(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024135893
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】超音波診断装置および超音波診断プログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 8/14 20060101AFI20240927BHJP
【FI】
A61B8/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023046794
(22)【出願日】2023-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】594164542
【氏名又は名称】キヤノンメディカルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】掛江 明弘
【テーマコード(参考)】
4C601
【Fターム(参考)】
4C601BB06
4C601EE04
4C601EE05
4C601HH05
4C601HH13
4C601JB34
4C601JB35
4C601JB48
(57)【要約】
【課題】広視野かつ高画質の超音波画像を提供すること。
【解決手段】実施形態に係る超音波診断装置は、深さ算出部と、電圧算出部と、制御部とを含む。深さ算出部は、超音波画像に基づいて、走査線ごとの視野深度を算出する。電圧算出部は、前記視野深度が各走査線で略均一となるように補正した補正送信電圧を算出する。制御部は、前記補正送信電圧に基づいて超音波ビームを送信するように制御する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波画像に基づいて、走査線ごとの視野深度を算出する深さ算出部と、
前記視野深度が各走査線で略均一となるように補正した補正送信電圧を算出する電圧算出部と、
前記補正送信電圧に基づいて超音波ビームを送信するように制御する制御部と、
を具備する、超音波診断装置。
【請求項2】
前記走査線ごとに、前記補正送信電圧に応じた新たなパルス繰り返し周波数を設定する設定部をさらに具備する、請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項3】
前記設定部は、前記超音波画像を取得した際の送信電圧に対する前記補正送信電圧の比率の平方根と前記超音波画像を取得した際のパルス繰り返し周波数とを乗算した値と、予め設定された最大のパルス繰り返し周波数とのうちのどちらか小さい方を、前記新たなパルス繰り返し周波数として設定する、請求項2に記載の超音波診断装置。
【請求項4】
前記電圧算出部は、前記視野深度と基準値との差分を算出し、当該差分が閾値以下でありかつ被検体に送信される音響パワーの上限値を超えないように、前記補正送信電圧を算出する、請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項5】
前記深さ算出部は、超音波画像に対して設定される単位領域における画像の信号対雑音比が第1閾値以下であり、かつ生体組織が描出される単位領域の中で最大深度を、前記単位領域に含まれる走査線の前記視野深度として算出する、請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項6】
超音波画像に対して設定される単位領域内の画素値の平均値および分散値を計算し、前記平均値から前記信号対雑音比を算出する計算部をさらに具備し、
前記深さ算出部は、前記信号対雑音比が第2閾値以上でありかつ前記分散値が所定の値域に属する場合、前記単位領域に前記生体組織が描出されると判定する、請求項5に記載の超音波診断装置。
【請求項7】
前記深さ算出部は、超音波画像に対して設定される単位領域における画像の信号対雑音比と当該単位領域に対応する深度とで表される2次元プロットのグラフに対して外挿された近似直線または近似曲線と前記信号対雑音比の第1閾値との交点を前記視野深度として算出する、請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項8】
コンピュータに、
超音波画像に基づいて、走査線ごとの視野深度を算出する深さ算出機能と、
前記視野深度が各走査線で略均一となるように補正した補正送信電圧を算出する電圧算出機能と、
前記補正送信電圧に基づいて超音波ビームを送信するように制御する制御機能と、
を実現させるための超音波診断プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書及び図面に開示の実施形態は、超音波診断装置および超音波診断プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
