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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024135669
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】モータの軸受システム
(51)【国際特許分類】
   F16C 32/06 20060101AFI20240927BHJP
   G01M 99/00 20110101ALI20240927BHJP
【FI】
F16C32/06 C
G01M99/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023046469
(22)【出願日】2023-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100059959
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 稔
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162824
【弁理士】
【氏名又は名称】石崎 亮
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 るな
(72)【発明者】
【氏名】宮内 勇馬
【テーマコード(参考)】
2G024
3J102
【Fターム(参考)】
2G024AD03
2G024AD22
2G024BA27
2G024CA09
2G024CA16
2G024DA09
2G024FA02
3J102AA02
3J102AA07
3J102AA09
3J102BA03
3J102BA17
3J102CA11
3J102CA35
3J102EA02
3J102EA08
3J102EA30
3J102EB03
3J102EB16
3J102GA13
(57)【要約】
【課題】ポンプにより気体潤滑軸受として動作可能な軸受を有するモータの軸受システムにおいて、ポンプ異常時に対処するように軸受に関する制御を的確に行う。
【解決手段】モータの軸受システム100は、ポンプ30により気体潤滑軸受として動作可能な滑り軸受3と、転がり軸受4と、滑り軸受と転がり軸受とを切り替える切り替え機構20と、制御装置50とを有する。制御装置は、モータ回転速度が第1速度未満であるときは、転がり軸受が機能するよう切り替え機構を設定し、ポンプが正常でモータ回転速度が第1速度以上であるときは、滑り軸受が機能するよう切り替え機構を設定し、且つ滑り軸受を気体潤滑軸受として動作させるようポンプを制御し、ポンプの異常時にはモータ回転速度が第1速度以上であっても、転がり軸受が機能するよう切り替え機構を設定し、且つモータ回転速度を所定速度未満に制限する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータの軸受システムであって、
モータの回転軸を支持する転がり軸受と、
前記回転軸の軸線上において前記転がり軸受と並列して配置され、前記回転軸を支持する滑り軸受であって、当該滑り軸受に供給される気体により気体潤滑を行う気体潤滑軸受として動作可能に構成された、前記滑り軸受と、
前記滑り軸受に前記気体を供給するポンプと、
前記転がり軸受が前記回転軸を支持する軸受として機能する第1状態と、前記滑り軸受が前記回転軸を支持する軸受として機能する第2状態と、のいずれか一方に設定可能に構成された切り替え機構と、
前記モータの回転速度を検出する検出装置と、
前記検出装置により検出された前記回転速度に基づき前記ポンプ及び前記切り替え機構を制御すると共に、前記ポンプが正常であるか又は異常であるかを判定するように構成された制御装置と、
を有し、
前記制御装置は、
前記回転速度が閾値未満であるときには、前記切り替え機構を前記第1状態に設定し、
前記ポンプが正常であると判定したときにおいて、前記回転速度が前記閾値以上であるときには、前記切り替え機構を前記第2状態に設定すると共に、前記滑り軸受を前記気体潤滑軸受として動作させるように前記ポンプを制御し、
前記ポンプが異常であると判定したときには、前記回転速度が前記閾値以上であっても、前記切り替え機構を前記第1状態に設定すると共に、前記モータの回転速度を所定速度未満に制限するように前記モータを制御する、
ように構成されている、ことを特徴とするモータの軸受システム。
【請求項2】
モータの軸受システムであって、
複数の転動体を備え、モータの回転軸を支持する軸受であって、転がり軸受として動作するか、又は、当該軸受に供給される気体により気体潤滑を行う気体潤滑軸受として動作するように構成された、前記軸受と、
前記軸受に前記気体を供給するポンプと、
前記モータの回転速度を検出する検出装置と、
前記検出装置により検出された前記回転速度に基づき前記ポンプを制御すると共に、前記ポンプが正常であるか又は異常であるかを判定するように構成された制御装置と、
を有し、
前記制御装置は、
前記回転速度が閾値未満であるときには、前記軸受を前記転がり軸受として動作させるように、前記ポンプを停止させるか、又は、前記回転速度が前記閾値以上であるときよりも前記ポンプの駆動力を小さくし、
前記ポンプが正常であると判定したときにおいて、前記回転速度が前記閾値以上であるときには、前記軸受を前記気体潤滑軸受として動作させるように前記ポンプを制御し、
前記ポンプが異常であると判定したときには、前記回転速度が前記閾値以上であっても、前記軸受を前記転がり軸として動作させると共に、前記モータの回転速度を所定速度未満に制限するように前記モータを制御する、
ように構成されている、ことを特徴とするモータの軸受システム。
【請求項3】
前記転がり軸は、外輪、内輪及びこれらの間に設けられた転動体を有し、
前記切り替え機構は、前記第1状態と前記第2状態とを切り替えるべく、前記転がり軸受において前記外輪及び前記内輪と前記転動体とを接触させる状態と、前記外輪又は前記内輪と前記転動体とを非接触にする状態と、を切り替えるように、前記転がり軸受の一部分を移動可能に構成されている、請求項1に記載のモータの軸受システム。
【請求項4】
前記制御装置は、前記滑り軸受を前記気体潤滑軸受として動作させるために必要な前記ポンプの圧力が得られる前記モータの回転速度に基づき、前記閾値を設定するように構成されている、請求項1に記載のモータの軸受システム。
【請求項5】
前記制御装置は、設定された前記閾値が所定速度以上である場合には、前記回転速度が前記閾値以上であっても、前記切り替え機構を前記第1状態に設定するように構成されている、請求項4に記載のモータの軸受システム。
【請求項6】
前記制御装置は、前記軸受を前記気体潤滑軸受として動作させるために必要な前記ポンプの圧力が得られる前記モータの回転速度に基づき、前記閾値を設定するように構成されている、請求項2に記載のモータの軸受システム。
【請求項7】
前記制御装置は、設定された前記閾値が所定速度以上である場合には、前記回転速度が前記閾値以上であっても、前記軸受を前記転がり軸として動作させるように構成されている、請求項6に記載のモータの軸受システム。
【請求項8】
前記制御装置は、前記回転軸に付与されるラジアル荷重に基づき、前記閾値を設定するように構成されている、請求項1乃至7のいずれか一項に記載のモータの軸受システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータの軸受システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば車両の動力源(エンジンやモータ)の回転軸などを支持する軸受として、転がり軸受や滑り軸受が用いられている。転がり軸受は、低回転領域においてフリクションが小さい一方、滑り軸受は、低回転領域においてフリクションが大きい。他方で、転がり軸受は、転がり疲労により寿命が有限であるが、滑り軸受は、潤滑が適切な条件下では寿命が永久的である。
【0003】
