(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024135804
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】チェーンテンショナ
(51)【国際特許分類】
F16H 7/08 20060101AFI20240927BHJP
F02B 67/06 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
F16H7/08 B
F02B67/06 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023046675
(22)【出願日】2023-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(72)【発明者】
【氏名】宋 元霜
(72)【発明者】
【氏名】鬼丸 好一
【テーマコード(参考)】
3J049
【Fターム(参考)】
3J049AA08
3J049BB02
3J049BB13
3J049BB23
3J049BB26
3J049BB35
3J049CA02
(57)【要約】
【課題】圧力室と貯油室の間を隔てる隔壁部材に並列に組み込まれるチェックバルブとリリーフバルブのサイズを確保することが容易なチェーンテンショナを提供する。
【解決手段】隔壁部材13が、プランジャ10と軸方向に直列に配置され、隔壁部材13の外周とシリンダ9の内周との間にリーク隙間23が形成されるように、隔壁部材13の外周には、シリンダ9の内周と摺動する摺動円筒面21が設けられている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向の一端を閉塞端とし、軸方向の他端を開口端とする筒状のシリンダ(9)と、
前記シリンダ(9)に軸方向に摺動可能に挿入され、前記シリンダ(9)内への挿入端が開口し、前記シリンダ(9)からの突出端が閉塞した筒状のプランジャ(10)と、
前記シリンダ(9)と前記プランジャ(10)とで囲まれる領域を、前記シリンダ(9)の側の圧力室(14)と前記プランジャ(10)の側の貯油室(15)とに隔てるように、前記プランジャ(10)の前記シリンダ(9)内への挿入端に固定して設けられた隔壁部材(13)と、
前記シリンダ(9)の外側から供給されるオイルを前記貯油室(15)に導入する給油通路(30)と、
前記隔壁部材(13)を軸方向に貫通して形成された油導入孔(16)と、
前記油導入孔(16)に設けられたチェックバルブ(18)と、
前記油導入孔(16)と並列に前記隔壁部材(13)を軸方向に貫通して形成されたリリーフ孔(17)と、
前記リリーフ孔(17)に設けられたリリーフバルブ(19)と、
前記プランジャ(10)が前記シリンダ(9)に押し込まれる方向に移動するときに前記圧力室(14)からオイルをリークさせるリーク隙間(23)と、を有し、
前記給油通路(30)は、前記圧力室(14)から前記リーク隙間(23)を通ってリークしたオイルが前記給油通路(30)に戻るように前記リーク隙間(23)の出口側端部と接続して設けられているチェーンテンショナにおいて、
前記隔壁部材(13)が、前記プランジャ(10)と軸方向に直列に配置され、
前記隔壁部材(13)の外周には、前記隔壁部材(13)の外周と前記シリンダ(9)の内周との間に前記リーク隙間(23)が形成されるように、前記シリンダ(9)の内周と摺動する摺動円筒面(21)が設けられていることを特徴とするチェーンテンショナ。
【請求項2】
前記プランジャ(10)は、軸線まわりに回転しないように前記シリンダ(9)に対して回り止めされ、
前記シリンダ(9)は、前記プランジャ(10)の軸方向が上下方向に交差する向きとなるようにエンジン壁面に取り付けられ、
前記リリーフ孔(17)が、前記隔壁部材(13)の上側部分に配置され、
前記油導入孔(16)が、前記隔壁部材(13)の下側部分に配置されている請求項1に記載のチェーンテンショナ。
【請求項3】
前記隔壁部材(13)の外周に、前記摺動円筒面(21)に対して前記プランジャ(10)の側に隣接して、前記摺動円筒面(21)よりも小さい外径をもつ小径外周面(22)が設けられ、
前記シリンダ(9)の内周と前記小径外周面(22)との間に、前記リーク隙間(23)よりも大きい径方向寸法をもつ拡大隙間部(24)が形成され、
前記隔壁部材(13)に、前記拡大隙間部(24)と前記リリーフ孔(17)の間を連通する径方向孔(25)が形成され、
前記給油通路(30)は、前記シリンダ(9)の外側から供給されるオイルを、前記拡大隙間部(24)と前記径方向孔(25)と前記リリーフ孔(17)とを通って前記貯油室(15)に導入するように構成されている請求項1または2に記載のチェーンテンショナ。
【請求項4】
前記リリーフバルブ(19)は、リリーフバルブ(19)が閉弁しているときに、前記圧力室(14)内の空気を前記径方向孔(25)に逃がすエア抜き用のオリフィス通路(42)を有する請求項3に記載のチェーンテンショナ。
【請求項5】
前記隔壁部材(13)の前記プランジャ(10)の側の軸方向端部が、前記プランジャ(10)の前記シリンダ(9)内への挿入端に圧入または溶接により固定されている請求項1または2に記載のチェーンテンショナ。
【請求項6】
