(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024013575
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】絶縁劣化検出装置
(51)【国際特許分類】
G01R 31/50 20200101AFI20240125BHJP
【FI】
G01R31/50 ZHV
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022115761
(22)【出願日】2022-07-20
(71)【出願人】
【識別番号】502002050
【氏名又は名称】株式会社ピューズ
(74)【代理人】
【識別番号】100139206
【弁理士】
【氏名又は名称】戸塚 朋之
(72)【発明者】
【氏名】中川 宗俊
(72)【発明者】
【氏名】福田 哲夫
【テーマコード(参考)】
2G014
【Fターム(参考)】
2G014AA16
2G014AB23
2G014AB24
2G014AB29
2G014AC19
(57)【要約】 (修正有)
【課題】連結された高電圧回路に複数台の絶縁劣化・漏電検出装置が存在したとしても、干渉による誤動作を起こさない絶縁劣化検出装置を提供する。
【解決手段】接地部から電気的に絶縁された直流高電圧回路20に接続され、この直流高電圧回路20の絶縁劣化を検出するために探索信号A・B・Cを出力する絶縁劣化検出装置10A・10B・10Cにおいて、探索同期信号を伝達する探索同期信号伝達手段を備え、この探索同期信号にタイミングを合わせて探索信号を出力する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
接地部から電気的に絶縁された直流高電圧回路に接続され、この直流高電圧回路の絶縁劣化を検出するために探索信号を出力する絶縁劣化検出装置において、
探索同期信号を伝達する探索同期信号伝達手段を備え、
この探索同期信号にタイミングを合わせて探索信号を出力することを特徴とする絶縁劣化検出装置。
【請求項2】
マスタースレーブ切換入力を備え、
前記マスタースレーブ切換入力がマスターモードとなった場合、探索信号を出力するとともにこの探索信号にタイミングを合わせた探索同期信号を探索同期信号伝達手段から出力し、
前記マスタースレーブ切換入力がスレーブモードとなった場合、前記探索同期信号伝達手段から入力される探索同期信号にタイミングを合わせて探索信号を出力することを特徴とする請求項1記載の絶縁劣化検出装置。
【請求項3】
前記探索信号は電圧信号であり、
前記絶縁劣化検出装置は、電流を検出する信号検出部を有し、
前記直流高電圧回路に少なくとも1台の他の絶縁劣化検出装置が接続された場合、前記絶縁劣化検出装置および他の絶縁劣化検出装置の各信号検出部を流れる電流の総和により、絶縁劣化判定を行うことを特徴とする請求項1または2記載の絶縁劣化検出装置。
【請求項4】
前記探索信号が電流信号であり、
前記直流高電圧回路に少なくとも1台の他の絶縁劣化検出装置が接続された場合、前記絶縁劣化検出装置および他の絶縁劣化装置が出力する探索信号の電流値の総和が絶縁劣化検出装置の台数に関わらず一定となるようにそれぞれの絶縁劣化検出装置が出力する探索信号の電流値を調整して絶縁劣化の判定を行うことを特徴とする請求項1または2記載の絶縁劣化検出装置。
【請求項5】
接地部から電気的に絶縁された直流高電圧回路に接続され、この直流高電圧回路の絶縁劣化を検出するために探索信号を出力する絶縁劣化検出装置において、
前記絶縁劣化検出装置は、前記直流高電圧回路に向けて探索信号を出力する探索信号送信部と、前記探索信号に対する前記直流高電圧回路からの応答を受信する検出信号受信部とを有し、
起動時には前記探索信号送信部を停止して前記検出信号受信部を稼動させ、前記検出信号受信部に他の絶縁劣化検出装置が発する探索信号が入力されないことを所定時間確認した後、前記探索信号送信部から探索信号を出力して絶縁劣化の検出を開始することを特徴とする絶縁劣化検出装置。
【請求項6】
