(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024135725
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】パイロクロア酸化物粉体
(51)【国際特許分類】
C01G 55/00 20060101AFI20240927BHJP
【FI】
C01G55/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023046557
(22)【出願日】2023-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】503027931
【氏名又は名称】学校法人同志社
(71)【出願人】
【識別番号】000224798
【氏名又は名称】DOWAホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129470
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 高
(72)【発明者】
【氏名】盛満 正嗣
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 王高
(72)【発明者】
【氏名】公文 翔一
【テーマコード(参考)】
4G048
【Fターム(参考)】
4G048AA03
4G048AB02
4G048AC08
4G048AD04
4G048AD06
4G048AE06
4G048AE07
4G048AE08
(57)【要約】
【課題】液状媒体中での分散性向上に有利な粒度分布にコントロールされており、かつ不純物相の混在が顕著に低減されているビスマス-ルテニウム-酸素型パイロクロア酸化物粉体を提供する。
【解決手段】ビスマス-ルテニウム-酸素型パイロクロア酸化物の結晶構造を有し、金属元素としてビスマスおよびルテニウム、またはビスマス、ルテニウムおよびマンガンを含む粒子で構成される粉体であって、レーザー回折・散乱法による体積基準の粒度分布における累積50%粒子径D50が3.0μm以下であり、X線回折パターンにおいて前記パイロクロア酸化物の結晶構造とは異なるビスマス含有相が検出されない、パイロクロア酸化物粉体。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビスマス-ルテニウム-酸素型パイロクロア酸化物の結晶構造を有し、金属元素としてビスマスおよびルテニウム、またはビスマス、ルテニウムおよびマンガンを含む粒子で構成される粉体であって、レーザー回折・散乱法による体積基準の粒度分布における累積50%粒子径D50が3.0μm以下であり、X線回折パターンにおいて前記パイロクロア酸化物の結晶構造とは異なるビスマス含有相が検出されない、パイロクロア酸化物粉体。
【請求項2】
ルテニウムとマンガンの合計量に対するマンガン量の原子割合を表すMn/(Ru+Mn)原子比が0以上0.35以下である、請求項1に記載のパイロクロア酸化物粉体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビスマス(Bi)-ルテニウム(Ru)-酸素(O)型パイロクロア酸化物の結晶構造を有し、その構成金属元素としてビスマスおよびルテニウム、またはビスマス、ルテニウムおよびマンガン(Mn)を含有するパイロクロア酸化物(以下、この種の複合酸化物を「BRO酸化物」と言うことがある。)の粉体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
BRO酸化物は、空気二次電池や水の電気分解による水素製造プロセスなどに用いる正極触媒としての応用が期待される物質である。
【0003】
特許文献1には、マンガンを含有するBRO酸化物触媒が記載されている(請求項1)。マンガンの含有により触媒活性向上などの効果が得られるという。その酸化物触媒の特性評価実験では、原料物質の金属塩を所定割合で含む水溶液にNaOH水溶液を添加し、75℃で酸素を通気しながら24時間撹拌する酸化反応により得られた生成物を乾燥させ、600℃で焼成し、蒸留水を用いて吸引濾過したのち乾燥させる手法により得られた物質が試料として使用されている(段落0027、0041)。段落0027および表2の記載によると、水溶液中への原料物質の配合割合におけるBi/(Ru+Mn)原子比は、0.82(実施例1)、0.93(実施例2、3)、1.00(実施例4~6)と算出される。
【0004】
特許文献2~5には、BRO酸化物触媒およびそれを用いた空気二次電池が記載されている。
特許文献2の開示によると、BRO酸化物の製造過程で形成された副生成物中の金属成分(主にビスマス)が上記電池の充放電サイクルで溶解析出反応を起こして極板上でデンドライト成長し、これが微小短絡を発生させて電池性能や電池寿命を低下させる問題があるという(段落0012)。この副生成物を除去するために(段落0030参照)、特許文献2に開示の製法では、BRO酸化物である焼成物の水洗・乾燥品に、硝酸水溶液に浸漬する酸処理を施している(段落0051~0053)。焼成前の反応に用いる初期の水溶液の調製において、ビスマス含有塩とルテニウム含有塩を同じ濃度となるように投入することが記載されている(段落0051、0077)。
【0005】
特許文献3では、空気二次電池の更なるエネルギー効率の向上や高出力化のために(段落0009参照)、二次熱処理を行って触媒の表面にルテニウム酸化物を形成させる手法を採用している(段落0053~0056)。二次熱処理に供するBRO酸化物の水洗・乾燥品を得る工程では、特許文献2と同様、副生成物を除去するために硝酸水溶液に浸漬する酸処理が施される(段落0052)。特許文献3でも、焼成前の反応に用いる初期の水溶液の調製において、ビスマス含有塩とルテニウム含有塩は同じ濃度となるように投入される(段落0045、0082)。
