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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024135699
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】車両の乗り心地予測装置
(51)【国際特許分類】
   G01M 17/02 20060101AFI20240927BHJP
   B60C 19/00 20060101ALI20240927BHJP
   G01M 17/007 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
G01M17/02
B60C19/00 Z
B60C19/00 H
G01M17/007 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023046510
(22)【出願日】2023-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124039
【弁理士】
【氏名又は名称】立花 顕治
(74)【代理人】
【識別番号】100210251
【弁理士】
【氏名又は名称】大古場 ゆう子
(72)【発明者】
【氏名】木寅 龍太
【テーマコード(参考)】
3D131
【Fターム(参考)】
3D131BC55
3D131LA22
3D131LA34
(57)【要約】
【課題】タイヤが装着された車両の乗り心地を予測する技術を提供する。
【解決手段】車両の乗り心地予測装置は、導出部を備える。導出部は、タイヤのトレッド部の剛性及びサイド部の剛性の少なくとも一方に関連する剛性データを入力すると、前記タイヤが装着された車両の乗り心地評価を予測する予測データを出力するように機械学習された機械学習モデルに、対象タイヤの前記剛性データを入力し、前記対象タイヤが装着された車両の前記予測データを出力させる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤのトレッド部の剛性及びサイド部の剛性の少なくとも一方に関連する剛性データを入力すると、前記タイヤが装着された車両の乗り心地評価を予測する予測データを出力するように機械学習された機械学習モデルに、対象タイヤの前記剛性データを入力し、前記対象タイヤが装着された車両の前記予測データを出力させる導出部
を備える、
車両の乗り心地予測装置。
【請求項2】
前記剛性データは、前記タイヤの構造設計値を含む、
請求項1に記載の車両の乗り心地予測装置。
【請求項3】
前記タイヤの構造設計値は、トレッド部の材料の硬度、前記トレッド部の厚み、前記トレッド部のキャップ部の厚み及びベース部の厚みの比率、前記トレッド部の補強材の構造及び材料、サイドウォール部の材料の硬度、前記サイドウォール部の厚み、前記サイドウォール部のカーカスの材料及び構造、前記サイドウォール部の補強材の材料、エイペックスの材料の硬度、前記エイペックスの高さ、ならびに前記タイヤを成型する金型のトレッド面に対応する内面の曲率半径、前記内面の幅、及びトレッドパターン剛性の少なくとも1つを含む、
請求項2に記載の車両の乗り心地予測装置。
【請求項4】
前記剛性データは、前記タイヤ単体から計測される単体特性値を含む、
請求項1または2に記載の車両の乗り心地予測装置。
【請求項5】
前記タイヤの単体特性値は、縦剛性、サイドウォール剛性、ブロック剛性、前記タイヤ単体の共振周波数、及び突起反力のうち少なくとも1つを含む、
請求項4に記載の車両の乗り心地予測装置。
【請求項6】
前記機械学習モデルは、前記剛性データに加え、前記タイヤが装着される車両の車両特性値を入力すると、前記予測データを出力するように機械学習される、
請求項1または2に記載の車両の乗り心地予測装置。
【請求項7】
タイヤのトレッド部の剛性及びサイド部の剛性の少なくとも一方に寄与する構造設計値を入力すると、前記タイヤ単体から計測されるデータであって、前記タイヤのトレッド部の剛性及びサイド部の剛性の少なくとも一方に関連する単体特性値を予測する第1予測データを出力するように機械学習された第1機械学習モデルに、対象タイヤの前記構造設計値を入力し、前記対象タイヤの前記第1予測データを出力させる第1導出部
を備える、
車両の乗り心地予測装置。
【請求項8】
前記タイヤの前記第1予測データ及び前記タイヤが装着される車両の車両特性値を入力すると、前記タイヤが装着された前記車両のフロア振動特性及び突起乗り越え特性の少なくとも一方を予測する第2予測データを出力するように機械学習された第2機械学習モデルに、前記対象タイヤの前記第1予測データ及び前記対象タイヤが装着される車両の車両特性値を入力し、前記対象タイヤが装着された前記車両の前記第2予測データを出力させる第2導出部
をさらに備える、
請求項7に記載の車両の乗り心地予測装置。
【請求項9】
前記タイヤが装着された前記車両の前記第2予測データを入力すると、前記タイヤが装着された前記車両の乗り心地評価を予測する第3予測データを出力するように機械学習された第3機械学習モデルに、前記対象タイヤが装着された前記車両の前記第2予測データを入力し、前記対象タイヤが装着された前記車両の前記第3予測データを出力させる第3導出部
をさらに備える、
請求項8に記載の車両の乗り心地予測装置。
【請求項10】
タイヤのトレッド部の剛性及びサイド部の剛性の少なくとも一方に関連する剛性データを入力すると、前記タイヤが装着された車両の乗り心地評価を予測する予測データを出力するように機械学習された機械学習モデルに、対象タイヤの前記剛性データを入力し、前記対象タイヤが装着された車両の前記予測データを出力させること
を含む、
車両の乗り心地予測方法。
【請求項11】
タイヤのトレッド部の剛性及びサイド部の剛性の少なくとも一方に寄与する構造設計値を入力すると、前記タイヤ単体から計測されるデータであって、前記タイヤのトレッド部の剛性及びサイド部の剛性の少なくとも一方に関連する単体特性値を予測する第1予測データを出力するように機械学習された第1機械学習モデルに、対象タイヤの前記構造設計値を入力し、前記対象タイヤの前記第1予測データを出力させること
を含む、
車両の乗り心地予測方法。
【請求項12】
タイヤのトレッド部の剛性及びサイド部の剛性の少なくとも一方に関連する剛性データと、前記タイヤが装着された車両の乗り心地を官能評価した評価データとが組み合わせられた学習用データセットを準備することと、
前記学習用データセットを用いて、対象タイヤの前記剛性データが入力されると、前記対象タイヤが装着された車両の前記評価データを予測するデータを出力するように、機械学習モデルを機械学習させることと
を含む、
学習済みの機械学習モデルの生成方法。
【請求項13】
タイヤのトレッド部の剛性及びサイド部の剛性の少なくとも一方に寄与する構造設計値と、前記タイヤ単体から計測されるデータであって、前記タイヤのトレッド部の剛性及びサイド部の剛性の少なくとも一方に関連する単体特性値とが組み合わせられた学習用データセットを準備することと、
