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特開2024-135748レーダ装置およびレーダ装置の信号処理方法
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  • 特開-レーダ装置およびレーダ装置の信号処理方法 図1
  • 特開-レーダ装置およびレーダ装置の信号処理方法 図2
  • 特開-レーダ装置およびレーダ装置の信号処理方法 図3
  • 特開-レーダ装置およびレーダ装置の信号処理方法 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024135748
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】レーダ装置およびレーダ装置の信号処理方法
(51)【国際特許分類】
   G01S 13/34 20060101AFI20240927BHJP
   G01S 7/40 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
G01S13/34
G01S7/40 121
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023046598
(22)【出願日】2023-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】318006365
【氏名又は名称】JRCモビリティ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126561
【弁理士】
【氏名又は名称】原嶋 成時郎
(72)【発明者】
【氏名】西山 拓真
(72)【発明者】
【氏名】小田 康明
【テーマコード(参考)】
5J070
【Fターム(参考)】
5J070AB17
5J070AC02
5J070AF03
5J070AF05
5J070AH35
5J070AK04
(57)【要約】
【課題】ハイパスフィルタのフィルタ特性に基づく誤検出を抑制することが可能なレーダ装置およびレーダ装置の信号処理方法を提供する。
【解決手段】FMCWレーダ装置1は、ビート信号を物標までの距離に応じてHPF15により減衰し、減衰されたビート信号をA/D変換部16によりデジタル信号に変換し、デジタル信号に変換されたビート信号に距離周波数解析部17によって距離方向に対する周波数解析を行なって第1の距離スペクトラムを生成し、第1の距離スペクトラムをHPF逆特性補正部19によりHPF15のフィルタ特性の逆特性を用いて補正して第2の距離スペクトラムを生成し、第2の距離スペクトラムに基づいて物標までの距離を検出する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
物標に向けて送信波を送信し、前記物標からの反射波を受信する送受信手段と、
前記送信波と前記反射波とを混合してビート信号を生成するビート信号生成部と、
前記ビート信号を前記物標までの距離に応じて減衰するハイパスフィルタと、
減衰された前記ビート信号をデジタル信号に変換するA/D変換部と、
デジタル信号に変換された前記ビート信号に距離方向に対する周波数解析を行なって第1の距離スペクトラムを生成する距離周波数解析部と、
前記第1の距離スペクトラムを、前記ハイパスフィルタのフィルタ特性の逆特性を用いて補正して第2の距離スペクトラムを生成する逆特性補正部と、
前記第2の距離スペクトラムに基づいて前記物標までの距離を検出する距離検出部と、
を備えることを特徴とするレーダ装置。
【請求項2】
前記逆特性補正部は、前記ハイパスフィルタの逆特性を前記物標までの距離に応じて前記第1の距離スペクトラムに乗算する、
ことを特徴とする請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項3】
物標に向けて送信波を送信し、前記物標からの反射波を受信して前記物標までの距離を検出するレーダ装置の信号処理方法であって、
前記送信波と前記反射波とを混合してビート信号を生成し、
前記ビート信号を前記物標までの距離に応じてハイパスフィルタにより減衰し、
減衰された前記ビート信号をデジタル信号に変換し、
デジタル信号に変換された前記ビート信号に距離方向に対する周波数解析を行なって第1の距離スペクトラムを生成し、
前記第1の距離スペクトラムを前記ハイパスフィルタのフィルタ特性の逆特性を用いて補正して第2の距離スペクトラムを生成し、
前記第2の距離スペクトラムに基づいて前記物標までの距離を検出する、
ことを特徴とするレーダ装置の信号処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物標までの距離を検出するレーダ装置およびレーダ装置の信号処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
物標に向けて送信波を送信し、物標からの反射波を受信して物標までの距離を検出するレーダ装置には、感度時間制御(STC:Sensitivity Time Control)機能を備えたものがある。STC機能は、物標からの反射波の信号強度が物標までの距離の4乗に反比例するという基本的原理に基づき、物標までの距離に応じて反射波の信号強度を減衰させるものである。レーダ装置では、このSTC機能により、アンテナ近傍の地面からの反射波(グランドクラッタ)などの信号を減衰することにより、受信系統における信号の飽和(サチュレーション)を抑制している。
【0003】
