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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024135852
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】トリポード型等速自在継手
(51)【国際特許分類】
   F16D 3/205 20060101AFI20240927BHJP
【FI】
F16D3/205 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023046739
(22)【出願日】2023-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100155457
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】梁 正武
(72)【発明者】
【氏名】板垣 卓
(72)【発明者】
【氏名】杉山 達朗
(57)【要約】
【課題】止め輪の環状溝への組み付け性を悪化させることなく、止め輪の環状溝における位置を安定させて、アウタワッシャと針状ころとの間の高精度な隙間管理を可能とする。
【解決手段】トリポード部材5の脚軸8の外周面に形成された環状溝11に、アウタワッシャ12の脚軸軸端側への移動を規制する止め輪14が装着される。止め輪14は、自身の弾性力により環状溝11に押し付けられている。環状溝11のうち、最小径部となる円筒面11aよりも脚軸根元側の領域に、脚軸根元側に行くにつれて拡径したテーパ面11cを設ける。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面の周方向の三箇所に軸方向に延びるトラック溝が形成された外側継手部材と、前記外側継手部材の内周に配され、前記トラック溝に向けて半径方向に突出した三つの脚軸を有するトリポード部材と、前記脚軸に回転自在に支持されると共に前記トラック溝に収容される三つのローラと、前記脚軸の外周面と前記ローラの内周面との間に介在された複数の転動体と、前記転動体よりも前記脚軸の軸端側に配されたアウタワッシャと、前記脚軸の外周面に形成された環状溝と、前記環状溝に装着され、前記アウタワッシャの前記脚軸の軸端側への移動を規制する止め輪とを備えたトリポード型等速自在継手において、
前記止め輪が、自身の弾性力により前記環状溝に押し付けられ、
前記環状溝のうち、最小径部よりも前記脚軸の根元側に、前記根元側に行くにつれて拡径したテーパ面が設けられたトリポード型等速自在継手。
【請求項2】
前記止め輪が、前記環状溝の前記最小径部に接する請求項1に記載のトリポード型等速自在継手。
【請求項3】
前記環状溝の前記最小径部に円筒面を設けた請求項2に記載のトリポード型等速自在継手。
【請求項4】
前記環状溝のうち、前記最小径部よりも前記脚軸の軸端側に、前記脚軸の軸端側に向けて徐々に拡径した断面円弧状の凹曲面が設けられた請求項1に記載のトリポード型等速自在継手。
【請求項5】
前記止め輪の断面が円形であり、
前記止め輪の断面の直径をDとしたとき、前記凹曲面の曲率半径Rが、
R=(0.75~1.02)×(D/2)
を満たす請求項4に記載のトリポード型等速自在継手。
【請求項6】
前記テーパ面と前記脚軸の軸方向との間の角度αが55~65°である請求項1に記載のトリポード型等速自在継手。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリポード型等速自在継手に関する。
【背景技術】
【0002】
等速自在継手は、駆動側と従動側の二軸を連結し、これら二軸が作動角をとってもトルクを等速で伝達可能な構造を有しており、上記二軸の角度変位のみを許容する固定式と、上記二軸の角度変位及び軸方向変位を許容する摺動式とに大別される。摺動式等速自在継手としては、例えば下記の特許文献1に記載されているようなトリポード型が知られている。
【0003】
