(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024135832
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】二次電池、電池パック及び車両
(51)【国際特許分類】
H01M 4/62 20060101AFI20240927BHJP
H01M 10/36 20100101ALI20240927BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20240927BHJP
H01M 4/485 20100101ALI20240927BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20240927BHJP
H01M 4/58 20100101ALI20240927BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20240927BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M10/36 Z
H01M4/13
H01M4/485
H01M4/505
H01M4/58
H01M4/525
H01M4/36 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023046714
(22)【出願日】2023-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】村田 芳明
(72)【発明者】
【氏名】保科 圭吾
(72)【発明者】
【氏名】高見 則雄
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ05
5H029AK01
5H029AK03
5H029AL02
5H029AL03
5H029AM00
5H029BJ14
5H029DJ08
5H029EJ12
5H029HJ02
5H050AA07
5H050BA08
5H050BA11
5H050CA01
5H050CA02
5H050CA05
5H050CA07
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB02
5H050CB03
5H050DA09
5H050DA11
5H050DA13
5H050EA02
5H050EA11
5H050EA12
5H050EA15
5H050EA23
5H050EA24
5H050FA05
5H050HA02
(57)【要約】
【課題】サイクル寿命性能に優れた二次電池、この二次電池を含む電池パック、並びにこの電池パックを含む車両を提供することを目的とする。
【解決手段】
実施形態によれば、二次電池が提供される。二次電池は、水系電解質と、正極と、負極とを含む。正極又は負極のうちの少なくとも一方の電極は第1結着剤を含む。第1結着剤は、フッ素系樹脂およびアクリル系樹脂を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水系電解質と、正極と、負極とを含み、
前記正極又は前記負極のうちの少なくとも一方の電極は第1結着剤を含み、
前記第1結着剤は、フッ素系樹脂およびアクリル系樹脂を含む、二次電池。
【請求項2】
前記第1結着剤は、下記(1)式を満たす、
0.01≦AF/(AF+AO+2AN)≦0.95 (1)
但し、前記AOは酸素原子の量であり、前記AFはフッ素原子の量であり、前記ANは窒素原子の量であり、AO+AN>0、AF>0である、請求項1記載の二次電池。
【請求項3】
前記アクリル系樹脂は、アクリル酸エステル、メタアクリル酸エステル及びアクリロニトリルからなる群より選択される少なくとも1種を含む重合体である、請求項1記載の二次電池。
【請求項4】
前記電極の表面のX線光電子分光スペクトルは、292eV以上294eV以下の範囲内にピークを有する、請求項1記載の二次電池。
【請求項5】
前記フッ素系樹脂は、フッ化ビニリデンを含む重合体である、請求項1記載の二次電池。
【請求項6】
前記電極の表面のX線光電子分光スペクトルは、398eV以上402eV以下の範囲内にピークを有する、請求項1記載の二次電池。
【請求項7】
前記電極の表面のX線光電子分光スペクトルは、168eV以上173eV以下の範囲内にピークを有する、請求項1記載の二次電池。
【請求項8】
前記水系電解質は、Zn、Sn及びPbからなる群より選択される少なくとも一つの元素を含む塩、アミド化合物及び有機硫黄化合物からなる群より選択される少なくとも1つを含む、請求項1記載の二次電池。
【請求項9】
前記負極は、負極結着剤として前記第1結着剤を含み、
前記負極の表面は、シアネート類、硫酸塩類、金属亜鉛、金属スズ、金属鉛、フッ化リチウム、酸化リチウム、酸化亜鉛及び水酸化亜鉛からなる群より選択される少なくとも1つを含む、請求項1記載の二次電池。
【請求項10】
前記正極は、
リチウムマンガン複合酸化物、オリビン構造を有するリチウムリン酸化物及びリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物からなる群より選択される少なくとも1つの正極活物質と、
正極結着剤として前記第1結着剤とを含む、請求項1記載の二次電池。
【請求項11】
前記負極は、
スピネル構造を有するチタン酸リチウム及び単斜晶型ニオブチタン酸化物からなる群より選択される少なくとも1つの負極活物質と、
負極結着剤として前記第1結着剤とを含む、請求項1記載の二次電池。
【請求項12】
請求項1に記載の二次電池を含む電池パック。
【請求項13】
通電用の外部端子と、
保護回路と
を更に含む請求項12に記載の電池パック。
【請求項14】
複数の前記二次電池を含み、
前記二次電池が、直列、並列、又は直列及び並列を組み合わせて電気的に接続されている請求項12に記載の電池パック。
【請求項15】
請求項12に記載の電池パックを搭載した車両。
【請求項16】
前記車両の運動エネルギーを回生エネルギーに変換する機構を含む請求項15に記載の車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、二次電池、電池パック及び車両に関する。
【背景技術】
【0002】
負極活物質として炭素材料又はリチウムチタン酸化物を、正極活物質としてニッケル、コバルト及びマンガン等を含有する層状酸化物を用いた非水電解質電池、特にリチウム二次電池が、幅広い分野における電源として既に実用化されている。このような非水電解質電池の形態は、各種電子機器用などの小型の物から、電気自動車用などの大型の物まで多岐にわたる。
【0003】
ところで、電解液の水溶液化の検討がなされている。水系電解液では、電池の充放電を実施する電位範囲を、溶媒として含まれている水の電気分解反応が起こらない電位範囲に留める必要がある。例えば、正極活物質としてリチウムマンガン酸化物及び負極活物質としてリチウムバナジウム酸化物を用いることで、水の電気分解を回避できる。これらの組み合わせでは、1~1.5V程度の起電力が得られるものの、電池として十分なエネルギー密度は得られにくい。
【0004】
正極活物質にリチウムマンガン酸化物、負極活物質としてLiTi2O4、Li4Ti5O12などといったリチウムチタン酸化物を用いると、理論的には2.6V~2.7V程度の起電力が得られ、エネルギー密度の観点からも魅力的な電池になりうる。このような正負極材料の組み合わせを採用した非水系のリチウム二次電池では優れた寿命性能が得られ、このような電池は既に実用化されている。しかしながら、水系の電解液においては、リチウムチタン酸化物のリチウム挿入脱離の電位は、リチウム電位基準にて約1.5V(vs.Li/Li+)であるため、水の電気分解が起こりやすい。一方で、正極のリチウムマンガン酸化物においても水溶液中のアニオンの酸化が起こることによりガスが発生するという問題があり、満足な充放電が不可能であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2017/135323号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Nature Energy volume 7,pages186-193 (2022)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされ、サイクル寿命性能に優れた二次電池、この二次電池を含む電池パック、並びにこの電池パックを含む車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態によれば、二次電池が提供される。二次電池は、水系電解質と、正極と、負極とを含む。正極又は負極のうちの少なくとも一方の電極は第1結着剤を含む。第1結着剤は、フッ素系樹脂およびアクリル系樹脂を含む。
【0009】
他の実施形態によると、実施形態に係る二次電池を含む電池パックが提供される。
【0010】
他の実施形態によると、実施形態に係る電池パックを含む車両が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施形態に係る二次電池の一例を概略的に示す断面図。
【
図2】
図1に示す二次電池のA部を拡大した断面図。
【
図3】実施形態に係る二次電池の他の例を模式的に示す部分切欠斜視図。
【
図4】
図3に示す二次電池のB部を拡大した断面図。
【
図5】実施形態に係る組電池の一例を概略的に示す斜視図。
【
図6】実施形態に係る電池パックの一例を概略的に示す分解斜視図。
【
図7】
図6に示す電池パックの電気回路の一例を示すブロック図。
【
図8】実施形態に係る車両の一例を概略的に示す部分透過図。
【
図9】実施形態に係る車両における電気系統に関する制御システムの一例を概略的に示した図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、実施の形態について適宜図面を参照して説明する。なお、実施の形態を通して共通の構成には同一の符号を付すものとし、重複する説明は省略する。また、各図は実施の形態の説明とその理解を促すための模式図であり、その形状や寸法、比などは実際の装置と異なる個所があるが、これらは以下の説明と公知の技術とを参酌して、適宜設計変更することができる。
【0013】
(第1の実施形態)
水系電解質を含む二次電池においては、水系電解質中の水の電気分解が副反応として生じ得る。そのため、水系電解質の劣化が生じ得る。
【0014】
例えば、リチウムイオン二次電池において水の電気分解が生じると、負極においてリチウムイオンの挿入と水素の発生とが競合するため、正極から放出されたリチウムイオンが電池反応に寄与しなくなり得る。また、負極における水素発生時には、同時に負極からリチウムイオンが脱離し得る。したがって、水の電気分解が生じると、負極及び正極の両方からリチウムイオンが消費されるため、充放電に利用できるリチウムイオンの量が減少し得る。その結果、充放電サイクルに伴って電池容量の劣化が生じ得る。
【0015】
また、副反応においては、例えば水系電解質の分解産物として固体成分が生成し得る。これらの固体成分は、例えば電極上に堆積し得るため、抵抗上昇の要因となり得る。
【0016】
本発明者らは、鋭意研究した結果、第1の実施形態に係る二次電池を実現した。
【0017】
第1の実施形態によると、二次電池が提供される。二次電池は、水系電解質と、正極と、負極とを含む。正極又は負極のうちの少なくとも一方の電極は第1結着剤を含む。第1結着剤は、フッ素系樹脂およびアクリル系樹脂を含む。
【0018】
アクリル系樹脂は、活物質粒子への被覆性が高い。そのため、電極中の活物質と、水系電解質中の水との接触を抑制できる。
【0019】
フッ素系樹脂は、疎水性が高い。そのため、電極中の活物質と、水系電解質中の水との接触を抑制できるため、副反応を抑制できる。したがって、サイクル寿命性能の向上に寄与する。
【0020】
フッ素系樹脂は疎水性が高いため、フッ素系樹脂の分子同士で凝集しやすい。その結果、例えば、フィブリル化しやすい。フィブリル化したフッ素系樹脂は、粒子形状の活物質(活物質粒子)への被覆性が低くなり得る。そのため、フッ素系樹脂単独で活物質粒子への被覆性を向上するのは困難である。
【0021】
アクリル系樹脂とフッ素系樹脂は互いに相溶性を有し得るため、これらを混合して第1結着剤として用いることができる。
【0022】
第1結着剤は、活物質粒子への被覆性が高いアクリル系樹脂と、疎水性が高いフッ素系樹脂とを含む。したがって、第1結着剤は、非水電解質電池と比較して水の電気分解が発生しやすい水系電解質電池においても、副反応を抑制するために十分な被覆性及び疎水性を確保することができる。その結果、サイクル寿命性能をさらに向上できる。
【0023】
以下、実施形態に係る二次電池をさらに説明する。
【0024】
係る二次電池において、正極又は負極のうちの少なくとも一方の電極は、第1結着剤を含む。当該電極は、集電体と、集電体上に形成された活物質含有層とを含むことができる。活物質含有層は、活物質と、第1結着剤とを含む。活物質は、例えば粒子形状の活物質粒子であり得る。電極は、さらに被膜を含むことができる。被膜は、活物質含有層に含まれ得る。
【0025】
第1結着剤は、活物質粒子の表面の少なくとも一部を被覆し得る。よって、活物質と水系電解質との接触を抑制できるため、副反応を抑制できる。したがって、サイクル寿命性能の向上に寄与する。
【0026】
第1結着剤は、0.01≦AF/(AF+AO+2AN)≦0.95を満たすことが好ましい。但し、AOは酸素原子の量であり、AFはフッ素原子の量であり、ANは窒素原子の量である。AO+AN>0、AF>0である。
【0027】
第1結着剤は、酸素原子及びフッ素原子を含み得る。酸素原子は、例えば、第1結着剤中のアクリル系樹脂に含まれ得る。フッ素原子は、例えば、第1結着剤中のフッ素系樹脂に含まれ得る。第1結着剤は、窒素原子をさらに含んでもよい。窒素原子は、例えば、アクリロニトリル等のアクリル系樹脂に含まれ得る。
【0028】
第1結着剤は、第1結着剤に含まれる酸素原子の量AO、フッ素原子の量AF及び窒素原子の量ANが、0.01≦AF/(AF+AO+2AN)≦0.95を満たすことが好ましい。AO+AN>0を満たす限り、AO又はANは、0であってもよい。すなわち、第1結着剤は、酸素原子及び窒素原子のうちいずれか一方を含んでいなくてもよい。
【0029】
第1結着剤中のアクリル系樹脂の割合が多い場合、又は、フッ素系樹脂の割合が少ない場合に、AF/(AF+AO+2AN)の値が小さくなり得る。第1結着剤に対するアクリル系樹脂の割合が多くなるほど、又は、フッ素系樹脂の割合が少なくなるほど、活物質粒子への第1結着剤の被覆率を高くできる傾向にある。そのため、AF/(AF+AO+2AN)は0.95以下であることが好ましく、0.8以下であることが特に好ましい。
【0030】
