(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024135894
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】植物栽培装置および植物栽培方法
(51)【国際特許分類】
A01G 9/24 20060101AFI20240927BHJP
【FI】
A01G9/24 X
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023046795
(22)【出願日】2023-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000180313
【氏名又は名称】四国計測工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304020292
【氏名又は名称】国立大学法人徳島大学
(74)【代理人】
【識別番号】100123984
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 晃伸
(74)【代理人】
【識別番号】100102314
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 阿佐子
(74)【代理人】
【識別番号】100159178
【弁理士】
【氏名又は名称】榛葉 貴宏
(72)【発明者】
【氏名】三好 仁志
(72)【発明者】
【氏名】高橋 章
(72)【発明者】
【氏名】馬渡 一諭
(72)【発明者】
【氏名】白石 志帆
(72)【発明者】
【氏名】粟飯原 睦美
(72)【発明者】
【氏名】宮脇 克行
(72)【発明者】
【氏名】二川 健
(72)【発明者】
【氏名】安藝 美鈴
【テーマコード(参考)】
2B029
【Fターム(参考)】
2B029JA00
2B029KB03
2B029TA01
2B029XA03
2B029XA10
(57)【要約】
【課題】少量の水で植物を効率的に栽培することが可能な植物栽培装置および植物栽培方法を提供する。
【解決手段】閉鎖系の植物栽培装置において、植物の葉が露出する上部空間S1を形成する茎葉収容部10と、植物の根が露出する下部空間S2を形成する根収容部20と、下部空間S2に供給する養液を貯留する貯留部30と、養液のミストを発生させて、下部空間S2に放出するミスト発生部31と、下部空間S2に放出するミストを帯電させる帯電部33と、制御部40と、を有し、ミストを下部空間S2内で浮遊させることにより植物の根に養液を供給する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
閉鎖系の植物栽培装置において、
植物の葉が露出する上部空間を形成する茎葉収容部と、
植物の根が露出する下部空間を形成する根収容部と、
前記下部空間に供給する養液を貯留する貯留部と、
前記養液のミストを発生させて、前記下部空間に放出するミスト発生部と、
前記下部空間に放出するミストを帯電させる帯電部と、
制御部と、を有し、
前記ミストを前記下部空間内で浮遊させることにより前記植物の根に養液を供給する植物栽培装置。
【請求項2】
さらに、前記上部空間と前記貯留部とを連通する連絡配管と、
前記上部空間内を除湿する除湿部と、を有し、
前記除湿部で除湿して得られた水が前記連絡配管を通じて前記貯留部に移送される、請求項1に記載の植物栽培装置。
【請求項3】
前記ミスト発生部は、前記養液を、平均粒径10μm以下のミストにして前記下部空間に放出する、請求項1に記載の植物栽培装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記ミスト発生部を間欠運転させる、請求項3に記載の植物栽培装置。
【請求項5】
前記根収容部は、前記下部空間にUVAの波長の紫外線を照射する殺菌用照明部を有する、請求項3に記載の植物栽培装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記殺菌用照明部の動作を停止した状態で前記ミスト発生部を一定時間動作させ、前記ミスト発生部の動作を停止してから設定時間が経過した後に、前記殺菌用照明部を動作させる、請求項5に記載の植物栽培装置。
【請求項7】
閉鎖空間において植物を栽培する植物栽培方法において、
