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特開2024-13573シールド線破断状況把握の為のインピーダンス計測方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024013573
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】シールド線破断状況把握の為のインピーダンス計測方法
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/54 20200101AFI20240125BHJP
   G01R 31/58 20200101ALI20240125BHJP
【FI】
G01R31/54
G01R31/58
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022115755
(22)【出願日】2022-07-20
(71)【出願人】
【識別番号】391051496
【氏名又は名称】CKD日機電装株式会社
(72)【発明者】
【氏名】花谷 太郎
【テーマコード(参考)】
2G014
【Fターム(参考)】
2G014AA02
2G014AA10
2G014AB31
(57)【要約】      (修正有)
【課題】本発明は、シールドケーブルが有するシールド線についての破断状況を把握するのに有用な情報を計測する方法に関するものである。
【解決手段】シールドケーブル両端にて、依りまとめたシールド線をLCRメータにてインピーダンス計測することで得られる計測値である「位相角θ」、「直列等価回路抵抗Rs」及び「インピーダンスZ」よりシールド線の断線状況の把握ができる様になり、適切なシールドケーブル交換時期を示唆する情報を入手が可能となる。
【選択図】図2(b)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
本発明はシールドケーブル両端にて、依りまとめたシールド線をLCRメータにて、シールド線の太さによって決まる代表高周波を使ったインピーダンス計測することで得られる計測値である位相角θを用いて、シールド線の断線状況に関する情報を得る為の計測方法に関するものである。
【請求項2】
本発明はシールドケーブル両端にて、依りまとめたシールド線をLCRメータにて、シールド線の太さによって決まる代表高周波と代表低周波を使ったインピーダンス計測することで得られる計測値である直列等価回路抵抗Rs若しくはインピーダンスZを用いて、シールド線の断線状況に関する情報を得る為の計測方法に関するものである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シールドケーブルが有するシールド線についての破断状況を把握するのに有用な情報を得られる計測方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
シールドケーブルは、電気配線に用いられるものであって、外部からの電磁波や外部へ放出する電磁波をカットするため、導線(コア線)の外周に絶縁層を介してシールド層を設けた電線である。
【0003】
シールドケーブルのシールド層には、例えば特許文献1に開示されているように編組構造を有するもの(以下、「編組シールド層」という)がある。編組シールド層は、金属製のシールド線(素線)の束が所定の編組角度で交差するように編み込んで構成されたものである。なお、編組シールド層の外周は絶縁シースによって被覆されている。
【0004】
特許文献2には、編組シールド線の挙動をコンピュータによって予測する方法が開示されている。この技術では曲げ状態演算工程と摩擦量算出工程及びシールド線の編組構造をコンピュータが演算する直線状態演算工程を経てシールド線挙動を予測する。
【0005】
特許文献3には、断線予測機能をロボットケーブルに付加する技術が開示されている。この技術では、ロボットケーブル内に断線検知用のケーブルを予め組込み、当該ケーブル内を流れるパルス波を常時監視することでロボットケーブル内に組み込まれた他のケーブルの寿命を予測する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006-164754号公報
【0007】
【特許文献2】特開2009-252183号公報
【0008】
【特許文献3】特開2011-42004号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
シールド線はその目的上、導線(コア線)の外周に位置する事が多い事から、ケーブルの曲げやねじりに対してかかる応力は他の導線よりも大きなものとなる。またシールド線は多数本編み込む等して並べる形で面をつくり高いシールド効果をもたらすが、その1本ごとの径は他のケーブル内のコア線と比較しても細い事が多く、その分切れやすいといえる。
【0010】
従ってロボットケーブルに代表される機械の繰り返し動作に対して、シールド線の構造は適しているとはいえないが、シールドの破断が起こると電磁干渉が起こるほかに、シールドの先端が線心にあたるとシールド効果の低減や、短絡も生じることがあり、不要とすることもできない。
更にシールドの破断は外部からわかりにくいものであるため、寿命の予測も難しいことから、一定時間使用したら交換するといった実用面での運用も図られている。
【0011】
