(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024135711
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】光注入同期型局発光源、及び光伝送方法
(51)【国際特許分類】
H01S 5/12 20210101AFI20240927BHJP
H01S 5/50 20060101ALI20240927BHJP
G02F 2/00 20060101ALI20240927BHJP
H04B 10/2575 20130101ALI20240927BHJP
H04B 10/64 20130101ALI20240927BHJP
【FI】
H01S5/12
H01S5/50
G02F2/00
H04B10/2575 120
H04B10/64
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023046530
(22)【出願日】2023-03-23
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度、国立研究開発法人情報通信研究機構、Beyond 5G研究開発促進事業「Beyond 5Gのレジリエンスを実現するネットワーク制御技術の研究開発」産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】中沢 正隆
(72)【発明者】
【氏名】吉田 真人
(72)【発明者】
【氏名】葛西 恵介
【テーマコード(参考)】
2K102
5F173
5K102
【Fターム(参考)】
2K102BA40
2K102BD02
2K102CA02
2K102EA21
2K102EB02
2K102EB06
2K102EB08
2K102EB10
2K102EB16
2K102EB20
2K102EB22
2K102EB24
5F173AB13
5F173AB50
5F173AR03
5F173AR13
5F173AS04
5K102AA52
5K102AB13
5K102AH12
5K102AH14
5K102AH17
5K102PB03
5K102PB05
5K102PH37
5K102PH41
5K102PH47
(57)【要約】
【課題】局発レーザに注入される光基準信号の偏波軸を制御するステップを必要とせずに、連続的で安定的な光注入同期特性が得られることで光位相同期動作が保たれることを特徴とする光注入同期型局発光源と、前記光注入同期型局発光源を用いた光伝送方法を提供する。
【解決手段】
両端にそれぞれ異なる反射率の反射部を有し、かつグレーティングの中央に位相シフト部を用いない分布帰還型半導体レーザを局発レーザとして備え、前記グレーティングの結合係数kと前記局発レーザの共振器長Lの積kLは0.8~1.2の範囲とし、前記共振器長Lを短く設計することを特徴とする光注入同期型局発光源と、前記光注入同期型局発光源を用いた光伝送方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
両端にそれぞれ異なる反射率の反射部を有し、かつグレーティングの中央に位相シフト部を用いない分布帰還型半導体レーザ(DFB-LD: Distributed Feedback Laser Diode)を局発レーザとして備え、
前記グレーティングの結合係数kと前記局発レーザの共振器長Lの積kLは0.8~1.2の範囲とすることで、前記局発レーザが単一モード発振する条件下においては、前記局発レーザの利得が最大化され、前記局発レーザに光注入される光基準信号のTE偏波成分の光電力が少なくとも-40 dBmといった条件においても光注入同期を可能とし、
さらに前記共振器長Lを短く設計することにより前記共振器のQ値を低下させ、ロッキングレンジの広域化を同時に実現することで、
前記局発レーザに注入される前記光基準信号の偏波軸を制御するステップを必要とせずに、連続的で安定的な光注入同期特性が得られることで光位相同期動作が保たれることを特徴とする光注入同期型局発光源。
【請求項2】
前記局発レーザの両端にそれぞれ配置される異なる反射率の反射部は、前記光基準信号が光注入される側は低反射率膜であり、前記低反射率膜側の対向側は高反射率膜であって、
前記高反射率膜の反射率は100%~90%であり、前記低反射率膜の反射率は0%~10%であることを特徴とする請求項1に記載の光注入同期型局発光源。
【請求項3】
前記局発レーザの共振器の温度を制御し、
前記局発レーザの発振周波数と、前記光基準信号の周波数との差がゼロに漸近することを特徴とする請求項1に記載の光注入同期型局発光源。
【請求項4】
前記局発レーザの共振器の放熱機構を増強し、前記局発レーザの出力光電力の上限を高めることで、緩和振動のダンピング効果を増大させることを特徴とする請求項1に記載の光注入同期型局発光源。
【請求項5】
前記局発レーザの共振器長を200 μm~400 μmの範囲とすることを特徴とする請求項1に記載の光注入同期型局発光源。
【請求項6】
