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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024135720
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20240927BHJP
【FI】
H02M7/48 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023046550
(22)【出願日】2023-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000233273
【氏名又は名称】ミネベアパワーデバイス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 克明
(72)【発明者】
【氏名】紺野 哲豊
(72)【発明者】
【氏名】新井 大夏
(72)【発明者】
【氏名】真壁 貫太
【テーマコード(参考)】
5H770
【Fターム(参考)】
5H770BA01
5H770CA06
5H770DA03
5H770DA41
5H770HA02X
5H770HA06X
5H770HA15X
5H770HA17X
5H770HA19X
5H770JA13X
5H770JA16X
5H770KA01Z
5H770LA04X
5H770QA06
5H770QA27
(57)【要約】
【課題】
スイッチング素子の電流変化率を利用した温度推定の精度を向上した電力変換装置を提供する。
【解決手段】
電力変換装置が、電力変換回路30の一部を構成するスイッチング素子11を内蔵する半導体モジュール10と、スイッチング素子11のターンオン時の電流変化率に比例する測定量を測定する測定部50と、あらかじめ基準温度、電力変換回路30の基準直流入力電圧において測定された基準となる測定量のピークである基準ピーク測定量を記憶する記憶部60と、電力変換回路30の動作中に測定された測定量のピークであるピーク測定量と、基準ピーク測定量とに基づいて、スイッチング素子11の温度を推定する温度推定部70とを有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力変換回路の一部を構成するスイッチング素子を内蔵する半導体モジュールと、
前記スイッチング素子のターンオン時の電流変化率に比例する測定量を測定する測定部と、
あらかじめ基準温度、前記電力変換回路の基準直流入力電圧において測定された基準となる前記測定量のピークである基準ピーク測定量を記憶する記憶部と、
前記電力変換回路の動作中に測定された前記測定量のピークであるピーク測定量と、前記基準ピーク測定量とに基づいて、前記スイッチング素子の温度を推定する温度推定部とを有することを特徴とする電力変換装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記温度推定部は、前記ピーク測定量と前記基準ピーク測定量との比に基づいて、前記スイッチング素子の温度を推定することを特徴とする電力変換装置。
【請求項3】
請求項1において、
前記温度推定部は、前記ピーク測定量と前記基準ピーク測定量との差に基づいて、前記スイッチング素子の温度を推定することを特徴とする電力変換装置。
【請求項4】
請求項1において、
前記測定部は、前記半導体モジュールの内部インダクタンスと結合された相互インダクタンスのループに印加される電圧を測定することを特徴とする電力変換装置。
【請求項5】
請求項1において、
前記測定部は、カットオフ周波数が10MHz~100MHzのローパスフィルタを有することを特徴とする電力変換装置。
【請求項6】
請求項1において、
前記ピーク測定量は、前記測定量を10ns~100nsの幅で平滑化した後のピークであることを特徴とする電力変換装置。
【請求項7】
請求項1において、
前記温度推定部は、前記ピーク測定量と、前記基準ピーク測定量と、前記電力変換回路の直流入力電圧とに基づいて、前記スイッチング素子の温度を推定することを特徴とする電力変換装置。
【請求項8】
請求項1において、
前記ピーク測定量と、前記基準ピーク測定量とに基づいて、前記半導体モジュールの劣化を推定する寿命推定部を有することを特徴とする電力変換装置。
【請求項9】
請求項8において、
前記寿命推定部は、前記ピーク測定量と前記基準ピーク測定量との比が所定の閾値以下である場合に、前記半導体モジュールが劣化していると判断することを特徴とする電力変換装置。
【請求項10】
請求項1において、