植物の根が露出する下部空間を設け、前記下部空間内に帯電した養液のミストを放出し、前記ミストを前記下部空間内で浮遊させることにより前記植物の根に養液を供給する、植物栽培方法。
【請求項8】
前記植物の葉が露出する上部空間と、前記上部空間内を除湿する除湿部を設け、前記除湿部で除湿して得られた水を連絡配管を通じて養液の貯留部に移送する、請求項7に記載の植物栽培方法。
【請求項9】
前記植物が豆類である、請求項7または8に記載の植物栽培方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物栽培装置および植物栽培方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、世界人口の増加により慢性的な食糧不足が危惧されており、砂漠などの水資源が乏しい地域においても、可食植物を栽培することで、食糧不足を解消することが望まれている。昨今では、植物工場における水耕栽培が実用化されているが、噴霧水耕栽培法(ミスト栽培)という方式についても研究が進められている。
【0003】
たとえば、特許文献1では、シュート系(shoot system)と根系(roots system)を分離したトンネルを施設栽培用ビニールハウス又はガラスハウスの内部に設けて、シュート系には噴霧ノズルからCO2の噴霧、水の噴霧、気流速度30cms-1から50cms-1程度の風を発生させ、根系にはミストノズルからO2および培養液を噴霧する噴霧水耕栽培法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来型の植物工場は、広い敷地に専用の工場を建築する必要があり、また稼働するためには複雑な制御システムが必要であった。ミスト栽培においても、既存の建屋に簡単に設置することができ、栽培期間内(たとえば、3~4カ月の期間)において水の補給が不要なシステムは実用化されていない。
【0006】
また、ミストの粒度が大きい(たとえば、平均粒径20μm以上である)と、ミストが空間中に滞在する時間が短いため、植物の根に十分な養液を付着させて吸収させるためには、根に養液を直接噴霧することが必要であるという課題がある。
【0007】
本発明は、少量の水で植物を効率的に栽培することが可能な植物栽培装置および植物栽培方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の植物栽培装置は、閉鎖系の植物栽培装置において、植物の葉が露出する上部空間を形成する茎葉収容部と、植物の根が露出する下部空間を形成する根収容部と、前記下部空間に供給する養液を貯留する貯留部と、前記養液のミストを発生させて、前記下部空間に放出するミスト発生部と、前記下部空間に放出するミストを帯電させる帯電部と、制御部と、を有し、前記ミストを前記下部空間内で浮遊させることにより前記植物の根に養液を供給すること特徴とする。
前記植物栽培装置において、さらに、前記上部空間と前記貯留部とを連通する連絡配管と、前記上部空間内を除湿する除湿部と、を有し、前記除湿部で除湿して得られた水が前記連絡配管を通じて前記貯留部に移送されることを特徴としてもよい。
前記植物栽培装置において、前記ミスト発生部は、前記養液を、平均粒径10μm以下のミストにして前記下部空間に放出することを特徴としてもよい。
前記植物栽培装置において、前記制御部は、前記ミスト発生部を間欠運転させることを特徴としてもよい。
前記植物栽培装置において、前記根収容部は、前記下部空間にUVAの波長の紫外線を照射する殺菌用照明部を有することを特徴としてもよい。
前記植物栽培装置において、前記制御装置は、前記殺菌用照明部の動作を停止した状態で前記ミスト発生部を一定時間動作させ、前記ミスト発生部の動作を停止してから設定時間が経過した後に、前記殺菌用照明部を動作させることを特徴としてもよい。
本発明の植物栽培方法は、閉鎖空間において植物を栽培する植物栽培方法において、植物の根が露出する下部空間を設け、前記下部空間内に帯電した養液のミストを放出し、前記ミストを前記下部空間内で浮遊させることにより前記植物の根に養液を供給すること特徴とする。
前記植物栽培方法において、前記植物の葉が露出する上部空間と、前記上部空間内を除湿する除湿部を設け、前記除湿部で除湿して得られた水を連絡配管を通じて養液の貯留部に移送する、ことを特徴としてもよい。