【0006】
特許文献4に開示のBRO酸化物触媒の製造プロセスにおいても、特許文献2と同様、副生成物を除去するために硝酸水溶液に浸漬する酸処理が施され(段落0041~0043)、焼成前の反応に用いる初期の水溶液の調製においてはビスマス含有塩とルテニウム含有塩は同じ濃度となるように投入される(段落0040、0065)。
【0007】
特許文献5では、空気二次電池の更なるエネルギー効率の向上や高出力化のために(段落0012参照)、粉末状の前駆体に水酸化ナトリウム水溶液を加えて乾燥させたのち、焼成を行う手法を採用している(段落0046~0047)。その製造プロセスにおいても、特許文献2と同様、副生成物を除去するために硝酸水溶液に浸漬する酸処理が施され(段落0041~0043)、焼成前の反応に用いる初期の水溶液の調製においてはビスマス含有塩とルテニウム含有塩は同じ濃度となるように投入される(段落0046、0074)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2020/153401号
【特許文献2】特開2019-179592号公報
【特許文献3】特開2020-80291号公報
【特許文献4】特開2020-126754号公報
【特許文献5】特開2021-99914号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献2~5に記載されるように、BRO酸化物の製造プロセスで生成する、原料金属(ビスマスなど)を含む副生成物は、そのBRO酸化物を触媒として使用した二次電池の性能や寿命を低下させる要因となる。上記のような副生成物が触媒物質中へ残留することを抑制するためには、合成されたBRO酸化物を硝酸水溶液に浸漬するといった酸洗処理に供する必要があった。酸洗処理工程の追加は、環境負荷やBRO酸化物触媒の製造コストを引き上げる要因となる。
【0010】
BRO酸化物を電気化学反応に係る触媒用途として利用するためには、多くの場合、BRO酸化物の粉体製品を所定の液状媒体中に分散させて懸濁液やペーストを作り、導電体上に担持する工程を経る。このときBRO酸化物は電気化学反応に係る物質(電解液や酸素ガスなど)と接触することで触媒活性を示しうる。そのため、それらの物質との接触面積が大きい程より高い触媒活性を示すことが期待されることから、BRO酸化物の比表面積は大きい方が好ましい。BRO酸化物の粉体粒子は通常、多くの一次粒子が凝集した二次粒子として存在する。一般的に、粉体粒子の比表面積を向上させる手法の一つとして、粉体粒子の粒子サイズ(二次粒子径)を低減することが有効である。また、二次粒子径を低減することは、液状媒体中でのBRO酸化物の分散安定性(液用媒体を静置したとき、粒子が小さいほど沈降せずに分散状態を維持する)につながることも期待されるため、製造上も有利となる。
【0011】
従来、BRO酸化物を最終的に分散処理によって、例えば平均粒子径がサブミクロンオーダーであるような微細な粒子からなる粉体製品に仕上げることは、特許文献1~5の例から分かるように、一般的に行われていない。最終的な分散処理によって上述のような副生成物がどのような残留挙動を示すのかについても知られていない。
本発明は、液状媒体中での分散性向上に有利な粒度分布にコントロールされており、かつ不純物相の混在が顕著に低減されているBRO酸化物粉体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
発明者らの研究によれば、湿式での酸化反応で形成させた前駆体を焼成する従来一般的なプロセスで合成したBRO酸化物に最終的な分散処理を施して粉体粒子を微細化すると、その分散処理前には見られなかったビスマスを含む不純物相(主としてビスマスの塩基性炭酸塩)の存在が顕在化するようになることがわかった。ビスマスの塩基性炭酸塩は、焼成温度より低温で熱分解するので焼成後のBRO酸化物粉体には存在していないと考えられることから、分散処理後に顕在化した不純物相は、一次粒子の間に存在していた余剰ビスマス成分(水酸化ビスマス、酸化ビスマスなど)が分散処理時に表面に露出して大気中の二酸化炭素と反応することで炭酸塩として生成したものと推察された。このような余剰ビスマス成分が触媒表面に存在すると、電気化学反応に係る物質の移動を妨げるため触媒活性を損なうことがある。そこで発明者らは詳細な検討の結果、原料として使用するビスマスの原子割合を、ルテニウムとマンガンの合計原子数に対して等量よりもわずかに低減させることによって、分散処理後に、ビスマスを含む不純物相の顕在化を顕著に防止することができることを見出した。なお、特許文献1では、原料として使用するビスマスの原子割合を、ルテニウムとマンガンの合計原子数に対して0.82~1.00の範囲で実施している(前述)。しかし、最終的な分散処理による微細化仕上げを行っておらず、微細化と不純物相形成防止の両立を図る手法は特許文献1から教示されない。
【0013】
上記目的は、以下の発明によって達成される。
[1]ビスマス-ルテニウム-酸素型パイロクロア酸化物の結晶構造を有し、金属元素としてビスマスおよびルテニウム、またはビスマス、ルテニウムおよびマンガンを含む粒子で構成される粉体であって、レーザー回折・散乱法による体積基準の粒度分布における累積50%粒子径D50が3.0μm以下であり、X線回折パターンにおいて前記パイロクロア酸化物の結晶構造とは異なるビスマス含有相が検出されない、パイロクロア酸化物粉体。
