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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024135656
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】熱加工用成形体
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/04 20060101AFI20240927BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20240927BHJP
   C08K 3/34 20060101ALI20240927BHJP
   C08G 63/06 20060101ALI20240927BHJP
   C08J 5/00 20060101ALI20240927BHJP
   C08L 101/16 20060101ALN20240927BHJP
【FI】
C08L67/04 ZBP
C08K3/013
C08K3/34
C08G63/06
C08J5/00 CFD
C08L101/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023046449
(22)【出願日】2023-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】勝田 佑太
【テーマコード(参考)】
4F071
4J002
4J029
4J200
【Fターム(参考)】
4F071AA43
4F071AA81
4F071AA88
4F071AC16
4F071AH01
4F071AH05
4F071BB03
4F071BB04
4F071BB07
4F071BB13
4F071BC01
4F071BC12
4J002CF181
4J002CF182
4J002DJ006
4J002DJ036
4J002DJ046
4J002DJ056
4J029AA02
4J029AB07
4J029AC02
4J029EA01
4J029EA02
4J200AA06
4J200BA15
4J200CA01
4J200DA17
4J200EA22
(57)【要約】
【課題】ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分を含有し、成形体表面の平滑性と、熱成型加工時の加工性がいずれも良好な熱加工用成形体の提供。
【解決手段】ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分が、他のヒドロキシアルカノエート単位の含有割合が4モル%以上7モル未満%である、3-ヒドロキシブチレート単位と他のヒドロキシアルカノエート単位との共重合体(A)、及び、他のヒドロキシアルカノエート単位の含有割合が24モル%以上である、3-ヒドロキシブチレート単位と他のヒドロキシアルカノエート単位との共重合体(C)を含む。前記樹脂成分全体のうち共重合体(A)の割合が、20重量%以上95重量%以下である。共重合体(A)及共重合体(C)の重量平均分子量(Mw)がそれぞれ45万以上であり、前記樹脂成分全体の重量平均分子量(Mw)が45万以上である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分を含有する熱加工用成形体であって、
前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分が、他のヒドロキシアルカノエート単位の含有割合が4モル%以上7モル未満%である、3-ヒドロキシブチレート単位と他のヒドロキシアルカノエート単位との共重合体(A)、及び、他のヒドロキシアルカノエート単位の含有割合が24モル%以上である、3-ヒドロキシブチレート単位と他のヒドロキシアルカノエート単位との共重合体(C)を含み、
前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分全体のうち前記共重合体(A)の割合が、20重量%以上95重量%以下であり、
前記共重合体(A)及び前記共重合体(C)の重量平均分子量(Mw)がそれぞれ45万以上であり、
前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分全体の重量平均分子量(Mw)が45万以上である、熱加工用成形体。
【請求項2】
前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分全体のうち前記共重合体(C)の割合が、5重量%以上50重量%以下である、請求項1に記載の熱加工用成形体。
【請求項3】
前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分が、他のヒドロキシアルカノエート単位の含有割合が1モル%以上4モル%未満である、3-ヒドロキシブチレート単位と他のヒドロキシアルカノエート単位との共重合体(D)をさらに含む、請求項1又は2に記載の熱加工用成形体。
【請求項4】
前記熱加工用成形体について測定したドローダウン比率が、0.1[sec/(g/10min)/mm]以上、300[sec/(g/10min)/mm]以下である、請求項1又は2に記載の熱加工用成形体。
ドローダウン比率:ドローダウン時間[sec]/メルトフローレイト[g/10min]/前記熱加工用成形体の厚み[mm]
ドローダウン時間[sec]:28cm×28cmの正方形状に開口を有する枠台に、35cm×35cmの大きさに裁断した前記熱加工用成形体を水平に固定し、温度350℃の条件で加熱した時に、前記熱加工用成形体の中央部が垂直方向で7cm垂れるまでに要した時間
メルトフローレイト[g/10min]:3mm×3mmの大きさに裁断した前記熱加工用成形体についてJIS K 7210に準じて165℃、5.0kgf荷重の条件で測定した値
【請求項5】
加熱温度150℃、せん断速度1216/secの条件で前記熱加工用成形体について測定した溶融粘度が5000poise以上8100pоise以下である、請求項1又は2に記載の熱加工用成形体。
【請求項6】
前記熱加工用成形体について測定したメルトフローレイトが、0.1g/10min以上、6.0g/10min以下である、請求項1又は2に記載の熱加工用成形体。
【請求項7】
前記熱加工用成形体について測定したドローダウン時間が、20sec以上、65sec以下である、請求項1又は2に記載の熱加工用成形体。
【請求項8】
前記熱加工用成形体が、厚み0.01mm以上、1.0mm以下のシートである、請求項1又は2に記載の熱加工用成形体。
【請求項9】
無機充填剤を、前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分の総量100重量部に対して0重量部超30重量部以下含む、請求項1又は2に記載の熱加工用成形体。
【請求項10】
前記無機充填剤が、タルク、マイカ、カオリナイト、モンモリロナイト、及び、スメクタイトからなる群より選択される1種以上を含む、請求項9に記載の熱加工用成形体。
【請求項11】
前記熱加工用成形体がカレンダー成形体である、請求項1又は2に記載の熱加工用成形体。
【請求項12】
前記熱加工がプレス成型又は真空成型である、請求項1又は2に記載の熱加工用成形体。
【請求項13】
熱成型加工によって請求項1又は2に記載の熱加工用成形体に所定の形状が付与された、成型加工品。
【請求項14】
食品容器、又は、農業用資材である、請求項13に記載の成型加工品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分を含有する熱加工用成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
石油由来プラスチックは毎年大量に廃棄されており、これらの大量廃棄物による環境汚染が深刻な問題として取り上げられている。また近年、マイクロプラスチックが、海洋環境において大きな問題になっている。
【0003】
ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂は優れた海水分解性を有しており、廃棄されたプラスチックが引き起こす環境問題を解決しうる材料である。例えば、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂の1種であるポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)は3-ヒドロキシヘキサノエートの組成比率を変化させることにより、機械特性を柔軟にコントロールできる。
【0004】
一方、樹脂シートを、真空成型やプレス成型などの二次的な熱成型加工に付すことによって、例えば食器などの、中央に凹部を有する容器などに成型する方法が知られている。
【0005】
特許文献1では、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂を含む、熱成型加工用の樹脂シートが開示されており、該樹脂シートの加熱収縮率を特定値以上に設定することで、比較的均一な肉厚を有する成型品に熱成型加工できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2022-10543号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の熱加工用の樹脂シートは、比較的均一な肉厚を有する成型品に熱成型加工できるものの、熱成型加工後の離型性が不十分になる場合があった。特に金型内での冷却時間を短く設定すると、樹脂の固化が十分に進行せず、樹脂の一部が金型に張り付いてしまい、離型ができなかったり、仮に離型できても成型品に穴が開いたり、シワができる場合があった。そのため、熱成型加工の生産性を上げることが困難であった。
【0008】
一方、樹脂シートの配合を調節して熱成型加工後の離型性を改善しようとすると、熱加工用の樹脂シートの製造(例えば、カレンダー成形)時に、メルトフラクチャーによってシート表面に凹凸が生じ、平滑な表面を有するシートが得られにくくなる場合があった。
【0009】
本発明は、上記現状に鑑み、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分を含有する熱加工用成形体であって、成形体表面の平滑性と、熱成型加工時の加工性がいずれも良好な熱加工用成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分を、特定のモノマー比率を有する少なくとも2種類の3-ヒドロキシブチレート系共重合体から構成し、かつ、該共重合体の含有割合と重量平均分子量、並びに樹脂成分全体の重量平均分子量を特定範囲に設定することで、成形体表面の平滑性が良好で、かつ、熱成型加工時の加工性も良好な熱加工用成形体を提供できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明は、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分を含有する熱加工用成形体であって、
前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分が、他のヒドロキシアルカノエート単位の含有割合が4モル%以上7モル未満%である、3-ヒドロキシブチレート単位と他のヒドロキシアルカノエート単位との共重合体(A)、及び、他のヒドロキシアルカノエート単位の含有割合が24モル%以上である、3-ヒドロキシブチレート単位と他のヒドロキシアルカノエート単位との共重合体(C)を含み、
前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分全体のうち前記共重合体(A)の割合が、20重量%以上95重量%以下であり、
前記共重合体(A)及び前記共重合体(C)の重量平均分子量(Mw)がそれぞれ45万以上であり、
前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分全体の重量平均分子量(Mw)が45万以上である、熱加工用成形体に関する。
また本発明は、熱成型加工によって前記熱加工用成形体に所定の形状が付与された、成型加工品にも関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分を含有する熱加工用成形体であって、成形体表面の平滑性と、熱成型加工時の加工性がいずれも良好な熱加工用成形体を提供することができる。
本発明に係る熱加工用成形体は、シート表面に凹凸が少なく、平滑な表面を有することができる。
【0013】
また、本発明に係る熱加工用成形体は、熱成型加工(例えば、真空成型やプレス成型による成型加工)によって、所定の形状を有する成型品に加工することができる。本発明に係る熱加工用成形体を用いて熱成型加工を行うと、金型内での冷却時間が短くても、穴やシワが生じることなく金型から離型できるので、熱成型加工の生産性を上げることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の実施形態について説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
本実施形態は、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分を含有する熱加工用成形体に関する。
【0015】
(ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分)
ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分は、構成モノマーの含有割合が互いに異なる少なくとも2種類のポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂を含む。各ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂は、3-ヒドロキシブチレート(以下、3HBと称する場合がある)単位と他のヒドロキシアルカノエート単位との共重合体である。
【0016】
前記他のヒドロキシアルカノエート単位は、3HB単位以外の3-ヒドロキシアルカノエート単位であってよいし、3-ヒドロキシアルカノエート単位以外のヒドロキシアルカノエート単位(例えば、4-ヒドロキシアルカノエート単位)であってもよい。前記他のヒドロキシアルカノエート単位は、1種のみが含まれてもよいし、2種以上が含まれてもよい。
【0017】
前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂としては、特に微生物から産生されるポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂が好ましい。微生物から産生されるポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂においては、3-ヒドロキシアルカノエート単位が、全て(R)-3-ヒドロキシアルカノエート単位として含有される。
【0018】
ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂の具体例としては、例えば、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシプロピオネート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバレレート)(略称:P3HB3HV)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバレレート-3-ヒドロキシヘキサノエート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)(略称:P3HB3HH)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘプタノエート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシオクタノエート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシノナノエート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシデカノエート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシウンデカノエート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-4-ヒドロキシブチレート)(略称:P3HB4HB)等が挙げられる。特に、熱加工用成形体の生産性および機械特性等の観点から、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)、又は、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-4-ヒドロキシブチレート)が好ましく、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)が特に好ましい。
