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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024013589
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】針ハブ及びそれを用いた注射器
(51)【国際特許分類】
   A61M 5/34 20060101AFI20240125BHJP
【FI】
A61M5/34 530
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022115785
(22)【出願日】2022-07-20
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-02-16
(71)【出願人】
【識別番号】591065402
【氏名又は名称】株式会社タスク
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100131808
【弁理士】
【氏名又は名称】柳橋 泰雄
(72)【発明者】
【氏名】川嶋 健
(72)【発明者】
【氏名】小林 泰次
(72)【発明者】
【氏名】柴田 亮
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 透
【テーマコード(参考)】
4C066
【Fターム(参考)】
4C066AA09
4C066BB01
4C066CC01
4C066DD08
4C066GG13
4C066HH02
4C066HH12
4C066JJ06
4C066JJ07
4C066JJ09
(57)【要約】
【課題】デッドスペースが小さく様々なシリンジと嵌合できる針ハブを提供する。
【解決手段】 ポリプロピレン、環状オレフィンポリマー(COP)またはトライタン(登録商標)で形成され、ISO80369-7:2016に規定されているポリプロピレンで形成されたおすルアースリップ式コネクタと嵌合する円すい台形の凹部117を有し、凹部より前側に設けられた針113が装着された針ハブ103であって、凹部は、深さLが7.384mm以上7.496mm以下で、開口部の内径Dが4.316mm以上4.376mm以下で、内径が深さに対して6パーセントの傾斜で開口部から狭まる、針ハブが提供される。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
引張弾性率が1400MPa以上2500MPa以下の熱可塑性樹脂で形成され、
ISO80369-7:2016に規定されているポリプロピレンで形成されたおすルアースリップ式コネクタと嵌合する円すい台形の凹部を有し、前記凹部より前側に設けられた針が装着された針ハブであって、
前記凹部は、深さLが7.384mm以上7.496mm以下で、開口部の内径Dが4.316mm以上4.376mm以下で、内径が深さに対して6パーセントの傾斜で前記開口部から狭まる、針ハブ。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂が、ポリカーボネート、ポリプロピレン、環状オレフィンポリマー(COP)またはトライタン(登録商標)である、請求項1に記載の針ハブ。
【請求項3】
前記凹部は、凹凸のない滑らかな曲面を有し、
前記曲面は、全体で前記おすルアースリップ式コネクタと前記凹部との間の摩擦を発生する、請求項1に記載の針ハブ。
【請求項4】
前記凹部の底面の平面視における略中心位置に突起部が形成され、
前記突起部は、前記おすルアースリップ式コネクタの中心と係合して、中心軸の位置決めをする及び前記針ハブと前記おすルアースリップ式コネクタの間のデッドスペースを小さくする、請求項1に記載の針ハブ。
【請求項5】
前記針ハブの外面にねじ山を備え、
前記針ハブの前記凹部及び前記ねじ山は、ISO80369-7:2016に規定されているおすルアーロック式コネクタと係合できる、請求項1に記載の針ハブ。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の針ハブと、
ISO80369-7:2016に規定されているおすルアースリップ式コネクタを有するシリンジと、
先端にガスケットを備えるプランジャと、備える注射器であって、
前記ガスケットの外面の形状と、前記シリンジの先端の内面の形状は、一致し、
前記注射器の薬液残留量は、2μL以上50μL以下である、注射器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象に穿刺する針ハブ及びそれを用いた注射器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、針ハブとシリンジは、ISO規格に則って作製されてきた。このようにすることで、製品の互換性を上げ、またどのような注射器アセンブリでも同じように注射できるというメリットがある。現在、針ハブとシリンジのコネクタのISO規格の1つは、ISO80369-7:2016に規定されている。ISO80369-7:2016は、ルアースリップ式コネクタとルアーロック式コネクタを規定している。
【0003】
しかしながら、今までの規格に則った注射器は薬液が残るデッドスペースが大きかった。高価な薬液の損失を減らすために注射器のデッドスペースをなくすことは大きなメリットがある。
【0004】
