(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024135698
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】触感または物性の評価方法、および触感または物性の評価装置
(51)【国際特許分類】
G01N 33/15 20060101AFI20240927BHJP
A61B 5/11 20060101ALI20240927BHJP
A61B 5/00 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
G01N33/15 Z
A61B5/11 230
A61B5/00 101R
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023046508
(22)【出願日】2023-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【弁理士】
【氏名又は名称】右田 俊介
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 崇訓
(72)【発明者】
【氏名】川岸 明菜
(72)【発明者】
【氏名】橋本 雅俊
【テーマコード(参考)】
4C038
4C117
【Fターム(参考)】
4C038VA04
4C038VB13
4C117XD17
4C117XE30
(57)【要約】
【課題】複数ステージを含む期間の所定の剤の触感または物性の評価方法、および、触感または物性の評価装置を提供する。
【解決手段】評価方法は、所定の剤が適用された物体と動作体を動作させたことにより物体との間に生じる力学的物理量の時系列データから算出した複数種類の特徴量に基づき所定の剤の触感を評価する方法であって、第一ステージと第一ステージとは異なる第二ステージと、を少なくとも含む期間の所定の剤の触感または当該触感を生み出す物性を評価する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1または複数の所定の剤が適用された物体に接触させた動作体を動作させて前記物体と前記動作体との間に生じる力学的物理量の時系列データを取得し、
前記取得した力学的物理量の時系列データから所定ステージの所定期間ごとに複数種類の特徴量を算出し、前記複数種類の特徴量に基づき、前記物体の触感または当該触感を生み出す物性を評価する評価方法であって、
前記所定ステージは、時期的に互いに異なる期間である少なくとも第一ステージと第二ステージと、を有し、前記第一ステージおよび前記第二ステージにおいて前記物体に接触させた前記動作体を動作させて前記時系列データを取得し、
前記第一ステージと前記第二ステージとは、
前記所定の剤が互いに異なる、
前記所定の剤が適用された前記物体の環境が互いに異なる、または、
前記物体が互いに異なる、
の少なくともいずれかであり、
前記所定期間ごとに算出した前記複数種類の特徴量を用いて、前記第一ステージでの第一触感値と前記第二ステージでの第二触感値とを特定し、
前記第一触感値および前記第二触感値に基づき、前記物体に前記動作体を接触させた前記第一ステージと前記第二ステージを含む期間の触感または当該触感を生み出す物性を評価する評価方法。
【請求項2】
前記力学的物理量の時系列データは、前記物体に接触させた前記動作体を繰り返し動作させて前記物体と前記動作体との間に生じるデータであることを特徴とする請求項1に記載の評価方法。
【請求項3】
前記複数種類の特徴量は、前記力学的物理量、前記力学的物理量の統計量、前記力学的物理量または前記力学的物理量の統計量の所定閾値以上の値であるスパイク信号量、ならびに前記力学的物理量の統計量である平均値またはばらつきから算出した特徴量の少なくとも1つを含む請求項1または2に記載の評価方法。
【請求項4】
前記第一ステージにおける前記力学的物理量を用いて前記第一触感値を特定し、
前記第二ステージにおける前記力学的物理量を用いて前記第二触感値を特定する請求項1から3いずれか一項に記載の評価方法。
【請求項5】
前記所定ステージが有する複数のステージ毎に特定した各触感値を所定の座標系にプロットすることにより、複数ステージを含む期間の触感または所定の剤の物性を評価することを特徴とする請求項1から4いずれか一項に記載の評価方法。
【請求項6】
前記座標系は、前記第一触感値を示す第一軸と、前記第二触感値を示す第二軸と、からなり、
前記座標系に前記第一触感値および前記第二触感値をともにプロットすることにより、前記第一ステージである期間と前記第二ステージである期間とを含む期間の触感または当該触感を生み出す物性を評価する請求項5に記載の評価方法。
【請求項7】
前記所定期間ごとの前記複数種類の特徴量に対し、所定期間の時間帯に応じて所定の時間重み付け値を付加処理し、時間重み付け付加処理した特徴量を用いて、前記第一触感値と前記第二触感値とを特定する請求項1から6いずれか一項に記載の評価方法。
【請求項8】
前記第一ステージの後に前記第二ステージが有り、
前記第二ステージの前記所定の時間重み付け値は、前記第一ステージの前記所定の時間重み付け値に関連付けられた値であることを特徴とする請求項7に記載の評価方法。
【請求項9】
1または複数の所定の剤が適用された物体に接触させた動作体を動作させて前記物体と前記動作体との間に生じる力学的物理量の時系列データを取得する取得手段と、
前記取得した力学的物理量の時系列データから所定ステージの所定期間ごとに複数種類の特徴量を算出する算出手段と、
前記複数種類の特徴量に基づき、前記物体の触感または当該触感を生み出す物性を評価する評価手段と、を備えた評価装置において、
前記所定ステージは、時期的に互いに異なる期間である少なくとも第一ステージと第二ステージと、を有し、前記第一ステージおよび前記第二ステージにおいて前記物体に接触させた前記動作体を動作させて前記時系列データを取得し、
前記第一ステージと前記第二ステージとは、
前記所定の剤が互いに異なる、
前記所定の剤が適用された前記物体の環境が互いに異なる、または、
前記物体が互いに異なる、
の少なくともいずれかであり、
前記所定期間ごとに算出した前記複数種類の特徴量を用いて、前記第一ステージでの第一触感値と前記第二ステージでの第二触感値とを特定する特定手段をさらに備え、
前記評価手段は、
前記第一触感値および前記第二触感値に基づき、前記物体に前記動作体を接触させた前記第一ステージと前記第二ステージを含む期間の触感または当該触感を生み出す物性を評価する評価装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数ステージを含む期間の所定の剤の触感または物性の評価方法、および触感または物性の評価装置に関する。
【背景技術】
【0002】
肌等に塗布された化粧料に動作体を接触させながら動作体を動かすことにより生じる振動を検出し、検出した振動の周波数スペクトルの経時的変化に基づき化粧料の使用触感を評価する評価方法がある(特許文献1)。
また、例えば、所定の剤を塗布した直後、および、所定時間経過後のように、複数のタイミングそれぞれにおいて、所定の剤の触感を評価する方法がある(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2019/039466号
【特許文献2】特開2016-204343号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1は、振動の強度の時間変化を数値化しているにすぎず、触感の特徴やその変化について適切な評価を行うことができていなかった。
特許文献2は、複数のタイミングそれぞれにおいては所定の剤の触感を評価しているが、複数のタイミングを含む期間全体における所定の剤の触感について評価していなかった。
