(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024013577
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】ボイラ用のコントローラ、ボイラシステム、および、ボイラ制御プログラム
(51)【国際特許分類】
F22B 37/38 20060101AFI20240125BHJP
F22G 5/12 20060101ALI20240125BHJP
F22B 35/18 20060101ALI20240125BHJP
【FI】
F22B37/38 C
F22G5/12 B
F22B35/18
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022115765
(22)【出願日】2022-07-20
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-09-20
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】大中 潤
(72)【発明者】
【氏名】土井 智弘
(72)【発明者】
【氏名】権藤 宏
(72)【発明者】
【氏名】荒沢 英昭
(72)【発明者】
【氏名】二本 健太
【テーマコード(参考)】
3L021
【Fターム(参考)】
3L021DA04
3L021DA05
(57)【要約】
【課題】ボイラの運転条件の変更に対して高い追従性を有する制御を実行できるボイラ用のコントローラ、ボイラシステム、および、ボイラ制御プログラムを提供する。
【解決手段】ボイラ用のコントローラは、火炉出口圧力の経時的な変動を示す圧力変動データを圧力信号に基づいて取得し、且つ、火炉出口温度の経時的な変動を示す温度変動データを温度信号に基づいて取得するための変動データ取得部と、火炉出口圧力の変動に由来する火炉出口温度の変動量である温度変動量を、圧力変動データと温度変動データに基づいて取得するための温度変動量取得部と、温度信号によって示される火炉出口温度を温度変動量に基づいて補正した補正火炉出口温度を取得するための補正温度取得部と、を備える。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボイラの火炉壁管における出口圧力である火炉出口圧力を計測するための圧力センサから出力される圧力信号と、前記火炉壁管における出口温度である火炉出口温度を計測するための温度センサから出力される温度信号とを取得するための信号取得部と、
前記火炉出口圧力の経時的な変動を示す圧力変動データを前記圧力信号に基づいて取得し、且つ、前記火炉出口温度の経時的な変動を示す温度変動データを前記温度信号に基づいて取得するための変動データ取得部と、
前記火炉出口圧力の変動に由来する前記火炉出口温度の変動量である温度変動量を、前記圧力変動データと前記温度変動データに基づいて取得するための温度変動量取得部と、
前記温度信号によって示される前記火炉出口温度を前記温度変動量に基づいて補正した補正火炉出口温度を取得するための補正温度取得部と、
を備えるボイラ用のコントローラ。
【請求項2】
前記温度変動量取得部は、
前記圧力変動データにおける前記火炉出口圧力の代表圧力と、前記圧力信号によって示される前記火炉出口圧力との偏差である圧力偏差を取得するための圧力偏差取得部と、
前記圧力偏差を前記温度変動量に換算するための変換係数を、前記温度変動データと前記圧力変動データに基づき取得するための変換係数取得部と、
前記変換係数と前記圧力偏差に基づいて前記温度変動量を取得するための演算部と、
を含む、
請求項1に記載のボイラ用のコントローラ。
【請求項3】
前記変換係数取得部は、前記温度変動データによって示される前記火炉出口温度の二乗平均平方根と、前記圧力変動データによって示される前記火炉出口圧力の二乗平均平方根とに基づいて、前記変換係数を取得するように構成される、
請求項2に記載のボイラ用のコントローラ。
【請求項4】
前記変換係数取得部は、前記火炉出口温度の前記二乗平均平方根と、前記火炉出口圧力の前記二乗平均平方根との比率に基づいて、前記変換係数を取得するように構成される、
請求項3に記載のボイラ用のコントローラ。
【請求項5】
前記温度変動量取得部は、補正対象となる前記火炉出口温度を示す前記温度信号が出力されるタイミングにおける前記圧力偏差を取得するための瞬時圧力偏差取得部をさらに含み、
前記演算部は、前記瞬時圧力偏差取得部によって取得された前記圧力偏差に前記変換係数を乗算することで、前記温度変動量を取得するように構成される、
請求項2乃至4の何れか1項に記載のボイラ用のコントローラ。
【請求項6】
前記ボイラの運転条件を変更するための変更指令を生成するための指令生成部をさらに備え、
前記信号取得部は、前記変更指令が生成される前における前記圧力信号と前記温度信号を取得するように構成され、
前記補正温度取得部は、前記変更指令の生成後に出力された前記温度信号が示す前記火炉出口温度を、前記補正火炉出口温度に補正するように構成される、
請求項2乃至4の何れか1項に記載のボイラ用のコントローラ。
【請求項7】
前記補正温度取得部によって取得された前記補正火炉出口温度に基づいて、前記ボイラの過熱器における目標温度を取得するための過熱器目標温度取得部をさらに備える、
請求項6に記載のボイラ用のコントローラ。
【請求項8】
前記変更指令は、前記ボイラの熱負荷を変更するための負荷変更指令を含み、
前記過熱器目標温度取得部は、前記負荷変更指令によって示される変更後の前記熱負荷と、前記補正火炉出口温度とに基づいて、前記過熱器における前記目標温度を取得するように構成される、
請求項7に記載のボイラ用のコントローラ。
【請求項9】
請求項1乃至4の何れか1項に記載のボイラ用のコントローラと、
前記コントローラによって制御される前記ボイラと、
を備える、ボイラシステム。
【請求項10】
コンピュータに、
ボイラの火炉壁管における出口圧力である火炉出口圧力を計測するための圧力センサから出力される圧力信号と、前記火炉壁管における出口温度である火炉出口温度を計測するための温度センサから出力される温度信号とを取得するための信号取得ステップと、
前記火炉出口圧力の経時的な変動を示す圧力変動データを前記圧力信号に基づいて取得し、且つ、前記火炉出口温度の経時的な変動を示す温度変動データを前記温度信号に基づいて取得するための変動データ取得ステップと、
前記火炉出口圧力の変動に由来する前記火炉出口温度の変動量である温度変動量を、前記圧力変動データと前記温度変動データに基づいて取得するための温度変動量取得ステップと、
前記温度信号によって示される前記火炉出口温度を前記温度変動量に基づいて補正した補正火炉出口温度を取得するための補正温度取得ステップと、
を実行させるボイラ制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ボイラ用のコントローラ、ボイラシステム、および、ボイラ制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に開示されるボイラは、過熱器入口圧力に基づいて過熱器入口温度設定値を算出し、この設定値と過熱器入口温度との偏差に基づいてバーナの燃料流量を補正する。バーナの燃料流量の補正により、過熱器入口蒸気の過熱度が制御される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
発明者らの知見によれば、例えばボイラ負荷の変更またはボイラに供給する燃料の変更などといったボイラの運転条件が変更された場合、火炉壁管の出口圧力である火炉出口圧力が大きく変動し、この圧力変動の余波がボイラの各種熱交換器にも及ぶおそれがある。
上記ボイラを例に挙げると、火炉出口圧力の計測値が大きく変動するため、熱交換器の一例である過熱器における過熱器入口温度設定値を上げるべきか、下げるべきか、または、維持すべきかについて正確な判断が困難となるおそれがある。結果、ボイラの運転条件の変更に対して過熱器入口蒸気の過熱度を素早く追従させることが困難となるおそれがある。
【0005】
本開示の目的は、ボイラの運転条件の変更に対して高い追従性を有する制御を実行できるボイラ用のコントローラ、ボイラシステム、および、ボイラ制御プログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の少なくとも一実施形態に係るボイラ用のコントローラは、
