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特開2024-135732カーボンナノチューブ分散液、その製造方法、及びカーボンナノチューブ複合体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024135732
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】カーボンナノチューブ分散液、その製造方法、及びカーボンナノチューブ複合体
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/174 20170101AFI20240927BHJP
   H01B 1/24 20060101ALI20240927BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
C01B32/174
H01B1/24 A
H01B13/00 Z
H01B1/24 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023046569
(22)【出願日】2023-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000006507
【氏名又は名称】横河電機株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000108993
【氏名又は名称】株式会社大阪ソーダ
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(72)【発明者】
【氏名】谷 遼太郎
(72)【発明者】
【氏名】望月 誠
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 隼人
(72)【発明者】
【氏名】平山 大悟
(72)【発明者】
【氏名】近田 安史
(72)【発明者】
【氏名】石畑 浩司
【テーマコード(参考)】
4G146
5G301
【Fターム(参考)】
4G146AA12
4G146AA15
4G146AB06
4G146AC03A
4G146AC03B
4G146AC16A
4G146AC16B
4G146AC17B
4G146AC20B
4G146AD22
4G146BA04
4G146CB10
5G301DA20
5G301DA42
5G301DD02
5G301DE01
(57)【要約】
【課題】高い導電性を発揮するカーボンナノチューブ複合体が好適に得られる、カーボンナノチューブ分散液を提供する。
【解決手段】カーボンナノチューブ、セルロースナノファイバー、及び分散媒を含む、カーボンナノチューブ分散液であって、
前記カーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブであり、かつ、共鳴ラマン散乱法で測定される、励起波長532nmのラマンスペクトルにおけるGバンドとDバンドのピーク強度比G/Dが、30以上であり、
前記セルロースナノファイバーは、下記(1)式で表される硫酸エステル基を有し、かつ、当該硫酸エステル基に起因する硫黄導入量が、0.5mmol/g以上3.5mmol/g以下である、カーボンナノチューブ分散液。
[前記式(1)中、nは1~3の整数であり、Mn+はn価の陽イオンであり、波線は他の原子への結合部位である。]
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノチューブ、セルロースナノファイバー、及び分散媒を含む、カーボンナノチューブ分散液であって、
前記カーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブであり、かつ、共鳴ラマン散乱法で測定される、励起波長532nmのラマンスペクトルにおけるGバンドとDバンドのピーク強度比G/Dが、30以上であり、
前記セルロースナノファイバーは、下記(1)式で表される硫酸エステル基を有し、かつ、当該硫酸エステル基に起因する硫黄導入量が、0.5mmol/g以上3.5mmol/g以下である、カーボンナノチューブ分散液。
【化1】
[前記式(1)中、nは1~3の整数であり、Mn+1はn価の陽イオンであり、波線は他の原子への結合部位である。]
【請求項2】
前記セルロースナノファイバーは、平均繊維径が1nm以上1000nm以下であり、I型結晶構造を有している、請求項1に記載のカーボンナノチューブ分散液。
【請求項3】
前記カーボンナノチューブは、平均繊維径が0.8nm以上5.0nm以下である、請求項1又は2に記載のカーボンナノチューブ分散液。
【請求項4】
前記分散媒は、水である、請求項1又は2に記載のカーボンナノチューブ分散液。
【請求項5】
前記カーボンナノチューブの含有率が、0.05質量%以上である、請求項1又は2に記載のカーボンナノチューブ分散液。
【請求項6】
前記セルロースナノファイバーの含有率が、0.005質量%以上である、請求項1又は2に記載のカーボンナノチューブ分散液。
【請求項7】
請求項1又は2に記載のカーボンナノチューブ分散液の製造方法であって、
前記カーボンナノチューブ、前記セルロースナノファイバー、及び前記分散媒を混合して粗分散液を調製する工程と、
前記粗分散液を分散処理して、カーボンナノチューブ分散液を得る工程と、
を含む、カーボンナノチューブ分散液の製造方法。
【請求項8】
請求項1又は2に記載のカーボンナノチューブ分散液の前記分散媒を除去してなる、カーボンナノチューブ複合体。
【請求項9】
以下の測定法によって得られるカーボンナノチューブ複合体の導電率が、1×103S/cm以上である、カーボンナノチューブ複合体。
(導電率の測定法)
請求項1または2に記載のカーボンナノチューブ分散液において、前記分散媒としてイオン交換水を用い、前記カーボンナノチューブ、前記セルロースナノファイバー、及び前記分散媒を混合して粗分散液を調製する工程と、前記粗分散液を分散処理する工程を行う。カーボンナノチューブ分散液におけるカーボンナノチューブとセルロースナノファイバーとの質量比は50:50とし、これらの合計濃度は0.4質量%とする。
得られたカーボンナノチューブ分散液をポリエチレンテレフタレートフィルム上に塗布し、40℃のオーブン中で5日間乾燥させて、厚さが5μmのカーボンナノチューブとセルロースナノファイバーとの複合体を得る。
得られた複合体の表面抵抗率(Ω/sq)及び導電率(S/cm)を抵抗率計にて測定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブ分散液、その製造方法、及びカーボンナノチューブ複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、フィルム状の導電性複合体を製造する方法として、カーボンナノチューブ(以下、「CNT」と称することがある)などの導電性物質を含む分散液を基材上にキャストした後、乾燥、剥離する方法、カーボンナノチューブとセルロースナノファイバーとを混合して、複合構造体を得る方法などが知られている。
【0003】
例えば特許文献1には、安定した導電性を有する導電性複合体を製造する方法として、カルボキシ基で修飾されたセルロースナノファイバーと、カルボキシ基で修飾されたカーボンナノチューブとを含有する分散液を基材上にキャストした後、乾燥および剥離してフィルム状の導電性複合体を得る技術が開示されている。特許文献1では、カルボキシ基で修飾されたセルロースナノファイバーとして、2,2,6,6-テトラメチルピペリジノオキシラジカル(TEMPO)の存在下、共酸化剤として次亜塩素酸ナトリウムを用いてセルロース類を酸化させることにより得られた改質セルロース類が用いられている。
