(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024135908
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】インクジェットインク組成物、記録方法及びセット
(51)【国際特許分類】
C09D 11/322 20140101AFI20240927BHJP
B41M 5/00 20060101ALI20240927BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20240927BHJP
B41J 2/175 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
C09D11/322
B41M5/00 120
B41J2/01 501
B41J2/175 133
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023046811
(22)【出願日】2023-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【弁理士】
【氏名又は名称】布施 行夫
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(74)【代理人】
【識別番号】100148323
【弁理士】
【氏名又は名称】川▲崎▼ 通
(74)【代理人】
【識別番号】100168860
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 充史
(72)【発明者】
【氏名】住吉 昭信
(72)【発明者】
【氏名】内田 健太
(72)【発明者】
【氏名】水瀧 雄介
【テーマコード(参考)】
2C056
2H186
4J039
【Fターム(参考)】
2C056FC01
2H186BA10
2H186DA14
2H186FB07
2H186FB11
2H186FB15
2H186FB16
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2H186FB25
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2H186FB30
2H186FB48
2H186FB58
4J039AD09
4J039AD14
4J039BA04
4J039BC07
4J039BE01
4J039BE22
4J039CA06
4J039EA36
4J039EA41
4J039EA42
4J039EA46
4J039EA48
4J039GA24
(57)【要約】
【課題】インク注入口を有するインク収容容器を有するインクジェット記録装置で用いても気泡や異物が発生しにくく、画像の堅牢性及び発色性に優れたインクジェットインク組成物を提供する。
【解決手段】自己分散顔料と、水溶性樹脂と、ベタインと、を含有し、インク注入口を有するインク収容容器を有するインクジェット記録装置で用いられるものであり、前記自己分散顔料の含有量が、インク組成物の総質量に対し3.5質量%以上8.5質量%以下であり、前記水溶性樹脂に対する前記自己分散顔料の質量比(自己分散顔料/水溶性樹脂)が、2.8以上30未満であり、前記ベタインの含有量が、インク組成物の総質量に対し2.5質量%以上9.5質量%以下である、水系のインクジェットインク組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自己分散顔料と、水溶性樹脂と、ベタインと、を含有し、
インク注入口を有するインク収容容器を有するインクジェット記録装置で用いられるものであり、
前記自己分散顔料の含有量が、インク組成物の総質量に対し3.5質量%以上8.5質量%以下であり、
前記水溶性樹脂に対する前記自己分散顔料の質量比(自己分散顔料/水溶性樹脂)が、2.8以上30未満であり、
前記ベタインの含有量が、インク組成物の総質量に対し2.5質量%以上9.5質量%以下である、水系のインクジェットインク組成物。
【請求項2】
請求項1において、
前記水溶性樹脂の含有量が、インク組成物の総質量に対し0.3質量%以上2質量%以下である、インクジェットインク組成物。
【請求項3】
請求項1又は請求項2において、
前記インク収容容器は、前記インク注入口から内底までの高さが3cm以上である、インクジェットインク組成物。
【請求項4】
請求項1又は請求項2において、
樹脂粒子の含有量が、インク組成物の総質量に対し0.1質量%未満である、インクジェットインク組成物。
【請求項5】
請求項1又は請求項2において、
前記水溶性樹脂が、アクリル系樹脂又はマレイン酸系樹脂から選択される、インクジェットインク組成物。
【請求項6】
請求項1又は請求項2において、
前記水溶性樹脂における水溶性単量体の構成比が、水溶性樹脂の全単量体を100質量%としたときに、60質量%未満である、インクジェットインク組成物。
【請求項7】
請求項1又は請求項2において、
前記ベタインが、トリアルキルグリシンから選択される、インクジェットインク組成物。
【請求項8】
請求項1又は請求項2において、
前記水溶性樹脂が酸価を有する、インクジェットインク組成物。
【請求項9】
請求項1又は請求項2において、
吸収性記録媒体への記録に用いられるものである、インクジェットインク組成物。
【請求項10】
請求項1又は請求項2において、
標準沸点が280℃超のポリオール類を含有する、インクジェットインク組成物。
【請求項11】
インク注入口を有するインク収容容器を有するインクジェット記録装置を用いて行われ、
インクジェットインク組成物を、前記インクジェット記録装置のインクジェットヘッドから吐出して記録媒体へ付着させる工程を備え、
前記インクジェットインク組成物は、請求項1又は2に記載のインクジェットインク組
成物である、記録方法。
【請求項12】
インク注入口を有するインク収容容器を有するインクジェット記録装置と、
前記インクジェット記録装置において記録に用いられるインクジェットインク組成物と、を含み、
前記インクジェットインク組成物は、請求項1又は2に記載のインクジェットインク組成物である、セット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットインク組成物、記録方法及びセットに関する。
【背景技術】
【0002】
幅広い分野でインクジェット記録が行われている。インクジェット記録は、家庭用、ビジネス用にも盛んに採用されている。また、インクカートリッジを交換する手間が少なく、連続印刷が容易な点で大型のインク収容容器を備えたインクジェットプリンターが注目されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、インク組成物を補充可能なインク室と開閉可能なインク注入口とを有し、前記インク室が外気と連通可能なインク容器に注入されるインク組成物であって、顔料と、樹脂と、有機溶剤と、を含有するインク組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されているような連続供給型インク容器は、インク室が大気に対して開放され得る、いわゆる大気開放型の容器である。このような容器に、インク注入を行うと、気泡の発生、インク液面の気液界面でインクの成分の異物化などが懸念される。