特許文献1に開示されている発明では、ハイパスフィルタ(HPF:High-pass filter)を用いてSTC機能を実現している。図3は、特許文献1に記載されているFMCW(Frequency Modulation Continuous Wave)レーダ装置10の概略構成を示す。FMCWレーダ装置10は、送信アンテナ101と、受信アンテナ102と、発振器103と、ミキサ104と、HPF105と、A/D変換部106と、距離周波数解析部107と、検出部108と、を備えている。
【0004】
発振器103は、例えば、三角波を周波数変調した送信波を送信アンテナ101から送信させ、受信アンテナ102は、物標にて反射された送信波である反射波を受信する。ミキサ104は、送信波と反射波とを混合してビート信号を生成し、HPF105は、物標までの距離(ビート信号の周波数)に応じてビート信号を減衰する。A/D変換部106は、減衰されたビート信号をデジタル信号に変換し、距離周波数解析部107は、デジタル信号に変換されたビート信号に距離方向に対する周波数解析(フーリエ変換)を行なって距離スペクトラムを生成し、検出部108は、距離スペクトラムに基づいて物標までの距離を検出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平07-055925号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、ハイパスフィルタを用いることにより受信系統における信号の飽和を抑制することはできるが、ハイパスフィルタのフィルタ特性によっては極めて近い位置に存在する物標からの反射波の信号強度よりも、その物標との間で生じた多重反射による信号強度のほうが大きくなり、偽像(虚像ともいう)が発生し、物標が適切に検出できなくなることがある。例えば、図4は、FMCWレーダ装置10の距離周波数解析部107により生成された距離スペクトラムを示している。この距離スペクトラムでは、FMCWレーダ装置10から1mの位置に存在する物標の信号TはHPF105のフィルタ特性によって抑圧され、FMCWレーダ装置10から2m程度の位置に発生している偽像の信号Fの強度が物標の信号Tよりも大きくなっており、誤検出が生じてしまう。
【0007】
そこで本発明は、ハイパスフィルタのフィルタ特性に基づく誤検出を抑制することが可能なレーダ装置およびレーダ装置の信号処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、物標に向けて送信波を送信し、前記物標からの反射波を受信する送受信手段と、前記送信波と前記反射波とを混合してビート信号を生成するビート信号生成部と、前記ビート信号を前記物標までの距離に応じて減衰するハイパスフィルタと、減衰された前記ビート信号をデジタル信号に変換するA/D変換部と、デジタル信号に変換された前記ビート信号に距離方向に対する周波数解析を行なって第1の距離スペクトラムを生成する距離周波数解析部と、前記第1の距離スペクトラムを、前記ハイパスフィルタのフィルタ特性の逆特性を用いて補正して第2の距離スペクトラムを生成する逆特性補正部と、前記第2の距離スペクトラムに基づいて前記物標までの距離を検出する距離検出部と、を備えることを特徴とするレーダ装置である。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のレーダ装置において、前記逆特性補正部は、前記ハイパスフィルタの逆特性を前記物標までの距離に応じて前記第1の距離スペクトラムに乗算する、ことを特徴とする。
【0010】
請求項3に記載の発明は、物標に向けて送信波を送信し、前記物標からの反射波を受信して前記物標までの距離を検出するレーダ装置の信号処理方法であって、前記送信波と前記反射波とを混合してビート信号を生成し、前記ビート信号を前記物標までの距離に応じてハイパスフィルタにより減衰し、減衰された前記ビート信号をデジタル信号に変換し、デジタル信号に変換された前記ビート信号に距離方向に対する周波数解析を行なって第1の距離スペクトラムを生成し、前記第1の距離スペクトラムを前記ハイパスフィルタのフィルタ特性の逆特性を用いて補正して第2の距離スペクトラムを生成し、前記第2の距離スペクトラムに基づいて前記物標までの距離を検出する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1および請求項3に記載の発明によれば、減衰後のビート信号の第1の距離スペクトラムを、ハイパスフィルタのフィルタ特性の逆特性を用いて補正して第2の距離スペクトラムを生成し、第2の距離スペクトラムに基づいて物標までの距離を検出するので、反射波の信号の飽和を抑制しながら、物標と偽像との信号強度の強度関係を正確に求めることができ、ハイパスフィルタのフィルタ特性によって発生する物標の誤検出を抑制することが可能である。すなわち、本発明によれば、ハイパスフィルタにより信号強度の距離依存性を小さくして信号の飽和を抑制しつつ、受信以降の信号処理でハイパスフィルタの逆特性を用いて補正することで、信号強度の距離依存性を復元し、物標の検出精度を向上することが可能である。
【0012】
請求項2に記載の発明によれば、ハイパスフィルタの逆特性を物標までの距離に応じて第1の距離スペクトラムに乗算するので、物標までの距離に応じて第1の距離スペクトラムを適切に減衰前の第2の距離スペクトラムに補正することができ、物標と偽像との信号強度の強度関係を正確に求めて、ハイパスフィルタのフィルタ特性によって発生する物標の誤検出を抑制することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】この発明の実施の形態に係るFMCWレーダ装置の概略構成を示すブロック図である。
図2図1に示すHPF逆特性補正部により生成された第2の距離スペクトラムを示すグラフである。