【0004】
非特許文献1には、セルロースナノファイバーを含むスラリーとカーボンナノチューブを含む水分散液とを混合した後、ろ過・乾燥等のプロセスを経て、17%のカーボンナノチューブを含む導電性ペーパーを作成する技術が報告されている。また、非特許文献2には、セルロースナノファイバーとカーボンナノチューブとを含む混合スラリーを繊維状の構造体に加工した後、電極として用い、繊維状のキャパシタを創る技術が紹介されている。
【0005】
特許文献2には、少ない単層カーボンナノチューブ含有量で高い導電性を有する複合体を製造する方法として、特定の金属を塩の形で含有する含金属酸化セルロースナノファイバーと単層カーボンナノチューブを混合してなる分散液の製造方法が示されている。
【0006】
特許文献3には、硫酸エステル化された修飾セルロースは医療材料や界面活性剤などの用途に用いられることが記載されている。硫酸エステル化セルロースの製造方法としては、無水硫酸とジメチルホルムアミドの混合溶液にセルロースを加えて、氷浴で温度を制御しながらセルロース粒子の表面を硫酸エステル化修飾する方法が知られている。この硫酸エステル化方法により調製した硫酸エステル化セルロースは、セルロースナノファイバーではなく、天然セルロース固有のI型結晶構造及びミクロフイブリルが破壊されたセルロース誘導体である。
【0007】
特許文献4には、高い導電性を有する複合体を得るために、単層のカーボンナノチューブと、ナトリウム以外の金属を塩の形で含有する酸化セルロースナノファイバーの分散液を製造する方法が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2013-211108号公報
【特許文献2】特開2021-57271号公報
【特許文献3】特開2007-92034号公報
【特許文献4】特開2021-57271号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Composites Science AND Technology, Volume 87, 18 October 2013, Pages 103-110
【非特許文献2】Electrochimica Acta, Volume 283, 1 September 2018, Pages 1578-1588
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
例えばディスプレイ部品、エレクトロニクス部品などとして、高い導電性を発揮するカーボンナノチューブ複合体が求められている。
【0011】
本発明は、高い導電性を発揮するカーボンナノチューブ複合体が好適に得られる、カーボンナノチューブ分散液を提供することを主な目的とする。さらに、本発明は、当該カーボンナノチューブ分散液の製造方法、及び当該カーボンナノチューブ分散液を利用したカーボンナノチューブ複合体を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、カーボンナノチューブ分散液において、所定値以上のピーク強度比G/Dを有する単層カーボンナノチューブと、硫黄導入量が所定範囲に調整された硫酸エステル基を有するセルロースナノファイバーとを併用することにより、高い導電性を発揮するカーボンナノチューブ複合体が好適に得られることを見出した。
【0013】
本発明は、以上のような知見に基づいて更に検討を重ねることにより完成したものである。
【0014】
即ち、本発明は、以下に示す態様の発明を提供する。
項1. カーボンナノチューブ、セルロースナノファイバー、及び分散媒を含む、カーボンナノチューブ分散液であって、
前記カーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブであり、かつ、共鳴ラマン散乱法で測定される、励起波長532nmのラマンスペクトルにおけるGバンドとDバンドのピーク強度比G/Dが、30以上であり、
前記セルロースナノファイバーは、下記(1)式で表される硫酸エステル基を有し、かつ、当該硫酸エステル基に起因する硫黄導入量が、0.5mmol/g以上3.5mmol/g以下である、カーボンナノチューブ分散液。
【化1】
[前記式(1)中、nは1~3の整数であり、Mn+1はn価の陽イオンであり、波線は他の原子への結合部位である。]
項2. 前記セルロースナノファイバーは、平均繊維径が1nm以上1000nm以下であり、I型結晶構造を有している、項1に記載のカーボンナノチューブ分散液。
項3. 前記カーボンナノチューブは、平均繊維径が0.8nm以上5.0nm以下である、項1又は2に記載のカーボンナノチューブ分散液。
項4. 前記分散媒は、水である、項1~3のいずれかに記載のカーボンナノチューブ分散液。
項5. 前記カーボンナノチューブの含有率が、0.05質量%以上である、項1~4のいずれかに記載のカーボンナノチューブ分散液。
項6. 前記セルロースナノファイバーの含有率が、0.005質量%以上である、項1~5のいずれかに記載のカーボンナノチューブ分散液。
項7. 項1~6のいずれかに記載のカーボンナノチューブ分散液の製造方法であって、
前記カーボンナノチューブ、前記セルロースナノファイバー、及び前記分散媒を混合して粗分散液を調製する工程と、
前記粗分散液を分散処理して、カーボンナノチューブ分散液を得る工程と、
を含む、カーボンナノチューブ分散液の製造方法。
項8. 項1~6のいずれかに記載のカーボンナノチューブ分散液の前記分散媒を除去してなる、カーボンナノチューブ複合体。
項9. 以下の測定法によって得られるカーボンナノチューブ複合体の導電率が、1×103S/cm以上である、カーボンナノチューブ複合体。
(導電率の測定法)
項1~6のいずれかに記載のカーボンナノチューブ分散液において、前記分散媒としてイオン交換水を用い、前記カーボンナノチューブ、前記セルロースナノファイバー、及び前記分散媒を混合して粗分散液を調製する工程と、前記粗分散液を分散処理する工程を行う。カーボンナノチューブ分散液におけるカーボンナノチューブとセルロースナノファイバーとの質量比は50:50とし、これらの合計濃度は0.4質量%とする。
得られたカーボンナノチューブ分散液をポリエチレンテレフタレートフィルム上に塗布し、40℃のオーブン中で5日間乾燥させて、厚さが5μmのカーボンナノチューブとセルロースナノファイバーとの複合体を得る。
得られた複合体の表面抵抗率(Ω/sq)及び導電率(S/cm)を抵抗率計にて測定する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、高い導電性を発揮するカーボンナノチューブ複合体が好適に得られる、カーボンナノチューブ分散液を提供できる。さらに、本発明によれば、当該カーボンナノチューブ分散液の製造方法、及び当該カーボンナノチューブ分散液を利用したカーボンナノチューブ複合体を提供することもできる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本明細書において、「~」で結ばれた数値は、「~」の前後の数値を下限値及び上限値として含む数値範囲を意味する。複数の下限値と複数の上限値が別個に記載されている場合、任意の下限値と上限値を選択し、「~」で結ぶことができるものとする。
【0017】