【0006】
インクに気泡や異物が発生すると、目詰まりの原因となる。例えば、インクに樹脂粒子が含まれると、この傾向が大きい。一方、インクは、記録媒体に付着後、耐擦性が優れることが求められる。また発色性が優れることが求められる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るインクジェットインク組成物の一態様は、水系のインクジェットインク組成物であって、
自己分散顔料と、水溶性樹脂と、ベタインと、を含有し、
インク注入口を有するインク収容容器を有するインクジェット記録装置で用いられるものであり、
前記自己分散顔料の含有量が、インク組成物の総質量に対し3.5質量%以上8.5質量%以下であり、
前記水溶性樹脂に対する前記自己分散顔料の質量比(自己分散顔料/水溶性樹脂)が、2.8以上30未満であり、
前記ベタインの含有量が、インク組成物の総質量に対し2.5質量%以上9.5質量%以下である。
【0008】
本発明に係る記録方法の一態様は、
インク注入口を有するインク収容容器を有するインクジェット記録装置を用いて行われ、
インクジェットインク組成物を、前記インクジェット記録装置のインクジェットヘッドから吐出して記録媒体へ付着させる工程を備え、
前記インクジェットインク組成物は、上述のインクジェットインク組成物である。
【0009】
本発明に係るセットの一態様は、
インク注入口を有するインク収容容器を有するインクジェット記録装置と、
前記インクジェット記録装置において記録に用いられるインクジェットインク組成物と、を含み、
前記インクジェットインク組成物は、上述のインクジェットインク組成物である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】記録装置の第1実施形態の概略構成を透視状態で模式的に示す斜視図。
【
図2】記録装置の筐体内に備えられたインク供給ユニットを示す斜視図。
【
図5】キャップが取り外された状態にあるインク収容容器の斜視図。
【
図6】インク収容容器に対するインク補給作業中の状態を示す一部破断正面図。
【
図10】比較例の組成物の配合等を示す表(表4)。
【
図11】実施例の組成物の評価結果を示す表(表5)。
【
図12】実施例の組成物の評価結果を示す表(表6)。
【
図13】比較例の組成物の評価結果を示す表(表7)。
【
図14】比較例の組成物の評価結果を示す表(表8)。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明の実施形態について説明する。以下に説明する実施形態は、本発明の例を説明するものである。本発明は以下の実施形態になんら限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される各種の変形形態も含む。なお、以下で説明される構成の全てが本発明の必須の構成であるとは限らない。
【0012】
1.インクジェットインク組成物
本実施形態のインクジェットインク組成物は、自己分散顔料と、水溶性樹脂と、ベタインと、を含有する水系の組成物である。そして、インク注入口を有するインク収容容器を有するインクジェット記録装置で用いられる。
【0013】
1.1.自己分散顔料
本実施形態のインクジェットインク組成物は、自己分散顔料を含有する。自己分散顔料とは、樹脂あるいは界面活性剤などの分散剤なしに水性媒体中に分散及び/又は溶解することが可能な顔料である。ここで、「分散剤なしに水性媒体中に分散及び/又は溶解」とは、顔料を分散させるための分散剤を用いなくても、その表面の親水基により、顔料が水性媒体中に安定に存在している状態を指す。
【0014】
自己分散顔料を含有するインクジェットインク組成物は、顔料を分散させるための分散剤を含有させる必要が無く、分散剤に起因する気泡の発生や消泡性の低下がほとんど無く、吐出安定性に優れたものとしやすい。また、分散剤に起因する気液界面での乾燥による異物の発生が抑えられることから吐出信頼性にも優れる。また、分散剤に起因する大幅な粘度上昇が抑えられるため、顔料をより多く含有させることが可能となり、印字濃度をより高めることができる。
【0015】
さらに、自己分散顔料は、記録媒体にカルシウムが含まれる場合には、これと反応することにより、発色性に優れた画像を形成しやすい。リン酸基やホスホン酸基などのリン含有基、カルボキシ基、スルホ基などが表面に結合した自己分散顔料であると、そのような
発色性が得られやすい。特にリン含有基が表面に結合した自己分散顔料においてこの傾向が強く好ましい。特にリン酸基が好ましい。
【0016】
自己分散顔料は、顔料粒子の表面にアニオン性樹脂を物理的に吸着させたものや、アニオン性樹脂で顔料を包含して分散された樹脂分散顔料と比べ、画像の定着性はやや劣る傾向があるが、本実施形態のインクジェットインク組成物は、後述する水溶性樹脂を用いることにより画像の定着性を優れたものとできる。
【0017】
自己分散顔料としては、親水基が直接又は他の原子団を介して顔料表面に結合してなる顔料が挙げられ、例えば、顔料粒子の表面にアニオン性基を含む官能基を結合させたものや、顔料粒子の表面にアニオン性樹脂を化学的に結合させたものが挙げられる。
【0018】
自己分散顔料の表面が有する親水基としては、-OM、-COOM、-CO-、-SO3M、-SO2M、-SO2NH2、-RSO2M、-PO3HM、-PO3M2、-SO2NHCOR、-NH3、-NR3、及びプロピレンオキシ鎖の水素原子の一部がMに置換された基などが挙げられる。式中のMは、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、又は有機アミンを表し、Rは、炭素原子数1以上12以下のアルキル基又は置換基を有していてもよいナフチル基を表す。
【0019】
また、他の原子団としては、炭素原子数1以上12以下の直鎖又は分岐のアルキレン基、フェニレン基、ナフチレン基、アミド基、スルホニル基、アミノ基、カルボニル基、エステル基、エーテル基及びこれらの基を組み合わせた基などが挙げられる。
【0020】
これらの自己分散顔料としては、公知の方法により酸化処理によりアニオン性基を顔料粒子の表面に結合させたものや、ジアゾカップリングなどアニオン性基を含む官能基を顔料粒子の表面に結合させたものが挙げられ、いずれも好適に用いることができる。顔料粒子の表面にアニオン性樹脂を結合させた自己分散顔料は、親水性ユニットとして、少なくともアニオン性基を有するユニットを有する樹脂が、顔料粒子の表面に直接又は他の原子団を介して結合してなるものである。
【0021】
