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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024135810
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】円すいころ軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/46 20060101AFI20240927BHJP
   F16C 19/36 20060101ALI20240927BHJP
   B62D 55/12 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
F16C33/46
F16C19/36
B62D55/12 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023046685
(22)【出願日】2023-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(72)【発明者】
【氏名】川井 崇
(72)【発明者】
【氏名】武川 起子
【テーマコード(参考)】
3J701
【Fターム(参考)】
3J701AA16
3J701AA25
3J701AA32
3J701AA42
3J701AA54
3J701AA62
3J701BA34
3J701BA44
3J701BA49
3J701BA50
3J701EA31
3J701EA36
3J701EA37
3J701EA47
3J701EA76
3J701FA02
3J701FA31
3J701GA51
3J701XB03
3J701XB13
3J701XB14
3J701XB23
3J701XB26
(57)【要約】
【課題】建機スプロケット用円すいころ軸受として使用したときに高い耐久性を有する円すいころ軸受を提供する。
【解決手段】円すいころ4の本数が40本以上である円すいころ軸受において、ころ充填率γ%が70%以上89%未満であり、保持器5の軸方向幅をW、保持器5の大径側環状部13の外径をDc、柱部15の小径側端部の周方向幅をP1、柱部15の大径側端部の周方向幅をP2、円すいころ4の本数をZとしたときに、A=(W×Dc)/(P1×P2×Z)で定義される特性値Aが2.0以上8.0以下である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外輪(2)と、
前記外輪(2)の径方向内側に配置された内輪(3)と、
前記外輪(2)と前記内輪(3)の間に周方向に間隔をおいて組み込まれた複数の円すいころ(4)と、
前記複数の円すいころ(4)を保持する保持器(5)と、を備え、
前記保持器(5)は、前記複数の円すいころ(4)の大端面(12)に沿って周方向に延びる大径側環状部(13)と、前記複数の円すいころ(4)の小端面(11)に沿って周方向に延びる小径側環状部(14)と、周方向に隣り合う前記円すいころ(4)の間を通って前記大径側環状部(13)と前記小径側環状部(14)とを連結する複数の柱部(15)とを有し、
前記円すいころ(4)の外周には、前記外輪(2)および前記内輪(3)に転がり接触する円すい状のころ転動面(10)が形成され、
前記複数の円すいころ(4)の本数が40本以上である円すいころ軸受において、
前記ころ転動面(10)の大径側端部の直径と小径側端部の直径とを平均したころ径をDa(mm)、前記複数の円すいころ(4)の本数をZ(本)、前記複数の円すいころ(4)のピッチ円直径をPCD(mm)としたときに、γ=(Da×Z)×100/(π×PCD)で定義されるころ充填率γ(%)が70%以上89%未満であり、
前記保持器(5)の軸方向幅をW(mm)、前記保持器(5)の前記大径側環状部(13)の外径をDc(mm)、前記柱部(15)の小径側端部の周方向幅をP1(mm)、前記柱部(15)の大径側端部の周方向幅をP2(mm)としたときに、A=(W×Dc)/(P1×P2×Z)で定義される特性値Aが2.0以上8.0以下であることを特徴とする円すいころ軸受。
【請求項2】
外輪(2)と、
前記外輪(2)の径方向内側に配置された内輪(3)と、
前記外輪(2)と前記内輪(3)の間に周方向に間隔をおいて組み込まれた複数の円すいころ(4)と、
前記複数の円すいころ(4)を保持する保持器(5)と、を備え、
