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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024135701
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】積層フィルム
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/32 20060101AFI20240927BHJP
   C08L 23/20 20060101ALI20240927BHJP
   C08F 10/14 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
B32B27/32 E
C08L23/20
C08F10/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023046513
(22)【出願日】2023-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安井 基泰
(72)【発明者】
【氏名】深川 克正
(72)【発明者】
【氏名】植草 貴行
【テーマコード(参考)】
4F100
4J002
4J100
【Fターム(参考)】
4F100AK08A
4F100AK08B
4F100AT00A
4F100BA02
4F100CB03B
4F100EH20
4F100GB15
4F100JA04A
4F100JA04B
4F100JA06A
4F100JA06B
4F100JA07A
4F100JA07B
4F100JA13A
4F100JA13B
4F100JB04B
4F100JD02
4F100JK06
4F100JL12B
4F100JL14
4F100YY00A
4F100YY00B
4J002BB171
4J002BB172
4J002GF00
4J002GG02
4J002GJ02
4J100AA03Q
4J100AA17P
4J100CA04
4J100DA01
4J100DA04
4J100DA09
4J100DA13
4J100DA24
4J100DA42
4J100FA10
4J100FA19
4J100FA28
4J100FA29
4J100JA01
4J100JA58
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ヒートシール性能、高いガス透過性能、透明性、および離型性を兼ね備えた積層フィルムを提供する。
【解決手段】基材層(X)と、基材層(X)の片面に積層されたシーラント層(Y)を有する積層フィルムであって、基材層(X)が、特定の構造を有し、特定の範囲の、極限粘度、融点、および密度を有する4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)を含み、シーラント層(Y)が、4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)5~25質量部と、特定の構造を有し、特定の範囲の、極限粘度、融点、および密度を有する4-メチル-1-ペンテン共重合体(B)75~95質量部とを含む樹脂組成物(Z)からなる積層フィルムである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層(X)と、基材層(X)の片面に積層されたシーラント層(Y)とを有する積層フィルムであって、
前記基材層(X)が下記要件(A-a)~(A-d)を満たす4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)を含み、
前記シーラント層(Y)が前記4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)5~25質量部と、下記要件(B-a)~(B-d)を満たす4-メチル-1-ペンテン共重合体(B)75~95質量部(4-メチル-1-ペンテン重合体(A)と4-メチル-1-ペンテン共重合体(B)の合計を100質量部とする)とを含む樹脂組成物(Z)からなる積層フィルム;
要件(A-a)4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位(i)の量が90~100モル%であり、炭素原子数5~20のα-オレフィン(4-メチル-1-ペンテンを除く)から導かれる構成単位(ii)の総量が0~10モル%である(ただし、構成単位(i)と構成単位(ii)の合計を100モル%とする);
要件(A-b)135℃デカリン中で測定した極限粘度〔η〕が0.5~5.0dl/gの範囲にある;
要件(A-c)示差走査熱量計(DSC)で測定した融点(Tm)が、200~250℃の範囲にある;
要件(A-d)密度が820~860kg/m3の範囲にある;
要件(B-a)4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位(iii)の量が60~90モル%であり、炭素原子数2~4のα-オレフィンから導かれる構成単位(iv)の総量が10~40モル%である(ただし、構成単位(iii)と構成単位(iv)の合計を100モル%とする。);
要件(B-b):135℃デカリン中で測定した極限粘度〔η〕が0.5~5.0dl/gの範囲にある;
要件(B-c)示差走査熱量計(DSC)で測定した融点(Tm)が観測されないか、または160℃未満の範囲にある;
要件(B-d):密度が、820~860kg/m3の範囲にある。
【請求項2】
前記シーラント層(Y)同士を、温度200℃、圧力0.2MPa、及びシール時間2秒の条件でヒートシールした場合、前記シーラント層(Y)の剥離強度が、2.0N/15mm以上である請求項1に記載の積層フィルム。
【請求項3】
温度23℃における前記シーラント層(Y)の臨界表面張力が、20~26mN/mである請求項1または2に記載の積層フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
4-メチル-1-ペンテン系重合体は、嵩高い官能基を有するため、他のポリオレフィンに比べて密度が低い。そのため、4-メチル-1-ペンテン系重合体を含むフィルムは、酸素ガス、炭酸ガス等のガス透過性能が高く、植物及び生鮮食品等の包装材などの無孔型ガス透過性フィルムとして開発されている。例えば、特許文献1では、4-メチル-1-ペンテン系重合体とブテン-1重合体とを含む樹脂組成物を成形して得られる球根類用包装袋が提案されている。
【0003】
一方、4-メチル-1-ペンテン系重合体は、融点が高く、離型性を有する特徴が知られている。4-メチル-1-ペンテン系重合体を主成分とするフィルム(以下、「4-メチル-1-ペンテン系重合体フィルム」と称する場合がある。)は、ヒートシール温度を高くする必要がある上に、ヒートシール強度は低い。
そこで、4-メチル-1-ペンテン系重合体フィルムにおいて、ヒートシール性能を改善する方法として、4-メチル-1-ペンテン系重合体フィルムに、他の熱可塑性樹脂であるポリオレフィン系重合体などで構成されたフィルム(以下、「ポリオレフィン系重合体フィルム」と称する場合がある。)を積層する方法が検討されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11-301691号公報
【特許文献2】特開2000-189051号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した通り、4-メチル-1-ペンテン系重合体は高い耐熱性を有する。しかしその高い耐熱性のため、4-メチル-1-ペンテン系重合体を含むフィルムをヒートシール用積層フィルム、特に当該積層フィルムのシーラント層に用いると、ヒートシール可能な温度域が比較的高い温度領域になってしまうという課題があった。一方、ヒートシール可能な温度域をより低温側に広げるためにシーラント層として4-メチル-1-ペンテン系重合体以外の樹脂フィルムを用いた場合、当該樹脂フィルムのガス透過性が低くなりやすく、4-メチル-1-ペンテン系重合体が持つ優れたガス透過性を生かしたヒートシール用積層フィルムを得ることが難しいという課題もあった。
【0006】
特許文献2に記載されたフィルム及び包装袋は、4-メチル-1-ペンテン系重合体フィルムの特徴であるガス透過性能の調整がある程度可能であるものの、用途によっては、4-メチル-1-ペンテン系重合体フィルムと、該4-メチル-1-ペンテン系重合体フィルムに積層されたポリエチレン系重合体フィルムまたはポリプロピレン系重合体フィルムとの間の接着力が不十分である場合があった。また、該包装袋では、内側にポリエチレン系重合体フィルムやポリプロピレンが積層されているため、用途によっては包装体の透明性の改善が求められる場合があった。さらに、特許文献2に記載された包装袋では、該包装袋に内容物を充填した際には、包装袋の内側への内容物の付着が起こりやすいため、この点の改善の余地があった。
【0007】
包装袋の内側への内容物の付着を抑制する方法として、例えば、成形の際に包装袋の内側となる方のフィルムの表面にエンボス加工を施すことが挙げられる。しかしながら、エンボス加工を施したフィルムの表面は、一般的に凹凸形状を有するため平滑性に劣る上、光散乱によってフィルムの透明性が悪くなる傾向がある。
【0008】
本発明は、前述のような事情に鑑みてなされたものであり、ヒートシール性能、高いガス透過性能、透明性、および、離型性を兼ね備えた積層フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述の課題を解決するための手段は、例えば以下の〔1〕~〔3〕の事項に関するものである。