また、本明細書において、カーボンナノチューブを「CNT」と略記することがある。したがって、本明細書において、カーボンナノチューブ分散液を「CNT分散液」、単層カーボンナノチューブを「単層CNT」、カーボンナノチューブ複合体を「CNT複合体」と表記することがある。同様に、セルロースナノファイバーを「CNF」と略記し、特に硫酸エステル基を有するセルロースナノファイバーを「S-CNF」と表記することがある。
【0018】
1.カーボンナノチューブ分散液
本発明のカーボンナノチューブ分散液は、カーボンナノチューブ、セルロースナノファイバー、及び分散媒を含み、カーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブであり、かつ、共鳴ラマン散乱法で測定される、励起波長532nmのラマンスペクトルにおけるGバンドとDバンドのピーク強度比G/Dが、30以上であり、セルロースナノファイバーは、下記(1)式で表される硫酸エステル基を有し、かつ、当該硫酸エステル基に起因する硫黄導入量が、0.5mmol/g以上3.5mmol/g以下であることを特徴とする。
【0019】
【化2】
[前記式(1)中、nは1~3の整数であり、Mn+はn価の陽イオンであり、波線は他の原子への結合部位である。]
【0020】
本発明のカーボンナノチューブ分散液は、当該構成を備えることにより、高い導電性を発揮するカーボンナノチューブ複合体を好適に製造することが可能である。本発明のカーボンナノチューブ分散液に含まれる単層カーボンナノチューブのピーク強度比G/Dは、30以上であり、高い結晶性を備えている。このため、単層カーボンナノチューブとしての導電性は高いものの、分散媒に対する分散性が高くないという特徴を有している。これに対して、本発明においては、この単層カーボンナノチューブと共に、硫酸エステル基に起因する硫黄導入量が、0.5mmol/g以上3.5mmol/g以下という特定範囲のセルロースナノファイバーを併用することにより、高結晶性の単層カーボンナノチューブが分散媒中で好適に分散され、得られるカーボンナノチューブ複合体が高い導電性を発揮していると考えることができる。以下、本発明のカーボンナノチューブ分散液について詳述する。
【0021】
(カーボンナノチューブ(CNT))
本発明のカーボンナノチューブ分散液は、カーボンナノチューブとして単層カーボンナノチューブを含む。
【0022】
本発明のカーボンナノチューブ分散液に含まれるカーボンナノチューブのうち、単層カーボンナノチューブの割合は、好ましくは95質量%以上、より好ましくは98質量%以上、さらに好ましくは99質量%以上であり、特に好ましくは100質量%である。
【0023】
単層カーボンナノチューブの由来(製造方法)は限定されず、本発明の効果を奏することを限度として、単層カーボンナノチューブは、いかなる製法で製造されたものであってもよい。単層カーボンナノチューブの製造方法としては、アーク放電法、レーザー蒸発法、化学気相成長法(CVD)法を例示することができ、化学気相成長法(CVD)法であることが好ましい。特に、参照することにより本明細書に援用する特許6479202号に記載されている製造方法で製造された単層カーボンナノチューブが好ましい。本発明のCNT分散液に含まれる単層カーボンナノチューブは、1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0024】
本発明のCNT分散液において、単層カーボンナノチューブは、共鳴ラマン散乱法で測定される、励起波長532nmにおけるラマンスペクトルにおいて、Gバンド(1590cm-1付近)とDバンド(1300cm-1付近)のピーク強度比G/Dは、30以上である。本発明の効果をより一層好適に高める観点から、当該ピーク強度比G/Dは、好ましくは35以上、より好ましくは50以上、さらに好ましくは70以上、さらに好ましくは80以上であり、上限については、例えば200以下、150以下、120以下などが挙げられる。なお、「ピーク強度比」とは「高さ比」のことを意味する。カーボンナノチューブのピーク強度比G/D比が高いほど、カーボンナノチューブの構造における欠陥量が少なく、カーボンナノチューブとしての導電性が高いといえる。
【0025】
単層カーボンナノチューブの平均繊維径は、好ましくは0.8nm以上、より好ましくは1.0nm以上、さらに好ましくは1.5nm以上であり、また、好ましくは5.0nm以下、より好ましくは3.0nm以下、さらに好ましくは2.5nm以下ある。単層カーボンナノチューブの平均繊維径が0.8nm以上であることにより、後述するセルロースナノファイバーと混合した際の分散性が良好となる傾向がある。また、単層カーボンナノチューブの平均繊維径が5.0nm以下であることにより、繊維径が大き過ぎず、カーボンナノチューブとしての性能が発揮され易い傾向がある。なお、単層カーボンナノチューブの平均繊維径は、SEM写真の画像からランダムに50個の単層カーボンナノチューブを選択し、加算平均した値である。
【0026】
また、単層カーボンナノチューブの長さは、特に限定されないが、本発明の効果をより好適に奏する観点から、下限については、例えば、0.001mm以上、0.03mm以上、0.06mmm以上、0.1mm以上、0.5mm以上、1.0mm以上、2.0mm以上、5.0mm以上、10mm以上、50mm以上などが挙げられ、また、上限については、例えば、100mm以下である。本発明のCNT分散液において、単層カーボンナノチューブは、相互に凝集されて束になった状態(バンドル状態)で存在してこれらの長さになっていても良いし、単独でこれらの長さになっていてもよい。
【0027】
単層カーボンナノチューブの炭素純度は、好ましくは98.0%以上、より好ましくは98.5%以上、さらに好ましくは99.0%以上である。
【0028】
本発明のCNT分散液において、単層カーボンナノチューブの含有率は、本発明の効果を阻害しないことを限度として、特に制限されないが、本発明の効果をより好適に奏する観点から、固形分換算で、好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、さらに好ましくは0.5質量%以上、さらに好ましくは1.0質量%以上、また、好ましくは95.0質量%以下、より好ましくは92.0質量%以下、さらに好ましくは、90.0質量%以下、80.0質量%以下、60.0質量%以下、50.0質量%以下、40.0質量%以下、30.0質量%以下、20.0質量%以下、15.0質量%以下、10.0質量%以下などである。ここで、本発明のCNT分散液における単層CNTの含有率とは、分散液中の固形分に占める単層CNTの割合である。単層CNTの含有量は、分散液等を遠心分離し、硫酸エステル基を含むセルロースナノファイバーと単層CNTを分離することによって、求めることができる。本発明のCNT分散液中の単層CNTの固形分換算含有率が前記の値を満たすことにより、本発明のCNT分散液を用いて形成したCNT複合体に優れた導電性を発揮させることができる。また、CNT分散液中の単層CNTの固形分換算含有率を前記の値とすることにより、高コストの単層CNTの使用量を抑え、原料コストを低減することができる。また、単層CNTの固形分換算含有率が5質量%以上の場合には、CNT分散液中に硫酸エステル基を含むセルロースナノファイバーを含有させた際の複合体の導電性の向上効果が特に優れる。
【0029】
(セルロースナノファイバー)
