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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024135726
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】遮蔽材用水分散体
(51)【国際特許分類】
   C09D 123/30 20060101AFI20240927BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20240927BHJP
   C09D 7/40 20180101ALI20240927BHJP
   C09D 7/65 20180101ALI20240927BHJP
【FI】
C09D123/30
C09D5/02
C09D7/40
C09D7/65
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023046560
(22)【出願日】2023-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000005957
【氏名又は名称】三菱鉛筆株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112335
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 英介
(74)【代理人】
【識別番号】100101144
【弁理士】
【氏名又は名称】神田 正義
(74)【代理人】
【識別番号】100101694
【弁理士】
【氏名又は名称】宮尾 明茂
(74)【代理人】
【識別番号】100124774
【弁理士】
【氏名又は名称】馬場 信幸
(72)【発明者】
【氏名】中田 有亮
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038CB131
4J038EA012
4J038JA20
4J038JA21
4J038KA07
4J038KA08
4J038MA08
4J038MA10
4J038MA13
4J038NA26
4J038PB08
4J038PC08
(57)【要約】      (修正有)
【課題】大きい粒子を配合することなく、黒色顔料を含有する塗膜などの乾燥過程で表面に凹凸を形成し、乱反射させることで、黒く、低光沢な遮光膜、遮蔽膜などの遮蔽材を形成することができる遮蔽材用水分散体及び遮蔽材を提供する。
【解決手段】本発明の遮蔽材用水分散体は、少なくとも、黒色顔料と、イソブチレン・無水マレイン酸共重合物の中和物と、水溶性樹脂及び/又は樹脂エマルジョンと、水とを含むことを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、黒色顔料と、イソブチレン・無水マレイン酸共重合物の中和物と、酸価が240以下の水溶性樹脂及び/又は樹脂エマルジョンと、水とを含むことを特徴とする、遮蔽材用水分散体。
【請求項2】
前記水溶性樹脂及び樹脂エマルジョンにおける樹脂のガラス転移温度(Tg)が140℃以下であることを特徴とする、請求項1記載の遮蔽材用水分散体。
【請求項3】
更に、OH基を2つ以上もつポリオールを含むことを特徴とする、請求項1又は2記載の遮蔽材用水分散体。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の遮蔽材用水分散体を用いたことを特徴とする、遮蔽材。
【請求項5】
前記遮蔽材の表面粗さRaが0.2~2.0μmであることを特徴とする請求項4記載の遮蔽材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、黒く、低光沢な遮光膜、遮蔽膜などの遮蔽材を形成することができる遮蔽材用水分散体などに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、黒色の反射防止塗料や反射防止フィルムなどは、カメラ等の光学機器にとどまらず、メーターなどの発光を伴った表示装置において、周辺部の反射防止や可視光の遮光性を行うことで、視認性などを向上するためにも用いられるようになってきている。また、レンズやプリズム等の光学素子の縁や稜部、コバなどの周辺部に塗布膜を形成し、フレアやゴーストの発生原因となる迷光を吸収するための、光学素子用の内面反射防止黒色塗料などとしても用いられている。その他にも、黒色反射防止塗料などは、その漆黒性から、意匠性を向上させる塗料などとしても注目を集めている。
