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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024135781
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0585 20100101AFI20240927BHJP
   H01M 10/04 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
H01M10/0585
H01M10/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023046646
(22)【出願日】2023-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(72)【発明者】
【氏名】竹岡 駿
(72)【発明者】
【氏名】森 秀人
(72)【発明者】
【氏名】大倉 才昇
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 信司
【テーマコード(参考)】
5H028
5H029
【Fターム(参考)】
5H028BB03
5H028BB10
5H028CC19
5H029AJ15
5H029BJ12
5H029BJ17
5H029CJ13
5H029CJ16
(57)【要約】      (修正有)
【課題】電解液の減少を抑制できる電池の製造方法を提供する。
【解決手段】発電単位を含む積層体、積層体の外縁部に沿って配置されx軸方向に内部および外部を連通する貫通孔を有するシール部材、シール部材の側面に配置され貫通孔と連通する注液口を有する注液枠を有する発電部材を準備する、準備工程と、電解液を注液する、注液工程と、発電部材を仮封止部材を用いて仮封止する、仮封止工程と、充電またはエージングにより生じたガスを抜く、ガス抜き工程と、を有する電池の製造方法であって、ガス抜き工程は、発電単位の内圧が第1閾値に到達したか否かを判定する第1処理と、内圧が上記第1閾値に到達したと判定した場合に、仮封止を解除する、第2処理と、第2処理後、内圧が第1閾値よりも低い圧力である第2閾値に到達したか否かを判定する第3処理と、内圧が第2閾値に到達したと判定した場合に、再度仮封止を行う、第4処理と、を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層体、シール部材および注液枠を有する発電部材を準備する、準備工程と、
前記発電部材における前記積層体に電解液を注液する、注液工程と、
前記注液工程後の前記発電部材を、仮封止部材を用いて仮封止する、仮封止工程と、
前記仮封止工程後の前記発電部材に対して充電またはエージングを行い、かつ、前記充電または前記エージングにより生じたガスを抜く、ガス抜き工程と、
を有する電池の製造方法であって、
前記積層体は、発電単位を含み、
前記シール部材は、前記積層体の外縁部に沿って配置され、さらに、x軸方向において前記積層体の内部および外部を連通する貫通孔を有し、
前記注液枠は、シール部材の側面に配置され、さらに、前記貫通孔と連通する注液口を有し、
前記注液工程において、前記注液口を介して前記注液を行い、
前記仮封止工程において、前記仮封止は前記注液枠の前記注液口に対して行い、
前記ガス抜き工程において、
前記発電単位の内圧が第1閾値に到達したか否かを判定する第1処理と、
前記内圧が前記第1閾値に到達したと判定した場合に、前記仮封止を解除する、第2処理と、
前記第2処理後、前記内圧が前記第1閾値よりも低い圧力である第2閾値に到達したか否かを判定する第3処理と、
前記内圧が前記第2閾値に到達したと判定した場合に、再度仮封止を行う、第4処理と、を有する、電池の製造方法。
【請求項2】
前記仮封止部材は、前記注液口を塞ぐ仮封止部と、前記仮封止部と接続され、かつ、前記積層体の内部と連通しているガス経路部と、前記ガス経路部に配置された圧力計およびバルブと、を有し、
前記圧力計は、前記バルブに対して前記仮封止部側に位置し、
前記ガス抜き工程において、
前記第1処理および前記第3処理における前記判定は、前記圧力計により測定された内圧に基づき行い、
前記第2処理は、前記バルブを開ける処理であり、
前記第4処理は、前記バルブを閉める処理である、請求項1に記載の電池の製造方法。
【請求項3】
前記仮封止部材は、前記注液口を塞ぎ、かつ、前記x軸方向に移動可能な仮封止部を有し、