【0010】
〔1〕
基材層(X)と、基材層(X)の片面に積層されたシーラント層(Y)とを有する積層フィルムであって、
前記基材層(X)が下記要件(A-a)~(A-d)を満たす4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)を含み、
前記シーラント層(Y)が前記4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)5~25質量部と、下記要件(B-a)~(B-d)を満たす4-メチル-1-ペンテン共重合体(B)75~95質量部(4-メチル-1-ペンテン重合体(A)と4-メチル-1-ペンテン共重合体(B)の合計を100質量部とする)とを含む樹脂組成物(Z)からなる積層フィルム。
要件(A-a):4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位(i)の量が90~100モル%であり、炭素原子数5~20のα-オレフィン(4-メチル-1-ペンテンを除く)から導かれる構成単位(ii)の総量が0~10モル%である(ただし、構成単位(i)と構成単位(ii)の合計を100モル%とする)。
要件(A-b):135℃デカリン中で測定した極限粘度〔η〕が0.5~5.0dl/gの範囲にある。
要件(A-c):示差走査熱量計(DSC)で測定した融点(Tm)が、200~250℃の範囲にある。
要件(A-d):密度が820~860kg/m3の範囲にある。
要件(B-a):4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位(iii)の量が60~90モル%であり、炭素原子数2~4のα-オレフィンから導かれる構成単位(iv)の総量が10~40モル%である(ただし、構成単位(iii)と構成単位(iv)の合計を100モル%とする。)。
要件(B-b):135℃デカリン中で測定した極限粘度〔η〕が0.5~5.0dl/gの範囲にある。
要件(B-c):示差走査熱量計(DSC)で測定した融点(Tm)が観測されないか、または160℃未満の範囲にある。
要件(B-d):密度が、820~860kg/m3の範囲にある。
【0011】
〔2〕
前記シーラント層(Y)同士を、温度200℃、圧力0.2MPa、及びシール時間2秒の条件でヒートシールした場合、前記シーラント層(Y)の剥離強度が、2.0N/15mm以上である〔1〕に記載の積層フィルム。
【0012】
〔3〕
温度23℃における前記シーラント層(Y)の臨界表面張力が、20~26mN/mである、〔1〕または〔2〕に記載の積層フィルム。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、ヒートシール性能、高いガス透過性能、透明性、および離型性を兼ね備えた積層フィルムが得られる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の具体的な実施形態について詳細を説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0015】
本明細書において、「~」を用いて表される数値の範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
なお、本明細書において、組成物中の各成分量について言及する場合、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する複数の物質の合計量を意味する。
【0016】
≪積層フィルム≫
本発明の積層フィルムは、基材層(X)と、基材層(X)の片面に積層されたシーラント層(Y)とを有する。基材層(X)は特定の4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)を含む。シーラント層(Y)は、前記4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)と特定の4-メチル-1-ペンテン共重合体(B)とを含む樹脂組成物(Z)からなる。
【0017】
<4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)>
4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)〔以下、「重合体(A)」と略記する場合がある。〕は、本発明の積層フィルムの基材層(X)に含まれ、さらに、本発明の積層フィルムのシーラント層(Y)にも含まれる。重合体(A)は、下記要件(A-a)~(A-d)を満たし、好ましくは、要件(A-a)~(A-d)に加えて要件(A-e)と要件(A-f)のうちの1つ以上を満たす。
【0018】
[要件(A-a)]
重合体(A)における4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位(i)の量は90~100モル%であり、好ましくは91.0~99.5モル%、より好ましくは92.0~99.0モル%である(ただし、構成単位(i)と構成単位(ii)の合計を100モル%とする)。
また、重合体(A)における炭素原子数5~20のα-オレフィン(4-メチル-1-ペンテンを除く)から導かれる構成単位(ii)の総量は0~10モル%であり、好ましくは0.5~9.0モル%、より好ましくは1.0~8.0モル%である(ただし、構成単位(i)と構成単位(ii)の合計を100モル%とする)。
【0019】
重合体(A)における構成単位(i)の含有率が90モル%以上であることにより、重合体(A)を含む基材層(X)のガス透過性能が高くなり、また、基材層(X)の透明性が高くなる。さらに、重合体(A)は、シーラント層(Y)の形成に用いられる樹脂組成物(Z)にも含まれるので、重合体(A)に含まれる構成単位(i)の含有率が90モル%以上であると、シーラント層(Y)も、ガス透過性能と透明性の両方に優れる傾向がある。これらの結果として、重合体(A)に含まれる構成単位(i)の含有率が90モル%以上であると、基材層(X)とシーラント層(Y)とが積層された積層フィルム全体でも、ガス透過性能と透明性の両方に優れる傾向がある。
【0020】
なお、構成単位(i)を導く前記4-メチル-1-ペンテンは、バイオマス由来の原料から得られた4-メチル-1-ペンテンのみであってもよく、バイオマス由来の原料から得られた4-メチル-1-ペンテンと化石燃料由来の4-メチル-1-ペンテンとの混合物であってもよく、さらに、化石燃料由来の4-メチル-1-ペンテンのみであってもよい。
【0021】
構成単位(ii)を形成する4-メチル-1-ペンテン以外の炭素原子数5~20のα-オレフィンとしては、例えば、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-デセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-ヘプタデセン、1-オクタデセン、及び1-エイコセン等が挙げられる。また、上記炭素原子数5~20のα-オレフィンはバイオマス由来の原料から得られたα-オレフィンのみであってもよく、バイオマス由来の原料から得られたα-オレフィンと化石燃料由来のα-オレフィンとの混合物であってもよく、さらに、化石燃料由来のα-オレフィンのみであってもよい。
【0022】
構成単位(ii)を形成するα-オレフィンとしては、重合体(A)を含む基材層(X)およびシーラント層(Y)において高いガス透過性能と透明性を発現させるという観点から、炭素原子数8~18のα-オレフィン(例えば、1-オクテン、1-デセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-ヘプタデセン、および1-オクタデセン)が好ましい。これらは、1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0023】
重合体(A)は、本発明の効果を損なわない範囲で、4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位(i)、及び4-メチル-1-ペンテン以外のα-オレフィンから導かれる構成単位(ii)以外のその他の構成単位を含んでもよい。その他の構成単位の含有率は、例えば、0~10モル%である(ただし、構成単位(i)と構成単位(ii)の含有率の合計を100モル%とする。)。
【0024】
重合体(A)における構成単位の含有率(モル%)の値は、炭素13核磁気共鳴(以下、13C-NMRということがある。)による測定方法によって算出した場合のものである。なお、具体的な測定方法については、後述の実施例に記載する内容のとおりである。
【0025】
[要件(A-b)]
重合体(A)は、デカリン溶媒中、135℃で測定される極限粘度〔η〕が0.5~5.0dl/g、好ましくは0.6~4.0dl/g、より好ましくは0.8~3.0dl/gの範囲である。重合体(A)の極限粘度〔η〕が、上述の範囲にあると、低分子量成分が少ないため、重合体(A)を含む基材層(X)およびシーラント層(Y)のいずれについてもべたつきが低減されやすく、成形が容易になる傾向がある。その結果、基材層(X)およびシーラント層(Y)を有する本発明に係る積層フィルムについても、べたつきが低減されやすく、前記積層フィルムの成形が容易となる傾向がある。なお、極限粘度〔η〕の具体的な測定方法については、後述の実施例に記載する内容のとおりである。