【0019】
前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分は、少なくとも、下記共重合体(A)と下記共重合体(C)とを含む。これら2種の共重合体に加えて、下記共重合体(D)をさらに含むことが好ましい。
共重合体(A):他のヒドロキシアルカノエート単位の含有割合が4モル%以上7モル未満%である、3-ヒドロキシブチレート単位と他のヒドロキシアルカノエート単位との共重合体
共重合体(C):他のヒドロキシアルカノエート単位の含有割合が24モル%以上である、3-ヒドロキシブチレート単位と他のヒドロキシアルカノエート単位との共重合体
共重合体(D):他のヒドロキシアルカノエート単位の含有割合が1モル%以上4モル%未満である、3-ヒドロキシブチレート単位と他のヒドロキシアルカノエート単位との共重合体
【0020】
共重合体(A)は、高結晶性のポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂であるのに対し、共重合体(C)は、共重合体(A)よりも結晶性が低いポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂である。
【0021】
一般に、高結晶性のポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂は生産性に優れるが機械特性が乏しい性質を有し、低結晶性のポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂は生産性に劣るが優れた機械特性を有する。上述した樹脂を組み合わせて使用することで、成形体表面の平滑性と、熱成型加工時の加工性がいずれも良好な熱加工用成形体を提供することが可能になる。
【0022】
共重合体(A)における他のヒドロキシアルカノエート単位の含有割合は、4モル%以上7モル%未満である。前記割合の下限は4.5モル%以上であってもよいし、5モル%以上であってもよい。上限は6.5モル%以下であってもよいし、6モル%以下であってもよい。
【0023】
共重合体(A)としては、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)、又は、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-4-ヒドロキシブチレート)が好ましく、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)がより好ましい。
【0024】
共重合体(C)における他のヒドロキシアルカノエート単位の含有割合は、24モル%以上である。前記割合の下限は、25モル%以上であってもよいし、26モル%以上であってもよい。前記割合の上限は、生産性の観点から、99モル%以下であることが好ましく、50モル%以下がより好ましく、40モル%以下がさらに好ましく、30モル%以下が特に好ましい。
【0025】
共重合体(C)は、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)、又は、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-4-ヒドロキシブチレート)が好ましく、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)がより好ましい。
【0026】
共重合体(D)における他のヒドロキシアルカノエート単位の含有割合は、1モル%以上4モル%未満である。前記割合の下限は、2モル%以上であることが好ましい。共重合体(D)を併用することによって、熱加工用成形体の生産性を向上させることができる。
【0027】
共重合体(D)は、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)、又は、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-4-ヒドロキシブチレート)が好ましく、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)がより好ましい。
【0028】
本実施形態に係る熱加工用成形体に含まれるポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分全体のうち共重合体(A)が占める割合は20重量%以上95重量%以下である。この範囲内では、成形体表面の平滑性と、熱成型加工時の加工性をいずれも良好なものにすることができる。
共重合体(A)の割合が20重量%未満であると、熱成型加工後に金型内で樹脂が固化するのに時間がかかり、短時間の冷却では離型ができなかったり、仮に離型できても穴が開いたり、シワが生じやすい。また、共重合体(A)の割合が95重量%を超えると、熱加工用成形体の生産時にメルトフラクチャーの現象が生じやすく、成形体表面に凹凸が生じて、平滑な表面を有する成形体が得られにくくなる傾向がある。
共重合体(A)の割合の下限は30重量%以上であることが好ましく、40重量%以上がより好ましい。50重量%以上であってもよいし、60重量%以上であってもよい。前記割合の上限は90重量%以下であることが好ましい。80重量%以下であってもよい。
【0029】
また、前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分全体のうち共重合体(C)が占める割合は、5重量%以上50重量%以下であることが好ましい。共重合体(C)の割合が5重量%以上であると、平滑な表面を有する熱加工用成形体を生産することがより容易になる。また、共重合体(C)の割合が50重量%以下であると、熱成型加工後に金型内での冷却時間が短くても、穴やシワを生じることなく成型加工品を金型から離型することがより容易になる。
共重合体(C)の割合の下限は8重量%以上であってもよいし、10重量%以上であってもよい。上限は45重量%以下であることが好ましい。40重量%以下であってもよいし、30重量%以下であってもよい。
【0030】
共重合体(D)を配合する場合、前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分全体のうち共重合体(D)が占める割合は、3重量%以上35重量%以下であることが好ましい。共重合体(D)の割合が3重量%以上であると、平滑な表面を有する熱加工用成形体を生産することがより容易になる。また、共重合体(D)の割合が35重量%以下であると、熱成型加工後に金型内での冷却時間が短くても、穴やシワを生じることなく成型加工品を金型から離型することがより容易になる。
共重合体(D)の割合の下限は5重量%以上であってもよいし、8重量%以上であってもよい。上限は30重量%以下であることが好ましい。25重量%以下であってもよいし、20重量%以下であってもよい。
【0031】
