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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024135819
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】塗装体
(51)【国際特許分類】
   B32B 7/023 20190101AFI20240927BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20240927BHJP
   C09D 7/65 20180101ALI20240927BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20240927BHJP
   E04F 13/08 20060101ALI20240927BHJP
   B32B 27/20 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
B32B7/023
C09D201/00
C09D7/65
C09D7/61
E04F13/08 F
B32B27/20 Z
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023046698
(22)【出願日】2023-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000003322
【氏名又は名称】大日本塗料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【弁理士】
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【弁理士】
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【弁理士】
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100172683
【弁理士】
【氏名又は名称】綾 聡平
(74)【代理人】
【識別番号】100219265
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 崇大
(74)【代理人】
【識別番号】100203208
【弁理士】
【氏名又は名称】小笠原 洋平
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【弁理士】
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【弁理士】
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】照沼 卓也
(72)【発明者】
【氏名】伊郷 宗一郎
(72)【発明者】
【氏名】菊地 剛史
【テーマコード(参考)】
2E110
4F100
4J038
【Fターム(参考)】
2E110AA57
2E110BA02
2E110BA03
2E110BA12
2E110BB04
2E110GA07W
2E110GA32Y
2E110GA33Y
2E110GB02Y
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2E110GB23Y
2E110GB28Y
2E110GB32Y
2E110GB43Y
2E110GB44Y
2E110GB46Y
2E110GB48Y
2E110GB54Y
2E110GB62Y
2E110GB63Y
4F100AA20B
4F100AA20C
4F100AK01B
4F100AK01C
4F100AK25B
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4F100AT00A
4F100BA03
4F100DE01B
4F100DE01C
4F100JM01B
4F100JM01C
4F100JN01B
4F100JN01C
4F100JN02B
4F100JN02C
4F100JN21
4F100JN26
4F100YY00B
4F100YY00C
4J038EA011
4J038HA446
4J038KA08
4J038MA02
4J038MA10
4J038MA14
4J038NA01
4J038PB05
(57)【要約】
【課題】下地の意匠を隠蔽しない透明感を有し、かつマット感のある落ち着いた重厚感のあるクリヤー層を備えた塗装体を提供する。
【解決手段】基材と、少なくとも2層のクリヤー層とを備える塗装体であって、前記少なくとも2層のクリヤー層はそれぞれがメジアン径(D50)が10~200μmの光透過性粒状物を含み、それぞれのクリヤー層中に含まれる前記光透過性粒状物の量は35質量%以下であり、前記少なくとも2層のクリヤー層はそれぞれの平均膜厚が80μm以下であることを特徴とする、塗装体である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、少なくとも2層のクリヤー層とを備える塗装体であって、
前記少なくとも2層のクリヤー層はそれぞれがメジアン径(D50)が10~200μmの光透過性粒状物を含み、かつ、それぞれのクリヤー層中に含まれる前記光透過性粒状物の量が35質量%以下であり、
前記少なくとも2層のクリヤー層はそれぞれの平均膜厚が80μm以下であることを特徴とする、塗装体。
【請求項2】
前記少なくとも2層のクリヤー層全体の平均膜厚は20μm以上であることを特徴とする、請求項1に記載の塗装体。
【請求項3】
前記塗装体の表面の60度光沢値が20以下であることを特徴とする、請求項1または2に記載の塗装体。
【請求項4】
前記少なくとも2層のクリヤー層のうち少なくとも1層のクリヤー層が光不透過性粒状物を含むことを特徴とする、請求項1または2に記載の塗装体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗装体に関し、特には、下地の意匠を隠蔽しない透明感を有し、かつマット感のある落ち着いた重厚感のあるクリヤー層を備えた塗装体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
建築用の外壁材には、表面に意匠や耐候性を付与するための塗料が塗装される。可視光透過性を有するクリヤー塗膜は下地や基材の意匠を生かすことができるとともに、意匠面を保護できる表面保護層として形成される場合が多いが、とくに近年では、住宅の外壁における価値観が多様になり、光沢を抑えて落ち着きを与える、重厚感に富む艶消し仕様が好まれるようになってきている。
【0003】