基地局ベースバンド部とアンテナ無線部との間で、光ファイバ伝送路を介して無線信号と光基準信号を重畳したベースバンド信号光を伝送させるための光伝送方法において、
前記アンテナ無線部に配置された波長選択カプラにて前記基地局ベースバンド部から伝送された前記ベースバンド信号光を前記無線信号が重畳されたデータ信号光と光基準信号に分離し、
光サーキュレータを介して前記光基準信号を局発光源に注入し、
前記局発光源から出力される光基準信号の位相に注入同期された局発光を前記光サーキュレータを介してコヒーレント受信部に出力し、
前記データ信号光を前記波長選択カプラから前記コヒーレント受信器に出力し
前記局発光と前記データ信号光を干渉させコヒーレント受信器でコヒーレント検波を行う、
前記局発光源は請求項1~請求項5に記載のいずれかの光注入同期型局発光源であることを特徴とする光伝送方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光基準信号の偏波軸の制御を必要としない光注入同期型局発光源の実現と、前記光注入同期型局発光源を用いた光伝送方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
スマートフォンの普及とモバイルブロードバンドサービスの進展に伴い、移動通信トラフィックが急増している。そのような中、第5世代移動通信システム(5G)の運用が始まっているが、さらなる大容量化に向けBeyond 5Gの研究開発が国内外で精力的に進められている。
【0003】
5GあるいはBeyond 5Gシステムでは、伝送制御やベースバンド信号処理を行う基地局ベースバンド部(BBU: Base Band Unit)を1ヵ所に集約し、アンテナ及び高周波信号処理を担うアンテナ無線部(RRH: Remote Radio Head)を分散配置するC-RAN(Centralized-Radio Access Network)が適用されている。C-RANの構成ではBBUとRRH間(モバイルフロントホール)は光ファイバで接続され、無線信号を光波に重畳してBBUとRRHとの間で双方向伝送する。
【0004】
Beyond 5Gシステムでは、100 Gbit/sの無線通信容量が想定されている。その実現に向けRRHから送信される無線信号には28 GHz以上の高周波帯の電波が使用されるようになるが、その一方で、前記電波の届く距離が短くなり、1台のRRHで対応できる範囲が数10 mに狭まる。したがって、Beyond 5Gシステムでは、一定範囲内で必要とされるRRHの数が5Gシステムよりも多くなることから、無線信号を光波に重畳したデータ信号光を効率よく多数のRRHへ伝送可能な簡便でかつ経済性の高いモバイルフロントホールの形成が不可欠となる(例えば、非特許文献1参照)。
【0005】
一方、近年の光通信では、コヒーレント光を用いた大容量光伝送技術が急速に進展している。前記伝送技術を用いたコヒーレント光伝送システムで扱うデータ信号光は、無線通信と同様に多値変調が採用されており、現在では400 Gbit/sに対応したコヒーレント光伝送システムが基幹網へ導入されている。コヒーレント光伝送システムにおいては、データ信号光の多値度を増大することで、波長多重伝送方式を用いることなく簡便な構成で数100 Gbit/sの大容量通信を実現することができ、変調速度が低くとも多値度の高いデータ信号光の高速伝送が実現できるため、比較的安価な機器を用いた伝送システムを構築することが可能となる。
【0006】
このような特徴から、将来予想される無線アクセスネットワークのさらなる大容量化・高度化に対応するために、モバイルフロントホールにおいてもコヒーレント光伝送システムを適用することに高い関心が寄せられている。
【0007】
コヒーレント光伝送システムでは、光の振幅と位相に情報を重畳したデータ信号光を用いる。RRHにおいては、局発光源からの出力光(局発光)とBBUから伝送される前記データ信号光とを干渉させることで検波(コヒーレント検波)を行う。そのため、データ信号光と局発光との間での高精度な光位相同期が重要な役割を果たす。また、コヒーレント検波のためには局発光は偏波変動のない直接偏波であることが重要であり、一般的には、TE(Transverse Electric)偏波のみで発振する半導体レーザ(LD: Laser Diode)からの出力光が局発光として利用されている。つまり、一般的には局発光源の構成の一部である局発レーザはLDからなる。
【0008】
これまで、光位相同期技術としては大きく2つの方式について研究が進められてきている。一つは、データ信号光をコヒーレント検波した後にA/D変換することでデータ信号を生成し、デジタル信号処理(DSP: Digital Signal Processing)回路によってデータ信号の位相雑音を誤差として推定し除去する、キャリヤ位相推定法である。この場合、コヒーレント検波に用いるための局発光の偏波はあらかじめ偏波揺らぎのないTE偏波に設定されている。
【0009】