前記学習用データセットを用いて、対象タイヤの前記構造設計値が入力されると、前記対象タイヤの前記単体特性値を予測するデータを出力するように、機械学習モデルを機械学習させることと
を含む、
学習済みの機械学習モデルの生成方法。
【請求項14】
タイヤ単体から計測されるデータであって、前記タイヤのトレッド部の剛性及びサイド部の剛性の少なくとも一方に関連する単体特性値及び前記タイヤが装着される車両の車両特性値と、前記タイヤが装着された前記車両のフロア振動特性及び突起乗り越え特性の少なくとも一方とが組み合わせられた学習用データセットを準備することと、
対象タイヤの前記単体特性値及び前記対象タイヤが装着される車両の前記車両特性値が入力されると、前記対象タイヤが装着された前記車両のフロア振動特性及び突起乗り越え特性の少なくとも一方を予測するデータを出力するように、機械学習モデルを機械学習させることと
を含む、
学習済みの機械学習モデルの生成方法。
【請求項15】
タイヤが装着された車両のフロア振動特性及び突起乗り越え特性の少なくとも一方と、前記タイヤが装着された前記車両の乗り心地を官能評価した評価データとが組み合わせられた学習用データセットを準備することと、
対象タイヤが装着された車両のフロア振動特性及び突起乗り越え特性の少なくとも一方が入力されると、前記対象タイヤが装着された前記車両の乗り心地を官能評価した評価データを予測するデータを出力するように、機械学習モデルを機械学習させることと
を含む、
学習済みの機械学習モデルの生成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の乗り心地予測装置及び学習済みモデルの生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、機械学習モデルを使用して、タイヤの接地面形状を表す画像に基づいて、タイヤ性能値を予測する方法を開示する。特許文献1によれば、予測の対象となるタイヤ性能値は、例えばCP(コーナリングパワー)、CFmax(最大コーナリングフォース)、SAT(セルフアライニングトルク)である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-195038号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の例に限られず、タイヤの性能値(タイヤ単体の台上試験により測定可能な値)は、車両の乗り心地を左右する重要な要因となる。しかし、車両の乗り心地の評価は、基準タイヤを同じ車両に装着した場合の乗り心地と比較した官能評価が主流である。官能評価には、試験時の評価者の体調、試験時の環境(気温等)及び評価者の好み等が反映されるため、官能評価とタイヤの性能値との関係を統計的に解析することは、これまで困難であった。また、タイヤの性能値は、タイヤの構造設計値に依存する値であるが、官能評価とタイヤの構造設計値との関係を統計的に解析することもまた困難であった。特許文献1では、この点は考慮されていない。
【0005】
発明者は、車両の乗り心地に特に関連する要因として、タイヤのトレッド部の剛性及びトレッド部を除く部分のサイド部の剛性を表す性能値、ならびにこれらの剛性を左右する構造設計値に着目した。そして、鋭意検討の結果、上記剛性に関するデータに基づき、当該タイヤが装着された車両の乗り心地評価を統計的に予測する手法を見出した。
【0006】
本発明は、タイヤのトレッド部の剛性及びサイド部の剛性の少なくとも一方に関連するデータから、当該タイヤが装着された車両の乗り心地を予測する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1観点に係る車両の乗り心地予測装置は、導出部を備える。導出部は、タイヤのトレッド部の剛性及びサイド部の剛性の少なくとも一方に関連する剛性データを入力すると、前記タイヤが装着された車両の乗り心地評価を予測する予測データを出力するように機械学習された機械学習モデルに、対象タイヤの前記剛性データを入力し、前記対象タイヤが装着された車両の前記予測データを出力させる。
【0008】
第2観点に係る車両の乗り心地予測装置は、第1観点に係る車両の乗り心地予測装置であって、前記剛性データは、前記タイヤの構造設計値を含む。
【0009】
第3観点に係る車両の乗り心地予測装置は、第2観点に係る車両の乗り心地予測装置であって、前記タイヤの構造設計値は、トレッド部の材料の硬度、前記トレッド部の厚み、前記トレッド部のキャップ部の厚み及びベース部の厚みの比率、前記トレッド部の補強材の構造及び材料、サイドウォール部の材料の硬度、前記サイドウォール部の厚み、前記サイドウォール部のカーカスの材料及び構造、前記サイドウォール部の補強材の材料、エイペックスの材料の硬度、前記エイペックスの高さ、ならびに前記タイヤを成型する金型のトレッド面に対応する内面の曲率半径、前記内面の幅、及びトレッドパターン剛性の少なくとも1つを含む。
【0010】
第4観点に係る車両の乗り心地予測装置は、第1観点から第3観点のいずれかに係る車両の乗り心地予測装置であって、前記剛性データは、前記タイヤ単体から計測される単体特性値を含む。
【0011】
第5観点に係る車両の乗り心地予測装置は、第1観点から第4観点のいずれかに係る車両の乗り心地予測装置であって、前記タイヤの単体特性値は、縦剛性、サイドウォール剛性、ブロック剛性、前記タイヤ単体の共振周波数、及び突起反力のうち少なくとも1つを含む。
【0012】
第6観点に係る車両の乗り心地予測装置は、第1観点から第5観点のいずれかに係る車両の乗り心地予測装置であって、前記機械学習モデルは、前記剛性データに加え、前記タイヤが装着される車両の車両特性値を入力すると、前記予測データを出力するように機械学習される。
【0013】
第7観点に係る車両の乗り心地予測装置は、第1導出部を備える。第1導出部は、タイヤのトレッド部の剛性及びサイド部の剛性の少なくとも一方に寄与する構造設計値を入力すると、前記タイヤ単体から計測されるデータであって、前記タイヤのトレッド部の剛性及びサイド部の剛性の少なくとも一方に関連する単体特性値を予測する第1予測データを出力するように機械学習された第1機械学習モデルに、対象タイヤの前記構造設計値を入力し、前記対象タイヤの前記第1予測データを出力させる。
【0014】
第8観点に係る車両の乗り心地予測装置は、第7観点に係る車両の乗り心地予測装置であって、第2導出部をさらに備える。第2導出部は、前記タイヤの前記第1予測データ及び前記タイヤが装着される車両の車両特性値を入力すると、前記タイヤが装着された前記車両のフロア振動特性及び突起乗り越え特性の少なくとも一方を予測する第2予測データを出力するように機械学習された第2機械学習モデルに、前記対象タイヤの前記第1予測データ及び前記対象タイヤが装着される車両の車両特性値を入力し、前記対象タイヤが装着された前記車両の前記第2予測データを出力させる。