特開2000-256578号公報(特許文献1)には、着色不透明塗料が塗布されている建築用外壁パネル表面に、平均粒径が30~100μmである骨材が分散混合された透明あるいは半透明の合成樹脂系塗料が塗装され、その塗装されたパネル表面のフラット部での60°鏡面光沢度が1~6の範囲にあることを特徴とする建築用外壁パネルの発明が記載され、これによって、塗膜表面から顔料が析出する現象(チョーキング)を起こすことなく、艶消しされた塗膜表面を長期間にわたり保持できる建築用外壁パネルを提供することができるとしている。
【0004】
特開2005-187701号公報(特許文献2)には、(A)合成樹脂エマルション、(B)比重が1.0以上1.5以下の樹脂ビーズ、(C)比重が0.7以上1.0未満のワックス、を含有することを特徴とする透明性を有する水性艶消塗料組成物の発明が記載され、かかる水性艶消塗料組成物は、貯蔵安定性に優れ、形成塗膜の艶ムラを抑制することができ、艶消し効果に優れており、さらに、形成塗膜の耐水性、透明性にも優れているとしている。
【0005】
特開2013-208513号公報(特許文献3)は、窯業建材上にエナメル塗膜と艶消しクリヤー塗膜を順に形成する窯業建材用艶消し複層膜形成方法であって、艶消しクリヤー塗膜の形成に、メジアン径(D50)が2~10μmの光透過性粒状物(a)、メジアン径(D50)が50~200μmの光非透過性粒状物(b)、及びバインダー樹脂(c)を特定の割合で含む窯業建材用艶消しクリヤー塗料を用いた方法の発明を記載し、これによって、透明感を損なうことなくブロッキングを抑制でき、かつ、補修時に補修部分が目立たない窯業建材用艶消し複層膜の形成方法を提供することができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000-256578号公報
【特許文献2】特開2005-187701号公報
【特許文献3】特開2013-208513号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1~3はいずれもクリヤー層を用いて塗装体表面の艶を抑える技術を記載するものの、クリヤー層自体が艶の出やすい層でもあることから、クリヤー層による艶消し効果は十分とは言えなかった。
【0008】
そこで、本発明の目的は、下地の意匠を隠蔽しない透明感を有し、かつマット感のある落ち着いた重厚感のあるクリヤー層を備えた塗装体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、艶消し効果が期待されるメジアン径(D50)を有する光透過性粒状物を用いてクリヤー層による艶消し効果を高めることを検討し、クリヤー層中に含まれる当該光透過性粒状物の割合を増加させたところ、クリヤー層に濁りが生じ、透明感が低下するという課題があった。次に、クリヤー層中に含まれる光透過性粒状物の割合を増加させるのではなく、クリヤー層を厚くすることで艶消し効果を高めることができないか検討したが、クリヤー層を厚くすると艶消し効果が低下するという課題があった。厚膜の塗装では光透過性粒状物が塗膜中に沈みやすくなり、塗膜表面に存在する光透過性粒状物の量が少なくなることから、艶消し効果が低下する傾向にあることを確認した。そこで、本発明者らは、艶消し効果が期待されるメジアン径(D50)を有する光透過性粒状物を含むクリヤー層について、クリヤー層中に含まれる光透過性粒状物の割合およびクリヤー層の膜厚を抑えつつ、かかるクリヤー層を2層以上積層させたところ、下地の意匠を隠蔽しない透明感を維持しつつ、マット感のある落ち着いた重厚感も備えたクリヤー層を提供できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
従って、本発明の塗装体は、基材と、少なくとも2層のクリヤー層とを備える塗装体であって、前記少なくとも2層のクリヤー層はそれぞれがメジアン径(D50)が10~200μmの光透過性粒状物を含み、それぞれのクリヤー層中に含まれる前記光透過性粒状物の量は35質量%以下であり、前記少なくとも2層のクリヤー層はそれぞれの平均膜厚が80μm以下であることを特徴とする、塗装体である。
【0011】
本発明の塗装体の好適例において、前記少なくとも2層のクリヤー層全体の平均膜厚は20μm以上である。
【0012】
本発明の塗装体の他の好適例においては、前記塗装体の表面の60度光沢値が20以下である。
【0013】
本発明の塗装体の他の好適例においては、前記少なくとも2層のクリヤー層のうち少なくとも1層のクリヤー層が光不透過性粒状物を含む。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、下地の意匠を隠蔽しない透明感を有し、かつマット感のある落ち着いた重厚感のあるクリヤー層を備えた塗装体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明を詳細に説明する。本発明は、基材と、メジアン径(D50)が10~200μmの光透過性粒状物を含むが、その光透過性粒状物の量が35質量%を超えない少なくとも2層のクリヤー層とを備える塗装体に関する。本明細書では、この塗装体を「本発明の塗装体」とも称する。
【0016】
本明細書において、塗装体とは、少なくとも一部の面に少なくとも2層のクリヤー層が塗装されている基材を意味する。本発明においては、少なくとも2層のクリヤー層が基材上に直接形成されていてもよいし、クリヤー層と基材の間に意匠層等のさらなる層が存在し、当該さらなる層を介して少なくとも2層のクリヤー層が基材上に形成されていてもよい。
【0017】
本明細書において、基材とは、少なくとも2層のクリヤー層が塗装される対象を意味する。
【0018】
本明細書において、クリヤー層とは、可視光透過率が5%以上である層を意味し、クリヤー層の光線透過率は、10%以上であることが好ましく、15%以上であることが特に好ましい。また、クリヤー層は、無色の層であってもよいし、色のついた層であってもよい。本発明の塗装体は、メジアン径(D50)が10~200μmの光透過性粒状物を含むが、その光透過性粒状物の量が35質量%を超えないクリヤー層を2層以上備える塗装体であるが、当該クリヤー層以外のクリヤー層をさらに備えていてもよい。本明細書では、便宜上「メジアン径(D50)が10~200μmの光透過性粒状物を含むが、その光透過性粒状物の量が35質量%を超えないクリヤー層」を「第1クリヤー層」とも称し、「メジアン径(D50)が10~200μmの光透過性粒状物を含むが、その光透過性粒状物の量が35質量%を超えないクリヤー層以外のクリヤー層」を「第2クリヤー層」とも称する。
【0019】
本明細書において、可視光透過率は、可視領域(360nm~750nm)における全光線透過率を意味し、JIS K 7375:2008に準拠して測定することができる。
【0020】