超音波画像の視野幅を向上させるために、視野端部側の走査線角度を広げ、広視野角で超音波画像を取得するスキャン方法がある。当該スキャン方法によれば視野幅が広くなるが、視野端部側に位置する超音波ビームの生体に対する入射角が大きくなるため、エレメントファクタの制約から感度が低下するというトレードオフがある。
そのため、走査線ごとに送信駆動電圧の振幅を制御可能な超音波診断装置においては、走査線ごとに超音波ビームの振り角度(入射角)に応じて送信振幅を設定することで、感度を向上させるという手法がある。しかし、エコー信号の大きさは、超音波ビームの振り角度だけではなく、超音波プローブと体表との当接具合、生体内の減衰などに応じてばらつきが生じるため、送信振幅の設定を一意に決めることが難しいという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本明細書及び図面に開示の実施形態が解決しようとする課題の1つは、広視野かつ高画質の超音波画像を提供することである。ただし、本明細書及び図面に開示の実施形態により解決しようとする課題は上記課題に限られない。後述する実施形態に示す各構成による各効果に対応する課題を他の課題として位置づけることもできる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本実施形態に係る超音波診断装置は、深さ算出部と、電圧算出部と、制御部とを含む。深さ算出部は、超音波画像に基づいて、走査線ごとの視野深度を算出する。電圧算出部は、前記視野深度が各走査線で略均一となるように補正した補正送信電圧を算出する。制御部は、前記補正送信電圧に基づいて超音波ビームを送信するように制御する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】
図1は、本実施形態に係る超音波診断装置の構成例を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、本実施形態に係る超音波診断装置の動作を説明するためのフローチャートである。
【
図3】
図3は、本実施形態に係る単位領域の設定例を示す図である。
【
図4】
図4は、走査線の視野深度と信号対雑音比(SNR)との対応関係の第1例を示すグラフである。
【
図5】
図5は、走査線の視野深度とSNRとの対応関係の第2例を示すグラフである。
【
図6】
図6は、本実施形態に係る超音波診断装置で得られる超音波画像の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、図面を参照しながら、本実施形態に係る超音波診断装置および超音波診断プログラムについて説明する。以下の実施形態では、同一の参照符号を付した部分は同様の動作をおこなうものとして、重複する説明を適宜省略する。
なお、以下に説明する本実施形態に係る処理は、視野端部側の走査線角度を広げ、広視野角で超音波画像を取得するスキャン方法を実行する場合に適用することを想定するが、これに限らない。例えば、ニリアスキャンによる端部の走査線といった、撮像視野において感度が劣化する領域が存在するスキャン方法にも、本実施形態に係る処理を同様に適用できる。
【0008】
図1は、本実施形態に係る超音波診断装置の構成例を示す図である。
図1の超音波診断装置1は、装置本体100と、超音波プローブ101とを有している。装置本体100は、入力装置102および出力装置103と接続されている。また、装置本体100は、ネットワークNWを介して外部装置104と接続されている。外部装置104は、例えば、PACS(Picture Archiving and Communication Systems)を搭載したサーバおよびポスト処理を実行可能なワークステーションなどである。
【0009】
超音波プローブ101は、例えば、装置本体100からの制御に従い、被検体である生体P内のスキャン領域について超音波スキャンを実行する。超音波プローブ101は、例えば、音響レンズ、一つ以上の整合層、複数の振動子(圧電素子)、およびバッキング材等を有する。音響レンズは、例えばシリコンゴムで形成され、超音波ビームを収束させる。一つ以上の整合層は、複数の振動子と生体との間のインピーダンスマッチングを行う。バッキング材は、複数の振動子から放射方向に対して後方への超音波の伝搬を防止する。超音波プローブ101は、例えば、複数の振動子が所定の方向に沿って配列された一次元アレイリニアプローブである。超音波プローブ101は、装置本体100と着脱自在に接続される。超音波プローブ101には、オフセット処理、および超音波画像をフリーズさせる操作(フリーズ操作)等の際に押下されるボタンが配置されてもよい。
【0010】
