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特開2024-13574電極活物質Si粒子、電極合材、リチウムイオン電池、及び電極活物質Si粒子の製造方法
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  • 特開-電極活物質Si粒子、電極合材、リチウムイオン電池、及び電極活物質Si粒子の製造方法 図1
  • 特開-電極活物質Si粒子、電極合材、リチウムイオン電池、及び電極活物質Si粒子の製造方法 図2
  • 特開-電極活物質Si粒子、電極合材、リチウムイオン電池、及び電極活物質Si粒子の製造方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024013574
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】電極活物質Si粒子、電極合材、リチウムイオン電池、及び電極活物質Si粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/38 20060101AFI20240125BHJP
   H01M 4/134 20100101ALI20240125BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20240125BHJP
   H01M 10/0565 20100101ALI20240125BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20240125BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20240125BHJP
   C01B 33/02 20060101ALI20240125BHJP
   C01B 33/021 20060101ALI20240125BHJP
【FI】
H01M4/38 Z
H01M4/134
H01M10/0562
H01M10/0565
H01M4/36 D
H01M4/36 A
H01M10/052
C01B33/02 E
C01B33/021
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022115756
(22)【出願日】2022-07-20
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100133835
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 努
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 修二郎
(72)【発明者】
【氏名】眞下 直大
(72)【発明者】
【氏名】大瀧 光俊
(72)【発明者】
【氏名】吉田 淳
(72)【発明者】
【氏名】原田 正則
(72)【発明者】
【氏名】山口 泰弘
(72)【発明者】
【氏名】浦部 晃太
(72)【発明者】
【氏名】江口 達哉
【テーマコード(参考)】
4G072
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
4G072AA01
4G072BB05
4G072BB12
4G072BB15
4G072HH02
4G072JJ30
4G072LL02
4G072MM24
4G072MM33
4G072UU30
5H029AJ14
5H029AK03
5H029AL11
5H029AL19
5H029AM03
5H029AM05
5H029AM07
5H029AM12
5H029AM16
5H029BJ12
5H029CJ02
5H029CJ08
5H029DJ13
5H029DJ16
5H029HJ05
5H029HJ07
5H029HJ14
5H050AA19
5H050BA16
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB11
5H050CB29
5H050DA03
5H050FA02
5H050FA13
5H050FA17
5H050GA02
5H050GA10
5H050HA05
5H050HA07
5H050HA14
5H050HA20
(57)【要約】
【課題】本開示は、充放電時における電池の拘束圧の変動を抑制することができる電極活物質Si粒子を提供することを主な目的とする。