自己分散型とし得る顔料としては、特に制限されず、顔料種としては、カーボンブラック、炭酸カルシウム、酸化チタンなどの無機顔料、アゾ顔料、イソインドリノン顔料、ジケトピロロピロール顔料、フタロシアニン顔料、キナクリドン顔料、アントラキノン顔料などの有機顔料などを用いてもよい。
【0022】
ブラック顔料としては、No.2300、No.900、MCF88、No.33、No.40、No.45、No.52、MA7、MA8、MA100、No.2200B等(以上、三菱化学株式会社製)、Raven 5750、Raven 5250、Raven 5000、Raven 3500、Raven 1255、Raven 700等(以上、コロンビアカーボン社製)、Rega1 400R、Rega1 330R、Rega1 660R、Mogul L、Monarch 700、Monarch 800、Monarch 880、Monarch 900、Monarch 1000、Monarch 1100、Monarch 1300、Monarch 1400等(以上、キャボット社製)、Color Black FW1、Color Black FW2、Color Black FW2V、Color Black FW18、Color Black FW200、Color B1ack S150、Color Black S160、Color Black S170、Printex 35、Printex U、Printex V、Printex 140U、Special Black 6、Special Black 5、Special Black 4A、Special Black 4(以上、デグッサ社製)等が挙げられる。
【0023】
ホワイト顔料としては、C.I.ピグメントホワイト 1(塩基性炭酸鉛)、4(酸化亜鉛)、5(硫化亜鉛と硫酸バリウムの混合物)、6(酸化チタン),6:1(他の金属酸化物を含有する酸化チタン)、7(硫化亜鉛)、18(炭酸カルシウム),19(クレー)、20(雲母チタン)、21(硫酸バリウム)、22(天然硫酸バリウム)、23(グロスホワイト)、24(アルミナホワイト)、25(石膏)、26(酸化マグネシウム・酸化ケイ素)、27(シリカ)、28(無水ケイ酸カルシウム)等が挙げられる。
【0024】
イエロー顔料としては、C.I.ピグメントイエロー 1、2、3、4、5、6、7、10、11、12、13、14、16、17、24、34、35、37、53、55、65、73、74、75、81、83、93、94、95、97、98、99、108、109、110、113、114、117、120、124、128、129、133、138、139、147、151、153、154、167、172、180等が挙げられる。
【0025】
マゼンタ顔料としては、C.I.ピグメントレッド 1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、14、15、16、17、18、19、21、22、23、30、31、32、37、38、40、41、42、48(Ca)、48(Mn)、57(Ca)、57:1、88、112、114、122、123、144、146、149、150、166、168、170、171、175、176、177、178、179、184、185、187、202、209、219、224、245、及びC.I.ピグメントバイオレット19、23、32、33、36、38、43、50等が挙げられる。
【0026】
シアン顔料としては、C.I.ピグメントブルー 1、2、3、15、15:1、15:2、15:3、15:34、15:4、16、18、22、25、60、65、66、及びC.I.バットブルー 4、60等が挙げられる。
【0027】
ブラック、ホワイト、イエロー、マゼンタ及びシアン以外の顔料としては、例えば、C.I.ピグメントグリーン 7、10、及びC.I.ピグメントブラウン 3、5、25、26、及びC.I.ピグメントオレンジ 1、2、5、7、13、14、15、16、24、34、36、38、40、43、63等が挙げられる。
【0028】
なお、カラー顔料としては、カラーインデックスに記載されているピグメントイエロー、ピグメントレッド、ピグメントバイオレット、ピグメントブルーなどの顔料の他、フタロシアニン系、アゾ系、アントラキノン系、アゾメチン系、縮合環系などの顔料が挙げられる。また、黄色4号、5号、205号、401号;橙色228号、405号;青色1号、404号などの有機顔料や、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、酸化鉄、群青、紺青、酸化クロームなどの無機顔料が挙げられる。
【0029】
上記例示した顔料は、アニオン性基が直接又は他の原子団を介して粒子表面に結合してなる顔料とすることができる。
【0030】
例えば、カーボンブラックを自己分散顔料とする場合、例えば、カーボンブラックに物理的処理又は化学的処理を施すことで、親水基をカーボンブラックの表面に結合(グラフト)させることにより製造される。このような物理的処理としては、例えば、真空プラズマ処理などが挙げられる。また化学的処理としては、例えば、次亜ハロゲン酸及び/又は次亜ハロゲン酸塩による酸化処理、オゾンによる酸化処理、又は過硫酸及び/又は過硫酸塩による酸化処理などが挙げられる。
【0031】
また、自己分散顔料としたカーボンブラックとしては、市販品を用いることもでき、例
えば、CAB-O-JET(登録商標)300(キャボット・スペシャリティ・ケミカルズ・インク社製)などが挙げられる。
【0032】
一方、カーボンブラック以外の顔料の自己分散顔料としては、例えば、顔料表面にフェニル基を介して親水基を結合させたものが挙げられる。親水基である上記官能基あるいはその塩を顔料表面にフェニル基を介して、結合させる表面処理手段としては、種々の公知の表面処理手段を適用することができ、スルファニル酸、p-アミノ安息香酸、4-アミノサリチル酸などを顔料表面に結合させることによりフェニル基を介して親水基を結合させる方法などが挙げられる。
【0033】
このようなカラー顔料の自己分散顔料としては、市販品を用いることもでき、例えば、CAB-O-JET(登録商標)250C、CAB-O-JET(登録商標)260M、CAB-O-JET(登録商標)470Y(以上、キャボット・スペシャリティ・ケミカルズ・インク社製)などが挙げられる。
【0034】
自己分散顔料(固形分)の含有量は、インクジェットインク組成物の総質量に対し3.5質量%以上8.5質量%以下である。また、自己分散顔料(固形分)の含有量は、インクジェットインク組成物の総質量に対し、好ましくは4質量%以上であり、より好ましくは4.5質量%以上である。また、自己分散顔料(固形分)の含有量は、インクジェットインク組成物の総質量に対し、好ましくは8質量%以下であり、より好ましくは7.5質量%以下であり、特に好ましくは7質量%以下である。自己分散顔料の含有量が上記範囲内にあると、発色性や目詰まり回復性により優れる場合がある。
【0035】
本実施形態のインクジェットインク組成物においては、水溶性樹脂に対する自己分散顔料の質量比(自己分散顔料/水溶性樹脂)は、2.8以上30未満となるように、両者の配合量が設定される。また、かかる質量比は、3.0以上28未満が好ましく、3.2以上25未満がさらに好ましい。