[2]ルテニウムとマンガンの合計量に対するマンガン量の原子割合を表すMn/(Ru+Mn)原子比が0以上0.35以下である、上記[1]に記載のパイロクロア酸化物粉体。
【発明の効果】
【0014】
本発明に従うパイロクロア酸化物粉体は、微細な粒子径にコントロールされているため液状媒体中での触媒活性および分散性の向上に有利であり、かつ不純物相の混在が顕著に低減されているため当該粉体を触媒に用いた二次電池等の装置の性能向上に有利である。本発明のパイロクロア酸化物粉体の製造方法によれば、不純物相を除去するための酸洗工程が不要であるため、環境負荷の増大も抑えられる。また、反応に用いる初期の水溶液1Lあたりにおける金属塩原料の混合量(以下「仕込み濃度」と言うことがある。)を、ラボ実験で従来一般的に実施されている仕込み濃度よりも大幅に増大させることも可能である。したがって本発明は、パイロクロア酸化物粉体の工業的普及に資するものである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】比較例1で得られた分散処理前および分散処理後のBRO酸化物粉体についての粒度分布を例示した図。
【
図2】比較例1で得られた分散処理前および分散処理後のBRO酸化物粉体についてのX線回折パターンを例示した図。
【
図3】
図2の回折パターンをピーク高さ方向に拡大した図。
【
図4】実施例1で得られた分散処理前および分散処理後のBRO酸化物粉体についての粒度分布を例示した図。
【
図5】実施例1で得られた分散処理前および分散処理後のBRO酸化物粉体についてのX線回折パターンを例示した図。
【
図6】
図5の回折パターンをピーク高さ方向に拡大した図。
【
図7】実施例2で得られた分散処理前および分散処理後のBRO酸化物粉体についての粒度分布を例示した図。
【
図8】実施例2で得られた分散処理前および分散処理後のBRO酸化物粉体についてのX線回折パターンを例示した図。
【
図9】
図8の回折パターンをピーク高さ方向に拡大した図。
【
図10】実施例3で得られた湿式分散前および湿式分散後のBRO酸化物粉体についての粒度分布を例示した図。
【
図11】実施例3で得られた湿式分散前および湿式分散後のBRO酸化物粉体についてのX線回折パターンを例示した図。
【
図12】
図11の回折パターンをピーク高さ方向に拡大した図。
【
図13】実施例4で得られた湿式分散前および湿式分散後のBRO酸化物粉体についての粒度分布を例示した図。
【
図14】実施例4で得られた湿式分散前および湿式分散後のBRO酸化物粉体についてのX線回折パターンを例示した図。
【
図15】
図14の回折パターンをピーク高さ方向に拡大した図。
【
図16】Mn/(Ru+Mn)原子比が0.30であるBRO酸化物粉体(比較例2、実施例5、6で得られたもの)について分散処理前のX線回折パターンを例示した図。
【
図17】実施例2で作製した分散処理前および分散処理後のBRO酸化物粉体をそれぞれスラリー状態とした液について、静置開始時点の外観を示す図面代用写真。
【
図18】
図17の液について、15時間静置した時点の外観を示す図面代用写真。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[パイロクロア酸化物]
パイロクロア酸化物の代表的な組成式はA2B2Oxで表され、前記xは7あるいはそれに近い値をとる。「ビスマス-ルテニウム-酸素型パイロクロア酸化物」はAサイトがビスマス(Bi)、Bサイトがルテニウム(Ru)であるパイロクロア酸化物を意味する。本発明で対象とするパイロクロア酸化物(BRO酸化物)は、X線回折パターンにおいて「ビスマス-ルテニウム-酸素型パイロクロア酸化物」の各結晶面からの回折ピークが観測される結晶構造を有する。金属元素としてマンガンを含む場合は、通常、Bサイトを占めるルテニウム原子の一部がマンガン原子に置き換えられた原子配置を呈すると考えられる。また、ビスマス、ルテニウム、マンガン以外の原子が、Aサイトを占めるビスマス原子の一部あるいはBサイトを占めるルテニウム原子の一部を置き換えたり、侵入型位置に入ったりする原子配置を呈する場合も、本発明の効果を阻害しない限り、許容される。例えば製造過程で液中に導入されることがあるナトリウム(Na)原子は、Aサイトを占めるビスマス原子の一部を置き換えたり、侵入型位置に入ったりして結晶格子中に存在することが考えられる。なお、マンガンや上記のナトリウムなどが結晶格子中に存在する場合、純粋な「ビスマス-ルテニウム-酸素型パイロクロア酸化物」に対して結晶面間隔に多少の変動が生じ得る。
【0017】
上述のように、マンガンはBRO酸化物において一部のルテニウムを置換する元素として利用でき、高価なルテニウムを節約する上で有用である。ルテニウムとマンガンの合計量に対するマンガン量の原子割合を表すMn/(Ru+Mn)原子比は0以上0.35以下の範囲で設定することができ、0.3以下に管理してもよい。マンガンを含有させない場合はMn/(Ru+Mn)原子比が0となる。マンガンを含有させる場合はMn/(Ru+Mn)原子比を0.05以上とすることが効果的であり、0.1以上とすることがより効果的である。
【0018】
[粒度分布]
本発明のBRO酸化物粉体は、微小な平均粒子径に粒度分布がコントロールされている。具体的には、レーザー回折・散乱法による体積基準の粒度分布における累積50%粒子径D50が3.0μm以下である。このような平均粒子径の小さいBRO粉体は、液状媒体中での良好な触媒活性および分散維持特性を発揮させる上で有利となる。上記D50は2.0μm以下であることがより好ましく、1.0μm以下であることが更に好ましい。BRO粉体粒子の微細化は、後述するように、例えばビーズミルによる分散処理によって実現できる。過度に微細化を図ることは結晶構造が崩れることによる触媒活性の低下あるいは生産性低下につながる。通常、上記D50は0.05μm以上の範囲で調整すればよい。