【解決手段】本開示の電極活物質Si粒子は、クラスレート型Si及びダイヤモンド型Siを同一の粒子内に有している。本開示の電極活物質Si粒子は、ダイヤモンド型Siを、電極活物質Si粒子全体に対して0.05~11.00面積%含有していることが好ましい。クラスレート型Siは、少なくとも部分的にクラスレートII型構造を有していることが好ましい。本開示の電極活物質Si粒子は、ポーラス構造を有していることが好ましい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クラスレート型Si及びダイヤモンド型Siを同一の粒子内に有している、電極活物質Si粒子。
【請求項2】
ダイヤモンド型Siを、電極活物質Si粒子全体に対して0.05~11.00面積%含有している、請求項1に記載の電極活物質Si粒子。
【請求項3】
前記クラスレート型Siは、少なくとも部分的にクラスレートII型構造を有している、請求項1又は2に記載の電極活物質Si粒子。
【請求項4】
ポーラス構造を有している、請求項1又は2に記載の電極活物質Si粒子。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の電極活物質Si粒子を含有している、電極合材。
【請求項6】
請求項5に記載の電極合材を含有している負極層、電解質層、及び正極層をこの順に有している、リチウムイオン電池。
【請求項7】
前記セパレータ層が固体電解質層である、請求項6に記載のリチウムイオン電池。
【請求項8】
NaSi合金粉末と、Naトラップ剤とを混合して、加熱温度250~500℃かつ加熱時間30~200時間で加熱することによって、クラスレート型構造を有するSi粒子を得ることを有している、
電極活物質Si粒子の製造方法。
【請求項9】
前記Naトラップ剤の平均粒径(D50)は、60~80μmである、請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
Si粉末とNaH粉末とをメカニカルミリングして、加熱温度250~350℃かつ加熱時間1~20時間、又は加熱温度400~800℃かつ加熱時間30~100時間で加熱して、前記NaSi合金粉末を得ることを含んでいる、請求項8又は9に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電極活物質Si粒子、電極合材、リチウムイオン電池、及び電極活物質Si粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電池の開発が盛んに行われている。例えば、自動車産業界では、電気自動車またはハイブリッド自動車に用いられる電池の開発が進められている。また、電池に用いられる活物質として、Siが知られている。
【0003】
特許文献1は、シリコンクラスレートII型の結晶相を有し、一次粒子の内部に空隙を有し、細孔直径が100nm以下である空隙の空隙量が、0.05cc/g以上、0.15cc/g以下である、活物質を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-158004号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、活物質としてのSi粒子は、電池の高エネルギー密度化に有効である一方で、充放電時における体積変化が大きい。活物質の膨張収縮は、電池の拘束圧の変動をもたらす。電池の拘束圧の変動を低減するための手段として、充放電に伴う活物質の膨張収縮を抑制することが考えられる。
【0006】
特許文献1に記載されるクラスレート型構造を有するSi粒子は、充放電時における体積変化の低減に有利である。
【0007】
本開示は、充放電時における電池の拘束圧の変動を抑制することができる電極活物質Si粒子を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、以下の手段により上記課題を達成することができることを見出した:
《態様1》
クラスレート型Si及びダイヤモンド型Siを同一の粒子内に有している、電極活物質Si粒子。
《態様2》
ダイヤモンド型Siを、電極活物質Si粒子全体に対して0.05~11.00面積%含有している、態様1に記載の電極活物質Si粒子。
《態様3》
前記クラスレート型Siは、少なくとも部分的にクラスレートII型構造を有している、態様1又は2に記載の電極活物質Si粒子。
《態様4》
ポーラス構造を有している、態様1~3のいずれか一つに記載の電極活物質Si粒子。
《態様5》
態様1~4のいずれか一つに記載の電極活物質Si粒子を含有している、電極合材。
《態様6》
態様5に記載の電極合材を含有している負極層、電解質層、及び正極層をこの順に有している、リチウムイオン電池。
《態様7》
前記セパレータ層が固体電解質層である、態様6に記載のリチウムイオン電池。
《態様8》
NaSi合金粉末と、Naトラップ剤とを混合して、加熱温度250~500℃かつ加熱時間30~200時間で加熱することによって、クラスレート型構造を有するSi粒子を得ることを有している、