トリポード型等速自在継手は、外側継手部材と、外側継手部材の内周に配され、半径方向外方に突出した三つの脚軸を有するトリポード部材と、各脚軸の外周に装着された三つのローラとを備える。図7に示すように、トリポード部材100の脚軸101の外周面とローラ102の内周面との間には、複数の転動体103(例えば針状ころ)が介在され、これにより、ローラ102が脚軸101の外周に回転自在に支持される。転動体103の脚軸軸線方向(脚軸101の軸線方向、図7の上下方向)両側には、それぞれアウタワッシャ104及びインナワッシャ105が設けられる。脚軸101の軸端付近の外周面には環状溝106が設けられ、環状溝106に止め輪107が装着される。アウタワッシャ104及びインナワッシャ105により、転動体103の脚軸軸線方向の移動が規制され、止め輪107により、アウタワッシャ104の脚軸軸端側(図7の上側)への移動が規制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001-330049号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
脚軸101の環状溝106に止め輪107を装着可能とするために、環状溝106の幅W’は止め輪107の断面の直径D’よりも大きくなっている(図8参照)。そのため、環状溝106の脚軸軸線方向の幅W’と止め輪107の断面の直径D’との差(クリアランスS=S1+S2)の分だけ、止め輪107の環状溝106内での脚軸軸線方向の移動が許容される。このクリアランスSが大きいと、止め輪107の脚軸軸線方向の位置が定まらず、アウタワッシャ104の内周面とインナワッシャ105の外周面との間の距離(ワッシャ間隙間H、図7参照)にバラツキが生じる。
【0006】
図9に示すように、止め輪107が環状溝106内の脚軸軸端側の端部に配されたとき、ワッシャ間隙間が最大値H’となる。この最大隙間H’が過大であると、針状ころ103と両ワッシャ104、105との間の脚軸軸線方向の隙間(H’-L)が過大となるため、図10に示すように針状ころ103の脚軸軸線方向位置がばらつき、針状ころ103間の接触面圧上昇や、針状ころ103の円滑な転動を阻害する要因になり得る。一方、図11に示すように、止め輪107が環状溝106内の脚軸根元側の端部に配されたとき、ワッシャ間隙間が最小値H’’となる。この最小隙間H’’が過小であると、針状ころ103の脚軸軸線方向の動きが過度に制限され、針状ころ103の転動性の悪化やワッシャ104、105の摩耗量増大の要因になり得る。図8のように環状溝106と止め輪107とのクリアランスSが大きく、ワッシャ間隙間Hのバラつきが大きいと、最大隙間H’が過大となったり、最小隙間H’’が過小となったりしやすくなる。
【0007】
例えば、環状溝106と止め輪107との間のクリアランスSを小さくすれば、環状溝106内における止め輪107の脚軸軸線方向位置を安定させて、ワッシャ間隙間Hのバラつきを抑えることができる。しかし、この場合、止め輪107の断面の直径D’と環状溝106の幅W’が略同じになるため、止め輪107の環状溝106への組み付け性が悪化する。
【0008】
そこで、本発明は、止め輪の環状溝への組み付け性を悪化させることなく、止め輪の環状溝における位置を安定させて、アウタワッシャと針状ころとの間の高精度な隙間管理を可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために、本発明は、内周面の周方向の三箇所に軸方向に延びるトラック溝が形成された外側継手部材と、前記外側継手部材の内周に配され、前記トラック溝に向けて半径方向に突出した三つの脚軸を有するトリポード部材と、前記脚軸に回転自在に支持されると共に前記トラック溝に収容される三つのローラと、前記脚軸の外周面と前記ローラの内周面との間に介在された複数の転動体と、前記転動体よりも前記脚軸の軸端側に配されたアウタワッシャと、前記脚軸の外周面に形成された環状溝と、前記環状溝に装着され、前記アウタワッシャの前記脚軸の軸端側への移動を規制する止め輪とを備えたトリポード型等速自在継手において、