本明細書において、意匠層とは、基材に意匠を施すことを目的とする層を意味する。ここで、意匠とは、形状、模様もしくは色彩またはこれらの結合である。基材(特にコンクリートや木材等)はそれ自体が持つ意匠を生かすことも可能であるが、意匠層を基材に適用することも可能である。意匠層は、例えば、塗料やインクから形成されたものでもよいし、また、壁紙やフィルム等を用いて意匠を施す場合は、これらを基材上に貼り付けることで、基材に意匠層を適用することも可能である。
【0021】
本発明の塗装体は、上述のとおり、メジアン径(D50)が10~200μmの光透過性粒状物を含むが、その光透過性粒状物の量が35質量%を超えないクリヤー層(即ち、第1クリヤー層)を2層以上備える。ここで、本発明の塗装体を構成するそれぞれの第1クリヤー層の平均膜厚を80μmを超えないように調整することによって、下地の意匠を隠蔽しない透明感を有し、かつマット感のある落ち着いた重厚感のあるクリヤー層を形成することができる。
【0022】
本発明の塗装体は、第1クリヤー層同士の間に別の層を含まない場合(即ち、第1クリヤー層が直接積層してなる積層構造を形成している場合)の他、第1クリヤー層同士の間に第2クリヤー層が存在している場合もある。ただし、本発明の塗装体は、第1クリヤー層同士の間に光不透過層を含まない。本明細書において、光不透過層とは、可視光透過率が5%未満である層を意味する。
【0023】
本明細書において、光透過性粒状物とは、可視光透過率が30%以上である粒状物を意味し、光透過性粒状物の光線透過率は、40%以上であることが好ましく、50%以上であることが特に好ましい。
【0024】
光透過性粒状物は、透明感を維持しつつ、艶消し効果を発現することができる物質であるが、艶消し効果を得るには粒子径が重要となる。光透過性粒状物が大きすぎると、マット感が得られにくくなることから、第1クリヤー層に使用される光透過性粒状物は、メジアン径(D50)が10~200μmであり、好ましくは10~50μmであり、より好ましくは10~20μmである。また、光透過性粒状物の粒子径は、第1クリヤー層の平均膜厚と同程度であるか、第1クリヤー層の平均膜厚よりも僅かに小さいことが特に好ましい。
【0025】
本明細書において、粒状物のメジアン径(D50)は、クリヤー層中に分散している粒状物の体積基準粒度分布の50%粒子径(D50)を指し、粒度分布測定装置(例えばレーザ回折/散乱式粒度分布測定装置)を用いて測定される粒度分布から求めることができる。粒子径は、レーザ回折・散乱法による球相当径で表される。
【0026】
光透過性粒状物は、その比重が1.1~2.6であることが好ましい。
【0027】
光透過性粒状物としては、例えば、樹脂ビーズ、ガラスビーズ等が挙げられる。光透過性粒状物は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
本発明の塗装体を構成するそれぞれの第1クリヤー層中に含まれるメジアン径(D50)が10~200μmの光透過性粒状物の量は35質量%以下である。各第1クリヤー層中の光透過性粒状物の量が多くなると、クリヤー層に濁りが生じ、下地の意匠を隠蔽しない透明感が失われる傾向にある。また、第1クリヤー層中に含まれるメジアン径(D50)が10~200μmの光透過性粒状物の量は、5~35質量%であることが好ましく、7~30質量%であることがより好ましく、特には10~25質量%であることが好ましい。十分な艶消し効果を確保する観点から、第1クリヤー層中での当該光透過性粒状物の量は5質量%以上であることが好ましい。また、第1クリヤー層中での当該光透過性粒状物の量が35質量%を超えると、クリヤー層の伸び性が低下し、耐凍害性や耐候性等の十分な物性が得られなくなる場合がある。
【0029】
本発明の塗装体は、少なくとも2層の第1クリヤー層を備えるが、ここで、それぞれの第1クリヤー層の平均膜厚は80μm以下である。厚膜の塗装でクリヤー層を形成した場合、光透過性粒状物がクリヤー層中に沈み、クリヤー層表面に存在する光透過性粒状物の量が少なくなり、艶消し効果が低下する傾向にあるため、それぞれの第1クリヤー層の平均膜厚は80μm以下に調整されている。第1クリヤー層の平均膜厚は、10~60μmであることが好ましく、20~50μmであることがより好ましい。
【0030】
本明細書において、クリヤー層の平均膜厚は、塗膜の断面を走査型電子顕微鏡または光学顕微鏡で観察して求めた値であり、撮影画像の中から無作為に選んだ100点の測定結果の平均値によって求められる。
【0031】
本発明の塗装体において、第1クリヤー層全体の平均膜厚は20μm以上であることが好ましく、20~120μmであることがより好ましく、40~100μmであることがさらに好ましい。第1クリヤー層全体の平均膜厚を20μm以上とすることで、基材に水シミが生じることを防ぐことができる。水シミとは、塗装体に対し水が掛かった際に水が基材に浸透することで、基材が濡れ色となる現象であり、施工後の雨掛かりの外観不良や基材劣化の要因となる課題がある。クリヤー層自体は本質的に水を通しにくい性質を持っているものの、基材の凹凸による膜厚のばらつきや経年での層の減耗でバリア性が失われる可能性がある。このため、第1クリヤー層全体の平均膜厚を一定以上、具体的には20μm以上に設定することで、経年後も安定して水へのバリア性を維持でき、水シミを抑制することができる。第1クリヤー層全体の平均膜厚は、各第1クリヤー層の平均膜厚を合計して求めてもよいし、第1クリヤー層全体の平均膜厚を直接測定して求めてもよい。
なお、本発明の塗装体において、第1クリヤー層全体の平均膜厚が10μm以下であると、寒冷地の外壁材に用いられた場合に耐凍害性に劣る場合がある。
【0032】
本発明の塗装体において、第1クリヤー層の平均膜厚と、第1クリヤー層中に含まれる光透過性粒状物のメジアン径(D50)は、以下の関係式を満たすことが好ましい。
(関係式) 0.05< 平均膜厚/メジアン径(D50) < 8
式中、平均膜厚は、第1クリヤー層の平均膜厚(μm)であり、メジアン径(D50)は、第1クリヤー層中に含まれる光透過性粒状物のメジアン径(D50)(μm)である。
第1クリヤー層において平均膜厚/メジアン径(D50)の値が大きすぎると、マット感が失われ、小さすぎると艶消し性能が得られない場合がある。
本発明の塗装体を構成する全ての第1クリヤー層が上記関係式を満たしていることが好ましい。
【0033】
本発明の塗装体において、少なくとも2層の第1クリヤー層のうち少なくとも1層の第1クリヤー層は、光不透過性粒状物を含むことが好ましい。第1クリヤー層に光不透過性粒状物を用いることで、光透過性粒状物のみからなるクリヤー層と比較しより高いマット感が得られる。なお、本発明の塗装体を構成する全ての第1クリヤー層が光不透過性粒状物を含んでいてもよい。
【0034】
本明細書において、光不透過性粒状物とは、可視光透過率が20%未満である粒状物を意味する。
【0035】
光不透過性粒状物のメジアン径(D50)は、好ましくは1~10μmであり、より好ましくは2~7μm、特に好ましくは3~6μmである。
【0036】