前記測定部は、前記半導体モジュールの内部インダクタンスに印加される電圧を測定することを特徴とする電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電力変換装置には、例えばIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)やMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)などのスイッチング素子が用いられる。このスイッチング素子は、定格最高温度を超えると熱暴走などにより破壊してしまう。
【0003】
また、寿命を消耗すると半導体チップの冷却手段との熱的な接続が劣化し、半導体チップの温度が寿命消耗以前よりも高温となる。寿命消耗前には定格最高温度を超えていなかった低い出力電力においても、寿命消耗後には定格最高温度を超過し破壊してしまう。
【0004】
そのため、スイッチング素子の温度を検出することが必要となる。
【0005】
スイッチング素子の温度の検出に関する技術としては、例えば特許文献1のように、ダイオードを温度検出素子として用いて温度を検出する技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005-259753号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1では、温度検出素子であるダイオードを設ける必要があるという問題がある。
【0008】
また、一般的に、スイッチング素子の電流変化率(di/dt)には温度依存性があることが知られている。しかしながら、電流変化率は、デバイス特性のばらつきの影響を受けるという問題があり、電流変化率を用いて高精度に温度を検出することは難しいという問題がある。
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、スイッチング素子の電流変化率を利用した温度推定の精度を向上した電力変換装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記した課題を解決するために、本発明の電力変換装置は、電力変換回路の一部を構成するスイッチング素子を内蔵する半導体モジュールと、前記スイッチング素子のターンオン時の電流変化率に比例する測定量を測定する測定部と、あらかじめ基準温度、前記電力変換回路の基準直流入力電圧において測定された基準となる前記測定量のピークである基準ピーク測定量を記憶する記憶部と、前記電力変換回路の動作中に測定された前記測定量のピークであるピーク測定量と、前記基準ピーク測定量とに基づいて、前記スイッチング素子の温度を推定する温度推定部とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、スイッチング素子の電流変化率を利用した温度推定の精度を向上することができる。
【0012】
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例1の全体構成と電力変換装置の構成とを説明する回路図。
図2】実施例1の基準ピーク測定量を記憶する動作を説明するための回路図。
図3】スイッチング素子のターンオン時の電流と電流変化率の一例を示す波形図。
図4】スイッチング素子のターンオン時の電流と電流変化率の他の例を示す波形図。
図5】ピーク電流変化率の電流依存性を示す図。
図6】ピーク電流変化率の温度依存性を示す図。
図7】ピーク電流変化率の温度依存性の個体差によるばらつきを示す図。
図8】規格化したピーク電流変化率の温度依存性の個体差によるばらつきを示す図。
図9】実施例1の電力変換装置における半導体モジュールと測定部のコイルの配置を説明する斜視図と、対応する回路図を並べた図。
図10】実施例2の全体構成と電力変換装置の構成とを説明する回路図。
図11】実施例2の測定部による測定量を示す波形図。
図12】比較例の測定量を示す波形図。
図13】実施例3の全体構成と電力変換装置の構成とを説明する回路図。
図14】規格化したピーク電流変化率の温度依存性の直流入力電圧によるばらつきを示す図。
図15】規格化したピーク電流変化率の温度依存性を直流入力電圧に基づいて補正した図。
図16】実施例4の電力変換装置における寿命推定部の動作を説明する波形図。
図17】実施例5の全体構成と電力変換装置の構成とを説明する回路図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を用いて本発明の実施例を説明する。各図、各実施例において、同一または類似の構成要素については同じ符号を付け、重複する説明は省略する。
【実施例0015】
図1は、実施例1の全体構成と電力変換装置の構成とを説明する回路図である。
【0016】
実施例1の電力変換装置1は、直流電源2と、モータ3と、上位コントローラ4に接続されている。電力変換装置1は、電力変換回路30を有しており、直流電源2から入力された直流電力を交流電力に変換し、モータ3に出力する。図1では、負荷として三相のモータ3を想定した例を示しているが、図1ではモータ3への入力が三入力あるうちの一入力分のみを抜き出して示している。