【0036】
自己分散顔料に対して水溶性樹脂の量が少ないと、画像の耐擦性が劣る場合があり、自己分散顔料に対して水溶性樹脂の量が多いと、目詰まり性が悪くなる場合がある。
【0037】
1.2.水溶性樹脂
本実施形態のインクジェットインク組成物は、水溶性樹脂を含有する。水溶性樹脂は、主として画像の定着性に寄与する。また、水溶性樹脂は、界面活性作用が小さいので、これにより注入口からインク収容容器にインクジェットインク組成物が注入される際の、気泡の発生が抑制される。
【0038】
水溶性樹脂は、樹脂粒子とは異なり、気液界面においてより異物化し難い。しかし、やはり気液界面などで乾燥した場合には、乾燥固化した成分により、目詰まり性を悪化させる場合があった。水溶性樹脂は親水性が強いので、水が乾燥し、疎水性の環境となった時に、異物化し、これが再溶解しにくくなることがある。特に、水溶性樹脂と、親水化処理された自己分散顔料とが、水が乾燥し、疎水性の環境となった時に、複合異物化し、これが再溶解しにくくなると推測する。
【0039】
本実施形態のインクジェットインク組成物では、後述するベタインを含むことにより、ベタインが水溶性樹脂を取り込んだ(吸収した)状態が形成されていると考えられ、これにより、水溶性樹脂の異物化が抑制され、異物化したとしても再溶解性が得られると推測できる。これにより目詰まり性が良好となると考えられる。
【0040】
また、水溶性樹脂は、インクジェットインク組成物中の自己分散顔料など他の成分と混
合した異物を生じる場合もあるが、本実施形態のインクジェットインク組成物では、後述するベタインを含むことにより、ベタインが水溶性樹脂を含む異物を取り込んだ(吸収した)状態が形成されていると考えられ、これにより、異物化が抑制され、異物化したとしても再溶解性が得られると推測できる。これにより目詰まり性が良好となると考えられる。
【0041】
また水溶性樹脂は、画像の堅牢性も高めることができる。画像の堅牢性を高めるという水溶性樹脂のメカニズムは、分散体粒子による画像の堅牢性向上のメカニズムとは異なる。水溶性樹脂は、記録媒体に含むCa(カルシウム)との反応により記録媒体に画像を定着させる作用を有すると考えられる。一方、樹脂粒子は、水分蒸発による樹脂の定着が主なメカニズムであり、樹脂の定着には比較的時間を要する。そのため、印刷からある程度時間が経過すると有意差は見られないが、印刷直後で比較すると水溶性樹脂のほうがより早期に優れた堅牢性を発揮できる。水溶性樹脂は、このような記録媒体のCaとの反応によりインク成分を記録媒体上に早期に定着させるので発色性にもより優れる。
【0042】
本明細書では、水溶性樹脂は、顔料を分散させるために用いられる顔料分散用の樹脂(顔料分散樹脂)とは異なり、顔料に吸着などにより付着したものではなく、インク中で溶解している樹脂を指す。なお、本明細書において、「水溶性」とは、20℃のイオン交換水に対して、3質量%以上溶解することが可能な特性をいい、5質量%以上溶解することが好ましく、10質量%以上溶解することがより好ましく、25質量%以上溶解することがさらに好ましい。溶解することが可能とは、水と樹脂とを混合し攪拌後、溶け残りや白濁や層分離が見えないことをいう。また樹脂が水に分散している樹脂分散体(樹脂粒子)では無く、樹脂が水に溶解している。
【0043】
水溶性樹脂の特性としては、アニオン性樹脂、ノニオン性樹脂、カチオン性樹脂が挙げられる。本実施形態のインクジェットインク組成物では、アニオン性樹脂を用いることが好ましい。すなわち、水溶性樹脂は、構造中に酸性基を有し、酸価を有することが好ましい。酸性基は塩になっていてもよい。酸性基としては、カルボキシ基、スルホニル基、リン酸基などが挙げられ、カルボキシ基がより好ましい。
【0044】
水溶性樹脂の酸価は、200[KOHmg/g]以上700[KOHmg/g]以下であることが好ましく、250[KOHmg/g]以上600[KOHmg/g]以下であることがより好ましく、350[KOHmg/g]以上450[KOHmg/g]以下であることがさらに好ましい。水溶性樹脂の酸価が上記範囲内にあると、疎水基及び親水基のバランスが良好であるので、水への溶解性に優れつつ、耐水性の良好な画像を得ることができる。
【0045】
一方、水溶性樹脂の酸価が上記範囲未満であると、水溶性樹脂の水への溶解性が低下して、異物を生じやすくなる場合がある。また、水溶性樹脂の酸価が上記範囲を超えると、水溶性樹脂の水への溶解性が高くなりすぎて、画像の耐水性が低下する場合がある。なお、「酸価」とは、上記水溶性樹脂1gを中和するのに要するKOH(mg)の量である。酸価は滴定により測定する。例えば、JIS K 0070:1992記載の方法(電位差滴定法)により測定することができる。
【0046】
水溶性樹脂の種類としては、例えば、アクリル系樹脂、マレイン酸系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂などが挙げられ好ましい。
【0047】
アクリル系樹脂は、アクリル系単量体を少なくとも用いて重合させた樹脂である。マレイン酸系樹脂は、マレイン酸又はマレイン酸誘導体を少なくとも用いて重合させた樹脂である。より具体的には、アクリル系樹脂、スチレン-アクリル系樹脂、スチレン-マレイ
ン酸系樹脂、アクリロニトリル-アクリル系樹脂、酢酸ビニル-アクリル系樹脂、などが挙げられる。また、水溶性樹脂は、アクリル系樹脂又はマレイン酸系樹脂から選択されることが好ましい。
【0048】
さらに、スチレン-マレイン酸系樹脂のようなマレイン酸又はマレイン酸誘導体を少なくとも用いて重合させたマレイン酸系樹脂がより好ましい。言い換えると、マレイン酸系樹脂とは、マレイン酸類に由来する構造を有する高分子化合物である。
【0049】
なおアクリル系単量体と、マレイン酸又はマレイン酸誘導体と、を少なくとも用いて重合させた樹脂は、マレイン酸系樹脂とする。
【0050】
マレイン酸類としては、エチレンの炭素-炭素二重結合で結合する隣り合う炭素原子のそれぞれにカルボキシル基が1つずつ結合した構造を有する化合物や、これの誘導体である化合物が挙げられる。
【0051】
マレイン酸類の具体例としては、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、無水シトラコン酸、メサコン酸等が挙げられる。マレイン酸類は、上記の隣り合う炭素原子のそれぞれに結合したカルボキシル基が、脱水環化したものや、エステル化したものでもよい。カルボキシル基が塩を形成したものもカルボキシル基に含める。
【0052】
上記の誘導体としては、カルボキシル基が上記のように誘導されたものや、エチレン骨格がさらに置換基を有するものなどが挙げられる。
【0053】
マレイン酸類の中でも、マレイン酸や、マレイン酸のカルボキシル基が誘導されたものを用いることが好ましい。
【0054】
マレイン酸系樹脂は、マレイン酸類に由来するカルボキシル基が、脱水環化したものや、エステル化したものでもよい。カルボキシル基が塩を形成したものもカルボキシル基に含める。