光不透過性粒状物は、その比重が1.1~4.5であることが好ましい。
【0037】
光不透過性粒状物としては、例えば、シリカ、炭酸カルシウム、シリカ、アルミナ、水和アルミナ、マグネシア、タルク、クレー、硫酸バリウム、炭酸バリウム、ウォラストナイト、セラミック粉末等が挙げられる。光不透過性粒状物は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0038】
第1クリヤー層が光不透過性粒状物を含む場合、その第1クリヤー層中に含まれる光不透過性粒状物の量は、好ましくは0.1質量%~10質量%であり、より好ましくは0.5質量%~5質量%である。光不透過性粒状物の配合量が多くなると、塗膜の透明性が損なわれるとともに、塗料の粘度が高くなり、塗装作業性が低下する場合がある。また、光不透過性粒状物がシリカである場合、光不透過性粒状物の量が多すぎると、耐温水性を低下させる場合がある。
【0039】
本発明の塗装体において、第1クリヤー層は、エマルション塗料から形成された塗膜であることが好ましい。エマルション塗料とは、エマルション樹脂が含まれる塗料であり、エマルション樹脂とは、水分散性樹脂のうち、乳化重合によって得られる樹脂を指す。本発明の塗装体が基材の持つ意匠を生かした塗装体である場合、第1クリヤー層がエマルション塗料から形成された塗膜であると、基材の濡れ色が生じることを抑えることができる。これは、媒体に溶解している樹脂の場合には、基材に塗装した際に基材細部まで含浸し空隙を完全に充填することで光の散乱が減り全体的に黒っぽく(濡れ色に)なっている一方で、エマルション塗料の場合、樹脂は一定の粒子径を持っているため溶解している樹脂と比べ基材細部まで含浸せず、基材の空隙を適度に残すことができるため濡れ色を抑制できると考えられる。
【0040】
第1クリヤー層の形成に好適に使用できるエマルション塗料について、エマルション塗料中に分散している樹脂のメジアン径(D50)は、例えば70~200nmである。
【0041】
本明細書において、樹脂のメジアン径(D50)は、塗料中に分散している樹脂の体積基準粒度分布の50%粒子径(D50)を指し、粒度分布測定装置(例えばレーザ回折/散乱式粒度分布測定装置)を用いて測定される粒度分布から求めることができる。粒子径は、レーザ回折・散乱法による球相当径で表される。
【0042】
また、第1クリヤー層の形成に好適に使用できるエマルション塗料がアクリル樹脂系のエマルション塗料である場合、アクリル樹脂を構成するモノマーは、スチレン等の芳香族単量体が含まれないか、または、芳香族単量体が含まれる場合であっても、芳香族単量体の割合は構成モノマー全体の5質量%以下であることが好ましい。クリヤー層を形成するため、アクリル樹脂の構成モノマーには、耐候性に劣るスチレン等の芳香族単量体を使用しないことが好ましい。スチレン等の芳香族単量体の割合が構成モノマー全体の5質量%を超える場合には屋外使用時の耐候性に劣る場合がある
【0043】
本発明の塗装体は、その表面の60度光沢値が、好ましくは20以下であり、より好ましくは1~20であり、さらに好ましくは2~15であり、特に好ましくは3~10である。60度光沢値は、60°の入射角の光に対する光沢値であるため、塗装体の表面を比較的正面から見た際の鏡面光沢度の指標となる。また、本発明の塗装体は、その表面の85度光沢値が、好ましくは0.5~15であり、より好ましくは1~10であり、さらに好ましくは1.5~5である。85度光沢値は、85°の入射角の光に対する光沢値であるため、塗装体の表面に対して比較的水平方向から見た際の鏡面光沢度の指標となる。また、本発明の塗装体は、その表面の60度光沢値の85度光沢値に対する比(60度光沢値/85度光沢値)が、好ましくは1~10であり、より好ましくは1~7であり、さらに好ましくは1~4である。60度光沢値/85度光沢値の値が小さいほど、塗装体の表面を正面から見た際と水平方向から見た際の外観差が小さいことを表す。
【0044】
本明細書において、光沢値が測定される塗装体の表面は、少なくとも2層の第1クリヤー層および必要に応じてさらなる層が塗装されている表面である。本明細書において、光沢値は、JIS K5600-4-7(ISO 2813:1994)で規定される鏡面光沢度であり、例えば、日本電色株式会社製 光沢計VG-2000を用いて測定可能である。
【0045】
本発明の塗装体において、基材としては、例えば、エポキシ樹脂、ABS樹脂、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、アクリル樹脂、特にはポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリプロピレン(PP)等のプラスチック基材、鉄、ステンレス、アルミニウム、銅、チタンやそれらの合金等の金属基材、セメント、コンクリート、石膏、ケイ酸カルシウム、炭酸カルシウム、大理石、人工大理石、ガラス、セラミック等の金属以外の無機質基材、紙系基材、木質基材、これら基材の2種以上の材料を組み合わせた複合基材等が挙げられる。
【0046】
基材の形状としては、例えば、フィルム状、シート状、板状等がある。基材の表面は、平滑であってもよいし、凹凸を有していてもよい。
【0047】
基材の具体例としては、例えば、単板、合板、パーティクルボード、中密度繊維板(MDF)等の木質建材;窯業系サイディングボード、フレキシブルボード、珪酸カルシウム板、石膏スラグバーライト板、木片セメント板、石綿セメント板、パルプセメント板、プレキャストコンクリート板、軽量気泡コンクリート(ALC)板またはALCパネル、石膏ボード等の窯業建材;金属サイディングボード、アルミニウム、鉄、ステンレス等の金属建材等の各種建材(特に建築板)が好適に挙げられる。また、基材の具体例として、塩ビシート、ターポリン、プラダン(プラスチック製ダンボール)、アクリル板等のプラスチック基材、コート紙(具体的には樹脂コート紙)、アート紙、キャスト紙、微塗工紙、上質紙、合成紙、インクジェット用紙等の紙類;タイル、ガラス板等も挙げられる。
【0048】
基材は、その表面に、脱脂処理、化成処理、研磨等の前処理や、シーラー、プライマー塗装等が施されていてもよい。例えば、基材が、窯業建材等の塗料やインクを過度に吸い込む可能性のある基材(特に多孔性基材)である場合、基材の表面がシーラーで塗装され、基材上にシーラー層が形成されている場合がある。また、基材が、金属建材等である場合には、基材の表面がプライマーで塗装され、基材上にプライマー層が形成されている場合がある。
【0049】
本発明の塗装体において、基材に接している層はグリシジル基を含むことが好ましい。基材に接している層に存在するグリシジル基によって基材への付着性を向上させることができる。例えば、グリシジル基を有する樹脂を用いて塗膜を形成することで、グリシジル基を含む層、特にはグリシジル基を有する樹脂を含む層を基材上に形成させることが可能である。
【0050】