【0017】
実施例1の電力変換装置1は、電力変換回路30の一部を構成するスイッチング素子11を内蔵する半導体モジュール10と、制御部40と、駆動部41と、測定部50と、記憶部60と、温度推定部70とを有する。
【0018】
電力変換回路30は、コンデンサ31と、スイッチング素子11と、スイッチング素子11に逆並列に接続されたダイオード12とを有する。図1ではスイッチング素子11としてIGBTを用いた例を示している。なお、これに限られず、スイッチング素子11としてMOSFETを用いてもよい。この場合、ダイオード12として、MOSFETに内蔵されたボディダイオードを用いることができる。
【0019】
高電位側に接続された上アームのスイッチング素子11と低電位側に接続された下アームのスイッチング素子11とが直列に接続されてレグを構成しており、上アームのスイッチング素子11と下アームのスイッチング素子11との接続ノードからモータ3へ交流が出力される。図1では、2つのレグが並列接続された例を示しているが、これに限られず、レグは1つでもよいし、3並列以上であってもよい。なお、図1では、モータ3への残りの二入力分のレグについては図示を省略している。
【0020】
それぞれのスイッチング素子11は、制御部40および駆動部41により所定のタイミングでスイッチング制御される。なお、制御部40は、上位コントローラ4に接続されている。
【0021】
ここで、スイッチング素子11とダイオード12は、半導体モジュール10に内蔵されており、これらは内部インダクタンス13を有する配線で接続されている。ここで、4つのスイッチング素子11を内蔵する半導体モジュール10を用いる場合は、電力変換装置1の全体では3つの半導体モジュール10を有する構成とすればよい。ここでは4つのスイッチング素子11を内蔵する半導体モジュール10を想定した例で説明するが、これに限られない。
【0022】
測定部50は、スイッチング素子11のターンオン時の電流変化率に比例する測定量を測定する。具体的には、測定部50は、半導体モジュール10の内部インダクタンス13と結合された相互インダクタンスのループ52に印加される電圧を測定する。測定部50は、例えば、内部インダクタンス13と結合された相互インダクタンスを形成するコイル51を有する。そして、測定部50は、複数のコイル51を互いにループ状に接続した相互インダクタンスのループ52を有する。さらに、測定部50は、相互インダクタンスのループ52に印加される電圧を測定するアンプ53を有する。ここで、半導体モジュール10の内部に電流Icが流れると、電流Icの電流変化率dIc/dtに比例した電圧が相互インダクタンスのループ52に印加される。この印加された電圧をアンプ53によって検出することで、前述した測定量を測定することができる。なお、相互インダクタンスをMとしたとき、電圧V=M・(dIc/dt)の関係があるので、この式を利用して電圧Vを相互インダクタンスMで割って電流変化率に変換し、これを測定量として用いてもよい。
【0023】
図2は、実施例1の基準ピーク測定量を記憶する動作を説明するための回路図である。
【0024】
記憶部60は、あらかじめ基準温度、電力変換回路30の基準直流入力電圧において測定された基準となる測定量のピークである基準ピーク測定量を記憶する。
【0025】
あらかじめ基準ピーク測定量を測定して記憶する時点では、スイッチング素子11を内蔵する半導体モジュール10は、電力変換装置1として既に組み上がった状態となっており、図1と同じ状態になっている。これにより、電力変換装置1の個体差によるばらつきを含めた基準ピーク測定量とすることができる。なお、直流電源2については図示を省略している。基準ピーク測定量を測定する時点では、電力変換回路30は連続動作をしていないため、スイッチング素子11の接合温度は外気温度になっている。外気温度を基準温度とし、電力変換回路30に基準直流入力電圧を入力した状態で、制御部40および駆動部41により所定のタイミングでスイッチング素子11をスイッチング制御してモータ3に数発の電流パルスを流し、その際に測定部50で測定した測定量のピークを基準ピーク測定量として記憶部60に記憶する。
【0026】
次に、再び図1に戻り、電力変換回路30の動作中にスイッチング素子11の温度を推定する動作について説明する。
【0027】
電力変換装置1の通常の動作中、すなわち、制御部40および駆動部41により所定のタイミングでスイッチング素子11をスイッチング制御して電力変換回路30を動作させた状態で、測定部50は、前述した通り測定量を測定し、温度推定部70に出力する。
【0028】
