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  • 特開-電食防止転がり軸受 図1
  • 特開-電食防止転がり軸受 図2
  • 特開-電食防止転がり軸受 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024135786
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】電食防止転がり軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/78 20060101AFI20240927BHJP
   F16C 19/06 20060101ALI20240927BHJP
   F16J 15/3232 20160101ALI20240927BHJP
   F16J 15/324 20160101ALI20240927BHJP
【FI】
F16C33/78 Z
F16C19/06
F16J15/3232 201
F16J15/324
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023046653
(22)【出願日】2023-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000005197
【氏名又は名称】株式会社不二越
(74)【代理人】
【識別番号】100120400
【弁理士】
【氏名又は名称】飛田 高介
(74)【代理人】
【識別番号】100124110
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 大介
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 孝一
(72)【発明者】
【氏名】岡島 正和
(72)【発明者】
【氏名】居島 啓一
【テーマコード(参考)】
3J006
3J043
3J216
3J701
【Fターム(参考)】
3J006AD02
3J006AE12
3J006AE16
3J006AE30
3J006AE34
3J006AE42
3J006CA01
3J043AA16
3J043CA02
3J043CA04
3J043CB13
3J043CB24
3J043DA01
3J043HA01
3J216AA02
3J216AA12
3J216AB02
3J216BA19
3J216CA02
3J216CA05
3J216CB03
3J216CB12
3J216CC03
3J216CC16
3J216CC33
3J216CC39
3J216CC42
3J216DA09
3J216DA18
3J216EA01
3J216GA03
3J701AA02
3J701AA32
3J701AA42
3J701AA52
3J701AA62
3J701BA73
3J701EA72
3J701FA11
3J701FA60
3J701GA01
(57)【要約】
【課題】潤滑油による導電性グリースの流出を好適に防ぐことができ、長期的に安定した導電性能を得ることが可能な電食防止転がり軸受を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明にかかる電食防止転がり軸受(軸受100)の構成は、外輪102と、内輪104と、外輪と内輪との間を封止する導電性の第1シール110と、第1シールよりも軸方向で外側に配置されて外輪と内輪との間を封止する導電性の第2シール120と、第1シールまたは第2シールの一方に形成されて他方に接触する隆起環(第1隆起環118、第2隆起環128)と、隆起環と第1シールおよび第2シールのリップによって囲まれるグリース室130と、グリース室に封入された導電性グリース140と、第1シールおよび第2シールの両方に形成されグリース室を通らない位置を貫通するブリーザー152・154とを備えたことを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外輪と、
内輪と、
前記外輪と前記内輪との間を封止する導電性の第1シールと、
前記第1シールよりも軸方向で外側に配置されて前記外輪と前記内輪との間を封止する導電性の第2シールと、
前記第1シールまたは前記第2シールの一方に形成されて他方に接触する隆起環と、
前記隆起環と前記第1シールおよび前記第2シールのリップによって囲まれるグリース室と、
前記グリース室に封入された導電性グリースと、
前記第1シールおよび前記第2シールの両方に形成され前記グリース室を通らない位置を貫通するブリーザーとを備えたことを特徴とする電食防止転がり軸受。
【請求項2】
前記第1シールおよび前記第2シールは、前記リップとは反対側に前記外輪または前記内輪への固定縁をそれぞれ有し、
前記ブリーザーは前記固定縁に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の電食防止転がり軸受。
【請求項3】
前記第2シールの内径は前記第1シールの内径よりも小さく、
