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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024135670
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】モータの軸受システム
(51)【国際特許分類】
   F16C 32/06 20060101AFI20240927BHJP
【FI】
F16C32/06 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023046470
(22)【出願日】2023-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100059959
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 稔
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162824
【弁理士】
【氏名又は名称】石崎 亮
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 るな
(72)【発明者】
【氏名】宮内 勇馬
【テーマコード(参考)】
3J102
【Fターム(参考)】
3J102AA02
3J102AA07
3J102AA09
3J102BA03
3J102BA17
3J102CA35
3J102EA02
3J102EA08
3J102EA30
3J102EB03
3J102EB16
3J102GA13
(57)【要約】
【課題】気体供給通路からの気体により気体潤滑軸受として動作可能な軸受を有するモータの軸受システムにおいて、軸受から気体供給通路への気体の逆流を防止する。
【解決手段】モータの軸受システム100は、気体潤滑軸受として動作可能な軸受3と、モータのハウジング12内に形成され、軸受に気体を供給する気体供給通路31aと、気体供給通路に形成され、第1流路33aと、第1流路から分岐して当該第1流路に合流する第2流路33bとを備える逆流防止部33と、を有する。逆流防止部は、気体を軸受に向かう方向に流すと、気体が主に第1流路を通って流れていく一方で、気体を上記方向と反対方向に流すと、第1流路を流れる気体と第2流路を流れる気体とが衝突することで、気体の反対方向への流れが阻害されるように構成されている。また、逆流防止部は、気体供給通路において下流側の位置に形成されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータの軸受システムであって、
モータの回転軸を支持し、供給される気体により気体潤滑を行う気体潤滑軸受として動作可能に構成された軸受と、
前記モータのハウジング内に形成された通路であって、前記軸受に前記気体を供給するための気体供給通路と、
前記気体供給通路中に形成され、第1流路と、前記第1流路から分岐して当該第1流路に合流する第2流路とを備える逆流防止部であって、前記逆流防止部内において前記気体を前記軸受に向かう方向に流すと、前記気体が主に前記第1流路を通って流れていく一方で、前記逆流防止部内において前記気体を前記方向と反対方向に流すと、前記第1流路を流れる前記気体と前記第2流路を流れる前記気体とが衝突することで、前記気体の前記反対方向への流れが阻害されるように構成された、前記逆流防止部と、
を有し、
前記逆流防止部は、前記気体供給通路において下流側の位置に形成されている、ことを特徴とするモータの軸受システム。
【請求項2】
前記回転軸の軸方向から見たときの前記逆流防止部の幅は、前記回転軸の径よりも小さい、請求項1に記載のモータの軸受システム。
【請求項3】
前記気体供給通路において前記逆流防止部が形成された部分の長さは、前記気体供給通路において前記逆流防止部が形成されていない部分の長さよりも短い、請求項1又は2に記載のモータの軸受システム。
【請求項4】
前記逆流防止部は、一対の前記第1及び第2流路を、前記気体の流れ方向に沿って複数有する、請求項1又は2に記載のモータの軸受システム。
【請求項5】
前記逆流防止部を第1逆流防止部とすると、前記気体供給通路には、前記第1逆流防止部に加えて、当該気体供給通路において上流側の位置に形成され、前記第1及び第2流路を備える第2逆流防止部が更に形成されている、請求項1又は2に記載のモータの軸受システム。
【請求項6】
前記ハウジングは、互いに連結される2つのハウジングを備え、前記逆流防止部は、これら2つのハウジングの一方の合わせ面に沿って形成されている、請求項1又は2に記載のモータの軸受システム。
【請求項7】
前記気体供給通路に接続され、当該気体供給通路を介して前記軸受に前記気体を供給するためのポンプと、
前記モータの回転速度を検出する検出装置と、
前記検出装置により検出された前記回転速度に基づき、前記軸受を前記気体潤滑軸受として動作させるべく前記ポンプから前記軸受に前記気体を供給するように当該ポンプを制御するように構成された制御装置と、
を更に有する、請求項1又は2に記載のモータの軸受システム。
【請求項8】
前記回転軸を支持する転がり軸受と、
前記転がり軸受が前記回転軸を支持する軸受として機能する第1状態と、前記軸受が前記回転軸を支持する軸受として機能する第2状態と、のいずれか一方に設定可能に構成された切り替え機構と、
前記モータの回転速度を検出する検出装置と、
前記検出装置により検出された前記回転速度に基づき、前記切り替え機構を制御するように構成された制御装置と、
を更に有し、
前記制御装置は、前記回転速度が第1速度未満では、前記切り替え機構を前記第1状態に設定する一方で、前記回転速度が前記第1速度以上では、前記切り替え機構を前記第2状態に設定するように構成されている、請求項1又は2に記載のモータの軸受システム。
【請求項9】
前記気体供給通路に接続され、当該気体供給通路を介して前記軸受に前記気体を供給するポンプを更に有し、
前記制御装置は、前記回転速度が前記第1速度以上で且つ当該第1速度よりも高い第2速度未満であるときには、前記軸受を前記気体潤滑軸受として動作させるべく前記ポンプから前記軸受に前記気体を供給するように当該ポンプを制御するように構成されている、請求項8に記載のモータの軸受システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータの軸受システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば車両の動力源(エンジンやモータ)の回転軸などを支持する軸受として、転がり軸受や滑り軸受が用いられている。転がり軸受は、低回転領域においてフリクションが小さい一方、滑り軸受は、低回転領域においてフリクションが大きい。他方で、転がり軸受は、転がり疲労により寿命が有限であるが、滑り軸受は、潤滑が適切な条件下では寿命が永久的である。