ISO80369-7:2016に規定された針ハブと注射筒のデッドスペースをなくすために例えば特許文献1は、長手軸を有する注射器ハブアッセンブリを備える、長手軸を有する注射器であって、注射針アッセンブリは、注射針ハブ本体を備え、注射針ハブ本体は、注射針ハブ本体の第1端部に注射器の注射筒の取り付け部を受容するためのシリンジコネクタを有し、更に、注射針ハブ本体の反対側の第2端部に、注射針受容部を有し、注射針ハブアッセンブリは、更に、注射針受容部から延びる注射針を備え、シリンジコネクタは、少なくともその遠位端に、注射筒の注射器の取り付け部を受容するための実質的に円錐形状の受容開口部を有するとともに、受容開口部の入口領域は、およそ、4.270mmから4.315mmの断面寸法(D)を有し、入口領域周囲と上面周囲の間にわたる受容開口部の内周壁は、入口領域から上面に向かって6%細くなっており、長手軸に沿って測った開口部の長さ(A)は、3mmから7mmの間であり、注射針の一端部は、注射針受容部内に収容されており、開口部内に突出しておらず、注射器は、注射筒を備え、注射筒は、注射器の近位端と遠位端の間を長手軸方向に延びており、注射針ハブアッセンブリを取り付けるための取り付け部を備え、注射器は、更に、注射筒内に摺動可能に受容されるプランジャを備え、プランジャは、シーリングエレメントを備え、シーリングエレメントは、プランジャの遠位端に配置されるとともに、少なくとも取り付け部の内側に組み付けられるように構成され、注射針ハブアッセンブリの注射針ハブ本体の素材は、注射器の注射筒の素材、少なくとも、注射器の注射筒の取り付け部の素材よりも高い硬さを有する、注射器を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6864475号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記注射器は、注射針ハブ本体とシリンジの結合力が最適化されていないと、薬液の注入圧力に負けて注射中に注射針ハブ本体とシリンジが分解してしまう虞があった。特に高粘度の薬液を用いた場合、その虞が大きかった。ここで高粘度は、水よりも粘度が高いことを想定している。針ハブとシリンジが分解しないように結合を強化するためにはルアーロック式コネクタを用いることが考えられるが、構造が複雑になるためコストが上がってしまう。コストを下げるためにはルアースリップ式を採用するほうがよい。
【0007】
そこで本発明は、ISO80369-7:2016に規定されているおすルアースリップ式コネクタと嵌合するデッドスペースが小さく結合力を大きくできる針ハブを提供し、様々なISO80369-7:2016に規定されているおすルアースリップ式コネクタを備えるシリンジとデッドスペースの小さい注射器を構成できることを目的とする。また、ISO80369-7:2016に規定されているおすルアーロック式コネクタとも結合する、ISO80369-7:2016に規定されているおすルアースリップ式コネクタと嵌合する針ハブを提供し、広く互換性を持たせることを目的とする。
【0008】
また、その針ハブとISO80369-7:2016に規定されているおすルアースリップ式コネクタを有するシリンジから構成された注射器を提供し、コストを下げ、デッドスペースを減らし、結合力を大きくすることを目的とする。さらにその針ハブとISO80369-7:2016に規定されているおすルアーロック式コネクタを有するシリンジから構成された注射器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の針ハブは、
ISO80369-7:2016に規定されているおすルアースリップ式コネクタと嵌合する円すい台形の凹部を有し、前記凹部より前側に設けられた針が装着された針ハブであって、
前記凹部は、深さLが7.384mm以上7.496mm以下で、開口部の内径Dが4.316mm以上4.376mm以下で、内径が深さに対して6パーセントの傾斜で前記開口部から狭まる、針ハブである。このとき、針ハブは、引張弾性率が1400MPa以上2500MPa以下の熱可塑性樹脂で形成されるのが好ましく、おすルアースリップ式コネクタは、ポリプロピレンなどの熱可塑性樹脂で形成されるのが好ましい。具体的には、針ハブは、ポリカーボネート、ポリプロピレン、環状オレフィンポリマー(COP)、コポリエステル樹脂の1つであるトライタン(登録商標)などの熱可塑性樹脂で形成されるのが好ましい。
【0010】
本発明により、デッドスペースを減らし、シリンジと結合力の大きい針ハブを得ることができる。そのため様々なシリンジとデッドスペースを小さくして結合できる針ハブを提供できる。また、本発明の針ハブは、高価な薬液及び粘度の高い薬液の注射に用いることができる。
【0011】
また、本発明の針ハブは、
前記針ハブの外面にねじ山を備え、
前記針ハブの前記凹部及び前記ねじ山は、ISO80369-7:2016に規定されているおすルアーロック式コネクタと係合できる、針ハブである。
【0012】
本発明により、ルアースリップ式と互換性のあるルアーロック式の針ハブを得ることができる。
【0013】
また本発明の注射器は、
上記針ハブと、
ISO80369-7:2016に規定されているおすルアースリップ式コネクタを有するシリンジと、
先端にガスケットを備えるプランジャと、備える注射器であって、
前記ガスケットの外面の形状と、前記シリンジの先端の内面の形状は、一致し、
前記注射器の薬液残留量は、2μL以上50μL以下である、注射器である。
【0014】
本発明により、コストを下げて、デッドスペースを減らし、結合力の大きい注射器を得ることができる。そのため、本発明の注射器は、高価な薬液及び粘度の高い薬液の注射に用いることができる。
【0015】
また、本発明の注射器は、
上記針ハブと、
ISO80369-7:2016に規定されているおすルアーロック式コネクタを有するシリンジと、
先端にガスケットを備えるプランジャと、を備える注射器であって、
前記ガスケットの外面の形状と、前記シリンジの先端の内面の形状は、一致し、
前記注射器の薬液残留量は、2μL以上50μL以下である、注射器である。
【0016】
本発明により、ルアースリップ式と互換性のあるルアーロック式の注射器を得ることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、ISO80369-7:2016に規定されているおすルアースリップ式コネクタと嵌合するデッドスペースが小さく結合力を大きくできる針ハブが提供され、様々なISO80369-7:2016に規定されているおすルアースリップ式コネクタを備えるシリンジとデッドスペースの小さい注射器を構成できる。また、本発明は、ISO80369-7:2016に規定されているおすルアーロック式コネクタとも結合する、ISO80369-7:2016に規定されているおすルアースリップ式コネクタと嵌合する針ハブが提供され、広く互換性をもたせることができる。
【0018】