【0003】
このような遮蔽材用の塗料、樹脂組成物などとしては、例えば、
1)少なくとも金属酸化物、カーボンブラック、バインダ樹脂、分散剤および溶剤と、を含有する光学素子用内面反射防止黒色塗料であって、該金属酸化物は、酸化第二鉄、四酸化三鉄、オキシ水酸化鉄およびジルコニアから選ばれる少なくとも一種であり、pHが3.0以上8.0以下であり、かつ、黒色塗料固形分中に25質量%以上75質量%以下で含有され、該カーボンブラックは、揮発分0.6質量%以上6.0質量%以下、pH3.0以上8.0以下のものであり、かつ、黒色塗料固形分中に2質量%以上20質量%以下で含有され、該分散剤はフタロシアニン化合物と高分子系分散剤とからなり、該フタロシアニン化合物は、カーボンブラックに対して1質量%以上20質量%以下が含有され、かつ、該高分子分散剤は、アミン価5mgKOH/g以上100mgKOH/g以下のものであり、金属酸化物とカーボンブラックの合計に対して5質量%以上40質量%以下で含有されていることを特徴とする光学素子用内面反射防止黒色塗料(例えば、特許文献1参照)
2)少なくとも黒色層を含み、前記黒色層中に含まれる黒色顔料の含有量が、前記黒色層全質量に対して、20~60質量%であり、波長800~1000nmの範囲で選択された少なくとも1つの波長の光における反射率が3.0%以下であり、波長400~750nmにおける透過率が50%以下である、遮光膜(例えば、特許文献2参照)
3)バインダー樹脂、カーボンブラック、疎水化処理された乾式シリカ、粗し粒子および溶剤を含有し、前記粗し粒子は、平均粒子径が10μm以上20μm以下のポリアミド系樹脂粒子であり、前記ポリアミド系樹脂粒子の添加量は、バインダー樹脂100質量部に対し、24質量部以上44質量部以下であり、前記疎水化処理された乾式シリカの添加量は、バインダー樹脂100質量部に対し、14質量部以上であることを特徴とする表面反射防止塗料(例えば、特許文献3参照)などが知られている。
【0004】
しかしながら、上記特許文献1~3に記載の遮蔽材用の塗料、樹脂組成物などにあっては、低光沢塗膜を得るために、1μm以上の粒子を配合することがあり、その場合、粒子の沈降、浮遊により粒子が偏在化し、使用前に十分撹拌されないと品質が安定しないなどの課題が生じることがあり、黒く、低光沢な塗膜などを形成することができる遮蔽材用水分散体が切望されているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9-143410号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【特許文献2】特開2014-105282号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【特許文献3】特開2019-119855号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来技術の課題及び現状などに鑑み、これを解消しようとするものであり、大きい粒子を配合することなく、黒色顔料を含有する塗膜などの乾燥過程で表面に凹凸を形成し、乱反射させることで、黒く、低光沢な遮光膜、遮蔽膜などの遮蔽材を形成することができる遮蔽材用水分散体及び遮蔽材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記従来の課題等に鑑み、鋭意研究を行った結果、少なくとも、黒色顔料と、特定物性の共重合物の中和物と、水溶性樹脂及び/又は樹脂エマルジョンと、水とを含むことにより、上記目的の遮蔽材用水分散体及び遮蔽材が得られることを見出し、本発明を完成するに至ったのである。
【0008】
すなわち、本発明の遮蔽材用水分散体は、少なくとも、黒色顔料と、イソブチレン・無水マレイン酸共重合物の中和物と、酸価が240以下の水溶性樹脂及び/又は樹脂エマルジョンと、水とを含むことを特徴とする。
前記水溶性樹脂及び樹脂エマルジョンにおける樹脂のガラス転移温度(Tg)が140℃以下であることが好ましい。
更に、OH基を2つ以上もつポリオールを含むことが好ましい。