Beyond 5Gシステムにおいては伝送速度の低遅延を実現することが求められ、膨大な数のモバイルフロントホールを扱うことから低消費電力であることも要求されている。しかしながら、上述のようなデジタル方式の一つであるキャリヤ位相推定法では、データ信号光の変調速度や多値度の増加に伴って伝送速度が遅延し、さらには伝送システム全体での消費電力が増加してしまう。したがって、キャリヤ位相推定法による光位相同期技術はBeyond 5Gシステムにおいては好ましくない。
【0010】
一方、前記デジタル方式のキャリヤ位相推定法に対して、アナログ方式の光位相同期ループ回路(OPLL: Optical-Phase-Locked-Loop)方式および光注入同期回路方式では、データ信号光の変調速度及び多値度の違いによってRRHの機器構成を変更する必要がなく、様々なフォーマットに柔軟に対応可能となる。
【0011】
特に光注入同期回路方式は、位相の基準となる光信号を注入されたLDが、前記光信号と同一の位相で発振するようになる光注入同期技術を応用した方式である。このような方式においては、局発レーザを構成するLDにデータ信号光と同一の位相を有する光基準信号(或いはパイロットトーン(PT: Pilot Tone))を光注入同期することで、データ信号光と局発光との間で高精度な光位相同期を実現し、RRHの構成を簡便に構築することが可能となる。
【0012】
前記光注入同期技術については古くから研究されており、光位相同期をせしめるLDの発振周波数と光基準信号の周波数との間の最大離調周波数(ロッキングレンジ)δωは、式(1)に示すようにLDの共振器長Lに反比例する関係があることが知られている(非特許文献2)。
【数1】
【0013】
ここで、cは光の速度、nはLDの共振器内の屈折率、αは線幅増大係数、PinjはLDに光注入される光基準信号の光電力(光注入電力)、P0はLDの出力光電力である。したがって、LDの共振器長Lが短い、つまり、Lと比例関係にある共振器のQ値(quality factor)が低いLDを局発レーザとして用いることでGHz帯の広いロッキングレンジが得られ、局発レーザの発振周波数を高精度に制御することなく安定的な光注入同期による光位相同期を実現できる。
【0014】
代表的なLDとしては、ファブリー・ペロー型LD(FP-LD)、分布帰還型(DFB: Distributed Feedback)LD、外部共振型LDが挙げられる。さらにDFB-LDは活性層内に形成されたグレーティング構造により大きく2つに分類でき、LDの両端にそれぞれ同一の反射率を有する低反射部を有し、かつグレーティングの中央に発振光の波長λの1/4にあたる分だけの位相シフト部を用いるDFB-LD(以降、λ/4シフトDFB-LDと称する)と、LDの両端にそれぞれ異なる反射率の反射部を有し、かつグレーティングの中央に位相シフト部を用いないDFB-LD(以降、位相シフトを用いないDFB-LDと称する)がある。λ/4シフトDFB-LDは安定的に単一モード発振を実現するために開発されたLDであり(例えば、非特許文献3参照)、位相シフトを用いないDFB-LDは単一モード発振しながらかつ高出力化を図るために開発されたLDである(例えば、非特許文献4参照)。
【0015】
一般的に、いずれのLDもTE偏波モードでのみ発振するため、局発レーザに光注入される光基準信号が任意の偏波状態であることを考えた場合、光基準信号に含まれるTE偏波成分のみが光注入同期に関わることになる。このとき、式(1)のPinjは局発レーザに光注入される光基準信号に含まれるTE偏波成分の光電力で定義される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開平8-162721号公報
【特許文献2】特開2018-205338号公報
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】中沢正隆, 葛西恵介, 吉田真人, 廣岡俊彦, “次世代RANの実現に向けたフルコヒーレントアクセスシステム,” 電子情報通信学会論文誌C vol. J105-C, no. 11, pp. 315-328 (2022).
【非特許文献2】F. Mogensen, H. Olesen, and G. Jacobsen, “Locking conditions and stability properties for a semiconductor laser with external light injection,” IEEE J. Quantum Electronics, vol. QE-21, no. 7, pp. 784-893 (1985).
【非特許文献3】K. Utaka, S. Akib, K. Sakai, Y. Matsushima, “Analysis of quarter- wave-shifted DFB laser,” Electron. Lett., vol. 20, no. 8, pp. 326-327 (1984).
【非特許文献4】高木啓史, 喜瀬智文, 丸山一臣, 平岩浩二, 山中信光, 舟橋政樹, 粕川秋彦, “光通信用高出力CW-DFBレーザの開発,” 古河電工時報 第111号 (2003).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