【0026】
[要件(A-c)]
重合体(A)は、示差走査熱量計(DSC)で測定した融点(Tm)が、200~250℃、好ましくは205~245℃、より好ましくは210~240℃の範囲にある。重合体(A)の融点が上述の範囲内であれば、重合体(A)を含む基材層(X)およびシーラント層(Y)のいずれについても成形が容易になる傾向があり、結果として、本発明に係る積層フィルム成形が容易となる。さらに、重合体(A)の融点が上述の範囲内であれば、重合体(A)を含む基材層(X)およびシーラント層(Y)のいずれについても耐熱性が比較的高いため、前記積層フィルムは適度な耐熱性を有する。なお、融点の測定方法については、後述の実施例に記載する内容のとおりである。
【0027】
重合体(A)の融点の値は、重合体(A)の立体規則性ならびに共に重合する構成単位(ii)を導くα-オレフィンに依存して変化する値である。前記融点の値は、後述するオレフィン重合用触媒を用いて、さらに、重合体(A)の組成を所望の範囲に調整することにより、調製可能である。
【0028】
[要件(A-d)]
重合体(A)は、密度が820~860kg/m3、好ましくは825~855kg/m3、より好ましくは830~850kg/m3の範囲である。前記重合体(A)の密度が上述の範囲にあると、重合体(A)を含む基材層(X)およびシーラント層(Y)のいずれでもガス透過性能が良好であるため、結果として、基材層(X)およびシーラント層(Y)を含む本発明に係る積層フィルムも高いガス透過性能を有することが期待できる。なお、重合体(A)の密度の測定方法については、後述の実施例に記載する内容のとおりである。
【0029】
[要件(A-e)]
ASTM D1238に準拠して、温度260℃、荷重5.0kgfの条件で測定される重合体(A)のメルトフローレイト(MFR:Melt Flow Rate)は、特に制限されるものではないが、重合体(A)を含む基材層(X)およびシーラント層(Y)の成形の際の流動性の観点から、0.1~100g/10分であることが好ましく、0.5~50g/10分であることがより好ましく、1.0~40g/10分であることがさらに好ましい。また、重合体(A)のメルトフローレイトが上記の範囲内にあると、重合体(A)を含む基材層(X)およびシーラント層(Y)のいずれについても、成形の際に層の厚さを均一に保ちやすいので、結果として均一な厚さを有する積層フィルムを成形しやすい。また、重合体(A)のMFRが前記範囲にあると、後述する4-メチル-1-ペンテン共重合体(B)と重合体(A)とを、溶融混練によって混合しやすく、また、混合により得られる樹脂組成物(Z)の成形が容易である。
【0030】
[要件(A-f)]
重合体(A)を成形したフィルムでは、Zismanプロットを用いて求めた23℃における臨界表面張力は、好ましくは20~26mN/m、より好ましくは21~25mN/mである。なお、重合体(A)の成形条件は任意であるが、例えば、後述する積層フィルムの製造条件と同様の条件を使用できる。
【0031】
ここで、Zismanプロットによる固体の臨界表面張力の算出方法では、表面張力の異なる各種の液体に対する固体の接触角を測定し、それぞれの液体の表面張力を横軸、固体の接触角(cosθ)の測定値を縦軸としてグラフに図示する。得られるグラフは直線に近似できるので、近似により得られる直線を、完全に濡れた状態とみなされるcosθ=1.0まで外挿し、該直線においてcosθ=1.0になる場合の表面張力の値(すなわち、該直線でcosθ=1.0となる点の横軸の値)を、固体の臨界表面張力(mN/m)とする。なお、測定条件等の詳細は、後述の実施例に記載する内容のとおりである。
【0032】
一般的な他のポリオレフィンの23℃における臨界表面張力は、例えば、ポリプロピレンでは31~35mN/m、ポリエチレンでは28~32mN/mであるので、重合体(A)は一般的な他のポリオレフィンより臨界表面張力が小さい。臨界表面張力は離型性の高さの指標であり、臨界表面張力が小さいほど離型性が高くなる傾向がある。したがって、重合体(A)を成形したフィルムの臨界表面張力が前記範囲であると、重合体(A)を含む基材層(X)およびシーラント層(Y)の離型性が良好になる傾向がある。
ところで、基材層(X)とシーラント層(Y)とを有する積層フィルムからヒートシールにより包装袋を製造した場合、シーラント層(Y)が包装袋の内側となり、内容物と接することが多い。また、離型性に優れるフィルムの表面には物が付着しづらいことから、臨界表面張力(23℃)が20~26mN/mにある重合体(A)を用いて製造されたシーラント層(Y)を有する積層フィルムは、内容物が包装袋の内側に付着しにくく、内容物を排出した場合に内容物が残りにくい(いわゆる、身離れ機能の良好な)包装袋の製造に使用できる。
【0033】
<重合体(A)の製造方法>
重合体(A)は、4-メチル-1-ペンテンと、必要に応じて炭素原子数5~20のα-オレフィン(4-メチル-1-ペンテンを除く)とを重合して製造してもよく、高分子量の4-メチル-1-ペンテン重合体を熱分解して製造してもよい。また、重合体(A)は、溶媒に対する溶解度の差異で分別する溶媒分別、あるいは沸点の差異で分取する分子蒸留などの方法で精製されてもよい。
【0034】
重合体(A)として用いられる4-メチル-1-ペンテン重合体は、従来公知のオレフィン重合用触媒、例えば、バナジウム系触媒、チタン系触媒、マグネシウム担持型チタン系触媒、国際公開第01/53369号、国際公開01/27124号、国際公開2006/054613号、特開平3-193796号公報、あるいは特開平2-41303号公報に記載のメタロセン触媒などを用いて、4-メチル-1-ペンテンと、必要に応じて炭素原子数5~20のα-オレフィン(4-メチル-1-ペンテンを除く)を重合することにより得ることができる。
【0035】
また、市販の4-メチル-1-ペンテン重合体を重合体(A)として使用することができ。重合体(A)として使用され得る市販品としては、例えば、三井化学社製TPX(登録商標)が挙げられる。なお、高分子量の4-メチル-1-ペンテン系重合体を熱分解して重合体(A)を製造する際に、材料となる高分子量の4-メチル-1-ペンテン系重合体として市販品を使用してもよい。
【0036】
<4-メチル-1-ペンテン・α-オレフィン重合体(B)>
本発明の積層フィルムが有するシーラント層(Y)を構成する樹脂組成物(Z)は、前記重合体(A)と4-メチル-1-ペンテン共重合体(B)〔以下、「共重合体(B)」と略記する場合がある。〕とを含む。共重合体(B)は、4-メチル-1-ペンテンとα-オレフィンとの共重合体であり、下記要件(B-a)~(B-d)を満たす。好ましくは、共重合体(B)は、下記要件(B-a)~(B-d)に加えて、要件(B-e)~(B-h)の1つ以上を満たす。
【0037】
[要件(B-a)]
共重合体(B)における4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位(iii)の量は60~90モル%であり、好ましくは65~89モル%、より好ましくは68~88モル%、さらに好ましくは70~87モル%である(ただし、構成単位(iii)と構成単位(iv)の合計を100モル%とする。)。
また、共重合体(B)における炭素原子数2~4のα-オレフィンから導かれる構成単位(iv)の総量は10~40モル%であり、好ましくは11~35モル%、より好ましくは12~32モル%、さらに好ましくは13~30モル%である(ただし、構成単位(iii)と構成単位(iv)の合計を100モル%とする。)。
【0038】
共重合体(B)における構成単位(iii)の含有率が90モル%以下(すなわち、構成単位(iv)の含有率が10モル%以上)であることにより、共重合体(B)を含むシーラント層(Y)の接着力が比較的高くなる結果、本発明の積層フィルムにおいて、基材層(X)とシーラント層(Y)との間で層剥離が起こらない程度の接着力が得られるため好ましい。さらに、共重合体(B)における構成単位(iii)の含有率が60モル%以上であると、共重合体(B)を含む樹脂組成物(Z)の離型性が良好であるため、結果として、前記積層フィルムは、離型性を発現することができる。
【0039】
また、共重合体(B)における構成単位(iv)の含有率が10モル%以上であることにより、樹脂組成物(Z)に用いられる前記重合体(A)と共重合体(B)との間で、良好な相容性が得られる。
【0040】
構成単位(iv)を形成する炭素原子数2~4のα-オレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテンなどが挙げられる。これらは、1種単独、あるいは本発明を損なわない範囲で、2種以上を組み合わせて用いることができる。樹脂組成物(Z)に用いられる前記重合体(A)に対して、良好な相容性が得られることから、構成単位(iv)を形成する炭素原子数2~4のα-オレフィンとしては、プロピレンが好ましい。
【0041】
共重合体(B)における構成単位(iii)を導く4-メチル-1-ペンテンは、バイオマス由来の原料から得られた4-メチル-1-ペンテンのみであってもよく、バイオマス由来の原料から得られた4-メチル-1-ペンテンと化石燃料由来の4-メチル-1-ペンテンとの混合物であってもよく、さらに、化石燃料由来の4-メチル-1-ペンテンのみであってもよい。
同様に、共重合体(B)における構成単位(iv)を導く炭素原子数2~4のα-オレフィンは、バイオマス由来の原料から得られたα-オレフィンを使用してもよく、バイオマス由来の原料から得られたα-オレフィンと化石燃料由来のα-オレフィンとの混合物であってもよく、さらに、化石燃料由来のα-オレフィンのみであってもよい。
