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特開2024-135805制御装置、防災システム、制御方法及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024135805
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】制御装置、防災システム、制御方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G08B 31/00 20060101AFI20240927BHJP
   G08B 25/00 20060101ALI20240927BHJP
   G08B 17/00 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
G08B31/00 B
G08B25/00 510M
G08B17/00 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023046676
(22)【出願日】2023-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】松井 直也
(72)【発明者】
【氏名】米田 次郎
【テーマコード(参考)】
5C087
5G405
【Fターム(参考)】
5C087AA02
5C087AA03
5C087AA04
5C087BB74
5C087DD04
5C087DD20
5C087EE08
5C087FF01
5C087FF02
5C087FF04
5C087GG02
5C087GG22
5C087GG62
5G405AA01
5G405AB01
5G405AB02
5G405CA27
5G405CA46
(57)【要約】
【課題】災害現場の状況に応じて精度よく災害の進展予測を行い、その予測に基づいて防災機器を動作させる制御装置を提供する。
【解決手段】制御装置は、対象エリアの状況を計測した計測情報と、防災機器の動作状態を示す動作情報とを取得し、対象エリアで災害が発生したときに、前記計測情報と、前記動作情報と、災害の状況と前記防災機器の動作状態に応じて前記災害がどのように進展するかを解析した解析結果が登録されたデータベースと、に基づいて、前記災害の進展を予測し、前記予測の結果と、前記災害の状況に応じてどのように前記防災機器を動作させるかを定めた防災対策設定情報と基づいて、防災機器の動作を制御する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象エリアの状況を計測した計測情報と、防災機器の動作状態を示す動作情報とを取得するデータ取得部と、
前記対象エリアの状況と前記防災機器の動作状態に応じて災害がどのように進展するかを解析した解析結果が登録されたデータベースと、
前記対象エリアで災害が発生したときに、前記計測情報と、前記動作情報と、前記データベースと、に基づいて、前記災害の進展を予測する予測部と、
前記予測部による前記災害の進展の予測結果と、前記災害の状況に応じてどのように前記防災機器を動作させるかを定めた防災対策設定情報と、基づいて、前記防災機器の動作を制御する制御部と、
を備える制御装置。
【請求項2】
前記対象エリアの状況と前記防災機器の動作状態に応じて前記災害がどのように進展するかを解析するシミュレーション部、をさらに備える請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記防災対策設定情報の設定を受け付ける受付部、をさらに備える請求項1又は請求項2に記載の制御装置。
【請求項4】
前記災害が発生した後も、前記データ取得部は、繰り返し、最新の前記計測情報および前記動作情報を取得し、
前記予測部は、最新の前記計測情報および前記動作情報と、前記データベースと、に基づいて、前記災害の進展の予測を更新し、
前記制御部は、更新された前記災害の進展の予測と前記防災対策設定情報とに基づいて、前記防災機器の動作を制御する、
請求項1又は請求項2に記載の制御装置。
【請求項5】
災害の状況と前記防災機器の動作状態に応じて前記災害がどのように進展し、人がどのように移動するかを解析した解析結果が登録された第2のデータベース、をさらに備え、
前記データ取得部は、前記対象エリアに存在する人の人数と存在する場所を含む避難者情報を取得し、
前記予測部は、前記計測情報と、前記動作情報と、前記避難者情報と、前記第2のデータベースと、に基づいて、前記災害の進展と前記避難者情報に含まれる前記人の移動を予測し、
前記制御部は、前記予測部による前記災害の進展および前記人の移動の予測結果と、前記災害の状況と前記人の移動に応じてどのように前記防災機器を動作させるかを定めた第2の防災対策設定情報と、基づいて、前記防災機器の動作を制御する、
請求項1に記載の制御装置。
【請求項6】
前記予測部は、様々な計測点の前記計測情報および/又は前記計測情報の統計値と、前記データベースに記録された前記解析結果と比較して、前記計測情報との一致度が高い前記解析結果を選択し、選択した前記解析結果が示すように前記災害が進展すると予測する、
請求項1又は請求項2に記載の制御装置。
【請求項7】
対象エリアの状況を計測する計測機器と、
防災機器と、
請求項1又は請求項2に記載の制御装置と、
を備える防災システム。
【請求項8】
対象エリアを撮影するカメラと、
前記カメラが撮影した画像から火災又は煙を検知する手段と、
をさらに備える請求項7に記載の防災システム。
【請求項9】
対象エリアの状況を計測する計測機器と、
前記対象エリアに存在する人を検知する手段と、
防災機器と、
請求項5に記載の制御装置と、
を備える防災システム。
【請求項10】
対象エリアの状況を計測した計測情報と、防災機器の動作状態を示す動作情報とを取得するステップと、
前記対象エリアで災害が発生したときに、前記計測情報と、前記動作情報と、前記対象エリアの状況と前記防災機器の動作状態に応じて前記災害がどのように進展するかを解析した解析結果が登録されたデータベースとに基づいて、前記災害の進展を予測するステップと、
前記予測するステップによる前記災害の進展の予測結果と、前記災害の状況に応じてどのように前記防災機器を動作させるかを定めた防災対策設定情報と、基づいて、前記防災機器の動作を制御するステップと、
を有する制御方法。
【請求項11】
コンピュータに、
対象エリアの状況を計測した計測情報と、防災機器の動作状態を示す動作情報とを取得するステップと、
前記対象エリアで災害が発生したときに、前記計測情報と、前記動作情報と、前記対象エリアの状況と前記防災機器の動作状態に応じて前記災害がどのように進展するかを解析した解析結果が登録されたデータベースとに基づいて、前記災害の進展を予測するステップと、
前記予測するステップによる前記災害の進展の予測結果と、前記災害の状況に応じてどのように前記防災機器を動作させるかを定めた防災対策設定情報と、基づいて、前記防災機器の動作を制御するステップと、