【0003】
ここで、転がり軸受及び滑り軸受の両方を有するようにシステムを構成して、上記のような各軸受の特性に応じて、適用する軸受を切り替える技術が提案されている。例えば、特許文献1には、エンジンのクランクシャフトやカムシャフトを支持する軸受として転がり軸受及び滑り軸受を用いるシステムに関して、回転数が低い始動時には転がり軸受のみを機能させ、この始動後には滑り軸受のみを機能させることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-19728号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、エンジンにおいては、高回転領域において、滑り軸受を適用するのが効果的である。この滑り軸受には、一般的に、潤滑油による流体潤滑が用いられている。ところで、エンジンよりも高回転で動作するモータでは、このような滑り軸受をモータの高回転領域において適用すると、潤滑油の流体摩擦や抵抗が大きくなり、モータの電費が低下するという問題がある。
【0006】
このような問題を解決するために、本件発明者は、潤滑油よりも粘度が小さい気体での潤滑(気体潤滑)を用いる気体潤滑軸受(例えば空気軸受)を、滑り軸受に適用することを考えた。この気体潤滑軸受を実現するためには、軸受と回転軸との接触防止のために、これらの間に気体層を確実に形成する必要がある。この気体層の形成には、所謂くさび効果及び絞り効果を利用するのが良いと考えられる。このくさび効果及び絞り効果は、摺動速度が大きくなるモータの高回転領域において得られる。
【0007】
本件発明者は、このような高回転速度域での気体層の形成状態を様々な車両環境において分析したところ、形成される気体層の厚みにばらつきが生じ得ることがわかった。これは、軸受と回転軸との距離が車両振動等により変化することに起因して、気体が、軸受から、軸受に気体を供給する気体供給通路へと過渡的に逆流するからであると考えられる。本件発明者は、このような知見に基づき、気体供給通路での気体の逆流を防止することを着想し、本発明を完成させたのである。
【0008】
本発明は、以上のような知見に基づいてなされたものであり、気体供給通路から供給される気体により気体潤滑軸受として動作可能に構成された軸受を有するモータの軸受システムにおいて、軸受から気体供給通路への気体の逆流を的確に防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明は、モータの軸受システムであって、モータの回転軸を支持し、供給される気体により気体潤滑を行う気体潤滑軸受として動作可能に構成された軸受と、モータのハウジング内に形成された通路であって、軸受に気体を供給するための気体供給通路と、気体供給通路中に形成され、第1流路と、第1流路から分岐して当該第1流路に合流する第2流路とを備える逆流防止部であって、逆流防止部内において気体を軸受に向かう方向に流すと、気体が主に第1流路を通って流れていく一方で、逆流防止部内において気体を方向と反対方向に流すと、第1流路を流れる気体と第2流路を流れる気体とが衝突することで、気体の反対方向への流れ(逆流)が阻害されるように構成された、逆流防止部と、を有し、逆流防止部は、気体供給通路において下流側の位置に形成されている、ことを特徴とする。
【0010】
このように構成された本発明では、第1流路を流れる気体と第2流路を流れる気体とが衝突することで気体の反対方向の流れ(逆流)が阻害されるように構成された逆流防止部を用いるので、一般的な逆止弁(チェックバルブ)などを用いる場合と比較して、簡易な構成にて、軸受から気体供給通路への気体の逆流を防止することができ、モータの軸受システムの大型化を抑制可能である。
また、本発明では、逆流防止部を気体供給通路における下流側の位置に形成しているので、逆流防止部を気体供給通路における上流側の位置に形成する場合と比較して、気体供給通路において逆流が生じる部分の長さが短くなるため、逆流による気体圧縮損失を抑制することができる。したがって、本発明によれば、気体供給通路から供給する気体により気体潤滑軸受を的確に実現して、気体潤滑軸受の適用による電費改善効果を確保することが可能となる。
【0011】
本発明において、好ましくは、回転軸の軸方向から見たときの逆流防止部の幅は、回転軸の径よりも小さい。
このように構成された本発明によれば、逆流防止部を小型化することで、逆流防止部を設けたことによるモータの軸受システムの大型化を効果的に抑制可能である。
【0012】
本発明において、好ましくは、気体供給通路において逆流防止部が形成された部分の長さは、気体供給通路において逆流防止部が形成されていない部分の長さよりも短い。
このように構成された本発明によれば、逆流防止部を小型化することで、逆流防止部を設けたことによるモータの軸受システムの大型化を効果的に抑制可能である。
【0013】
本発明において、好ましくは、逆流防止部は、一対の第1及び第2流路を、気体の流れ方向に沿って複数有する。
このように構成された本発明によれば、複数の一対の第1及び第2流路により、気体供給通路内の気体の逆流を効果的に防止することができる。
【0014】
本発明において、好ましくは、逆流防止部を第1逆流防止部とすると、気体供給通路には、第1逆流防止部に加えて、当該気体供給通路において上流側の位置に形成され、第1及び第2流路を備える第2逆流防止部が更に形成されている。
このように構成された本発明によれば、2つの逆流防止部を気体供給通路に設けることで、気体供給通路内の気体の逆流を効果的に防止することができる。
【0015】
本発明において、好ましくは、ハウジングは、互いに連結される2つのハウジングを備え、逆流防止部は、これら2つのハウジングの一方の合わせ面に沿って形成されている。
このように構成された本発明によれば、一方のハウジングの外壁面(合わせ面)のみに逆流防止部を形成するので、ハウジングを成型するための金型を用いて、逆流防止部を容易に形成することができる。
【0016】
本発明において、好ましくは、気体供給通路に接続され、当該気体供給通路を介して軸受に気体を供給するためのポンプと、モータの回転速度を検出する検出装置と、検出装置により検出された回転速度に基づき、軸受を気体潤滑軸受として動作させるべくポンプから軸受に気体を供給するように当該ポンプを制御するように構成された制御装置と、を更に有する。