前記止め輪が、自身の弾性力により前記環状溝に押し付けられ、
前記環状溝のうち、最小径部よりも前記脚軸の根元側に、前記脚軸の根元側に行くにつれて拡径したテーパ面が設けられたトリポード型等速自在継手を提供する。
【0010】
脚軸の環状溝に止め輪を装着すると、止め輪が、自身の弾性力により縮径しながら環状溝に押し付けられる。環状溝のうち、最小径部よりも脚軸根元側にテーパ面を設けることで、止め輪が環状溝の最小径部よりも脚軸根元側に配された場合でも、止め輪が自身の弾性力でテーパ面に押し付けられることにより脚軸軸端側に案内される。従って、環状溝の幅を、止め輪を装着可能な程度に広めに設定した場合でも、止め輪がテーパ面により環状溝内の脚軸軸端側に案内されるため、環状溝内における止め輪の脚軸軸線方向位置を安定させることができる。
【0011】
止め輪は、環状溝の最小径部に接することが好ましい。特に、環状溝の最小径部に円筒面を設け、この円筒面に止め輪を接触させることが好ましい。これにより、環状溝の深さが管理しやすくなるため、環状溝から脚軸外径側への止め輪の突出量を高精度に管理することができる。
【0012】
環状溝のうち、最小径部よりも脚軸軸端側に、脚軸軸端側に向けて徐々に拡径した断面円弧状の凹曲面を設けてもよい。これにより、環状溝の溝底の脚軸軸端側の隅部に加わる応力が緩和されるため、トリポード部材の強度が高められる。
【0013】
止め輪の断面が円形の場合、環状溝の凹曲面の曲率半径Rは、止め輪の断面の半径(D/2)と同等とすることが好ましく、具体的にはR=(0.75~1.02)×(D/2)を満たすことが好ましい。これにより、止め輪と環状溝との間のクリアランスを増大させることなく、環状溝の溝底の隅部に加わる応力を緩和することができる。
【0014】
環状溝のテーパ面の脚軸軸線方向に対する角度αが大きすぎると、テーパ面により止め輪を脚軸軸端側に移動させる量が小さくなるため、止め輪の脚軸軸線方向の位置のバラつきを十分に抑えることができない。一方、環状溝の前記テーパ面の脚軸軸線方向に対する角度αが小さすぎると、止め輪を脚軸軸端側へ移動させる力が不足して、止め輪を脚軸軸端側に案内することができない。そこで、テーパ面の脚軸軸線方向に対する角度αは、例えば55~65°とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
以上のように、本発明によれば、環状溝に設けたテーパ面で止め輪を脚軸軸端側に案内することで、止め輪の環状溝への組み付け性を悪化させることなく、止め輪の環状溝内での脚軸軸線方向の位置を安定させて、アウタワッシャと針状ころとの間の隙間を高精度に管理することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態に係るトリポード型等速自在継手を軸方向からみた正面図である。
図2図1のX-X線における矢視断面図である。
図3図2の止め輪付近の拡大図である。
図4】脚軸に装着される前の止め輪の平面図である。
図5図3の止め輪付近をさらに拡大した図である。
図6】他の例のトリポードユニットの止め輪付近の断面図である。
図7】従来のトリポード型等速自在継手のトリポードユニットの断面図である。
図8図7の止め輪付近の拡大図である。
図9図7のトリポードユニットの止め輪が脚軸軸端側の端部に配された状態を示す断面図である。
図10図9のY-Y線における矢視図である。
図11図7のトリポードユニットの止め輪が脚軸根元側の端部に配された状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0018】
図1及び図2に、本発明の一実施形態に係るトリポード型等速自在継手1を示す。トリポード型等速自在継手1(以下、単に「等速自在継手1」ともいう)は、駆動側及び従動側の二軸の角度変位及び軸方向変位を許容する摺動式等速自在継手の一種であり、例えば、中間シャフトを介して固定式等速自在継手と連結されることによりドライブシャフトを構成する。ドライブシャフトは、例えば自動車に搭載され、車台上に搭載されたエンジンや電動モータ等の駆動源から出力される回転トルクを駆動車輪に伝達する。このドライブシャフトにおいて、トリポード型等速自在継手1は駆動源側に配置され、固定式等速自在継手は駆動車輪側に配置される。
