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特開2024-135763自動墨出しシステム及び自動墨出し方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024135763
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】自動墨出しシステム及び自動墨出し方法
(51)【国際特許分類】
   G01C 15/02 20060101AFI20240927BHJP
【FI】
G01C15/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023046619
(22)【出願日】2023-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520190388
【氏名又は名称】株式会社ROBOSHIN
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】水谷 亮
(72)【発明者】
【氏名】三谷 哲史
(72)【発明者】
【氏名】小松 淳
(72)【発明者】
【氏名】平野 慎也
(57)【要約】
【課題】適切な位置へと墨出しを行う。
【解決手段】
墨出し面に墨出しを行う墨出し部18を有する墨出し装置10と、墨出し装置10の三次元空間位置を計測可能な三次元計測装置50と、墨出し装置10による墨出しを制御する制御装置30と、を備えた自動墨出しシステム100において、制御装置30は、三次元計測装置50の設置位置を基準とした墨出し座標上における目標墨出し位置を設計データ上の設計墨出し位置から設定する際に、設計墨出し位置を所定の変換率により位置変換する。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動墨出しシステムであって、
墨出し面に墨出しを行う墨出し部を有する墨出し装置と、
前記墨出し装置の三次元空間位置を計測可能な三次元計測装置と、
前記三次元計測装置により計測された前記墨出し装置の三次元空間位置に基づいて前記墨出し装置による墨出しを制御する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、前記三次元計測装置の設置位置を基準とした墨出し座標上における目標墨出し位置を設計データ上の設計墨出し位置から設定する際に、前記設計墨出し位置を所定の変換率により位置変換する、
自動墨出しシステム。
【請求項2】
前記変換率は、前記三次元計測装置により計測された基準点の計測位置データと、前記設計データから求められた前記基準点の設計位置データと、の差分に基づいて設定される、
請求項1に記載の自動墨出しシステム。
【請求項3】
前記変換率は、所定の軸方向における前記差分に基づいて設定され、
前記目標墨出し位置は、前記所定の軸方向に沿って前記変換率で位置変換された前記設計墨出し位置に基づいて設定される、
請求項2に記載の自動墨出しシステム。
【請求項4】
前記変換率は、複数の前記基準点によって形成される多角形の前記設計位置データに対する前記計測位置データの歪みに基づいて設定され、
前記目標墨出し位置は、前記設計墨出し位置の場所において推定される歪み方向に沿って前記変換率で位置変換された前記設計墨出し位置に基づいて設定される、
請求項2に記載の自動墨出しシステム。
【請求項5】
前記変換率は、墨出しが行われるコンクリートの収縮率に基づいて設定される、
請求項1に記載の自動墨出しシステム。
【請求項6】
前記墨出し装置によって墨出しが行われる前記目標墨出し位置は、前記設計墨出し位置及び前記変換率に基づいて前記制御装置により随時算出される、
請求項1から5の何れか1つに記載の自動墨出しシステム。
【請求項7】
自動墨出し方法であって、
三次元計測装置の設置位置を基準とした墨出し座標上における目標墨出し位置を設計データ上の設計墨出し位置に基づいて設定する工程と、
墨出し部を有する墨出し装置によって前記目標墨出し位置に墨出しが行われるように前記墨出し装置の動きを制御する工程と、を含み、
前記設計墨出し位置に基づいて前記目標墨出し位置を設定する際に、前記設計墨出し位置を所定の変換率により位置変換する、
自動墨出し方法。
【請求項8】
前記三次元計測装置により計測された基準点の計測位置データと、前記設計データから求められた前記基準点の設計位置データと、の差分に基づいて前記変換率を設定する工程をさらに含む、
請求項7に記載の自動墨出し方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動墨出しシステム及び自動墨出し方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、予め設定された目標点に墨出しを行う墨出しロボットを備えた自動墨出しシステムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-2849号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された自動墨出しシステムでは、予め床面に記された基準墨(親墨)を基準として墨出し用の座標を設定し、当該座標上の目標点へと墨出しロボットを移動させて、目標点に墨出しを行っている。一方で、墨出し用の座標を設定する際の基準として用いられる基準墨は、建築物の施工誤差に応じてその位置が想定された位置から僅かにずれることがある。このように僅かにずれた基準墨に基づいて設定された座標を用いて墨出しを行うと、基準点から離れるにつれて座標上の目標点と墨出しを行うべき点との間の差分(誤差)が大きくなり、結果として、内装仕上げ等を所定の位置に施工することができなくなるおそれがある。また、一般的に、墨出しはコンクリートがある程度固化した状態で行われるものの、その後のコンクリートの乾燥収縮によって墨出しが行われた点が目標点から僅かにずれることがあり、このような場合も内装仕上げ等を所定の位置に施工することができなくなるおそれがある。