本発明のCNT分散液に含まれるセルロースナノファイバーは、下記(1)式で表される硫酸エステル基を有し、かつ、当該硫酸エステル基に起因する硫黄導入量が、0.5mmol/g以上3.5mmol/g以下であることを特徴としている。このような特徴を備えるセルロースナノファイバーは、前記ピーク強度比G/Dが30以上という高結晶性の単層カーボンナノチューブを分散媒中で好適に分散させることができる。
【0030】
【化3】
【0031】
本発明において、硫酸エステル基を含むセルロースナノファイバーは、例えば実施例で示すように、セルロースを主成分とする原料パルプをカルボン酸無水物並びに硫酸を用いた硫酸エステル化及び解繊することにより製造することができる。硫酸エステル化は、他にもスルファミン酸および尿素を用いる方法など、公知の反応を用いることができる。本発明のCNT分散液に含まれるセルロースナノファイバーとしては、硫酸エステル基に起因する硫黄導入量が0.5mmol/g以上3.5mmol/g以下の範囲であれば、例えば、日本国特許第6797215号、日本国特許第7215553号、日本国特許第7215554号などに開示されている、任意の硫酸エステル基を含むセルロースナノファイバーを使用することができる。セルロースナノファイバーの、硫酸エステル基に起因する硫黄導入量は、セルロースナノファイバー1g当たりの硫黄含有率(mmol)で表すことができる。
【0032】
前記式(1)中、nは1~3の整数であり、Mn+はn価の陽イオンであり、波線は他の原子への結合部位である。本発明のCNT分散液に含まれる当該セルロースナノファイバーは、1種類のみであってもよいし、2種類以上であってよい。
【0033】
前記式(1)において、Mn+としては、水素イオン(H+)、金属イオン、アンモニウムイオン等が挙げられる。nが2又は3の場合、Mn+は、2つ又は3つの-OSO3-との間でイオン結合を形成する。
【0034】
金属イオンとしては、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、遷移金属イオン、その他の金属イオンが挙げられる。
【0035】
アルカリ金属イオンとしては、リチウムイオン(Li+)、ナトリウムイオン(Na+)、カリウムイオン(K+)、ルビジウムイオン(Rb+)、セシウムイオン(Cs+)等が挙げられる。
【0036】
アルカリ土類金属イオンとしては、カルシウムイオン(Ca2+)、ストロンチウムイオン(Sr2+)等が挙げられる。
【0037】
遷移金属イオンとしては、鉄イオン、ニッケルイオン、パラジウムイオン、銅イオン、銀イオン等が挙げられる。その他の金属イオンとしては、ベリリウムイオン、マグネシウムイオン、亜鉛イオン、アルミニウムイオン等が挙げられる。
【0038】
アンモニウムイオンとしては、NH4+だけでなく、NH4+の1つ以上の水素原子が有機基に置き換わってできる各種アミン由来のアンモニウムイオンも挙げられる。アンモニウムイオンとしては、例えば、NH4+、第四級アンモニウムカチオン、アルカノールアミンイオン、ピリジニウムイオン等が挙げられる。
【0039】
n+としては、水素イオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、又は第四級アンモニウムカチオンが好ましく、ナトリウムイオン(Na+)であることが特に好ましい。前記式(1)で表される硫酸エステル基が有するMn+は、1種のみであってもよく、2種以上であってもよい。
【0040】
セルロースナノファイバーが、繊維を構成するセルロース中のOH基の一部を、一般式(1)で表される硫酸エステル基で置換することにより、硫酸エステル基が導入されている場合には、波線は前記OH基が結合していた炭素原子への結合部位である。
【0041】
セルロースナノファイバーは、前記式(1)で表される硫酸エステル基の他に、他の置換基を有していてもよい。ここで、セルロースナノファイバーが、前記式(1)で表される硫酸エステル基以外の基、すなわち、他の置換基を有する場合、他の置換基は、通常セルロースナノファイバーを構成するセルロース中のOH基の少なくとも1つと置換されている。他の置換基としては、例えば、特に限定されないが、アニオン性置換基及びその塩、エステル基、エーテル基、アシル基、アルデヒド基、アルキル基、アルキレン基、アリール基、これらの2種以上の組み合わせ等が挙げられる。他の置換基が2種以上の組み合わせの場合、それぞれの置換基の含有比率は限定されない。他の置換基としては、中でも、ナノ分散性の観点からアニオン性置換基及びその塩、又はアシル基が好ましい。アニオン性置換基及びその塩としては、特にカルボキシ基、リン酸エステル基、亜リン酸エステル基、ザンテート基が好ましい。アニオン性置換基が塩の形態である場合、ナノ分散性の観点からナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩が特に好ましい。また特に好ましいアシル基としては、ナノ分散性の観点からアセチル基が好ましい。
【0042】
本発明において、セルロースナノファイバーは、硫酸エステル基に起因する硫黄導入量が、0.5mmol/g以上、3.5mmol/g以下である。硫酸エステル基導入量は、前記範囲内で、用途等に応じて任意の適切な値に設定することができる。本発明の効果をより一層好適に発揮する観点から、セルロースナノファイバーの、硫酸エステル基に起因する硫黄導入量は、セルロースナノファイバー1g当たりの硫黄含有率(mmol)で表すことができる。硫黄導入量は、0.7mmol/g以上、3.2mmol/g以下であることが好ましく、1.0mmol/g以上、3.0mmol/g以下であることがより好ましい。
【0043】
セルロースナノファイバーの硫黄導入量は、例えば実施例で記載した有機元素分析装置(EA-3100、JASCO製)を用いて求めることができる。硫黄導入量は、例えばパルプを解繊する際に用いる溶液(解繊溶液)中の硫酸等の試薬の濃度、解繊溶液に対するパルプの量、反応時間、反応温度等を制御することにより、調整することができる。
【0044】
前記セルロースナノファイバーは、天然セルロース固有のI型結晶構造を有することが好ましい。I型結晶構造を有するセルロースナノファイバーは、親水性が高く、保水性及び保湿性に優れる。また、当該セルロースナノファイバーは、カチオン、金属、及び、無機粒子などの吸着性に優れる。
【0045】
セルロースナノファイバーの平均繊維径は、特に制限されないが、本発明効果をより一層好適に発揮する観点から、好ましくは1nm以上、より好ましくは2nm以上、さらに好ましくは3nm以上、さらに好ましくは5nm以上であり、また、好ましくは1000nm以下、より好ましくは100nm以下、さらに好ましくは50nm以下、さらに好ましくは20nm以下である。セルロースナノファイバーの平均繊維径が1nm以上であることにより、前記カーボンナノチューブの分散性がより一層良好になる傾向がある。一方、セルロースナノファイバーの平均繊維径が1000nm以下であることにより、セルロースナノファイバーの繊維径が大き過ぎず、セルロースナノファイバーとしての性能が発揮され易い傾向がある。本発明において、硫酸エステル基を含むセルロースナノファイバーの平均繊維径は、原子間力顕微鏡(例えば、SPM-9700HT、株式会社島津製作所製)を用いて、任意に選択した50本の繊維における繊維幅(繊維径(円相当直径))及び繊維長を計測し、それぞれ加算平均値をとることで測定することができる。平均繊維径は硫酸等の試薬の濃度、反応溶液に対するパルプの量、反応時間を調整することにより、所望の範囲に設定することができる。
【0046】