【0005】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、所定の剤が適用された物体と動作体を動作させたことにより物体との間に生じる力学的物理量の時系列データから算出した複数種類の特徴量に基づき所定の剤の触感または当該触感を生み出す物性を評価する方法であって、第一ステージと第一ステージとは異なる第二ステージと、を少なくとも含む期間の所定の剤の触感または当該触感を生み出す物性を評価する評価方法および評価装置に関するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、1または複数の所定の剤が適用された物体に接触させた動作体を動作させて前記物体と前記動作体との間に生じる力学的物理量の時系列データを取得し、前記取得した力学的物理量の時系列データから所定ステージの所定期間ごとに複数種類の特徴量を算出し、前記複数種類の特徴量に基づき、前記物体の触感または当該触感を生み出す物性を評価する評価方法であって、前記所定ステージは、時期的に互いに異なる期間である少なくとも第一ステージと第二ステージと、を有し、前記第一ステージおよび前記第二ステージにおいて前記物体に接触させた前記動作体を動作させて前記時系列データを取得し、前記第一ステージと前記第二ステージとは、前記所定の剤が互いに異なる、前記所定の剤が適用された前記物体の環境が互いに異なる、または、前記物体が互いに異なる、の少なくともいずれかであり、前記所定期間ごとに算出した前記複数種類の特徴量を用いて、前記第一ステージでの第一触感値と前記第二ステージでの第二触感値とを特定し、前記第一触感値および前記第二触感値に基づき、前記物体に前記動作体を接触させた前記第一ステージと前記第二ステージを含む期間の触感または当該触感を生み出す物性を評価する評価方法に関する。
【0007】
また、本発明は、1または複数の所定の剤が適用された物体に接触させた動作体を動作させて前記物体と前記動作体との間に生じる力学的物理量の時系列データを取得する取得手段と、前記取得した力学的物理量の時系列データから所定ステージの所定期間ごとに複数種類の特徴量を算出する算出手段と、前記複数種類の特徴量に基づき、前記物体の触感または当該触感を生み出す物性を評価する評価手段と、を備えた評価装置において、前記所定ステージは、時期的に互いに異なる期間である少なくとも第一ステージと第二ステージと、を有し、前記第一ステージおよび前記第二ステージにおいて前記物体に接触させた前記動作体を動作させて前記時系列データを取得し、前記第一ステージと前記第二ステージとは、前記所定の剤が互いに異なる、前記所定の剤が適用された前記物体の環境が互いに異なる、または、前記物体が互いに異なる、の少なくともいずれかであり、前記所定期間ごとに算出した前記複数種類の特徴量を用いて、前記第一ステージでの第一触感値と前記第二ステージでの第二触感値とを特定する特定手段をさらに備え、前記評価手段は、前記第一触感値および前記第二触感値に基づき、前記物体に前記動作体を接触させた前記第一ステージと前記第二ステージを含む期間の触感または当該触感を生み出す物性を評価する評価装置に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明により提供される方法によれば、第一ステージと第二ステージを少なくとも含む期間の触感または当該触感を生み出す物性を評価することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】(1)は洗浄時の評価者の肌表面にセンサを装着した指を接触させるイメージ図であり、(2)はすすぎ時の評価者の肌表面にセンサを装着した指を接触させるイメージ図である。
【
図2】(1)はSample1の時系列波形信号を示す図であり、(2)はSample3の時系列波形信号を示す図である。
【
図3】時系列波形信号から複数種類の特徴量を算出する概念図である。
【
図4】(1)はSample1のスパイク信号量を説明する図であり、(2)はSample2のスパイク信号量を説明する図であり、(3)はSample3のスパイク信号量を説明する図である。
【
図5】(1)はSample1の平均値とばらつきとの相関性を示す図であり、(2)はSample2の平均値とばらつきとの相関性を示す図であり、(3)はSample3の平均値とばらつきとの相関性を示す図であり、(4)はSample4の平均値とばらつきとの相関性を示す図である。
【
図6】各プロットの原点からの距離を示す図である。
【
図7】横軸をx´値、縦軸をy´´値とした座標系を示す図である。
【
図8】(1)は
図7の座標系を用いたグラフ(すすぎ始め(第1期間))であり、(2)は
図7の座標系を用いたグラフ(すすぎ前半(第4期間))である。
【
図9】(1)は
図7の座標系を用いたグラフ(すすぎ中盤(第5期間))であり、(2)は
図7の座標系を用いたグラフ(すすぎ後半(第7期間))である。
【
図10】
図7の座標系を用いたグラフ(すすぎ終わり(第9期間))である
【
図11】(1)はSample1の
図8から
図10をまとめた図であり、(2)はSample2の
図8から
図10をまとめた図であり、(3)はSample3の
図8から
図10をまとめた図であり、(4)はSample4の
図8から
図10をまとめた図である。
【
図12】(1)はx´値を代表にした時間変動グラフの概念図であり、(2)はx´値を代表にした時間変動グラフである。
【
図13】(1)はx´値を代表にした時間変動グラフ(各洗浄剤の時間変化(洗浄時))であり、(2)はx´値を代表にした時間変動グラフ(各洗浄剤の時間変化(すすぎ時))である。
【
図14】(1)は触感値の特定方法を説明するグラフであり、(2)は触感値の特定方法を説明するグラフ(図)である。
【
図15】(1)は触感値の特定方法を説明するグラフであり、(2)は触感値の特定方法を説明するグラフ(図)である。
【
図16】(1)は触感値の特定方法を説明するグラフ(図)であり、(2)は触感値の特定方法を説明する図である。
【
図17】第一触感値および第二触感値を用いたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の好ましい実施形態の例について、図面を参照して説明する。なお、本実施形態の図面は、いずれも本発明の技術思想、構成及び動作を説明するためのものであり、その構成を具体的に限定するものではない。また、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、重複する説明は適宜省略する。
【0011】
本実施形態における評価方法(以下、本方法と記載することもある)の概要について説明する。
本実施形態の評価方法は、1または複数の所定の剤が適用された物体に接触させた動作体を動作させて前記物体と前記動作体との間に生じる力学的物理量の時系列データを取得し、取得した力学的物理量の時系列データから所定ステージの所定期間ごとに複数種類の特徴量を算出し、複数種類の特徴量に基づき、物体の触感または当該触感を生み出す物性を評価する評価方法である。
「1または複数の所定の剤」とは、1つ以上の剤であればよく、例えば、化粧水のみ、化粧水と乳液、化粧水と乳液とファンデーションなどである。
「所定の剤」とは、物体に塗布される液体(霧状を含む)、またはぺースト状、または固体状、または粉体等を含む剤をいう。皮膚外用剤、化粧料、シート状のスキンケア化粧料、食器用洗剤、住宅用洗剤、ボディ洗浄剤、洗顔剤、毛髪用洗浄剤などの洗浄剤が挙げられ、たとえば、ローション、乳液、クリーム、美容液、マッサージ、パック、リップクリーム、アイケアシート、口元シート、パックマスク、シート状ローション、シート状メイク落とし等のスキンケア化粧料;ファンデーション、化粧下地、液状ファンデーション、油性ファンデーション、パウダーファンデーション、コンシーラー、コントロールカラー、アイシャドウ、頬紅、口紅、リップグロス、リップライナー、ボディのデコルテ用等のメイクアップ化粧料;日焼け止め乳液、日焼け止めジェル、日焼け止めクリームなどの紫外線防御化粧料、ボディ洗浄剤;固形石鹸、ハンドソープ、ボディソープが挙げられ、特にこれらに限定されるものではない。