【0005】
本発明は、より適切な位置に墨出しを行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、自動墨出しシステムであって、墨出し面に墨出しを行う墨出し部を有する墨出し装置と、墨出し装置の三次元空間位置を計測可能な三次元計測装置と、三次元計測装置により計測された墨出し装置の三次元空間位置に基づいて墨出し装置による墨出しを制御する制御装置と、を備え、制御装置は、三次元計測装置の設置位置を基準とした墨出し座標上における目標墨出し位置を設計データ上の設計墨出し位置から設定する際に、設計墨出し位置を所定の変換率により位置変換する。
【0007】
また、本発明は、自動墨出し方法であって、三次元計測装置の設置位置を基準とした墨出し座標上における目標墨出し位置を設計データ上の設計墨出し位置に基づいて設定する工程と、墨出し部を有する墨出し装置によって目標墨出し位置に墨出しが行われるように墨出し装置の動きを制御する工程と、を含み、設計墨出し位置に基づいて目標墨出し位置を設定する際に、設計墨出し位置を所定の変換率により位置変換する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、より適切な位置に墨出しを行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施形態に係る自動墨出しシステムによって行われる墨出し作業のイメージを示したイメージ図である。
図2】本発明の実施形態に係る自動墨出しシステムの全体構成を示すブロック図である。
図3】本発明の実施形態に係る自動墨出しシステムによって行われる墨出し作業の手順を示したフローチャートである。
図4】基準点の設定について説明するための図である。
図5】基準点の計測について説明するための図である。
図6】設計データ座標系と墨出し座標系との相対位置関係について説明するための図である。
図7】変換率の設定について説明するための図である。
図8】変形例における基準点の設定について説明するための図である。
図9】変形例における基準点の計測について説明するための図である。
図10】変形例における設計データ座標系と墨出し座標系との相対位置関係について説明するための図である。
図11】変形例における変換率の設定について説明するための図である。
図12】本発明の実施形態に係る自動墨出しシステムの変形例によって行われる墨出し作業のイメージを示したイメージ図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係る自動墨出しシステム及び自動墨出し方法について説明する。
【0011】
本発明の実施形態に係る自動墨出しシステム100は、建築物の床面等に工事の基準となる墨出し線等を自動的に描画するシステムである。まず、図1及び図2を参照して、自動墨出しシステム100の構成について説明する。
【0012】
自動墨出しシステム100は、図1に示すように、床面1等の墨出し面に墨出しを行う墨出し部18を有する墨出し装置10と、墨出し装置10の三次元空間位置を計測可能な三次元計測装置50と、三次元計測装置50により計測された墨出し装置10の三次元空間位置に基づいて墨出し装置10による墨出しを制御する制御装置30と、を備える。以下では、制御装置30が墨出し装置10に内蔵されている場合について説明するが、制御装置30は、三次元計測装置50に内蔵されていてもよいし、墨出し装置10及び三次元計測装置50とは別に設けられていてもよい。
【0013】
墨出し装置10は、外部からの操作を必要としない自律走行型ロボットであり、例えば図1に示されるように、床面1を走行可能な走行部12と、床面1に墨出しを行う墨出し部18と、三次元計測装置50により追尾されるターゲット部20と、を有する。
【0014】
走行部12は、回転方向及び回転速度がそれぞれ独立して制御される3つのオムニホイール(全方向移動車輪)を有する。各オムニホイールは、図示しない車軸を介して図示しない電動モータにより回転駆動される。
【0015】
3つのオムニホイールは、共通円の円周上に等間隔(120°間隔)で配置されており、それらの車軸の軸方向は、共通円の中心を向いている。換言すれば、3つのオムニホイールは、各車軸の軸方向が共通の中心点を向くように配置されている。なお、走行部12の全方向移動車輪は、オムニホイールに限定されず、例えば、メカナムホイールやメビウスホイールであってもよい。
【0016】
このように走行部12を複数の全方向移動車輪を有する構成とすることによって、墨出し装置10は、旋回することなく、全方向へと円滑に移動することができる。
【0017】
墨出し部18は、インクジェット式の印字装置であり、床面1に対してインクを吐出可能なノズルが所定の微小な間隔で複数設けられた図示しないノズルヘッドと、ノズルヘッドにインクを供給する図示しないインク供給部と、を有する。
【0018】
ターゲット部20は、三次元計測装置50から照射されたレーザ光を反射可能な指向性プリズムであり、三次元計測装置50を常時指向するように後述のターゲット回転部21によって回転される。なお、ターゲット部20は、360度プリズムであってもよく、この場合、ターゲット回転部は設けられなくともよい。
【0019】
上述の走行部12、墨出し部18及びターゲット部20以外に、墨出し装置10には、図2に示されるように、走行中の墨出し装置10の姿勢を検知可能な姿勢検知部26や、三次元計測装置50及び外部のサーバ90とデータの送受信を行うための通信部27、ターゲット部20が三次元計測装置50を向くようにターゲット部20を回転させるターゲット回転部21が設けられる他、走行部12やその他の電装品に電力を供給する図示しないバッテリが設けられている。また、墨出し装置10には、上述のように、制御装置30も設置されている。