特許文献2に記載された編組シールド線の挙動をコンピュータによって予測方法は、所定の編組シールド線については有効だが、シールド線の編み込み構造が異なる既存のシールドケーブルを使用する場合や、設定された曲げ半径及び摺動量にそぐわない場面が発生した場合には、予測自体が難しくなり、何より専用の演算が必要な点で使い勝手のいいものとはいえない。
【0012】
特許文献3に記載された断線予測機能をロボットケーブルに付加する技術は、常時断線検知についての監視をするという点で信頼が高いものだが、検知の為の導線が追加でケーブル内に必要となり、ケーブル自体が重く硬いものになることで、却って破断しやすくなる面も併せ持つ。またパルス波を監視する部分も必要となりコスト面で有利とはいえない。
【0013】
本発明は、このような課題を解決するためになされたもので、その目的は適切な交換時期を示唆するに役立つ情報として、シールドケーブル内シールド線の破断状況を把握するのに有用な情報が得られる計測方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決する本発明のインピーダンス計測方法は、シールド線を流れる電流の表皮効果(所謂 Skin Effect)を利用することで一般的なLCRメータから得られる計測値を用いて、ケーブルを破壊することなしにシールド線の破断状況を確認できる特徴を持つ。
【0015】
シールドケーブルの両端にてシールド線を剥き出して依ってまとめると、そのまとめたものであるシールド線束はシールドケーブル各端で1個ずつできる。
【0016】
この各端1のシールド線束の径はシールド線径に比して大きく、シールドケーブルでは100本以上のシールド線が使われる事が多い事から、径比は10以上となる。
【0017】
シールドケーブルの両端のシールド線束をLCRメータが備える1組2本のプローブのそれぞれでクリップし、インピーダンス計測を行うと計測用電流が片側のシールド線束を通り、シールドケーブル内のシールド線を通り、もう片側のシールド線束を通ることになる。
【0018】
この時インピーダンス計測周波数が適当であれば、シールド線1本では表皮効果の影響をほとんど受けず、シールド線束では表皮効果の影響を大きく受けるようにすることができる。
【0019】
例えば材質銅のシールド線径0.12mmに対して、高周波である100kHzにてインピーダンス計測を行うと、表皮深さdは次式より0.209mmと算出され、表皮深さよりもシールド線径の方が小さい事から、シールド線単体では表皮効果はほとんど受けないことが判る。
【0020】
対してシールド線束の方は、その径をシールド線径の10倍の1.2mmとすると、表皮深さよりもシールド線束の径の方が大きい事から、表皮効果の影響を受けることになる。表皮深さdは次式で表される。
【0021】
(数1)
d=√((2*ρ) / (ω*μ))
【0022】
上記の数式においてρは導体の電気抵抗率、ωは電流の角周波数(=2π×周波数)、μは導体の絶対透磁率を表す。
【0023】
即ちシールドケーブル内のシールド線が破断がない場合には、両端のシールド線束をLCRメータにより適切な周波数でインピーダンス計測を行うと、計測電流は片側のLCRメータプローブから表皮効果を受ける部分を通り、次に表皮効果を受けない部分を通り、その次に表皮効果を受ける部分を通ってもう片側のプローブに達することとなり、一連の流れを通して計測結果は表皮効果の影響を受けたものになる。
【0024】
対してシールドケーブル内のシールド線に破断があり、1本のみ破断していない場合には、同様の計測をした結果は表皮効果の影響をほとんど受けていないものになる。表皮効果をうけたシールド線束の抵抗よりも1本のみの抵抗の方が大きいためである。
【0025】
表皮効果の有り無し評価にはLCRメータの計測値である位相角θ、直列等価回路抵抗Rs及びインピーダンスZを使うことができる。これら3種の計測値は次式の関係にあり実質的に2個の計測値として捉えられ相互に補間できる。
【0026】
(数2)
Rs = |Z| * cosθ
【0027】
位相角θがゼロに近い場合には、表皮効果はほとんどみられないと評価できる。
【0028】
直列等価回路抵抗Rsについては、上記100kHzの高周波計測結果と、低周波例えば1Hzでのインピーダンス計測結果とを比較することで表皮効果の有り無しを評価できる。両方の値の差が大きい時は表皮効果がみられると評価できる。Rsが非常な高値等の場合には全て破断と捉える。
【0029】
インピーダンスZについては、上記100kHzの高周波計測結果と、低周波例えば1Hzでのインピーダンス計測結果とを比較することで表皮効果の有り無しを評価できる。両方の値の差が大きい時は表皮効果がみられると評価できる。Zが非常な高値等の場合には全て破断と捉える。
【0030】
以上のことから本発明の計測方法はシールドケーブル内シールド線について、ケーブルを破壊することなく内部シールド線の断線状況をしる為の有効な手段となり得る。
【発明の効果】
【0031】
本発明により、LCRメータのインピーダンス計測結果を利用したシールド線の断線状況の把握ができる様になり、適切なシールドケーブル交換時期を示唆する情報を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1(a)】シールドケーブルの構造を示す平面図
図1(b)】シールドケーブルの構造を示す平面図
図2(a)】本発明の実施形態におけるシールド線計測風景の図