前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分は、共重合体(A)と共重合体(C)のみから構成されるものであってもよいし、共重合体(A)と共重合体(C)と共重合体(D)のみから構成されるものであってもよい。また、共重合体(A)と共重合体(C)と共重合体(D)のいずれにも該当しない他のポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂をさらに含有してもよい。そのような他の樹脂が前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分において占める割合は10重量%以下であることが好ましく、5重量%以下がさらに好ましい。
【0032】
熱加工用成形体に含まれるポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分を構成する全モノマー単位に占める3-ヒドロキシブチレート単位および他のヒドロキシアルカノエート単位の平均含有比率は、熱加工用成形体表面の平滑性と、熱成型加工時の加工性を両立する観点から、3-ヒドロキシブチレート単位/他のヒドロキシアルカノエート=96/4~90/10(モル%/モル%)が好ましく、95/5~91/9(モル%/モル%)がより好ましく、94/6~92/8(モル%/モル%)がさらに好ましい。
【0033】
ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分を構成する全モノマー単位に占める各モノマー単位の平均含有比率は、当業者に公知の方法、例えば国際公開2013/147139号の段落[0047]に記載の方法により求めることができる。平均含有比率とは、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分を構成する全モノマー単位に占める各モノマー単位のモル比を意味し、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分が2種類のポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂の混合物である場合、該混合物全体に含まれる各モノマー単位のモル比を意味する。
【0034】
本実施形態において、共重合体(A)の重量平均分子量(Mw)と共重合体(C)の重量平均分子量(Mw)はそれぞれ、45万以上に設定する。このように各共重合体の重量平均分子量を特定値以上とすることによって、熱成型加工後に金型内での冷却時間が短くても、穴やシワを生じることなく成型加工品を金型から離型することができる。しかし、共重合体(A)又は共重合体(C)の重量平均分子量が45万未満であると、樹脂成分が低粘度となるため熱成型加工時にドローダウンが大きくなり、シワが生じやすい。
共重合体(A)の重量平均分子量と共重合体(C)の重量平均分子量の上限はそれぞれ、後述する溶融粘度を考慮して設定することができるが、熱加工用成形体表面の平滑性の観点から、120万以下であることが好ましく、100万以下がより好ましく、90万以下がさらに好ましい。下限は、50万以上であることが好ましく、55万以上がより好ましい。
【0035】
また、共重合体(D)を使用する場合、共重合体(D)の重量平均分子量(Mw)も、共重合体(A)と共重合体(C)の重量平均分子量(Mw)と同様、45万以上に設定することが好ましい。共重合体(D)の重量平均分子量(Mw)に関する好ましい範囲も上記と同様である。
【0036】
また、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分全体の重量平均分子量(Mw)は45万以上に設定する。このように樹脂成分全体の重量平均分子量を特定値以上とすることによって、熱成型加工後に金型内での冷却時間が短くても、穴やシワを生じることなく成型加工品を金型から離型することができる。
ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分全体の重量平均分子量の上限は、後述する溶融粘度を考慮して設定することができるが、熱加工用成形体表面の平滑性の観点から、120万以下であることが好ましく、100万以下がより好ましく、90万以下がさらに好ましい。下限は、50万以上であることが好ましく、55万以上がより好ましい。
【0037】
なお、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分、共重合体(A)、共重合体(C)、又は共重合体(D)の重量平均分子量は、クロロホルム溶液を用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(島津製作所社製HPLC GPC system)を用い、ポリスチレン換算により測定することができる。該ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにおけるカラムとしては、重量平均分子量を測定するのに適切なカラムを使用すればよい。
【0038】
ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂の製造方法は特に限定されず、化学合成による製造方法であってもよいし、微生物による製造方法であってもよい。中でも、微生物による製造方法が好ましい。微生物による製造方法については、公知の方法を適用できる。例えば、3-ヒドロキシブチレートと、その他のヒドロキシアルカノエートとのコポリマー生産菌としては、P3HB3HVおよびP3HB3HH生産菌であるアエロモナス・キヤビエ(Aeromonas caviae)、P3HB4HB生産菌であるアルカリゲネス・ユートロファス(Alcaligenes eutrophus)等が知られている。特に、P3HB3HHに関し、P3HB3HHの生産性を上げるために、P3HA合成酵素群の遺伝子を導入したアルカリゲネス・ユートロファス AC32株(Alcaligenes eutrophus AC32,FERM BP-6038)(T.Fukui,Y.Doi,J.Bateriol.,179,p4821-4830(1997))等がより好ましく、これらの微生物を適切な条件で培養して菌体内にP3HB3HHを蓄積させた微生物菌体が用いられる。また前記以外にも、生産したいポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂に合わせて、各種ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂合成関連遺伝子を導入した遺伝子組み換え微生物を用いても良いし、基質の種類を含む培養条件の最適化をすればよい。
【0039】
本実施形態に係る熱加工用成形体は、無機充填剤を含有しなくてもよいが、成形体の強度や、熱成型加工時の加工性を改善することができるため、無機充填剤を含有することが好ましい。
【0040】
無機充填剤としては、成形用の樹脂材料に添加できる無機充填剤であれば特に限定されず、例えば、石英、ヒュームドシリカ、無水ケイ酸、溶融シリカ、結晶性シリカ、アモルファスシリカ、アルコキシシランを縮合してなる無機充填剤、超微粉無定型シリカ等のシリカ系無機充填剤、アルミナ、ジルコン、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化チタン、窒化ケイ素、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、炭化ケイ素、ガラス、シリコーンゴム、シリコーンレジン、酸化チタン、炭素繊維、マイカ、黒鉛、カーボンブラック、フェライト、グラファイト、ケイソウ土、白土、クレー、タルク、炭酸カルシウム、炭酸マンガン、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、銀粉等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種類以上併用してもよい。
【0041】
本実施形態においては、成形体の強度や、熱成型加工時の加工性の改善効果を得ることができるため、無機充填剤の中でも、ケイ酸塩に属する無機充填剤が好ましい。更に、熱加工用成形体の強度向上効果が大きく、粒径分布が小さく成形体の表面平滑性を阻害しにくいため、ケイ酸塩の中でも、タルク、マイカ、カオリナイト、モンモリロナイト、及び、スメクタイトからなる群より選択される1種以上が好ましい。ケイ酸塩は2種以上併用してもよく、その場合、ケイ酸塩の種類及び使用比率は適宜調節することができる。
【0042】