前記保持器(5)は、前記複数の円すいころ(4)の大端面(12)に沿って周方向に延びる大径側環状部(13)と、前記複数の円すいころ(4)の小端面(11)に沿って周方向に延びる小径側環状部(14)と、周方向に隣り合う前記円すいころ(4)の間を通って前記大径側環状部(13)と前記小径側環状部(14)とを連結する複数の柱部(15)とを有し、
前記外輪(2)の内周には、前記複数の円すいころ(4)が転がり接触する円すい状の外輪軌道面(6)が形成され、
前記円すいころ(4)の外周には、前記外輪(2)および前記内輪(3)に転がり接触する円すい状のころ転動面(10)が形成され、
前記保持器(5)の前記小径側環状部(14)に、前記各円すいころ(4)の小端面(11)に対向する小径側ポケット面(18)が形成され、
前記複数の円すいころ(4)の本数が40本以上である円すいころ軸受において、
前記ころ転動面(10)の大径側端部の直径と小径側端部の直径とを平均したころ径をDa(mm)、前記複数の円すいころ(4)の本数をZ(本)、前記複数の円すいころ(4)のピッチ円直径をPCD(mm)としたときに、γ=(Da×Z)×100/(π×PCD)で定義されるころ充填率γ(%)が70%以上89%未満であり、
前記小径側ポケット面(18)の径方向外端から前記外輪軌道面(6)までの距離をG(mm)、前記保持器(5)の前記大径側環状部(13)の外径をDc(mm)としたときに、B=Dc/Gで定義される特性値Bが100以上150以下であることを特徴とする円すいころ軸受。
【請求項3】
前記内輪(3)の外周には、前記円すいころ(4)の大端面(12)が滑りを伴って接触する大つば(9)が形成され、
前記ころ転動面(10)には、前記ころ転動面(10)の全体が断面凸円弧状となるようにフルクラウニングが施され、
前記フルクラウニングの円弧の頂点位置(C)が前記ころ転動面(10)の円すいころ(4)の長さ方向の中心に対して前記大端面(12)の側にずれている請求項1または2に記載の円すいころ軸受。
【請求項4】
前記ころ径Daが19mm以下であり、
前記複数の円すいころ(4)のピッチ円直径PCDが200mm以上である請求項1または2に記載の円すいころ軸受。
【請求項5】
前記円すいころ(4)の小端面(11)に対応する位置での前記外輪(2)の径方向厚さをT1(mm)、前記円すいころ(4)の大端面(12)に対応する位置での前記外輪(2)の径方向厚さをT2(mm)、前記内輪(3)の内周から前記外輪(2)の外周までの径方向寸法である軸受高さをH(mm)としたときに、前記径方向厚さT1が前記軸受高さHの30%以上45%以下であり、前記径方向厚さT2が前記軸受高さHの10%以上20%以下である請求項1または2に記載の円すいころ軸受。
【請求項6】
前記大径側環状部(13)に、前記各円すいころ(4)の大端面(12)に対向する大径側ポケット面(17)が形成され、
前記円すいころ(4)の大端面(12)と前記大径側ポケット面(17)との間の隙間δの大きさが0.6mm未満である請求項1または2に記載の円すいころ軸受。
【請求項7】
建設機械のクローラ(23)を駆動するクローラ駆動スプロケット(20)の支持に用いられる請求項1または2に記載の円すいころ軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、円すいころ軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
建設機械の下部走行体として、不整地でも安定して走行することができるようにクローラ(履帯)を使用したものが広く知られている。クローラは、下部走行体の進行方向の一端に設けられたクローラ駆動スプロケットと、下部走行体の進行方向の他端に設けられた従動スプロケットとの間に掛け回して設けられ、クローラ駆動スプロケットを回転させることで循環駆動される。
【0003】
このクローラ駆動スプロケットの回転駆動装置は、油圧モータを収容する固定ハウジングと、固定ハウジングの外周に設けた軸受で回転可能に支持される回転ハウジングと、その回転ハウジングに収容された減速機とを有する。回転ハウジングの外周にはクローラ駆動スプロケットが固定されている。油圧モータを作動させると、その油圧モータの回転が減速機で減速されて回転ハウジングに伝達し、回転ハウジングと一体にクローラ駆動スプロケットが回転する。
【0004】
ここで、クローラ駆動スプロケットを支持する軸受(回転ハウジングを回転可能に支持する軸受)は、ラジアル荷重とスラスト荷重の両方の荷重を受けることから、円すいころ軸受が使用されることが多い(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