第1結着剤中のアクリル系樹脂の割合が少ない場合、又は、フッ素系樹脂の割合が多い場合に、AF/(AF+AO+2AN)の値が大きくなり得る。第1結着剤に対するアクリル系樹脂の割合が少ないほど、又は、フッ素系樹脂の割合が多いほど、疎水性を高くでき、かつ、電極を柔軟にできる傾向にある。そのため、AF/(AF+AO+2AN)は0.01以上であることが好ましく、0.05以上であることがより好ましく、0.5以上であることが特に好ましく、0.6以上であることがさらに好ましい。第1結着剤は、第1結着剤に含まれる酸素原子の量AO、フッ素原子の量AF及び窒素原子の量ANが、0.5≦AF/(AF+AO+2AN)≦0.8を満たすことがより好ましい。
【0031】
0.01≦AF/(AF+AO+2AN)≦0.95を満たすとき、第1結着剤に対するアクリル系樹脂の割合が5質量%以上70質量%以下であるときの原子数比を満足し得るため、好ましい。第1結着剤に対するアクリル系樹脂の割合が5質量%以上であると、活物質粒子への第1結着剤の被覆率を高くできる。70質量%以下であると十分な疎水性を担保でき、また電極の柔軟性を保つことができる。電極が柔軟であると、充放電サイクルに伴う電極の膨張収縮に起因する電極の割れを抑制できる。そのため、抵抗上昇の悪影響を抑制できる。第1結着剤に対するアクリル系樹脂の割合は、15質量%以上45質量%以下の範囲内であることがより好ましい。
【0032】
アクリル系樹脂は、アクリル酸エステル、メタアクリル酸エステル及びアクリロニトリルからなる群より選択される少なくとも1種を含む重合体であり得る。アクリル酸エステル、メタアクリル酸エステル及びアクリロニトリルからなる群より選択される少なくとも1種は、例えば、モノマーとして重合体に含まれ得る。重合体が含むモノマーの種類は、1種又は2種以上にすることができる。重合体は、1種のモノマーからなるポリマーであってもよく、又は2種以上のモノマーを含むコポリマー(共重合体)であってもよい。上記重合体の具体例には、アクリル酸エステルポリマー、メタアクリル酸エステルポリマー及びアクリロニトリルポリマー、およびこれらの共重合体を挙げることができる。アクリル系樹脂の種類は、1種又は2種以上にすることができる。
【0033】
アクリル系樹脂は、上記のうち、特にメタアクリル酸エステルポリマーを含むことがフッ素系樹脂との相溶性の観点から好ましい。
【0034】
フーリエ変換赤外分光(FT-IR)測定における、本実施形態にかかる二次電池が備える電極の表面の赤外吸収スペクトルは、1710cm-1以上1740cm-1以下の範囲内に吸収ピークを有し得、かつ、1120cm-1以上1160cm-1の範囲内に吸収ピークを有し得る。
【0035】
赤外吸収スペクトルにおける、1710cm-1以上1740cm-1以下の範囲内の吸収ピークは、C=O結合に帰属される。1120cm-1以上1160cm-1の範囲内の吸収ピークは、C-O結合に帰属される。これらの結合は、カルボン酸エステルに帰属され得る。カルボン酸エステルの例には、アクリル系樹脂が含まれる。アクリル系樹脂を含む電極の表面の赤外吸収スペクトルは、上記のような吸収ピークを有し得る。
【0036】
本実施形態にかかる二次電池が備える電極の表面の赤外吸収スペクトルは、上記アクリル系樹脂を含む電極の表面が有し得る吸収ピークに加えて、2800cm-1以上3000cm-1以下の範囲内に吸収ピークを有し得、かつ、1800cm-1以上2500cm-1以下の範囲にわたって吸光度が低くなり得る。アクリル酸エステル又はメタアクリル酸エステルを含む重合体を含む電極の表面の赤外吸収スペクトルは、上記の特徴を有する。
【0037】
アクリル酸エステル又はメタアクリル酸エステルを含む重合体を含む電極の表面の赤外吸収スペクトルは、例えば、A2900/A2000≧2、A1725/A2000≧4及びA1145/A2000≧4を満たし得る。ここで、Aλは、赤外吸収スペクトルにおいて、λcm-1における吸光度(Absorbance)を指す。
【0038】
本実施形態にかかる二次電池が備える電極の表面の赤外吸収スペクトルは1800cm-1以上2500cm-1以下の範囲にわたって吸光度が低くなり得るため、当該赤外吸収スペクトルにおいて、ピークは、例えば、以下のように定義できる。A2900/A2000≧2を満たす赤外吸収スペクトルは、2800cm-1以上3000cm-1以下の範囲内にピークを有するということができる。A1725/A2000≧4を満たす赤外吸収スペクトルは、1710cm-1以上1740cm-1以下の範囲内にピークを有するということができる。A1145/A2000≧4を満たす赤外吸収スペクトルは、1120cm-1以上1160cm-1以下の範囲内にピークを有するということができる。
【0039】
本実施形態にかかる二次電池が備える電極の表面の赤外吸収スペクトルは、上記アクリル系樹脂を含む電極の表面が有し得る吸収ピークに加えて、2240cm-1以上2260cm-1以下の範囲内に吸収ピークを有し得る。この吸収ピークは、C≡N結合に帰属される。C≡N結合は、例えば、アクリロニトリルに帰属され得る。さらに、1800cm-1以上2200cm-1以下の範囲にわたって吸光度が低くなり得る。アクリロニトリルを含む重合体を含む電極の表面の赤外吸収スペクトルは、上記の特徴を有する。
【0040】
アクリロニトリルを含む重合体を含む電極の表面の赤外吸収スペクトルは、例えば、A2250/A2000≧4を満たし得る。
【0041】
先に説明したのと同様に、A2250/A2000≧4を満たす赤外吸収スペクトルは、1800cm-1以上2200cm-1以下の範囲内にピークを有するということができる。
【0042】
第1結着剤に対するフッ素系樹脂の割合は、30質量%以上95質量%以下の範囲内であることが好ましい。30質量%以上であると十分な疎水性を担保でき、また電極の柔軟性を保つことができるため、抵抗上昇の悪影響を抑制できる。95質量%以下であると、活物質粒子への第1結着剤の被覆率を高くできる。フッ素系樹脂の割合は、55質量%以上85質量%以下の範囲内であることがより好ましい。
【0043】
フッ素系樹脂は、フッ化ビニリデンを含む重合体であり得る。フッ化ビニリデンは、例えば、モノマーとして重合体に含まれ得る。具体的には、ポリフッ化ビニリデン(polyvinylidene fluoride;PVDF)であってもよく、又はフッ化ビニリデンと他のモノマーとを含む共重合体であってもよい。
【0044】
本実施形態にかかる二次電池が備える電極の表面のX線光電子分光(X-ray photoelectron spectroscopy;XPS)スペクトルは、292eV以上294eV以下の範囲内にピークを有し得る。この範囲内に現れるピークは、C-F結合に帰属される吸収ピークである。C-F結合は、フッ素系樹脂に帰属され得る。フッ素系樹脂を含む電極の表面のXPSスペクトルは、上記のピークを有し得る。
【0045】
電極は、さらに被膜を含むことが好ましい。被膜の形態は、特に制限されない。被膜は、電極の表面に形成されていてもよく、活物質含有層の内部に形成されてもよい。これらの場合を総じて、電極が被膜を含むという。被膜は、電極表面に露出し得る。電極表面は、活物質含有層の主面のうち、集電体と接していない側の面を指す。被膜は、例えば、活物質粒子表面の少なくとも一部を被覆する第1結着剤の外側に、形成され得る。被膜は、活物質粒子表面のうち、第1結着剤によって被覆されていない部分を被覆し得る。したがって、電極が第1結着剤に加えて被膜をさらに含む場合、活物質と水系電解質との接触をさらに抑制できるため、副反応を抑制できる。
【0046】
よって、電極が被膜を含む場合は、例えば、副反応を生じやすい活物質粒子を水系電解質と組み合わせて用いる際に、さらに副反応を抑制しやすくなる。副反応を生じやすい活物質粒子の例としては、粒径の小さな活物質粒子が挙げられる。粒径の小さな活物質粒子は、表面積が大きい。そのため、出力性能を向上できるものの、副反応を生じやすい傾向にある。電極が被膜を含む場合には、このような副反応を生じやすい活物質粒子を採用できるため、副反応の抑制と出力性能の向上を両立できる。
【0047】
被膜は、シアネート類、硫酸塩類、金属亜鉛、金属スズ、金属鉛、フッ化リチウム、酸化リチウム、酸化亜鉛及び水酸化亜鉛からなる群より選択される少なくとも1つを含む。シアネート類の例には、シアネート化合物及びイソシアネート化合物が含まれる。イソシアネート化合物の例には、例えば、リチウムイソシアネートが含まれる。硫酸塩類の例には、硫酸塩及び亜硫酸塩が含まれる。硫酸塩及び亜硫酸塩の具体例には、それぞれ、硫酸リチウム及び亜硫酸リチウムが含まれる。
【0048】
シアネート類及び硫酸塩類は、水系電解質電池内において安定に存在できる。また、リチウムイオン伝導性に優れる。そのため、副反応抑制効果が高く、かつ、抵抗を低く保つことができる。
【0049】
本実施形態にかかる二次電池が備える電極の表面についてのXPSスペクトルは、398eV以上402eV以下の範囲内にピークを有し得る。シアネート類を含有する被膜を含む電極の表面についてのXPSスペクトルは、上記の特徴を有する。
【0050】
本実施形態にかかる二次電池が備える電極の表面についてのXPSスペクトルは、168eV以上173eV以下の範囲内にピークを有し得る。硫酸塩類を含有する被膜を含む電極の表面についてのXPSスペクトルは、上記の特徴を有する。
【0051】
金属亜鉛、金属スズ、金属鉛、フッ化リチウム、酸化リチウム、酸化亜鉛及び水酸化亜鉛は、水素過電圧が高い。よって、上記のうち少なくとも1つの物質を含有する被膜を含む電極は、水の電気分解を抑制できる。そのため、水素発生を抑制して負極におけるリチウムイオンの吸蔵放出を円滑にできる。従って、二次電池のサイクル寿命性能を高めることができる。金属亜鉛、金属スズ、金属鉛、フッ化リチウム、酸化リチウム、酸化亜鉛及び水酸化亜鉛からなる群より選択される少なくとも1つを含む被膜は、正極及び負極のうち、負極に形成されていることがより好ましい。
【0052】
本実施形態にかかる二次電池が備える電極の表面のXPSスペクトルは、1020.6eV以上1023.2eV以下の範囲内にピークを有し得る。金属亜鉛、酸化亜鉛及び水酸化亜鉛からなる群より選択される少なくとも1種を含有する被膜を含む電極の表面についてのXPSスペクトルは、上記の特徴を有する。
【0053】
金属亜鉛を含有する被膜は、酸化亜鉛又は水酸化亜鉛を同時に含有し得る。酸化亜鉛は、例えば、金属亜鉛の表面が酸化されることによって生じ得る。
【0054】
金属亜鉛、酸化亜鉛及び水酸化亜鉛のそれぞれは、1020.7eV以上1023.2eV以下の範囲内のピーク形状のフィッティングによって区別可能である。例えば、金属亜鉛及び酸化亜鉛を含有する被膜を含む電極の表面についての電極表面のXPSスペクトルは、ピーク形状のフィッティングによって1020.7eV以上1021.3eV以下の範囲内にピークが検出され得、かつ、1021.8eV以上1022.6eV以下の範囲内にピークが検出され得る。
【0055】
1020.7eV以上1021.3eV以下の範囲内のピークは、例えば、金属亜鉛に帰属され得る。1021.8eV以上1022.6eV以下の範囲内のピークは、例えば、酸化亜鉛に帰属され得る。
【0056】
また、水酸化亜鉛を含有する被膜を含む電極の表面についての電極表面のXPSスペクトルは、ピーク形状のフィッティングによって1022.4eV以上1023.2eV以下の範囲内にピークが検出され得る。
【0057】
本実施形態にかかる二次電池が備える電極の表面のXPSスペクトルは、484.4eV以上485.3eV以下の範囲内にピークを有し得る。金属スズを含有する被膜を含む電極の表面についてのXPSスペクトルは、上記の特徴を有する。
【0058】
本実施形態にかかる二次電池が備える電極の表面のXPSスペクトルは、136.2eV以上137.1eV以下の範囲内にピークを有し得る。金属鉛を含有する被膜を含む電極の表面についてのXPSスペクトルは、上記の特徴を有する。
【0059】
本実施形態にかかる二次電池が備える電極の表面のXPSスペクトルは、684.7eV以上685.4eV以下の範囲内にピークを有し得る。フッ化リチウムを含有する被膜を含む電極の表面についてのXPSスペクトルは、上記の特徴を有する。
【0060】
本実施形態にかかる二次電池が備える電極の表面のXPSスペクトルは、55.2eV以上55.8eV以下の範囲内にピークを有し得る。酸化リチウムを含有する被膜を含む電極の表面についてのXPSスペクトルは、上記の特徴を有する。
【0061】
以下、実施形態に係る二次電池を詳細に説明する。
【0062】
当該二次電池は、例えば、リチウムイオンをキャリアイオンとするリチウム二次電池(リチウムイオン二次電池)であり得る。二次電池には、水系電解質(例えば、水溶液電解質)を含んだ水系電解質二次電池が含まれる。つまり二次電池は、水系電解質リチウムイオン二次電池であり得る。
【0063】
係る二次電池は、正極と負極との間に配されたセパレータを更に含むこともできる。
【0064】
二次電池において、負極、正極、及びセパレータは、電極群を構成することができる。水系電解質は、電極群に保持され得る。
【0065】
二次電池は、電極群および水系電解質を収容可能な外装部材を更に含むことができる。また、二次電池は、負極に電気的に接続された負極端子及び正極に電気的に接続された正極端子を更に含むことができる。
【0066】
以下、負極、正極、セパレータ、水系電解質、外装部材、負極端子及び正極端子について詳細に説明する。負極及び正極についての説明のうち、先に説明した電極と重複する部分は、省略する。
【0067】
1)負極
負極は、負極集電体と、負極活物質含有層とを含むことができる。負極活物質含有層は、負極集電体の片面又は両面に形成され得る。負極活物質含有層は、負極活物質と、任意に導電剤及び負極結着剤とを含むことができる。負極は、被膜をさらに含んでもよい。
【0068】
負極活物質含有層は、先に説明した第1結着剤を負極結着剤として含み得る。すなわち、負極は、先に説明した電極であり得る。負極が先に説明した電極である場合、負極集電体、負極活物質含有層、負極活物質及び負極結着剤は、それぞれ、先に説明した集電体、活物質含有層、活物質及び第1結着剤であり得る。
【0069】
当該負極と組み合わせる正極が第1結着剤を含む場合、当該負極は、第1結着剤を含まなくてもよい。
【0070】
負極活物質の例には、例えば、ラムスデライト構造を有するチタン酸リチウム(例えばLi2+yTi3O7、0≦y≦3)、スピネル構造を有するチタン酸リチウム(例えば、Li4+xTi5O12、0≦x≦3)、二酸化チタン(TiO2)、アナターゼ型二酸化チタン、ルチル型二酸化チタン、五酸化ニオブ(Nb2O5)、ホランダイト型チタン複合酸化物、直方晶型(orthorhombic)チタン複合酸化物、及び単斜晶型ニオブチタン酸化物が挙げられる。
【0071】
上記直方晶型チタン含有複合酸化物の例として、Li2+aMI
2-bTi6-cMII
dO14+σで表される化合物が挙げられる。ここで、MIは、Sr,Ba,Ca,Mg,Na,Cs,Rb及びKからなる群より選択される少なくとも1つである。MIIはZr,Sn,V,Nb,Ta,Mo,W,Y,Fe,Co,Cr,Mn,Ni,及びAlからなる群より選択される少なくとも1つである。組成式中のそれぞれの添字は、0≦a≦6、0≦b<2、0≦c<6、0≦d<6、-0.5≦σ≦0.5である。直方晶型チタン含有複合酸化物の具体例として、Li2+aNa2Ti6O14(0≦a≦6)が挙げられる。