前記タルクとしては、汎用のタルク、表面処理タルク等が挙げられ、具体的には、日本タルク社の「ミクロエース」(登録商標)、林化成社の「タルカンパウダー」(登録商標)、竹原化学工業社や丸尾カルシウム社製のタルクが例示される。
【0043】
前記マイカとしては、湿式粉砕マイカ、乾式粉砕マイカ等が挙げられ、具体的には、ヤマグチマイカ社や啓和炉材社製のマイカが例示される。
【0044】
前記カオリナイトとしては、乾式カオリン、焼成カオリン、湿式カオリン等が挙げられ、具体的には、林化成社「TRANSLINK」(登録商標)、「ASP」(登録商標)、「SANTINTONE」(登録商標)、「ULTREX」(登録商標)や、啓和炉材社製のカオリナイトが例示される。
【0045】
無機充填剤を配合する場合、その配合量は、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分の総量100重量部に対して、0重量部超30重量部以下であることが好ましい。無機充填剤の配合量が上記範囲内であると、強度や加工性に優れる熱加工用成形体を得ることができる。上限は、20重量部以下であってもよいし、10重量部以下であってもよいし、8重量部以下であってもよい。下限は、無機充填剤の配合による効果をより強く実現できるため、1重量部以上であることが好ましく、3重量部以上がより好ましい。
【0046】
本実施形態に係る熱加工用成形体は、可塑剤を含有しなくてもよいが、可塑剤を含有してもよい。可塑剤を配合することによって、熱加工用成形体の耐割れ性を改善することができる。
【0047】
前記可塑剤としては特に限定されないが、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分との相溶性の観点から、分子内にエステル結合を有するエステル化合物を使用することが好ましい。
【0048】
可塑剤として使用可能なエステル化合物としては、例えば、変性グリセリン系化合物、二塩基酸エステル系化合物、アジピン酸エステル系化合物、ポリエーテルエステル系化合物、安息香酸エステル系化合物、クエン酸エステル系化合物、イソソルバイドエステル系化合物、ポリカプロラクトン系化合物等が挙げられる。なかでも、変性グリセリン系化合物、二塩基酸エステル系化合物、アジピン酸エステル系化合物、ポリエーテルエステル系化合物、又は、イソソルバイドエステル系化合物が好ましく、変性グリセリン系化合物が特に好ましい。また、前記エステル化合物としては、1種を単独で使用することもできるし、2種以上を組み合わせて使用することもできる。2種以上を組み合わせて使用する場合、それらエステル化合物の混合比率を適宜調整することができる。
【0049】
変性グリセリン系化合物としては、グリセリンエステル系化合物が好ましい。グリセリンエステル系化合物としては、グリセリンのモノエステル、ジエステル、又はトリエステルのいずれも使用することができるが、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分との相溶性の観点から、グリセリンのトリエステルが好ましい。グリセリンのトリエステルのなかでも、グリセリンジアセトモノエステルが特に好ましい。グリセリンジアセトモノエステルの具体例としては、グリセリンジアセトモノラウレート、グリセリンジアセトモノオレート、グリセリンジアセトモノステアレート、グリセリンジアセトモノカプリレート、グリセリンジアセトモノデカノエート等を挙げることができ、これら2種類以上の混合物として用いることができる。例えば、前記変性グリセリン系化合物としては、理研ビタミン株式会社の「リケマール」PLシリーズや、「BIOCIZER」などが例示される。
【0050】
二塩基酸エステル系化合物の具体例としては、ジブチルアジペート、ジイソブチルアジペート、ビス(2-エチルヘキシル)アジペート、ジイソノニルアジペート、ジイソデシルアジペート、ビス[2-(2-ブトキシエトキシ)エチル]アジペート、ビス[2-(2-ブトキシエトキシ)エチル]アジペート、ビス(2-エチルヘキシル)アゼレート、ジブチルセバケート、ビス(2-エチルヘキシル)セバケート、ジエチルサクシネート、混基二塩基酸エステル化合物などが挙げられる。
【0051】
アジピン酸エステル系化合物としては、ジエチルヘキシルアジペート、ジオクチルアジペート、ジイソノニルアジペートなどが挙げられる。
【0052】
ポリエーテルエステル系化合物としては、ポリエチレングリコールジベンゾエート、ポリエチレングリコールジカプリレート、ポリエチレングリコールジイソステアレートなどが挙げられる。
【0053】
前記エステル化合物としては、コスト、汎用性に優れているのに加え、バイオマス度が高い点から、変性グリセリン系化合物が好ましく、特に食品接触の観点から、グリセリントリエステルがより好ましく、グリセリンジアセトモノエステルがさらに好ましく、グリセリンジアセトモノラウレートが特に好ましい。
【0054】
可塑剤を配合する場合、可塑剤の配合量は、前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分の総量100重量部に対して、0重量部超20重量部未満であることが好ましい。上限は、10重量部未満であってもよいし、5重量部未満であってもよいし、2重量部未満であってもよい。
【0055】
(他の樹脂)
本実施形態に係る熱加工用成形体は、発明の効果を損なわない範囲で、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂以外の他の樹脂を含んでもよい。そのような他の樹脂としては、例えば、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリブチレンサクシネート、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸などの脂肪族ポリエステル系樹脂や、ポリブチレンアジペートテレフタレート、ポリブチレンセバケートテレフタレート、ポリブチレンアゼレートテレフタレートなどの脂肪族芳香族ポリエステル系樹脂等が挙げられる。他の樹脂としては1種のみが含まれていてもよいし、2種以上が含まれていてもよい。
【0056】
前記他の樹脂の含有量は、特に限定されないが、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分の総量100重量部に対して、30重量部以下であることが好ましく、20重量部以下がより好ましく、10重量部以下がさらに好ましい。5重量部以下であってもよいし、1重量部以下であってもよい。他の樹脂の含有量の下限は特に限定されず、0重量部であってもよい。
【0057】
(添加剤)
本実施形態に係る熱加工用成形体は、発明の効果を阻害しない範囲において、他の添加剤を含有してもよい。他の添加剤としては、例えば、結晶化核剤、滑剤、帯電防止剤、難燃剤、導電剤、断熱剤、架橋剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、着色剤、有機充填剤、加水分解抑制剤等を目的に応じて使用できる。特に生分解性を有する添加剤が好ましい。
【0058】
結晶化核剤としては、例えば、ペンタエリスリトール、オロチン酸、アスパルテーム、シアヌル酸、グリシン、フェニルホスホン酸亜鉛、窒化ホウ素等が挙げられる。中でも、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分の結晶化を促進する効果が特に優れている点で、ペンタエリスリトールが好ましい。結晶化核剤の使用量は、特に限定されないが、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分の総量100重量部に対して、0.1~5重量部が好ましく、0.3~3重量部がより好ましく、0.5~1.5重量部がさらに好ましい。また、結晶化核剤は、1種を使用してよいし、2種以上使用してもよく、目的に応じて、使用比率を適宜調整することができる。
【0059】