を実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、防災システムの制御装置、防災システム、制御方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な防災システムは、火災発生後、火炎から生じる煙や熱に反応して煙感知器や熱検知器が作動し、検知器に連動してスプリンクラーや防火扉などの防災機器が作動するように構成されていることが多い。これに対して、特許文献1には、災害情報や自然条件を入力すると、災害状況の推移を予測し、その予測結果に基づいて、適切な防災対策を策定する防災支援システムが開示されている。また、特許文献2には、火災の種類毎にディープラーニングにより学習された複数の火災検出器に、監視領域の画像情報を入力したときに出力される推定値に基づいて火災を判定する火災監視システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開H9-35168号公報
【特許文献2】特開2019-79445号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】鹿島建設,”火災時の高度な避難シミュレーションシステム「人・熱・煙連成避難シミュレータ PSTARS」の開発と展開、[2023年01月17日検索]、インターネット https://www.kajima.co.jp/news/press/201407/30a1-j.htm>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来技術では、入力値に基づいて災害状況の推移を予測しているが、時々刻々と変化する災害現場の状況に応じた予測は行っていない。また、災害状況の予測に関し、検知器やスプリンクラー、防火扉といった防災機器の動作を考慮した予測は行っていない。
【0006】
本開示は、上記課題を解決することができる制御装置、防災システム、制御方法及びプログラムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の制御装置は、対象エリアの状況を計測した計測情報と、防災機器の動作状態を示す動作情報とを取得するデータ取得部と、前記対象エリアの状況と前記防災機器の動作状態に応じて災害がどのように進展するかを解析した解析結果が登録されたデータベースと、前記対象エリアで災害が発生したときに、前記計測情報と、前記動作情報と、前記データベースと、に基づいて、前記災害の進展を予測する予測部と、前記予測部による前記災害の進展の予測結果と、前記災害の状況に応じてどのように前記防災機器を動作させるかを定めた防災対策設定情報と基づいて前記防災機器の動作を制御する制御部と、を備える。
【0008】
本開示の防災システムは、対象エリアの状況を計測する計測機器と、防災機器と、上記の制御装置と、を備える。
【0009】
本開示の制御方法は、対象エリアの状況を計測した計測情報と、防災機器の動作状態を示す動作情報とを取得するステップと、前記対象エリアで災害が発生したときに、前記計測情報と、前記動作情報と、前記対象エリアの状況と前記防災機器の動作状態に応じて前記災害がどのように進展するかを解析した解析結果が登録されたデータベースとに基づいて、前記災害の進展を予測するステップと、前記予測するステップによる前記災害の進展の予測結果と、前記災害の状況に応じてどのように前記防災機器を動作させるかを定めた防災対策設定情報と、基づいて、前記防災機器の動作を制御するステップと、を有する。
【0010】
本開示のプログラムは、コンピュータに、対象エリアの状況を計測した計測情報と、防災機器の動作状態を示す動作情報とを取得するステップと、前記対象エリアで災害が発生したときに、前記計測情報と、前記動作情報と、前記対象エリアの状況と前記防災機器の動作状態に応じて前記災害がどのように進展するかを解析した解析結果が登録されたデータベースとに基づいて、前記災害の進展を予測するステップと、前記予測するステップによる前記災害の進展の予測結果と、前記災害の状況に応じてどのように前記防災機器を動作させるかを定めた防災対策設定情報と、基づいて、前記防災機器の動作を制御するステップと、を実行させる。
【発明の効果】
【0011】
上述の制御装置、防災システム、制御方法及びプログラムによれば、災害現場の状況に応じてリアルタイムに精度よく災害の進展予測を行い、その予測に基づいて防災機器を動作させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】第一実施形態に係る防災システムの一例を示す機能ブロック図である。
図2】第一実施形態に係る防災システムのシステム構築の流れおよび動作の一例を示すフローチャートである。
図3】第一実施形態に係る防災システムのシステム構成の一例を示す図である。
図4】第二実施形態に係る防災システムの一例を示す機能ブロック図である。
図5】第二実施形態に係る防災システムのシステム構成の一例を示す図である。
図6】第三実施形態に係る防災システムの一例を示す機能ブロック図である。
図7】第三実施形態に係る防災システムのシステム構築の流れおよび動作の一例を示すフローチャートである。
図8】第三実施形態に係る防災システムのシステム構成の一例を示す図である。
図9】各実施形態に係る制御装置のハードウェア構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<第一実施形態>
以下、本開示に係る防災システムについて、図1図9を参照して説明する。
(構成)
図1は、第一実施形態に係る防災システムの一例を示す機能ブロック図である。
防災システム100は、ビル、商業施設、学校、病院、公園、屋外の建造物など、各種の防災対象施設で発生した災害を速やかに検知し、時々刻々と変化する災害の状況に応じて、未来の災害の進展状況を高精度に予測するとともに、その予測に基づいて、スプリンクラー、防火扉などの防災機器を適切に動作させて災害の進展や被害の拡大を抑制する。
【0014】
図示するように、防災システム100は、計測機器・検知器1と、防災機器2と、制御装置10とを備える。
計測機器・検知器1は、防災対象施設の各所に設けられた、例えば、温度計、湿度計、圧力計、風向風速計、煙感知器、熱検知器、ガス検知器などである。制御装置10と計測機器・検知器1は、ネットワーク等を介して接続されている。計測機器・検知器1が検知した情報は、制御装置10へ送信される。
【0015】
防災機器2は、防災対象施設の各所に設けられた、例えば、防災扉、スプリンクラー、表示灯、通報装置、警報装置などである。また、防災機器2には、PCモニター等の表示装置、電光掲示板、スピーカーなどの可視化・音声機器が含まれる。制御装置10と防災機器2は、ネットワーク等を介して接続されている。制御装置10は、制御信号を送信し、防災機器2を動作させる。防災機器2は、自装置の動作状態を制御装置10へ送信する。
【0016】
制御装置10は、データ取得部11と、入力受付部12と、災害シミュレーション部13と、災害予測判定部14と、制御部15と、記憶部16と、を備える。
【0017】