前記植物栽培方法において、前記植物が豆類であることを特徴としてもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、少量の水で植物を効率的に栽培することが可能なミスト栽培を実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本実施形態に係る植物栽培装置を示す構成図である。
【
図2】本実施形態に係る植物栽培装置で、大豆を栽培した場合の要水量と除水量との関係の一例を示すグラフである。
【
図3】本実施形態に係る植物栽培装置で発生するミストの粒径分布の一例を示すグラフである。
【
図4】本実施形態に係る植物栽培装置においてミストを発生した際に、下部空間において充満するミストの総容積の一例を示すグラフである。
【
図5】UVAの照射照度と、大腸菌および根粒菌の生存率の関係を説明するためのグラフである。
【
図6】ミスト発生器、帯電部およびUVAランプの動作の制御方法を説明するための図である。
【
図7】ミスト発生を中止してからのUVA光線の放射照度の推移を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に係る植物栽培装置は、光合成に必要な光およびCO2を植物に供給する閉鎖系の装置であって、植物の育成に必要な環境を自動制御で実現することが可能である。本発明は、植物の育成に必要な環境として、以下の条件を自動制御するものである。
(ア)適切な量および質の水および養分の供給
(イ)光合成に必要な光の照射とCO2濃度の維持
(ウ)適切な温度、湿度の維持
(エ)養液、根および育成空間内の殺菌
本発明に係る植物栽培装置では、豆類(大豆、いんげん、そら豆、四角豆など)、トマト、サツマイモなどの可食植物を栽培することが可能である。また、植物栽培装置で栽培可能な植物は、可食植物に限定されず、花卉や観葉植物などの植物も栽培することが可能である。
以下に、図に基づいて、本実施形態に係る植物栽培装置および植物栽培方法を大豆の例で説明する。
【0012】
図1は、本実施形態に係る植物栽培装置1の構成図である。
図1に示すように、本実施形態に係る植物栽培装置1は、茎葉収容部10、根収容部20およびミスト供給部(31~34)を有する。
茎葉収容部10は、内部に植物の葉が露出する直方体ないし立方体状の上部空間S1を形成している。茎葉収容部10の下方に位置する根収容部20が、内部空間を有する箱形部材であり、植物の根が露出する下部空間S2を形成している。上部空間S1および下部空間S2は、外部への水分の流出が生じない閉鎖系の空間であり、遮光性の仕切り板16により区画されており、連絡配管15を介して連通している。また、図示していないが、茎葉収容部10および根収容部20は扉を有しており、作業者が、扉を開けて、植物の設置や取り出しなどを行うことが可能となっている。
【0013】
さらに、植物栽培装置1は、各種機器の動作を制御するための制御装置40と、二酸化炭素を上部空間S1にCO2を含むガス供給するためのガス供給路50と、養液を補充するための養液供給路60と、を有している。以下に、各構成の詳細について説明する。
【0014】
茎葉収容部10は、上部空間S1を構成する透明の育成ケースであり、上部空間S1内に、育成用ライト11,12から植物を育成するための光が照射される。 茎葉収容部10は、
図1に示すように、上部空間S1内に、環境センサー13、および除湿器14を有する。本実施形態と異なり、茎葉収容部10を着色された透過性材料や遮光性材料からなるケースにより構成してもよく、この場合は、育成用ライトを茎葉収容部10の内部に配置してもよい。
【0015】
育成用ライト11,12は、植物が光合成のために必要な光を照射するライトである。具体的には、育成用ライト11,12は、太陽光を模した400~700nmの波長域を含む可視光を植物の葉に向けて照射する。なお、育成用ライト11,12は、400~700nmの波長域を照射できるライトであれば種類は特に限定されず、LEDライト、キセノンランプなど公知の植物育成ライトを用いることができる。
【0016】
環境センサー13は、単一または複数のセンサーからなり、たとえば、上部空間S1内の温度を計測する温度センサー、上部空間S1内の湿度を測定する湿度センサー、上部空間S1内の光量を計測する光センサー、および/または、上部空間S1内のCO
2濃度を測定するCO
2センサーである。環境センサー13で測定された各種環境データ(温度データ、湿度データ、照度データ、CO
