(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024135750
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】フラックス組成物、はんだ組成物、および電子基板
(51)【国際特許分類】
B23K 35/363 20060101AFI20240927BHJP
B23K 35/26 20060101ALN20240927BHJP
C22C 13/00 20060101ALN20240927BHJP
H05K 3/12 20060101ALN20240927BHJP
【FI】
B23K35/363 D
B23K35/363 E
B23K35/363 C
B23K35/26 310A
C22C13/00
H05K3/12
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023046600
(22)【出願日】2023-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】390005223
【氏名又は名称】株式会社タムラ製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】神 奈津希
(72)【発明者】
【氏名】網野 大輝
(72)【発明者】
【氏名】添田 宏一
(72)【発明者】
【氏名】田中 謙太
【テーマコード(参考)】
5E343
【Fターム(参考)】
5E343DD03
5E343DD12
(57)【要約】
【課題】フラックス残さの温度サイクル信頼性が優れ、かつ印刷性が優れるフラックス組成物を提供すること。
【解決手段】(A)樹脂、(B)活性剤、および(C)溶剤を含有するフラックス組成物であって、前記(A)成分が、(A1)アクリル樹脂を含有し、前記(B)成分が、(B1)有機酸を含有し、前記(B1)成分が、ドデカン二酸を含有し、前記(C)成分が、(C1)マレイン酸ジブチルを含有する、フラックス組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)樹脂、(B)活性剤、および(C)溶剤を含有するフラックス組成物であって、
前記(A)成分が、(A1)アクリル樹脂を含有し、
前記(B)成分が、(B1)有機酸を含有し、
前記(B1)成分が、ドデカン二酸を含有し、
前記(C)成分が、(C1)マレイン酸ジブチルを含有する、
フラックス組成物。
【請求項2】
請求項1に記載のフラックス組成物において、
前記(A1)成分の配合量が、前記(A)成分100質量%に対して、50質量%以上である、
フラックス組成物。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のフラックス組成物と、(D)はんだ粉末とを含有する、
はんだ組成物。
【請求項4】
請求項3に記載のはんだ組成物を用いたはんだ付け部を備える、
電子基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラックス組成物、はんだ組成物、および電子基板に関する。
【背景技術】
【0002】
はんだ組成物は、はんだ粉末にフラックス組成物(ロジン系樹脂、活性剤および溶剤など)を混練してペースト状にした混合物である(例えば、特許文献1)。このはんだ組成物においては、はんだ溶融性やはんだが濡れ広がりやすいという性質(はんだ濡れ広がり)などのはんだ付け性とともに、フラックス残さの温度サイクル信頼性などが要求されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
フラックス残さの温度サイクル信頼性を向上させるため、アクリル樹脂を用いることが提案されている。一方で、アクリル樹脂自体は、はんだ粉末および母材の金属酸化膜を除去する力がほとんどないため、有機酸を併用することが一般的である。しかしながら、分子量が小さい有機酸は、アクリル樹脂には溶けにくい。また、有機酸が溶けず、フラックス中に析出してしまうと、はんだ組成物の印刷時に悪影響を及ぼす(目詰まりなど)おそれがある。また、フラックス成分が不均一になり、品質面にも問題が出るおそれがある。そこで、アクリル樹脂とロジン樹脂を併用することが考えられるが、ロジン樹脂の割合を増やすと活性剤は溶けやすくなるものの、今度は温度サイクル信頼性が損なわれてしまう。
【0005】
本発明は、フラックス残さの温度サイクル信頼性が優れ、かつ印刷性が優れるフラックス組成物、はんだ組成物、および電子基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、以下に示すフラックス組成物、はんだ組成物および電子基板が提供される。