「物体」とは、ヒトの肌(皮膚)表面、人工皮膚の表面、毛髪、および頭皮の他、食器、住宅建材など、所定の剤を塗布する物が挙げられる。
「動作体」とは物体に対して接触させる他の物体であり、例えば、接触させた指20、手のひら、マッサージ器、または測定治具が挙げられる。指20、手のひら、肌ケア用品、または測定治具には、
図1に示すセンサ30が装着されている。物体に対して接触させる指20は、指20のどの位置でもよいが、指腹で触感を確認することが多いため、指腹が好ましい。物体の触感を確認する際には、1本の指だけでなく複数本の指でもよく、また、指だけでなく手のひら全体を接触させて確認することもあるため、手のひらを肌表面に対して接触させてもよい。また、測定治具とは、指と同様に肌表面に対して接触させる治具である。測定治具のうち肌表面に接触させる部分の構造や組成は限定されないが、当該部分をヒトの肌(皮膚)を模した人工皮膚等で構成することで、人が指や手のひらで物体表面を触ったときに近い物理量を測定することが可能となる。
「動作」とは、物体に対して動作体を接触させる動作であり、物体に対して指を外向き略垂直方向に移動動作(タップ動作)を少なくとも1回行うこと、物体に対して指を水平方向に少なくとも1回摺動させることなどである。また、「動作」には、当該動作を繰り返して行う「繰り返し動作」も含まれる。「繰り返し動作」とは、物体に対して動作体を連続的に接触させる動作を継続すること、または物体に対して動作体を間欠的に接触させる動作を繰り返すことをいう。具体的には、物体に対して指を外向き略垂直方向に繰り返し移動動作(タッピング動作)を行うこと、物体に対して指を水平方向に摺動させる移動動作を繰り返し行うことなどであり、摺動させる移動動作の場合、一方向に繰り返し移動動作する、往復することで繰り返し移動動作する、円を描くように繰り返し移動動作するなど、何れの態様でもよい。
「物体と動作体との間に生じる力学的物理量の時系列データ」とは、物体に接触させた動作体(例えば、指)を動作させることにより物体と動作体との間に生じる、力学に関する物理量である。たとえば、動作体が物体(肌)から受ける弾性力もしくは摩擦力の大きさ、物体の変位に起因して生じる電流量もしくは電圧値、動作体が受ける圧力、動作体に生じる歪み、または、振動する動作体の振動量(振幅)、振動数、動作体の速度や加速度などが例示される。本方法において評価する触感は、べたつき、さっぱり、しっとり、きゅっと、のように、物体表面に指や手のひらなどを接触させることによる触感である。
「取得」とは、詳細は後述するが、例えば、
図1に示すセンサ30が物体に対して動作体を連続的に接触させることにより生じた振動や変形を検知し、電気信号として、演算装置に出力することである。
「所定ステージ」とは、詳細は後述するが、所定の剤が適用された物体に接触させた動作体を動作させる際の段階であり、フェーズともいう。
「所定期間ごとに複数種類の特徴量を算出」とは、取得した力学的物理量の時系列データから、物体に対し動作体を動作させ始めてから所定期間ごとに複数種類の特徴量を算出することである。算出内容については後述する。
「複数種類の特徴量」とは、詳細は後述するが、例えば、力学的物理量、力学的物理量の統計量、力学的物理量または力学的物理量の統計量の所定閾値以上の値であるスパイク信号量、ならびに力学的物理量の統計量である平均値またはばらつきから算出した特徴量などである。力学的物理量とは測定値そのものだけでなく、演算値(例えば、ノイズ除去した値、係数乗算した値など)も含まれるものとする。また、力学的物理量の統計量とは、力学的物理量の測定値そのものを用いた統計量(例えば、平均値、標準偏差、最大値、最小値、尖度、歪度など)だけでなく、力学的物理量の演算値を用いた統計量も含まれるものとする。また、力学的物理量を周波数解析することで算出可能な値、例えば、各時間のスペクトルのパワー値なども含まれるものとする。また、取得した力学的物理量の波形に対して周波数分解やフィルタリング処理した後にこれらの特徴量を算出してもよい。また、スパイク信号量とは、力学的物理量の測定値そのものから算出したものだけでなく、力学的物理量の演算値を用いたものから算出したものも含まれるものとする。なお、スパイク量については後述する。また、力学的物理量の統計量である平均値またはばらつきから算出した特徴量とは、例えば、平均値とばらつきの相関性から算出した原点からの距離(原点からの距離については後述する)である。
「物体の触感を評価または当該触感を生み出す物性を評価」とは、所定の剤が塗布された物体を動作体によって接触した際の触感であり、どのような触感であるかを評価する、または、当該触感は、所定の剤の物性により生み出されるので、当該触感を生み出す物性を評価することである。触感としては「べたつき」、「さっぱり」、「しっとり」、「ねっとり」、「うるおい」、「乾燥」、「はり」、「弾力」、「硬軟」、「すいつき」、「もちもち」、「ふっくら」、「滑らか」、「ぬるぬる」、「すべすべ」、「油っぽい」、「コク」、「なじみ」、「かさかさ」、「ごわごわ」、「つっぱり」、「きゅっと」、「きしみ」、「すべり」などが例えば挙げられるが、この限りではない。なお、ここでいう触感は、物体に指や手のひらなど(以下、「指等」)を接触させることにより、指等の受容器を通じて感じる触感であり、物体に指等を接触させることにより感じる冷たさや温かさなど熱的な感覚も評価対象に含んでもよい。ここで、「べたつき」とは、物体に指を接触させた際に、べたべたと指に粘着してくっつく感じを指している。「さっぱり」とは、物体に指を接触させた際に、くっつく感じがなく、スムーズで清々した感じを指している。「しっとり」とは、物体に指を接触させた際に、少し湿ったなめらかな感じを指している。「ねっとり」とは、物体に指を接触させた際に、少し指が付着するような感じを指している。「うるおい」とは、物体に指を接触させた際に、適度な湿り気がある感じを指している。「乾燥」とは、物体に指を接触させた際に、かさかさした感じを指している。「はり」とは、物体に指を接触させた際に、肌がぴんと硬直した感じを指している。「弾力」とは、物体に指を接触させた際に、しずむ感じがなく跳ね返す感じを指している。「硬軟」とは、肌表面に指を接触させた際に、肌の変形度合いが生じる程度の感じを指している。「すいつき」とは、物体に指を接触させた際に、指が密着するような感じを指している。「もちもち」とは、物体に指を接触させた際に、指が少し密着し跳ね返される感じを指している。「ふっくら」とは、肌表面に指を接触させた際に、やや弾力性があってくっつく感じがなく、清々した感じを指している。「滑らか」とは、物体に指を接触させた際に、ひっかかりなく動く感じ、特に剤を塗布した場合、指が自然に動く感じを指している。「ぬるぬる」とは、物体に指を接触させた際に指がすべりやすい感じ、特に剤を塗布した場合、剤の粘着感によりすべりやすい感じを指している。「すべすべ」とは、物体に指を接触させた際に肌の柔らかさと指がひっかかりなく動く感じを指している。「油っぽい」とは、物体に指を接触させた際にまとわりついた感じを指している。「コク」とは、物体に指を接触させた際、特に剤を塗布する際に、指が剤の質感を感じる感じ、塗り広げる際の質感、塗り広げる際の重さ感を指している。「なじみ」とは、物体に指を接触させた際に、指に違和感のない感じ、特に剤を塗布した場合に、指が物体に剤の質感を感じることのない感じを指している。「ごわごわ」とは、物体に指を接触させた際に、指ががさついた感じを指している。「きゅっと」または「きゅっ」とは、物体に指を接触させた際に、物体に指を接触させてすべらせ始める際や、すべらせている間に抵抗がある感じを指している。「きしみ」とは、ひっかかりながら擦れる感じを指している。「すべり」とは、ひっかかりが少なく、指が滑りやすい感じを指している。