前記ガス抜き工程において、
前記第2処理は、前記x軸方向において前記仮封止部を前記注液枠から引き離す処理であり、
前記第4処理は、前記x軸方向において前記仮封止部を前記注液枠に押し付ける処理である、請求項1に記載の電池の製造方法。
【請求項4】
前記第2閾値が、大気圧である、請求項1から請求項3までのいずれかの請求項に記載の電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池等の電池の製造方法では、充電工程またはエージング工程において発生したガスにより電池の内圧が上昇することを防止するため、ガス抜き工程を行うことが知られている。特許文献1には、電池ケースの一対の幅広面を両側から挟み込み、その挟み込み方向に電池ケースを押圧する拘束状態で、充電工程、ガス抜き工程およびエージング工程を実行する、二次電池の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010-021104号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したように、充電工程またはエージング工程において、電池内部でガスが発生すると、電池の内圧が上昇する。ガス発生に伴い、電池の内圧が耐久圧力以上に上昇すると、構造的に脆弱な部分からガスが漏洩するなど、電池の耐久性が低下する虞がある。そのため、電池の内圧が過度に上昇することを抑制するように、エージング工程の終了後にガス抜き工程を行う場合がある。なお、ガスは活物質などの反応により電解液中の溶媒が分解されることで発生する。
【0005】
ここで、充電工程またはエージング工程において発生するガスによる内圧上昇を抑制するために、電池内部に大きな余剰空間を設けることが考えられるが、その余剰空間にガス(蒸発した電解液)がたまり、電極間の電解液が少なくなる恐れがある。電極間の電解液が減少しすぎると、電池性能が低下する恐れがある。
【0006】
本開示は、上記実情に鑑みてなされたものであり、電解液の減少を抑制できる電池の製造方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[1]
積層体、シール部材および注液枠を有する発電部材を準備する、準備工程と、上記発電部材における上記積層体に電解液を注液する、注液工程と、上記注液工程後の上記発電部材を、仮封止部材を用いて仮封止する、仮封止工程と、上記仮封止工程後の上記発電部材に対して充電またはエージングを行い、かつ、上記充電または上記エージングにより生じたガスを抜く、ガス抜き工程と、を有する電池の製造方法であって、上記積層体は、発電単位を含み、上記シール部材は、上記積層体の外縁部に沿って配置され、さらに、x軸方向において上記積層体の内部および外部を連通する貫通孔を有し、上記注液枠は、シール部材の側面に配置され、さらに、上記貫通孔と連通する注液口を有し、上記注液工程において、上記注液口を介して上記注液を行い、上記仮封止工程において、上記仮封止は上記注液枠の上記注液口に対して行い、上記ガス抜き工程において、上記発電単位の内圧が第1閾値に到達したか否かを判定する第1処理と、上記内圧が上記第1閾値に到達したと判定した場合に、上記仮封止を解除する、第2処理と、上記第2処理後、上記内圧が上記第1閾値よりも低い圧力である第2閾値に到達したか否かを判定する第3処理と、上記内圧が上記第2閾値に到達したと判定した場合に、再度仮封止を行う、第4処理と、を有する、電池の製造方法。
【0008】
[2]
上記仮封止部材は、上記注液口を塞ぐ仮封止部と、上記仮封止部と接続され、かつ、上記積層体の内部と連通しているガス経路部と、上記ガス経路部に配置された圧力計およびバルブと、を有し、上記圧力計は、上記バルブに対して上記仮封止部側に位置し、上記ガス抜き工程において、上記第1処理および上記第3処理における上記判定は、上記圧力計により測定された内圧に基づき行い、上記第2処理は、上記バルブを開ける処理であり、上記第4処理は、上記バルブを閉める処理である、[1]に記載の電池の製造方法。
【0009】
[3]
上記仮封止部材は、上記注液口を塞ぎ、かつ、上記x軸方向において移動可能な仮封止部を有し、上記ガス抜き工程において、上記第2処理は、上記x軸方向において上記仮封止部を上記注液枠から引き離す処理であり、上記第4処理は、上記x軸方向において上記仮封止部を上記注液枠に押し付ける処理である、[1]に記載の電池の製造方法。
【0010】
[4]
