その外管部にステントを埋設した人工弁を形成するための人工弁形成基材を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007-312821号公報
【特許文献2】特開2008-237896号公報
【特許文献3】特開2010-094476号公報
【特許文献4】WO2016/098877A1(請求項1、3、段落0065-0069、
図7)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、特許文献4に記載の基材は、単に、外周側にステントを配置して生体内などに配置し、その周囲に形成された結合組織をそのまま外管部とするものであり、人工弁の外管部にステントを埋設することができるものの、ステントを埋設する外管部を所望の厚さに形成することはできない。
【0007】
本発明は、ステントを埋設する管状のグラフトを所望の厚さに形成することのできるステントグラフト形成基材の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明に係るステントグラフト形成基材は、生体組織材料の存在する環境に設置して基材形状に沿わせて結合組織を形成し、筒状のステントと管状のグラフトとを一体化した構造のステントグラフトを形成するためのものであり、円柱状の基材本体と、この基材本体の外周側に配置される筒状のカバー基材とを備え、基材本体とカバー基材との間に、ステントを配置すると共に、結合組織を形成してグラフトとするグラフト形成空間を構成したものである。
【0009】
上記構成によれば、基材本体とカバー基材との間のグラフト形成空間にステントを配置し、そのグラフト形成空間に結合組織を形成するので、カバー基材の内径を調整することにより、グラフト形成空間を所望の厚さに設定して、所望の厚さのステントグラフトを形成することができる。しかも、ステントグラフトの内周面及び外周面をそれぞれ基材本体及びカバー基材に接触させて形成するので、ステントグラフトの内周面のみを基材に接触させる場合よりも、その強度等の品質を高めることができる。
【0010】
ここで、「結合組織」とは、通常は、コラーゲンを主成分とする組織であって、生体内に形成される組織のことをいうが、本明細書及び特許請求の範囲の記載においては、生体内に形成される結合組織に相当する組織が生体外の環境下で形成される場合のその組織をも含む概念である。
【0011】
また、「生体組織材料」とは、所望の生体由来組織を形成するうえで必要な物質のことであり、例えば、線維芽細胞、平滑筋細胞、内皮細胞、幹細胞、ES細胞、iPS細胞等の動物細胞、各種たんぱく質類(コラーゲン、エラスチン)、ヒアルロン酸等の糖類、その他、細胞成長因子、サイトカイン等の生体内に存在する各種の生理活性物質が挙げられる。この「生体組織材料」には、ヒト、イヌ、ウシ、ブタ、ヤギ、ヒツジ等の哺乳類動物、鳥類、魚類、その他の動物に由来するもの、又はこれと同等の人工材料が含まれる。
【0012】
また、「生体組織材料の存在する環境」とは、動物(ヒト、イヌ、ウシ、ブタ、ヤギ、ヒツジ等の哺乳類動物、鳥類、魚類、その他の動物)の生体内(例えば、四肢部、肩部、背部又は腹部などの皮下、もしくは腹腔内への埋入)、又は、動物の生体外において、生体組織材料を含有する人工環境のことをいう。
【0013】
さらに、グラフトを構成する結合組織のステントへの付着を部分的に促進する付着促進部を設けるようにしてもよい。
【0014】
この構成によると、付着促進部を設けるので、結合組織のステントへの付着を部分的に促進することができ、グラフトの強度及び剛性が十分な部位と、結合組織による拘束を抑えてステントの変形性能を高めた部位と、が混在するステントグラフトを形成することができる。
【0015】
つまり、ステントグラフトは、そのグラフトとして十分な強度及び剛性を必要とすると同時に、移植先の形状に追随できる変形性能を必要とする。したがって、単に、グラフトを十分な強度及び剛性に形成しただけの場合、そのグラフトを構成する結合組織でステントの全体が拘束されて変形性能が損なわれるので、高強度かつ高剛性の結合組織をステントから部分的に除去して変形性能を高める必要がある。