【0015】
第9観点に係る車両の乗り心地予測装置は、第8観点に係る車両の乗り心地予測装置であって、第3導出部をさらに備える。第3導出部は、前記タイヤが装着された前記車両の前記第2予測データを入力すると、前記タイヤが装着された前記車両の乗り心地評価を予測する第3予測データを出力するように機械学習された第3機械学習モデルに、前記対象タイヤが装着された前記車両の前記第2予測データを入力し、前記対象タイヤが装着された前記車両の前記第3予測データを出力させる。
【0016】
第10観点に係る車両の乗り心地予測方法は、タイヤのトレッド部の剛性及びサイド部の剛性の少なくとも一方に関連する剛性データを入力すると、前記タイヤが装着された車両の乗り心地評価を予測する予測データを出力するように機械学習された機械学習モデルに、対象タイヤの前記剛性データを入力し、前記対象タイヤが装着された車両の前記予測データを出力させることを含む。
【0017】
第11観点に係る車両の乗り心地予測方法は、タイヤのトレッド部の剛性及びサイド部の剛性の少なくとも一方に寄与する構造設計値を入力すると、前記タイヤ単体から計測されるデータであって、前記タイヤのトレッド部の剛性及びサイド部の剛性の少なくとも一方に関連する単体特性値を予測する第1予測データを出力するように機械学習された第1機械学習モデルに、対象タイヤの前記構造設計値を入力し、前記対象タイヤの前記第1予測データを出力させることを含む。
【0018】
第12観点に係る学習済みの機械学習モデルの生成方法は、以下のことを含む。
・タイヤのトレッド部の剛性及びサイド部の剛性の少なくとも一方に関連する剛性データと、前記タイヤが装着された車両の乗り心地を官能評価した評価データとが組み合わせられた学習用データセットを準備すること。
・前記学習用データセットを用いて、対象タイヤの前記剛性データが入力されると、前記対象タイヤが装着された車両の前記評価データを予測するデータを出力するように、機械学習モデルを機械学習させること。
【0019】
第13観点に係る学習済みの機械学習モデルの生成方法は、以下のことを含む。
・タイヤのトレッド部の剛性及びサイド部の剛性の少なくとも一方に寄与する構造設計値と、前記タイヤ単体から計測されるデータであって、前記タイヤのトレッド部の剛性及びサイド部の剛性の少なくとも一方に関連する単体特性値とが組み合わせられた学習用データセットを準備すること
・前記学習用データセットを用いて、対象タイヤの前記構造設計値が入力されると、前記対象タイヤの前記単体特性値を予測するデータを出力するように、機械学習モデルを機械学習させること
【0020】
第14観点に係る学習済みモデルの生成方法は、以下のことを含む。
・タイヤ単体から計測されるデータであって、前記タイヤのトレッド部の剛性及びサイド部の剛性の少なくとも一方に関連する単体特性値及び前記タイヤが装着される車両の車両特性値と、前記タイヤが装着された前記車両のフロア振動特性及び突起乗り越え特性の少なくとも一方とが組み合わせられた学習用データセットを準備すること
・対象タイヤの前記単体特性値及び前記対象タイヤが装着される車両の前記車両特性値が入力されると、前記対象タイヤが装着された前記車両のフロア振動特性及び突起乗り越え特性の少なくとも一方を予測するデータを出力するように、機械学習モデルを機械学習させること
【0021】
第15観点に係る学習済みモデルの生成方法は、以下のことを含む。
・タイヤが装着された車両のフロア振動特性及び突起乗り越え特性の少なくとも一方と、前記タイヤが装着された前記車両の乗り心地を官能評価した評価データとが組み合わせられた学習用データセットを準備すること
・対象タイヤが装着された車両のフロア振動特性及び突起乗り越え特性の少なくとも一方が入力されると、前記対象タイヤが装着された前記車両の乗り心地を官能評価した評価データを予測するデータを出力するように、機械学習モデルを機械学習させること
【発明の効果】
【0022】
上記第1観点によれば、対象タイヤのトレッド部の剛性及びサイド部の剛性の少なくとも一方に関連するデータに基づき、対象タイヤが装着された車両の乗り心地が予測される。また、上記第7観点によれば、タイヤのトレッド部の剛性及びサイド部の剛性の少なくとも一方に寄与する構造設計値から、対象タイヤが装着された車両の乗り心地を左右する対象タイヤのトレッド部の剛性及びサイド部の剛性を表す単体特性値が予測される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】第1実施形態に係る予測装置の電気的構成を示すブロック図。
図2】モデルの構造を説明する図。
図3】乗り心地予測の流れを示すフローチャート。
図4】機械学習の流れを示すフローチャート。
図5】第2実施形態に係る予測装置の電気的構成を示すブロック図。
図6】第2実施形態に係る乗り心地予測の流れを示すフローチャート。
図7】第2実施形態に係るデータの流れを説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、いくつかの実施形態に係る車両の乗り心地予測装置及び学習済みモデルの生成方法について説明する。
【0025】
(第1実施形態)
<1-1.データ>
図1は、第1実施形態に係る車両の乗り心地予測装置1(以下、単に「予測装置1」とも称する)の電気的構成を示すブロック図である。予測装置1は、予想対象となる対象タイヤのトレッド部の剛性及びサイド部の剛性の少なくとも一方に関連する剛性データに基づき、該対象タイヤが装着された車両の乗り心地を官能評価した評価データを予測する予測データを出力する装置である。予測装置1は、主としてタイヤの設計開発や品質管理の場面で好ましく用いられる。ここで、タイヤのサイド部は、トレッド部とビード部との間にある部分を指す。以下、剛性データ及び予測データについて説明する。
【0026】
[剛性データ]
剛性データは、タイヤのトレッド部の剛性及びサイド部の剛性の少なくとも一方に関連する値であれば、構造設計値及び単体特性値のいずれを含んでもよい。構造設計値は、タイヤを設計する場合に具体的に定められるパラメータである。単体特性値は、タイヤ単体の台上試験により測定される値であり、構造設計値と関連する場合がある。
【0027】
[構造設計値]
構造設計値のうち、トレッド部の剛性に特に関連する値としては、例えばトレッド部を構成するキャップ部の材料の硬度、トレッド部を構成するベース部の材料の硬度、トレッド部の厚み(所定の位置における厚みや最大の厚み)、キャップ部の厚み及びベース部の厚みの比率、トレッド部の補強材の構造及び材料等が挙げられる。トレッド部の補強材としては、ブレーカーやバンドが挙げられる。ブレーカーは、ラジアルタイヤではベルトとも称される部材であり、周方向にカーカスを締め付け、トレッド部の剛性を高める。ブレーカーの構造としては、例えばブレーカーの幅及びタイヤの周方向に対してなす角度が挙げられる。バンドは、トレッド部の剛性を高めるため、必要に応じてトレッド部に組み込まれる布状の部材であり、バンドの構造としては、バンド層の数、バンドが組み込まれるタイヤの幅方向の位置等が挙げられる。補強材の材料は、例えば材料の種類に応じて予め割り振られる番号により数値化することができる。
