(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024135903
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】燃焼器の点火方法
(51)【国際特許分類】
F02C 7/264 20060101AFI20240927BHJP
F23R 3/00 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
F02C7/264
F23R3/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023046806
(22)【出願日】2023-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】谷口 健太
(72)【発明者】
【氏名】三谷 真規
(72)【発明者】
【氏名】羽鳥 総一
(57)【要約】
【課題】燃料の種類を問わず、効率的に点火することが可能な燃焼器の点火方法を提供する。
【解決手段】燃焼器の点火方法は、軸線方向の下流側の燃焼空間に向かって燃料を噴射する噴射孔を有するパイロットノズルと、パイロットノズルに向かって前記軸線に対する径方向外側から径方向に進退動しながらスパークを発生させることが可能な点火栓と、を備える燃焼器の点火方法であって、点火栓の先端が径方向においてパイロットノズルの先端部と重なる第一位置と、第一位置よりも径方向外側の第二位置との間で進退動する間にスパークを複数回発生させるステップを含む。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線の延びる軸線方向の下流側の燃焼空間に向かって燃料を噴射する噴射孔を有するパイロットノズルと、
前記軸線に対する径方向外側から前記パイロットノズルに向かって径方向に進退動しながらスパークを発生させることが可能な点火栓と、
を備える燃焼器の点火方法であって、
前記点火栓の先端が径方向において前記パイロットノズルの先端部と重なる第一位置と、該第一位置よりも径方向外側の第二位置との間で進退動する間に前記スパークを複数回発生させるステップを含む燃焼器の点火方法。
【請求項2】
前記第一位置は、前記軸線方向から見て前記パイロットノズルの中央部を含む燃料油点火領域内にあり、前記第二位置は、前記第一位置よりも径方向外側で環状をなす燃料ガス点火領域内にある請求項1に記載の燃焼器の点火方法。
【請求項3】
前記噴射孔は、前記軸線方向から見て楕円形をなすとともに、前記パイロットノズルは、該噴射孔を中心として旋回しながら下流側に流れるアトマイズ空気を発生させるアトマイズ空気孔をさらに有し、前記第一位置は、前記楕円形の短軸を直径とする仮想円の内側に位置する請求項1又は2に記載の燃焼器の点火方法。
【請求項4】
前記第一位置は、前記仮想円の中心と一致している請求項3に記載の燃焼器の点火方法。
【請求項5】
前記燃焼器は、前記パイロットノズルを囲むとともに、前記下流側に向かうに従って拡径する円錐状のパイロットコーンをさらに備え、
前記第二位置は、前記軸線を含む断面視で前記パイロットコーンの母線の延長線上に位置する請求項1に記載の燃焼器の点火方法。
【請求項6】
前記第二位置は、前記燃焼空間の外部の領域である請求項1に記載の燃焼器の点火方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、燃焼器の点火方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的にガスタービンは、圧縮機と、燃焼器と、タービンと、を備える。圧縮機は高圧空気を生成し、燃焼器は、高圧空気と燃料を混合させて燃焼させることで高温高圧の燃焼ガスを生成する。タービンは燃焼ガスによって回転駆動される。タービンの回転エネルギーは軸端から取り出されて、発電機等の駆動に用いられる。
【0003】
燃焼器は、主として、燃料を拡散燃焼させるパイロットノズルと、パイロットノズルの火炎によって点火されることで予混合燃焼を行うメインノズルと、これらノズルを覆う燃焼筒と、燃焼筒内に突出している点火栓と、を備えている。燃焼器の運転を開示する際には、パイロットノズルから燃料油、又は燃料ガスを噴射させた状態で点火栓を作動させる。点火栓がスパークを発生させることで燃料が点火し、燃焼筒内に燃焼火炎が形成される。この火炎によって生じた燃焼ガスがタービンの駆動に用いられる。