[1] (A)樹脂、(B)活性剤、および(C)溶剤を含有するフラックス組成物であって、
前記(A)成分が、(A1)アクリル樹脂を含有し、
前記(B)成分が、(B1)有機酸を含有し、
前記(B1)成分が、ドデカン二酸を含有し、
前記(C)成分が、(C1)マレイン酸ジブチルを含有する、
フラックス組成物。
[2] [1]に記載のフラックス組成物において、
前記(A1)成分の配合量が、前記(A)成分100質量%に対して、50質量%以上である、
フラックス組成物。
[3] [1]または[2]に記載のフラックス組成物と、(D)はんだ粉末とを含有する、
はんだ組成物。
[4] [3]に記載のはんだ組成物を用いたはんだ付け部を備える、
電子基板。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一態様によれば、フラックス残さの温度サイクル信頼性が優れ、かつ印刷性が優れるフラックス組成物、はんだ組成物、および電子基板を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】はんだ組成物を顕微鏡にて観察した写真であり、
図1(A)は、実施例1で得られたはんだ組成物の写真であり、
図1(B)は、比較例1で得られたはんだ組成物の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[フラックス組成物]
まず、本実施形態に係るフラックス組成物について説明する。本実施形態に係るフラックス組成物は、はんだ組成物におけるはんだ粉末以外の成分であり、以下説明する(A)樹脂、(B)活性剤、および(C)溶剤を含有するものである。また、(A)成分が、(A1)アクリル樹脂を含有し、(B)成分が、(B1)有機酸を含有し、(B1)成分が、ドデカン二酸を含有し、(C)成分が、(C1)マレイン酸ジブチルを含有することが必要である。
【0010】
本実施形態に係るフラックス組成物が、フラックス残さの温度サイクル信頼性が優れ、かつ印刷性が優れる理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。
すなわち、本発明のフラックス組成物においては、(A)樹脂として、(A1)アクリル樹脂を含有している。(A1)成分によれば、フラックス残さの温度サイクル信頼性を向上できる。一方で、(A1)成分を含有するフラックス組成物においては、分子量が小さい有機酸の結晶がフラックス中に析出してしまい、場合によっては、大きな結晶が発生してしまう。大きな結晶が発生すると、目詰まりなどが発生しやすくなり、印刷性が低下してしまう。これに対し、本発明のフラックス組成物においては、有機酸として、ドデカン二酸を併用しており、このドデカン二酸により、分子量が小さい有機酸が大きな結晶となることを抑制できる。さらに、本発明のフラックス組成物においては、(C)溶剤として、(C1)マレイン酸ジブチルを用いており、この(C1)成分により、分子量が小さい有機酸の結晶化を抑制できる。このようにして、大きな結晶が発生することを防止でき、優れた印刷性を確保できる。以上のようにして、上記本発明の効果が達成されるものと本発明者らは推察する。
【0011】
[(A)成分]
本実施形態に用いる(A)樹脂は、(A1)アクリル樹脂を含有することが必要である。この(A1)により、フラックス残さの温度サイクル信頼性を向上できる。
アクリル樹脂としては、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸の各種エステル、メタクリル酸の各種エステル、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、マレイン酸のエステル、無水マレイン酸のエステル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリルアミド、塩化ビニル、および酢酸ビニルなどの少なくとも1種のモノマーを重合してなるものである。このアクリル樹脂の中でも、メタクリル酸と炭素数2から6のアルキル基を有するモノマーとを含むモノマー類を重合したアクリル樹脂、更にはメタクリル酸と炭素数2のアルキル基を有するモノマーとを含むモノマー類を重合したアクリル樹脂が好ましい。
【0012】
(A1)成分の配合量は、(A)成分100質量%に対して、50質量%以上100質量%以下であることが好ましく、65質量%以上95質量%以下であることがより好ましく、80質量%以上90質量%以下であることが特に好ましい。(A1)成分の配合量が前記下限以上であれば、フラックス残さの温度サイクル信頼性を更に向上できる傾向にあり、他方、前記上限以下であれば、印刷性を向上できる傾向にある。