従来の光注入同期回路方式には、光基準信号の偏波軸が局発レーザの発振モードの偏波軸(TE偏波軸)から大きくずれた場合に光注入電力が減少し、ロッキングレンジが狭まり、連続的で安定的な光注入同期特性が得られなくなる問題があった。
【0019】
この問題を解決する方法として、TE偏波軸に揃えた偏光子をLDの光注入側に配置し、偏光子を通過する光基準信号の強度が最大となるように、その光基準信号の偏波軸を自動的に制御する回路(負帰還制御回路)を備えた光注入同期技術が提案されている(特許文献1)ものの、応答の遅延や制御系の複雑さなどの課題がある。
【0020】
或いは、偏波ビームスプリッタを用いて光基準信号を直交する二つの偏波成分(TE偏波成分とTM(Transverse Magnetic)偏波成分)に分離し、それらの強度比較回路を介して強度の高い偏波成分を選択し、その選択した偏波成分の偏波軸を自動制御によりTE偏波軸に回転させた後、LDへ光注入する光注入同期技術が提案されている(特許文献2)ものの、光基準信号の偏波軸の回転速度が速い場合には応答が困難であるという課題がある。
【0021】
したがって、簡便な構成で、且つ、経済性の高いモバイルフロントホールが要求されるBeyond 5Gシステムにおいては、局発レーザに光注入される光基準信号の偏波軸に依存せずに安定的に光注入同期特性が得られる局発光源を用いる方法が望ましい(偏波無依存化)。
【0022】
本発明は、このような課題を解決するためのものであり、光基準信号の偏波軸の制御を必要としない光注入同期型局発光源と、前記光注入同期型局発光源を用いた光伝送方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
かかる目的を達成するために、本発明に係る光注入同期型局発光源は、位相シフトを用いないDFB-LDを局発レーザとして備え、前記位相シフトを用いないDFB-LDのグレーティングの結合係数kと共振器長L(DFB-LDの場合はグレーティング長と同義)の積kLを0.8~1.2の範囲とし、局発レーザが単一モードで発振する条件下においては、局発レーザの利得を最大化することで、光注入電力量が、少なくとも-40 dBmといった条件下においても光注入同期を可能とし、共振器長Lを短く設計することで共振器のQ値を低下させ、ロッキングレンジの広域化を同時に実現することで、光基準信号の偏波軸を制御するステップを必要とせずに、連続的で安定的な光注入同期による光位相同期動作が保たれることを特徴とする。
【0024】
また、本発明に係る光注入同期型局発光源において、前記位相シフトを用いないDFB-LDからなる局発レーザの両端に配置する反射部は、光基準信号が光注入される側に低反射率膜を、前記低反射率膜側の対向側に高反射率膜を有することを特徴とする。また、前記高反射率膜の反射率は100%~90%、前記低反射率膜の反射率は0%~10%、の範囲とするようにされていても良く、前記高反射率膜の反射率は100%に、前記低反射率膜の反射率は0%に漸近するようにされているのがより好ましい。
【0025】
また、本発明に係る光注入同期型局発光源において、局発レーザの素子温度を制御し、前記局発レーザの発振周波数と、光基準信号の周波数の差がゼロに漸近するようにされていてもよい。
【0026】
また、本発明に係る光注入同期型局発光源において、局発レーザの共振器の放熱機構を増強し、局発レーザの出力光電力の上限を高めることにより緩和振動のダンピング効果を増大させてもよい。
【0027】
また、本発明に係る光注入同期型局発光源において、局発レーザの共振器長Lを200μm~400μmの範囲としてもよい。
【発明の効果】
【0028】
本発明に係る光注入同期型局発光源において、位相シフトを用いないDFB-LDからなる局発レーザの両端に配置する反射部は、光基準信号が光注入される側に低反射率膜を、前記低反射率膜側の対向側に高反射率膜を有することを特徴としており、このような非対称な反射部構造により活性層内の光電力密度を非対称に分布させることで、グレーティングの中央に位相シフト部を用いないDFB-LDであっても、従来のDFB-LDが持つ2つの共振周波数に対し利得差を与え、高利得側の共振周波数にて高出力な単一モード発振を実現している。またグレーティングの結合係数kと共振器長Lの積kLを0.8~1.2に設計し、局発レーザが単一モードで発振する条件下においては、局発レーザの利得を最大化することで、光注入される光基準信号の強度が微弱であったとしても光位相同期を可能にすることを特徴としている。さらに、共振器長Lを短く設計することで、広いロッキングレンジが得られる。このように、前記局発レーザの共振器長Lを短くしつつ、グレーティングの結合係数kと共振器長Lの積kLを0.8~1.2に設計することで、光基準信号の偏波軸を制御することなく連続的で安定的な光注入同期特性が得られる。したがって、本発明に係る光注入同期型局発光源を用いることにより簡便な構成で且つ経済性の高いコヒーレント受信回路を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本発明の実施形態における光注入同期型局発光源を用いたコヒーレント受信回路を示すブロック構成図である。
