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特開2024-135813N-ヒドロキシエチル-N-[2-ヒドロキシアルキル]アミンの抗ウイルス剤としての使用、抗ウイルス用樹脂組成物、及び抗ウイルス用物品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024135813
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】N-ヒドロキシエチル-N-[2-ヒドロキシアルキル]アミンの抗ウイルス剤としての使用、抗ウイルス用樹脂組成物、及び抗ウイルス用物品
(51)【国際特許分類】
   A01N 33/08 20060101AFI20240927BHJP
   A01P 1/00 20060101ALI20240927BHJP
   A01N 25/34 20060101ALI20240927BHJP
   A01N 25/10 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
A01N33/08
A01P1/00
A01N25/34 A
A01N25/10
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023046688
(22)【出願日】2023-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000002820
【氏名又は名称】大日精化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【弁理士】
【氏名又は名称】竹山 圭太
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 薫
(72)【発明者】
【氏名】林 孝三郎
(72)【発明者】
【氏名】大▲高▼ 心代導
(72)【発明者】
【氏名】小川 真吾
(72)【発明者】
【氏名】加藤 修平
(72)【発明者】
【氏名】早川 英樹
(72)【発明者】
【氏名】土居 誠司
【テーマコード(参考)】
4H011
【Fターム(参考)】
4H011AA04
4H011BB04
4H011BC19
4H011DA07
4H011DA13
4H011DH02
4H011DH04
(57)【要約】
【課題】透明性に優れた抗ウイルス性の物品を製造しうる樹脂組成物を調製することが可能な、安全性に優れた抗ウイルス剤を提供する。
【解決手段】一般式(1)で表される、(a)2,2’-イミノジエタノール、(b)1-[(2-ヒドロキシエチル)アミノ]ドデカン-2-オール、(c)1-[(2-ヒドロキシエチル)アミノ]-テトラデカン-2-オール、及び(d)β-[(ヒドロキシエチル)アミノ]アルコール(C=11~14、第二級型)等のN-ヒドロキシエチル-N-[2-ヒドロキシアルキル]アミンを含む抗ウイルス剤である。
RCH(OH)CHNHCHCHOH ・・・(1)
(一般式(1)中、Rは、水素原子又は炭素数1~16のアルキル基を示す)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるN-ヒドロキシエチル-N-[2-ヒドロキシアルキル]アミンを含む抗ウイルス剤。
RCH(OH)CHNHCHCHOH ・・・(1)
(前記一般式(1)中、Rは、水素原子又は炭素数1~16のアルキル基を示す)
【請求項2】
前記N-ヒドロキシエチル-N-[2-ヒドロキシアルキル]アミンが、下記(a)~(d)からなる群より選択される少なくとも一種の化合物である請求項1に記載の抗ウイルス剤。
(a)2,2’-イミノジエタノール
(b)1-[(2-ヒドロキシエチル)アミノ]ドデカン-2-オール
(c)1-[(2-ヒドロキシエチル)アミノ]-テトラデカン-2-オール
(d)β-[(ヒドロキシエチル)アミノ]アルコール(C=11~14、第二級型)
【請求項3】
請求項1又は2に記載の抗ウイルス剤及び樹脂を含有する抗ウイルス性樹脂組成物。
【請求項4】