この円すいころ軸受(以下「建機スプロケット用円すいころ軸受」という)は、過酷なモーメント荷重に耐えることができるようにするため、特許文献1の図5のように、円すいころのピッチ円直径が大きく、一方、円すいころのころ径は小さく設定され、そのため一般的な用途に使用される円すいころ軸受よりも円すいころの本数が多く、円すいころの本数が40本以上となっている。
【0006】
また、建機スプロケット用円すいころ軸受は、大きな荷重が負荷されることから、軸受の耐久性を確保するため、90%以上のころ充填率をもつように設計される。ころ充填率γは、円すいころの本数をZ、円すいころのころ径をDa、円すいころのピッチ円直径をPCDとしたときに、γ=(Da×Z)×100/(π×PCD)で定義される値である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007-127269号公報(図5図13
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本願の発明者らは、建機スプロケット用円すいころ軸受の耐久性を向上させることを検討した。その検討の結果、建機スプロケット用円すいころ軸受においては、円すいころのスキュー(円すいころがその進行方向に対して傾斜する現象)が生じることによって保持器に大きな負荷がかかりやすいことから、ころ充填率を従来よりも低く設定すれば、保持器の剛性が向上し、建機スプロケット用円すいころ軸受の全体としての耐久性を高めることが可能となるという着想を得た。
【0009】
すなわち、建機スプロケット用円すいころ軸受は、低速かつ高荷重の条件で使用される。そのため、円すいころのスキューが生じやすく、そのスキューにより円すいころを保持する保持器に負荷がかかり、保持器の耐久性が低下する場合がある。一方、ころ充填率を従来よりも低く設定すれば、その分、保持器の柱部の周方向幅が大きくなるので、保持器の剛性が向上し、保持器の耐久性を高めることが可能となる。ここで、ころ充填率を低く設定した場合、外輪、内輪、円すいころに作用する面圧が高くなり、軸受の転がり疲労寿命の低下が懸念されるが、円すいころの本数および円すいころのピッチ円直径の大きさが確保されていれば、クローラ駆動スプロケットを支持して使用したときに、外輪、内輪、円すいころの耐久性を確保できる。そのため、ころ充填率を従来よりも低く設定すれば、建機スプロケット用円すいころ軸受の全体としての耐久性を高めることが可能となるという着想を得た。
【0010】
この発明が解決しようとする課題は、建機スプロケット用円すいころ軸受として使用したときに高い耐久性を有する円すいころ軸受を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するため、この発明では、以下の構成の円すいころ軸受を提供する。
[構成1]
外輪と、
前記外輪の径方向内側に配置された内輪と、
前記外輪と前記内輪の間に周方向に間隔をおいて組み込まれた複数の円すいころと、
前記複数の円すいころを保持する保持器と、を備え、
前記保持器は、前記複数の円すいころの大端面に沿って周方向に延びる大径側環状部と、前記複数の円すいころの小端面に沿って周方向に延びる小径側環状部と、周方向に隣り合う前記円すいころの間を通って前記大径側環状部と前記小径側環状部とを連結する複数の柱部とを有し、
前記円すいころの外周には、前記外輪および前記内輪に転がり接触する円すい状のころ転動面が形成され、
前記複数の円すいころの本数が40本以上である円すいころ軸受において、
前記ころ転動面の大径側端部の直径と小径側端部の直径とを平均したころ径をDa(mm)、前記複数の円すいころの本数をZ(本)、前記複数の円すいころのピッチ円直径をPCD(mm)としたときに、γ=(Da×Z)×100/(π×PCD)で定義されるころ充填率γ(%)が70%以上89%未満であり、
前記保持器の軸方向幅をW(mm)、前記保持器の前記大径側環状部の外径をDc(mm)、前記柱部の小径側端部の周方向幅をP1(mm)、前記柱部の大径側端部の周方向幅をP2(mm)としたときに、A=(W×Dc)/(P1×P2×Z)で定義される特性値Aが2.0以上8.0以下であることを特徴とする円すいころ軸受。
【0012】