2濃度データなど)は、制御装置40に随時送信される。なお、制御装置40は、ミスト発生器31のみならず、育成用ライト11,12、環境センサー13、除湿器14、殺菌用ライト21,22、液面センサー32、帯電部33などとも電気的に接続されているが、
図1では省略している。
【0017】
除湿器14は、上部空間S1内の空気から水蒸気を取り除き、取り除いた水蒸気を水滴として回収する。そして、除湿器14は、回収した水を、連絡配管15を介して、根収容部20へと液送する。連絡配管15には逆流防止弁を設けてもよい。
上部空間S1内が、葉の気孔からの蒸散により放出される水蒸気により育成に好ましい湿度よりも高い湿度となった場合に、制御装置40は湿度センサーの測定値に基づいて除湿器14を稼働させて、上部空間S1内の湿度を適切な範囲に維持する。なお、除湿器14の構成は、特に限定されず、たとえばペルチェ素子を用いた公知のものを使用することができる。
【0018】
本実施形態では、上部空間S1内は、植物が根から吸収し気孔などから蒸散した水蒸気で満たされているため、上部空間S1にミストや水の供給は不要である。本実施形態では、植物の根から吸収された養液は、一部が植物に吸収されて植物の組織や養分を生成するために使用されるが、残りは気孔などから空気中へと蒸散された後、除湿器14により水滴として貯留槽30に戻されることで、上部空間S1と下部空間S2とを循環するので、水の追加補給を殆どしなくとも植物を栽培することが可能となる。
【0019】
仕切り板16には、植物の茎を保持する植物保持具17が着脱可能に取り付けられている。植物保持具17は、仕切り板16に脱着可能なアタッチメント構造であり、貫通孔に挿通された植物を押圧して保持する弾性部を備えている。
仕切り板16の下方には、根収容部20が設けられている。根収容部20は直方体ないし立方体状の箱体であり、側面に殺菌用ライト21,22が設けられ、底面に帯電部33およびミスト供給口34が設けられている。
【0020】
図2は、本実施形態に係る植物栽培装置1で、大豆2苗を115日間栽培した場合の要水量(栽培当初に注水した量、大豆1g当たり643.3ml。)と除水量(栽培終了時の残水量)との関係の一例を示すグラフである。
図2に示すように、本実施形態に係る植物栽培装置1では、植物が吸収した分を除いた水が、下部空間S2と上部空間S1との間を循環するため、要水量と除水量とはほぼ同程度となった(要水量と除水量との差が、植物が吸収した量とほぼ等しくなった)。
【0021】
次いで、ミスト供給部(31~34)の各構成について説明する。
図1に示すように、貯留槽30には、植物の栽培に必要な量の養液が貯留可能となっている。また、上述したように、本実施形態では、除湿器14により除湿された水蒸気が水となって、連絡配管15を通って貯留槽30まで液送され、貯留槽30で貯留されることとなる。貯留槽30内の養液の量は、制御装置40に接続された液面センサー32により監視されている。貯留槽30に、外部の補充養液タンク61からポンプPによって養液供給路60から養液が補充される。補充養液タンク61による養液の補充は、大豆の育成に用い足られた養分の補給が主目的であり、水分の補給は副目的であるため、1つの大豆の栽培期間中に補充養液タンク61に養液を補充する工程は不要である。
【0022】
ミスト発生器31は、貯留槽30内に設置され、貯留槽30に貯留された養液を微細な液滴(以下、単に「ミスト」とも言う。)に変えて、下部空間S2の底面に設けられたミスト供給口34から放出する。具体的には、本実施形態において、ミスト発生器31は、超音波振動子を有しており、超音波振動子で発生させた超音波を養液に水面下から当てることで、養液を霧化させて、下部空間S2内を浮遊するミストを発生させることができる。また、ミスト発生器31は、超音波によりミストを発生させることで、平均粒径が10μm以下(あるいは中心粒径が5μm以下)のミストを発生させることができる。ミストの平均粒径を10μm以下とすることで、比較的長い時間(たとえば15秒以上)、ミストを下部空間S2内に浮遊させることができる。そのため、植物の根にミストを直接吹き付けることが不要である。また、ミスト栽培に必要な量のミストの供給を、ミスト発生器31の間欠運転(たとえば、数十秒間ミストを供給し、数分間供給を停止すること)により実現することが可能である。この点、発生させるミストの粒が大きいと、植物の根にミストを常時吹き付けることが必要となり、植物の育成の観点から好ましくない。