前記樹脂100質量部に対する、前記抗ウイルス剤の含有量が、0.05~10質量部である請求項3に記載の抗ウイルス性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項3に記載の抗ウイルス性樹脂組成物により形成された抗ウイルス性物品。
【請求項6】
請求項4に記載の抗ウイルス性樹脂組成物により形成された抗ウイルス性物品。
【請求項7】
下記一般式(1)で表されるN-ヒドロキシエチル-N-[2-ヒドロキシアルキル]アミンの抗ウイルス剤としての使用。
RCH(OH)CHNHCHCHOH ・・・(1)
(前記一般式(1)中、Rは、水素原子又は炭素数1~16のアルキル基を示す)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗ウイルス剤、抗ウイルス性樹脂組成物、及び抗ウイルス性物品に関する。
【背景技術】
【0002】
抗ウイルス剤は、例えば、無機系の抗ウイルス剤と有機系の抗ウイルス剤に大別される。無機系の抗ウイルス剤を樹脂、合成繊維、及び塗料等に添加すると、得られる製品の耐熱性及び耐候性が良好となる。また、有機系の抗ウイルス剤を樹脂、合成繊維、及び塗料等に添加すると、得られる製品の機械的強度が向上する。
【0003】
無機系の抗ウイルス剤を用いた例としては、酸化鉄や酸化アルミニウム等の金属酸化物を含む無機粒子及び亜酸化銅粒子を含有する樹脂組成物(特許文献1)や、銀や亜鉛等の金属のイオンを含有するポリカーボネート樹脂組成物(特許文献2)が提案されている。また、有機系の抗ウイルス剤を用いた例としては、無機充填剤にスルホン酸系の界面活性剤を担持して得た抗ウイルス剤を含有する樹脂組成物が提案されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015-117187号公報
【特許文献2】特開2021-191831号公報
【特許文献3】特開2017-218516号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、無機系の抗ウイルス剤を用いると、得られる製品の透明性が低下するとともに、機械的強度等の物性が劣化しやすくなるといった課題があった。さらに、無機系の抗ウイルス剤は各種金属イオンを含有するので、金属の蓄積に起因する生態系への影響について十分に配慮する必要がある。
【0006】
一方、有機系の抗ウイルス剤は、それ自体の耐熱性及び耐候性が必ずしも良好ではないとともに、得られるポリマー成形品等の製品から流出しやすいといった安全面での課題もあった。さらに、有機系の抗ウイルス剤は、種類によってはポリマー成形品や合成繊維等の製品の透明性が低下しやすくなることがあった。
【0007】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、透明性に優れた抗ウイルス性の物品を製造しうる樹脂組成物を調製することが可能な、安全性に優れた抗ウイルス剤、並びにその使用を提供することにある。また、本発明の課題とするところは、上記の抗ウイルス剤を用いた抗ウイルス性樹脂組成物及び抗ウイルス性物品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明によれば、以下に示す抗ウイルス剤が提供される。
[1]下記一般式(1)で表されるN-ヒドロキシエチル-N-[2-ヒドロキシアルキル]アミンを含む抗ウイルス剤。
RCH(OH)CHNHCHCHOH ・・・(1)
(前記一般式(1)中、Rは、水素原子又は炭素数1~16のアルキル基を示す)
[2]前記N-ヒドロキシエチル-N-[2-ヒドロキシアルキル]アミンが、下記(a)~(d)からなる群より選択される少なくとも一種の化合物である前記[1]に記載の抗ウイルス剤。
(a)2,2’-イミノジエタノール
(b)1-[(2-ヒドロキシエチル)アミノ]ドデカン-2-オール
(c)1-[(2-ヒドロキシエチル)アミノ]-テトラデカン-2-オール
(d)β-[(ヒドロキシエチル)アミノ]アルコール(C=11~14、第二級型)
【0009】
また、本発明によれば、以下に示す抗ウイルス性樹脂組成物が提供される。
[3]前記[1]又は[2]に記載の抗ウイルス剤及び樹脂を含有する抗ウイルス性樹脂組成物。
[4]前記樹脂100質量部に対する、前記抗ウイルス剤の含有量が、0.05~10質量部である前記[3]に記載の抗ウイルス性樹脂組成物。