このように構成された本発明によれば、くさび効果及び絞り効果が十分得られないような、比較的低いモータの回転領域において、ポンプからの気体の圧送によって回転軸と軸受との間に気体層を形成することで、気体潤滑軸受を実現することができる。よって、気体潤滑軸受を実現可能な回転領域を拡大することができる。
【0017】
本発明において、好ましくは、回転軸を支持する転がり軸受と、転がり軸受が回転軸を支持する軸受として機能する第1状態と、軸受が回転軸を支持する軸受として機能する第2状態と、のいずれか一方に設定可能に構成された切り替え機構と、モータの回転速度を検出する検出装置と、検出装置により検出された回転速度に基づき、切り替え機構を制御するように構成された制御装置と、を更に有し、制御装置は、回転速度が第1速度未満では、切り替え機構を第1状態に設定する一方で、回転速度が第1速度以上では、切り替え機構を第2状態に設定するように構成されている。
このように構成された本発明によれば、制御装置は、くさび効果及び絞り効果が得られないような比較的低い回転領域では、気体潤滑軸受として動作させる軸受が回転軸に接触することがあるので、この軸受の代わりに転がり軸受を適用する一方で、くさび効果及び絞り効果が得られるような比較的高い回転領域では、軸受が回転軸に接触しにくくなるので、気体潤滑軸受を適用する。これにより、軸受による回転軸への接触を回避しつつ、気体潤滑軸受を実現可能となる。
【0018】
本発明において、好ましくは、気体供給通路に接続され、当該気体供給通路を介して軸受に気体を供給するポンプを更に有し、制御装置は、回転速度が第1速度以上で且つ当該第1速度よりも高い第2速度未満であるときには、軸受を気体潤滑軸受として動作させるべくポンプから軸受に気体を供給するように当該ポンプを制御するように構成されている。
このように構成された本発明によれば、制御装置は、くさび効果及び絞り効果が得られるような第1速度以上で且つ第2速度未満の回転領域(中回転領域)では、気体潤滑軸受のために必要なポンプの消費電力が比較的小さくなるので、具体的には気体潤滑軸受を適用することによる電費改善代がポンプ作動による電費低下代よりも高くなるので、ポンプからの気体の圧送によって気体潤滑軸受を実現する。これにより、気体潤滑軸受の適用による電費改善効果を確保することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、気体供給通路から供給される気体により気体潤滑軸受として動作可能に構成された軸受を有するモータの軸受システムにおいて、軸受から気体供給通路への気体の逆流を的確に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の第1実施形態によるモータの軸受システムの概略構成図である。
図2】本発明の第1実施形態によるモータの軸受システムにおける図1中のII-II線に沿って見た断面図である。
図3】本発明の第1実施形態による逆流防止部の拡大断面図である。
図4】本発明の第1実施形態による逆流防止部内の気体の流れについての説明図である。
図5】本発明の第1実施形態によるモータの軸受システムの電気的構成を示すブロック図である。
図6】本発明の第1実施形態によるモータ軸受制御の基本概念についての説明図である。
図7】本発明の第1実施形態によるモータ軸受制御を示すタイムチャートである。
図8】本発明の第1実施形態によるモータ軸受制御を示すフローチャートである。
図9】本発明の第1実施形態の変形例によるモータの軸受システムの概略構成図である。
図10】本発明の第2実施形態によるモータの軸受システムの概略構成図である。
図11】本発明の第2実施形態によるモータの軸受システムにおいてポンプが作動していないときの転がり軸受の状態を示す断面図である。
図12】本発明の第2実施形態によるモータの軸受システムにおいてポンプが作動しているときの転がり軸受の状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態によるモータの軸受システムを説明する。
【0022】
[第1実施形態]
ここでは、本発明の第1実施形態について説明する。まず、図1乃至図5を参照して、第1実施形態によるモータの軸受システムの構成について説明する。図1は、第1実施形態によるモータの軸受システムの概略構成図である。図2は、第1実施形態によるモータの軸受システムの図1中のII-II線に沿って見た断面図である。図3は、第1実施形態による逆流防止部の拡大断面図である。図4は、第1実施形態による逆流防止部内の気体の流れの説明図である。図5は、第1実施形態によるモータの軸受システムの電気的構成を示すブロック図である。
【0023】
図1に示すように、モータの軸受システム100は、車両に搭載され、主に、車両を駆動するモータ1(図1ではその詳細の図示を省略)と、モータ1の回転軸2と、回転軸2を支持する一対の滑り軸受3と、回転軸2の軸線上において滑り軸受3と並列して配置され、回転軸2を支持する一対の転がり軸受4と、これらモータ1、回転軸2、滑り軸受3及び転がり軸受4を収容するハウジング12(12a、12b)と、を有する。ハウジング12において、ハウジング12aは、モータ1のロータ(不図示)などを収容するメインのハウジングであり、ハウジング12bは、このハウジング12aに連結されるサイドハウジングである(以下では、ハウジング12a、12bを特に区別しない場合には、単にハウジング12と表記する)。ハウジング12aとハウジング12bとは、それぞれの合わせ面12cにおいて連結されている。
【0024】
転がり軸受4は、例えばアンギュラ玉軸受であり、外輪5a、5bと、回転軸2に装着された内輪6と、これら外輪5a、5bと内輪6との間に介装された複数の転動体(玉やころ)7と、を有する。回転軸2の左端側にある転がり軸受4の外輪5bは、円筒状の外輪固定部材8の内周側に装着される一方、回転軸2の右端側にある転がり軸受4の外輪5aは、円筒状の外輪可動部材9の内周側に装着されている。後者の外輪可動部材9は、一端外周にネジ溝10を有し、他端外周に扇状歯車11を有している。
【0025】
外輪5aを装着した外輪可動部材9のネジ溝10は、ハウジング12bの右端内周に形成されたネジ溝13と螺合する。外輪5bを装着した外輪固定部材8は、ハウジング12bの左端に固定されている。また、このようなハウジング12bの右端側外周には、図示しないモータ及び減速機を内蔵する切り替え駆動装置15が設けられている。この切り替え駆動装置15は、駆動軸16及びこの駆動軸16に固定された駆動歯車17を有し、この駆動歯車17は、外輪可動部材9の扇状歯車11と歯合している。