この構成を採用すると、ころ充填率γ(%)が89%未満に設定されているので、その分、保持器の柱部の周方向幅を大きくすることができ、保持器の剛性を高めることができる。また、保持器のサイズを示す(W×Dc)を、柱部の周方向幅と柱部の本数(P1×P2×Z)で除した特性値Aが、8.0以下となるように保持器の寸法が設定されているので、低速かつ高荷重の建機スプロケット用円すいころ軸受として使用したときにも、保持器の剛性を確保することができる。また、特性値Aが2.0以上となるように保持器の寸法が設定されているので、保持器の柱部の周方向幅が保持器のサイズに対して過大とはならない。
【0013】
[構成2]
外輪と、
前記外輪の径方向内側に配置された内輪と、
前記外輪と前記内輪の間に周方向に間隔をおいて組み込まれた複数の円すいころと、
前記複数の円すいころを保持する保持器と、を備え、
前記保持器は、前記複数の円すいころの大端面に沿って周方向に延びる大径側環状部と、前記複数の円すいころの小端面に沿って周方向に延びる小径側環状部と、周方向に隣り合う前記円すいころの間を通って前記大径側環状部と前記小径側環状部とを連結する複数の柱部とを有し、
前記外輪の内周には、前記複数の円すいころが転がり接触する円すい状の外輪軌道面が形成され、
前記円すいころの外周には、前記外輪および前記内輪に転がり接触する円すい状のころ転動面が形成され、
前記保持器の前記小径側環状部に、前記各円すいころの小端面に対向する小径側ポケット面が形成され、
前記複数の円すいころの本数が40本以上である円すいころ軸受において、
前記ころ転動面の大径側端部の直径と小径側端部の直径とを平均したころ径をDa(mm)、前記複数の円すいころの本数をZ(本)、前記複数の円すいころのピッチ円直径をPCD(mm)としたときに、γ=(Da×Z)×100/(π×PCD)で定義されるころ充填率γ(%)が70%以上89%未満であり、
前記小径側ポケット面の径方向外端から前記外輪軌道面までの距離をG(mm)、前記保持器の前記大径側環状部の外径をDc(mm)としたときに、B=Dc/Gで定義される特性値Bが100以上150以下であることを特徴とする円すいころ軸受。ここで、前記距離Gは、前記保持器の前記小径側ポケット面を前記円すいころの小端面に接触させた状態で、前記小径側ポケット面の径方向外端からその直上の外輪軌道面までの隙間(半径方向の隙間)の大きさである。
【0014】
この構成を採用すると、ころ充填率γ(%)が89%未満に設定されているので、その分、保持器の柱部の周方向幅を大きくすることができ、保持器の剛性を高めることができる。また、保持器の大径側環状部の外径Dcを、保持器と外輪の隙間の大きさを示すGで除した特性値Bが100以上となるように保持器の外径寸法が設定されているので、保持器の外周が外輪軌道面に近い。そのため、保持器の柱部の周方向幅が大きくなり、保持器の剛性を効果的に高めることが可能である。また、特性値Bが150以下に設定されているので、保持器の外周と外輪軌道面の間の隙間が狭くなりすぎず、保持器の弾性変形時に保持器が外輪軌道面に接触するのを防止することができる。
【0015】
[構成3]
前記内輪の外周には、前記円すいころの大端面が滑りを伴って接触する大つばが形成され、
前記ころ転動面には、前記ころ転動面の全体が断面凸円弧状となるようにフルクラウニングが施され、
前記フルクラウニングの円弧の頂点位置が前記ころ転動面の円すいころの長さ方向の中心に対して前記大端面の側にずれている構成1または2に記載の円すいころ軸受。
【0016】
この構成を採用すると、円すいころの外周のころ転動面にフルクラウニングが施され、そのフルクラウニングの頂点位置が大端面の側にずれているので、円すいころの大端面と内輪の大つばとの間の滑り抵抗を低く抑えることができ、円すいころのスキュー(円すいころがその進行方向に対して傾斜する現象)が生じにくくなる。そのため、低速かつ高荷重の条件で使用されたときにも、円すいころのスキューによる保持器の負荷を効果的に低減することが可能となる。
【0017】
[構成4]
前記ころ径Daが19mm以下であり、
前記複数の円すいころのピッチ円直径PCDが200mm以上である構成1から3のいずれかに記載の円すいころ軸受。
【0018】
この構成を採用すると、建機スプロケット用円すいころ軸受の用途に好適である。
【0019】
[構成5]
前記円すいころの小端面に対応する位置での前記外輪の径方向厚さをT1(mm)、前記円すいころの大端面に対応する位置での前記外輪の径方向厚さをT2(mm)、前記内輪の内周から前記外輪の外周までの径方向寸法である軸受高さをH(mm)としたときに、前記径方向厚さT1が前記軸受高さHの30%以上45%以下であり、前記径方向厚さT2が前記軸受高さHの10%以上20%以下である構成1から4のいずれかに記載の円すいころ軸受。