そして、本発明のCNT分散液中における、硫酸エステル基を含む前記セルロースナノファイバーの含有率は、固形分換算で、好ましくは0.005質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上、さらに好ましくは0.05質量%以上、さらに好ましくは0.1質量%以上、さらに好ましくは0.5質量%以上、さらに好ましくは1.0質量%以上、さらに好ましくは5質量%以上、さらに好ましくは10質量%以上であり、また、好ましくは99質量%以下、より好ましくは95質量%以下、さらに好ましくは90質量%以下である。ここで、本発明のCNT分散液における硫酸エステル基を含む前記セルロースナノファイバーの含有率とは、分散液中の固形分に占める硫酸エステル基を含む前記セルロースナノファイバーの割合である。硫酸エステル基を含むセルロースナノファイバーの含有率が前記値を満たすことにより、CNT分散液中の固形分含有率が小さ過ぎず、単層CNTの分散効率が高い。また、当該セルロースナノファイバーの含有率が前記値を満たすことにより、攪拌がスムーズで単層CNTの分散が効率的に進行する。CNT分散液中の硫酸エステル基を含むセルロースナノファイバーの含有率は、CNT分散液を遠心分離し、硫酸エステル基を含むセルロースナノファイバーと、単層CNT等とを分離することによって、求めることができる。
【0047】
(分散媒)
本発明のCNT分散液に含まれる分散媒は、前記の単層カーボンナノチューブ及びセルロースナノファイバーを分散液中で分散させることができ、かつ、その後に乾燥などによって除去してセルロースナノファイバー分散体が得られるものであれば、特に制限されない。分散媒は、例えば用途に応じて任意に選択することができるが、単層CNTとS-CNFとを良好に分散させる観点から、メタノール、エタノールなどのアルコール類;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類;水;などの極性溶媒が好ましく、これらの中でも特に水が好ましい。
【0048】
(他の成分)
本発明のCNT分散液は、本発明の効果を阻害しないことを限度として、前記のカーボンナノチューブ、セルロースナノファイバー、及び分散媒に加えて、さらに他の成分を含んでいても良い。他の成分としては、例えば、分散剤、結着材(バインダー)、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、顔料、着色剤、発泡剤、界面活性剤、帯電防止剤、難燃剤、滑剤、軟化剤、粘着付与剤、可塑剤、離型剤、防臭剤、香料等が挙げられる。
【0049】
本発明のCNT分散液に用いる分散剤は特に限定しないが、具体的にはカルボキシメチルセルロース、ポリビニルブチラール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアセタール等の高分子系分散剤と脂肪酸ナトリウム、脂肪酸カリウム、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム、アルキル硫酸エステルナトリウム、アルキルスルホン酸ナトリウム、アルキルエーテル硫酸エステルナトリウム、モノアルキルリン酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステルナトリウム、脂肪酸エステルスルホン酸ナトリウム、脂肪酸エステル硫酸エステルナトリウム、脂肪酸アルキロースアミド硫酸エステルナトリウム、脂肪酸アミドスルホン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、塩化アルキルメチルアンモニウム、塩化アルキルトリメチルアンモニウム、塩化ジアルキルジメチルアンモニウム、塩化アルキルジメチルベンジルアンモニウム、塩化アルキルピリジニウム等の低分子系分散剤を例示することができる。分散剤の含有量は目的とする導電性を阻害しない範囲で特に限定されないが、カーボンナノチューブ(A)100質量部に対して、10質量部以上であることが好ましく、20質量部以上であることがより好ましく、50質量部以上であることが特に好ましく、500質量部以下であることが好ましく、300質量部以下であることがより好ましく、100質量部以下であることが特に好ましい。
【0050】
本発明のCNT分散液の固形分は、特に制限されないが、単層カーボンナノチューブを好適に分散させつつ、カーボンナノチューブ複合体を好適に製造する観点から、好ましくは0.01~10.0質量%程度、より好ましくは0.05~8.0質量%程度、さらに好ましくは0.1~5.0質量%程度である。
【0051】
例えば、本発明のCNT分散液は、結着材(バインダー)の含有率は、固形分換算で、好ましくは50質量%以下、より好ましくは30質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下であり、特に好ましくは0質量%(すなわち結着材(バインダー)を含まない)である。結着材の例としては、導電性ポリマー、カルボジイミド含有ポリマー、オキサゾリン基含有ポリマー、エポキシ基含有ポリマー等の重合体を挙げることができる。本発明のCNT分散液における結着剤の含有率が前記値を満たすことにより、カーボンナノチューブ複合体の導電性を更に高めたり、強度を更に強めたりすることができる。
【0052】
本発明のCNT分散液は、フィルム等の基材に塗布、乾燥させることにより、カーボンナノチューブ複合体を成膜することができる。すなわち、硫酸エステル基を含むセルロースナノファイバーを含有する本発明のCNT分散液を、基材等に塗布(キャスト)すると、繊維が自己組織化して規則的に並ぶため、結着材等を使用しなくても、カーボンナノチューブ複合体としての緻密な自立フィルムを形成することができる。
【0053】
基材としては、特に制限されず、例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリプロピレンフィルム、トリアセチルセルロースフィルム、ナイロンフィルム、ポリカーボネートフィルムなどの樹脂フィルムが挙げられる。
【0054】
2.カーボンナノチューブ分散液の製造方法
本発明のカーボンナノチューブ分散液の製造方法は、前記「1.カーボンナノチューブ分散液」の項目で説明したCNT分散液が得られる方法であれば、特に制限されないが、例えば、以下の工程を備える方法によって、好適に製造することができる。
カーボンナノチューブ、セルロースナノファイバー、及び分散媒を混合して粗分散液を調製する工程(粗分散工程)
粗分散液を分散処理して、カーボンナノチューブ分散液を得る工程(分散処理工程)
【0055】
本発明のカーボンナノチューブ分散液の製造方法で使用されるカーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブであり、かつ、共鳴ラマン散乱法で測定される、励起波長532nmのラマンスペクトルにおけるGバンドとDバンドのピーク強度比G/Dが、30以上である。また、セルロースナノファイバーは、前記(1)式で表される硫酸エステル基を有し、かつ、当該硫酸エステル基に起因する硫黄導入量が、0.5mmol/g以上3.5mmol/g以下である。単層カーボンナノチューブ及びセルロースナノファイバーの詳細、固形分含有率、その他の成分等については、前記「1.カーボンナノチューブ分散液」の項目で説明した通りである。
【0056】
本発明のカーボンナノチューブ分散液の製造方法では、まずは、粗分散工程において、カーボンナノチューブ、セルロースナノファイバー、及び分散媒を混合して粗分散させる。次に得られた粗分散液を分散処理することにより、本発明のカーボンナノチューブ分散液が得られる。
【0057】