複数の振動子は、装置本体100が有する後述の超音波送信回路110から供給される駆動信号に基づいて超音波を発生する。これにより、超音波プローブ101から生体Pへ超音波が送信される。超音波プローブ101から生体Pへ超音波が送信されると、送信された超音波は、生体Pの体組織における音響インピーダンスの不連続面で次々と反射され、エコー信号として複数の圧電振動子にて受信される。受信されるエコー信号の振幅は、超音波が反射される不連続面における音響インピーダンスの差に依存する。また、送信された超音波パルスが、移動している血流または心臓壁等の表面で反射された場合のエコー信号は、ドプラ効果により、移動体の超音波送信方向の速度成分に依存して、周波数偏移を受ける。超音波プローブ101は、生体Pからのエコー信号を受信して電気信号に変換する。
【0011】
図1には、一つの超音波プローブ101と装置本体100との接続関係を例示している。しかしながら、装置本体100には、複数の超音波プローブを接続することが可能である。接続された複数の超音波プローブのうちいずれを超音波スキャンに使用するかは、例えば、後述するタッチパネル上のソフトウェアボタンによって任意に選択することができる。
【0012】
装置本体100は、超音波プローブ101により受信されたエコー信号に基づいて超音波画像を生成する装置である。装置本体100は、超音波送信回路110と、超音波受信回路120と、内部記憶回路130と、画像メモリ140と、入力インタフェース150と、出力インタフェース160と、通信インタフェース170と、処理回路180とを有する。
【0013】
超音波送信回路110は、超音波プローブ101に駆動信号を供給するプロセッサである。超音波送信回路110は、例えば、トリガ発生回路、遅延回路、およびパルサ回路等により実現される。トリガ発生回路は、所定のレート周波数で、送信超音波を形成するためのレートパルスを繰り返して発生する。遅延回路は、超音波プローブから発生される超音波をビーム状に集束して送信指向性を決定するために必要な複数の圧電振動子毎の遅延時間を、トリガ発生回路が発生する各レートパルスに対し与える。パルサ回路は、レートパルスに基づくタイミングで、超音波プローブ101に設けられる複数の超音波振動子へ駆動信号(駆動パルス)を印加する。遅延回路により各レートパルスに対し与える遅延時間を変化させることで、複数の圧電振動子の表面からの送信方向が任意に調整可能となる。
【0014】
また、超音波送信回路110は、駆動信号によって、超音波の出力強度を任意に変更することができる。超音波診断装置では、出力強度を大きくすることにより、生体P内での超音波の減衰の影響を小さくすることができる。超音波診断装置は、超音波の減衰の影響を小さくすることによって、受信時において、信号対雑音比(SNR)の大きいエコー信号を取得することができる。
【0015】
一般的に、超音波が生体P内を伝播すると、出力強度に相当する超音波の振動の強さ(これは、音響パワーとも称する)が減衰する。音響パワーの減衰は、吸収、散乱および反射などによって起こる。また、音響パワーの減少の度合いは、超音波の周波数および超音波の放射方向の距離に依存する。例えば、超音波の周波数を大きくすることにより、減衰の度合いは大きくなる。また、超音波の放射方向の距離が長くなるほど、減衰の度合いは大きくなる。
【0016】
超音波受信回路120は、超音波プローブ101が受信したエコー信号に対して各種処理を施し、受信信号を生成するプロセッサである。超音波受信回路120は、超音波プローブ101によって取得された超音波のエコー信号に対する受信信号を生成する。具体的には、超音波受信回路120は、例えば、プリアンプ、A/D変換器、復調器、およびビームフォーマ(加算器)等により実現される。プリアンプは、超音波プローブ101が受信したエコー信号をチャネル毎に増幅してゲイン補正処理を行う。A/D変換器は、ゲイン補正されたエコー信号をディジタル信号に変換する。復調器は、ディジタル信号を復調する。ビームフォーマは、例えば、復調されたディジタル信号に受信指向性を決定するのに必要な遅延時間を与えて、遅延時間が与えられた複数のディジタル信号を加算する。ビームフォーマの加算処理により、受信指向性に応じた方向からの反射成分が強調された受信信号が発生する。尚、受信信号は、IQ信号と呼ばれてもよい。また、超音波受信回路120は、受信信号(IQ信号)を、後述する内部記憶回路130に記憶させてもよいし、通信インタフェース170を介して外部装置104へ出力してもよい。
【0017】