前記探索信号送信部および前記検出信号受信部を稼動させて絶縁劣化検出を行っているときに、前記探索信号送信部が出力する探索信号よりも低周波の信号が前記検出信号受信部により受信された場合、前記探索信号送信部を停止することを特徴とする請求項5記載の絶縁劣化検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば車両ボディから電気的に絶縁された高電圧電源(以下、説明の便宜上、高圧直流電源ということがあるが、何ボルト以上という制限はない。)を備えた電気自動車、ハイブリッド自動車等(以下、電気自動車という)における車両ボディと高圧直流電源が接続される高電圧回路との間の絶縁劣化を検出する絶縁劣化検出装置(絶縁劣化検出装置・漏電検出装置という場合もある)に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両ボディ(接地部)と高圧直流電源が接続される高電圧回路との間の絶縁劣化を検出する絶縁劣化検出装置として、下記のような技術が提案されている。
特許文献1には、交流信号発生手段が出力する正弦波出力信号を、コンデンサを通して高電圧回路に印加し、正弦波出力信号の電圧及び電流の振幅と位相から漏電アドミタンスの実数部(漏電抵抗に対応)を算出する技術が示されている。
特許文献2には、出力部が出力する矩形波パルスを、カップリングコンデンサを通して高電圧回路に印加し、観測される電圧変動から地絡を検出する技術が示されている。
特許文献3には、定電流交番回路が出力する一定周期の交番定電流を、コンデンサを通して高電圧回路に印加し、得られた電圧振幅から絶縁抵抗の劣化を算出する技術が示されている。
特許文献4には、特許文献3と同様に交番定電流を使うものの、検出電圧が一定振幅となるよう電流方向を切り換え、その切り換え周期が遅くなることを以って絶縁劣化を判定する技術が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11-218554号公報
【特許文献2】特開2003-250201号公報
【特許文献3】特開2010-256023号公報
【特許文献4】国際公開公報WO2011/074683
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これらの絶縁劣化・漏電検出装置が普及するにつれ、電気自動車の高電圧回路が他の高電圧回路と連結された場合に複数台の絶縁劣化・漏電検出装置が存在する機会、および1台の車両に複数台の絶縁劣化・漏電検出装置が存在する機会が増えてきた。
【0005】
前者は、例えば、車両が充電スタンドに連結されて、車両に搭載された絶縁劣化・漏電検出装置と、風力発電、太陽光発電などの再生エネルギーを利用した充電スタンドに搭載された絶縁劣化・漏電検出装置が存在する場合、車両に搭載された絶縁劣化・漏電検出装置と、V2H(Vehicle to Home)で接続される高電圧バッテリーを備えたホーム機器に搭載された絶縁劣化・漏電検出装置が存在する場合などである。
【0006】
後者は、例えば、車両に複数のバッテリーユニットに個別に搭載された絶縁劣化・漏電検出装置が存在する場合、メインコンタクタの前に設置された絶縁劣化・漏電検出装置と、メインコンタクタの後に設置された絶縁劣化・漏電検出装置が存在する場合、車両を駆動するための第1の高電圧回路に設置された絶縁劣化・漏電検出装置と、車両に搭載された直流高電圧機器(電動クレーン、電動建機、電動ポンプ、電動コンプレッサ、大容量照明等)を駆動するための第2の高電圧回路に設置された絶縁劣化・漏電検出装置が存在する場合などである。
【0007】
これら複数台の絶縁劣化・漏電検出装置が個別に交流電圧、パルス、交番電流といった信号(以下、探索信号という)を高電圧回路に向けて発すると、互いの探索信号の干渉による誤動作のために、絶縁劣化・漏電の検出ができなくなってしまう。
【0008】
本発明は上記課題を解決するためになされたもので、連結された高電圧回路に複数台の絶縁劣化検出装置が存在したとしても、干渉による誤動作を起こさない絶縁劣化検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、接地部から電気的に絶縁された直流高電圧回路の絶縁劣化・漏電を検出するために直流高電圧回路に向けて探索信号を発する絶縁劣化検出装置において、直流高電圧回路に接続された複数台の絶縁劣化検出装置が発する探索信号の互いの干渉を防ぐため、以下の構成を備える。
【0010】
(1)本発明の一実施形態による絶縁劣化検出装置は、接地部から電気的に絶縁された直流高電圧回路に接続され、この直流高電圧回路の絶縁劣化を検出するために探索信号を出力するものであって、探索同期信号を伝達する探索同期信号伝達手段を備え、この探索同期信号にタイミングを合わせて探索信号を直流高電圧回路に向けて出力することを特徴とする。