【0020】
この構成を採用すると、外輪の剛性を確保することができる。
【0021】
[構成6]
前記大径側環状部に、前記各円すいころの大端面に対向する大径側ポケット面が形成され、
前記円すいころの大端面と前記大径側ポケット面との間の隙間δの大きさが0.6mm未満である構成1から5のいずれかに記載の円すいころ軸受。
【0022】
この構成を採用すると、円すいころのスキューを保持器で効果的に抑制することが可能となる。
【0023】
[構成7]
建設機械のクローラを駆動するクローラ駆動スプロケットの支持に用いられる構成1から6のいずれかに記載の円すいころ軸受。
【発明の効果】
【0024】
第1の発明の円すいころ軸受は、ころ充填率γ(%)が89%未満に設定されているので、その分、保持器の柱部の周方向幅を大きくすることができ、保持器の剛性を高めることができる。また、保持器のサイズを示す(W×Dc)を、柱部の周方向幅と柱部の本数(P1×P2×Z)で除した特性値Aが、8.0以下となるように保持器の寸法が設定されているので、低速かつ高荷重の建機スプロケット用円すいころ軸受として使用したときにも、保持器の剛性を確保することができる。そのため、建機スプロケット用円すいころ軸受として使用したときに高い耐久性を得ることが可能である。
【0025】
第2の発明の円すいころ軸受も、ころ充填率γ(%)が89%未満に設定されているので、その分、保持器の柱部の周方向幅を大きくすることができ、保持器の剛性を高めることができる。また、保持器の大径側環状部の外径Dcを、保持器と外輪の隙間の大きさを示すGで除した特性値Bが100以上となるように保持器の外径寸法が設定されているので、保持器の外周が外輪軌道面に近い。そのため、保持器の柱部の周方向幅が大きくなり、保持器の剛性を効果的に高めることが可能である。そのため、建機スプロケット用円すいころ軸受として使用したときに高い耐久性を得ることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】この発明の第1実施形態の円すいころ軸受のアキシアル平面に沿った断面図
図2図1の保持器を拡大して示す図
図3図2のIII-III線に沿った断面図
図4図2のIV-IV線に沿った断面図
図5図1に示す円すいころの外周に施したクラウニングを誇張して示す図
図6】この発明の第2実施形態の円すいころ軸受のアキシアル平面に沿った断面図
図7図6の保持器を拡大して示す図
図8図7のVIII-III線に沿った断面図
図9図7のIX-IX線に沿った断面図
図10図1(または図6)に示す円すいころ軸受を組み込んだクローラ駆動スプロケットの回転駆動装置を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0027】
図1に、この発明の第1実施形態の円すいころ軸受1を示す。この円すいころ軸受1は、外輪2と、外輪2の径方向内側に同軸に配置された内輪3と、外輪2と内輪3の間に周方向に間隔をおいて組み込まれた複数の円すいころ4と、複数の円すいころ4を保持する環状の保持器5とを有する。
【0028】
外輪2の内周には、円すいころ4が転がり接触する円すい状の外輪軌道面6が形成されている。内輪3の外周には、円すいころ4が転がり接触する円すい状の内輪軌道面7と、内輪軌道面7の小径側端部から径方向外方に突出する小つば8と、内輪軌道面7の大径側端部から径方向外方に突出する大つば9とが形成されている。
【0029】
円すいころ4の外周には、外輪軌道面6および内輪軌道面7に転がり接触する円すい状のころ転動面10が形成されている。また、円すいころ4の小径端には、内輪3の小つば8と対向する小端面11が形成され、円すいころ4の大径端には、内輪3の大つば9と対向する大端面12が形成されている。
【0030】
内輪軌道面7と外輪軌道面6は、円すいころ4を間に挟んで径方向に対向している。外輪軌道面6と内輪軌道面7は、内輪3の中心線上に位置する共通の一点Oで交わる円すい面である。軸受回転時、各円すいころ4は外輪軌道面6と内輪軌道面7の間で内輪3の中心線まわりに公転しながら自転する。小つば8は、円すいころ4が小径側に移動するのを規制し、円すいころ4が内輪軌道面7から脱落するのを防止する。大つば9は、軸受回転時に円すいころ4の大端面12と滑りを伴って接触し、アキシアル荷重の一部を支持する。