滑剤としては、例えば、ベヘン酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、ステアリン酸アミド、パルミチン酸アミド、N-ステアリルベヘン酸アミド、N-ステアリルエルカ酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、エチレンビスラウリル酸アミド、エチレンビスカプリン酸アミド、p-フェニレンビスステアリン酸アミド、エチレンジアミンとステアリン酸とセバシン酸の重縮合物等が挙げられる。中でも、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分への滑剤効果が特に優れている点で、ベヘン酸アミドとエルカ酸アミドが好ましい。滑剤の使用量は、特に限定されないが、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分の総量100重量部に対して、0.01~5重量部が好ましく、0.01~3重量部がより好ましく、0.01~1.5重量部がさらに好ましい。また、滑剤は、1種を使用してもよいし、2種以上使用してもよく、目的に応じて、使用比率を適宜調整することができる。
【0060】
本実施形態に係る熱加工用成形体は、加熱温度150℃、せん断速度1216/secの条件で測定した溶融粘度が5000poise以上8100pоise以下を示すことが好ましい。溶融粘度が5000poise以上であると、熱成型加工後に金型内での冷却時間が短くても、穴やシワを生じることなく成型加工品を金型から離型することがより容易になる。また、溶融粘度が8100pоise以下であると、平滑な表面を有する熱加工用成形体を生産することがより容易になる。
溶融粘度の下限は、5500poise以上であることが好ましい。上限は、8000pоise以下であってもよい。
【0061】
本実施形態に係る熱加工用成形体は、メルトフローレイト(MFR)が、0.1g/10min以上、6.0g/10min以下を示すことが好ましい。前記メルトフローレイトとは、3mm×3mmの大きさに裁断した前記熱加工用成形体についてJIS K 7210に準じて165℃、5.0kgf荷重の条件で測定した値である。
メルトフローレイトが0.1g/10min以上であると、平滑な表面を有する熱加工用成形体を生産することがより容易になる。また、メルトフローレイトが6.0g/10min以下であると、熱成型加工後に金型内での冷却時間が短くても、穴やシワを生じることなく成型加工品を金型から離型することがより容易になる。
メルトフローレイトの下限は0.3g/10min以上であることが好ましく、0.5g/10min以上がより好ましい。
【0062】
本実施形態に係る熱加工用成形体は、ドローダウン時間が、20sec以上、65sec以下を示すことが好ましい。前記ドローダウン時間とは、28cm×28cmの正方形状に開口を有する枠台に、35cm×35cmの大きさに裁断した前記熱加工用成形体を水平に固定し、温度350℃の条件で加熱した時に、前記熱加工用成形体の中央部が垂直方向で7cm垂れるまでに要した時間のことをいう。ドローダウン時間がこの範囲内にあると、成形体表面の平滑性と、熱成型加工時の加工性をより良好なものにすることができる。
ドローダウン時間の下限は25sec以上であることがより好ましく、30sec以上がさらに好ましい。上限は60sec以下であることがさらに好ましい。
【0063】
本実施形態に係る熱加工用成形体は、ドローダウン時間[sec]/メルトフローレイト[g/10min]/熱加工用成形体の厚み[mm]で定義されるドローダウン比率が、0.1[sec/(g/10min)/mm]以上、300[sec/(g/10min)/mm]以下を示すことが好ましい。当該ドローダウン比率の算出で用いるドローダウン時間とメルトフローレイトはそれぞれ上述したものである。
ドローダウン比率が0.1[sec/(g/10min)/mm]以上であると、熱成型加工後に金型内での冷却時間が短くても、穴やシワを生じることなく成型加工品を金型から離型することがより容易になる。また、ドローダウン比率が300[sec/(g/10min)/mm]以下であると、平滑な表面を有する熱加工用成形体を生産することがより容易になる。
ドローダウン比率の下限は、10[sec/(g/10min)/mm]以上であることがより好ましく、30[sec/(g/10min)/mm]以上がさらに好ましい。上限は、270[sec/(g/10min)/mm]以下であることがより好ましく、250[sec/(g/10min)/mm]以下がさらに好ましい。また、200[sec/(g/10min)/mm]以下であってもよいし、100[sec/(g/10min)/mm]以下であってもよい。
【0064】
本実施形態に係る熱加工用成形体の厚みは特に限定されないが、熱成型加工を実施する前の状態で、0.01mm以上1.0mm以下であることが好ましい。下限は0.1mm以上であってもよく、0.2mm以上であってもよい。上限は0.8mm以下であってもよいし、0.7mm以下であってもよい。
【0065】
また、本実施形態に係る熱加工用成形体の形状は特に限定されないが、熱成型加工を実施する前の状態で、シートであることが好ましい。
【0066】
(熱加工用成形体の製造方法)
共重合体(A)と共重合体(C)と任意の共重合体(D)とのブレンド物を得る方法は特に限定されず、微生物産生によりブレンド物を得る方法であってよいし、化学合成によりブレンド物を得る方法であってもよい。また、押出機、ニーダー、バンバリーミキサー、ロール等を用いて2種以上の樹脂を溶融混練してブレンド物を得てもよいし、2種以上の樹脂を溶媒に溶解して混合・乾燥してブレンド物を得ても良い。また、以上に述べた各方法を複数組み合わせて実施してもよい。
【0067】
本実施形態に係る熱加工用成形体は、必要に応じて樹脂成分や各種添加剤などを溶融混錬した後、カレンダーロールで圧延シート成形することでカレンダー成形体として製造することができる。また、溶融した樹脂原料をTダイから押し出す、押出成形法により製造してもよい。また、先端に円筒ダイが取り付けられた押出機から溶融樹脂をチューブ状に押し出し、直後に、該チューブのなかに気体を吹き込んでバルーン状にふくらませることでフィルムを成形する、インフレーション成形法により製造してもよい。
以下では、カレンダーロールを用いた圧延シート成形について詳細に説明する。
【0068】
前記カレンダーロールを用いた圧延シート成形とは、バンバリーミキサーやプラネタリーミキサーが取り付けられた押出機で溶融混錬して押し出した樹脂組成物を2本以上のロールでさらに溶融混錬し、その溶融混錬された樹脂組成物をカレンダーロールで圧延し、その後、1本以上の冷却ロール上で冷却する、2本以上の冷却ロール間を通す、プレスするなどの手段でシート化する製造方法である。
【0069】
前記押出機の温度は140~180℃が好ましい。2本以上のロールで溶融混錬する時の温度は90~150℃が好ましい。カレンダーロールで圧延する時の温度は90~150℃が好ましい。樹脂組成物を冷却する温度は10~100℃が好ましい。
【0070】
カレンダーシート成形における引取速度としては、成形体の膜厚、幅、樹脂吐出量により決定されるが、カレンダーシート成形の安定性を維持できる範囲で調整可能である。一般的に1~50m/分が好ましい。
【0071】
カレンダーシート成形の後、シートをMD方向及び/又はTD方向に延伸する工程を実施してもよい。当該延伸工程は、ロール間の回転速度に差をつけてシートをMD方向に引っ張る、及び/又は、シートの幅方向端部をクランプしてTD方向に引っ張ることで実施できる。当該延伸工程を実施することで、次に行う熱成型加工によって、比較的均一な肉厚を有する成型加工品を得ることができる。
【0072】
前記延伸工程での延伸倍率は1.1倍以上が好ましく、1.2倍以上がより好ましく、1.3倍以上がさらに好ましく、1.4倍以上が特に好ましい。延伸倍率の上限は特に限定されないが、3.0倍以下が好ましく、2.5倍以下がより好ましく、2.0倍以下がさらに好ましい。
【0073】
カレンダーシート成形の後、巻き取りを行うまでに、熱加工用成形体の表面に所望の特性に応じた塗布材の塗布を行う工程を行ってもよい。塗布材としては、特に限定されるものではないが、離型剤や防曇剤、帯電防止剤が挙げられる。塗布材の塗布方式としては、特に限定されるものではないが、グラビアリバース方式、両面塗布方式、片面塗布印刷が挙げられる。
【0074】
(熱成型加工)