温度推定部70は、電力変換回路30の動作中に測定された測定量のピークであるピーク測定量と、基準ピーク測定量とに基づいて、スイッチング素子11の温度を推定する。
【0029】
ここで、温度推定部70がピーク測定量と基準ピーク測定量とに基づいてスイッチング素子11の温度を推定できる原理について説明する。
【0030】
図3は、スイッチング素子のターンオン時の電流と電流変化率の一例を示す波形図である。図4は、スイッチング素子のターンオン時の電流と電流変化率の他の例を示す波形図である。図3および図4において、横軸は時刻t[μs]、左側の縦軸は電流Ic[A]、右側の縦軸は電流変化率dIc/dt[A/ns]である。
【0031】
図3および図4は、温度が25℃、直流入力電圧が1500V、負荷電流が図3は200A、図4は800Aという条件で、スイッチング素子11のターンオン時の電流Icを測定し、電流Icから電流変化率dIc/dtを計算して、両者の波形をグラフに示したものである。図3および図4では、ともに、ターンオン時の電流Icは0Aから上昇し、ピーク値を迎えたのちに減少し、一定値に漸近する。漸近した電流値がモータ3等の負荷に流れている電流に相当する。電流変化率dIc/dtも、一旦ピーク値を迎え、図4では電流Icが上昇している間はほぼ一定値を維持し、図3および図4とも、その後減少して0A/nsとなる。ここで、電流変化率dIc/dtのピーク値であるピーク電流変化率は、負荷電流が200A、800Aの何れにおいても、7.5A/nsとなっている。
【0032】
図5は、ピーク電流変化率の電流依存性を示す図である。図5において、横軸は負荷電流[A]、縦軸はピーク電流変化率(ピークdIc/dt)[A/ns]である。
【0033】
図5は、直流入力電圧が1500Vという条件で、負荷電流とスイッチング素子11の接合温度Tjが変化したときのピーク電流変化率をグラフに示したものである。図5では、上から順に、接合温度Tj=25℃、75℃、100℃、125℃、150℃のグラフを示している。図5に示す通り、ピーク電流変化率には電流依存性がない、もしくは、電流依存性が小さいことがわかる。このように、電力変換装置1の出力電流(負荷電流に相当)が異なってもピーク電流変化率はほぼ変化しないため、ピーク電流変化率に基づいてスイッチング素子11の温度を推定することができる。
【0034】
図6は、ピーク電流変化率の温度依存性を示す図である。図6において、横軸は接合温度Tj[℃]、縦軸はピーク電流変化率(ピークdIc/dt)[A/ns]である。
【0035】
図6に示すように、接合温度Tjが上昇すると、ピーク電流変化率は減少する。したがって、例えば、ピーク電流変化率が5.3A/ns以下になったとき、接合温度Tjが125℃以上になっていると判定することができる。しかしながら、図6のグラフは、個体差によるばらつきがあるため、これが成り立つのは、測定に用いたスイッチング素子11を内蔵する半導体モジュール10が、測定に用いた電力変換装置1として組み上げられた状態に限られる。同一のデバイスであっても、異なる製造ロットや異なる電力変換装置1の構成においてはその限りではない。
【0036】
図7は、ピーク電流変化率の温度依存性の個体差によるばらつきを示す図である。図7において、横軸は接合温度Tj[℃]、縦軸はピーク電流変化率(ピークdIc/dt)[A/ns]である。
【0037】
図7では、図6とは異なる製造ロットの半導体モジュール10を用いて電力変換装置1を構成した場合におけるピーク電流変化率の温度依存性のグラフを、図6に上書きして示している。すべての半導体モジュール10において、接合温度Tjが上昇すると、ピーク電流変化率は減少するという傾向は一致した。しかし、125℃以上となるピーク電流変化率は4.5A/nsから5.7A/nsまでのばらつきがある。ばらつきを考慮して、仮にピーク電流変化率が5.7A/ns以下になったときに接合温度Tjが125℃以上になっている可能性があると判定した場合、最小のピーク電流変化率の特性を示すスイッチング素子11においては、実際の温度が70℃程度であるにもかかわらず125℃になっていると判定してしまう可能性がある。
【0038】
そこで、この個体差によるばらつきの問題を解決するために、ピーク電流変化率を規格化する。
【0039】
図8は、規格化したピーク電流変化率の温度依存性の個体差によるばらつきを示す図である。図8において、横軸は接合温度Tj[℃]、縦軸は規格化したピーク電流変化率(ピークdIc/dt)[%]である。
【0040】
図8では、図7におけるそれぞれのピーク電流変化率を、接合温度Tjが25℃のときのそれぞれのピーク電流変化率で割って規格化したピーク電流変化率をグラフに示している。したがって、接合温度Tjが25℃では100%となっている。図8に示すように、規格化したピーク電流変化率は、個体差によるばらつきが小さいことがわかる。そこで、図8の例では、規格化したピーク電流変化率が70%以下になったときに、接合温度Tjが125℃以上になっていると判定することができる。このように、規格化したピーク電流変化率に基づいてスイッチング素子11の温度を推定することにより、個体差によるばらつきの影響を抑制でき、温度推定の精度を向上させることができる。