【0055】
マレイン酸類に由来する構造を有する高分子化合物は、マレイン酸類が少なくとも用いられて重合や共重合が行われて得られた高分子化合物であることができる。
【0056】
マレイン酸系樹脂は、マレイン酸類の重合体であってもよいし、マレイン酸類及び他のモノマーの共重合体であってもよい。この場合の他のモノマーとしては、例えば、スチレン、ビニルナフタレン、酢酸ビニル等のビニルモノマーや、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸のエステル類等のアクリルモノマーを挙げることができる。
【0057】
マレイン酸系樹脂は、マレイン酸類に由来する構造を有し、隣り合う炭素原子にカルボキシル基又はカルボキシル基に由来する構造を有する。ここで、例えばアクリル酸の重合体は、一般的に公知の手法によって重合すると、いわゆるヘッド-テイルで重合することから、隣り合う炭素にカルボキシル基が配置されることは、統計的にまれである。そのため、アクリル酸類の重合体は、マレイン酸類を重合する場合と比較すれば、重合体においてカルボキシル基が主鎖の炭素鎖において隣り合って配置されることはまれである。これにより、例えばNMR(核磁気共鳴法)等により、隣り合うカルボキシル基の由来がマレイン酸類に由来するものかどうかの確認が可能である。
【0058】
マレイン酸系樹脂のカルボキシル基は、エステル化されたものであってもよい。例えば、水酸基を有する化合物によりエステル化されたものでもよい。マレイン酸類に由来する構造の2つのカルボキシル基は、エステル化されていなくてもよいし、一方がエステル化
されていてもよいし、両方がエステル化されていてもよい。
【0059】
また、マレイン酸類に由来する構造のカルボキシル基がエステル化されていない場合には、水系のインクジェットインク組成物中でカルボン酸として存在してもよいし、アンモニア、アルカノールアミン又はアルキルアミンで部分的あるいは完全に中和されていてもよい。
【0060】
マレイン酸系樹脂は、マレイン酸類のカルボキシル基に由来する構造を多く含むことから水溶性を有する。そのため、水系のインクジェットインク組成物中では、マレイン酸系樹脂の分子鎖が広がりを有している。これにより、インクジェットインク組成物と凝集剤とが混合した場合に、マレイン酸系樹脂が凝集剤と出会う確率が高まっている。そのため、マレイン酸系樹脂は、凝集性が良好であり、これによりインクセットを用いて得られる画像の画質を高めることができる。
【0061】
マレイン酸系樹脂のマレイン酸類に由来する構造の2つのカルボキシル基のうち、一方がエステル化されると、得られる画像の耐水性が向上する傾向がある。また、マレイン酸類に由来する構造の2つのカルボキシル基がエステル化されていない場合には、得られる画像の耐水性が低下する傾向がある。エステル化の程度により、マレイン酸系樹脂の親水性及び疎水性のバランスを調節することができ、これによりインクジェットインク組成物の保存安定性をより良好とできるとともに、得られる画像の耐水性をさらに向上することができる。例えば、スチレン無水マレイン酸ハーフエステル共重合体塩は、親水性及び疎水性のバランスの点で好ましい。これはエステル化されたカルボキシル基は疎水性が高く、反応時の不溶化、固液分離を促進しているためと推測される。
【0062】
なおマレイン酸系樹脂が、無水マレイン酸に由来する構造を含む場合、水中では、無水物が加水によりカルボキシル基になっていると考えられる。
【0063】
なお、マレイン酸系樹脂は、水溶性樹脂であり、顔料分散剤とは異なり、インクジェットインク組成物中で顔料などに吸着等をせずインクの溶媒成分である水に溶解した溶液として存在するものを用いる。本項で説明しているマレイン酸系樹脂は、インクが顔料分散剤で分散された顔料を含有する場合、顔料分散剤とは別途、インクに含有されるものである。
【0064】
マレイン酸系樹脂は、その粒子を構成する樹脂の骨格や官能基の数、性質に依存して、後述するプロピオン酸カルシウム等の凝集剤の作用により凝集性を示す。
【0065】
マレイン酸系樹脂は、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基等の酸性基を有することが好ましい。すなわち、マレイン酸類に由来するカルボキシル基が酸又は塩の状態で存在する場合や、マレイン酸類に由来するカルボキシル基の全部がエステル化された場合であっても骨格やエステル基にカルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基等の酸性基を酸又は塩の状態で有することが好ましい。また、当該酸性基は、アンモニア、アルカノールアミン又はアルキルアミンで部分的あるいは完全に中和されていてもよい。
【0066】
マレイン酸系樹脂の市販品としては、例えば、SNディスパーサント5027、5029(以上、サンノプコ株式会社製)、サンスパールPS-8(三洋化成工業株式会社製)、マリアリムHKM-50A、150A、AKM-0531、SC-0505K、ポリスターOMA(以上、日油株式会社製)、デモールP、EP、ST、ボイズ520、521(以上、花王株式会社製)、ポリティA550(ライオン株式会社製)、アラスター703S、ポリマロン1318、351T、385、372、375CB、482、482S、1329(以上、荒川化学工業株式会社製)、XIRAN1440H、2625H、1
000H、2000H、3000H(以上、ポリスコープ社製)、イソバン-104(株式会社クラレ製)、フローレンG-700AMP、G-700DMEA(以上、共栄社化学株式会社製)等が挙げられる。
【0067】
水溶性樹脂において、その分子構造における水溶性単量体の構成比は、水溶性樹脂の全単量体を100質量%としたときに、90質量%以下が好ましい。さらには、80%以下が好ましく、60質量%未満であることが好ましく、50質量%以下であることがより好ましい。また、水溶性樹脂の分子構造における水溶性単量体の構成比は、水溶性樹脂の全単量体を100質量%としたときに、10質量%以上が好ましい。さらには25質量%以上であることが好ましく、30質量%以上であることがより好ましい。さらには40質量%以上が好ましい。
【0068】
水溶性樹脂の分子構造における水溶性単量体の構成比が、上記範囲よりも小さいと、十分な水溶性が得られず、水溶性ポリマーとみなせず、分散樹脂(樹脂粒子)の様相となる。一方、上記範囲よりも大きいと、水分蒸発時すなわちインクジェットインク組成物が、疎水的な状態になった際に、水溶性樹脂が析出しやすく、目詰まり性が悪化する場合がある。
【0069】
水溶性のウレタン系樹脂としては、分子構造中に極性基を有する水溶性のウレタン樹脂を意味する。極性基は塩の状態であってもよい。また、極性基は酸性基であることが好ましい。酸性基は、例えば、カルボキシル基、スルホン酸基、及びリン酸基などのリン含有基などが挙げられる。
【0070】