内部記憶回路130は、例えば、磁気的記憶媒体、光学的記憶媒体、または半導体メモリ等、プロセッサにより読み取り可能な記憶媒体等を有する。内部記憶回路130は、超音波送受信を実現するためのプログラムおよび各種データ等を記憶している。プログラムおよび各種データは、例えば、内部記憶回路130に予め記憶されていてもよい。また、プログラムおよび各種データは、例えば、非一過性の記憶媒体に記憶されて配布され、非一過性の記憶媒体から読み出されて内部記憶回路130にインストールされてもよい。また、内部記憶回路130は、入力インタフェース150を介して入力される操作に従い、処理回路180で生成されるBモード画像データ、造影画像データ、および血流映像に関する画像データ等を記憶する。内部記憶回路130は、記憶している画像データを、通信インタフェース170を介して外部装置104等に転送することも可能である。尚、内部記憶回路130は、超音波受信回路120で生成した受信信号(IQ信号)を記憶してもよいし、通信インタフェース170を介して外部装置104等に転送してもよい。
【0018】
なお、内部記憶回路130は、CDドライブ、DVDドライブ、およびフラッシュメモリ等の可搬性記憶媒体との間で種々の情報を読み書きする駆動装置等であってもよい。内部記憶回路130は、記憶しているデータを可搬性記憶媒体へ書き込み、可搬性記憶媒体を介してデータを外部装置104に記憶させることも可能である。
【0019】
画像メモリ140は、例えば、磁気的記憶媒体、光学的記憶媒体、または半導体メモリ等、プロセッサにより読み取り可能な記憶媒体等を有する。画像メモリ140は、入力インタフェース150を介して入力されるフリーズ操作直前の複数フレームに対応する画像データを保存する。画像メモリ140に記憶されている画像データは、例えば、連続表示(シネ表示)される。
【0020】
上記の内部記憶回路130および画像メモリ140は、必ずしもそれぞれが独立した記憶装置により実現されなくてもよい。内部記憶回路130および画像メモリ140は、単一の記憶装置により実現されてもよい。また、内部記憶回路130および画像メモリ140は、それぞれ複数の記憶装置により実現されてもよい。
【0021】
入力インタフェース150は、入力装置102を介し、操作者からの各種指示を受け付ける。入力装置102は、例えば、マウス、キーボード、パネルスイッチ、スライダースイッチ、トラックボール、ロータリーエンコーダ、操作パネル、およびタッチコマンドスクリーン(TCS:Touch Command Screen)である。入力インタフェース150は、例えばバスを介して処理回路180に接続され、操作者から入力される操作指示を電気信号へ変換し、電気信号を処理回路180へ出力する。なお、入力インタフェース150は、マウスおよびキーボード等の物理的な操作部品と接続するものだけに限られない。例えば、超音波診断装置1とは別体に設けられた外部の入力機器から入力される操作指示に対応する電気信号を受け取り、この電気信号を処理回路180へ出力する回路も入力インタフェースの例に含まれる。
【0022】
出力インタフェース160は、例えば処理回路180からの電気信号を出力装置103へ出力するためのインタフェースである。出力装置103は、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、LEDディスプレイ、プラズマディスプレイ、CRTディスプレイ等の任意のディスプレイである。出力装置103は、入力装置102を兼ねたタッチパネル式のディスプレイでもよい。出力装置103は、ディスプレイの他に、音声を出力するスピーカーを更に含んでもよい。出力インタフェース160は、例えばバスを介して処理回路180に接続され、処理回路180からの電気信号を出力装置103に出力する。
【0023】
通信インタフェース170は、例えばネットワークNWを介して外部装置104と接続され、外部装置104との間でデータ通信を行う。
【0024】
処理回路180は、例えば、超音波診断装置1の中枢として機能するプロセッサである。処理回路180は、内部記憶回路130に記憶されているプログラムを実行することで、当該プログラムに対応する機能を実現する。処理回路180は、例えば、Bモード処理機能181と、ドプラ処理機能182と、画像生成機能183と、計算機能184と、深さ算出機能185と、電圧算出機能186と、設定機能187と、表示制御機能188と、システム制御機能189とを有する。
【0025】
Bモード処理機能181は、超音波受信回路120から受け取った受信信号に基づき、Bモードデータを生成する機能である。Bモード処理機能181において処理回路180は、例えば、超音波受信回路120から受け取った受信信号に対して包絡線検波処理、および対数圧縮処理等を施し、信号強度が輝度の明るさで表現されるデータ(Bモードデータ)を生成する。生成されたBモードデータは、2次元的な超音波走査線(ラスタ)上のBモードRAWデータとして不図示のRAWデータメモリに記憶される。
【0026】