また、本発明は、その針ハブとISO80369-7:2016に規定されているおすルアースリップ式コネクタを有するシリンジから構成された注射器が提供されコストを下げ、デッドスペースを減らし、結合力を大きくすることができる。さらに本発明は、その針ハブとISO80369-7:2016に規定されているおすルアーロック式コネクタを有するシリンジから構成された注射器が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施の形態に係る注射器の概観を示す図である。
図2】本発明の実施の形態に係る針ハブの断面図である。
図3】本発明の実施の形態に係る針ハブの概観を示す図である。
図4】本発明の実施の形態に係る針ハブとルアースリップ式コネクタを用いた注射器の断面図である。
図5】本発明の実施の形態に係る針ハブとルアーロック式コネクタを用いた注射器の断面図である。
図6】ルアースリップ式コネクタを針ハブの凹部に押し込んで固定状態になったときの、ルアースリップ式コネクタの先端面と針ハブの凹部の底面との間の距離Aを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための様々な実施の形態を、図面を参照して説明する。なお以下に説明する針ハブ及び注射器は、本開示の技術思想を具体化するためのものであって、特定的な記載がない限り、本開示を以下のものに限定しない。要点の説明または理解の容易性を考慮して、異なる図面で便宜上符号を同一にして示す。特に、同様の構成による同様の作用効果については、実施形態や実施例ごとには逐次言及しないものとする。各図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にするため、誇張して示している場合もある。
【0021】
(本発明の実施の形態に係る注射器の説明)
図1は、本発明の実施の形態に係る注射器の概観を示す図である。図1を参照して、本発明の実施の形態に係る注射器を説明する。
【0022】
図1では、注射器の針のある矢印方向109を前端、前端側、前端方向、前端部、前方などとし、シリンジにプランジャが挿入される矢印方向111を後端、後端側、後端方向、後端部、後方とする。
【0023】
図1に示すように、ルアースリップ式コネクタを用いた注射器101は、前端に針113(後に図示する)の付いた針ハブ103、注射する薬液が貯蔵されるシリンジ105、シリンジ105に装着され、シリンジ105の薬液を押し込むプランジャ107から構成される。図1に示される注射器101は、針ハブ103が、シリンジ105の前端に嵌合して付けられ、摩擦力により結合されるルアースリップ式コネクタにより結合されたものである。ルアースリップ式コネクタの場合、この摩擦力は、薬液の注入圧力に負けないようにする必要がある。
【0024】
一方、ルアーロック式コネクタとは、後に図示するように、針ハブ103の外面の雄ねじが、シリンジの雌ねじと結合するものである。ルアーロック式コネクタは、シリンジの先端と針ハブの間の摩擦力だけでなく、雄ねじと雌ねじの嵌合により結合するため結合力が強く、高粘度の薬液を注入するのに適している。しかしながら、構造が複雑になるためコストが高くなってしまうことがある。
【0025】
シリンジ105は、中空の円筒形であり薬液を貯蔵する。シリンジ105は、前端に針ハブと嵌合する先端(後に図示する)135,147を有し、その中心は貫通孔を有する。嵌合部の貫通孔を通った薬液は、針を通るようにされる。
【0026】
プランジャ107は、押し子とも呼ばれる。プランジャ107の前端には、後に図示するガスケット133,145が装着される。前端に装着されたガスケット133,145により、プランジャ107は、シリンジ105内の薬液を漏れることなく前端に押し出すピストンの機能を果たすことができる。
【0027】
針113は金属で形成されることが好ましい。針ハブ103は、ポリカーボネート、ポリプロピレン、環状オレフィンポリマー(COP)、コポリエステル樹脂の1つであるトライタン(登録商標)などの熱可塑性樹脂で形成されることが好ましい。シリンジ105は、ポリプロピレンなどの樹脂で形成されることが好ましい。また、プランジャ107は、ポリプロピレン、ABSなどの樹脂で形成されることが好ましい。また、また、ガスケット133,145は、全体がシリコン、エラストマなどの樹脂で形成されることが好ましい。
【0028】
(本発明の実施の形態に係る針ハブの説明)
図2は、本発明の実施の形態に係る針ハブの断面図である。図3は、本発明の実施の形態に係る針ハブの概観を示す図である。図2及び図3を参照して、本発明の実施の形態に係る針ハブを説明する。
【0029】
図2に示すように、本発明の実施の形態に係る針ハブ103は、ISO80369-7:2016に規定されているおすルアースリップ式コネクタに嵌合する円すい台形の凹部117を有し、凹部の前側に設けられた針113が装着される。
【0030】
ISO80369-7:2016の規格は、各々別の会社で作製された針ハブとシリンジを適合させるための規格で、特に注射器に用いられるものである。この規格により互換性が保たれるが、針ハブとシリンジに所望の結合力を持たせるにはそれぞれ最適化する必要がある。
【0031】
針113は、針収容部115に挿入され、接着剤で固定される。針113は、針収容部115に完全に挿入されるのではなく空間125が形成される。空間125は、針113の挿入具合で変動する、針113の外径に合わせた径を有する円筒空間である。ここも薬液のデッドスペースとなるためなるべく小さくすることが好ましい。
【0032】
凹部117にはコネクタを受け入れる開口部119と、コネクタを終端する底面121を有する。開口部119と底面121との距離、すなわち凹部117の深さLは、7.384mm以上7.496mm以下である。開口部119及び底面121は注射器の長手方向の中心軸に同心円を形成する。開口部119の内径Dは、4.316mm以上4.376mm以下である。凹部117の開口は開口部119から底面121に向けて6パーセントの傾斜をつけて狭まっている。このようにすることで、針ハブ103は、ISO80369-7:2016のおすルアースリップ式コネクタと強く結合される。
【0033】