【0011】
このように構成したことにより、他の絶縁劣化検出装置が直流高電圧回路に接続されている場合にも、これら複数台の絶縁劣化検出装置が探索同期信号伝達手段から入力される探索同期信号にタイミング(周期、位相、パルス幅を含む)を合わせて探索信号を直流高電圧回路に向けて出力することにより、探索信号の干渉を防止した同期運転が可能となる。
【0012】
(2)本発明の第1の実施形態による絶縁劣化検出装置では、上位コントローラが全ての絶縁劣化検出装置に探索同期信号を送る。本発明の第2の実施形態による絶縁劣化検出装置では、マスター役に選ばれた絶縁劣化検出装置が探索同期信号を送り、スレーブ役となるその他の絶縁劣化検出装置は探索同期信号を受け取る。
【0013】
絶縁劣化検出の判定については、探索信号が交流電圧あるいは電圧パルスの場合、各絶縁劣化検出装置の信号検出部を流れる電流の総和を絶縁劣化検出の判定に利用し、探索信号が交番電流あるいは電流パルスの場合、各絶縁劣化検出装置が発する探索信号の電流値の総和が、同期運転する台数によって変わらないよう調整して判定を行う。
【0014】
(3)本発明の第3の実施形態による絶縁劣化検出装置は、直流高電圧回路に向けて探索信号を出力する探索信号送信部と、探索信号に対する直流高電圧回路からの応答を受信する検出信号受信部とを有し、起動時には探索信号送信部を停止して検出信号受信部を稼動させ、検出信号受信部に他の絶縁劣化検出装置が発する探索信号が入力されないことを所定時間確認した後、探索信号送信部から探索信号を出力して絶縁劣化検出を開始することを特徴とする。
【0015】
このように構成したことにより、起動時に、検出信号受信部に他の絶縁劣化検出装置が発する探索信号が入力されると、他の絶縁劣化検出装置が先に稼働しているとして、探索信号送信部を停止した状態を維持して、探索信号の干渉による誤動作を防止することができる。
【0016】
(4)本発明の第4の実施形態による絶縁劣化検出装置は、絶縁劣化検出装置が探索信号送信部と検出信号受信部を稼動させて絶縁劣化検出を行っているとき、検出信号受信部がその探索送信部が出力する探索信号よりも低周波の信号を受信した場合、この絶縁劣化検出装置は探索信号送信部を停止することを特徴とする。
【0017】
このように構成することにより、高電圧回路に接続された複数台の絶縁劣化検出装置のうち、最初に通電した1台を優先運転し、他の絶縁劣化検出装置を休止して探索信号の干渉による誤動作を防止することができる。万が一、2台以上の絶縁劣化検出装置が同時に運転を始めてしまった場合には、より低周波数の探索信号を発する絶縁劣化検出装置を残すことで、1台のみの優先運転を行なって探索信号の干渉による誤動作を防止することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の第1および第2の実施形態によれば、高電圧回路に接続された複数の機器にそれぞれ絶縁劣化検出装置が内蔵されているとき、複数台の絶縁劣化検出装置が1つの絶縁劣化検出装置群として一体化したかのごとく同期運転するため、互いに干渉することなく絶縁劣化・漏電を検出できる。
【0019】
本発明の第3および第4の実施形態によれば、高電圧回路に接続された複数の機器にそれぞれ絶縁劣化検出装置が内蔵されているとき、自律的に優先順位が決まることで1台の絶縁劣化検出装置が探索信号を発するため、互いに干渉することなく絶縁劣化・漏電を検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の第1の実施形態による絶縁劣化検出装置が他の絶縁劣化装置とともに高電圧回路に接続された場合を示す概略構成図である。
【
図2】本発明の第2の実施形態による絶縁劣化検出装置が他の絶縁劣化装置とともに高電圧回路に接続された場合を示す概略構成図である。
【
図3】本発明の一実施形態による探索信号が電圧信号である場合の絶縁劣化検出装置が複数台接続された概略構成を示す図である。
【
図4】本発明の一実施形態による探索信号が電流信号である場合の絶縁劣化検出装置が複数台接続された概略構成を示す図である。
【
図5】本発明の第3および第4の実施形態による絶縁劣化検出装置が他の絶縁劣化検出装置とともに高電圧回路に接続された場合を示す概略構成図である。
【