【0020】
姿勢検知部26は、墨出し装置10の姿勢を検知可能な加速度センサ、ジャイロセンサ及び地磁気センサがユニット化された、いわゆる、慣性計測装置(IMU:Inertial Measurement Unit)であり、例えば、墨出し装置10の走行方向が変化した場合であっても、墨出し部18によって墨出しが行われる位置を把握することが可能である。
【0021】
通信部27は、BLE(Bluetooth(登録商標) Low Energy)やWi-Fi(登録商標)といった近距離無線通信機器であり、主に三次元計測装置50とデータを送受信する際に用いられる。なお、通信部27は、インターネット回線を介してデータを送受信可能な一般的な無線通信機器を備えていてもよい。
【0022】
三次元計測装置50は、図1に示すように、床面1を移動可能な台車部60と、台車部60に載置され、計測対象物に照射されたレーザ光の反射光に基づいて計測対象物の三次元空間位置を計測可能な計測部55と、を備える。
【0023】
台車部60は、墨出し装置10の走行部12と同様に、3つのオムニホイール61と、オムニホイール61毎に設けられた図示しないモータと、モータに電力を供給する図示しないバッテリと、を有する。これにより三次元計測装置50は、墨出し装置10と同様に、旋回することなく、全方向へと円滑に移動することが可能である。
【0024】
なお、台車部60の車輪は、オムニホイール61に限定されず、メカナムホイールやメビウスホイールであってもよい。また、台車部60の移動は、墨出し装置10ほど頻繁ではないことから、台車部60は、前後左右に自走可能であって所定の位置へと移動することが可能な一般的な走行装置であってもよい。
【0025】
また、台車部60には、計測部55を台車部60に設置するための設置台62が設けられる。なお、図1に示される設置台62は、単なる柱状構造であるが、上下方向に伸縮自在な構成であってもよい。
【0026】
計測部55は、いわゆるレーザートラッカや追尾式トータルステーションといった三次元座標測量器であり、レーザ光を照射する発光部と反射されたレーザ光を受光する受光部とで構成される光学計測部56と、光学計測部56から照射されるレーザ光の方向を広範に撮像可能なカメラ57と、を有する。
【0027】
光学計測部56及びカメラ57は、鉛直方向軸C1を中心に水平方向に回転可能であるとともに、水平方向軸C2を中心に鉛直方向に回動可能な構成となっている。このため、計測部55は、計測対象物が移動する場合であってもカメラ57によって計測対象物を捕捉し追尾することができる。
【0028】
計測部55は、上述のターゲット部20といったレーザ光を反射可能な計測対象物に向けて、光学計測部56の発光部からレーザ光が照射されてから、計測対象物で反射したレーザ光が受光部で受光されるまでの時間に基づいて計測対象物までの距離を測定し、測定された距離、計測部55の自己位置、及び、レーザ光の照射角度に基づいて、計測対象物の三次元空間位置座標を計測することが可能である。
【0029】
また、計測部55は、墨出しが行われる空間内に設置された複数の基準プリズム70までの距離及び角度を計測することにより、空間内における自己位置を予め自動的に特定している。また、計測部55は、三次元計測装置50が移動して停止する度に、自己位置を自動的に更新する。このように計測部55は、墨出しが行われる空間内における自己位置座標を常に把握していることから、例えば、墨出しが行われる空間内におけるターゲット部20の三次元空間位置座標、すなわち、墨出し装置10の三次元空間位置座標を常時、正確に計測することができる。また、三次元計測装置50から制御装置30へは、ターゲット回転部21の回転角度を制御するために必要な計測部55の俯角及び旋回角が送信される。
【0030】
また、三次元計測装置50は、図2のブロック図に示されるように、制御部51としてのCPU(Central Processing Unit)や、記憶部52としてのROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)、入出力インタフェース(I/Oインタフェース)を備えたマイクロコンピュータと、墨出し装置10や外部のサーバ90とデータの送受信を行うための通信部53と、を有する。
【0031】
制御部51は、制御装置30からの指令に基づいて、台車部60や計測部55の作動を制御し、計測部55によって計測された計測値を墨出し装置10や外部のサーバ90へと通信部53を介して送信する。
【0032】
記憶部52には、制御部51で実行される制御プログラム等が予め記憶されているとともに、計測部55で計測された計測値や通信部53を通じて外部のサーバ90等から取得されたデータが記憶される。
【0033】
通信部53は、墨出し装置10に設けられる近距離無線通信機器と同様の近距離無線通信機器であり、主に墨出し装置10とデータを送受信する際に用いられる。なお、通信部53は、インターネット回線を介してデータを送受信可能な一般的な無線通信機器を備えていてもよい。
【0034】
このように三次元計測装置50は、複数の基準プリズム70の位置から把握される自己位置に基づいて所定の座標系におけるターゲット部20の三次元空間位置(位置座標)を計測することが可能な構成となっている。
【0035】
なお、ターゲット部20の三次元空間位置は、制御装置30において算出されてもよく、この場合、三次元計測装置50から制御装置30へは、ターゲット部20の三次元空間位置を算出するために必要とされる距離及び角度等の各種データが送信される。
【0036】
制御装置30は、三次元計測装置50により計測された墨出し装置10のターゲット部20の三次元空間位置と、予め読み込まれたCAD図面等の設計データと、に基づいて、墨出し装置10の走行部12及び墨出し部18の作動を制御する。