【0019】
等速自在継手1は、有底筒状のカップ部3を有する外側継手部材2と、カップ部3の内部空間に配置された継手内部部品としてのトリポードユニットとを備える。トリポードユニットは、トリポード部材5と、トルク伝達部材としての円環状のローラ10とを含む。以下、方向性を説明するために「軸方向」、「径方向」及び「周方向」という語句を使用するが、これらは特に断りがない限り、それぞれ、カップ部3の中心軸に沿う方向、上記中心軸を中心とする円の径方向(カップ部3の径方向)、及び上記中心軸を中心とする円の周方向(カップ部3の周方向)である。
【0020】
トリポード部材5は、筒状のボス部6と、周方向等間隔(120°ピッチ)で配置され、ボス部6の外周面から径方向外向きに延びる3本の脚軸8とを一体に有する。ボス部6の内周面には雌スプライン7が形成されており、この雌スプライン7に、図示しない中間シャフトに形成された雄スプラインがトルク伝達可能に結合される。
【0021】
トリポード部材5に設けられた各脚軸8の円筒状外周面8aにはローラ10が嵌合され、これらの間に複数の針状ころ9が配される。これにより、ローラ10が脚軸8の外周に回転自在に支持される。各針状ころ9は、脚軸8の円筒状外周面8a上を脚軸8の周方向に沿って転動可能に配置されている。
【0022】
外側継手部材2のカップ部3の内周には、3本のトラック溝4が周方向等間隔(120°ピッチ)で設けられ、各トラック溝4にローラ10が収容される。各トラック溝4は、互いに対向してローラ10の外周面を案内する一対のローラ案内面4a,4bを有し、ローラ案内面4a,4bも含めて軸方向に延びた直線状に形成されている。ローラ10とローラ案内面4a,4bの接触形態は、アンギュラコンタクト(二点接触)又はサーキュラコンタクト(一点接触)とされる。
【0023】
以下、脚軸8に対する針状ころ9及びローラ10の抜け止め構造を説明する。尚、以下の説明では、脚軸8の軸線方向(図3の上下方向)を「脚軸軸線方向」と言い、脚軸軸線方向で、脚軸8の軸端側(図3の上側)を「脚軸軸端側」、その反対側(図3の下側)を「脚軸根元側」と言う。
【0024】
図2に示すように、針状ころ9の脚軸軸端側には環状のアウタワッシャ12が配され、針状ころ9の脚軸根元側には環状のインナワッシャ13が配される。アウタワッシャ12は脚軸8の軸端付近に外嵌され、インナワッシャ13は脚軸8の根元付近に外嵌される。図3に示すように、アウタワッシャ12は、脚軸軸線方向と直交する方向に延びる円盤部12aと、円盤部12aの外周端から脚軸軸端側(図中上側)に延びる円筒部12bと、円筒部12bの端部から脚軸8の外径側(図中右側)に突出した突出部12cとを有する。
【0025】
脚軸8の軸端付近の外周面には環状溝11が形成され、この環状溝11に止め輪14が装着される。止め輪14は、断面が円形であり、周方向一部を不連続とした有端リング状(C形状)を成している(図4参照)。止め輪14は、自身の弾性力により環状溝11の溝底に押し付けられている。図3に示すように、止め輪14は、内周部が環状溝11に嵌まり込み、外周部が環状溝11から脚軸8の外径側に突出している。止め輪14の外周端は、脚軸8の円筒状外周面8aよりも脚軸8の外径側に配される。針状ころ9が脚軸軸端側に移動したとき、針状ころ9がアウタワッシャ12の円盤部12aを介して止め輪14に脚軸根元側から当接することにより、針状ころ9のそれ以上脚軸軸端側への移動が規制される。針状ころ9が脚軸根元側に移動したとき、針状ころ9がインナワッシャ13を介して脚軸8の根元部(ボス部6の外周面)に当接することにより、針状ころ9のそれ以上脚軸根元側への移動が規制される(図2参照)。
【0026】
