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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024135668
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】モータの軸受システム
(51)【国際特許分類】
   F16C 32/06 20060101AFI20240927BHJP
【FI】
F16C32/06 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023046468
(22)【出願日】2023-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100059959
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 稔
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162824
【弁理士】
【氏名又は名称】石崎 亮
(72)【発明者】
【氏名】宮内 勇馬
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 るな
(72)【発明者】
【氏名】城所 将之
【テーマコード(参考)】
3J102
【Fターム(参考)】
3J102AA02
3J102AA07
3J102AA09
3J102BA03
3J102BA17
3J102CA11
3J102CA35
3J102EA02
3J102EA08
3J102EA30
3J102EB03
3J102EB16
3J102GA13
(57)【要約】
【課題】ポンプにより気体潤滑軸受として動作可能な軸受を有するモータの軸受システムにおいて、モータの回転軸に付与されるラジアル荷重に基づきポンプに対する制御を的確に行う。
【解決手段】モータの軸受システム100は、ポンプ30から供給される気体により気体潤滑軸受として動作可能な滑り軸受3と、転がり軸受4と、制御装置50と、を有する。制御装置は、モータ回転速度が第1速度以上で且つ第2速度未満であるときには、滑り軸受が回転軸を支持する軸受として機能し、且つ、当該滑り軸受が気体潤滑軸受として動作するようにポンプを制御し、モータ回転速度が第2速度以上であるときには、ポンプを停止させる。また、制御装置は、モータ回転速度が第2速度以上であっても、モータの回転軸に付与されるラジアル荷重が所定値以上であるときには、ポンプを停止させないようにする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータの軸受システムであって、
モータの回転軸を支持する転がり軸受と、
前記回転軸の軸線上において前記転がり軸受と並列して配置され、前記回転軸を支持する滑り軸受であって、当該滑り軸受に供給される気体により気体潤滑を行う気体潤滑軸受として動作可能に構成された、前記滑り軸受と、
前記滑り軸受に前記気体を供給するポンプと、
前記モータの回転速度を検出する検出装置と、
前記検出装置により検出された前記回転速度に基づき、前記ポンプを制御するように構成された制御装置と、
を有し、
前記制御装置は、
前記回転速度が第1速度以上で且つ当該第1速度よりも高い第2速度未満であるときには、前記転がり軸受が前記回転軸を支持する軸受として機能せず、前記滑り軸受が前記回転軸を支持する軸受として機能し、且つ、当該滑り軸受が前記気体潤滑軸受として動作するように、前記ポンプを制御し、
前記回転速度が前記第2速度以上であるときには、前記ポンプを停止させるか、又は、前記回転速度が前記第1速度以上で且つ前記第2速度未満であるときよりも前記ポンプの駆動力を小さくするように当該ポンプを制御する、
ように構成され、
前記制御装置は、更に、前記回転速度が前記第2速度以上であるときにおいて、前記回転軸に付与されるラジアル荷重が所定値以上であるときには、前記ポンプを停止せずに、前記ラジアル荷重が前記所定値未満であるときよりも前記ポンプの駆動力を大きくするように当該ポンプを制御する、ように構成されている、
ことを特徴とするモータの軸受システム。
【請求項2】
モータの軸受システムであって、
複数の転動体を備え、モータの回転軸を支持する軸受であって、転がり軸受として動作するか、又は、当該軸受に供給される気体により気体潤滑を行う気体潤滑軸受として動作するように構成された、前記軸受と、
前記軸受に前記気体を供給するポンプと、
前記モータの回転速度を検出する検出装置と、
前記検出装置により検出された前記回転速度に基づき、前記ポンプを制御するように構成された制御装置と、
を有し、
前記制御装置は、
前記回転速度が第1速度以上で且つ当該第1速度よりも高い第2速度未満であるときには、前記軸受が前記気体潤滑軸受として動作するように前記ポンプを制御し、
前記回転速度が前記第2速度以上であるときには、前記ポンプを停止させるか、又は、前記回転速度が前記第1速度以上で且つ前記第2速度未満であるときよりも前記ポンプの駆動力を小さくするように当該ポンプを制御する、
ように構成され、
前記制御装置は、更に、前記回転速度が前記第2速度以上であるときにおいて、前記回転軸に付与されるラジアル荷重が所定値以上であるときには、前記ポンプを停止せずに、前記ラジアル荷重が前記所定値未満であるときよりも前記ポンプの駆動力を大きくするように当該ポンプを制御する、ように構成されている、
ことを特徴とするモータの軸受システム。
【請求項3】
前記制御装置は、前記ラジアル荷重が大きいほど、前記ポンプの駆動力を大きくするように構成されている、請求項1又は2に記載のモータの軸受システム。
【請求項4】
前記制御装置は、前記モータの軸受システムが搭載された車両の操舵角に基づき、前記ラジアル荷重を予測するように構成されている、請求項1又は2に記載のモータの軸受システム。
【請求項5】
前記制御装置は、前記モータの軸受システムが搭載された車両が走行する路面上の段差に基づき、前記ラジアル荷重を予測するように構成されている、請求項1又は2に記載のモータの軸受システム。
【請求項6】
前記制御装置は、前記モータの軸受システムが搭載された車両が走行する路面の状態に基づき、前記ラジアル荷重を予測するように構成されている、請求項1又は2に記載のモータの軸受システム。
【請求項7】
前記制御装置は、前記回転速度が前記第1速度以上で且つ前記第2速度未満であるときには、前記回転速度が高くなるほど、前記ポンプの駆動力を小さくするように構成されている、請求項1又は2に記載のモータの軸受システム。
【請求項8】
前記制御装置は、更に、前記モータの軸受システムが搭載された車両の車速に基づき、前記ポンプの駆動力を制御するように構成されている、請求項1又は2に記載のモータの軸受システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータの軸受システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば車両の動力源(エンジンやモータ)の回転軸などを支持する軸受として、転がり軸受や滑り軸受が用いられている。転がり軸受は、低回転領域においてフリクションが小さい一方、滑り軸受は、低回転領域においてフリクションが大きい。他方で、転がり軸受は、転がり疲労により寿命が有限であるが、滑り軸受は、潤滑が適切な条件下では寿命が永久的である。
【0003】