粗分散工程において、粗分散液は、(1)分散媒中にS-CNFと単層CNTとを添加することにより調製してもよいし、(2)分散媒中にS-CNFを分散させてなるS-CNF分散液中に単層CNTを添加し、任意に追加の分散媒を更に添加することにより調製してもよいし、(3)分散媒中に単層CNTを分散させてなる単層CNT分散液中にS-CNFを添加し、任意に追加の分散媒を更に添加することにより調製してもよいし、(4)S-CNF分散液と単層CNT分散液とを混合し、任意に追加の分散媒を更に添加することにより調製してもよい。中でも、S-CNFおよび単層CNTを良好に分散させる観点からは、上記(2)~(4)の何れかの調製方法が好ましく、(2)の調製方法がより好ましい。
【0058】
なお、S-CNF分散液や単層CNT分散液の調製法は、特に限定されることなく、攪拌子を用いて分散液を直接攪拌する方法や、キャビテーション効果が得られる分散方法や、解砕効果が得られる分散方法などの既知の方法を用いて調製することができる。ここで、「キャビテーション効果が得られる分散方法」とは、液体に高エネルギーを付与した際、液体中で圧力差が生じて該液体中に生じた真空の気泡が破裂することにより生じた衝撃波を利用した分散方法である。キャビテーション効果が得られる分散処理の具体例としては、超音波による分散処理、ジェットミルによる分散処理、及び高剪断撹拌による分散処理が挙げられる。
【0059】
粗分散液の超音波分散処理は、特に限定されることなく、既知の超音波分散処理装置を用いて行うことができる。超音波処理の際は、分散液の周りを冷却しながら行うことで、S-CNF又は単層CNTのダメージを抑制できるので好ましい。
【0060】
分散処理工程における分散処理は、高速回転式、コロイドミル式、高圧式、ロールミル式、超音波式、又は超高圧湿式の微細化装置(具体的には、超音波分散処理装置、超高圧湿式微細化装置など)を用いて、粗分散液中のカーボンナノチューブのバンドル(束)を機械的に解繊する方法を用いてナノ分散化させる処理である。
【0061】
3.カーボンナノチューブ複合体
本発明のカーボンナノチューブ複合体は、本発明のカーボンナノチューブ分散液から分散媒を除去することにより得られる。
【0062】
本発明のカーボンナノチューブ複合体に含まれるカーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブであり、かつ、共鳴ラマン散乱法で測定される、励起波長532nmのラマンスペクトルにおけるGバンドとDバンドのピーク強度比G/Dが、30以上である。また、セルロースナノファイバーは、前記(1)式で表される硫酸エステル基を有し、かつ、当該硫酸エステル基に起因する硫黄導入量が、0.5mmol/g以上3.5mmol/g以下である。単層カーボンナノチューブ及びセルロースナノファイバーの詳細、固形分含有率、その他の成分等については、前記「1.カーボンナノチューブ分散液」の項目で説明した通りである。
【0063】
本発明のカーボンナノチューブ分散液から分散媒を除去する方法としては、濾過、乾燥などが挙げられる。
【0064】
本発明のカーボンナノチューブ複合体の形状は、特に制限されず、用途等に応じて適宜選択すればよい。本発明のカーボンナノチューブ複合体の形状は、例えば、フィルム状とすることができる。前記の通り、本発明のCNT分散液は、基材に塗布、乾燥させることにより、カーボンナノチューブ複合体をフィルム状に成膜することができる。例えば、フィルム状のCNT複合体は、CNT分散液をそのままシャーレ等の容器内で乾燥させる方法、基材上のCNT分散液の塗膜を乾燥する方法などにより、調製することが好ましい。例えば35~60℃、40~60%RHの恒温恒湿槽内で、水等の分散媒を急激に蒸発させず、徐々に蒸発させる乾燥によって、皺のないフィルム状のCNT複合体が得られる。
【0065】
本発明のカーボンナノチューブ複合体がフィルムである場合、厚みとしては、好ましくは1.0μm以上、より好ましくは2.0μm以上、さらに好ましくは2.5μm以上であり、また、好ましくは10.0μm以下、より好ましくは8.0μm以下、さらに好ましくは7.5μm以下である。
【0066】
本発明のCNT複合体は、以下の測定法によって得られるCNT複合体の導電率が、好ましくは1×103S/cm以上、より好ましくは1.3×103S/cm以上、さらに1.5×103S/cm以上であり、導電率の上限については、例えば、1×104S/cmが挙げられる。
【0067】
(導電率の測定法)
カーボンナノチューブ分散液において、分散媒としてイオン交換水を用い、カーボンナノチューブ、セルロースナノファイバー、及び分散媒を混合して粗分散液を調製する工程(前記粗分散工程)と、粗分散液を分散処理する工程(前記分散処理工程)を行う。カーボンナノチューブ分散液におけるカーボンナノチューブとセルロースナノファイバーとの質量比は50:50とし、これらの合計濃度は0.4質量%とする。
得られたカーボンナノチューブ分散液をポリエチレンテレフタレートフィルム上に塗布し、40℃のオーブン中で5日間乾燥させて、厚さが5μmのカーボンナノチューブとセルロースナノファイバーとの複合体を得る。
得られた複合体の表面抵抗率(Ω/sq)及び導電率(S/cm)を抵抗率計にて測定する。
【0068】
本発明のCNT複合体は、高い導電性を備えることから、例えば導電性フィルム、導電性インクなどとして好適に使用することができる。例えば、導電性インクは、塗布、印刷により、配線、透明導電材料、センサとしての応用が期待される。
【実施例0069】
以下に、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。以下の実施例は本発明の権利範囲を何ら制限するものではない。
【0070】
実施例及び比較例で用いた原料の詳細は、以下の通りである。
【0071】
(単層カーボンナノチューブ)
・単層CNT-A:株式会社大阪ソーダ製の単層カーボンナノチューブ(製品名:OStube) 外径:2.0-3.0nm、炭素純度:99.7%、共鳴ラマン散乱法で測定される、励起波長532nmのラマンスペクトルにおけるピーク強度比G/D:80
・単層CNT-A’:株式会社大阪ソーダ製の単層カーボンナノチューブ(製品名:OStube) 外径:2.0-3.0nm、炭素純度:99.5%、共鳴ラマン散乱法で測定される、励起波長532nmのラマンスペクトルにおけるピーク強度比G/D:50
・単層CNT-B:日本ゼオン株式会社製の単層カーボンナノチューブ(製品名:ZEONANO SG101) 外径:4.0nm、炭素純度:99.2%、共鳴ラマン散乱法で測定される、励起波長532nmのラマンスペクトルにおけるピーク強度比G/D:3
【0072】
(セルロースナノファイバーの調製)
(S-CNF-1:硫酸エステル基に起因する硫黄導入量3.5mmol/g)
ジメチルスルホキシド(DMSO)180g、無水酢酸20g及び硫酸5.6gを300mlのサンプル瓶に入れ、25℃の室温下で磁性スターラーを用いて約30秒撹拌し、解繊溶液を調製した。
【0073】
次いで、解繊溶液に針葉樹クラフトパルプNBKP(日本製紙製)6.0gを加え、25℃の室温下でさらに2時間撹拌し、硫酸エステル化反応を行った。撹拌後、セルロースを含む解繊溶液に蒸留水を250ml加えて反応を停止させ、続いて5質量%の水酸化ナトリウム水溶液をpHが7になるまで加え、反応液を中和した。その後、遠心分離により上澄みを除いた。
【0074】
さらに蒸留水1350mlを加えて均一分散するまで攪拌した後、遠心分離により上澄みを除いた。同じ手順を繰り返し合計3回洗浄した。遠心分離により洗浄した後に蒸留水を加え、全体の重さが600gになるまで希釈した。