アウタワッシャ12の円筒部12bの外径はローラ10の内径よりも小さく、アウタワッシャ12の突出部12cの外径はローラ10の内径よりも大きい(図3参照)。例えば、トリポードユニットを外側継手部材2の内周に組み付ける際、ローラ10は、アウタワッシャ12の円筒部12bの外周面に嵌合する位置まで脚軸軸線方向の移動が許容されるが、アウタワッシャ12の突出部12cに当接することで、それ以上脚軸軸端側への移動が規制される。これにより、等速自在継手1の組立時にローラ10が脚軸8から脱落することを防止できる。
【0027】
以下、本発明の特徴的構成である環状溝11の溝底形状を詳しく説明する。
【0028】
図5に示すように、環状溝11は、円筒面11aと、円筒面11aの脚軸軸端側に設けられた係止面11bと、円筒面11aの脚軸根元側に設けられたテーパ面11cとを有する。円筒面11aは、環状溝11の最小径部となる。係止面11bは、脚軸軸線方向と直交する平坦面である。テーパ面11cは、脚軸根元側に行くにつれて拡径している。テーパ面11cの脚軸軸線方向に対する角度αは、55~65°の範囲内で設定され、例えば60°とされる。テーパ面11cは、環状溝11の脚軸根元側の端部に設けられ、脚軸8の円筒状外周面8aに接続している。
【0029】
円筒面11aの脚軸軸端側の端部と係止面11bとは、断面円弧状の凹曲面11eを介して接続されている。凹曲面11eの曲率半径Rは、止め輪14の断面の半径D/2と同等とされ、具体的にはR=(0.75~1.02)×(D/2)を満たすように設定される。図示例では、凹曲面11eの曲率半径Rが、止め輪14の半径D/2よりも僅かに小さい(R<D/2)。凹曲面11eと円筒面11a及び係止面11bとは滑らかに接続している。止め輪14は、円筒面11a及び係止面11bに接触し、凹曲面11eには接触しない。
【0030】
円筒面11aとテーパ面11cとは、断面円弧状の凹曲面11dを介して接続されている。図示例では、凹曲面11dと円筒面11a及びテーパ面11cとが滑らかに連続している。凹曲面11dの断面の曲率半径rは、円筒面11aと係止面11bとを繋ぐ凹曲面11eの断面の曲率半径Rよりも小さい。止め輪14は、円筒面11a及びテーパ面11cに接触し、凹曲面11dには接触しない。
【0031】
止め輪14は、環状溝11の円筒面11aに押し付けられている。止め輪14は、係止面11bにより脚軸軸端側への移動が規制され、テーパ面11cにより脚軸根元側への移動が規制される。図示例では、止め輪14が、円筒面11a、係止面11b、及びテーパ面11cの3点で環状溝11に接触している。しかし、各部材の寸法公差により、止め輪14の断面の直径Dやテーパ面11cの傾斜角度αにバラツキが生じるため、止め輪14が、係止面11b及びテーパ面11cの何れか一方又は双方と非接触となったり、円筒面11aと非接触となったりする場合がある。
【0032】
例えば、図6に示すように、止め輪14が環状溝11の円筒面11aと接触せずに、テーパ面11cと係止面11bで支持された場合、テーパ面11cの傾斜角度αの公差によって、脚軸8の円筒状外周面8aから外径側への止め輪14の突出量Pにバラツキが大きくなる。これに対し、図5に示すように、止め輪14を環状溝の最小径部(図示例では円筒面11a)と接触させれば、脚軸8の円筒状外周面8aから外径側への止め輪14の突出量Pのバラつきを抑えることができる。従って、各部材に寸法公差が生じても、止め輪14が、図6に示すように環状溝11の円筒面11aから浮いた状態とならずに、図5に示すように必ず円筒面11aに接するように、環状溝11の形状を設定することが好ましい。
【0033】
以下、止め輪14の環状溝11への装着方法を説明する。
【0034】
環状溝11に取り付ける前の止め輪14の内径B(図4参照)は、環状溝11の最小径(すなわち、円筒面11aの直径A、図5参照)よりも小さい。この止め輪14を弾性的に拡径させて、止め輪14の内径を環状溝11の脚軸軸端側に設けられた円筒面8bの直径よりも大きくする。図示例では、脚軸8の円筒面の直径は、円筒状外周面8aの直径Cと等しい(図3参照)。こうして止め輪14を拡径させた状態で、脚軸8とアウタワッシャ12の円筒部12bとの間の隙間に止め輪14を脚軸軸端側から挿入する(図3の矢印参照)。止め輪14が環状溝11の外周に達したら、止め輪14を弾性復元力により縮径させて、環状溝11に嵌合させる。