【0019】
[不純物相]
BRO酸化物粉体の粒子表面にビスマスを含有する不純物相が存在すると、そのBRO酸化物を触媒に用いた二次電池等の装置の性能向上に障害となる場合がある。本発明のBRO酸化物粉体は、X線回折パターンにおいて「ビスマス-ルテニウム-酸素型パイロクロア酸化物」の結晶構造とは異なるビスマス含有相が検出されないものである。「ビスマス-ルテニウム-酸素型パイロクロア酸化物」の結晶構造とは異なるビスマス含有相の代表的な例としては、ビスマスの塩基性炭酸塩(Bi2O2CO3)が挙げられる。このようなビスマスを含有する不純物相は、分散処理による最終的な微細化によって顕在化しやすい。またこのような不純物相が「ビスマス-ルテニウム-酸素型パイロクロア酸化物」の表面に存在してしまうと触媒活性の低下を招くことが懸念される。後述するように、金属塩含有液調製工程での金属塩原料の配合調整によって上記不純物相の形成を防止することができる。
【0020】
[BRO酸化物粉体の製造方法]
本発明のBRO酸化物粉体は、金属塩含有液調製工程、酸化工程、乾固工程、焼成工程、分散処理工程を上記の順に含む製造プロセスによって得ることができる。
【0021】
[原料溶液調製工程]
原料物質として、ビスマス含有塩(例えば硝酸ビスマス(III)水和物)、ルテニウム含有塩(例えば塩化ルテニウム(III)水和物)を用意する。マンガンを含有させる場合はマンガン含有塩(例えば硝酸マンガン(II)水和物)も用意する。これらを水系溶媒中に混合して金属塩含有液を作る。この初期の金属塩含有液を本明細書では「原料溶液」と呼んでいる。水系溶媒とは水を主成分とする(すなわち水の質量割合が50%以上である)液状媒体である。ビスマス含有塩、ルテニウム含有塩は水に対する溶解度が小さいため、これらを水に混合すると、その大部分は溶解せずに固体として水中に存在し、撹拌するとスラリー状態となる。したがって本発明では、水以外の副成分として分散剤となる有機物質が溶解している水系溶媒を使用することが好ましい。分散剤としては例えば臭化テトラ-n-プロピルアンモニウムを例示することができる。
【0022】
BRO酸化物はAサイトとBサイトの化学量論的な原子比が1:1であるから、ビスマスがAサイトの全部に入り、ルテニウムおよびマンガンがBサイトの全部に入ると仮定すれば、Bi/(Ru+Mn)原子比が1.000となるように原料金属塩を配合したときに、理論上、AサイトおよびBサイトを上記各元素で過不足無く占めるようにすることができる。しかしながら、そのような配合で原料溶液を調製したときには、最終的な分散処理を施すことによってビスマスを含有する不純物相が形成されることがわかった。そこで発明者らは詳細な検討を行った。その結果、原料溶液の調製に際し、Bi/(Ru+Mn)原子比を0.990以下とすることによって前記の不純物相形成の問題を解消することができた。Bi/(Ru+Mn)原子比を低くしすぎると、余剰となるルテニウムの量が多くなり、経済性を損なう。通常、Bi/(Ru+Mn)原子比は0.900以上の範囲で設定すればよく、0.940以上の範囲に管理してもよい。
【0023】
マンガンを含有させる場合、Mn/(Ru+Mn)原子比は0.35以下の範囲で設定することができ、0.3以下に管理してもよい。これらの場合において、Mn/(Ru+Mn)原子比を0.05以上とすることが効果的であり、0.1以上とすることがより効果的である。
【0024】
原料溶液の作製において、金属塩の仕込み濃度(原料や分散剤を含む液1Lあたりに含有される当該金属塩のモル濃度)は、生産性の観点から、原子数としてのビスマス含有量が0.1mol/L以上となるように設定することが好ましく、0.3mol/L以上とすることがより効果的である。金属塩の仕込み濃度が過大になると、後述の酸化工程でのアルカリ添加量が多くなり、その際の発熱を抑制するために設備の冷却負荷が増したりアルカリ添加速度に制約が生じたりする。通常、金属塩の仕込み濃度は原子数としてのビスマス含有量が0.5mol/L以下となるようにすることが好ましい。分散剤を使用する場合、例えば臭化テトラ-n-プロピルアンモニウムであれば、原料溶液中の分散剤濃度は0.05~0.50mol/Lの範囲で調整すればよい。
【0025】
[酸化工程]
上記の原料溶液にアルカリを添加し、液中に酸素を供給しながら酸化反応を進行させ、固体の反応生成物を形成させる。液温は高温であるほど溶解析出反応の進行には有利となる。一方で液温は作業時の安全性を確保する観点からは沸点以下とすることが望ましい。そのため、液温は50~99℃の範囲とすることが好ましい。アルカリとしては例えば水酸化ナトリウムを使用することができる。アルカリの添加量は、液中に混合された金属含有塩(ビスマス含有塩とルテニウム含有塩、ただしマンガン含有塩が混合されている場合はビスマス含有塩とルテニウム含有塩とマンガン含有塩)から供給されるアニオンの全部と反応させるのに必要な量以上とする。アルカリ添加は、液を撹拌しながら、反応槽の冷却能力に応じて液温が上記温度範囲を上回らないように、一挙添加、断続添加、あるいは連続添加によって行う。その後、液温を上記温度範囲に維持して、液中に酸素を液中に供給しながら撹拌を継続する。酸素の供給は、液中への酸素ガスあるいは空気の吹き込み(バブリング)によって行うことができる。このとき溶解析出反応の進行に伴って反応生成物が緩やかに形成される。酸素供給下での撹拌時間は1~72時間とすることが好ましい。酸素の供給は、アルカリ添加の前に開始してもよい。このようにして酸化反応を進行させ、ビスマスとルテニウム、あるいは更にマンガンを含む固体の反応生成物を形成させる。この反応生成物は上記金属のオキシ水酸化物を主体とするものであると考えられる。