ここで、転がり軸受及び滑り軸受の両方を有するようにシステムを構成して、上記のような各軸受の特性に応じて、適用する軸受を切り替える技術が提案されている。例えば、特許文献1には、エンジンのクランクシャフトやカムシャフトを支持する軸受として転がり軸受及び滑り軸受を用いるシステムに関して、回転数が低い始動時には転がり軸受のみを機能させ、この始動後には滑り軸受のみを機能させることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-19728号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、エンジンにおいては、高回転領域において、滑り軸受を適用するのが効果的である。この滑り軸受には、一般的に、潤滑油による流体潤滑が用いられている。ところで、エンジンよりも高回転で動作するモータでは、このような滑り軸受をモータの高回転領域において適用すると、潤滑油の流体摩擦や抵抗が大きくなり、モータの電費が低下するという問題がある。
【0006】
このような問題を解決するために、本件発明者は、潤滑油よりも粘度が小さい気体での潤滑(気体潤滑)を用いる気体潤滑軸受(例えば空気軸受)を、滑り軸受に適用することを考えた。この気体潤滑軸受を実現するためには、軸受と回転軸との接触防止のために、これらの間に気体層を確実に形成する必要がある。この気体層の形成には、所謂くさび効果及び絞り効果を利用するのが良いと考えられる。しかしながら、くさび効果及び絞り効果は基本的には高回転領域でしか得られないので、これら効果を利用しようとする方法では、低回転領域において軸受と回転軸とが接触してしまう可能性がある。
【0007】
そこで、本件発明者は、低回転領域において気体潤滑軸受のための気体層を確実に形成するために、ポンプにより静圧を軸受に付与することを考えた。しかしながら、ポンプの消費電力は電費低下に繋がるため、ポンプの作動を最小限に抑えることが望ましい。ここで、気体層の形成は、ポンプにより付与される静圧に対して、上述したくさび効果及び絞り効果による圧力を合算したものに因る。これら効果は、気体の粘度や摺動速度や圧力から決まる。また、これら効果の発生度合いは、モータ回転速度(一義的に回転数となる。以下同様とする。)から把握することができる。
【0008】
本件発明者が行った実験によれば、モータの低回転領域では、くさび効果及び絞り効果が得られないので、気体潤滑軸受を適用することによる電費改善代が、気体潤滑軸受を実現するためのポンプ作動による電費低下代よりも低くなるため、気体潤滑軸受を適用すべきでないことがわかった。一方、摺動速度が極めて大きくなるようなモータの高回転領域では、大きなくさび効果及び絞り効果が得られるので、ポンプにより静圧を付与しなくても、気体潤滑軸受を実現できることがわかった。以上より、本件発明者は、気体潤滑軸受を実現するに当たって、低回転領域と高回転領域との間の領域(以下では「中回転領域」と呼ぶ。)ではポンプを作動させる一方で、高回転領域では、ポンプを停止させるか又はポンプの駆動力を小さくすることを考えた。
【0009】
また、本件発明者が行った更なる実験によれば、モータの回転軸に付与されるラジアル荷重が大きいときには、軸受と回転軸との間の気体層を確保しにくくなるため、軸受が回転軸に接触する可能性があることがわかった。例えば、ラジアル荷重は、悪路の走行時や、段差の走行時や、操舵角が大きい時などに大きくなる。本件発明者は、このような知見に基づき、モータの回転軸に付与されるラジアル荷重を考慮して、気体潤滑軸受を実現するために用いられるポンプに対する制御を行うことを着想し、本発明を完成させたのである。
【0010】
本発明は、以上のような知見に基づいてなされたものであり、ポンプから供給される気体により気体潤滑軸受として動作可能に構成された軸受を有するモータの軸受システムにおいて、モータの回転軸に付与されるラジアル荷重に基づき、ポンプに対する制御を的確に行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために、本発明は、モータの軸受システムであって、モータの回転軸を支持する転がり軸受と、回転軸の軸線上において転がり軸受と並列して配置され、回転軸を支持する滑り軸受であって、当該滑り軸受に供給される気体により気体潤滑を行う気体潤滑軸受として動作可能に構成された、滑り軸受と、滑り軸受に気体を供給するポンプと、モータの回転速度を検出する検出装置と、検出装置により検出された回転速度に基づき、ポンプを制御するように構成された制御装置と、を有し、制御装置は、回転速度が第1速度以上で且つ当該第1速度よりも高い第2速度未満であるときには、転がり軸受が回転軸を支持する軸受として機能せず、滑り軸受が回転軸を支持する軸受として機能し、且つ、当該滑り軸受が気体潤滑軸受として動作するように、ポンプを制御し、回転速度が第2速度以上であるときには、ポンプを停止させるか、又は、回転速度が第1速度以上で且つ第2速度未満であるときよりもポンプの駆動力を小さくするように当該ポンプを制御する、ように構成され、制御装置は、更に、回転速度が第2速度以上であるときにおいて、回転軸に付与されるラジアル荷重が所定値以上であるときには、ポンプを停止せずに、ラジアル荷重が所定値未満であるときよりもポンプの駆動力を大きくするように当該ポンプを制御する、ように構成されている、ことを特徴とする。
【0012】
このように構成された本発明では、制御装置は、モータ回転速度から、くさび効果及び絞り効果の度合いを把握して、軸受に関する制御を行う。モータ回転速度は、くさび効果及び絞り効果の度合いを的確に反映するものなので、本発明によれば、簡易な構成にて、この制御を精度良く行うことが可能となる。
具体的には、本発明では、モータ回転速度が第1速度以上で第2速度未満であるときには、くさび効果及び絞り効果がある程度得られるため、滑り軸受を気体潤滑軸受として動作させるために必要なポンプの消費電力が比較的小さくなるので、制御装置は、回転軸を支持するように機能させる軸受として滑り軸受を適用する。この場合、気体潤滑軸受としての滑り軸受を適用することによる電費改善代が、気体潤滑軸受を実現するためのポンプ作動による電費低下代よりも高くなるので、気体潤滑軸受の適用による電費改善効果を確保することができる。
また、本発明では、モータ回転速度が第2速度以上であるときには、摺動速度が極めて大きいため、ポンプにより静圧を付与しなくても気体潤滑軸受を実現できるので、制御装置は、ポンプを停止させるか又はポンプの駆動力を小さくしつつ、回転軸を支持するように機能させる軸受として滑り軸受を適用する。これにより、気体潤滑軸受の適用による電費改善効果を最大限得ることができる。
また、本発明では、モータ回転速度が第2速度以上であっても、回転軸に付与されるラジアル荷重(ラジアル加速度に一義的に対応する)が所定値以上であるときには、ポンプを停止せずに、ラジアル荷重が所定値未満であるときよりもポンプ駆動力を大きくするので、ラジアル荷重が大きいときに、滑り軸受が回転軸に接触するリスクを回避でき、安全性及び信頼性を確保することが可能となる。また、このようなポンプ駆動力の制御を行った場合の電費低下代は、当該ポンプ駆動力の制御を行わなかった場合に発生し得る滑り軸受と回転軸との接触に起因する摩擦増加による電費低下代よりも小さいので、電費低下をできるだけ抑制することが可能となる。
【0013】
他の観点では、上記の目的を達成するために、本発明は、モータの軸受システムであって、複数の転動体を備え、モータの回転軸を支持する軸受であって、転がり軸受として動作するか、又は、当該軸受に供給される気体により気体潤滑を行う気体潤滑軸受として動作するように構成された、軸受と、軸受に気体を供給するポンプと、モータの回転速度を検出する検出装置と、検出装置により検出された回転速度に基づき、ポンプを制御するように構成された制御装置と、を有し、制御装置は、回転速度が第1速度以上で且つ当該第1速度よりも高い第2速度未満であるときには、軸受が気体潤滑軸受として動作するようにポンプを制御し、回転速度が第2速度以上であるときには、ポンプを停止させるか、又は、回転速度が第1速度以上で且つ第2速度未満であるときよりもポンプの駆動力を小さくするように当該ポンプを制御する、ように構成され、制御装置は、更に、回転速度が第2速度以上であるときにおいて、回転軸に付与されるラジアル荷重が所定値以上であるときには、ポンプを停止せずに、ラジアル荷重が所定値未満であるときよりもポンプの駆動力を大きくするように当該ポンプを制御する、ように構成されている、ことを特徴とする。