電極活物質Si粒子の製造方法。
《態様9》
前記Naトラップ剤の平均一次粒子径は、D50で60~80μmである、態様8に記載の製造方法。
《態様10》
Si粉末とNaH粉末とをメカニカルミリングして、加熱温度250~350℃かつ加熱時間1~20時間、又は加熱温度400~800℃かつ加熱時間30~100時間で加熱して、前記NaSi合金粉末を得ることを含んでいる、態様8又は9に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、主に、充放電時における電池の拘束圧の変動を抑制することができる電極活物質Si粒子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本開示の第1の実施形態に従うリチウムイオン電池の模式図である。
図2図2は、実施例4の電極活物質Si粒子のASTAR画像である。
図3図3は、実施例4の電極活物質Si粒子における、クラスレートI型Si、クラスレートII型Si、及びダイヤモンド型Siの含有比率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施の形態について詳述する。なお、本開示は、以下の実施の形態に限定されるのではなく、開示の本旨の範囲内で種々変形して実施できる。
【0012】
《電極活物質Si粒子》
本開示の電極活物質Si粒子は、クラスレート型Si及びダイヤモンド型Siを同一の粒子内に有している、Si粒子である。
【0013】
なお、同一の粒子内とは、単一の二次粒子又は単一の一次粒子が、クラスレート型Si及びダイヤモンド型Siを有していることを意味する。単一の一次粒子が、クラスレート型Si及びダイヤモンド型Siを有していることが特に好ましい。
【0014】
Si系の活物質、例えばリチウムイオン電池に用いられるSi系の活物質は、充放電時における膨張収縮が大きいことが知られている。そのようなSi系の活物質の充放電時の膨張収縮を低減した活物質として、クラスレート型Siが挙げられる。
【0015】
本開示の電極活物質Si粒子は、クラスレート型Si及びダイヤモンド型Siを同一の粒子内に有している。ダイヤモンド型Siは、クラスレート型Siと比較して高い導電性を有している。そのため、クラスレート型Si及びダイヤモンド型Siを同一の粒子内に有しているSi粒子は、充放電時に粒子内全体に電子を拡散させやすく、粒子内におけるクラスレート型Siとイオンキャリア、例えばリチウムとの反応の偏りを低減することができ、したがって、充放電時におけるSi粒子の膨張収縮の偏りを抑制することができる。
【0016】
本開示の電極活物質Si粒子を活物質として用いた電池では、充放電時におけるSi粒子の膨張収縮の偏りが抑制されるので、充放電における電池の拘束圧の変動が抑制される。
【0017】
クラスレート型Siとは、電極活物質Siの粒子のうち、クラスレート型の結晶構造を有している部分である。
【0018】
クラスレート型Siは、少なくとも部分的にクラスレートII型構造を有していることが好ましい。クラスレートII型構造を有するSiは、その内部のカゴ構造にイオンキャリア、例えばリチウムを吸蔵することができるため、充放電時における膨張収縮の程度が、他のSi系活物質と比較して低い傾向にあるためである。
【0019】
クラスレートSiは、クラスレートI型及びクラスレートII型の両方を含んでいてよい。
【0020】
クラスレートII型Siの電極活物質Si粒子全体に対する面積比は、50.00~99.05面積%であってよい。クラスレートII型SiのクラスレートSi全体に対する面積比は、50.00面積%以上、60.00面積%以上、70.00面積%以上、又は80.00面積%以上であってよく、99.05面積%以下、98.00面積%以下、95.00面積%以下、又は90.00面積%以下であってよい。
【0021】
なお、クラスレートII型Siの電極活物質Si粒子全体に対する面積比は、解析時の各組成の面積比率によって算出することができる。
【0022】
ダイヤモンド型Siとは、電極活物質Si粒子のうち、ダイヤモンド型構造を有している部分である。
【0023】
ダイヤモンド型Siの電極活物質Si粒子全体に対する面積比は、0.05~11.00面積%であることが好ましい。
【0024】
電極活物質Si粒子がダイヤモンド型Siを0.05面積%以上含有していると、充放電における電池の拘束圧の変動を十分に抑制することができる。これは、電極活物質Si粒子の導電性向上によってクラスレート型Siとイオンキャリア、例えばリチウムとの反応の偏りを低減することができ、したがって、充放電時におけるSi粒子の膨張収縮の偏りを抑制することができることによる。
【0025】