ボイラの火炉壁管における出口圧力である火炉出口圧力を計測するための圧力センサから出力される圧力信号と、前記火炉壁管における出口温度である火炉出口温度を計測するための温度センサから出力される温度信号とを取得するための信号取得部と、
前記火炉出口圧力の経時的な変動を示す圧力変動データを前記圧力信号に基づいて取得し、且つ、前記火炉出口温度の経時的な変動を示す温度変動データを前記温度信号に基づいて取得するための変動データ取得部と、
前記火炉出口圧力の変動に由来する前記火炉出口温度の変動量である温度変動量を、前記圧力変動データと前記温度変動データに基づいて取得するための温度変動量取得部と、
前記温度信号によって示される前記火炉出口温度を前記温度変動量に基づいて補正した補正火炉出口温度を取得するための補正温度取得部と、
を備える。
【0007】
本開示の少なくとも一実施形態に係るボイラシステムは、
上記ボイラ用のコントローラと、
前記コントローラによって制御される前記ボイラと、
を備える。
【0008】
本開示の少なくとも一実施形態に係るボイラ制御プログラムは、
コンピュータに、
ボイラの火炉壁管における出口圧力である火炉出口圧力を計測するための圧力センサから出力される圧力信号と、前記火炉壁管における出口温度である火炉出口温度を計測するための温度センサから出力される温度信号とを取得するための信号取得ステップと、
前記火炉出口圧力の経時的な変動を示す圧力変動データを前記圧力信号に基づいて取得し、且つ、前記火炉出口温度の経時的な変動を示す温度変動データを前記温度信号に基づいて取得するための変動データ取得ステップと、
前記火炉出口圧力の変動に由来する前記火炉出口温度の変動量である温度変動量を、前記圧力変動データと前記温度変動データに基づいて取得するための温度変動量取得ステップと、
前記温度信号によって示される前記火炉出口温度を前記温度変動量に基づいて補正した補正火炉出口温度を取得するための補正温度取得ステップと、
を実行させる。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、ボイラの運転条件の変更に対して高い追従性を有する制御を実行するボイラ用のコントローラ、ボイラシステム、および、ボイラ制御プログラムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】一実施形態に係るボイラシステムを表す概略構成図である。
【
図2】一実施形態に係るボイラに設けられた熱交換器を表す概略図である。
【
図5】補正後の火炉出口温度などを示すグラフである。
【
図7】追加的な構成要素を備えるコントローラを示す概略図である。
【
図8】補正前の火炉出口温度と補正後の火炉出口温度を示すグラフである。
【
図9】火炉壁管の出口における目標温度と、過熱器の目標温度を示す概略図である。
【
図10】過熱器の目標温度を制御するためのボイラ制御部を示す概念図である。
【
図11】ボイラ制御処理を示すフローチャートである。
【
図12】温度変動量取得処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して本開示の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本開示の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
例えば、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
例えば、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
一方、一の構成要素を「備える」、「含む」、又は、「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
なお、同様の構成については同じ符号を付し説明を省略することがある。
【0012】
以下に、本開示に係る一実施形態について、図面を参照して説明する。なお、この実施形態により本発明が限定されるものではなく、また、実施形態が複数ある場合には、各実施形態を組み合わせて構成するものも含むものである。以降の説明で、上や上方とは鉛直方向上側を示し、下や下方とは鉛直方向下側を示すものであり、鉛直方向は厳密ではなく誤差を含むものである。
【0013】
<1.ボイラシステム1の概要>
図1は、本実施形態の固体燃料を主燃料とするボイラ10を備えたボイラシステム1を表す概略構成図である。
【0014】
本実施形態のボイラシステム1のボイラ10は、固体燃料を粉砕した微粉燃料をバーナにより燃焼させ、この燃焼により発生した熱を給水や蒸気と熱交換して過熱蒸気を生成することが可能なボイラである。固体燃料としては、バイオマス燃料や石炭などが使用される。
【0015】
ボイラ10は、火炉11と燃焼装置20と燃焼ガス通路12を有している。火炉11は、四角筒の中空形状をなして鉛直方向に沿って設置されている。火炉11の内壁面を構成する火炉壁101は、複数の火炉壁管14と、火炉壁管14同士を接続するフィンとで構成され、微粉燃料の燃焼により発生した熱を、火炉壁管14の内部を流通する水や蒸気と熱交換して回収すると共に、火炉壁101の温度上昇を抑制している。
【0016】
燃焼装置20は、火炉11の下部領域に設置されている。本実施形態では、燃焼装置20は、火炉壁101に装着された複数のバーナ21A、21B、21C、21D、21E、21F(以下、一括して「バーナ21」と記載する場合がある。)を有している。バーナ21は、火炉11の周方向に沿って均等間隔で配設されたもの(例えば、四角形の火炉11の各コーナ部に設置された4個)を1セットとして、鉛直方向に沿って複数段配置されている。なお、
図1では、図示の都合上、1セットのバーナのうちの2個のみを記載し、各セットに符合21A、21B、21C、21D、21E、21Fを付している。火炉の形状やバーナの段数、一つの段におけるバーナの数、バーナの配置などは、この実施形態に限定されるものではない。
【0017】
バーナ21A、21B、21C、21D、21E、21Fは、それぞれ、複数の微粉燃料供給管22A、22B、22C、22D、22E、22F(以下、一括して「微粉燃料供給管22」と記載する場合がある。)を介して、複数のミル(粉砕機)31A、31B、31C、31D、31E、31F(以下、一括して「ミル31」と記載する場合がある。)に連結されている。ミル31は、例えば、内部に粉砕テーブル(図示省略)が駆動回転可能に支持されていて、粉砕テーブルの上方に複数の粉砕ローラ(図示省略)が粉砕テーブルの回転に連動回転可能に支持されて構成されている竪型ローラミルである。粉砕ローラと粉砕テーブルが協働して粉砕された固体燃料は、ミル31に供給される一次空気(搬送用ガス、酸化性ガス)により、ミル31が備える分級機(図示省略)に搬送される。分級機では、バーナ21での燃焼に適した粒径以下の微粉燃料と、該粒径より大きな粗粉燃料とに分級される。微粉燃料は、分級機を通過して、一次空気と共に微粉燃料供給管22を介してバーナ21に供給される。分級機を通過しなかった粗粉燃料は、ミル31の内部で、自重により粉砕テーブル上に落下し、再粉砕される。なお、ミル31は異なる炭種の微粉燃料を供給できるように構成されてもよい。
【0018】
バーナ21の装着位置における火炉11の炉外側には、風箱(エアレジスタ)23が設けられており、この風箱23には風道(空気ダクト)24の一端部が連結されている。風道24の他端部には、押込通風機(FDF:Forced Draft Fan)32が連結されている。押込通風機32から供給された空気は、風道24に設置された空気予熱器42で加熱され(詳細は後述する)、風箱23を介してバーナ21に二次空気(燃焼用空気、酸化性ガス)として供給され、火炉11の内部に投入される。
【0019】
燃焼ガス通路12は、火炉11の鉛直方向上部に連結されている。燃焼ガス通路12には、燃焼ガスの熱を回収するための熱交換器として、過熱器102A、102B、102C(以下、一括して「過熱器102」と記載する場合がある。)、再熱器103A、103B(以下、一括して「再熱器103」と記載する場合がある。)、節炭器104が設けられており、火炉11で発生した燃焼ガスと各熱交換器の内部を流通する給水や蒸気との間で熱交換が行われる。なお、各熱交換器の配置や形状は、
図1に記載した形態に限定されない。
【0020】
燃焼ガス通路12の下流側には、熱交換器で熱回収された燃焼ガスが排出される煙道13が連結されている。煙道13には、風道24との間に空気予熱器(エアヒータ)42が設けられており、風道24を流れる空気と、煙道13を流れる燃焼ガスとの間で熱交換を行い、ミル31に供給する一次空気やバーナ21に供給する二次空気を加熱することで、水や蒸気との熱交換後の燃焼ガスから、さらに熱回収を行う。