ここで、転がり軸受及び滑り軸受の両方を有するようにシステムを構成して、上記のような各軸受の特性に応じて、適用する軸受を切り替える技術が提案されている。例えば、特許文献1には、エンジンのクランクシャフトやカムシャフトを支持する軸受として転がり軸受及び滑り軸受を用いるシステムに関して、回転数が低い始動時には転がり軸受のみを機能させ、この始動後には滑り軸受のみを機能させることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-19728号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、エンジンにおいては、高回転領域において、滑り軸受を適用するのが効果的である。この滑り軸受には、一般的に、潤滑油による流体潤滑が用いられている。ところで、エンジンよりも高回転で動作するモータでは、このような滑り軸受をモータの高回転領域において適用すると、潤滑油の流体摩擦や抵抗が大きくなり、モータの電費が低下するという問題がある。
【0006】
このような問題を解決するために、本件発明者は、潤滑油よりも粘度が小さい気体での潤滑(気体潤滑)を用いる気体潤滑軸受(例えば空気軸受)を、滑り軸受に適用することを考えた。この気体潤滑軸受を実現するためには、軸受と回転軸との接触防止のために、これらの間に気体層を確実に形成する必要がある。この気体層の形成には、所謂くさび効果及び絞り効果を利用するのが良いと考えられる。しかしながら、くさび効果及び絞り効果は基本的には高回転領域でしか得られないので、これら効果を利用しようとするする方法では、低回転領域において軸受と回転軸とが接触してしまう可能性がある。
【0007】
そこで、本件発明者は、低回転領域において気体潤滑軸受のための気体層を確実に形成するために、ポンプにより静圧を軸受に付与することを考えた。しかしながら、ポンプの消費電力は電費低下に繋がるため、ポンプの作動を最小限に抑えることが望ましい。ここで、気体層の形成は、ポンプにより付与される静圧に対して、上述したくさび効果及び絞り効果による圧力を合算したものに因る。これら効果は、気体の粘度や摺動速度や圧力から決まる。また、これら効果の発生度合いは、モータ回転速度(一義的に回転数となる。以下同様とする。)から把握することができる。
【0008】
本件発明者が行った実験によれば、モータの低回転領域では、くさび効果及び絞り効果が得られないので、気体潤滑軸受を適用することによる電費改善代が、気体潤滑軸受を実現するためのポンプ作動による電費低下代よりも低くなるため、気体潤滑軸受を適用すべきでないことがわかった。そのため、本件発明者は、この低回転領域よりも高い回転領域でのみ、ポンプを作動させることにより気体潤滑軸受を適用するようにして、低回転領域では、転がり軸受を適用することを考えた。
【0009】
ところで、上記のようなポンプに異常が発生した場合には、気体潤滑軸受を実現するのが困難となるため、低回転領域よりも高い回転領域であっても、転がり軸受を適用することが望ましいと言える。しかしながら、このような転がり軸受を適用した場合、モータが極めて高い回転数で運転したときに、転がり軸受において転動体の変形や抵抗増加などが生じる可能性がある。本件発明者は、このような知見に基づき、ポンプに異常が発生した場合に対処すべく軸受に関する制御を行うことを着想し、本発明を完成させたのである。
【0010】
本発明は、以上のような知見に基づいてなされたものであり、ポンプから供給される気体により気体潤滑軸受として動作可能に構成された軸受を有するモータの軸受システムにおいて、ポンプに異常が発生した場合に対処するように軸受に関する制御を的確に行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために、本発明は、モータの軸受システムであって、モータの回転軸を支持する転がり軸受と、回転軸の軸線上において転がり軸受と並列して配置され、回転軸を支持する滑り軸受であって、当該滑り軸受に供給される気体により気体潤滑を行う気体潤滑軸受として動作可能に構成された、滑り軸受と、滑り軸受に気体を供給するポンプと、転がり軸受が回転軸を支持する軸受として機能する第1状態と、滑り軸受が回転軸を支持する軸受として機能する第2状態と、のいずれか一方に設定可能に構成された切り替え機構と、モータの回転速度を検出する検出装置と、検出装置により検出された回転速度に基づきポンプ及び切り替え機構を制御すると共に、ポンプが正常であるか又は異常であるかを判定するように構成された制御装置と、を有し、制御装置は、回転速度が閾値未満であるときには、切り替え機構を第1状態に設定し、ポンプが正常であると判定したときにおいて、回転速度が閾値以上であるときには、切り替え機構を第2状態に設定すると共に、滑り軸受を気体潤滑軸受として動作させるようにポンプを制御し、ポンプが異常であると判定したときには、回転速度が閾値以上であっても、切り替え機構を第1状態に設定すると共に、モータの回転速度を所定速度未満に制限するようにモータを制御する、ように構成されている、ことを特徴とする。
【0012】
このように構成された本発明では、制御装置は、モータ回転速度から、くさび効果及び絞り効果の度合いを把握して、軸受に関する制御を行う。モータ回転速度は、くさび効果及び絞り効果の度合いを的確に反映するものなので、本発明によれば、簡易な構成にて、この制御を精度良く行うことが可能となる。
具体的には、本発明では、モータ回転速度が閾値未満であるときには、くさび効果及び絞り効果がほとんど得られないため、滑り軸受を気体潤滑軸受として動作させるために必要なポンプの消費電力が非常に大きくなるので、制御装置は、回転軸を支持するように機能させる軸受として、滑り軸受を適用せずに、転がり軸受を適用する。これにより、気体潤滑軸受を実現するためのポンプ作動による電費悪化を抑制できる。
また、本発明では、モータ回転速度が閾値以上であるときには、くさび効果及び絞り効果が得られるため、滑り軸受を気体潤滑軸受として動作させるために必要なポンプの消費電力が比較的小さくなるので、制御装置は、回転軸を支持するように機能させる軸受として滑り軸受を適用する。この場合、気体潤滑軸受としての滑り軸受を適用することによる電費改善代が、気体潤滑軸受を実現するためのポンプ作動による電費低下代よりも高くなるので、気体潤滑軸受の適用による電費改善効果を確保することができる。
また、本発明では、制御装置は、ポンプの異常時には、モータ回転速度が閾値以上であっても、回転軸を支持するように機能させる軸受として転がり軸受を適用するので、気体潤滑軸受として動作させる滑り軸受を適用した場合に当該滑り軸受が回転軸に接触するリスクを回避することができる。更に、制御装置は、ポンプの異常時に、モータ回転速度を所定速度未満に制限するので、モータが高い回転速度で運転することにより、転がり軸受において転動体の変形や大きな抵抗増加などが生じることを抑制できる。
【0013】
他の観点では、上記の目的を達成するために、本発明は、モータの軸受システムであって、複数の転動体を備え、モータの回転軸を支持する軸受であって、転がり軸受として動作するか、又は、当該軸受に供給される気体により気体潤滑を行う気体潤滑軸受として動作するように構成された、軸受と、軸受に気体を供給するポンプと、モータの回転速度を検出する検出装置と、検出装置により検出された回転速度に基づきポンプを制御すると共に、ポンプが正常であるか又は異常であるかを判定するように構成された制御装置と、を有し、制御装置は、回転速度が閾値未満であるときには、軸受を転がり軸受として動作させるように、ポンプを停止させるか、又は、回転速度が閾値以上であるときよりもポンプの駆動力を小さくし、ポンプが正常であると判定したときにおいて、回転速度が閾値以上であるときには、軸受を気体潤滑軸受として動作させるようにポンプを制御し、ポンプが異常であると判定したときには、回転速度が閾値以上であっても、軸受を転がり軸として動作させると共に、モータの回転速度を所定速度未満に制限するようにモータを制御する、ように構成されている、ことを特徴とする。
このように構成された本発明によっても、ポンプに異常が発生した場合に対処するように軸受に関する制御を的確に行うことができる。特に、上記の本発明では、1つの軸受が、転がり軸受及び気体潤滑軸受として選択的に動作するように構成されているので、軸受に関する制御を簡易な構成にて実現することができる。