【0041】
以上の原理を用いて、ピーク電流変化率と、規格化に用いる基準となるピーク電流変化率(ここでは接合温度Tjが25℃のときのピーク電流変化率)とに基づいて、スイッチング素子11の温度を推定してもよいが、ピーク電流変化率を直接測定するのは困難である。そこで、前述した原理が、電流変化率に比例する測定量でも成り立つことを利用して、本実施例のように、電流変化率に比例する測定量を用いることが望ましい。
【0042】
具体的には、図1に示す測定部50のアンプ53には、電流変化率に比例した電圧が印加されるので、アンプ53はこの電圧を測定量として測定する。温度推定部70は、比較演算器71と、演算器72を有しており、温度推定部70は、比較演算器71において、電力変換回路30の動作中に測定されたピーク測定量を、あらかじめ基準温度、基準直流入力電圧において測定され記憶部60に記憶された基準ピーク測定量で割ることにより、ピーク測定量と基準ピーク測定量との比、すなわち、規格化したピーク測定量を算出し、演算器72は、これに基づいてスイッチング素子11の温度を推定する。例えば、演算器72は、図8のような特性を記憶したルックアップテーブルや図8のような特性を記述した関係式に基づいて、規格化したピーク測定量をスイッチング素子11の接合温度に変換して制御部40に出力する。なお、これに限られず、規格化したピーク測定量が例えば70%などの所定の閾値以下になったときに、接合温度Tjが125℃以上になっていると判定して制御部40に出力するようにしてもよい。
【0043】
制御部40は、推定された温度が例えばあらかじめ設定された動作温度よりも高い温度になっていると判断した場合には、スイッチング素子11のスイッチング周波数を下げるなど、高温動作を緩和するような制御をすることで、温度上昇を抑制する。
【0044】
なお、以上の説明では、温度推定部70が、ピーク測定量と基準ピーク測定量との比に基づいてスイッチング素子11の温度を推定する例を示したが、これに限られず、ピーク測定量と基準ピーク測定量との差に基づいてスイッチング素子11の温度を推定するようにしてもよい。図7において、例えば基準温度を25℃としたときに、どの曲線においても、例えば125℃におけるピーク測定量と25℃における基準ピーク測定量との差は、互いに近い値になるからである。但し、比を用いる場合に比べると個体差によるばらつきの影響は大きくなるので、差よりも比を用いる方が望ましい。
【0045】
また、図1において、記憶部60と温度推定部70を、制御部40とは別の回路により構成してもよいし、例えば制御部40が記憶部60と温度推定部70の機能を兼ねるようにしてもよい。この場合、制御部40を例えばマイコンで構成し、記憶部60をメモリで実現し、温度推定部70をマイコンにおいてプログラムを実行することで実現すればよい。
【0046】
図9は、実施例1の電力変換装置における半導体モジュールと測定部のコイルの配置を説明する斜視図と、対応する回路図を並べた図である。
【0047】
半導体モジュール10は、スイッチング素子11と、ダイオード12と、内部インダクタンス13と、ケース14と、高電位側端子15と、低電位側端子16と、交流端子17と、補助端子18とを有する。なお、スイッチング素子11と、ダイオード12と、内部インダクタンス13は、ケース14の内部に内蔵されているので、斜視図では図示されていない。
【0048】
測定部50は、半導体モジュール10に対して外付けされており、測定部50のコイル51は、半導体モジュール10の高電位側端子15から低電位側端子16までの電流ループと相互インダクタンスを有するカップリングコイルとなっており、高電位側端子15および低電位側端子16の近傍に配置されている。コイル51は配線で接続されて相互インダクタンスのループ52を形成し、アンプ53の検出端子54に接続されている。なお、アンプ53は図示を省略している。本実施例では、ピーク電流変化率が数A/nsであるため、相互インダクタンスのループ52の相互インダクタンスは、例えば2nHに設定されている。
【0049】
以上説明した通り、本実施例の電力変換装置1によれば、スイッチング素子11の電流変化率を利用した温度推定の精度を向上することができる。
【実施例0050】
図10は、実施例2の全体構成と電力変換装置の構成とを説明する回路図である。
【0051】
実施例2は実施例1の変形例であり、実施例1との相違点は、測定部50が、ローパスフィルタ55を有する点である。
【0052】