【
図2】代表的な各種LDの基本構成を示す模式図である。(a)ファブリー・ペロー型LD、(b)一般的なλ/4シフトDFB-LD、(c)外部共振型LD
【
図3】位相シフトを用いないDFB-LDの出力電力特性の一例である。(a)kLに対するスロープ効率および最大出力電力(L = 400 μm)、(b)Lを変化させた場合の駆動電流に対するファイバ結合光電力(kL ~1)
【
図4】各種LDのロッキングレンジ特性の実測例である。(a)ファブリー・ペロー型LD、(b)一般的なλ/4シフトDFB-LD、(c)外部共振型LD、(d)位相シフトを用いないDFB-LD
【
図5】2種類のDFB-LDを局発レーザとして用いた場合の光基準信号の偏波状態に対する光注入同期特性である。(a)一般的なλ/4シフトDFB-LD、(b)位相シフトを用いないDFB-LD
【
図6】位相シフトを用いないDFB-LDの駆動電流を高めたときのロッキングレンジ特性の変化を示す図面である。(a)駆動電流70 mA、(b)駆動電流150 mA
【発明を実施するための形態】
【0030】
(本発明の実施形態)
本発明の実施形態における光注入同期型局発光源を用いたコヒーレント受信回路を
図1に示す。本実施形態における、局発レーザ1は、両端にそれぞれ異なる反射率の反射部を有し、かつグレーティングの中央に位相シフト部を用いないDFB-LDであって、前記反射部は光基準信号が光注入される側が低反射率膜であり、前記低反射率膜側の対向側が高反射率膜であることを特徴とする。BBUでは無線信号をパイロットトーン信号(PT: Pilot Tone)とともに光波に重畳したベースバンド信号光を生成し、光ファイバを介してRRHにベースバンド信号光を出力する。RRHでは光ファイバを介して伝送されたベースバンド信号光を、波長選択カプラ2を用いてデータ信号光とPTの二手に分離する。PTは局発レーザの光注入同期動作時の光基準信号として使用され、光サーキュレータ3を介して光注入電力が-40 dBm以上のTE偏波成分を有する光波として局発レーザ1へ光注入される。局発レーザ1は光注入電力が-30 dBmといった微弱なTE偏波でも安定的な光注入同期特性を示し、局発レーザ1から出力された局発光はサーキュレータ3を介してコヒーレント受信器4へと高出力なTE偏波として入力される。一方、波長選択カプラ2により分離されたデータ信号光はそのままコヒーレント受信器4へ入力され、局発光とともにヘテロダイン検波される。ここで、コヒーレント受信器4は、従来の90°ハイブリッド素子とバランス型光検出器から成る一般的な光受信器である。
【0031】
本実施形態においては、局発レーザ1に前記位相シフトを用いないDFB-LDを用いることが重要である。このことを明確にするために、光注入同期特性の観点で、他の代表的な各種LDの特徴について述べる。
図2に各種LDの構造を模式的に示す。
図2(a)に示すFP-LDは共振器構造が最も単純なLDである。一般に、FP-LDの端部の片側は高反射率の反射部であり、その対向側は低反射率の反射部であることから、FP-LDは前記低反射率の反射部側からのみ発振光を出力し、FP-LDからの出力光は低反射率の反射部側に配置されたレンズと光ファイバを介して取り出される。単純な構造であるため共振器内での損失が低く、共振器長Lが200 μm~300 μm程度と短い場合にも数10 mWの高い出力光電力が得られ、さらに、共振器長Lが短いことから広いロッキングレンジが得られる利点を有する。
【0032】
しかしながら、FP-LDは共振器内に波長選択構造を有しないため多モード発振が発生する。FP-LDの発振スペクトルの一例を
図2(a)中に示しているが、一般に10以上の複数モードで発振し、このときFP-LDの利得が各発振モードに分配されている状態にある。したがって、FP-LDにおける注入同期動作による位相同期では、単一モードで発振する位相シフトを用いないDFB-LDと比べ10倍以上の光注入電力が必要となる。このように、FP-LDにおいては光基準信号に対する感度が課題となり、光注入同期動作の偏波無依存化には向いていない。
【0033】
図2(b)に示すλ/4シフトDFB-LDは、両端にそれぞれ同一の反射率を有する低反射部を有し、かつグレーティングの中央に発振光の波長λの1/4にあたる分だけの位相シフト部を用いることで、共振器内に波長選択性を持たせて単一モードでの発振を実現している。グレーティングの周期Λで決まるブラッグ波長λ
B = 2nΛの周波数を有する光に対しグレーティングは反射器として働く。このブラッグ波長でλ/4シフトDFB-LDを発振させるためには、反射した光をもう一度反射させ、共振器内に光を閉じ込める必要がある。これを実現するためにグレーティングの中央に発振光の波長λの1/4の位相シフト領域(Λ/2の長さ)を導入している。
図2(b)の下部のグラフにグレーティングの結合係数kと共振器長L(グレーティング長)の積kLが2におけるグレーティングの反射特性を示しており、横軸にブラッグ条件からの位相不整合量δβ・L(δβ=2π/λ-2π/λ