【0028】
構造設計値のうち、サイド部の剛性に特に関連する値としては、例えばサイドウォール部の材料の硬度、サイドウォール部の厚み(所定の位置における厚みや最大の厚み)、サイドウォール部のカーカスの材料及び構造、サイドウォール部の補強材の材料、エイペックスの材料の硬度、エイペックスの高さ等が挙げられる。カーカスは、通常タイヤ全体にわたって延在する補強材であるが、トレッド部の剛性よりは特にサイドウォール部の剛性に寄与する。カーカスの材料は、例えば材料の種類に応じて予め割り振られる番号により数値化することができる。カーカスの構造の例としては、層の数、カーカスを構成するコードの太さ、及び折り返し高さ等が挙げられる。サイドウォール部の補強材としては、ストリップエイペックス、スチールフィラー、及びナイロンフィラー等が挙げられる。補強材の材料は、例えば材料の種類に応じて予め割り振られる番号により数値化することができる。また、このような補強材の有無を数値化し、剛性データに含めてもよい。
【0029】
構造設計値には、タイヤを成型する金型のプロファイルがさらに含まれてもよい。金型のプロファイルの例としては、トレッド面に対応する金型の内面の近似的な曲率半径(トレッドラジアス)、トレッド面に対応する内面の幅、及びトレッドパターン剛性等が挙げられる。トレッドラジアスは、空気入りタイヤの接地幅に関係し、路面からの入力の大きさを左右する。トレッドパターン剛性とは、トレッド部のゴムブロックで構成されるパターンから算出される、接地面の全体的な剛性を表す。
【0030】
[単体特性値]
タイヤの単体特性値としては、縦剛性、サイドウォール剛性、ブロック剛性、タイヤ単体の共振周波数、及び突起反力等が挙げられる。縦剛性[N/mm]は、タイヤに対して垂直に荷重を加えた時のたわみを表し、小さければ小さいほどサイド部がたわみやすく、路面からの入力が緩和される。サイドウォール剛性[N/mm]は、縦剛性からトレッド部の剛性の寄与を除いた剛性を表す。ブロック剛性[N/mm]は、トレッドパターンを構成するゴムブロックの剛性を表す。タイヤ単体の共振周波数は、タイヤが装着される車両の振動に関連する要素であり、例えば、前後ねじり共振周波数[Hz]等が挙げられる。車両の振動は、これらの共振周波数と、車両自体の共振周波数との関係によっても左右されるため、後述する入力データには、車両のバネ上共振周波数、車両のバネ下共振周波数、及びエンジンマウント共振周波数等の車両特性値がさらに含まれてもよい。
【0031】
[予測データ]
車両の乗り心地評価を予測する予測データは、専門の試験官が、対象タイヤを装着した車両の試験走行時に得る振動の体感を官能評価した評価データを予測するデータである。官能評価の項目には、例えば「ヒョコヒョコ」「ブルブル」「ゴツゴツ」「ビリビリ」等と表現される体感や、突起や異物等を乗り越えたときの衝撃感(ショック)等がある。車両の官能試験において、これらの体感の評価は、例えば「コントロールタイヤ」と称される基準タイヤを同じ車両に装着した場合の体感を基準として、試験官により所定の段階に指数化される。
【0032】
<1-2.予測装置の構成>
予測装置1は、ハードウェアとしては汎用のコンピュータであり、例えば、デスクトップパソコン、ラップトップパソコン、タブレット、スマートフォンとして実現される。予測装置1は、CD-ROM、USBメモリ等のコンピュータで読み取り可能な記憶媒体133から、或いはネットワークを介して、プログラム132を上記汎用のコンピュータにインストールすることにより製造される。プログラム132は、予測装置1に後述する動作を実行させる。
【0033】
図1に示すように、予測装置1は、制御部10、表示部11、入力部12、記憶部13、及び通信部14及びI/Oインタフェース15を備える。これらの部10~15は、互いにバス線16を介して接続されており、相互に通信可能である。表示部11は、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、プラズマディスプレイ、タッチパネルディスプレイ等で構成することができ、例えば後述する機械学習モデルの学習過程における誤差、及び機械学習されたモデルから導出される出力結果等を表示する。入力部12は、マウス、キーボード、タッチパネル等で構成することができ、予測装置1に対する操作を受け付ける。表示部11及び入力部12は、ともに同じタッチパネルディスプレイで構成されてもよい。通信部14は、ネットワークを介したデータ通信を行う通信インタフェースとして機能する。I/Oインタフェース15は、例えば、USB(Universal Serial Bus)ポート、専用ポート等であり、外部装置と接続するためのインタフェースである。
【0034】
記憶部13は、ハードディスク及びフラッシュメモリ等の不揮発性メモリで構成することができる。記憶部13内には、プログラム132が記憶されている他、機械学習済みの機械学習モデル17(以下、単に「モデル17」とも称する)を定義するパラメータが記憶される。モデル17は、タイヤが静止状態であるときの接地特性である静的接地特性を表すデータを入力すると、該タイヤの摩耗特性を表すデータを出力するように学習済みである。この学習方法については、後述する。
【0035】
制御部10は、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等で構成することができる。制御部10は、記憶部13内のプログラム132を読み出して実行することにより、仮想的に取得部10A、導出部10B、画面生成部10C、及び学習部10Dとして動作する。取得部10Aは、入力部12や通信部14等を介して、予測対象となる対象タイヤの静的接地特性を表す剛性データを取得する。導出部10Bは、取得された剛性データをモデル17に入力し、モデル17から対象タイヤが装着された車両の予測データを出力させる。画面生成部10Cは、各種の情報を表示する画面等を生成する。学習部10Dについては、後述する。
【0036】
<1-3.モデルの構成>
以下、モデル17の構成について説明する。図2は、モデル17の概念図である。本実施形態のモデル17は、ニューラルネットワーク(NN)をベースとして構成される。なお、モデル17は、対象タイヤの官能評価を行う特定の試験官ごとに機械学習され、生成されていてもよいし、試験官を特に区別せずに生成されていてもよい。
【0037】
モデル17は、入力層170と、出力層172と、入力層170と出力層172との間を接続する1または複数の中間層171とを備える。入力層170は、モデル17に入力される入力データ1340に応じた数のノードを有する。本実施形態は、入力データは剛性データと、車両特性値とを含む。
【0038】