【0042】
共重合体(B)は、本発明の効果を損なわない範囲で、4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位(iii)、及び炭素原子数2~4のα-オレフィンから導かれる構成単位(iv)以外のその他の構成単位を含んでもよい。その他の構成単位の含有率は、例えば、0~10モル%である(ただし、構成単位(iii)と構成単位(iv)の含有率の合計を100モル%とする。)。
【0043】
共重合体(B)における構成単位の含有率(モル%)の値は、前述した重合体(A)と同様に、炭素13核磁気共鳴(以下、13C-NMRということがある。)による測定方法によって算出した場合のものである。なお、具体的な測定方法については、前記重合体(A)と同様に、後述の実施例に記載する内容のとおりである。
【0044】
[要件(B-b)]
共重合体(B)は、デカリン溶媒中、135℃で測定される極限粘度〔η〕が0.5~5.0dl/g、好ましくは0.6~4.0dl/g、より好ましくは0.8~3.0dl/gの範囲である。共重合体(B)の極限粘度〔η〕が、上述の範囲にあると、共重合体(B)中の低分子量成分が少ないことから、共重合体(B)を含む樹脂組成物(Z)のべたつきが低減されやすく、樹脂組成物(Z)を用いたシーラント層(Y)の成形が容易になる傾向がある。その結果、シーラント層(Y)を有する本発明に係る積層フィルムにおいてもべたつきが低減され、前記積層フィルムの成形が容易となるため好ましい。なお、極限粘度〔η〕の具体的な測定方法については、前記重合体(A)と同様に、後述の実施例に記載する内容のとおりである。
ところで、べたつきが低減されたフィルムの表面には物が付着しづらいことから、シーラント層(Y)のべたつきが低減された場合、シーラント層(Y)が内側となるように製造した包装袋の内側には内容物が付着しにくくなり、結果として、内容物を排出した場合に内容物が残りにくい(いわゆる、身離れ機能が良好である)傾向がある。このため、極限粘度〔η〕が前記範囲にある共重合体(B)を用いて製造されたシーラント層(Y)を最外層に有する積層フィルムは、排出時に内容物が残りにくい包装袋の製造に使用できる。
【0045】
[要件(B-c)]
共重合体(B)は、示差走査熱量計(DSC)で測定した融点(Tm)が観測されないか、または160℃未満の範囲にある。共重合体(B)が融点を有する場合、その上限は好ましくは150℃以下、より好ましくは145℃以下であり、さらに好ましくは140℃以下である。
【0046】
共重合体(B)の融点の値は、共重合体(B)の立体規則性ならびに共に重合する構成単位(iv)を導くα-オレフィンに依存して変化する値である。上述の融点の値は、後述するオレフィン重合用触媒を用いて、さらに、共重合体(B)の組成を所望の範囲に調整することにより調製可能である。なお、測定方法については、前記重合体(A)と同様に、後述の実施例に記載する内容のとおりである。
【0047】
[要件(B-d)]
共重合体(B)は、密度が820~860kg/m3、好ましくは825~855kg/m3、より好ましくは830~850kg/m3の範囲である。前記共重合体(B)の密度が上述の範囲にあると、共重合体(B)を含むシーラント層(Y)のガス透過性能が高くなりやすい結果、高いガス透過性能を有する積層フィルムが得られやすいため好ましい。なお、密度の測定方法は、前記重合体(A)と同様に、後述の実施例に記載する内容のとおりである。
【0048】
[要件(B-e)]
共重合体(B)のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定されるポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)と、ポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)との比である分子量分布(Mw/Mn)は、特に限定されるものではないが、1.0~4.0の範囲にあることが好ましく、1.2~3.5がより好ましく、1.5~3.0がさらに好ましい。
分子量分布(Mw/Mn)が4.0以下であると、組成分布に由来する低分子量、低立体規則性ポリマーの影響が少なく、共重合体(B)を含む樹脂組成物(Z)から得られるシーラント層(Y)の透明性に有利である。重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)の測定方法は、後述の実施例に記載する内容のとおりである。
【0049】
[要件(B-f)]
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される共重合体(B)の重量平均分子量(Mw)は、ポリスチレン換算で500~10,000,000が好ましく、1,000~5,000,000がより好ましく、5,000~2,500,000がさらに好ましい。重量平均分子量(Mw)が上記の範囲内であると、共重合体(B)を含む樹脂組成物(Z)から得られるシーラント層(Y)の剛性が、本発明の積層フィルムの用途に適切な範囲になりやすい。
【0050】
[要件(B-g)]
ASTM D1238に準拠して、温度230℃、荷重2.16kgfの条件で測定される共重合体(B)のメルトフローレイト(MFR:Melt Flow Rate)は、特に限定されるものではないが、共重合体(B)を含むシーラント層(Y)の成形の際の流動性の観点から、0.1~100g/10分であることが好ましく、0.5~50g/10分であることがより好ましく、1.0~30g/10分であることがさらに好ましい。また、共重合体(B)のメルトフローレイトが上記の範囲内であると、積層フィルムを製造する際に共重合体(B)を含むシーラント層(Y)の厚さを均一に保ちやすいので、結果として均一な厚さを有する積層フィルムを成形しやすい。また、共重合体(B)のMFRが前記範囲にあると、樹脂組成物(Z)を製造する際に、共重合体(B)と重合体(A)とを、溶融混練によって混合しやすい。
【0051】
[要件(B-h)]
共重合体(B)を成形したフィルムでは、Zismanプロットを用いて求めた23℃における臨界表面張力は、好ましくは20~26mN/m、より好ましくは21~25mN/mである。なお、重合体(B)の成形条件は任意であるが、例えば、後述する積層フィルムの製造条件と同様の条件を使用できる。
【0052】
共重合体(B)は一般的な他のポリオレフィンより臨界表面張力が小さいので、共重合体(B)を成形したフィルムの臨界表面張力が前記範囲であると、共重合体(B)を含むシーラント層(Y)の離型性が良好になる傾向がある。
離型性に優れるフィルムの表面には物が付着しづらいことから、シーラント層(Y)の離型性が良好な場合、シーラント層(Y)が内側となるように製造された包装袋では、内容物が包装袋の内側に付着しにくい。その結果、臨界表面張力が前記範囲にある共重合体(B)を用いて得られたシーラント層(Y)が内側となるように製造された包装袋では、内容物を排出した場合に内容物が残りにくい(いわゆる、身離れ機能が良好である)傾向がある。
【0053】
<共重合体(B)の製造方法>
共重合体(B)の製造方法は、特に限定されない。例えば、4-メチル-1-ペンテンと前述の炭素原子数2~4のα-オレフィンとをマグネシウム担持型チタン触媒、またはメタロセン触媒などの適切な重合触媒存在下で重合することにより製造できる。
【0054】
ここで、使用することができる重合触媒としては、従来公知の触媒、例えば、マグネシウム担持型チタン触媒、国際公開第01/53369号、国際公開01/27124号、特開平3-193796号公報、あるいは特開平2-41303号公報、国際公開第2011/055803号、国際公開第2014/050817号等に記載のメタロセン触媒などが好適に用いられる。重合は、溶解重合および懸濁重合などを含む液相重合法、ならびに気相重合法などから適宜選択して行うことができる。
【0055】
液相重合法では、液相を構成する溶媒として不活性炭化水素溶媒を用いることができる。上記不活性炭化水素の例には、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ドデカン、および灯油などを含む脂肪族炭化水素、シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロペンタン、およびメチルシクロヘキサンなどを含む脂環族炭化水素、ベンゼン、トルエン、およびキシレンなどを含む芳香族炭化水素、ならびにエチレンクロリド、クロロベンゼン、ジクロロメタン、トリクロロメタン、およびテトラクロロメタンなどを含むハロゲン化炭化水素、ならびにこれらの混合物などが含まれる。
【0056】
また、液相重合法では、前述の4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位(iii)に対応するモノマー(すなわち、4-メチル-1-ペンテン)、前述の炭素原子数2~4のα-オレフィンから導かれる構成単位(iv)に対応するモノマー(すなわち、前述の炭素原子数2~4のα-オレフィン)自体を溶媒とした塊状重合とすることもできる。
【0057】
なお、上述の4-メチル-1-ペンテンと上述の炭素原子数2~4のα-オレフィンとの共重合を段階的に行うことにより、前記共重合体(B)を構成する4-メチル-1-ペンテンの構成単位(iii)、及び炭素原子数2~4のα-オレフィンの構成単位(iv)の組成分布を適度に調整することもできる。
【0058】