凹部117の深さL及び内径Dの上記の数値範囲について更に詳しく述べる。おすルアースリップ式コネクタがポリプロピレンで形成され、針ハブ103が、ポリカーボネート、ポリプロピレン、環状オレフィンポリマー(COP)、またはトライタン(登録商標)といった熱可塑性樹脂で形成されるとき、嵌合時におすルアースリップ式コネクタも針ハブ103も変形し、コネクタ及び針ハブの変形の度合いもそれぞれ異なっている。このとき、部材を構成する樹脂材料の引張弾性率または曲げ弾性率が、変形の度合い指標として有効であると考えられる。
【0034】
ルアースリップ式コネクタを針ハブ103の凹部に押し込んで装着するとき、ルアースリップ式コネクタの外側面及び針ハブの凹部の内側面がテーパ面を有するので、くさび効果により高い面圧を得ることができ、ルアースリップ式コネクタ及び針ハブ103の結合力が高まる。更に、ルアースリップ式コネクタ及び針ハブ103の硬度が異なる場合には、ルアースリップ式コネクタ及び針ハブ103の一方が他方よりも大きく変形するので、更にルアースリップ式コネクタの外側面及び針ハブの凹部の内側面が強く密着して、より高い面圧、より強い結合力を得ることができる。
【0035】
一方、ルアースリップ式コネクタも針ハブ103も寸法公差があり、製品ごとにある程度の寸法のバラツキを有する。更に、嵌合時の摩擦状態も一定ではないので、ルアースリップ式コネクタを針ハブ103の凹部117に押し込んでいったとき、ルアースリップ式コネクタの移動が止まって固定状態となる最終的な押し込み量に多少のばらつきが生じる。このような押し込み量のばらつきを算術計算で求めることは困難である。
【0036】
図6に、ルアースリップ式コネクタを針ハブ103の凹部117に押し込んで固定状態になったときの、ルアースリップ式コネクタの先端面と針ハブ103の凹部117の底面との間の距離Aを示す。
【0037】
デッドスペースを小さくする観点からは、ルアースリップ式コネクタの先端面と針ハブ103の凹部117の底面との間の距離Aを小さくすることが好ましい。一方、距離Aが小さくなると、製品によって距離Aに多少のばらつきが生じるので、ルアースリップ式コネクタの先端面と針ハブ103の凹部117の底面とが当接する(つまり距離A=0になる)虞がある。
【0038】
ルアースリップ式コネクタの先端面と針ハブ103の凹部117の底面とが当接した場合、これで両者が相対的に移動できなくなるので、ルアースリップ式コネクタの外側面及び針ハブ103の凹部117の内側面の間のくさび効果による面圧が得られなくなる。このため、ルアースリップ式コネクタの外側面及び針ハブ103の凹部117の内側面の間のシール性が低下して、注射液が漏れる等の問題が生じる。
【0039】
以上のように、製品寸法や嵌合時の摩擦状態に多少のばらつきがあっても、確実に所定の距離Aが確保されて、おすルアースリップ式コネクタ及び針ハブ103の強い結合力が確保される状態下において、極力距離Aを小さくして、デッドスペースを抑制するという難しい課題を解決する必要がある。単純な机上計算では対応できないこのような課題を解決するため、発明者らは、材料の弾性率を変形の度合いの指標として考慮しながら、様々な弾性率を有する様々な材料から形成された、様々な寸法の凹部を有する針ハブ103を試作して、ISO80369-7:2016に規定されたルアースリップ式コネクタと嵌合する試験を行って、上記の凹部117の深さL及び内径Dの上記の数値範囲を見出した。以下において、第1~第4の実施例として試験結果を説明する。
【0040】
凹部117の内面は、凹凸のない滑らかな曲面を有している。すなわち、突起などで開口を小さくして摩擦力を大きくするのではなく、曲面は、全体でおすルアースリップ式コネクタと凹部117との間の摩擦を発生する。このようにすることで、さらに針ハブ103は、おすルアースリップ式コネクタと強く結合される。
【0041】
凹部117の底面121の平面視における略中心位置に突起部123が形成される。突起部123は、おすルアースリップ式コネクタの中心と係合して、中心軸の位置決めをする。また、針ハブ103の形状を変化させた場合、デッドスペースは、針ハブ103とおすルアー式コネクタとの間の空間で変化することが考えられる。したがって、突起部123は、針ハブ103とおすルアースリップ式コネクタの間のデッドスペースを小さくする。
【0042】
図3に示すように、針ハブ103は、開口部119付近の外面に雄ねじ127を備える。この雄ねじのねじ山は、ISO80369-7:2016に規定されているおすルアーロック式コネクタと雌ねじ143(後に図示する)と係合できる。この雄ねじ127と雌ねじ143の係合及び針ハブ103の凹部117とおすルアーロック式コネクタの先端の係合によって、針ハブとおすルアーロック式コネクタを堅く結合できる。このように、本実施の形態の針ハブは、ISO80369-7:2016に規定されているおすルアースリップ式コネクタだけでなく、ISO80369-7:2016に規定されているおすルアーロック式コネクタとも係合でき、互換性を広げられる。
【0043】
(本実施の形態の針ハブとおすルアースリップ式コネクタをもつシリンジを備える注射器の説明)
図4は、本発明の実施の形態に係る針ハブとルアースリップ式コネクタを用いた注射器の断面図である。図4を参照して、本発明の実施の形態に係る針ハブとルアースリップ式コネクタを用いた注射器を説明する。
【0044】
図4に示すように、本発明の実施の形態の針ハブ103とルアースリップ式コネクタを用いた注射器101は、プランジャ107とプランジャ先端に取り付けられたガスケット133と、シリンジ105と、シリンジ105の先端135に嵌合して取り付けられた針ハブ103と、を備える。
【0045】
ISO80369-7:2016に規定されているおすルアースリップ式コネクタと針ハブ103は、滑らかな曲面の摩擦力のみで結合している。
【0046】
ガスケット133の外面129の形状は、シリンジ105の先端135の内面131の形状は、一致していることが好ましい。このようにすると、デッドスペースをシリンジ105と針ハブ103の間の空間、針の中、針ハブ103と針の間の空間125を考慮するだけにできる。
【0047】
このようにすることで、ローデッドスペースな注射器101を提供することができる。ローデッドスペースとは、薬液残留量、すなわちこれらの空間の容積が50μL以下、好ましくは20μL以下、さらに好ましくは14μL以下であることを指す。
【0048】
(本実施の形態の針ハブとおすルアーロック式コネクタをもつシリンジを備える注射器の説明)