このように構成された本発明によっても、モータの回転軸に付与されるラジアル荷重に基づき、ポンプに対する制御を的確に行うことができる。特に、上記の本発明では、1つの軸受が、転がり軸受及び気体潤滑軸受として選択的に動作するように構成されているので、このポンプに対する制御を簡易な構成にて実現することができる。
【0014】
本発明において、好ましくは、制御装置は、ラジアル荷重が大きいほど、ポンプの駆動力を大きくするように構成されている。
このように構成された本発明によれば、ラジアル荷重が大きいときに、軸受が回転軸に接触するリスクを効果的に回避することができる。
【0015】
本発明において、好ましくは、制御装置は、モータの軸受システムが搭載された車両の操舵角に基づき、ラジアル荷重を予測するように構成されている。
このように構成された本発明によれば、操舵角に基づき予測された将来のラジアル荷重を用いることで、ラジアル荷重が大きくなって軸受が回転軸に接触することを効果的に回避することができる。
【0016】
本発明において、好ましくは、制御装置は、モータの軸受システムが搭載された車両が走行する路面上の段差に基づき、ラジアル荷重を予測するように構成されている。
このように構成された本発明によれば、路面上の段差に基づき予測された将来のラジアル荷重を用いることで、ラジアル荷重が大きくなって軸受が回転軸に接触することを効果的に回避することができる。
【0017】
本発明において、好ましくは、制御装置は、モータの軸受システムが搭載された車両が走行する路面の状態に基づき、ラジアル荷重を予測するように構成されている。
このように構成された本発明によれば、路面の状態に基づき予測された将来のラジアル荷重を用いることで、ラジアル荷重が大きくなって軸受が回転軸に接触することを効果的に回避することができる。
【0018】
本発明において、好ましくは、制御装置は、回転速度が第1速度以上で且つ第2速度未満であるときには、回転速度が高くなるほど、ポンプの駆動力を小さくするように構成されている。
このように構成された本発明によれば、モータ回転速度が第1速度以上で且つ第2速度未満であるときにおいて、気体潤滑軸受を実現するためのポンプの消費電力を削減することができ、電費を改善することが可能となる。
【0019】
本発明において、好ましくは、制御装置は、更に、モータの軸受システムが搭載された車両の車速に基づき、ポンプの駆動力を制御するように構成されている。
ラジアル荷重が発生しているときにおいて、車速が高い場合には、車速が低い場合よりも、軸受と回転軸との間の気体層を確保しにくくなり、軸受が回転軸に接触する可能性が高くなる。そのため、上記の本発明では、車速に応じてポンプの駆動力を制御する。典型的には、車速が高くなるほど、ポンプの駆動力を増大させる。これにより、ラジアル荷重が大きいときの軸受による回転軸への接触リスクを効果的に回避することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、ポンプから供給される気体により気体潤滑軸受として動作可能に構成された軸受を有するモータの軸受システムにおいて、モータの回転軸に付与されるラジアル荷重に基づき、ポンプに対する制御を的確に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の第1実施形態によるモータの軸受システムの概略構成図である。
図2】本発明の第1実施形態によるモータの軸受システムの電気的構成を示すブロック図である。
図3】本発明の第1実施形態によるモータ軸受制御の基本概念についての説明図である。
図4】本発明の第1実施形態によるモータ軸受制御を示すタイムチャートである。
図5】本発明の第1実施形態によるポンプ駆動力の基本制御方法についての説明図である。
図6】本発明の第1実施形態によるポンプ駆動力の補正方法についての説明図である。
図7】本発明の第1実施形態において高回転領域でラジアル加速度が大きいときに適用するポンプ駆動力についての説明図である。
図8】本発明の第1実施形態によるモータ軸受制御を示すフローチャートである。
図9】本発明の第1実施形態によるラジアル加速度の予測方法の第1の例についての説明図である。
図10】本発明の第1実施形態によるラジアル加速度の予測方法の第2の例についての説明図である。
図11】本発明の第1実施形態によるラジアル加速度の予測方法の第3の例についての説明図である。
図12】本発明の第1実施形態の変形例によるモータの軸受システムの概略構成図である。
図13】本発明の第2実施形態によるモータ軸受制御についての説明図である。
図14】本発明の第3実施形態によるモータの軸受システムの概略構成図である。
図15】本発明の第3実施形態によるモータの軸受システムにおいてポンプが作動していないときの転がり軸受の状態を示す断面図である。
図16】本発明の第3実施形態によるモータの軸受システムにおいてポンプが作動しているときの転がり軸受の状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態によるモータの軸受システムを説明する。
【0023】
[第1実施形態]
ここでは、本発明の第1実施形態について説明する。まず、図1及び図2を参照して、第1実施形態によるモータの軸受システムの構成について説明する。図1は、第1実施形態によるモータの軸受システムの概略構成図である。図2は、第1実施形態によるモータの軸受システムの電気的構成を示すブロック図である。
【0024】
図1に示すように、モータの軸受システム100は、車両に搭載され、主に、車両を駆動するモータ1(図1ではその詳細の図示を省略)と、モータ1の回転軸2と、回転軸2を支持する一対の滑り軸受3と、回転軸2の軸線上において滑り軸受3と並列して配置され、回転軸2を支持する一対の転がり軸受4と、これらモータ1、回転軸2、滑り軸受3及び転がり軸受4を収容するハウジング12と、を有する。
【0025】
転がり軸受4は、例えばアンギュラ玉軸受であり、外輪5a、5bと、回転軸2に装着された内輪6と、これら外輪5a、5bと内輪6との間に介装された複数の転動体(玉やころ)7と、を有する。回転軸2の左端側にある転がり軸受4の外輪5bは、円筒状の外輪固定部材8の内周側に装着される一方、回転軸2の右端側にある転がり軸受4の外輪5aは、円筒状の外輪可動部材9の内周側に装着されている。後者の外輪可動部材9は、一端外周にネジ溝10を有し、他端外周に扇状歯車11を有している。
【0026】
外輪5aを装着した外輪可動部材9のネジ溝10は、ハウジング12の右端内周に形成されたネジ溝13と螺合する。外輪5bを装着した外輪固定部材8は、ハウジング12の左端に固定されている。また、このようなハウジング12の右端側外周には、図示しないモータ及び減速機を内蔵する切り替え駆動装置15が設けられている。この切り替え駆動装置15は、駆動軸16及びこの駆動軸16に固定された駆動歯車17を有し、この駆動歯車17は、外輪可動部材9の扇状歯車11と歯合している。
【0027】
また、モータの軸受システム100は、更に、回転軸2と滑り軸受3との間に気体層を形成して滑り軸受3に気体潤滑を行わせるべく、つまり滑り軸受3を回転軸2から浮遊させて気体潤滑軸受として動作させるべく、滑り軸受3に対して気体(典型的には空気であるが、オイルガスや冷媒でもよい)を供給するポンプ30を有する。具体的には、ポンプ30は、一対の滑り軸受3のそれぞれにおける回転軸2との間の隙間(回転軸2の径方向において規定されるラジアル隙間)に、気体を気体供給通路31から供給する。この気体供給通路31は、滑り軸受3に接続される下流側の部分31aが、ハウジング12及び滑り軸受3内に形成されている。これにより、例えば、滑り軸受3は、回転軸2の外周面と、回転軸2及び滑り軸受3を取り囲むハウジング12の内周面との間に浮遊可能に構成されている。
【0028】