【0014】
本発明において、好ましくは、転がり軸は、外輪、内輪及びこれらの間に設けられた転動体を有し、切り替え機構は、第1状態と第2状態とを切り替えるべく、転がり軸受において外輪及び内輪と転動体とを接触させる状態と、外輪又は内輪と転動体とを非接触にする状態と、を切り替えるように、転がり軸受の一部分を移動可能に構成されている。
このように構成された本発明によれば、切り替え機構を用いて、モータの回転軸を支持するように機能させる軸受を転がり軸受と滑り軸受との間で適切に切り替えることができる。
【0015】
本発明において、好ましくは、制御装置は、滑り軸受を気体潤滑軸受として動作させるために必要なポンプの圧力が得られるモータの回転速度に基づき、閾値を設定するように構成されている。
このように構成された本発明によれば、たとえポンプ圧力が低下していても、そのポンプ圧力に応じた閾値を用いて転がり軸受から滑り軸受への切り替えを行うことで、この滑り軸受による気体潤滑軸受を的確に実現することができる。
【0016】
本発明において、好ましくは、制御装置は、設定された閾値が所定速度以上である場合には、回転速度が閾値以上であっても、切り替え機構を第1状態に設定するように構成されている。
このように構成された本発明によれば、回転軸を支持するように機能させる軸受を転がり軸受から滑り軸受に切り替える前の段階においてモータ回転速度が所定速度以上となり、転がり軸受において転動体の変形や大きな抵抗増加などが生じることを抑制できる。
【0017】
本発明において、好ましくは、制御装置は、軸受を気体潤滑軸受として動作させるために必要なポンプの圧力が得られるモータの回転速度に基づき、閾値を設定するように構成されている。
このように構成された本発明によれば、たとえポンプ圧力が低下していても、そのポンプ圧力に応じた閾値を用いて転がり軸受から気体潤滑軸受への切り替えを行うことで、この気体潤滑軸受を的確に実現することができる。
【0018】
本発明において、好ましくは、制御装置は、設定された閾値が所定速度以上である場合には、回転速度が閾値以上であっても、軸受を転がり軸として動作させるように構成されている。
このように構成された本発明によれば、転がり軸受から気体潤滑軸受へと切り替える前の段階においてモータ回転速度が所定速度以上となり、軸受の転動体の変形や大きな抵抗増加などが生じることを抑制できる。
【0019】
本発明において、好ましくは、制御装置は、回転軸に付与されるラジアル荷重に基づき、閾値を設定するように構成されている。
このように構成された本発明によれば、回転軸に付与されるラジアル荷重(ラジアル加速度に一義的に対応する)が大きいときに、軸受が回転軸に接触するリスクを回避でき、安全性及び信頼性を確保することが可能となる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、ポンプから供給される気体により気体潤滑軸受として動作可能に構成された軸受を有するモータの軸受システムにおいて、ポンプに異常が発生した場合に対処するように軸受に関する制御を的確に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の第1実施形態によるモータの軸受システムの概略構成図である。
図2】本発明の第1実施形態によるモータの軸受システムの電気的構成を示すブロック図である。
図3】本発明の第1実施形態によるモータ軸受制御の基本概念についての説明図である。
図4】本発明の第1実施形態によるモータ軸受制御を示すタイムチャートである。
図5】本発明の第1実施形態による基本制御方法についての説明図である。
図6】本発明の第1実施形態による第1速度の設定方法についての説明図である。
図7】本発明の第1実施形態による第1速度の補正方法についての説明図である。
図8】本発明の第1実施形態によるモータ軸受制御を示すフローチャートである。
図9】本発明の第1実施形態の変形例によるモータの軸受システムの概略構成図である。
図10】本発明の第2実施形態によるモータの軸受システムの概略構成図である。
図11】本発明の第2実施形態によるモータの軸受システムにおいてポンプが作動していないときの転がり軸受の状態を示す断面図である。
図12】本発明の第2実施形態によるモータの軸受システムにおいてポンプが作動しているときの転がり軸受の状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態によるモータの軸受システムを説明する。
【0023】
[第1実施形態]
ここでは、本発明の第1実施形態について説明する。まず、図1及び図2を参照して、第1実施形態によるモータの軸受システムの構成について説明する。図1は、第1実施形態によるモータの軸受システムの概略構成図である。図2は、第1実施形態によるモータの軸受システムの電気的構成を示すブロック図である。
【0024】
図1に示すように、モータの軸受システム100は、車両に搭載され、主に、車両を駆動するモータ1(図1ではその詳細の図示を省略)と、モータ1の回転軸2と、回転軸2を支持する一対の滑り軸受3と、回転軸2の軸線上において滑り軸受3と並列して配置され、回転軸2を支持する一対の転がり軸受4と、これらモータ1、回転軸2、滑り軸受3及び転がり軸受4を収容するハウジング12と、を有する。
【0025】
転がり軸受4は、例えばアンギュラ玉軸受であり、外輪5a、5bと、回転軸2に装着された内輪6と、これら外輪5a、5bと内輪6との間に介装された複数の転動体(玉やころ)7と、を有する。回転軸2の左端側にある転がり軸受4の外輪5bは、円筒状の外輪固定部材8の内周側に装着される一方、回転軸2の右端側にある転がり軸受4の外輪5aは、円筒状の外輪可動部材9の内周側に装着されている。後者の外輪可動部材9は、一端外周にネジ溝10を有し、他端外周に扇状歯車11を有している。
【0026】
外輪5aを装着した外輪可動部材9のネジ溝10は、ハウジング12の右端内周に形成されたネジ溝13と螺合する。外輪5bを装着した外輪固定部材8は、ハウジング12の左端に固定されている。また、このようなハウジング12の右端側外周には、図示しないモータ及び減速機を内蔵する切り替え駆動装置15が設けられている。この切り替え駆動装置15は、駆動軸16及びこの駆動軸16に固定された駆動歯車17を有し、この駆動歯車17は、外輪可動部材9の扇状歯車11と歯合している。
【0027】
また、モータの軸受システム100は、更に、回転軸2と滑り軸受3との間に気体層を形成して滑り軸受3に気体潤滑を行わせるべく、つまり滑り軸受3を回転軸2から浮遊させて気体潤滑軸受として動作させるべく、滑り軸受3に対して気体(典型的には空気であるが、オイルガスや冷媒でもよい)を供給するポンプ30を有する。具体的には、ポンプ30は、一対の滑り軸受3のそれぞれにおける回転軸2との間の隙間(回転軸2の径方向において規定されるラジアル隙間)に、気体を気体供給通路31から供給する。この気体供給通路31は、滑り軸受3に接続される下流側の部分31aが、ハウジング12及び滑り軸受3内に形成されている。これにより、例えば、滑り軸受3は、回転軸2の外周面と、回転軸2及び滑り軸受3を取り囲むハウジング12の内周面との間に浮遊可能に構成されている。
【0028】
なお、上記した、外輪可動部材9(ネジ溝10及び扇状歯車11を含む)、ハウジング12のネジ溝13、切り替え駆動装置15(駆動軸16及び駆動歯車17を含む)は、回転軸2を支持するように機能させる軸受を、転がり軸受4と滑り軸受3との間で切り替えるための切り替え機構20を構成する。
【0029】
ここで、切り替え機構20による軸受の切り替え動作について説明する。まず、転がり軸受4において転動体7が外輪5a、5b及び内輪6と接触している基本的な状態では、転がり軸受4が回転軸2を支持する軸受として機能する。この状態では、滑り軸受3と回転軸2との間にはラジアル隙間が生じており、滑り軸受3は回転軸2と接触しない。したがって、滑り軸受3は、回転軸2を支持する軸受として機能しない。まとめると、上述したような状態は、転がり軸受4が回転軸2を支持する軸受として機能し且つ滑り軸受3が回転軸2を支持する軸受として機能しない状態(第1状態)に相当する。