本発明の塗装体において、基材と第1クリヤー層の間には、シーラー層が形成されていてもよい。本発明の塗装体の一実施形態において、塗装体は、基材と、シーラー層と、少なくとも2層の第1クリヤー層とを備えることができる。ここで、シーラー層は基材上に位置し、第1クリヤー層はシーラー層上に位置している。シーラー層の形成には、塗料業界で公知のシーラーを使用することができる。また、上記塗装体がさらに意匠層を備える場合には、基材とシーラー層の間、または、シーラー層と第1クリヤー層の間に意匠層が配置され得る。
【0051】
また、基材の塗装時にシーラー層が求められるような場合には、クリヤー層による水シミの発生を抑える観点から、撥水層をさらに形成させることが好ましい。本発明の塗装体の一実施形態において、塗装体は、基材と、シーラー層と、撥水層と、少なくとも2層の第1クリヤー層とを備えることができる。ここで、シーラー層は基材上に位置し、撥水層はシーラー層上に位置し、第1クリヤー層は撥水層上に位置している。また、上記塗装体がさらに意匠層を備える場合には、基材とシーラー層の間、または、撥水層と第1クリヤー層の間に意匠層が配置され得る。ここで、撥水層とは、シリコーン系撥水剤等の撥水剤を含む層であり、塗装後の撥水層の接触角は70度以上であることが好ましい。
【0052】
本明細書において、撥水層の接触角は、静滴法によって求められる撥水層表面と水の接触角を指す。具体的には、撥水層表面に10μLの蒸留水を滴下し、20℃の雰囲気下で10秒間静置し、一般的な接触角計(例えば協和界面化学株式会社接触角計DMs-401)を用いて撥水層表面と水の接触角を測定することができる。
【0053】
本発明の塗装体において、少なくとも2層の第1クリヤー層上には、光触媒層、第2クリヤー層、オーバーコート層等のさらなる層が形成されていてもよい。本発明の塗装体の一実施形態において、塗装体は、基材と、少なくとも2層の第1クリヤー層と、光触媒層、第2クリヤー層およびオーバーコート層から選択される少なくとも1層のさらなる層とを備えることができる。ここで、第1クリヤー層は基材上に位置し、さらなる層は第1クリヤー層上に位置している。また、基材と第1クリヤー層の間には、上述のようなシーラー層、撥水層、意匠層等から選択される少なくとも1層のさらなる層が配置されていてもよい。
【0054】
光触媒層は、太陽光などの光が照射されることにより、光触媒作用が働く材料を含む層である。光触媒作用が働く材料としては、アナターゼ型酸化チタン、ルチル型酸化チタン、酸化錫、酸化亜鉛、酸化セリウムのような金属酸化物があげられるが、特にこれらの材料に限定されない。また、オーバーコート層とは、通常、最表面に塗装される層(言い換えれば、基材から最も離れた位置に配置される層)を指すが、本明細書においては、本発明の塗装体が第1クリヤー層上にさらなる層を備える場合であって、そのときの最表面に塗装される層が光触媒層または第2クリヤー層以外の層である場合、当該最表面に配置される層をオーバーコート層と称する。オーバーコート層の平均膜厚は、通常、数μm以下、例えば0.1~1μm程度である。
【0055】
次に、第1クリヤー層の形成に好適に使用できる塗料組成物の詳細について説明する。本明細書では、この塗料組成物を「第1クリヤー層用塗料組成物」とも称する。
【0056】
第1クリヤー層用塗料組成物は、水分散性樹脂と、光透過性粒状物とを含み、光不透過性粒状物をさらに含むことが好ましい。光透過性粒状物および光不透過性粒状物は、上記で説明したとおりである。
【0057】
本明細書において「水分散性樹脂」とは、水中に分布して不均質な系(例えば乳濁液又は懸濁液)を形成することが可能な樹脂である。水分散性樹脂は、エマルション樹脂を含むことが好ましい。エマルション樹脂は、分子量を大きくすることが可能であり、また、分散安定性にも優れる水分散性樹脂である。水分散性樹脂は、第1クリヤー層中での量が30~95質量%となるように塗料組成物中に含まれるのが好ましい。第1クリヤー層中の水分散性樹脂の量は、40~90質量%であることがより好ましく、50~85質量%であることがさらに好ましい。水分散性樹脂は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0058】
水分散性樹脂は、アクリル成分を構成要素(繰り返し単位等)として含む水分散性樹脂を含むことが好ましい。本明細書において「アクリル成分」とは、アクリル酸、メタクリル酸およびその誘導体(例えば、アクリル酸およびメタクリル酸のエステル、アミド等の(メタ)アクリロイル基を有する化合物やアクリル酸ニトリル、メタクリル酸ニトリル等)を指す。アクリル成分は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0059】
本明細書において、(メタ)アクリロイルの語は、メタクリロイルまたはアクリロイルを意味する。また、本明細書において、(メタ)アクリレートの語は、メタクリレートまたはアクリレートを意味する。例えば、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートは、2-エチルヘキシルアクリレートまたは2-エチルヘキシルメタクリレートである。また、ジ(メタ)アクリレート、トリ(メタ)アクリレート等のように、複数であることを示す接頭語が(メタ)アクリレートに付されている場合もあるが、この場合の各(メタ)アクリレートは、同一でも異なっていてもよい。
【0060】
アクリル成分を構成要素として含む水分散性樹脂には、アクリル樹脂の他、アクリルスチレン樹脂、アクリルシリコーン樹脂、ふっ素変性アクリル樹脂、脂肪酸変性アクリル樹脂、ウレタン変性アクリル樹脂、エポキシ変性アクリル樹脂等の各種変性樹脂も含まれる。
【0061】
水分散性樹脂は、非アクリル成分を構成要素(繰り返し単位等)として含むことができる。非アクリル成分とは、アクリル成分以外の成分であり、例えば、スチレンの他、フマル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、クロトン酸、ビニルバーサチック酸等のカルボキシル基含有単量体;メチルスチレン、クロロスチレン、メトキシスチレン、ビニルトルエン等の芳香族系モノマー;エチレン、プロピレン等のオレフィン系モノマー;酢酸ビニル、塩化ビニル等のビニル系モノマー;マレイン酸アミド等のアミド系モノマー;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン等のアルコキシシリル基含有単量体;ジアルキルフマレート、アリルアルコール、ビニルピリジン、ブタジエン等が挙げられる。
【0062】
水分散性樹脂は、構成要素となる単量体成分の重合により得ることができ、構成要素となる単量体成分の乳化重合により得ることが好ましい。単量体成分は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0063】