【0026】
また、モータの軸受システム100は、更に、回転軸2と滑り軸受3との間に気体層を形成して滑り軸受3に気体潤滑を行わせるべく、つまり滑り軸受3を回転軸2から浮遊させて気体潤滑軸受として動作させるべく、滑り軸受3に対して気体(典型的には空気であるが、オイルガスや冷媒でもよい)を供給するポンプ30を有する。具体的には、ポンプ30は、一対の滑り軸受3のそれぞれにおける回転軸2との間の隙間(回転軸2の径方向において規定されるラジアル隙間)に、気体を気体供給通路31から供給する。これにより、滑り軸受3は、回転軸2の外周面と、回転軸2及び滑り軸受3を取り囲むハウジング12の内周面との間に浮遊可能に構成されている。
【0027】
具体的には、気体供給通路31は、滑り軸受3に接続される下流側の部分31aが、ハウジング12及び滑り軸受3内に形成されている。この気体供給通路31aは、図1に示す例では、ハウジング12bのみに形成されているが、ハウジング12aにも形成してもよい。また、気体供給通路31aは、その下流側の位置に、滑り軸受3から気体供給通路31aへ向かうような気体の逆流を防止するための逆流防止部33が形成されている(図1では逆流防止部33を模式的に示している)。この「下流側の位置」とは、ハウジング12に形成された気体供給通路31aにおいて、長さ方向(気体の流れ方向)における中間位置よりも滑り軸受3側にある部分の位置を意味する(これに対して、上流側の位置は、中間位置よりも滑り軸受3側と反対側にある部分の位置を意味する)。更に、逆流防止部33は、ハウジング12bの合わせ面12cに沿って形成されている。これにより、金型を用いてハウジング12bに逆流防止部33を容易に形成することができる。
【0028】
なお、上記した、外輪可動部材9(ネジ溝10及び扇状歯車11を含む)、ハウジング12bのネジ溝13、切り替え駆動装置15(駆動軸16及び駆動歯車17を含む)は、回転軸2を支持するように機能させる軸受を、転がり軸受4と滑り軸受3との間で切り替えるための切り替え機構20を構成する。
【0029】
ここで、切り替え機構20による軸受の切り替え動作について説明する。まず、転がり軸受4において転動体7が外輪5a、5b及び内輪6と接触している基本的な状態では、転がり軸受4が回転軸2を支持する軸受として機能する。この状態では、滑り軸受3と回転軸2との間にはラジアル隙間が生じており、滑り軸受3は回転軸2と接触しない。したがって、滑り軸受3は、回転軸2を支持する軸受として機能しない。まとめると、上述したような状態は、転がり軸受4が回転軸2を支持する軸受として機能し且つ滑り軸受3が回転軸2を支持する軸受として機能しない状態(第1状態)に相当する。
【0030】
続いて、切り替え機構20の切り替え駆動装置15が駆動軸16を介して駆動歯車17を回転させると、駆動歯車17と歯合している扇状歯車11が回転し、この扇状歯車11に連結されたネジ溝10も回転することで、当該ネジ溝10がハウジング12bのネジ溝13に沿って軸方向で図1の右方向に移動する。これにより、ネジ溝10及び扇状歯車11を有する外輪可動部材9全体が右方向に移動する。その結果、外輪5aも右方向に移動することで、外輪5aが転動体7と離間する(つまり非接触となる)。また、こうして外輪5a(回転軸2の右端側にある転がり軸受4の外輪5aである)が移動すると、回転軸2も右方向に移動する。その結果、回転軸2の左端側にある転がり軸受4の内輪6が移動することで、当該転がり軸受4の外輪5bも転動体7と離間する(つまり非接触となる)。以上のように切り替え機構20が動作すると、つまり切り替え機構20の切り替え駆動装置15が駆動すると、転がり軸受4が回転軸2を支持する軸受として機能しなくなる。
【0031】
他方で、このように転がり軸受4において外輪5a、5bが転動体7と離間した状態では、転がり軸受4内にラジアル隙間が生じるが、このラジアル隙間は、上記した滑り軸受3と回転軸2との間のラジアル隙間よりも大きい。そのため、回転軸2等が、自重や外部負荷により下方に移動することで、回転軸2が滑り軸受3と接触可能な状態となる。これにより、滑り軸受3が回転軸2を支持する軸受として機能する状態となる。基本的には、本実施形態では、この状態において、上述したようにポンプ30から気体を供給して回転軸2と滑り軸受3との間に気体層を形成するので、滑り軸受3が回転軸2と接触することはない。まとめると、以上述べたような状態、つまり切り替え機構20の切り替え駆動装置15が駆動した状態では、滑り軸受3が回転軸2を支持する軸受として機能し且つ転がり軸受4が回転軸2を支持する軸受として機能しない状態(第2状態)となる。
【0032】
なお、上記した例では、歯車やネジ溝などを利用して、外輪5aを移動させていたが、他の例では、所定の押し出し機構を用いて外輪5aを移動させてもよい。この例では、バネで付勢した状態にある外輪5aに対して、このバネによる付勢力に打ち勝つように、押し出し機構による押し出し力を付与すればよい。また、上記した例では、外輪5a、5bを転動体7と離間させていたが、更に他の例では、外輪5a、5bの代わりに内輪6を転動体7と離間させるようにしてもよい。
【0033】
次に、図2乃至図4を参照して、気体供給通路31aに形成された逆流防止部33について説明する。図2に示すように、逆流防止部33は、気体供給通路31aにおいて下流側の位置、特に最下流位置に形成され、滑り軸受3に隣接配置されている。また、図2から明らかなように、逆流防止部33は、軸方向から見たときの幅が回転軸2の径よりも小さく、且つ、気体供給通路31aにおいて逆流防止部33が形成された部分の長さが、気体供給通路31aにおいて逆流防止部33が形成されていない部分の長さよりも短くなるように構成されている。
【0034】
続いて、図3に示すように、逆流防止部33は、概ね真っすぐに延びる主となる第1流路33aと、この第1流路33aから分岐して当該第1流路33aに合流するように一部分が湾曲して形成された第2流路33bと、を複数有する。つまり、逆流防止部33は、一対の第1及び第2流路33a、33bが気体の流れ方向に沿って複数設けられた、所謂テスラバルブにより構成されている。
【0035】