データ取得部11は、計測機器・検知器1が計測・検知した情報を取得する。例えば、データ取得部11は、温度、湿度、圧力、風向、風速、災・煙・ガスの検知結果などを取得する。また、データ取得部11は、防災機器2の動作状態(起動、停止、動作モードなど)を取得する。データ取得部11は、取得した情報を記憶部16に保存する。
【0018】
入力受付部12は、キーボード、マウス、タッチパネル等の入力装置を用いてユーザによって入力された指示情報や設定情報(後述する一致度や防災対策の設定)などを受け付ける。
【0019】
災害シミュレーション部13は、火災等の各種の災害について、想定される様々な条件の元で災害の進展をシミュレーションする。様々な条件とは、風向、風速、気温などの環境や気象の条件(これらを気象条件と称する。)、災害発生位置(出火位置など)、防災機器の動作条件(例えば、検知器が作動する温度や煙の濃度、スプリンクラーの放水角度や放水量、スプリンクラーや防火扉が検知器と連動して作動するか否か、スプリンクラーを動作させるタイミングなど)である。災害シミュレーション部13は、これらの条件を変更して膨大な数のケース数のシミュレーションを実施する。災害の進展シミュレーションでは、簡易計算式や簡易モデルではなく、熱流動や物質輸送等を対象とする数値流体力学(CFD:Computational Fluid Dynamic)モデルを用いて非定常計算を行う。例えば、CFDモデルは、主に(1)流体力学モデル(質量、運動量、エネルギーの保存式、物質の輸送方程式)、(2)燃焼モデル、(3)輻射モデル、(4)固体モデル、から構成され、CFDモデルに基づく詳細なシミュレーションを行うことにより、精度が良い計算結果が得られる。CFDモデルに基づくシミュレーションは非定常解析であるため、時々刻々と火災等が進展していく様子をシミュレートでき、各時間における各場所の温度やガス濃度、煙濃度などが計算できる。さらに、シミュレーションでは、防災機器2(スプリンクラーや防火扉など)の動作状態を考慮して計算を行うので、より実際の災害時の状況を想定した計算結果が得られる。災害シミュレーション部13は、気象条件、出火位置、動作条件を様々に変化させてシミュレーションを実施し、膨大な入力条件による計算を事前に実施し、その結果をデータベース化(このデータベースを「災害進展データベース」又は「災害進展DB」と称する。)する。例えば、時刻t0にA地点で炎が検知された場合、時刻t0に各地点で計測された温度、風向、風速などの気象条件、時刻t0以降における各防災機器の動作条件(例えば、火災検知後、即座にスプリンクラーを作動させた場合と、1分後に作動させた場合、5分後に作動させた場合・・・等)を様々に変化させ、各種条件の組合せごとに、1分後、2分後、10分後、30分後などの将来にわたる火災の進展状況がCFDモデルによって計算され、気象条件および動作条件ごとのシミュレーション結果(解析結果とも称する。)が災害進展DB131に登録される。これにより、実際にA地点で火災が検知された時に、実際に計測機器・検知器1によって計測された各地の気象条件や、その時の実際の防災機器2の動作条件に基づいて災害進展DB131を探索し、気象条件や動作条件に一致する又は一致度が高い解析結果を参照することにより、事前のシミュレーションで得られた詳細な火災の進展予測情報を得ることができる。
【0020】
災害予測判定部14は、データ取得部11によって取得された計測機器・検知器1が計測・検知した情報、防災機器2の動作状態などに基づいて、災害の発生と終了を判定する。また、災害予測判定部14は、災害が発生したと判定したときに、データ取得部11によって取得された、計測機器・検知器1が計測・検知した情報と防災機器2の動作状態などに基づいて、災害進展DB131を参照し、災害現場の実際の気象条件、災害発生位置、動作条件に一致又は一致度が高いシミュレーション結果を読み出す。読み出したシミュレーション結果には、例えば、将来における例えば1分毎の各地点での温度、炎の到達状況、煙の濃度などが含まれている。また、事前のシミュレーションでは、防災機器2が動作した状況を考慮した計算がなされているので、シミュレーション結果には、防災機器2が動作に応じた計算結果が含まれている。災害予測判定部14は、時々刻々とデータ取得部11によって取得される新たなデータに基づいて、災害進展DB131を参照し、最新の現場の状況に応じたシミュレーション結果を得て、リアルタイムな災害進展予測を行う。例えば、風向きが変わって、火炎が拡大する方向が変化した場合でも、変化後の風向きを気象条件とするシミュレーション結果を災害進展DB131から選択することで、災害予測判定部14は、速やかに風向きの変化に応じた火災の進展予測を行うことができる。また、災害進展DB131に最新の気象条件や動作条件との一致度が同程度のシミュレーション結果が複数見つかった場合、災害予測判定部14は、これらのシミュレーション結果は、何れも現在の状況から今後進展し得る災害状況を示すものであるとして、複数のシミュレーション結果を将来の災害シナリオの候補として選択してもよい。また、災害予測判定部14は、災害進展DB131から選択したシミュレーション結果や一致度を表示装置等へ出力してもよい。ユーザは、表示されたシミュレーション結果を参照することで今後の災害進展状況を認識することができる。また、災害予測判定部14は、各時刻に選択したシミュレーション結果を記憶部16に記録しておき、後に各時刻に選択したシミュレーション結果の時系列の一覧情報を表示装置や電子ファイル等に出力できるようにしてもよい。
【0021】
制御部15は、災害予測判定部14が予測した災害の進展予測と防災対策の設定とに基づいて、防災機器2の動作を制御する。防災対策の設定は、様々な災害の状況に対し、どのように防災機器2を動作させれば速やかに災害を終息させることができるか、あるいは被害を最小限にとどめることができるかを判断して設定される。例えば、10分後にB地点に火炎が拡大・侵入することが予測される場合、制御部15は、防災対策の設定に基づいて、その少し前(例えば8分後)の時点でB地点に設けられているスプリンクラーから水を噴射させるように、当該スプリンクラーへ制御信号を送信する。(この例の場合、火炎が到達する2分前にスプリンクラーを起動するような内容が、防災対策の設定として予めユーザにより設定されている。)
【0022】
記憶部16は、データ取得部11や入力受付部12が取得した各種情報、災害進展DB131などを記憶する。災害進展DB131は、所謂クラウドコンピューティングシステムなど外部の記憶装置に記憶されていてもよい。
【0023】
(動作)
次に図2図3を参照して、火災が発生した場合を例に、防災システム100の動作について説明する。図2は、第一実施形態に係る防災システム100のシステム構築の流れおよび動作の一例を示すフローチャートである。図3は、第一実施形態に係る防災システム100の構成の一例を示す図である。図2図3のS1~S11の符号は対応している。
まず、災害シミュレーション部13を使って、n回の解析(CFDモデルに基づくシミュレーション)を行う(ステップS1)。災害シミュレーション部13は、気象条件、出火位置、防災機器2の動作条件に関し、考えられる限りそれらの条件を変更して、CFDモデルによる非定常解析を、膨大なケース数行う。災害シミュレーション部13は、解析結果を災害進展DB131として記憶部16へ保管する(ステップS2)。