共重合体(B)を重合する際の重合温度は、-50~200℃が好ましく、0~100℃がより好ましく、20~100℃がさらに好ましい。共重合体(B)を重合する際の重合圧力は、常圧~10MPaゲージ圧であることが好ましく、常圧~5MPaゲージ圧であることがより好ましい。
【0059】
共重合体(B)の重合のときに、生成するポリマーの分子量や重合活性を制御する目的で、水素を添加してもよい。添加する水素の量は、前述の4-メチル-1-ペンテンの量と前述の炭素原子数2~4のα-オレフィンの量との合計1kgに対して、0.001~100NL程度が適切である。
【0060】
<樹脂組成物(Z)>
シーラント層(Y)を構成する樹脂組成物(Z)は、前述の要件(A-a)~(A-d)を満たす4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)を5~25質量部、好ましくは6~22質量部、より好ましくは7~20質量部、さらに好ましくは8~18質量部、及び、前述の要件(B-a)~(B-d)を満たす4-メチル-1-ペンテン・α-オレフィン共重合体(B)を75~95質量部、好ましくは78~94質量部、より好ましくは80~93質量部、さらに好ましくは82~92質量部(ただし、重合体(A)及び共重合体(B)の合計を100質量部とする。)の範囲で含む。
【0061】
樹脂組成物(Z)への共重合体(B)の配合量が上述の範囲よりも少ない場合、前記シーラント層(Y)における良好なヒートシール性能が得られない。また、樹脂組成物(Z)への共重合体(B)の配合量が上述の範囲よりも多い場合、前記シーラント層(Y)における実用的な耐熱性の維持が難しくなる。
【0062】
また、重合体(A)と共重合体(B)は、お互いに近しい極性を有する樹脂であるため、共重合体(B)の中に、重合体(A)を含有しても、均一で良好な分散性が得られる。実質的には、海島構造の形態を有するが、当該重合体(A)の分散相サイズは、極めて微小である。したがって、シーラント層(Y)のフィルムは、海島構造に起因する表面凹凸の影響が極めて小さく、平滑性を有して透明性に優れると考えられる。
【0063】
樹脂組成物(Z)は、前記重合体(A)と前記共重合体(B)とを前記特定の割合で混合することにより得られるが、種々公知の方法、例えば、上述の成分をヘンシェルミキサー、タンブラーブレンダー、V-ブレンダー等によりドライブレンドする方法、ドライブレンドした後、単軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー等により溶融混練する方法、及び溶媒の存在下で、攪拌混合する方法等により調整することができる。
【0064】
樹脂組成物(Z)には、必要に応じて本発明の効果を損なわない範囲で、酸化防止剤を含有することができる。酸化防止剤としては、公知の酸化防止剤が使用可能である。具体的には、ヒンダードフェノール化合物、硫黄系酸化防止剤、ラクトーン系酸化防止剤、有機ホスファイト化合物、有機ホスフォナイト化合物、あるいはこれらを数種組み合わせたものが使用でき、例えば、フェノール系(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール等)、多環フェノール系(2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)等)、リン系(テトラキス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)-4,4-ビフェニレンジホスフォネート等)、アミン系(N,N-ジイソプロピル-p-フェニレンジアミン等)などが挙げられる。
【0065】
樹脂組成物(Z)には、本発明の効果を損なわない範囲で、従来公知の添加剤、例えば、耐熱安定剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、界面活性剤、スリップ防止剤、アンチブロッキング剤、結晶核剤、滑剤、顔料、染料、老化防止剤、塩酸吸収剤、無機又は有機の充填剤、架橋剤、架橋助剤、軟化剤、難燃剤等の各種添加剤を含有してもよい。
【0066】
紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、サリチル酸系、アクリレート系等の紫外線吸収剤が挙げられる。
抗菌剤としては、4級アンモニウム塩、ピリジン系化合物、有機酸、有機酸エステル、ハロゲン化フェノール、有機ヨウ素などが挙げられる。
【0067】
帯電防止剤としては、例えば、後述する界面活性剤、脂肪酸エステル、高分子型帯電防止剤などが挙げられる。脂肪酸エステルとしてはステアリン酸やオレイン酸のエステル等が挙げられ、高分子型帯電防止剤としてはポリエーテルエステルアミドなどが挙げられる。
【0068】
界面活性剤としては、例えば、非イオン性、アニオン性、カチオン性または両性の界面活性剤を挙げることができる。非イオン性界面活性剤としては、高級アルコールエチレンオキシド付加物、脂肪酸エチレンオキシド付加物、高級アルキルアミンエチレンオキシド付加物、ポリプロピレングリコールエチレンオキシド付加物等のポリエチレングリコール型非イオン界面活性剤、ポリエチレンオキシド、グリセリンの脂肪酸エステル、ペンタエリスリトールの脂肪酸エステル、ソルビットもしくはソルビタンの脂肪酸エステル、多価アルコールのアルキルエーテル、アルカノールアミンの脂肪族アミド等の多価アルコール型非イオン性界面活性剤などが挙げられ、アニオン性界面活性剤としては、例えば、高級脂肪酸のアルカリ金属塩等の硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルスルホン酸塩、パラフィンスルホン酸塩等のスルホン酸塩、高級アルコールリン酸エステル塩等のリン酸エステル塩などが挙げられ、カチオン性界面活性剤としては、アルキルトリメチルアンモニウム塩等の第4級アンモニウム塩などが挙げられる。両性界面活性剤としては、高級アルキルアミノプロピオン酸塩等のアミノ酸型両面界面活性剤、高級アルキルジメチルベタイン、高級アルキルジヒドロキシエチルベタイン等のベタイン型両性界面活性剤などが挙げられる。
【0069】
スリップ剤としては、例えば、ワックス(カルナバロウワックス等)、高級脂肪酸(ステアリン酸等)、高級脂肪酸塩(ステアリン酸カルシウム等)、高級アルコール(ステアリルアルコール等)、高級脂肪酸アミド(ステアリン酸アミド、エルカ酸アミド、オレイン酸アミド等)などが挙げられる。
【0070】
軟化剤の例としては、プロセスオイル、潤滑油、パラフィン、流動パラフィン、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、石油アスファルトおよびワセリンなどを含む石油系物質、コールタールおよびコールタールピッチなどを含むコールタール類、ヒマシ油、アマニ油、ナタネ油、大豆油および椰子油などを含む脂肪油、トール油、蜜ロウ、カルナウバロウおよびラノリンなどを含むロウ類、リシノール酸、パルミチン酸、ステアリン酸、12-水酸化ステアリン酸、モンタン酸、オレイン酸およびエルカ酸などを含む脂肪酸またはその金属塩、石油樹脂、クマロンインデン樹脂およびアタクチックポリプロピレンなどを含む合成高分子、エステル系可塑剤、マイクロクリスタリンワックス、液状ポリブタジエンまたはその変性物もしくは水添物、ならびに液状チオコールなどを含む公知の軟化剤が挙げられる。
【0071】
エステル系可塑剤としては、芳香族カルボン酸エステル(フタル酸ジブチル、ジオクチルフタレート等)、脂肪族カルボン酸エステル(メチルアセチルリシノレート等)、脂肪族ジカルボン酸エステル(ジオクチルアジペート、ジオクチルセバケート、アジピン酸-プロピレングリコール系ポリエステル等)、脂肪族トリカルボン酸エステル(クエン酸トリエチル等)、リン酸トリエステル(リン酸トリフェニル等)、エポキシ脂肪酸エステル(ステアリン酸エポキシブチル等)等が挙げられる。
【0072】
上述の酸化防止剤及び各種添加剤の含有量については、前記樹脂組成物(Z)における前記重合体(A)及び前記共重合体(B)の合計100質量部に対して、好ましくは5質量部以下、より好ましくは3質量部以下、2質量部以下がさらに好ましい。
【0073】
また、樹脂組成物(Z)は、本発明の効果を損なわない範囲で、前記重合体(A)及び前記共重合体(B)以外の樹脂を含有してもよい。その場合、前記重合体(A)及び前記共重合体(B)以外の樹脂の含有量は、前記重合体(A)及び前記共重合体(B)の合計100質量部に対して、好ましくは20質量部以下、より好ましくは10質量部以下である。
【0074】
<積層フィルムの製造方法>
本発明の積層フィルムの製造方法は、特に制限されるものではなく、押出キャスト成形、押出ラミネート成形、ドライラミネート成形など公知の方法を採用することができる。
本発明の積層フィルムの製造方法の一例を説明する。本発明の積層フィルムは、例えば、下記の方法により製造することができる。ただし、本発明の積層フィルムの製造方法は、これに限定されるものではない。
まず、Tダイに接続された共押出成形機を用い、該共押出成形機の一つの押出機のホッパーに基材層(X)に使用する樹脂材料を投入し、該共押出成形機の他の押出機のホッパーにシーラント層(Y)を構成する樹脂組成物(Z)を投入する。その後、シリンダー温度160~280℃、ダイス温度200~280℃に設定して樹脂を溶融させる。
Tダイより、基材層(X)の溶融樹脂と、シーラント層(Y)を構成する樹脂組成物(Z)の溶融樹脂とを共押出成形し、キャストロール温度20~100℃で冷却固化することにより、前記基材層(X)と前記シーラント層(Y)とが積層されたフィルムを得ることができる。