剛性データは、上述したタイヤのトレッド部の剛性及びサイド部の剛性の少なくとも一方に関連する構造設計値及び単体特性値から適宜選択されるデータである。例えば、構造設計値が不明な対象タイヤについて車両の乗り心地を予測する場合は、構造設計値に属する値を剛性データとせず、単体特性値の中から選択したデータを剛性データとするように、モデル17を構成することができる。車両特性値は、本実施形態では、対象タイヤが装着される車両のバネ上共振周波数である。
【0039】
入力層170の各ノードに入力された入力データ1340は、それぞれ、入力層170の直後に接続される中間層171のノードに引き渡される。中間層171の各ノードは、後述する機械学習により調整された重み及びバイアスがそれぞれ定められており、これらの重み及びバイアスにより、各ノードにおける入力データの線形変換が行われる。さらに、線形変換後のデータに対し、活性化関数による非線形変換が行われ、閾値を超えた中間層171のノードの値が、後続の中間層171へと引き渡される。後続の中間層171の各ノードも、同様に機械学習により調整された重み及びバイアスが定められており、入力された値に対する線形変換及び非線形変換が同様に行われる。これを繰り返すことにより、出力層172へと、順次値が引き渡されていく。
【0040】
中間層171の数、中間層171ごとのノードの数、及び各ノードの接続は、適宜定めることができる。また、活性化関数も特に限定されず、例えばtanh関数、シグモイド関数、ReLU関数、ステップ関数、ELU関数、Softmax関数等を採用することができる。
【0041】
出力層172は、モデル17の出力データ1341となる予測データを出力する層である。出力層172が有するノードの数は、予測データの種類に応じて予め定められる。例えば、予測データを「ヒョコヒョコ」「ブルブル」「ゴツゴツ」「ビリビリ」及び「ショック」の5種類の体感の(コントロールタイヤに対する)評価データの予測データとする場合、出力層172は、各体感に対応した5つのノードを有する。そして、最後の中間層171からこれらノードに引き渡され、当該ノードから出力される値が、上述の各体感に対応した評価データ(指数)の予測値となる。ここで、モデル17が試験官ごとに生成される場合は、出力データ1341は、対応する試験官により決定される確率が高い評価データとなる。モデル17が試験官を区別せずに生成される場合は、出力データ1341は、複数の試験官により決定される確率が総合的に高い評価データとなる。
【0042】
<1-4.予測方法>
図3は、予測装置1により実行される車両の乗り心地評価の予測方法の流れを示すフローチャートである。以下では、試験官を区別せずに生成された1つのモデル17により、複数の試験官による総合的な官能評価の結果を予測する場合を例に説明する。
【0043】
まず、取得部10Aが、対象タイヤの剛性データ及び対象タイヤが装着される車両の車両特性値を取得し、入力データ1340としてRAMまたは記憶部13に保存する(ステップS1)。剛性データは、上述の構造値設計及び単体特性値に属するデータのうち少なくとも1つを含むデータであり、対象タイヤの構造設計値が不明である場合には、台上試験により測定される単体特性値の1または複数のデータとすることもできる。また、車両特性値は、例えばバネ上共振周波数とすることができる。取得部10Aによる取得は、例えば予測装置1のユーザ(典型的には、タイヤの開発設計者)が入力部12を介して行ってもよいし、CD-ROM、USBメモリ等の記録媒体を介して行ってもよいし、ネットワークを介して台上試験装置から測定データを読み出すことで行ってもよい。
【0044】
続いて、導出部10Bが、入力データ1340をモデル17に入力し、モデル17から出力データ1341を出力させる(ステップS2)。出力データ1341は、本実施形態では、官能試験の各項目に対応する評価データを予測する予測データである。
【0045】
続いて、画面生成部10Cが、ステップS2で導出された出力データ1341を表示する結果画面を生成し、表示部11を介して表示する(ステップS3)。出力データ1341の表示形式は特に限定されない。画面生成部10Cは、例えば、官能評価の各項目と、その項目に対する予測データとが対応した表形式で出力データ1341を表示する結果画面を生成することができる。
【0046】
タイヤの開発者等は、結果画面を確認し、対象タイヤにより狙いとする官能評価を実現できる可能性が高いか否かを判断することができる。これにより、対象タイヤを試作する前であれば、対象タイヤを試作するか否かを容易に判断することができるので、試作及び試作品の評価試験に係る工程を効率的に行うことができる。また、対象タイヤの現物が既に製作されている場合でも、その対象タイヤによる官能評価をさらに実施するかどうかの判断を容易に行うことができる。さらに、入力データ1340を適宜変化させることにより、乗り心地が改善する対象タイヤと車両とのマッチングを検討したり、狙いとする官能評価を実現する可能性がより高い構造設計値または単体特性値を検討したりすることができる。
【0047】
<1-5.学習方法>
予測装置1は、学習済みモデルの生成装置としても構成することができる。以下、図4を参照しつつ、学習部10Dにより実行される、モデル17を生成するための方法(機械学習モデルの生成方法)について説明する。なお、以下では、学習部10Dが複数の試験官による乗り心地評価を予測する学習済みのモデル17を生成する場合について説明する。
【0048】
機械学習モデルは、図2に示すようなニューラルネットワークをベースとした構造を有し、学習用データセット134を用いて機械学習される。学習用データセット134は、複数のタイヤのトレッド部の剛性及びサイド部の剛性の少なくとも一方に関連する剛性データ及び該複数のタイヤが装着された(1または複数の)車両の車両特性値と、該車両の乗り心地を官能評価した評価データ(正解データ)とが組み合わされたデータセットである。ここで、剛性データは、実際に製作されたタイヤの構造設計値及び単体特性値から選択されるデータである。また、評価データは、上記タイヤが装着された車両において、複数の試験官がそれぞれ官能試験を行い、評価項目ごとに体感を評価した官能評価のデータである。なお、評価データは、評価項目ごとに、複数の試験官の官能評価のデータを平均または加重平均したものとすることができる。車両特性値は、実際に官能評価を行った車両の特性値である。
【0049】
官能評価は、上述の通り基準タイヤを基準とした評価である。このため、学習用データセット134には、基準タイヤについての剛性データ及び基準タイヤが装着された車両の車両特性値と、基準タイヤについての評価データとのデータセットが含まれることが好ましい。
【0050】
ステップS11では、学習部10Dにより、上述のような学習用データセット134が準備される。学習部10Dは、記憶媒体やネットワークを介して学習用データセット134を予測装置1に取り込み、記憶部13に保存する。
【0051】