前記リリーフバルブ(19)は、前記圧力室(14)から流出するオイルが通過する弁孔(36)をもつバルブシート(37)と、前記バルブシート(37)に前記圧力室(14)の側とは反対側から着座する弁体(38)と、前記弁体(38)を前記圧力室(14)の側に向けて押圧するバルブスプリング(39)と、前記バルブスプリング(39)を支持するスプリングシート(46)とを有し、
前記バルブシート(37)と前記弁体(38)と前記バルブスプリング(39)と前記スプリングシート(46)とが、あらかじめ一体に組み立てた状態で前記リリーフ孔(17)に挿入することができるようにアセンブリを構成している請求項1または2に記載のチェーンテンショナ。
【請求項7】
前記チェックバルブ(18)は、前記圧力室(14)に流入するオイルが通過する弁孔(43)をもつバルブシート(32)と、前記バルブシート(32)に前記圧力室(14)の側から着座する弁体(33)と、前記弁体(33)を前記圧力室(14)の側とは反対側に向けて押圧するバルブスプリング(34)と、前記バルブスプリング(34)を支持するスプリングシート(35)とを有し、
前記バルブシート(32)と前記弁体(33)と前記バルブスプリング(34)と前記スプリングシート(35)とが、あらかじめ一体に組み立てた状態で前記油導入孔(16)に挿入することができるようにアセンブリを構成している請求項1または2に記載のチェーンテンショナ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、チェーンの張力保持に用いられるチェーンテンショナに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等のエンジンに使用されるチェーン伝動装置として、例えば、クランクシャフトの回転をカムシャフトに伝達するものや、クランクシャフトの回転をオイルポンプやウォーターポンプやスーパーチャージャー等の補機に伝達するものや、クランクシャフトの回転をバランサシャフトに伝達するものや、ツインカムエンジンの吸気カムと排気カムを互いに連結するものなどがある。これらのチェーン伝動装置のチェーンの張力を適正範囲に保つために、チェーンテンショナが使用される。
【0003】
このような用途に使用されるチェーンテンショナとして、本願の発明者は、特許文献1のものを提案している。特許文献1のチェーンテンショナは、軸方向の一端を閉塞端とし、軸方向の他端を開口端とする筒状のシリンダと、シリンダに軸方向に摺動可能に挿入されたプランジャと、プランジャをシリンダから突出する方向に付勢するリターンスプリングと、シリンダとプランジャとで囲まれる領域を、シリンダの側の圧力室とプランジャの側の貯油室とに隔てるように、プランジャのシリンダ内への挿入端に挿入して固定された隔壁部材と、シリンダの外側から供給されるオイルを貯油室に導入する給油通路と、隔壁部材を軸方向に貫通して形成された油導入孔と、油導入孔に設けられたチェックバルブと、プランジャの外周とシリンダの内周との間に形成されたリーク隙間とを有する。
【0004】
この特許文献1のチェーンテンショナは、エンジン作動中にチェーンの張力が大きくなると、そのチェーンの張力によって、プランジャがシリンダに押し込まれる方向に移動し、チェーンの緊張を吸収する。このとき、圧力室からリーク隙間を通って流出するオイルの粘性抵抗によってダンパ力が発生するので、プランジャはゆっくりと移動する。
【0005】
一方、エンジン作動中にチェーンの張力が小さくなると、リターンスプリングの付勢力と圧力室内のオイルの圧力とによって、プランジャがシリンダから突出する方向に移動し、チェーンの弛みを吸収する。このとき、チェックバルブが開き、貯油室から圧力室内にオイルが流入するので、プランジャは速やかに移動する。
【0006】
また、特許文献1のチェーンテンショナは、オイル消費量を低減するため、圧力室からリーク隙間を通ってリークしたオイルが給油通路に戻るように、給油通路がリーク隙間の出口側端部に接続して設けられている。そのため、チェーンテンショナから外部に排出されるオイルの量が少なく、チェーンテンショナでのオイル消費量を抑えることが可能となっている。
【0007】
また、特許文献1のチェーンテンショナは、低回転域と高回転域の両方において最適なダンパ力を得るため、圧力室と貯油室の間を隔てる隔壁部材に、油導入孔(チェックバルブが設けられた孔)と並列に軸方向に貫通するリリーフ孔が形成され、そのリリーフ孔に、圧力室内の圧力が予め設定した圧力よりも大きくなったときに開弁して圧力室から貯油室にオイルを逃がすリリーフバルブが設けられている。このリリーフバルブを設けることにより、エンジンの高回転域において、リーク隙間によるダンパ力が過大となるのを防ぎ、その結果、低回転域と高回転域の両方において最適なダンパ力を得ることが可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、特許文献1のチェーンテンショナは、圧力室と貯油室の間を隔てる隔壁部材をプランジャのシリンダ内への挿入端に挿入し、その隔壁部材にチェックバルブとリリーフバルブとを並列に組み込んだ構成なので、チェックバルブとリリーフバルブのサイズを確保することが難しいという問題がある。
【0010】
すなわち、チェックバルブとリリーフバルブを大きくするためには、そのチェックバルブとリリーフバルブとを隔壁部材に並列に組み込むことができるようにするため、隔壁部材の外径を大きく設定する必要がある。一方、隔壁部材をプランジャのシリンダ内への挿入端に挿入することができるように、隔壁部材の外径は、プランジャの厚さの分、プランジャの外径よりも小さくする必要がある。そのため、チェックバルブとリリーフバルブのサイズを確保することが難しいという問題に本願の発明者らは着眼した。