他方、電極活物質Si粒子がダイヤモンド型Siを11.00面積%よりも多く含有していると、電極活物質Si粒子におけるクラスレート型Siの割合が低くなってしまい、電極活物質Si粒子の体積変化の抑制が不十分となる。
【0026】
ダイヤモンド型Siの電極活物質Si粒子全体に対する面積比は、0.05面積%以上、0.10面積%以上、0.20面積%以上、又は0.40面積%以上であってよく、11.00面積%以下、10.00面積%以下、9.00面積%以下、又は8.00面積%以下であってよい。
【0027】
拘束圧の変動を更に抑制する観点から、ダイヤモンド型Siの電極活物質Si粒子全体に対する面積比は、0.40~8.00面積%であることが特に好ましい。
【0028】
なお、ダイヤモンド型Siの電極活物質Si粒子全体に対する面積比は、解析時の各組成の面積比率によって算出することができる。
【0029】
なお、電極活物質Si粒子全体における、クラスレート型Si及びダイヤモンド型Si以外の部分は、例えばアモルファス等であってよい。また、クラスレート型Si全体におけるクラスレートII型Si以外の部分は、クラスレートI型Siであってよい。
【0030】
また、電極活物質Si粒子は、ポーラス構造を有していることがより好ましい。
【0031】
ポーラス構造の有無は、例えば走査型顕微鏡(SEM)等の画像から確認してよい。
【0032】
また、ポーラス構造は、複数の細孔を有している構造、より具体的にはナノポーラス構造、メソポーラス構造、又はマクロポーラス構造であってよい。ナノポーラス構造は、例えば0.5~2.0nmの細孔分布を有する多孔質の構造である。メソポーラス構造は、例えば2.0~50.0nmの細孔分布を有する多孔質の構造である。マクロポーラス構造は、例えば50.0~1000.0nmの細孔分布を有する多孔質の構造である。なお、電極活物質Si粒子の細孔分布は、例えばNガス吸着法等により測定できる。
【0033】
《電極合材》
本開示の電極合材は、本開示の電極活物質Si粒子を含有している。
【0034】
本開示の電極合材は、本開示の電極活物質Si粒子の他に、随意に固体電解質、導電助剤、及びバインダ等を含有していることができる。
【0035】
本開示の電極合材は、本開示の電極活物質Si粒子を用いることを除いて、公知の方法によって得ることができる。
【0036】
〈固体電解質〉
固体電解質の材料は、特に限定されず、リチウムイオン電池に用いられる固体電解質として利用可能な材料を用いることができる。例えば、固体電解質は、硫化物固体電解質、酸化物固体電解質、又はポリマー電解質等であってよいが、これらに限定されない。
【0037】
硫化物固体電解質の例として、硫化物系非晶質固体電解質、硫化物系結晶質固体電解質、又はアルジロダイト型固体電解質等が挙げられるが、これらに限定されない。具体的な硫化物固体電解質の例として、LiS-P系(Li11、LiPS、Li等)、LiS-SiS、LiI-LiS-SiS、LiI-LiS-P、LiI-LiBr-LiS-P、LiS-P-GeS(Li13GeP16、Li10GeP12等)、LiI-LiS-P、LiI-LiPO-P、Li7-xPS6-xCl等;又はこれらの組み合わせを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0038】
酸化物固体電解質の例として、LiLaZr12、Li7-xLaZr1-xNb12、Li7-3xLaZrAl12、Li3xLa2/3-xTiO、Li1+xAlTi2-x(PO、Li1+xAlGe2-x(PO、LiPO、又はLi3+xPO4-x(LiPON)等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0039】
硫化物固体電解質及び酸化物固体電解質は、ガラスであっても、結晶化ガラス(ガラスセラミック)であってもよい。
【0040】
ポリマー電解質としては、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリプロピレンオキシド(PPO)、及びこれらの共重合体等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0041】
〈導電助剤〉
導電助剤は、特に限定されない。例えば、導電助剤は、VGCF(気相成長法炭素繊維、Vapor Grown Carbon Fiber)及びカーボンナノ繊維等の炭素材並びに金属材等であってよいが、これらに限定されない。
【0042】
〈バインダ〉
バインダとしては、特に限定されない。例えば、バインダは、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ブタジエンゴム(BR)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)若しくはスチレンブタジエンゴム(SBR)等の材料、又はこれらの組合せであってよいが、これらに限定されない。