【0072】
上記単斜晶型ニオブチタン酸化物の例として、LixTi1-yM1yNb2-zM2zO7+δで表される化合物が挙げられる。ここで、M1は、Zr,Si,及びSnからなる群より選択される少なくとも1つである。M2は、V,Ta,及びBiからなる群より選択される少なくとも1つである。組成式中のそれぞれの添字は、0≦x≦5、0≦y<1、0≦z<2、-0.3≦δ≦0.3である。単斜晶型ニオブチタン酸化物の具体例として、LixNb2TiO7(0≦x≦5)が挙げられる。
【0073】
単斜晶型ニオブチタン酸化物の他の例として、LixTi1-yM3y+zNb2-zO7-δで表される化合物が挙げられる。ここで、M3は、Mg,Fe,Ni,Co,W,Ta,及びMoより選択される少なくとも1つである。組成式中のそれぞれの添字は、0≦x≦5、0≦y<1、0≦z<2、-0.3≦δ≦0.3である。
【0074】
負極活物質は、例えば、粒子形状であり得る。負極活物質は、一次粒子の形態であってもよく、一次粒子が凝集した二次粒子の形態であってもよく、又は一次粒子と二次粒子が混合されていてもよい。
【0075】
負極活物質粒子の平均粒子径は、5μm以下であると好ましい。負極活物質粒子の平均粒子径は、0.5μm以上5μm以下の範囲内であると、より好ましい。平均粒子径が5μm以下である負極活物質粒子を用いることで、リチウムイオンの固体内拡散抵抗を十分に下げることができるため、出力性能を向上できる。負極活物質粒子の平均粒子径が0.5μm未満であると、負極活物質粒子と水系電解質との接触による副反応を抑制するために過剰量の樹脂を加える必要があり、抵抗上昇の観点で不利である。
【0076】
導電剤は、集電性能を高め、且つ、負極活物質と負極集電体との接触抵抗を抑えるために配合される。導電剤の例には、気相成長カーボン繊維(Vapor Grown Carbon Fiber;VGCF)、アセチレンブラックなどのカーボンブラック、黒鉛、カーボンナノチューブ及びカーボンナノファイバーのような炭素質物が含まれる。これらの1つを導電剤として用いてもよく、或いは、2つ以上を組み合わせて導電剤として用いてもよい。あるいは、導電剤を用いる代わりに、負極活物質粒子の表面に、炭素コートや電子導電性無機材料コートを施してもよい。
【0077】
負極結着剤は、分散された負極活物質の間隙を埋め、また、負極活物質と負極集電体を結着させるために配合される。負極結着剤は、先に説明した第1結着剤を含むことができる。負極結着剤は、第1結着剤以外の他の結着剤を含んでもよい。負極結着剤は、先に説明した第1結着剤のみからなってもよく、第1結着剤と他の結着剤との混合物であってもよく、他の結着剤のみからなってもよい。他の結着剤として、前述のフッ素系樹脂又はアクリル系樹脂を単独で用いてもよい。
【0078】
他の結着剤の例には、ポリテトラフルオロエチレン(polytetrafluoro ethylene;PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(polyvinylidene fluoride;PVDF)、フッ素系ゴム、スチレンブタジェンゴム、ポリアクリル酸化合物、イミド化合物、カルボキシメチルセルロース(carboxymethyl cellulose;CMC)、及びCMCの塩が含まれる。これらのうち1つを負極結着剤として用いてもよく、或いは、2つ以上を組み合わせて負極結着剤として用いてもよい。
【0079】
負極活物質含有層中の負極活物質、導電剤及び負極結着剤の配合割合は、適宜変更することができる。例えば、負極活物質、導電剤及び負極結着剤を、それぞれ、68質量%以上96質量%以下、2質量%以上30質量%以下及び2質量%以上30質量%以下の割合で配合することが好ましい。導電剤の量を2質量%以上とすることにより、負極活物質含有層の集電性能を向上させることができる。また、負極結着剤の量を2質量%以上とすることにより、負極活物質含有層と負極集電体との結着性が十分となり、優れたサイクル性能を期待できる。一方、導電剤及び負極結着剤はそれぞれ30質量%以下にすることが高容量化を図る上で好ましい。
【0080】
負極結着剤が第1結着剤を含む場合、負極結着剤に占める第1結着剤の割合は、1質量%以上であることが好ましい。負極結着剤に占める第1結着剤の割合は、100質量%であってもよい。なお、第1結着剤の割合とは、負極結着剤に占めるフッ素系樹脂の割合とアクリル系樹脂の割合の合計を指す。
【0081】
負極は、被膜をさらに含むことが好ましい。被膜の形態は、特に制限されない。被膜は、負極の表面に形成されていてもよく、負極活物質含有層の内部に形成されてもよい。被膜は、負極表面に露出し得る。負極表面は、負極活物質含有層の主面のうち、負極集電体と接していない側の面を指す。被膜は、例えば、負極活物質粒子表面の少なくとも一部を被覆する第1結着剤の外側に、形成され得る。被膜は、例えば、負極活物質粒子表面の少なくとも一部を被覆する第1結着剤上に、形成され得る。被膜は、例えば、負極活物質粒子表面のうち、負極結着剤によって被覆されていない部分を被覆していてもよい。
【0082】
負極が第1結着剤に加えて被膜をさらに含む場合、負極活物質と水系電解質との接触をさらに抑制できるため、副反応を抑制でき、好ましい。
【0083】
負極は、負極結着剤として第1結着剤を含み、かつ、負極の表面は、金属亜鉛、金属スズ、金属鉛、フッ化リチウム、酸化リチウム、酸化亜鉛及び水酸化亜鉛からなる群より選択される少なくとも1つを含むことが好ましい。金属亜鉛、金属スズ、金属鉛、フッ化リチウム、酸化リチウム、酸化亜鉛及び水酸化亜鉛からなる群より選択される少なくとも1つは、例えば、被膜に含まれ得る。
【0084】
負極活物質含有層の密度(負極集電体を含まず)は、1.8g/cm3以上2.8g/cm3以下であることが好ましい。負極活物質含有層の密度がこの範囲内にある負極は、エネルギー密度と水系電解質の保持性とに優れている。負極活物質含有層の密度は、2.1g/cm3以上2.6g/cm3以下であることがより好ましい。
【0085】
負極集電体は、負極活物質にリチウム(Li)が挿入及び脱離される電位において電気化学的に安定である材料が用いられる。例えば、負極集電体は、銅、ニッケル、ステンレス又はアルミニウム、或いは、Mg、Ti、Zn、Mn、Fe、Cu、及びSiから選択される一以上の元素を含むアルミニウム合金から作られることが好ましい。負極集電体の厚さは、5μm以上20μm以下であることが好ましい。このような厚さを有する負極集電体は、負極の強度と軽量化のバランスをとることができる。
【0086】
また、負極集電体は、その表面に負極活物質含有層が形成されていない部分を含むことができる。この部分は、負極集電タブとして働くことができる。
【0087】
負極は、例えば次の方法により作製することができる。まず、負極活物質、導電剤及び負極結着剤を溶媒に懸濁してスラリーを調製する。このスラリーを、負極集電体の片面又は両面に塗布する。次いで、塗布したスラリーを乾燥させて、負極活物質含有層と負極集電体との積層体を得る。その後、この積層体にプレスを施す。このようにして、負極を作製する。
【0088】
或いは、負極は、次の方法により作製してもよい。まず、負極活物質、導電剤及び負極結着剤を混合して、混合物を得る。次いで、この混合物をペレット状に成形する。次いで、これらのペレットを負極集電体上に配置することにより、負極を得ることができる。
【0089】
負極が被膜を含む場合、被膜は、例えば、被膜前駆体を用いて負極に被膜を直接形成するか、又は水系電解質に被膜前駆体を添加する方法によって形成できる。被膜前駆体の例としては、Zn、Sn及びPbからなる群より選択される少なくとも一つの元素を含む塩、前述の元素を含む金属、前述の元素を含む金属酸化物、シアネート類、硫酸塩類、アミド化合物及び有機硫黄化合物からなる群より選択される少なくとも1つを含む材料を挙げることができる。被膜前駆体は、それ自体が被膜を構成する物質を含む材料であってもよく、電気分解等によって被膜を生じる物質を含む材料であってもよい。
【0090】
水系電解質に被膜前駆体を添加する場合、例えば、初回充電時に負極上で被膜前駆体を電気分解することによって被膜を形成できる。この場合、初回充電電流は1C(時間放電率)未満が好ましく、また温度は25℃以上が好ましい。
【0091】
負極に被膜を直接形成する方法としては、例えば、溶液法、蒸着法又はスプレー法などによって被膜を形成する方法が挙げられる。負極に被膜を直接形成する方法に好適な被膜前駆体としては、シアネート類、硫酸塩類、金属亜鉛、金属スズ、金属鉛、フッ化リチウム、酸化リチウム、酸化亜鉛及び水酸化亜鉛からなる群より選択される少なくとも1つを含む材料が挙げられる。
【0092】
溶液法は、例えば電極スラリー中に被膜前駆体を溶液あるいは固体状態で添加し、電極塗工時に所定温度で乾燥することによって被膜を形成できる方法である。蒸着法は、例えば、電極スラリーを集電体に塗工し、乾燥した後の電極に対して、被膜前駆体を所定の厚さに蒸着することで被膜を形成できる方法である。蒸着の手法としては、例えば真空蒸着法などが使用可能である。スプレー法は、例えば電極スラリーを集電体に塗工し、乾燥した後の電極に対して被膜前駆体溶液を湿式噴霧し、乾燥させることで被膜を形成できる方法である。
【0093】
水系電解質に被膜前駆体を添加する方法については、後述する。
【0094】
2)正極
正極は、正極集電体と、正極活物質含有層とを含むことができる。正極活物質含有層は、正極集電体の片面又は両面に形成され得る。正極活物質含有層は、正極活物質と、任意に導電剤及び正極結着剤とを含むことができる。正極は、被膜をさらに含んでもよい。
【0095】
正極活物質含有層は、先に説明した第1結着剤を正極結着剤として含み得る。すなわち、正極は、先に説明した電極であり得る。正極が先に説明した電極である場合、正極集電体、正極活物質含有層、正極活物質及び正極結着剤は、それぞれ、先に説明した集電体、活物質含有層、活物質及び第1結着剤であり得る。
【0096】
当該正極と組み合わせる負極が第1結着剤を含む場合、当該正極は、第1結着剤を含まなくてもよい。
【0097】
正極活物質としては、例えば、酸化物又は硫化物を用いることができる。正極は、正極活物質として、1種類の化合物を単独で含んでいてもよく、或いは2種類以上の化合物を組み合わせて含んでいてもよい。酸化物及び硫化物の例には、Li又はLiイオンを挿入及び脱離させることができる化合物を挙げることができる。
【0098】
このような化合物としては、例えば、二酸化マンガン(MnO2)、酸化鉄、酸化銅、酸化ニッケル、リチウムマンガン複合酸化物(例えばLixMn2O4又はLixMnO2;0<x≦1)、リチウムニッケル複合酸化物(例えばLixNiO2;0<x≦1)、リチウムコバルト複合酸化物(例えばLixCoO2;0<x≦1)、リチウムニッケルコバルト複合酸化物(例えばLixNi1-yCoyO2;0<x≦1、0<y<1)、リチウムマンガンコバルト複合酸化物(例えばLixMnyCo1-yO2;0<x≦1、0<y<1)、スピネル構造を有するリチウムマンガンニッケル複合酸化物(例えばLixMn2-yNiyO4;0<x≦1、0<y<2)、オリビン構造を有するリチウムリン酸化物(例えばLixFePO4;0<x≦1、LixFe1-yMnyPO4;0<x≦1、0<y≦1、LixCoPO4;0<x≦1)、硫酸鉄(Fe2(SO4)3)、バナジウム酸化物(例えばV2O5)、及び、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(LixNi1-y-zCoyMnzO2;0<x≦1、0<y<1、0<z<1、y+z<1)が含まれる。
【0099】
上記のうち、正極活物質としてより好ましい化合物の例には、スピネル構造を有するリチウムマンガン複合酸化物(例えばLixMn2O4;0<x≦1)、リチウムニッケル複合酸化物(例えばLixNiO2;0<x≦1)、リチウムコバルト複合酸化物(例えばLixCoO2;0<x≦1)、リチウムニッケルコバルト複合酸化物(例えばLixNi1-yCoyO2;0<x≦1、0<y<1)、スピネル構造を有するリチウムマンガンニッケル複合酸化物(例えばLixMn2-yNiyO4;0<x≦1、0<y<2)、リチウムマンガンコバルト複合酸化物(例えばLixMnyCo1-yO2;0<x≦1、0<y<1)、リチウムリン酸鉄(例えばLixFePO4;0<x≦1)、及び、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(LixNi1-y-zCoyMnzO2;0<x≦1、0<y<1、0<z<1、y+z<1)が含まれる。これらの化合物を正極活物質に用いると、正極電位を高めることができる。
【0100】
正極活物質は、例えば、粒子形状であり得る。正極活物質粒子は、一次粒子の形態であってもよく、一次粒子が凝集した二次粒子の形態であってもよく、又は一次粒子と二次粒子が混合されていてもよい。
【0101】
正極活物質の一次粒径は、100nm以上1μm以下であることが好ましい。一次粒径が100nm以上の正極活物質は、工業生産上の取り扱いが容易である。一次粒径が1μm以下の正極活物質は、リチウムイオンの固体内拡散をスムーズに進行させることが可能である。
【0102】
正極結着剤は、分散された正極活物質の間隙を埋め、また、正極活物質と正極集電体を結着させるために配合される。正極結着剤は、先に説明した第1結着剤を含むことができる。正極結着剤は、第1結着剤以外の他の結着剤を含んでもよい。正極結着剤は、先に説明した第1結着剤のみからなってもよく、第1結着剤と他の結着剤との混合物であってもよく、他の結着剤のみからなってもよい。他の結着剤として、前述のフッ素系樹脂又はアクリル系樹脂を単独で用いてもよい。
【0103】
他の結着剤の例には、ポリテトラフルオロエチレン(polytetrafluoro ethylene;PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(polyvinylidene fluoride;PVDF)、フッ素系ゴム、ポリアクリル酸化合物、イミド化合物、カルボキシメチルセルロース(carboxymethyl cellulose;CMC)、及びCMCの塩が含まれる。これらの1つを正極結着剤として用いてもよく、或いは、2つ以上を組み合わせて正極結着剤として用いてもよい。
【0104】
導電剤は、集電性能を高め、且つ、正極活物質と正極集電体との接触抵抗を抑えるために配合される。導電剤の例には、気相成長カーボン繊維(Vapor Grown Carbon Fiber;VGCF)、アセチレンブラックなどのカーボンブラック及び黒鉛のような炭素質物が含まれる。これらの1つを導電剤として用いてもよく、或いは、2つ以上を組み合わせて導電剤として用いてもよい。また、導電剤を省略することもできる。