続いて、学習部10Dは、学習用データセット134を、パラメータ調整用の訓練用データセットと、精度検証用のテスト用データセットとに分割する(ステップS12)。両者の割合は、適宜設定することができる。
【0052】
続いて、学習部10Dが、訓練用データセットに含まれる剛性データ及び車両特性値を機械学習モデルに入力し、出力を導出する(ステップS13)。
【0053】
続いて、学習部10Dは、ステップS13で入力されたデータに組み合わせられている正解データと、出力されたデータとの誤差が小さくなるように、機械学習モデルを定義するパラメータ(重みやバイアス等)を調整し、更新する(ステップS14)。ステップS14は、バッチ勾配降下法、確率的勾配降下法、ミニバッチ勾配降下法等のいずれの方法で実行されてもよく、これらの方法に応じて、適当なエポック数だけ繰り返すことができる。
【0054】
続いて、学習部10Dが、規定のエポック数の学習が完了したか否かを判定する(ステップS15)。学習部10Dが、規定のエポック数の学習が完了していない(NO)と判定する場合、学習部10Dは、さらにステップS13~ステップS15を繰り返す。一方、学習部10Dが、規定のエポック数の学習が完了した(YES)と判定する場合、ステップS16が実行される。
【0055】
ステップS16では、学習部10Dが、機械学習モデルを定義する最新のパラメータを記憶部13に保存する。以上の手順により、モデル17が生成される。
【0056】
なお、ステップS14において、学習部10Dが機械学習モデルからの出力と正解データとの誤差が所定の値以下になったか否かを判定し、上記誤差が所定の値以下になった(YES)と判定される場合、ステップS15が実行されるようにしてもよい。この判定は、テスト用データセットの剛性データ及び車両特性値をモデルに入力し、テスト用データセットの正解データと、出力されたデータとの誤差を算出することにより行うことができる。このように、規定のエポック数の学習の完了を待たずに機械学習モデルの学習を終了する場合、機械学習モデルの過学習を回避することができる。
【0057】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態に係る車両の乗り心地予測装置2(以下、単に「予測装置2」とも称する)について説明する。予測装置2は、対象タイヤが装着された車両の乗り心地を官能評価した評価データを予測する点で予測装置1と共通するが、予測データを導出する工程が予測装置1とは異なる。以下では、予測装置2のうち、予測装置1と共通する構成については同じ符号を付し、説明を省略する。
【0058】
<2-1.予測装置>
図5は、予測装置2の電気的構成を示すブロック図である。予測装置2は、記憶部23及び制御部20を備える。記憶部23は、ハードディスク及びフラッシュメモリ等の不揮発性メモリで構成することができる。記憶部23内には、プログラム232が記憶されている他、機械学習済みの第1機械学習モデル27~第3機械学習モデル29(以下、それぞれを単に「第1モデル27」「第2モデル28」「第3モデル29」とも称する)をそれぞれ定義するパラメータが記憶される。これら第1~第3モデルの学習方法については、後述する。
【0059】
制御部20は、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等で構成することができる。制御部20は、記憶部23内のプログラム232を読み出して実行することにより、仮想的に取得部20A、第1導出部20B、第2導出部20C、第3導出部20D、画面生成部20E、第1学習部20F、第2学習部20G及び第3学習部20Hとして動作する。取得部20Aは、入力部12や通信部14等を介して、予測対象となる対象タイヤのトレッド部の剛性及びサイド部の剛性の少なくとも一方に寄与する構造設計値等を取得する。第1導出部20B、第2導出部20C及び第3導出部20Dは、それぞれ、第1モデル27、第2モデル28及び第3モデル29からの出力を導出する。画面生成部10Cは、各種の情報を表示する画面等を生成する。第1学習部20F~第3学習部20Hについては、後述する。
【0060】
<2-2.第1モデル>
第1モデル27は、タイヤのトレッド部の剛性及びサイド部の剛性の少なくとも一方に寄与する構造設計値(第1入力データ270、図7参照)を入力すると、当該タイヤのトレッド部の剛性及びサイド部の剛性の少なくとも一方に関連する単体特性値を予測する第1予測データ271(図7参照)を出力するように機械学習されたモデルである。第1入力データ270は、第1実施形態において説明した構造設計値の中から、適宜選択することができる。また、第1予測データ271が予測する単体特性値も、第1実施形態において説明した単体特性値の中から、適宜選択することができる。第1モデル27は、例えばニューラルネットワークをベースとした構造とすることができる。ニューラルネットワークについては、第1実施形態において既に説明したため、説明を省略する。後述するように、第1モデル27が有するパラメータ(各ノードの重みやバイアス等)は、第1学習部20Fにより調整される。
【0061】
<2-3.第2モデル>
第2モデル28は、タイヤの単体特性値及び当該タイヤが装着される車両の車両特性値(第2入力データ280、図7参照)を入力すると、当該タイヤが装着された前記車両のフロア振動特性及び突起乗り越え特性の少なくとも一方を予測する第2予測データ281(図7参照)を出力するように機械学習されたモデルである。第2入力データ280に含まれる単体特性値は、第1予測データ271が予測する単体特性値に対応する。また、車両特性値は、第1実施形態において説明した車両特性値と同様である。
【0062】
車両のフロア振動特性とは、例えば振動の各周波数帯域における加速度[m/s2]である。より具体的には、0~40Hzの周波数帯を4つに分割した各周波数帯域では、それぞれ「ヒョコヒョコ」「ブルブル」「ゴツゴツ」「ビリビリ」等と表現される振動の体感を人に与えると考えられている。このため、各周波数帯域における加速度は、人にどのような体感を与えやすいかについての一定の目安とされる。また、車両の突起乗り越え特性とは、タイヤが装着された車両が突起を乗り越えた際に、トレッド部、サイドウォール部、及びタイヤ回転軸をこの順に伝わる衝撃の度合いを表す。車両の突起乗り越え特性としては、例えば上下方向または前後方向に一時的に生じる加速度[m/s2]、タイヤの回転軸に伝わる上下力[kgf]及び前後力[kgf]等が挙げられる。車両の突起乗り越え特性は、所定の速度で走行中、車両が異物等を乗り越えた場合に、人に衝撃の体感を与えやすいか否かについての一定の目安とされる。第2予測データ281が予測するデータは、上述した特性を表すデータの中から、適宜選択される。
【0063】
第2モデル28は、例えばニューラルネットワークをベースとした構造とすることができる。ニューラルネットワークについては、第1実施形態において既に説明したため、説明を省略する。後述するように、第2モデル28が有するパラメータ(各ノードの重みやバイアス等)は、第2学習部20Gにより調整される。