【0021】
また、煙道13には、空気予熱器42よりも上流側の位置に、脱硝装置43が設けられていてもよい。脱硝装置43は、アンモニア、尿素水等の窒素酸化物を還元する作用を有する還元剤を、煙道13内を流通する燃焼ガスに供給し、還元剤が供給された燃焼ガス中の窒素酸化物(NOx)と還元剤との反応を、脱硝装置43内に設置された脱硝触媒の触媒作用により促進させることで、燃焼ガス中の窒素酸化物を除去、低減するものである。
煙道13の空気予熱器42より下流側には、ガスダクト41が連結されている。ガスダクト41には、燃焼ガス中の灰などを除去する電気集じん機などの集じん装置44や硫黄酸化物を除去する脱硫装置46などの環境装置、また、それらの環境装置に排ガスを導くための誘引通風機(IDF:Induced Draft Fan)45が設けられている。ガスダクト41の下流端部は、煙突47に連結されており、環境装置で処理された燃焼ガスが、排ガスとして系外に排出される。
【0022】
ボイラ10において、複数のミル31が駆動すると、粉砕、分級された微粉燃料が、一次空気と共に微粉燃料供給管22を介してバーナ21に供給される。また、空気予熱器42で加熱された二次空気が、風道24から風箱23を介してバーナ21に供給される。バーナ21は、微粉燃料と一次空気とが混合した微粉燃料混合気を火炉11に吹き込むと共に、二次空気を火炉11に吹き込む。火炉11に吹き込まれた微粉燃料混合気が着火し、二次空気と反応することで火炎を形成する。火炉11内の下部領域で火炎が形成され、高温の燃焼ガスが火炉11内を上昇し、燃焼ガス通路12に流入する。なお、本実施形態では、酸化性ガス(一次空気、二次空気)として空気を用いるが、空気よりも酸素割合が多いものや逆に少ないものであってもよく、供給される燃料量に対する酸素量の比率を適正な範囲に調整することで、火炉11において安定した燃焼が実現される。
【0023】
燃焼ガス通路12に流入した燃焼ガスは、燃焼ガス通路12の内部に配置された過熱器102、再熱器103、節炭器104で水や蒸気と熱交換した後、煙道13に排出され、脱硝装置43で窒素酸化物が除去され、空気予熱器42で一次空気及び二次空気と熱交換した後、さらにガスダクト41に排出され、集じん装置44で灰などが除去され、脱硫装置46で硫黄酸化物が除去された後、煙突47から系外に排出される。なお、燃焼ガス通路12における各熱交換器及び煙道13からガスダクト41における各装置の配置は、燃焼ガス流れに対して、必ずしも上述の記載順に配置されなくともよい。
【0024】
次に、熱交換器として、燃焼ガス通路12に設けられた過熱器102、再熱器103、節炭器104について詳細に説明する。
図2は、石炭焚きボイラ10に設けられた熱交換器を表す概略図である。
なお、
図1では燃焼ガス通路12内の各熱交換器(過熱器102A、102B、102C、再熱器103A、103B、103C、節炭器104)の位置を正確に示しているものではなく、各熱交換器の燃焼ガス流れに対する配置順も
図1の記載に限定されるものではない。また、過熱器102の個数は3個であることに限定されず、例えば4個以上であってもよい。
【0025】
図2に示すように、本実施形態のボイラシステム1は、ボイラ10に設けられた熱交換器と、ボイラ10で生成した蒸気によって回転駆動される蒸気タービン111と、蒸気タービン111に連結され蒸気タービン111の回転力によって発電を行う発電機113とを備える。
【0026】
ボイラ10で生成した蒸気により回転駆動される蒸気タービン111は、例えば、高圧タービン111Aと中圧タービン111Bと低圧タービン111Cとから構成される。ボイラ10の過熱器102で加熱された蒸気が高圧タービン111Aを回転駆動した後、ボイラ10の再熱器103で再過熱され、中圧タービン111B、及び低圧タービン111Cを回転駆動する。低圧タービン111Cには、復水器112が連結されており、低圧タービン111Cを回転駆動した蒸気が、この復水器112で冷却水との熱交換によって凝縮されて復水となる。復水器112は、給水ラインL1を介して節炭器104に連結されている。給水ラインL1には、例えば、復水ポンプ(CP)121、低圧給水ヒータ122、ボイラ給水ポンプ(BFP)123、高圧給水ヒータ124が設けられている。低圧給水ヒータ122と高圧給水ヒータ124には、蒸気タービン111を駆動する蒸気の一部が抽気されて、抽気ライン(図示省略)を介して熱源として供給され、節炭器104へ供給される給水が加熱される。
【0027】
例えば、ボイラ10が貫流ボイラの場合について説明する。節炭器104は、火炉壁101を構成する伝熱管(火炉壁管14)に連結されている。節炭器104で加熱された給水は、火炉壁101を構成する伝熱管を通過する際に、火炉11内の火炎から輻射を受けて加熱され、汽水分離器125へと導かれる。汽水分離器125にて分離された蒸気は、過熱器102へと供給され、汽水分離器125にて分離されたドレン水は、汽水分離器ドレンタンク126へ流入し、ドレン水ラインL2を介して復水器112へと導かれる。
【0028】
また、貫流ボイラの起動時や低負荷運転時等においては、節炭器104から供給される給水が、火炉壁101を構成する伝熱管を通過する際に全量が蒸発せず、汽水分離器125に水位が存在する運転状態(ウエット運転状態)となることがある。このウエット運転状態においては、汽水分離器125で分離され、汽水分離器ドレンタンク126に排出されたドレン水は、ボイラ循環ポンプ(BCP)127を用いて循環ラインL6により、給水ラインL1の途中に合流させることで、節炭器104から火炉壁101を構成する伝熱管へと循環して供給してもよい。
【0029】
燃焼ガスが燃焼ガス通路12を流れるとき、この燃焼ガスは、過熱器102、再熱器103、節炭器104で熱回収される。一方、ボイラ給水ポンプ(BFP)123から供給された給水は、節炭器104で予熱された後、火炉壁101を構成する火炉壁管14を通過する際に加熱されて蒸気となり、汽水分離器125に導かれる。汽水分離器125で分離された蒸気は、第1過熱器102A、第2過熱器102B、第3過熱器102Cに導入され、燃焼ガスによって過熱される。過熱器102で生成された過熱蒸気は、蒸気ラインL3を介して高圧タービン111Aに供給され、高圧タービン111Aを回転駆動する。高圧タービン111Aから排出された蒸気は、第1再熱器103A、第2再熱器103Bに導入されて再度過熱される。再過熱された蒸気は、蒸気ラインL5を介して、中圧タービン111Bを経て低圧タービン111Cに供給され、中圧タービン111Bおよび低圧タービン111Cを回転駆動する。蒸気タービン111の回転軸は、発電機113を回転駆動して、発電が行われる。低圧タービン111Cから排出された蒸気は、復水器112で冷却されることで復水となり、給水ラインL1を介して、再び、節炭器104に送られる。
【0030】
過熱器102及び再熱器103には、各熱交換器で過熱された蒸気の温度(以下、第3過熱器102Cの出口における過熱蒸気の温度を「主蒸気温度」、第2再熱器103Bの出口における過熱蒸気の温度を「再熱蒸気温度」と言う場合がある。)を制御するための手段が設けられていてもよい。例えば、過熱された蒸気に混合噴射される水(以下、主蒸気温度制御のために噴射される水を「過熱器スプレイ水」、再熱蒸気温度制御のために噴射される水を「再熱器スプレイ水」と言う場合がある。)の量を調整することで、蒸気温度を制御する過熱器スプレイ弁や再熱器スプレイ弁が設けられていてもよい。過熱器スプレイ水及び再熱器スプレイ水は、例えば、ボイラ10への給水の一部がボイラ給水ポンプ123の出口から分岐されて供給される。
なお、過熱器スプレイ水が混合噴射される位置は、第3過熱器102Cの出口に限定されず、主蒸気温度の制御が可能な位置であればよく、例えば、汽水分離器125の出口から高圧タービン111Aの入口の間のいずれかの位置に設置される。同様に、再熱器スプレイ水が混合噴射される位置は、第2再熱器103Bの出口に限定されず、再熱蒸気温度の制御が可能な位置であればよく、例えば、高圧タービン111Aの出口から中圧タービン111Bの入口の間のいずれかの位置に設置される。
【0031】