本実施形態に係る熱加工用成形体は、熱成型加工によって、容器等の、凹部及び/又は凸部を有する成型加工品に二次加工するために使用することができる。熱成型加工は、予備加熱して軟化した熱加工用成形体を、プレスし、又は、真空または圧空を利用して型に沿わせることで実施することができる。前記熱成型加工の具体例としては、プレス成型、真空成型、圧空成型、真空圧空成型、マッチド・モールド成型、プラグアシスト成型、プラグアシスト真空成型、プラグアシスト真空圧空成型、TOM成型などの方法が挙げられるが、簡便で金型費用が安価であることから、プレス成型、真空成型、真空圧空成型、プラグアシスト真空成型、プラグアシスト真空圧空成型が好ましい。
【0075】
熱成型加工を行う前の前記予備加熱は、熱加工用成形体の端部をクランプやピンで固定し、遠赤外線ヒーターなどを用いて熱加工用成形体を加熱する工程である。前記予備加熱により達成する成形体の温度は当業者が適宜設定することができるが、前記ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂成分の示差走査熱量分析における融点ピーク温度と、融点ピークの高温側の終了温度の間の温度であることが好ましい。
【0076】
前記温度に熱加工用成形体を予備加熱するために使用する装置としては特に限定されず、遠赤外線ヒーター、熱線ヒーター、温風ヒーターなどが例示されるが、速く均一に加熱しやすいことから、遠赤外線ヒーターが好ましい。遠赤外線ヒーターを使用する場合、一般には目的の成形体温度よりも高くヒーターの温度を設定し、ヒーターと成形体までの距離や予熱時間で成形体の温度をコントロールすればよい。例えば、300~350℃に設定した遠赤外線ヒーターを成形体から10~50cmの距離に設置し、5~30秒間加熱する方法などが挙げられる。前記成形体の実際の温度は、赤外線を用いた非接触温度計で測定する方法や、温度により色が変わるサーモラベル(登録商標)を成形体に貼付して予熱条件を設定する方法などが挙げられる。
【0077】
本実施形態に係る熱加工用成形体は、熱成型加工時の加工性が良好なものである。そのため、熱加工用成形体の熱成型加工を行った後、金型内での冷却時間が短くても、穴やシワが生じることなく金型から離型することができる。よって、熱成型加工の生産性を上げることが可能となる。
【0078】
本実施形態に係る熱加工用成形体は優れた生分解性を有しているため、農業、漁業、林業、園芸、医学、衛生品、食品産業、衣料、非衣料、包装、自動車、建材、その他の分野に好適に用いることができる。例えば、食品容器(蓋、トレー)や、農業用資材(育苗ポット、トレー)の用途に用いることができる。
【0079】
特に、本実施形態に係る熱加工用成形体は、熱成型加工によって、凹部及び/又は凸部を有する成型加工品に二次加工するために好ましく使用することができる。具体的には、中央に凹部を有する容器や、仕切りを有する容器、開口部周辺に折り返し部を有する容器等に好適に熱成型加工することができる。より具体的な態様としては特に限定されないが、本実施形態に係る熱加工用成形体は、食品容器(蓋、トレー)や、農業用資材(育苗ポット、トレー)に熱成型加工するために、特に好適に使用することができる。
【0080】
以下の各項目では、本開示における好ましい態様を列挙するが、本発明は以下の項目に限定されるものではない。
[項目1]
ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分を含有する熱加工用成形体であって、
前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分が、他のヒドロキシアルカノエート単位の含有割合が4モル%以上7モル未満%である、3-ヒドロキシブチレート単位と他のヒドロキシアルカノエート単位との共重合体(A)、及び、他のヒドロキシアルカノエート単位の含有割合が24モル%以上である、3-ヒドロキシブチレート単位と他のヒドロキシアルカノエート単位との共重合体(C)を含み、
前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分全体のうち前記共重合体(A)の割合が、20重量%以上95重量%以下であり、
前記共重合体(A)及び前記共重合体(C)の重量平均分子量(Mw)がそれぞれ45万以上であり、
前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分全体の重量平均分子量(Mw)が45万以上である、熱加工用成形体。
[項目2]
前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分全体のうち前記共重合体(C)の割合が、5重量%以上50重量%以下である、項目1に記載の熱加工用成形体。
[項目3]
前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分が、他のヒドロキシアルカノエート単位の含有割合が1モル%以上4モル%未満である、3-ヒドロキシブチレート単位と他のヒドロキシアルカノエート単位との共重合体(D)をさらに含む、項目1又は2に記載の熱加工用成形体。
[項目4]
前記熱加工用成形体について測定したドローダウン比率が、0.1[sec/(g/10min)/mm]以上、300[sec/(g/10min)/mm]以下である、項目1~3のいずれかに記載の熱加工用成形体。
ドローダウン比率:ドローダウン時間[sec]/メルトフローレイト[g/10min]/前記熱加工用成形体の厚み[mm]
ドローダウン時間[sec]:28cm×28cmの正方形状に開口を有する枠台に、35cm×35cmの大きさに裁断した前記熱加工用成形体を水平に固定し、温度350℃の条件で加熱した時に、前記熱加工用成形体の中央部が垂直方向で7cm垂れるまでに要した時間
メルトフローレイト[g/10min]:3mm×3mmの大きさに裁断した前記熱加工用成形体についてJIS K 7210に準じて165℃、5.0kgf荷重の条件で測定した値
[項目5]
加熱温度150℃、せん断速度1216/secの条件で前記熱加工用成形体について測定した溶融粘度が5000poise以上8100pоise以下である、項目1~4のいずれかに記載の熱加工用成形体。
[項目6]
前記熱加工用成形体について測定したメルトフローレイトが、0.1g/10min以上、6.0g/10min以下である、項目1~5のいずれかに記載の熱加工用成形体。
[項目7]
前記熱加工用成形体について測定したドローダウン時間が、20sec以上、65sec以下である、項目1~6のいずれかに記載の熱加工用成形体。
[項目8]
前記熱加工用成形体が、厚み0.01mm以上、1.0mm以下のシートである、項目1~7のいずれかに記載の熱加工用成形体。
[項目9]
無機充填剤を、前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分の総量100重量部に対して0重量部超30重量部以下含む、項目1~8のいずれかに記載の熱加工用成形体。
[項目10]
前記無機充填剤が、タルク、マイカ、カオリナイト、モンモリロナイト、及び、スメクタイトからなる群より選択される1種以上を含む、項目9に記載の熱加工用成形体。
[項目11]
前記熱加工用成形体がカレンダー成形体である、項目1~10のいずれかに記載の熱加工用成形体。
[項目12]
前記熱加工がプレス成型又は真空成型である、項目1~11のいずれかに記載の熱加工用成形体。
[項目13]
熱成型加工によって項目1~12のいずれかに記載の熱加工用成形体に所定の形状が付与された、成型加工品。
[項目14]
食品容器、又は、農業用資材である、項目13に記載の成型加工品。
【実施例0081】
以下に実施例と比較例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0082】
(使用原料)
共重合体(A-2):国際公開第2008/010296号に記載の方法に準じて製造した、3-ヒドロキシヘキサノエート(3HH)組成が5.1モル%、重量平均分子量が76万であるポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)(P3HB3HH)