図6】本発明の第3および第4の実施形態による絶縁劣化検出装置の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態による絶縁劣化検出装置の構成を説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態による絶縁劣化検出装置が他の絶縁劣化検出装置とともに高電圧回路に接続された場合を示す概略構成図である。
図1において、3台の絶縁劣化検出装置10A、10B、10Cが高電圧回路20に接続されている。高電圧回路20は、高電圧機器20A、高電圧直流源20B、高電圧機器20Cが連結されてなる。絶縁劣化検出装置10Bは、本発明の一実施形態による絶縁劣化検出装置であり、たとえば車両に搭載された高電圧直流源20Bに接続され、絶縁劣化検出装置10Aは、車両に搭載された直流高電圧機器(電動クレーン、電動建機、電動ポンプ、電動コンプレッサ、大容量照明等)を駆動するための高電圧機器20Aに接続されている。絶縁劣化検出装置10Cが接続された高電圧機器20C(電源機器、充電器、V2Hのためのホーム機器等)は車両外部に設置されており、ケーブル(アース線を含む)やコネクタを介して高電圧直流源20Bに接続されている。この場合、車両が停止状態で高電圧機器20Cに接続されていることになる。一方、本実施形態において、例えば、高電圧機器20Aが走行用インバーター・モーターで、高電圧直流源20Bが高電圧バッテリー、高電圧機器20Cが車両に増設されるレンジエクステンダー(発電機)である場合、車両が走行中および停止状態の双方を含む。また、高電圧回路には、高電圧直流源および高電圧機器がそれぞれ何個あってもよい。
なお、本発明の一実施形態による絶縁劣化検出装置は、絶縁劣化検出装置10A、10Cのいずれであってもよい。また、高電圧回路に接続されるすべての絶縁劣化検出装置が本発明の一実施形態による絶縁劣化検出装置であることが望ましいが、異なる構成の絶縁劣化検出装置が含まれるときには、本発明の一実施形態による絶縁劣化検出装置以外を停止して絶縁劣化検知を行う。これは、以下に説明する全ての実施形態について当てはまる。
【0022】
上位コントローラ30と絶縁劣化検出装置10A、10B、10Cとは、通信手段40により信号の送受信が可能になっている。上位コントローラ30は、探索同期信号を出力し、絶縁劣化検出装置10A、10B、10Cは、それぞれ探索同期信号を入力するための探索同期信号伝達手段を備え、絶縁劣化検出装置10A、10B、10Cは、それぞれの探索同期信号伝達手段により受信した上位コントローラ30からの探索同期信号にタイミング(周期、位相、パルス幅を含む)を合わせて、探索信号を直流高電圧回路20に向けて出力する。絶縁劣化検出装置10A、10B、10Cは、同じ方式(交流電圧、交番電流、電圧パルス、電流パルス)の探索信号A、B、Cを出力するように構成されている。
【0023】
上位コントローラ30として、専用品を使用、あるいは電気自動車やハイブリッド電気自動車の車体制御ユニットを利用できる。通信手段40として、専用線を使用、または自動車のCAN(電子制御システム向け通信プロトコル)を利用することができる。
【0024】
このように構成された絶縁劣化検出装置において、上位コントローラ30が通信手段40を介して探索同期信号を送信し、絶縁劣化検出装置10A、10B、10Cは、受信した探索同期信号にタイミング(周期、位相、パルス幅を含む)を合わせた探索信号A、B、Cを高電圧回路20に印加する。したがって、複数台の絶縁劣化検出装置10A、10B、10Cが探索信号を同時に出力したとしても、干渉による誤動作を防止した同期運転が実現できる。
【0025】
絶縁劣化検出装置10が合計n台ある場合、その中で高電圧回路20に向けて探索信号を出力する台数、および検出信号を取り込み絶縁劣化・漏電を検出、判定する台数は、1~n台の範囲で上位コントローラが選択するようにしてもよい。たとえば、1台の絶縁劣化検出装置10のみが探索信号を出力し、絶縁劣化・漏電を検出、判定するようにしても、高電圧回路20のいずれかの箇所で絶縁劣化・漏電が起きていることを検出することができる。
【0026】
図2は、本発明の第2の実施形態による絶縁劣化検出装置が他の絶縁劣化検出装置とともに高電圧回路に接続された場合を示す概略構成図である。