【0012】
また、本実施形態の評価方法は、所定ステージは、時期的に互いに異なる期間である少なくとも第一ステージと第二ステージと、を有し、第一ステージおよび第二ステージにおいて物体に接触させた動作体を動作させて時系列データを取得する。
「所定ステージ」とは、所定の剤が適用された物体に接触させた動作体を動作させる際の段階であり、時期的に互いに異なる期間である第一ステージ、第二ステージなどがある。
【0013】
また、第一ステージと第二ステージとは、所定の剤が互いに異なる、所定の剤が適用された物体の環境が互いに異なる、または、物体が互いに異なる、の少なくともいずれかである。
「第一ステージと第二ステージとは、所定の剤が互いに異なる」とは、物体に適用する剤が第一ステージと第二ステージとで異なり、具体的には、第一ステージは化粧水、第二ステージは乳液、または、第一ステージは化粧水、第二ステージは第一ステージで塗布した化粧水にさらに乳液を塗布する、または、第一ステージは化粧下地、第二ステージは第一ステージで塗布した化粧下地にさらにファンデーションを塗布する、などである。
「第一ステージと第二ステージとは、所定の剤が適用された物体の環境が互いに異なる」とは、第一ステージと第二ステージとで物体が存在する場所、状態が異なることで、室内/室外、湿度、温度、日光や照明に照らされているか否か、風が当たっているか否か、水がかかっているか否かなどが挙げられ、具体的には、物体にハンドソープを適用した場合、第一ステージは物体に水をかけない状態(すなわち、洗浄ステージ)、第二ステージは物体に水をかけた状態(すなわち、すすぎステージ)、または、物体に日焼け止めを適用し、第一ステージは物体に紫外線があまりあたっていない状態(例えば、室内ステージ)、第二ステージは物体に紫外線があたっている状態(例えば、屋外ステージ)、または、物体にクリームを適用し、第一ステージは湿度が低い状態、第二ステージは湿度が高い状態、または、物体にファンデーションを適用し第一ステージは気温20度の室内、第二ステージは気温30度の屋外などである。
「第一ステージと第二ステージとは、所定の剤が適用された物体が互いに異なる」とは、物体自体が第一ステージと第二ステージとで異なり、具体的には、ボディ頭髪兼用シャンプーを第一ステージは体に適用し、第二ステージは頭部に適用する、または、クリームを第一ステージは顔に適用し、第二ステージは手に適用するなどである。
第一ステージと第二ステージとは、物体共通、適用する所定の剤が共通するなど、共通事項が含まれていることが好ましい。共通事項が含まれた複数のステージについて、複数のステージを含む期間の触感を評価することで、全体としてどのような触感であるかを評価することが可能となる。
【0014】
また、本実施形態の評価方法は、所定期間ごとに算出した複数種類の特徴量を用いて、第一ステージでの第一触感値と第二ステージでの第二触感値とを特定する。
「第一触感値」とは、第一ステージにおいて所定期間ごとに算出した複数種類の特徴量を用いて特定する値であり、詳細は後述するが、例えば、第一ステージにおける力学的物理量である。
「第二触感値」とは、第二ステージにおいて所定期間ごとに算出した複数種類の特徴量を用いて特定する値であり、詳細は後述するが、例えば、第二ステージにおける力学的物理量である。
【0015】
また、本実施形態の評価方法は、第一触感値および第二触感値に基づき、物体に動作体を接触させた第一ステージと第二ステージを含む期間の触感または当該触感を生み出す物性を評価する。
「第一ステージと第二ステージを含む期間の触感または当該触感を生み出す物性を評価」とは、第一触感値と第二触感値を用いて、第一ステージと第二ステージを含む期間の触感または所定の剤の物性、特に、第一ステージと第二ステージを通しての触感または当該触感を生み出す物性を評価する。
「評価する」とは、特定した第一触感値および第二触感値を単軸または多軸にプロットし、プロットした位置により定量的に評価することだけでなく、所定の基準値と比較評価すること、評価対象剤以外の第一触感値および第二触感値と比較評価することなども含まれる。
このように、物体に適用する剤が異なる複数のステージ、剤が適用された物体の環境が異なる複数のステージ、剤を適用する物体が異なる複数のステージを含む期間の全体としての触感または当該触感を生み出す物性を評価することが可能となる。
【0016】
所定の剤を適用した物体と動作体との間に生じる力学的物理量の時系列データの取得方法を示す。
<力学的物理量の時系列データの取得方法>
図1に示すように、本実施形態では、「物体」は人の腕の肌(人の腕の皮膚表面)とし、「動作体」は人の腕に対して接触させた指20とする。物体に適用する「所定の剤」は洗浄剤40とし、「第一ステージ」は洗浄状態、「第二ステージ」はすすぎ状態とする。
図1に示すように、指20にはセンサ30が装着されている。指20、特に指腹(以下、指腹の場合も指という)で洗浄剤40が適用された腕の肌を触り、触った指20を移動させると指肌に振動や変形が生じ、センサ30はこの振動や変形を検知し、電気信号として演算装置10に出力する。触感の違いにより指肌に生じる振動や変形が異なるため、触感の違いにより出力される電気信号も異なる。この出力される電気信号が本発明の「力学的な物理量」に相当し、当該電気信号を経時的に取得している。センサ30は、指20で触ったことにより生じる力学的な物理量を取得できればよく、例えば、肌に接触させた指20を離すことにより生じる加速度や力を取得可能なセンサ(多軸センサ、力センサ)でもよい。経時的に物理量を取得するとは、当該物理量を示すアナログ情報(本実施形態では電気信号)をセンサ30が所定時間に亘って連続的に取得する態様のほか、ミリ秒オーダーまたはサブミリ秒オーダーなどの短時間の間隔ごとに多数回に亘ってセンサ30が当該物理量をデジタル情報として取得する態様を含む。センサ30が当該物理量をアナログ情報として連続的に取得した場合、演算装置10は当該アナログ情報をミリ秒オーダーまたはサブミリ秒オーダーなどの所定の短時間の間隔ごとにサンプリングして離散化するとよい。
【0017】
本実施形態では、
図1に示したように、センサ30を装着した指20を腕の肌(皮膚表面)に接触させ、肌に対して指20を略水平方向に摺動させる移動動作を繰り返し行う。繰り返し行う移動動作は、一方向に繰り返し移動動作する、往復することで繰り返し移動動作する、円を描くように繰り返し移動動作するなど、何れの態様でもよい。
また、
図1(1)に示すように、腕の肌に洗浄剤40を塗布し、指20で移動動作を繰り返し行う際の腕の肌と指20との間に生じる力学的物理量を取得する。すなわち、
図1(1)は、所定の剤(洗浄剤40が相当)を適用した物体(腕の肌が相当)と動作体(指20が相当)との間の力学的物理量を取得しており、動作体を移動動作することで、物体を洗浄する状態となっている。物体を洗浄する状態は第一状態に相当する。
また、
図1(2)に示すように、洗浄剤40が適用された腕の肌に水を流しながら指20で移動動作を繰り返し行う際の腕の肌と指20との間に生じる力学的物理量を取得する。すなわち、
図1(2)は、所定の剤(洗浄剤40が相当)を適用した物体(腕の肌が相当)に水を流し、物体と動作体(指20が相当)との間の力学的物理量を取得しており、動作体を移動動作することで、物体をすすぐ状態となっている。物体をすすぐ状態は第二状態に相当する。
なお、測定治具を用いて計測する際には、