ドプラ処理機能182は、超音波受信回路120から受け取った受信信号を周波数解析することで、スキャン領域に設定される関心領域(ROI:Region of Interest)内にある移動体のドプラ効果に基づく運動情報を抽出したデータ(ドプラ情報)を生成する機能である。生成されたドプラ情報は、2次元的な超音波走査線上のドプラRAWデータ(ドプラデータとも称する)として不図示のRAWデータメモリに記憶される。
【0027】
具体的には、処理回路180は、ドプラ処理機能182により、例えば移動体の運動情報として、平均速度、平均分散値、平均パワー値などを複数のサンプル点それぞれで推定し、推定した運動情報を示すドプラデータを生成する。移動体は、例えば、血流や、心壁などの組織、造影剤である。本実施形態に係る処理回路180は、ドプラ処理機能182により、血流の運動情報(血流情報)として、血流の平均速度、血流速度の分散値、血流信号のパワー値などを、複数のサンプル点それぞれで推定し、推定した血流情報を示すドプラデータを生成する。
【0028】
さらに、処理回路180は、ドプラ処理機能182により、カラーフローマッピング(CFM:Color Flow Mapping)法とも呼ばれるカラードプラ法を実行することができる。CFM法では、超音波の送受信が複数の走査線上で複数回行われる。そして、CFM法では、例えば、同一位置のデータ列に対してMTI(Moving Target Indicator)フィルタを掛けることで、静止している組織、又は動きの遅い組織に由来する信号(クラッタ信号)を抑制して、血流に由来する信号を抽出する。そして、CFM法では、抽出した血流信号を用いて、血流の速度、血流の分散、血流のパワーなどの血流情報を推定する。後述する画像生成機能183では、推定した血流情報の分布を、例えば、2次元でカラー表示した超音波画像データ(カラードプラ画像データ)として生成する。以降では、カラードプラ法を用いた超音波診断装置のモードを血流映像モードと称する。なお、カラー表示とは、血流情報の分布を所定のカラーコードに対応させて表示させるものであり、グレースケールもカラー表示に含まれるものとする。
【0029】
血流映像モードには、所望する臨床情報によって様々な種類がある。一般的には、血流の方向や血流の平均速度が可視化可能な速度表示用血流映像モードや、血流信号のパワーを可視化可能なパワー表示用血流映像モードがある。
【0030】
速度表示用血流映像モードは、血流の方向や血流の平均速度によってドプラシフト周波数に対応した色を表示するモードである。例えば、速度表示用血流映像モードは、流れの方向として、向かってくる流れを赤系色、遠ざかる流れを青系色で表し、それぞれの速度の違いを色相の違いで表す。速度表示用血流映像モードは、カラードプラモードや、カラードプライメージング(Color Doppler Imaging:CDI)モードと呼ばれることもある。
【0031】
パワー表示用血流映像モードは、例えば、血流信号のパワーを赤系色の色相、色の明るさ(明度)または彩度の変化で表すモードである。パワー表示用血流映像モードは、パワードプラ(Power Doppler:PD)モードと呼ばれることもある。パワー表示用血流映像モードは、速度表示用血流映像モードと比べて高感度に血流を描出できることから、高感度血流映像モードと呼ばれてもよい。
【0032】
画像生成機能183は、Bモード処理機能181により生成されたデータに基づいて、Bモード画像データを生成する機能である。例えば、画像生成機能183において処理回路180は、超音波走査の走査線信号列を、テレビ等に代表されるビデオフォーマットの走査線信号列に変換(スキャンコンバート)し、表示用の画像データ(表示用画像データ)を生成する。具体的には、処理回路180は、RAWデータメモリに記憶されたBモードRAWデータに対してRAW-ピクセル変換、例えば、超音波プローブ101による超音波の走査形態に応じた座標変換を実行することで、ピクセルから構成される2次元Bモード画像データ(超音波画像データとも称する)を生成する。換言すると、処理回路180は、画像生成機能183により、超音波の送受信によって、連続する複数のフレームにそれぞれ対応する複数の超音波画像(医用画像)を生成する。
【0033】
また、画像生成機能183は、ドプラ処理機能182により生成されたデータに基づいて、ドプラ画像データを生成する機能も有する。例えば、画像生成機能183は、RAWデータメモリに記憶されたドプラRAWデータに対してRAW-ピクセル変換を実行することで、血流情報が映像化されたドプラ画像データを生成する。ドプラ画像データは、平均速度画像データ、分散画像データ、パワー画像データ、又はこれらを組み合わせた画像データである。処理回路180は、ドプラ画像データとして、血流情報がカラーで表示されるカラードプラ画像データ、および一つの血流情報がグレースケールで波形状に表示されるドプラ画像データを生成する。カラードプラ画像データは、前述の血流映像モードの実行時に生成される。