図2において、絶縁劣化検出装置102A、102B、102Cがそれぞれマスタースレーブ切換入力を備え、上位コントローラ302が通信手段402を介してマスターモードとなる絶縁劣化検出装置を1台選択する。
図2には、絶縁劣化検出装置102Aがマスターモードである例が示されている。
【0027】
マスターモードとなった絶縁劣化検出装置102Aは、内部回路とアルゴリズムに従って探索信号と探索同期信号とを発する。探索信号Aは高電圧回路20Aに印加され、探索同期信号は通信手段4022を介して、残り2台(絶縁劣化検出装置の台数がnの場合、n-1台)の絶縁劣化検出装置102B、102Cに伝達される。絶縁劣化検出装置102A、102B、102Cは、それぞれ探索同期信号を入出力するための探索同期信号伝達手段を備え、マスターモードの絶縁劣化検出装置102Aでは、探索同期信号伝達手段から探索同期信号を出力する。
【0028】
残り2台(n-1台)の絶縁劣化検出装置102B、102Cはスレーブモードとなり、それぞれの探索同期信号伝達手段により受信した探索同期信号にタイミング(周期、位相、パルス幅を含む)を合わせて探索信号B、Cをそれぞれ高電圧直流源20B、高電圧機器20Cに発することで、同期運転を行なう。
【0029】
図2において、上位コントローラ302により選択された絶縁劣化検出装置102Aが主装置(マスターモード)となり、高電圧回路20Aに対して探索信号Aを発するとともに、探索信号Aの周期・位相を反映した探索同期信号を探索同期信号伝達手段により絶縁劣化検出装置102B、102Cに送信する。絶縁劣化検出装置102B、102Cは従属装置(スレーブモード)となり、探索同期信号伝達手段により受信した探索同期信号にタイミング(周期、位相、パルス幅を含む)を合わせた探索信号B、Cを高電圧直流源20B、高電圧機器20Cに対して発する。こうすることにより、絶縁劣化検出装置102A、102B、102Cが同時に探索信号A、B、Cを高電圧回路20に発したとしても、干渉による誤動作を防止することができる。
【0030】
なお、
図1および
図2に示した実施形態において、絶縁劣化検出装置10A、102A、10B、102B、10C、102Cから高電圧回路20への探索信号の注入地点は同一である必要はなく、
図1および
図2に示すように、高電圧回路20の負側、中点、正側等に分散していてもよい。負側、中点、正側における直流電位差は、後述の
図3、
図4に示されたカップリングコンデンサ(絶縁コンデンサ)が吸収する。
【0031】
次に、
図3を参照して、
図1および
図2に示した実施形態において、探索信号が交流電圧の場合に使用される絶縁劣化検出装置の構成を説明する。
図3において、絶縁劣化検出装置103A、103B、103Cは、高電圧回路20と接地電位の車両ボディ/シャシ50との間に並列接続され、探索信号A、B、Cが高電圧回路20に並列に印加されて、同期運転が行なわれる。絶縁劣化検出装置103A、103B、103Cの主要構成要素は、電流検出部1031A、1031B、1031C、交流源1032A、1032B、1032C、カップリングコンデンサ1033A、1033B、1033Cである。
【0032】
第1の実施形態(
図1)、第2の実施形態(
図2)において、交流源1032A、1032B、1032Cが同周期・同位相・同振幅の交流電圧を出力すると、探索信号A、B、Cが高電圧回路20に並列印加されても互いに重畳されることなく、高電圧回路20から絶縁抵抗60にかかる電圧値は絶縁劣化検出装置が1台の場合と同等レベルになる。探索信号が電圧パルスの場合も同様である。
【0033】
一方、高電圧回路20から絶縁抵抗60に探索電圧信号が印加されることで生じる電流は、絶縁劣化検出装置103A、103B、103Cの各経路に分散して流れる。各経路への電流配分比は絶縁劣化検出装置の個体差(電圧誤差、インピーダンス誤差)、および検索信号注入点(負側、中点、正側)固有の電位やインピーダンスに依存するため、一意に決まらない。そのため、絶縁劣化・漏電検出を算出・判定する際には、各経路の電流検出部1031A、1031B、1031Cで検出される電流値の合算値を使用する。
【0034】
例えば、第1の実施形態(
図1)と
図3の構成の組み合わせでは、通信手段40を双方向に送受信できるものとし、絶縁劣化検出装置103A、103B、103Cが検出した電流値を上位コントローラ30に送信する。上位コントローラ30で電流値を合算して最終的な絶縁劣化・漏電判定を行ってもよいが、合算電流値を絶縁劣化検出装置103A、103B、103Cに戻して、いずれかの絶縁劣化検出装置103A、103B、103Cが最終的な絶縁劣化・漏電検出判定を行ってもよい。