前記第2シールの外径は前記第1シールの外径よりも大きいことを特徴とする請求項1または2に記載の電食防止転がり軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電食防止対策に有効な電食防止転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、EV車(electric car)やHV車(hybrid car)等の開発の進展もあり、一台の自動車に搭載される高電圧部品の数が増加しつつある。この高電圧部品の電流が軸受に通電すると、軸受の転動体の表面、外輪や内輪の軌道面に電食が生じてしまい、損傷の一因となる。電食を防止する手段としては、軸に接触する導電ブラシや、導電性シール、導電グリースを用いる方法が広く知られている。
【0003】
例えば特許文献1には、「外輪、内輪、転動体、および外輪の内周面と内輪の外周面との間に存在して各転動体を設置した軸受内部空間の端部開口を塞ぐ為の円輪状のシールリング」を備えた通電式転がり軸受が開示されている。特許文献1では、「シールリングの内外両周縁のうち、一方の周縁を、上記内輪の端部と上記外輪の端部とのうちの一方の端部に全周に亙って係止すると共に、他方の周縁を、上記内輪の端部と上記外輪の端部とのうちの他方の端部の表面に全周に亙って摺接させ」、更に上記外輪と上記内輪とを電気的に導通させている。
【0004】
また特許文献1の通電式転がり軸受では、「シールリングを導電性のものとすると共に、このシールリングの上記他方の周縁と、この他方の周縁が摺接する、上記他方の端部の表面との間に、常温溶融塩、又は、この常温溶融塩を基油とした導電性潤滑剤を介在させた」構成としている。すなわち特許文献1の通電式転がり軸受では、シールリングのシールリップの先端部に導電性潤滑材いわゆる導電性グリースを封入している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009-264401号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のように導電性のシールリングおよび導電性グリースを併せて用いることにより、一方のみを用いる場合に比して良好な導電性能を得ることができる。しかしながら特許文献1の構成であると、軸受の回転時(特に高速回転時)に軸受の潤滑油によってシールリップに油圧がかかると、シールリップが保持している導電性グリースが潤滑油によって流されてしまう。すると導電性が低下してくるため、長期的に安定した効果を得ることが難しくなる。
【0007】
本発明は、このような課題に鑑み、潤滑油による導電性グリースの流出を好適に防ぐことができ、長期的に安定した導電性能を得ることが可能な電食防止転がり軸受を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明にかかる電食防止転がり軸受の代表的な構成は、外輪と、内輪と、外輪と内輪との間を封止する導電性の第1シールと、第1シールよりも軸方向で外側に配置されて外輪と内輪との間を封止する導電性の第2シールと、第1シールまたは第2シールの一方に形成されて他方に接触する隆起環と、隆起環と第1シールおよび第2シールのリップによって囲まれるグリース室と、グリース室に封入された導電性グリースと、第1シールおよび第2シールの両方に形成されグリース室を通らない位置を貫通するブリを備えたことを特徴とする。
【0009】
上記第1シールおよび第2シールは、リップとは反対側に外輪または内輪への固定縁をそれぞれ有し、ブリーザーは固定縁に形成されているとよい。
【0010】
上記第2シールの内径は第1シールの内径よりも小さく、第2シールの外径は第1シールの外径よりも大きいとよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、潤滑油による導電性グリースの流出を好適に防ぐことができ、長期的に安定した導電性能を得ることが可能な電食防止転がり軸受を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本実施形態にかかる電食防止転がり軸受を説明する図である。
図2図1の第1シールおよび第2シールの全体斜視図である。
図3】本実施形態の電食防止転がり軸受の他の実施例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示または説明を省略する。
【0014】
図1は、本実施形態にかかる電食防止転がり軸受(以下、軸受100と称する)を説明する図である。図2は、図1の第1シール110および第2シール120の全体斜視図である。図1において径方向をJ1、軸方向をJ2で示している。なお理解を容易にするために、図2では、第1シール110および第2シール120の一部を切り取った断面を図示している。
【0015】
図1に示すように本実施形態の軸受100は、外輪102、内輪104、転動体106および保持器108を備えた単列の深溝玉軸受である。本実施形態では、転動体106は一列の玉であり、かかる転動体106は保持器108によって保持されている。
【0016】
外輪102と内輪104との間は、第1シール110、および第1シール110よりも軸方向で外側に配置された第2シール120によって封止されている。第1シール110は、芯金112、第1リップ114、第1固定縁116および第1隆起環118を有する。第2シール120は、芯金122、第2リップ124、第2固定縁126および第2隆起環128を有する。