本発明の遮蔽材は、上記構成の遮蔽材用水分散体を用いたことを特徴とする。
前記遮蔽材の表面粗さRaが0.2~2.0μmであることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、大きい粒子を配合することなく、環境に配慮した水系分散体であり、黒色顔料を含有する塗膜などの乾燥過程で表面に凹凸を形成し、乱反射させることで、黒く、再分散性および低光沢性を高度に両立した遮光膜、遮蔽膜などの遮蔽材を形成することができる遮蔽材用水分散体及び遮蔽材が提供される。
本発明の目的及び効果は、特に請求項において指摘される構成要素及び組み合わせを用いることによって認識され且つ得られるものである。上述の一般的な説明及び後述の詳細な説明の両方は、例示的及び説明的なものであり、特許請求の範囲に記載されている本発明を制限するものではない。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の実施形態を詳しく説明する。但し、本発明の技術的範囲は下記で詳述する実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された発明とその均等物に及ぶ点に留意されたい。また、本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識(設計事項、自明事項を含む)に基づいて実施することができる。
【0011】
<遮蔽材用水分散体>
本発明の遮蔽材用水分散体は、少なくとも、黒色顔料と、イソブチレン・無水マレイン酸共重合物の中和物と、酸価が240以下の水溶性樹脂及び/又は樹脂エマルジョンと、水とを含むことを特徴とするものである。
【0012】
<黒色顔料>
本発明に用いる黒色顔料としては、例えば、炭素系黒色顔料、酸化物系黒色顔料の中から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
炭素系黒色顔料としては、例えば、ファーネスブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック、チャンネルブラック等のカーボンブラック、黒雲母、黒鉛粉末、グラファイト粉末、カーボンナノチューブとして市販されているものなどが例示される。
酸化物系黒色顔料としては、例えば、酸化コバルト、四三酸化鉄、酸化第一鉄、酸化マンガン、チタンブラック、酸化クロム、酸化ビスマス、酸化第一錫、酸化第二銅又は銅-鉄-マンガン、アニリンブラック、ペリレンブラック、鉄マンガンビスマスブラック、コバルト鉄クロムブラック、銅クロムマンガンブラック、鉄クロムブラック、マンガンビスマスブラック、マンガンイットリウムブラック、鉄マンガン酸化物スピネルブラック、銅クロマイトスピネルブラック、ヘマタイト、マグネタイト、雲母状酸化鉄、チタンブラック及び鉄を含む金属酸化物、複合金属酸化物などからなる群から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0013】
これらの黒色顔料の中で、遮光性に優れるカーボンブラック、市販品では、三菱化学社製の#5、#10、#20、#25、#30、#32、#33、#40、#44、#45、#47、#52、#85、#95、CF9、MA7、MA8、MA11、MA100、MA220、MA230など、エボニック インダストリーズ社製のPrintex25、35、40、45、55、150T、U、V、P、L6などのPrintexシリーズなどを用いることが好ましく、また、電気的信頼性が向上するペリレンブラック顔料、市販品では、BASF社製ルモゲンブラックシリーズ、パリオゲンブラックシリーズなどを用いることが好ましい。また、遮熱特性に優れるアルミニウムフレーク顔料(黒色干渉アルミニウム顔料)も用いることができる。
【0014】
これらの黒色顔料は、各単独で又は2種以上を混合して(以下、単に「少なくとも1種」という)使用することができる。
また、これらの黒色顔料は、加工性などの性能を損なうことなく、隠蔽性、光学特性、遮光性や光反射性、意匠性などのその他の機能を効果的に発揮せしめる点から、平均粒子径が1μm以下となるものが好ましい。
なお、本発明では、筆記具用インクなどで色材として用いられている黒色の樹脂粒子、例えば、黒色顔料を含有した黒色の樹脂粒子、樹脂エマルションを黒色染料等で着色した樹脂粒子などは、耐光性、光透過性などの点から、本発明には含まれないものである。