図1の指20に替えて測定治具(図示しない)にセンサ30を設け、当該測定治具を肌(皮膚表面)に対して接触させ、肌(皮膚表面)に対して測定治具を水平方向に摺動するように動かすことにより、発生する物理量を同様に測定することが可能となる。また、測定治具を肌に接触させ動かすことにより測定する場合は、動かし方が均一となるように、測定治具の動きを所定の装置(図示しない)を用いて制御してもよい。
【0018】
図2に、取得した力学的物理量の電気信号波形を示す。
図2に示すように、本実施形態では、物体と動作体との間に生じる振動を力学的物理量として取得する。
図2(1)は適用した所定の剤がSample1であり、
図2(2)は適用した所定の剤がSample3である。
図2(1)と
図2(2)を比較すると、例えば、(1)は信号強度が一定の範囲内で一様であるのに対し、(2)は信号強度の強弱が明確であるといったように、塗布する所定の剤によって取得される信号波形の形状が異なる。そこで、取得した力学的物理量(信号波形)を解析することで、触感または当該触感を生み出す物性を評価することが可能となる。
【0019】
<複数種類の特徴量の算出方法>
複数種類の特徴量の算出方法について説明する。
図3は、取得した力学的物理量の信号波形である。取得した信号波形を所定間隔毎に切り出すことを示している。信号波形に記載した点線枠囲いが所定間隔毎を示している。なお、
図3に記載した点線枠囲いは一部であり、実際には点線枠囲いは連続して設けられる。すなわち、切り出す所定間隔は連続して設けられる。切り出した所定間隔(第一期間、第二期間、第三期間・・・)毎に、当該所定間隔に含まれる信号波形(電気信号)に基づき、信号強度の平均、標準偏差、および、スパイク量を算出する。信号強度の平均は、所定間隔内の信号の絶対値の平均であり、標準偏差は、算出した平均から求める。なお、本実施形態において、信号強度の平均を「x値」、信号強度の標準偏差を「y´値」、スパイク量を「y´´値」と記載することとする。本実施形態では、所定間隔は2秒としている。所定間隔は短すぎると、動作体を往復させる時間に足りなく、長すぎると所定の剤が変化してしまい、期間内に複数の特徴を含む可能性があるため、本実施形態では2秒としているが、数値はこれに限らない。
【0020】
ここで、スパイクおよびスパイク量の算出方法について説明する。
図4(1)は適用した所定の剤がSample1、
図4(2)は、適用した所定の剤がSample2、
図4(3)は適用した所定の剤がSample3のときの、物体と動作体との間に生じた振動の信号波形である。
各信号波形に対し、信号強度が第一所定値(例えば、0.2[V]または-0.2[V])を越える部分と、信号強度が第二所定値(例えば、0.4[V]または-0.4[V])を越えるタイミングについて着目する。所定の閾値(
図4の場合、第一所定値、第二所定値)を越える信号を「スパイク」とする。
図4(1)の場合は、第一所定値を越えるスパイクは中盤以降に生じており、また、第二所定値を越えるスパイクは生じていない。これらより、振動にメリハリがあるといえる。
図4(2)の場合は、第一所定値を越えるスパイクは前半に生じておらず、また、第二所定値を越えるスパイクは生じていない。これらより、信号波形の密度が高く、振動にメリハリがない(振動が一定である)といえる。
図4(3)の場合は、第一所定値を越えるスパイクが多く生じ、また、第二所定値を越えるスパイクが中盤以降に多く生じている。これらより、信号波形の密度が疎であり、振動強度の高低差が大きく、振動に強いメリハリがあるといえる。
この「スパイク」について、どのような量で生じているかを示す指標を「スパイク量」として算出する。スパイク量は、ある時間の信号に対して、その信号の前後所定時間内にその信号より絶対値が大きな信号があるか否かを判定し、大きな信号がなければその信号を「スパイク」とする。そして、この信号の絶対値の総和をある時間の「スパイク量」として算出する。本実施形態では、ある時間は、
図3に示した所定間隔(点線枠囲いの時間)とし、前後所定時間を0.075secとしてスパイク量を算出した。したがって、本実施形態では、取得した力学的物理量から、所定時間毎の平均、所定時間毎の標準偏差、および所定時間毎のスパイク量を算出することとした。なお、これらの値は、取得した力学的物理量の値そのものから算出してもよいし、取得した力学的物理量にはノイズが含まれている可能性が高いため、所定のノイズ除去を行った値(演算値)から算出してもよい。また、本実施形態では、前後所定時間を0.075secとしてスパイク量を算出したがこれに限らず、0.075secより短い間隔でも長い間隔でもよく、取得した力学的物理量に応じて決定すればよい。なお、本スパイク量を表す別指標として、例えば、当該区間の波形信号のヒストグラムから算出される尖度を用いてもよい。また、スパイクの特徴を表すのであれば、この限りではない。
【0021】
図5を用いて、力学的物理量から所定時間毎に算出した平均と標準偏差との相関性について説明する。
図5(1)は適用した所定の剤がSample1、
図5(2)は、適用した所定の剤がSample2、
図5(3)は適用した所定の剤がSample3、
図5(4)は適用した所定の剤がSample4の時の平均と標準偏差との相関性を示す図である。
各グラフの横軸は平均、縦軸は標準偏差であり、点線は平均回帰線を示している。各グラフの座標点は、
図3に示した所定間隔毎に求めた平均と標準偏差である。何れのSampleの場合も、平均回帰線と近い傾きであり、また、いずれの場合の決定係数も高い値であることより、所定間隔毎に求めた平均と標準偏差とには高い相関性があると言える。
【0022】
次に、
図5に示した平均と標準偏差とからなる座標点と算出したスパイク信号量とを用いて、特徴量を算出する方法について説明する。
図6は、
図5(1)と同様、塗布した所定の剤がSample1の時の平均と標準偏差との相関性を示す図である。
図6中の原点から平均と標準偏差とからなる座標点までの距離を算出する。
図6では、ある一座標に対して、「この距離」と示しているが、他の座標についても同様に、原点から座標点までの距離を算出する。この原点から平均と標準偏差とからなる座標点までの距離を本実施形態では、「原点からの距離」または「x´値」と記載することとする。
【0023】
図7に、x´値およびy´´値に基づき作成する座標系(横軸:x´値、縦軸:y´´値)を示す。
図7は、
図1(2)に示したような洗浄剤40が適用された腕の肌に水を流しながら指20で移動動作を繰り返し行う、すすぎ状態を例に説明する。
x´値(原点からの距離)は、所定期間における振動の大きさであることより、x´値の値が所定の範囲より小さければ、素肌(所定の剤を塗布しない状態)より動作体を動作した際の振動が小さく、所定の範囲より大きければ素肌(所定の剤を塗布しない状態)より動作体を動作した際の振動が大きいことを示す。また、y´´値(スパイク量)の値が所定の範囲より小さければ素肌(所定の剤を塗布しない状態)より動作体を動作した際に上滑りしており、所定の範囲より大きければ素肌(所定の剤を塗布しない状態)より上滑りしないことを示す。このような座標系にx´値およびy´´値をプロットした場合、座標系の右上ほどすすぎ状態でのきゅっとした触感であり、座標系の左下ほどすすぎ状態でぬるついた触感があることを示している。言い換えると、座標系の右上は洗えた感を強く得られるすすぎ感であり、左下はヌルつきのあるマイルドなすすぎ感であり、座標系の中央は、素肌感に近いすすぎ感である。
図7に示した座標系にx´値およびy´´値をプロットする際には、y´値の値に応じてプロットの大きさを変えることとする。すなわち、プロットにより、「振動の大きさ」、「スパイク量」、および「振動の不均一性」を把握することが可能となる。
図7で用いた所定の剤(洗浄剤40)の主観評価は次の通りである。
・Sample1:ほどよいきしみ
・Sample2:前半にヌル付きがある
・Sample3:きしみが強い
・Sample4:触変化が大きい
【0024】
これらの剤を塗布した際の結果を
図8から
図10に示す。