【0013】
(A)成分は、さらに(A2)ロジン系樹脂を含有することが好ましい。この(A2)成分により、分子量の小さい有機酸をフラックス組成物中に溶けやすくすることができる。
ロジン系樹脂としては、ロジン類およびロジン系変性樹脂が挙げられる。ロジン類としては、ガムロジン、ウッドロジンおよびトール油ロジンなどが挙げられる。ロジン系変性樹脂としては、不均化ロジン、重合ロジン、水素添加ロジンおよびこれらの誘導体などが挙げられる。水素添加ロジンとしては、完全水添ロジン、部分水添ロジン、並びに、不飽和有機酸((メタ)アクリル酸などの脂肪族の不飽和一塩基酸、フマル酸、マレイン酸などのα,β-不飽和カルボン酸などの脂肪族不飽和二塩基酸、桂皮酸などの芳香族環を有する不飽和カルボン酸など)の変性ロジンである不飽和有機酸変性ロジンの水素添加物(「水添酸変性ロジン」ともいう)などが挙げられる。これらのロジン系樹脂は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。また、これらのロジン系樹脂の中でも、完全水添ロジンおよび水添酸変性ロジンを用いることが好ましく、完全水添ロジンと、水添酸変性ロジンとを併用することがより好ましい。
【0014】
(A1)成分と(A2)成分との質量比((A1)/(A2))は、フラックス残さの温度サイクル信頼性と印刷性とのバランスの観点から、1以上10以下であることが好ましく、3/2以上8以下であることがより好ましく、4以上6以下であることが特に好ましい。
【0015】
(A)成分の配合量は、フラックス組成物100質量%に対して、35質量%以上80質量%以下であることが好ましく、40質量%以上75質量%以下であることがより好ましい。(A)成分の配合量が前記下限以上であれば、はんだ付ランドの銅箔面の酸化を防止してその表面に溶融はんだを濡れやすくする、いわゆるはんだ付け性を向上でき、はんだボールを十分に抑制できる。また、(A)成分の配合量が前記上限以下であれば、フラックス残さ量を十分に抑制できる。
【0016】
[(B)成分]
本実施形態に用いる(B)活性剤は、(B1)有機酸を含有することが必要である。この(B1)成分により、はんだ付け性を向上できる。
(B1)成分としては、モノカルボン酸、ジカルボン酸などの他に、その他の有機酸が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
モノカルボン酸としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、ブチリック酸、バレリック酸、カプロン酸、エナント酸、カプリン酸、ラウリル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、ツベルクロステアリン酸、アラキジン酸、ベヘニン酸、リグノセリン酸、およびグリコール酸などが挙げられる。
ジカルボン酸としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、フマル酸、マレイン酸、酒石酸、およびジグリコール酸などが挙げられる。
その他の有機酸としては、3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、ダイマー酸、トリマー酸、レブリン酸、乳酸、アクリル酸、安息香酸、サリチル酸、アニス酸、クエン酸、およびピコリン酸などが挙げられる。
【0017】
本実施形態において、(B1)成分は、ドデカン二酸を含有することが必要である。このドデカン二酸により、(B1)成分の結晶が巨大化することを防止できる。
ドデカン二酸の配合量は、(B1)成分100質量%に対して、15質量%以上60質量%以下であることが好ましく、20質量%以上50質量%以下であることがより好ましく、30質量%以上40質量%以下であることが特に好ましい。
(B1)成分の配合量としては、フラックス組成物100質量%に対して、2質量%以上25質量%以下であることが好ましく、5質量%以上20質量%以下であることがより好ましく、7質量%以上12質量%以下であることが特に好ましい。(B1)成分の配合量が前記下限以上であれば、活性作用を向上できる傾向にあり、他方、前記上限以下であれば、フラックス組成物の絶縁性を維持できる傾向にある。
【0018】
(B)成分は、本発明の課題を達成できる範囲において、(B1)成分以外に、その他の活性剤((B2)ハロゲン系活性剤、および(B3)アミン系活性剤など)をさらに含有してもよい。また、(B1)成分の配合量の合計は、(B)成分100質量%に対して、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましい。