【0004】
ところで、火炎が形成される燃焼筒内部の空間は高温状態となるため、点火栓を当該空間内に露出させたままで運転を継続すると当該点火栓に損傷を生じる可能性がある。そこで、下記特許文献1、又は下記特許文献2に示されるように、点火栓を燃焼筒内に対して進退動可能に配置する構成が提唱されている。これら文献に係る技術では、点火栓が最大限度まで進出した状態でスパークを発生させて、燃焼器の中心部のみで点火を行うとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平04-279733号公報
【特許文献2】特開2008-57417号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、燃料ガスと燃料油を兼用可能なタイプの燃焼器では、燃料ガスと燃料油の濃度分布のピーク位置が異なっていることが知られている。このため、特定の一か所のみで点火を行う構成では、燃料ガス、及び燃料油のいずれか一方に対して効率的に点火することができないという課題が生じてしまう。
【0007】
本開示は上記課題を解決するためになされたものであって、燃料の種類を問わず、効率的に点火することが可能な燃焼器の点火方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本開示に係る燃焼器の点火方法は、軸線の延びる軸線方向の下流側の燃焼空間に向かって燃料を噴射する噴射孔を有するパイロットノズルと、前記軸線に対する径方向外側から前記パイロットノズルに向かって径方向に進退動しながらスパークを発生させることが可能な点火栓と、を備える燃焼器の点火方法であって、前記点火栓の先端が径方向において前記パイロットノズルの先端部と重なる第一位置と、該第一位置よりも径方向外側の第二位置との間で進退動する間に前記スパークを複数回発生させるステップを含む。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、燃料の種類を問わず、効率的に点火することが可能な燃焼器の点火方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本開示の実施形態に係るガスタービンの構成を示す模式図である。
【
図2】本開示の実施形態に係る燃焼器の模式断面図である。
【
図3】本開示の実施形態に係るパイロットノズルを軸線方向から見た図である。
【
図4】本開示の実施形態に係る燃焼器の点火方法のフローチャートである。
【
図5】本開示の実施形態に係る燃焼器の変形例を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施形態に係るガスタービン1、燃焼器20、及び燃焼器20の点火方法について、
図1から
図4を参照して説明する。
【0012】
(ガスタービンの構成)
本実施形態に係る燃焼器20は、ガスタービン1に用いられる。
図1に示すように、ガスタービン1は、圧縮機10と、燃焼器20と、タービン30と、を備えている。圧縮機10は外部から供給された空気を圧縮して高圧空気を生成する。燃焼器20は、この高圧空気に燃料を混合して燃焼させることで、高温高圧の燃焼ガスを生成する。タービン30は燃焼ガスによって回転駆動される。
【0013】
圧縮機10は、主軸線Oに沿って延びる圧縮機ロータ11と、圧縮機ロータ11の外周面に設けられた複数の圧縮機動翼列12と、圧縮機動翼列12を外周側から覆う筒状の圧縮機ケーシング14と、圧縮機ケーシング14の内周面に設けられた複数の圧縮機静翼列15と、を有する。圧縮機ロータ11は、主軸線O回りに回転可能である。圧縮機動翼列12は、複数の圧縮機動翼13を有する。圧縮機動翼13は、圧縮機ロータ11の外周面から径方向に突出するとともに、周方向に間隔をあけて複数配列されている。圧縮機静翼列15は、複数の圧縮機静翼16を有する。それぞれの圧縮機静翼16は、圧縮ケーシングの内周面から径方向内側に延びるとともに、周方向に間隔をあけて複数設けられている。圧縮機静翼列15は、圧縮機動翼列12と交互になるように主軸線Oに沿って配列されている。また、圧縮ケーシングの主軸線O方向一方側には、外部から空気を取り込むための吸気口17が形成されている。