【0015】
上記炭素系黒色顔料、酸化物系黒色顔料などの黒色顔料以外の他、本発明の効果を損なわない範囲で、上記黒色顔料の補色などの点から、上記黒色顔料以外の無機顔料、有機顔料や染料を用いることができる。
無機顔料、有機顔料としては、例えば、アゾ顔料、ジスアゾ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロン顔料、イソインドリン顔料、アントラキノン顔料、アントロン顔料、キサンテン顔料、ジケトピロロピロール顔料、アントラキノン(アントロン)顔料、ペリノン顔料、キナクリドン顔料、インジゴチン顔料、ジオキサジン顔料、フタロシアニン顔料、及びアゾメチン顔料等が挙げられる。また、無機顔料としては、例えば、酸化マンガン・アルミナ、酸化クロム・酸化錫、酸化鉄、硫化カドミウム・硫化セレンなどの赤色系、酸化コバルト、ジルコニア・酸化バナジウム、酸化クロム・五酸化二バナジウムなどの青色系、ジルコニウム・珪素・プラセオジム、バナジウム・錫、クロム・チタン・アンチモンなどの黄色系、酸化クロム、コバルト・クロム、アルミナ・クロムなどの緑色系、アルミニウム・マンガン、鉄・珪素・ジルコニウムなどの桃色系などが挙げられる。
用いることができる染料としては、例えば、油溶性染料、酸性染料、直接染料、塩基性染料、媒染染料、又は酸性媒染染料等の各種染料のいずれかの形態を有するものが挙げられる。また、前記染料をレーキ化して用いる場合や、染料と含窒素化合物との造塩化合物等の形態であっても良い。
【0016】
なお、本発明(実施例等含む)において、「平均粒子径」は、レーザー回析または動的光散乱法により測定した値であり、レーザー回折法においては、体積基準により算出されたD50の値であり、この測定は、例えば日機装株式会社の粒子径分布解析装置HRA9320-X100を用いることができ、動的光散乱法を用いた平均粒子径とは、例えば、濃厚系粒径アナライザーFPAR-1000(大塚電子社製)を用いて算出された、散乱強度分布におけるキュムラント法解析の平均粒子径の値である。
【0017】
これらの黒色顔料の(合計)含有量は、遮蔽材用水分散体全量(以下、単に「分散体全量」という)に対して、好ましくは0.5~50質量%、更に好ましくは、2~40質量%、特に好ましくは、5~30質量%とすることが望ましい。
この黒色顔料の含有量を0.5質量%以上とすることにより、塗膜の低光沢性、および凹凸の均一性を発現しより遮蔽性に優れる塗膜の形成を実現とすることができ、一方50質量%以下とすることにより、粘度上昇を抑制し、遮蔽材用水分散体の流動性が良好となるので好ましい。
【0018】
本発明に用いるイソブチレン・無水マレイン酸共重合物の中和物は、イソブチレンと無水マレイン酸の共重合物の中和物であり、本発明においては後述する水溶性樹脂(樹脂エマルジョンを含む)との併用により、黒色顔料を含有する塗膜の低光沢性、凹凸などの均一に形成すると共に、耐擦過性、耐水固着性を良好とする機能を発揮せしめる成分となるものである。
用いるイソブチレン・無水マレイン酸共重合物の中和物において、イソブチレン・無水マレイン酸共重合物の基本構造は下記式(I)で示されるものであり、下記式(II)は、本発明において好ましく用いることができるイソブチレン・無水マレイン酸共重合物のアンモニア中和物(変性物)である。
【0019】
【化1】
【0020】
【化2】
【0021】
本発明では、上記式(II)のアンモニア中和物の他、水酸化ナトリウム中和物、アミン中和物であってもよいものである。また、上記式(I)中のn、(II)中のlとm、下記式(III)中のjとkなどの数値は、後述する重量平均分子量などにより変動し、好適な範囲が定まるものである。
また、本発明では、イソブチレン・無水マレイン酸共重合物をイミド化(イミド変性)した下記式(III)で示されるイミド化イソブチレン・無水マレイン酸共重合物をアンモニア、水酸化ナトリウム、アミンなどで中和した各中和物であってもよいものである。
【化3】
【0022】
上記式(II)、(III)などのイソブチレン・無水マレイン酸共重合物を中和した各中和物の重量平均分子量は、3,000~400,000が好ましく、5,000~200,000が更に好ましく、30,000~100,000、特に好ましくは、50,000~70,000が最も好ましい。この重量平均分子量は、水系ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)分析によるポリスチレン換算の値である。