【0035】
図1および
図2に示した実施形態において、探索信号が交番電流の場合、
図4に示すように、絶縁劣化検出装置104A、104B、104Cが、高電圧回路20と接地電位の車両ボディ/シャシとの間に並列接続されて同期運転を行なう。探索信号A、B、Cが高電圧回路20に並列に注入される。絶縁劣化漏電検出装置104A、104B、104Cの主要構成要素は、電流源1041A、1041B、1041C、電圧検出部1042A、1042B、1042C、カップリングコンデンサ1043A、1043B、1043Cである。
【0036】
第1の実施形態、第2の実施形態において、電流源1041A、1041B、1041Cが同周期・同位相・同振幅の交番電流を出力すると、探索信号A、B、Cが高電圧回路20に並列注入されて互いに重畳されるため、高電圧回路20から絶縁抵抗60に流れる電流値は絶縁劣化検出装置の台数に応じて増えていく。探索信号が電流パルスの場合も同様である。
【0037】
一方、高電圧回路20から絶縁抵抗60に探索電流信号が注入されることで生じる電圧値も、絶縁抵抗60に流れる電流値に応じて増える。ここで、電圧振幅が大きくなり過ぎると、各絶縁劣化検出装置104A、104B、104C内の電圧検出部1042A、1042B、1042Cにおいて電圧オーバーレンジが生じるため、絶縁劣化検出装置を多数台並列運転する場合には、各絶縁劣化検出装置から出力される探索電流信号の振幅を抑制する必要がある。
【0038】
例えば、第1の実施形態(
図1)と
図4の構成との組み合わせでは、上位コントローラ30が通信手段40を介して探索同期信号と共に振幅低減指令を各絶縁劣化検出装置104A、104B、104Cに送信する。絶縁劣化検出装置n台における平均振幅が1/nになれば、個別の探索信号低減率は同じでなくてもよい。例えば、第2の実施形態(
図2)と
図4の構成との組み合わせでは、上位コントローラ302によって選択された絶縁劣化検出装置102Aのみが探索信号を出力し、選択されなかった絶縁劣化検出装置102B、102Cは探索信号を出力しなくてもよい。
【0039】
なお、絶縁劣化検出装置104A、104B、104Cにおいて電流源1041A、1041B、1041Cの出力電流を低減すると、カップリングコンデンサ1043A、1043B、1043Cが分担する電圧も電流に応じて小さくなる。絶縁劣化電検出装置が複数台同期運転する場合には、電流低減によって生じるカップリングコンデンサ1043A、1043B、1043Cの電圧低下に合わせて電圧検出部1042A、1042B、1042Cの判定基準を補正することで、絶縁劣化・漏電検出精度を上げることができる。
【0040】
次に、
図5を参照して、本発明の第3の実施形態による絶縁劣化検出装置の構成を説明する。
図5において、高電圧回路20に複数台の絶縁劣化検出装置105A、105B、105Cが接続されており、絶縁劣化検出装置105A、105B、105Cは、それぞれ探索信号送信部75A、75B、75Cおよび検出信号受信部85A、85B、85Cを備える。各探索信号送信部75A、75B、75Cが発する探索信号は、周期的な電圧、電流、パルスであればよく、方式や仕様が互いに異なっていてもよい。
【0041】
図5において、絶縁劣化検出装置105A、105B、105Cは同じ高電圧回路20に接続されているが、別々の機器に内蔵されており、それぞれの機器の起動タイミングは異なる。本発明の第3の実施形態による絶縁劣化検出装置105Bでは、その起動後に所定時間のアイドリング期間を設ける。アイドリング期間において、探索信号送信部75Bは停止したまま、検出信号受信部85Bのみを稼働させる。
【0042】
アイドリング期間中、検出信号受信部85Bにおいて絶縁劣化検出装置が用いる数ヘルツ以下の周期的な低周波信号が受信されたら、同じ高電圧回路20上で他の絶縁劣化検出装置(たとえば105Aまたは105C)が稼働しているものと判断して、探索信号出力部75Bは停止したままにする。この場合、先に稼働している絶縁劣化検出装置105Aまたは105Cが絶縁劣化・漏電検出判定を行う。同じ高電圧回路20上で1台のみの絶縁劣化検出装置が105Aまたは105Cが稼働しているので、干渉による誤動作を防止することができる。
【0043】