【0030】
続いて、切り替え機構20の切り替え駆動装置15が駆動軸16を介して駆動歯車17を回転させると、駆動歯車17と歯合している扇状歯車11が回転し、この扇状歯車11に連結されたネジ溝10も回転することで、当該ネジ溝10がハウジング12のネジ溝13に沿って軸方向で図1の右方向に移動する。これにより、ネジ溝10及び扇状歯車11を有する外輪可動部材9全体が右方向に移動する。その結果、外輪5aも右方向に移動することで、外輪5aが転動体7と離間する(つまり非接触となる)。また、こうして外輪5a(回転軸2の右端側にある転がり軸受4の外輪5aである)が移動すると、回転軸2も右方向に移動する。その結果、回転軸2の左端側にある転がり軸受4の内輪6が移動することで、当該転がり軸受4の外輪5bも転動体7と離間する(つまり非接触となる)。以上のように切り替え機構20が動作すると、つまり切り替え機構20の切り替え駆動装置15が駆動すると、転がり軸受4が回転軸2を支持する軸受として機能しなくなる。
【0031】
他方で、このように転がり軸受4において外輪5a、5bが転動体7と離間した状態では、転がり軸受4内にラジアル隙間が生じるが、このラジアル隙間は、上記した滑り軸受3と回転軸2との間のラジアル隙間よりも大きい。そのため、回転軸2等が、自重や外部負荷により下方に移動することで、回転軸2が滑り軸受3と接触可能な状態となる。これにより、滑り軸受3が回転軸2を支持する軸受として機能する状態となる。基本的には、本実施形態では、この状態において、上述したようにポンプ30から気体を供給して回転軸2と滑り軸受3との間に気体層を形成するので、滑り軸受3が回転軸2と接触することはない。まとめると、以上述べたような状態、つまり切り替え機構20の切り替え駆動装置15が駆動した状態では、滑り軸受3が回転軸2を支持する軸受として機能し且つ転がり軸受4が回転軸2を支持する軸受として機能しない状態(第2状態)となる。
【0032】
なお、上記した例では、歯車やネジ溝などを利用して、外輪5aを移動させていたが、他の例では、所定の押し出し機構を用いて外輪5aを移動させてもよい。この例では、バネで付勢した状態にある外輪5aに対して、このバネによる付勢力に打ち勝つように、押し出し機構による押し出し力を付与すればよい。また、上記した例では、外輪5a、5bを転動体7と離間させていたが、更に他の例では、外輪5a、5bの代わりに内輪6を転動体7と離間させるようにしてもよい。
【0033】
次に、図2に示すように、モータの軸受システム100は、符号61~74で示すような各種のセンサ類と、この各種のセンサ類から各種信号が入力される制御装置50と、この制御装置50から供給される制御信号により制御される、上述した切り替え駆動装置15及びポンプ30、及び、モータ1に接続されたインバータ22と、を有する。制御装置50は、1つ以上のプロセッサ50a(典型的にはCPU)と、当該プロセッサ50a上で解釈実行される各種のプログラム(OSなどの基本制御プログラムや、OS上で起動され特定機能を実現するアプリケーションプログラムを含む)や各種のデータを記憶するROMやRAMなどのメモリ50bと、を備えるコンピュータにより構成される。
【0034】
具体的には、モータの軸受システム100は、車両の速度(車速)を検出する車速センサ61と、車両の加速度を検出する加速度センサ62と、アクセルペダルの踏込み量に対応するアクセル開度を検出するアクセル開度センサ63と、ブレーキペダルの踏み込み量を検出するブレーキセンサ64と、ステアリングホイールの回転角度(操舵角)を検出する操舵角センサ65と、モータ1の回転速度(一義的に回転数)を検出するモータ回転速度センサ66と、モータ1のトルクを検出するモータトルクセンサ67と、ポンプ30の圧力を検出するポンプ圧力センサ68と、滑り軸受3及び転がり軸受4において径方向に付与される荷重(ラジアル荷重)を検出する軸受荷重センサ69と、を有する。なお、モータ回転速度センサ66は、本発明における「検出装置」に相当する。
【0035】
更に、モータの軸受システム100は、車両の周囲を撮影する車両カメラ70と、車両の周囲に存在する対象物(他車両や歩行者や障害物など)の位置及び速度を測定するレーダ71(例えばミリ波レーダ)と、車車間通信や路車間通信などを行う通信装置72と、GPSシステムやジャイロシステムなどを含み、車両の位置を検出する測位システム73と、地図データを格納しているナビシステム74と、を有する。なお、レーダ71の代わりに、レーザレーダや超音波センサなどを用いてもよい。
【0036】
次に、図3を参照して、第1実施形態によるモータ軸受制御の基本概念について説明する。ここでは、第1実施形態によるモータ軸受制御と、比較例によるモータ軸受制御とを対比説明する。図3は、横軸にモータ回転速度を示し、縦軸に軸摩擦トルクを示している。
【0037】
比較例によるモータ軸受制御では、モータの回転軸を支持するように機能させる軸受を、転がり軸受と、潤滑油による流体潤滑を用いる滑り軸受とで切り替えるようにする。具体的には、比較例では、モータ回転速度が領域R11(以下では適宜「低回転領域」と呼ぶ。)にあるときには、回転軸2を支持するように機能させる軸受として転がり軸受を適用する一方で、モータ回転速度が低回転領域R11よりも高い領域R12にあるときには、回転軸2を支持するように機能させる軸受として滑り軸受を適用する。この制御は、特許文献1に記載された技術に相当する。
【0038】
図3において、グラフG11は、転がり軸受で生じる軸摩擦トルク、つまり直接接触による境界潤滑摩擦を示し、グラフG12は、潤滑油による流体潤滑を用いる滑り軸受で生じる軸摩擦トルク、つまり潤滑油の流体潤滑摩擦を示している。したがって、上記した比較例によるモータ軸受制御において生じる軸摩擦トルクは、グラフG11に示す軸摩擦トルクとグラフG12に示す軸摩擦トルクとを加算したもの、つまりグラフG21に示すものとなる。この場合、領域R12においてモータ回転速度が高くなるほど軸摩擦トルクが大きく増加しているのは、グラフG13に示すような、転がり軸受内の転動体の変形による摩擦増加によるものである。
【0039】
これに対して、第1実施形態では、上述したように、モータ1の回転軸2を支持するように機能させる軸受を、転がり軸受4と、ポンプ30から供給される気体により気体潤滑軸受として動作可能な滑り軸受3とで切り替えるようにする。まず、低回転領域R11では、「発明が解決しようとする課題」のセクションで述べたように、くさび効果及び絞り効果がほとんど得られないので、気体潤滑軸受として動作させた滑り軸受3を適用することで得られる電費改善代が、この気体潤滑軸受を実現するためにポンプ30を作動させることによる電費低下代よりも低くなる(つまりポンプ30の消費電力が非常に大きくなる)。そのため、制御装置50は、低回転領域R11では、ポンプ30を停止した状態において、回転軸2を支持するように機能させる軸受として転がり軸受4を適用するように、切り替え機構20の切り替え駆動装置15を制御する。つまり、制御装置50は、滑り軸受3を機能させないようにし、転がり軸受4のみを機能させるように、切り替え駆動装置15を制御する。
【0040】
一方で、このようなモータ回転速度が低回転領域R11を超えると、つまり低回転領域R11よりも高い領域R12においては、くさび効果及び絞り効果をある程度得られるようになるので、気体潤滑軸受として動作させる滑り軸受3を適用することで得られる電費改善代が、この気体潤滑軸受を実現するためにポンプ30を作動させることによる電費低下代よりも高くなる。そのため、制御装置50は、領域R12では、回転軸2を支持するように機能させる軸受として滑り軸受3を適用するように、切り替え駆動装置15を制御する。また、摺動速度が極めて高くなる、領域R12内の高回転側の領域R14では、大きなくさび効果及び絞り効果が得られるため、ポンプ30により静圧を付与しなくても気体潤滑軸受を実現できる。したがって、第1実施形態では、制御装置50は、滑り軸受3を機能させる領域R12において、低回転側の領域R13(以下では適宜「中回転領域」と呼ぶ。)では、ポンプ30を作動させつつ、滑り軸受3のみを機能させるように切り替え駆動装置15を制御する一方で、高回転側の領域R14(以下では適宜「高回転領域」と呼ぶ。)では、ポンプ30を停止して、滑り軸受3のみを機能させるように切り替え駆動装置15を制御する。