【0011】
この発明が解決しようとする課題は、圧力室と貯油室の間を隔てる隔壁部材に並列に組み込まれるチェックバルブとリリーフバルブのサイズを確保することが容易なチェーンテンショナを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、この発明では、以下の構成のチェーンテンショナを提供する。
[構成1]
軸方向の一端を閉塞端とし、軸方向の他端を開口端とする筒状のシリンダと、
前記シリンダに軸方向に摺動可能に挿入され、前記シリンダ内への挿入端が開口し、前記シリンダからの突出端が閉塞した筒状のプランジャと、
前記シリンダと前記プランジャとで囲まれる領域を、前記シリンダの側の圧力室と前記プランジャの側の貯油室とに隔てるように、前記プランジャの前記シリンダ内への挿入端に固定して設けられた隔壁部材と、
前記シリンダの外側から供給されるオイルを前記貯油室に導入する給油通路と、
前記隔壁部材を軸方向に貫通して形成された油導入孔と、
前記油導入孔に設けられたチェックバルブと、
前記油導入孔と並列に前記隔壁部材を軸方向に貫通して形成されたリリーフ孔と、
前記リリーフ孔に設けられたリリーフバルブと、
前記プランジャが前記シリンダに押し込まれる方向に移動するときに前記圧力室からオイルをリークさせるリーク隙間と、を有し、
前記給油通路は、前記圧力室から前記リーク隙間を通ってリークしたオイルが前記給油通路に戻るように前記リーク隙間の出口側端部と接続して設けられているチェーンテンショナにおいて、
前記隔壁部材が、前記プランジャと軸方向に直列に配置され、
前記隔壁部材の外周には、前記隔壁部材の外周と前記シリンダの内周との間に前記リーク隙間が形成されるように、前記シリンダの内周と摺動する摺動円筒面が設けられていることを特徴とするチェーンテンショナ。
【0013】
この構成を採用すると、隔壁部材の外周がシリンダの内周と摺動するように、隔壁部材がプランジャと軸方向に直列に配置されているので、隔壁部材の外径を、プランジャの厚さの分、プランジャの外径よりも小さくする必要がなく、隔壁部材の外径を大きく設定することができる。そのため、隔壁部材に並列に組み込まれるチェックバルブとリリーフバルブのサイズを確保することが容易である。
【0014】
[構成2]
前記プランジャは、軸線まわりに回転しないように前記シリンダに対して回り止めされ、
前記シリンダは、前記プランジャの軸方向が上下方向に交差する向きとなるようにエンジン壁面に取り付けられ、
前記リリーフ孔が、前記隔壁部材の上側部分に配置され、
前記油導入孔が、前記隔壁部材の下側部分に配置されている構成1に記載のチェーンテンショナ。
【0015】
この構成を採用すると、圧力室のオイルに空気が混入することによるダンパ力の低下を効果的に防止することができる。すなわち、圧力室と貯油室の間を隔てる隔壁部材の上側部分にリリーフ孔が配置されているので、リリーフ孔のリリーフバルブが開弁して圧力室からオイルが流出するときに、圧力室の上部に溜まった空気をオイルと一緒に効果的に排出することができる。また、圧力室と貯油室の間を隔てる隔壁部材の下側部分に油導入孔が配置されているので、油導入孔のチェックバルブが開弁して貯油室から圧力室にオイルが流入するときに、貯油室の上部に溜まった空気が圧力室に流入しにくい。そのため、圧力室のオイルに空気が混入しにくく、ダンパ力の低下を効果的に防止することができる。
【0016】
[構成3]
前記隔壁部材の外周に、前記摺動円筒面に対して前記プランジャの側に隣接して、前記摺動円筒面よりも小さい外径をもつ小径外周面が設けられ、
前記シリンダの内周と前記小径外周面との間に、前記リーク隙間よりも大きい径方向寸法をもつ拡大隙間部が形成され、
前記隔壁部材に、前記拡大隙間部と前記リリーフ孔の間を連通する径方向孔が形成され、
前記給油通路は、前記シリンダの外側から供給されるオイルを、前記拡大隙間部と前記径方向孔と前記リリーフ孔とを通って前記貯油室に導入するように構成されている構成1または2に記載のチェーンテンショナ。
【0017】
この構成を採用すると、隔壁部材を軸方向に貫通して形成されたリリーフ孔が、隔壁部材に形成された径方向孔を介して拡大隙間部に連通しているので、リリーフバルブが開弁したときに、そのリリーフバルブを通って圧力室からオイルと一緒に排出される空気が、径方向孔を通って拡大隙間部に排出される。そのため、リリーフバルブを通ってオイルと一緒に排出される空気が、貯油室に混入するのを防止することができる。
【0018】
[構成4]
前記リリーフバルブは、リリーフバルブが閉弁しているときに、前記圧力室内の空気を前記径方向孔に逃がすエア抜き用のオリフィス通路を有する構成3に記載のチェーンテンショナ。
【0019】
この構成を採用すると、リリーフバルブが開弁していないときにも、圧力室のオイルに混入した空気をエア抜き用のオリフィス通路を介して圧力室から径方向孔に排出することが可能となる。
【0020】
[構成5]
前記隔壁部材の前記プランジャの側の軸方向端部が、前記プランジャの前記シリンダ内への挿入端に圧入または溶接により固定されている構成1から4のいずれかに記載のチェーンテンショナ。
【0021】