また、燃焼ガス通路12には、過熱器102、再熱器103、節炭器104などの各熱交換器を構成する伝熱管の間隙、または各熱交換器同士の間隙に、図示しないスーツブロワ(除灰装置)が配置されていてもよい。スーツブロワは、燃焼ガス通路12の壁面に対して略垂直な方向に延在して配置される。スーツブロワは、燃焼ガス通路12の壁面に対して垂直方向を軸方向として、軸方向に直交する方向に蒸気(気体)を噴射し、また噴射方向も変動することができる噴射装置である。スーツブロワから過熱器102、再熱器103、節炭器104などの熱交換器に向けて噴射された蒸気は、熱交換器を構成する伝熱管の表面に付着・堆積した燃焼灰を除去し、伝熱管の熱交換効率の低下を抑制する。
【0032】
ボイラシステム1はさらに、ボイラ10を制御するためのボイラ用のコントローラ50(以下、単にコントローラ50という場合がある)を備える。コントローラ50は、ボイラ10を構成する各種機器を制御する。コントローラ50はコンピュータによって構成されており、プロセッサ、メモリ、及び外部通信インタフェースを備える。プロセッサは、CPU、GPU、MPU、DSP、又はこれらの組み合わせなどである。他の実施形態に係るプロセッサは、PLD、ASIC、FPGA、またはMCU等の集積回路により実現されてもよい。メモリは、各種データを一時的または非一時的に記憶するように構成され、例えば、RAM、ROM、またはフラッシュメモリの少なくとも1つによって実現される。メモリにロードされたプログラムの命令にしたがって、プロセッサは各種制御処理を実行する。
【0033】
上述した実施形態では、本発明のボイラを、燃料に固体燃料を使用するボイラとして説明した。ボイラに使用される固体燃料としては、石炭、バイオマス燃料、石油コークス(PC:Petroleum Coke)燃料、石油残渣などが使用される。
なお、ボイラの燃料としては、固体燃料に限らず、重油、軽油、重質油などの石油類や工場廃液などの液体燃料も使用することができる。また、天然ガスや各種石油ガス、製鉄プロセスなどで発生する副生ガスなどの気体燃料、アンモニア、水素も使用することができる。
さらに、これらの各種燃料を組み合わせて使用する混焼ボイラにも適用することができる。
【0034】
<2.ボイラ用のコントローラ50>
本開示の一実施形態に係るボイラ用のコントローラ50(以下、単にコントローラ50という場合がある)について説明する。
【0035】
<2-1.コントローラ50を想到するに至った経緯>
ボイラ制御では種々のパラメータが計測される。例えば、火炉壁管14における出口圧力である火炉出口圧力、及び、ボイラ10の出口における圧力であるボイラ出口圧力などが計測される。ここで、火炉出口圧力は、火炉壁管14と汽水分離器125との間を繋ぐ配管における圧力である(該配管には蒸気及び水が気液二層の状態で流れる)。また、ボイラ出口圧力は、最下流に位置する過熱器102(より具体的には第3過熱器102C)の出口における蒸気圧力である。本発明者らの知見によれば、供給される燃料の種別変更、またはスーツブロワの起動開始などボイラ10の運転条件が変更される場合、火炉出口圧力の変動量(変動幅)はボイラ出口圧力の変動幅よりも大きい。この変動幅の大小関係はモリエル線図からも確認可能であり、火炉壁管14の出口近傍に該当する領域と、ボイラ10の出口に該当する領域とを同線図において比較すると、比エンタルピの変化に対する圧力の変動幅は、火炉壁管14の出口における変動幅の方が大きい。
【0036】
上記の知見をもとに本発明者らは、火炉壁管14における出口温度である火炉出口温度には、火炉出口圧力の変動成分が少なからず含まれていると推察した。
図3は、火炉出口圧力の経時的な変動を示す圧力変動データ64と、火炉出口温度の経時的な変動を示す温度変動データ65とを単一のグラフで示した概略図である。圧力変動データ64と温度変動データ65はいずれも、センサによる計測値が反映されている。同図のグラフによれば、火炉出口温度は火炉出口圧力の変化に追従するように実際に変化しており、本発明者らの推察が裏付けられていることが了解される。つまり、ボイラ10の運転条件が変更されると、火炉出口温度も火炉出口圧力に倣って大きく変動することが了解される。
【0037】
火炉出口温度の変動に、ボイラ10の熱収支の変動に起因する成分のみならず、火炉出口圧力の変動に起因する成分までもが含まれるとするならば、該火炉出口温度に基づいてボイラ10の熱交換器を制御しても、適正な制御ができないおそれがある。より具体的な一例として、ボイラ10の運転条件の変更に伴って火炉出口温度が変動しても、この温度変動に熱収支の変動成分がどの程度含まれるか判断できず、例えば過熱器102における目標温度(目標蒸気過熱度)を、上げるべきか、下げるべきか、はたまた維持すべきか正確な判断が困難となる。結果、過熱器102における蒸気過熱度の制御が、運転条件の変更に素早く追従できないおそれがある。
【0038】
こういった問題は、ボイラ10に供給する燃料の多様化、または、再生可能エネルギーによる発電の優先的な活用などに伴いボイラ負荷の調整機会が増大する昨今においては、解決が強く望まれる課題である。そこで、本発明者らは、火炉出口温度から火炉出口圧力の変動成分を低減した補正火炉出口温度を取得できれば、ボイラ10の運転条件の変更に対して高い追従性をもった制御を各種熱交換器において実行できると期待し、本開示のコントローラ50を想到するに至った。
【0039】
<2-2.一実施形態に係るコントローラ50>
図4は、本開示の一実施形態に係るコントローラ50を示す概略図である。コントローラ50は、信号取得部71、変動データ取得部72、温度変動量取得部73、および、補正温度取得部74を備える。
【0040】
信号取得部71は、火炉出口圧力を計測するための圧力センサ61から出力される圧力信号G1と、火炉出口温度を計測するための温度センサ62から出力される温度信号G2とを取得するように構成される。本実施形態では、圧力センサ61は、火炉壁管14と汽水分離器125(
図2参照)とを繋ぐ配管における圧力を計測するように構成され、温度センサ62は同配管における温度を計測するように構成される。また、汽水分離器125が設けられない他の実施形態に係るボイラ10では、圧力センサ61は火炉壁管14と第1過熱器102Aを繋ぐ配管における圧力を計測すればよいし、温度センサ62も同配管における温度を計測すればよい。
【0041】
圧力センサ61と温度センサ62は、所定時間(例えば10分以上)に亘って継続的に計測を実行する。従って、信号取得部71は、複数の圧力信号G1と複数の温度信号G2とを同じ時間帯(期間)に取得する。圧力センサ61による各計測タイミングと温度センサ62による各計測タイミングは異なってもよいが、両者における各計測タイミングのズレは小さい方が好ましい。
【0042】
変動データ取得部72は、信号取得部71によって取得された圧力信号G1に基づいて圧力変動データ64(
図3参照)を取得し、且つ、信号取得部71によって取得された温度信号G2に基づいて温度変動データ65(
図3参照)を取得するように構成される。なお、
図3における圧力変動データ64と温度変動データ65は例示に過ぎず、例えばボイラ10が定格運転される間に取得される圧力変動データ64と温度変動データ65はいずれも、同図の例よりも小さい経時的変化を示してもよい。
【0043】
図4で示される温度変動量取得部73は、火炉出口圧力の変動に由来する火炉出口温度の変動量である温度変動量を、変動データ取得部72によって取得された圧力変動データ64と温度変動データ65とに基づいて取得するように構成される。本例の温度変動量は、温度信号G2によって示される火炉出口温度(補正対象となる火炉出口温度)に、加算または減算されることとなる温度である。また、温度変動量は、補正対象となる火炉出口温度に応じて変わる値である。なぜなら、火炉出口温度と火炉出口圧力は経時的に変化し、火炉出口温度に含まれる圧力変動成分も時々刻々と変化するからである。例えば
図3の圧力変動データ64を構成する時刻t1における火炉出口温度を補正する場合(後述のように圧力変動データ64が生成された後の火炉出口温度が補正されてもよい)、時刻t1における温度変動量は寸法A1として表される。
【0044】
温度変動量の取得に際しては、以下に例示する第1の方法、第2の方法、または、第3の方法のいずれかが採用されてよい。第1の方法では、圧力変動データ64によって示される圧力の変動量と、温度変動データ65によって示される温度の変動量との関係を示す変換係数が取得される。該変換係数、補正対象となる火炉出口温度、及び、該火炉出口温度における火炉出口圧力の変動量が用いられて、温度変動量は取得される(第1の方法の詳細は後述する)。第2の方法では、圧力変動データ64と温度変動データ65にそれぞれフーリエ変換が施され、火炉出口圧力と火炉出口温度のそれぞれの振幅スペクトルに基づいて温度変動量が取得される。あるいは、振幅スペクトルに基づいて上記の変換係数が取得され、その後に温度変動量が取得されてもよい。第3の方法では、ソフトウェアモジュールとしての学習モデルに圧力変動データ64と温度変動データ65とが入力されることによって、学習モデルから温度変動量が出力されてもよい。この学習モデルには、圧力変動データ64、温度変動データ65、及び温度変動データ65における温度変動量を含む教師データを複数セット用いた機械学習が施されている。