なお、上記した、外輪可動部材9(ネジ溝10及び扇状歯車11を含む)、ハウジング12のネジ溝13、切り替え駆動装置15(駆動軸16及び駆動歯車17を含む)は、回転軸2を支持するように機能させる軸受を、転がり軸受4と滑り軸受3との間で切り替えるための切り替え機構20を構成する。
【0029】
ここで、切り替え機構20による軸受の切り替え動作について説明する。まず、転がり軸受4において転動体7が外輪5a、5b及び内輪6と接触している基本的な状態では、転がり軸受4が回転軸2を支持する軸受として機能する。この状態では、滑り軸受3と回転軸2との間にはラジアル隙間が生じており、滑り軸受3は回転軸2と接触しない。したがって、滑り軸受3は、回転軸2を支持する軸受として機能しない。まとめると、上述したような状態は、転がり軸受4が回転軸2を支持する軸受として機能し且つ滑り軸受3が回転軸2を支持する軸受として機能しない状態(第1状態)に相当する。
【0030】
続いて、切り替え機構20の切り替え駆動装置15が駆動軸16を介して駆動歯車17を回転させると、駆動歯車17と歯合している扇状歯車11が回転し、この扇状歯車11に連結されたネジ溝10も回転することで、当該ネジ溝10がハウジング12のネジ溝13に沿って軸方向で図1の右方向に移動する。これにより、ネジ溝10及び扇状歯車11を有する外輪可動部材9全体が右方向に移動する。その結果、外輪5aも右方向に移動することで、外輪5aが転動体7と離間する(つまり非接触となる)。また、こうして外輪5a(回転軸2の右端側にある転がり軸受4の外輪5aである)が移動すると、回転軸2も右方向に移動する。その結果、回転軸2の左端側にある転がり軸受4の内輪6が移動することで、当該転がり軸受4の外輪5bも転動体7と離間する(つまり非接触となる)。以上のように切り替え機構20が動作すると、つまり切り替え機構20の切り替え駆動装置15が駆動すると、転がり軸受4が回転軸2を支持する軸受として機能しなくなる。
【0031】
他方で、このように転がり軸受4において外輪5a、5bが転動体7と離間した状態では、転がり軸受4内にラジアル隙間が生じるが、このラジアル隙間は、上記した滑り軸受3と回転軸2との間のラジアル隙間よりも大きい。そのため、回転軸2等が、自重や外部負荷により下方に移動することで、回転軸2が滑り軸受3と接触可能な状態となる。これにより、滑り軸受3が回転軸2を支持する軸受として機能する状態となる。基本的には、本実施形態では、この状態において、上述したようにポンプ30から気体を供給して回転軸2と滑り軸受3との間に気体層を形成するので、滑り軸受3が回転軸2と接触することはない。まとめると、以上述べたような状態、つまり切り替え機構20の切り替え駆動装置15が駆動した状態では、滑り軸受3が回転軸2を支持する軸受として機能し且つ転がり軸受4が回転軸2を支持する軸受として機能しない状態(第2状態)となる。
【0032】
なお、上記した例では、歯車やネジ溝などを利用して、外輪5aを移動させていたが、他の例では、所定の押し出し機構を用いて外輪5aを移動させてもよい。この例では、バネで付勢した状態にある外輪5aに対して、このバネによる付勢力に打ち勝つように、押し出し機構による押し出し力を付与すればよい。また、上記した例では、外輪5a、5bを転動体7と離間させていたが、更に他の例では、外輪5a、5bの代わりに内輪6を転動体7と離間させるようにしてもよい。
【0033】
次に、図2に示すように、モータの軸受システム100は、符号61~74で示すような各種のセンサ類と、この各種のセンサ類から各種信号が入力される制御装置50と、この制御装置50から供給される制御信号により制御される、上述した切り替え駆動装置15及びポンプ30、及び、モータ1に接続されたインバータ22と、を有する。制御装置50は、1つ以上のプロセッサ50a(典型的にはCPU)と、当該プロセッサ50a上で解釈実行される各種のプログラム(OSなどの基本制御プログラムや、OS上で起動され特定機能を実現するアプリケーションプログラムを含む)や各種のデータを記憶するROMやRAMなどのメモリ50bと、を備えるコンピュータにより構成される。
【0034】
具体的には、モータの軸受システム100は、車両の速度(車速)を検出する車速センサ61と、車両の加速度を検出する加速度センサ62と、アクセルペダルの踏込み量に対応するアクセル開度を検出するアクセル開度センサ63と、ブレーキペダルの踏み込み量を検出するブレーキセンサ64と、ステアリングホイールの回転角度(操舵角)を検出する操舵角センサ65と、モータ1の回転速度(一義的に回転数)を検出するモータ回転速度センサ66と、モータ1のトルクを検出するモータトルクセンサ67と、ポンプ30の圧力を検出するポンプ圧力センサ68と、滑り軸受3及び転がり軸受4において径方向に付与される荷重(ラジアル荷重)を検出する軸受荷重センサ69と、を有する。なお、モータ回転速度センサ66は、本発明における「検出装置」に相当する。
【0035】
更に、モータの軸受システム100は、車両の周囲を撮影する車両カメラ70と、車両の周囲に存在する対象物(他車両や歩行者や障害物など)の位置及び速度を測定するレーダ71(例えばミリ波レーダ)と、車車間通信や路車間通信などを行う通信装置72と、GPSシステムやジャイロシステムなどを含み、車両の位置を検出する測位システム73と、地図データを格納しているナビシステム74と、を有する。なお、レーダ71の代わりに、レーザレーダや超音波センサなどを用いてもよい。
【0036】
次に、図3を参照して、第1実施形態によるモータ軸受制御の基本概念について説明する。ここでは、第1実施形態によるモータ軸受制御と、比較例によるモータ軸受制御とを対比説明する。図3は、横軸にモータ回転速度を示し、縦軸に軸摩擦トルクを示している。
【0037】
比較例によるモータ軸受制御では、モータの回転軸を支持するように機能させる軸受を、転がり軸受と、潤滑油による流体潤滑を用いる滑り軸受とで切り替えるようにする。具体的には、比較例では、モータ回転速度が領域R11(以下では適宜「低回転領域」と呼ぶ。)にあるときには、回転軸2を支持するように機能させる軸受として転がり軸受を適用する一方で、モータ回転速度が低回転領域R11よりも高い領域R12にあるときには、回転軸2を支持するように機能させる軸受として滑り軸受を適用する。この制御は、特許文献1に記載された技術に相当する。
【0038】
図3において、グラフG11は、転がり軸受で生じる軸摩擦トルク、つまり直接接触による境界潤滑摩擦を示し、グラフG12は、潤滑油による流体潤滑を用いる滑り軸受で生じる軸摩擦トルク、つまり潤滑油の流体潤滑摩擦を示している。したがって、上記した比較例によるモータ軸受制御において生じる軸摩擦トルクは、グラフG11に示す軸摩擦トルクとグラフG12に示す軸摩擦トルクとを加算したもの、つまりグラフG21に示すものとなる。この場合、領域R12においてモータ回転速度が高くなるほど軸摩擦トルクが大きく増加しているのは、グラフG13に示すような、転がり軸受内の転動体の変形による摩擦増加によるものである。
【0039】
これに対して、第1実施形態では、上述したように、モータ1の回転軸2を支持するように機能させる軸受を、転がり軸受4と、ポンプ30から供給される気体により気体潤滑軸受として動作可能な滑り軸受3とで切り替えるようにする。まず、低回転領域R11では、「発明が解決しようとする課題」のセクションで述べたように、くさび効果及び絞り効果がほとんど得られないので、気体潤滑軸受として動作させた滑り軸受3を適用することで得られる電費改善代が、この気体潤滑軸受を実現するためにポンプ30を作動させることによる電費低下代よりも低くなる(つまりポンプ30の消費電力が非常に大きくなる)。そのため、制御装置50は、低回転領域R11では、ポンプ30を停止した状態において、回転軸2を支持するように機能させる軸受として転がり軸受4を適用するように、切り替え機構20の切り替え駆動装置15を制御する。つまり、制御装置50は、滑り軸受3を機能させないようにし、転がり軸受4のみを機能させるように、切り替え駆動装置15を制御する。
【0040】