続いて、このような逆流防止部33では、図4(a)に示すように、逆流防止部33内において気体を滑り軸受3に向かう方向に流すと、気体が主に第1流路33aを通って流れていく(矢印A1)。これに対して、図4(b)に示すように、逆流防止部33内において気体を滑り軸受3から離れる方向に流すと、第1流路33aを流れる気体(矢印A21)と、第2流路33bを流れる気体(矢印A22)とが衝突する。具体的には、第2流路33bを流れた気体が、当該第2流路33b中の湾曲部を介して第1流路33aへと還流されることで、一対の第1及び第2流路33a、33b内において対向する流れが発生する。その結果、逆流防止部33によれば、気体供給通路31aから滑り軸受3へ向かうような気体の順方向の流れのみが生じ、滑り軸受3から気体供給通路31aへ向かうような気体の逆流が防止されるようになっている。また、こうして逆流が防止されると、滑り軸受3の周囲(特に摺動部の周り)に気体を閉じ込めておくことができる。
【0036】
次に、図5を参照して、第1実施形態によるモータの軸受システム100の電気的構成について説明する。図5に示すように、モータの軸受システム100は、符号61~74で示すような各種のセンサ類と、この各種のセンサ類から各種信号が入力される制御装置50と、この制御装置50から供給される制御信号により制御される、上述した切り替え駆動装置15及びポンプ30、及び、モータ1に接続されたインバータ22と、を有する。制御装置50は、1つ以上のプロセッサ50a(典型的にはCPU)と、当該プロセッサ50a上で解釈実行される各種のプログラム(OSなどの基本制御プログラムや、OS上で起動され特定機能を実現するアプリケーションプログラムを含む)や各種のデータを記憶するROMやRAMなどのメモリ50bと、を備えるコンピュータにより構成される。
【0037】
具体的には、モータの軸受システム100は、車両の速度(車速)を検出する車速センサ61と、車両の加速度を検出する加速度センサ62と、アクセルペダルの踏込み量に対応するアクセル開度を検出するアクセル開度センサ63と、ブレーキペダルの踏み込み量を検出するブレーキセンサ64と、ステアリングホイールの回転角度(操舵角)を検出する操舵角センサ65と、モータ1の回転速度(一義的に回転数)を検出するモータ回転速度センサ66と、モータ1のトルクを検出するモータトルクセンサ67と、ポンプ30の圧力を検出するポンプ圧力センサ68と、滑り軸受3及び転がり軸受4において径方向に付与される荷重(ラジアル荷重)を検出する軸受荷重センサ69と、を有する。なお、モータ回転速度センサ66は、本発明における「検出装置」に相当する。
【0038】
更に、モータの軸受システム100は、車両の周囲を撮影する車両カメラ70と、車両の周囲に存在する対象物(他車両や歩行者や障害物など)の位置及び速度を測定するレーダ71(例えばミリ波レーダ)と、車車間通信や路車間通信などを行う通信装置72と、GPSシステムやジャイロシステムなどを含み、車両の位置を検出する測位システム73と、地図データを格納しているナビシステム74と、を有する。なお、レーダ71の代わりに、レーザレーダや超音波センサなどを用いてもよい。
【0039】
次に、図6を参照して、第1実施形態によるモータ軸受制御の基本概念について説明する。ここでは、第1実施形態によるモータ軸受制御と、比較例によるモータ軸受制御とを対比説明する。図6は、横軸にモータ回転速度を示し、縦軸に軸摩擦トルクを示している。
【0040】
比較例によるモータ軸受制御では、モータの回転軸を支持するように機能させる軸受を、転がり軸受と、潤滑油による流体潤滑を用いる滑り軸受とで切り替えるようにする。具体的には、比較例では、モータ回転速度が領域R11(以下では適宜「低回転領域」と呼ぶ。)にあるときには、回転軸2を支持するように機能させる軸受として転がり軸受を適用する一方で、モータ回転速度が低回転領域R11よりも高い領域R12にあるときには、回転軸2を支持するように機能させる軸受として滑り軸受を適用する。この制御は、特許文献1に記載された技術に相当する。
【0041】
図6において、グラフG11は、転がり軸受で生じる軸摩擦トルク、つまり直接接触による境界潤滑摩擦を示し、グラフG12は、潤滑油による流体潤滑を用いる滑り軸受で生じる軸摩擦トルク、つまり潤滑油の流体潤滑摩擦を示している。したがって、上記した比較例によるモータ軸受制御において生じる軸摩擦トルクは、グラフG11に示す軸摩擦トルクとグラフG12に示す軸摩擦トルクとを加算したもの、つまりグラフG21に示すものとなる。この場合、領域R12においてモータ回転速度が高くなるほど軸摩擦トルクが大きく増加しているのは、グラフG13に示すような、転がり軸受内の転動体の変形による摩擦増加によるものである。
【0042】
これに対して、第1実施形態では、上述したように、モータ1の回転軸2を支持するように機能させる軸受を、転がり軸受4と、ポンプ30から供給される気体により気体潤滑軸受として動作可能な滑り軸受3とで切り替えるようにする。まず、低回転領域R11では、くさび効果及び絞り効果がほとんど得られないので、気体潤滑軸受として動作させた滑り軸受3を適用することで得られる電費改善代が、この気体潤滑軸受を実現するためにポンプ30を作動させることによる電費低下代よりも低くなる(つまりポンプ30の消費電力が非常に大きくなる)。そのため、制御装置50は、低回転領域R11では、ポンプ30を停止した状態において、回転軸2を支持するように機能させる軸受として転がり軸受4を適用するように、切り替え機構20の切り替え駆動装置15を制御する。つまり、制御装置50は、滑り軸受3を機能させないようにし、転がり軸受4のみを機能させるように、切り替え駆動装置15を制御する。
【0043】
一方で、このようなモータ回転速度が低回転領域R11を超えると、つまり低回転領域R11よりも高い領域R12においては、くさび効果及び絞り効果をある程度得られるようになるので、気体潤滑軸受として動作させる滑り軸受3を適用することで得られる電費改善代が、この気体潤滑軸受を実現するためにポンプ30を作動させることによる電費低下代よりも高くなる。そのため、制御装置50は、領域R12では、回転軸2を支持するように機能させる軸受として滑り軸受3を適用するように、切り替え駆動装置15を制御する。また、摺動速度が極めて高くなる、領域R12内の高回転側の領域R14では、大きなくさび効果及び絞り効果が得られるため、ポンプ30により静圧を付与しなくても気体潤滑軸受を実現できる。したがって、第1実施形態では、制御装置50は、滑り軸受3を機能させる領域R12において、低回転側の領域R13(以下では適宜「中回転領域」と呼ぶ。)では、ポンプ30を作動させつつ、滑り軸受3のみを機能させるように切り替え駆動装置15を制御する一方で、高回転側の領域R14(以下では適宜「高回転領域」と呼ぶ。)では、ポンプ30を停止して、滑り軸受3のみを機能させるように切り替え駆動装置15を制御する。
【0044】