【0105】
正極活物質含有層において、正極活物質及び正極結着剤は、それぞれ、80質量%以上98質量%以下、及び2質量%以上20質量%以下の割合で配合することが好ましい。
【0106】
正極結着剤の量を2質量%以上にすることにより、十分な電極強度が得られる。また、正極結着剤は、絶縁体として機能し得る。そのため、正極結着剤の量を20質量%以下にすると、電極に含まれる絶縁体の量が減るため、内部抵抗を減少できる。
【0107】
導電剤を加える場合には、正極活物質、正極結着剤及び導電剤は、それぞれ、77質量%以上95質量%以下、2質量%以上20質量%以下、及び3質量%以上15質量%以下の割合で配合することが好ましい。
【0108】
導電剤の量を3質量%以上にすることにより、上述した効果を発揮することができる。また、導電剤の量を15質量%以下にすることにより、水系電解質と接触する導電剤の割合を低くすることができる。この割合が低いと、高温保存下において、水系電解質の分解を低減することができる。
【0109】
正極結着剤が第1結着剤を含む場合、正極結着剤に占める第1結着剤の割合は、1質量%以上であることが好ましい。正極結着剤中の第1結着剤の割合は、100質量%であってもよい。なお、第1結着剤の割合とは、正極結着剤に占めるフッ素系樹脂の割合とアクリル系樹脂の割合の合計を指す。
【0110】
正極は、被膜をさらに含むことが好ましい。被膜の形態は、特に制限されない。被膜は、正極の表面に形成されていてもよく、正極活物質含有層の内部に形成されてもよい。被膜は、正極表面に露出し得る。正極表面は、正極活物質含有層の主面のうち、正極集電体と接していない側の面を指す。被膜は、例えば、正極活物質粒子表面の少なくとも一部を被覆する第1結着剤の外側に、形成され得る。被膜は、例えば、正極活物質粒子表面の少なくとも一部を被覆する第1結着剤上に、形成され得る。被膜は、例えば、正極活物質粒子表面のうち、正極結着剤によって被覆されていない部分を被覆していてもよい。正極が第1結着剤に加えて被膜をさらに含む場合、正極活物質と水系電解質との接触をさらに抑制できるため、副反応を抑制でき、好ましい。
【0111】
正極集電体は、アルミニウム箔、又は、Mg、Ti、Zn、Ni、Cr、Mn、Fe、Cu及びSiから選択される一以上の元素を含むアルミニウム合金箔であることが好ましい。
【0112】
アルミニウム箔又はアルミニウム合金箔の厚さは、5μm以上20μm以下であることが好ましく、15μm以下であることがより好ましい。アルミニウム箔の純度は99質量%以上であることが好ましい。アルミニウム箔又はアルミニウム合金箔に含まれる鉄、銅、ニッケル、及びクロムなどの遷移金属の含有量は、1質量%以下であることが好ましい。
【0113】
また、正極集電体は、その表面に正極活物質含有層が形成されていない部分を含むことができる。この部分は、正極集電タブとして働くことができる。
【0114】
正極は、例えば次の方法により作製することができる。まず、正極活物質、導電剤及び正極結着剤を溶媒に懸濁してスラリーを調製する。このスラリーを、正極集電体の片面又は両面に塗布する。次いで、塗布したスラリーを乾燥させて、正極活物質含有層と正極集電体との積層体を得る。その後、この積層体にプレスを施す。このようにして、正極を作製する。
【0115】
或いは、正極は、次の方法により作製してもよい。まず、正極活物質、導電剤及び正極結着剤を混合して、混合物を得る。次いで、この混合物をペレット状に成形する。次いで、これらのペレットを正極集電体上に配置することにより、正極を得ることができる。
【0116】
正極が被膜を含む場合、被膜は、例えば、正極に被膜を直接形成するか、又は水系電解質に被膜前駆体を添加する方法によって形成できる。水系電解質に被膜前駆体を添加する場合、例えば、初回充電時に正極上で被膜前駆体を電気分解することによって被膜を形成できる。この場合、初回充電電流は1C(時間放電率)未満が好ましく、また温度は25℃以上が好ましい。
【0117】
正極に被膜を直接形成する方法としては、例えば、被膜前駆体を用い、溶液法、蒸着法又はスプレー法などによって被膜を形成する方法が挙げられる。被膜前駆体の例としては、負極で説明したのと同様のものを挙げることができる。正極に被膜を直接形成する方法に好適な被膜前駆体としては、シアネート類、硫酸塩類、フッ化リチウム、酸化リチウム酸化亜鉛及び水酸化亜鉛からなる群より選択される少なくとも1つを含む材料が挙げられる。
【0118】
溶液法、蒸着法及びスプレー法は、負極で説明したのと同様の方法で行うことができる。
【0119】
水系電解質に被膜前駆体を添加する方法については、後述する。
【0120】
3)水系電解質
水系電解質は、水系溶媒と電解質塩とを含む。水系溶媒としては、水を含む溶液を用いることができる。水を含む溶液とは、純水であってもよく、水と水以外の物質との混合溶液又は混合溶媒であってもよい。
【0121】
水系電解質は、例えば、電解質塩を水系溶媒に溶解することにより調製される水溶液である。水系電解質は、この水溶液に高分子材料を複合化したゲル状の水系電解質であってもよい。高分子材料としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリエチレンオキサイド(PEO)等を挙げることができる。
【0122】
上記水溶液は、溶質である電解質塩1molに対し、水系溶媒を1mol以上含むことが好ましい。電解質塩1molに対し、水系溶媒が3.5mol以上であることがより好ましい。
【0123】
水系電解質に水が含まれていることは、GC-MS(ガスクロマトグラフィー-質量分析;Gas Chromatography - Mass Spectrometry)測定により確認できる。また、水系電解質中の塩濃度および水含有量の算出は、例えばICP(誘導結合プラズマ;Inductively Coupled Plasma)発光分析などで測定することができる。水系電解質を規定量はかり取り、含まれる塩濃度を算出することで、モル濃度(mol/L)を算出できる。また水系電解質の比重を測定することで、溶質と溶媒のモル数を算出できる。
【0124】
電解質塩の例には、例えば、LiCl、LiBr、LiOH、Li2SO4、LiNO3、LiN(SO2CF3)2(LiTFSI:リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド)、LiN(SO2F)2(LiFSI:リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド)、及びLiB[(OCO)2]2(LiBOB:リチウムビスオキサレートボラート)などのリチウム塩を含まれる。使用するリチウム塩の種類は、1種類であってもよく、2種類以上であってもよい。
【0125】
水系電解質は、電解質塩として、LiCl又はLiTFSIを含むことが好ましい。LiClは、安価であり、かつ、電気伝導率が高いため、電池のコスト面およびレート特性の観点から好ましい。LiTFSIは、後述するように被膜前駆体として機能することができるため、好ましい。
【0126】
水系電解質のpHは3~14であることが好ましい。このpHは適宜変更することが可能であり、水素過電圧を高める観点から、アルカリ側であることが好ましいと考えられる。pHがアルカリ側であると、水素の発生をより抑制することができる。水溶液のpHをアルカリ側に調整する方法としては、例えばLiOHを添加することが挙げられる。但し、pHが12を超える場合は、正極集電体の腐食が進行するため好ましくない。水溶液のpHは、好ましくは3~14の範囲内にあり、より好ましくは3~9の範囲内にある。
【0127】
水系電解質は、添加剤をさらに含むことができる。
【0128】
添加剤の例には、例えば、Zn、Sn及びPbからなる群より選択される少なくとも一つの金属を含む塩、アミド化合物及び有機硫黄化合物が含まれる。
【0129】
Zn、Sn及びPbからなる群より選択される少なくとも一つの金属を含む塩、アミド化合物及び有機硫黄化合物のそれぞれは、被膜前駆体であり得る。
【0130】
Zn、Sn及びPbからなる群より選択される少なくとも一つの金属を含む塩の例には、例えば、ZnCl2、SnCl2及びPbCl2を挙げることができる。塩の種類は、1種又は2種以上にすることができる。上記の塩は、水系電解質中に溶解していてもよく、又は懸濁していてもよい。
【0131】
水系電解質がZn、Sn及びPbからなる群より選択される少なくとも一つの金属を含む塩を含有する場合、電極に、Zn、Sn又はPbを含む金属、金属酸化物又は金属水酸化物が形成され得る。金属は、例えば、水系電解質に含有される上記塩由来の金属イオンが、還元されることによって析出した金属の単体であり得る。金属酸化物は、例えば、析出した金属が酸化されて生じ得る。
【0132】
Zn、Sn又はPbを含む金属又は金属酸化物の例としては、例えば、金属亜鉛、金属スズ、金属鉛、酸化亜鉛及び水酸化亜鉛が含まれる。すなわち、水系電解質がZn、Sn及びPbからなる群より選択される少なくとも一つの金属を含む塩を含有する場合、電極に被膜が形成され得る。したがって、サイクル寿命性能の向上に寄与する。
【0133】
アミド化合物の例としては、例えば、尿素、メチル尿素、エチル尿素及びアセトアミド、N-メチルアセトアミド、トリフルオロアセトアミドなどが挙げられる。アミド化合物の種類は、1種又は2種以上を用いることができる。
【0134】
有機硫黄化合物の例としては、例えば、ジメチルスルホンを挙げることができる。
【0135】
水系電解質がアミド化合物又は有機硫黄化合物を含む場合、水系電解質に含まれるリチウム塩により、アミド化合物及び有機硫黄化合物の融点降下が起こり得る。よって、アミド化合物及び有機硫黄化合物は、水系電解質中においては、常温で液体の状態であり得る。したがって、アミド化合物及び有機硫黄化合物からなる群より選択される少なくとも1つを含む水系電解質は、アミド化合物及び有機硫黄化合物のいずれも含まない水系電解質と比較して、水系電解質中の液体成分に占める水の割合が少なくなり得る。したがって、活物質と水の接触を抑制できる結果、水の電気分解を抑制できる。
【0136】
また、アミド化合物及び有機硫黄化合物は、それ自体が電池内において電気分解され得る。アミド化合物が電気分解されると、シアネート類が電極に形成され得る。有機硫黄化合物が電気分解されると、硫酸塩類が電極に形成され得る。すなわち、電極に、先に説明した被膜が形成され得る。したがって、水系電解質がアミド化合物及び有機硫黄化合物からなる群より選択される少なくとも1つを含む場合、電極における水の電気分解を抑制しつつ、抵抗を低く保つことができる。
【0137】
硫酸塩類を含む被膜は、添加剤の添加以外にも、硫黄原子を含有する電解質塩の分解によっても形成され得る。硫黄原子を含有する電解質塩の例としては、例えば、Li2SO4、LiN(SO2CF3)2(LiTFSI:リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド)及びLiN(SO2F)2(LiFSI:リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド)が挙げられる。そのため、硫黄原子を含有する電解質塩は、被膜前駆体として機能し得る。水系電解質は、硫黄原子を含有する電解質塩に加えて、アミド化合物をさらに含むことが好ましい。上記のような構成の水系電解質は、硫酸塩類とシアネート類の両方を含む被膜を形成しやすい。このような被膜は、安定性と低抵抗を両立可能であるため、好ましい。
【0138】
また、リチウム塩に含まれるリチウムイオンは、水系電解質に含まれるフッ素原子を含有する材料、又は、酸素原子を含有する材料と反応して、それぞれフッ化リチウム又は酸化リチウムを生じ得る。フッ素原子を含有する材料、及び、酸素原子を含有する材料の例には、電解質塩及び水系溶媒が含まれる。また、水系電解質がアミド化合物をさらに含む場合には、アミド化合物と反応して、シアネート類を生じ得る。例えば、リチウムイソシアネートを生じ得る。したがって、リチウム塩は、被膜前駆体として機能し得る。LiTFSIを含む水系電解質は、フッ化リチウムを含む被膜を形成しやすいため、好ましい。
【0139】
水系電解質が被膜前駆体を含む場合、電極への被膜の形成は、例えば、初回充電時に電極上で被膜前駆体を電気分解することによって行うことができる。この場合、初回充電電流は1C(時間放電率)未満が好ましく、また温度は25℃以上が好ましい。
【0140】
4)セパレータ
セパレータは、例えば、ポリエチレン(polyethylene;PE)、ポリプロピレン(polypropylene;PP)、セルロース、若しくはポリフッ化ビニリデン(polyvinylidene fluoride;PVDF)を含む多孔質フィルム、又は合成樹脂製不織布から形成される。安全性の観点からは、ポリエチレン又はポリプロピレンから形成された多孔質フィルムを用いることが好ましい。これらの多孔質フィルムは、一定温度において溶融し、電流を遮断することが可能なためである。
【0141】
また、セパレータとして、無機固体粒子を少なくとも含む膜、無機固体粒子の凝集体または焼結体、無機固体粒子と高分子材料とを含む膜、例えば、無機固体粒子と高分子材料との複合膜、或いはイオン交換膜を使用することもできる。無機固体粒子は、例えば、固体電解質の粒子であり得、上記膜は固体電解質膜であり得る。固体電解質膜は、例えば、固体電解質粒子を高分子材料を用いて膜状に成形した固体電解質複合膜であり得る。
【0142】
無機固体粒子として、例えば、アルミナなどのセラミックス、無機固体電解質の粒子を挙げることができる。無機固体電解質は、Liイオン伝導性を有する固体物質である。ここでいうLiイオン伝導性を有するとは、25℃で1×10-6 S/cm以上のリチウムイオン伝導度を示すことを指す。無機固体電解質としては、例えば、酸化物系固体電解質、又は硫化物系固体電解質を挙げることができる。無機固体電解質の具体例は、下記のとおりである。
【0143】
酸化物系固体電解質としては、NASICON(Sodium (Na) Super Ionic Conductor)型構造を有し、一般式Li1+xMα2(PO4)3で表されるリチウムリン酸固体電解質を用いることが好ましい。上記一般式中のMαは、例えば、チタン(Ti)、ゲルマニウム(Ge)、ストロンチウム(Sr)、ジルコニウム(Zr)、スズ(Sn)、アルミニウム(Al)、及びカルシウム(Ca)からなる群より選択される1以上である。添字xは、0≦x≦2の範囲内にある。
【0144】
NASICON型構造を有するリチウムリン酸固体電解質の具体例としては、Li1+xAlxTi2-x(PO4)3で表され0.1≦x≦0.5であるLATP化合物;Li1+xAlyMβ2-y(PO4)3で表されMβはTi,Ge,Sr,Zr,Sn,及びCaからなる群より選択される1以上であり0≦x≦1及び0≦y≦1である化合物;Li1+xAlxGe2-x(PO4)3で表され0≦x≦2である化合物;及び、Li1+xAlxZr2-x(PO4)3で表され0≦x≦2である化合物;Li1+x+yAlxMγ2-xSiyP3-yO12で表されMγはTi及びGeからなる群より選択される1以上であり0<x≦2、0≦y<3である化合物;Li1+2xZr1-xCax(PO4)3で表され0≦x<1である化合物を挙げることができる。