一方で、このようなモータ回転速度が低回転領域R11を超えると、つまり低回転領域R11よりも高い領域R12においては、くさび効果及び絞り効果をある程度得られるようになるので、気体潤滑軸受として動作させる滑り軸受3を適用することで得られる電費改善代が、この気体潤滑軸受を実現するためにポンプ30を作動させることによる電費低下代よりも高くなる。そのため、制御装置50は、領域R12では、回転軸2を支持するように機能させる軸受として滑り軸受3を適用するように、切り替え駆動装置15を制御する。また、摺動速度が極めて高くなる、領域R12内の高回転側の領域R14では、大きなくさび効果及び絞り効果が得られるため、ポンプ30により静圧を付与しなくても気体潤滑軸受を実現できる。したがって、第1実施形態では、制御装置50は、滑り軸受3を機能させる領域R12において、低回転側の領域R13(以下では適宜「中回転領域」と呼ぶ。)では、ポンプ30を作動させつつ、滑り軸受3のみを機能させるように切り替え駆動装置15を制御する一方で、高回転側の領域R14(以下では適宜「高回転領域」と呼ぶ。)では、ポンプ30を停止して、滑り軸受3のみを機能させるように切り替え駆動装置15を制御する。
【0041】
図3において、グラフG14は、気体潤滑軸受として動作させた滑り軸受3で生じる軸摩擦トルク、つまり気体潤滑摩擦を示している。したがって、上記した第1実施形態によるモータ軸受制御において生じる軸摩擦トルクは、グラフG11に示す軸摩擦トルクとグラフG14に示す軸摩擦トルクとを加算したもの、つまりグラフG22に示すものとなる。このようなグラフG22に示す第1実施形態による軸摩擦トルクを、グラフG21に示す比較例による軸摩擦トルクと比較すると、第1実施形態によれば、軸摩擦トルクを大幅に低減していることがわかる。したがって、第1実施形態によれば、比較例と比較して、電費を効果的に改善することができると言える。
【0042】
次に、図4を参照して、第1実施形態によるモータ軸受制御の基本的な流れについて説明する。図4は、第1実施形態によるモータ軸受制御を示すタイムチャートである。図4は、横軸に時間を示し、上から順に、モータ回転速度、切り替え機構20の切り替え駆動装置15に供給される信号(以下では「軸受切り替え信号」と呼ぶ。)、ポンプ30のオン/オフ信号を示している。
【0043】
図4に示すように、制御装置50は、時刻t0でモータ1を始動させると、ポンプ30をオフにした状態において、転がり軸受4のみを機能させるように切り替え機構20を設定する(この場合、切り替え駆動装置15に供給される軸受切り替え信号はオフである)。そして、モータ回転速度が、上記の中回転領域R13の下限値に対応する第1速度V1に達する時刻t1において、制御装置50は、切り替え駆動装置15に供給する軸受切り替え信号をオンにすることで、滑り軸受3のみを機能させるようにする、つまり、モータ1の回転軸2を支持するように機能させる軸受を、転がり軸受4から滑り軸受3に切り替えるようにする。これとほぼ同時に、制御装置50は、ポンプ30をオンにすることで、ポンプ30からの気体により回転軸2と滑り軸受3との間に気体層を形成して、滑り軸受3を気体潤滑軸受として動作させるようにする。なお、所望のポンプ圧力が発生するまでの時間を考慮して、軸受切り替え信号をオンにする前に、ポンプ30をオン(ポンプ信号をオン)にしてもよい。
【0044】
そして、モータ回転速度が、上記の高回転領域R14の下限値に対応する第2速度V2に達する時刻t2において、制御装置50は、切り替え駆動装置15に供給する軸受切り替え信号をオンにしつつ、ポンプ30をオフにする。こうするのは、高回転領域R14では、摺動速度が極めて高くなり、大きなくさび効果及び絞り効果が得られるため、ポンプ30を作動させなくても気体潤滑軸受を実現できるからである。
【0045】
次に、図5乃至図7を参照して、第1実施形態によるポンプ30の駆動力(ポンプ駆動力)の制御方法について説明する。まず、図5は、第1実施形態によるポンプ駆動力の基本制御方法についての説明図である。図5は、横軸にモータ回転速度を示し、縦軸にポンプ駆動力を示している。上述したように、制御装置50は、モータ回転速度が第1速度V1以上で第2速度V2未満であるときのみ(つまり中回転領域R13)、ポンプ30を作動して、ポンプ駆動力を発生させるようにする。このときに、制御装置50は、モータ回転速度が高くなるほど、ポンプ駆動力を小さくする(図5の実線参照)。こうするのは、モータ回転速度が高くなるほど、くさび効果及び絞り効果が大きくなるため、滑り軸受3を気体潤滑軸受として動作させるためにポンプ30から付与すべき静圧が小さくて済むからである。こうしてモータ回転速度が高くなるほどポンプ駆動力を小さくすることで、中回転領域R13でのポンプ30の消費電力を削減することができ、電費を改善することが可能となる。
【0046】
なお、モータ回転速度が第1速度V1以上で第2速度V2未満であるときに、モータ回転速度が高くなるほどポンプ駆動力を小さくすることに限定はされず(図5の実線)、他の例では、モータ回転速度によらずにポンプ駆動力を一定にしても構わない(図5の破線)。
【0047】
次に、図6を参照して、図5で示したようにモータ回転速度に応じて設定されたポンプ駆動力を補正する方法について説明する。図6は、横軸に、モータ1の回転軸2に付与されるラジアル加速度を示し、縦軸に、モータ回転速度に応じて設定されたポンプ駆動力を補正するための補正係数を示している。このラジアル加速度は、滑り軸受3及び転がり軸受4にも同様に付与されるものである。また、ラジアル加速度は、ラジアル荷重に一義的に対応するものである。よって、ラジアル加速度の代わりにラジアル荷重を直接用いてもよいが、その場合、車両の重量などからラジアル加速度をラジアル荷重に変換すればよい(以下同様とする)。
【0048】
ラジアル加速度は、例えば、悪路の走行時や、段差の走行時や、操舵角が大きい時や、パワーホップ発生時などにおいて、大きくなる。このようにラジアル加速度が大きい状態では、滑り軸受3と回転軸2との間の気体層を確保しにくくなるため、気体潤滑軸受として動作している滑り軸受3が回転軸2に接触する可能性がある。したがって、第1実施形態では、ラジアル加速度が大きいほど、ポンプ駆動力を大きくするようにする。これを実現すべく、制御装置50は、図6に示すように、ラジアル加速度が大きいほど、値が大きくなるように設定された補正係数を用いて、図5で示したようにモータ回転速度に応じて設定されたポンプ駆動力を大きくする補正を行う。これにより、ラジアル加速度が大きいときに、滑り軸受3が回転軸2に接触するリスクを回避することができ、安全性及び信頼性を確保することが可能となる。
【0049】
次に、図7を参照して、高回転領域R14においてラジアル加速度が大きいときに適用するポンプ駆動力について説明する。図7は、横軸に、モータ1の回転軸2に付与されるラジアル加速度を示し、縦軸に、高回転領域R14においてラジアル加速度に応じて適用されるポンプ駆動力を示している。上述したように、制御装置50は、基本的には、高回転領域R14では(つまりモータ回転速度が第2速度V2以上であるとき)、ポンプ30を停止する、つまりポンプ駆動力を発生させない。しかしながら、高回転領域R14であっても、ラジアル加速度が大きいときには、滑り軸受3と回転軸2との間の気体層を確保しにくくなるため、ポンプ30を停止すると滑り軸受3が回転軸2に接触する可能性がある。したがって、第1実施形態では、制御装置50は、高回転領域R14であっても、ラジアル加速度が大きいとき、具体的にはラジアル加速度が所定値以上であるときには、図7に示すように、ポンプ30の作動を継続すると共に、ラジアル加速度が大きいほど、ポンプ駆動力を大きくする。これによっても、ラジアル加速度が大きいときに、滑り軸受3が回転軸2に接触するリスクを回避することができ、安全性及び信頼性を確保することが可能となる。
【0050】