図6において、グラフG14は、気体潤滑軸受として動作させた滑り軸受3で生じる軸摩擦トルク、つまり気体潤滑摩擦を示している。したがって、上記した第1実施形態によるモータ軸受制御において生じる軸摩擦トルクは、グラフG11に示す軸摩擦トルクとグラフG14に示す軸摩擦トルクとを加算したもの、つまりグラフG22に示すものとなる。このようなグラフG22に示す第1実施形態による軸摩擦トルクを、グラフG21に示す比較例による軸摩擦トルクと比較すると、第1実施形態によれば、軸摩擦トルクを大幅に低減していることがわかる。したがって、第1実施形態によれば、比較例と比較して、電費を効果的に改善することができると言える。
【0045】
次に、図7を参照して、第1実施形態によるモータ軸受制御の基本的な流れについて説明する。図7は、第1実施形態によるモータ軸受制御を示すタイムチャートである。図7は、横軸に時間を示し、上から順に、モータ回転速度、切り替え機構20の切り替え駆動装置15に供給される信号(以下では「軸受切り替え信号」と呼ぶ。)、ポンプ30のオン/オフ信号、ポンプ圧力を示している。
【0046】
図7に示すように、制御装置50は、時刻t0でモータ1を始動させると、ポンプ30をオフにした状態において、転がり軸受4のみを機能させるように切り替え機構20を設定する(この場合、切り替え駆動装置15に供給される軸受切り替え信号はオフである)。そして、モータ回転速度が、上記の中回転領域R13の下限値に対応する第1速度V1に達する時刻t1において、制御装置50は、切り替え駆動装置15に供給する軸受切り替え信号をオンにすることで、滑り軸受3のみを機能させるようにする、つまり、モータ1の回転軸2を支持するように機能させる軸受を、転がり軸受4から滑り軸受3に切り替えるようにする。これとほぼ同時に、制御装置50は、ポンプ30をオンにすることで(ポンプ圧力を発生させる)、ポンプ30からの気体により回転軸2と滑り軸受3との間に気体層を形成して、滑り軸受3を気体潤滑軸受として動作させるようにする。なお、所望のポンプ圧力が発生するまでの時間を考慮して、軸受切り替え信号をオンにする前に、ポンプ30をオン(ポンプ信号をオン)にしてもよい。
【0047】
そして、モータ回転速度が、上記の高回転領域R14の下限値に対応する第2速度V2に達する時刻t2において、制御装置50は、切り替え駆動装置15に供給する軸受切り替え信号をオンにしつつ、ポンプ30をオフにする(ポンプ圧力を0にする)。こうするのは、高回転領域R14では、摺動速度が極めて高くなり、大きなくさび効果及び絞り効果が得られるため、ポンプ30を作動させなくても気体潤滑軸受を実現できるからである。
【0048】
次に、図8を参照して、第1実施形態によるモータ軸受制御の具体的な流れについて説明する。図8は、第1実施形態によるモータ軸受制御を示すフローチャートである。このフローは、制御装置50によって所定の周期で繰り返し実行される。より詳しくは、制御装置50内のプロセッサ50aが、メモリ50bに記憶されたプログラムを読み出して、当該プログラムを実行することで、このフローに係るモータ軸受制御が実現される。
【0049】
まず、ステップS101において、制御装置50は、図5に示した各種のセンサ類61~74から各種信号を取得する。そして、ステップS102において、制御装置50は、モータ1が停止中であるか否かを判定する。例えば、制御装置50は、モータ回転速度センサ66から供給された信号に対応するモータ回転速度に基づき、モータ1が停止中であるか否かを判定する。その結果、制御装置50は、モータ1が停止中であると判定した場合には(ステップS102:Yes)、ステップS103に進み、モータ1が停止中であると判定しなかった場合には(ステップS102:No)、モータ軸受制御を終了する。
【0050】
次いで、ステップS103において、制御装置50は、モータ1の回転軸2を支持するように機能させる軸受として転がり軸受4を適用するように、切り替え機構20の切り替え駆動装置15を設定する。例えば、制御装置50は、滑り軸受3が回転軸2を支持するように機能している状態にある場合には、回転軸2を支持するように機能させる軸受を、滑り軸受3から転がり軸受4に切り替えるように、切り替え駆動装置15を制御する。
【0051】
次いで、ステップS104において、制御装置50は、車両の始動要求があるか否かを判定する。例えば、制御装置50は、アクセル開度センサ63から供給された信号に対応するアクセル開度に基づき、始動要求があるか否かを判定する。その結果、制御装置50は、始動要求があると判定した場合には(ステップS104:Yes)、ステップS105に進み、モータ1を始動させる一方、始動要求があると判定しなかった場合には(ステップS104:No)、モータ軸受制御を終了する。
【0052】
次いで、ステップS106において、制御装置50は、モータ回転速度センサ66により検出されたモータ回転速度が第1速度V1以上であるか否か、つまりモータ回転速度が中回転領域R13にあるか否かを判定する。その結果、制御装置50は、モータ回転速度が第1速度V1以上であると判定した場合には(ステップS106:Yes)、ステップS107に進む。この場合、制御装置50は、滑り軸受3を気体潤滑軸受として動作させるべく、ポンプ30からの気体により回転軸2と滑り軸受3との間に気体層を形成するように、ポンプ30を制御する(ステップS107)。また、ステップS108において、制御装置50は、回転軸2を支持するように機能させる軸受を、転がり軸受4から滑り軸受3に切り替えるように、切り替え機構20の切り替え駆動装置15を制御する。他方で、制御装置50は、モータ回転速度が第1速度V1以上であると判定しなかった場合には(ステップS106:No)、ステップS106に戻る。
【0053】
次いで、ステップS109において、制御装置50は、モータ回転速度センサ66により検出されたモータ回転速度が第2速度V2以上であるか否か、つまりモータ回転速度が高回転領域R14にあるか否かを判定する。その結果、制御装置50は、モータ回転速度が第2速度V2以上であると判定した場合には(ステップS109:Yes)、ステップS110に進む。この場合、ポンプ30を作動させなくても気体潤滑軸受を実現できるので、制御装置50は、ポンプ30を停止する(ステップS110)。そして、制御装置50は、モータ軸受制御を終了する。これに対して、制御装置50は、モータ回転速度が第2速度V2以上であると判定しなかった場合には(ステップS109:No)、ステップS109に戻る。
【0054】