【0024】
次に現場の計測機器・検知器1や防災機器2と制御装置10とをネットワーク接続する(ステップS3)。次にユーザが一致度の設定を行う(ステップS4)。例えば、ユーザは、実際の気象条件等と事前シミュレーションにおいて設定された気象条件等がどの程度同じであれば一致と評価するか、あるいは、現実の災害進展状況とシミュレーション結果がどの程度同じであれば一致と評価するかを設定する。現実の災害進展状況とシミュレーション結果の一致度を評価する方法としては、例えば次のような方法がある。
(方法1)点の物理量を比較する。例えば、室内に設置されている温度計の温度や、スプリンクラーセンサー位置の温度、ガス検知器のガス濃度等について、各計測点の計測値の瞬時値をシミュレーション結果と比較し、一致度を評価する。例えば、それぞれの計測点の温度やガス濃度について、一致とみなす数値差の絶対値や割合などを設定し、計測点および計測時刻ごとに一致度を評価し、一致とみなせるデータ数が多いシミュレーション結果を一致度が高いシミュレーション結果であるとして評価する。
(方法2)面の物理量又は物理量の変化を比較する。具体的には、時間的、空間的な物理量の統計値を比較する。例えば、ある計測点にて所定時間に計測された時々刻々の物理量に基づいて、その所定時間の開始から終了までの物理量の変化量、あるいは単位時間当たりの物理量の変化割合を算出し、シミュレーション結果についても同様の計算を行い、両者を比較する。現実の物理量の変化量や変化割合とシミュレーション結果の変化量や変化割合の差が所定の範囲内に収まるシミュレーション結果を一致度が高いシミュレーション結果として評価する。また、例えば、ある時刻における複数の計測点の温度から空間全体の温度分布の標準偏差を算出し、現実の温度分布の標準偏差との差が所定の範囲内に収まるシミュレーション結果を一致度が高いシミュレーション結果として評価する。例えば、ある部屋に複数の温度計が設けられている場合、複数の温度計が計測した平均値とシミュレーション結果が示す部屋全体の平均温度を比較してもよいし、部屋の中央と隅の温度の計測値の差と、シミュレーション結果が示す部屋の中央と隅の温度差を比較してもよい。
ユーザは、(方法1)と(方法2)の何れかを、一致度の評価方法として設定してもよいし、(方法1)と(方法2)の両方を一致度の評価方法として設定してもよい。また、これらの方法で一致と評価するための基準、例えば、数値差の絶対値(例えば、温度差が50℃以内なら一致とみなす等)や割合(例えば、現実と解析結果が±10%ならば一致とみなす等)、一致とみなす範囲などは、ユーザがどの程度保守的な運用にしたいか等を検討し、任意に設定することができる。また、最終的な一致度の評価について、一致とみなせる点や面の数が多いシミュレーション結果をより一致度が高いシミュレーション結果と評価するようにしてもよいし、それぞれの点や面について、現実とシミュレーション結果の差が、一致とみなせる範囲に含まれるかどうかを判断するのではなく、数値化した評価値を求め(例えば、差が小さい程、評価値が大きくなる)、評価値の合計が大きい程、より一致度が高いシミュレーション結果と評価するようにしてもよい。
【0025】
一致度の設定は、次のような場面で利用される。例えば、時刻t0に火災が発生する。災害予測判定部14は、時刻t0における実際の気象条件、火災位置、動作条件と、DB131に登録されたシミュレーション結果の気象条件、火災位置、動作条件とを比較して、それぞれの条件等の差が設定された範囲内に収まるシミュレーション結果を候補として選択する。また、時刻t0からX1分後、災害予測判定部14は、時刻t0に候補として選択したシミュレーション結果の中からX1分後の解析結果と、そのときの実際の状況(データ取得部11が取得した最新の気象条件や動作状態)とを比較して、各条件等の差が設定された範囲内に収まるシミュレーション結果を最新の火災状況に応じた火災進展シナリオとして選択する。現場では、火災が進展するにつれて、検知器や温度計、防災機器の作動状況や計測結果が更新されていく。この更新された結果をすぐに防災システム100にフィードバックし、最も一致度が高い解析結果を探索する。これにより、時間を追うごとに一致度が高い解析結果が絞られてくるため火災進展予測精度は、時間を追うごとに向上する。あるいは、時刻t0からX1分後、災害予測判定部14は、DB131に登録された全シミュレーション結果を対象として、各シミュレーション結果における火災発生からX1分後の解析結果と、実際の状況との差が設定された範囲内に収まるシミュレーション結果を最新の火災状況に応じた火災進展シナリオとして選択してもよい。また、ユーザは、一致度に関し、段階を付けた設定を行ってもよい。例えば、数値差の絶対値がr1以下なら現時点で最も可能性が高いシミュレーション結果、数値差の絶対値がr2(r2>r1)以下ならば、(それほど可能性は高くは無いが)今後の状況次第では起こり得る可能性があるシミュレーション結果といったように一致度の程度に差をつけて複数段階の設定を行ってもよい。ユーザが、一致度の設定を入力すると、入力受付部12は、その設定を受け付け、記憶部16に記録する。
【0026】
次にユーザが、防災対策の設定を行う(ステップS5)。例えば、ユーザは、どのような解析結果、一致度となったときにどのような防災対策を施すのかについて設定する。例えば、ユーザは、B地点に火炎が拡大するという解析結果と、この解析結果に対する一致度が設定した範囲内に収まる実際の状況が生じたならば、B地点に設置されたスプリンクラーをB地点に火炎が拡大する2分前に先回りして作動するといった設定を行う。このほかにも、火災進展が早いところの防火扉は閉めつつ、人の避難ルートは残しておくように防火扉を作動させるような設定を行ってもよい。例えば、A室とB室の検知器が作動したときは、東側に火災と煙が流れやすいため、東側の防火扉はすぐに全て作動させるが、C室の検知器が作動するまで、避難用として西側の防火扉は作動しないようにしておくといった設定を行う。また、表示装置やスピーカーを用いて避難指示(煙の少ない避難経路の指示など)を出力させるような設定を行ってもよい。また、一致度に応じた設定の例として、A室は水による被害が少ないため、一致度が低くてもA室のスプリンクラーは作動させるが、B室は水による被害が多く出るため、高い一致度が得られたときのみB室のスプリンクラーを作動させるような設定を行ってもよい。以上が事前に実施する処理である。ステップS1~S5により、防災システム100が構築される。
【0027】
次に実際に火災が発生した場面でのリアルタイム進展予測処理について説明する。火災が発生する(ステップS6)。例えば、煙検知器や熱検知器(計測機器・検知器1)から制御装置10へ火災に相当する熱や煙を検知したことを示すデータが送信され、災害予測判定部14により火災発生が判定される。防災システム100は、現場の状況を把握する(ステップS7)。計測機器・検知器1は、各所の温度、煙、熱などの計測結果・検知結果を制御装置10へ送信する。防災機器2は、自装置の動作状態を制御装置10へ送信する。データ取得部11は、送信されたデータを取得し、記憶部16に記録する。次に、災害予測判定部14は、一致度評価および解析結果探索を行う(ステップS8)。災害予測判定部14は、ステップS7で記憶部16に記録された温度等のデータを読み出して、災害進展DB131に登録された各シミュレーション結果における気象条件、火災位置、動作条件、解析結果と比較を行う。災害予測判定部14は、ステップS4で設定した一致度に基づいて、最も一致度が高いシミュレーション結果を選択する。一致度が同程度のシミュレーション結果が災害進展DB131に複数登録されている場合、災害予測判定部14は、それらすべてを選択してもよい。あるいは、災害予測判定部14は、一致度が高い順に複数のシミュレーション結果を選択してもよい。