図8から
図10から次のことがわかる。
・第1期間(
図8(1))は洗浄剤を流している段階であり、全般的に滑らかな触感である。
・第4期間(
図8(2))は洗浄剤が落ち切ると、Sample3、4は「きゅっ」としている。
・第5期間(
図9(1))はSample2以外は「きゅっ」がより強くなる。
・第7期間(
図9(2))はSample3以外は「きゅっ」の程度が素肌に類似してくる。
・第9期間(
図10)はSample4は素肌よりも滑らかに感じる。
このように、相関性の高い特徴量である、x´値(原点からの距離)、y´値(標準偏差)、およびy´´値(スパイク量)を用いることで、すすぎ状態における各剤の触感の時間変化を把握することが可能となる。
【0025】
図11に、
図8から
図10に示した各剤のすすぎ状態における特徴を示す。
・Sample1(
図11(1)):すすぎ前半から中盤はやや「きゅっ」としており、すすぎ後半は「きゅっ」が低下し、中くらいの位置(素肌感のすすぎ感)で落ち着く
・Sample2(
図11(2)):振動強度が小さくすすぎ時の振動の時間幅が小さいことより、すすぎ感はヌルヌルである
・Sample3(
図11(3)):「きゅっ」が持続するため、すすげた感・洗えた感がある
・Sample4(
図11(4)):ヌルヌルゾーンと「きゅっ」のゾーンとを大きく行き来する
また、すすぎ状態では、「きゅっ」の触感に加えて、振動の大きさによって「きしみ」感も感じられる。
【0026】
ここで、「きしみ」感について説明する。きしみ感とは、上述したように、ひっかかりながら擦れる感じを指している。
図7に示した座標系を用いて「きしみ」を定義すると次のようになる。きしみは、振動が強くかつ上滑りがなく、さらに、振動が不均一の状態である。振動が不均一の状態を含むのは、振動が不均一であることにより触覚に違和感を覚え、その違和感がきしみ感になるからである。また、きしみ感と反対の触感は「すべり」感である。すべり感とは、上述したように、ひっかかりが少なく、指が滑りやすい感じを指している。
図7に示した座標系を用いて「すべり」を定義すると次のようになる。すべりは、上滑りが強くかつ振動が弱く、さらに、振動のパターンは均一の状態である。振動が均一の状態を含むのは、振動が均一であることにより触覚に違和感を覚えないためである。
したがって、
図8から
図10に示したプロットが右上に位置し、かつ、プロットが大きい場合は、きしみ感を強く感じる場合であるといえる。
図8から
図10に示したように、
図7に示した座標系にプロットされる各剤の時間経過に伴う位置の変化は、剤によって異なるが、いずれも直線上を移動する。このことより、x´値(原点からの距離)とy´´値(スパイク量)にも高い相関性があることがいえる。そうすると、x´値(原点からの距離)、y´値(標準偏差)、およびy´´値(スパイク量)は、それぞれ高い相関性があるといえるから、x´値(原点からの距離)を代表指標にした時間変動グラフに表すことが可能となる。
【0027】
図12を用いて、x´値(原点からの距離)を代表した時間変動グラフについて説明する。
図12(1)に示すように、x値(強度平均)とy´値(標準偏差)とは、相関性が高く、また、x値(強度平均)とy´値(標準偏差)から求めたx´値(原点からの距離)、y´値(標準偏差)およびy´´値(スパイク量)も相関性が高いため、これらの多次元データを一次元に圧縮することで、x´値(原点からの距離)の時間依存性として表すことが可能となる。
図12(2)に、
図8から
図10で示した各剤のすすぎ状態の力学的物理量の変化を時間関数で示す。
図12(2)より、例えば、Sample1の場合、素肌ゾーンの前後を時間移動し、最終的には素肌ゾーンで安定することが把握できる。
【0028】
<第一ステージおよび第二ステージを含む期間の触感の評価>
次に、第一ステージ(洗浄時)および第二ステージ(すすぎ時)にわたって、所定の剤が適用された物体(腕の肌)に接触させた動作体(指20)を繰り返し動作させる場合の触感の評価について説明する。本実施形態では、
図1(1)の状態が第一ステージの場合であり、
図1(2)の状態が第二ステージの場合として説明する。また、本実施形態で適用する剤は、SampleA、SampleB、SampleC、SampleD、およびSampleEの5種類とする。上述したように、複数種類の特徴量を算出し、
図12(2)に示した力学的物理量の変化を時間関数で示すグラフを作成する。
図13(1)は、第一ステージ(洗浄時)、
図13(2)は第二ステージ(すすぎ時)のグラフである。例えば、
図13(1)から、SampleDの洗浄時は、初動はきしみがなく、時間がたつほどにきしみが増大することがわかる。
ここで、
図13のグラフより、横軸は、時間帯の違いにより、その物性量の知覚的意味は異なると解釈できる。すなわち、知覚的な意味の重みが異なると解釈できる。また、縦軸は、原点からの距離は特徴を生み出す源信号強度と関連した特徴とみなすと、物性量に相当すると解釈できる。本実施形態では、このことを考慮し、第一ステージと第二ステージを含む期間の触感を評価することとする。
【0029】
ここで、第一触感値および第二触感値の特定方法について説明する。なお、上述したように、本実施形態では時間帯の違いにより、その物性量の知覚的意味が異なることを考慮して評価するため、特定する第一触感値および第二触感値にこの点を考慮することとする。
図14(1)は、
図13(2)に示した第二ステージ(すすぎ時)のグラフである。このグラフを
図14(2)に示すように、所定時間における振動量を数値化する。本実施形態では、所定時間における面積(
図14(2)の1が記載された台形部分が相当)を求めることで数値化する。
図15(2)に示すように、本実施形態では1から6の期間における各期間の振動量を数値化する。なお、本実施形態では、1から6の期間にしたが、期間はこれに限らず、6より多くても少なくてもよい。
図16は、数値化した値(算出した面積)に、時間重み係数(「時間知覚重み係数」と記載することもある)と知覚強度係数を適用する方法を示す。
図16(2)に示すように、所定期間毎に算出した面積であるS1からS6に対し、それぞれ所定の時間重み係数(g1からg6)と知覚強度係数とをそれぞれ付加処理し、S1´からS6´を算出する。
【0030】
ここで、時間重み係数と知覚強度係数とについて説明する。
本実施形態のように、指20を繰り返し動作する際の力学的物理量を取得し、触感を評価する場合、動作開始直後と動作終了時とでは、同一の物性量でも触感に影響する度合いは異なる。例えば、
図16(2)で求めたS1からS6の総和が同じ場合でもS1の数値が大きい場合とS6の数値が大きい場合とでは、人の感じ方は異なる。そこで、力学的物理量を取得したタイミングに応じて、時間重み係数を付加する処理を行うことで、実際に人が感じる触感に近い触感値を特定することが可能となる。本実施形態では、
図16(2)に示すように、S1に対してはg1=1、S2に対してはg2=2、・・・、S6に対してはg6=6を乗算することとする。すなわち、時間経過に伴って漸増する時間重み係数を乗算することとする。
次に、知覚強度係数について説明する。力学的物理量の大きさ(刺激の大きさ)とそれを知覚する際の強さの関係は、例えば、以下の式(1)で示されるスティーヴンスのべき法則で示されている。
R=kS
n・・・式(1)
式(1)において、Sは人に与えられる刺激強度であり、Rは刺激強度Sに対して人が触覚を通じて感じる感覚量または知覚量である(kは定数、nは感覚ごとに決まる指数)。このように、与えられる刺激強度が2倍になっても人が感じる感覚量や知覚量は2倍にはならず、指数nのべき乗に比例することが知られている。
そこで、本実施形態では、
図16(2)に示すように、求めたS1からS6に対し、指数n=1/3を付加する処理を行うことで実際に人が感じる触感に近い触感値を特定することとする。