【0145】
また、酸化物系固体電解質としては、上記リチウムリン酸固体電解質の他にも、LixPOyNzで表され2.6≦x≦3.5、1.9≦y≦3.8、及び0.1≦z≦1.3であるアモルファス状のLIPON化合物(例えば、Li2.9PO3.3N0.46);ガーネット型構造のLa5+xAxLa3-xMδ2O12で表されAはCa,Sr,及びBaからなる群より選択される1以上でMδはNb及びTaからなる群より選択される1以上であり0≦x≦0.5である化合物;Li3Mδ2-xL2O12で表されMδはNb及びTaからなる群より選択される1以上でありLはZrを含み得0≦x≦0.5である化合物;Li7-3xAlxLa3Zr3O12で表され0≦x≦0.5である化合物;Li5+xLa3Mδ2-xZrxO12で表されMδはNb及びTaから成る群より選択される1以上であり0≦x≦2であるLLZ化合物(例えば、Li7La3Zr2O12);及びペロブスカイト型構造を有しLa2/3-xLixTiO3で表され0.3≦x≦0.7である化合物が挙げられる。
【0146】
無機固体粒子は、単一の種類のものを用いてもよく、複数種類を混合して用いてもよい。
【0147】
高分子材料は、単一のモノマーユニットからなる重合体(ポリマー)、複数のモノマーユニットからなる共重合体(コポリマー)、又はこれらの混合物であり得る。高分子材料は、酸素(O)、硫黄(S)、窒素(N)、及びフッ素(F)からなる群より選択される1以上を含む官能基を有する炭化水素で構成されるモノマーユニットを含んでいることが好ましい。高分子材料としては、単一の種類のものを用いてもよく、複数種類を混合して用いてもよい。
【0148】
セパレータは、無機固体粒子及び高分子材料の他に、可塑剤や電解質塩を含んでも良い。例えば、セパレータが電解質塩を含むと、セパレータのイオン伝導性をより高めることができる。
【0149】
セパレータは、例えば、各々が正極と負極との間に配置された複数のセパレータであり得る。或いは、セパレータは、九十九折にされた一枚のセパレータであり得る。後者の場合、セパレータを折り返すことで出来る空間に正極と負極とが交互に配置される。
【0150】
5)外装部材
外装部材としては、例えば、ラミネートフィルムからなる容器、又は金属製容器を用いることができる。
【0151】
ラミネートフィルムの厚さは、例えば、0.5mm以下であり、好ましくは、0.2mm以下である。
【0152】
ラミネートフィルムとしては、複数の樹脂層とこれらの樹脂層間に介在した金属層とを含む多層フィルムが用いられる。樹脂層は、例えば、ポリプロピレン(polypropylene;PP)、ポリエチレン(polyethylene;PE)、ナイロン、及びポリエチレンテレフタレート(polyethylene terephthalate;PET)等の高分子材料を含んでいる。金属層は、軽量化のためにアルミニウム箔又はアルミニウム合金箔からなることが好ましい。ラミネートフィルムは、熱融着によりシールを行うことにより、外装部材の形状に成形され得る。
【0153】
金属製容器の壁の厚さは、例えば、1mm以下であり、より好ましくは0.5mm以下であり、更に好ましくは、0.2mm以下である。
【0154】
金属製容器は、例えば、アルミニウム又はアルミニウム合金等から作られる。アルミニウム合金は、マグネシウム、亜鉛、及びケイ素等の元素を含むことが好ましい。アルミニウム合金は、鉄、銅、ニッケル、及びクロム等の遷移金属を含む場合、その含有量は100質量ppm以下であることが好ましい。
【0155】
外装部材の形状は、特に限定されない。外装部材の形状は、例えば、扁平型(薄型)、角型、円筒型、コイン型、又はボタン型等であってもよい。外装部材は、電池寸法や電池の用途に応じて適宜選択することができる。
【0156】
係る二次電池は、副反応を抑制できるため、副反応によるガス発生が低減できる。そのため、外装部材の形状は、密閉式、半密閉式又は開放式であってもよい。外部からの水の侵入を防止する観点からは、外装部材は、密閉式であることが好ましい。
【0157】
6)負極端子
負極端子は、リチウムの酸化還元電位に対し1V以上3V以下の電位範囲(vs.Li/Li+)において電気的に安定であり、かつ導電性を有する材料から形成することができる。具体的には、負極端子の材料としては、銅、ニッケル、ステンレス若しくはアルミニウム、又は、Mg,Ti,Zn,Mn,Fe,Cu,及びSiからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含むアルミニウム合金が挙げられる。負極端子の材料としては、アルミニウム又はアルミニウム合金を用いることが好ましい。負極端子は、負極集電体との接触抵抗を低減するために、負極集電体と同様の材料からなることが好ましい。
【0158】
7)正極端子
正極端子は、リチウムの酸化還元電位に対し3V以上4.5V以下の電位範囲(vs.Li/Li+)において電気的に安定であり、且つ導電性を有する材料から形成することができる。正極端子の材料としては、アルミニウム、或いは、Mg、Ti、Zn、Mn、Fe、Cu及びSiからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含むアルミニウム合金が挙げられる。正極端子は、正極集電体との接触抵抗を低減するために、正極集電体と同様の材料から形成されることが好ましい。
【0159】
次に、実施形態に係る二次電池について、図面を参照しながらより具体的に説明する。
【0160】
図1は、二次電池の一例を概略的に示す断面図である。
図2は、
図1に示す二次電池のA部を拡大した断面図である。
【0161】
図1及び
図2に示す二次電池100は、
図1に示す袋状外装部材2と、
図1及び
図2に示す電極群1と、図示しない水系電解質とを含む。電極群1及び水系電解質は、袋状外装部材2内に収納されている。水系電解質(図示しない)は、電極群1に保持されている。
【0162】
袋状外装部材2は、2つの樹脂層とこれらの間に介在した金属層とを含むラミネートフィルムからなる。
【0163】
図1に示すように、電極群1は、扁平状の捲回型電極群である。扁平状で捲回型である電極群1は、
図2に示すように、負極3と、セパレータ4と、正極5とを含む。セパレータ4は、負極3と正極5との間に介在している。
【0164】
負極3は、負極集電体3aと負極活物質含有層3bとを含む。負極3のうち、捲回型の電極群1の最外殻に位置する部分は、
図2に示すように負極集電体3aの内面側のみに負極活物質含有層3bが形成されている。負極3におけるその他の部分では、負極集電体3aの両面に負極活物質含有層3bが形成されている。
【0165】
正極5は、正極集電体5aと、その両面に形成された正極活物質含有層5bとを含んでいる。
【0166】
図1に示すように、負極端子6及び正極端子7は、捲回型の電極群1の外周端近傍に位置している。この負極端子6は、負極集電体3aの最外殻に位置する部分に接続されている。また、正極端子7は、正極集電体5aの最外殻に位置する部分に接続されている。これらの負極端子6及び正極端子7は、袋状外装部材2の開口部から外部に延出されている。袋状外装部材2の内面には、熱可塑性樹脂層が設置されており、これが熱融着されていることにより、開口部が閉じられている。
【0167】
実施形態に係る二次電池は、
図1及び
図2に示す構成の二次電池に限らず、例えば
図3及び
図4に示す構成の電池であってもよい。
【0168】
図3は二次電池の他の例を模式的に示す部分切欠斜視図である。
図4は、
図3に示す二次電池のB部を拡大した断面図である。
【0169】
図3及び
図4に示す二次電池100は、
図3及び
図4に示す電極群1と、
図3に示す外装部材2と、図示しない水系電解質とを含む。電極群1及び水系電解質は、外装部材2内に収納されている。水系電解質は、電極群1に保持されている。
【0170】
外装部材2は、2つの樹脂層とこれらの間に介在した金属層とを含むラミネートフィルムからなる。
【0171】
電極群1は、
図4に示すように、積層型の電極群である。積層型の電極群1は、負極3と正極5とをその間にセパレータ4を介在させながら交互に積層した構造を有している。
【0172】
電極群1は、複数の負極3を含んでいる。複数の負極3は、それぞれが、負極集電体3aと、負極集電体3aの両面に担持された負極活物質含有層3bとを備えている。また、電極群1は、複数の正極5を含んでいる。複数の正極5は、それぞれが、正極集電体5aと、正極集電体5aの両面に担持された正極活物質含有層5bとを備えている。
【0173】
各負極3の負極集電体3aは、その一辺において、いずれの表面にも負極活物質含有層3bが担持されていない部分を含む。この部分は、負極集電タブ3cとして働く。
図4に示すように、負極集電タブ3cは、正極5と重なっていない。また、複数の負極集電タブ3cは、帯状の負極端子6に電気的に接続されている。帯状の負極端子6の先端は、外装部材2の外部に引き出されている。
【0174】
また、図示しないが、各正極5の正極集電体5aは、その一辺において、いずれの表面にも正極活物質含有層5bが担持されていない部分を含む。この部分は、正極集電タブとして働く。負極集電タブ3cが正極5と重なっていないのと同様に、正極集電タブは、負極3と重なっていない。また、正極集電タブは、負極集電タブ3cに対し電極群1の反対側に位置する。正極集電タブは、帯状の正極端子7に電気的に接続されている。帯状の正極端子7の先端は、負極端子6とは反対側に位置し、外装部材2の外部に引き出されている。
【0175】
<測定方法>
係る二次電池についての分析は、以下のようにして行うことができる。
【0176】
(電極の取り出し)
二次電池に含まれる電極について分析する場合には、二次電池を分解して電極を取り出す。電極をジメチルカーボネートで洗浄後、乾燥させることで測定用電極を得る。
【0177】
(第1結着剤量の測定)
電極が含む第1結着剤の量は、以下のようにして測定できる。
【0178】
先に説明した洗浄及び乾燥を行うことにより得られた測定用電極から活物質含有層を剥離し、予め質量を測定する。活物質含有層を、N-メチルピロリドン(NMP)などの溶媒に分散し、第1結着剤を溶媒中に溶解させる。沈殿した活物質及び導電剤等の不溶成分を濾別して回収し、質量を測定する。活物質の質量と沈殿物の質量の差を、第1結着剤量として測定できる。
【0179】
(FT-IR分析)
電極の表面のフーリエ変換赤外分光(FT-IR)分析は、以下のようにして行うことができる。
【0180】
測定用電極を、ATR(Attenuated Total Reflection)法によるFT-IR分析に供する。FT-IR装置の例としては、BRUKER社製VERTEX70v/HYPERION3000またはこれと等価な機能を有する装置を挙げることができる。分解能は4cm-1、積算回数は128回とする。以上のようにして、電極表面の赤外吸収スペクトルを得られる。得られた赤外吸収スペクトルから、電極がアクリル系樹脂を含むこと、及び、電極が含むアクリル系樹脂の種類を特定できる。
【0181】
例えば、得られた赤外吸収スペクトルが、先に説明したアクリル系樹脂を含む電極表面の赤外吸収スペクトルが有する吸収ピークを有していれば、電極がアクリル系樹脂を含むことを特定できる。
【0182】
他の例としては、得られた赤外吸収スペクトルが、先に説明したアクリル酸エステル又はメタアクリル酸エステルを含む重合体を含む電極表面の赤外吸収スペクトルと同様の特徴を有していれば、電極がアクリル酸エステル又はメタアクリル酸エステルを含む重合体を含むことを特定できる。同様にして、電極が、アクリロニトリルを含む重合体を含むことを特定できる。
【0183】
(電極の表面のXPS分析)
電極の表面のXPS分析は、以下のようにして行うことができる。
【0184】
XPS装置としては、アルバック・ファイ社製Quantera SXM、又はこれと同等な機能を有する装置を用いることができる。励起X線源には、単結晶分光Al-Kα線(1486.6eV)を用いる。X線出力は4kW(13kV×310mA)とし、光電子検出角度は45°とし、分析領域は約4mm×0.2mmとする。スキャンは、0.10eV/stepで行う。
【0185】
測定用電極のXPS分析により得られたスペクトルデータに対して、スムージング及び横軸補正のデータ処理を行う。スムージングとしては9-point smoothingを行い、横軸補正としては、Nb5/2ピークが207.1eV(Nb3+)に現れているとみなして補正を行う。これにより、電極表面についてのXPSスペクトルを得ることができる。
【0186】
得られたXPSスペクトルが、先に説明したフッ素系樹脂を含む電極表面のXPSスペクトルが有するピークを有していれば、電極がフッ素系樹脂を含むことを特定できる。
【0187】
得られたXPSスペクトルから、電極が被膜を含むこと、及び、被膜が含む物質の種類を特定できる。例えば、得られたXPSスペクトルが、先に説明したシアネート類を含有する被膜を含む電極表面のXPSスペクトルと同様の特徴を有していれば、電極がシアネート類を含有する被膜を含むことを特定できる。同様にして、電極が、硫酸塩類を含有する被膜を含むことを特定できる。電極が、金属亜鉛、金属スズ、金属鉛、フッ化リチウム、酸化リチウム、酸化亜鉛及び水酸化亜鉛からなる群より選択される少なくとも1つを含む被膜を含むことも、同様にして特定できる。
【0188】
(第1結着剤のXPS分析)
第1結着剤のXPS分析は、以下のようにして行うことができる。
【0189】
測定用電極から活物質含有層を剥離し、N-メチルピロリドンなどの溶媒に分散し、第1結着剤を溶媒中に溶解させる。これを濾別して液体画分を得る。得られた液体画分を乾燥して溶媒を除去することにより、フィルム状の第1結着剤(バインダフィルム)を得る。得られたバインダフィルムをXPS分析に供する。
【0190】
XPS装置としては、アルバック・ファイ社製Quantera SXM、又はこれと同等な機能を有する装置を用いることができる。励起X線源には、単結晶分光Al-Kα線(1486.6eV)を用いる。X線出力は4kW(13kV×310mA)とし、光電子検出角度は45°とし、分析領域は約4mm×0.2mmとする。スキャンは、0.10eV/stepで行う。
【0191】
バインダフィルムのXPS分析により得られたスペクトルにおいて、680eV以上691eV以下の範囲内に現れるピークが、F1sピークである。F1sピークの積分強度から、フッ素原子の原子量比(mol/mol)を、測定装置の内部検量線によって算出することができる。フッ素原子の原子量比が、フッ素原子の量AFである。
【0192】
528eV以上538eV以下の範囲内に現れるピークが、O1sピークである。上記と同様にして、O1sピークの積分強度から、酸素原子の量AOを算出できる。392eV以上408eV以下の範囲内に現れるピークが、N1sピークである。上記と同様にして、N1sピークの積分強度から、窒素原子の量ANを算出できる。