【0028】
次に、防災システム100は、火災進展予測および防災対策を実施する(ステップS9)。災害予測判定部14は、ステップS8で選択したシミュレーション結果に基づいて火災の進展を予測する。例えば、あるシミュレーション結果を選択した場合、災害予測判定部14は、このシミュレーション結果に含まれる現在よりも数分後、10分後、30分後などの解析結果(例えば、各時刻、各位置における温度や煙・ガスの濃度など)を火災の進展予測とする。制御部15は、その火災の進展予測結果とステップS5で設定した防災対策の設定に基づいて、ネットワークで接続された防災機器2を作動させ、消火や避難指示などを行う。例えば、制御部15は、火災発生場所のスプリンクラーを作動させ、避難経路上に存在する防火扉を残して、他の全ての防火扉を閉とし、避難経路を案内する表示などを行う。
【0029】
次に、防災システム100は、現場状況と予測を更新する(ステップS10)。防災システム100は、ステップS7~S9の処理を繰り返す。データ取得部11は、時々刻々と計測機器・検知器1が送信するデータを取得し、災害予測判定部14は、取得された最新のデータに基づいて、DB131から、最も一致度が高いシミュレーション結果を選択し、そのシミュレーション結果が示す近い将来の災害状況を実際に発生した火災の進展予測として採用する。制御部15は、火災の進展予測と防災対策の設定に基づいて、防災機器2を作動させ、最新の状況に応じた防災対策を実施する。
【0030】
次に、災害予測判定部14は、火災の終了等を判定する(ステップS11)。例えば、データ取得部11が取得する各地点の温度が所定の設定値以下となると、災害予測判定部14は、火災が終了したと判定する。また、入力受付部12が、ユーザによる避難完了の入力を受け付けると、災害予測判定部14は、避難が完了したと判定する。火災が終了した又は避難が完了した判定された場合(ステップS11;Yes)、リアルタイム進展予測の処理を終了する(ステップS12)。そうでない場合(ステップS11;No)、ステップS7以降の処理が繰り返し実行される。
【0031】
(効果)
以上説明したように、本実施形態によれば、災害現場の時々刻々の状況の変化に応じてリアルタイムに精度よく災害の進展予測を行い、その予測に基づいて防災機器2を動作させることができる。物理モデルと防災機器2の動作状態も含めたシミュレーション結果をデータベース化し、そのデータベースを参照することで、精度が高い火災進展の予測結果を行うことができ、適切な防災対策を施すことができる。また、事前にデータベースを作成する必要はあるが、その他の検知器や防災機器当は既存の機器をそのまま用いて防災システム100を構築できるため、導入コストを低減することができる。
【0032】
<第二実施形態>
以下、本発明の第二実施形態による防災システム100aについて図4図5を参照して説明する。第一実施形態では、火災発生時、既存の計測機器・検知器1や防災機器2を用いて現場の状況を検知していた。第二実施形態においては、カメラ(例えば、既存の監視カメラ)にAI技術(機械学習)を組み合わせ、カメラが撮影した画像から火災や煙を判定できる構成をシステムに追加する。
【0033】
図4は、第二実施形態に係る防災システム100aの一例を示す機能ブロック図である。本発明の第二実施形態に係る構成のうち、本発明の第一実施形態に係る防災システム100を構成する機能部と同じものには同じ符号を付し、それぞれの説明を省略する。第二実施形態に係る防災システム100aは、第一実施形態の構成に加えて、AI搭載済みカメラ1aを備えている。
AI搭載済みカメラ1aは、カメラと、自装置が撮影した画像に基づいて画像から火災や煙を検知するAI機能とを備えている。AI機能については、例えば、火災や煙が写った膨大な数の画像を学習させ、機械学習や深層学習を用いて画像から火災や煙を検知するモデルを構築して、これをAI機能に搭載する。AI機能は、搭載されたモデルに基づいて火災や煙の発生を判定する。学習の手法(どのような機械学習や深層学習の手法を用いるか)に特に限定は無い。また、学習対象について、例えば、火災発生時に赤外線カメラで撮影した画像を学習して、画像内の温度分布に基づいて火災の発生を検知するように学習してもよいし、火災発生時に撮影された画像に写る火炎の形状に基づいて火災の発生を検知するように学習してもよい。この場合、AI搭載済みカメラ1aは、自身が撮影した画像の温度分布や火炎の形状から、火災の発生確率を算出する。ユーザは、算出される火災の発生確率に対して、任意に閾値を設定することができる。例えば、AI搭載済みカメラ1aは、画像から判断される火災の発生確率を制御装置10へ送信する。制御装置10では、災害予測判定部14が、AI搭載済みカメラ1aから受信した発生確率が、ユーザによって設定された閾値を上回れば、火災が発生したと判定する。また、AI搭載済みカメラ1aは、画像から火災や煙を検知した場合、火災や煙を検知した画像内の位置と当該カメラの撮影範囲の地図情報などから、火災や煙が発生した現実の位置を特定する機能を有していてもよい。また、AI機能は、カメラではなく、制御装置10に組み込んでもよい。
【0034】
(動作)
次に図2図5を参照して、第二実施形態における防災システム100aの動作の一例について説明する。図5は、第二実施形態に係る防災システム100aの構成の一例を示す図である。図2図5のS1~S11の符号は対応している。第一実施形態と同様の処理については簡単に説明する。
まず、災害シミュレーション部13を使って、n回の解析(シミュレーション)を行う(ステップS1)。災害シミュレーション部13は、解析結果を災害進展DB131として記憶部16へ保管する(ステップS2)。
【0035】
次に現場の計測機器・検知器1や防災機器2と制御装置10とをネットワーク接続する(ステップS3)。このとき、第二実施形態では、AI搭載済みカメラ1aと制御装置10のネットワーク接続も行う。次にユーザが一致度の設定を行い(ステップS4)、防災対策の設定を行う(ステップS5)。一致度の設定については、第一実施形態で説明した、(方法1)点の物理量を比較する、(方法2)面の物理量又は物理量の変化を比較する、に加え、AI(機械学習)に関する下記の(方法3)の設定を行ってもよく、ユーザの意向を反映した運用条件を設定することができる。