【0016】
これに対し、付着促進部で結合組織のステントへの付着を部分的に促進することにより、変形性能を必要とする部位では、結合組織の形成を抑えたり、結合組織を除去しやすくしたりして、その変形性能を容易に高めることができ、グラフトとしての十分な強度及び剛性とステントの変形性能とを両立させることができる。
【0017】
さらに、カバー基材に、グラフト形成空間に生体組織材料を侵入させる複数の侵入孔を形成すると共に、この侵入孔による開口率が相対的に大きい高開口率部と、相対的に小さい低開口率部とを設け、その高開口率部を付着促進部としてもよい。
【0018】
この構成によると、カバー基材に複数の侵入孔を形成するので、グラフト形成空間に生体組織材料を侵入させて結合組織を形成しやすくすることができ、しかも、高開口率部と低開口率部とを設けるので、その高開口率部を付着促進部として、結合組織のステントへの付着を部分的に促進することができる。ここで、侵入孔による開口率とは、カバー基材の各部位について、その単位面積当たりの侵入孔が占める面積のことをいう。
【0019】
さらに、カバー基材の端部に、グラフト形成空間の端部を塞ぐと共に、開口率を0%に設定してなる盲端部を設けるようにしてもよい。
【0020】
この構成によると、カバー基材の端部に盲端部を設けるので、ステントグラフトの中央部を十分な強度及び剛性に設定しつつ、盲端部を低開口率部として、ステントグラフトの端部の変形性能を高めることができる。
【0021】
つまり、グラフト形成空間の端部を塞ぐことなく開放して、その端部開口から生体組織材料を侵入させる場合、ステントグラフトの端部ほど高強度かつ高剛性の結合組織が形成されやすくなるが、グラフト形成空間の端部を塞ぐと共に、開口率を0%に設定して、盲端部を構成することにより、中央部の強度及び剛性を十分にしつつ、端部の変形性能を高めたステントグラフトを形成することができる。
【0022】
さらに、付着促進部として、ステントを構成する線材を局所的に蛇行させてなる蛇行部を形成するようにしてもよい。
【0023】
この構成によると、ステントに蛇行部を形成して付着促進部とするので、ステントに対する結合組織の付着力を十分に高めることができる。ここで、蛇行部とは、ステントを構成する線材を蛇行させたものであればよく、波状以外にも螺旋状などを含む概念である。
【0024】
さらに、グラフトを半径方向内向きに膨出する複数の弁尖を有するようにしてもよい。
【0025】
この構成によると、複数の弁尖を有するステントグラフトを形成するので、その弁近傍を十分な強度及び剛性に設定しつつ、他の部位を十分な変形性能に設定する必要があり、ステントグラフト形成基材に本発明の構成を採用するのが好適である。
【0026】
つまり、移植先の管状器官の本来の大きさについて、弁尖の付け根における管径である弁輪径の個体差は小さく、弁近傍におけるステントグラフトの変形性能を特に高める必要はないが、ステントグラフトを保持する弁前後では、その大きさの個体差が大きく、十分な変形性能に設定する必要がある。したがって、高い変形性能が不要で、かつ繰り返し変動する弁尖を支持する弁部近傍を十分な強度及び剛性に設定するのが好適であり、他の部位を十分な変形性能に設定するのが好適である。
【0027】
さらに、ステントを端部が大径で中央部が小径の鼓状としてもよい。
【0028】
この構成によると、鼓状のステントの形状に合わせてステントグラフトを形成し、小径の中央部を十分な強度及び剛性かつ所定の大きさに形成しつつ、移植先の大きさに合わせて変形させる端部を大径にして変形可能量を大きくすることができる。
【0029】
さらに、基材本体及びカバー基材をその全長に亘って等径状に形成するようにしてもよい。
【0030】
この構成によると、基材本体及びカバー基材を等径状にするので、グラフト形成空間内に結合組織を形成した後、基材本体に対してカバー基材を中心軸方向にスライドさせるようにして取り外すことができ、基材からのステントグラフトの抜き出しを容易にすることができる。