【0031】
保持器5は、各円すいころ4の大端面12に沿って周方向に延びる大径側環状部13と、各円すいころ4の小端面11に沿って周方向に延びる小径側環状部14と、周方向に隣り合う円すいころ4の間を通って大径側環状部13と小径側環状部14とを連結する複数の柱部15とを有する。
【0032】
大径側環状部13と小径側環状部14と複数の柱部15は、複数の円すいころ4をそれぞれ収容する複数のポケット16を区画している。ここで、大径側環状部13と小径側環状部14はポケット16の軸方向の両端を区画し、柱部15はポケット16の周方向の両端を区画している。大径側環状部13には、円すいころ4の大端面12に対向する大径側ポケット面17が形成され、小径側環状部14には、円すいころ4の小端面11に対向する小径側ポケット面18が形成されている。
【0033】
保持器5を構成する大径側環状部13と小径側環状部14と複数の柱部15は、樹脂材に繊維強化材を添加した樹脂組成物で一体に形成されている。樹脂組成物のベースとなる樹脂材としては、ポリアミド66(PA66)、ポリアミド46(PA46)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリノナメチレンテレフタルアミド(PA9T)、ポリアミド10T(PA10T)等を使用することができる。樹脂材に添加する繊維強化材としては、ガラス繊維、カーボン繊維、アラミド繊維等を採用することができる。
【0034】
この円すいころ軸受1は、円すいころ4のころ充填率γが70%以上(好ましくは75%以上)89%未満(好ましくは85%以下、より好ましくは80%以下)に設定されている。ころ充填率γは、円すいころ4のころ径をDa(mm)、円すいころ4の本数をZ(本)、円すいころ4のピッチ円直径をPCD(mm)としたときに、γ=(Da×Z)×100/(π×PCD)で定義される値である。
【0035】
ここで、ころ径Daは、ころ転動面10の大径側端部の直径と小径側端部の直径とを平均した値である。また、円すいころ4のピッチ円直径PCDは、外輪2と内輪3と円すいころ4とを正規の位置(外輪軌道面6ところ転動面10の間に隙間が無く、内輪軌道面7ところ転動面10との間にも隙間が無く、円すいころ4の大端面12が大つば9に接触する位置。以下同じ)に配置した状態で、複数の円すいころ4のころ径Daの部分の中心を結ぶ仮想円の直径である。
【0036】
ころ径Daは19mm以下(好ましくは12mm以下)に設定され、円すいころ4のピッチ円直径PCDは200mm以上に設定されている。すなわち、この円すいころ軸受1は、過酷なモーメント荷重に耐えることができるようにするため、円すいころ4のピッチ円直径PCDが大きく、一方、円すいころ4のころ径Daは小さく設定され、そのため一般的な用途に使用される円すいころ軸受よりも円すいころ4の本数Zが多く、円すいころ4の本数が40本以上(好ましくは50本以上)となっている。
【0037】
保持器5は、保持器5の軸方向幅をW(mm)、保持器5の大径側環状部13の外径をDc(mm)、図4に示す柱部15の小径側端部の周方向幅をP1(mm)、図3に示す柱部15の大径側端部の周方向幅をP2(mm)としたときに、A=(W×Dc)/(P1×P2×Z)で定義される特性値Aが2.0以上8.0以下となるように保持器5の各部位の寸法が設定されている。柱部15の本数は、円すいころ4の本数Zと同じである。
【0038】
ここで、図1に示すように、保持器5の軸方向幅Wは、小径側環状部14の円すいころ4の側とは反対側(図では左側)の軸方向端面から、大径側環状部13の円すいころ4の側とは反対側(図では右側)の軸方向端面までの軸方向の距離である。
【0039】
また、保持器5は、保持器5と外輪軌道面6の距離をG(mm)、保持器5の大径側環状部13の外径をDc(mm)としたときに、B=Dc/Gで定義される特性値Bが100以上(好ましくは120以上)150以下となるように保持器5の各部位の寸法が設定されている。ここで、保持器5と外輪軌道面6の距離Gは、外輪2と内輪3と円すいころ4とを正規の位置に配置し、保持器5の小径側ポケット面18と円すいころ4の小端面11に接触させた状態で、小径側ポケット面18の径方向外端から外輪軌道面6までの距離(小径側ポケット面18の径方向外端から外輪軌道面6に下ろした垂線の長さ)である。
【0040】