水溶性のウレタン系樹脂は、ポリイソシアネート、及びポリオールに由来する繰り返し単位を有するが、その中でも酸基を有するポリオールに由来する繰り返し単位を有するものが好ましく、ポリイソシアネート、酸基を有しないポリオール、及び酸基を有するポリオールのそれぞれに由来する繰り返し単位を有する樹脂が好ましい。水溶性のウレタン系樹脂は、さらに、ポリアミンに由来する繰り返し単位を有していてもよい。
【0071】
水溶性のポリエステル系樹脂は、ポリエステル構造を有する樹脂であればよい。水溶性樹脂は、他にも、ノニオン性の水溶性樹脂として、ポリエチレンオキシド、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、酢酸セルロース、ポリビニルアルコール、又はこれらの塩などが挙げられる。
【0072】
水溶性樹脂の重量平均分子量Mwは、5000以上150000以下が好ましく、10000以上100000以下がより好ましく、15000以上50000以下がさらに好ましく、20000以上30000以下がよりさらに好ましく、20000以上23000以下が殊更に好ましい。
【0073】
分子量範囲が下限値以上であることで、インクジェットインク組成物の粘度を好適にでき、例えば良好な発色性を得ることができる。分子量範囲が上限値以下であることで、インクジェットインク組成物の粘度がインクジェット法においてより好適なものとなる。
【0074】
本明細書において、水溶性樹脂の分子量は、GPC法により、測定されるものをいい、標品に対する分子量である。分子量の測定は、水溶性樹脂単体で行ってもよいし、インクジェットインク組成物としたものについて行ってもよい。この場合、インクジェットインク組成物に含有されている成分が特定されていることが好ましい。
【0075】
水溶性樹脂の含有量は、インクジェットインク組成物の総質量に対し、0.1質量%以
上10.0質量%以下であることが好ましく、0.2質量%以上5.0質量%以下であることがより好ましく、0.3質量%以上2質量%以下である、0.4質量%以上1.8質量%以下であることがより好ましい。このような範囲であれば、十分な画像の定着性を得ることができる。また耐目詰まり性もより優れる。
【0076】
本実施形態のインクジェットインク組成物においては、水溶性樹脂に対する自己分散顔料の質量比(自己分散顔料/水溶性樹脂)は、2.8以上30未満となるように、両者の配合量が設定される。また、かかる質量比は、3.0以上28以下が好ましく、3.2以上25以下がさらに好ましい。さらに3.5~20が好ましく、4.0~10.0が好ましく、5.0~8.0がより好ましく、5.5~7.0がさらに好ましい。
【0077】
自己分散顔料に対して水溶性樹脂の量が少ないと、画像の耐擦性が劣る場合があり、自己分散顔料に対して水溶性樹脂の量が多いと、目詰まり性が悪くなる場合がある。
【0078】
1.3.ベタイン
ベタインとは、正電荷と負電荷を同一分子内の隣り合わない位置に有しており、正電荷を持つ原子には解離しうる水素が結合しておらず、分子内塩を構成し得るものであり、分子全体としては電荷を持たない化合物を意味する。本実施形態において、ベタインは、正電荷部位が第4級アンモニウムカチオンであるものが好ましい。
【0079】
インクジェットインク組成物がベタインを含むことにより、インクジェットインク組成物がインクジェットヘッドのノズルで乾燥することに起因するインクジェットインク組成物の飛行曲がりや不吐出を抑制することができ、目詰まり性を優れたものにできる。また、すでに述べたが、ベタインが上述の水溶性樹脂を取り込んだ(吸収した)状態が形成されていると考えられ、これにより、水溶性樹脂の異物化が抑制され、異物化したとしても再溶解性が得られると推測できる。これにより目詰まり性が良好となると考えられる。
【0080】
ベタインとしては、特に制限されないが、例えば、トリメチルグリシン、トリエチルグリシンなどのトリアルキルグリシン、γ-ブチロベタイン、ホマリン、トリゴネリン、カルニチン、ホモセリンベタイン、バリンベタイン、リジンベタイン、オルニチンベタイン、アラニンベタイン、スタキドリン、及びグルタミン酸ベタイン等が挙げられる。その中でも、インクジェットインク組成物に含有されるグリシンとして、トリアルキルグリシンから選択されることが好ましく、トリメチルグリシンを含むことがより好ましい。
【0081】
トリアルキルグリシンは、グリシンの窒素原子にアルキル基が3個置換した化合物である。それにより、目詰まり性がより向上する傾向にある。なお、ベタインは、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0082】
ベタインを構成する炭素数は、好ましくは4以上12以下であり、より好ましくは4以上7以下であり、さらに好ましくは4以上6以下である。ベタインの炭素数が上記範囲内であることにより、上記作用がより顕著となる傾向にある。
【0083】
ベタインの含有量は、インクジェットインク組成物の総質量に対して、2.5質量%以上9.5質量%以下である。また、ベタインの含有量は、インクジェットインク組成物の総質量に対して、好ましくは3質量%以上8質量%以下であり、さらに好ましくは4質量%以上6質量%以下である。ベタインの含有量が上記範囲内であることにより、水溶性樹脂の異物化を抑制できる。ベタインの含有量が上記範囲よりも少ないと、水溶性樹脂の乾燥固化の抑制が不十分となりやすく、目詰まり性が劣る場合がある。また、ベタインの含有量が上記範囲よりも多いと、ベタイン自身が乾燥したときのベタインの乾燥固化が増える傾向があり、目詰まり性が悪化する場合がある。
【0084】
1.4.水
本実施形態のインクジェットインク組成物は、水を含有する水系の組成物である。「水系」の組成物とは、水を主要な溶媒の1つとする組成物のことである。水としては、例えば、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、及び蒸留水等の純水、並びに超純水のような、イオン性不純物を低減したものが挙げられる。また、紫外線照射又は過酸化水素の添加等によって滅菌した水を用いると、インクジェットインク組成物を長期保存する場合に細菌類や真菌類の発生を抑制することができる。
【0085】
水の含有量は、インクジェットインク組成物の総量(100質量%)に対して、30質量%以上、好ましくは40質量%以上であり、より好ましくは45質量%以上であり、さらに好ましくは50質量%以上である。また、水の含有量の上限は、インク組成物の総量(100質量)に対して、好ましくは97質量%以下、さらには90質量%以下であり、より好ましくは85質量%以下であり、さらに好ましくは80質量%以下である。
【0086】
1.5.その他の成分
本実施形態のインクジェットインク組成物は、上記成分の他に、以下の成分を含有してもよい。
【0087】
1.5.1.有機溶剤
本実施形態のインクジェットインク組成物は、有機溶剤を含有してもよい。有機溶剤としては、例えば、アルキルポリオール、グリコールエーテル、含窒素類等が挙げられる。有機溶剤としては、水溶性有機溶剤が好ましい。
【0088】
1.5.1.1.アルキルポリオール