【0031】
この場合、鼓状のステントであっても、そのステント端部を縮径させることにより、等径状のグラフト形成空間に配置することができる。しかも、本発明の構成を採用してステントグラフトの端部の変形性能を高めることにより、一旦、グラフト形成空間内に等径状のステントグラフトを形成して、その等径状のステントグラフトを基材から取り外して鼓状に復元することができる。
【発明の効果】
【0032】
上記のとおり、本発明によると、基材本体とカバー基材との間のグラフト形成空間にステントを配置し、そのグラフト形成空間に生体組織材料を侵入させて結合組織を形成するので、所望の厚さのステントグラフトを形成すると共に、その強度等の品質を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】本発明に係るステントグラフト形成基材の斜視図
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明に係るステントグラフト形成基材を実施するための形態について、図面を用いて説明する。
【0035】
図1~
図3に示すように、ステントグラフト形成基材1は、生体組織材料の存在する環境に設置して基材表面に結合組織を形成し、筒状のステント2と管状の弁付きグラフト3とを一体化した構造の例えば心臓弁グラフトとして用いられるステントグラフト4を形成するためのものであり、円柱状の基材本体5と、基材本体5の外周側に配置される円筒状のカバー基材6とを備え、その基材本体5とカバー基材6との間に、ステント2を配置すると共に、生体組織材料を侵入させて結合組織を形成して弁付きグラフト3とするグラフト形成空間7を構成したものである。
【0036】
図2~
図4に示すように、基材本体5は、例えばアクリル樹脂などの高分子材料よりなる全長に亘って等径の円柱状とされ、中心軸方向に、一側基材5aと他側基材5bとに分解可能とされる。一側基材5a及び他側基材5bは、これらを組み立てた状態で、両基材5a、5bの間に弁尖形成空間8を構成し、この弁尖形成空間8に生体組織材料を侵入させて結合組織を形成することにより、弁付きグラフト3に、半径方向内向きに膨出する複数の弁尖を形成するようになっている。
【0037】
一側基材5aの中心軸方向で中央部は、円柱状空間9を挟んで両側を複数の柱10を介して接続した構造とされ、その円柱状空間9に、弁尖形成空間8に侵入した生体組織材料をさらに侵入させるようになっている。円柱状空間9には、弁尖形成空間8に連通する連通孔11が開口し、生体組織材料を、基材本体5の外周側から直に弁尖形成空間8に侵入させるのに加えて、円柱状空間9を介して連通孔11からも弁尖形成空間8に侵入させるようになっている。
【0038】
図1~
図3に示すように、カバー基材6は、例えばアクリル樹脂などの高分子材料からなる全長に亘って等径の円筒状とされ、基材本体5の外周側に配置した状態で、両端を蓋12で塞がれる。カバー基材6の端部には、複数の凹部13が形成され、この凹部13に、蓋12の外周部に形成された複数の凸部14を嵌合させると共に、蓋12の中央に形成された突起15を基材本体5の両端面に形成された円穴16に嵌合させることにより、基材本体5の外周側にグラフト形成空間7を挟んでカバー基材6が取り付けられる。
【0039】
カバー基材6の中心軸方向で中央部は、複数の侵入孔17をほぼ均一に形成されて、侵入孔17による開口率が相対的に大きい高開口率部18とされ、この高開口率部18が、基材外部からグラフト形成空間7の中央部に生体組織材料を容易に侵入させて、ステント2への結合組織の付着を部分的に促進する付着促進部とされる。
【0040】
カバー基材6の中心軸方向で両端部は、侵入孔17による開口率を0%に設定すると共に、蓋12によってグラフト形成空間7の端部を塞いでなる盲端部19とされ、この盲端部19により、グラフト形成空間7の端部への生体組織材料の直接の侵入を阻止している。
【0041】