【0026】
(ビスマス含有塩、ルテニウム含有塩、マンガン含有塩から供給されるアニオンの全部と反応させるのに必要なアルカリ量の算出方法の例示)
例えばアルカリとしてNaOHを使用する場合、Bi(NO3)3・5H2O:0.95モル、RuCl3・nH2O:0.7モル、Mn(NO3)2・6H2O:0.3モルが混合されている液であれば、Naイオン、NO3イオン、Clイオンはいずれも1価であるから、ビスマス含有塩、ルテニウム含有塩、マンガン含有塩から供給されるアニオンの全部と反応させるのに必要なアルカリ量は、3×0.95+3×0.7+2×0.3=5.55モルとなる。
【0027】
[乾固工程]
上記の酸化反応により生成した反応生成物を回収したのち、乾固させる。反応生成物の回収方法の1態様として、反応生成物が含まれる液を例えば24時間以上静置することにより反応生成物である固形分を沈降させて上澄みを生成させ、その上澄みを除去する手法が挙げられる。必要に応じて遠心分離等による沈降促進操作を加えてもよい。上澄みの除去量は、反応生成物が含まれる液に対する体積比で例えば70%以上とすることが効果的である。乾固は、反応生成物(固形分)を、残存している液体成分とともに、例えば80~140℃の空気に曝すことによって行うことができる。このようにして前駆体物質が形成される。その後、例えば目開き100μmの篩を通過するまで解砕を行ったのち、180~250℃の温度で乾燥させるといった処理に供することもできる。
【0028】
[焼成工程]
得られた前駆体物質を酸化性ガス雰囲気中で加熱することにより焼成し、ビスマス-ルテニウム-酸素型パイロクロア酸化物の結晶構造を有する粒子で構成される酸化物粉体を合成する。焼成温度は400~700℃とし、焼成時間は0.1~12時間の範囲で設定することが好ましい。上記の酸化性ガス雰囲気としては大気圧下の空気が使用できる。
【0029】
従来一般的に、焼成によって合成されたBRO酸化物は、適宜、付着塩を除去するための洗浄や解砕が施され、最終的な粉体製品として各種用途での利用に供される。本発明では、このあと更に、分散処理を行う。
【0030】
[分散処理工程]
焼成工程で合成され、必要に応じて水洗や例えば目開き100μmの篩を通過するまでの解砕が施された酸化物粉体に対して、水系溶媒を用いた分散処理を施す。その手段としてはビーズミルを使用することが好ましい。ビーズには、例えばジルコニア(ZrO2)などのセラミックス球を使用することが好ましい。D50が小さいパイロクロア酸化物粉体を効率よく得る観点から、ビーズの平均粒径は0.03mm以上10mm以下とすることが好ましく、0.1mm以上5mm以下とすることがより好ましい。この分散処理によって粗大な二次粒子を解砕し、微細な二次粒子で構成される粉体を得る。この分散処理は、粒子径を調整することの他、一次粒子の間に残存していた不純物成分(例えばBRO酸化物結晶の形成に余剰となった金属成分や、分散剤および原料由来のナトリウム塩(塩化ナトリウム、臭化ナトリウムなど))を洗い出す作用を有する。余剰なビスマス成分(水酸化ビスマス、酸化ビスマスなど)が存在していると塩基性炭酸塩等の不純物相を生成して、これが分散処理後の粒子の表面に形成するという問題が生じる。本発明では上記の原料溶液調製工程において、ビスマスの原子割合を、ルテニウムとマンガンの合計原子数に対して等量よりもわずかに低減させる配合としていることにより、上記不純物相の形成に関する問題が回避される。この分散処理による粒子の微細化によって、良好な触媒活性と、液状媒体中での良好な分散維持特性が付与される。
【0031】
最終的なBRO酸化物の粒度分布は、上述したように、レーザー回折・散乱法による体積基準の粒度分布における累積50%粒子径D50が3.0μm以下となるようにすることが望ましい。上記D50は2.0μm以下であることがより好ましく、1.0μm以下であることが更に好ましい。通常、上記D50は0.05μm以上の範囲で調整すればよい。このような所望の粒度分布を持つBRO酸化物粉体は、上記分散処理によって直接得ることができるが、必要に応じて分散処理後に分級操作を行って粒度調整することもできる。
【実施例0032】
[比較例1]
(原料溶液調製工程)
容積10Lのセパラブルビーカ(旭製作所製)をマントルヒータ(旭製作所製)にセットし、純水2500gを添加し撹拌しながら75℃に加熱保持した。撹拌にはアンカー羽根を用い撹拌回転数は200rpmとした。そこに分散剤である臭化テトラ-n-プロピルアンモニウム(富士フイルム和光純薬株式会社製)0.521モル(141.5g)を500gの純水に溶解したものを撹拌しながら添加した。さらに硝酸ビスマス(III)五水和物(富士フイルム和光純薬株式会社製)2.083モル(1015g)、塩化ルテニウム(III)n水和物(田中貴金属工業株式会社製)2.083モル(466.3g)をそれぞれ2000gの純水中に均一に混濁したスラリーを作製し添加した。使用した純水の総量は7000gである。
各物質を投入した後、液温75℃で1時間撹拌を行った。硝酸ビスマス(III)五水和物および塩化ルテニウム(III)n水和物は水に対する溶解度が小さいため、75℃においてもそれらの全量を溶解させることはできず、スラリー状の原料溶液が得られた。本例ではマンガン含有塩を混合しておらず、この原料溶液中のBi/(Ru+Mn)原子比=Bi/Ru原子比は1.000となる。また、原料金属塩の仕込み濃度は、原子数としてのビスマス含有量で0.2976mol/Lとなる。
この仕込み濃度は、液体の体積を使用した純水の総量である7Lとして算出した。
【0033】
(酸化工程)