【0014】
燃焼器20は、圧縮ケーシングの主軸線O方向他方側に設けられた中間ケーシング40に挿入されている。燃焼器20は、主軸線Oを中心として周方向に間隔をあけて複数配列されている。燃焼器20の内部には、圧縮機10で生成された高圧空気が流入する。燃焼器20では、この高圧空気に燃料を混合して点火し、燃焼火炎を生成する。燃焼火炎によって生じた燃焼ガスは、主軸線O方向他方側に送られて、タービン30を駆動する。
【0015】
タービン30は、主軸線Oに沿って延びるタービンロータ31と、タービンロータ31の外周面に設けられた複数のタービン動翼列32と、タービン動翼列32を外周側から覆う筒状のタービンケーシング34と、タービンケーシング34の内周面に設けられた複数のタービン静翼列35と、を有する。タービンロータ31は、主軸線O回りに回転可能である。タービン動翼列32は、複数のタービン動翼33を有する。タービン動翼33は、タービンロータ31の外周面から径方向に突出するとともに、周方向に間隔をあけて複数配列されている。タービン静翼列35は、複数のタービン静翼36を有する。それぞれのタービン静翼36は、タービンケーシング34の内周面から径方向内側に延びるとともに、周方向に間隔をあけて複数設けられている。タービン静翼列35は、タービン動翼列32と交互になるように主軸線Oに沿って配列されている。
【0016】
圧縮機ロータ11とタービンロータ31は主軸線O方向に接続されることでガスタービンロータ90を形成する。圧縮機ケーシング14、中間ケーシング40、及びタービンケーシング34は主軸線O方向に接続されることでガスタービンケーシング91を形成している。つまり、ガスタービンロータ90は、ガスタービンケーシング91の内部で一体となって主軸線O回りに回転可能である。
【0017】
(燃焼器の構成)
図2に示すように、燃焼器20は、ノズル部21と、燃焼筒22と、点火栓51と、を有する。ノズル部21と燃焼筒22とは、軸線Xに沿って配列されている。ノズル部21は、パイロットノズル52と、パイロットコーン53と、メインノズル54と、メインノズル筒55と、を有する。
【0018】
パイロットノズル52は、軸線Xを中心とする円柱状をなしている。
図3に示すように
パイロットノズル52における軸線X方向一方側を向く端面には、噴射孔56と、複数のアトマイズ空気孔57と、が形成されている。噴射孔56は、軸線Xを中心とする楕円形をなしている。つまり、楕円の中心位置が軸線Xに一致している。噴射孔56は、外部の燃料供給源(図示なし)と接続されている。噴射孔56からは、液状の燃料油、及び燃料ガスの少なくとも一方が噴射される。即ち、この燃焼器20は、燃料油による運転と燃料ガスによる運転が可能なデュアルタイプである。以下の説明では、噴射孔56から燃料が噴射されていく側を「下流側」と呼び、その反対側を「上流側」と呼ぶ。
【0019】
アトマイズ空気孔57は、噴射孔56から燃料油を噴射した際に、当該燃料油を微粒化するための空気を噴射する。アトマイズ空気孔57は、噴射孔56を外周側から囲むようにして、軸線Xの周方向に間隔をあけて複数配列されている。アトマイズ空気孔57は、上流側から下流側に向かうに従って周方向に旋回するように延びている。したがって、アトマイズ空気孔57から噴射される空気の流れは、下流側に向かうに従って軸線Xを中心とする周方向に旋回する旋回流となる。噴射孔56から燃料油を噴射する場合、燃料油は、軸線X方向から見て楕円形に広がる領域を形成しつつ、アトマイズ空気の旋回流によって旋回しながら下流側に流れる。具体的には、楕円の長軸が軸線X回りに旋回するようにして、燃料油のミストが下流側に流れる。つまり、旋回する楕円形の領域の重複部分である、短軸を直径とする円形の領域(
図3中の仮想円70で示す領域)で、最も燃料濃度が高くなる。この仮想円70の内側の領域を「燃料油点火領域71」(
図2)と呼ぶ。
【0020】