上記第2閾値が、大気圧である、[1]から[3]までのいずれかに記載の電池の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本開示においては、電解液の減少を抑制できる電池の製造方法を提供できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本開示における電池の製造方法を例示するフロー図である。
図2】本開示における発電部材を例示する概略断面図および概略平面図である。
図3】本開示における注液枠を例示する概略斜視図である。
図4】本開示における仮封止部材を例示する概略断面図である。
図5】本開示における仮封止部材を例示する概略断面図である。
図6】本開示における発電部材を準備する方法を例示する概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示における実施形態について、図面を用いて詳細に説明する。以下に示す各図は、模式的に示したものであり、各部の大きさ、形状は、理解を容易にするために、適宜誇張している。また、本明細書において、ある部材に対して他の部材を配置する態様を表現するにあたり、単に「上に」または「下に」と表記する場合、特に断りの無い限りは、ある部材に接するように、直上または直下に他の部材を配置する場合と、ある部材の上方または下方に、別の部材を介して他の部材を配置する場合との両方を含む。
【0014】
図1は、本開示における電池の製造方法を例示するフロー図である。図2は、本開示における発電部材を例示する概略断面図であり、図3は、図2における注液枠を例示する概略斜視図である。図2(b)は、図2(a)で示した発電部材をz軸方向から平面視した概略平面図である。なお、図2(b)において注液枠は省略してある。図1および図2に示すように、発電単位Uを含む積層体10と、積層体10の外縁に沿って配置され、さらに、x軸方向において積層体10の内部および外部を連通する貫通孔Hを有するシール部材20と、シール部材20の側面SSに配置され、さらに、貫通孔Hと連通する注液口31を有する注液枠30と、を有する発電部材EMを準備する(準備工程)。また、図2(a)において、積層体はz軸方向に積層された複数の発電単位U(U1~U3)を有し、複数の発電単位Uに対して、1箇所ずつ貫通孔H(H1~H3)が設けられている。また、図2(a)および図3に示す注液枠20は、z軸方向に配置された、3つの注液口31a、31b、31cを有し、注液口31a、31b、31cは、それぞれ、発電単位U1、U2、U3および貫通孔H1、H2、H3に対応して配置されている。なお、本開示において、z軸方向とは発電部材の厚さ方向をいい、x軸方向とは発電部材の厚さ方向と直交する方向をいう。また、発電部材の厚さ方向は積層体の厚さ方向と同義である。
【0015】
次に、発電部材EMにおける積層体10に電解液を注液する(注液工程)。注液工程においては、注液口31を介して注液を行う。特に図示しないが、注液は、注液枠30における注液口31にノズルを配置し、注液口31および貫通孔Hを介して行われる。
【0016】
次に、上記注液工程後の発電部材EMを、仮封止部材40を用いて仮封止する(仮封止工程)。図4および図5は、本開示における仮封止部材を例示する概略断面図である。図4において、仮封止部材40は、注液口31を塞ぐ仮封止部41と、仮封止部41と接続されたガス経路部42と、カス経路部42に配置された圧力計43およびバルブ44と、を有している。また、図5において、仮封止部材40は、注液口31を塞ぎ、かつ、x軸方向に移動可能な仮封止部41を有している。
【0017】
そして、上記仮封止工程後の発電部材EMに対して充電または放電を行う。充電またはエージングにより電池内部にガスが発生するので、その発生したガスを電池内部から除去する(ガス抜き工程)。ガス抜き工程は、所定の第1処理、第2処理、第3処理および第4処理を有する。各処理の詳細については後述する。
【0018】
本開示によれば、ガス抜き工程において、発電単位の内圧が第1閾値および第2閾値に到達したか否かを判定し、判定結果に基づき仮封止の解除および再度の仮封止を行うため、電解液の減少を抑制できる。
【0019】
上述のように、電池の製造において、充電工程またはエージング工程で発生したガスを抜くことが知られている。一方で、ガスは電解液中の溶媒の分解に由来するため、ガスを抜きすぎると電解液量が減少しすぎてしまい、電池性能が低下する恐れがある。
【0020】