B)と縦軸に反射率の関係を示している(非特許文献3参照)。実線と破線はそれぞれグレーティングの中央に位相シフトを設けない場合とΛ/2の位相シフトを与えた場合の反射特性に対応している。反射率がゼロの条件においては、光波は完全透過し、強い共振が起きていることを示す。実線で示す位相シフトを設けないグレーティングではブラッグ波長において反射率が最大を示し、前記ブラッグ波長では共振は起こらず、β・L = ±4付近の2つの波長で共振が起こる。一方、破線で示すグレーティングではブラッグ波長で完全透過となり、この波長で共振が起こる。このように、位相シフトを設けたλ/4シフトDFB-LDは、両端の反射部の反射率を低減させ、グレーティング部で生じる反射を利用して単一モードで発振させており、極めて安定な単一モードでの発振が得られる利点を有するが、LDの両端から半分ずつの発振光が出力されることから、得られる出力光電力は半減する。そのため所望の出力光電力を得るために共振器長Lを比較的長くする必要がある。例えば数10 mWの出力光電力を得るためには共振器長Lが1000 μm程度になる。このように共振器長Lを大きくすることにより式(1)で与えられるロッキングレンジが狭くなってしまう。
【0034】
単一モードでの発振を実現する他の代表的なLDとして
図2(c)に示す外部共振型LDがある。外部共振型LDにおいてはLDの外部に波長選択用の平面光導波路部を設け、単一モードでの発振を実現している。
図2(c)中において前記平面光導波路部としてブラッグ反射器を用いた例を示しているが、誘電体多層膜やリング共振器を用いた反射器を用いても良い。一般に、共振器長Lを数mmと長くすることで共振器のQ値を高め、これにより発振光の狭線幅化を図っている。そのため外部共振型LDはコヒーレント検波に用いる局発光源として広く利用されている。しかしながら、外部共振型LDはその共振器長Lが長いために式(1)で与えられるロッキングレンジは狭く、光注入同期を利用した局発レーザとしては不向きである。
【0035】
一方、
図1に示した位相シフトを用いないDFB-LDである局発レーザ1は、両端にそれぞれ異なる反射率の反射部を有し、かつグレーティングの中央に位相シフト部を用いないDFB-LDであって、前記反射部は光基準信号の入力側が低反射率膜であり、前記低反射率膜側の対向側が高反射率膜であることを特徴とする。これにより活性層内の光電力密度を非対称に分布させ、
図2(b)で述べた従来のDFB-LD特有の2つの共振周波数に対する利得に差を生じさせることで、高い利得を有する周波数での単一モード発振を実現している。また低反射率膜を施した端面からのみ出力光を取り出すことができる。
図3に前記位相シフトを用いないDFB-LDの出力光電力特性の一例を示す(非特許文献4参照)。
図3(a)にグレーティングの結合係数kと共振器長Lの積kLを変化させたときの駆動電流に対する出力光の光電力のスロープ効率および最大出力光電力の測定値を示している。ここでの共振器長Lは400 μmで設計されている。kLが大きくなると共振器内部での帰還率が上がり、光出力効率の減少がみられる。一方、kLを1よりも小さくすると2つの共振周波数で同時に発振してしまう。したがって、単一モード発振を保ちながら出力光電力を最大にするためのkLの最適値は1に漸近していることが望ましい。
【0036】
図3(b)は前記位相シフトを用いないDFB-LDのグレーティングの結合係数kと共振器長Lの積kLを1に保ちながら、共振器長Lを400 μm、600 μm、および800 μmと変化させた場合の駆動電流に対するファイバ結合光電力の関係を示している。ここで、ファイバ結合光電力は位相シフトを用いないDFB-LDからの出力光が光ファイバを通過し、光ファイバの端部から出力される光の光電力により定義される。このとき、ファイバ結合光電力は駆動電流に比例して増加する傾向にあるが、ある一定の駆動電流で飽和する。飽和時のLDの駆動電流値は共振器長Lと比例する関係にあり、これは共振器長Lが長くなることでLDの表面積が広くなり、それに伴い放熱効果が増強されたことに起因する。また、共振器長L=400 μmのとき、80 mW以上のファイバ結合光電力が得られている。
図3(b)によれば、コヒーレント受信回路において局発レーザに40 mW(+16 dBm)の出力光電力が求められると仮定すると、位相シフトを用いないDFB-LDの共振器長Lを200 μmまで短くした場合にもその仕様を満たすことができる。このように、用途に合った出力光電力を得るために必要最小限の共振器長Lに設計し、共振器のQ値を最小化することによりロッキングレンジの広域化を図ることができる。ここで、位相シフトを用いないDFB-LDは、同様な小型共振器でかつ高出力が得られるFP-LDとは異なり、単一モードでの発振動作をする。そのため、位相シフトを用いないDFB-LDでは広いロッキングレンジが得られるだけでなく、それと同時に光注入される光基準信号に対して高い感度が得られることが特徴である。
【0037】
以上のように、光注入同期を利用した局発レーザとしては、位相シフトを用いないDFB-LDが適している。このことを実証するために、各種LDの光注入同期特性を測定し、そのロッキングレンジ特性を比較した結果を