上記イソブチレン・無水マレイン酸共重合物やその中和物は、市販品を使用することができ、例えば、クラレ社製の「イソバン」等を挙げることができ、例えば、イソバン-04,06,10,18の中和物、イソバン-104,110は上記式(II)におけるイソブチレン・無水マレイン酸共重合物のアンモニア中和物(変性物)の市販品などが挙げられ、更に、イソバン-304,306,310の中和物などが挙げられる。なお、用いるイソブチレン・無水マレイン酸共重合物〔上記式(I)等から〕の中和物を調製する場合は、例えば、イソブチレン・無水マレイン酸共重合物の全てのカルボキシル基が中和された場合、中和度1とし、中和に用いるアンモニア、水酸化ナトリウム、アミンなどの必要量を算出して調製することなどにより各中和物を得ることができる。
【0023】
これらのイソブチレン・無水マレイン酸共重合物の中和物の含有量は、分散体全量に対して、固形分量で0.01~4質量%が好ましく、更に好ましくは、0.05~3質量%、特に好ましくは、0.1~2質量%である。
このイソブチレン・無水マレイン酸共重合物の中和物の含有量が0.01質量%未満であると、塗膜の光沢を抑えきれず 艶感が発生し、低光沢が得られなくなり、一方、4質量%を超えた場合は、粘度が上昇して均一に塗工できない等、膜化の際に悪影響を及ぼすことがある。
【0024】
本発明に用いる水溶性樹脂、樹脂エマルジョンは、定着剤、分散剤、安定化剤として機能するものであり、樹脂の酸価が240以下のものであれば、特に限定されるものでなく、例えば、樹脂の酸価が240以下となるポリアクリル酸、アクリル系樹脂ポリアクリル酸、アクリル系樹脂、水溶性スチレン-アクリル樹脂、水溶性スチレン-マレイン酸樹脂、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、水溶性マレイン酸樹脂、水溶性スチレン樹脂、水溶性エステル-アクリル樹脂、エチレン-マレイン酸共重合体、ポリエチレンオキサイド、水溶性ウレタン樹脂等の分子内に疎水部を持つ水溶性樹脂、また、アクリル系エマルジョン、酢酸ビニル系エマルジョン、ウレタン系エマルジョン、スチレン-ブタジエンエマルジョン、スチレン-アクリロニトリルエマルジョン、シリコーンレジンエマルジョン、シリコーンアクリル共重合体エマルションなどの樹脂エマルジョンなどから選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
なお、酸価の下限は、インクの保存安定性の点から、10以上が望ましい。
上記樹脂の酸価を240以下とすることにより、均一な凹凸となる塗膜を形成することができる。
【0025】
また、上記酸価を240以下の樹脂の質量平均分子量は、2,000以上とすることが好ましく、更に好ましくは、3,000~300,000、特に好ましくは、5,000~200,000が望ましい。この質量平均分子量2,000以上のものを用いることにより、耐擦過性、耐水固着性を更に良好とすることができる。
本発明において、「樹脂の酸価」は、樹脂1gを中和するのに要するKOHのmg数を表し、例えばJIS-K3054に従って測定する値である。
【0026】
上記樹脂の酸価を240以下の水溶性樹脂、樹脂エマルジョンは、市販品を使用することができ、例えば、水溶性樹脂では、BASF 社製のPDX6157(酸価;205)、同JDX6500(酸価;85)、同PDX-6137A 酸価;240、星光PMC社製のM―30(酸価;155)などが使用でき、樹脂エマルジョンでは、BASF社製のPDX―7741(酸価;52)、同PDX―7787(酸価;100)、同PDX―7158(酸価;54)大成ファインケミカル社製のWBR-016(酸価;7)、三井化学エムシー社製のタケラックW-5661(酸価;48)などが使用できる。
【0027】
更に好ましくは、色材の分散性、粘度調整、並びに、定着力向上の点から、用いる水溶性樹脂、樹脂エマルジョンにおいて、樹脂の酸価が240以下のものであり、かつガラス転移温度(Tg)が140℃以下の上記各水溶性樹脂、上記各樹脂エマルジョンの使用が好ましく、更に好ましくは、ガラス転移温度(Tg)が120℃以下、特に好ましくは100℃以下のアクリル系樹脂、水溶性スチレン-アクリル樹脂、スチレンマレイン酸、ウレタン樹脂の水溶性樹脂、または、アクリル系樹脂エマルジョンなどの各樹脂エマルジョンの使用が望ましい。なお、ガラス転移温度(Tg)の下限は、低光沢性や擦過性などの描線品位の点から、―50℃以上が望ましい。