なお、このようにポンプ30を停止させる条件として、更に、車両の走行路において直線が続くという条件(例えば高速道路走行時に当該条件が成立する)、及び/又は、車両の走行路において平坦な路面が続くという条件を用いてもよい。制御装置50は、このような条件を、例えば車両カメラ70により撮影された車両の周囲の画像やナビシステム74に格納された地図データなどから、判定することができる。
【0055】
以上述べた第1実施形態では、気体潤滑軸受として動作可能に構成された滑り軸受3を有するモータの軸受システム100において、滑り軸受3に気体を供給するための気体供給通路31a中に逆流防止部33が形成されている。具体的には、逆流防止部33は、第1流路33aと、この第1流路33aから分岐して当該第1流路33aに合流する第2流路33bとを備え、逆流防止部33内において気体を滑り軸受3に向かう方向に流すと、気体が主に第1流路33aを通って流れていく一方で、逆流防止部33内において気体を上記方向と反対方向に流すと、第1流路33aを流れる気体と第2流路33bを流れる気体とが衝突するように構成されている。このような逆流防止部33によれば、一般的な逆止弁(チェックバルブ)などを用いる場合と比較して、簡易な構成にて、滑り軸受3から気体供給通路31aへの気体の逆流を防止することができ、モータの軸受システム100の大型化を抑制可能である。
【0056】
また、第1実施形態では、逆流防止部33を気体供給通路31aにおける下流側の位置に形成しているので、逆流防止部33を気体供給通路31aにおける上流側の位置に形成する場合と比較して、気体供給通路31aにおいて逆流が生じる部分の長さが短くなるため、逆流による気体圧縮損失を抑制することができる。したがって、気体供給通路31aから供給する気体により滑り軸受3による気体潤滑軸受を的確に実現でき、気体潤滑軸受の適用による電費改善効果を確保することが可能となる。
【0057】
また、第1実施形態では、逆流防止部33の幅が回転軸2の径よりも小さい。これにより、逆流防止部33を小型化することができ、逆流防止部33を設けたことによるモータの軸受システム100の大型化を効果的に抑制可能である。
【0058】
また、第1実施形態では、気体供給通路31aにおいて逆流防止部33が形成された部分の長さが、気体供給通路31aにおいて逆流防止部33が形成されていない部分の長さよりも短い。これによっても、逆流防止部33を小型化することができ、逆流防止部33を設けたことによるモータの軸受システム100の大型化を効果的に抑制可能である。
【0059】
また、第1実施形態では、逆流防止部33が、一対の第1及び第2流路33a、33bを気体の流れ方向に沿って複数有する。これにより、これら複数の一対の第1及び第2流路33a、33bにより、滑り軸受3から気体供給通路31aへの気体の逆流を効果的に防止することができる。
【0060】
また、第1実施形態では、逆流防止部33が、互いに連結される2つのハウジング12a、12bの一方の合わせ面12cに沿って形成されている。これにより、金型を用いて逆流防止部33を容易に形成することができる。
【0061】
また、第1実施形態では、制御装置50が、モータ回転速度に基づき、滑り軸受3を気体潤滑軸受として動作させるべくポンプ30から滑り軸受3に気体を供給するように当該ポンプ30を制御する。これにより、くさび効果及び絞り効果が十分得られないような比較的低い回転領域において、ポンプ30からの気体の圧送によって回転軸2と滑り軸受3との間に気体層を形成することで、滑り軸受3による気体潤滑軸受を実現可能な回転領域を拡大することができる。
【0062】
また、第1実施形態では、制御装置50が、モータ回転速度が第1速度V1未満では、転がり軸受4が回転軸2を支持する軸受する第1状態に切り替え機構20を設定する一方で、モータ回転速度が第1速度V1以上であるときには、滑り軸受3が回転軸2を支持する軸受として機能する第2状態に切り替え機構20を設定する。つまり、制御装置50は、くさび効果及び絞り効果が得られない低回転領域R11では、滑り軸受3を適用すると当該滑り軸受3が回転軸2に接触することがあるので、転がり軸受4を適用する一方で、くさび効果及び絞り効果が得られるようになる、低回転領域R11よりも高い回転領域R12では、滑り軸受3が回転軸2に接触しにくくなるので、気体潤滑軸受としての滑り軸受3を適用する。これにより、滑り軸受3による回転軸2への接触を回避しつつ、気体潤滑軸受を実現可能となる。
【0063】
また、第1実施形態では、制御装置50が、回転速度が第1速度V1以上で且つ第2速度V2未満であるときには、滑り軸受3を気体潤滑軸受として動作させるべくポンプ30から滑り軸受3に気体を供給するように当該ポンプ30を制御する。つまり、制御装置50は、くさび効果及び絞り効果が得られる中回転領域R13では、滑り軸受3を気体潤滑軸受として動作させるために必要なポンプ30の消費電力が比較的小さくなるので、具体的には、気体潤滑軸受としての滑り軸受3を適用することによる電費改善代が、気体潤滑軸受を実現するためのポンプ作動による電費低下代よりも高くなるので、ポンプ30からの気体の圧送によって滑り軸受3による気体潤滑軸受を実現する。これにより、気体潤滑軸受の適用による電費改善効果を確保することができる。
【0064】
ここで、上記した実施形態の変形例について説明する。なお、変形例は、後述する実施形態にも適用されるものとする。
【0065】
上記した実施形態では、モータ回転速度が第1速度V1未満であるときに、ポンプ30を停止させていたが、変形例では、ポンプ30をある程度作動させてもよい。但し、制御装置50は、モータ回転速度が第1速度V1未満であるときには、モータ回転速度が第1速度V1以上で且つ第2速度V2未満であるときよりも、ポンプ30の駆動力を小さくする。
【0066】
また、上記した実施形態では、モータ回転速度に基づきモータ軸受制御を行っていたが、変形例では、モータ回転数に基づきモータ軸受制御を行ってもよい。モータ回転数は、モータ回転速度に一義的に対応するものだからである。
【0067】
また、上記した実施形態では、制御装置50が切り替え駆動装置15を制御することで切り替え機構20を駆動させていたが、換言すると制御装置50が切り替え機構20を直接的に制御していたが(図1図5)、このような実施形態に限定はされない。図9は、第1実施形態の変形例によるモータの軸受システムの概略構成図である。この変形例によるモータの軸受システム100aでは、切り替え機構20aは、上記した実施形態のように切り替え駆動装置15により駆動されるものではなく、ポンプ30により駆動されるように構成されている。具体的には、切り替え機構20aにおいては、外輪可動部材9の扇状歯車11に歯合する駆動歯車17の駆動軸16が、上記した実施形態のように切り替え駆動装置15により駆動されずに、ポンプ30により駆動されるようになっている。より詳しくは、切り替え機構20aの駆動軸16とポンプ30の回転軸32とが、ベルトやチェーンやギヤなどの所定の伝達部材18を介して接続されており、それにより、ポンプ30の回転軸32の回転が切り替え機構20aの駆動軸16に伝達されるようになっている。したがって、ポンプ30が作動すると、切り替え機構20aが駆動されることとなる。このような変形例では、制御装置50は、切り替え機構20aを直接的に制御するのではなく、ポンプ30を介して切り替え機構20aを間接的に制御する。