【0010】
さらに、本発明によれば、以下に示す抗ウイルス性物品が提供される。
[5]前記[3]又は[4]に記載の抗ウイルス性樹脂組成物により形成された抗ウイルス性物品。
【0011】
また、本発明によれば、以下に示す化合物の抗ウイルス剤としての使用が提供される。
[6]下記一般式(1)で表されるN-ヒドロキシエチル-N-[2-ヒドロキシアルキル]アミンの抗ウイルス剤としての使用。
RCH(OH)CHNHCHCHOH ・・・(1)
(前記一般式(1)中、Rは、水素原子又は炭素数1~16のアルキル基を示す)
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、透明性に優れた抗ウイルス性の物品を製造しうる樹脂組成物を調製することが可能な、安全性に優れた抗ウイルス剤、並びにその使用を提供することができる。また、本発明によれば、上記の抗ウイルス剤を用いた抗ウイルス性樹脂組成物及び抗ウイルス性物品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<抗ウイルス剤>
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。本発明者らは、各種成形品や繊維等の製品の材料となる樹脂に所定の一般式で表されるN-ヒドロキシエチル-N-[2-ヒドロキシアルキル]アミンを添加したところ、金属や金属イオン等を実質的に含有せずとも、抗ウイルス性及び透明性に優れた物品を製造しうる樹脂組成物が得られることを見出し、本発明に至った。すなわち、本発明の抗ウイルス剤は、下記一般式(1)で表されるN-ヒドロキシエチル-N-[2-ヒドロキシアルキル]アミンを含む有機系の抗ウイルス剤であり、好ましくは、N-ヒドロキシエチル-N-[2-ヒドロキシアルキル]アミンのみで実質的に構成されるものである。
RCH(OH)CHNHCHCHOH ・・・(1)
(前記一般式(1)中、Rは、水素原子又は炭素数1~16のアルキル基を示す)
【0014】
N-ヒドロキシエチル-N-[2-ヒドロキシアルキル]アミンは、下記(a)~(d)からなる群より選択される少なくとも一種の化合物であることが好ましい。
(a)2,2’-イミノジエタノール
(b)1-[(2-ヒドロキシエチル)アミノ]ドデカン-2-オール
(c)1-[(2-ヒドロキシエチル)アミノ]-テトラデカン-2-オール
(d)β-[(ヒドロキシエチル)アミノ]アルコール(C=11~14、第二級型)
【0015】
(a)2,2’-イミノジエタノール(以下、「抗ウイルス剤a」とも記す)は、下記式(a)で表される化合物である。
【0016】
【0017】
(b)1-[(2-ヒドロキシエチル)アミノ]ドデカン-2-オール(以下、「抗ウイルス剤b」とも記す)は、下記式(b)で表される化合物である。
【0018】
【0019】
(c)1-[(2-ヒドロキシエチル)アミノ]-テトラデカン-2-オール(以下、「抗ウイルス剤c」とも記す)は、下記式(c)で表される化合物である。
【0020】
【0021】
(d)β-[(ヒドロキシエチル)アミノ]アルコール(C=11~14、第二級型)(以下、「抗ウイルス剤d」とも記す)は、式(b)で表される化合物(抗ウイルス剤b)及び式(c)で表される化合物(抗ウイルス剤c)の混合物(CAS登録番号 84836-93-1)である。
【0022】
抗ウイルス剤dは、急性毒性の試験でマウスのLD50が、雄2,130mg/kg、雌2,700mg/kgあり、国連勧告GHS(化学品の分類および表示に関する世界調和システム)の健康に関する有害性に関する急性毒性の区分では、最も安全な「区分に該当しない」に分類される。さらに、抗ウイルス剤dは、2020年4月28日に公布された食品衛生法、食品用器具・容器包装のポジティブリスト制度の別表第1、第2表、通し番号1229に記載されており、食品用器具・容器包装用途への使用が認められていることから、安全性に特に優れている。また、抗ウイルス剤dの軟化点は61.5℃であることから、樹脂への分散性に優れている。このため、抗ウイルス剤dを用いることで、より透明性の高い抗ウイルス性の樹脂組成物及び各種物品を製造することができる。
【0023】