図2に示すように、パイロットノズル52は、パイロットコーン53によって外周側から覆われている。パイロットコーン53は、円筒部61と、拡径部62と、を有する。円筒部61は、軸線Xを中心とする円筒状をなし、その下流側の端部はパイロットノズル52の先端部と軸線X方向で一致している。拡径部62は、円筒部61の下流側の端部からさらに下流側に向かって延びている。拡径部62は、下流側に向かうに従って次第に拡径する円錐状をなしている。噴射孔56から燃料ガスを噴射させる場合、燃料ガスはこの拡径部62の内面の方向に形成される渦の影響を受けて、外周側に拡散する。したがって、円錐状をなす拡径部62の母線の延長線上で最も燃料濃度が高くなる。この延長線を含めて当該延長線よりも径方向内側の領域を「燃料ガス点火領域72」と呼ぶ。
【0021】
メインノズル54、及びメインノズル筒55は、パイロットコーン53を外周側から囲むようにして、軸線Xの周方向に複数配列されている。メインノズル54は、軸線Xに沿って延びる棒状をなし、その外周面には燃料を噴射する孔が形成されている。メインノズル54は、メインノズル筒55によって外周側から覆われている。メインノズル筒55の内周側の端縁は、パイロットコーン53の拡径部62に合わせて、下流側に向かうに従って径方向外側に向かって延びている。
【0022】
燃焼筒22は、内筒81と、尾筒82と、を有する。内筒81は、上記のノズル部21を外周側から覆う筒状をなしている。内筒81の内側におけるノズル部21よりも下流側の領域は、燃焼火炎が形成される燃焼空間Vとされている。尾筒82は、内筒81の下流側に接続されている。尾筒82は、内筒81の外径よりもわずかに大きな内径を有する。
【0023】
点火栓51は、内筒81の内部(燃焼空間V)に向かって、径方向に進退動可能な状態で、燃焼筒22によって支持されている。点火栓51は、点火栓ロッド101と、点火栓駆動部102と、を有する。点火栓ロッド101は、径方向内側に向かうに従って、下流側に向かうことで、軸線Xに対して傾斜する方向に延びている。点火栓ロッド101は、燃焼空間Vにおけるパイロットノズル52、及びメインノズル54よりもわずかに下流側の位置に設けられている。詳しくは図示しないが、点火栓ロッド101は、点火栓駆動部102のコイルバネによって径方向外側に向かって付勢されている。圧縮機10で生成された制御空気(高圧空気)が点火栓駆動部102に供給されると、コイルバネの弾性力に抗して点火栓ロッド101が径方向内側に突出する。制御空気の供給が止まると、コイルバネの弾性力によって点火栓ロッド101は径方向外側に復帰する。点火栓ロッド101の先端には、高電圧の印加によるスパークを複数回発生させるためのスパーク発生機構(不図示)が設けられている。上記のような進退動を繰り返す間に、このスパーク発生機構が発生させる複数回のスパークによって、パイロットノズル52から供給された燃料が点火され、拡散火炎が燃焼空間V内に形成される。この拡散火炎によってメインノズル54の燃料がさらに点火されることで、予混合火炎が形成される。これにより、燃焼器20が起動され、燃焼ガスの流れが発生する。
【0024】
(燃焼器の点火方法)
上記の燃焼器20の点火方法について詳述する。
図2に示すように、点火栓ロッド101は、パイロットノズル52の先端部を含む領域内の第一位置P1と、第一位置P1よりも径方向外側に位置する第二位置P2と、格納位置P3との間で進退動する。第一位置P1は、上述した燃料油点火領域71内にある。つまり、燃料油のミストが形成する楕円の短軸を直径とする仮想円70の内側に第一位置P1が存在する。さらに具体的には、第一位置P1は、仮想円70の中心(つまり、軸線Xの位置)と一致している。第二位置P2は、上述した燃料ガス点火領域72内にある。つまり、パイロットコーン53の拡径部62の母線の延長線を含む径方向内側の領域に第二位置P2が存在する。格納位置P3は、燃焼空間Vの外部に点火栓51が収容されている状態の位置である。点火栓51は、格納位置P3から第二位置P2を経て径方向外側に向かって進出した後、第一位置P1で折り返し、第二位置P2を経て径方向内側に向かって格納位置P3まで退避するという動作を一定回数繰り返す。その間に、一秒間に数回の頻度でスパークを発生させる。この動作は、燃焼器20が燃料ガスを用いる場合と燃料油を用いる場合とで共通である。つまり、燃料の種類を問わず、点火栓51は同様の動作をするように構成されている。