図4に示す。
図4(a)~(d)はそれぞれ(a)FP-LD、(b)一般的なλ/4シフトDFB-LD、(c)外部共振型LD、および(d)位相シフトを用いないDFB-LDのロッキングレンジ特性に対応している。各LDの共振器長Lはそれぞれ250μm、1000μm、2100μmおよび400μmである。図の横軸はLDの発振偏波軸(TE偏波軸)に揃えてTE偏波成分の光注入電力としており、LDに光注入される光基準信号のTE偏波成分の光電力で定義される。縦軸は光注入同期前のLDの発振周波数とLDに注入される光基準信号との離調周波数Δfである。斜線でハッチングした部分は安定的に光注入同期特性が得られ位相同期動作が保たれる安定領域に対応し、光注入電力を高めるほどロッキングレンジが広がる様子を示している。しかしながら、光注入電力を高めていくとLD内の緩和振動のダンピングが弱まり、ある閾値を超えると緩和振動周波数で強度揺らぎが発生し動作が不安定になる。
図4(a)~(d)中のグレーでハッチングされた領域は前記不安定領域に対応している。
【0038】
図4(a)~(d)中の離調周波数Δfがゼロにおいて、安定的に光注入同期特性が得られ位相同期動作が保たれる光注入電力の最小値に着目すると、FP-LD(
図4(a))はその値が-29 dBmであり、他の3つのLD(
図4(b)~(d))と比べ光注入電力に対する感度が10 dB以上劣っていることがわかる。これはFP-LDが波長選択構造を有しないために複数のモードで発振していることに起因する。
【0039】
つぎにロッキングレンジに着目すると、λ/4シフトDFB-LD(
図4(b))および外部共振型LD(
図4(c))では、例えば光注入電力が-10 dBmにおいて、それぞれ3.5 GHzおよび0.45 GHzであった。これに対し、共振器長Lが比較的短いFP-LD(
図4(a))および位相シフトを用いないDFB-LD(
図4(d))では、8 GHz前後のロッキングレンジが得られている。
【0040】
つまり、Δf=0において光注入同期により安定的な注入同期特性が得られ位相同期動作が保たれる光注入電力の範囲と、光注入電力が-10 dBmにおけるロッキングレンジの積が大きいほど光注入同期を利用した局発レーザとして適したLDであるといえる。そこで、Δf=0において安定的な光注入同期特性が得られ位相同期動作が保たれる光注入電力の範囲ΔP
Δf=0と光注入電力が-10 dBmの時におけるロッキングレンジΔω
-10dBmの積ΔP
Δf=0・Δω
-10dBmを比較した結果を
図4中に示す。ΔP
Δf=0・Δω
-10dBmの積は
図4(d)の位相シフトを用いないDFB-LDが最も大きい値(365.7dB・GHz)を示しており、(a)FP-LD、(b)一般的なλ/4シフトDFB-LD、(c)外部共振型LD、および(d)位相シフトを用いないDFB-LDの中では(d)位相シフトを用いないDFB-LDが光注入同期を利用した局発レーザとして適していることがわかる。
【0041】
光基準信号に光注入同期したLDからの出力光をコヒーレント検波に応用する際、データ信号光とともにBBUからRRHに伝送されてくる光基準信号の偏波状態に依らず連続的で安定的な光注入同期特性が得られ位相同期動作が保たれることが求められる。言い換えると、局発レーザに注入される光基準信号に含まれるTE偏波成分の光電力が微弱な場合であっても、光注入同期による位相同期動作が保たれ続けることが重要である。ここで、一般的には、コヒーレント光伝送システムにおけるBBU側の光源として用いられるLDからの出力光の偏波消光比は約30 dB程度である。そのため、例えば、BBU側の光源であるLDから作り出された光基準信号の光電力が0 dBm(1 mW)の出力光であり、前記光基準信号が光ファイバ伝送路を介して偏波状態がランダムに変化しながらRRHに伝送されたとしても、局発レーザに注入される光基準信号のTE偏波成分は-30 dBm以上となる関係にある。したがって、実際にはΔf=0であれば、光基準信号の光電力は
図4に示す光注入同期動作の安定領域内に設定される。例えば、
図4(d)に示す位相シフトのないDFB-LDを局発レーザとして用いる場合は、光基準信号の生成時における光電力を、位相シフトのないDFB-LDの安定領域の上限である-3 dBm付近に設定することが望ましい。この場合、光基準信号が局発レーザに注入される直前のTE偏波成分は-33 dBm以上ということになるが、これに対し安定領域の下限は-42 dBmと9 dB低い関係にある。すなわち、離調周波数Δfが許容範囲内に収まっていれば、位相シフトのないDFB-LDに注入される光基準信号の偏波状態に依らずに常に安定な光位相同期動作が実現できる。この時、許容範囲は光注入電力が-33 dBmの時のロッキングレンジに値する。つまり、位相シフトのないDFB-LDを局発レーザとして用いれば光基準信号の偏波軸の制御を必要とせず最も簡単に安定的な位相同期動作が保たれ続ける局発光源が実現できることを示している。
【0042】
以上のことを確認するために