(方法3)AI搭載済みカメラ1aが撮影した画像とシミュレーション結果を比較して一致度を評価する。例えば、AI搭載済みカメラ1aのカメラが赤外線カメラの場合、AI搭載済みカメラ1aが撮影した画像からは、撮影対象空間の温度分布がわかる。一方、シミュレーション結果から撮影対象空間の温度分布を計算する。そして、AI搭載済みカメラ1aが撮影した画像が示す温度分布と、シミュレーション結果に基づく温度分布を比較して一致度を評価する。例えば、温度分布の標準偏差を比較してもよいし、平均値を比較してもよい。また、火炎の形状については、AI搭載済みカメラ1aで撮影した画像からAIが解析して得られた火炎形状とシミュレーション結果に含まれる火炎形状を比較して、形状の差(類似度)が所定の範囲内であれば一致度が高い解シミュレーション結果と評価してもよい。形状の類似度については、公知の任意の計算方法を適用することができる。
ユーザは、(方法1)~(方法3)の何れか1つ又は複数を、一致度の評価方法として設定する。これらの方法で一致と評価するための基準、例えば、AIの解析結果とシミュレーション結果を一致とみなすための閾値や範囲については、ユーザがどの程度保守的な運用にしたいか等を検討し、任意に設定することができる。ステップS1~S5により、防災システム100aが構築される。次に火災が発生する(ステップS6)。例えば、AI搭載済みカメラ1aは、自装置で撮影した画像からAI機能により火災や煙の発生を検知すると、その検知結果を制御装置10へ送信する。災害予測判定部14は、この検知結果に基づいて火災の発生を判定する。防災システム100aは、現場の状況を把握する(ステップS7)。計測機器・検知器1に加え、AI搭載済みカメラ1aは、自装置が撮影した画像および画像からAI機能によって火災や煙を検知した結果を制御装置10へ送信する。次に、災害予測判定部14は、一致度評価および解析結果探索を行う(ステップS8)。このとき、火災位置の特定には、AI搭載済みカメラ1aが特定した火災発生位置を用いてもよい。次に、防災システム100aは、火災進展予測および防災対策を実施する(ステップS9)。防災システム100aは、現場状況と予測を更新する(ステップS10)。
【0036】
次に、災害予測判定部14は、火災の終了等を判定する(ステップS11)。例えば、AI搭載済みカメラ1aは、自装置が撮影した画像に基づいて消火を判定すると、火災が消火されたことを制御装置10へ送信する。災害予測判定部14は、データ取得部11を通じて、火災が消火されたことを示す情報を取得すると、火災が終了したと判定する。火災が終了したと又は避難が完了したと判定された場合(ステップS11;Yes)、リアルタイム進展予測の処理を終了する(ステップS12)。そうでない場合、ステップS7以降の処理が繰り返し実行される。
【0037】
(効果)
以上説明したように、本実施形態によれば、第一実施形態の効果に加え、早期に火災を検知し、対策を行うことができるようになる。火災発生時、現場の計測機器・検知器1や防災機器2からの情報取得は、定点的な観測になるため、情報量が少ないことに加え、火災発生から火災の検知までタイムラグが生じてしまう(例えば、火災が発生しても、温度計の計測結果が上昇するのは、火災が拡大した後など)。これに対し、AI搭載済みカメラ1aを用いることで、カメラの撮影範囲に若干の火炎や煙が発生した段階で、早期に火災・煙を検知できる。一旦、火災が発生、拡大してしまうと、スプリンクラーを作動しても鎮火できないことがある。第二実施形態によれば、早期に火災・煙を検知できるため、火種の段階でスプリンクラーを作動させる等、防災の初動が早くなり、初期鎮火を実現できる可能性が高まる。また、カメラの撮影範囲全てから状況を取得できるため、リアルタイム火災進展の予測精度が向上する。
【0038】
<第三実施形態>
以下、本発明の第三実施形態による防災システム100bについて図6図8を参照して説明する。第一実施形態、第二実施形態では、災害の進展のみに着目して防災対策を実施することとしていたが、第三実施形態では、災害の進展シミュレーションを人の避難シミュレーションと連成させ、人の避難予測まで含めてデータベース化することで、火災時により適切な防災判断を下せるようにする。
【0039】
図6は、第三実施形態に係る防災システム100bの一例を示す機能ブロック図である。本発明の第三実施形態に係る構成のうち、本発明の第一実施形態、第二実施形態に係る防災システム100,100aを構成する機能部と同じものには同じ符号を付し、それぞれの説明を省略する。第三実施形態に係る防災システム100bは、第一実施形態の構成に加えて、AI搭載済みカメラ1bを備え、第一実施形態の災害シミュレーション部13に代えて、災害シミュレーション部13bを備えている。
【0040】
AI搭載済みカメラ1bは、カメラと、自装置が撮影した画像に基づいて画像から人の人数や混雑状況を検知するAI機能と、を備えている。AI機能については、例えば、人が写った膨大な数の画像を学習させ、機械学習や深層学習を用いて画像から人を検知し、人数や混雑状況を判定するモデルを構築して、これをAI機能に搭載する。AI機能は、構築したモデルに基づいて人数や混雑状況を判定する。また、AI搭載済みカメラ1bは、画像から人を検知した場合、人を検知した画像内の位置と当該カメラの撮影範囲の地図情報などから、人が存在する現実の位置を特定する機能を有していてもよい。また、AI搭載済みカメラ1bは、第二実施形態のAI搭載済みカメラ1aと同様の火災や煙を検知するAI機能、火災や煙が発生した現実の位置を特定する機能を有していてもよい。AI機能はカメラではなく、制御装置10に組み込んでもよい。学習の手法に限定は無い。
【0041】
災害シミュレーション部13bは、第一実施形態の災害シミュレーション部13の機能(災害進展シミュレーションと称する。)に加え、人が避難する様子をシミュレーションする機能と、避難シミュレーション結果と災害進展シミュレーション結果を統合、連成する機能を備える。避難シミュレーションについては、例えば、非特許文献1に開示がある。避難シミュレーションには任意の公知のシミュレータを用いることができる。災害進展シミュレーションだけの場合、時系列の災害の進展状況が計算される。これに対し、気象条件、火災位置、防災機器2の動作条件に加え、場所ごとの人数を初期条件として設定し、災害シミュレーション部13bによって、災害進展シミュレーションと避難シミュレーションを実行すると、災害の進展状況に加え、火災の進展に伴って各場所に存在する人がどのように移動するかを解析した結果が得られる。災害シミュレーション部13bは、気象条件、火災位置、防災機器2、場所ごとの人数を様々に異ならせた膨大なケース数のシミュレーション(CFDモデルに基づくシミュレーションと避難シミュレーション)を行い、その結果を連成(災害の進展状況に、人の移動を組み合わせて)させて災害進展DB131bに登録する。災害進展DB131bは、記憶部16や外部の記憶装置によって記憶される。
【0042】
(動作)
次に図7図8を参照して、防災システム100bの動作について説明する。図7は、第三実施形態に係る防災システム100bのシステム構築の流れおよび動作の一例を示すフローチャートである。図8は、第三実施形態に係る防災システム100bの構成の一例を示す図である。図7図8のS1~S11の符号は対応している。図2で説明した処理と同様の処理については簡単に説明する。