【0064】
<2-4.第3モデル>
第3モデル29は、タイヤが装着された車両のフロア振動特性及び突起乗り越え特性の少なくとも一方(第3入力データ290、図7参照)を入力すると、当該車両の乗り心地評価を予測する第3予測データ291(図7参照)を出力するように機械学習されたモデルである。第3入力データ290に含まれるフロア振動特性及び突起乗り越え特性の少なくとも一方は、第2予測データ281が予測するフロア振動特性及び突起乗り越え特性の少なくとも一方に対応する。また、車両の乗り心地評価は、第1実施形態において説明したように、専門の試験官が、車両の実走行時に得る振動の体感を各項目について官能評価した値であり、本実施形態では、基準タイヤとの相対評価において指数化された値である。第3モデル29は、対象タイヤの官能評価を行う特定の試験官ごとに生成されてもよいし、試験官を特に区別せず、複数の試験官に対して生成されてもよい。
【0065】
第3モデル29は、例えばニューラルネットワークをベースとした構造とすることができる。ニューラルネットワークについては、第1実施形態において既に説明したため、説明を省略する。後述するように、第3モデル29が有するパラメータ(各ノードの重みやバイアス等)は、第3学習部20Hにより調整される。
【0066】
<2-5.予測方法>
図6は、予測装置2により実行される車両の乗り心地評価の予測方法の流れを示すフローチャートである。図7は、図6の予測方法が実行されるときの、第1モデル27、第2モデル28及び第3モデル29の入力及び出力の関係を説明する図である。以下では、試験官を区別せずに構築された第3モデル29を含む第1モデル27~第3モデル29により、複数の試験官による総合的な官能評価の評価データを予測する場合を例に説明する。
【0067】
まず、取得部20Aが、対象タイヤのトレッド部の剛性及びサイド部の剛性の少なくとも一方に寄与する構造設計値を取得し、これを第1入力データ270としてRAMまたは記憶部23に保存する(ステップS21)。以下、取得部20Aによる各データの取得は、例えば予測装置2のユーザが入力部12を介して行ってもよいし、CD-ROM、USBメモリ等の記憶媒体を介して行ってもよいし、ネットワーク通信を介して行ってもよい。
【0068】
続いて、第1導出部20Bが、第1入力データ270を第1モデル27に入力し、対象タイヤの単体特性値を予測する第1予測データ271を出力させる(ステップS22)。
【0069】
次に、取得部20Aが、対象タイヤが装着される車両の車両特性値を取得し、RAMまたは記憶部23に保存する(ステップS23)。
【0070】
続いて、第2導出部20Cが、ステップS22で出力された第1予測データ271と、ステップS23で取得された車両特性値とをまとめて第2入力データ280とし、第2入力データ280を第2モデル28に入力し、第2予測データ281を出力させる(ステップS24)。上述したように、第2予測データ281は、対象タイヤが装着された車両のフロア振動特性及び突起乗り越え特性の少なくとも一方を予測するデータである。
【0071】
続いて、第3導出部20Dが、第2予測データ281を第3入力データ290とし、第3入力データ290を第3モデル29に入力し、対象タイヤが装着された車両の乗り心地評価を予測する第3予測データ291を出力させる(ステップS25)。ステップS25により、対象タイヤが装着された車両の乗り心地が予測される。
【0072】
以上のように、予測装置2では、対象タイヤの構造設計値からスタートして、第1モデル27~第3モデル29により出力されるデータが、段階的に車両の乗り心地の評価データの予測に近付くように構成される。このような構成によれば、予測装置1と比較して、車両の乗り心地の評価データ予測の精度向上が図られる。
【0073】
<2-6.学習方法>
予測装置2は、学習済みモデルの生成装置としても構成することができる。より具体的には、第1学習部20Fは機械学習モデルを学習させ、第1モデル27を生成する。第2学習部20Gは別の機械学習モデルを学習させ、第2モデル28を生成する。第3学習部20Hは別の機械学習モデルを学習させ、第3モデル29を生成する。第1学習部20F~第3学習部20Hにより行われる学習方法は、図4のフローチャートと同様であるため、再度の説明は省略する。ここでは、第1学習部20F~第3学習部20Hによりそれぞれ準備され、記憶部23に保存される、第1学習用データセット234~第3学習用データセット236について説明する。
【0074】
[第1学習用データセット]
第1学習用データセット234は、複数のタイヤのトレッド部の剛性及びサイド部の剛性の少なくとも一方に寄与する構造設計値と、当該複数のタイヤのトレッド部の剛性及びサイド部の剛性の少なくとも一方に関連する単体特性値(第1正解データ)とが組み合わせられたデータセットである。構造設計値及び単体特性値は、第1実施形態において説明した通りであり、既に例示した値の中から、適宜選択することができる。構造設計値は、実際に製作されたタイヤの設計値であり、単体特性値は、同タイヤの台上試験により計測される値である。第1学習用データセット234には、基準タイヤについてのデータセットが含まれることが好ましい。
【0075】
第1学習部20Fは、図4のステップS13に対応するステップにおいて、機械学習モデルに第1学習用データセット234の構造設計値を入力し、出力を導出する。第1学習部20Fは、図4のステップS14に対応するステップにおいて、入力された構造設計値に組み合わされた第1学習用データセット234の第1正解データと、導出された出力との誤差が小さくなるように、機械学習モデルのパラメータを調整し、更新する。
【0076】
[第2学習用データセット]
第2学習用データセット235は、複数のタイヤのトレッド部の剛性及びサイド部の剛性の少なくとも一方に関連する単体特性値、及び同複数のタイヤが装着される(1または複数の)車両の車両特性値と、同複数のタイヤが装着された車両のフロア振動特性及び突起乗り越え特性の少なくとも一方(第2正解データ)とが組み合わせられた学習用データセットである。複数のタイヤは、第1学習用データセット234における複数のタイヤと共通であることが好ましい。この場合、第2学習用データセット235の単体特性値は、第1学習用データセット234の第1正解データとしての単体特性値と共通のデータとなる。また、車両のフロア振動特性及び突起乗り越え特性については、既に説明した通りであり、第2学習用データセット235としては、車両にタイヤを装着して実際の走行試験を行い、加速度計等の計測器により取得されたデータが使用される。車両特性値は、走行試験を行った車両の特性値である。
【0077】