【0041】
図3において、グラフG14は、気体潤滑軸受として動作させた滑り軸受3で生じる軸摩擦トルク、つまり気体潤滑摩擦を示している。したがって、上記した第1実施形態によるモータ軸受制御において生じる軸摩擦トルクは、グラフG11に示す軸摩擦トルクとグラフG14に示す軸摩擦トルクとを加算したもの、つまりグラフG22に示すものとなる。このようなグラフG22に示す第1実施形態による軸摩擦トルクを、グラフG21に示す比較例による軸摩擦トルクと比較すると、第1実施形態によれば、軸摩擦トルクを大幅に低減していることがわかる。したがって、第1実施形態によれば、比較例と比較して、電費を効果的に改善することができると言える。
【0042】
また、第1実施形態では、制御装置50は、上記のように動作するポンプ30が正常であるか又は異常であるかを判定し、ポンプ30が異常であると判定したときには、モータ回転速度が低回転領域R11を超えていても、回転軸2を支持するように機能させる軸受として転がり軸受4を適用するように、切り替え機構20の切り替え駆動装置15を制御する。ポンプ30が異常であるときには、ポンプ30からの気体により回転軸2と滑り軸受3との間に気体層を形成して、滑り軸受3を気体潤滑軸受として動作させるのが困難となる。したがって、第1実施形態では、ポンプ30が異常であるときには転がり軸受4を適用することにより、気体潤滑軸受として動作させた滑り軸受3が回転軸2に接触するリスクを回避するようにする。加えて、第1実施形態では、制御装置50は、このようにポンプ30が異常であることから転がり軸受4を適用したときには、モータ回転速度を所定速度(以下では適宜「所定速度Vlim」と表記する。)未満に制限するように、モータ1を制御する。これにより、モータ1が高い回転速度で運転することで、転がり軸受4において転動体7の変形や大きな抵抗増加などが生じることを抑制するようにする。
【0043】
次に、図4を参照して、第1実施形態によるモータ軸受制御の基本的な流れについて説明する。図4は、第1実施形態によるモータ軸受制御を示すタイムチャートである。図4は、横軸に時間を示し、上から順に、モータ回転速度センサ66により検出されたモータ回転速度、切り替え機構20の切り替え駆動装置15に供給される信号(以下では「軸受切り替え信号」と呼ぶ。)、ポンプ30のオン/オフ信号、ポンプ圧力センサ68により検出されたポンプ圧力を示している。
【0044】
図4に示すように、制御装置50は、時刻t0でモータ1を始動させると、ポンプ30をオフにした状態において、転がり軸受4のみを機能させるように切り替え機構20を設定する(この場合、切り替え駆動装置15に供給される軸受切り替え信号はオフである)。そして、時刻t1において、モータ回転速度が、上記の中回転領域R13の下限値に対応する第1速度V1(本発明における「閾値」に相当する。)に達する。
【0045】
このときに、制御装置50は、ポンプ30をオンにすることで、ポンプ30が正常であるか又は異常であるかを判定する。典型的には、制御装置50は、ポンプ圧力センサ68により検出されたポンプ圧力(例えばポンプ最大圧力)が、所定圧力Plim以上であるか否かを判定することで、ポンプ30の正常/異常を判定する。この所定圧力Plimは、ポンプ30からの気体により回転軸2と滑り軸受3との間に気体層を形成して滑り軸受3を気体潤滑軸受として動作させるのに必要なポンプ圧力の最小値に基づき設定される。図4に示す例では、制御装置50は、ポンプ圧力センサ68により検出されたポンプ圧力が所定圧力Plim以上であるため、ポンプ30が正常であると判定する。
【0046】
したがって、制御装置50は、切り替え駆動装置15に供給する軸受切り替え信号をオンにすることで、滑り軸受3のみを機能させるようにする、つまり、モータ1の回転軸2を支持するように機能させる軸受を、転がり軸受4から滑り軸受3に切り替えるようにする。また、制御装置50は、ポンプ30からの気体により回転軸2と滑り軸受3との間に気体層を形成して、滑り軸受3を気体潤滑軸受として動作させるようにポンプ30を制御する。
【0047】
そして、時刻t2において、モータ回転速度が、上記の高回転領域R14の下限値に対応する第2速度V2に達する。このときに、制御装置50は、切り替え駆動装置15に供給する軸受切り替え信号をオンにしつつ、ポンプ30をオフにする。こうするのは、高回転領域R14では、摺動速度が極めて高くなり、大きなくさび効果及び絞り効果が得られるため、ポンプ30を作動させなくても気体潤滑軸受を実現できるからである。
【0048】
なお、制御装置50は、ポンプ圧力センサ68により検出されたポンプ圧力(例えばポンプ最大圧力)が所定圧力Plim未満であるときには、ポンプ30が異常であると判定する。この場合には、制御装置50は、モータ1の回転軸2を支持するように機能させる軸受を、転がり軸受4から滑り軸受3に切り替えず、転がり軸受4を継続して適用するようにする(軸受切り替え信号をオフのままにする)。加えて、制御装置50は、モータ回転速度を所定速度Vlim未満に制限するようにモータ1を制御する。
【0049】
次に、図5乃至図7を参照して、第1実施形態によるモータ軸受制御について具体的に説明する。まず、図5は、第1実施形態においてポンプ30が正常であるときに行われる、ポンプ30の基本制御方法についての説明図である。図5は、横軸にモータ回転速度を示し、縦軸にポンプ圧力を示している。上述したように、制御装置50は、モータ回転速度が第1速度V1以上で第2速度V2未満であるときのみ(つまり中回転領域R13)、ポンプ30を作動して、ポンプ圧力を発生させるようにする。
【0050】
より具体的には、制御装置50は、中回転領域R13において、グラフG3に示すように、モータ回転速度が高くなるほど、ポンプ圧力を小さくするようにポンプ30を制御する。こうするのは、モータ回転速度が高くなるほど、くさび効果及び絞り効果が大きくなるため、滑り軸受3を気体潤滑軸受として動作させるためにポンプ30から付与すべき静圧が小さくて済むからである。そういった観点より、グラフG3は、滑り軸受3を気体潤滑軸受として動作させるのに必要な、モータ回転速度に応じたポンプ圧力により規定される。このようにモータ回転速度が高くなるほどポンプ圧力を小さくすることで、中回転領域R13でのポンプ30の消費電力を削減することができ、電費を改善することが可能となる。
【0051】
なお、モータ回転速度が第1速度V1以上で第2速度V2未満であるときに、モータ回転速度が高くなるほどポンプ圧力を小さくすることに限定はされず、他の例では、モータ回転速度によらずにポンプ圧力を一定にしても構わない。
【0052】
次に、図6を参照して、上述した第1速度V1をポンプ圧力に基づき設定する方法について説明する。図6は、横軸にモータ回転速度を示し、縦軸にポンプ圧力を示している。第1実施形態では、制御装置50は、ポンプ圧力センサ68により検出されたポンプ圧力が所定圧力Plim以上のため、ポンプ30が正常であると判定されたが、このポンプ圧力が通常よりも低い場合に、このポンプ圧力に応じて第1速度V1を変更する。具体的には、制御装置50は、ポンプ圧力センサ68により検出されたポンプ圧力(例えばポンプ最大圧力)が、第1速度V1においてポンプ30が通常発生するポンプ圧力Pmax未満である場合に、上述したグラフG3に基づき第1速度V1を変更する。すなわち、制御装置50は、滑り軸受3を気体潤滑軸受として動作させるのに必要な、モータ回転速度に応じたポンプ圧力を規定するグラフG3から、ポンプ圧力センサ68により検出されたポンプ圧力に対応するモータ回転速度を取得して、このモータ回転速度を新たに用いる第1速度V1として設定する。これにより、ポンプ圧力が低下していても、そのポンプ圧力に応じた第1速度V1に基づき転がり軸受4から滑り軸受3への切り替えを行うことで、この滑り軸受3による気体潤滑軸受の実現を確保できるようになる。