【0023】
帯電部33は、高電圧電流(たとえば3~5kV)を印加可能な電極であり、高電圧電流が印加された状態で、ミスト発生器31で発生したミストを帯電させることができる。特に、本実施形態に係る帯電部33は、環状に形成された環状電極やコイルとすることで、帯電部33の環の中を通過するミストを誘導帯電により負に帯電させることができる。なお、帯電部33として、針状の放電極を用い、高電圧をかけて放電するコロナ帯電方式を採用してもよい。本実施形態では、制御装置40により、帯電部33への電圧印加が制御される。また、
図1には図示していないが、帯電部33には、高電圧電源が接続されており、さらに、ミスト発生器31には、帯電部33による放電から超音波振動子を保護するための網状アース金具が取り付けられている。なお、ミストは、ミスト発生器31により微細な水滴に分離された際に、レナード効果によって、ある程度帯電するものと考えられるが、帯電部33により電荷を付与することで、帯電度合いをより高くすることができ、植物の根により付着させやすくすることができる。
【0024】
ここで、ミストの粒径が20μm以下と小さい場合、表面張力の影響が大きくなり、ミストが植物の根に付着しにくくなるという問題がある。しかしながら、帯電部33によりミストをマイナスに帯電させることで、マイナスに帯電したミストが植物の根のプラス電荷と引き合い、植物の根に付着しやすくなり吸収を促進することができる。その結果、少量の水でも植物を栽培することが可能となる。
【0025】
さらに、帯電部33によりミスト供給口34から供給されるミストを帯電させることで、ミストの粒径を平均粒径10μm以下の範囲内で大きくすることができ、表面張力の影響を小さくすることができるとともに、下部空間S2内におけるミストの総容積(ミストの濃度分布の均質性)を高めることができる。ここで、
図3は、本実施形態に係る植物栽培装置1で発生するミストの粒径分布の一例を示すグラフであり、
図4は、本実施形態に係る植物栽培装置1においてミストを発生した際に、下部空間S2において充満するミストの総容積の一例を示すグラフである。
図3に示すように、帯電部33に高電圧を印加してミストを帯電させた場合には、帯電部33に高電圧を印加していない場合と比べて、ミストの粒径が大きくなる傾向があり、その分、表面張力の影響を小さくすることができる。ただし、帯電部33に高電圧を印加してミストを帯電させた場合でも、大部分のミストの粒径は10μm以下となるため、ミストが自重により落下することを抑制し、下部空間S2内にミストを長時間浮遊させることができる。また、
図4に示すように、帯電部33に高電圧を印加してミストを帯電させた場合には、下部空間S2内において充満するミストの総容積は大きくなり、その分、根に養液を長時間にわたり供給することが可能となる。
【0026】
殺菌用ライト21,22は、紫外線のUVAを照射するUVライトである。UVAは、真菌や大腸菌などの植物の成長に有害な菌を不活性化することができるとともに、根粒菌などの植物の成長に有用な菌に対する影響が小さく、有害な菌を選択的に不活性化させることができる。ここで、
図5は、UVAの照射強度と、大腸菌および根粒菌(Brady rhizobium diazoefficiens USDA6,Bradyrhizobium diazoefficiens USDA110)の生存率を示すグラフである。
図5に示す例では、UVAの照射強度が66mJ/cm
2である場合に、大腸菌のLog生存率は-1.6となり、UVAの照射強度が132mJ/cm
2である場合には、大腸菌のLog生存率は-2.7となった。これに対して、根粒菌USDA6では、UVAの照射強度が66mJ/cm
2である場合に、Log生存率は-0.2となり、UVAの照射強度が132mJ/cm
2である場合には、Log生存率は-0.8となった。さらに根粒菌USDA110では、UVAの照射強度が66mJ/cm
2の場合に、Log生存率は0となり、UVAの照射強度が132mJ/cm
2である場合には、Log生存率は-0.1となった。このように、UVAを照射することで、大腸菌の不活性化することができるとともに、根粒菌の不活性化を抑えることができる。なお、根粒菌が生存する環境においては、大腸菌などの有害な菌の増加を抑制することができるため、この点からも、殺菌用ライト21,22でUVAを照射することは有用であり、これにより無農薬栽培が実現可能となる。