【0045】
補正温度取得部74は、補正対象となる火炉出口温度を温度変動量に基づいて補正するように構成される。補正対象となる火炉出口温度(換言すると、補正されることとなる火炉出口温度)は、温度センサ62から出力される温度信号G2によって示される。温度センサ62による計測タイミングは、上述の通り温度変動データ65が取得される期間に含まれてもよい。例えば
図3で示すt1における火炉出口温度から同時刻における温度変動量(寸法A1)が減算されることで、補正火炉出口温度が取得される。
【0046】
図5は、
図3で示される温度変動データ65の火炉出口温度が補正温度取得部74によって補正された補正温度変動データ66を示す。また、図面を見やすくする都合、
図3で示される圧力変動データ64を
図5においても示している。
図3と
図5を比較して判るとおり、温度変動データ65の火炉出口温度が補正されることで、火炉出口圧力の変動成分が低減された補正火炉出口温度を取得することができる。補正火炉出口温度は、火炉出口圧力の変動成分が低減されている分、ボイラ10における熱収支(例えば火炉11内で生じる発熱量)と高い相関を有する。なお、補正対象となる火炉出口温度が温度センサ62によって計測されるタイミングは、温度変動データ65を構成する火炉出口温度が計測される期間に含まれることに限定されず、該期間よりも後であってもよい(詳細は後述する)。
【0047】
図4に戻り、コントローラ50は、補正温度取得部74によって取得された補正火炉出口温度に基づきボイラ10を制御するように構成されたボイラ制御部77をさらに備えてもよい。ボイラ制御部77によって制御される機器は何であってもよい。例えば、過熱器102における蒸気過熱度を制御するための後述の過熱器スプレイ81(
図10参照)であってもよいし、ボイラに供給される燃料量であってもよいし、ボイラ給水ポンプ123(
図2参照)であってもよい。
【0048】
上記構成によれば、ボイラ10の運転条件の変更に伴って火炉出口圧力が変動した場合であっても、火炉出口圧力の変動の影響が低減された補正火炉出口温度を取得できる。ボイラ10における熱収支と高い相関を有する補正火炉出口温度に基づいたボイラ制御によって、変更後の運転条件に適したボイラ運転が実現される。よって、ボイラ10の運転条件の変更に対して高い追従性を有する制御を実行できるボイラ用のコントローラ50が実現される。例えば、ボイラ10における熱負荷の変更、ボイラ燃料の種類もしくは供給量の変更、スーツブロワの起動開始などに伴ってボイラ10の運転条件が変更された場合でも、ボイラ10を構成する熱交換器(例えば過熱器102)における温度をはじめとする制御対象パラメータを早期に安定化させることができる。
【0049】
<2-3.一実施形態に係る温度変動量取得部73の詳細>
図6を参照し、上述の第1の方法を採用した温度変動量取得部73の詳細を例示する。温度変動量取得部73は、圧力偏差取得部171、変換係数取得部172、および、演算部173を含む。
【0050】
圧力偏差取得部171は、圧力変動データ64(
図3参照)における火炉出口圧力の代表圧力と、圧力信号G1によって示される火炉出口圧力との偏差である圧力偏差を取得するように構成される。代表圧力は、圧力変動データ64によって示される火炉出口圧力の平均値であってもよい(該代表圧力は、
図3における二点鎖線Mよって示される)。例えば、
図3の時刻t1における火炉出口圧力の圧力偏差は寸法A2に該当する。なお、代表圧力は、圧力変動データ64によって示される火炉出口圧力の最大値または最小値のいずれかであってもよい。また、温度変動データ65が生成された後の火炉出口温度が補正対象となる場合であっても、代表圧力は圧力変動データ64の火炉出口圧力に基づき定まる。
【0051】
変換係数取得部172は、圧力偏差取得部171によって取得された圧力偏差を温度変動量に換算するための変換係数を、温度変動データ65と圧力変動データ64に基づいて取得するように構成される。変換係数の取得に際しては、以下に例示する第1の係数取得方法、第2の係数取得方法、第3の係数取得方法、または、第4のいずれかが採用されてよい。第1の係数取得方法では、温度変動データ65の火炉出口温度の二乗平均平方根と、圧力変動データ64の火炉出口圧力の二乗平均平方根とを用いて変換係数が算出される(第1の係数取得方法の詳細は後述する)。
【0052】
第2の係数取得方法では、火炉出口圧力の平均値と火炉出口温度の平均値との比率を変換係数として扱う。火炉出口圧力の平均値は、以下の式(A)によって示される。式(A)において、Nは圧力センサ61による累計計測回数を示し、Pは圧力センサ61によって計測される火炉出口圧力を示し、iはN以下の任意の自然数を示し、Piは、i回目に計測された火炉出口圧力を示す。火炉出口温度の平均値も式(A)と同様の式を用いて取得される。
(1/N)×Σ(Pi)・・・(A)
【0053】
第3の係数取得方法と第4の係数取得方法では、火炉出口圧力の変化量を示すパラメータと火炉出口温度の変化量を示すパラメータとの比率が変換係数として扱われる。より具体的には、第3の係数取得方法では、火炉出口圧力の変化量の累計値と、火炉出口温度の変化量の累計値との比率が変換係数として扱われる。火炉出口圧力の変化量の累計値は、以下の式(B)によって示される。式(B)で示されるP及びiは、式(A)で示されるP及びiと同じ意味を有する。火炉出口温度の変化量の累計値も、式(B)と同様の式を用いて取得される。
Σ(Pi+1-Pi)・・・式(B)
また、第4の取得方法では、火炉出口圧力の変化割合の累計値と、火炉出口温度の変化割合の累計値との比率が変換係数として扱われる。火炉出口圧力の変化割合の累計値は、以下の式(C)によって示される。式(C)で示されるP及びiは、式(A)で示されるP及びiと同じ意味を有する。火炉出口温度の変化割合の累計値も、式(C)と同様の式を用いて取得される。
Σ(Pi+1/Pi)・・・式(C)
【0054】
図6で示される演算部173は、変換係数と圧力偏差に基づいて温度変動量を取得するように構成される。一例として、変換係数を圧力偏差に乗じることによって温度変動量が取得される。この温度変動量は、圧力偏差取得部171によって取得された圧力偏差に起因した変動成分に相当する火炉出口温度である。
【0055】
上記構成によれば、圧力偏差は圧力変動データ64の代表圧力に基づく値である。このため、圧力偏差が圧力変動データ64によって示される火炉出口圧力の経時的変化から大きく乖離することが抑制される。よって、火炉出口圧力の変動に由来する火炉出口温度の変動量である温度変動量をより正確に求めることができる。
【0056】
<2-3.変換係数の取得方法の例示>
上述した第1の係数取得方法の詳細を例示する。変換係数取得部172(
図6参照)は、圧力変動データ64によって示される火炉出口圧力の二乗平均平方根と、温度変動データ65によって示される火炉出口温度の二乗平均平方根とに基づいて、変換係数を取得するように構成される。火炉出口圧力の二乗平均平方根であるRMS(P)は、式(D)によって示され、火炉出口温度の二乗平均平方根であるRMS(T)は、式(E)によって示される。
RMS(P)=(1/N
1)×Σ(P
i-P
ave)
2・・・(D)
RMS(T)=(1/N
2)×Σ(T
k-T
ave)
2・・・(E)
式(D)、式(E)において、N
1およびP
iは、式(A)におけるNおよびP
iと同じ意味を有し、P
aveは、圧力変動データ64における火炉出口圧力の平均値を示す。また、N
2は温度センサ62による累計計測回数を示し、kはN
2以下の任意の自然数を示し、T
kはk回目に計測された火炉出口温度を示し、T
aveは温度変動データ65によって示される火炉出口温度の平均値を示す。なお、N
1とN
2は同じ値であってもよい。
【0057】
一実施形態に係る変換係数取得部172は、RMS(T)とRMS(P)との比率に基づいて変換係数を取得するように構成されてもよい。より具体的には、RMS(T)/RMS(P)が変換係数として扱われてもよい。他の実施形態に係る変換係数取得部172は、RMS(T)-n×RMS(P)を最小とするnの値を演算処理によって探索してもよい。上記のいずれの実施形態であっても、圧力センサ61によって計測される火炉出口圧力に変換係数を乗じることで、温度変動量が取得される。