また、第1実施形態では、制御装置50は、上記したようにポンプ駆動力を制御するために用いるラジアル加速度を予測する。これは、現在発生しているラジアル加速度(例えば軸受荷重センサ69により検出されたラジアル荷重から求めることができる)に基づきポンプ駆動力の制御を行っても、安全性及び信頼性を十分に確保することができないからである。すなわち、現在発生しているラジアル加速度を用いたのでは、的確なポンプ駆動力の制御が間に合わないからである。特に、ラジアル加速度は、徐々に大きくなるというよりも、急に大きくなる傾向にあるからである。したがって、第1実施形態では、制御装置50は、将来発生するラジアル加速度を予測し、このラジアル加速度に基づきポンプ駆動力の制御を行う。
【0051】
次に、図8を参照して、第1実施形態によるモータ軸受制御の具体的な流れについて説明する。図8は、第1実施形態によるモータ軸受制御を示すフローチャートである。このフローは、制御装置50によって所定の周期で繰り返し実行される。より詳しくは、制御装置50内のプロセッサ50aが、メモリ50bに記憶されたプログラムを読み出して、当該プログラムを実行することで、このフローに係るモータ軸受制御が実現される。
【0052】
まず、ステップS101において、制御装置50は、図2に示した各種のセンサ類61~74から各種信号を取得する。そして、ステップS102において、制御装置50は、モータ1が停止中であるか否かを判定する。例えば、制御装置50は、モータ回転速度センサ66から供給された信号に対応するモータ回転速度に基づき、モータ1が停止中であるか否かを判定する。その結果、制御装置50は、モータ1が停止中であると判定した場合には(ステップS102:Yes)、ステップS103に進み、モータ1が停止中であると判定しなかった場合には(ステップS102:No)、モータ軸受制御を終了する。
【0053】
次いで、ステップS103において、制御装置50は、モータ1の回転軸2を支持するように機能させる軸受として転がり軸受4を適用するように、切り替え機構20の切り替え駆動装置15を設定する。例えば、制御装置50は、滑り軸受3が回転軸2を支持するように機能している状態にある場合には、回転軸2を支持するように機能させる軸受を、滑り軸受3から転がり軸受4に切り替えるように、切り替え駆動装置15を制御する。
【0054】
次いで、ステップS104において、制御装置50は、車両の始動要求があるか否かを判定する。例えば、制御装置50は、アクセル開度センサ63から供給された信号に対応するアクセル開度に基づき、始動要求があるか否かを判定する。その結果、制御装置50は、始動要求があると判定した場合には(ステップS104:Yes)、ステップS105に進み、モータ1を始動させる一方、始動要求があると判定しなかった場合には(ステップS104:No)、モータ軸受制御を終了する。
【0055】
次いで、ステップS106において、制御装置50は、モータ回転速度センサ66により検出されたモータ回転速度が第1速度V1以上であるか否か、つまりモータ回転速度が中回転領域R13にあるか否かを判定する。その結果、制御装置50は、モータ回転速度が第1速度V1以上であると判定した場合には(ステップS106:Yes)、ステップS107に進み、モータ回転速度が第1速度V1以上であると判定しなかった場合には(ステップS107:No)、ステップS106に戻る。
【0056】
次いで、ステップS107において、制御装置50は、モータ1の回転軸2に付与されるラジアル加速度を予測する。ここで、図9乃至図11を参照して、ステップS107で行われるラジアル加速度の予測方法の具体例について説明する。
【0057】
図9は、ラジアル加速度の予測方法の第1の例についての説明図である。第1の例は、操舵角に基づきラジアル加速度を予測する例である。図9に示すように、第1の例では、制御装置50は、まず、操舵角センサ65により検出された操舵角と、車速センサ61により検出された車速に基づき、車両の回転半径(旋回半径)を求める。そして、制御装置50は、この回転半径と車速に基づき、車両に発生するロール加速度を求める。そして、制御装置50は、このロール加速度と、車両内の回転軸2の位置(固定位置であり、メモリ50bなどに記憶されている。滑り軸受3及び転がり軸受4の位置を用いてもよい。)に基づき、回転軸2にこれから付与されるラジアル加速度を予測する。基本的には、制御装置50は、ロール加速度が大きいほど、大きな値を有するラジアル加速度を予測する。
【0058】
続いて、図10は、ラジアル加速度の予測方法の第2の例についての説明図である。第2の例は、車両が走行する路面上の段差(詳しくは段差による車両のパワーホップ)に基づきラジアル加速度を予測する例である。図10に示すように、第2の例では、制御装置50は、まず、車両カメラ70により撮影された車両の周囲の画像や、レーダ71により測定された車両の周囲に存在する対象物の位置及び速度や、ナビシステム74に格納された地図データや、通信装置72による車車間通信や路車間通信にて得られた信号などに基づき、進路上の段差高(特に下り降りる段差の高さ)を予測する。そして、制御装置50は、この段差高と、アクセル開度センサ63により検出されたアクセル開度と、車速センサ61により検出された車速とに基づき、段差によるタイヤの空転時間を求め、この空転時間に基づきタイヤの回転周速を求める。そして、制御装置50は、このタイヤの回転周速と車速に基づき、段差による車両のパワーホップ荷重を求め、このパワーホップ荷重に基づき、回転軸2にこれから付与されるラジアル加速度を予測する。基本的には、制御装置50は、段差高が大きいほど、長い空転時間、大きな回転周速、及び大きなパワーホップ荷重を求めて、その結果、大きな値を有するラジアル加速度を予測する。
【0059】
続いて、図11は、ラジアル加速度の予測方法の第3の例についての説明図である。第3の例は、車両が走行する路面の状態に基づきラジアル加速度を予測する例である。図11に示すように、第3の例では、制御装置50は、まず、車両カメラ70により撮影された車両の周囲の画像や、レーダ71により測定された車両の周囲に存在する対象物の位置及び速度や、ナビシステム74に格納された地図データや、通信装置72による車車間通信や路車間通信にて得られた信号などに基づき、車両が走行する路面の状態を示す路面情報を取得する。例えば、制御装置50は、路面情報として、進路に存在するカーブや悪路や段差などの情報を取得する。この場合、制御装置50は、通信装置72による車車間通信により、悪路による自車両の振動を把握可能である。そして、制御装置50は、このような路面情報と車速から、回転軸2にこれから付与されるラジアル加速度を予測する。例えば、制御装置50は、路面の状態が悪路である場合には、その悪路の程度に応じた大きな値を有するラジアル加速度を予測する。
【0060】
なお、上記した第1乃至第3の例によるラジアル加速度の予測方法を組み合わせて実施してもよい。
【0061】
図8に戻ると、制御装置50は、ステップS107においてラジアル加速度を予測した後、ステップS108に進み、このラジアル加速度が所定値未満であるか否かを判定する。その結果、制御装置50は、ラジアル加速度が所定値未満であると判定した場合には(ステップS108:Yes)、ステップS109に進み、ラジアル加速度が所定値未満であると判定しなかった場合には(ステップS108:No)、ステップS106に戻る。後者の場合、制御装置50は、モータ回転速度が第1速度V1以上で且つラジアル加速度が所定値未満となるまで、ステップS106~S108を繰り返す。
【0062】
次いで、ステップS109において、制御装置50は、ポンプ30から気体を供給して滑り軸受3を気体潤滑軸受として動作させるために適用すべきポンプ駆動力を求める。具体的には、制御装置50は、現在のモータ回転速度に応じたポンプ駆動力を求めて(図5)、このポンプ駆動力を、ステップS106で予測されたラジアル加速度に応じた補正係数で補正することで(図6)、適用すべきポンプ駆動力を求める。そして、ステップS110において、制御装置50は、ステップS109で求められたポンプ駆動力によりポンプ30を制御する。そして、ステップS111において、制御装置50は、回転軸2を支持するように機能させる軸受を、転がり軸受4から滑り軸受3に切り替えるように、切り替え機構20の切り替え駆動装置15を制御する。