第1クリヤー層用塗料組成物は、さらに紫外線吸収剤およびラジカル捕捉剤よりなる群から選択される少なくとも1種を含むことができる。
【0064】
紫外線吸収剤は、紫外線を吸収し、紫外線による劣化を防止する作用を有する。紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾエート系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、トリアジン系紫外線吸収剤(特にヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤)、ベンジリデンカンファー系紫外線吸収剤等が挙げられる。紫外線吸収剤は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0065】
紫外線吸収剤としては、例えば、2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン-5-スルフォニックアシッド、2-ヒドロキシ-4-オクトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-ドデシロキシベンゾフェノン-2-ヒドロキシ-4-ベンジロキシベンゾフェノン、ビス(5-ベンゾイル-4-ヒドロキシ-2-メトキシフェニル)メタン、2,2’-ジヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2,2’-ジヒドロキシ-4,4’-ジメトキシベンゾフェノン、2,2’,4,4’-テトラヒドロキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシ-2’-カルボキシベンゾフェノン、2-(2’-ヒドロキシ-5’-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-[2’-ヒドロキシ-3’,5’-ビス(α,α-(ジメチルベンジル)フェニル]ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-t-ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’-t-ブチル-5’-メチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-t-ブチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-t-アミルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-5’-t-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2’-メチレン-ビス[4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)-6-(2N-ベンゾトリアゾール-2-イル)フェノール]、メチル-3-[3-t-ブチル-5-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-ヒドロキシフェニル]プロピオネートとポリエチレングリコールとの縮合物、2-(2-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-5’-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,6-ジ-t-ブチルフェニル-3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシベンゾエート、ヘキサデシル-3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンゾエート、2-[4-[(2-ヒドロキシ-3-ドデシルオキシプロピル)オキシ]-2-ヒドロキシフェニル]-4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン、2-[4-[(2-ヒドロキシ-3-トリデシルオキシプロピル)オキシ]-2-ヒドロキシフェニル]-4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン、2-[4-[(2-ヒドロキシ-3-(2’-エチル)ヘキシル)オキシ]-2-ヒドロキシフェニル]-4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4-ビス(2-ヒドロキシ-4-ブチルオキシフェニル)-6-(2,4-ビス-ブチルオキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、ヒドロキシフェニルトリアジン、2-(2-ヒドロキシ-4-[1-オクチルオキシカルボニルエトキシ]フェニル)-4,6-ビス(4-フェニルフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4,6-トリス(2-ヒドロキシ-4-ヘキシルオキシ-3-メチルフェニル)-1,3,5-トリアジン等が挙げられる。
【0066】
ラジカル捕捉剤は、フリーラジカル等を捕捉し、光安定性を向上させることができる。また、本発明においては、フリーラジカルと反応し、重合反応が起こることを防止する機能を有する物質(いわゆる重合禁止剤)も、ラジカル捕捉剤に含まれる。ラジカル捕捉剤は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0067】
ラジカル捕捉剤としては、ヒンダードアミン系化合物、ハイドロキノン系化合物、フェノール系化合物、フェノチアジン系化合物、ニトロソ系化合物、N-オキシル系化合物等が挙げられ、特にヒンダードアミン系光安定化剤(HALS)が好ましい。
【0068】