【0037】
制御装置30は、図2に示されるように、制御部31としてのCPU(Central Processing Unit)や、記憶部32としてのROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)、入出力インタフェース(I/Oインタフェース)を備えたマイクロコンピュータである。
【0038】
制御部31は、三次元計測装置50の設置位置を基準とした墨出し座標系(計測座標系)と設計データ内で設定された設計データ座標系との相対位置関係を求める相対関係算出部33と、設計上の墨出し面の大きさを実際の墨出し面の大きさに合わせて拡大または縮小する変換率(変換尺度)を求める変換率算出部34と、設計データ座標上の設計墨出し位置を変換して墨出し座標上における目標墨出し位置を求める目標墨出し位置設定部35と、を有する。なお、これら相対関係算出部33等は、制御部31の各機能を、仮想的なユニットとして示したものであり、物理的に存在することを意味するものではない。また、上記機能は、制御部31が実行する制御の一部であり、制御部31では、これら以外の機能に関連する制御も随時実行される。
【0039】
相対関係算出部33は、予め設定された複数の基準点P1,P2,P3の設計上の座標である設計データにおける位置座標と、三次元計測装置50によって実際に計測された複数の基準点P1,P2,P3に設置された基準プリズム70の位置座標と、を所定の条件で合わせこむことにより、墨出し座標系の原点位置と設計データ座標系の原点位置との相対位置関係を求める。具体的には、相対位置関係は、例えば、設計データを墨出し座標系へと座標変換可能な変換行列Aとして求められる。
【0040】
ここで、設計データ座標系と三次元計測装置50の設置位置を基準とした墨出し座標系との相対位置関係を把握するために、建築物の床面1には、基準プリズム70が設置される複数の基準点P1,P2,P3の位置が予め墨出しされている。
【0041】
基準点P1,P2,P3の位置は、柱や壁に記された中心線や通り芯といった基準墨(親墨)を基準として墨出しされるが、基準墨は、建築物の施工誤差に応じてその位置が想定された位置から僅かにずれることがある。このため、基準点P1,P2,P3の位置も設計上の位置から僅かにずれてしまうことがある。
【0042】
このように設計上の位置から僅かにずれた基準点P1,P2,P3に基づいて設定された墨出し座標系を用いて墨出しを行うと、座標系の原点から離れるにつれて実際に墨出しが行われた位置と墨出しを行うべき設計上の位置との間の差分(誤差)が大きくなり、結果として、内装仕上げ等を所定の位置に施工することができなくなるおそれがある。例えば、設計上では長さがL1(7200mm)のスパン(梁間)が実際にはL2(7204mm)であった場合に、一端側から等間隔でN箇所(8箇所)に設計通りに墨出しを行い、墨出し線に従ってL1/Nの幅(900mmの幅)を有するパネルを敷いていくと、他端側に(L2-L1)の大きさ(4mm)の隙間が生じてしまうことになる。
【0043】
このような建築物の施工誤差等が墨出し位置に及ぼす影響を抑制するために、変換率算出部34は、三次元計測装置50により計測された複数の基準点P1,P2,P3の計測位置データ、すなわち、実際の墨出し面の大きさに相当するデータと、設計データから求められた複数の基準点P1,P2,P3の設計位置データ、すなわち、設計上の墨出し面の大きさに相当するデータと、の差分に基づいて変換率Gを求める。なお、変換率Gの具体的な算出方法例については後述する。
【0044】
目標墨出し位置設定部35は、上述の変換率算出部34で求められた変換率Gを用いて設計データ座標上の設計墨出し位置を変換し、さらに、相対関係算出部33で求められた変換行列Aを用いて座標変換することにより、墨出し座標上における目標墨出し位置を求めている。目標墨出し位置設定部35によって設計墨出し位置から変換された目標墨出し位置は、記憶部32に記憶される。
【0045】
このように目標墨出し位置設定部35によって設定された目標墨出し位置をなぞって墨出し部18が進むように、墨出し装置10は、制御装置30により制御される。換言すれば、制御装置30は、目標墨出し位置設定部35によって設定された目標墨出し位置(目標位置座標)と、墨出し部18の三次元空間位置座標と、が常に一致するように、墨出し装置10の走行部12を制御する。
【0046】
なお、外部のサーバ90等から制御装置30に予め送信され、記憶部32に記憶された設計データには、墨出しを行うべき箇所に関するデータが含まれているが、これらのデータは、墨出し装置10による墨出し作業の効率等を考慮して作成されたものではないため、設計データに忠実に墨出しを行おうとすると、作業時間が長くなってしまう場合がある。
【0047】
そこで、目標墨出し位置設定部35は、目標墨出し位置を設定する前に、設計データ上の設計墨出し位置を、墨出し装置10による墨出しに適した描画データに変換する機能を備えていてもよい。
【0048】
具体的には、折れ点を有する折れ線を一度で描き出すよりも折れ線を構成する2本の線分をそれぞれ描き出す方が比較的容易であることから、例えば、設計データに折れ点を有する折れ線が含まれている場合は、折れ線を構成する2本の線分を折れ点においてそれぞれ延長して、折れ点を2本の線分が交差する交点へと変換する。
【0049】
このように目標墨出し位置設定部35により生成される描画データに、折れ線が含まれないようにすることによって、墨出しの作業効率を向上させることができるとともに、設計上の折れ点の位置に対して墨出しによって描き出された交点の位置をほぼ一致させることが可能となる。なお、このようなデータの変換は、設計墨出し位置に対してではなく、目標墨出し位置設定部35によって求められた目標墨出し位置に対して行われてもよい。
【0050】