【0063】
次いで、制御装置50は、ステップS112において、モータ回転速度センサ66により検出されたモータ回転速度が第2速度V2以上であるか否か、つまりモータ回転速度が高回転領域R14にあるか否かを判定する。その結果、制御装置50は、モータ回転速度が第2速度V2以上であると判定した場合には(ステップS112:Yes)、ステップS113に進み、モータ回転速度が第2速度V2以上であると判定しなかった場合には(ステップS112:No)、ステップS112に戻る。
【0064】
次いで、ステップS113において、制御装置50は、モータ1の回転軸2に付与されるラジアル加速度を再度予測する。制御装置50は、上記のステップS107と同様に、ラジアル加速度を予測する(図9乃至図11参照)。そして、ステップS114において、制御装置50は、ステップS113で予測されたラジアル加速度が所定値未満であるか否かを判定する。このステップS114の判定で用いられる所定値は、ステップS108の判定で用いられる所定値と同じであってもよいし、異なっていてもよい。ステップS114の結果、制御装置50は、ラジアル加速度が所定値未満であると判定した場合には(ステップS114:Yes)、ステップS115に進む。この場合、モータ回転速度が第2速度V2以上であるため(高回転領域R14)、ポンプ30を作動させなくても気体潤滑軸受を実現でき、また、ラジアル加速度が小さいため、ポンプ30を停止しても滑り軸受3が回転軸2に接触する可能性はないので、制御装置50は、ポンプ30を停止する(ステップS115)。そして、制御装置50は、モータ軸受制御を終了する。
【0065】
他方で、ラジアル加速度が所定値未満であると判定しなかった場合には(ステップS114:No)、ステップS116に進む。ステップS116において、制御装置50は、高回転領域R14においてラジアル加速度が大きいときに適用するポンプ駆動力を求める。この場合、制御装置50は、ステップS113で予測されたラジアル加速度に応じたポンプ駆動力を求める(図7)。そして、ステップS117において、制御装置50は、ステップS116で求められたポンプ駆動力を用いて、ポンプ30の駆動を継続する。この後、制御装置50は、ステップS112に戻る。
【0066】
なお、上述したようにステップS115でポンプ30を停止させているが、このポンプ30を停止させる条件として、更に、車両の走行路において直線が続くという条件(例えば高速道路走行時に当該条件が成立する)、及び/又は、車両の走行路において平坦な路面が続くという条件を用いてもよい。制御装置50は、このような条件を、例えば車両カメラ70により撮影された車両の周囲の画像やナビシステム74に格納された地図データなどから、判定することができる。
【0067】
以上述べた第1実施形態では、制御装置50は、(1)モータ回転速度が第1速度V1以上で且つ第2速度V2未満であるときには、転がり軸受4が回転軸2を支持する軸受として機能せず、滑り軸受3が回転軸2を支持する軸受として機能するように切り替え機構20を設定し、且つ、滑り軸受3が気体潤滑軸受として動作するようにポンプ30を制御し、(2)モータ回転速度が第2速度V2以上であるときには、ポンプ30を停止させ、(3)更に、モータ回転速度が第2速度V2以上であっても、回転軸2に付与されるラジアル加速度が所定値以上であるときには、ポンプ30を停止させない。
【0068】
このような第1実施形態では、モータ回転速度が第1速度V1以上で第2速度V2未満であるときには、つまりくさび効果及び絞り効果がある程度得られる中回転領域R13では、滑り軸受3を気体潤滑軸受として動作させるために必要なポンプ30の消費電力が比較的小さくなるので、制御装置50は、回転軸2を支持するように機能させる軸受として滑り軸受3を適用する。この場合、気体潤滑軸受としての滑り軸受3を適用することによる電費改善代が、気体潤滑軸受を実現するためのポンプ作動による電費低下代よりも高くなるので、気体潤滑軸受の適用による電費改善効果を確保することができる。
【0069】
また、第1実施形態では、モータ回転速度が第2速度V2以上であるときには、つまり摺動速度が極めて大きくなる高回転領域R14では、ポンプ30により静圧を付与しなくても気体潤滑軸受を実現できるので、制御装置50は、ポンプ30を停止しつつ、回転軸2を支持するように機能させる軸受として滑り軸受3を適用する。これにより、気体潤滑軸受の適用による電費改善効果を最大限得ることができる。
【0070】
また、第1実施形態では、モータ回転速度が第2速度V2以上であってもラジアル加速度が所定値以上であるときには、ポンプ30を停止させないので、つまりポンプ30の作動を継続するので、ラジアル加速度が大きいときに、滑り軸受3が回転軸2に接触するリスクを回避でき、安全性及び信頼性を確保することが可能となる。また、こうしてポンプ30の作動を継続した場合の電費低下代のほうが、ポンプ30を停止した場合に発生し得る滑り軸受3と回転軸2との接触に起因する摩擦増加による電費低下代よりも小さいので、電費低下をできるだけ抑制することが可能となる。
【0071】
また、第1実施形態では、制御装置50は、ラジアル加速度が大きいほど、ポンプ駆動力を大きくするので、ラジアル加速度が大きいときに、滑り軸受3が回転軸2に接触するリスクを効果的に回避することができる。
【0072】
また、第1実施形態では、制御装置50は、操舵角や、路面上の段差や、路面の状態に基づき、ラジアル加速度を予測する。このように予測された将来のラジアル加速度を用いることで、ラジアル加速度が大きくなって滑り軸受3が回転軸2に接触することを効果的に回避することができる。
【0073】
また、第1実施形態では、制御装置50は、モータ回転速度が第1速度V1以上で且つ第2速度V2未満であるときには(中回転領域R13)、モータ回転速度が高くなるほど、ポンプ駆動力を小さくする。これにより、中回転領域R13でのポンプ30の消費電力を削減することができ、電費を改善することが可能となる。
【0074】
ここで、上記した実施形態の変形例について説明する。なお、変形例は、後述する実施形態にも適用されるものとする。
【0075】
上記した実施形態では、モータ回転速度が第1速度V1未満であるときに、ポンプ30を停止させていたが、変形例では、ポンプ30をある程度作動させてもよい。但し、制御装置50は、モータ回転速度が第1速度V1未満であるときには、モータ回転速度が第1速度V1以上で且つ第2速度V2未満であるときよりも、ポンプ30の駆動力を小さくする。同様に、上記した実施形態では、モータ回転速度が第2速度V2以上で且つラジアル加速度が所定値未満であるときに、ポンプ30を停止させていたが(図4図8参照)、変形例では、ポンプ30をある程度作動させてもよい。但し、このときには、制御装置50は、モータ回転速度が第1速度V1以上で且つ第2速度V2未満であるときや、モータ回転速度が第2速度V2以上で且つラジアル加速度が所定値以上であるときよりも、ポンプ30の駆動力を小さくする。
【0076】
また、上記した実施形態では、モータ回転速度に基づきモータ軸受制御を行っていたが、変形例では、モータ回転数に基づきモータ軸受制御を行ってもよい。モータ回転数は、モータ回転速度に一義的に対応するものだからである。
【0077】