ラジカル捕捉剤としては、例えば、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)セバケート、1-{2-(3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ)エチル}-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、8-アセチル-3-ドデシル-7,7,9,9-テトラメチル-1,3,8-トリアザスピロ{4.5}デカン-2,4-ジオン等のヒンダードアミン系化合物、フェノール、o-、m-又はp-クレゾール、2-t-ブチル-4-メチルフェノール、6-t-ブチル-2,4-ジメチルフェノール、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、2-t-ブチルフェノール、4-t-ブチルフェノール、2,4-ジ-t-ブチルフェノール、2-メチル-4-t-ブチルフェノール、4-t-ブチル-2,6-ジメチルフェノール等のフェノール系化合物、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、メチルハイドロキノン、2,5-ジ-t-ブチルハイドロキノン、2-メチル-p-ハイドロキノン、2,3-ジメチルハイドロキノン、トリメチルハイドロキノン4-メチルベンズカテキン、t-ブチルハイドロキノン、3-メチルベンズカテキン、2-メチル-p-ハイドロキノン、2,3-ジメチルハイドロキノン、トリメチルハイドロキノン、t-ブチルハイドロキノン、ベンゾキノン、t-ブチル-p-ベンゾキノン、2,5-ジフェニル-p-ベンゾキノン等のハイドロキノン系化合物、フェノチアジン等のフェノチアジン系化合物、N-ニトロソ-N-フェニルヒドロキシルアミンアンモニウム、N-ニトロソ-N-フェニルヒドロキシルアミンアルミニウム塩等のニトロソ系化合物、4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチル-ピペリジン-N-オキシル、4-オキソ-2,2,6,6-テトラメチル-ピペリジン-N-オキシル、4-メトキシ-2,2,6,6-テトラメチル-ピペリジン-N-オキシル等のN-オキシル系化合物等が挙げられる。
【0069】
第1クリヤー層用塗料組成物は、水系の塗料組成物であることが好ましい。本明細書において「水系の塗料組成物」とは、主溶媒として水を含有する塗料組成物である。水は、特に制限されるものではないが、イオン交換水や蒸留水等の純水等が好適に挙げられる。また、塗料組成物を長期保存する場合には、カビやバクテリアの発生を防止するため、紫外線照射等により滅菌処理した水を用いてもよい。第1クリヤー層用塗料組成物中において、水の量は、20~80質量%であることが好ましく、30~70質量%であることがより好ましい。
【0070】
第1クリヤー層用塗料組成物は、厚さ10μmの膜を形成した際の紫外線透過率が30%未満であることが好ましく、20%未満であることがより好ましく、10%未満であることがさらに好ましい。
【0071】
本明細書において、紫外線透過率は、280nmから400nmまでの波長範囲の光の透過率を意味し、分光光度計を用いて測定することができる。
具体的に、石英ガラスに塗料組成物を乾燥膜厚が10μmになるように塗装して、乾燥炉で80℃×10分乾燥させることで測定用のサンプルを作製して、そのサンプルについて紫外可視分光光度計(例えば、島津社製UV-2450)を用いて紫外線透過率を測定することができる。
【0072】
第1クリヤー層用塗料組成物には、その他の成分として、他の樹脂、溶媒、顔料、表面調整剤、湿潤剤、分散剤、増粘剤、沈降防止剤、皮張り防止剤、たれ防止剤、消泡剤、色分かれ防止剤、粘度調整剤、レオロジーコントロール剤、レベリング剤、消泡剤、乾燥剤、可塑剤、防腐剤、防カビ剤、抗菌剤、殺虫剤、抗ウイルス剤、帯電防止剤、および導電性付与剤等を目的に応じて適宜配合することができる。
【0073】
第1クリヤー層用塗料組成物は、必要に応じて適宜選択される各種成分を混合することによって調製できる。第1クリヤー層用塗料組成物は、1液型でも2液型でもよいが、2液型の塗料組成物である場合、主剤と硬化剤とを予め用意しておき、これらを塗装時に混合することで調製できる。通常、主剤は樹脂を含み、硬化剤は架橋剤を含む。主剤と硬化剤との混合の際に、粘度の調整等の目的で水や希釈剤等の添加剤をさらに加えてもよい。
【0074】
第1クリヤー層用塗料組成物は、せん断速度0.1(1/s)における粘度が1~1000(Pa・s、23℃)であり、せん断速度1000(1/s)における粘度が0.05~10(Pa・s、23℃)であることが好ましい。本明細書において、粘度は、レオメーター(例えば、TAインスツルメンツ社製レオメーターARES)を用い、液温を23℃に調整した後に測定される。
【0075】
第1クリヤー層用塗料組成物の塗装手段は、特に限定されず、既知の塗装手段、例えば、刷毛塗装、ローラー塗装、コテ塗装、ヘラ塗装、フローコーター塗装、スプレー塗装(例えばエアースプレー塗装、エアレススプレー塗装)等が利用できる。
【0076】
第1クリヤー層用塗料組成物の乾燥手段は、特に限定されず、周囲温度での自然乾燥や乾燥機等を用いた強制乾燥のいずれであってもよいが、第1クリヤー層用塗料組成物がガラス転移温度の高い樹脂を含む場合は強制乾燥を行うことが好ましい。第1クリヤー層用塗料組成物がホモポリマーのTgが50℃以上となる単量体を構成要素として含む樹脂を含む場合は、塗料組成物を塗装した後、80~150℃で加熱乾燥することが好ましい。
【実施例0077】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0078】
<クリヤー塗料1>
混合器に水系樹脂Aを固形分換算で70質量部投入し、これに光透過性粒状物A(PMMA樹脂ビーズ、粒子径:12μm)を固形分換算で20質量部、シリカ(メジアン径(D50):5μm)を固形分換算で3.5質量部、及び添加剤として増粘剤、分散剤、紫外線吸収剤、及び光安定化剤を固形分換算で合計6.5質量部、それぞれ攪拌環境下で徐々に投入し20分間攪拌を行い、クリヤー塗料1を調製した。
【0079】
<クリヤー塗料2~14>
上記クリヤー塗料1の調製方法と同様に、以下の表1~3に示す配合処方に従ってクリヤー塗料2~14を調製した。なお、クリヤー塗料11は、シリカの量が極端に多かったことから、粘度が高く、塗装が困難であったので、塗装体の評価を行わなかった。
【0080】
なお、表1~3に示されるクリヤー塗料1~14の調製で使用した材料は、以下の通りである。
・水系樹脂A:スチレンアクリルエマルション、固形分43質量%、スチレン(St)量10質量%
・水系樹脂B:アクリルエマルション、固形分50質量%、St量0質量%
・水系樹脂C:アクリルシリコンエマルション、固形分43質量%、St量13質量%
・水系樹脂D:アクリルエマルション、固形分45質量%、St量0質量%
・水系樹脂E:スチレンアクリルエマルション、固形分48質量%、St量29質量%
・水系樹脂F:スチレンアクリルエマルション、固形分40質量%、St量39質量%
・水系樹脂G:スチレンアクリルエマルション、固形分40質量%、St量49質量%
・水系樹脂H:スチレンアクリルエマルション、固形分47質量%、St量59質量%
・水系樹脂I:アクリルふっ素エマルション、固形分51質量%、St量59質量%
・光透過性粒状物A:積水化成品工業社製PMMA樹脂ビーズ、メジアン径(D50)5μm、固形分100質量%、可視光透過率90%、比重1.2
・光透過性粒状物B:積水化成品工業社製PMMA樹脂ビーズ、メジアン径(D50)12μm、固形分100質量%、可視光透過率90%、比重1.2
・光透過性粒状物C:積水化成品工業社製PMMA樹脂ビーズ、メジアン径(D50)80μm、固形分100質量%、可視光透過率90%、比重1.2