濃度18mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を用意し、上記の原料溶液中に添加した。水酸化ナトリウムの添加量は、硝酸ビスマス(III)五水和物および塩化ルテニウム(III)n水和物から供給されるアニオンの全量と反応させるのに必要なナトリウム量に対し原子割合で1.08倍のナトリウム量が供給される添加量とした。ここでは、過度な昇温が生じないよう、その水酸化ナトリウムの全量を7.5分かけて添加した。温調器により水酸化ナトリウム添加中の液温を概ね75℃に保つことができた。
【0034】
次いで、反応槽の液中に純酸素ガスを吹き込みながら、75℃に維持し、18時間撹拌を継続し、固体の反応生成物を形成させた。純酸素ガスの供給速度は、反応槽中の液1Lあたり常温、大気圧のガス体積として約100mL/minとなるようにした。
【0035】
(乾固工程)
上記で得られた、撹拌を終えた上記反応槽中の液(反応生成物が懸濁したスラリー)を5日間静置したのち上澄みの除去を行い、さらに遠心分離する方法で、最終的に前記の「反応槽中の液」の体積に対し70%以上の量の上澄みを除去し、反応生成物を回収した。回収された反応生成物を、残存する液体成分とともに、120℃の空気中で18時間保持することにより乾固させ、前駆体物質を形成させた。
【0036】
この前駆体物質を粉状に解砕して、目開き100μmの篩で篩分けし、篩上を200℃の空気中で2時間保持することにより乾燥させ、その後、乳鉢でほぐすことにより焼成に供するための前駆体物質とした。
【0037】
(焼成工程)
上記の前駆体物質を600℃の空気中で1時間保持する方法で焼成し、BRO酸化物を合成した。
【0038】
合成されたBRO酸化物を水により撹拌、洗浄することで付着塩を除去した後、吸引濾過して固形分を回収し、その固形分を120℃の空気中で乾燥させ、BRO酸化物粉体を得た。
【0039】
(分散処理工程)
得られたBRO酸化物粉体の300gを、湿式ビーズミル(アイメックス株式会社製、1/2G-SG、ベッセル容量2Lを使用)による分散処理に供した。分散処理の溶媒には水を使用し、湿式分散用のビーズには直径1mmのジルコニア(ZrO2)ビーズを使用した。被処理物であるBRO酸化物粉体300gに対して、溶媒量は約700g、ジルコニアビーズの量は1200gとし、回転数1500rpm、回転半径45mm、先端周速7m/sにて6時間の分散処理処理を行った。処理中は、チラーを用いて容器を冷却することにより、溶媒温度を約25℃に維持した。
分散処理後の液を吸引濾過して固形分を回収し、100℃の空気中で乾燥させ、分散処理により微細化した粒子で構成されるBRO酸化物粉体を得た。
【0040】
(粒度分布の測定)
分散処理前および分散処理後のBRO酸化物粉体について、それぞれ分散剤としてヘキサメタリン酸ナトリウムを重量分率0.2%含む水溶液に添加し、超音波洗浄機(アズワン株式会社製、AUC-06L)を用いた超音波洗浄を5分行った後、湿式レーザー回折式粒度分布測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製、MT3300EX)により、溶媒を水、粉体の屈折率を1.9として、レーザー回折・散乱法による体積基準の粒度分布を測定した。その結果、累積50%粒子径D50は、分散処理前が7.4μm、分散処理後が0.5μmであった。D10、D90を含めた粒度分布測定値は表1に示してある(以下の各例において同じ。)。
【0041】
図1に、本例で得られた分散処理前および分散処理後のBRO酸化物粉体についての粒度分布を例示する。
【0042】
(X線回折パターンの測定)
分散処理前および分散処理後のBRO酸化物粉体について、それぞれX線回折装置(Rigaku製、Ultima IV)により、Cu-Kα線、管電圧40kV、管電流40mA、測定ステップ0.02度、スキャン速度0.5度/minの条件でX線回折パターンを測定した。
【0043】
図2に、本例で得られた分散処理前および分散処理後のBRO酸化物粉体についてのX線回折パターンを例示する。分散処理前にはビスマス-ルテニウム-酸素型パイロクロア酸化物の結晶構造を表す回折ピークの他に、その結晶構造とは異なるビスマス含有相のピークは見られなかった。しかし、分散処理後には
図2中に矢印で示した箇所にBi
2O
2CO
3に起因する回折ピークが認められた。
図3に、
図2の回折パターンをピーク高さ方向に拡大した図を示す。破線で示す回折角2θ位置に、分散処理後には矢印で示す新たな回折ピーク(Bi
2O
2CO
3に起因する回折ピーク)が現れていることが分かる。
本例では、累積50%粒子径D50が3.0μm以下にまで微細化されたパイロクロア酸化物粉体において、ビスマス含有相が検出されないものは実現できなかった。これらの結果を表1に示す(以下の各例において同じ。)。
【0044】
(付着塩量の測定)
分散処理前および分散処理後のBRO酸化物粉体について、付着塩成分の測定を行った。分散剤である臭化テトラ-n-プロピルアンモニウム由来のBr、原料である塩化ルテニウム(III)n水和物由来のClについては、イオンクロマトグラフ(東ソー株式会社製、IC-2100)を用いて測定した。水酸化ナトリウム由来のNaについては、原子吸光光度計(日立ハイテク製、ZA3300)を用いて測定した。測定対象は、BRO酸化物紛体1gに対して超純水50mLを加え、付着成分を液中に抽出後ろ過して得られた液体とした。
付着塩量は、分散処理前においてNaが640ppm、Brが87ppm、Clが103ppm、分散処理後においてNaが160ppm、Brが14ppm、Clが18ppmであった。
【0045】
[実施例1]