図5は、本発明の実施の形態に係る針ハブとルアーロック式コネクタを用いた注射器の断面図である。図5を参照して、本発明の実施の形態に係る針ハブとルアーロック式コネクタを用いた注射器を説明する。
【0049】
図5に示すように、本発明の実施の形態の針ハブ103とルアーロック式コネクタを用いた注射器136は、プランジャ107とプランジャ先端に取り付けられたガスケット145と、シリンジ137と、シリンジ137の先端147に嵌合して取り付けられた針ハブ103と、を備える。
【0050】
ISO80369-7:2016に規定されているおすルアーロック式コネクタと針ハブ103は、滑らかな曲面の摩擦力と、雌ねじ143と雄ねじ127の螺合により、堅く結合されている。
【0051】
ガスケット145の外面139の形状は、シリンジ137の先端147の内面141の形状は、一致していることが好ましい。このようにすると、デッドスペースをシリンジ137と針ハブ103の間の空間、針の中、針ハブ103と針の間の空間125を考慮するだけにできる。
【0052】
このようにすることで、ローデッドスペースな注射器136を提供することができる。ISO80369-7:2016に規定されているおすルアースリップ式コネクタと同様に、ローデッドスペースとは、薬液残留量、すなわちこれらの空間の容積が50μL以下、好ましくは20μL以下、さらに好ましくは14μL以下であることを指す。
【実施例0053】
実施例として、針ハブの変形の度合いの指標として引張弾性率を考慮し、引張弾性率2500MPaのポリカーボネート(第1の実施例)、引張弾性率1400MPのポリプロピレン(第2の実施例2)、引張弾性率2200MPaの環状オレフィンポリマー(COP)(第3の実施例3)及び引張弾性率2500MPaのトライタン(登録商標)(第4の実施例)を材料として針ハブを試作し、下記の試験を行った。
【0054】
(第1の実施例その1)
深さLと開口部の内径Dを変化させ、深さに対する開口の広がりに6パーセントの傾斜を持たせた凹部を有するポリカーボネート製(引張弾性率2500MPa、曲げ弾性率2100MPa)の針ハブ103を試作し、ポリプロピレン製の主要4社のシリンジと嵌合させてデッドスペース及び分離抵抗を比較した。結果を表1に示す。
【0055】
【表1】
【0056】
分離抵抗は、軸方向に23Nの分離力を10秒保持させてシリンジから分離しないものを○、分離した場合、分離したときの軸方向の力を記載する。従来品は、長さLが6.1mm以上6.2mm以下で開口部の内径Dが、4.27mm以上4.315mm以下であり、各社のシリンジで一定の分離力を達成せずに分離してしまった。従来品は、深さLが短く十分な摩擦力が得られず結合力が弱かったことが分離に繋がったと考えられる。
【0057】
一方で、深さLの長さを7.380mm以上7.492mm以下と増した比較例1~4は、従来品よりは結合力が強いものの、各社のシリンジと一定の分離力を達成できないものが生じてしまった。比較例1~4は、開口部内径Dが4.552mm以上4.593mm以下であり、従来品に対し、後端側に凹部を延長したものに該当する。したがって、比較例1乃至4の結合力が弱かったのは、開口部径が広がったためであると考えられる。
【0058】
他方、実施例1~3は、深さLを7.384mm以上7.496mm以上と従来品に対して増し、開口部内径Dが4.316mm以上4.376mm以下と比較例に対して小さくした。実施例1~3は、従来品に対し、前端側に凹部を延長したものに該当する。実施例1~3は、十分な結合力が得られ、各社のシリンジで一定の分離力で分離することがなかった。
【0059】
また、実施例1~3は、デッドスペースが14μL以下であり、比較例、従来品と比べても遜色のないくらいデッドスペースを小さくできた。
【0060】
本発明により、ISO80369-7:2016に規定されているおすルアースリップ式コネクタと嵌合するデッドスペースが小さく結合力を大きくできる針ハブが提供され、様々なISO80369-7:2016に規定されているおすルアースリップ式コネクタを備えるシリンジとデッドスペースの小さい注射器を構成できる。また、本発明により、ISO80369-7:2016に規定されているおすルアーロック式コネクタとも結合する、ISO80369-7:2016に規定されているおすルアースリップ式コネクタと嵌合する針ハブが提供され、広く互換性を持たせることができる。
【0061】
また、本発明によりその針ハブとISO80369-7:2016に規定されているおすルアースリップ式コネクタを有するシリンジから構成された注射器が提供され、コストを下げ、デッドスペースを減らし、結合力を大きくすることができる。さらに本発明により、その針ハブとISO80369-7:2016に規定されているおすルアーロック式コネクタを有するシリンジから構成された注射器が提供される。
【0062】
本発明の針ハブと注射器は、高価な薬液及び粘度の高い薬液の注射に用いることができる。
【0063】
(第1の実施例その2)
次に、第1の実施例その2として、ポリカーボネート製(引張弾性率2500MPa、曲げ弾性率2100MPa)の針ハブを試作し、ポリプロピレン製の主要4社のシリンジと嵌合させて、図6に示す距離Aを測定する試験を行った。
【0064】
針ハブとして、ISO80369-7:2016に規定された従来型の針ハブである従来ハブと、極力デッドスペースを減らすように凹部の深さの全長を図面寸法で6.1mmにまで短縮させた第1LDハブと、第1のLDハブに比べて凹部の深さの全長を、内径が狭まる側に図面寸法で略1.3mm伸ばした第2LDハブとを準備した。なお、第2LDハブは、本発明に該当し、凹部の深さLが7.384mm以上7.496mm以下で、開口部の内径Dが4.316mm以上4.376mm以下で、内径が深さに対して6パーセントの傾斜で開口部から狭まるように形成されている。
【0065】
従来ハブ、第1LDハブ及び第2LDハブを、各社のルアースリップ式コネクタと嵌合させて、ルアースリップ式コネクタの先端面と針ハブの凹部の底面との間の距離A(図6参照)を測定した。従来ハブ、第1LDハブ及び第2LDハブについて、それぞれ2つのサンプル(サンプル1及びサンプル2)を準備して、主要4社のルアースリップ式コネクタと嵌合させて、距離Aを測定した。