【0027】
本実施形態では、制御装置40がミスト発生器31、帯電部33および殺菌用ライト21,22の動作を制御する。
図6は、制御装置40によるミスト発生器31、帯電部33および殺菌用ライト21,22の動作の制御方法を説明するための図である。
図6に示すように、制御装置40は、ミスト発生器31と帯電部33とを同時に動作させ、ミスト発生器31で発生したミストを帯電させる。この際、殺菌用ライト21,22の動作は停止したままとする。ミストが発生すると、殺菌用ライト21,22から照射されるUVAがミストにより遮られてしまい、植物の根に十分な量のUVAを照射できないためである。上述したように、本実施形態では、ミスト発生器31を間欠運転させるので、ミスト発生のタイミングと殺菌用ライト21,22による照射のタイミングを調整することが可能である。
【0028】
本実施形態では、制御装置40は、ミスト発生器31でミストを一定時間T1(たとえば60秒)発生させると、下部空間S2内の水蒸気が飽和するため、一定時間T1経過後に、ミスト発生器31および帯電部33の動作を停止する。さらに、制御装置40は、ミスト発生器31および帯電部33の動作を停止してから、一定時間T2(たとえば180秒)が経過した後に、殺菌用ライト21,22をオンにし、UVAを照射させる。一定時間T2が経過した後では、下部空間S2を浮遊するミストの量が低下し、UVAを植物の根に効率良く照射することが可能となるためである。そして、制御装置40は、UVAを照射してから一定時間T3(たとえば60秒)が経過すると、殺菌用ライト21,22の動作をオフにして、ミスト発生器31と帯電部33とを同時に動作させる。制御装置40は、このサイクル(たとえば1サイクル120~300秒)を繰り返し、植物の根に対して、帯電したミストの供給と、UVAの照射とを繰り返す。
【0029】
ここで、
図7は、ミスト発生を停止してからのUVAの放射照度の推移を示すグラフである。なお、
図7に示す例では、ミスト発生器31により、ミストを20℃で飽和するまで発生させた後に、ミスト発生器31の動作を中止して、中止してからの時間とUVAの照射量との関係を計測した。また、
図7に示す例では、殺菌用ライト21,22として、UVAを発光する単一のLEDライト(波長365nm、0.35A)を用いてUVAを照射し、当該LEDライトから15cmの距離となる位置においてUVAの照度を計測した。
図7に示す例から、ミスト発生を中止してから35秒が経過するまでは、中止からの経過時間が短いほどUVAの放射照度は低くなり、経過時間が経つほどUVAの照射照度が上昇した。一方で、ミスト発生を中止してから35秒が経過した後は、UVA光線の放射照度の変化は緩やかに高くなった。このことから、たとえば、制御装置40は、ミスト発生器31および帯電部33の動作を停止してから殺菌用ライト21,22の照射を開始するまでの時間(
図6に示す一定時間T2)を、30秒以上または35秒以上に設定することが好ましい。また、一定時間T2を1分以上などに設定することもできる。
【0030】
また、制御装置40は、環境センサー13から取得した環境データに基づいて、各種機器の制御も行う。たとえば、制御装置40は、環境センサーから取得した湿度データに基づいて、湿度が一定値以上となった場合に、除湿器14を動作するように制御することができる。また、制御装置40は、照度データに基づいて、照度が一定値以下となった場合や設定された時間帯に、育成用ライト11,12により疑似太陽光を照射する構成とすることもできる。さらに、制御装置40は、CO2濃度データに基づいて、CO2濃度が一定値以下となった場合に、ガス供給路50の供給弁51を所定時間開き、図示しないCO2ボンベから上部空間S1内にCO2を供給させるCO2供給装置を構成する。
【0031】
次に、本実施形態に係る植物栽培装置1の養液の循環について説明する。まず、(1)液体肥料と水とを混合した養液が、貯留槽30に貯留される。(2)制御装置40によりミスト発生器31が動作を開始すると、ミスト発生器31は、超音波の作用により、貯留槽30に貯留された養液をミスト(微細な粒子)にして下部空間S2内に放出する。(3)ミスト発生器31により発生したミストは、帯電部33によりマイナス電荷が付与され、帯電する。(4)帯電したミストが植物のプラス電荷に引き寄せられ、根に付着することで、養液が根から吸収される。(5)植物に吸収された養液は、その一部が植物の成長に利用されるとともに、残りの水分は葉(気孔)から蒸散し、上部空間S1に放出される。(6)植物の葉から上部空間S1へと放出された水蒸気は、除湿器14により回収される。(7)除湿器14により回収された水蒸気は水となり、連絡配管15を経由して、貯留槽30に貯留される。