【0017】
芯金112・122は、導電性を有する金属板からなり、第1シール110および第2シール120を保持する。また第1シール110および第2シール120はともに導電性を有する。これにより、第1シール110および第2シール120によって外輪102および内輪104が電気的に接続され、導電回路が形成される。
【0018】
図1および図2に示すように、第1シール110は内輪104側の端部に第1リップ114を有し、外輪102側(第1リップ114の反対側)の端部に第1固定縁116を有する。第2シール120も同様に、内輪104側の端部に第2リップ124を有し、外輪102側(第2リップ124の反対側)の端部に第2固定縁126を有する。
【0019】
第1シール110および第2シール120は、第1固定縁116および第2固定縁126において外輪102に固定され、第1リップ114および第2リップ124において内輪104に当接する。これにより、外輪102と内輪104との間が封止され、それらの間への異物の侵入を好適に防ぐことができる。
【0020】
また第1シール110には、第2シール120に向かって軸方向J2に突出して第2シール120に接触する第1隆起環118が形成されている。第2シール120には、第1シール110に向かって軸方向J2に突出して第1シール110に接触する第2隆起環128が形成されている。
【0021】
本実施形態の軸受100では、第2隆起環128、第1リップ114および第2リップ124によって囲まれたグリース室130が形成されていて、このグリース室130に導電性グリース140が封入される。
【0022】
本実施形態の軸受100の特徴として、第1シール110および第2シール120には、グリース室130を通らない位置を貫通するブリーザー152・154(貫通穴)がそれぞれ形成されている。具体的には図1および図2に示すように、第1シール110の第1固定縁116および第2シール120の第2固定縁126それぞれにブリーザー152・154が形成されている。
【0023】
上記構成によれば、軸受100の内部に流れ込んだ潤滑油は、ブリーザー152・154を通じて軸受100の外部に排出される。これにより、重力により下部のブリーザーから油が流れでるため、グリース室への潤滑油の流入を好適に防ぐことができる。これらにより、潤滑油による導電性グリース140の流出を好適に防ぐことができ、長期的に安定した導電性能を得ることが可能となる。
【0024】
また図2に示すように本実施形態の軸受100では、第2シール120の内径D3は第1シール110の内径D1よりも小さく、第2シール120の外径D4は第1シール110の外径D2よりも大きく設定されている。これにより組付け時のリップ干渉量を適切なものとし、組付作業を効率的に行うことが可能となる。
【0025】
なお図1では、第1シール110および第2シール120のそれぞれに隆起環を形成する構成を例示したが、これに限定するものではない。図3は、本実施形態の電食防止転がり軸受の他の実施例を説明する図である。図3(a)に例示する電食防止転がり軸受(以下、軸受100aと称する)、および図3(b)に例示する電食防止転がり軸受(以下、軸受100bと称する)において、図1の軸受100と実質的に同一の構成要素については、同一の符号を付すことにより説明を省略する。
【0026】
図3(a)に例示する軸受100aでは、第2シール120にのみ第2隆起環128が形成されていて、「第2隆起環128、第1リップ114および第2リップ124」によってグリース室130aが形成されている。図3(b)に例示する軸受100bでは、第1シール110にのみ第1隆起環としてサイドリップ118aが形成されていて、「第1隆起環(サイドリップ118a)、第1リップ114および第2リップ124」によってグリース室130bが形成されている。
【0027】
図3(a)に例示する軸受100a、および図3(b)に例示する軸受100bのように、隆起環は、グリース室の形成に用いられるシールにのみ設けられていればよい。このような構成によっても図1に示す軸受100と同様の効果を得ることが可能となる。
【0028】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施例について説明したが、本発明は斯かる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明は、電食防止対策に有効な電食防止転がり軸受として利用することができる。
【符号の説明】
【0030】
J1…径方向、D1…内径、J2…軸方向、D2…外径、D3…内径、D4…外径、100…軸受、100a…軸受、100b…軸受、102…外輪、104…内輪、104a…外径面、106…転動体、108…保持器、110…第1シール、112…芯金、114…第1リップ、116…第1固定縁、118…第1隆起環、120…第2シール、122…芯金、124…第2リップ、126…第2固定縁、128…第2隆起環、130…グリース室、130a…グリース室、130b…グリース室、140…導電性グリース、152…ブリーザー、154…ブリーザー
図1
図2
図3