続いて、図3~7を参照し、上記構成の自動墨出しシステム100によって、床面1に自動的に墨出しを行う自動墨出し方法について説明する。図3は、自動墨出しシステム100が自動的に墨出し作業を行う際の手順を示したフロー図であり、図4~7は、上述の変換率Gを求める方法について説明するための図である。
【0051】
床面1の任意の位置に設置された三次元計測装置50により基準プリズム70の位置を計測するにあたって、まず、ステップS11において、制御装置30は、図4に示されるように、基準プリズム70が設置される複数の基準点P1,P2,P3の設計データ上における位置座標(x1~x3,y1~y3)をそれぞれ抽出する(データ抽出工程)。設計データは、墨出しが行われる空間の三次元データを含むBIM(Building Information Modeling)等であり、外部のサーバ90等から予め読み込まれて記憶部32に記憶される。
【0052】
続いて、ステップS12において、各基準点P1,P2,P3に設置された基準プリズム70の位置座標が三次元計測装置50によって順次計測される(基準点計測工程)。
【0053】
具体的には、まず、第1基準点P1に基準プリズム70を設置して墨出し座標系(計測座標系)における第1基準点P1の位置座標(第1計測点P1t(x1t,y1t))を取得し、続いて、第2基準点P2に基準プリズム70を設置して墨出し座標系における第2基準点P2の位置座標(第2計測点P2t(x2t,y2t))を取得し、同様にして、墨出し座標系における第3基準点P3の位置座標(第3計測点P3t(x3t,y3t))を取得する(図5参照)。
【0054】
このように計測された各計測点P1t,P2t,P3tのデータは、計測位置データとして記憶部32に保存される。
【0055】
次に、ステップS13では、ステップS11で抽出された各基準点P1,P2,P3の位置座標と、ステップS12で計測された各計測点P1t,P2t,P3tの位置座標と、に基づいて、設計データ座標系と墨出し座標系との相対位置関係が相対関係算出部33により求められる(相対関係算出工程)。
【0056】
設計データ座標系と墨出し座標系との相対位置関係を求めるために、まず、図6に示されるように、第1基準点P1の位置と第1計測点P1tの位置とが同じ位置であるとした場合に、第2基準点P2と第2計測点P2tとの間の第2距離L2と、第3基準点P3と第3計測点P3tとの間の第3距離L3と、がそれぞれ最小となるとき、例えば、第2距離L2と第3距離L3とを足し合わせた差分距離(L2+L3)が最小となるときの設計データ座標系の原点位置及び設計データ座標系のX,Y軸方向が求められる。なお、第1基準点P1は、第2基準点P2及び第3基準点P3よりも設計データ座標系の原点位置に近い点であればよく、設計データ座標系の原点位置に相当する点であってもよい。
【0057】
このように互いの座標系の原点位置の相対位置関係及び互いの座標系の軸方向関係が求められると、設計データ座標系から墨出し座標系へ、または、墨出し座標系から設計データ座標系へとデータを座標変換するための変換行列Aが、設計データ座標系と墨出し座標系との相対位置関係を示すものとして求められる。なお、設計データ座標系から墨出し座標系へ座標変換する変換行列は正則行列であり、墨出し座標系から設計データ座標系へと座標変換する変換行列はその逆行列となるが、以下では、何れの行列も変換行列Aと称して説明する。
【0058】
続く、ステップS14では、設計上の墨出し面の大きさを実際の墨出し面の大きさに合わせて拡大または縮小する変換率Gの算出が行われる(変換率算出工程)。
【0059】
上述のように、基準点P1,P2,P3の実際の位置は、設計上の位置から僅かにずれることがあり、このような誤差は、図7に示されるように、第1計測点P1tの位置と第1基準点P1の位置とが一致すると仮定した場合に、第2計測点P2tの位置と第2基準点P2の位置と差分や第3計測点P3tの位置と第3基準点P3の位置と差分として現れる。
【0060】
このため、変換率算出部34は、三次元計測装置50により計測された複数の基準点P1,P2,P3の計測位置データと設計データから求められた複数の基準点P1,P2,P3の設計位置データとの差分に基づいて変換率Gを求める。
【0061】
具体的には、X軸方向におけるX軸変換率Gxは、第2計測点P2tのX座標値(x2t)と第2基準点P2のX座標値(x2)との差分dx(=x2t-x2)に基づいて以下の式(1)により求められる。
【0062】
Gx=dx/x2 (1)
【0063】
同様にして、Y軸方向におけるY軸変換率Gyは、第3計測点P3tのY座標値値(y3t)と第3基準点P3のY座標値(y3)との差分dy(=y3t-y3)に基づいて以下の式(2)により求められる。
【0064】
Gy=dy/y3 (2)
【0065】
換言すれば、変換率Gは、X軸方向における墨出し面の設計上の長さと実際の長さとの比率、及び、Y軸方向における墨出し面の設計上の長さと実際の長さとの比率に基づいて設定される。
【0066】
したがって、変換率Gを用いて、設計データをX軸方向に沿ってX軸変換率Gxに応じて位置変換(拡縮変換)し、Y軸方向に沿ってY軸変換率Gyに応じて位置変換(拡縮変換)すれば、設計データ上の墨出し位置は実際の墨出し面の大きさに応じた位置へと変換されることになる。
【0067】
ここで、例えば、X軸方向における設計上のスパン(梁間)長さがL1であるのに対して実際のスパン長さがL2であった場合に、梁間の一端側から等間隔でN箇所に設計通りに墨出しを行い、墨出し線に従ってL1/Nの幅を有するパネルを敷いていくと、他端側に(L2-L1)の大きさの隙間が生じることになる。
【0068】
これに対して、上述のように所定の変換率Gxで設計データ上の墨出し位置を位置変換すると、梁間における墨出し位置は、設計上のスパンと実際のスパンとの差分((L2-L1)/L1)に応じた分だけ拡縮された位置へとそれぞれ変換されることになる。したがって、(L2-L1)の大きさの隙間は、N箇所の目地に(L2-L1)/Nずつ分散されることになり、他端側に比較的大きな隙間が生じてしまうことを抑制することができる。