これに対して、本開示においては、ガス抜き工程において、発電単位の内圧が第1閾値に到達した場合に上記仮封止を解除し、仮封止の解除後、上記内圧が上記第1閾値よりも低い圧力である第2閾値に到達した場合に注液口を再度仮封止する。つまり、発電単位の内圧に基づき、注液口の仮封止を制御する。その結果、ガス排出量を制御でき、電解液の減少を抑制することができ、電解液の減少による電池性能の低下を抑制することができる。
【0021】
なお、ガス抜きを行う電池の製造方法においては、ガス発生にともなう電池内圧上昇の感度を低くするために、内部空間に余力をもたせた電池設計にすると、電池のエネルギー密度が低下してしまう、という、特有の困難性がある。
【0022】
1.準備工程
本開示における準備工程は、積層体、シール部材および注液枠を有する発電部材を準備する工程である。
【0023】
(1)積層体
本開示における積層体は、発電単位を含む。積層体は、発電単位を1つ有していてもよく、2つ以上有していてもよい。後者の場合、複数の発電体は、z軸方向に積層される。
【0024】
図2(a)に示すように、発電単位Uは、セパレータ4と、z軸方向において、セパレータ4の一方の面に配置された正極活物質層2と、セパレータ4の他方の面に配置された負極活物質3と、を有する。また、図2(a)に示すように、複数の発電単位U(U1~U3)は、z軸方向に、集電体1を介して積層される。
【0025】
正極活物質層2、負極活物質層3およびセパレータ4には、後述する貫通孔Hを介して電解液が供給される。その結果、正極活物質層2、負極活物質層3およびセパレータ4には、それぞれ、電解液が含浸される。
【0026】
また、積層体は、通常、z軸方向に積層された複数の電極を含む。図2(a)に示す積層体10は、電極Eとして、バイポーラ電極BP1、バイポーラ電極BP2、正極側端部電極CA、および、負極側端部電極ANを有する。バイポーラ電極BP1およびバイポーラ電極BP2は、それぞれ、集電体1と、集電体1の一方の面上に配置された正極活物質層2と、集電体1の他方の面上に配置された負極活物質層3と、を有する。正極側端部電極CAは、集電体1と、集電体1の一方の面上に配置された正極活物質層2と、を有する。負極側端部電極ANは、集電体1と、集電体1の一方の面上に配置された負極活物質層3と、を有する。
【0027】
積層体は、バイポーラ電極を1つのみ有していてもよく、2以上有していてもよい。後者の場合、バイポーラ電極の数は、例えば50以下であり、40以下であってもよく、30以下であってもよい。一方、積層体は、バイポーラ電極を有しなくてもよい。
【0028】
ここで、本開示における発電単位は、2つのバイポーラ電極を用いて構成されていてもよい。図2(a)において、積層体10は、z軸方向において、バイポーラ電極BP1およびバイポーラ電極BP2を有する。隣り合うバイポーラ電極BP1およびバイポーラ電極BP2の間に、セパレータ4が配置されている。発電単位U2は、バイポーラ電極BP2における正極活物質層2と、バイポーラ電極BP1における負極活物質層3と、それらの間に配置されたセパレータ4と、から構成されている。一方、発電単位U1は、バイポーラ電極BP1における正極活物質層2と、負極側端部電極ANにおける負極活物質層3と、それらの間に配置されたセパレータ4と、から構成されている。また、発電単位U3は、バイポーラ電極BP2における負極活物質層3と、正極側端部電極CAにおける正極活物質層2と、それらの間に配置されたセパレータ4と、から構成されている。
【0029】
(2)シール部材
本開示におけるシール部材は、上記積層体の外縁部に沿って配置され、さらに、x軸方向において上記積層体の内部および外部を連通する貫通孔を有している。
【0030】
図2(b)に示すように、z軸方向から見て、積層体10の外縁Eを含む部分(外縁部)に沿って、枠状のシール部材20が配置されていることが好ましい。つまり、シール部材は、積層体10の外縁Eの全周に沿って配置されていることが好ましい。シール部材は、樹脂部材であることが好ましい。樹脂部材を構成する樹脂としては、例えば、熱可塑性樹脂が挙げられる。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂が挙げられる。また、図2(a)に示すように、シール部材20は、積層体10の内部に電解液を供給するための貫通孔H(H1~H3)を有している。図2(a)に示すように、貫通孔Hは、X軸方向において積層体10の内部および外部を連通する。また、貫通孔Hは、通常、発電単位1つに対して1つ設けられる。
【0031】
(3)注液枠