【0075】
次に、ミキサー(G5200、Biolomix製)を用いて3分撹拌することにより1質量%濃度の均一な、硫酸エステル基を有するセルロースナノファイバー(硫酸エステル化CNF)の水分散液を得た。硫酸エステル基を有するセルロースナノファイバー水分散液を用い、原子間力顕微鏡(SPM-9700HT、株式会社島津製作所製)による評価を行ったところ、硫酸エステル基を有するセルロースナノファイバーの平均繊維径は2nmであった。
【0076】
硫酸エステル化CNFの水分散液を23℃の室温下で24時間乾燥させ、固体状の硫酸エステル化CNFを得た。有機元素分析装置(EA-3100、JASCO製)を用いて硫酸エステル基を定量したところ、セルロースのグルコース単位当たりの硫酸エステル基置換度は3.5mmol/gであった。またX線回折測定装置(LabX XRD-6000、島津製作所製)を用いた結晶性評価をしたところ、セルロースI型構造が認められた。
【0077】
(S-CNF-2:硫酸エステル基に起因する硫黄導入量2.7mmol/g)
ジメチルスルホキシド(DMSO)180g、無水酢酸20g及び硫酸4.0gを300mlのサンプル瓶に入れ、25℃の室温下で磁性スターラーを用いて約30秒撹拌し、解繊溶液を調製した。
【0078】
次いで、解繊溶液に針葉樹クラフトパルプNBKP(日本製紙製)6.0gを加え、25℃の室温下でさらに2時間撹拌し、硫酸エステル化反応を行った。撹拌後、セルロースを含む解繊溶液に蒸留水を250ml加えて反応を停止させ、続いて5質量%の水酸化ナトリウム水溶液をpHが7になるまで加え、反応液を中和した。その後、遠心分離により上澄みを除いた。
【0079】
さらに蒸留水1350mlを加えて均一分散するまで攪拌した後、遠心分離により上澄みを除いた。同じ手順を繰り返し合計3回洗浄した。遠心分離により洗浄した後に蒸留水を加え、全体の重さが600gになるまで希釈した。
【0080】
次に、ミキサー(G5200、Biolomix製)を用いて3分撹拌することにより1質量%濃度の均一な、硫酸エステル基を有するセルロースナノファイバー(硫酸エステル化CNF)の水分散液を得た。硫酸エステル基を有するセルロースナノファイバー水分散液を用い、原子間力顕微鏡(SPM-9700HT、株式会社島津製作所製)による評価を行ったところ、硫酸エステル基を有するセルロースナノファイバーの平均繊維径は6nmであった。
【0081】
硫酸エステル化CNFの水分散液を23℃の室温下で24時間乾燥させ、固体状の硫酸エステル化CNFを得た。有機元素分析装置(EA-3100、JASCO製)を用いて硫酸エステル基を定量したところ、セルロースのグルコース単位当たりの硫酸エステル基置換度は2.7mmol/gであった。またX線回折測定装置(LabX XRD-6000、島津製作所製)を用いた結晶性評価をしたところ、セルロースI型構造が認められた。
【0082】
(S-CNF-3:硫酸エステル基に起因する硫黄導入量0.5mmol/g)
ジメチルスルホキシド(DMSO)180g、無水酢酸20g及び硫酸1.0gを300mlのサンプル瓶に入れ、25℃の室温下で磁性スターラーを用いて約30秒撹拌し、解繊溶液を調製した。
【0083】
次いで、解繊溶液に針葉樹クラフトパルプNBKP(日本製紙製)6.0gを加え、25℃の室温下でさらに2時間撹拌し、硫酸エステル化反応を行った。撹拌後、セルロースを含む解繊溶液に蒸留水を250ml加えて反応を停止させ、続いて5質量%の水酸化ナトリウム水溶液をpHが7になるまで加え、反応液を中和した。その後、遠心分離により上澄みを除いた。
【0084】
さらに蒸留水1350mlを加えて均一分散するまで攪拌した後、遠心分離により上澄みを除いた。同じ手順を繰り返し合計3回洗浄した。遠心分離により洗浄した後に蒸留水を加え、全体の重さが600gになるまで希釈した。
【0085】
次に、ミキサー(G5200、Biolomix製)を用いて3分撹拌することにより1質量%濃度の均一な、硫酸エステル基を有するセルロースナノファイバー(硫酸エステル化CNF)の水分散液を得た。硫酸エステル基を有するセルロースナノファイバー水分散液を用い、原子間力顕微鏡(SPM-9700HT、株式会社島津製作所製)による評価を行ったところ、硫酸エステル基を有するセルロースナノファイバーの平均繊維径は92nmであった。
【0086】
硫酸エステル化CNFの水分散液を23℃の室温下で24時間乾燥させ、固体状の硫酸エステル化CNFを得た。有機元素分析装置(EA-3100、JASCO製)を用いて硫酸エステル基を定量したところ、セルロースのグルコース単位当たりの硫酸エステル基置換度は0.5mmol/gであった。またX線回折測定装置(LabX XRD-6000、島津製作所製)を用いた結晶性評価をしたところ、セルロースI型構造が認められた。
【0087】
(S-CNF-4:硫酸エステル基に起因する硫黄導入量0.2mmol/g)
ジメチルスルホキシド(DMSO)180g、無水酢酸10g及び硫酸0.5gを300mlのサンプル瓶に入れ、25℃の室温下で磁性スターラーを用いて約30秒撹拌し、解繊溶液を調製した。
【0088】
次いで、解繊溶液に針葉樹クラフトパルプNBKP(日本製紙製)6.0gを加え、25℃の室温下でさらに2時間撹拌し、硫酸エステル化反応を行った。撹拌後、セルロースを含む解繊溶液に蒸留水を250ml加えて反応を停止させ、続いて5質量%の水酸化ナトリウム水溶液をpHが7になるまで加え、反応液を中和した。その後、遠心分離により上澄みを除いた。
【0089】
さらに蒸留水1350mlを加えて均一分散するまで攪拌した後、遠心分離により上澄みを除いた。同じ手順を繰り返し合計3回洗浄した。遠心分離により洗浄した後に蒸留水を加え、全体の重さが600gになるまで希釈した。
【0090】
次に、ミキサー(G5200、Biolomix製)を用いて3分撹拌することにより1質量%濃度の均一な、硫酸エステル基を有するセルロースナノファイバー(硫酸エステル化CNF)の水分散液を得た。
【0091】
硫酸エステル化CNFの水分散液を23℃の室温下で24時間乾燥させ、固体状の硫酸エステル化CNFを得た。有機元素分析装置(EA-3100、JASCO製)を用いて硫酸エステル基を定量したところ、セルロースのグルコース単位当たりの硫酸エステル基置換度は0.2mmol/gであった。またX線回折測定装置(LabX XRD-6000、島津製作所製)を用いた結晶性評価をしたところ、セルロースI型構造が認められた。
【0092】
<セルロースナノファイバーの平均繊維径>
セルロースナノファイバー(S-CNF)の分散液を希釈して、S-CNFの濃度が0.0001質量%の分散液を調整した。その後、得られた分散液を原子間力顕微鏡(SPM-9700HT、株式会社島津製作所製)を用いて、任意に選択した50本の繊維における繊維径を計測し、それぞれ加算平均値をとり、S-CNFの平均繊維径を算出した。
【0093】
<セルロースナノファイバーのI型結晶構造>
化学変性セルロース繊維のセルロースI型の結晶化度の測定方法は、以下の通りである:
試料をガラスセルに乗せ、X線回折測定装置(LabX XRD-6000、島津製作所製)を用いて測定する。結晶化度の算出はSegal等の手法を用いて行い、X線回折図の2θ=10°~30°の回折強度をベースラインとして、2θ=22.6°の002面の回折強度と2θ=18.5°のアモルファス部分の回折強度から次式により算出する。
Xc=(I002c-Ia)/I002c×100
Xc=セルロースのI型の結晶化度(%)