【0069】
このように求められた変換率Gは、記憶部32に保存される。
【0070】
なお、上述の変換率Gの算出式は一例であり、これに限定されるものではなく、例えば、X軸変換率Gxは、第3計測点P3t及び第3基準点P3のX座標値から求められてもよいし、第2計測点P2t及び第2基準点P2のX座標値から求められたものと第3計測点P3t及び第3基準点P3のX座標値から求められたものとの平均値であってもよい。
【0071】
また、基準点は3つに限定されず、4つ以上であってもよいし、2つであってもよく、基準点が2つである場合には、第2計測点P2t及び第2基準点P2のX座標値からX軸変換率Gxが求められ、第2計測点P2t及び第2基準点P2のY座標値からY軸変換率Gyが求められる。
【0072】
また、上記例では、変換率Gは、X軸方向成分とY軸方向成分との両方が求められているが、例えば、内装仕上げ等の施工に精度が求められていない方向がある場合は、その方向における差分dx,dyをゼロとし、その方向における変換率が算出されないようにすることも可能である。
【0073】
また、変換率Gを求めるための差分は、X軸及びY軸方向における差分に限定されず、XY平面上の任意の軸方向(例えば、y=xで規定される軸方向)における差分であってもよい。つまり、変換率Gは、任意の軸方向における墨出し面の設計上の長さと実際の長さとの比率に基づいて求められる。
【0074】
変換率Gが求められると、ステップS15に進み、墨出し装置10によって墨出しが行われる目標墨出し位置の設定が、上述の目標墨出し位置設定部35により行われる(目標位置設定工程)。
【0075】
具体的には、三次元計測装置50によって計測される墨出し装置10の現在位置から所定の範囲内の設計墨出し位置を設計データから抽出し、抽出された設計墨出し位置のX座標値をX座標値の大きさに応じてX軸変換率Gxだけ拡縮し、Y座標値をY座標値の大きさに応じてY軸変換率Gyだけ拡縮する。つまり、原点に近い設計墨出し位置ほどその位置の変化は小さく、原点から遠い設計墨出し位置ほどその位置の変化が大きくなる。
【0076】
そして、変換率Gで位置変換された設計データ座標上の設計墨出し位置を、ステップS13で求められた変換行列Aを用いて、墨出し座標上に座標変換することにより、墨出し装置10の現在位置から所定の範囲内の墨出し座標上における目標墨出し位置が求められる。
【0077】
換言すると、墨出し装置10によって墨出しが行われる目標墨出し位置は、墨出し装置10の移動に応じて、随時算出される。
【0078】
このように墨出し装置10の周囲のみの目標墨出し位置を算出することにより、制御装置30の演算負荷を低減させることができる。
【0079】
続くステップS16において、制御装置30は、墨出し装置10の走行部12を制御し、ステップS15において設定された目標墨出し位置へと墨出しを行う(墨出し実行工程)。
【0080】
設定された目標墨出し位置への墨出しが完了すると、ステップS17に進み、制御装置30は、予定されていた墨出し作業がすべて完了したか否かを判定する。
【0081】
予定されていた墨出し作業がすべて完了した場合、処理を終了し、次の作業の指示をサーバ90から受信するまで墨出し装置10は待機状態となる。
【0082】
一方、予定されていた墨出し作業がまだ完了していない場合、ステップS15へと戻り、墨出し作業が継続される。以降、上述のような工程を経て、予定されていた墨出し作業が完了するまで墨出し作業が行われる。
【0083】
ここで、上述のように、基準点P1,P2,P3が設計上の位置から僅かにずれることがある一方で、墨出し装置10による墨出しはコンクリートがある程度固化した状態で行われることから、その後のコンクリートの乾燥収縮によっては、墨出しが行われた点が目標点から僅かにずれることもある。このため、このような場合も内装仕上げ等を所定の位置に施工することができなくなるおそれがある。
【0084】
したがって、上述の変換率Gは、墨出しが行われるコンクリートの収縮率に基づいて予め設定されたものであってもよく、この場合、図3においてステップS21で示されるように、ステップS14に代えて、変換率Gの入力が行われる。なお、コンクリートの収縮率に基づく変換率Gは、予め記憶部32に記憶されていてもよく、この場合、ステップS21では、記憶部32に記憶された変換率Gが読み込まれる。
【0085】
また、ステップS14で求められた変換率Gに、コンクリートの収縮率に基づく変換率Gを加算してもよい。これにより、基準点P1,P2,P3の位置のずれに起因する誤差、すなわち、墨出しが行われる前に生じる誤差と、コンクリートの乾燥収縮に起因する誤差、すなわち、墨出しが行われた後に生じる誤差と、の両方の誤差が墨出しに及ぼす影響を低減させることができる。
【0086】
また、目標墨出し位置は、図3においてステップS22で示されるように、ステップS15に代えて、設計データ内のすべての設計墨出し位置を一括して変換率Gによって位置変換し、すべての目標墨出し位置を求めるようにしてもよい。設計データがCADデータではなく、例えば、設計墨出し位置が画像化された画像データである場合には、画像データを所定の軸方向に沿って引き伸ばしたり縮小したりすることによって、すべての設計墨出し位置を一括して変換することが可能である。
【0087】
以上の実施形態によれば、以下に示す効果を奏する。
【0088】
上記構成の自動墨出しシステム100では、墨出し装置10が墨出しを行う目標墨出し位置は、設計データに基づいて設定された設計墨出し位置を、基準墨(親墨)のずれやコンクリートの乾燥収縮に応じて設定された所定の変換率Gで位置変換することにより求められる。
【0089】