この構成を採用すると、隔壁部材のプランジャのシリンダ内への挿入端への固定を確実に行なうことができる。
【0022】
[構成6]
前記リリーフバルブは、前記圧力室から流出するオイルが通過する弁孔をもつバルブシートと、前記バルブシートに前記圧力室の側とは反対側から着座する弁体と、前記弁体を前記圧力室の側に向けて押圧するバルブスプリングと、前記バルブスプリングを支持するスプリングシートとを有し、
前記バルブシートと前記弁体と前記バルブスプリングと前記スプリングシートとが、あらかじめ一体に組み立てた状態で前記リリーフ孔に挿入することができるようにアセンブリを構成している構成1から5のいずれかに記載のチェーンテンショナ。
【0023】
この構成を採用すると、リリーフバルブを隔壁部材に組み付ける前に、あらかじめリリーフバルブの構成部品を一体に組み立て、それをリリーフ孔に挿入することができるので、リリーフバルブの組み立て作業が容易となる。
【0024】
[構成7]
前記チェックバルブは、前記圧力室に流入するオイルが通過する弁孔をもつバルブシートと、前記バルブシートに前記圧力室の側から着座する弁体と、前記弁体を前記圧力室の側とは反対側に向けて押圧するバルブスプリングと、前記バルブスプリングを支持するスプリングシートとを有し、
前記バルブシートと前記弁体と前記バルブスプリングと前記スプリングシートとが、あらかじめ一体に組み立てた状態で前記油導入孔に挿入することができるようにアセンブリを構成している構成1から6のいずれかに記載のチェーンテンショナ。
【0025】
この構成を採用すると、チェックバルブを隔壁部材に組み付ける前に、あらかじめチェックバルブの構成部品を一体に組み立て、それを油導入孔に挿入することができるので、チェックバルブの組み立て作業が容易となる。
【発明の効果】
【0026】
この発明のチェーンテンショナは、隔壁部材の外周がシリンダの内周と摺動するように、隔壁部材がプランジャと軸方向に直列に配置されているので、隔壁部材の外径を、プランジャの外径よりもプランジャの厚さの分、小さくする必要がなく、隔壁部材の外径を大きく設定することができる。そのため、隔壁部材に並列に組み込まれるチェックバルブとリリーフバルブのサイズを確保することが容易である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】この発明の第1実施形態のチェーンテンショナを組み込んだチェーン伝動装置を示す図
【
図4】
図3に示すリリーフバルブが閉弁している状態で、圧力室のオイルに混入した空気がオリフィス通路を通って径方向孔に排出される状態を示す図
【
図5】この発明の第2実施形態のチェーンテンショナを
図3に対応して示す図
【
図8】
図5に示すリリーフバルブとチェックバルブを隔壁部材に組み込む前の状態を示す分解斜視図
【
図9】この発明の第3実施形態のチェーンテンショナを
図3に対応して示す図
【
図10】
図9のチェックバルブのバルブシートを示す斜視図
【
図11】この発明の第4実施形態のチェーンテンショナを
図3に対応して示す図
【発明を実施するための形態】
【0028】
図1に、この発明の第1実施形態のチェーンテンショナ1を組み込んだチェーン伝動装置を示す。このチェーン伝動装置は、エンジンのクランクシャフト2に固定されたスプロケット3と、カムシャフト4に固定されたスプロケット5とがチェーン6を介して連結されており、そのチェーン6がクランクシャフト2の回転をカムシャフト4に伝達し、そのカムシャフト4の回転により燃焼室のバルブ(図示せず)の開閉を行なう。
【0029】
エンジンが作動しているときのクランクシャフト2の回転方向は一定(図では右回転)であり、このときチェーン6は、クランクシャフト2の回転に伴ってスプロケット3に引き込まれる側(図の右側)の部分が張り側となり、スプロケット3から送り出される側(図の左側)の部分が弛み側となる。そして、チェーン6の弛み側の部分には、支点軸7を中心として揺動可能に支持されたチェーンガイド8が接触している。チェーンテンショナ1は、チェーンガイド8を介してチェーン6を押圧している。
【0030】
図2に示すように、チェーンテンショナ1は、軸方向の一端を閉塞端とし、軸方向の他端を開口端とする筒状のシリンダ9と、シリンダ9に軸方向に摺動可能に挿入されたプランジャ10とを有する。プランジャ10のシリンダ9からの突出端はチェーンガイド8を押圧している。
【0031】
プランジャ10は、プランジャ10の軸線まわりに回転しないようにシリンダ9に対して回り止めされた状態で、シリンダ9に対して軸方向に移動可能とされている。プランジャ10の回り止めは、プランジャ10のシリンダ9からの突出端とチェーンガイド8との接触面間に、プランジャ10を回り止めする回り止め係合部(図示せず)を設けることで行なうことができる。プランジャ10を回り止めする回り止め係合部は、プランジャ10のシリンダ9内への挿入部分の外周とシリンダ9の内周との嵌合面間に設けてもよい。
【0032】
シリンダ9は、金属(例えばアルミ合金)で一体成形されている。シリンダ9の内周は、内径が一定の円筒面である。シリンダ9は、シリンダ9の外周に一体に形成された複数の取り付け片11にボルト12(
図1参照)を締め込むことによって、上下に延びるエンジン壁面(図示せず)に固定されている。また、シリンダ9は、プランジャ10の軸方向が上下方向と交差する向き(図では水平方向)となるようにエンジン壁面に取り付けられている。エンジン壁面は、エンジンブロックの側面である。