【0058】
上記構成によれば、温度変動データ65における火炉出口温度の温度が全体的に高い値であろうと全体的に低い値であろうと、火炉出口温度の二乗平均平方根は、当該温度の変動幅(変動量)を正確に表すことができる。同様に、火炉出口圧力の二乗平均平方根も、当該圧力の変動幅(変動量)を正確に表すことができる。これらの二乗平均平方根に基づいて変換係数が取得されるので、演算部173は、火炉出口圧力の経時的な変化を反映した温度変動量を取得でき、火炉出口圧力の変動の影響がさらに低減された補正火炉出口温度が取得される。
【0059】
また、RMS(T)とRMS(P)との比率に基づいて変換係数が取得される実施形態では、火炉出口圧力と平均火炉出口圧力との偏差の経時的変化と、火炉出口温度と平均火炉出口温度との偏差の経時的変化との比率が、変換係数に反映されることで、圧力偏差に応じた温度変動量を取得できる。
【0060】
<2-4.温度変動量取得部73の追加的な構成要素>
上記したように、圧力偏差は補正対象となる火炉出口温度が計測されるタイミングにおいて取得されることが好ましい。この火炉出口温度が計測されるタイミングでの瞬時的な圧力変動成分を反映した変換係数を求めることができるからである。これにより、正確な補正火炉出口温度を算出できる。
【0061】
そこで、
図6で例示される温度変動量取得部73は、瞬時圧力偏差取得部177をさらに含んでもよい。瞬時圧力偏差取得部177は、補正対象となる火炉出口温度を示す温度信号G2が出力されるタイミング(以下、温度信号出力タイミングともいう)における圧力偏差を取得するように構成される。より具体的な一例として、温度信号出力タイミングに対するズレが圧力センサ61の読取周波数分のタイムラグ以内となる条件のもと圧力偏差は取得される。なお、圧力偏差は、温度信号出力タイミングと同一タイミングで取得されるのが最も好ましい。
【0062】
上記構成によれば、補正対象となる火炉出口温度が計測されるタイミングにおける瞬時的な圧力偏差が温度変動量に反映される。これにより、火炉出口温度の計測タイミングにおける火炉出口圧力の変動に基づいた温度変動量が取得され、火炉出口圧力の変動の影響をより正確に低減した補正火炉出口温度を取得できる。なお、瞬時圧力偏差取得部177は温度変動量取得部73の必須の構成要素ではない。
【0063】
<3.コントローラ50の追加的な構成要素>
図7は、追加的な構成要素を備えるコントローラ50を示す概略図である。コントローラ50は、ボイラ10の運転条件を変更するための変更指令を生成するように構成された指令生成部75をさらに備えてもよい。なお、ボイラ10の運転条件の変更は、ボイラ負荷の変更、ボイラ10に供給する燃料(例えば微粉炭)の種別の変更、燃料の供給量の変更、スーツブロワの起動、又は、これら2以上の組み合わせである。運転条件の変更は本例に限定されず、ボイラ10の熱収支が変わるのであれば、他の変更が採用されてもよい。例えば、
図8のグラフにおいては、時刻が「10分」のタイミングで変更指令が生成され、その後、ボイラシステム1で生じる外乱が計測される火炉出口温度と火炉出口圧力とにおいて表出する。
【0064】
本実施形態の信号取得部71は、指令生成部75による変更指令が生成される前における圧力信号G1と温度信号G2を取得するように構成される。例えば、
図8に例示されるように、変更指令が生成されるタイミングよりも前において、圧力信号G1と温度信号G2が取得される。変更指令の生成前では、ボイラシステム1で生じる外乱が比較的小さいため、火炉出口圧力と火炉出口温度の経時的な変化が小さい。この期間における圧力変動データ64と温度変動データ65に基づいて取得される変換係数は、火炉出口圧力の変動と火炉出口温度との関係を精度よく表すことができる。
また、
図7で例示される補正温度取得部74は、変更指令の生成後に出力された温度信号G2が示す火炉出口温度を、補正火炉出口温度に補正するように構成される。一例として
図8では、破線Yによって囲まれる領域の火炉出口温度が補正温度取得部74によって補正されている。なお同図の上限グラフと下段グラフは、破線Yによって囲まれる領域の火炉出口温度のみが異なる。
【0065】
上記構成によれば、変換係数取得部172によって取得される変換係数のもとになる温度変動データ65と圧力変動データ64は、ボイラ10の運転条件が変更される前に取得される。温度変動データ65と圧力変動データ64が、比較的外乱の少ない条件下でのボイラ運転中に取得されるので、火炉出口圧力の変動と火炉出口温度との関係が変換係数により正確に反映される。従って、補正温度取得部74は、ボイラ10の運転条件の変更に伴って発生した外乱が含まれる火炉出口温度から、火炉出口圧力の変動の影響を正確に低減した補正火炉出口温度を取得できる。よって、ボイラ10の運転条件の変更に対して高い追従性を有する制御を実行できるボイラ用のコントローラ50が実現される。なお、指令生成部75は、コントローラ50の必須の構成要素ではない。
【0066】
図7で例示されるコントローラ50は、補正温度取得部74によって取得された補正火炉出口温度に基づいて、ボイラ10の過熱器102における目標温度を取得するための過熱器目標温度取得部76をさらに備えてもよい。過熱器102の目標温度は、例えば、第1過熱器102Aの出口温度、第2過熱器102Bの入口温度及び出口温度(再熱蒸気温度)、並びに、第3過熱器102Cの入口温度および出口温度(主蒸気温度)である。これらの目標温度は、補正火炉出口温度に基づいて決定されてもよい。
【0067】
例えば、
図9では、火炉壁管14の出口、第1過熱器102Aの出口、第2過熱器102Bの入口と出口、および、第3過熱器102Cの入口と出口のそれぞれにおける目標温度を示す。同図における、「FWT」、「1SH」、「2SH」、及び「3SH」は、それぞれ、火炉壁管14、第1過熱器102A、第2過熱器102B、及び第3過熱器102Cを意味する。また、過熱器102の目標温度は蒸気の過熱度であってもよい。
【0068】
同グラフの実線は、コントローラ50を構成するメモリに記憶される各目標温度の初期値を繋いだ直線である。補正温度取得部74が取得した補正火炉出口温度(Tu)が、初期値としてのTbよりも大きい場合、ボイラ10における熱収支の変動によって火炉壁管14における出口温度が上昇したことを意味する。この場合、コントローラ50は、TuとTbの偏差と、規定のデータテーブル(あるいは規定の関数式)とを用いて、過熱器102の各目標温度を設定する(破線Juは、これらの温度を繋いでいる)。これにより、過熱器102における各目標温度はそれぞれ初期値よりも高い値に設定される。同グラフで示される過熱器102における各目標温度は、同じ値だけ上昇するとは限らず、第1過熱器102A、第2過熱器102B、または第3過熱器102Cに応じて上昇幅は変わってよい。
【0069】
他方で、補正温度取得部74が取得した火炉出口温度(Td)が、初期値としてのTbよりも低い場合、ボイラ10における熱収支の変動によって火炉壁管14における出口温度が下降したことを意味する。この場合、コントローラ50は、TdとTbの偏差と、規定のデータテーブル(あるいは規定の関数式)とを用いて、過熱器102の各目標温度を設定する(破線Jdは、これらの温度を繋いでいる)。
【0070】
なお、過熱器102における各目標温度の上記設定方法は一例に過ぎず、TuとTbの偏差またはTdとTbの偏差に基づくことなく過熱器102における各目標温度が設定されることがあってもよい。
【0071】
上記構成によれば、火炉出口圧力の変動の影響が低減された補正火炉出口温度が取得されるので、ボイラ10の運転条件の変更に伴って過熱器102の目標温度を上げるべきか下げるべきかを適切に判断することができる。これにより、例えば、ボイラ10の運転条件が変更された後において、ボイラ10の出力を早期に安定化させることが可能となる。
【0072】
幾つかの実施形態では、上述した変更指令にボイラ10の熱負荷を変更するための負荷変更指令を含む。そして、負荷変更指令によって示される変更後の熱負荷と、火炉出口温度とに基づいて過熱器102における目標温度を取得してもよい。より具体的な一例として、変更後の熱負荷と、補正火炉出口温度と、規定のデータテーブル(もしくは規定の関数式)とが用いられることで、過熱器102における目標温度が取得されてもよい。
【0073】
上記構成によれば、過熱器102の目標温度に、変更後のボイラ10の熱負荷が反映されるので、過熱器102における目標温度をより適正化できる。