【0025】
本実施形態に係る燃焼器20の点火方法は、
図4に示すように、燃料をパイロットノズル52、及びメインノズル54に供給するステップS1と、点火栓ロッド101を上記のように進出させながらスパークを発生させるステップS2と、点火栓ロッド101を第二位置P2まで格納しながらスパークを発生させるステップS3と、を含む。ステップS1では、燃料の供給に加えて、アトマイズ空気の供給も行われる。これにより、燃焼空間V内に燃料油、又は燃料ガスを含んだ雰囲気が形成される。ステップS3では、点火栓ロッド101を格納位置P3から第二位置P2を経て第一位置P1に至るまで径方向内側に進出させ、第一位置P1から再び第二位置P2を経て格納位置P3に至るまで径方向外側まで退避させる。この間に、点火栓51から複数回のスパークを発生させる。ステップS2とステップS3を複数回ずつ順次繰り返すことによって、燃焼器20の点火が完了する。
【0026】
(作用効果)
ここで、従来は、点火栓51が最大限度まで進出した状態でスパークを発生させて、燃焼器20の中心部のみで点火を行うことが一般的であった。しかし、燃料ガスと燃料油を兼用可能なタイプの燃焼器20では、上述したように、燃料ガスと燃料油の濃度分布のピーク位置が異なっている。このため、特定の一か所のみで点火を行う構成では、燃料ガス、及び燃料油のいずれか一方に対して効率的に点火することができないという課題が生じてしまう。そこで、本実施形態では、上述の点火方法を採用している。
【0027】
上記方法によれば、点火栓51の先端がパイロットノズル52の先端部と重なる第一位置P1では燃料油に効率的に点火することができる。他方で、当該第一位置P1の径方向外側の第二位置P2では燃料ガスに効率的に点火することができる。これら第一位置P1と第二位置P2との間を進退動する間にスパークを発生させることで、燃料の種類を問わず、効率的に点火することが可能となる。したがって、不完全燃焼によるNOxの発生が抑制され、燃焼器20の燃焼効率が向上する。結果として、ガスタービン1の運転効率をさらに向上させることが可能となる。また、点火栓51を第一位置P1と第二位置P2との間で進退動させることで、点火栓51が高温の燃焼ガスや火炎に曝される時間を短くすることができる。したがって、熱による点火栓51の損耗が抑制され、燃焼器20の運転寿命や部品交換サイクルを長く確保することができる。その結果、メンテナンスに要するコストを大幅に削減することが可能となる。
【0028】
また、上記方法によれば、燃料の種類によって異なる濃度分布に応じて、点火栓51の先端の位置(第一位置P1、及び第二位置P2)が定められる。具体的には、第一位置P1は燃料油の点火がしやすい燃料油点火領域71に設定され、第二位置P2は燃料ガスの点火がしやすい燃料ガス点火領域72に設定される。これら第一位置P1と第二位置P2との間を往復させる間にスパークを発生させることで、燃料の種類を問わず、広い範囲でより効率的に燃料に点火することができる。
【0029】
ここで、噴射孔56が楕円形をなしている構成では、燃料油は、軸線X方向から見て楕円形状の領域に噴霧される。この噴霧領域にアトマイズ空気の旋回流が合流することで、楕円の長軸が軸線X回りに旋回するようにして下流側に燃料が流れる。つまり、楕円の長軸方向は時々刻々と変化する。一方で、短軸を直径とする円形の領域では、常態的に燃料が存在している。上記方法によれば、この短軸を直径とする仮想円70の内側に第一位置P1を設定することで、楕円形状に噴霧された燃料油に対しても効率的かつ安定的に点火を行うことが可能となる。したがって、燃焼器20の燃焼効率をさらに向上させることができる。
【0030】
さらに、上記方法によれば、楕円形状に噴霧された燃料油に対しても効率的かつ安定的に点火を行えることに加えて、点火栓51の突出長さが最大となる第一位置P1を仮想円70の中心とすることで、当該点火栓51が火炎に曝される時間を最小限に抑えることが可能となる。これにより、点火栓51の損耗を回避することができる。他方で、第一位置P1が仮想円70の中心を越えた位置に設定されている場合、当該第一位置P1を二度通過することから点火栓51が火炎や燃焼ガスの熱に曝される時間が長くなってしまう。これにより、点火栓51の損耗が生じる虞がある。しかしながら、上記方法によれば、点火栓51の先端が仮想円70の中心に到達すると直ちに第二位置P2を経て格納位置P3に向かって退避するため、点火栓51の熱への暴露時間を最小限に抑えることができる。