【0034】
計算機能184は、超音波画像に対して設定される単位領域内の画素値の平均値および分散値を計算し、平均値からSNRを算出する。
深さ算出機能185は、超音波画像に基づいて、走査線ごとの視野深度を算出する。
電圧算出機能186は、視野深度が各走査線で略均一となるように補正した補正送信電圧を算出する。
設定機能187は、走査線ごとに、補正送信電圧に応じた新たなパルス繰り返し周波数(PRF:Pulse Repetition Frequency)を設定する。
【0035】
表示制御機能188は、画像生成機能183により生成された各種超音波画像データに基づく画像を出力装置103としてのディスプレイに表示させる機能である。具体的には、例えば、表示制御機能188により処理回路180は、画像生成機能183により生成されたBモード画像データ、ドプラ画像データ、又はこれらの両方を含む画像データに基づく画像のディスプレイにおける表示を制御する。
【0036】
より具体的には、表示制御機能188により処理回路180は、例えば、超音波走査の走査線信号列を、テレビ等に代表されるビデオフォーマットの走査線信号列に変換(スキャンコンバート)し、表示用画像データを生成する。また、処理回路180は、表示用画像データに対し、ダイナミックレンジ、輝度(ブライトネス)、コントラスト、及びγカーブ補正、並びにRGB変換等の各種処理を実行してもよい。また、処理回路180は、表示用画像データに、種々のパラメータの文字情報、目盛り、ボディマーク等の付帯情報を付加してもよい。また、処理回路180は、操作者が入力装置により各種指示を入力するためのユーザインタフェース(GUI:Graphical User Interface)を生成し、GUIをディスプレイに表示させてもよい。
システム制御機能189は、超音波診断装置1全体の動作を統括して制御する機能である。例えば、システム制御機能189は、補正送信電圧と新たなPRFとに基づいて超音波ビームを送信するように超音波送信回路110などを制御する。
【0037】
次に、本実施形態に係る超音波診断装置の動作例、つまり送信電圧の補正処理について
図2のフローチャートを参照して説明する。なお、既に超音波画像の取得処理を実行中において本実施形態に係る補正処理を実行する場合には、元となる超音波画像を取得するステップSA1~ステップSA3の処理が省略されてもよい。
【0038】
ステップSA1では、超音波送信回路110が、被検体である生体Pに対して超音波ビームを送信する。
ステップSA2では、超音波受信回路120が、生体Pからのエコー信号を受信する。
ステップSA3では、Bモード処理機能181により処理回路180が、エコー信号に対して例えば上述した信号処理を実行し、超音波画像を生成する。
【0039】
ステップSA4では、計算機能184により処理回路180が、超音波画像に対して深さ方向にm個のサンプルおよび走査方向にn本の走査線(nラスタ)で規定される単位領域を設定する。m、nは、ともに1以上の整数である。計算機能184により処理回路180は、単位領域ごとに、当該単位領域に含まれるサンプルに対応する画素について、LPF(Low Pass Filter)などの平均化処理により平均値を計算し、さらに、当該単位領域に含まれる画素について分散値を計算する。
計算機能184により処理回路180は、平均値および分散値に基づき、生体組織が描出されている単位領域を特定する。具体的に、計算機能184により処理回路180は、ステップSA3で算出した平均値とノイズ成分(例えばホワイトノイズ)の平均値との差分をSNR(感度ともいう)として算出する。また、各生体組織(軟組織、構造物など)に応じて分散値の値域を定めておくことで、SNRが閾値以上でありかつ分散値が所定の値域に属する単位領域には、生体組織が描出されると判定できる。
【0040】
ステップSA5では、深さ算出機能185により処理回路180が、生体組織が描出されると判定された単位領域に基づいて、走査線ごとの視野深度(ペネトレーション)を算出する。例えば、深さ算出機能185により処理回路180が、単位領域における画像のSNRが閾値以下であり、かつ生体組織が描出される単位領域の中で最大深度を、当該単位領域に含まれる走査線の視野深度として算出すればよい。なお、深さ算出機能185により処理回路180が、超音波ビームのフォーカス以遠でのSNRの分布を直線または曲線により近似し、所定のSNR以下となる深さを算出してもよい。走査線の視野深度の算出の具体例については、
図3から
図5を参照して後述する。
【0041】
ステップSA6では、深さ算出機能185により処理回路180が、予め設定された目標の視野深度または各走査線の視野深度の平均値または最大値を基準値として、各走査線の最大深さと当該基準値との差分を算出する。