【0019】
(B)成分の配合量としては、フラックス組成物100質量%に対して、3質量%以上25質量%以下であることが好ましく、6質量%以上20質量%以下であることがより好ましく、8質量%以上12質量%以下であることが特に好ましい。(B)成分の配合量が前記下限以上であれば、活性作用を向上できる傾向にあり、他方、前記上限以下であれば、フラックス組成物の絶縁性を維持できる傾向にある。
【0020】
[(C)成分]
本実施形態に用いる(C)溶剤は、(C1)マレイン酸ジブチルを含有することが必要である。この(C1)成分により、分子量が小さい有機酸の結晶化を抑制できる。
上記の観点から、(C1)成分の配合量は、フラックス組成物100質量%に対して、2質量%以上20質量%以下であることが好ましく、3質量%以上15質量%以下であることがより好ましく、4質量%以上10質量%以下であることが特に好ましい。
【0021】
(C)成分は、(C1)成分以外の溶剤(以下(C2)成分とも称する)を含有していてもよい。(C2)成分としては、公知の溶剤を適宜用いることができる。このような溶剤としては、沸点170℃以上の溶剤を用いることが好ましい。
このような溶剤としては、例えば、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、ヘキシレングリコール、1,5-ペンタンジオール、メチルカルビトール、ブチルカルビトール、2-エチルヘキシルジグリコール、オクタンジオール、フェニルグリコール、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル(DEH)、およびテトラエチレングリコールジメチルエーテルなどが挙げられる。これらの溶剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0022】
(C)成分の配合量は、フラックス組成物100質量%に対して、5質量%以上20質量%以下であることが好ましく、7質量%以上15質量%以下であることがより好ましい。溶剤の配合量が前記範囲内であれば、得られるはんだ組成物の粘度を適正な範囲に適宜調整できる。
【0023】
[チクソ剤]
本実施形態に係るフラックス組成物は、印刷時や加熱時のダレを抑制するという観点から、(D)チクソ剤を含有していてもよい。チクソ剤としては、公知のチクソ剤を適宜使用できる。ここで用いるチクソ剤としては、硬化ひまし油、アミド類、カオリン、コロイダルシリカ、有機ベントナイト、およびガラスフリットなどが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0024】
チクソ剤の配合量は、フラックス組成物100質量%に対して、2質量%以上20質量%以下であることが好ましく、3質量%以上15質量%以下であることがより好ましく、5質量%以上10質量%以下であることが特に好ましい。配合量が前記下限以上であれば、十分なチクソ性が得られ、ダレを抑制できる傾向にある。他方、前記上限以下であれば、チクソ性が高すぎることなく、印刷不良となりにくい傾向にある。
【0025】
[酸化防止剤]
本実施形態に係るフラックス組成物は、はんだ溶融性などの観点から、さらに酸化防止剤を含有していてもよい。ここで用いる酸化防止剤としては、公知の酸化防止剤を適宜用いることができる。酸化防止剤としては、硫黄化合物、ヒンダードフェノール化合物、およびホスファイト化合物などが挙げられる。これらの中でも、ヒンダードフェノール化合物が好ましい。
【0026】
ヒンダードフェノール化合物としては、ペンタエリトリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナート]、ビス(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルベンゼンプロパン酸)エチレンビス(オキシエチレン)、N,N’-ビス[2-[2-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)エチルカルボニルオキシ]エチル]オキサミド、および、N,N’-ビス{3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニル}ヒドラジンなどが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0027】
酸化防止剤を用いる場合、その配合量は、フラックス組成物100質量%に対して、0.1質量%以上5質量%以下であることが好ましい。酸化防止剤の配合量が前記下限以上であれば、はんだ溶融性を向上できる傾向にあり、他方、前記上限以下であれば、フラックス組成物の絶縁性を維持できる傾向にある。