【0033】
プランジャ10は、プランジャ10のシリンダ9内への挿入端が開口し、プランジャ10のシリンダ9からの突出端が閉塞した筒状に形成されている。プランジャ10の材質は、金属(例えば鋼材)である。プランジャ10は樹脂材で形成してもよい。
【0034】
プランジャ10のシリンダ9内への挿入端には、隔壁部材13が固定されている。隔壁部材13は、シリンダ9とプランジャ10とで囲まれる領域を、シリンダ9の側の圧力室14とプランジャ10の側の貯油室15とに隔てている。圧力室14は、シリンダ9と隔壁部材13とで囲まれた領域である。プランジャ10がシリンダ9から突出する側に軸方向移動するとき、圧力室14の容積は拡大し、プランジャ10がシリンダ9内に押し込まれる側に軸方向移動するとき、圧力室14の容積は縮小する。一方、貯油室15は、プランジャ10と隔壁部材13とで囲まれた領域である。プランジャ10が軸方向移動するとき、貯油室15の容積は変化しない。
【0035】
隔壁部材13は、プランジャ10と軸方向に直列に配置され、隔壁部材13のプランジャ10の側(図では右側)の軸方向端部が、プランジャ10のシリンダ9内への挿入端に圧入または溶接により固定されている。圧入は、単に締め代をもって挿入する圧入方法のほか、両者の間に通電して接触部分に抵抗熱を発生させながら圧入する方法(圧入接合法)を採用することもできる。隔壁部材13は、金属または樹脂材で形成することができる。
【0036】
隔壁部材13には、隔壁部材13を軸方向に貫通する油導入孔16と、油導入孔16と並列に隔壁部材13を軸方向に貫通するリリーフ孔17とが形成されている。リリーフ孔17は、隔壁部材13の上側部分を軸方向に延びる断面丸形の孔である。油導入孔16は、隔壁部材13の下側部分を軸方向に延びる断面丸形の孔である。リリーフ孔17と油導入孔16は、リリーフ孔17が上側、油導入孔16が下側となるように上下に平行に隔壁部材13を貫通している。
【0037】
油導入孔16には、圧力室14の側から貯油室15の側へのオイルの流れを制限し、貯油室15の側から圧力室14の側へのオイルの流れのみを許容するチェックバルブ18が設けられている。一方、リリーフ孔17には、圧力室14内の圧力が予め設定した圧力よりも大きくなったときに開弁して圧力室14からオイルを逃がすリリーフバルブ19が設けられている。
【0038】
圧力室14には、リターンスプリング20が組み込まれている。リターンスプリング20は、金属製の線材を螺旋状に巻回した圧縮コイルばねである。リターンスプリング20は、一端がシリンダ9の閉塞端で支持され、他端が隔壁部材13を介してプランジャ10を軸方向に押圧し、その押圧によって、プランジャ10をシリンダ9から突出する方向に付勢している。
【0039】
図3に示すように、隔壁部材13の外周には、シリンダ9の内周と摺動する摺動円筒面21と、摺動円筒面21に対してプランジャ10の側(図では右側)に隣接する小径外周面22とが形成されている。摺動円筒面21とシリンダ9の内周との間には、リーク隙間23が形成されている。リーク隙間23は、プランジャ10がシリンダ9に押し込まれる方向に移動するときに、圧力室14からオイルをリークさせる隙間であり、例えば、半径方向の幅が0.015~0.080mmの範囲に設定された円筒状の微小隙間である。
【0040】
小径外周面22は、摺動円筒面21よりも小さい外径をもつ円筒面である。小径外周面22とシリンダ9の内周との間には、リーク隙間23よりも大きい径方向寸法をもつ拡大隙間部24が形成されている。拡大隙間部24の軸方向長さは、チェーン6(
図1参照)の経時延びに対するプランジャ10の移動ストロークよりも長く設定され、例えば10mm以上に設定される。隔壁部材13の上側部分には、拡大隙間部24とリリーフ孔17の間を連通する径方向孔25が形成されている。
【0041】
図2に示すように、プランジャ10の外周には、シリンダ9の内周と摺接するプランジャ外周面26が形成されている。プランジャ外周面26は、隔壁部材13の外周の摺動円筒面21と同じ外径寸法をもつ円筒状の面である。シリンダ9の内周とプランジャ外周面26との間には、円筒状のガイド隙間27が形成されている。
【0042】
図3に示すように、シリンダ9および隔壁部材13には、シリンダ9の外側から供給されるオイルを貯油室15に導入する給油通路30が設けられている。給油通路30は、シリンダ9の外側から供給されるオイルを拡大隙間部24に導入するようにシリンダ9に形成されたシリンダ側油路31と、拡大隙間部24と、径方向孔25と、リリーフ孔17のリリーフバルブ19よりも貯油室15側の部分とで構成されている。シリンダ側油路31は、シリンダ9の外周から内周に貫通して形成された孔であり、シリンダ9が固定されるエンジン側面に開口する油孔に連通している。
【0043】
ここで、給油通路30は、シリンダ9の外側から供給されるオイルを、シリンダ側油路31と拡大隙間部24と径方向孔25とリリーフ孔17とを順に通って貯油室15に導入するように構成されている。また、給油通路30を構成する拡大隙間部24は、リーク隙間23の出口側端部と接続して配置されており、これにより、圧力室14からリーク隙間23を通ってリークしたオイルが、給油通路30(拡大隙間部24)に合流して戻るようになっている。
【0044】