本実施形態のインクジェットインク組成物は、アルキルポリオールを含んでもよい。アルキルポリオールは、骨格部分を有し、2個以上の水酸基を有する(2個以上の水酸基で置換された)化合物である。骨格部分は、アルキル鎖、ポリアルキレンオキシ鎖などがあげられる。分子中の水酸基数は2以上であり、2以上4以下が好ましく、2又は3個がより好ましい。分子中の炭素数は2以上10以下が好ましい。
【0089】
アルキルポリオールには、多価アルコールが概念上含まれるが、アルキルポリオールを含む場合には、インクジェットインク組成物の保湿性を高め、インクジェット法による吐出安定性を優れたものとしつつ、長期放置時による記録ヘッドからの水分蒸発を効果的に抑制することができる。また、これにより、ノズルの目詰まりを生じやすい種の色材を用いた場合でも、放置回復性や連続吐出安定性をより良好に維持することができる。
【0090】
アルキルポリオールの具体例としては、1,2-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,2-ヘプタンジオール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2-エチル-2-メチル-1,3-プロパンジオール、2-メチル-2-プロピル-1,3-プロパンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、3-メチル-1,3-ブタンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチルペンタン-2,4-ジオール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール等が挙げられる。これらのアルキルポリオールは、1種単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。
【0091】
インクジェットインク組成物は、アルキルポリオールのうち、炭素数3以上6以下のアルカンジオールを含むことがより好ましい。炭素数3以上6以下のアルカンジオールとしては、1,2-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,2-ヘプタンジオール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2-エチル-2-メチル-1,3-プロパンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、3-メチル-1,3-ブタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチルペンタン-2,4-ジオールを挙げることができる。
【0092】
インクジェットインク組成物が、炭素数3以上6以下のアルカンジオールを含む場合には、粘度がさらに抑制され、かつ、より良好な吐出安定性(連続吐出信頼性)を高めることができる場合がある。また、色材の溶解性や分散性を良好としやすく、良好な目詰まり回復性を得ることができる。
【0093】
インクジェットインク組成物は、アルキルポリオールを含む場合には、標準沸点が280℃超のポリオール類を含有することがより好ましい。標準沸点が280℃超のポリオール類としては、グリセリン、トリエチレングリコール等が挙げられる。このようなポリオール類を含むことにより、インクジェットインク組成物の乾燥速度を抑制でき、目詰まり性や吐出安定性をより良好にできる場合がある。
【0094】
アルキルポリオールを用いる場合、その含有量は、インクジェットインク組成物の全量に対して、2質量%以上30質量%以下が好ましく、5質量%以上20質量%以下がより好ましく、8質量%以上15質量%以下がさらに好ましい。
【0095】
1.5.1.2.グリコールエーテル
本実施形態のインクジェットインク組成物は、グリコールエーテルを含んでもよい。グリコールエーテルとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールから選択されるグリコールのモノアルキルエーテル又はジアルキルエーテルを挙げることができる。より具体的には、メチルトリグリコール(トリエチレングリコールモノメチルエーテル)、ブチルトリグリコール(トリエチレングリコールモノブチルエーテル)、ブチルジグリコール(ジエチレングリコールモノブチルエーテル)、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル等が挙げられ、典型例としてジエチレングリコールモノブチルエーテルが挙げられる。
【0096】
インクジェットインク組成物は、グリコールエーテルのうち、下記式(1)で表されるグリコールエーテルから選択される1種以上を、含有することがさらに好ましい。
R1-O-(CH2-CH2-O)n-R2 ・・・(1)
(式(1)中、R1は、H又は炭素数1以上4以下のアルキル基を表し、R2は、炭素数1以上4以下のアルキル基を表し、nは、2以上3以下の整数を表す。)
【0097】
式(1)で表されるグリコールエーテルとしては、メチルトリグリコール(トリエチレングリコールモノメチルエーテル)、ブチルトリグリコール(トリエチレングリコールモノブチルエーテル)、ブチルジグリコール(ジエチレングリコールモノブチルエーテル)、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル等を例示できる。
【0098】
グリコールエーテルは、複数種を混合して用いてもよい。また、グリコールエーテルを
用いる場合、その配合量は、インクジェットインク組成物の粘度調整、保湿効果による目詰まり抑制の点から、インクジェットインク組成物の全量に対して合計で、0.5質量%以上30質量%以下、好ましくは1.0質量%以上20質量%以下、より好ましくは3.0質量%以上10.0質量%以下である。
【0099】
1.5.1.3.含窒素類
本実施形態のインクジェットインク組成物は、含窒素類を含んでもよい。含窒素類は、インクジェットインク組成物の固化や乾燥を抑制するという効果を期待できる。含窒素類は、例えばアミド類が好ましい。アミド類は、環状アミド、非環状アミドが挙げられる。
【0100】
環状アミドとしては、アミド基を含む環構造を有する化合物が挙げられる。そのような化合物としては、2-ピロリドン、1-メチル-2-ピロリドン(N-メチル-2-ピロリドン)、1-エチル-2-ピロリドン(N-エチル-2-ピロリドン)、1-プロピル-2-ピロリドン、1-ブチル-2-ピロリドン、N-ビニル-2-ピロリドン(NVP)等のγ-ラクタム類、β-ラクタム類、δ-ラクタム類、ε-カプロラクタム等のε-ラクタム類等が挙げられる。これらの環状アミドは、1種単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。
【0101】
1.5.1.4.その他の有機溶剤
本実施形態のインクジェットインク組成物は、その他の有機溶媒を含んでもよい。その他の有機溶剤の例としては、γ-ブチロラクトン等のラクトン類、ベタイン化合物等が挙げられる。