図4(b)及び(d)に対応した2種類のDFB-LDを局発レーザとして用いた場合において、局発レーザに光注入される光基準信号のTE偏波成分の光電力、ならびに、前記局発レーザの発振周波数と光基準信号の周波数との離調周波数Δfを変化させながら光位相同期動作の有無を評価した結果を
図5に示す。本評価においては、局発レーザの光注入側に偏波コントローラとTE偏波軸に合わせた偏光子を配置し、局発レーザへ光注入される光基準信号のTE偏波成分の光電力を変化させている。ここでTE偏波成分が100 %となるときの光電力が
図4に示す安定領域を超えるような光注入電力とならないように光基準信号の光電力を設定している。また、局発レーザの共振器の温度を制御することにより局発レーザの発振周波数を変調し、Δfを変化させている。
図5の横軸は局発レーザに光注入される光基準信号に含まれるTE偏波成分に値する光電力に値し、縦軸はΔfに対応している。
図5(a)に示すλ/4シフトDFB-LDを局発レーザに用いた場合、Δfがゼロに漸近した場合に限り、光基準信号の偏波状態に依らず安定的な光注入同期特性が得られ位相同期動作を保つことができた。しかし、このような離調周波数Δfがゼロに漸近している状態を保つためには厳密な光周波数制御機構が必要となるため現実的ではない。
【0043】
一方、
図5(b)に示す位相シフトを用いないDFB-LDを局発レーザとして用いた場合、離調周波数Δfが200 MHz以内において光基準信号の偏波状態に依らず安定的な位相同期特性が得られ位相同期特性を保つことができた。離調周波数Δfを200 MHz以内の状態に保つような制御は一般的なLDの温度制御機構を用いれば容易に実現できる。
【0044】
図4(a)および(c)に示すFP-LDと外部共振型LDに関しては、光注入される光基準信号のTE偏波成分の光電力が小さい場合(例えば-30 dBm以下)において、ロッキングレンジは100 MHz未満であることより、FP-LD及び外部共振型LDを局発レーザとして用いる場合には離調周波数Δfをゼロに漸近するように設定する必要があり、一般的なλ/4シフトDFB-LDを局発レーザに用いる場合と同様に現実的ではない。
【0045】
以上により、位相シフトを用いないDFB-LDは光注入同期を利用した局発レーザとして最適である。
【0046】
最後に、ロッキングレンジの拡大を図る手法について述べる。一般的に、LDの駆動電流を高めるほど緩和振動のダンピング係数が増大することが知られている。すなわち局発レーザの駆動電流を最大限に高めることにより、
図4に示した不安定領域が高光注入電力側へシフトし、ΔP
Δf=0を大きくすることができる。
図6に位相シフトを用いないDFB-LDの駆動電流を高めた際のロッキングレンジの変化の様子を示す。
図6(a)は駆動電流を70 mAに設定した場合(
図4(d)に対応)、
図6(b)は定格の150 mAまで高めた場合に対応している。
図6によれば、位相シフトを用いないDFB-LDの駆動電流を70 mAから150 mAへ高めることで不安定領域が狭まり、安定領域の上限が-3 dBmから2 dBmへ5 dB増大した。このときΔP
Δf=0は38.5 dBから42.0 dBまで向上したことから、光基準信号の生成時の光電力を2 dBmまで高めることができ、それに伴い局発レーザに光注入同期する光基準信号のTE偏波成分の最小値も-28 dBmまで高められることを示している。したがって、前記TE偏波成分が最小値となる条件におけるロッキングレンジは200 MHzから400 MHzに倍増した。
【0047】
局発レーザの駆動電流の上限を高めるためには、駆動電流に比例するはずの出力光電力を飽和させてしまう主要因である前記局発レーザの共振器の熱を除去することが有効である。つまり、前記共振器の放熱機構を増強し、最大駆動電流を向上させることがロッキングレンジの拡大に有効である。放熱機構の増強方法は、例えば、放熱フィンを設けた熱容量の大きな金属板の上に局発レーザを固定する、ファン(空冷)やペルチェ素子で冷却する、といった方法が挙げられる。
【0048】
このように、段落0036および段落0047で述べたように、局発レーザの共振器長Lを200μmまで短くし、さらに、共振器の放熱機構を増強し最大駆動電流を向上させることで、局発レーザに光注入される光基準信号の偏波状態に依らずに安定的な光注入同期特性が得られ光位相同期動作が保たれる範囲(局発レーザの発振周波数と前記光基準信号との離調周波数Δf)を1 GHz付近まで拡大することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0049】
上述したように、本発明によれば、コヒーレント検波に応用される局発光源を構成する局発レーザに光注入される光基準信号のTE偏波成分の強度に依らず、前記光基準信号の偏波軸の制御が不要な光注入同期光源を実現することができ、例えば、前記局発光源を利用することで簡便で且つ経済性の高いコヒーレント伝送システムを提供することができる。
【符号の説明】
【0050】
1 位相シフトを用いないDFB-LDを用いた局発レーザ
2 波長選択カプラ
3 光サーキュレータ
4 コヒーレント受信器