チェックバルブ18は、油導入孔16の内面に直接形成されたバルブシート32と、バルブシート32に圧力室14の側(図では左側)から着座する球状の弁体33と、弁体33を圧力室14の側とは反対側(図では右側)に向けて押圧するバルブスプリング34と、バルブスプリング34を支持するスプリングシート35とを有する。スプリングシート35は、隔壁部材13の圧力室14側の端面からはみ出さないように、油導入孔16の圧力室14側の端部に圧入して固定されている。
【0045】
リリーフバルブ19は、圧力室14から流出するオイルが通過する弁孔36をもつバルブシート37と、バルブシート37に圧力室14の側とは反対側(図では右側)から着座する球状の弁体38と、弁体38を圧力室14の側(図では左側)に向けて押圧するバルブスプリング39とを有する。バルブスプリング39は、リリーフ孔17の内面に直接形成された段部40で支持されている。バルブシート37は、隔壁部材13の圧力室14側の端面からはみ出さないように、リリーフ孔17の圧力室14側の端部に圧入して固定されている。
【0046】
図4に示すように、バルブシート37の弁孔36の周縁には、弁体38が着座するシート面41が形成されている。シート面41には、リリーフバルブ19が閉弁しているときに、圧力室14内の空気を径方向孔25に逃がすエア抜き用のオリフィス通路42が形成されている。オリフィス通路42は、シート面41に形成された微小な溝である。
【0047】
次に、このチェーンテンショナ1の動作例を説明する。
【0048】
エンジン作動中に、
図1に示すチェーン6の張力が大きくなると、そのチェーン6の張力によって、プランジャ10がシリンダ9内に押し込まれる方向に移動し、チェーン6の緊張を吸収する。このとき、
図2に示す圧力室14の圧力が貯油室15の圧力よりも高くなるので、チェックバルブ18は閉じた状態となる。また、プランジャ10の移動に応じて圧力室14の容積が縮小するので、その縮小した容積の分、圧力室14からリーク隙間23を通って拡大隙間部24にオイルがリークし、このときリーク隙間23を流れるオイルの粘性抵抗でダンパ力が発生し、そのダンパ力によってチェーン6のばたつきが防止される。そして、
図3に示すように、圧力室14からリーク隙間23を通ってリークしたオイルの大部分は、拡大隙間部24、径方向孔25、リリーフ孔17を通って貯油室15に戻る。また、圧力室14からリーク隙間23を通って拡大隙間部24にリークしたオイルの一部は、ガイド隙間27を潤滑する。
【0049】
一方、エンジン作動中に、
図1に示すチェーン6の張力が小さくなると、
図2に示すリターンスプリング20の付勢力と圧力室14内のオイルの圧力とによって、プランジャ10が突出方向に移動し、チェーン6の弛みを吸収する。このとき、プランジャ10の移動に応じて圧力室14の容積が拡大するので、圧力室14の圧力が貯油室15の圧力よりも低くなり、チェックバルブ18が開く。そして、貯油室15から油導入孔16を通って圧力室14にオイルが流入し、プランジャ10が速やかに移動する。このとき、給油通路30を通って貯油室15にオイルが供給される。
【0050】
エンジンが高回転域で作動するとき、
図1に示すチェーン6からプランジャ10に高周波の加振力が作用し続けるため、
図2に示すリーク隙間23を流れるオイルにより発生するダンパ力が過大となる傾向がある。このとき、圧力室14の圧力が上昇し、
図3に示すようにリリーフバルブ19が開くことで、圧力室14からリリーフ孔17を通って貯油室15にオイルが流出する。これにより、圧力室14の圧力上昇が抑えられ、過大なダンパ力が生じるのが防止される。このとき、リリーフ孔17を通って圧力室14から流出したオイルは貯油室15に戻る。
【0051】
エンジンが停止し、その後、エンジンが再始動するとき、一般に、エンジン側面に開口する油孔(図示せず)内のオイルの油面はいったん下がった状態となっていることから、チェーンテンショナ1へのオイル供給が開始するまでに時間がかかる。この場合、エンジンが再始動してから、チェーンテンショナ1へのオイル供給が開始されるまでの間、
図2に示す貯油室15内にあらかじめ溜まったオイルが、油導入孔16を通って圧力室14に流入することで、圧力室14がオイルで満たした状態に保たれる。そのため、エンジン再始動の直後からダンパ力を発生することが可能であり、
図1に示すチェーン6のばたつきを抑えることが可能となっている。
【0052】
このチェーンテンショナ1は、
図2に示すように、隔壁部材13の外周がシリンダ9の内周と摺動するように、隔壁部材13がプランジャ10と軸方向に直列に配置されているので、隔壁部材13の外径を、プランジャ10の厚さの分、プランジャ10の外径よりも小さくする必要がなく、隔壁部材13の外径を大きく設定することができる。そのため、隔壁部材13に並列に組み込まれるチェックバルブ18とリリーフバルブ19のサイズを確保することが容易である。
【0053】
また、このチェーンテンショナ1は、圧力室14のオイルに空気が混入することによるダンパ力の低下を効果的に防止することができる。すなわち、圧力室14と貯油室15の間を隔てる隔壁部材13の上側部分にリリーフ孔17が配置されているので、リリーフ孔17のリリーフバルブ19が開弁して圧力室14からオイルが流出するときに、圧力室14の上部に溜まった空気をオイルと一緒に効果的に排出することができる。また、圧力室14と貯油室15の間を隔てる隔壁部材13の下側部分に油導入孔16が配置されているので、油導入孔16のチェックバルブ18が開弁して貯油室15から圧力室14にオイルが流入するときに、貯油室15の上部に溜まった空気が圧力室14に流入しにくい。そのため、圧力室14のオイルに空気が混入しにくく、ダンパ力の低下を効果的に防止することができる。