【0074】
<4.ボイラ制御部77による過熱器102の温度制御の一例>
図10は、過熱器102の目標温度を制御するためのボイラ制御部77を示す概念図である。同図では、補正温度取得部74によって取得された補正火炉出口温度に基づき、第2過熱器102Bの入口温度と出口温度が制御される流れを示す。両温度の制御は、第1過熱器102Aから第2過熱器102Bに流れる蒸気にスプレイ水を混入させるように構成された過熱器スプレイ81の制御を通じて実行される。同図の例では、第2過熱器102Bの入口温度を計測するための入口温度センサ191、及び、第2過熱器102Bの出口温度を計測するための出口温度センサ192が設けられている。
【0075】
同図で例示されるコントローラ50のボイラ制御部77は、本開示の必須の構成要素ではないが、設定回路181~183、減算器131,141、PI制御器134,144、演算器151~153、および、加算器161,162を備える。
【0076】
コントローラ50の構成要素である補正温度取得部74によって取得された補正火炉出口温度は、設定回路181~183に入力される。設定回路181は補正火炉出口温度に基づき第2過熱器102Bの出口目標温度を設定し、設定回路182は補正火炉出口温度に基づき第2過熱器102Bの入口目標温度を設定する(設定方法は
図9を用いて既述した通りである)。設定回路183は、補正火炉出口温度に基づき過熱器スプレイ81の弁開度特性値を設定する。
【0077】
設定回路181から出力される第2過熱器102Bの出口目標温度と、出口温度センサ192の計測結果との偏差は、減算器131によって求められ、その結果はPI制御器134に入力される。PI制御器134の出力結果が演算器151によって補正され、その補正結果は、設定回路182の出力結果とともに加算器161に入力される。加算器161の出力結果は、演算器152によって補正され、その補正結果が、入口温度センサ191の計測結果とともに減算器141に入力され、偏差が特定される。減算器132の出力結果である偏差はPI制御器144に入力され、PI制御器144の出力結果は、設定回路182が求めた弁開度特性値を補正する演算器153の出力結果と共に、加算器162に入力される。加算器162の演算結果が弁開度指令として過熱器スプレイ81に入力される。これにより、第2過熱器102Bの入口温度と出口温度が制御される。
【0078】
上記の過熱器102における温度制御は、ボイラ10に供給される燃料の種類(例えば炭種)の変更の有無によらず実行する。これにより、ボイラ10に供給される炭種が変更されても、上記の制御で過熱器102の目標温度を設定することができる。また、補正火炉出口温度は、過熱器102の温度制御に用いられることに限定されない。補正火炉出口温度に基づきボイラ10に供給される燃料の供給量が制御されることがあってもよい。
【0079】
<5.ボイラ制御処理>
図11、
図12を参照し、コントローラ50のプロセッサによって実行されるボイラ制御処理を説明する。コントローラ50を構成するプロセッサが、コントローラ50のメモリに記憶されるボイラ制御プログラムを読み出すことにより、ボイラ制御処理は実行される。以下の説明では「ステップ」を「S」と略記する場合がある。
【0080】
図11に示すように、プロセッサは、圧力センサ61から出力される圧力信号G1と、温度センサ62から出力される温度信号G2とを取得するための信号取得ステップを実行する(S11)。S11を実行するプロセッサは、既述の信号取得部71に相当する。
【0081】
次いで、プロセッサは、圧力変動データ64を圧力信号G1に基づいて取得し、且つ、温度変動データ65を温度信号G2に基づいて取得するための変動データ取得ステップを実行する(S13)。S13を実行するプロセッサは、既述の変動データ取得部72に相当する。
【0082】
次いで、プロセッサは、ボイラの運転条件を変更するための変更指令生成するための指令生成ステップを実行する(S15)。S15を実行するプロセッサは、既述の指令生成部75に相当する。
【0083】
次いで、プロセッサは、温度変動量を、圧力変動データ64と温度変動データ65に基づいて取得するための温度変動量取得ステップを実行する(S17)。S17を実行するプロセッサは、既述の温度変動量取得部73に相当する。本ステップの詳細については後述する。
【0084】
次いで、プロセッサは、温度信号G2によって示される火炉出口温度を温度変動量に基づいて補正した補正火炉出口温度を取得するための補正温度取得ステップを実行する(S19)。S19を実行するプロセッサは、既述の補正温度取得部74に相当する。
【0085】
次いで、プロセッサは、補正温度取得ステップ(S19)において取得された補正火炉出口温度に基づいて、ボイラ10の過熱器102における目標温度を取得するための過熱器目標温度取得ステップを実行する(S21)。S21を実行するプロセッサは、既述の過熱器目標温度取得部76に相当する。
【0086】
次いで、プロセッサは、過熱器目標温度取得ステップ(S21)において取得された目標温度に基づき、過熱器102を制御する(S23)。S23を実行するプロセッサは、既述のボイラ制御部77に相当する。その後、プロセッサは、ボイラ制御処理を終了する。なお、S23では、過熱器102に代えて、例えばミル31などボイラ10に燃料を供給する装置が制御されてもよいし、あるいはボイラ給水ポンプ123が制御されてもよい。この場合、S21は実行されなくてもよい。
【0087】
図12を参照し、温度変動量取得ステップの詳細を説明する。プロセッサは、圧力変動データ64における火炉出口圧力の代表圧力と、圧力信号G1によって示される火炉出口圧力との偏差である圧力偏差を取得するための圧力偏差取得ステップを実行する(S31)。S33を実行するプロセッサは、既述の圧力偏差取得部171に相当する。
【0088】
次いで、プロセッサは、圧力偏差を温度変動量に換算するための変換係数を、温度変動データ65と圧力変動データ64に基づき取得するための変換係数取得ステップを実行する(S33)。S33を実行するプロセッサは、既述の変換係数取得部172に相当する。
【0089】
次いで、プロセッサは、補正対象となる火炉出口温度を示す温度信号G2が出力されるタイミングにおける圧力偏差を取得するための瞬時圧力偏差取得ステップを実行する(S35)。S35を実行するプロセッサは、既述の瞬時圧力偏差取得部177に相当する。
【0090】
次いで、プロセッサは、変換係数と圧力偏差に基づいて温度変動量を取得するための演算ステップを実行する(S37)。S37を実行するプロセッサは、既述の演算部173に相当する。その後、プロセッサは、ボイラ制御処理に戻る。
【0091】
<6.まとめ>
上述した幾つかの実施形態に記載の内容は、例えば以下のように把握される。
【0092】
1)本開示の一実施形態に係るボイラ用のコントローラ(50)は、
ボイラ(10)の火炉壁管(14)における出口圧力である火炉出口圧力を計測するための圧力センサ(61)から出力される圧力信号(G1)と、前記火炉壁管(14)における出口温度である火炉出口温度を計測するための温度センサ(62)から出力される温度信号(G2)とを取得するための信号取得部(71)と、
前記火炉出口圧力の経時的な変動を示す圧力変動データ(64)を前記圧力信号(G1)に基づいて取得し、且つ、前記火炉出口温度の経時的な変動を示す温度変動データ(65)を前記温度信号(G2)に基づいて取得するための変動データ取得部(72)と、
前記火炉出口圧力の変動に由来する前記火炉出口温度の変動量である温度変動量を、前記圧力変動データ(64)と前記温度変動データ(65)に基づいて取得するための温度変動量取得部(73)と、
前記温度信号(G2)によって示される前記火炉出口温度を前記温度変動量に基づいて補正した補正火炉出口温度を取得するための補正温度取得部(74)と、
を備える。
【0093】
上記1)の構成によれば、ボイラ(10)の運転条件の変更に伴って火炉出口圧力が変動した場合であっても、火炉出口圧力の変動の影響が低減された補正火炉出口温度を取得できる。ボイラ(10)における熱収支と高い相関を有する補正火炉出口温度に基づいたボイラ制御によって、変更後の運転条件に適したボイラ運転が実現される。よって、ボイラ(10)の運転条件の変更に対して高い追従性を有する制御を実行できるボイラ用のコントローラ(50)が実現される。例えば、ボイラ(10)における熱負荷の変更、ボイラ燃料の種類もしくは供給量の変更、スーツブロワの起動開始などに伴ってボイラ(10)の運転条件が変更された場合でも、ボイラ(10)を構成する熱交換器(例えば過熱器102)における温度をはじめとする制御対象パラメータを早期に安定化させることができる。