また、保持器5は、外輪2と内輪3と円すいころ4とを正規の位置に配置し、保持器5の小径側ポケット面18と円すいころ4の小端面11に接触させた状態で、円すいころ4の大端面12と大径側ポケット面17との間の隙間δの大きさ(円すいころ4の軸線方向に測った隙間δの大きさ)が0.01mm以上0.6mm未満となるように形成されている。これにより、円すいころ4のスキュー(円すいころ4がその進行方向に対して傾斜する現象)を保持器5で抑制することが可能となっている。
【0041】
外輪軌道面6の軸受中心に対する傾斜角θは10°以上22.5°以下に設定されている。外輪2は、円すいころ4の小端面11に対応する位置での外輪2の径方向厚さをT1(mm)、円すいころ4の大端面12に対応する位置での外輪2の径方向厚さをT2(mm)、内輪3の内周から外輪2の外周までの径方向寸法である軸受高さをH(mm)としたときに、径方向厚さT1が軸受高さHの30%以上45%以下であり、径方向厚さT2が軸受高さHの10%以上20%以下となるように形成されている。これにより、外輪2の剛性が確保されている。内輪軌道面7の軸受中心に対する傾斜角は、12.5°以上20°以下に設定されている。
【0042】
図5に示すように、ころ転動面10には、ころ転動面10の全体が断面凸円弧状となるようにフルクラウニングが施されている。そして、このフルクラウニングは、円弧の頂点位置Cが、円すいころ4の長さ方向の中心に対して大端面12の側(図では左側)にずれるように形成されている。円すいころ4の長さ方向の中心に対するクラウニングの頂点位置Cのずれ量は、円すいころ4のころ長さLの10%以上20%以下に設定されている。
【0043】
ここで、フルクラウニングの円弧の頂点位置Cは、外輪2と内輪3と円すいころ4とを正規の位置に配置した状態で、ころ転動面10が内輪軌道面7に接する位置である。図では、ころ転動面10のクラウニングを誇張して示しているが、実際のクラウニングはドロップ量(クラウニングを施す前の理想的な円すい面に対する両端での落ち込み量)が1μm以上40μm以下(好ましくは3μm以上40μm以下)程度の微小なものである。
【0044】
図10に、上記の円すいころ軸受1を使用したクローラ駆動スプロケット20の回転駆動装置を示す。この回転駆動装置は、油圧モータ(図示せず)を収容する固定ハウジング21と、固定ハウジング21の外周に装着した円すいころ軸受1と、円すいころ軸受1で回転可能に支持される回転ハウジング22と、回転ハウジング22に収容された遊星歯車減速機(図示せず)とを有する。回転ハウジング22の外周にはクローラ駆動スプロケット20が固定され、そのクローラ駆動スプロケット20に建設機械のクローラ23(履帯)が巻き掛けられている。この回転駆動装置は、固定ハウジング21に収容された油圧モータ(図示せず)を作動させると、その油圧モータの回転が回転ハウジング22に収容された遊星歯車減速機(図示せず)で減速されて回転ハウジング22に伝達し、回転ハウジング22と一体にクローラ駆動スプロケット20が回転する。
【0045】
ところで、図10に示すように、建設機械のクローラ23を駆動するクローラ駆動スプロケット20の支持に用いられる円すいころ軸受1は、大きな荷重が負荷されることから、軸受の耐久性を確保するため、従来、90%以上のころ充填率をもつように設計されていた。一方、建設機械のクローラ23を駆動するクローラ駆動スプロケット20の支持に用いられる円すいころ軸受1は、低速かつ高荷重の条件で使用されるため、円すいころ4のスキュー(円すいころ4がその進行方向に対して傾斜する現象)が生じやすく、そのスキューにより円すいころ4を保持する保持器5に負荷がかかり、保持器5の耐久性が低下する場合がある。
【0046】
この問題に対し、この実施形態の円すいころ軸受1は、ころ充填率γ(%)が89%未満(好ましくは85%以下、より好ましくは80%以下)に設定されているので、その分、保持器5の柱部15の周方向幅を大きくすることができ、保持器5の剛性を高めることができる。また、保持器5のサイズを示す(W×Dc)を、柱部15の周方向幅と柱部15の本数(P1×P2×Z)で除した特性値Aが、8.0以下となるように保持器5の寸法が設定されているので、図10に示すように、低速かつ高荷重の条件で使用したときにも、保持器5の剛性を確保することができる。そのため、建機スプロケット用円すいころ軸受として使用したときに高い耐久性を得ることが可能である。
【0047】