【0031】
ここで、燃料ガスは円錐状のパイロットコーン53の内面に沿って下流側に流れることから、当該燃料ガスの濃度はパイロットコーン53の母線の延長線の径方向内側の領域(燃料ガス点火領域72)で高くなる傾向にある。上記方法によれば、この濃度の高い領域に第二位置P2を設定した上で第一位置P1との間を点火栓51に往復させることで、当該点火栓51の先端が第二位置P2に存在する時間を長く確保することができる。これにより、燃料ガスへの点火性をさらに向上させることができる。
【0032】
<その他の実施形態>
以上、本開示の実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施の形態に限られるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
【0033】
例えば、上記実施形態では、点火栓51が格納位置P3から第二位置P2を経て第一位置P1までの区間を進退動する例について説明した。しかしながら、点火栓51の進退動の経路は上記に限定されず、
図5に変形例として示すように、第二位置P2と第一位置P1との間のみを進退動するように構成されていてもよい。この構成によっても上述したものと同様の作用効果を得ることができる。
【0034】
さらに、上記実施形態では、燃焼筒22が、内筒81と尾筒82とを有する例について説明した。しかしながら、燃焼筒22の構成は上記によっては限定されず、種々の構成を採ることが可能である。また、燃焼器20の形式もアニュラー型、缶型、及びカニュラー型のいずれであってもよい。さらに、メインノズル54に旋回流を発生させるスワラーベーンが併設されていてもよい。
【0035】
加えて、点火栓51の先端部の位置は、上述した第一位置P1や第二位置P2からわずかにずれていてもよい。特に、制御空気の圧力変動や振動等の外力に基づいてこのようなずれが生じる可能性があるが、わずかなずれであれば、上述したものと同様の作用効果を得ることができる。
【0036】
また、点火栓51の先端部以外の箇所(点火栓51の延在長さの中途位置)に他のスパーク機構がさらに設けられていてもよい。さらに、点火栓51の径方向への移動速度は、径方向外側への移動速度と異なっていてもよいし、同一でもよい。
【0037】
<付記>
各実施形態に記載の燃焼器20の点火方法は、例えば以下のように把握される。
【0038】
(1)第1の態様に係る燃焼器20の点火方法は、軸線Xの延びる軸線X方向の下流側の燃焼空間Vに向かって燃料を噴射する噴射孔56を有するパイロットノズル52と、前記軸線Xに対する径方向外側から前記パイロットノズル52に向かって径方向に進退動しながらスパークを発生させることが可能な点火栓51と、を備える燃焼器20の点火方法であって、前記点火栓51の先端が径方向において前記パイロットノズル52の先端部と重なる第一位置P1と、該第一位置P1よりも径方向外側の第二位置P2との間で進退動する間に前記スパークを複数回発生させるステップを含む。
【0039】
ここで、近年、燃料として油とガスとを兼用可能な燃焼器20が実用化されている。燃料油と燃料ガスとでは、濃度分布のピーク位置が径方向で異なる。上記方法によれば、点火栓51の先端がパイロットノズル52の先端部と重なる第一位置P1では燃料油に効率的に点火することができる。他方で、当該第一位置P1の径方向外側の第二位置P2では燃料ガスに効率的に点火することができる。これら第一位置P1と第二位置P2との間を進退動する間にスパークを発生させることで、燃料の種類を問わず、効率的に点火することが可能となる。
【0040】
(2)第2の態様に係る燃焼器20の点火方法は、(1)の燃焼器20の点火方法であって、前記第一位置P1は、前記軸線X方向から見て前記パイロットノズル52の中央部を含む燃料油点火領域71内にあり、前記第二位置P2は、前記第一位置P1よりも径方向外側で環状をなす燃料ガス点火領域72内にある。
【0041】