・光透過性粒状物D:日本エクスラン工業社製PMMA樹脂ビーズ、メジアン径(D50)150μm、固形分100質量%、可視光透過率90%、比重1.2
・光透過性粒状物E:積水化成品工業社製PMMA樹脂ビーズ、メジアン径(D50)200μm、固形分100質量%、可視光透過率90%、比重1.2
・光不透過性粒状物A:W.R.グレース社製シリカ、粒子径5μm、固形分100質量%、比重1.8
・増粘剤:ADEKA社製ポリエーテルポリオール系ウレタンポリマー、固形分52質量%
・分散剤:サンノプコ社製特殊ポリカルボン酸アンモニウム塩の水溶液、固形分19質量%
・紫外線吸収剤:BASF社製、固形分41質量%
・光安定化剤:BASF社製、固形分100質量%
【0081】
また、表1~3中の「樹脂の合計」、「光透過性粒状物の合計」等の欄に示される数値は、塗料固形分中における各成分の質量部を表すものであるが、後述する塗装体の作製例に従い作製された塗装体については、ここでの数値を第1クリヤー層100質量部当たりの各成分の質量部とみなすことができる。
【0082】
【表1】
【0083】
【表2】
【0084】
【表3】
【0085】
<表層にクリヤー層を有する塗装体の作製例>
セメント系基材表面に、所定の膜厚となるようにクリヤー塗料をエアスプレーで塗装し、80℃、5分間乾燥させて、クリヤー層を形成させた。これによって、比較例1~3及び6~9の塗装体を作製した。クリヤー塗装仕様の詳細を表4および6に示す。
【0086】
<表層にクリヤー層を有する塗装体の透過率測定用試験体の作製例>
石英ガラスプレート表面に、所定の膜厚となるように調合したクリヤー塗料をエアスプレーで塗装し、80℃、5分間乾燥させて、クリヤー層を形成させた。これによって、比較例1~3及び6~9の透過率測定用試験体を作製した。クリヤー塗装仕様の詳細を表4および6に示す。
【0087】
<表層に2層以上のクリヤー層を有する塗装体の作製例>
セメント系基材表面に、所定の膜厚となるように調合したクリヤー塗料をエアスプレーで塗装し、80℃、5分間乾燥させて、1層目のクリヤー層を形成させた。次いで、1層目のクリヤー層に、所定の膜厚となるように2層目のクリヤー層のコート材をエアスプレーで塗装し、80℃、5分間乾燥させて、2層目のクリヤー層を形成させた。これによって、実施例1~12の塗装体並びに比較例4、5及び11~13の塗装体を作製した。クリヤー塗装仕様の詳細を表4~8に示す。
なお、比較例11~13の塗装体の作製では、形成された層の可視光透過率が低く、実際にはクリヤー層と呼べるものではなかった。
【0088】
<表層に2層以上のクリヤー層を有する塗装体の透過率測定用試験体の作製例>
石英ガラスプレート表面に、所定の膜厚となるように調合したクリヤー塗料をエアスプレーで塗装し、80℃、5分間乾燥させて、1層目のクリヤー層を形成させた。次いで、1層目のクリヤー層に、所定の膜厚となるように2層目のクリヤー層のコート材をエアスプレーで塗装し、80℃、5分間乾燥させて、2層目のクリヤー層を形成させた。これによって、実施例1~12の透過率測定用試験体並びに比較例4、5及び11~13の透過率測定用試験体を作製した。クリヤー塗装仕様の詳細を表4~8に示す。
【0089】
<塗膜性状:光沢>
日本電色株式会社製 光沢計VG-2000を用いて、作製した塗装体についての60度光沢値及び85度光沢値を測定し、60度光沢値/85度光沢値の値を求めた。結果を表4~8に示す。
【0090】
<塗膜性状:可視光透過率>
株式会社島津製作所社製 紫外・可視・近赤外分光光度計 UV-3600 Plusを用いて、透過率測定用試験体についての可視光透過率を測定した。結果を表4~8に示す。
【0091】
<水シミ評価>
作製した塗装体について、塗装体を5分間常温水に浸漬させた後、塗装体表面の状態を観察し、下記評価基準に従い水シミの評価を行った。結果を表4~8に示す。
(評価基準)
〇:浸漬前後で外観に変化無し
△:1%以下の面積で、基材上の濡れ色部分が発生
×:1%以上の面積で、基材上の濡れ色部分が発生
【0092】
<耐温水性評価>
作製した塗装体について、60℃×10日間温水に浸漬させた後、塗装体表面の状態を目視で観察し、下記評価基準に従い耐温水性を評価した。また、耐温水性評価のため、浸漬後の塗装体を取り出し後、表面の水を布でふき取ったのち、色差計にてΔEを測定した。結果を表4~8に示す。
(評価基準)
〇:評価前後で塗膜に色変化を生じていない(ΔE≦0.2)
△:評価後、塗膜が僅かに白化(0.2<ΔE≦0.5)
×:評価後、塗膜が白化(0.5<ΔE)
【0093】
<凍結融解B法試験>
作製した塗装体について、気中環境で基材の深部を-20℃にした後、水中環境で基材の深部を10℃にするサイクルを1サイクルとする試験を計200サイクル実施した。試験終了後、塗装体表面の状態を目視で観察し、下記評価基準に従い凍結融解に対する耐性を評価した。結果を表4~8に示す。
(評価基準)
〇:評価前後で基材もしくは塗膜にクラック・剥離等の異常を生じていない
△:評価後、基材もしくは塗膜に微クラックや僅かな剥離が見られる
×:評価後、基材もしくは塗膜に明確なクラックや剥離が見られる
【0094】
<目視外観;透明感>
作製した塗装体について目視で観察し、下記評価基準に従い塗装体表面の透明感を評価した。結果を表4~8に示す。
(評価基準)
〇:クリヤー層は透明性に優れ、クリヤー層を塗装した後であっても基材の意匠を生かした仕上がり外観が得られる。
×:クリヤー層の表面から基材が確認できるものの、クリヤー層は透明性に劣り、基材の有する意匠が損なわれる。
××:基材素地が確認できない。
【0095】
<目視外観;重厚感>
作製した塗装体について目視で観察し、下記評価基準に従い塗装体表面の重厚感を評価した。結果を表4~8に示す。
(評価基準)
〇:晴れおよび曇りの日の朝、昼、夕方に観察し、どの角度から見た場合にも仕上がりにマット感のある落ち着いた重厚感がある。
×:晴れおよび曇りの日の朝、昼、夕方に観察し、いずれかの条件においては角度によってテカリ・キラつきがあり質感が損なわれる場合がある。重厚感があるとはいえない。
××:テカリ・キラつきがあり質感が失われている。もしくは基材のキラつきがある。重厚感があるとはいえない。
【0096】
<促進耐候性評価(SUV)>
作製した塗装体について、岩崎電気(株)SUV-W261を用いて下記試験条件下にて促進耐候性試験を800時間実施した。
(試験条件)
照射波長範囲295~450nm、塗装面紫外線強度100mW/cm±5%
照射時:湿度50%RHブラックパネル温度63℃±2℃
結露時:95%RH以上ブラックパネル温度40℃±2℃
試験条件照射6H/結露2H
試験後の塗装体を50℃16h乾燥させたのち、色差計にてΔEを測定した。結果を表4~8に示す。
【0097】
【表4】
【0098】
【表5】
【0099】
【表6】
【0100】
【表7】
【0101】
【表8】