【0075】
積層フィルムの層構成は、特に制限されるものではなく、用途に応じて適宜設定することができる。層構成としては、例えば、基材層(X)/シーラント層(Y)の構成が好ましいが、該積層フィルムには、基材層(X)またはシーラント層(Y)の少なくとも一方が複数含まれていてもよい。また、前記シーラント層(Y)は、基材層(X)に直接接していることが好ましい。さらに、積層フィルムの各層の厚さの比率は、特に制限されるものではなく、用途に応じて適宜設定することができる。
なお、本発明の積層フィルムは、基材層(X)と、基材層(X)の片面に設けられたシーラント層(Y)を有するものであるが、積層フィルムのヒートシールにより確実に密封できるように、積層フィルムにおける前記シーラント層(Y)は1層であることが好ましい。また、ヒートシール可能なシール温度領域を広く選択できるという観点から、前記シーラント層(Y)は積層フィルムの最外層であることが好ましい。
【0076】
本発明の積層フィルムの厚みは、特に制限されるものではないが、所望により適宜決めることができる。通常、前記基材層(X)の厚みは18~350μm、好ましくは24~260μm、より好ましくは30~180μm、前記シーラント層(Y)の厚みは2~50μm、好ましくは4~40μm、より好ましくは5~20μmの範囲にある。
また、積層フィルム全体の厚みは20~400μm、好ましくは28~300μm、より好ましくは35~200μmの範囲である。
積層フィルムの全体の厚みが20μm以上であると、取り扱いし易く、剥離時に切れ難いものとなる。さらに、積層フィルムの全体の厚みが400μm以下であると、積層フィルムの軽量化とガス透過性能の制御が容易となる。
【0077】
<積層フィルムの物性>
本発明の積層フィルムは、シーラント層(Y)の面同士を向かい合わせて、温度200℃、圧力0.2MPa、及びシール時間2秒の条件でヒートシールした時に、積層フィルム間の剥離強度(以下、「ヒートシール強度」と称する場合がある。)が、2.0N/15mm以上であることが好ましく、2.5N/15mm以上であることがより好ましく、3.0N/15mm以上であることがさらに好ましい。
上記積層フィルムのヒートシール強度が2.0N/15mm以上であると、被包装物を包装して包装体とした場合に、該包装体を保管もしくは運搬している間にシーラント層間で剥がれが発生してしまう事態を防止しやすい。
上記積層フィルムのヒートシール強度の上限値は、特に限定されるものではないが、通常、25N/15mm以下である。なお、ヒートシール強度の具体的な測定方法については、後述の実施例に記載する内容のとおりである。
【0078】
本発明の積層フィルムのシーラント層(Y)は、以下の実施例に記載の測定条件で測定される粘着テープ層(日東電工社製粘着テープNo.31Bなど、アクリル系粘着剤が塗布された粘着テープ)とシーラント層(Y)とを引き剥がした場合の剥離強さが、好ましくは0.1~3.0N/25mmであり、より好ましくは0.2~2.0N/25mmである。
粘着テープとシーラント層(Y)とを引き剥がした時の剥離強さが低いほど、本発明の積層フィルムのシーラント層(Y)が離型性に優れる傾向がある。
【0079】
本発明の積層フィルムのシーラント層(Y)の臨界表面張力は、好ましくは20~26mN/m、より好ましくは21~26mN/m、特に好ましくは22~25mN/mである。臨界表面張力の値は、フィルム表面の離型性を示唆する値である。臨界表面張力の値が小さいほど、離型性に優れる傾向がある。
前記シーラント層(Y)の臨界表面張力が、20~26mN/mであると、本発明の積層フィルムが優れた離型性を有するため、当該積層フィルムを包装袋に作製して被包装物を包装袋中に充填した場合に、身離れ機能を発揮する(すなわち、内容物が包装袋の内層表面に付着しにくく、かつ、包装袋から内容物を排出した場合に内容物が包装袋の内面に付着した状態で残りにくい)ため好ましい。
【0080】
本発明の積層フィルムのガス透過性能は、特に制限されるものではないが、例えば、酸素透過度〔酸素透過係数、単位:cm3・mm/(m2・24hr.・atm)〕、及び二酸化炭素透過度〔二酸化炭素透過係数、単位:cm3・mm/(m2・24hr.・atm)〕は、JIS K7126-1、差圧法に準拠して評価することができる。
また、水蒸気透過度〔水蒸気透過係数、単位:g・mm/(m2・24hr.)〕は、JIS K7129-2、赤外線センサ法(MOCON法)に準拠して評価することができる。なお、具体的な測定方法については、後述の実施例に記載する内容のとおりである。
酸素透過係数及び二酸化炭素透過係数の値が大きいほど、ガス透過性能に優れている。また、水蒸気透過係数の値が大きいほど、ガス透過性能(透湿性能)に優れている。
【0081】
本発明の積層フィルムの全ヘイズ(厚さ50μmの場合)は、特に制限されるものではないが、50%以下であることが好ましく、40%以下であることがより好ましく、30%以下であることがさらに好ましく、20%以下であることが特に好ましい。
本発明の積層フィルムの全ヘイズが50%以下であると、透明な積層フィルムとなる。なお、全ヘイズの測定方法については、後述の実施例に記載する内容のとおりである。
全ヘイズの値が低いほど、積層フィルムは透明性に優れる。
【0082】
<積層フィルムの用途>
本発明の積層フィルムは、例えば、テープ、マスキングフィルム、マスキングテープ、仮着性フィルム、鮮度保持用包装フィルム、プラスチック封筒、イージーオープン包装袋、自動包装フィルム、ショッピングバック、スタンディングパック、液体フィルム包装袋、透明包装シート、建材用フィルム、貼合用フィルム、農業用フィルム、食品包装資材、果物包装資材、植物包装資材、花束包装資材、電子部品包装資材、機械部品包装資材、穀物包装資材、魚介類等の水産物包装資材、医療用フィルム、医療用シート、医療用テープ、細胞培養用バック等として幅広く利用される。
本発明の積層フィルムは、ヒートシール性能と高いガス透過性能とを兼ね備えているので、包装資材として好適に利用される。特に、無孔型フィルムでありながら高いガス透過性能を発揮するので、雑菌などの混入を防ぐことができ、食品及び医療用の包装資材としての利用価値は高い。
また、離型性にも優れることから、フィルム包装袋に内容物を充填した際には、身離れ機能が付与された包装資材として好適に利用される。
【実施例0083】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。以下の実施例および比較例における樹脂の物性測定方法、使用樹脂、試験片の作製方法および評価方法は次のとおりである。
【0084】
≪重合体の物性の測定方法≫
<構成単位の含有率>
重合体(A)および共重合体(B)に含まれる4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位の量、及びα-オレフィンから導かれる構成単位の量は、以下の装置および条件により13C-NMRスペクトルより算出した。ただし、本測定結果のα-オレフィンから導かれる構成単位の量には、4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位の量は含まれない。
核磁気共鳴装置(日本電子社製ECP500型)を用いて、o-ジクロロベンゼン/重水素化ベンゼン(80/20容量%)混合溶媒、試料濃度55mg/0.6mL、測定温度120℃、観測核は13C(125MHz)、シーケンスはシングルパルスプロトンデカップリング、パルス幅は4.7μ秒(45°パルス)、繰り返し時間は5.5秒、積算回数は1万回以上、27.50ppmをケミカルシフトの基準値として測定した。得られた13C-NMRスペクトルにより、重合体(A)および共重合体(B)の組成を定量化した。
【0085】
<極限粘度>
ウベローデ粘度計を用いて、デカリン溶媒中135℃で、極限粘度を求めた。重合体(A)および共重合体(B)の各々について、試料を約20mg採取した。ここで、試料の形態は、重合パウダー、ペレットまたは樹脂塊のいずれでもよい。デカリン15mLに溶解して、135℃に加熱したオイルバス中で比粘度ηspを測定した。このデカリン溶液にデカリン溶媒を5mL追加して希釈後、同じように比粘度ηspを測定した。この希釈操作をさらに2回繰り返し、濃度(C)をゼロに外挿した時のηsp/Cの値を極限粘度として算出した(下式参照)。
[η]=lim(ηsp/C) (C→0)
【0086】
<重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、分子量分布(Mw/Mn値)>
分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定した。
具体的には、液体クロマトグラフとしてWaters社製ALC/GPC150-Cplus型(示差屈折計検出器一体型)を用い、分離カラムとして東ソー社製GMH6-HTを2本、およびGMH6-HTLを2本直列接続して用い、移動相媒体としてo-ジクロロベンゼン、酸化防止剤として0.025質量%のジブチルヒドロキシトルエン(武田薬品工業社製)を用い、移動相媒体を1.0mL/分で移動させ、試料濃度は15mg/10mLとし、試料注入量は500μLとし、検出器は示差屈折計を用いた。標準ポリスチレンとしては、重量平均分子量(Mw)が1,000以上、4000,000以下において、東ソー社製の標準ポリスチレンを用いた。