【0053】
図6に示す例では、制御装置50は、ポンプ圧力センサ68により検出されたポンプ圧力(例えばポンプ最大圧力)が「Pa」である場合(Plim<Pa<Pmax)、このポンプ圧力Paに対応する「V1a」を第1速度に設定する。また、制御装置50は、ポンプ圧力センサ68により検出されたポンプ圧力(例えばポンプ最大圧力)が「Pb」である場合(Plim<Pb<Pa)、このポンプ圧力Pbに対応する「V1b」を第1速度に設定する。ここで、この第1速度V1bは、モータ回転速度の所定速度V1lim以上となっている。この所定速度V1limは、回転軸2を支持するように機能させる軸受として転がり軸受4を適用したときに転がり軸受4において転動体7の変形や大きな抵抗増加などが生じるようなモータ回転速度により規定される。基本的には、所定速度V1limは、ポンプ30の異常時にモータ回転速度を制限するための上述した所定速度Vlimよりも高い。
【0054】
このように第1速度V1bが所定速度V1lim以上である場合には、制御装置50は、たとえポンプ圧力が所定圧力Plim以上であっても、モータ1の回転軸2を支持するように機能させる軸受を、転がり軸受4から滑り軸受3に切り替えず、転がり軸受4を継続して適用するようにする。これにより、回転軸2を支持するように機能させる軸受を転がり軸受4から滑り軸受3に切り替える前の段階においてモータ回転速度が所定速度V1lim以上となり、転がり軸受4において転動体7の変形や大きな抵抗増加などが生じることを抑制するようにする。なお、上記のように第1速度V1bが所定速度V1lim以上である場合には、ポンプ圧力が所定圧力Plim未満であるときと同様に、モータ回転速度を所定速度Vlim未満に制限してもよい。
【0055】
次に、図7を参照して、モータ1の回転軸2に付与されるラジアル加速度に基づき第1速度V1を補正する方法について説明する。図7は、横軸に、回転軸2に付与されるラジアル加速度を示し、縦軸に、第1速度V1を補正するための補正係数を示している。このラジアル加速度は、滑り軸受3及び転がり軸受4にも同様に付与されるものである。また、ラジアル加速度は、ラジアル荷重に一義的に対応するものである。よって、ラジアル加速度の代わりにラジアル荷重を直接用いてもよいが、その場合、車両の重量などからラジアル加速度をラジアル荷重に変換すればよい(以下同様とする)。
【0056】
ラジアル加速度は、例えば、悪路の走行時や、段差の走行時や、操舵角が大きい時や、パワーホップ発生時などにおいて、大きくなる。このようにラジアル加速度が大きい状態では、滑り軸受3と回転軸2との間の気体層を確保しにくくなるため、気体潤滑軸受として動作している滑り軸受3が回転軸2に接触する可能性がある。したがって、第1実施形態では、ラジアル加速度が大きいほど、回転軸2を支持するように機能させる軸受を転がり軸受4から滑り軸受3に切り替えるためのモータ回転速度の閾値である第1速度V1を、大きくするように補正する。これを実現すべく、制御装置50は、図7に示すように、ラジアル加速度が大きいほど、値が大きくなるように設定された補正係数を用いて、第1速度V1(図6に示したようにポンプ圧力に基づき設定された第1速度V1を含む)を大きくする補正を行う。これにより、ラジアル加速度が大きいときに、滑り軸受3が回転軸2に接触するリスクを回避することができ、安全性及び信頼性を確保することが可能となる。
【0057】
また、第1実施形態では、制御装置50は、上記したように第1速度V1を補正するために用いるラジアル加速度を予測する。これは、現在発生しているラジアル加速度(例えば軸受荷重センサ69により検出されたラジアル荷重から求めることができる)に基づき軸受制御を行っても、安全性及び信頼性を十分に確保することができないからである。すなわち、現在発生しているラジアル加速度を用いたのでは、的確な軸受制御が間に合わないからである。特に、ラジアル加速度は、徐々に大きくなるというよりも、急に大きくなる傾向にあるからである。したがって、第1実施形態では、制御装置50は、将来発生するラジアル加速度を予測し、このラジアル加速度に基づき軸受制御を行う。
【0058】
例えば、制御装置50は、車両が走行する路面の状態に基づきラジアル加速度を予測する。この例では、制御装置50は、まず、車両カメラ70により撮影された車両の周囲の画像や、レーダ71により測定された車両の周囲に存在する対象物の位置及び速度や、ナビシステム74に格納された地図データや、通信装置72による車車間通信や路車間通信にて得られた信号などに基づき、車両が走行する路面の状態を示す路面情報を取得する。例えば、制御装置50は、路面情報として、進路に存在するカーブや悪路や段差などの情報を取得する。この場合、制御装置50は、通信装置72による車車間通信により、悪路による自車両の振動を把握可能である。そして、制御装置50は、このような路面情報と車速から、回転軸2にこれから付与されるラジアル加速度を予測する。例えば、制御装置50は、路面の状態が悪路である場合には、その悪路の程度に応じた大きな値を有するラジアル加速度を予測する。
【0059】
次に、図8を参照して、第1実施形態によるモータ軸受制御の具体的な流れについて説明する。図8は、第1実施形態によるモータ軸受制御を示すフローチャートである。このフローは、制御装置50によって所定の周期で繰り返し実行される。より詳しくは、制御装置50内のプロセッサ50aが、メモリ50bに記憶されたプログラムを読み出して、当該プログラムを実行することで、このフローに係るモータ軸受制御が実現される。
【0060】
まず、ステップS101において、制御装置50は、図2に示した各種のセンサ類61~74から各種信号を取得する。そして、ステップS102において、制御装置50は、モータ1が停止中であるか否かを判定する。例えば、制御装置50は、モータ回転速度センサ66から供給された信号に対応するモータ回転速度に基づき、モータ1が停止中であるか否かを判定する。その結果、制御装置50は、モータ1が停止中であると判定した場合には(ステップS102:Yes)、ステップS103に進み、モータ1が停止中であると判定しなかった場合には(ステップS102:No)、モータ軸受制御を終了する。
【0061】
次いで、ステップS103において、制御装置50は、モータ1の回転軸2を支持するように機能させる軸受として転がり軸受4を適用するように、切り替え機構20の切り替え駆動装置15を設定する。例えば、制御装置50は、滑り軸受3が回転軸2を支持するように機能している状態にある場合には、回転軸2を支持するように機能させる軸受を、滑り軸受3から転がり軸受4に切り替えるように、切り替え駆動装置15を制御する。
【0062】
次いで、ステップS104において、制御装置50は、車両の始動要求があるか否かを判定する。例えば、制御装置50は、アクセル開度センサ63から供給された信号に対応するアクセル開度に基づき、始動要求があるか否かを判定する。その結果、制御装置50は、始動要求があると判定した場合には(ステップS104:Yes)、ステップS105に進み、モータ1を始動させる一方、始動要求があると判定しなかった場合には(ステップS104:No)、モータ軸受制御を終了する。
【0063】
次いで、ステップS106において、制御装置50は、ポンプ30が正常であるか又は異常であるかを判定するためにポンプ30の動作確認を開始すべく、ポンプ30を作動させる。そして、ステップS107において、制御装置50は、こうしてポンプ30を作動させたときにポンプ30から出力された信号(ポンプ信号)を取得し、このポンプ信号が正常であるか否かを判定する。例えば、制御装置50は、ポンプ信号に対応する電圧値又は電流値が所定値以上であるか否かを判定する。その結果、制御装置50は、ポンプ信号が正常であると判定した場合には(ステップS107:Yes)、ステップS108に進む。ステップS108において、制御装置50は、ポンプ圧力センサ68により検出されたポンプ圧力が正常であるか否かを判定する。この場合、制御装置50は、ポンプ圧力が所定圧力Plim以上であるか否かを判定する。例えば、制御装置50は、ポンプ最大圧力を用いて、この判定を行う。その結果、制御装置50は、ポンプ圧力が正常であると判定した場合には(ステップS108:Yes)、ステップS109に進む。