N-ヒドロキシエチル-N-[2-ヒドロキシアルキル]アミンを抗ウイルス剤として用いることで、従来の抗ウイルス剤を用いた場合に比して、安全性、透明性、及び機械的強度等の諸特性により優れた抗ウイルス性樹脂組成物及び各種物品を得ることができる。
【0024】
本発明の抗ウイルス剤の抗ウイルス性は、以下の機構により発現するものと推測される。まず、第2級アミンであるN-ヒドロキシエチル-N-[2-ヒドロキシアルキル]アミンが第4級アンモニウム塩を形成する。次いで、形成された第4級アンモニウム塩が、(i)ウイルスの外殻構造(カプシド)の変性;(ii)感染に必要なウイルスエンベロープ上のタンパク質の変性;又は(iii)(i)の変性及び(ii)の変性の両方;を引き起こして、抗ウイルス性が発現すると推測される。
【0025】
<抗ウイルス性樹脂組成物>
本発明の抗ウイルス性樹脂組成物は、前述の抗ウイルス剤及び樹脂を含有する。樹脂の種類は特に限定されない。樹脂の具体例としては、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、セルロース樹脂、フェノール樹脂、及びエポキシ樹脂等を挙げることができる。
【0026】
抗ウイルス性樹脂組成物中の抗ウイルス剤(N-ヒドロキシエチル-N-[2-ヒドロキシアルキル]アミン)の含有量は、樹脂100質量部に対して、0.05~10質量部であることが好ましく、0.3~5質量部であることがさらに好ましい。抗ウイルス剤の含有量が、樹脂100質量部に対して0.3質量部未満であると、樹脂組成物の抗ウイルス性が認められにくくなることがある。一方、抗ウイルス剤の含有量が、樹脂100質量部に対して5質量部超であると、樹脂組成物の物性に影響が及ぶ場合がある。
【0027】
抗ウイルス性樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、顔料、各種添加剤、及び他の抗ウイルス剤等をさらに含有させることができる。
【0028】
<抗ウイルス性物品>
本発明の抗ウイルス性物品は、前述の抗ウイルス性樹脂組成物により形成されたものである。物品の種類は、前述の抗ウイルス性樹脂組成物で形成されたものであればよく、特に限定されない。物品の具体例としては、以下に示すもの等を挙げることができる。なお、以下に示す物品には、各種着色剤や添加剤を含有させてもよい。
【0029】
(1)抗ウイルス性成形品
抗ウイルス性成形品は、抗ウイルス性樹脂組成物を射出成形、押出成形、及びブロー成形等により成形した物品である。成形品の具体例としては、食品容器、ごみ箱、文具、電気器具のハウジング、化粧品容器、車両内装部品、台所用品、浴用製品、衣装収納製品等を挙げることができる。
【0030】
(2)抗ウイルス性繊維
抗ウイルス性繊維は、抗ウイルス性樹脂組成物を紡糸等により繊維化した物品である。また、抗ウイルス性繊維を織布又は不織布としたものである。このような物品のさらなる具体例としては、衣服やカーペット等を挙げることができる。
【0031】
(3)抗ウイルス性塗料
抗ウイルス性樹脂組成物をバインダーとし、各種溶剤に溶解又は分散させることによって、抗ウイルス性塗料とすることができる。
【実施例0032】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。
【0033】
<抗ウイルス剤の用意>
以下に示す抗ウイルス剤a~dを用意した。
・抗ウイルス剤a:2,2’-イミノジエタノール(CAS登録番号 111-42-2、化審法官報整理番号 2-302、2-354)
・抗ウイルス剤b:1-[(2-ヒドロキシエチル)アミノ]ドデカン-2-オール(CAS登録番号 2615-84-1、化審法官報整理番号 2-354)
・抗ウイルス剤c:1-[(2-ヒドロキシエチル)アミノ]-テトラデカン-2-オール(CAS登録番号 56975-13-4、化審法官報整理番号 2-354)
・抗ウイルス剤d:β-[(ヒドロキシエチル)アミノ]アルコール(C=11~14、第二級型)(CAS登録番号 84836-93-1、食品衛生法、食品用器具・容器包装のポジティブリスト制度の別表第1、第2表、通し番号1229)
【0034】
<抗ウイルス剤の使用・評価>
(実施例1)