更に詳細に述べれば、ハブ上面の片側を切断して、シリンジ先端を露出させ、測定顕微鏡で測定し、ルアースリップ式コネクタの先端面と針ハブの凹部の底面との間の最も距離が短い寸法を距離Aとした。測定結果を表2に示す。
【0066】
【表2】
【0067】
表2から明らかなように、従来ハブでは、距離Aが4mmを超え、かなり大きなデッドスペースが生じていることが明らかになった。第1LDハブでは、距離Aが0.1mm未満であり、デッドスペースが非常に小さいことが明らかになった。しかし、幾つかの測定結果において、距離A=0となった。つまり、ルアースリップ式コネクタの先端面と第1LDハブの凹部の底面とが当接して、ルアースリップ式コネクタ及び針ハブで十分な結合力が得られない虞があることが判明した。
【0068】
第2LDハブは、第1LDハブに比べれば距離Aは大きいが、何れも1mm未満であり、デッドスペースが十分小さくなっていることが明らかになった。更に、何れも距離Aが0.5mmより大きく、多少のばらつきが生じても、ルアースリップ式コネクタの先端面と第2LDハブの凹部の底面とが当接する虞がなく、ルアースリップ式コネクタ及び針ハブで十分な結合力が得られることが判明した。
【0069】
以上のように、引張弾性率2500MPaのポリカーボネート製の針ハブの凹部において、凹部の深さLが7.384mm以上7.496mm以下で、開口部の内径Dが4.316mm以上4.376mm以下で、内径が深さに対して6パーセントの傾斜で開口部から狭まるように形成されていることにより、はじめて、距離Aが確実に確保されて、おすルアースリップ式コネクタ及び針ハブの強い結合力が確保されるとともに、デッドスペースを十分に抑制することができることが実証された。
【0070】
(第2の実施例)
次に、針ハブをポリプロピレンで形成した場合でも、上記の第1の実施例と同様に、おすルアースリップ式コネクタ及び針ハブの強い結合力が確保されるとともに、デッドスペースを十分に抑制することができるか否か確認を行った。
【0071】
第2の実施例として、針ハブをポリプロピレンで形成した場合のルアースリップ式コネクタ及び針ハブの嵌合試験の結果を説明する。ポリプロピレン製の針ハブを試作し、第1の実施例と同様なポリプロピレン製の主要4社のシリンジと組み合わせて嵌合試験を行った。
【0072】
試作した3つの針ハブである実施例1~3は、何れも、従来品に対し、前端側に凹部を延長したものに該当し、凹部の深さLが7.384mm以上7.496mm以下で、開口部の内径Dが4.316mm以上4.376mm以下で、内径が深さに対して6パーセントの傾斜で開口部から狭まるように形成されている。
試作した針ハブの材料以外、試験方法は上記の第1の実施例と同様なので、更なる説明は省略する。
【0073】
試作したポリプロピレン製(引張弾性率1400MPa、曲げ弾性率1410MPa)の針ハブである実施例1~3とポリプロピレン製の主要4社のシリンジと嵌合させて、デッドスペース及び分離抵抗を比較した。その結果を表3に示す。また、実施例1~3とポリプロピレン製の主要4社のシリンジと嵌合させて、距離Aを測定した。その結果を表4に示す。
【0074】
【表3】
【0075】
表3から明らかなように、ポリプロピレン製の実施例1~3も、十分な結合力が得られ、各社のシリンジで一定の分離力で分離することがなかった。また、実施例1~3は、デッドスペースが15μL以下であり、十分にデッドスペースを小さくできることが実証された。
【0076】
【表4】
【0077】
表4から明らかなように、実施例1~3は、距離Aが何れも1.6mm未満であり、デッドスペースが十分小さくなっていることが明らかになった。更に、何れも距離Aが0.9mmより大きく、多少のばらつきが生じても、ルアースリップ式コネクタの先端面と針ハブの凹部の底面とが当接する虞がなく、ルアースリップ式コネクタ及び針ハブで十分な結合力が得られることが判明した。
【0078】
以上のように、引張弾性率1400MPaのプロポリプレン製の針ハブの凹部において、凹部の深さLが7.384mm以上7.496mm以下で、開口部の内径Dが4.316mm以上4.376mm以下で、内径が深さに対して6パーセントの傾斜で開口部から狭まるように形成されていることにより、距離Aが確実に確保されて、おすルアースリップ式コネクタ及び針ハブの強い結合力が確保されるとともに、デッドスペースを十分に抑制することができることが実証された。
【0079】
(第3の実施例)
次に、針ハブを環状オレフィンポリマー(COP)で形成した場合でも、上記の第1、第2の実施例と同様に、おすルアースリップ式コネクタ及び針ハブの強い結合力が確保されるとともに、デッドスペースを十分に抑制することができるか否か確認を行った。
【0080】
第3の実施例として、針ハブを環状オレフィンポリマー(COP、引張弾性率2200MPa、曲げ弾性率2100MPa)で形成した場合のルアースリップ式コネクタ及び針ハブの嵌合試験の結果を説明する。環状オレフィンポリマー(COP)製の針ハブを試作し、第1、第2の実施例と同様なポリプロピレン製の主要4社のシリンジと組み合わせて嵌合試験を行った。
【0081】
試作した3つの針ハブである実施例1、2は、何れも、従来品に対し、前端側に凹部を延長したものに該当し、凹部の深さLが7.384mm以上7.496mm以下で、開口部の内径Dが4.316mm以上4.376mm以下で、内径が深さに対して6パーセントの傾斜で開口部から狭まるように形成されている。
試作した針ハブの材料以外、試験方法は上記の第1、第2の実施例と同様なので、更なる説明は省略する。
【0082】
試作した環状オレフィンポリマー(COP)製の針ハブである実施例1、2とポリプロピレン製の主要4社のシリンジと嵌合させて、デッドスペース及び分離抵抗を比較した。その結果を表5に示す。また、実施例1、2とポリプロピレン製の主要4社のシリンジと嵌合させて、距離Aを測定した。その結果を表6に示す。
【0083】
【表5】
【0084】
表5から明らかなように、環状オレフィンポリマー(COP)製の実施例1、2も、十分な結合力が得られ、各社のシリンジで一定の分離力で分離することがなかった。また、実施例1、2は、デッドスペースが10μL以下であり、十分にデッドスペースを小さくできることが実証された。
【0085】
【表6】
【0086】