ここで、ステントグラフト形成基材1の材料としては、生体に埋入した際に大きく変形することが無い強度(硬度)を有しており、化学的安定性があり、滅菌などの負荷に耐性があり、生体を刺激する溶出物が無いまたは少ない樹脂が好ましく、例えば、上記の通り、アクリル樹脂等が挙げられるがこれに限定されるものではない。
【0042】
図2、
図3及び
図5に示すように、ステント2は、端部が大径で中央部が小径の鼓状の筒状とされ、網状に形成された線材によって拡径可能に構成され、その中央部を管状の弁付きグラフト3に埋設して一体化するようになっている。ステント2を構成する網目の交差部には、線材を局所的に蛇行させてなる蛇行部20が形成され、この蛇行部20が弁付きグラフト3を構成する結合組織のステント2への付着を部分的に促進する付着促進部とされる。
【0043】
ここで、ステント2を構成する材料としては、例えば、錆び難い金属が採用され、ステンレスやチタン、コバルト、クロム、ニッケルチタン合金などの金属材料を例示することができる。
【0044】
図6に示すように、ステントグラフト4は、ステント2の中央部に結合組織を付着させることにより、弁付きグラフト3に鼓状のステント2を一体化した構造とされる。弁付きグラフト3の中央部は、その内側に、半径方向内向きに膨出する複数の弁尖が設けられた部位であり、拡径量を抑えたステント2の中央部に保持される。弁付きグラフト3の両端部からステント2の端部を突出させ、ステントグラフト4の拡張性を高めて、移植先の大きさに追随させるようになっている。
【0045】
次に、上記のようなステントグラフト形成基材1を用いてステントグラフト4を生産する方法について説明する。
【0046】
この生産方法は、ステントグラフト形成基材1を組み立てる「組立工程」と、ステントグラフト形成基材1を生体組織材料の存在する環境に設置する「設置工程」と、ステントグラフト形成基材1の基材形状に沿わせて結合組織を形成することにより、その結合組織をグラフト形成空間7及び弁尖形成空間8に形成する「形成工程」と、前記環境から結合組織で被覆されたステントグラフト形成基材1を取り出す「取出工程」と、ステントグラフト形成基材1から結合組織を弁尖を含むステントグラフト4として分離する「分離工程」と、からなる。
【0047】
<組立工程>
一側基材5a及び他側基材5bを中心軸方向に嵌め合わせて基材本体5を組み立て、両基材5a、5bの間に弁尖形成空間8を構成する。また、鼓状のステント2をその大径の両端部を縮径させた状態でカバー基材6の内側に挿入し、拡径しようとするステント2の両端部の弾性力により、ステント2をカバー基材6の内周面で保持する。
【0048】
さらに、ステント2を保持したままのカバー基材6を基材本体5の外周側に被せ、基材本体5及びカバー基材6の両端で、蓋12の凸部14をカバー基材6の凹部13に嵌合させると共に、蓋12の突起15を基材本体5の円穴16に嵌合させる。これにより、基材本体5とカバー基材6との間にグラフト形成空間7を構成したステントグラフト形成基材1が組み立てられると共に、そのグラフト形成空間7にステント2が配置される。
【0049】
<設置工程>
組み立てたステントグラフト形成基材1を例えばヤギの皮下などの生体組織材料の存在する環境に設置する。
【0050】
生体組織材料の存在する環境とは、動物の生体内(例えば、皮下や腹腔内への埋入)、又は、動物の生体外において生体組織材料が浮遊する溶液中等の人工環境内が挙げられる。ステントグラフト形成基材1を人工環境内へ置く場合には、種々の培養条件を整えてクリーンな環境下で公知の方法に従って細胞培養を行えばよい。生体組織材料としては、ヤギ、イヌ、ウシ、ブタ、ウサギ、ヒツジ、ヒトなどの哺乳類動物由来のものや、鳥類、魚類、その他の動物由来のもの、又は人工材料を用いることもできる。
【0051】
<形成工程>