【0193】
第1結着剤中のアクリル系樹脂の割合が5%以上70%以下であるとき、AF、AO及びANが、0.01≦AF/(AF+AO+2AN)≦0.95を満たし得る。
【0194】
(ラマン分光)
水系電解質にアミド化合物及び有機硫黄化合物からなる群より選択される少なくとも1つが含まれていることは、水系電解質をラマン分光に供することにより確認できる。
【0195】
水系電解質が電池に含まれている場合は、電池を分解後、電極を取り出し、電極を洗浄せずにサンプルとしてラマン分光に供することができる。このようにすると、電極に付着している水系電解質について測定できる。又は、水系電解質を抽出して、サンプルとしてラマン分光に供してもよい。
【0196】
ラマン分光装置としては、日本分光社製NRS-7500、又はこれと同等な機能を有する装置を用いることができる。上述のサンプルをガラス製チューブ等のサンプル容器に密閉し、サンプル容器越しに測定することができる。測定は、例えば、波長532nmのレーザー光を用いて行うことができる。
【0197】
第1の実施形態に係る二次電池は、水系電解質と、正極と、負極とを含む。正極又は負極のうちの少なくとも一方の電極は第1結着剤を含む。第1結着剤は、フッ素系樹脂およびアクリル系樹脂を含む。そのため、係る二次電池は、サイクル寿命性能に優れる。
【0198】
(第2の実施形態)
第2の実施形態によると、組電池が提供される。係る組電池は、第1の実施形態に係る二次電池を複数個含む。
【0199】
係る組電池において、各単電池は、電気的に直列若しくは並列に接続して配置してもよく、又は直列接続及び並列接続を組み合わせて配置してもよい。
【0200】
次に、実施形態に係る組電池の一例について、図面を参照しながら説明する。
【0201】
図5は、組電池の一例を概略的に示す斜視図である。
図5に示す組電池200は、5つの単電池100a~100eと、4つのバスバー21と、正極側リード22と、負極側リード23とを含む。5つの単電池100a~100eのそれぞれは、第1の実施形態に係る二次電池である。
【0202】
バスバー21は、例えば、1つの単電池100aの負極端子6と、隣に位置する単電池100bの正極端子7とを接続している。このようにして、5つの単電池100は、4つのバスバー21により直列に接続されている。すなわち、
図5の組電池200は、5直列の組電池である。例を図示しないが、電気的に並列に接続されている複数の単電池を含む組電池では、例えば、複数の負極端子同士がバスバーにより接続されるとともに複数の正極端子同士がバスバーにより接続されることで、複数の単電池が電気的に接続され得る。
【0203】
5つの単電池100a~100eのうち少なくとも1つの電池の正極端子7は、外部接続用の正極側リード22に電気的に接続されている。また、5つの単電池100a~100eうち少なくとも1つの電池の負極端子6は、外部接続用の負極側リード23に電気的に接続されている。
【0204】
第2の実施形態に係る組電池は、第1の実施形態に係る二次電池を含む。したがって、優れたサイクル寿命性能を達成できる。
【0205】
(第3の実施形態)
第3の実施形態によると、電池パックが提供される。この電池パックは、第2の実施形態に係る組電池を含む。この電池パックは、第2の実施形態に係る組電池の代わりに、単一の第1の実施形態に係る二次電池を含んでもよい。
【0206】
係る電池パックは、保護回路を更に含むことができる。保護回路は、二次電池の充放電を制御する機能を有する。或いは、電池パックを電源として使用する装置(例えば、電子機器、自動車等)に含まれる回路を、電池パックの保護回路として使用してもよい。
【0207】
また、係る電池パックは、通電用の外部端子を更に含むこともできる。通電用の外部端子は、外部に二次電池からの電流を出力するため、及び/又は二次電池に外部からの電流を入力するためのものである。言い換えれば、電池パックを電源として使用する際、電流が通電用の外部端子を通して外部に供給される。また、電池パックを充電する際、充電電流(自動車などの動力の回生エネルギーを含む)は通電用の外部端子を通して電池パックに供給される。
【0208】
次に、実施形態に係る電池パックの一例について、図面を参照しながら説明する。
【0209】
図6は、電池パックの一例を概略的に示す分解斜視図である。
図7は、
図6に示す電池パックの電気回路の一例を示すブロック図である。
【0210】
図6及び
図7に示す電池パック300は、収容容器31と、蓋32と、保護シート33と、組電池200と、プリント配線基板34と、配線35と、図示しない絶縁板とを備えている。
【0211】
図6に示す収容容器31は、長方形の底面を有する有底角型容器である。収容容器31は、保護シート33と、組電池200と、プリント配線基板34と、配線35とを収容可能に構成されている。蓋32は、矩形型の形状を有する。蓋32は、収容容器31を覆うことにより、上記組電池200等を収容する。収容容器31及び蓋32には、図示していないが、外部機器等へと接続するための開口部又は接続端子等が設けられている。
【0212】
組電池200は、複数の単電池100と、正極側リード22と、負極側リード23と、粘着テープ24とを備えている。
【0213】
複数の単電池100の少なくとも1つは、第1の実施形態に係る二次電池である。複数の単電池100の各々は、
図7に示すように電気的に直列に接続されている。複数の単電池100は、電気的に並列に接続されていてもよく、直列接続及び並列接続を組み合わせて接続されていてもよい。複数の単電池100を並列接続すると、直列接続した場合と比較して、電池容量が増大する。
【0214】
粘着テープ24は、複数の単電池100を締結している。粘着テープ24の代わりに、熱収縮テープを用いて複数の単電池100を固定してもよい。この場合、組電池200の両側面に保護シート33を配置し、熱収縮テープを周回させた後、熱収縮テープを熱収縮させて複数の単電池100を結束させる。
【0215】
正極側リード22の一端は、組電池200に接続されている。正極側リード22の一端は、1以上の単電池100の正極と電気的に接続されている。負極側リード23の一端は、組電池200に接続されている。負極側リード23の一端は、1以上の単電池100の負極と電気的に接続されている。
【0216】
プリント配線基板34は、収容容器31の内側面のうち、一方の短辺方向の面に沿って設置されている。プリント配線基板34は、正極側コネクタ342と、負極側コネクタ343と、サーミスタ345と、保護回路346と、配線342a及び343aと、通電用の外部端子350と、プラス側配線(正側配線)348aと、マイナス側配線(負側配線)348bとを備えている。プリント配線基板34の一方の主面は、組電池200の一側面と向き合っている。プリント配線基板34と組電池200との間には、図示しない絶縁板が介在している。
【0217】
正極側コネクタ342に、正極側リード22の他端22aが電気的に接続されている。負極側コネクタ343に、負極側リード23の他端23aが電気的に接続されている。
【0218】
サーミスタ345は、プリント配線基板34の一方の主面に固定されている。サーミスタ345は、単電池100の各々の温度を検出し、その検出信号を保護回路346に送信する。
【0219】
通電用の外部端子350は、プリント配線基板34の他方の主面に固定されている。通電用の外部端子350は、電池パック300の外部に存在する機器と電気的に接続されている。通電用の外部端子350は、正側端子352と負側端子353とを含む。
【0220】
保護回路346は、プリント配線基板34の他方の主面に固定されている。保護回路346は、プラス側配線348aを介して正側端子352と接続されている。保護回路346は、マイナス側配線348bを介して負側端子353と接続されている。また、保護回路346は、配線342aを介して正極側コネクタ342に電気的に接続されている。保護回路346は、配線343aを介して負極側コネクタ343に電気的に接続されている。更に、保護回路346は、複数の単電池100の各々と配線35を介して電気的に接続されている。
【0221】
保護シート33は、収容容器31の長辺方向の両方の内側面と、組電池200を介してプリント配線基板34と向き合う短辺方向の内側面とに配置されている。保護シート33は、例えば、樹脂又はゴムからなる。
【0222】
保護回路346は、複数の単電池100の充放電を制御する。また、保護回路346は、サーミスタ345から送信される検出信号、又は、個々の単電池100若しくは組電池200から送信される検出信号に基づいて、保護回路346と外部機器への通電用の外部端子350(正側端子352、負側端子353)との電気的な接続を遮断する。
【0223】
サーミスタ345から送信される検出信号としては、例えば、単電池100の温度が所定の温度以上であることを検出した信号を挙げることができる。個々の単電池100若しくは組電池200から送信される検出信号としては、例えば、単電池100の過充電、過放電及び過電流を検出した信号を挙げることができる。個々の単電池100について過充電等を検出する場合、電池電圧を検出してもよく、正極電位又は負極電位を検出してもよい。後者の場合、参照極として用いるリチウム電極を個々の単電池100に挿入する。
【0224】
なお、保護回路346としては、電池パック300を電源として使用する装置(例えば、電子機器、自動車等)に含まれる回路を用いてもよい。
【0225】
また、この電池パック300は、上述したように通電用の外部端子350を備えている。したがって、この電池パック300は、通電用の外部端子350を介して、組電池200からの電流を外部機器に出力するとともに、外部機器からの電流を、組電池200に入力することができる。言い換えると、電池パック300を電源として使用する際には、組電池200からの電流が、通電用の外部端子350を通して外部機器に供給される。また、電池パック300を充電する際には、外部機器からの充電電流が、通電用の外部端子350を通して電池パック300に供給される。この電池パック300を車載用電池として用いた場合、外部機器からの充電電流として、車両の動力の回生エネルギーを用いることができる。
【0226】
なお、電池パック300は、複数の組電池200を備えていてもよい。この場合、複数の組電池200は、直列に接続されてもよく、並列に接続されてもよく、直列接続及び並列接続を組み合わせて接続されてもよい。また、プリント配線基板34及び配線35は省略してもよい。この場合、正極側リード22及び負極側リード23を通電用の外部端子350の正側端子352と負側端子353としてそれぞれ用いてもよい。
【0227】
このような電池パックは、例えば大電流を取り出したときにサイクル性能が優れていることが要求される用途に用いられる。この電池パックは、具体的には、例えば、電子機器の電源、定置用電池、各種車両の車載用電池として用いられる。電子機器としては、例えば、デジタルカメラを挙げることができる。この電池パックは、車載用電池として特に好適に用いられる。
【0228】
第3の実施形態に係る電池パックは、第1の実施形態に係る二次電池又は第2の実施形態に係る組電池を備えている。したがって、優れたサイクル寿命性能を達成できる。
【0229】
(第4の実施形態)
第4の実施形態によると、車両が提供される。この車両は、第3の実施形態に係る電池パックを搭載している。
【0230】
係る車両において、電池パックは、例えば、車両の動力の回生エネルギーを回収するものである。車両は、この車両の運動エネルギーを回生エネルギーに変換する機構(Regenerator:再生器)を含んでいてもよい。
【0231】
車両の例としては、例えば、二輪乃至四輪のハイブリッド電気自動車、二輪乃至四輪の電気自動車、アシスト自転車、及び鉄道用車両が挙げられる。
【0232】
車両における電池パックの搭載位置は、特には限定されない。例えば、電池パックを自動車に搭載する場合、電池パックは、車両のエンジンルーム、車体後方又は座席の下に搭載することができる。
【0233】
車両は、複数の電池パックを搭載してもよい。この場合、それぞれの電池パックが含む電池同士は、電気的に直列に接続されてもよく、電気的に並列に接続されてもよく、又は直列接続及び並列接続を組み合わせて電気的に接続されてもよい。例えば、各電池パックが組電池を含む場合は、組電池同士が電気的に直列に接続されてもよく、又は電気的に並列に接続されてもよく、直列接続及び並列接続を組み合わせて電気的に接続されてもよい。或いは、各電池パックが単一の電池を含む場合は、それぞれの電池同士が電気的に直列に接続されてもよく、電気的に並列に接続されてもよく、又は直列接続及び並列接続を組み合わせて電気的に接続されてもよい。
【0234】
次に、実施形態に係る車両の一例について、図面を参照しながら説明する。
【0235】
図8は、車両の一例を概略的に示す部分透過図である。
【0236】
図8に示す車両400は、車両本体40と、第3の実施形態に係る電池パック300とを含んでいる。
図8に示す例では、車両400は、四輪の自動車である。
【0237】
この車両400は、複数の電池パック300を搭載してもよい。この場合、電池パック300が含む電池(例えば、単電池または組電池)は、直列に接続されてもよく、並列に接続されてもよく、直列接続及び並列接続を組み合わせて接続されてもよい。
【0238】
図8では、電池パック300が車両本体40の前方に位置するエンジンルーム内に搭載されている例を図示している。上述したとおり、電池パック300は、例えば、車両本体40の後方又は座席の下に搭載してもよい。この電池パック300は、車両400の電源として用いることができる。また、この電池パック300は、車両400の動力の回生エネルギーを回収することができる。
【0239】
次に、
図9を参照しながら、実施形態に係る車両の実施態様について説明する。
【0240】
図9は、車両における電気系統に関する制御システムの一例を概略的に示した図である。
図9に示す車両400は、電気自動車である。
【0241】
図9に示す車両400は、車両本体40と、車両用電源41と、車両用電源41の上位の制御装置である車両ECU(ECU:Electric Control Unit;電気制御装置)42と、外部端子(外部電源に接続するための端子)43と、インバータ44と、駆動モータ45とを備えている。
【0242】
車両400は、車両用電源41を、例えばエンジンルーム、自動車の車体後方又は座席の下に搭載している。なお、
図9に示す車両400では、車両用電源41の搭載箇所については概略的に示している。
【0243】
車両用電源41は、複数(例えば3つ)の電池パック300a、300b及び300cと、電池管理装置(BMU:Battery Management Unit)411と、通信バス412とを備えている。
【0244】