【0028】
[他の成分]
本実施形態に用いるフラックス組成物には、(A)成分、(B)成分、(C)成分、チクソ剤、および酸化防止剤の他に、必要に応じて、その他の添加剤を加えることができる。その他の添加剤としては、イミダゾール化合物、消泡剤、改質剤、つや消し剤、および発泡剤などが挙げられる。これらの添加剤の配合量としては、フラックス組成物100質量%に対して、0.01質量%以上5質量%以下であることが好ましい。
【0029】
[はんだ組成物]
次に、本実施形態に係るはんだ組成物について説明する。本実施形態に係るはんだ組成物は、前述の本実施形態に係るフラックス組成物と、以下説明する(D)はんだ粉末とを含有するものである。
フラックス組成物の配合量は、はんだ組成物100質量%に対して、5質量%以上35質量%以下であることが好ましく、7質量%以上15質量%以下であることがより好ましく、8質量%以上12質量%以下であることが特に好ましい。フラックス組成物の配合量が5質量%未満の場合(はんだ粉末の配合量が95質量%を超える場合)には、バインダーとしてのフラックス組成物が足りないため、フラックス組成物とはんだ粉末とを混合しにくくなる傾向にあり、他方、フラックス組成物の配合量が35質量%を超える場合(はんだ粉末の配合量が65質量%未満の場合)には、得られるはんだ組成物を用いた場合に、十分なはんだ接合を形成できにくくなる傾向にある。
【0030】
[(D)成分]
本実施形態に用いる(D)はんだ粉末は、鉛フリーはんだ粉末のみからなることが好ましいが、有鉛のはんだ粉末であってもよい。また、このはんだ粉末におけるはんだ合金は、スズ(Sn)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、銀(Ag)、金(Au)、アンチモン(Sb)、鉛(Pb)、インジウム(In)、ビスマス(Bi)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)およびゲルマニウム(Ge)からなる群から選択される少なくとも1種を含有することが好ましい。
このはんだ粉末におけるはんだ合金としては、スズを主成分とする合金が好ましい。また、このはんだ合金は、スズ、銀および銅を含有することがより好ましい。さらに、このはんだ合金は、添加元素として、アンチモン、ビスマスおよびニッケルのうちの少なくとも1つを含有してもよい。
ここで、鉛フリーはんだ粉末とは、鉛を添加しないはんだ金属または合金の粉末のことをいう。ただし、鉛フリーはんだ粉末中に、不可避的不純物として鉛が存在することは許容されるが、この場合に、鉛の量は、300質量ppm以下であることが好ましい。
【0031】
鉛フリーのはんだ粉末の合金系としては、具体的には、Sn-Ag-Cu系、Sn-Cu系、Sn-Ag系、Sn-Bi系、Sn-Ag-Bi系、Sn-Ag-Cu-Bi系、Sn-Ag-Cu-Ni系、Sn-Ag-Cu-Bi-Sb系、Sn-Ag-Bi-In系、およびSn-Ag-Cu-Bi-In-Sb系などが挙げられる。
【0032】
(D)成分の平均粒子径は、通常1μm以上40μm以下であるが、はんだ付けパッドのピッチが狭い電子基板にも対応するという観点から、1μm以上35μm以下であることがより好ましく、2μm以上35μm以下であることがさらにより好ましく、3μm以上32μm以下であることが特に好ましい。なお、平均粒子径は、動的光散乱式の粒子径測定装置により測定できる。
【0033】
[はんだ組成物の製造方法]
本実施形態のはんだ組成物は、上記説明したフラックス組成物と上記説明した(D)はんだ粉末とを上記所定の割合で配合し、撹拌混合することで製造できる。
【0034】
[電子基板]
次に、本実施形態に係る電子基板について説明する。本実施形態に係る電子基板は、前述の本実施形態に係るはんだ組成物を用いたはんだ付け部を備えることを特徴とするものである。本実施形態に係る電子基板は、前記はんだ組成物を用いて電子部品を電子基板(プリント配線基板など)に実装することで製造できる。
ここで用いる塗布装置としては、スクリーン印刷機、メタルマスク印刷機、ディスペンサー、およびジェットディスペンサーなどが挙げられる。
また、塗布装置にて塗布したはんだ組成物上に電子部品を配置し、リフロー炉により所定条件にて加熱して、電子部品をプリント配線基板に実装するリフロー工程により、電子部品を電子基板に実装できる。
【0035】
リフロー工程においては、はんだ組成物上に電子部品を配置し、リフロー炉により所定条件にて加熱する。このリフロー工程により、電子部品およびプリント配線基板の間に十分なはんだ接合を行うことができる。その結果、電子部品をプリント配線基板に実装することができる。