【0068】
更に、変形例によるモータの軸受システム100aでは、気体供給通路31a中に、逆流防止部33(第1逆流防止部)に加えて、これとは別の逆流防止部34(第2逆流防止部)が更に形成されている。具体的には、逆流防止部34は、逆流防止部33と同様の構成を有しており(図2乃至図4)、気体供給通路31aの上流側の位置に形成されている。このように2つの逆流防止部33、34を気体供給通路31aに設けることで、滑り軸受3からの気体の逆流をより効果的に防止することができる。なお、気体供給通路31aをハウジング12aにも形成した場合には、逆流防止部34をハウジング12bではなくハウジング12aに形成してもよい。
【0069】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態について説明する。第1実施形態では、モータ1の回転軸2を支持するように機能させる軸受を、転がり軸受4と、ポンプ30から供給される気体により気体潤滑軸受として動作可能な滑り軸受3とで切り替えていた。これに対して、第2実施形態では、転がり軸受4及び滑り軸受3の2つを用いる代わりに、1つの転がり軸受のみを用いて、この転がり軸受にポンプ30から気体を供給することで、気体潤滑を行う気体潤滑軸受として当該転がり軸受を動作させるようにする点で、第1実施形態と異なる。よって、第2実施形態では、第1実施形態で示したような切り替え機構20、20aを有しない。
【0070】
ここでは、第1実施形態と同様の構成、制御については説明を省略し、第1実施形態と異なる構成、制御のみを説明する。特に、第2実施形態は、モータの軸受システムの構成のみが第1実施形態と異なり、モータ軸受制御は第1実施形態と同様である。
【0071】
図10は、第2実施形態によるモータの軸受システムの概略構成図である。図10に示すように、第2実施形態によるモータの軸受システム101は、ロータ1a及びステータ1bを含むモータ1と、モータ1の回転軸2と、回転軸2を支持する一対の転がり軸受24と、これらモータ1、回転軸2、及び転がり軸受24を収容するハウジング12(12a、12b)と、を有する。転がり軸受24は、ハウジング12bに固定された外輪25と、モータの回転軸2に装着された内輪26と、これら外輪25と内輪26との間に介装された複数の転動体(玉やころ)27と、複数の転動体27を保持する保持部28と、を有する。転がり軸受24の外輪25の外側には、転がり軸受24において径方向に付与される荷重(ラジアル荷重)を検出する軸受荷重センサ69が設けられている。
【0072】
また、モータの軸受システム101は、更に、回転軸2と転がり軸受24との間に気体層を形成して転がり軸受24に気体潤滑を行わせるべく、つまり転がり軸受24を気体潤滑軸受として動作させるべく、転がり軸受24に対して気体(典型的には空気であるが、オイルガスや冷媒でもよい)を供給するポンプ30を有する。具体的には、ポンプ30は、一対の転がり軸受24のそれぞれにおける内輪26と転動体27を保持する保持部28との間(回転軸2の径方向において規定されるラジアル隙間)に、気体を気体供給通路31から供給する。この気体供給通路31は、その下流側の部分31aが、ハウジング12a及び転がり軸受24の外輪25並びに保持部28内に形成されている。また、この気体供給通路31aは、その下流側の位置に逆流防止部33が形成されている。詳しくは、逆流防止部33は、ハウジング12aの合わせ面12cに沿って形成されている。
【0073】
図11は、モータの軸受システム101においてポンプ30が作動していないときの転がり軸受24の状態を示している。図11において、左側には、回転軸2及び転がり軸受24の横断面を示し、右側には、この横断面に直交する、回転軸2及び転がり軸受24の縦断面を示している。図11に示すように、ポンプ30が作動していないときには、転がり軸受24は、転動体27が外輪25及び内輪26と接触しており、正に転がり軸受として機能する。
【0074】
図12は、モータの軸受システム101においてポンプ30が作動しているときの転がり軸受24の状態を示している。図12において、左側には、回転軸2及び転がり軸受24の横断面を示し、右側には、この横断面に直交する、回転軸2及び転がり軸受24の縦断面を示している。ポンプ30が作動しているときには、転がり軸受24では、ポンプ30から供給される気体により、内輪26と転動体27を保持する保持部28との隙間SPに気体層が形成され、保持部28及び転動体27が内輪26に対して浮遊している。このときには、保持部28は、図示しない係止部材(ツメなど)により外輪25に固定され、回転しないようになっている。このような状態では、保持部28に保持されている転動体27が内輪26と接触しないため、転がり軸受24は、転がり軸受として機能しなくなる。その代わりに、転がり軸受24は、ポンプ30から供給される気体により気体潤滑を行う気体潤滑軸受として機能する。なお、第1実施形態で述べたように、摺動速度が極めて大きくなる高回転領域R14では、ポンプ30により静圧を付与しなくても、このような気体潤滑軸受が実現される(よって、ポンプ30が停止される)。
【0075】
以上述べた第2実施形態によれば、1つの転がり軸受24が、転がり軸受及び気体潤滑軸受として選択的に動作するように構成されているので、第1実施形態と同様のモータ軸受制御を簡易な構成にて実現することができる。
【符号の説明】
【0076】
1 モータ
2 回転軸
3 滑り軸受
4 転がり軸受
5a、5b 外輪
6 内輪
7 転動体
12、12a、12b ハウジング
15 切り替え駆動装置
20 切り替え機構
24 転がり軸受
25 外輪
26 内輪
27 転動体
28 保持部
30 ポンプ
31、31a 気体供給通路
33、34 逆流防止部
33a 第1流路
33b 第2流路
50 制御装置
66 モータ回転速度センサ
100、100a、101 モータの軸受システム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12