設置工程の後、例えば3か月程度の所定時間が経過することにより、ステントグラフト形成基材1の基材形状に沿って結合組織が形成される。その際、カバー基材6のうちの高開口率部18の侵入孔17から生体組織材料が侵入し、ステント2を配置したグラフト形成空間7に結合組織が形成される。これにより、カバー基材6のうちの高開口率部18の近傍に位置するステント2の中央部に、十分な強度及び剛性の結合組織が付着し、カバー基材6のうちの盲端部19の近傍に位置するステント2の端部への結合組織の付着が抑えられる。ここで、結合組織は、繊維芽細胞とコラーゲンなどの細胞外マトリックスで構成される。
【0052】
さらに、グラフト形成空間7に侵入した生体組織材料が基材本体5の外周側から直に弁尖形成空間8に侵入し、それに加えて、一側基材5aに形成された円柱状空間9及び連通孔11を介して弁尖形成空間8に侵入し、弁尖形成空間8に結合組織が形成される。
【0053】
<取出工程>
所定時間の形成工程を経て、グラフト形成空間7及び弁尖形成空間8に所望の結合組織が形成された後、結合組織で被覆されたステントグラフト形成基材1を生体組織材料の存在する環境から取り出す取出工程を行う。
【0054】
<分離工程>
カバー基材6の侵入孔17の内部に形成された結合組織との間をメスなどで切断しながら、カバー基材6の外周面を覆う結合組織を除去し、また、ステントグラフト形成基材1の両端部の結合組織を除去して、蓋12を取り外す。さらに、グラフト形成空間7の結合組織を基材本体5に残すようにピンセットなどで変形させて剥離しながらからカバー基材6を取り外す。
【0055】
ここで、カバー基材6を取り外すことにより、弁付きグラフト3を構成する結合組織が現れ、その表面には、カバー基材6の侵入孔17の内部に形成された結合組織が突起状に残るが、弁付きグラフト3の外周面に突起があったとしても、血流などに影響を与えることがないので、特にこれを除去する必要はない。
【0056】
基材本体5の円柱状空間9の内部に形成された結合組織との間をメスなどで切断しながら、基材本体5の外周面から結合組織を剥離し、また、円柱状空間9の内部に形成された結合組織と連通孔11の内部に形成された結合組織とを切断して分離する。さらに、弁尖形成空間8に形成された結合組織を剥離しながら、基材本体5の一側基材5a及び他側基材5bを中心軸方向に分解して、弁付きグラフト3を構成する結合組織から基材本体5を抜き出すことにより、ステント2とその中央部を覆う弁付きグラフト3とからなるステントグラフト4が得られる。
【0057】
ステントグラフト4は、ステント2の端部への結合組織の付着が抑えられていることにより、等径状の基材本体5から剥離した際、結合組織で拘束されることなく、鼓状のステント2の元の形状に復元する。その後、ステント2の両端部の蛇行部20を形成されていない部分を露出させるように、余分な結合組織を除去することにより、ステントグラフト4の形成が完成する。
【0058】
なお、本発明は、上記の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内において、適宜変更を加えることができる。例えば、付着促進部としては、カバー基材6に侵入孔17の高開口率部18を設けると共に、ステント2に蛇行部20を形成するだけでなく、いずれかを省略することもできる。また、ステント2と弁付きグラフト3とを一体化した構造のステントグラフト4を形成する代わりに、ステント2と弁の無いグラフトとを一体化した構造のステントグラフトを形成するようにしてもよい。また、鼓状のステント2に代えて、等径状のステントを配置することもできる。
【0059】
また、等径状の基材本体5及びカバー基材6に代えて、ステント2の鼓形状に対応する基材本体及びカバー基材を採用することもできる。この場合、鼓形状の基材を抜き出すことができるよう、基材本体及びカバー基材を中心軸方向に沿って複数に分割すればよい。
【符号の説明】
【0060】
1 ステントグラフト形成基材
2 ステント
3 弁付きグラフト
4 ステントグラフト
5 基材本体
5a 一側基材
5b 他側基材
6 カバー基材
7 グラフト形成空間
8 弁尖形成空間
9 円柱状空間
10 柱
11 連通孔
12 蓋
13 凹部
14 凸部
15 突起
16 円穴
17 侵入孔
18 高開口率部
19 盲端部
20 蛇行部