得られたクロマトグラムを、公知の方法によって、標準ポリスチレンサンプルを用いて検量線を作成して解析することで、重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)および分子量分布(Mw/Mn値)を算出した。1サンプル当たりの測定時間は60分であった。
【0087】
<メルトフローレイト(MFR)>
ASTM D1238に準拠して、前記重合体(A)については、温度260℃、荷重5.0kgfでMFRを測定し、前記共重合体(B)については、温度230℃、荷重2.16kgfでMFRを測定した。
【0088】
<融点>
JIS K7121に準拠し、示差走査熱量計(セイコーインスツル社製DSC220C)を用い、測定用アルミパンに約5mgの試料をつめて、昇温速度10℃/分で200℃まで昇温した。測定される融解ピークのうちで最も高い融解ピークの温度を融点とした。融解ピークが現れなかった場合には、融点が観測されないと評価した。
【0089】
<密度>
重合体(A)および共重合体(B)の密度は、JIS K7112に準拠して、密度勾配管を用いて測定した。
【0090】
≪重合体の合成≫
<合成例1:重合体(A-1)の合成>
国際公開2006/054613号に記載の方法に準じ、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、水素の割合を調整し、重合体(A-1)を得た。重合体(A-1)についての各物性の測定結果を表1に示す。
【0091】
次いで、上記の重合体(A-1)100質量部に対し、耐熱安定剤としてテトラキス〔3-(3´,5´-ジ-t-ブチル-4´-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸〕ペンタエリトリトールを2000ppm、二次抗酸化剤としてトリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)フォスフェートを2000ppm配合し、二軸押出機(株式会社日本製鋼所製TEX25αIII、スクリュー直径25mm、L/D=52)を用いて、シリンダー設定温度270℃、押出量5kg/時間、スクリュー回転数100rpmの条件でストランドを吐出し、水槽に浸漬しながらペレタイザー(カツミック社製KM-100)まで導き、造粒した。
【0092】
<共重合体(B)の合成>
共重合体(B)として、4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位の量、および炭素原子数2~4のα-オレフィンから導かれる構成単位の量が異なる2種の共重合体を調整した。それらを、共重合体(B-1)及び共重合体(B-2)と区別する。それぞれの合成方法は後述に記載する内容のとおりである。
【0093】
<合成例2:共重合体(B-1)の合成>
充分に窒素置換した容量1.5Lの攪拌翼付SUS製オートクレーブに、23℃でn-ヘキサン300ml(乾燥窒素雰囲気下、活性アルミナ上で乾燥したもの)、4-メチル-1-ペンテン450mlを装入した。このオートクレーブに、トリイソブチルアルミニウム(TIBAL)の1.0mmol/mlトルエン溶液を0.75ml装入して攪拌した。
【0094】
次に、オートクレーブを内温60℃まで加熱し、全圧(ゲージ圧)が0.40MPaとなるようにプロピレンで加圧した。続いて、予め調製しておいたアルミニウム換算で1mmolのメチルアルミノキサン、および0.01mmolのジフェニルメチレン(1-エチル-3-t-ブチル-シクロペンタジエニル)(2,7-ジ-t-ブチル-フルオレニル)ジルコニウムジクロリドを含むトルエン溶液0.34mlをオートクレーブに窒素で圧入し、重合反応を開始した。重合反応中は、オートクレーブの内温が60℃になるように温度を調整した。重合開始から60分後、オートクレーブにメタノール5mlを窒素で圧入し、重合反応を停止させた後、オートクレーブ内を大気圧まで脱圧した。脱圧後、反応溶液にアセトンを添加しながら攪拌した。
【0095】
得られた溶媒を含むパウダー状の共重合体を100℃、減圧下で12時間乾燥した。生成物である共重合体(B-1)の重量は36.9gであった。共重合体(B-1)において、4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位の量は72.4mol%、プロピレンから導かれる構成単位の量は27.6mol%であった。DSC測定を行ったところ、融点は観測されなかった。共重合体(B-1)についての各物性の測定結果を表1に示す。
【0096】
次いで、上記の共重合体(B-1)100質量部に対し、耐熱安定剤としてテトラキス〔3-(3´,5´-ジ-t-ブチル-4´-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸〕ペンタエリトリトールを2000ppm、二次抗酸化剤としてトリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)フォスフェートを2000ppm配合し、二軸押出機(株式会社日本製鋼所製TEX25αIII、スクリュー直径25mm、L/D=52)を用いて、シリンダー設定温度200℃、押出量5kg/時間、スクリュー回転数100rpmの条件でストランドを吐出し、水槽に浸漬しながらペレタイザー(カツミック社製KM-100)まで導き、造粒した。
【0097】
<合成例3:共重合体(B-2)の合成>
充分に窒素置換した容量1.5Lの攪拌翼付のSUS製オートクレーブに、23℃でn-ヘキサン300ml(乾燥窒素雰囲気下、活性アルミナ上で乾燥したもの)、4-メチル-1-ペンテン450mlを装入した。このオートクレーブに、トリイソブチルアルミニウム(TIBAL)の1.0mmol/mlトルエン溶液を0.75ml装入して攪拌した。
【0098】
次に、オートクレーブを内温60℃まで加熱し、全圧(ゲージ圧)が0.19MPaとなるようにプロピレンで加圧した。続いて、予め調製しておいたアルミニウム換算で1mmolのメチルアルミノキサン、および0.01mmolのジフェニルメチレン(1-エチル-3-t-ブチル-シクロペンタジエニル)(2,7-ジ-t-ブチル-フルオレニル)ジルコニウムジクロリドを含むトルエン溶液0.34mlをオートクレーブに窒素で圧入し、重合反応を開始した。重合反応中は、オートクレーブの内温が60℃になるように温度を調整した。重合開始から60分後、オートクレーブにメタノール5mlを窒素で圧入し、重合反応を停止させた後、オートクレーブ内を大気圧まで脱圧した。脱圧後、反応溶液にアセトンを添加しながら攪拌した。
【0099】
得られた溶媒を含むパウダー状の重合体を130℃、減圧下で12時間乾燥した。生成物である共重合体(B-2)の重量は、44.0gであった。共重合体(B-2)において、4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位の量は84.1mol%、プロピレンから導かれる構成単位の量は15.9mol%であった。DSC測定を行ったところ、融点は130℃であった。共重合体(B-2)についての各物性の測定結果を表1に示す。
【0100】
次いで、上記の共重合体(B-2)100質量部に対し、耐熱安定剤としてテトラキス〔3-(3´,5´-ジ-t-ブチル-4´-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸〕ペンタエリトリトールを2000ppm、二次抗酸化剤としてトリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)フォスフェートを2000ppm配合し、二軸押出機(株式会社日本製鋼所製TEX25αIII、スクリュー直径25mm、L/D=52)を用いて、シリンダー設定温度200℃、押出量5kg/時間、スクリュー回転数100rpmの条件でストランドを吐出し、水槽に浸漬しながらペレタイザー(カツミック社製KM-100)まで導き、造粒した。
【0101】
【表1】
【0102】
<実施例1>
[調製例1:樹脂組成物(Z-1の調製)]
前記シーラント層(Y)の構成成分である樹脂組成物(Z-1)は、重合体(A-1)10質量部と共重合体(B-1)90質量部とをタンブラーブレンダーを用いて混合(ドライブレンド)することにより調製した。
【0103】
[積層フィルムの作製]
次いで、Tダイを装着した多層共押出成形機(スクリュー直径20mm、L/D=28、Tダイ幅300mm、リップ開度1mm)の各押出機ホッパーに、基材層(X-1)を形成するための重合体(A-1)のペレットと、シーラント層(Y-1)の構成成分である樹脂組成物(Z-1)をそれぞれ投入した。シリンダー温度160~280℃、及びダイス温度280℃に設定し、Tダイから溶融樹脂を共押出しながら、キャスティングロール温度80℃、引取速度2.0m/分に設定し、前記基材層(X-1)の厚みが40μm、及び前記シーラント層(Y-1)の厚みが10μmとなるように2種2層キャストフィルム成形して、合計厚みが50μmとなる積層フィルムを得た。
【0104】
[ヒートシール強度]
得られた合計厚み50μmの積層フィルムを、幅150mm×長さ50mmの短冊状に裁断したものを2枚準備して試験片とした。次に、準備した2枚の試験片を、シーラント層(Y-1)同士が向き合うように重ね合わせた後、ヒートシール試験機(テスター産業社製、熱傾斜ヒートシールテスターTP-701-G)を用いて、上部温度160~220℃、下部温度120℃、シール幅5mm、シール圧力0.2MPa、及びシール時間2秒の条件にて、熱融着(ヒートシール)した。