【0054】
また、このチェーンテンショナ1は、
図3に示すように、隔壁部材13を軸方向に貫通して形成されたリリーフ孔17が、隔壁部材13に形成された径方向孔25を介して拡大隙間部24に連通しているので、リリーフバルブ19が開弁したときに、そのリリーフバルブ19を通って圧力室14からオイルと一緒に排出される空気が、径方向孔25を通って拡大隙間部24に排出される。そのため、リリーフバルブ19を通ってオイルと一緒に排出される空気が、貯油室15に混入するのを防止することができる。
【0055】
また、このチェーンテンショナ1は、
図4に示すように、リリーフバルブ19がエア抜き用のオリフィス通路42を有するので、リリーフバルブ19が開弁していないときにも、圧力室14のオイルに混入した空気をエア抜き用のオリフィス通路42を介して圧力室14から径方向孔25と拡大隙間部24とを通ってガイド隙間27に排出することが可能である。
【0056】
また、このチェーンテンショナ1は、
図2に示すように、隔壁部材13のプランジャ10の側(図では右側)の軸方向端部が、プランジャ10のシリンダ9内への挿入端に圧入または溶接により固定されているので、隔壁部材13のプランジャ10のシリンダ9内への挿入端への固定が確実である。
【0057】
また、このチェーンテンショナ1は、隔壁部材13のリリーフ孔17の周囲の周壁部分とプランジャ10の周壁部分とが二重壁とならないため、原材料を削減することが可能となっている。また、エンジン仕様が異なる場合においても、同一形状および同一寸法のプランジャ10を使用し、隔壁部材13の寸法等を変更することで、チェーンテンショナ1のプランジャ10を共通化することができる。
【0058】
また、このチェーンテンショナ1は、圧力室14内の圧力が予め設定した圧力よりも大きくなったときに圧力室14からオイルを逃がすリリーフバルブ19が設けられているので、エンジンの高回転域において、リーク隙間23によるダンパ力が過大となるのを防ぐことが可能であり、低回転域と高回転域の両方において最適なダンパ力を得ることが可能である。
【0059】
また、このチェーンテンショナ1は、リーク隙間23の出口側端部が、給油通路30に接続しているので、圧力室14の容積が縮小する方向にプランジャ10が軸方向移動するときに、圧力室14からリーク隙間23を通ってリークしたオイルが給油通路30に戻る。さらに、リリーフバルブ19が、圧力室14と貯油室15の間を隔てる隔壁部材13に設けられているので、リリーフバルブ19が開弁したときに、そのリリーフバルブ19を通って圧力室14から流出するオイルが貯油室15に戻る。そのため、このチェーンテンショナ1は、オイル消費量が少ない。
【0060】
図5~
図8に、この発明の第2実施形態を示す。第1実施形態に対応する部分は同一の符号を付して説明を省略する。
【0061】
図5に示すように、チェックバルブ18は、圧力室14に流入するオイルが通過する弁孔43をもつバルブシート32と、バルブシート32に圧力室14の側(図では左側)から着座する球状の弁体33と、弁体33を圧力室14の側とは反対側(図では右側)に向けて押圧するバルブスプリング34と、バルブスプリング34を支持するスプリングシート35とを有する。スプリングシート35は、バルブスプリング34と弁体33とを収容する有底筒状に形成され、その開口端にバルブシート32が圧入して固定されている。
【0062】
図8に示すように、バルブシート32と弁体33とバルブスプリング34とスプリングシート35は、あらかじめ一体に組み立てた状態で油導入孔16に挿入することができるようにアセンブリ(組立体)を構成している。
【0063】
図5に示すように、油導入孔16の圧力室14側の端部にはバルブリテーナ44が圧入して固定されている。バルブシート32と弁体33とバルブスプリング34とスプリングシート35とで構成されるアセンブリは、油導入孔16の内面に形成された段部45で軸方向に支持されるとともに、バルブリテーナ44で油導入孔16から抜け止めすることで、油導入孔16内に固定されている。
【0064】
リリーフバルブ19は、圧力室14から流出するオイルが通過する弁孔36をもつバルブシート37と、バルブシート37に圧力室14の側とは反対側(図では右側)から着座する弁体38と、弁体38を圧力室14の側(図では左側)に向けて押圧するバルブスプリング39と、バルブスプリング39を支持するスプリングシート46とを有する。
【0065】
図6に示すように、スプリングシート46は、バルブスプリング39と弁体38とを収容する有底筒状に形成され、その開口端にバルブシート37が圧入して固定されている。スプリングシート46には、スプリングシート46の内部空間と径方向孔25とを連通する径方向連通孔47と、スプリングシート46の内部空間と貯油室15とを連通する軸方向連通孔48とが形成されている。
【0066】
図8に示すように、バルブシート37と弁体38とバルブスプリング39とスプリングシート46は、あらかじめ一体に組み立てた状態でリリーフ孔17に挿入することができるようにアセンブリ(組立体)を構成している。
【0067】