I002c:2θ=22.6°、002面の回折強度
Ia:2θ=18.5°、アモルファス部分の回折強度。
【0094】
(実施例1)
<カーボンナノチューブ分散液の製造>
(1)粗分散処理
イオン交換水1,480g、S-CNF-2(硫黄導入量2.7mmol/g)2.96g、及び5cm角シート状の単層CNT-A(G/D:80)0.015gを2Lのポリエチレン製容器に入れて混合液を得た。次に、プライミクス社製T.Kロボミクスを用い、正転5,000rpmで10秒、逆転5,000rpmで10秒の条件で混合液の攪拌を合計5セット実施し、カーボンナノチューブの分散処理を行うことで、0.001質量%カーボンナノチューブ水粗分散液を1,480g得た。
【0095】
(2)機械分散処理
次に、ホース出口に穴径3.5mmφのスプレーノズルを装着したユニットに、前記カーボンナノチューブ水粗分散液を1回通し、スギノマシン社製スターバーストMINIを使い(ノズル径;0.5mmφ、245MPa、10パス)で分散処理を行い、0.001質量%カーボンナノチューブ分散液(カーボンナノチューブ分散体)を得た。
【0096】
<カーボンナノチューブ複合体の製造>
得られたカーボンナノチューブ分散液を、フィルムアプリケーターを用いて、PETフィルム上にコートし、40℃のオーブンで5日間乾燥した。次に、PETフィルム上の乾燥物をPETフィルムから剥がし、それぞれ、厚み5μmカーボンナノチューブ複合体(キャストフィルム:CNT-A/S-CNF-2(質量比)=0.5/99.5)を得た。
【0097】
(実施例2)
実施例1において、単層CNT-A(G/D:80)を0.015g、S-CNF-2(硫黄導入量2.7mmol/g)を1.485gとしたこと以外は、実施例1と同様にして、厚み5μmのカーボンナノチューブ複合体(キャストフィルム:CNT-A/S-CNF-2(質量比)=1.0/99.0)を得た。
【0098】
(実施例3)
実施例1において、単層CNT-A(G/D:80)を0.03g、S-CNF-2(硫黄導入量2.7mmol/g)を0.57gとしたこと以外は、実施例1と同様にして、厚み5μmのカーボンナノチューブ複合体(キャストフィルム:CNT-A/S-CNF-2(質量比)=5.0/95.0)を得た。
【0099】
(実施例4)
実施例1において、単層CNT-A(G/D:80)を0.06g、S-CNF-2(硫黄導入量2.7mmol/g)を0.54gとしたこと以外は、実施例1と同様にして、厚み5μmのカーボンナノチューブ複合体(キャストフィルム:CNT-A/S-CNF-2(質量比)=10.0/90.0)を得た。
【0100】
(実施例5)
実施例1において、単層CNT-A(G/D:80)を0.12g、S-CNF-2(硫黄導入量2.7mmol/g)を0.28gとしたこと以外は、実施例1と同様にして、厚み5μmのカーボンナノチューブ複合体(キャストフィルム:CNT-A/S-CNF-2(質量比)=30.0/70.0)を得た。
【0101】
(実施例6)
実施例1において、単層CNT-A(G/D:80)を0.24g、S-CNF-2(硫黄導入量2.7mmol/g)を0.24gとしたこと以外は、実施例1と同様にして、厚み5μmのカーボンナノチューブ複合体(キャストフィルム:CNT-A/S-CNF-2(質量比)=50.0/50.0)を得た。
【0102】
(実施例7)
実施例6において、S-CNF-2(硫黄導入量2.7mmol/g)の代わりに、S-CNF-1(硫黄導入量3.5mmol/g)を用いたこと以外は、実施例6と同様にして、厚み5μmのカーボンナノチューブ複合体(キャストフィルム:CNT-A/S-CNF-1(質量比)=50.0/50.0)を得た。
【0103】
(実施例8)
実施例6において、S-CNF-2(硫黄導入量2.7mmol/g)の代わりに、S-CNF-3(硫黄導入量0.5mmol/g)を用いたこと以外は、実施例6と同様にして、厚み5μmのカーボンナノチューブ複合体(キャストフィルム:CNT-A/S-CNF-3(質量比)=50.0/50.0)を得た。
【0104】
(実施例9)
実施例6において、単層CNT-Aの代わりに、単層CNT-A’ (G/D:50)を用いたこと以外は、実施例6と同様にして、厚み5μmのカーボンナノチューブ複合体(キャストフイルム:CNT-A’/S-CNF-2(質量比)=50.0/50.0)を得た。
【0105】
(比較例1)
実施例6において、単層CNT-Aの代わりに、単層CNT-B(G/D:3)を用いたこと以外は、実施例6と同様にして、厚み5μmのカーボンナノチューブ複合体(キャストフィルム:CNT-B/S-CNF-2(質量比)=50.0/50.0)を得た。
【0106】
(比較例2)
実施例4において、S-CNF-2(硫黄導入量2.7mmol/g)の代わりに、S-CNF-4(硫黄導入量0.2mmol/g)を用いたこと以外は、実施例4と同様にして、厚み5μmのカーボンナノチューブ複合体(キャストフィルム:CNT-A/S-CNF-4(質量比)=10.0/90.0)を得た。
【0107】
(比較例3)
実施例5において、S-CNF-2(硫黄導入量2.7mmol/g)の代わりに、S-CNF-4(硫黄導入量0.2mmol/g)を用いたこと以外は、実施例5と同様にして、厚み5μmのカーボンナノチューブ複合体(キャストフィルム:CNT-A/S-CNF-4(質量比)=30.0/70.0)を得た。
【0108】
[カーボンナノチューブ分散液(カーボンナノチューブ分散体)の分散性評価]
実施例1~9および比較例1~3で得られたカーボンナノチューブ分散液(カーボンナノチューブ分散体)について、以下の評価基準に従って分散性を目視で評価した。
〔評価基準〕
○:目で見える凝集物が存在しない。
×:目で見える凝集物が存在する。
【0109】
[カーボンナノチューブ複合体の導電性評価]
(表面抵抗率及び導電率測定)
印加電圧:500V、測定環境:25℃±2℃、45%±5%RHの条件において、日東精工アナリテック製 ハイレスターUX(MCP-HT800)及びロレスターAX(MCP-T370)を用いてカーボンナノチューブ複合体の表面抵抗率(Ω/sq)を測定し、導電率(S/cm)を算出した。結果を表1に示す。
【0110】
【表1】
【0111】
表1に示される実施例の結果から、所定値以上のG/D比を備える結晶性の高いカーボンナノチューブの分散剤として、硫黄導入量が特定範囲の硫酸エステル基を有したセルロースナノファイバー(S-CNF)を用いることで、高い導電性を備えるカーボンナノチューブ複合体が得られることが分かる。これは、特定のセルロースナノファイバー(S-CNF)を分散剤とすることにより、カーボンナノチューブ分散液中において、結晶性の高いカーボンナノチューブが良好に分散したことに起因するといえる。
【0112】
特に、実施例6、7、8、9と比較例1とを比較すると、カーボンナノチューブ複合体中の単層CNT量が50質量%という高濃度であるにも関わらず、硫黄導入量が特定範囲の硫酸エステル基を有したセルロースナノファイバー(S-CNF)を用いることで、結晶性の高い単層CNTが良好に分散し、極めて高い導電率を有するカーボンナノチューブ複合体(フィルム)が得られることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明のカーボンナノチューブ分散液を用いたカーボンナノチューブ複合体は、導電性フィルムとして好適に使用することができるほか、導電性インクとして使用することができる。さらに、当該導電性インクは塗布・印刷することにより、配線、透明導電材料、センサとしての応用が期待できる。