共重合体(A-8):国際公開第2008/010296号に記載の方法に準じて製造した、3-ヒドロキシヘキサノエート(3HH)組成が5.2モル%、重量平均分子量が38万であるポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)(P3HB3HH)
共重合体(A-10):国際公開第2008/010296号に記載の方法に準じて得た、3-ヒドロキシヘキサノエート(3HH)組成が5.8モル%、重量平均分子量が61万であるポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)(P3HB3HH)
【0083】
共重合体(B-1):国際公開第2013/147139号に記載の方法に準じて製造した、3HH組成が10.5モル%、重量平均分子量が58万であるポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)(P3HB3HH)
【0084】
共重合体(C-1):国際公開第2019/142845号に記載の方法に準じて得た、3HH組成が28.0モル%、重量平均分子量が58万であるポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)(P3HB3HH)
共重合体(C-2):国際公開第2019/142845号に記載の方法に準じて得た、3HH組成が28.0モル%、重量平均分子量が38万であるポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)(P3HB3HH)
【0085】
共重合体(D-1):国際公開第2004/041936号に記載の方法に準じて得た、3HH組成が2.9モル%、重量平均分子量が58万であるポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)(P3HB3HH)
共重合体(D-2):国際公開第2004/041936号に記載の方法に準じて得た、3HH組成が2.9モル%、重量平均分子量が38万であるポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)(P3HB3HH)
【0086】
(重量平均分子量の測定方法)
各共重合体の重量平均分子量、またはポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分全体の重量平均分子量は、まず、測定対象の樹脂をクロロホルムに溶解させて60℃の温水槽中で0.5時間加温し、可溶分をPTFE製0.45μm孔径ディスポーザーブルフィルターにてろ過した後、そのろ液を用いて、以下の条件でGPC測定を行うことにより測定した。
GPC測定装置:日立株式会社製RIモニター(L-3000)
カラム:昭和電工社製K-G(1本)、K-806L(2本)
試料濃度:3mg/ml
遊離液:クロロホルム溶液
遊離液流量:1.0ml/分
試料注入量:100μL
分析時間:30分
標準試料:標準ポリスチレン
【0087】
(溶融粘度)
各実施例及び比較例で製造したシートを約3mm×3mmに裁断して、約5gの裁断サンプルを使用して、設定温度150℃で加温した東洋精機社製キャピログラフ1Dのバレル内に、裁断したシートを投入してから5分後に、せん断速度1216/secの条件で溶融粘度を測定した。
【0088】
(シートのメルトフローレイト(MFR)値)
各実施例及び比較例で製造したシートを約3mm×3mmに裁断して、約30g分の裁断サンプルを使用して、JIS K 7210に準拠してメルトフローレイト値を測定した。測定は、荷重5.0kgf、測定温度165℃で行った。
【0089】
(シートのドローダウン時間)
各実施例及び比較例で製造したシートを約35cm×35cmにカットしたものを測定に使用した。真空成型機(脇坂エンジニアリング社製FVS-500)内にある28cm×28cmの正方形状に開口を有する枠台にシートを水平に固定してから、加熱温度350℃の条件でシートの中央部が7cm(シートの固定面から最下点までの垂直方向の距離)垂れるまでの時間を計測した。該時間を、ドローダウン時間とした。
【0090】
(シートのドローダウン比率)
ドローダウン比率は、ドローダウン時間とメルトフローレイト値の比(ドローダウン時間/メルトフローレイト値)を、シートの厚みで除して算出した。
【0091】
(シートの外観)
各実施例及び比較例で製造したシートの表面外観を目視にて、以下の基準で評価した。
○:シートの表面が平滑であり、凹凸がないこと。
△:シートの表面が平滑でなく、凹凸があること。
【0092】
(シートの熱成型加工性)
各実施例及び比較例で製造したシートの熱成型加工を下記方法にて行い、得られた成型加工品を目視にて、下記の基準で評価した。
真空成型機(脇坂エンジニアリング社製FVS-500)を用いて、加熱温度350℃で約20秒加熱したシートを、約30~50℃に保温された金型[金型形状:円錐台、寸法:深さ2cm×円錐台下部の直径9cmと円錐台上部の直径7cm;金型枠への配置状態:25cm×25cmの金型枠の中に、円錐台形状の金型が4つ配置される(12.5cm×12.5cmの正方形の中心に円錐台形状の金型が1つずつ配置される)]にて真空成型(熱成型加工)を行った。金型内で約5秒間冷却した後、約1秒以内に成型加工品を金型から離型し、下記の基準で評価を行った。
○:離型後の成型加工品にシワや穴あきがない。
△:離型後の成型加工品にシワや穴あきがある。
×:シートが固化しておらず離型ができない状態であり、強制的に離型しようとすると金型にシートが張り付き、成型加工品が得られない。
【0093】
(実施例1)
共重合体(A-10)30重量部、共重合体(C-1)42重量部、共重合体(D-1)28重量部、及び、無機フィラー(日本タルク社製ミクロエースK1)を5重量部配合したパウダーを作製した。パウダーの重量平均分子量を評価した結果、60万であった。
作製したパウダーを、設定温度145℃で加熱したΦ8インチ×L20ロール(関西ロール社製)に投入し、3分間溶融混錬させ、シート厚みが0.28mm、シート幅が約35cmの範囲になるように圧延した後、該シートをMD方向に延伸倍率1.0~1.5倍で延伸しながら冷却し、幅30~35cmのシートを作製した。
作製したシートについて、溶融粘度、MFR値、ドローダウン時間、シート厚みを測定し、ドローダウン比率を算出し、また、シート外観を評価し、それぞれの結果を表1に示した。
また、作製したシートを用いて真空成型を行い、上述した方法によって熱成型加工性を評価し、その結果を表1に示した。
【0094】
(実施例2~5、比較例1~6)
配合を表1に示すように変更したこと以外は実施例1と同様にしてパウダー、及びシートを作製し、実施例1と同様の評価を実施した。結果を表1にまとめた。
但し、比較例3では、上述した手法によってシートの作製を試みたが、シートを作製することができなかった。
【0095】
【表1】
【0096】
表1から、実施例1~5のシートは外観が良好で、かつ、当該シートを真空成型することによってシワや穴あきがない成型加工品が得られたことが分かる。
一方、比較例1は、共重合体(C)又は(D)を含まず、製造されたシートの表面に凹凸があり、外観が不良であった。
比較例2は、共重合体(A)の含有割合が10重量%と低く、真空成型によって得られた成型加工品にシワや穴あきが生じていた。
比較例3は、共重合体(A)を含まず、シート作製時に樹脂がロールに粘着し、ロールからの剥離が出来なかったため、シートを作製することができなかった。
比較例4は、共重合体(C)を使用していないことに加え、共重合体(A)のMwが38万、P3HA系樹脂成分全体のMwが44万とそれぞれ低いもので、真空成型によって得られた成型加工品にシワや穴あきが生じていた。
比較例5は、共重合体(C)を使用しておらず、前述した冷却時間では金型内のシートが十分に固化しておらず、離型が不可能で、成型加工品が得られなかった。尚、この比較例5における組成は、特許文献1の実施例で開示された組成に近似するものである。
比較例6は、共重合体(C)と共重合体(D)のMwが38万とそれぞれ低いもので、真空成型時にシートが垂れやすい状態であったため、真空成型によって得られた成型加工品にシワや穴あきの成型不良が見られた。