表6から明らかなように、実施例1、2は、距離Aが何れ1.1mm未満であり、デッドスペースが十分小さくなっていることが明らかになった。更に、何れも距離Aが0.6mmより大きく、多少のばらつきが生じても、ルアースリップ式コネクタの先端面と針ハブの凹部の底面とが当接する虞がなく、ルアースリップ式コネクタ及び針ハブで十分な結合力が得られることが判明した。
【0087】
以上のように、引張弾性率2200MPaの環状オレフィンポリマー(COP)製の針ハブの凹部において、凹部の深さLが7.384mm以上7.496mm以下で、開口部の内径Dが4.316mm以上4.376mm以下で、内径が深さに対して6パーセントの傾斜で開口部から狭まるように形成されていることにより、距離Aが確実に確保されて、おすルアースリップ式コネクタ及び針ハブの強い結合力が確保されるとともに、デッドスペースを十分に抑制することができることが実証された。
【0088】
(第4の実施例)
次に、針ハブをトライタン(Tritan)(登録商標)で形成した場合でも、上記の第1、第2、第3の実施例と同様に、おすルアースリップ式コネクタ及び針ハブの強い結合力が確保されるとともに、デッドスペースを十分に抑制することができるか否か確認を行った。
【0089】
第4の実施例として、針ハブをトライタン(登録商標)(引張弾性率2500MPa、曲げ弾性率2100MPa)で形成した場合のルアースリップ式コネクタ及び針ハブの嵌合試験の結果を説明する。トライタン(登録商標)製の針ハブを試作し、第1、第2、第3の実施例と同様なポリプロピレン製の主要4社のシリンジと組み合わせて嵌合試験を行った。
【0090】
試作した3つの針ハブである実施例1、2は、何れも、従来品に対し、前端側に凹部を延長したものに該当し、凹部の深さLが7.384mm以上7.496mm以下で、開口部の内径Dが4.316mm以上4.376mm以下で、内径が深さに対して6パーセントの傾斜で開口部から狭まるように形成されている。
試作した針ハブの材料以外、試験方法は上記の第1、第2、第3の実施例と同様なので、更なる説明は省略する。
【0091】
試作したトライタン(登録商標)製の針ハブである実施例1、2ポリプロピレン製の主要4社のシリンジと嵌合させて、デッドスペース及び分離抵抗を比較した。その結果を表7に示す。また、実施例1、2とポリプロピレン製の主要4社のシリンジと嵌合させて、距離Aを測定した。その結果を表8に示す。
【0092】
【表7】
【0093】
表7から明らかなように、トライタン(登録商標)製の実施例1、2も、十分な結合力が得られ、各社のシリンジで一定の分離力で分離することがなかった。また、実施例1、2は、デッドスペースが14μL以下であり、十分にデッドスペースを小さくできることが実証された。
【0094】
【表8】
【0095】
表8から明らかなように、実施例1、2は、距離Aが何れも1.5mm未満であり、デッドスペースが十分小さくなっていることが明らかになった。更に、何れも距離Aが0.7mmより大きく、多少のばらつきが生じても、ルアースリップ式コネクタの先端面と針ハブの凹部の底面とが当接する虞がなく、ルアースリップ式コネクタ及び針ハブで十分な結合力が得られることが判明した。
【0096】
以上のように、引張弾性率2500MPaのトライタン(登録商標)製の針ハブの凹部において、凹部の深さLが7.384mm以上7.496mm以下で、開口部の内径Dが4.316mm以上4.376mm以下で、内径が深さに対して6パーセントの傾斜で開口部から狭まるように形成されていることにより、距離Aが確実に確保されて、おすルアースリップ式コネクタ及び針ハブの強い結合力が確保されるとともに、デッドスペースを十分に抑制することができることが実証された。
【0097】
以上のように、本発明では、ルアースリップ式コネクタの先端面と針ハブの凹部の底面との間の距離Aという観点から、引張弾性率が1400MPa以上2500MPa以下の範囲にある熱可塑性樹脂である、ポリカーボネート製、プロポリプレン製、環状オレフィンポリマー(COP)及びトライタン(登録商標)製の針ハブを試作して、鋭意、試験及び考察を繰り返した。これにより、アースリップ式コネクタや針ハブの寸法や嵌合時の摩擦状態に多少のばらつきがあっても、確実に距離Aを確保して、おすルアースリップ式コネクタ及び針ハブの強い結合力を確保するとともに、デッドスペースを抑制することを実現した。
【0098】
(全般)
以上のように本発明に係る針ハブ、注射器は、以下のように示される。
(1)
引張弾性率が1400MPa以上2500MPa以下の熱可塑性樹脂で形成され、
ISO80369-7:2016に規定されているポリプロピレンで形成されたおすルアースリップ式コネクタと嵌合する円すい台形の凹部を有し、前記凹部より前側に設けられた針が装着された針ハブであって、
前記凹部は、深さLが7.384mm以上7.496mm以下で、開口部の内径Dが4.316mm以上4.376mm以下で、内径が深さに対して6パーセントの傾斜で前記開口部から狭まる、針ハブ。
【0099】
(2)
前記熱可塑性樹脂が、ポリカーボネート、ポリプロピレン、環状オレフィンポリマー(COP)またはトライタン(登録商標)である、(1)に記載の針ハブ。
【0100】
(3) 前記凹部は、凹凸のない滑らかな曲面を有し、
前記曲面は、全体で前記おすルアースリップ式コネクタと前記凹部との間の摩擦を発生する、(1)または(2)に記載の針ハブ。
【0101】
(4) 前記凹部の底面の平面視における略中心位置に突起部が形成され、
前記突起部は、前記おすルアースリップ式コネクタの中心と係合して、中心軸の位置決めをする及び前記針ハブと前記おすルアースリップ式コネクタの間のデッドスペースを小さくする、(1)乃至(3)のいずれかに記載の針ハブ。
【0102】
(5) 前記針ハブの外面にねじ山を備え、
前記針ハブの前記凹部及び前記ねじ山は、ISO80369-7:2016に規定されているおすルアーロック式コネクタと係合できる、(1)乃至(4)のいずれかに記載の針ハブ。
【0103】
(6)(1)乃至(5)のいずれかに記載の針ハブと、
ISO80369-7:2016に規定されているおすルアースリップ式コネクタを有するシリンジと、
先端にガスケットを備えるプランジャと、備える注射器であって、
前記ガスケットの外面の形状と、前記シリンジの先端の内面の形状は、一致し、