【0032】
このように、本実施形態に係る植物栽培装置1では、養液は、植物に取り込まれる分以外は、植物栽培装置1内を循環することとなり、その結果、
図2に示すように、装置外部に発散することによる水の損失をほぼゼロとすることができる。そのため、本実施形態に係る植物栽培装置1では、水を補給することなく植物を栽培することが可能となるため、砂漠、僻地などの水の補給ができない地域でも可食植物を栽培することが可能となる。
【0033】
以上のように、本実施形態に係る植物栽培装置1は、植物の葉が露出する上部空間S1を形成する茎葉収容部10と、植物の根が露出する下部空間S2を形成する根収容部20と、ミスト供給部(31~34)を有し、根収容部20内に浮遊する養液のミストを間欠的に発生させて、帯電したミストが植物の根に付着する構成となっているため、適切な量および質の水および養液を植物に供給することが可能である。
【0034】
また、本実施形態に係る植物栽培装置1において、ミスト発生器31は、超音波により、養液を、平均粒径10μm以下のミストにして下部空間S2に放出するため、ミストが下部空間S2を浮遊する時間を長くすることができるので、根に養液を直接噴霧する必要が無く、適切な量および質の水および養液を植物に供給するための装置構成をシンプルにすることができる。
さらに、根収容部20は殺菌用ライト21,22を有しており、下部空間S2にUVAを照射することで、植物の成長に有益な根粒菌などの菌への影響を抑えながら、植物の成長を阻害する大腸菌などの増殖を抑制し、これにより、植物の成長をより促進することが可能となる。加えて、本実施形態では、制御装置40により、ミスト発生器31および帯電部33を動作させている場合には、殺菌用ライト21,22の動作を停止し、ミスト発生器31および帯電部33の動作を停止してから一定時間T2が経過した後に、殺菌用ライト21,22を動作させることで、UVAを植物の根に効率的に照射することができる。
【0035】
さらに、本実施形態では、上部空間S1の水蒸気を除湿する除湿器14をさらに有し、上部空間S1と下部空間S2とが連絡配管15により連通し、除湿器14により除湿された水が、連絡配管15を通って、下部空間S2へと排出される構成となっている。これにより、養液は、植物に吸収された分以外は、植物栽培装置1内を循環することとなり、
図2に示すように、装置外部へ発散することによる水の損失をほぼゼロとすることができる。そのため、本実施形態に係る植物栽培装置1では、少量の水で効率的に植物を栽培することが可能となり、砂漠、僻地などの水の補給が難しい地域でも可食植物を栽培することが可能となる。また、予め少量の水を供給しておけば、栽培中に水を補給する手間や機構が不要となり、栽培を簡素化することができる。
【0036】
以上、本発明の好ましい実施形態例について説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態の記載に限定されるものではない。上記実施形態例には様々な変更・改良を加えることが可能であり、そのような変更または改良を加えた形態のものも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0037】
たとえば、上記実施形態例では、茎葉収容部10および根収容部20を直方体ないし立方体状のケースにより構成したが、ドーム型のケースなどにより構成してもよい。また、上述実施形態例では、1つの植物栽培装置1で1つの苗(あるいは1株)を栽培する構成を例示したが、この構成に限定されず、1つの植物栽培装置1で複数の苗(あるいは複数株)を栽培する構成とすることができる。
【符号の説明】
【0038】
1 植物栽培装置
10 茎葉収容部
11,12 育成用ライト
13 環境センサー
14 除湿器
15 連絡配管
16 仕切り板
17 植物保持具
20 根収容部
21,22 殺菌用ライト
33 帯電部
34 ミスト供給口
30 貯留槽
31 ミスト発生器
32 液面センサー
40 制御装置
50 ガス供給路
51 供給弁
60 養液供給路
61 補充養液タンク