図2(b)】本発明の実施形態におけるシールド線計測風景の図
図2(c)】本発明の実施形態におけるシールド線計測風景の図
図3】本発明の実施形態におけるシールド線計測結果のグラフ
図4】シールド線正常状態と1本を除いて全て断線状態の模式図
【発明を実施するための形態】
【0033】
図1(a)は本発明の実施形態に係るシールド線破断状況把握の為のインピーダンス計測方法の対象となるシールドケーブルを片端の部分図としてを示し、表1は対象となるケーブルの諸言値を示している。
【0034】
【表1】
【0035】
図1(b)は同ケーブルのシールド線を剥き出して依ってまとめた状態を示す。依りまとめるのは両端でそれぞれ行う。
【0036】
図2(a)は一般的なLCRメータを示し、計測用1組2本のプローブを備える。
【0037】
図2(b)はLCRメータの2本のプローブがシールドケーブルの依りまとめたシールド線束をそれぞれクリップした状態である本発明での正規のインピーダンス計測状態を示す。
【0038】
図2(c)は比較計測の為に片側である図内右側プローブはシールド線1本のみをクリップし、もう片側である図内左側プローブはシールド線束をクリップした状態を示す。
【0039】
図2(b)及び同(c)の状態にて周波数設定1[Hz]と100k[Hz]の2条件でそれぞれインピーダンス計測をした結果を表2と図3(a)及び同(b)に示す。
【0040】
【表2】
【0041】
図3(a)ではインピーダンスZについて、シールド線束計測値を示す符号10のグラフ線とシールド線片側1本計測値を示す符号11のグラフ線が描かれている。符号10のグラフ線は符号11のグラフ線より低い位置にあり、シールド線束の抵抗値がシールド線1本の抵抗値よりも低いことに矛盾しない。両グラフ線共に1[Hz]計測時より100k[Hz]計測時の方が高い値であることも表皮効果による高周波側での抵抗値増加の傾向に矛盾しない。
【0042】
図3(a)と併せて表2をみると、符号10のグラフ線にあたる計測値同士の比率は0.37であり、符号11のグラフ線にあたる計測値同士の比は0.92である事が判る。この比率は1に近いほど表皮効果がみられない事を意味することから、1に近いほど破断していない線は1本のみの状態に近い事を意味する。即ち破断状況をしる重要な情報となり得る。
【0043】
またこの比率はシールド線を流れる電流の減少分を表す比率を表すことから、符号10のグラフ線にあたる計測値同士の比率0.37は、表皮効果が顕著に表れている時の電流減少比率1/e(約0.379)に非常に近いことが判る。
【0044】
シールドケーブル内シールド線が全て破断している場合には直列等価回路抵抗Rs若しくはインピーダンスZの値が、全て破断している状態を表す非常な高値、又は全て破断した状態を示す計測器の表示がでている事を以って判断できる。
【0045】
図3(b)では位相角θについて、計測周波数100k[Hz]におけるシールド線束計測値を示す符号12のグラフ線とシールド線片側1本計測値を示す符号13のグラフ線が描かれている。
【0046】
両者は位相角θで比較すると差が顕著であり、シールド線片側1本計測時にはθはほとんど変化しない事が判る。θは零に近いほど表皮効果がみられない事を意味することから、零に近いほど破断していない線は1本のみの状態に近い事を意味する。
【0047】
即ち破断状況をしる重要な情報となり得る。
【0048】
シールドケーブル内シールド線が全て破断している場合には位相角θの計測結果自体が疑わしいものとなるため、併せて直列等価回路抵抗Rs若しくはインピーダンスZの値が、全て破断している状態を表す非常な高値、例えばメガオームクラスの値になっていないか若しくは全て破断した状態を示す計測器の表示がでていないかを確認することでθ値評価は補完される。
【0049】
図4は本実施形態についての模式図で、図4(a)は図2(b)に対応している。図4(b)はプローブのクリップ位置が両端共にシールド線束となっているが、実質的に図2(c)に対応していると考えられる。
【0050】
以上が本発明の実施形態の説明となる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
機械の繰り返し動作に対して追従する必要性から、曲げ応力やねじり応力が頻繁にかかり且つ電磁シールドを必要とするケーブル類に対して、代表的にはロボットケーブルに対して、シールド線が破断することでシールド機能が完全に損なわれる前にケーブル交換などの対応をとる為の有用な情報が得られるという点で本発明の計測方法は産業上利用可能性をもつ。
【符号の説明】
【0052】
1 ・・・心線
2 ・・・内側絶縁層
3 ・・・シールド層
4 ・・・絶縁シース
5 ・・・シールド層から剥き出し依りてまとめた状態のシールド線
6 ・・・シールド層から剥き出した際に1本だけ分けたシールド線
7 ・・・LCRメータ
8 ・・・LCRメータのプローブL
9 ・・・LCRメータのプローブR
10 ・・・シールド線(144本)束計測時インピーダンスZ
11 ・・・シールド線片側1本計測時インピーダンスZ
12 ・・・シールド線(144本)束100k[Hz]計測時の位相角θ
13 ・・・シールド線片側1本100k[Hz]計測時の位相角θ
14 ・・・絶縁シース内側のシールド線
15 ・・・絶縁シース内側のシールド線の断線箇所
図1(a)】
図1(b)】
図2(a)】
図2(b)】
図2(c)】
図3
図4