前記注射器の薬液残留量は、2μL以上50μL以下である、注射器。
【0104】
上述の実施形態の説明は、すべての点で例示であって、制限的なものではない。当業者にとって変形および変更が適宜可能である。本発明の範囲は、上述の実施形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。さらに、本発明の範囲には、特許請求の範囲内と均等の範囲内での実施形態からの変更が含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明により提供された針ハブにより、様々なISO80369-7:2016に規定されているおすルアースリップ式コネクタと注射器を構成できる。
【符号の説明】
【0106】
101 ルアースリップ式コネクタを用いた注射器
103 針ハブ
105 シリンジ
107 プランジャ
109 前端
111後端
113 針
115 針収容部
117 凹部
119 開口部
121 底面
123 突起部
125 空間
127 雄ねじ
129 外面
131 内面
133 ガスケット
135 先端
136 ルアーロック式コネクタを用いた注射器
137 シリンジ
139 外面
141 内面
143 雌ねじ
145 ガスケット
147 先端
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【手続補正書】
【提出日】2022-11-17
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
引張弾性率が1400MPa以上2500MPa以下の熱可塑性樹脂で形成され、
ISO80369-7:2016に規定されているポリプロピレンで形成されたおすルアースリップ式コネクタと嵌合する円すい台形の凹部を有し、前記凹部より前側に設けられた針が装着された針ハブであって、
前記凹部は、深さLが7.384mm以上7.496mm以下で、開口部の内径Dが4.316mm以上4.376mm以下で、内径が深さに対して6パーセントの傾斜で前記開口部から狭まる、針ハブ。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂がポリプロピレンである、請求項1に記載の針ハブ。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂が環状オレフィンポリマー(COP)である、請求項1に記載の針ハブ。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂がトライタン(登録商標)である、請求項1に記載の針ハブ。
【請求項5】
前記凹部は、凹凸のない滑らかな曲面を有し、
前記曲面は、全体で前記おすルアースリップ式コネクタと前記凹部との間の摩擦を発生する、請求項1に記載の針ハブ。
【請求項6】
前記凹部の底面の平面視における略中心位置に突起部が形成され、
前記突起部は、前記おすルアースリップ式コネクタの中心と係合して、中心軸の位置決めをする及び前記針ハブと前記おすルアースリップ式コネクタの間のデッドスペースを小さくする、請求項1に記載の針ハブ。
【請求項7】
前記針ハブの外面にねじ山を備え、
前記針ハブの前記凹部及び前記ねじ山は、ISO80369-7:2016に規定されているおすルアーロック式コネクタと係合できる、請求項1に記載の針ハブ。
【請求項8】
請求項1乃至のいずれか1項に記載の針ハブと、
ISO80369-7:2016に規定されているおすルアースリップ式コネクタを有するシリンジと、
先端にガスケットを備えるプランジャと、備える注射器であって、
前記ガスケットの外面の形状と、前記シリンジの先端の内面の形状は、一致し、
前記注射器の薬液残留量は、2μL以上50μL以下である、注射器。
【手続補正書】
【提出日】2023-01-06
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
引張弾性率が1400MPa以上2500MPa以下の熱可塑性樹脂(ポリカーボネートを除く)で形成され、
ISO80369-7:2016に規定されているポリプロピレンで形成されたおすルアースリップ式コネクタと嵌合する円すい台形の凹部を有し、前記凹部より前側に設けられた針が装着された針ハブであって、
前記凹部は、深さLが7.384mm以上7.496mm以下で、開口部の内径Dが4.316mm以上4.376mm以下で、内径が深さに対して6パーセントの傾斜で前記開口部から狭まる、針ハブ。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂がポリプロピレンである、請求項1に記載の針ハブ。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂が環状オレフィンポリマー(COP)である、請求項1に記載の針ハブ。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂がトライタン(登録商標)である、請求項1に記載の針ハブ。
【請求項5】
前記凹部は、凹凸のない滑らかな曲面を有し、
前記曲面は、全体で前記おすルアースリップ式コネクタと前記凹部との間の摩擦を発生する、請求項1に記載の針ハブ。
【請求項6】
前記凹部の底面の平面視における略中心位置に突起部が形成され、
前記突起部は、前記おすルアースリップ式コネクタの中心と係合して、中心軸の位置決めをする及び前記針ハブと前記おすルアースリップ式コネクタの間のデッドスペースを小さくする、請求項1に記載の針ハブ。
【請求項7】
前記針ハブの外面にねじ山を備え、
前記針ハブの前記凹部及び前記ねじ山は、ISO80369-7:2016に規定されているおすルアーロック式コネクタと係合できる、請求項1に記載の針ハブ。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の針ハブと、
ISO80369-7:2016に規定されているおすルアースリップ式コネクタを有するシリンジと、
先端にガスケットを備えるプランジャと、備える注射器であって、
前記ガスケットの外面の形状と、前記シリンジの先端の内面の形状は、一致し、
前記注射器の薬液残留量は、2μL以上50μL以下である、注射器。