そして、式(2)に示すように、このようにして算出したS1´からS6´の総和と基準量Ss´との差分を触感値として用いることとする。
Index=ΣSi´-ΣSs´・・・式(2)
式(2)において、ΣSi´は算出したS1´からS6´の総和であり、ΣSs´は基準量である。基準量は、第一触感値および第二触感値を求める所定の剤と比較可能な剤(比較する際に基準とする剤)から予め算出した、振動量を数値化する際に求めた所定時間における面積に時間重み係数と知覚強度係数の付加処理を行った値の総和である。
このように第一ステージにおける力学的物理量を用いて第一触感値を特定し、第二ステージにおける力学的物理量を用いて第二触感値を特定する。また、所定期間毎の複数の特徴量(例えば、平均、標準偏差、スパイク量、原点からの距離、また、これらから求めた力学的物理量の大きさ)に対し、所定期間の時間帯に応じて所定の時間重み付け値(例えば、g1からg6が相当)を付加処理し、時間重み付け付加処理をした特徴量を用いて、第一触感値と第二触感値とを特定する。そして、このようにして求めた触感値を用いて評価することにより、実際に人が感じる触感に近い評価を行うことが可能となる。
【0031】
図17は、上述した方法で、ステージ毎およびSample毎に触感値を特定し、特定した触感値を横軸に第一ステージ(洗浄時)、縦軸に第二ステージ(すすぎ時)を示す座標系にプロットしたグラフである。すなわち、第一触感値を示す第一軸(例えば、横軸が相当)と、第二触感値を示す第二軸(例えば、縦軸が相当)と、を含む座標系に、第一触感値および第二触感値をともにプロットすることにより、第一ステージ(例えば、洗浄時)である期間と第二ステージ(例えば、すすぎ時)である期間とを含む期間の触感を評価することが可能となる。
図17より、例えば、以下のことが言える。
・SampleAは、第一ステージ(洗浄時)および第二ステージ(すすぎ時)ともにきしんだ状態、すなわち、常にきゅっとした触感である。
・SampleBは、第一ステージ(洗浄時)は少しきしむが第二ステージ(すすぎ時)はほぼ素肌感に近い触感である。
・SampleCは、第一ステージ(洗浄時)はほぼきしまず、第二ステージ(すすぎ時)もほぼ素肌感に近い触感である。
・SampleDは、第一ステージ(洗浄時)、第二ステージ(すすぎ時)ともにほぼきしまず、全体としてヌルヌルした触感である。
・SampleEは、第一ステージ(洗浄時)はきしまないが第二ステージ(すすぎ時)は少しきしんだきゅっとした触感である。
このように、第一ステージの第一触感値と第二ステージの第二触感値とを用いて第一ステージと第二ステージとを含む期間の触感を評価でき、複数のステージを含む場合の全体的な触感評価を可能とする。
【0032】
上述した評価方法の処理の流れを
図18に示す。
工程(ステップS100)は、力学的物理量の時系列データを取得する工程である。取得方法は、上述した通りである。
工程(ステップS110)は、取得した力学的物理量の時系列データにおいて複数種類の特徴量を求める工程である。各特徴量の算出方法は、上述した通りである。本実施形態では、所定期間毎(例えば、2秒毎)に、信号強度の平均(x値)、信号強度の標準偏差(y´値)、スパイク量(y´´値)、および原点からの距離(x´値)を算出する。
工程(ステップS120)は、算出した複数種類の特徴量を用いて第一ステージでの第一触感値と第二ステージでの第二触感値を特定する工程である。各触感値の特定方法は上述した通りである。本実施形態では、時間重み係数と知覚強度係数との付加処理をした第一触感値および第二触感値を特定する。
工程(ステップS130)は、特定した第一触感値および第二触感値を用いて第一ステージおよび第二ステージを含む期間の触感または当該触感を生み出す物性を評価する。評価方法は上述した通りである。本実施形態では、
図17に示した座標系に第一触感値および第二触感値をプロットし評価する。
【0033】
<触感評価装置>
図19を用いて、触感評価装置200について説明する。
本実施形態における触感評価装置200は、動作体110、取得部120、算出部130、特定部140、および評価部150で構成される。また、各種の処理を実行可能な情報処理端末100を備え、当該情報処理端末100に、算出部130、特定部140、および評価部150は備えられている。情報処理端末100は、汎用的なパーソナルコンピュータ(Personal Computer)であり、キーボード、ポインティングデバイスなどの入力装置、演算処理装置(例えば、CPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processing Unit)など)、記憶部等を備えている。また、情報処理端末100には、表示部160(表示装置)を備えていることが好ましいが、表示部160は情報処理端末100の外部に設けられ、ネットワークで接続されていてもよい。
【0034】
動作体110は、肌の表面に接触させる指20、手のひらまたは測定治具である。
取得部120は、
図1に示した指20に装着したセンサ30を用いて、指20を動かすことにより生じた力学的な物理量を経時的に取得する手段(取得手段に相当)である。センサ30で取得された力学的な物理量(電気信号)は、ネットワーク回線、媒体などを経由して情報処理端末100で取得できるように構成されている。
算出部130は、取得部120で取得した力学的物理量の時系列データから複数種類の特徴量を算出する手段(算出手段に相当)である。算出方法は上述したものと同様である。
特定部140は、算出した複数種類の特徴量を用いて第一触感値と第二触感値とを特定する手段(特定手段に相当)である。特定方法は上述したものと同様である。
評価部150は、特定部140で特定した第一触感値および第二触感値を用いて、第一ステージおよび第二ステージを含む期間の触感または当該触感を生み出す物性を評価する手段(評価手段に相当)である。評価内容は上述したものと同様である。評価部150による評価結果は、表示部160を用いて評価者が把握しやすいようにすることが好ましい。
表示部160は、評価部150による評価結果、例えば、
図17に示したグラフを表示する。また、例えば、
図11、
図13に示したグラフを表示することで、各剤の洗浄時またはすすぎ時それぞれの期間の触感を評価することが可能となる。
情報処理端末100の記憶部には、上述した評価方法を実行するプログラムが記憶されており、取得部120で取得した力学的な物理量をプログラムによって取得し、取得した力学的な物理量からプログラムが算出部130に複数種類の特徴量を算出させ、プログラムが特定部140に第一触感値および第二触感値とを特定させ、プログラムが評価部150に評価結果を表示部160に表示させるようにする。
【0035】
以上のように、具体的な実施形態を示して本発明を説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的が達成される限りにおける種々の変形、改良等の態様も含む。
<変形例>
本実施形態では、第一触感値および第二触感値を特定する際に、時間重み係数と知覚強度係数との付加処理を行ったが、時間重み係数と知覚強度係数との付加処理を行わなくてもよい。すなわち、
図16(2)に示した所定期間毎に算出した面積であるS1からS6を用いて第一触感値および第二触感値を特定してもよい。このように特定した第一触感値および第二触感値を用いても、第一ステージおよび第二ステージを含む期間の触感を評価することが可能となる。
【0036】
また、本実施形態では、時間経過に伴って線形的に増加する時間重み係数を用いたがこれに限らない。例えば、二次関数的に増加する時間重み係数を用いてもよい。動作終了時は特に人の感じ方に寄与する度合いが高いため、二次関数的に増加する時間重み係数を用いると、より、動作終了時の力学的物理量を重く評価できるため、実際に人が感じる触感に近い評価を行うことが可能となる。