ローパスフィルタ55は、例えば抵抗とコンデンサとで構成されており、カットオフ周波数が例えば50MHzに設定されている。アンプ53で測定された信号は、50MHz以上の高周波数成分が取り除かれた後に、温度推定部70または記憶部60に入力される。
【0053】
図11は、実施例2の測定部による測定量を示す波形図である。図12は、比較例の測定量を示す波形図である。図11および図12において、横軸は時刻t[μs]、縦軸は測定量[V]である。
【0054】
電力変換装置1は、高密度に実装した構造で高電圧、高電流を扱うために、半導体モジュール10や配線に存在する寄生容量や寄生インダクタンスの影響で高周波数のノイズが重畳する。ローパスフィルタ55がない場合は、図12に示すように、測定量にノイズが多い。これに対して、ローパスフィルタ55を付加した場合は、図11に示すように、測定量のノイズが低減され、S/N比が大幅に改善する。カットオフ周波数としては、例えば10MHz~100MHzとすることが望ましい。
【0055】
なお、図10では、ローパスフィルタ55を抵抗とコンデンサとで構成した例を示したが、これに限られず、ローパスフィルタ55を設けるのに代えて、信号処理によって測定量を20ns以上の幅で平滑化するようにしてもよい。平滑化する幅としては、例えば10ns~100nsとすることが望ましい。
【実施例0056】
図13は、実施例3の全体構成と電力変換装置の構成とを説明する回路図である。
【0057】
実施例3は実施例2の変形例であり、実施例2との相違点は、温度推定部70が、電力変換回路30の直流入力電圧の情報も用いている点である。なお、実施例3の相違点を、実施例1に適用してもよい。
【0058】
本実施例の電力変換装置1は、抵抗80を有し、抵抗80で直流電源2からの入力電圧を分圧して、温度推定部70に入力している。直流電源2からの入力電圧は高電圧であるため、温度推定部70に直接入力することはできないので、抵抗80で分圧して低電圧に変換することで、温度推定部70に入力可能な電圧値に変換している。
【0059】
温度推定部70は、ピーク測定量と、基準ピーク測定量と、電力変換回路30の直流入力電圧とに基づいて、スイッチング素子11の温度を推定する。
【0060】
図14は、規格化したピーク電流変化率の温度依存性の直流入力電圧によるばらつきを示す図である。図14において、横軸と縦軸は図8と同じである。
【0061】
図8では、規格化したピーク電流変化率により個体差によるばらつきを低減できることを示したが、直流入力電圧が±300Vの幅でずれてしまうと、規格化したピーク電流変化率も異なる温度依存性となってしまう。図14では、温度が25℃、直流入力電圧が1500Vのときのピーク電流変化率を用いて、直流入力電圧が1800Vの場合と、直流入力電圧が1200Vの場合のピーク電流変化率を規格化して、図8の直流入力電圧が1500Vの場合のグラフに重ねて図示したものである。図14からわかる通り、規格化したピーク電流変化率は、測定したときの直流入力電圧とは異なる基準直流入力電圧で測定したピーク電流変化率によって規格化してしまうと、特性にずれが生じ、温度の推定の精度が低下してしまうという問題がある。
【0062】
図15は、規格化したピーク電流変化率の温度依存性を直流入力電圧に基づいて補正した図である。図15において、横軸と縦軸は図8と同じである。
【0063】
上記した問題を解決するために、温度推定部70は、直流入力電圧に基づいて規格化したピーク電流変化率を補正する。具体的には、あらかじめ基準温度におけるデバイス特性として直流入力電圧を変化させたときのピーク電流変化率の変化の特性を示すピーク電流変化率の電圧依存性(例えば横軸が直流入力電圧、縦軸がピーク電流変化率のグラフやルックアップテーブル)を測定しておく。そして、例えば直流入力電圧が1800Vのときに基準直流入力電圧である1500Vのときに対してピーク電流変化率がa倍になるとすれば、規格化したピーク電流変化率を1/a倍することによって、図15に示すように一様な電圧依存性に補正することができる。なお、補正の方法としては、これに限られず、例えば図14のグラフを直流入力電圧およびピーク電流変化率の電圧依存性に基づいて上下方向にシフトさせて図15のように補正するようにしてもよい。
【0064】
以上説明した通り、直流入力電圧の情報も用いることで、直流入力電圧が基準直流入力電圧からずれた場合でも温度推定の精度を向上させることができる。
【実施例0065】
実施例4は実施例1の変形例であり、実施例1との相違点は、図示しない寿命推定部を有する点である。なお、実施例4の相違点を、他の実施例に適用してもよい。
【0066】
図16は、実施例4の電力変換装置における寿命推定部の動作を説明する波形図である。図16において、横軸は時刻t[ms]、1段目の縦軸は高電位側端子15に流れる電流I15[A]、2段目の縦軸は低電位側端子16に流れる電流I16[A]、3段目の縦軸は使用開始当初の規格化した電流変化率(dIc/dt)[%]、4段目の縦軸は寿命直前の規格化した電流変化率(dIc/dt)[%]である。