バクテリアを宿主とするウイルスであるバクテリオファージQβ(非エンベロープ型ウイルス)及びバクテリオファージΦ6(エンベロープ型ウイルス)を用いて、抗ウイルス剤a~d(原体)の抗ウイルス性試験を実施した。
【0035】
バクテリオファージQβを宿主(大腸菌)とともに培養してバクテリオファージストック液を調製した。調製したストック液を、6.7×10~2.6×10pfu/mL(pfu:プラーク形成単位)の感染価となるように、普通ブイヨン培地(1/500濃度)で希釈して試験液を得た。得られた試験液10mLを滅菌検査用のコップ入れ、抗ウイルス剤aを500ppmとなるように添加した。振とう機を使用し、25℃で24時間ゆっくりと撹拌した後、ペプトン加生理食塩水で適宜希釈した。カルシウム添加LB軟寒天培地(約50℃に保温)2.0mLに、別途カルシウム添加LB培地で培養した大腸菌(宿主)0.1mLを添加してよく撹拌した。希釈した試験液1.0mLをさらに添加してよく撹拌し、ウイルス及び大腸菌を含む混合液を得た。得られた混合液をカルシウム添加LB寒天平板培地に重層し、培地が固化した後、37℃で16~24時間培養した。30~300pfuのプラークが現れた培地のプラーク数をカウントし、試験液中のウイルス感染価(pfu/mL)及び抑制率(%)を算出した。ウイルスの抑制率は、以下の式から算出した(減少したプラーク数(pfu)の桁数を有効数字の桁数とした)。
抑制率(%)
={(比較例1のpfu-実施例のpfu)/比較例1のpfu)}×100
【0036】
また、バクテリオファージQβに代えてバクテリオファージΦ6を用いるとともに、シュードモナス属のPseudomonas syringaeを宿主として用い、さらに、カルシウム添加LB培地に代えてNB培地を用い、25℃で培養したこと以外は、上記と同様にして、試験液中のウイルス感染価(pfu/mL)及び抑制率(%)を算出した。結果を表1に示す。
【0037】
(実施例2~4)
抗ウイルス剤aに代えて、抗ウイルス剤b~dを用いたこと以外は、前述の実施例1と同様にして抗ウイルス剤の抗ウイルス性を評価した。結果を表1に示す。
【0038】
(比較例1)
抗ウイルス剤を用いなかったこと以外は、前述の実施例1と同様の試験を実施した。結果を表1に示す。
【0039】
【0040】
<抗ウイルス性樹脂組成物及び抗ウイルス性物品の製造・評価(1)>
(実施例5)
低密度ポリエチレン樹脂100部及び抗ウイルス剤b 1.0部を加熱混練した後に成形し、透明な試料プレート(5cm×5cm)を得た。実施例1の場合と同様にして調製したバクテリオファージQβの試験液0.2mLを試料プレートの表面に滴下した。滴下した試験液上に無菌ポリエチレンフィルム(4cm×4cm)をかぶせ、試験液がフィルム全体に行き渡るように軽く押さえて密着させた(フィルム密着法)。25℃、相対湿度90%以上の環境で24時間保持した後、SCDLP培地で試験液を洗い出した。洗い出した試験液をペプトン加生理食塩水で適宜希釈した後、前述の実施例1と同様にして、試験液中のウイルス感染価(pfu/mL)及び抑制率(%)を算出した。結果を表2に示す。
【0041】
また、バクテリオファージQβに代えてバクテリオファージΦ6を用いるとともに、シュードモナス属のPseudomonas syringaeを宿主として用い、さらに、カルシウム添加LB培地に代えてNB培地を用い、25℃で培養したこと以外は、上記と同様にして、試験液中のウイルス感染価(pfu/mL)及び抑制率(%)を算出した。結果を表2に示す。
【0042】
(実施例6、7)
抗ウイルス剤bに代えて、抗ウイルス剤c及びdをそれぞれ用いたこと以外は、前述の実施例5と同様にして抗ウイルス性を評価した。結果を表2に示す。
【0043】
(比較例2)
抗ウイルス剤を用いなかったこと以外は、前述の実施例5と同様の試験を実施した。結果を表2に示す。
【0044】
【0045】
<抗ウイルス性樹脂組成物及び抗ウイルス性物品の製造・評価(2)>
(実施例8)