まず、災害シミュレーション部13bを使って、n回の解析(CFDモデルに基づく災害進展シミュレーションと避難シミュレーション)を行う(ステップS1)。災害シミュレーション部13bは、気象条件、出火位置、防災機器2の動作条件、場所ごとの人数に関し、考えられる限りそれらの条件を変更して、CFDモデルによる非定常解析と避難シミュレーションを膨大なケース数行う。場所ごとの人数に関してはある条件で固定してもよい。災害シミュレーション部13bは、火災の進展状況とそれに応じた人の移動を対応付けて(連成して)災害進展DB131bに登録する。災害シミュレーション部13bは、災害進展DB131bを記憶部16へ保管する(ステップS2)。
【0043】
次に現場の計測機器・検知器1や防災機器2と制御装置10とをネットワーク接続する(ステップS3)。このとき、第二実施形態では、AI搭載済みカメラ1bと制御装置10のネットワーク接続も行う。次にユーザが一致度の設定を行う(ステップS4)。第三実施形態の場合、第一実施形態、第三実施形態で説明した(方法1)~(方法3)に加えて、人が存在する場所や人数についての一致度の設定を行ってもよい。次にユーザが、避難予測に基づく防災対策の設定を行う(ステップS5)。第三実施形態の場合、温度等の評価だけでなく、人の混雑状況を判定基準として、防災機器2の作動条件を設定する。例えば、火災の進展状況だけを考慮するのであれば、火災が拡大する方向に位置するスプリンクラーを作動させるように防災対策の設定を行えばよい。しかし、その方向に人が避難する場合、スプリンクラーを作動させると人が水に濡れてしまう。そこで第三実施形態では、例えば、火災の進展方向であって、且つ、人の移動方向でなければその方向に設けられているスプリンクラーを早めに作動させたり防火扉を閉じたりし、火災の進展方向であって、且つ、人の移動方向であれば、避難が完了する想定される時間まで防火扉を開けたままとしスプリンクラーも作動しないといった設定を行う。これにより、避難者が存在するのに防火扉を閉として逃げ場が失われてしまう、避難中の人に向けて水を放出してしまうといった動作を防ぐことができる。
【0044】
次に火災が発生する(ステップS6)。防災システム100bは、現場の状況を把握する(ステップS7)。計測機器・検知器1に加え、AI搭載済みカメラ1bは、自装置が撮影した画像および画像からAI機能によって火災や煙、人数や混雑状況を検知し、検知した結果を制御装置10へ送信する。次に、災害予測判定部14は、一致度評価および解析結果探索を行う(ステップS8)。災害進展DB132bを参照する際には、災害予測判定部14は、気象条件、火災位置、動作条件に加え、AI搭載済みカメラ1bが特定した各場所に存在する人の人数、混雑状況などが近いシミュレーション結果を選択する。次に、防災システム100bは、火災進展予測、避難予測および防災対策を実施する(ステップS9)。災害予測判定部14は、選択したシミュレーション結果が示す数分先、10分先、・・・の各位置の温度や煙・ガス濃度、避難者を火災進展予測とし、数分先、10分先、・・・の各位置の各場所の人数を避難予測とする。制御部15は、災害予測判定部14による火災進展予測および避難予測と、ステップS5bで設定された避難予測に基づく防災対策の設定と、に基づいて防災機器2の動作を制御する。次に、防災システム100bは、現場状況と予測を更新する(ステップS10)。次に、災害予測判定部14は、火災の終了や避難の完了を判定する(ステップS11)。例えば、AI搭載済みカメラ1bは、自装置が撮影した画像に基づいて消火を判定すると、火災が消火されたことを制御装置10へ送信する。災害予測判定部14は、データ取得部11を通じて、火災が消火されたことを示す情報を取得すると、火災が終了したと判定する。例えば、AI搭載済みカメラ1bは、自装置が撮影した画像に基づいて各場所の人数を制御装置10へ送信する。災害予測判定部14は、データ取得部11を通じて、各場所の人数を取得し、例えば、対象エリアの各場所の人数が0人であれば、避難が完了したと判定する。火災が終了した、又は避難が完了したと判定された場合(ステップS11;Yes)、リアルタイム進展予測の処理を終了する(ステップS12)。そうでない場合、ステップS7以降の処理が繰り返し実行される。
【0045】
(効果)
以上説明したように、本実施形態によれば、第一実施形態の効果に加え、火災進展に加えて人の避難予測も行いデータベース化することで、火災時により適切な防災対策を実行することができる。
【0046】
なお、人の人数や混雑状況の検知に関しては、AI搭載済みカメラ1bに加え、又はAI搭載済みカメラ1bの代わりに人感センサー等を現場に設置し、人感センサー等の検知結果を制御装置10へ送信して判断するようにしてもよい。さらに、人の避難シミュレーション結果は、VR(Virtual Reality)技術などで可視化して、避難予測に基づく防災対策の設定を行ってもよい。VRによって実際の人流を仮想空間上で体験しながら、防災対策を評価することで、より効果的な防災対策の策定が期待できる。
【0047】
以上説明したように、第一実施形態~第三実施形態によれば、精度が高い災害進展予測結果をリアルタイムで参照することができ、進展状況に応じた所望の防災対策を実施することができる。
【0048】
図9は、各実施形態に係る制御装置のハードウェア構成の一例を示す図である。コンピュータ900は、CPU901、主記憶装置902、補助記憶装置903、入出力インタフェース904、通信インタフェース905を備える。上述の制御装置10は、コンピュータ900に実装される。そして、上述した各機能は、プログラムの形式で補助記憶装置903に記憶されている。CPU901は、プログラムを補助記憶装置903から読み出して主記憶装置902に展開し、当該プログラムに従って上記処理を実行する。また、CPU901は、プログラムに従って、記憶領域を主記憶装置902に確保する。また、CPU901は、プログラムに従って、処理中のデータを記憶する記憶領域を補助記憶装置903に確保する。
【0049】
制御装置10の全部または一部の機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより各機能部による処理を行ってもよい。ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータシステム」は、WWWシステムを利用している場合であれば、ホームページ提供環境(あるいは表示環境)も含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、CD、DVD、USB等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。また、このプログラムが通信回線によってコンピュータ900に配信される場合、配信を受けたコンピュータ900が当該プログラムを主記憶装置902に展開し、上記処理を実行しても良い。また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良く、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよい。
【0050】