【0067】
図16では、電力変換装置1にてPWM制御によりモータ3を駆動した例を示している。1段目のグラフの高電位側端子15に流れる電流I15と、2段目のグラフの低電位側端子16に流れる電流I16は、PWM制御により間欠した正弦波が流れており、各スイッチング毎に電流値は変化している。
【0068】
3段目のグラフに示す通り、半導体モジュール10の使用開始当初の規格化した電流変化率(dIc/dt)のピークは、△記号で示す大きさであり、ほぼ一定値で、80%程度となっている。なお、電流変化率の規格化は、図8で説明したのと同様に、基準温度におけるピーク電流変化率で規格化している。
【0069】
4段目のグラフに示す通り、半導体モジュール10の寿命直前の規格化した電流変化率(dIc/dt)のピークは、△記号で示す大きさであり、65%程度に低下している。当初100℃程度であったスイッチング素子11の温度が150℃程度まで上昇しているものと推定される。本実施例のスイッチング素子11の定格接合最高温度は150℃であり、これ以上の温度上昇が生じるとデバイスの破壊に至る危険性がある。したがって、実際の運転中にこのような兆候を検出したら、スイッチング素子11が致命的な破壊に至る前に予防的に停止すればよい。
【0070】
そこで、本実施例の電力変換装置1は、ピーク測定量と、基準ピーク測定量とに基づいて、半導体モジュール10の劣化を推定する寿命推定部を有する。この寿命推定部は、例えば、ピーク測定量と基準ピーク測定量との比が所定の閾値以下である場合に、半導体モジュール10が劣化していると判断する。なお、これに限らず、実施例1で説明した通り、比ではなく差を用いるようにしてもよい。また、寿命推定部は、実施例3、図15で説明したように、電力変換回路30の直流入力電圧に基づいて補正するようにしてもよい。
【0071】
寿命推定部による判断結果は、制御部40に送られる。制御部40は、劣化していると判断された場合には、例えば、電力変換装置1の動作を停止したり、劣化していることを上位コントローラ4に通知したりするなどの措置を講ずる。
【0072】
例えば温度推定部70または制御部40が寿命推定部の機能を兼ねるようにしてもよい。
【0073】
以上説明した通り、寿命推定部により劣化を判断することで、スイッチング素子11が致命的な破壊に至る前に予防的な措置を講ずることができる。
【実施例0074】
図17は、実施例5の全体構成と電力変換装置の構成とを説明する回路図である。
【0075】
実施例5は実施例1の変形例であり、実施例1との相違点は、測定部50が相互インダクタンスのループ52を用いずに測定している点である。なお、実施例5の相違点を、他の実施例に適用してもよい。
【0076】
本実施例の測定部50は、半導体モジュール10の内部インダクタンス13に印加される電圧を、スイッチング素子11のターンオン時の電流変化率に比例する測定量として測定する。図17では、右側の下アームのスイッチング素子11のエミッタに接続された内部インダクタンス13に配線56を接続し、アンプ53で電圧を測定している。なお、電位が異なるため、すべての内部インダクタンス13を同時に測定することはできていない。本方式によっても電流変化率を利用した温度推定はできるが、実施例1のように相互インダクタンスのループ52を用いた方式の方がより正確な温度推定ができる。
【0077】
以上、本発明の実施例を説明したが、本発明は実施例に記載された構成に限定されず、本発明の技術的思想の範囲内で種々の変更が可能である。また、各実施例で説明した構成の一部または全部を組み合わせて適用してもよい。
【符号の説明】
【0078】
1 電力変換装置
2 直流電源
3 モータ
4 上位コントローラ
10 半導体モジュール
11 スイッチング素子
12 ダイオード
13 内部インダクタンス
14 ケース
15 高電位側端子
16 低電位側端子
17 交流端子
18 補助端子
30 電力変換回路
31 コンデンサ
40 制御部
41 駆動部
50 測定部
51 コイル
52 相互インダクタンスのループ
53 アンプ
54 検出端子
55 ローパスフィルタ
56 配線
60 記憶部
70 温度推定部
71 比較演算器
72 演算器
80 抵抗
Ic 電流
dIc/dt 電流変化率
Tj 接合温度
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図8
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図10
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図15
図16
図17