原料溶液調製工程において、臭化テトラ-n-プロピルアンモニウム0.521モル、硝酸ビスマス(III)五水和物2.083モル、塩化ルテニウム(III)n水和物2.126モルを混合することによって、原料溶液中のBi/(Ru+Mn)原子比=Bi/Ru原子比を0.980としたことを除き、比較例1と同様の条件でBRO酸化物粉体を作製した。使用した各物質は比較例1と同種の製品である(以下の比較例2において同じ。)。調製したアルカリ添加前の原料溶液における原料金属塩の仕込み濃度は、原子数としてのビスマス含有量で0.2976mol/Lとなる。粒度分布の測定およびX線回折パターンの測定を比較例1と同様の方法で行った。
【0046】
図4に、本例で得られた分散処理前および分散処理後のBRO酸化物粉体についての粒度分布を例示する。累積50%粒子径D50は、分散処理前が7.4μm、分散処理後が0.9μmであった。
図5に、本例で得られた分散処理前および分散処理後のBRO酸化物粉体についてのX線回折パターンを例示する。
図6に、
図5の回折パターンをピーク高さ方向に拡大した図を示す。分散処理後においてもビスマス含有相のピークは見られなかった。
本例では、累積50%粒子径D50が3.0μm以下にまで微細化されたパイロクロア酸化物粉体において、ビスマス含有相が検出されないものを実現することができた。
【0047】
[実施例2]
原料溶液調製工程において、臭化テトラ-n-プロピルアンモニウム0.521モル、硝酸ビスマス(III)五水和物2.083モル、塩化ルテニウム(III)n水和物2.192モルを混合することによって、原料溶液中のBi/(Ru+Mn)原子比=Bi/Ru原子比を0.950としたことを除き、比較例1と同様の条件でBRO酸化物粉体を作製した。調製したアルカリ添加前の原料溶液における原料金属塩の仕込み濃度は、原子数としてのビスマス含有量で0.2976mol/Lとなる。粒度分布の測定およびX線回折パターンの測定を比較例1と同様の方法で行った。
【0048】
図7に、本例で得られた分散処理前および分散処理後のBRO酸化物粉体についての粒度分布を例示する。累積50%粒子径D50は、分散処理前が7.4μm、分散処理後が0.9μmであった。
図8に、本例で得られた分散処理前および分散処理後のBRO酸化物粉体についてのX線回折パターンを例示する。
図9に、
図8の回折パターンをピーク高さ方向に拡大した図を示す。分散処理後においてもビスマス含有相のピークは見られなかった。
本例では、累積50%粒子径D50が3.0μm以下にまで微細化されたパイロクロア酸化物粉体において、ビスマス含有相が検出されないものを実現することができた。
【0049】
[実施例3]
原料溶液調製工程において、臭化テトラ-n-プロピルアンモニウム0.521モル、硝酸ビスマス(III)五水和物2.083モル、塩化ルテニウム(III)n水和物2.314モルを混合することによって、原料溶液中のBi/(Ru+Mn)原子比=Bi/Ru原子比を0.900としたことを除き、比較例1と同様の条件でBRO酸化物粉体を作製した。調製したアルカリ添加前の原料溶液における原料金属塩の仕込み濃度は、原子数としてのビスマス含有量で0.2976mol/Lとなる。粒度分布の測定およびX線回折パターンの測定を比較例1と同様の方法で行った。
【0050】
図10に、本例で得られた分散処理前および分散処理後のBRO酸化物粉体についての粒度分布を例示する。累積50%粒子径D50は、分散処理前が4.9μm、分散処理後が0.5μmであった。
図11に、本例で得られた分散処理前および分散処理後のBRO酸化物粉体についてのX線回折パターンを例示する。
図12に、
図11の回折パターンをピーク高さ方向に拡大した図を示す。分散処理後においてもビスマス含有相のピークは見られなかった。
本例では、累積50%粒子径D50が3.0μm以下にまで微細化されたパイロクロア酸化物粉体において、ビスマス含有相が検出されないものを実現することができた。
【0051】
[実施例4]
原料溶液調製工程において、臭化テトラ-n-プロピルアンモニウム0.521モル、硝酸ビスマス(III)五水和物2.083モル、塩化ルテニウム(III)n水和物2.604モルを混合することによって、原料溶液中のBi/(Ru+Mn)原子比=Bi/Ru原子比を0.800としたことを除き、比較例1と同様の条件でBRO酸化物粉体を作製した。調製したアルカリ添加前の原料溶液における原料金属塩の仕込み濃度は、原子数としてのビスマス含有量で0.2976mol/Lとなる。粒度分布の測定およびX線回折パターンの測定を比較例1と同様の方法で行った。
【0052】
図13に、本例で得られた分散処理前および分散処理後のBRO酸化物粉体についての粒度分布を例示する。累積50%粒子径D50は、分散処理前が4.9μm、分散処理後が0.5μmであった。
図14に、本例で得られた分散処理前および分散処理後のBRO酸化物粉体についてのX線回折パターンを例示する。
図15に、
図14の回折パターンをピーク高さ方向に拡大した図を示す。分散処理後においてもビスマス含有相のピークは見られなかった。
本例では、累積50%粒子径D50が3.0μm以下にまで微細化されたパイロクロア酸化物粉体において、ビスマス含有相が検出されないものを実現することができた。
【0053】
[比較例2]
(原料溶液調製工程)