上記方法によれば、燃料の種類によって異なる濃度分布に応じて、点火栓51の先端の位置(第一位置P1、及び第二位置P2)が定められる。これら第一位置P1と第二位置P2との間を往復させる間にスパークを発生させることで、燃料の種類を問わず、広い範囲でより効率的に燃料に点火することができる。
【0042】
(3)第3の態様に係る燃焼器20の点火方法は、(1)又は(2)の燃焼器20の点火方法であって、前記噴射孔56は、前記軸線X方向から見て楕円形をなすとともに、前記パイロットノズル52は、該噴射孔56を中心として旋回しながら下流側に流れるアトマイズ空気を発生させるアトマイズ空気孔57をさらに有し、前記第一位置P1は、前記楕円形の短軸を直径とする仮想円70の内側に位置する。
【0043】
ここで、噴射孔56が楕円形をなしている構成では、燃料油は、軸線X方向から見て楕円形状の領域に噴霧される。この噴霧領域にアトマイズ空気の旋回流が合流することで、楕円の長軸が軸線X回りに旋回するようにして下流側に燃料が流れる。つまり、楕円の長軸方向は時々刻々と変化する。一方で、短軸を直径とする円形の領域では、常態的に燃料が存在している。上記方法によれば、この短軸を直径とする仮想円70の内側に第一位置P1を設定することで、楕円形状に噴霧された燃料油に対しても効率的かつ安定的に点火を行うことが可能となる。
【0044】
(4)第4の態様に係る燃焼器20の点火方法は、(3)の燃焼器20の点火方法であって、前記第一位置P1は、前記仮想円70の中心と一致している。
【0045】
上記方法によれば、楕円形状に噴霧された燃料油に対しても効率的かつ安定的に点火を行えることに加えて、点火栓51の突出長さが最大となる第一位置P1を仮想円70の中心とすることで、当該点火栓51が火炎に曝される時間を最小限に抑えることが可能となる。これにより、点火栓51の損耗を回避することができる。
【0046】
(5)第5の態様に係る燃焼器20の点火方法は、(1)から(4)のいずれか一態様に係る燃焼器20の点火方法であって、前記燃焼器20は、前記パイロットノズル52を囲むとともに、前記下流側に向かうに従って拡径する円錐状のパイロットコーン53をさらに備え、前記第二位置P2は、前記軸線Xを含む断面視で前記パイロットコーン53の母線の延長線上に位置する。
【0047】
ここで、燃料ガスは円錐状のパイロットコーン53の内面に沿って下流側に流れることから、当該燃料ガスの濃度はパイロットコーン53の母線の延長線に沿う径方向外側の領域で高くなる傾向にある。上記方法によれば、この濃度の高い領域に第二位置P2を設定した上で第一位置P1との間を点火栓51に往復させることで、当該点火栓51の先端が第二位置P2に存在する時間を長く確保することができる。これにより、燃料ガスへの点火性をさらに向上させることができる。
【0048】
(6)第6の態様に係る燃焼器20の点火方法は、(1)から(4)のいずれか一態様に係る燃焼器20の点火方法であって、前記点火栓51は、前記燃焼空間Vの外部の領域に収容可能である。
【0049】
上記方法によれば、点火栓51が燃焼空間Vの外部の領域に収容可能であることから、点火栓51が燃焼空間V内の熱に曝される時間をさらに短くすることができる。これにより、点火栓51の熱による損耗を最小限に抑えることが可能となる。
【符号の説明】
【0050】
1…ガスタービン 10…圧縮機 11…圧縮機ロータ 12…圧縮機動翼列 13…圧縮機動翼 14…圧縮機ケーシング 15…圧縮機静翼列 16…圧縮機静翼 17…吸気口 20…燃焼器 21…ノズル部 22…燃焼筒 30…タービン 31…タービンロータ 32…タービン動翼列 33…タービン動翼 34…タービンケーシング 35…タービン静翼列 36…タービン静翼 40…中間ケーシング 51…点火栓 52…パイロットノズル 53…パイロットコーン 54…メインノズル 55…メインノズル筒 56…噴射孔 57…アトマイズ空気孔 61…円筒部 62…拡径部 70…仮想円 71…燃料油点火領域 72…燃料ガス点火領域 81…内筒 82…尾筒 90…ガスタービンロータ 91…ガスタービンケーシング 101…点火栓ロッド 102…点火栓駆動部 O…主軸線 P1…第一位置 P2…第二位置 P3…格納位置 V…燃焼空間 X…軸線