【0035】
このとき、止め輪14が環状溝11の脚軸根元側の端部付近(テーパ面11cの外周)に配されていると、止め輪14が自身の弾性復元力によりテーパ面11cに押し付けられる(図3の点線参照)。この止め輪14とテーパ面11cとの接触により、止め輪14を脚軸軸端側に押し込む力が発生し、止め輪14が脚軸軸端側に案内され、環状溝11の最小径部である円筒面11aと接する位置に配される(図5参照)。
【0036】
このように、止め輪14をテーパ面11cで案内することで、環状溝11内の脚軸軸端側寄りの位置に止め輪14が配されるため、止め輪14の環状溝11内における脚軸軸線方向の位置を安定させることができ、ひいては、アウタワッシャ12の脚軸軸線方向の位置が安定させることができる。これにより、アウタワッシャ12とインナワッシャ13との脚軸軸線方向の間隔H(図7参照)を高精度に管理することができるため、ワッシャ間隙間Hが過大あるいは過小となることによる不具合を回避することができる。
【0037】
例えば図5に点線で示すように、環状溝11の幅を狭くした場合でも、止め輪14の脚軸軸線方向の位置を安定させることができる。しかし、このように環状溝11の幅を狭くすると、止め輪14の環状溝11への装着性が悪化する。本実施形態のように、環状溝11にテーパ面11cを設けることで、止め輪14の装着性の悪化を回避しながら、止め輪14の脚軸軸線方向の位置を安定させることができる。
【0038】
等速自在継手1の使用中に、針状ころ9が脚軸軸端側に移動してアウタワッシャ12を介して止め輪14に当接すると、止め輪14が環状溝11の係止面11bに係止されて、針状ころ9の脚軸軸端側への移動が規制される。このとき、係止面11bに脚軸軸端側向きの荷重が加わるが、係止面11bと円筒面11aとを凹曲面11eを介して接続しているため、この部分に加わる応力が緩和される。特に、本実施形態では、凹曲面11eの曲率半径Rが、止め輪14の断面の直径Dと同等であるため、凹曲面11eに加わる応力が十分に緩和されて、脚軸8の耐久性が高められる。
【0039】
一方、止め輪14が脚軸根元側に移動しようとした場合、止め輪14がテーパ面11cに当接することで、それ以上脚軸根元側への移動が規制される。このとき、止め輪14に脚軸根元側向きの大きな力が加わると、止め輪14が拡径しながらテーパ面11cの大径部分(脚軸根元側部分)に乗り上げる恐れがある。しかし、止め輪14には、針状ころ9から脚軸軸端側向きの荷重は加わるが、脚軸根元側に向けた荷重はほとんど加わらない。従って、止め輪14の脚軸根元側への移動は、テーパ面11cで十分に規制することができる。
【0040】
本発明は上記の実施形態に限られない。以下、本発明の他の実施形態を説明するが、上記の実施形態と同様の点については重複説明を省略する。
【0041】
環状溝11の凹曲面11dを省略して、円筒面11aとテーパ面11cを直接接続してもよい。また、環状溝11の凹曲面11eを省略して、円筒面11aと係止面11bとを直接接続してもよい。
【0042】
止め輪14の断面は円形に限らず、矩形等の非円形であってもよい。
【0043】
インナワッシャ13を省略してもよい。この場合、針状ころ9を脚軸8の根元部(ボス部6の外周面)に直接当接させることで、針状ころ9の脚軸根元側への移動が規制される。
【符号の説明】
【0044】
1 トリポード型等速自在継手
2 外側継手部材
3 カップ部
4 トラック溝
5 トリポード部材
6 ボス部
7 雌スプライン
8 脚軸
9 針状ころ
10 ローラ
11 環状溝
11a 円筒面(最小径部)
11b 係止面
11c テーパ面
11d 凹曲面
11e 凹曲面
12 アウタワッシャ
13 インナワッシャ
14 止め輪
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11