【0043】
《リチウムイオン電池》
本開示のリチウムイオン電池は、本開示の電極合材を含有している負極層、電解質層、及び正極層をこの順に有していることができる。ここで、電解質層は、固体電解質層であってよい。
【0044】
図1は、本開示のひとつの実施形態に従うリチウムイオン電池1の模式図である。
【0045】
図1に示すように、本開示の第1の実施形態に従うリチウムイオン電池1は、本開示の電極合材を含有している負極層10、電解質層としての固体電解質層20、及び正極層30をこの順に有している。ここで、負極層10は、負極集電体層11と負極活物質層12とを有している。負極活物質層12は、固体電解質層20と接している。同様に、正極層30は、正極集電体層31と正極活物質層32を有している。正極活物質層32は、固体電解質層20と接している。
【0046】
(負極集電体層)
負極集電体層に用いられる材料は、特に限定されず、電池の集電体として使用できるものを適宜採用することができる。
【0047】
例えば、負極集電体層に用いられる材料は、ステンレス鋼(SUS)、アルミニウム、銅、ニッケル、鉄、チタン、又はカーボン等であってよいが、これらに限定されない。なかでも、負極集電体層の材料は、銅であることが好ましい。
【0048】
負極集電体層の形状は、特に限定されず、例えば、箔状、板状、又はメッシュ状等を挙げることができる。これらの中で、箔状が好ましい。
【0049】
(負極活物質層)
本開示の負極活物質層は、本開示の電極合材を含有する層である。
【0050】
負極活物質層の厚さは、例えば、0.1μm以上、1000μm以下である。
【0051】
〈電解質層〉
本開示の電解質層は、固体電解質層であってよい。
【0052】
固体電解質層は、少なくとも固体電解質を含む。また、固体電解質層は、固体電解質以外に、必要に応じてバインダ等を含んでもよい。固体電解質及びバインダは、上記の「《電極合材》」に関する記載を参照することができる。
【0053】
なお、電解質層は、例えばポリプロピレン等の樹脂のシートに、リチウムイオン伝導性を有する電解液が含浸している層であってもよい。
【0054】
電解液は支持塩及び溶媒を含有することが好ましい。リチウムイオン伝導性を有する電解液の支持塩(リチウム塩)としては、例えば、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF等の無機リチウム塩、LiCFSO、LiN(CFSO、LiN(CSO、LiN(FSO、LiC(CFSO等の有機リチウム塩が挙げられる。電解液に用いられる溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)等の環状エステル(環状カーボネート)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)等の鎖状エステル(鎖状カーボネート)が挙げられる。電解液は、2種以上の溶媒を含有することが好ましい。
【0055】
電解質層の厚さは、例えば、0.1μm以上、1000μm以下である。
【0056】
(正極集電体層)
正極集電体層に用いられる材料及び形状は、特に限定されず、上記の「〈負極集電体層〉」において記載した材料及び形状のものを用いてよい。なかでも、正極集電体層の材料は、アルミニウムであることが好ましい。また、形状は、箔状が好ましい。
【0057】
(正極活物質層)
正極活物質層は、正極活物質、並びに随意の固体電解質、導電助剤、及びバインダ等を含有している層である。
【0058】
正極活物質の材料は、特に限定されない。例えば、正極活物質は、コバルト酸リチウム(LiCoO)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、マンガン酸リチウム(LiMn)、LiCo1/3Ni1/3Mn1/3、Li1+xMn2-x-y(Mは、Al、Mg、Co、Fe、Ni、及びZnから選ばれる1種以上の金属元素)で表される組成の異種元素置換Li-Mnスピネル等であってよいが、これらに限定されない。
【0059】
正極活物質の形状としては、例えば、粒子状が挙げられる。正極活物質の平均粒径(D50)は、特に限定されないが、例えば10nm以上であり、100nm以上であってもよい。一方、正極活物質の平均粒径(D50)は、例えば50μm以下であり、20μm以下であってもよい。平均粒径(D50)は、例えば、レーザー回折式粒度分布計、走査型電子顕微鏡(SEM)による測定から算出できる。
【0060】
固体電解質、導電助剤、及びバインダは、上記の「《電極合材》」に関する記載を参照することができる。