【0028】
上記樹脂の酸価が240以下の水溶性樹脂、樹脂エマルジョンであり、ガラス転移温度(Tg)を140℃以下とすることにより、塗膜表面にひび割れを更に抑制し、遮蔽性、耐擦過性、耐水固着性を更に良好とすることができる。
本発明において、「ガラス転移温度」は、JIS K7121に準じて測定した際のTg、例えば、Rigaku thermo plus evo DSC8230(リガク社製)を用いて測定することができる。
【0029】
上記水溶性樹脂、樹脂エマルジョンは、市販品を使用することができ、例えば、水溶性樹脂では、BASF社製のジョンクリルJDX6500(Tg;65℃)、JDX6180(酸価:230、Tg:134℃)、52J(酸価:238、Tg;56℃)、70J(酸価:240、Tg;102℃)、同PDX-6137A(酸価:240、Tg;102℃)が使用でき、樹脂エマルジョンでは、BASF社製のジョンクリルPDX352D(酸価:51、Tg;52℃)、同PDX7199(酸価:31、Tg;88℃)、PDX7537(酸価:59、Tg;-4℃)、または、星光PMC社製のKE―1062(酸価:149、Tg:96℃)、同PE―1304(酸価:142、Tg;9℃)が使用できる。
【0030】
これらの水溶性樹脂、樹脂エマルジョンの(合計:固形分)含有量は、分散体全量に対して、0.1~20質量%が好ましく、更に好ましくは、0.5~15質量%、特に好ましくは、1~10質量%である。
この水溶性樹脂、樹脂エマルジョンの含有量が0.1質量%未満であると、耐擦過性の低下、遮蔽性の悪化となり、一方、20質量%を超えた場合は、粘度が高くなり、作業性、塗布性の悪化となる。
【0031】
本発明では、更に、塗膜の柔軟性向上の点、塗膜の外観ムラ抑制の点から、OH基を2つ以上もつポリオールを含有することが好ましい。
OH基を2つ以上もつポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、グリセリン、糖アルコールが挙げられ、糖アルコールとしては、例えば、イソマルチトール、マルチトール、ラクチトール等の二糖アルコール、マルトトリイトール、イソマルトトリイトール、パニトール等の三糖アルコール、オリゴ糖アルコール等の四糖以上の糖アルコール、二糖以上の糖アルコールからなる還元澱粉糖化物、還元澱粉分解物などの少なくとも1種が挙げられる。
【0032】
これらのOH基を2つ以上もつポリオールの含有量は、分散体全量に対して、0.05~40質量%が好ましく、更に好ましくは、0.1~30質量%、特に好ましくは、0.5~20質量%である。
このOH基を2つ以上もつポリオールの含有量が0.05質量%未満であると、本発明の更なる効果を発揮することができず、一方、40質量%を超えた場合は、乾燥性が悪化したり、色材や樹脂の溶解性、分散性が不安定となる。
【0033】
本発明の遮蔽材用水分散体には、少なくとも、上述の黒色顔料と、イソブチレン・無水マレイン酸共重合物の中和物と、樹脂の酸価が240以下の水溶性樹脂及び/又は樹脂エマルジョン、好ましく含有されるOH基を2つ以上もつポリオールの他、残部として溶媒である水(水道水、精製水、蒸留水、イオン交換水、純水等)の他、本発明の効果を損なわない範囲で、分散剤、潤滑剤、pH調整剤、防錆剤、防腐剤もしくは防菌剤、増粘剤などを適宜含有することができる。
【0034】
用いることができる分散剤としては、ノニオン、アニオン界面活性剤や水溶性樹脂が用いられる。好ましくは水溶性高分子が用いられる。
潤滑剤としては、顔料の表面処理剤にも用いられる多価アルコールの脂肪酸エステル、糖の高級脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレン高級脂肪酸エステル、アルキル燐酸エステルなどのノニオン系や、高級脂肪酸アミドのアルキルスルホン酸塩、アルキルアリルスルホン酸塩などのアニオン系、ポリアルキレングリコールの誘導体やフッ素系界面活性剤、ポリエーテル変性シリコーンなどが挙げられる。
【0035】