本開示における注液枠は、シール部材の側面に配置される。図2(a)に示すように、シール部材20の側面とは、シール部材においてz軸方向に延在する面SSをいう。
【0032】
注液枠は、例えば樹脂製の部材である。樹脂としては、例えば、熱可塑性樹脂が挙げられる。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂が挙げられる。
【0033】
図2(a)および図3に示すように、注液枠30は、注液口31を有する。注液口31は、z軸方向に直交するx軸方向に、電解液を供給可能な部位である。また、図2(a)に示すように、注液枠30は、z軸方向に配置された、複数の注液口31(31a、31b、31c)を有していてもよい。一方、特に図示しないが、注液枠は、注液口を一つのみ有していてもよい。
【0034】
x軸方向から見て、注液口の外周形状は、特に限定されないが、長方形、正方形等の四角形が挙げられる。また、x軸方向から見て、注液枠の外周形状は、特に限定されないが、長方形、正方形等の四角形が挙げられる。
【0035】
(4)発電部材
本開示における発電部材は、上述した積層体、シール部材および注液枠を有する。発電部材を準備する方法は特に限定されない。図6は、本開示における発電部材を準備する方法を例示する概略断面図である。特に、図6は、上述したバイポーラ電極を有する発電部材の作製方法を例示する。
【0036】
図6(a)に示すように、バイポーラ電極BP1およびバイポーラ電極BP2を準備する。バイポーラ電極BP1は、集電体1の一方の面に配置された正極活物質層2と、集電体1の他方の面に配置された負極活物質層3と、を有する。さらに、バイポーラ電極BP1は、集電体1の外縁に沿って配置された、シール部材形成用の枠部材20aを有する。z軸方向から見て、枠部材20aは、集電体1の外縁全周に沿って配置されることが好ましい。例えば、集電体1の外縁形状が四角形である場合、その四角形の外縁全周に沿って、枠部材20aが配置される。また、図6(a)に示すように、枠部材20aは、集電体1の一方の主面pの一部と、集電体1の他方の主面qの一部と、集電体1の外縁を構成する側面rの全体と、を覆うことが好ましい。
【0037】
そして、バイポーラ電極BP1における負極活物質層3と、バイポーラ電極BP2における正極活物質層2とを、セパレータ4を介して、対向させる。この際、セパレータ4の外縁の少なくとも一部が、枠部材20aおよび枠部材20bの間に配置される。また、図6(a)に示すように、バイポーラ電極BP1における枠部材20aと、バイポーラ電極BP2における枠部材20bとの間に、入れ子6および枠部材(スペーサ)20cを配置する。次に、特に図示しないが、図1と同様に、正極側端部電極CAおよび負極側端部電極ANを、それぞれセパレータ4を介して、バイポーラ電極BP1およびバイポーラ電極BP2に積層する。その後、積層された複数の枠部材を溶着することで、シール部材が形成される。このようにして、図6(b)に示すような、積層体10、シール部材20および入れ子αを有する構造体Vが得られる。構造体Vにおいて、入れ子αの一端t1は、構造体Vの内部(積層体10の内部)に位置し、入れ子αの他端t2は、構造体Vの外部の外部に位置している
【0038】
次に、図6(c)に示すように、シール部材20の側面SSに、注液枠30を配置する。注液枠30における注液口31は、入れ子αの他端t2と干渉しないように、配置される。例えば、注液枠30を、シール部材10の側面SSに溶着することにより、注液枠30を側面SSに固定してもよい。また、注液枠30は、例えば射出成形等の樹脂成形により、側面SSに配置してもよい。その後、図示しないが、入れ子αを引き抜くことで、図2に示す、発電部材EMが得られる。
【0039】
2.注液工程
本開示における注液工程は、上記発電部材における上記積層体に電解液を注液する工程であり、上記電解液の注液は、上記注液口を介して行われる。電解液の注液方法は、特に限定されず、例えば、注液装置を用いた公知の方法が用いられる。電解液は、注液口に導入され、貫通孔を介して、積層体に供給される。
【0040】
3.仮封止工程
本開示における仮封止工程は、上記注液工程後の上記発電部材を、仮封止部材を用いて仮封止する工程である。また、仮封止工程において、仮封止は上記注液枠の上記注液口に対して行う。
【0041】
仮封止部材は、注液口を仮封止でき、かつ、後述するガス抜き工程において、仮封止の解除および再度の仮封止を行える部材であれば特に限定されない。図4および図5は、仮封止部材の一例を示す概略断面図である。