【0064】
一方で、制御装置50は、ポンプ信号が正常であると判定しなかった場合(ステップS107:No)、又は、ポンプ圧力が正常であると判定しなかった場合には(ステップS108:No)、ステップS116に進む。ステップS116において、制御装置50は、ポンプ30が異常であると判定する。この場合、制御装置50は、モータ1の回転軸2を支持するように機能させる軸受を、転がり軸受4から滑り軸受3に切り替えず、転がり軸受4を継続して適用するようにする。そして、ステップS117において、制御装置50は、モータ回転速度を所定速度Vlim未満に制限するようにモータ1を制御する。この後、制御装置50は、モータ軸受制御を終了する。
【0065】
次いで、ステップS109において、制御装置50は、転がり軸受4から滑り軸受3に切り替えるためのモータ回転速度の閾値である第1速度V1を設定する。典型的には、制御装置50は、ポンプ圧力センサ68により検出されたポンプ圧力(例えばポンプ最大圧力)が、モータ回転速度が第1速度V1であるときにポンプ30が通常発生するポンプ圧力Pmax以上である場合には、この第1速度V1をそのまま設定することとし、ポンプ圧力がポンプ圧力Pmax未満である場合には、上述したグラフG3(図6)に基づき第1速度V1を変更する。後者の場合、制御装置50は、滑り軸受3を気体潤滑軸受として動作させるのに必要な、モータ回転速度に応じたポンプ圧力を規定するグラフG3から、ポンプ圧力センサ68により検出されたポンプ圧力に対応するモータ回転速度を取得して、このモータ回転速度を新たに用いる第1速度V1として設定する。また、制御装置50は、このように設定した第1速度V1を、モータ1の回転軸2に付与されるラジアル加速度に基づき補正する。具体的には、制御装置50は、回転軸2に付与されるラジアル加速度を予測し、このラジアル加速度に応じた補正係数(図7)により第1速度V1を補正する。例えば、制御装置50は、車両が走行する路面の状態(悪路の程度)や、車両が走行する路面上の段差(詳しくは段差による車両のパワーホップ)や、車両の操舵角などに基づき、回転軸2にこれから付与されるラジアル加速度を予測する。
【0066】
次いで、ステップS110において、制御装置50は、モータ回転速度センサ66により検出されたモータ回転速度が、ステップS109で設定された第1速度V1以上であるか否か、つまりモータ回転速度が中回転領域R13にあるか否かを判定する。その結果、制御装置50は、モータ回転速度が第1速度V1以上であると判定した場合には(ステップS110:Yes)、ステップS111に進み、モータ回転速度が第1速度V1以上であると判定しなかった場合には(ステップS110:No)、ステップS109に戻る。
【0067】
次いで、ステップS111において、制御装置50は、ステップS109で設定された第1速度V1が所定速度V1lim未満であるか否かを判定する。その結果、制御装置50は、第1速度V1が所定速度V1lim未満であると判定した場合には(ステップS111:Yes)、ステップS112に進み、第1速度V1が所定速度V1lim未満であると判定しなかった場合には(ステップS111:No)、モータ軸受制御を終了する。後者の場合には、制御装置50は、第1速度V1が所定速度V1lim以上であるため、モータ1の回転軸2を支持するように機能させる軸受を、転がり軸受4から滑り軸受3に切り替えず、転がり軸受4を継続して適用するようにする。
【0068】
次いで、ステップS112において、制御装置50は、滑り軸受3を気体潤滑軸受として動作させるべく、ポンプ30からの気体により回転軸2と滑り軸受3との間に気体層を形成するように、ポンプ30を制御する。そして、ステップS113において、制御装置50は、回転軸2を支持するように機能させる軸受を、転がり軸受4から滑り軸受3に切り替えるように、切り替え機構20の切り替え駆動装置15を制御する。
【0069】
次いで、制御装置50は、ステップS114において、モータ回転速度センサ66により検出されたモータ回転速度が第2速度V2以上であるか否か、つまりモータ回転速度が高回転領域R14にあるか否かを判定する。その結果、制御装置50は、モータ回転速度が第2速度V2以上であると判定した場合には(ステップS114:Yes)、ステップS115に進む。この場合、ポンプ30を作動させなくても気体潤滑軸受を実現できるので、制御装置50は、ポンプ30を停止する(ステップS115)。そして、制御装置50は、モータ軸受制御を終了する。これに対して、制御装置50は、モータ回転速度が第2速度V2以上であると判定しなかった場合には(ステップS114:No)、ステップS114に戻る。
【0070】
なお、このようにポンプ30を停止させる条件として、更に、車両の走行路において直線が続くという条件(例えば高速道路走行時に当該条件が成立する)、及び/又は、車両の走行路において平坦な路面が続くという条件を用いてもよい。制御装置50は、このような条件を、例えば車両カメラ70により撮影された車両の周囲の画像やナビシステム74に格納された地図データなどから、判定することができる。
【0071】
以上述べた第1実施形態では、制御装置50は、(1)モータ回転速度が第1速度V1未満であるときには、転がり軸受4が回転軸2を支持する軸受する第1状態に切り替え機構20を設定し、(2)ポンプ30が正常であると判定したときにおいて、モータ回転速度が第1速度V1以上であるときには、滑り軸受3が回転軸2を支持する軸受として機能する第2状態に切り替え機構20を設定すると共に、滑り軸受3を気体潤滑軸受として動作させるようにポンプ30を制御し、(3)ポンプ30が異常であると判定したときには、モータ回転速度が第1速度V1以上であっても、切り替え機構20を上記の第1状態に設定すると共に、モータ回転速度を所定速度Vlim未満に制限するようにモータ1を制御する。
【0072】
このような第1実施形態では、モータ回転速度が第1速度V1未満であるときには、つまりくさび効果及び絞り効果がほとんど得られない低回転領域R11では、滑り軸受3を気体潤滑軸受として動作させるために必要なポンプ30の消費電力が非常に大きくなるので、制御装置50は、回転軸2を支持するように機能させる軸受として、滑り軸受3を適用せずに、転がり軸受4を適用する。これにより、気体潤滑軸受を実現するためのポンプ作動による電費悪化を抑制できる。
【0073】
また、第1実施形態では、モータ回転速度が第1速度V1以上であるときには、くさび効果及び絞り効果が得られるため、滑り軸受3を気体潤滑軸受として動作させるために必要なポンプ30の消費電力が比較的小さくなるので、制御装置50は、回転軸2を支持するように機能させる軸受として滑り軸受3を適用する。この場合、気体潤滑軸受としての滑り軸受3を適用することによる電費改善代が、気体潤滑軸受を実現するためのポンプ作動による電費低下代よりも高くなるので、気体潤滑軸受の適用による電費改善効果を確保することができる。
【0074】
また、第1実施形態では、制御装置50は、ポンプ30の異常時に、モータ回転速度が第1速度V1以上であっても、回転軸2を支持するように機能させる軸受として転がり軸受4を適用するので、気体潤滑軸受として動作させる滑り軸受3を適用した場合に当該滑り軸受3が回転軸2に接触するリスクを回避することができる。また、制御装置50は、ポンプ30の異常時に、モータ回転速度を制限するので、モータ1が高い回転速度で運転することにより、転がり軸受4において転動体7の変形や大きな抵抗増加などが生じることを抑制できる。
【0075】
また、第1実施形態では、制御装置50は、滑り軸受3を気体潤滑軸受として動作させるために必要なポンプ圧力が得られるモータ回転速度に基づき、第1速度V1を設定する。これにより、たとえポンプ圧力が低下していても、そのポンプ圧力に応じた第1速度V1を用いて転がり軸受4から滑り軸受3への切り替えを行うことで、この滑り軸受3による気体潤滑軸受を的確に実現することができる。