pH調整剤としては、アンモニア、尿素、モノエタノーアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンや、トリポリリン酸ナトリウム、炭酸ナトリウムなとの炭酸やリン酸のアルカリ金属塩、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属の水和物などが挙げられる。また、防錆剤としては、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、ジシクロへキシルアンモニウムナイトライト、サポニン類など、防腐剤もしくは防菌剤としては、フェノール、ナトリウムオマジン、安息香酸ナトリウム、ベンズイミダゾール系化合物などが挙げられる。
増粘剤としては、例えばセルロース誘導体を用いることができ、ヒドロキシアルキルセルロース、カルボキシメチルセルロース(CMC)又はその塩、発酵セルロース、結晶セルロース、多糖類などが挙げられる。用いることができる多糖類としては、例えば、キサンタンガム、グアーガム、ヒドロキシプロピル化グアーガム、カゼイン、アラビアガム、ゼラチン、アミロース、アガロース、アガロペクチン、アラビナン、カードラン、カロース、カルボキシメチルデンプン、キチン、キトサン、クインスシード、グルコマンナン、ジェランガム、タマリンドシードガム、デキストラン、ニゲラン、ヒアルロン酸、プスツラン、フノラン、HMペクチン、ポルフィラン、ラミナラン、リケナン、カラギーナン、アルギン酸、トラガカントガム、アルカシーガム、サクシノグリカン、ローカストビーンガム、タラガムなどが挙げられる。
合成高分子としては、たとえば、ポリアクリル酸類、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル、ビスアクリルアミドメチルエーテル、ポリアクリルアミド、ポリエチレンイミン、ポリエチレングリコール、ポリジオキソラン、ポリスチレンスルホン酸、ポリプロピレンオキサイドなどが挙げられる。
これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。また、これらの市販品があればそれを使用することができる。
【0036】
本発明の遮蔽材用水分散体は、少なくとも、上記黒色顔料、イソブチレン・無水マレイン酸共重合物の中和物、樹脂の酸価が240以下の水溶性樹脂及び/又は樹脂エマルジョン、水、好ましく含有されるOH基を2つ以上もつポリオール、その他の各成分を遮蔽材用の用途に応じて適宜組み合わせて、ホモミキサー、ホモジナイザーもしくはディスパー等の撹拌機により撹拌混合することにより、更に必要に応じて、ろ過や遠心分離によって分散体中の粗大粒子を除去すること等によって、黒く、低光沢な遮光膜、遮蔽膜などを形成することができる遮蔽材用水分散体が得られる。
また、本発明の遮蔽材用水分散体のpH(25℃)は、使用性、安全性、分散体自身の安定性の点からpH調整剤などにより5~10に調整されることが好ましく、更に好ましくは、6~9.5とすることが望ましい。
【0037】
このように構成される本発明の遮蔽材用水分散体は、少なくとも、上記黒色顔料、イソブチレン・無水マレイン酸共重合物の中和物、樹脂の酸価が240以下の水溶性樹脂及び/又は樹脂エマルジョン、水とを含有するものであり、乾燥の過程で、黒色顔料を含有する塗膜表面に均一な凹凸を形成し、乱反射させることで、黒く、低光沢な遮光膜、遮蔽膜などを形成することができる遮蔽材用水分散体が得られることとなる。
上記組成の遮蔽材用水分散体に、更にOH基を2つ以上もつポリオールを含有させることにより、更に、黒く、低光沢で優れた遮蔽性を有する遮光膜、遮蔽膜などの遮蔽材を形成することができる遮蔽材用水分散体が得られる。
【0038】
〈本発明の遮蔽材〉
本発明の遮蔽材は、上記本発明の遮蔽材用水分散体により構成されるものであり、大きな粒子を配合することなく、塗膜の乾燥過程で表面に均一な凹凸を形成し、乱反射させることで、黒く、低光沢な遮光膜、遮蔽膜などの遮蔽材を形成することができる。