【0042】
図4に示す仮封止部材40は、注液口を塞ぐ仮封止部41と、仮封止部41と接続され、かつ、積層体10の内部と連通しているガス経路部42と、ガス経路部42に配置された圧力計43およびバルブ44を有している。圧力計43は、バルブ43に対して仮封止部41側に位置する。また、図4に示すように、仮封止部41は、弾性部41a、金属部41bおよび接続部41cと、を有していてもよい。図4においてガス経路部42は、接続部41cにより仮封止部41と接続されている。図4に示す仮封止部材40は、例えば、ボルトで締め込むことで仮封止部41と注液枠30とを固定し、注液口31を塞ぐことができる。
【0043】
このような仮封止部材を用いることで、後述するガス抜き工程において、上記圧力計が測定した内圧に基づき、仮封止の解除および再度の仮封止を行うことができる。具体的には、バルブを閉めた状態で(発電部材を仮封止している状態で)、ガス抜き工程における充電またはエージングを行い、充電中またはエージング中に圧力計が測定した内圧が、第1閾値に到達した場合に上記バルブを開けることで上記仮封止を解除することができる。そして、仮封止の解除後、圧力計が測定した内圧が上記第1閾値よりも低い圧力である上記第2閾値に到達した場合に上記バルブを閉めることで再度の仮封止を行うことができる。
【0044】
図4に示すように、発電部材EMが複数の発電単位U(U1~U3)を有する場合、ガス経路部42は、通常、1つの注液口(1つの貫通孔)に対して1つ設けられる。この場合、発電単位ごとに、ガスの排出を個別管理することができる。一方、特に図示しないが、ガス経路、圧力計およびバルブは、全ての注液口に対して1つ設けられていてもよい。複数の発電単位のガスの排出を一括管理することができる。
【0045】
仮封止部における弾性部の材料は特に限定されないが、例えば樹脂製の部材である。樹脂としては、例えばゴムなどが挙げられる。金属部および接続部の材料については特に限定されない。ガス経路部は、内部にガスが排出される空間を有していれば特に限定されない。また、圧力計およびバルブについては、従来公知の部材とすることができる。
【0046】
また、仮封止部材は、注液口を塞ぎ、かつ、x軸方向に移動可能な仮封止部を有していてもよい。例えば、図5に示す仮封止部材40は、注液口を塞ぐ仮封止部41と、仮封止部41と接続されたピストン部45と、を有している。また、ピストン部45は、仮封止部41と接続されたロッド部45aと、筒部45bとを有している。図5に示す仮封止部41は、ピストン部45によるピストン運動により、x軸方向に移動可能となっている。仮封止工程においては、x軸方向において仮封止部を注液枠に押し付けることで、仮封止を行うことができる。
【0047】
このような仮封止部材を用いることでも、後述するガス抜き工程において、内圧に基づき、仮封止の解除および再度の仮封止を行うことができる。例えば、図5(a)および(b)に示す仮封止部材では、ピストン部45が、x軸方向においてピストン運動を行う。具体的には、ロッド部45aが筒部45bの内部においてx軸方向に移動する。これにより、図5(a)に示す状態(注液口が仮封止されている状態)から、仮封止部41がx軸方向(図面上方向)へ移動して注液枠31から引き離されることで、注液口の仮封止を解除できる(図5(b))。また、図5(b)に示す状態(注液口の仮封止が解除されている状態)から、仮封止部41がx軸方向(紙面上方向)へ移動して注液枠31に押し付けられることで、再度、注液口を仮封止できる(図5(a))。
【0048】
また、図5に示すような、仮封止部材がx軸方向において注液枠を押さえつけること、つまり、注液口に蓋をすること、で仮封止を行う仮封止部材であれば、発電部材と仮封止部材との正確な位置合わせを行う必要性が低く、より簡便に仮封止をすることができる。
【0049】
仮封止部材は、図5(a)、(b)に示すように、全ての注液口を塞ぐ1つの仮封止部を備えていてもよい。発電部材全体として、ガスの排出を一括管理することができる。一方、図示しないが、仮封止部材は、それぞれの注液口を個別に塞ぐ、複数の仮封止部を備えていてもよい。発電単位ごとに、ガスの排出を個別管理することができる。
【0050】
仮封止部材が、図5に示すような仮封止部およびピストン部を有する場合、仮封止部と、ピストン部におけるロッド部とは一体の部材であってもよい。一方、仮封止部とロッド部とは別体の部材であってもよい。ピストン部の材料としては特に限定されない。
【0051】