図3】従来のFMCWレーダ装置の概略構成を示すブロック図である。
図4図3に示す距離周波数解析部により生成された距離スペクトラムを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、この発明を図示の実施の形態に基づいて説明する。
【0015】
図1は、この発明の実施の形態に係るFMCWレーダ装置1の概略構成を示すブロック図である。FMCWレーダ装置1は、例えば、船舶や車両などの移動体に搭載されている。
【0016】
FMCWレーダ装置1は、送信アンテナ11と、受信アンテナ12と、発振器13と、ミキサ14と、HPF15と、A/D変換部16と、距離周波数解析部17と、HPF逆特性補正部19と、検出部18と、を備えている。
【0017】
発振器13は、例えば、三角波を周波数変調した送信波を送信アンテナ11から送信させる。受信アンテナ12は、物標にて反射された送信波である反射波を受信する。
【0018】
ミキサ14は、送信波と反射波とを混合してビート信号を生成する。HPF15は、物標までの距離(ビート信号の周波数)に応じてビート信号の低周波成分を除去して減衰させる。
【0019】
なお、HPF15のフィルタ特性は、定式化可能であり、物標までの距離(ビート信号の周波数)に応じてビート信号を減衰するものであれば、特定の特性、種類に限定されず、例えば、所定の条件に応じてカットオフ周波数が複数種類の間で切り替えられるようなものであっても適用可能である。
【0020】
A/D変換部16は、減衰されたビート信号をデジタル信号に変換する。その際に、ビート信号はHPF15によって減衰されているため、A/D変換部16にてビート信号が飽和することはない。
【0021】
距離周波数解析部17は、デジタル信号に変換されたビート信号に距離方向に対する周波数解析(フーリエ変換)を行なって第1の距離スペクトラムを生成する。すなわち、距離周波数解析部17は、HPF15によって減衰されたビート信号の距離スペクトラムを生成する。
【0022】
なお、距離周波数解析部17にて生成される第1の距離スペクトラムは、HPF15のフィルタ特性によっては、図4のグラフに示すように、物標の信号Tが抑圧され、FMCWレーダ装置1から2m程度の位置に発生している偽像の信号Fの強度が物標の信号Tよりも大きくなることがある。
【0023】
HPF逆特性補正部19は、距離周波数解析部17により生成された第1の距離スペクトラムをHPF15のフィルタ特性の逆特性を用いて補正し、第2の距離スペクトラムを生成する。すなわち、第2の距離スペクトラムは、HPF15によって減衰される前のビート信号の距離方向に対する周波数解析結果を示す。
【0024】
HPF逆特性補正部19は、より具体的には、物標までの距離(ビート信号の周波数)に応じて、HPF15のフィルタ特性Fcの逆数1/Fcを第1の距離スペクトラムに乗算し、第2の距離スペクトラムを計算する。
【0025】
図2は、FMCWレーダ装置1のHPF逆特性補正部19により生成された第2距離スペクトラムを示している。この第2距離スペクトラムは、HPF15によって減衰される前のビート信号の距離方向に対する周波数解析結果を示しているため、FMCWレーダ装置1から1mの位置に存在する物標の信号Tの信号強度は、FMCWレーダ装置1から2m程度の位置に発生している偽像の信号Fよりも大きくなる。
【0026】
検出部18は、第2の距離スペクトラムに基づいて物標までの距離を検出する。すなわち、図2に示す第2の距離スペクトラムに基づき、信号強度が最も大きな信号Tが物標として検出される。
【0027】
上記の実施の形態に係るFMCWレーダ装置1によれば、減衰後のビート信号の第1の距離スペクトラムを、HPF15のフィルタ特性の逆特性を用いて補正して第2の距離スペクトラムを生成し、第2の距離スペクトラムに基づいて物標までの距離を検出するので、反射波の信号の飽和を抑制しながら、物標と偽像との信号強度の強度関係を正確に求めることができ、HPF15のフィルタ特性によって発生する物標の誤検出を抑制することが可能である。
【0028】
すなわち、本実施の形態に係るFMCWレーダ装置1によれば、HPF15により信号強度の距離依存性を小さくして信号の飽和を抑制しつつ、受信以降の信号処理でHPF15の逆特性を用いて補正することで、信号強度の距離依存性を復元し、物標の検出精度を向上することが可能である。
【0029】
また、本実施の形態に係るFMCWレーダ装置1によれば、HPF15の逆特性を物標までの距離に応じて第1の距離スペクトラムに乗算して第2の距離スペクトラムを得るので、物標までの距離に応じて第1の距離スペクトラムを適切に減衰前の第2の距離スペクトラムに補正することができ、物標と偽像との信号強度の強度関係を正確に求めて、HPF15のフィルタ特性によって発生する物標の誤検出を抑制することが可能である。
【0030】
以上、この発明の実施の形態について説明したが、具体的な構成は、上記の実施の形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても、この発明に含まれる。例えば、上記の実施の形態では、FMCWレーダを例に本発明を説明したが、本発明はパルスレーダに適用することも可能である。また、ハイパスフィルタをSTF機能のために用いるレーダ装置を例にして説明したが、ハイパスフィルタをSTF機能以外に用いるレーダ装置にも適用することが可能である。
【0031】
1 FMCWレーダ装置(レーダ装置)
11 送信アンテナ(送受信手段)
12 受信アンテナ(送受信手段)
13 発振器(送受信手段)
14 ミキサ(ビート信号生成部)
15 ハイパスフィルタ
16 A/D変換部
17 距離周波数解析部
18 検出部
19 HPF逆特性補正部(逆特性補正部)
図1
図2
図3
図4