【0094】
2)幾つかの実施形態では、上記1)に記載のボイラ用のコントローラ(50)であって、
前記温度変動量取得部(73)は、
前記圧力変動データ(64)における前記火炉出口圧力の代表圧力と、前記圧力信号(G1)によって示される前記火炉出口圧力との偏差である圧力偏差を取得するための圧力偏差取得部(171)と、
前記圧力偏差を前記温度変動量に換算するための変換係数を、前記温度変動データ(65)と前記圧力変動データ(64)に基づき取得するための変換係数取得部(172)と、
前記変換係数と前記圧力偏差に基づいて前記温度変動量を取得するための演算部(173)と、
を含む。
【0095】
上記2)の構成によれば、圧力偏差は圧力変動データ(64)の代表圧力に基づく値である。このため、圧力偏差が圧力変動データ(64)によって示される火炉出口圧力の経時的変化から大きく乖離することが抑制される。よって、火炉出口圧力の変動に由来する火炉出口温度の変動量である温度変動量をより正確に求めることができる。
【0096】
3)幾つかの実施形態では、上記2)に記載のボイラ用のコントローラ(50)であって、
前記変換係数取得部(172)は、前記温度変動データ(65)によって示される前記火炉出口温度の二乗平均平方根と、前記圧力変動データ(64)によって示される前記火炉出口圧力の二乗平均平方根とに基づいて、前記変換係数を取得するように構成される。
【0097】
上記3)の構成によれば、温度変動データ(65)における火炉出口温度の温度が全体的に高い値であろうと全体的に低い値であろうと、火炉出口温度の二乗平均平方根は、当該温度の変動幅(変動量)を正確に表すことができる。同様に、火炉出口圧力の二乗平均平方根も、当該圧力の変動幅(変動量)を正確に表すことができる。これらの二乗平均平方根に基づいて変換係数が取得されるので、演算部(173)は、火炉出口圧力の経時的な変化を反映した温度変動量を取得でき、火炉出口圧力の変動の影響がさらに低減された補正火炉出口温度が取得される。
【0098】
4)幾つかの実施形態では、上記3)に記載のボイラ用のコントローラ(50)であって、
前記変換係数取得部(172)は、前記火炉出口温度の前記二乗平均平方根と、前記火炉出口圧力の前記二乗平均平方根との比率に基づいて、前記変換係数を取得するように構成される。
【0099】
上記4)の構成によれば、火炉出口圧力と平均火炉出口圧力との偏差の経時的変化と、火炉出口温度と平均火炉出口温度との偏差の経時的変化との比率が、変換係数に反映されることで、圧力偏差に応じた温度変動量を取得できる。
【0100】
5)幾つかの実施形態では、上記2)から4)のいずれかに記載のボイラ用のコントローラ(50)であって、
前記温度変動量取得部(73)は、補正対象となる前記火炉出口温度を示す前記温度信号(G2)が出力されるタイミングにおける前記圧力偏差を取得するための瞬時圧力偏差取得部(171)をさらに含み、
前記演算部(173)は、前記瞬時圧力偏差取得部(171)によって取得された前記圧力偏差に前記変換係数を乗算することで、前記温度変動量を取得するように構成される。
【0101】
上記5)の構成によれば、補正対象となる火炉出口温度が計測されるタイミングにおける瞬時的な圧力偏差が温度変動量に反映される。これにより、火炉出口温度の計測タイミングにおける火炉出口圧力の変動に基づいた温度変動量が取得され、火炉出口圧力の変動の影響をより正確に低減した補正火炉出口温度を取得できる。
【0102】
6)幾つかの実施形態では、上記2)から5)のいずれかに記載のボイラ用のコントローラ(50)であって、
前記ボイラ(10)の運転条件を変更するための変更指令を生成するための指令生成部(75)をさらに備え、
前記信号取得部(71)は、前記変更指令が生成される前における前記圧力信号(G1)と前記温度信号(G2)を取得するように構成され、
前記補正温度取得部(74)は、前記変更指令の生成後に出力された前記温度信号(G2)が示す前記火炉出口温度を、前記補正火炉出口温度に補正するように構成される。
【0103】
上記6)の構成によれば、変換係数取得部(172)によって取得される変換係数のもとになる温度変動データ(65)と圧力変動データ(64)は、ボイラ(10)の運転条件が変更される前に取得される。温度変動データ(65)と圧力変動データ(64)が、比較的外乱の少ない条件下でのボイラ運転中に取得されるので、火炉出口圧力の変動と火炉出口温度との関係が変換係数により正確に反映される。従って、補正温度取得部(74)は、ボイラ(10)の運転条件の変更に伴って発生した外乱が含まれる火炉出口温度から、火炉出口圧力の変動の影響を正確に低減した補正火炉出口温度を取得できる。よって、ボイラ(10)の運転条件の変更に対して高い追従性を有する制御を実行できるボイラ用のコントローラ(50)が実現される。
【0104】
7)幾つかの実施形態では、上記6)に記載のボイラ用のコントローラ(50)であって、
前記補正温度取得部(74)によって取得された前記補正火炉出口温度に基づいて、前記ボイラ(10)の過熱器(102)における目標温度を取得するための過熱器目標温度取得部(76)をさらに備える。
【0105】
上記7)の構成によれば、火炉出口圧力の変動の影響が低減された補正火炉出口温度が取得されるので、ボイラ(10)の運転条件の変更に伴って過熱器の目標温度を上げるべきか下げるべきかを適切に判断することができる。これにより、例えば、ボイラ(10)の運転条件が変更された後において、ボイラ(10)の出力を早期に安定化させることが可能となる。
【0106】
8)幾つかの実施形態では、上記7)に記載のボイラ用のコントローラ(50)であって、
前記変更指令は、前記ボイラ(10)の熱負荷を変更するための負荷変更指令を含み、
前記過熱器目標温度取得部(76)は、前記負荷変更指令によって示される変更後の前記熱負荷と、前記補正火炉出口温度とに基づいて、前記過熱器における前記目標温度を取得するように構成される。
【0107】
上記8)の構成によれば、過熱器の目標温度に、変更後のボイラ(10)の熱負荷が反映されるので、過熱器における目標温度をより適正化できる。
【0108】
9)本開示の一実施形態に係るボイラシステム(1)は、
上記1)乃至8)の何れかに記載のボイラ用のコントローラ(50)と、
前記コントローラ(50)によって制御される前記ボイラ(10)と、
を備える。
【0109】
上記9)の構成によれば、上記1)と同様の理由によって、ボイラ(10)の運転条件の変化に高い追従性を有するボイラシステム(1)が実現される。
【0110】
10)本発明の少なくとも一実施形態に係るボイラ制御プログラムは、
コンピュータに、
ボイラ(10)の火炉壁管(14)における出口圧力である火炉出口圧力を計測するための圧力センサ(61)から出力される圧力信号(G1)と、前記火炉壁管(14)における出口温度である火炉出口温度を計測するための温度センサ(62)から出力される温度信号(G2)とを取得するための信号取得ステップ(S11)と、
前記火炉出口圧力の経時的な変動を示す圧力変動データ(64)を前記圧力信号(G1)に基づいて取得し、且つ、前記火炉出口温度の経時的な変動を示す温度変動データ(65)を前記温度信号(G2)に基づいて取得するための変動データ取得ステップ(S13)と、
前記火炉出口圧力の変動に由来する前記火炉出口温度の変動量である温度変動量を、前記圧力変動データ(64)と前記温度変動データ(65)に基づいて取得するための温度変動量取得ステップ(S15)と、
前記温度信号(G2)によって示される前記火炉出口温度を前記温度変動量に基づいて補正した補正火炉出口温度を取得するための補正温度取得ステップ(S17)と、
を実行させる。
【0111】
上記10)の構成によれば、上記1)と同様の理由によって、ボイラ(10)の運転条件の変更に対して高い追従性を有するボイラ制御プログラムが実現される。
【符号の説明】
【0112】
1 :ボイラシステム
10 :ボイラ
11 :火炉
14 :火炉壁管
50 :コントローラ
61 :圧力センサ
62 :温度センサ
64 :圧力変動データ
65 :温度変動データ
71 :信号取得部
72 :変動データ取得部
73 :温度変動量取得部
74 :補正温度取得部
75 :指令生成部
76 :過熱器目標温度取得部
101 :火炉壁
102 :過熱器
171 :圧力偏差取得部
172 :変換係数取得部
173 :演算部
177 :瞬時圧力偏差取得部
G1 :圧力信号
G2 :温度信号