また、上記した実施形態では、制御装置50が切り替え駆動装置15を制御することで切り替え機構20を駆動させていたが、換言すると制御装置50が切り替え機構20を直接的に制御していたが(図1図2)、このような実施形態に限定はされない。図12は、第1実施形態の変形例によるモータの軸受システムの概略構成図である。この変形例によるモータの軸受システム100aでは、切り替え機構20aは、上記した実施形態のように切り替え駆動装置15により駆動されるものではなく、ポンプ30により駆動されるように構成されている。具体的には、切り替え機構20aにおいては、外輪可動部材9の扇状歯車11に歯合する駆動歯車17の駆動軸16が、上記した実施形態のように切り替え駆動装置15により駆動されずに、ポンプ30により駆動されるようになっている。より詳しくは、切り替え機構20aの駆動軸16とポンプ30の回転軸32とが、ベルトやチェーンやギヤなどの所定の伝達部材18を介して接続されており、それにより、ポンプ30の回転軸32の回転が切り替え機構20aの駆動軸16に伝達されるようになっている。したがって、ポンプ30が作動すると、切り替え機構20aが駆動されることとなる。このような変形例では、制御装置50は、切り替え機構20aを直接的に制御するのではなく、ポンプ30を介して切り替え機構20aを間接的に制御する。
【0078】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態について説明する。第2実施形態は、車速に基づきポンプ駆動力に対する制御を行う点で、第1実施形態と異なる。具体的には、第2実施形態では、制御装置50は、滑り軸受3を気体潤滑軸受として動作させるためにポンプ30を作動させているときにおいて、回転軸2に付与されるラジアル加速度が所定値以上であるときには、ラジアル加速度が所定値未満であるときよりもポンプ駆動力を大きくし、また、このような所定値を車速に応じて変化させる。
【0079】
ここで、図13を参照して、第2実施形態によるモータ軸受制御を具体的に説明する。図13は、第2実施形態によるモータ軸受制御についての説明図である。具体的には、図13(a)は、低車速時のモータ軸受制御の説明図を示し、図13(b)は、高車速時のモータ軸受制御の説明図を示している。また、図13(a)、(b)は、縦軸に時間を示し、横軸に回転軸2に付与されるラジアル加速度を示している。
【0080】
第2実施形態では、制御装置50は、上述したように、ラジアル加速度が所定値以上であるときに、ラジアル加速度が所定値未満であるときよりもポンプ駆動力を大きくし、また、この所定値を車速に応じて変化させる。具体的には、図13(a)、(b)に示すように、制御装置50は、高車速時に用いる所定値A12を、低車速時に用いる所定値A11よりも小さくする。すなわち、制御装置50は、ラジアル加速度に応じてポンプ駆動力を増大するために用いる所定値を、車速が高くなるほど、小さくする。これにより、高車速時のほうが、低車速時よりも、ポンプ駆動力を増大する制御が行われるラジアル加速度の領域が広くなる(領域R22>領域R21)。こうするのは、同じラジアル加速度であっても、高車速時のほうが、低車速時よりも、滑り軸受3と回転軸2との間の気体層を確保しにくくなり、滑り軸受3が回転軸2に接触する可能性が高くなるからである。
【0081】
このような第2実施形態によれば、ラジアル加速度に応じてポンプ駆動力を増大するために用いる所定値を、車速に応じて変化させるので、ラジアル加速度が大きいときの滑り軸受3による回転軸2への接触リスクを効果的に回避することができる。
【0082】
[第3実施形態]
次に、本発明の第3実施形態について説明する。第1実施形態では、モータ1の回転軸2を支持するように機能させる軸受を、転がり軸受4と、ポンプ30から供給される気体により気体潤滑軸受として動作可能な滑り軸受3とで切り替えていた。これに対して、第3実施形態では、転がり軸受4及び滑り軸受3の2つを用いる代わりに、1つの転がり軸受のみを用いて、この転がり軸受にポンプ30から気体を供給することで、気体潤滑を行う気体潤滑軸受として当該転がり軸受を動作させるようにする点で、第1実施形態と異なる。よって、第3実施形態では、第1実施形態で示したような切り替え機構20、20aを有しない。
【0083】
ここでは、第1及び第2実施形態と同様の構成、制御については説明を省略し、第1及び第2実施形態と異なる構成、制御のみを説明する。特に、第3実施形態は、モータの軸受システムの構成のみが第1及び第2実施形態と異なり、モータ軸受制御は第1及び第2実施形態と同様である。
【0084】
図14は、第3実施形態によるモータの軸受システムの概略構成図である。図14に示すように、第3実施形態によるモータの軸受システム101は、ロータ1a及びステータ1bを含むモータ1と、モータ1の回転軸2と、回転軸2を支持する一対の転がり軸受24と、これらモータ1、回転軸2、及び転がり軸受24を収容するハウジング12と、を有する。転がり軸受24は、ハウジング12に固定された外輪25と、モータの回転軸2に装着された内輪26と、これら外輪25と内輪26との間に介装された複数の転動体(玉やころ)27と、複数の転動体27を保持する保持部28と、を有する。転がり軸受24の外輪25の外側には、転がり軸受24において径方向に付与される荷重(ラジアル荷重)を検出する軸受荷重センサ69が設けられている。
【0085】
また、モータの軸受システム101は、更に、回転軸2と転がり軸受24との間に気体層を形成して転がり軸受24に気体潤滑を行わせるべく、つまり転がり軸受24を気体潤滑軸受として動作させるべく、転がり軸受24に対して気体(典型的には空気であるが、オイルガスや冷媒でもよい)を供給するポンプ30を有する。具体的には、ポンプ30は、一対の転がり軸受24のそれぞれにおける内輪26と転動体27を保持する保持部28との間(回転軸2の径方向において規定されるラジアル隙間)に、気体を気体供給通路31から供給する。この気体供給通路31は、その下流側の部分31aが、ハウジング12及び転がり軸受24の外輪25並びに保持部28内に形成されている。
【0086】
図15は、モータの軸受システム101においてポンプ30が作動していないときの転がり軸受24の状態を示している。図15において、左側には、回転軸2及び転がり軸受24の横断面を示し、右側には、この横断面に直交する、回転軸2及び転がり軸受24の縦断面を示している。図15に示すように、ポンプ30が作動していないときには、転がり軸受24は、転動体27が外輪25及び内輪26と接触しており、正に転がり軸受として機能する。
【0087】
図16は、モータの軸受システム101においてポンプ30が作動しているときの転がり軸受24の状態を示している。図16において、左側には、回転軸2及び転がり軸受24の横断面を示し、右側には、この横断面に直交する、回転軸2及び転がり軸受24の縦断面を示している。ポンプ30が作動しているときには、転がり軸受24では、ポンプ30から供給される気体により、内輪26と転動体27を保持する保持部28との隙間SPに気体層が形成され、保持部28及び転動体27が内輪26に対して浮遊している。このときには、保持部28は、図示しない係止部材(ツメなど)により外輪25に固定され、回転しないようになっている。このような状態では、保持部28に保持されている転動体27が内輪26と接触しないため、転がり軸受24は、転がり軸受として機能しなくなる。その代わりに、転がり軸受24は、ポンプ30から供給される気体により気体潤滑を行う気体潤滑軸受として機能する。なお、第1実施形態で述べたように、摺動速度が極めて大きくなる高回転領域R14では、ポンプ30により静圧を付与しなくても、このような気体潤滑軸受が実現される(よって、ポンプ30が停止される)。
【0088】
以上述べた第3実施形態によれば、1つの転がり軸受24が、転がり軸受及び気体潤滑軸受として選択的に動作するように構成されているので、第1及び第2実施形態と同様のモータ軸受制御を簡易な構成にて実現することができる。
【符号の説明】
【0089】
1 モータ
2 回転軸
3 滑り軸受
4 転がり軸受
5a、5b 外輪
6 内輪
7 転動体
12 ハウジング
15 切り替え駆動装置
20 切り替え機構
24 転がり軸受
25 外輪
26 内輪
27 転動体
28 保持部
30 ポンプ
31 気体供給通路
50 制御装置
66 モータ回転速度センサ
100、100a、101 モータの軸受システム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16