ポリプロピレン樹脂100部及び抗ウイルス剤b 2.0部を加熱混練した後に成形し、透明な試料プレート(5cm×5cm)を得た。実施例1の場合と同様にして調製したバクテリオファージQβの試験液0.2mLを試料プレートの表面に滴下した。滴下した試験液上に無菌ポリエチレンフィルム(4cm×4cm)をかぶせ、試験液がフィルム全体に行き渡るように軽く押さえて密着させた(フィルム密着法)。25℃、相対湿度90%以上の環境で24時間保持した後、SCDLP培地で試験液を洗い出した。洗い出した試験液をペプトン加生理食塩水で適宜希釈した後、前述の実施例1と同様にして、試験液中のウイルス感染価(pfu/mL)及び抑制率(%)を算出した。結果を表3に示す。
【0046】
また、バクテリオファージQβに代えてバクテリオファージΦ6を用いるとともに、シュードモナス属のPseudomonas syringaeを宿主として用い、さらに、カルシウム添加LB培地に代えてNB培地を用い、25℃で培養したこと以外は、上記と同様にして、試験液中のウイルス感染価(pfu/mL)及び抑制率(%)を算出した。結果を表3に示す。
【0047】
(実施例9、10)
抗ウイルス剤bに代えて、抗ウイルス剤c及びdをそれぞれ用いたこと以外は、前述の実施例8と同様にして抗ウイルス性及び耐候性を評価した。結果を表3に示す。
【0048】
(比較例3)
抗ウイルス剤を用いなかったこと以外は、前述の実施例8と同様の試験を実施した。結果を表3に示す。
【0049】
【0050】
<抗ウイルス性樹脂組成物及び抗ウイルス性物品の製造・評価(3)>
(実施例11)
飽和ポリエステル100部及び抗ウイルス剤b 3.0部を加熱混練した後に紡糸し、透明な試料繊維を得た。試料繊維0.4gをバイアル瓶に入れ、実施例1の場合と同様にして調製したバクテリオファージQβの試験液0.2mLを接種した。25℃で4時間保持した後、SCDLP培地で試験液を洗い出した。洗い出した試験液をペプトン加生理食塩水で適宜希釈した後、前述の実施例1と同様にして、試験液中のウイルス感染価(pfu/mL)及び抑制率(%)を算出した。結果を表4に示す。
【0051】
また、バクテリオファージQβに代えてバクテリオファージΦ6を用いるとともに、シュードモナス属のPseudomonas syringaeを宿主として用い、さらに、カルシウム添加LB培地に代えてNB培地を用い、25℃で培養したこと以外は、上記と同様にして、試験液中のウイルス感染価(pfu/mL)及び抑制率(%)を算出した。結果を表4に示す。
【0052】
(実施例12、13)
抗ウイルス剤bに代えて、表4に示す種類の抗ウイルス剤をそれぞれ用いたこと以外は、前述の実施例11と同様にして抗ウイルス性を評価した。結果を表4に示す。
【0053】
(比較例4)
抗ウイルス剤を用いなかったこと以外は、前述の実施例11と同様の試験を実施した。結果を表4に示す。
【0054】
【0055】
<抗ウイルス性樹脂組成物及び抗ウイルス性物品の製造・評価(4)>
(実施例14)
イソプロピルアルコールと水の混合溶媒(質量比=1:1)100.0部に抗ウイルス剤a 4.2部を添加し、撹拌及び混合して混合液を得た。不揮発分25%に調製したアクリル樹脂バインダー(商品名「Joncryl HPD-96」、BASF社製)100.0部に、得られた混合液3.0部を添加し、撹拌及び混合してサンプルを得た。No.20のバーコーターを用いて、コロナ処理を施したPETフィルムに得られたサンプルを塗工した後、乾燥してイソプロピルアルコール及び水を除去し、アクリル樹脂バインダーの不揮発分100部に対する抗ウイルス剤aの量が0.5部である透明な塗工膜を成形した。成形した塗工膜を5cm×5cmのサイズにカットして、抗ウイルス試験用の試料プレートを作製した。実施例1の場合と同様にして調製したバクテリオファージQβの試験液0.2mLを作製した試料プレートの表面に滴下した。滴下した試験液上に無菌ポリエチレンフィルム(4cm×4cm)をかぶせ、試験液がフィルム全体に行き渡るように軽く押さえて密着させた(フィルム密着法)。25℃、相対湿度90%以上の環境で24時間保持した後、SCDLP培地で試験液を洗い出した。洗い出した試験液をペプトン加生理食塩水で適宜希釈した後、前述の実施例1と同様にして、試験液中のウイルス感染価(pfu/mL)及び抑制率(%)を算出した。結果を表5に示す。
【0056】
また、バクテリオファージQβに代えてバクテリオファージΦ6を用いるとともに、シュードモナス属のPseudomonas syringaeを宿主として用い、さらに、カルシウム添加LB培地に代えてNB培地を用い、25℃で培養したこと以外は、上記と同様にして、試験液中のウイルス感染価(pfu/mL)及び抑制率(%)を算出した。結果を表5に示す。