【0061】
正極活物質層の厚さは、例えば、0.1μm以上、1000μm以下である。
【0062】
《電極活物質Si粒子の製造方法》
本開示の電極活物質Si粒子の製造方法は、NaSi合金粉末と、Naトラップ剤とを混合して、加熱温度250~500℃かつ加熱時間30~200時間で加熱することによって、クラスレート型構造を有するSi粒子を得ることを有している。
【0063】
NaSi合金粉末と、Naトラップ剤とを混合して所定の温度と時間で加熱することにより、NaSi合金からNaが脱離して、クラスレート型構造、特にクラスレートII型構造を有するSi粒子が生成する。
【0064】
Naトラップ剤は、NaSi合金と反応してNaSi合金からNaを受け取るものに限定されず、NaSi合金から脱離したNa、具体的には蒸気になったNaと反応しても良い。
【0065】
Naトラップ剤としては、具体的にはCaCl、CaBr、CaI、Fe、FeO、MgCl、ZnO、ZnCl、MnCl、又はAlF等の粒子を挙げることができる。Naトラップ剤としては、AlF粒子が特に好ましい。
【0066】
Naトラップ剤の平均粒径(D50)は、20~300μmであることが好ましい。平均粒径(D50)は、例えば、レーザー回折式粒度分布計、走査型電子顕微鏡(SEM)による測定から算出できる。
【0067】
Naトラップ剤の平均粒径(D50)がこのような大きさであると、Si粒子中にダイヤモンド型Siが形成されやすくなる。平均粒径(D50)は、例えば、レーザー回折式粒度分布計、走査型電子顕微鏡(SEM)による測定から算出できる。
【0068】
Naトラップ剤の平均粒径(D50)は、20μm以上、30μm以上、50μm以上、又は60μm以上であってよく、300μm以下、200μm以下、100μm以下、又は80μm以下であってよい。
【0069】
加熱温度が250℃以上であると、ダイヤモンド型Siが生成されやすく、また、加熱温度が500℃未満であると、クラスレート型Siのが生成されやすいので、加熱温度は250~500℃が好ましい。
【0070】
加熱温度は、250℃以上、300℃以上、又は350℃以上であってよく、500℃以下、450℃以下、400℃以下、又は350℃以下であってよい。
【0071】
加熱時間が30時間以上であると、クラスレート型Siが生成されやすく、また、加熱時間が100時間未満であると、生産効率が高いため、加熱時間は30~200時間が好ましい。なお、加熱時間が長いほど、ダイヤモンド型Siの生成量が多くなる傾向にある。
【0072】
加熱時間は、30時間以上、40時間以上、50時間以上、又は100時間以上であってよく、200時間以下、180時間以下、160時間以下、又は100時間以下であってよい。
【0073】
本開示の製造方法において、NaSi合金粉末は、Si粉末とNaH粉末とをメカニカルミリングして、加熱温度250~350℃かつ加熱時間1~20時間、又は加熱温度400~800℃かつ加熱時間30~100時間で加熱して得てよい。
【0074】
加熱温度250~350℃かつ加熱時間1~20時間という、NaSi合金の生成において比較的に低温かつ短時間の処理は、材料であるSi粉末中のダイヤモンド型Siを残存させることができる。この場合において、加熱温度は、250℃以上、260℃以上、又は270℃以上であってよく、350℃以下、340℃以下、又は330℃以下であってよい。また、加熱時間は、1時間以上、3時間以上、又は5時間以上であってよく、20時間以下、15時間以下、又は10時間以下であってよい。
【0075】
他方、加熱温度400~800℃かつ加熱時間30~100時間という、NaSi合金の生成において比較的に高温かつ長時間の処理は、ダイヤモンド型Siの結晶が生成しやすい条件である。この場合において、加熱温度は、400℃以上、450℃以上、又は500℃以上であってよく、800℃以下、700℃以下、又は600℃以下であってよい。
【実施例0076】
《実施例1~6、並びに比較例1及び2》
〈実施例1〉
(NaSi合金粉末の製造)
金属NaとSi粉末とをモル比1.1:1となるように秤量し、混合して、アルゴン雰囲気下で400℃、40時間保持することでこれらを溶融させた。室温まで冷却して、インゴット状のNaSi合金を得た。当該インゴット状のNaSi合金をグローブボックス内で粉砕及び分級して、粒子径500μm以下のNaSi合金を得た。なお、当該NaSi合金においては、Siに対するNaの組成比がやや高い。
【0077】
(Si粒子の製造)
NaSi合金及びAlFをモル比1:0.75となるように秤量し、カッターミルを用いて混合し、反応原料を得た。得られた粉末状の反応原料をステンレススチール製の反応容器に入れ、加熱炉にて窒素雰囲気下で270℃、40時間加熱した。