このように、設計墨出し位置をそのまま目標墨出し位置とするのではなく、所定の変換率Gで設計墨出し位置を位置変換(拡縮変換)することにより目標墨出し位置を求めることによって、基準墨がずれている場合や墨出し後にコンクリートが乾燥収縮する場合であっても、より適切な位置に墨出しを行うことができる。この結果、内装仕上げ等を墨出し線に従って所定の位置に施工することが可能となる。
【0090】
例えば、設計上のスパン(梁間)長さがL1であるのに対して実際のスパン長さがL2であった場合に、梁間の一端側から等間隔でN箇所に設計通りに墨出しを行い、墨出し線に従ってL1/Nの幅を有するパネルを敷いていくと、他端側に(L2-L1)の大きさの隙間が生じることになる。
【0091】
これに対して、上記実施形態のように所定の変換率Gで設計データ上の墨出し位置を位置変換すると、梁間における墨出し位置は、設計上のスパンと実際のスパンとの差分((L2-L1)/L1)に応じた分だけ拡縮された位置へとそれぞれ変換されることになる。したがって、(L2-L1)の大きさの隙間は、N箇所の目地に(L2-L1)/Nずつ分散されることになり、他端側に比較的大きな隙間が生じてしまうことを抑制することができる。これにより、過度な隙間を生じさせることなく内装仕上げ等を施工することが可能となる。
【0092】
なお、次のような変形例も本発明の範囲内であり、変形例に示す構成と上述の実施形態で説明した構成を組み合わせたり、以下の異なる変形例で説明する構成同士を組み合わせたりすることも可能である。
【0093】
上記実施形態では、変換率GがX軸方向成分とY軸方向成分との2つの方向成分として求められている。これに代えて、変換率は、移動、拡縮、回転及びせん断を伴う伸縮変化や歪みを考慮した変換行列として求められてもよい。変換率Gが変換行列として求められる場合の墨出し作業手順について、図3図8図11を参照して以下に説明する。
【0094】
この場合、床面1の任意の位置に設置された三次元計測装置50により基準プリズム70の位置を計測するにあたって、まず、ステップS11において、制御装置30は、図8に示されるように、基準プリズム70が設置される複数の基準点P1,P2,P3,P4の設計データ上における位置座標(x1~x4,y1~y4)をそれぞれ抽出する(データ抽出工程)。
【0095】
続いて、ステップS12において、各基準点P1,P2,P3,P4に設置された基準プリズム70の位置座標が、図9に示されるように、三次元計測装置50によって順次計測される(基準点計測工程)。このように計測された各計測点P1t,P2t,P3t,P4tのデータは、計測位置データとして記憶部32に保存される。
【0096】
次に、ステップS13では、ステップS11で抽出された各基準点P1,P2,P3,P4の位置座標と、ステップS12で計測された各計測点P1t,P2t,P3t,P4tの位置座標と、に基づいて、設計データ座標系と墨出し座標系との相対位置関係が相対関係算出部33により求められる(相対関係算出工程)。
【0097】
設計データ座標系と墨出し座標系との相対位置関係を求めるために、まず、図10に示されるように、第1基準点P1と第1計測点P1tとの間の第1距離L1と、第2基準点P2と第2計測点P2tとの間の第2距離L2と、第3基準点P3と第3計測点P3tとの間の第3距離L3と、第4基準点P4と第4計測点P4tとの間の第4距離L4と、がそれぞれ最小となるとき、すなわち、各距離L1,L2,L3,L4を足し合わせた差分距離(L1+L2+L3+L4)が最小となるときの設計データ座標系の原点位置が求められる。
【0098】
このように互いの座標系の原点位置の相対位置関係及び互いの座標系の軸方向関係が求められると、設計データ座標系から墨出し座標系へ、または、墨出し座標系から設計データ座標系へとデータを座標変換するための変換行列Aが、上記実施形態と同様に、設計データ座標系と墨出し座標系との相対位置関係を示すものとして求められる。
【0099】
続く、ステップS14では、設計上の墨出し面の大きさを実際の墨出し面の大きさに合わせて拡大または縮小する変換率Gの算出が行われる(変換率算出工程)。
【0100】
上述のように、基準点P1,P2,P3,P4の実際の位置は、設計上の位置から僅かにずれることがあり、このような誤差は、図11に示されるように、第1計測点P1tの位置と第1基準点P1の位置と差分や第2計測点P2tの位置と第2基準点P2の位置と差分、第3計測点P3tの位置と第3基準点P3の位置と差分、第4計測点P4tの位置と第4基準点P4の位置と差分として現れる。
【0101】
換言すると、この変形例では、実際の位置と設計上の位置との誤差が、各基準点P1,P2,P3,P4により形成される多角形である四角形(図11中の実線)と、各計測点P1t,P2t,P3t,P4tにより形成される多角形である四角形(図11中の破線)と、の形状の歪みとして現れる。
【0102】
このため、この変形例では、変換率Gを、歪みを伴う形状の変化を示すことが可能な変換行列であるアフィン変換行列Bとして求めている。
【0103】
具体的には、移動変換、拡縮変換、回転変換、せん断変換といった各種変換行列を適宜組み合わせることによって、各基準点P1,P2,P3,P4を、これらに対応する点である各計測点P1t,P2t,P3t,P4tへと変換可能なアフィン変換行列Bが、変換率Gとして公知の手法により求められる。
【0104】
つまり、この変形例における変換率Gは、複数の基準点P1,P2,P3,P4によって形成される多角形の設計位置データと、これに対応する複数の計測点P1t,P2t,P3t,P4tによって形成される多角形の計測位置データとの差分、すなわち、設計位置データにより形成される形状に対して計測位置データにより形成される形状がどのように歪んだ状態となっているかに基づいて設定される。
【0105】
このため、設計データを設計データ座標上においてアフィン変換行列B(変換率G)により変換すれば、設計データ上の設計墨出し位置は実際の墨出し面の大きさに応じた位置へと変換される。