【0037】
また、本実施形態では、第一ステージにおける時間重み係数の漸増割合と第二ステージにおける時間重み係数の漸増割合とを同一としたがこれに限らず、第一ステージにおける時間重み係数の漸増割合と第二ステージにおける時間重み係数の漸増割合とを異なる値としてもよい。
【0038】
また、本実施形態では、第一ステージにおける時間重み係数および第二ステージにおける時間重み係数は時間経過に伴い増加させたがこれに限らない。例えば、動作開始時と動作終了時の刺激は人に影響を与える割合が高いため、初期値から所定の範囲は漸増させ、その後、一旦、増減はせず、その後、漸増させてもよい。具体的には、例えば、g1=1、g2=2、g3=3、g4=3、g5=3、g6=4のようにしてもよい。このようにすることで、動作開始時と動作終了時にインパクトのある刺激がある場合、実際に人が感じる触感に近い評価を行うことが可能となる。
【0039】
また、本実施形態では、第一触感値は第一ステージにおける時間重み係数(例えば、g1(=1)からg6(=6)に漸増)、第二触感値は第二ステージにおける時間重み係数(例えば、g1(=1)からg6(=6)に漸増)であることより、第二触感値を特定する際の時間重み係数は、第一ステージの時間重み係数に関連付けられた値である。「第一ステージの時間重み係数に関連付けられた値」とは、本実施形態のように、態様1)第二ステージの時間重み係数のg1(=1)は、第一ステージの時間重み係数のg1(=1)と同一の時間重み係数とすること、すなわち、第二ステージの時間重み係数の初期値(g1)は第一ステージの時間重み係数と同一とし、同一割合で漸増すること、態様2)第二ステージの時間重み係数のg1は、第一ステージの時間重み係数のg1(=1)より小さい時間重み係数(例えば、0.5)とすること、すなわち、第二ステージの時間重み係数の初期値は第一ステージの時間重み係数の初期値より小さくすること、態様3)第二ステージの時間重み係数のg1は、第一ステージの時間重み係数の最後より前の時間重み係数(例えば、g5(=5))とすること、すなわち、第二ステージの時間重み係数の初期値は第一ステージの時間重み係数の最終値より前の時間重み係数と同一にすること、態様4)第二ステージの時間重み係数のg1は、第一ステージの時間重み係数の最後の時間重み係数(g6(=6))より小さい時間重み係数(例えば、5.5)とすること、すなわち、第二ステージの時間重み係数の初期値は第一ステージの時間重み係数の最終値より小さくすること、態様5)第二ステージの時間重み係数のg1は、第一ステージの時間重み係数の最後の時間重み係数(g6(=6))以上の時間重み係数(例えば、7)とすること、すなわち、第二ステージの時間重み係数の初期値は第一ステージの時間重み係数の最終値より大きくすること、などである。
態様1)から態様4)のように、第二ステージの時間重み係数のg1は、第一ステージの時間重み係数の最後の時間重み係数(g6(=6))より小さい時間重み係数とするのは、第一ステージと第二ステージとでは、所定の剤が互いに異なる、所定の剤が適用された物体の環境が互いに異なる、または、物体が互いに異なるため、第二ステージとなったことにより、触感印象がリセットされるためである。このように、第二ステージの時間重み係数のg1の値を第一ステージの時間重み係数の最後の時間重み係数(g6(=6))より小さい値を用いて第一触感値および第二触感値を特定することで、実際に人が感じる触感に近い評価を行うことが可能となる。また、態様3)のように、第二ステージの時間重み係数のg1は、第一ステージの時間重み係数の最後より前の時間重み係数(例えば、g5(=5))とする場合は、例えば、第一ステージから第二ステージとなったことで、触感印象が完全にリセットされない場合、例えば、第一ステージと第二ステージとはいずれもすすぎ状態で、第一ステージは水(肌の表面温度より低い)、第二ステージはぬるま湯ですすぐ場合であれば、触感印象が完全にリセットされない可能性が高いためである。
また、態様5)のように、第二ステージの時間重み係数のg1は、第一ステージの時間重み係数の最後の時間重み係数(g6(=6))以上の時間重み係数(例えば、7)とするのは、例えば、第一ステージと第二ステージは何れもマッサージ状態であり、第一ステージと第二ステージとでは塗布する所定の剤が異なる(例えば、第一ステージはオイル、第二ステージはクリーム)場合、第一ステージでの触感印象を継続するため、第一ステージの時間重み係数の最後の時間重み係数(g6(=6))以上の時間重み係数(例えば、7)を用いて第一触感値および第二触感値を特定することで、実際に人が感じる触感に近い評価を行うことが可能となる。
このように、第一ステージおよび第二ステージの内容に応じて、第二ステージの所定の時間重み付け値は、第一ステージの所定の時間重み付け値に関連付けられた値とすることが好ましい。
【0040】
本実施形態では、第一触感値および第二触感値を特定する際に、
図16(2)に示した所定期間毎に算出した面積であるS1からS6に時間重み係数と知覚強度係数との付加処理を行った値の総和としたがこれに限らない。例えば、一部の値は含めず、第一触感値および第二触感値を特定するようにしてもよい。また、あるステージ内において、ある期間とその前の期間で得られたそれぞれの面積を比較して、その差や比に応じて、当該期間の面積の値にバイアスをかけてもよい。例えば、ある期間の面積に比べ、その前の面積が小さい場合、当該期間の面積をその前との比率倍するなどして第一触感値および第二触感値を特定するようにしてもよい。
【0041】
本実施形態では、第一触感値および第二触感値を特定する際に、
図14(2)に示すように、所定時間における振動量を数値化する際に、所定時間における面積(
図14(2)の1が記載された台形部分が相当)を求めることで数値化したがこれに限らない。例えば、
図14(1)に示したグラフの所定時間毎の矩形の基底関数、矩形やサイン・コサインなど適切な基底関数を用いて特定してもよい。
【0042】
本実施形態では、第一ステージと第二ステージとは連続した時間としたがこれに限らない。例えば、第一ステージ後、所定期間経過後、第二ステージとなる場合でもよい。第一触感値および第二触感値は、ステージ毎に行うため、第一ステージ後、所定期間経過後に第二ステージとなる場合でも、第一ステージおよび第二ステージを含む期間の一連の触感評価を行うことができる。
【0043】
本実施形態では、第一ステージおよび第二ステージを含む期間の評価を行ったが、ステージ数はこれに限らない。例えば、所定の剤として化粧落としを適用した状態を第一ステージ、洗顔剤を適用した状態を第二ステージ、化粧水を適用した状態を第三ステージとし、第一ステージ、第二ステージ、および第三ステージを含む期間の触感を評価することも可能である。この場合、例えば、3軸の座標系に第一触感値、第二触感値、および第三触感値をプロットすることで3ステージの特徴からなる総合的特徴を視覚的に把握でき、触感または当該触感を生み出す物性の評価を行うことができる。すなわち、所定ステージが有する複数のステージ(例えば、第一ステージ、第二ステージ、第三ステージが相当)毎に特定した各触感値(例えば、第一触感値、第二触感値、第三触感値が相当)を所定の座標系(例えば、3軸の座標系が相当)にプロットすることにより、複数ステージを含む期間の触感または当該触感を生み出す物性を評価可能となる。
【0044】
本実施形態では、「スパイク」と判定する所定の閾値は、取得した信号波形の信号強度に対して所定の割合(例えば、最大信号強度に対する所定の割合)を所定の閾値としてもよい。
【符号の説明】
【0045】
10 演算装置
20 指
30 センサ
40 洗浄剤
100 情報処理端末
110 動作体
120 取得部
130 算出部
140 特定部
150 評価部
160 表示部
200 触感評価装置