4.ガス抜き工程
本開示におけるガス抜き工程は、上記仮封止工程後の上記発電部材に対して充電またはエージングを行い、かつ、上記充電または上記エージングにより生じたガスを抜く工程である。
【0052】
充電またはエージングの条件は、特に限定されない。充電の条件については、例えばSOC(State of Charge)が50%以上になるまで充電してもよく、SOCが70%以上になるまで充電してもよく、SOCが90%以上になるまで充電してもよい。一方、エージング温度は、例えば、35℃以上、85℃以下であり、40℃以上、80℃以下であってもよい。また、エージング時間は、例えば、10時間以上、20時間以上である。
【0053】
また、本開示におけるガス抜き工程は、第1処理、第2処理、第3処理および第4処理を有する。第1処理から第4処理は、上記充電と同時に行ってもよく、上記エージングと同時に行ってもよい。
【0054】
(1)第1処理
第1処理は、上記発電単位の内圧が第1閾値に到達したか否かを判定する処理である。
【0055】
内圧が第1閾値に到達したか否かの判定は、実際に測定した内圧に基づいて行ってもよく、内圧の予測値に基づいて行ってもよい。前者の場合、例えば、図4に示したような、圧力計を備えた仮封止部材を用いて、圧力計により測定された内圧に基づき判定を行う。一方、後者の場合、充電またはエージングの時間および電池温度等の条件と、内圧との関係などを予備実験で確認し、予備実験の結果を参照して第1閾値に到達したか否かを判定してもよい。
【0056】
第1閾値は後述する第2閾値よりも高い圧力であれば特に限定されず、電池の耐圧強度に応じて適宜設定することができる。
【0057】
(2)第2処理
第2処理は、上記内圧が上記第1閾値に到達したと判定した場合に、上記仮封止を解除する処理である。
【0058】
例えば、図4に示したようなバルブ44を備えた仮封止部材40を用いた場合、第2処理はバルブ44を開ける処理である。
【0059】
また、図5に示したような、x軸方向に移動可能な仮封止部を備えた仮封止部材を用いた場合、第2処理は、x軸方向において仮封止部を注液枠から引き離す処理である。例えば、図5(a)に示された状態(仮封止されている状態)から、図5(b)に示すように、ピストン部45(ロッド部45a)が、ピストン運動によりx軸方向(紙面上側)に移動することで、ロッド部45aと接続された仮封止部41が注液枠30から引き離され、注液口31の仮封止を解除できる。
【0060】
(3)第3処理
第3処理は、上記第2処理後、上記内圧が上記第1閾値よりも低い圧力である第2閾値に到達したか否かを判定する処理である。第2閾値は適宜設定することができるが、大気圧であることが好ましい。
【0061】
第1処理同様、第3処理における判定は、図4に示したような、圧力計を備えた仮封止部材を用いて、圧力計により実際に測定された内圧に基づき行うことができる。また、第3処理における判定は、内圧の予測値に基づいて行ってもよい。
【0062】
(4)第4処理
第4処理は、上記内圧が上記第2閾値に到達したと判定した場合に、再度仮封止を行う処理である。
【0063】
例えば、図4に示したようなバルブ44を備えた仮封止部材40を用いた場合、第4処理はバルブ44を閉める処理である。
【0064】
また、図5に示したような、x軸方向に移動可能な仮封止部を備えた仮封止部材を用いた場合、第4処理は、x軸方向において仮封止部を注液枠に押し付ける処理である。例えば、図5(b)に示された状態(仮封止が解除された状態)から、図5(a)に示すように、ピストン部45(ロッド部45a)が、ピストン運動によりx軸方向(紙面下側)に移動することで、ロッド部45aと接続された仮封止部41が注液枠30に押し付けられ、注液口31を再度仮封止できる。
【0065】
(5)ガス抜き工程
ここで、通常、ガス抜き工程においては、上述した第1処理から第4処理を繰り返すこと、つまり、複数回のガス抜きを行うこと、が想定される。その場合において、ガス抜き工程後に十分量の電解液量を残存させるため、ガス抜き1回あたりの開放上限時間(仮封止を解除している時間)を設定することが好ましい。開放上限時間は、電解液および電極材料の種類、設計容量および残空間体積設計、ならびに耐圧設計などの各種条件に基づき算出されることが好ましい。
【0066】
例えば、ガス抜き1回あたりの開放上限時間(h/回数)は、下記数式1で算出することができる。数式1における開放許容時間およびガス抜き回数は、それぞれ、下記数式2および数式3で求めることができる。また、数式2における電解液揮発許容上限量、ならびに、数式3における初期残空間体積および耐圧強度については、設計する電池に応じて適宜設定される数値である。