以上のとおり、本開示に係るいくつかの実施形態を説明したが、これら全ての実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することを意図していない。これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態及びその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。なお、計測機器・検知器1が検知、計測する情報は計測情報の一例である。防災対象施設は、対象エリアの一例である。
【0051】
<付記>
各実施形態に記載の制御装置、防災システム、制御方法及びプログラムは、例えば以下のように把握される。
【0052】
(1)第1の態様に係る制御装置10は、対象エリアの状況を計測した計測情報と、防災機器の動作状態を示す動作情報とを取得するデータ取得部11と、前記対象エリアの状況と前記防災機器の動作状態に応じて災害がどのように進展するかを解析した解析結果が登録されたデータベース(災害進展DB131)と、前記対象エリアで災害が発生したときに、前記計測情報と、前記動作情報と、前記データベースと、に基づいて、前記災害の進展を予測する予測部(災害予測判定部14)と、前記予測部による前記災害の進展の予測結果と、前記災害の状況に応じてどのように前記防災機器を動作させるかを定めた防災対策設定情報と、基づいて、前記防災機器の動作を制御する制御部15と、を備える。
これにより、災害現場の状況に応じて精度よく災害の進展予測を行い、その予測に基づいて防災機器を動作させることができる。
【0053】
(2)第2の態様に係る制御装置は、(1)の制御装置であって、前記災害の状況と前記防災機器の動作状態に応じて前記災害がどのように進展するかを解析するシミュレーション部、をさらに備える。
これにより、精度よく災害の進展予測を行うことができるようになる。
【0054】
(3)第3の態様に係る制御装置は、(1)~(2)の制御装置であって、前記防災対策設定情報の設定を受け付ける受付部、をさらに備える。
これにより、所望の状況で防災機器を作動することができる。
【0055】
(4)第4の態様に係る制御装置は、(1)~(3)の制御装置であって、前記災害が発生した後も、前記データ取得部は、繰り返し、最新の前記計測情報および前記動作情報を取得し、前記予測部は、最新の前記計測情報および前記動作情報と、前記データベースと、に基づいて、前記災害の進展の予測を更新し、前記制御部は、更新された前記災害の進展の予測と前記防災対策設定情報とに基づいて、前記防災機器の動作を制御する。
これにより、状況の変化に応じた災害予測が可能になる。
【0056】
(5)第5の態様に係る制御装置は、(1)~(3)の制御装置であって、災害の状況と前記防災機器の動作状態に応じて前記災害がどのように進展し、人がどのように移動するかを解析した解析結果が登録された第2のデータベース(災害進展DB131b)、をさらに備え、前記データ取得部は、前記対象エリアに存在する人の人数と存在する場所を含む避難者情報を取得し、前記予測部は、前記計測情報と、前記動作情報と、前記避難者情報と、前記第2のデータベースと、に基づいて、前記災害の進展と前記避難者情報に含まれる前記人の移動を予測し、前記制御部は、前記予測部による前記災害の進展および前記人の移動の予測結果と、前記災害の状況と前記人の移動に応じてどのように前記防災機器を動作させるかを定めた第2の防災対策設定情報と、基づいて、前記防災機器の動作を制御する。
これにより、災害の進展状況だけではなく、人の移動に応じた防災対策を行うことができる。
【0057】
(6)第6の態様に係る制御装置は、(1)~(5)の制御装置であって、前記予測部は、様々な計測点で計測された前記計測情報(温度計などの計測値、AI搭載済みカメラ1aが撮影した画像、人感センサーの検知結果など)および/又は前記計測情報の統計値と、前記データベースに記録された前記解析結果と比較して、前記計測情報と一致度が最も高い前記解析結果を選択し、選択した前記解析結果が示すように、前記災害が進展すると予測する、
これにより、現実との一致度が高い解析結果を選択し、選択した前記解析結果に基づいて精度よく災害の進展予測を行うことができる。
【0058】
(7)第7の態様に係る防災システムは、対象エリアの状況を計測する計測機器と、防災機器と、(1)~(6)の制御装置と、を備える。
これにより、災害現場の状況に応じて精度よく災害の進展予測を行い、その予測に基づいて防災機器を動作させることができる。
【0059】
(8)第8の態様に係る防災システムは、(6)の防災システムであって、対象エリアを撮影するカメラと、前記カメラが撮影した画像から火災又は煙を検知する手段と、をさらに備える。
これにより、より早期に火災を検知し、防災対策を実行することができる。
【0060】
(9)第9の態様に係る防災システムは、対象エリアの状況を計測する計測機器と、前記対象エリアに存在する人を検知する手段と、防災機器と、(5)の制御装置と、を備える。
これにより、災害の進展状況だけではなく、人の移動に応じた防災対策を行うことができる。
【0061】
(10)第10の態様に係る制御方法は、対象エリアの状況を計測した計測情報と、防災機器の動作状態を示す動作情報とを取得するステップと、前記対象エリアで災害が発生したときに、前記計測情報と、前記動作情報と、前記対象エリアの状況と前記防災機器の動作状態に応じて前記災害がどのように進展するかを解析した解析結果が登録されたデータベースとに基づいて、前記災害の進展を予測するステップと、前記予測するステップによる前記災害の進展の予測結果と、前記災害の状況に応じてどのように前記防災機器を動作させるかを定めた防災対策設定情報と、基づいて、前記防災機器の動作を制御するステップと、を有する。
【0062】
(11)第11の態様に係るプログラムは、コンピュータに、対象エリアの状況を計測した計測情報と、防災機器の動作状態を示す動作情報とを取得するステップと、前記対象エリアで災害が発生したときに、前記計測情報と、前記動作情報と、前記対象エリアの状況と前記防災機器の動作状態に応じて前記災害がどのように進展するかを解析した解析結果が登録されたデータベースとに基づいて、前記災害の進展を予測するステップと、前記予測するステップによる前記災害の進展の予測結果と、前記災害の状況に応じてどのように前記防災機器を動作させるかを定めた防災対策設定情報と、基づいて、前記防災機器の動作を制御するステップと、を実行させる。
【符号の説明】
【0063】
100、100a、100b・・・防災システム
1・・・計測機器・検知器
1a、1b・・・AI搭載済みカメラ
2・・・防災機器
10・・・制御装置
11・・・データ取得部
12・・・入力受付部
13・・・災害シミュレーション部
131、131b・・・災害進展データベース(DB)
14・・・災害予測判定部
15・・・制御部
16・・・記憶部
900・・・コンピュータ
901・・・CPU
902・・・主記憶装置
903・・・補助記憶装置
904・・・入出力インタフェース
905・・・通信インタフェース
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9