ステップSA7では、電圧算出機能186により処理回路180が、ステップSA6で算出された差分と、受信中心周波数、減衰係数および補正係数といった超音波ビームに関する各種パラメータとに基づいて、当該差分が閾値以下でありかつ音響パワーの規制値(上限値)を超えないように算出した送信電圧である補正送信電圧を算出する。音響パワーの規制値とは、例えば、生体組織の超音波吸収によって生じる熱エネルギーの上限である。なお、電圧算出機能186により処理回路180が、受信中心周波数および補正係数を一定値ではなく、走査線ごとに受信中心周波数および補正係数を適応的に変化させて、補正送信電圧を算出してもよい。また、送信電圧に係る送信振幅の平均値が、ステップSA1における超音波ビームの送信時と変わらないように、補正送信電圧を算出してもよい。
【0042】
ステップSA8では、設定機能187により処理回路180が、補正送信電圧に応じた新たなPRFを設定する。具体的には、例えば、ステップSA1で超音波画像を取得した際の変更前の送信電圧に対する補正送信電圧との比率に応じて、元の各走査線の繰り返し周波数を更新し、新たなPRFを設定する。これは、各走査線において発熱温度が上昇しすぎないようにするためである。設定機能187により処理回路180は、例えば以下の(1)式により、各走査線の補正送信電圧に対する新たなPRFを設定すればよい。
新たなPRF=min(元のPRF×√(補正送信電圧/元の送信電圧),最高PRF)・・・(1)
【0043】
ここで、「最高PRF」は、超音波画像の視野深度を確保するために必要な、予め設定される最大の更新レートである。そのため、上述の(1)式に示すように、変更前の送信電圧に対する補正送信電圧の比率の平方根と変更前のPRFとを乗算した値と、予め設定された最高PRFとのうちのどちらか小さい方が、新たなPRFとして設定されればよい。
なお、目標の視野深度が、当初の視野深度(ステップSA1の超音波画像取得時に設定される視野深度)よりも浅い設定とすることが可能である場合、補正送信電圧も当初より低くすることができる。この場合、生体の発熱量も低くなるため、PRFを当初の設定よりも高く設定できる。
【0044】
ステップSA9では、システム制御機能189により処理回路180が、補正送信電圧とステップSA8で設定された新たなPRFとに基づいて、超音波送信回路110および超音波プローブ101を制御し、走査線ごとに超音波ビームを生体Pに向けて送信する。
【0045】
次に、本実施形態に係る単位領域の設定例について
図3を参照して説明する。
図3は、超音波画像30に矩形状のm(サンプル)×n(ラスタ)の単位領域31が設定される例を示す。超音波画像30においては、パターンが描かれている部分は、生体組織が描出されていること示し、ブランク(白抜き)部分は、生体組織が描出されていないことを示す。単位領域31の形状は矩形に限らず、円、扇形状などどのような形状であってもよい。超音波画像30全体に対して、順次単位領域を設定し、生体組織が描出されるか否かを判定する。深さ算出機能185により処理回路180は、SNRが閾値未満となる単位領域31の最大深さを、当該単位領域31に含まれる走査線の視野深度の値として決定すればよい。
【0046】
次に、走査線の視野深度とSNRとの対応関係の第1例について
図4のグラフを参照して説明する。
図4は、
図3に示す超音波画像30の中央部分に相当する走査線32に関する、視野深度とSNRとの対応を示す2次元プロットを結んだグラフである。横軸は、単位領域(走査線)の深さを示し、縦軸は、SNRを示す。走査線32は、深さ方向に沿って生体組織がほぼ描出されているため、SNRと視野深度とが比例関係にある。すなわち、体内方向への深さが大きくなるにつれ、SNRの値が徐々に小さくなる。
【0047】
ここで、深さ算出機能185により処理回路180は、例えば線形回帰により近似直線41を計算し、近似直線41とSNRの閾値THとの交点における深さを視野深度P[cm]として設定する。なお、近似直線41のかわりに、2次以上の近似曲線であってもよいし、SNRのグラフそのものと閾値との交点を算出してもよい。
【0048】
次に、走査線の視野深度とSNRとの対応関係の第2例について
図5のグラフを参照して説明する。
図5は、
図3に示す超音波画像30の端部側に相当する走査線33に関する、視野深度とSNRとの対応を示す2次元プロットを結んだグラフである。走査線33は、超音波画像30の上側(生体Pの体表側)では生体組織が存在するが、超音波画像30の下側(生体Pの内部側)では生体組織が描出されていない。ここでは、8[cm]以深においては、SNRの値がゼロとなる。
【0049】