また、この円すいころ軸受1は、保持器5の大径側環状部13の外径Dcを、保持器5と外輪2の隙間の大きさを示すGで除した特性値Bが100以上(好ましくは120以上)となるように保持器5の外径寸法が設定されているので、保持器5の外周が外輪軌道面6に近い。そのため、保持器5の柱部15の周方向幅が大きくなり、保持器5の剛性を効果的に高めることが可能である。そのため、建機スプロケット用円すいころ軸受として使用したときに高い耐久性を得ることが可能である。
【0048】
また、この円すいころ軸受1は、図5に示すように、円すいころ4の外周のころ転動面10にフルクラウニングが施され、そのフルクラウニングの頂点位置Cが大端面12の側にずれているので、図1に示す円すいころ4の大端面12と内輪3の大つば9との間の滑り抵抗を低く抑えることができ、円すいころ4のスキューが生じにくい。そのため、図10に示すように、低速かつ高荷重の条件で使用されたときにも、円すいころ4のスキューによる保持器5の負荷を効果的に低減することが可能である。
【0049】
図6図9に、この発明の第2実施形態の円すいころ軸受1を示す。第2実施形態は、第1実施形態と比べて、保持器5の材質が異なるのみであり、それ以外の構成は同一である。そのため、第1実施形態に対応する部分は同一の符号を付して説明を省略する。
【0050】
保持器5を構成する大径側環状部13と小径側環状部14と複数の柱部15は、円すい状にプレス成形した鉄板で形成されている。鉄板の材質としては、冷間圧延鋼板(SPCC)、熱間圧延鋼板(SPHC)、熱間圧延軟鋼板(SPHD)等を採用することができる。
【0051】
この円すいころ軸受1も、第1実施形態と同様、円すいころ4のころ径をDa(mm)、円すいころ4の本数をZ(本)、円すいころ4のピッチ円直径をPCD(mm)としたときに、γ=(Da×Z)×100/(π×PCD)で定義されるころ充填率γが70%以上(好ましくは75%以上)89%未満(好ましくは85%以下、より好ましくは80%以下)に設定されているので、その分、保持器5の柱部15の周方向幅を大きくすることができ、保持器5の剛性を高めることができる。また、保持器5のサイズを示す(W×Dc)を、柱部15の周方向幅と柱部15の本数(P1×P2×Z)で除した特性値Aが、8.0以下となるように保持器5の寸法が設定されているので、図10に示すように、低速かつ高荷重の条件で使用したときにも、保持器5の剛性を確保することができる。そのため、建機スプロケット用円すいころ軸受として使用したときに高い耐久性を得ることが可能である。
【0052】
また、この円すいころ軸受1は、保持器5の大径側環状部13の外径Dcを、保持器5と外輪2の隙間の大きさを示すGで除した特性値Bが100以上(好ましくは120以上)となるように保持器5の外径寸法が設定されているので、保持器5の外周が外輪軌道面6に近い。そのため、保持器5の柱部15の周方向幅が大きくなり、保持器5の剛性を効果的に高めることが可能である。そのため、建機スプロケット用円すいころ軸受として使用したときに高い耐久性を得ることが可能である。
【0053】
また、この円すいころ軸受1は、円すいころ4の外周のころ転動面10にフルクラウニングが施され、そのフルクラウニングの頂点位置Cが大径側にずれているので、図6に示す円すいころ4の大端面12と内輪3の大つば9との間の滑り抵抗を低く抑えることができ、円すいころ4のスキューが生じにくい。そのため、図10に示すように、低速かつ高荷重の条件で使用されたときにも、円すいころ4のスキューによる保持器5の負荷を効果的に低減することが可能である。それ以外の作用効果も第1実施形態と同様である。
【0054】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0055】
1 円すいころ軸受
2 外輪
3 内輪
4 円すいころ
5 保持器
6 外輪軌道面
9 大つば
10 ころ転動面
11 小端面
12 大端面
13 大径側環状部
14 小径側環状部
15 柱部
17 大径側ポケット面
18 小径側ポケット面
20 クローラ駆動スプロケット
23 クローラ
C クラウニングの円弧の頂点位置
Da 円すいころのころ径
Dc 大径側環状部の外径
G 小径側ポケット面の径方向外端から外輪軌道面までの距離
H 軸受高さ
P1 柱部の小径側端部の周方向幅
P2 柱部の大径側端部の周方向幅
PCD 円すいころのピッチ円直径
T1、T2 外輪の径方向厚さ
W 保持器の軸方向幅
δ 大端面と大径側ポケット面の間の隙間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10