容積1Lのセパラブルビーカ(旭製作所製)をマントルヒータ(旭製作所製)にセットし、純水150gを添加し撹拌しながら75℃に加熱保持した。撹拌にはアンカー羽根を用い撹拌回転数は300rpmとした。そこに分散剤である臭化テトラ-n-プロピルアンモニウム(富士フイルム和光純薬株式会社製)0.0521モル(14.15g)を50gの純水に溶解したものを撹拌しながら添加した。さらに硝酸ビスマス(III)五水和物(富士フイルム和光純薬株式会社製)0.2083モル(101.5g)、塩化ルテニウム(III)n水和物(田中貴金属工業株式会社製)0.1458モル(32.64g)をそれぞれ200gの純水中に均一に混濁したスラリーを作製し添加した。さらに硝酸マンガン(II)六水和物(富士フイルム和光純薬株式会社製)0.0625モル(17.94g)を純水100gに溶解し添加した。使用した純水の総量は700gである。
各物質を投入した後、液温75℃で1時間撹拌を行った。硝酸ビスマス(III)五水和物および塩化ルテニウム(III)n水和物は水に対する溶解度が小さいため、75℃においてもそれらの全量を溶解させることはできず、スラリー状の原料溶液が得られた。本例ではマンガン含有塩を混合しており、この原料溶液中のBi/(Ru+Mn)原子比は1.000、Mn/(Ru+Mn)原子比は30となる。また、原料金属塩の仕込み濃度は、原子数としてのビスマス含有量で0.2976mol/Lとなる。
この仕込み濃度は、液体の体積を使用した純水の総量である0.7Lとして算出した。
【0054】
(酸化工程)
濃度18mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を用意し、上記の原料溶液中に添加した。水酸化ナトリウムの添加量は、硝酸ビスマス(III)五水和物、塩化ルテニウム(III)n水和物、および硝酸マンガン(II)六水和物から供給されるアニオンの全量と反応させるのに必要なナトリウム量に対し原子割合で1.08倍のナトリウム量が供給される添加量とした。ここでは、過度な昇温が生じないよう、その水酸化ナトリウムの全量を7.5分かけて添加した。温調器により水酸化ナトリウム添加中の液温を概ね75℃に保つことができた。
【0055】
次いで、反応槽の液中に純酸素ガスを吹き込みながら、75℃に維持し、18時間撹拌を継続し、固体の反応生成物を形成させた。純酸素ガスの供給速度は、反応槽中の液1Lあたり常温、大気圧のガス体積として約100mL/minとなるようにした。
【0056】
この反応生成物を用いて、比較例1に記載した「乾固工程」以降の工程を比較例1と同様の方法で行い、BRO酸化物粉体を作製した。粒度分布の測定およびX線回折パターンの測定を比較例1と同様の方法で行った。
【0057】
本例で得られたBRO酸化物粉体の累積50%粒子径D50は、分散処理前において12.2μmであった。
図16に、Mn/(Ru+Mn)原子比が0.30であるBRO酸化物粉体について、原料溶液のBi/(Ru+Mn)原子比を1.000(本例)、0.980(後述実施例5)、0.950(後述実施例6)とした場合の分散処理前におけるX線回折パターンをまとめて例示する。
本例で得られたBRO酸化物粉体では、分散処理前の段階で
図16中に矢印で示した箇所にBi
2O
2CO
3に起因する回折ピークが認められた。
【0058】
[実施例5]
原料溶液調製工程において、臭化テトラ-n-プロピルアンモニウム0.0521モル、硝酸ビスマス(III)五水和物0.2083モル、塩化ルテニウム(III)n水和物0.1488モル、硝酸マンガン(II)六水和物0.0638モルを混合することによって、原料溶液中のBi/(Ru+Mn)原子比を0.980としたことを除き、比較例2と同様の条件でBRO酸化物粉体を作製した。使用した各物質は比較例2と同種の製品である。調製した原料溶液における原料金属塩の仕込み濃度は、原子数としてのビスマス含有量で0.2976mol/Lとなる。粒度分布の測定およびX線回折パターンの測定を比較例1と同様の方法で行った。
【0059】
本例で得られた分散処理後のBRO酸化物粉体についてのX線回折パターンには、分散処理前(
図16参照)と同様、ビスマス含有相のピークは見られなかった。
本例では、累積50%粒子径D50が3.0μm以下にまで微細化されたパイロクロア酸化物粉体において、ビスマス含有相が検出されないものを実現することができた。
【0060】
[実施例6]
原料溶液調製工程において、臭化テトラ-n-プロピルアンモニウム0.0521モル、硝酸ビスマス(III)五水和物0.2083モル、塩化ルテニウム(III)n水和物0.1535モル、硝酸マンガン(II)六水和物0.0658モルを混合することによって、原料溶液中のBi/(Ru+Mn)原子比を0.950としたことを除き、比較例2と同様の条件でBRO酸化物粉体を作製した。調製した原料溶液における原料金属塩の仕込み濃度は、原子数としてのビスマス含有量で0.2976mol/Lとなる。粒度分布の測定およびX線回折パターンの測定を比較例1と同様の方法で行った。
【0061】
本例で得られたBRO酸化物粉体の累積50%粒子径D50は、分散処理前が3.9μm、分散処理後が0.33μmであった。
本例で得られた分散処理後のBRO酸化物粉体についてのX線回折パターンには、分散処理前(
図16参照)と同様、ビスマス含有相のピークは見られなかった。
本例では、累積50%粒子径D50が3.0μm以下にまで微細化されたパイロクロア酸化物粉体において、ビスマス含有相が検出されないものを実現することができた。
【0062】
【0063】
[分散処理の前後におけるBRO酸化物粉体の液中分散性の比較]
実施例2で作製した分散処理前および分散処理後のBRO酸化物粉体について、それぞれ分散剤にヘキサメタリン酸ナトリウムを添加し、超音波洗浄機(アズワン株式会社製、AUC-06L)を用いた超音波洗浄を5分施してスラリー状態とした液を作製し、常温で静置した。
図17に静置開始時点、
図18に15時間静置時点の液の外観写真をそれぞれ例示する。分散処理によって粒子を微細化することにより、BRO酸化物粉体の液中分散性は顕著に向上することが分かる。