電池パック300aは、組電池200aと組電池監視装置301a(例えば、VTM:Voltage Temperature Monitoring)とを備えている。電池パック300bは、組電池200bと組電池監視装置301bとを備えている。電池パック300cは、組電池200cと組電池監視装置301cとを備えている。電池パック300a~300cは、前述の電池パック300と同様の電池パックであり、組電池200a~200cは、前述の組電池200と同様の組電池である。組電池200a~200cは、電気的に直列に接続されている。電池パック300a、300b、及び300cは、それぞれ独立して取り外すことが可能であり、別の電池パック300と交換することができる。
【0245】
組電池200a~200cのそれぞれは、直列に接続された複数の単電池を備えている。複数の単電池の少なくとも1つは、第1の実施形態に係る二次電池である。組電池200a~200cは、それぞれ、正極端子413及び負極端子414を通じて充放電を行う。
【0246】
電池管理装置411は、組電池監視装置301a~301cとの間で通信を行い、車両用電源41に含まれる組電池200a~200cに含まれる単電池100のそれぞれについて電圧及び温度などに関する情報を収集する。これにより、電池管理装置411は、車両用電源41の保全に関する情報を収集する。
【0247】
電池管理装置411と組電池監視装置301a~301cとは、通信バス412を介して接続されている。通信バス412では、1組の通信線が複数のノード(電池管理装置411と1つ以上の組電池監視装置301a~301cと)で共有されている。通信バス412は、例えばCAN(Control Area Network)規格に基づいて構成された通信バスである。
【0248】
組電池監視装置301a~301cは、電池管理装置411からの通信による指令に基づいて、組電池200a~200cを構成する個々の単電池の電圧及び温度を計測する。ただし、温度は1つの組電池につき数箇所だけで測定することができ、全ての単電池の温度を測定しなくてもよい。
【0249】
車両用電源41は、正極端子413と負極端子414との間の電気的な接続の有無を切り替える電磁接触器(例えば
図9に示すスイッチ装置415)を有することもできる。スイッチ装置415は、組電池200a~200cへの充電が行われるときにオンになるプリチャージスイッチ(図示せず)、及び、組電池200a~200cからの出力が負荷へ供給されるときにオンになるメインスイッチ(図示せず)を含んでいる。プリチャージスイッチ及びメインスイッチのそれぞれは、スイッチ素子の近傍に配置されたコイルに供給される信号によりオン又はオフに切り替わるリレー回路(図示せず)を備えている。スイッチ装置415等の電磁接触器は、電池管理装置411又は車両400全体の動作を制御する車両ECU42からの制御信号に基づいて、制御される。
【0250】
インバータ44は、入力された直流電圧を、モータ駆動用の3相の交流(AC)の高電圧に変換する。インバータ44の3相の出力端子は、駆動モータ45の各3相の入力端子に接続されている。インバータ44は、電池管理装置411又は車両全体の動作を制御するための車両ECU42からの制御信号に基づいて、制御される。インバータ44が制御されることにより、インバータ44からの出力電圧が調整される。
【0251】
駆動モータ45は、インバータ44から供給される電力により回転する。駆動モータ45の回転によって発生する駆動力は、例えば差動ギアユニットを介して車軸および駆動輪Wに伝達される。
【0252】
また、図示はしていないが、車両400は、回生ブレーキ機構(リジェネレータ)を備えている。回生ブレーキ機構は、車両400を制動した際に駆動モータ45を回転させ、運動エネルギーを電気エネルギーとしての回生エネルギーに変換する。回生ブレーキ機構で回収した回生エネルギーは、インバータ44に入力され、直流電流に変換される。変換された直流電流は、車両用電源41に入力される。
【0253】
車両用電源41の負極端子414には、接続ラインL1の一方の端子が接続されている。接続ラインL1の他方の端子は、インバータ44の負極入力端子417に接続されている。接続ラインL1には、負極端子414と負極入力端子417との間に電池管理装置411内の電流検出部(電流検出回路)416が設けられている。
【0254】
車両用電源41の正極端子413には、接続ラインL2の一方の端子が、接続されている。接続ラインL2の他方の端子は、インバータ44の正極入力端子418に接続されている。接続ラインL2には、正極端子413と正極入力端子418との間にスイッチ装置415が設けられている。
【0255】
外部端子43は、電池管理装置411に接続されている。外部端子43は、例えば、外部電源に接続することができる。
【0256】
車両ECU42は、運転者などの操作入力に応答して電池管理装置411を含む他の管理装置及び制御装置とともに車両用電源41、スイッチ装置415、及びインバータ44等を協調制御する。車両ECU42等の協調制御によって、車両用電源41からの電力の出力及び車両用電源41の充電等が制御され、車両400全体の管理が行われる。電池管理装置411と車両ECU42との間では、通信線により、車両用電源41の残容量など、車両用電源41の保全に関するデータ転送が行われる。
【0257】
第4の実施形態に係る車両は、第3の実施形態に係る電池パックを搭載している。したがって、電池パックのサイクル寿命性能が高いため、車両の信頼性が高い。
【実施例0258】
以下に実施例を説明するが、実施形態は、以下に記載される実施例に限定されるものではない。
【0259】
<実施例1>
(負極の作製)
負極活物質として、スピネル構造を有するチタン酸リチウム(Li4Ti5O12:TLO)粒子を用いた。Li4Ti5O12粒子の平均粒子径は1μmであった。導電剤としてアセチレンブラックを用いた。負極結着剤として、アクリル系樹脂とフッ素系樹脂とを混合した第1結着剤を用いた。アクリル系樹脂とフッ素系樹脂の混合比率は、第1結着剤に対するアクリル系樹脂の割合が20質量%となるようにした。アクリル系樹脂としてはアクリル酸エステルポリマーを用いた。フッ素系樹脂として、PVDFを用いた。負極活物質、導電剤、負極結着剤を、それぞれ90質量%、5質量%、5質量%の割合で配合してNMPに分散し、スラリーを調製した。
【0260】
得られたスラリーを、負極集電体としての厚さ10μmのニッケル箔に塗布し、乾燥し、加熱プレス工程を経ることにより負極を作製した。
【0261】
(正極の作製)
正極活物質として、スピネル構造を有するリチウムマンガン複合酸化物(LiMn2O4:LMO)粒子を用いた。LiMn2O4粒子の平均粒子径は2μmであった。導電剤としてアセチレンブラックを用いた。正極結着剤としてPVDFを用いた。正極活物質、導電剤、正極結着剤を、それぞれ90質量%、5質量%、5質量%の割合で配合してNMPに分散し、スラリーを調製した。
【0262】
得られたスラリーを、正極集電体としての厚さ10μmのチタン箔の両面に塗布し、乾燥し、プレス工程を経て正極を作製した。
【0263】
(水系電解質の調製)
水系溶媒としての水1molに対し、電解質塩としての塩化リチウム(LiCl)を1.2molの割合で混合した。添加剤として尿素を準備した。水及び塩化リチウムの混合物と、尿素とを、重量比が1:3となるように混合した。かくして、水系電解質を調製した。
【0264】
(二次電池の組立)
作製した負極、正極及び水系電解質を用いて、以下のように二次電池を作製した。
【0265】
セパレータとして、厚さ20μmのポリエチレン不織布を用意した。セパレータで正極表面を被覆し、負極を、負極活物質含有層がセパレータを介して正極活物質含有層と対向するように重ねて渦巻状に捲回して電極群を作製した。この電極群をプレスして扁平状に成形した。厚さが0.25mmのステンレスからなる薄型の金属缶容器に電極群を収納した。
【0266】
水系電解質を容器内の電極群に注液し、二次電池を作製した。
【0267】
<実施例2>
負極の作製において、負極結着剤としてPVDFを用いた。
【0268】
正極の作製において、正極結着剤として、アクリル系樹脂とフッ素系樹脂とを混合した第1結着剤を用いた。アクリル系樹脂とフッ素系樹脂の混合比率は、第1結着剤に対するアクリル系樹脂の割合が20質量%となるようにした。アクリル系樹脂としてはアクリル酸エステルポリマーを用いた。フッ素系樹脂として、PVDFを用いた。
【0269】
以上のこと以外は、実施例1と同様にして二次電池を作製した。
【0270】
<実施例3>
実施例1で説明したのと同様に負極を作成し、実施例2で説明したのと同様に正極を作製し用いたこと以外は、実施例1と同様にして、二次電池を作製した。
【0271】
<実施例4>
正極の作製において、正極活物質として、オリビン構造を有するリチウムリン酸化物(LiMn0.8Fe0.2PO4:LMFP)粒子を用いた。LMFP粒子の平均粒子径は0.8μmであった。正極結着剤として、アクリル系樹脂とフッ素系樹脂とを、第1結着剤に対するアクリル系樹脂の割合が35質量%となるように混合した第1結着剤を用いた。
【0272】
水系電解質の調製において、電解質塩をLiTFSIに変更した。以上のこと以外は、実施例2と同様にして二次電池を作製した。
【0273】
<実施例5>
正極の作製において、正極活物質として、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(LiNi0.5Co0.2Mn0.3O2:NCM)粒子を用いた。NCM粒子の平均粒子径は5μmであった。
【0274】
水系電解質の調製において、電解質塩をLiTFSIに変更した。以上のこと以外は、実施例3と同様にして二次電池を作製した。
【0275】
<実施例6>
負極の作製及び正極の作製において、アクリル系樹脂としてメタアクリル酸エステルポリマーを用いたこと以外は、実施例5と同様にして二次電池を作製した。
【0276】
<実施例7>
負極の作製及び正極の作製において、アクリル系樹脂としてアクリロニトリルポリマーを用いたこと以外は、実施例5と同様にして二次電池を作製した。
【0277】
<実施例8>
負極の作製において、負極活物質として、単斜晶型ニオブチタン酸化物(TiNb2O7:TNO)粒子を用いた。TNO粒子の平均粒子径は1.5μmであった。アクリル系樹脂として、アクリル酸/アクリロニトリル混合ポリマー(アクリル酸とアクリロニトリルとをモノマーとして含むコポリマー)を用いた。
【0278】
正極の作製において、アクリル系樹脂として、アクリル酸/アクリロニトリル混合ポリマーを用いた。以上のこと以外は、実施例5と同様にして二次電池を作製した。
【0279】
<実施例9>
負極の作製において、負極結着剤として、アクリル系樹脂とフッ素系樹脂とを、第1結着剤に対するアクリル系樹脂の割合が5質量%となるように混合した第1結着剤を用いた。
【0280】
正極の作製において、正極活物質として、実施例1で説明したLMO粒子を用いた。正極結着剤として、アクリル系樹脂とフッ素系樹脂とを、第1結着剤に対するアクリル系樹脂の割合が5質量%となるように混合した第1結着剤を用いた。アクリル系樹脂としてはアクリル酸/アクリロニトリル混合ポリマーを用いた。以上のこと以外は、実施例8と同様にして二次電池を作製した。
【0281】
<実施例10>
負極の作製及び正極の作製において、負極結着剤及び正極結着剤として、アクリル系樹脂とフッ素系樹脂とを、第1結着剤に対するアクリル系樹脂の割合が70質量%となるように混合した第1結着剤を用いた。以上のこと以外は、実施例9と同様にして二次電池を作製した。
【0282】
<実施例11>
負極の作製及び正極の作製において、負極結着剤及び正極結着剤として、アクリル系樹脂とフッ素系樹脂とを、第1結着剤に対するアクリル系樹脂の割合が2.5質量%となるように混合した第1結着剤を用いた。以上のこと以外は、実施例9と同様にして二次電池を作製した。
【0283】
<実施例12>
負極の作製及び正極の作製において、負極結着剤及び正極結着剤として、アクリル系樹脂とフッ素系樹脂とを、第1結着剤に対するアクリル系樹脂の割合が95質量%となるように混合した第1結着剤を用いた。以上のこと以外は、実施例9と同様にして二次電池を作製した。
【0284】
<実施例13>
負極の作製及び正極の作製において、アクリル系樹脂として、アクリル酸/アクリロニトリル混合ポリマーを用いたこと以外は実施例5と同様にして、二次電池を作製した。
【0285】
<実施例14>
水系電解質の調製において、電解質塩をLiClに変更した。添加剤としてジメチルスルホンを準備した。水及び塩化リチウムの混合物と、ジメチルスルホンとを、重量比が1:3となるように混合した。以上のこと以外は実施例13と同様にして、二次電池を作製した。
【0286】
<実施例15>
水系電解質の調製において、電解質塩をLiClに変更した。水と電解質塩との混合比率を、水3molに対して、電解質塩1molの比率に変更した。また、添加剤の添加を省略した。以上のこと以外は実施例13と同様にして、二次電池を作製した。
【0287】
<実施例16>
水系電解質の調製において、電解質塩をLiClに変更した。添加剤として尿素及びZnCl2を準備した。水及び塩化リチウムの混合物と、尿素とを、重量比が1:3となるように混合した。この混合液に対してZnCl2を0.5質量%の割合で添加し、溶解した。以上のこと以外は、実施例8と同様にして、二次電池を作製した。
【0288】
<実施例17>
水系電解質の調製において、ZnCl2をSnCl2に変更したこと以外は、実施例16と同様にして、二次電池を作製した。
【0289】
<実施例18>
水系電解質の調製において、ZnCl2の代わりにPbCl2を添加した。PbCl2は水系溶媒中に懸濁した。上記のこと以外は、実施例16と同様にして、二次電池を作製した。
【0290】
<実施例19>
水系電解質の調製において、水と電解質塩との混合比率を、水3molに対して、電解質塩1molの比率に変更した。また、添加剤の添加をしなかった。以上のこと以外は、実施例16と同様にして、二次電池を作製した。
【0291】
<比較例1>
負極の作製及び正極の作製において、負極結着剤及び正極結着剤としてPVDFを用いた。以上のこと以外は、実施例8と同様にして二次電池を作製した。
【0292】
<比較例2>
負極の作製及び正極の作製において、負極結着剤及び正極結着剤としてアクリル酸/アクリロニトリル混合ポリマーを用いた。以上のこと以外は、実施例8と同様にして二次電池を作製した。
【0293】
<比較例3>
正極の作製において、正極活物質として、実施例4で説明したLMFP粒子を用いた。以上のこと以外は、比較例1と同様にして、二次電池を作製した。
【0294】
各実施例及び比較例において作製した二次電池を、初回充電した。初回充電は、45℃において、0.1Cの定電流で行った。
【0295】
各実施例及び比較例の、負極の設計を表1及び表2、正極の設計を表3及び表4、水系電解質の組成を表5に、それぞれ示す。
【0296】
【0297】
【0298】
【0299】
【0300】
【0301】
<被膜の種類の特定>
初回充電後の各実施例及び比較例の電池が含む正極及び負極について、前述の方法でFT-IR分析及びXPS分析を行った。
【0302】