所定のアイドリング期間が経過しても検出信号受信部85Bにおいて周期的な低周波信号が受信されないときは、同じ高電圧回路20上で他の絶縁劣化検出装置(105Aおよび105C)が稼働していないものと判断して、探索信号送信部75Bを稼働させる。このような手順によれば、同じ高電圧回路20に接続された絶縁劣化検出装置105A、105B、105Cのうち、最初に起動した機器に内蔵された絶縁劣化検出装置が優先的に稼動するので、干渉による誤動作を防止することができる。
【0044】
以下、
図5および
図6を参照して本発明の第3の実施形態を説明する。
図6のフローチャートに示すように、ステップ600において、それぞれ絶縁劣化検出装置105A、105B、105Cを内蔵した3台の機器、高電圧機器20A 、高電圧直流源20B、高電圧機器20Cを起動する。
図1、
図2に示すように、3台の機器20A、20B、20Cは、互いに接続されており一つの高電圧回路20を構成している。ステップ601において、所定時間のアイドリング期間、本発明の第3の実施形態による絶縁劣化検出装置105Bの探索信号送信部75Bを停止し、検出信号受信部85Bを稼動させる。
【0045】
ステップ602において、所定時間のアイドリング期間内に検出信号受信部85Bが数ヘルツ以下の周期信号を観測した場合、他の絶縁劣化検出装置105Aまたは105Cの探索信号送信部75Aまたは75Cが稼働していると判定して、ステップ603で、探索信号送信部75Bを停止したままにする。
【0046】
次に
図5および
図6を参照して本発明の第4の実施形態を説明する。ステップ602において、検出信号受信部85Bが所定時間のアイドリング期間内に数ヘルツ以下の周期信号を観測しない場合、他の絶縁劣化検出装置105Aまたは105Cの探索信号送信部75Aまたは75Cが稼働していないと判定して、ステップ604で、探索信号送信部75Bを稼働する。
【0047】
絶縁劣化検出装置105Bが絶縁劣化・漏電検出を行っているとき、ステップ605において、検出信号受信部85Bが自らの探索信号出力部75Bが発する探索信号よりも低周波の周期信号を検出した場合、ステップ603において、絶縁劣化検出装置105Bは自らの探索信号の出力を停止する。一方、検出信号受信部85Bが自らの探索信号出力部75Bが発する探索信号よりも低周波の周期信号を検出しない場合、ステップ606において、絶縁劣化検出装置105Bは探索信号出力を継続する。
【0048】
このように、万が一、2台以上の絶縁劣化検出装置が同時に運転を始めてしまった場合にも、より低周波数の探索信号を発する絶縁劣化検出装置を残すことで、1台のみの優先運転を実現できる。各絶縁劣化検知装置が検知対象とする回路の浮遊容量などの影響による時定数の違いに起因して、探索信号出力部75Bが発する探索信号と、他の探索信号出力部75Aまたは75Cが発する探索信号では、検出信号受信部85Bにおいて観測される信号の周波数が異なるため、最も大きな浮遊容量に対応できる一番低い周波数の探索信号を発する探索信号出力部を稼働させたままとし、他の絶縁劣化検出装置の探索信号出力部を停止させる。
【0049】
以上説明した実施形態では、電気自動車、ハイブリッド自動車等などの電動車両に搭載される高電圧回路およびこれに連結される高電圧回路に接続される絶縁劣化検出装置について説明したが、本発明は、ハイブリッド船舶などの電動船舶、電動航空機などに搭載される高電圧回路およびこれらに連結される高電圧回路に接続される絶縁劣化検出装置にも適用できる。また、本発明は、これらに限られず、高電圧回路に複数の絶縁劣化検出装置が接続される構成に適用できる。
【符号の説明】
【0050】
10A、10B、10C、102A、102B、102C、103A、103B、103C、104A、104B、104C、105A、105B、105C 絶縁劣化検出装置
20、20A、20B、20C 高電圧回路
30 上位コントローラ
40、402、4022 通信手段
50 車両ボディ/シャシ
60 絶縁抵抗
75A、75B、75C 探索信号送信部
85A、85B、85C 検出信号受信部
1031A、1031B、1031C 電流検出部
1032A、1032B、1032C 交流源
1033A、1033B、1033C カップリングコンデンサ
1041A、1041B、1041C 電流源
1042A、1042B、1042C 電圧検出部
1043A、1043B、1043C カップリングコンデンサ