【0076】
また、第1実施形態では、制御装置50は、設定された第1速度V1が所定速度V1lim以上である場合には、モータ回転速度が第1速度V1以上であっても、モータ1の回転軸2を支持するように機能させる軸受を、転がり軸受4から滑り軸受3に切り替えず、転がり軸受4を継続して適用する。これにより、回転軸2を支持するように機能させる軸受を転がり軸受4から滑り軸受3に切り替える前の段階においてモータ回転速度が所定速度V1lim以上となり、転がり軸受4において転動体7の変形や大きな抵抗増加などが生じることを抑制できる。
【0077】
また、第1実施形態では、制御装置50は、モータ1の回転軸2に付与されるラジアル加速度に基づき第1速度V1を設定するので、ラジアル加速度が大きいときに、滑り軸受3が回転軸2に接触するリスクを回避でき、安全性及び信頼性を確保することが可能となる。
【0078】
ここで、上記した実施形態の変形例について説明する。なお、変形例は、後述する実施形態にも適用されるものとする。
【0079】
上記した実施形態では、モータ回転速度が第1速度V1未満であるときに、ポンプ30を停止させていたが、変形例では、ポンプ30をある程度作動させてもよい。但し、制御装置50は、モータ回転速度が第1速度V1未満であるときには、モータ回転速度が第1速度V1以上で且つ第2速度V2未満であるときよりも、ポンプ30の駆動力を小さくする。
【0080】
また、上記した実施形態では、モータ回転速度に基づきモータ軸受制御を行っていたが、変形例では、モータ回転数に基づきモータ軸受制御を行ってもよい。モータ回転数は、モータ回転速度に一義的に対応するものだからである。
【0081】
また、上記した実施形態では、制御装置50が切り替え駆動装置15を制御することで切り替え機構20を駆動させていたが、換言すると制御装置50が切り替え機構20を直接的に制御していたが(図1図2)、このような実施形態に限定はされない。図9は、第1実施形態の変形例によるモータの軸受システムの概略構成図である。この変形例によるモータの軸受システム100aでは、切り替え機構20aは、上記した実施形態のように切り替え駆動装置15により駆動されるものではなく、ポンプ30により駆動されるように構成されている。具体的には、切り替え機構20aにおいては、外輪可動部材9の扇状歯車11に歯合する駆動歯車17の駆動軸16が、上記した実施形態のように切り替え駆動装置15により駆動されずに、ポンプ30により駆動されるようになっている。より詳しくは、切り替え機構20aの駆動軸16とポンプ30の回転軸32とが、ベルトやチェーンやギヤなどの所定の伝達部材18を介して接続されており、それにより、ポンプ30の回転軸32の回転が切り替え機構20aの駆動軸16に伝達されるようになっている。したがって、ポンプ30が作動すると、切り替え機構20aが駆動されることとなる。このような変形例では、制御装置50は、切り替え機構20aを直接的に制御するのではなく、ポンプ30を介して切り替え機構20aを間接的に制御する。
【0082】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態について説明する。第1実施形態では、モータ1の回転軸2を支持するように機能させる軸受を、転がり軸受4と、ポンプ30から供給される気体により気体潤滑軸受として動作可能な滑り軸受3とで切り替えていた。これに対して、第2実施形態では、転がり軸受4及び滑り軸受3の2つを用いる代わりに、1つの転がり軸受のみを用いて、この転がり軸受にポンプ30から気体を供給することで、気体潤滑を行う気体潤滑軸受として当該転がり軸受を動作させるようにする点で、第1実施形態と異なる。よって、第2実施形態では、第1実施形態で示したような切り替え機構20、20aを有しない。
【0083】
ここでは、第1実施形態と同様の構成、制御については説明を省略し、第1実施形態と異なる構成、制御のみを説明する。特に、第2実施形態は、モータの軸受システムの構成のみが第1実施形態と異なり、モータ軸受制御は第1実施形態と同様である。
【0084】
図10は、第2実施形態によるモータの軸受システムの概略構成図である。図10に示すように、第2実施形態によるモータの軸受システム101は、ロータ1a及びステータ1bを含むモータ1と、モータ1の回転軸2と、回転軸2を支持する一対の転がり軸受24と、これらモータ1、回転軸2、及び転がり軸受24を収容するハウジング12と、を有する。転がり軸受24は、ハウジング12に固定された外輪25と、モータの回転軸2に装着された内輪26と、これら外輪25と内輪26との間に介装された複数の転動体(玉やころ)27と、複数の転動体27を保持する保持部28と、を有する。転がり軸受24の外輪25の外側には、転がり軸受24において径方向に付与される荷重(ラジアル荷重)を検出する軸受荷重センサ69が設けられている。
【0085】
また、モータの軸受システム101は、更に、回転軸2と転がり軸受24との間に気体層を形成して転がり軸受24に気体潤滑を行わせるべく、つまり転がり軸受24を気体潤滑軸受として動作させるべく、転がり軸受24に対して気体(典型的には空気であるが、オイルガスや冷媒でもよい)を供給するポンプ30を有する。具体的には、ポンプ30は、一対の転がり軸受24のそれぞれにおける内輪26と転動体27を保持する保持部28との間(回転軸2の径方向において規定されるラジアル隙間)に、気体を気体供給通路31から供給する。この気体供給通路31は、その下流側の部分31aが、ハウジング12及び転がり軸受24の外輪25並びに保持部28内に形成されている。
【0086】
図11は、モータの軸受システム101においてポンプ30が作動していないときの転がり軸受24の状態を示している。図11において、左側には、回転軸2及び転がり軸受24の横断面を示し、右側には、この横断面に直交する、回転軸2及び転がり軸受24の縦断面を示している。図11に示すように、ポンプ30が作動していないときには、転がり軸受24は、転動体27が外輪25及び内輪26と接触しており、正に転がり軸受として機能する。
【0087】
図12は、モータの軸受システム101においてポンプ30が作動しているときの転がり軸受24の状態を示している。図12において、左側には、回転軸2及び転がり軸受24の横断面を示し、右側には、この横断面に直交する、回転軸2及び転がり軸受24の縦断面を示している。ポンプ30が作動しているときには、転がり軸受24では、ポンプ30から供給される気体により、内輪26と転動体27を保持する保持部28との隙間SPに気体層が形成され、保持部28及び転動体27が内輪26に対して浮遊している。このときには、保持部28は、図示しない係止部材(ツメなど)により外輪25に固定され、回転しないようになっている。このような状態では、保持部28に保持されている転動体27が内輪26と接触しないため、転がり軸受24は、転がり軸受として機能しなくなる。その代わりに、転がり軸受24は、ポンプ30から供給される気体により気体潤滑を行う気体潤滑軸受として機能する。なお、第1実施形態で述べたように、摺動速度が極めて大きくなる高回転領域R14では、ポンプ30により静圧を付与しなくても、このような気体潤滑軸受が実現される(よって、ポンプ30が停止される)。
【0088】
以上述べた第2実施形態によれば、1つの転がり軸受24が、転がり軸受及び気体潤滑軸受として選択的に動作するように構成されているので、第1実施形態と同様のモータ軸受制御を簡易な構成にて実現することができる。
【符号の説明】
【0089】
1 モータ
2 回転軸
3 滑り軸受
4 転がり軸受
5a、5b 外輪
6 内輪
7 転動体
12 ハウジング
15 切り替え駆動装置
20 切り替え機構
24 転がり軸受
25 外輪
26 内輪
27 転動体
28 保持部
30 ポンプ
31 気体供給通路
50 制御装置
66 モータ回転速度センサ
100、100a、101 モータの軸受システム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12