【0106】
具体的には、例えば、第1基準点P1に近い位置にある設計墨出し位置は、第1基準点P1から第1計測点P1tに向かう方向(第1基準点P1の歪み方向)に沿って位置変換される一方、第4基準点P4に近い位置にある設計墨出し位置は、第4基準点P4から第4計測点P4tに向かう方向(第4基準点P4の歪み方向)に沿って位置変換される。なお、複数の基準点P1,P2,P3,P4により形成される多角形の中央付近の設計墨出し位置は、位置変換によりほとんどその位置が変化しない一方、中央から離れた設計墨出し位置ほど位置変換による位置の変化が大きくなる。
【0107】
このように、設計墨出し位置が変換される方向は、一定の方向ではなく、設計墨出し位置の場所に応じてそれぞれ異なり、設計墨出し位置の場所において生じていると推定される歪み方向に沿った方向となる。
【0108】
したがって、図11に示されるように、各基準点P1,P2,P3,P4が設計上の位置からずれる方向がそれぞれ異なっている場合であっても、設計データ上のすべての設計墨出し位置は、設計墨出し位置の場所において推定されるずれ方向に沿って、その方向における墨出し面の設計上の長さと実際の長さとの比率に応じた分だけ拡縮された位置へとそれぞれ位置変換されることになる。このため、この変形例においても、上記実施形態と同様に、所定の幅を有するパネルを敷いた場合に、局所的に比較的大きな隙間が生じてしまうことを抑制することが可能である。
【0109】
なお、多角形を形成する基準点は4つに限定されず、5つ以上であってもよいし、3つであってもよく、基準点が3つである場合には、三角形が形成されることになる。
【0110】
このように求められたアフィン変換行列Bは変換率Gとして記憶部32に保存される。
【0111】
アフィン変換行列Bが求められると、ステップS15に進み、墨出し装置10によって墨出しが行われる目標墨出し位置の設定が、上述の目標墨出し位置設定部35により行われる(目標位置設定工程)。
【0112】
具体的には、三次元計測装置50によって計測される墨出し装置10の現在位置から所定の範囲内の設計墨出し位置を設計データから抽出し、抽出された設計墨出し位置をアフィン変換行列B(変換率G)によって位置変換する。
【0113】
そして、アフィン変換行列Bによって位置変換された設計データ座標上の設計墨出し位置を、ステップS13で求められた変換行列Aを用いて、墨出し座標上に座標変換することにより、墨出し装置10の現在位置から所定の範囲内の墨出し座標上における目標墨出し位置が求められる。
【0114】
ステップS16以降は、上記実施形態と同じであるため、その説明を省略する。
【0115】
なお、上記例では、アフィン変換行列Bを求める際に、X軸方向成分とY軸方向成分との両方が参照されているが、例えば、内装仕上げ等の施工に精度が求められていない方向がある場合は、その方向における差分をゼロとし、その方向における差分が参照されないようにすることも可能である。また、アフィン変換行列Bは、墨出しが行われるコンクリートの収縮率に基づいて予め設定されたものであってもよい。
【0116】
以上の変形例においても、上記実施形態と同様に、設計墨出し位置をそのまま目標墨出し位置とするのではなく、所定の変換率Gで設計墨出し位置を位置変換(拡縮変換)することにより目標墨出し位置を求めることによって、基準墨がずれている場合や墨出し後にコンクリートが乾燥収縮する場合であっても、より適切な位置に墨出しを行うことができる。この結果、内装仕上げ等を墨出し線に従って所定の位置に施工することが可能となる。
【0117】
また、上記実施形態における墨出し装置10は、移動しながら墨出しを行う墨出しロボットであるが、図12に示される墨出し装置110のように、停止した状態でも墨出しを行うことが可能な墨出しロボットであってもよい。
【0118】
図12に示される自動墨出しシステム200は、床面1等の墨出し面に墨出しを行う墨出し部118を有する墨出し装置110と、墨出し装置110の三次元空間位置を計測可能な三次元計測装置50と、三次元計測装置50により計測された墨出し装置110の三次元空間位置に基づいて墨出し装置110による墨出しを制御する制御装置130と、を備える。
【0119】
墨出し装置110は、床面1を走行可能な走行部112と、走行部112から墨出し面に向かって延びる多関節アーム部114と、多関節アーム部114の先端部に設けられる墨出し部118と、墨出し部118とともに多関節アーム部114の先端部に設けられ、三次元計測装置50によってその位置及び姿勢が検出されるターゲット部120と、を有し、図12に示されるように、墨出し部118が多関節アーム部114の先端部に設けられた構成となっている。
【0120】
このため、この自動墨出しシステム200では、墨出し装置110を停止させた状態で多関節アーム部114の可動範囲内に墨出し線を描き出すことが可能であるとともに、墨出し装置110を走行させながら墨出し線を墨出し面に描き出すことが可能である。
【0121】
また、上記実施形態では、変換率Gは、設計墨出し位置を平面上において位置変換するものとして説明したが、三次元計測装置50は、基準点の三次元位置を計測可能であることから、変換率Gは、設計墨出し位置の三次元位置を変換するものとして設定されてもよい。この場合、床面だけではなく、壁面や段差面に対して墨出しを行う際にも、より適切な位置に墨出しを行うことが可能となる。
【0122】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【符号の説明】
【0123】
100,200・・・自動墨出しシステム
10,110・・・墨出し装置
18,118・・・墨出し部
30,130・・・制御装置
50・・・三次元計測装置
70・・・基準プリズム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12