リフロー条件は、はんだの融点に応じて適宜設定すればよい。例えば、プリヒート温度は、140℃以上200℃以下であることが好ましく、150℃以上160℃以下であることがより好ましい。プリヒート時間は、60秒間以上120秒間以下であることが好ましい。ピーク温度は、230℃以上270℃以下であることが好ましく、240℃以上255℃以下であることがより好ましい。また、220℃以上の温度の保持時間は、20秒間以上60秒間以下であることが好ましい。
【0036】
また、本実施形態に係るフラックス組成物、はんだ組成物および電子基板は、前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良などは本発明に含まれるものである。
例えば、前記電子基板では、リフロー工程により、プリント配線基板と電子部品とを接着しているが、これに限定されない。例えば、リフロー工程に代えて、レーザー光を用いてはんだ組成物を加熱する工程(レーザー加熱工程)により、プリント配線基板と電子部品とを接着してもよい。この場合、レーザー光源としては、特に限定されず、金属の吸収帯に合わせた波長に応じて適宜採用できる。レーザー光源としては、例えば、固体レーザー(ルビー、ガラス、YAGなど)、半導体レーザー(GaAs、およびInGaAsPなど)、液体レーザー(色素など)、並びに、気体レーザー(He-Ne、Ar、CO2、およびエキシマーなど)が挙げられる。
【実施例0037】
次に、本発明を実施例および比較例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。なお、実施例および比較例にて用いた材料を以下に示す。
((A1)成分)
アクリル樹脂:下記調製例1で得られたアクリル樹脂
((A2)成分)
ロジン系樹脂:アクリル酸変性水添ロジン、商品名「パインクリスタルKE-604」、荒川化学工業社製
((B1)成分)
有機酸A:ドデカン二酸
有機酸B:マロン酸
有機酸C:アジピン酸
有機酸D:アゼライン酸
有機酸E:3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸
((B2)成分)
ハロゲン系活性剤A:2-ヨード安息香酸
ハロゲン系活性剤B:ジブロモブテンジオール
((C1)成分)
溶剤A:マレイン酸ジブチル、大八化学工業社製
((C2)成分)
溶剤B:ヘキシルジグリコール、日本乳化剤社製
(他の成分)
チクソ剤A:高級脂肪酸ポリアミド、商品名「ターレンVA-79」、共栄社化学社製
チクソ剤B:脂肪酸アマイド、商品名「スリパックスH」、日本化成社製
チクソ剤C:商品名「ヒマコウ」、ケイエフ・トレーディング社製
酸化防止剤A:ビス(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルベンゼンプロパン酸)エチレンビス(オキシエチレン)、商品名「イルガノックス245」、BASF社製
酸化防止剤B:N,N’-ビス{3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニル}ヒドラジン、商品名「イルガノックスMD1024」、BASF社製
((D)成分)
はんだ粉末:合金組成はSn-3.0Ag-0.5Cu、粒子径分布は20~38μm(IPC-J-STD-005Aのタイプ4に相当)、はんだ融点は217~220℃
【0038】
[調製例1]
メタクリル酸10質量%、2-エチルヘキシルメタクリレート51質量%、およびラウリルアクリレート39質量%を混合した溶液を作製した。
その後、撹拌機、還流管および窒素導入管を備えた500mLの4つ口フラスコにジエチルヘキシルグリコール200gを仕込み、これを110℃に加熱した。次いで、前記溶液300gにアゾ系ラジカル開始剤としてジメチル2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート)(製品名:V-601、富士フイルム和光純薬社製)を0.2質量%から5質量%を加えてこれを溶解させた。
この溶液を前記4つ口フラスコに1.5時間かけて滴下し、当該4つ口フラスコ内にある成分を110℃で1時間撹拌した後に反応を終了させ、アクリル樹脂を得た。なお、アクリル樹脂の重量平均分子量は7,800、酸価は40mgKOH/g、ガラス転移温度は-47℃であった。
【0039】
[実施例1]
アクリル樹脂53質量%、ロジン系樹脂17質量%、有機酸A4質量%、有機酸ソル(溶剤B3質量%中に有機酸B0.5質量%)、有機酸C1.5質量%、有機酸D1.5質量%、有機酸E3質量%、ハロゲン系活性剤A0.5質量%、ハロゲン系活性剤B0.5質量%、酸化防止剤A2質量%、酸化防止剤B1質量%、溶剤A4.5質量%、チクソ剤A2質量%、チクソ剤B5質量%、およびチクソ剤C1質量%を容器に投入し、プラネタリーミキサーを用いて混合してフラックス組成物を得た。