【0057】
(実施例15)
抗ウイルス剤aに代えて、抗ウイルス剤dを用いたこと以外は、前述の実施例14と同様にして抗ウイルス性を評価した。結果を表5に示す。
【0058】
(比較例5)
抗ウイルス剤を用いなかったこと以外は、前述の実施例14と同様の試験を実施した。結果を表5に示す。
【0059】
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の抗ウイルス剤を用いることで、安全性及び透明性に優れた抗ウイルス性の樹脂組成物や各種物品を製造することができる。
【手続補正書】
【提出日】2024-03-21
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるN-ヒドロキシエチル-N-[2-ヒドロキシアルキル]アミンの抗ウイルス剤としての使用。
RCH(OH)CHNHCHCHOH ・・・(1)
(前記一般式(1)中、Rは、水素原子又は炭素数1~16のアルキル基を示す)
【請求項2】
前記N-ヒドロキシエチル-N-[2-ヒドロキシアルキル]アミンが、下記(a)~(d)からなる群より選択される少なくとも一種の化合物である請求項1に記載のN-ヒドロキシエチル-N-[2-ヒドロキシアルキル]アミンの抗ウイルス剤としての使用
(a)2,2’-イミノジエタノール
(b)1-[(2-ヒドロキシエチル)アミノ]ドデカン-2-オール
(c)1-[(2-ヒドロキシエチル)アミノ]-テトラデカン-2-オール
(d)β-[(ヒドロキシエチル)アミノ]アルコール(C=11~14、第二級型)
【請求項3】
ウイルス剤及び樹脂を含有し、
前記抗ウイルス剤が、下記一般式(1)で表されるN-ヒドロキシエチル-N-[2-ヒドロキシアルキル]アミンである抗ウイルス性樹脂組成物。
RCH(OH)CH NHCH CH OH ・・・(1)
(前記一般式(1)中、Rは、水素原子又は炭素数1~16のアルキル基を示す)
【請求項4】
前記樹脂100質量部に対する、前記抗ウイルス剤の含有量が、0.05~10質量部である請求項3に記載の抗ウイルス性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項3に記載の抗ウイルス性樹脂組成物により形成された抗ウイルス性物品。
【請求項6】
請求項4に記載の抗ウイルス性樹脂組成物により形成された抗ウイルス性物品。
【手続補正書】
【提出日】2024-05-28
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるN-ヒドロキシエチル-N-[2-ヒドロキシアルキル]アミンの抗ウイルス剤としての使用(但し、ヒトの治療に使用する場合を除く)
RCH(OH)CHNHCHCHOH ・・・(1)
(前記一般式(1)中、Rは、水素原子又は炭素数1~16のアルキル基を示す)
【請求項2】
前記N-ヒドロキシエチル-N-[2-ヒドロキシアルキル]アミンが、下記(a)~(d)からなる群より選択される少なくとも一種の化合物である請求項1に記載のN-ヒドロキシエチル-N-[2-ヒドロキシアルキル]アミンの抗ウイルス剤としての使用。
(a)2,2’-イミノジエタノール
(b)1-[(2-ヒドロキシエチル)アミノ]ドデカン-2-オール
(c)1-[(2-ヒドロキシエチル)アミノ]-テトラデカン-2-オール
(d)β-[(ヒドロキシエチル)アミノ]アルコール(C=11~14、第二級型)
【請求項3】
抗ウイルス剤及び樹脂を含有し、
前記抗ウイルス剤が、下記一般式(1)で表されるN-ヒドロキシエチル-N-[2-ヒドロキシアルキル]アミンである抗ウイルス樹脂組成物。
RCH(OH)CHNHCHCHOH ・・・(1)
(前記一般式(1)中、Rは、水素原子又は炭素数1~16のアルキル基を示す)
【請求項4】
前記樹脂100質量部に対する、前記抗ウイルス剤の含有量が、0.05~10質量部である請求項3に記載の抗ウイルス樹脂組成物。
【請求項5】
請求項3に記載の抗ウイルス樹脂組成物により形成された抗ウイルス物品。
【請求項6】
請求項4に記載の抗ウイルス樹脂組成物により形成された抗ウイルス物品。