各実施例及び比較例が含む電極についてのXPS分析結果から、前述の方法で、AO、AF、AN及びAF/(AF+AO+2AN)の値を得た。負極について得られた値を、表6に示す。正極について得られた値を、表7に示す。
【0303】
【0304】
【0305】
初回充電後の各実施例及び比較例が含む電極についての、FT-IR分析結果及びXPS分析結果から、前述の方法で、電極に形成されている被膜が含有している成分を特定した。各実施例及び比較例がそれぞれ含む負極及び正極に形成されている被膜の種類を、表8及び表9に示す。
【0306】
【0307】
【0308】
<性能評価>
各実施例及び比較例に係る二次電池の性能評価は、以下のようにして行った。
【0309】
(1Cサイクル平均効率)
1Cサイクル平均効率は、以下のようにして測定した。1Cにおける定電流充電後、1Cにおける定電流放電を行った。この充放電を1サイクルとした。充電時及び放電時に、充電容量及び放電容量をそれぞれ測定した。放電容量を充電容量で除して100を乗じた値をクーロン効率とした。上記の充放電を計100サイクル繰り返し、100サイクルのそれぞれについてクーロン効率を測定した。100サイクルのクーロン効率の平均値を、1Cサイクル平均効率(%)とした。
【0310】
(抵抗上昇率)
抵抗上昇率は、以下のようにして測定した。上記の1Cサイクル平均効率測定と同様に充放電を100サイクル実施した。1サイクル目の放電時、及び、100サイクル目の放電時に、平均放電電圧をそれぞれ測定した。また、同様の構成の別セルを用いて、0.05Cにおける定電流放電を行い、0.05Cにおける平均放電電圧Vaを測定した。Vaと、1サイクル目における平均放電電圧V1と、100サイクル目における平均放電電圧V100とを用いて、抵抗の変化率を下記式で求め、抵抗上昇率(%)とした。
【0311】
【0312】
各実施例及び比較例の、1Cサイクル平均効率及び抵抗上昇率の測定結果を、表10に示す。
【0313】
<結果>
【0314】
【0315】
実施例に係る二次電池は、いずれも1Cサイクル平均効率が高く、かつ、抵抗上昇率が低かった。そのため、サイクル寿命性能に優れることが明らかとなった。
【0316】
実施例1は、負極のみがフッ素系樹脂およびアクリル系樹脂を含む第1結着剤を含有する。実施例2は、正極のみが第1結着剤を含有する。実施例3は、負極と正極の両方が第1結着剤を含有する。これらの実施例を比較すると、実施例3は、実施例1及び2よりも1Cサイクル平均効率が高く、かつ、抵抗上昇率が低かった。したがって、負極と正極の両方が第1結着剤を含有する場合に、よりサイクル寿命性能を向上できることが明らかとなった。
【0317】
比較例1は、正極活物質としてNCMを含み、正極結着剤としてPVDFのみを含む比較例である。比較例3は、正極活物質としてLMFPを含む以外は、比較例1と同様である。比較例3は、比較例1と比較して1Cサイクル平均効率が低く、かつ、抵抗上昇率が高かった。これは、LMFPは、NCMと比較して副反応を生じやすい傾向にある正極活物質であることに起因すると考えられる。
【0318】
実施例4は、比較例3と同様に、正極活物質としてLMFPを含む正極を用いた二次電池である。フッ素系樹脂およびアクリル系樹脂を含む第1結着剤を含有する実施例4は、比較例3と比較して、1Cサイクル平均効率が高く、かつ、抵抗上昇率が低かった。そのため、フッ素系樹脂およびアクリル系樹脂を含む第1結着剤と、副反応を生じやすい傾向にある正極活物質とを組み合わせて二次電池を作製した場合にも、サイクル寿命性能を向上できることが明らかとなった。
【0319】
実施例5~7及び実施例13は、第1結着剤が含むアクリル系樹脂の種類がそれぞれ異なる以外は、同様の条件で作製した二次電池である。これらの二次電池は、いずれも比較例と比較して1Cサイクル平均効率が高く、かつ、抵抗上昇率が低かった。そのため、二次電池は、アクリル系樹脂として、アクリル酸エステルポリマー、メタアクリル酸エステルポリマー、アクリロニトリルポリマー及びアクリル酸/アクリロニトリル混合ポリマーのいずれを含む場合にも、サイクル寿命性能を向上できることが明らかとなった。
【0320】
実施例8と実施例13は、負極活物質の種類がそれぞれTNOとTLOである以外は、同様の条件で作製した二次電池である。これらの二次電池は、いずれも比較例と比較して1Cサイクル平均効率が高く、かつ、抵抗上昇率が低かった。そのため、二次電池は、負極活物質として、TNO及びTLOのいずれを含む場合にも、サイクル寿命性能を向上できることが明らかとなった。
【0321】
実施例9~12は、第1結着剤に対するアクリル系樹脂の割合が異なる以外は、同様の条件で作製した二次電池である。第1結着剤に対するアクリル系樹脂の割合が5質量%以上70質量%以下の範囲内である実施例9及び実施例10は、第1結着剤に対するアクリル系樹脂の割合が5質量%未満である実施例11と比較して、1Cサイクル平均効率が高い傾向にあった。また、第1結着剤に対するアクリル系樹脂の割合が70質量%よりも高い実施例12と比較して、抵抗上昇率が低い傾向にあった。したがって、第1結着剤に対するアクリル系樹脂の割合が5質量%以上70質量%以下の範囲内である二次電池は、サイクル寿命性能に特に優れることが明らかとなった。
【0322】
また、第1結着剤に対するアクリル系樹脂の割合が異なる実施例9~12、アクリル系樹脂を含まない比較例1及びフッ素系樹脂を含まない比較例2を比較すると、フッ素系樹脂とアクリル系樹脂の合計に対するアクリル系樹脂の割合が大きくなるにしたがって、AF/(AF+AO+2AN)の値が小さくなる傾向が明らかとなった。AF、AO及びANが、0.01≦AF/(AF+AO+2AN)≦0.95を満たす実施例9~12は、AF/(AF+AO+2AN)が0.95よりも大きい比較例1と比較して、いずれも1Cサイクル平均効率が高かった。また、AF/(AF+AO+2AN)が0.01未満である比較例2と比較して、いずれも抵抗上昇率が低かった。したがって、AF、AO及びANが、0.01≦AF/(AF+AO+2AN)≦0.95を満たす二次電池は、サイクル寿命性能に特に優れることが明らかとなった。
【0323】
また、AF、AO及びANが0.5≦AF/(AF+AO+2AN)≦0.8を満たす電極を含む実施例1~8、13~19は、AF/(AF+AO+2AN)が0.8よりも大きい実施例9,11,比較例1,3と比較して、1Cサイクル平均効率が高い傾向にあった。また、AF/(AF+AO+2AN)が0.5よりも小さい実施例10、12,比較例2と比較して、抵抗上昇率が小さい傾向にあった。したがって、AF、AO及びANが0.5≦AF/(AF+AO+2AN)≦0.8を満たす二次電池は、サイクル寿命性能に特に優れることが明らかとなった。
【0324】
実施例15は、水系電解質として、添加剤としての尿素を含まない水系電解質を用いたこと以外は、実施例13と同様の二次電池である。実施例15は添加剤の添加を省略したにもかかわらず、1Cサイクル平均効率が高く、抵抗上昇率が低かった。これは、実施例15においては、水系電解質に含有されるLiTFSIが分解したことにより、フッ化リチウム、酸化リチウム、亜硫酸リチウム及び硫酸リチウムを含有する被膜が形成されたためであると考えられる。
【0325】
実施例16~18は、水系電解質に添加した添加剤の種類が異なる以外は、同様にして作製した二次電池である。実施例19は、水系電解質として、添加剤としての尿素を含まない水系電解質を用いたこと以外は、実施例16~18と同様にして作製した二次電池である。
【0326】
実施例16~18の負極の表面には、添加剤が含有する金属元素を含む被膜が形成されていた。また、被膜はリチウムイソシアネートをさらに含んでいた。実施例16の負極の表面は、金属亜鉛、酸化亜鉛及び水酸化亜鉛を含んでいた。実施例17の負極の表面は、金属スズを含んでいた。実施例18の負極の表面は、金属鉛を含んでいた。
【0327】
実施例19の電極には、被膜が形成されていなかった。
【0328】
実施例16~18は、実施例19と比較して、抵抗上昇率が低い傾向にあった。
【0329】
また、組成が異なる水系電解質を用いた以外は同様にして作製した実施例8と実施例19とを比較すると、実施例8は、1Cサイクル平均効率が高く、抵抗上昇率が低い傾向にあった。実施例8が含む電極の表面には、リチウムイソシアネート、フッ化リチウム、酸化リチウム、亜硫酸リチウム及び硫酸リチウムを含む被膜が形成されていた。
【0330】
以上の実施例8,16~18と、実施例19との比較から、負極が第1結着剤を含み、かつ、負極の表面が、シアネート類、硫酸塩類、金属亜鉛、金属スズ、金属鉛、フッ化リチウム、酸化リチウム、酸化亜鉛及び水酸化亜鉛からなる群より選択される少なくとも1つを含む二次電池は、抵抗上昇抑制効果が特に優れることが明らかとなった。
【0331】
水系電解質が、電解質塩としてLiClを含む実施例1~3、14、16~18及び実施例19を比較する。実施例1~3は、添加剤としてアミド化合物である尿素をさらに含有する。実施例14は、添加剤として有機硫黄化合物であるジメチルスルホンをさらに含有する。実施例16は、添加剤としてZnを含む塩であるZnCl2をさらに含有する。実施例17は、添加剤としてSnを含む塩であるSnCl2をさらに含有する。実施例18は、添加剤としてPbを含む塩であるPbCl2をさらに含有する。実施例19は、添加剤を含有しない。
【0332】
これらの実施例を比較すると、実施例1~3、14、16~18は、実施例19と比較して1Cサイクル平均効率が高い傾向にあった。したがって、水系電解質がZn、Sn及びPbからなる群より選択される少なくとも一つの元素を含む塩、アミド化合物及び有機硫黄化合物からなる群より選択される少なくとも1つを含む場合に、特に優れたサイクル寿命性能を達成できることが明らかとなった。
【0333】
以上説明した少なくともひとつの実施形態によれば、二次電池が提供される。二次電池は、水系電解質と、正極と、負極とを含む。正極又は負極のうちの少なくとも一方の電極は第1結着剤を含む。第1結着剤は、フッ素系樹脂およびアクリル系樹脂を含む。そのため、係る二次電池は、優れたサイクル寿命性能を達成できる。
【0334】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0335】
以下に、実施形態に係る発明を付記する。
【0336】
<1> 水系電解質と、正極と、負極とを含み、
前記正極又は前記負極のうちの少なくとも一方の電極は第1結着剤を含み、
前記第1結着剤は、フッ素系樹脂およびアクリル系樹脂を含む、二次電池。
【0337】
<2> 前記第1結着剤は、下記(1)式を満たす、
0.01≦AF/(AF+AO+2AN)≦0.95 (1)
但し、前記AOは酸素原子の量であり、前記AFはフッ素原子の量であり、前記ANは窒素原子の量であり、AO+AN>0、AF>0である、<1>記載の二次電池。
【0338】
<3> 前記アクリル系樹脂は、アクリル酸エステル、メタアクリル酸エステル及びアクリロニトリルからなる群より選択される少なくとも1種を含む重合体である、<1>又は<2>記載の二次電池。
【0339】
<4> 前記電極の表面のX線光電子分光スペクトルは、292eV以上294eV以下の範囲内にピークを有する、<1>~<3>のいずれか1項に記載の二次電池。
【0340】
<5> 前記フッ素系樹脂は、フッ化ビニリデンを含む重合体である、<1>~<4>のいずれか1項に記載の二次電池。
【0341】
<6> 前記電極の表面のX線光電子分光スペクトルは、398eV以上402eV以下の範囲内にピークを有する、<1>~<5>のいずれか1項に記載の二次電池。
【0342】
<7> 前記電極の表面のX線光電子分光スペクトルは、168eV以上173eV以下の範囲内にピークを有する、<1>~<6>のいずれか1項に記載の二次電池。
【0343】
<8> 前記水系電解質は、Zn、Sn及びPbからなる群より選択される少なくとも一つの元素を含む塩、アミド化合物及び有機硫黄化合物からなる群より選択される少なくとも1つを含む、<1>~<7>のいずれか1項に記載の二次電池。
【0344】
<9> 前記負極は、負極結着剤として前記第1結着剤を含み、
前記負極の表面は、シアネート類、硫酸塩類、金属亜鉛、金属スズ、金属鉛、フッ化リチウム、酸化リチウム、酸化亜鉛及び水酸化亜鉛からなる群より選択される少なくとも1つを含む、<1>~<8>のいずれか1項に記載の二次電池。
【0345】
<10> 前記正極は、
リチウムマンガン複合酸化物、オリビン構造を有するリチウムリン酸化物及びリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物からなる群より選択される少なくとも1つの正極活物質と、
正極結着剤として前記第1結着剤とを含む、<1>~<9>のいずれか1項に記載の二次電池。
【0346】
<11> 前記負極は、
スピネル構造を有するチタン酸リチウム及び単斜晶型ニオブチタン酸化物からなる群より選択される少なくとも1つの負極活物質と、
負極結着剤として前記第1結着剤とを含む、<1>~<10>のいずれか1項に記載の二次電池。
【0347】
<12> <1>~<11>のいずれか1項に記載の二次電池を含む電池パック。
【0348】
<13> 通電用の外部端子と、
保護回路と
を更に含む<12>に記載の電池パック。
【0349】
<14> 複数の前記二次電池を含み、
前記二次電池が、直列、並列、又は直列及び並列を組み合わせて電気的に接続されている<12>又は<13>に記載の電池パック。
【0350】
<15> <12>~<14>のいずれか1項に記載の電池パックを搭載した車両。
【0351】
<16> 前記車両の運動エネルギーを回生エネルギーに変換する機構を含む<15>に記載の車両。
1…電極群、2…外装部材、3…負極、3a…負極集電体、3b…負極活物質含有層、3c…負極集電タブ、4…セパレータ、5…正極、5a…正極集電体、5b…正極活物質含有層、6…負極端子、7…正極端子、21…バスバー、22…正極側リード、22a…他端、23…負極側リード、23a…他端、24…粘着テープ、31…収容容器、32…蓋、33…保護シート、34…プリント配線基板、35…配線、40…車両本体、41…車両用電源、42…電気制御装置、43…外部端子、44…インバータ、45…駆動モータ、100…二次電池、200…組電池、200a…組電池、200b…組電池、200c…組電池、300…電池パック、300a…電池パック、300b…電池パック、300c…電池パック、301a…組電池監視装置、301b…組電池監視装置、301c…組電池監視装置、342…正極側コネクタ、343…負極側コネクタ、345…サーミスタ、346…保護回路、342a…配線、343a…配線、350…通電用の外部端子、352…正側端子、353…負側端子、348a…プラス側配線、348b…マイナス側配線、400…車両、411…電池管理装置、412…通信バス、413…正極端子、414…負極端子、415…スイッチ装置、416…電流検出部、417…負極入力端子、418…正極入力端子、L1…接続ライン、L2…接続ライン、W…駆動輪。