その後、得られたフラックス組成物11質量%、およびはんだ粉末89質量%(合計で100質量%)を容器に投入し、プラネタリーミキサーにて混合することではんだ組成物を調製した。
【0040】
[実施例2~3]
表1に示す組成に従い各材料を配合した以外は実施例1と同様にして、はんだ組成物を得た。
[比較例1~3]
表1に示す組成に従い各材料を配合した以外は実施例1と同様にして、はんだ組成物を得た。
【0041】
<はんだ組成物の評価>
はんだ組成物の評価(結晶析出、印刷性、ピン間ボール、ボイド面積率、フラックス残さ冷熱サイクル試験)を以下のような方法で行った。得られた結果を表1に示す。
(1)結晶析出
はんだ組成物を顕微鏡にて観察して、以下の基準に従って、結晶析出を評価した。なお、実施例1で得られたはんだ組成物の顕微鏡写真を
図1(A)に示し、比較例1で得られたはんだ組成物の顕微鏡写真を
図1(B)に示す。
○:長径が30μmを超えるような結晶は見られない。
×:長径が30μmを超える結晶は見られるが、長径が70μmを超えるような結晶は見られない。
××:長径が70μmを超える結晶が見られる。
(2)印刷性
印刷機MK-878SV(ミナミ社製)と厚み0.1mmのメタルマスクとメタルスキージを使用し、印刷速度50mm/sでSP-TDC基板(100点のドットパターンを有する基板、ドットの直径:0.2mmφ)にはんだ組成物を印刷する。20枚のSP-TDC基板に印刷した後、三次元形状解析装置にて、転写率(100ドット分の体積率の平均値)の測定を行う。そして、放置後の平均転写率(基板10枚の転写率の平均値、単位:%)を算出した。
(3)ピン間ボール
0.8mmピッチのQFP(Quad Flat Package(ピン数80個、ピン間レジスト抜き))パターンを有する評価用基板(タムラ製作所社製の「SP-TDC」)に、120μm厚のメタルマスクを使用して、はんだ組成物を印刷し、リフロー炉ではんだ組成物を溶解させて、はんだ付けを行ったものを評価用基板とする。ここでのリフロー条件は、プリヒート温度が150~180℃(60秒間)で、温度220℃以上の時間が50秒間で、ピーク温度が245℃である。得られた評価用基板を拡大鏡にて観察し、ピンの間に発生したソルダボールを全てカウントし、その数をピン数で割った数を1ピンあたりのピン間ボール数(単位:個/ピン)として、算出した。
(4)ボイド面積率
QFN(大きさ:6mm×6mm、ランド:スズめっき、ランドの面積:36mm
2)を実装できる電極を有する基板上に、対応するパターンを有するメタルマスク(厚み:0.13mm)を用い、はんだ組成物を印刷した。その後、はんだ組成物上にQFNを搭載して、プリヒート150~180℃を80秒間とピーク温度240℃で溶融時間を40秒間の条件でリフロー(大気中)を行い、評価用基板を作製した。得られた評価用基板におけるはんだ接合部を、X線検査装置(「NLX-5000」、NAGOYA ELECTRIC WORKS社製)を用いて観察した。そして、リフロー後のQFNでのボイド率[(ボイド面積/ランド面積)×100](単位:%)を算出した。
(5)フラックス残さ冷熱サイクル試験
パターンを有する評価用基板(タムラ製作所社製の「SP-TDC」)に、120μm厚のメタルマスクを使用して、はんだ組成物を印刷し、リフロー炉ではんだ組成物を溶解させて、はんだ付けを行ったものを評価用基板とする。ここでのリフロー条件は、プリヒート温度が150~180℃(60秒間)で、温度220℃以上の時間が50秒間で、ピーク温度が245℃である。
評価用基板を、冷熱サイクル試験機に投入し、低温-40℃30分間と高温125℃30分間を1サイクルとする、冷熱サイクル試験を行った。そして、以下の基準に従って、フラックス残さ冷熱サイクル試験を評価した。
○:1000サイクル後の評価用基板にて、フラックス残さの亀裂が見られない。
△:100サイクル後の評価用基板にて、フラックス残さの亀裂が見られないが、1000サイクル後の評価用基板にて、フラックス残さの亀裂が見られる。
×:100サイクル後の評価用基板にて、フラックス残さの亀裂が見られる。
【0042】
【0043】
表1に示す結果からも明らかなように、本発明のはんだ組成物(実施例1~3)は、結晶析出、印刷性、ピン間ボール、ボイド面積率、およびフラックス残さ冷熱サイクル試験の全てが良好であることが確認された。
従って、本発明のはんだ組成物によれば、フラックス残さの温度サイクル信頼性が優れ、かつ印刷性が優れることが確認された。