遮光膜、遮蔽膜などの遮蔽材は、例えば、基材に塗布、乾燥させて表面反射防止塗膜を形成させることができる。基材は、ガラス、樹脂板、樹脂フィルム、金属等、公知のものに塗布することができる。塗膜の形成方法は特に限定されず公知の塗布方法を用いることができる。例えば、塗布方法はスプレー、刷毛、ローラ、ロールコート、アプリケーター、ディップ塗装等が挙げられる。また、乾燥方法は、熱風、遠赤外線、自然乾燥等用途に応じて選択可能である。また、塗膜などの厚さは、用途に応じて適宜調整され、0.5μm以上3.0μm以下の厚さを有することが好ましい。得られる黒色の反射防止フィルムは、カメラ等の光学機器、メーターなどの発光を伴った表示装置において、周辺部の反射防止や可視光の遮光性を行うことで、視認性などを向上するために用いることができる。また、レンズやプリズム等の光学素子の縁や稜部、コバなどの周辺部に上記分散体により塗布膜を形成し、フレアやゴーストの発生原因となる迷光を吸収するための、光学素子用の内面反射防止黒色塗膜などとしても用いることができる。その他にも、黒色反射防止塗膜などとして用いることができる。
【0039】
本発明において、上記特性の遮蔽材用水分散体を用いて得られる遮蔽膜などの遮蔽材は、その表面粗さRaが0.2~2.0μmであることが好ましく、更に好ましくは、0.2~1.60μm、特に好ましくは、0.4~0.8μmであることが望ましい。
このとき、遮蔽材の表面粗さRaが2.0μm超過になると、塗膜の耐擦過性が低下することとなる。なお、本発明(後述する実施例を含む)において、表面粗さ(算術平均粗さRa)の測定は、レーザ顕微鏡(株式会社キーエンス社製 VK-8500)を用いて、平滑化条件設定(フィルタサイズ3×3、フィルタタイプ単純平均、実行回数1回)、レンズ倍率10倍、カラー超深度モード、その他の設定は標準仕様に準ずるによる表面粗さ測定により行った。
このような表面粗さをシクロオレフィンポリマー(COP)などの塗布面に実現する方法としては、例えば、グラビア印刷、フレキソ印刷、スクリーン印刷、インクジェット印刷、スロットダイ、及び/又は、蒸着、特に、物理蒸着、化学蒸着、及び/又は、スパッタリング、スプレー被覆などにより行うことができる。
【実施例0040】
次に、実施例及び比較例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は下記実施例等に限定されるものではない。
【0041】
〔本発明の遮蔽材用水分散体:実施例1~13及び比較例1~4〕
下記表1に示す配合組成により、各遮蔽材用水分散体を調製した。各遮蔽材用水分散体の室温(25℃)下のpHをpH測定計(HORIBA社製)で測定したところ、7.9~8.2の範囲内であった。
上記で得られた各遮蔽材用水分散体について、下記各評価方法で塗膜のテカリ感及び均一性、耐擦過性、耐水固着性の評価を行った。
これらの結果を下記表1に示す。
【0042】
(遮蔽材(塗膜)の低光沢性、均一性の評価方法)
COPフィルム21cm×30cmに、9μmバーコーターにて塗膜を形成し、この塗膜について以下の評価基準で目視にて官能評価を行った。
<評価基準>
A:塗膜にムラが無く、十分な低光沢性を有している。
B:塗膜に低光沢性がやや弱い。
C:塗膜に
【0043】
低光沢性が無く、光沢を有している。
(分散体の再分散性の評価方法)
得られた各遮蔽材用水分散体10mlを、15mlのガラス製蓋付き瓶に、攪拌ボール(φ6.4mm、ステンレス鋼製)とともに充填し、密封した後に、キャップを上向きにして40℃の条件下1ヶ月保存した後、夫々の分散体を振った。撹拌ボールがガラス製蓋付き瓶中で移動し始めるまでに振った回数を下記の評価基準で評価した。
<評価基準>
A:1~5回
B:6~15回
C:16回以上
【0044】
(遮蔽材(塗膜)の密着性の評価方法)
COPフィルム21cm×30cmに、9μmバーコーターにて塗膜を形成し、この塗膜に対してカッターを用いて2mm間隔で格子状にカットを行い、その上からセロハンテープを貼った後、剥がして得られた塗膜について以下の評価基準で目視にて官能評価を行った。
<評価基準>
A:塗膜の剥がれが無く、十分な密着性を有している。
B:塗膜の剥がれが発生し、密着性がやや弱い。
C:塗膜の大部分が剥がれ、密着性が不十分。
【0045】
【表1】
【0046】
上記表1の結果から明らかなように、本発明となる実施例1~13の各遮蔽材用水分散体は、本発明の範囲外となる比較例1~4の遮蔽材用水分散体に較べて、沈降耐性に優れ、低光沢で、均一な塗膜を形成でき、優れた遮蔽性を有することが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0047】
光学機器、メーターなどの発光を伴った表示装置の反射防止や可視光の遮光など光学素子用の内面反射防止黒色塗膜などに好適な遮蔽材用水分散体及び遮蔽材に好適に用いることができる。