ここで、深さ算出機能185により処理回路180は、グラフに対して線形回帰を実行し、近似直線51を外挿する。深さ算出機能185により処理回路180は、近似直線とSNRの閾値THとの交点における深さを視野深度P[cm]と設定できる。このように、生体組織が存在しない部分に送信される超音波ビームの走査線についても、所定の視野深度までの画像の描出を想定した補正送信電圧を算出できる。
【0050】
次に、本実施形態に係る超音波診断装置1で得られる超音波画像の一例について
図6を参照して説明する。
図6上段は、従来手法により取得した超音波画像であり、
図6下段は、本実施形態に係る超音波診断装置1により取得した超音波画像である。
図6に示す超音波画像は、通常のBモード画像に、SNRの値を複数段階に分けて重畳表示する。
図6上段に示す従来手法による超音波画像では、走査線の位置によらず全ての走査線に対して一定の送信電圧であるため、超音波画像の端部側において送信電圧が不足し、SNRが低い画像となる。
【0051】
一方、
図6下段に示す本実施形態に係る超音波診断装置1により電圧の補正処理を実行して取得した超音波画像によれば、超音波画像の端部側に位置する領域61の走査線に関して、補正送信電圧により超音波ビームを送信しているため、当該領域61においてSNR(感度)を高く維持でき、画像の輝度も向上させることができる。
【0052】
以上に示した本実施形態によれば、単位領域ごとに生体組織の描出の有無を判定し、走査線ごとの視野深度を算出する。視野深度が各走査線で略均一となるように補正した補正送信電圧を算出し、補正送信電圧に基づいて超音波ビームを送信する。また、補正送信電圧に応じて新たなPRFを設定し、各走査線において、当該新たなPRFに基づいて補正送信電圧に基づく送信振幅で超音波ビームを送信し、超音波画像を生成する。これにより、例えば広視野角を設定したスキャン方法においても、輝度が低くなりがちな端部の走査線について感度を維持できる(SNRを高くできる)ため、広視野かつ高画質の超音波画像を提供することができる。結果として、画像診断の精度の向上に寄与することができる。
【0053】
なお、上記説明において用いた「プロセッサ」という文言は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、或いは、特定用途向け集積回路(Application Specific Integrated Circuit:ASIC)、プログラマブル論理デバイス(例えば、単純プログラマブル論理デバイス(Simple Programmable Logic Device:SPLD)、複合プログラマブル論理デバイス(Complex Programmable Logic Device:CPLD)、及びフィールドプログラマブルゲートアレイ(Field Programmable Gate Array:FPGA))などの回路を意味する。プロセッサが例えばCPUである場合、プロセッサは記憶回路に保存されたプログラムを読み出し実行することで機能を実現する。一方、プロセッサが例えばASICである場合、プログラムが記憶回路に保存される代わりに、当該機能がプロセッサの回路内に論理回路として直接組み込まれる。なお、本実施形態の各プロセッサは、プロセッサごとに単一の回路として構成される場合に限らず、複数の独立した回路を組み合わせて1つのプロセッサとして構成し、その機能を実現するようにしてもよい。さらに、図における複数の構成要素を1つのプロセッサへ統合してその機能を実現するようにしてもよい。
【0054】
加えて、実施形態に係る各機能は、上述の処理を実行するプログラムをワークステーション等のコンピュータにインストールし、これらをメモリ上で展開することによっても実現することができる。このとき、コンピュータに上述の手法を実行させることのできるプログラムは、磁気ディスク(ハードディスクなど)、光ディスク(CD-ROM、DVDなど)、半導体メモリなどの記憶媒体に格納して頒布することも可能である。
【0055】
いくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、実施形態同士の組み合わせを行なうことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0056】
1 超音波診断装置
30 超音波画像
31 単位領域
32,33 走査線
41,51 近似直線
61 領域
100 装置本体
101 超音波プローブ
102 入力装置
103 出力装置
104 外部装置
110 超音波送信回路
120 超音波受信回路
130 内部記憶回路
140 画像メモリ
150 入力インタフェース
160 出力インタフェース
170 通信インタフェース
180 処理回路
181 Bモード処理機能
182 ドプラ処理機能
183 画像生成機能
184 計算機能
185 深さ算出機能
186 電圧算出機能
187 設定機能
188 表示制御機能
189 システム制御機能
NW ネットワーク