次いで、ヒートシール試験機から熱融着した積層フィルムを取り出し、幅15mmに裁断した。この幅15mmの熱融着した積層フィルムについて、引張試験機(島津製作所社製AGS-X)を用いて、試験速度300mm/分、及び雰囲気温度23℃の条件で、積層フィルム同士のヒートシール面に対して180°の方向に引張して、積層フィルム間を剥離させ、剥離強度の最大値を測定した。その最大値をヒートシール強度(単位:N/15mm)とした。その際に、剥離することなく積層フィルムが伸び切った場合には、観測された引張強度の最大値をヒートシール強度とした。なお、ヒートシール強度は、5個の試験片について測定し、その平均値を算出した。
【0105】
[ヒートシール部の剥離形態]
ヒートシール部を剥離した後の積層フィルムについて、その剥離形態を観察した結果を観察し、以下の分類基準で分類した。
(分類基準)
P:シーラント層(Y)のヒートシールされた表面で剥離が起こり、該表面が剥離の際に破損しなかった。また、シーラント層(Y)と基材層(X)との層間で剥離は起こらなかった。
T:シーラント層(Y)におけるシール部(溶着面)のエッジが破断したものの、シーラント層(Y)と基材層(X)との層間で剥離は起こらなかった。
D:シーラント層(Y)のヒートシールされた表面では剥離が起こりづらく、シーラント層(Y)と基材層(X)との層間での剥離が少なくとも一部で発生した。
【0106】
[臨界表面張力]
得られた積層フィルムのシーラント層(Y-1)について、臨界表面張力を評価するため、液体の表面張力がそれぞれ31mN/m、34mN/m、37mN/m、及び40mN/mに調整されたエチレングリコールモノエチルエーテル/ホルムアミド混合液のぬれ張力試験用混合液(富士フィルム和光純薬社製)を、温度23℃、相対湿度50%の雰囲気下でシーラント層(Y-1)の表面に滴下した。次いで、画像処理式・固液界面解析システム(協和界面科学社製、DropMaster500)を使用して、接触角を測定した。Zismanプロットの手法により、それぞれ混合液の表面張力の値を横軸、接触角(角度をラジアン単位に変換してcosθとする)の測定値を縦軸としてグラフにプロットし、最小二乗法に即して直線的な一次関数が得られた。その一次関数のグラフを、完全に濡れた状態とみなされるcosθ=1.0まで外挿し、該グラフにおいてcosθ=1.0になる場合の表面張力(すなわち、該グラフにおいてcosθ=1.0になる点の横軸の値)を臨界表面張力(mN/m)とした。
【0107】
[粘着テープとの剥離強さ]
温度23℃、相対湿度50%の一定環境下において、積層フィルムのシーラント層(Y-1)に、アクリル系粘着剤が塗布された粘着テープ〔日東電工社製粘着テープNo.31B(テープ幅25mm)〕を、荷重2.0kgfに一定圧着できるゴムローラーを用いて2往復して貼り付けて、幅25mm×長さ150mmに裁断して試験片を作製した。
その試験片を温度23℃、相対湿度50%の一定環境下で1日間エージングした後、引張試験機(インテスコ社製201X)を用いて、180°の方向に、試験速度300mm/分で、当該粘着テープ層とシーラント層(Y)とを引き剥がしたときの剥離強さ(N/25mm)を測定した。
【0108】
[酸素透過係数及び二酸化炭素透過係数]
積層フィルムのガス透過性能として、酸素透過度〔酸素透過係数、単位:cm3・mm/(m2・24hr.・atm)〕、及び二酸化炭素透過度〔二酸化炭素透過係数、単位:cm3・mm/(m2・24hr.・atm)〕は、下記の方法により測定した。
合計厚みが50μmの積層フィルムを、幅30mm×長さ30mmの大きさに裁断したものを試験片として用いた。酸素透過度及び二酸化炭素透過度は、JIS K7126-1に準拠して、差圧法ガス透過度測定装置(東洋精機社製CT1)を用いて、試験温度23℃及び相対湿度0%の条件で、積層フィルムの測定面積を5cm2にして測定した。積層フィルムの測定面積は、中央部に直径25mmの孔を2つ開けた粘着剤付きアルミマスク(モダンコトロール社製)を2枚準備し、この2枚のマスクで測定対象の積層フィルムを挟み込むように重ね合わせて調整した。
【0109】
[水蒸気透過係数]
積層フィルムの水蒸気透過度〔水蒸気透過係数、単位:g・mm/(m2・24hr.)〕は、JIS K7129-2、赤外線センサ法(MOCON法)に準拠し、水蒸気透過率測定装置(日立ハイテク社製、PERMATRAN-W3/34G)を用いて、試験温度40℃及び相対湿度90%の条件で、積層フィルムの測定面積を50cm2にして測定した。
【0110】
[全ヘイズ]
得られた積層フィルムを、一辺が50mmの正方形に裁断したものを試験片とし、温度23℃、相対湿度50%の一定環境下で3日間エージングした。その試験片をJIS K7136に準拠して、ヘイズメーター(日本電色工業社製、NDH4000)を用いて、任意に5点測定した平均値を全ヘイズ(%)とした。
物性評価の結果を表2に示す。なお、以下、表2-1および表2-2をまとめて表2という。
【0111】
<実施例2>
シーラント層(Y-2)を形成する樹脂組成物(Z-2)として、重合体(A-1)10質量部と共重合体(B-2)90質量部をドライブレンドした。得られた樹脂組成物(Z-2)を用いた以外は、実施例1と同様に積層フィルムを得て、各種試験片を作製して物性評価を行った。その結果を表2に示す。
【0112】
<実施例3>
シーラント層(Y-3)を形成する樹脂組成物(Z-3)として、重合体(A-1)10質量部、共重合体(B-1)45質量部、および共重合体(B-2)45質量部をドライブレンドした。得られた樹脂組成物(Z-3)を用いた以外は、実施例1と同様に積層フィルムを得て、各種試験片を作製して物性評価を行った。その結果を表2に示す。
【0113】
<実施例4>
シーラント層(Y-4)を形成する樹脂組成物(Z-4)では、重合体(A-1)と共重合体(B-1)の配合比率を表2に記載したとおり変更した。得られた樹脂組成物(Z-4)を用いた以外は、実施例1と同様に積層フィルムを得て、各種試験片を作製して物性評価を行った。その結果を表2に示す。
【0114】
<実施例5>
シーラント層(Y-5)を形成する樹脂組成物(Z-5)では、重合体(A-1)と共重合体(B-1)の配合比率を表2に記載したとおり変更した。得られた樹脂組成物(Z-5)を用いた以外は、実施例2と同様にして積層フィルムを得て、各種試験片を作製して物性評価を行った。その結果を表2に示す。
【0115】
<比較例1>
使用するシーラント層(CY-1)の形成に用いる樹脂組成物(CZ-1)を、重合体(A-1)100質量部のみに変更した。樹脂組成物(Z-1)の代わりに樹脂組成物(CZ-1)を用いた以外は、実施例1と同様にして積層フィルムを得て、各種試験片を作製して物性評価を行った。その結果を表2に示す。
【0116】
<比較例2>
シーラント層(CY-2)を形成する樹脂組成物(CZ-2)では、重合体(A-1)と共重合体(B-1)の配合比率を表2に記載したとおり変更した。樹脂組成物(Z-1)の代わりに樹脂組成物(CZ-2)を用いた以外は、実施例1と同様にして積層フィルムを得て、各種試験片を作製して物性評価を行った。その結果を表2に示す。
【0117】
<比較例3>
シーラント層(CY-3)を形成する樹脂組成物(CZ-3)では、重合体(A-1)と共重合体(B-1)の配合比率を表2に記載したとおり変更した。樹脂組成物(Z-1)の代わりに樹脂組成物(CZ-3)を用いた以外は、実施例1と同様にして積層フィルムを得て、各種試験片を作製して物性評価を行った。その結果を表2に示す。
【0118】
<比較例4>
使用するシーラント層(CY-4)の形成に用いる樹脂組成物(CZ-4)を、プロピレン重合体(C)〔プライムポリマー社製ホモプロピレンF107BV:MFR=7g/10分(230℃、荷重2.16kgf)、融点(Tm)162℃〕100質量部のみに変更した。樹脂組成物(Z-1)の代わりに樹脂組成物(CZ-4)を用いた以外は、実施例1と同様にして積層フィルムを得て、各種試験片を作製して物性評価を行った。その結果を表2に示す。
【0119】
【表2-1】
【0120】
【表2-2】
【0121】
表2に示すように、実施例1~5は、前記シーラント層(Y)同士を、温度200℃、圧力2.0MPa、及びシール時間2秒の条件でヒートシールした場合に得られるヒートシール強度が2.0N/mm以上であり、十分なヒートシール性能を有する。また、高いガス透過性能(酸素透過係数、二酸化炭素透過係数、水蒸気透過係数)、かつ透明性と離型性とを兼ね備えた積層フィルムが得られた。
【0122】
一方、比較的1~3は、ガス透過性能、透明性、及び離型性に優れるものの、前記シーラント層(CY)同士について、十分なヒートシール強度が得られなかった。また、比較例4は、前記シーラント層(CY)同士をヒートシールすると、前記基材層(X)と前記シーラント層(CY)との層間で剥離が起こる上、温度200℃、圧力2.0MPa、及びシール時間2秒の条件でヒートシールしても十分な接着力は得られなかった(ヒートシール性能が良好ではなかった)。
【産業上の利用可能性】
【0123】
本発明の積層フィルムは、ヒートシール性能、高いガス透過性能、透明性、および離型性を兼ね備えたフィルム及び積層フィルムであり、例えば、マスキングフィルム、マスキングテープ、仮着性フィルム、鮮度保持用包装フィルム、プラスチック封筒、イージーオープン包装袋、自動包装フィルム、スタンディングパック、液体フィルム包装袋、透明包装シート、建材用フィルム、貼合用フィルム、農業用フィルム、食品包装資材、果物包装資材、植物包装資材、電子部品包装資材、機械部品包装資材、穀物包装資材、魚介類等の水産物包装資材、医療用フィルム、医療用シート及びテープ、細胞培養用バックなど様々な用途に幅広く利用される。