【0067】
【数1】
【0068】
【数2】
【0069】
【数3】
【0070】
ここで、上記数式3における「ガス発生量」は、予備試験から算出することができる。予備試験としては、製造する電池と同じサイズの評価用電池にガスパックを備えてガスの発生量を測定する試験、および、小型電池などの評価用電池を用いた結果から、実際に製造するサイズの電池のガス発生量を算出する試験、を挙げることができる。また、上記数式3における「最大内圧」は、上述したガス発生量が得られた際の最大内圧を規定しており、上記評価用電池を、耐圧強度が製造する電池の耐圧強度よりも高くなるよう設計し、上述した予備試験を行い測定することができる。
【0071】
また、上記数式3における「初期残空間体積(L)」について、「初期」とは、電解液注液後であって、充電およびエージングを行う前の状態を意味する。また、初期残空間体積(L)は、発電部材の内部空間体積から、電極およびセパレータの体積と、電解液の注液量とを除いた体積をいう。なお、「発電部材の内部空間体積」とは発電部材を内包する密閉された体積を意味し、例えば、発電部材にガスパック、チューブおよびバルブなどを取り付けた場合、これらの部材の体積(内部の体積)も含まれる。
【0072】
また、充電温度(例えば5℃以上、35℃以下)およびエージング温度(例えば、40℃以上、85℃以下)で、温度が異なるため、電解液の蒸発速度および内圧上昇量(ガス発生量)も温度ごとに異なる。そのため、ガス抜き回数1回あたりの開放上限時間(h/回数)は、工程温度を考慮した下記数式4で求めることもできる。
【0073】
【数4】
【0074】
5.その他の工程
本開示における電池の製造方法においては、ガス抜き工程後の発電部材を本封止する、本封止工程を有していてもよい。
【0075】
本封止工程は、例えば注液枠から仮封止部材を分離し、次いで、注液枠をラミネートフィルムで覆い熱溶着することで、発電部材の内部と外部とを連通する注液口を封止する(注液口に蓋をする)方法を挙げることができる。また、本封止した発電部材および注液枠を、ラミネート外装体に収容してもよい。
【0076】
ここで、電池においては、上述のように発電部材をラミネート外装体で収容するラミネート電池が知られている。ラミネート電池では、発電部材を収容したラミネート外装体の端部に配置された溶融性樹脂の熱溶着により、発電部材を封止する。そのため、金属製のケース内に発電部材を収容および封止した、いわゆる角形電池と比べて、ガス発生による内圧上昇の影響を受けやすい。そのため、本開示における電池の製造方法は、ラミネート電池を製造する場合に、より好適に用いることができる。
【0077】
6.電池
本開示における電池は、上述のようにラミネート外装体で封止された、いわゆるラミネート電池であることが好ましい。また、電池の種類は、二次電池(例えばリチウムイオン二次電池)であることが好ましい。また、電池の用途としては、例えば、ハイブリッド車(HEV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)、電気自動車(BEV)、ガソリン自動車、ディーゼル自動車等の車両の電源が挙げられる。特に、ハイブリッド車(HEV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)または電気自動車(BEV)の駆動用電源に用いられることが好ましい。また、本開示における電池は、車両以外の移動体(例えば、鉄道、船舶、航空機)の電源として用いられてもよく、情報処理装置等の電気製品の電源として用いられてもよい。
【0078】
なお、本開示は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本開示における特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本開示における技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0079】
1 …集電体
2 …正極活物質層
3 …負極活物質層
4 …セパレータ
E …電極
U …発電単位
10 …積層体
20 …シール部材
30 …注液枠
40 …仮封止部材
EM …発電部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6