第2学習部20Gは、図4のステップS13に対応するステップにおいて、機械学習モデルに第2学習用データセット235の単体特性値及び車両特性値を入力し、出力を導出する。第2学習部20Gは、図4のステップS14に対応するステップにおいて、入力された単体特性値及び車両特性値に組み合わされた第2学習用データセット235の第2正解データと、導出された出力との誤差が小さくなるように、機械学習モデルのパラメータを調整し、更新する。
【0078】
[第3学習用データセット]
第3学習用データセット236は、複数のタイヤについて、同複数のタイヤが装着された車両のフロア振動特性及び突起乗り越え特性の少なくとも一方と、同車両の乗り心地を官能評価した評価データ(第3正解データ)とが組み合わせられたデータセットである。複数のタイヤは、第1学習用データセット234及び第2学習用データセット235における複数のタイヤと共通であることが好ましい。また、タイヤとこれが装着される車両の組み合わせも、第2学習用データセット235における組み合わせと共通であることが好ましい。この場合、第3学習用データセット236のフロア振動特性及び突起乗り越え特性は、第2学習用データセット235の第2正解データとしてのフロア振動特性及び突起乗り越え特性と共通のデータとなる。そして、車両の乗り心地を官能評価した評価データは、上記車両において、試験官が官能試験を行い、評価項目ごとに体感を評価した官能評価のデータである。第3モデル29が複数の試験官による総合的な評価データを予測するものとして生成される場合、第3学習用データセット236の評価データは、複数の試験官がそれぞれ行った官能評価の、評価項目ごとの平均値または加重平均値とすることができる。
【0079】
第3学習部20Hは、図4のステップS13に対応するステップにおいて、機械学習モデルに第3学習用データセット236のフロア振動特性及び突起乗り越え特性の少なくとも一方を入力し、出力を導出する。第3学習部20Hは、図4のステップS14に対応するステップにおいて、入力されたフロア振動特性及び突起乗り越え特性の少なくとも一方に組み合わされた第3学習用データセット236の第3正解データと、導出された出力との誤差が小さくなるように、機械学習モデルのパラメータを調整し、更新する。
【0080】
<3.特徴>
予測装置1または予測装置2によれば、対象タイヤのトレッド部の剛性及びサイド部の剛性の少なくとも一方に関連する剛性データに基づいて、対象タイヤが装着された車両の乗り心地評価が予測される。これにより、開発中のタイヤが、目標とする乗り心地評価を実現する可能性が高いか否かを事前に検討することができ、開発効率を高めることができる。さらに、予測装置1によれば、対象タイヤの構造設計値が不明な場合であっても、対象タイヤから計測可能な単体特性値のみに基づいて、車両の乗り心地評価を予測することができる。一方、予測装置2によれば、予測装置1と比較するとより高い精度で乗り心地評価を予測できる。また、予測装置1及び予測装置2では、入力する対象タイヤの構造設計値を変化させることにより、簡易的に乗り心地評価のシミュレーションを行うことができる。
【0081】
<4.変形例>
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。以下に示す変形例の要旨は、適宜組み合わせることができる。
【0082】
(1)上記実施形態では、モデル17、第1モデル27、第2モデル28及び第3モデル29は、ニューラルネットワーク(NN)をベースとして構成されていたが、上記モデルの構造はこれに限定されず、それぞれ適宜変更することができる。例えば、モデル17、第1モデル27、第2モデル28及び第3モデル29は、それぞれ、サポートベクタ―マシン(SVM)、決定木、PCA、畳み込みニューラルネットワーク(CNN)、及び再帰型ニューラルネットワーク(RNN)等の構造をベースとするモデルとして構成されてもよい。また、学習方法も上記実施形態の方法に限定されず、適宜変更することができる。
【0083】
(2)モデル17の出力データ1341及び第3モデル29の第3予測データ291は、評価データの予測値ではなく、評価項目の各指数についての確率であってもよい。例えば、ある評価項目が「1」「2」「3」の3段階で指数評価される場合、出力データ1341及び第3予測データ291は、同評価項目が「1」となる確率、「2」となる確率、及び「3」となる確率の組み合わせであってもよい。出力データ1341及び第3予測データ291の形式を変更する場合は、学習用データセット134及び第3学習用データセット236についてもこれに対応するように変更されてよい。
【0084】
(3)モデル17を特定の試験官ごとに生成する場合は、学習用データセット134の評価データを、特定の試験官による乗り心地評価の評価データとすることができる。この場合、試験官ごとに生成されたモデル17のそれぞれについて、上記ステップS1~S3を実行することで、各試験官による車両の乗り心地の評価データを予測することができる。同様に、第3モデル29を特定の試験官ごとに生成する場合は、第3学習用データセット236の評価データを、特定の試験官による乗り心地評価の評価データとすることができる。この場合、試験官ごとに生成された第3モデル29のそれぞれについて、上記ステップS25を実行することで、各試験官による車両の乗り心地の評価データを予測することができる。
【0085】
(4)上記実施形態では、予測装置1及び予測装置2は1つの装置として構成されたが、各部10A~10E、20A~20H、記憶部13及び記憶部23の機能は、複数の装置に分散されていてもよい。例えば、機械学習モデルの学習はネットワークを通じて提供されるサービスにより行い、生成されたモデルを、予測装置に保存することとしてもよい。すなわち、予測装置1と学習済みモデルの生成装置とは別体として構成されていてもよく、予測装置2と学習済みモデルの生成装置とは別体として構成されていてもよい。
【0086】
(5)車両特性値へのモデル17の入力、または第2モデル28への入力は、省略されてもよい。この場合、学習用データセット134または第3学習用データセット236からも、車両特性値を除くことができる。
【0087】
(6)ステップS23は、ステップS22の前に実行されてもよい。
【0088】
(7)予測装置1の制御部10及び予測装置2の制御部20は、CPUやGPUの他、ベクトルプロセッサ、FPGA(Field Programmable Gate Array)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、その他人工知能専用チップ等を含んで構成されてもよい。また、制御部10及び制御部20の動作は、1または複数のプロセッサにより実行されてもよい。
【0089】
1,2 予測装置
10,20 制御部
10A,20A 取得部
10B 導出部
10E 学習部
20B 第1導出部
20C 第2導出部
20D 第3導出部
20F 第1学習部
20G 第2学習部
20H 第3学習部
17 モデル
27 第1モデル
28 第2モデル
29 第3モデル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7