図6に示すように、リリーフ孔17の圧力室14側の端部にはバルブリテーナ49が圧入して固定されている。バルブシート37と弁体38とバルブスプリング39とスプリングシート46とで構成されるアセンブリは、リリーフ孔17の内面に形成された段部40で軸方向に支持されるとともに、バルブリテーナ49でリリーフ孔17から抜け止めすることで、リリーフ孔17内に固定されている。
【0068】
図6、
図7に示すように、バルブシート37のバルブリテーナ49に対する接触面には、リリーフバルブ19が閉弁しているときに、圧力室14内の空気を径方向孔25に逃がすエア抜き用のオリフィス通路42が形成されている。オリフィス通路42は、バルブシート37に形成された微小な溝である。
【0069】
第2実施形態のチェーンテンショナ1は、
図8に示すように、リリーフバルブ19を隔壁部材13に組み付ける前に、あらかじめ自動機でリリーフバルブ19の構成部品を一体に組み立て、それをリリーフ孔17に挿入することができるので、リリーフバルブ19の組み立て作業が容易である。同様に、チェックバルブ18を隔壁部材13に組み付ける前に、あらかじめ自動機でチェックバルブ18の構成部品を一体に組み立て、それを油導入孔16に挿入することができるので、チェックバルブ18の組み立て作業が容易である。
【0070】
また、このチェーンテンショナ1は、
図6に示すように、リリーフバルブ19がエア抜き用のオリフィス通路42を有するので、リリーフバルブ19が開弁していないときにも、圧力室14のオイルに混入した空気をエア抜き用のオリフィス通路42を介して圧力室14から径方向孔25に排出することが可能である。それ以外の作用効果は、第1実施形態と同様である。
【0071】
図9、
図10に、この発明の第3実施形態を示す。第1実施形態、第2実施形態に対応する部分は同一の符号を付して説明を省略する。
【0072】
隔壁部材13の径方向孔25は、リリーフ孔17の内面の段部40に対応する位置に形成され、スプリングシート46が段部40に接触した状態で、径方向孔25が、リリーフ孔17のスプリングシート46よりも貯油室15の側の部分と拡大隙間部24とを連通するようになっている。
【0073】
チェックバルブ18のバルブシート32は、バルブスプリング34と弁体33とを収容する有底筒状に形成され、その開口端にスプリングシート35が圧入して固定されている。バルブシート32の筒状部分の外周には、油導入孔16の内周との間に径方向隙間を形成するための小径外周部50が形成されている。バルブシート32の開口端には、バルブシート32の筒状部分を径方向に貫通するスリット51が形成されている。バルブシート32は金属で形成され、油導入孔16に圧入して固定されている。
【0074】
この第3実施形態のチェーンテンショナ1は、チェックバルブ18を固定するためのバルブリテーナ44(
図5参照)が不要なので、部品点数を抑えることができる。それ以外の作用効果は、第2実施形態と同様である。
【0075】
図11に、この発明の第4実施形態を示す。第1実施形態~第3実施形態に対応する部分は同一の符号を付して説明を省略する。
【0076】
スプリングシート35は、バルブスプリング34と弁体33とを収容する有底筒状に形成され、その開口端にバルブシート32が圧入して固定されている。スプリングシート35の開口端には、外向きのフランジ部52が形成されている。フランジ部52は、バルブシート32の軸方向端面に接触している。バルブリテーナ44は、油導入孔16に圧入して固定されている。バルブリテーナ44は筒状に形成され、その軸方向端部でスプリングシート35のフランジ部52を軸方向に押圧している。バルブリテーナ44は、バルブシート32と弁体33とバルブスプリング34とスプリングシート35とで構成されるアセンブリを油導入孔16から抜け止めしている。
【0077】
この第4実施形態のチェーンテンショナ1は、筒状のバルブリテーナ44の軸方向端部で、スプリングシート35のフランジ部52を軸方向に押圧するように構成されているので、バルブリテーナ44を油導入孔16に軸方向に圧入する際に、その軸方向圧力でスプリングシート35の筒状部分が変形するのを防止することができる。それ以外の作用効果は、第2実施形態と同様である。
【0078】
上記各実施形態では、チェーンテンショナ1を、クランクシャフト2の回転をカムシャフト4に伝達するチェーン伝動装置に組み込んだ例を挙げて説明したが、チェーンテンショナ1は、クランクシャフト2の回転をオイルポンプやウォーターポンプやスーパーチャージャー等の補機に伝達するチェーン伝動装置や、クランクシャフト2の回転をバランサシャフトに伝達するチェーン伝動装置や、ツインカムエンジンの吸気カムと排気カムを互いに連結するチェーン伝動装置に組み込むことも可能である。
【0079】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0080】
1 チェーンテンショナ
9 シリンダ
10 プランジャ
13 隔壁部材
14 圧力室
15 貯油室
16 油導入孔
17 リリーフ孔
18 チェックバルブ
19 リリーフバルブ
20 リターンスプリング
21 摺動円筒面
22 小径外周面
23 リーク隙間
24 拡大隙間部
25 径方向孔
30 給油通路
32 バルブシート
33 弁体
34 バルブスプリング
35 スプリングシート
36 弁孔
37 バルブシート
38 弁体
39 バルブスプリング
42 オリフィス通路
43 弁孔
46 スプリングシート