【0078】
加熱炉を室温まで冷却し、反応容器から生成物を回収した。当該生成物を3質量%の塩酸水溶液に投入して、Nフロー下で10分間撹拌することで、洗浄を行った。洗浄後の生成物を濾過にて分離し、80℃で減圧乾燥することで、実施例1の電極活物質Si粒子を得た。
【0079】
なお、AlF粒子の平均粒径(D50)は、77.9μmであった。
【0080】
〈実施例2~6、及び比較例1〉
表1に示す加熱温度、加熱時間、及びAlF粒子の平均粒径(D50)で製造を行ったことを除いて実施例1と同様にして、各例の電極活物質Si粒子を得た。
【0081】
〈比較例2〉
ダイヤモンド型Si構造を有するSi粒子を、比較例2の電極活物質Si粒子とした。
【0082】
〈ダイヤモンド型Siの存在比率〉
ASTAR TEM用結晶方位解析装置(ASTAR TEM用結晶方位解析装置 | 株式会社 TSLソリューションズ (tsljapan.com)によって、各例の電極活物質Si粒子におけるダイヤモンド型Siの存在比率(面積%)を求めた。
【0083】
〈充放電試験〉
各例の電極活物質Si粒子を負極活物質として用いたリチウムイオン電池を作製し、所定の条件下で充電試験を行い、その拘束圧の上昇値を測定した。
【0084】
なお、リチウムイオン電池は、負極集電体層、負極活物質層、固体電解質層、正極活物質層、正極集電体層がこの順に積層された構造を有していた。
【0085】
ここで、負極集電体層は、銅箔であった。負極活物質層は、各例の電極活物質Si粒子、硫化物固体電解質としてのLiS-P系活物質、バインダとしてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)、及び導電助剤としてのVGCFを含有していた。
【0086】
固体電解異質層は、硫化物固体電解質としてのLiS-P系活物質及びバインダとしてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)を含有していた。
【0087】
正極活物質層は、正極活物質としてのマンガン酸リチウム(LiMn)、バインダとしてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)、及び導電助剤としてのVGCFを含有していた。
【0088】
正極集電体層は、アルミニウム箔であった。
【0089】
〈結果〉
図2及び3に、実施例4に関するASTAR結果を示す。
【0090】
図2は、実施例4の電極活物質Si粒子のASTAR画像である。
【0091】
図2に示すように、実施例4の電極活物質Si粒子は、大部分がクラスレートII型Si相を有しており、次いで、クラスレートI型Si相及びダイヤモンド型Si相を有していた。また、微量のアモルファス相も有していた。
【0092】
図3は、実施例4の電極活物質Si粒子における、クラスレートI型Si、クラスレートII型Si、及びダイヤモンド型Siの含有率を示すグラフである。
【0093】
図3において、「Na20.5Si136」は、クラスレートII型Siを、「Na0.5Si17」は、クラスレートI型Siを、「Si」はダイヤモンド型Siを、それぞれ示している。図3は、実施例4の電極活物質Si粒子全体に対する、クラスレートI型Si、クラスレートII型Si、及びダイヤモンド型Siの質量比が、それぞれ順に約14.75、約84.25、約0.75であることを示している。
【0094】
以下の表1は、各例の電極活物質Si粒子の製造条件及びダイヤモンド型Siの質量%、並びにリチウムイオン電池を構成して充放電した際の拘束圧上昇量(比較例1を100.0とした相対値)を示すグラフである。
【0095】
【表1】
【0096】
実施例1~3、5、及び6の電極活物質Si粒子は、図2に示した実施例4の電極活物質SiのASTAR画像に示すのと同様に、単一の粒子内にダイヤモンド型Si及びクラスレートII型を有していた。
【0097】
実施例1~6の電極活物質Si粒子を用いたリチウムイオン電池の充電時の拘束圧力の上昇量は、ダイヤモンド型Siを含有していなかった比較例1の電極活物質Si粒子を用いたリチウムイオン電池の充電時の拘束圧力の上昇量よりも低く、それぞれ順に、52.2、28.3、26.1、15.2、26.1、及び30.4であった。
【0098】
なお、ダイヤモンド型Siのみを有していた比較例2の電極活物質Si粒子を用いたリチウムイオン電池の充電時の拘束圧力は、比較例1の電極活物質Si粒子を用いたリチウムイオン電池の充電時の拘束圧力の上昇量よりもはるかに大きく、165.2であった。
【符号の説明】
【0099】
1 リチウムイオン電池
10 負極層
11 負極集電体層
12 負極活物質層
20 固体電解質層
30 正極電層
31 正極集電体層
32 正極活物質層
図1
図2
図3