【0102】
有機溶剤の含有量は、インクジェットインク組成物の全量に対して、2質量%以上30質量%以下が好ましく、5質量%以上20質量%以下がより好ましく、8質量%以上15質量%以下がさらに好ましい。
【0103】
1.5.2.樹脂粒子
インクジェットインク組成物は、樹脂粒子を含有してもよい。樹脂粒子を分散体樹脂ともいう。樹脂粒子は、目詰まり性の低下を招きやすいので、含有する又は含有しない場合において、インクジェットインク組成物の総質量に対し、1質量%以下が好ましく、0.5質量%以下がより好ましく、0.3質量%以下がさらに好ましく、0.1質量%以下がより好ましく、0.1質量%未満であることが特に好ましい。また、同様の理由で、樹脂粒子は、インクジェットインク組成物に含有されないことがより好ましい。
【0104】
インクに樹脂粒子が含まれると、樹脂を分散するための界面活性剤(分散剤)が一因となって、泡立ち易く、気泡が発生しやすくなる。特に、インク収容容器にインク注入口からインクを注入する際に気泡が発生しやすくなる。またインク収容容器内で、樹脂粒子自体が気液界面で異物化しやすくなる。
【0105】
なお、気泡が発生すると、気液界面が増え、気液界面での異物も発生しやすくなる。また、樹脂粒子は、水に溶けないので、インクが自然環境に流出した際のマイクロプラスチックによる環境問題が懸念される。樹脂分散体としては、界面活性剤により分散した分散体樹脂、界面活性剤を用いずに分散したソープレス分散体樹脂などが挙げられる。
【0106】
1.5.3.界面活性剤
本実施形態に係るインクジェットインク組成物は、界面活性剤を含んでもよい。界面活性剤は、インクジェットインク組成物の表面張力を低下させ記録媒体との濡れ性、例えば布帛等への浸透性を調整、向上させるために用いることができる。界面活性剤としては、ノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、両性界面活性剤
のいずれも使用することができ、さらにこれらは併用してもよい。また、界面活性剤の中でも、アセチレングリコール系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、及びフッ素系界面活性剤をより好ましく用いることができる。
【0107】
アセチレングリコール系界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、サーフィノール104、104E、104H、104A、104BC、104DPM、104PA、104PG-50、104S、420、440、465、485、SE、SE-F、504、61、DF37、CT111、CT121、CT131、CT136、TG、GA、DF110D(商品名、Air Products and Chemicals Inc.社製)、オルフィンB、Y、P、A、STG、SPC、E1004、E1010、PD-001、PD-002W、PD-003、PD-004、PD-005、EXP.4001、EXP.4036、EXP.4051、EXP.4123、EXP.4200、EXP.4300、D-10PG、AF-103、AF-104、AK-02、SK-14、AE-3(商品名、日信化学工業社製)、アセチレノールE00、E00P、E40、E100(商品名、川研ファインケミカル社製)が挙げられる。
【0108】
シリコーン系界面活性剤としては、特に限定されないが、ポリシロキサン系化合物が好ましく挙げられる。当該ポリシロキサン系化合物としては、特に限定されないが、例えばポリエーテル変性オルガノシロキサンが挙げられる。当該ポリエーテル変性オルガノシロキサンの市販品としては、例えば、BYK-306、BYK-307、BYK-333、BYK-341、BYK-345、BYK-346、BYK-348(商品名、BYK社製)、KF-351A、KF-352A、KF-353、KF-354L、KF-355A、KF-615A、KF-945、KF-640、KF-642、KF-643、KF-6020、X-22-4515、KF-6011、KF-6012、KF-6015、KF-6017(商品名、信越化学工業社製)が挙げられる。
【0109】
フッ素系界面活性剤としては、フッ素変性ポリマーを用いることが好ましく、例としては、BYK-340(商品名、ビックケミー・ジャパン社製)が挙げられる。
【0110】
インクジェットインク組成物に界面活性剤を配合する場合には、インクジェットインク組成物全体に対して、界面活性剤の合計で0.01質量%以上3質量%以下、好ましくは0.05質量%以上2質量%以下、さらに好ましくは0.1質量%以上1.5質量%以下、特に好ましくは0.2質量%以上1質量%以下配合することが好ましい。
【0111】
インクジェットインク組成物に界面活性剤を配合する場合には、消泡性を有する界面活性剤を選択することがより好ましい。インクジェットインク組成物が商法性を有する界面活性剤を含有することにより、より気泡を生じにくくすることができ、例えば、ヘッドからインクを吐出する際の安定性が増す傾向がある。
【0112】
1.5.4.キレート化剤
本実施形態のインクジェットインク組成物は、キレート化剤を使用してもよい。キレート化剤は、インクジェットインク組成物中の所定のイオンを除去することができる。
【0113】
キレート化剤の例としては、EDTA、EDTA-2Na(エチレンジアミン四酢酸二水素二ナトリウム塩)、EDTA-3Na(エチレンジアミン四酢酸一水素三ナトリウム塩)、EDTA-4Na(エチレンジアミン四酢酸四ナトリウム塩)、及び、EDTA-3K(エチレンジアミン四酢酸一水素三カリウム塩)などのエチレンジアミン四酢酸及びその塩類、DTPA、DTPA-2Na(ジエチレントリアミン五酢酸二ナトリウム塩)、及び、DTPA-5Na(ジエチレントリアミン五酢酸五ナトリウム塩)などのジエチレントリアミン五酢酸及びその塩類、NTA、NTA-2Na(ニトリロ三酢酸二ナトリ
ウム塩)、及び、NTA-3Na(ニトリロ三酢酸三ナトリウム塩)などのニトリロ三酢酸及びその塩類、エチレンジアミン-N,N’-ジコハク酸及びその塩類、3-ヒドロキシ-2,2’-イミノジコハク酸及びその塩類、L-アスパラギン酸-N,N’-二酢酸及びその塩類、L-グルタミン酸二酢酸及びその塩類、N-(1-カルボキシラトメチル)イミノ二酢酸及びその塩類、並びに、N-(2-ヒドロキシエチル)イミノ二酢酸及びその塩類を挙げることができる。
【0114】
また、酢酸アナログ以外のキレート化剤の例としては、エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸及びその塩類、エチレンジアミンテトラメタリン酸及びその塩類、エチレンジアミンピロリン酸及びその塩類、並びに、エチレンジアミンメタリン酸及びその塩類等が挙げられる。
【0115】
本実施形態のインクジェットインク組成物にキレート化剤を含有させる場合、上記例示したものから選択して1種又は2種以上を用いることができる。
【0116】
1.5.5.pH調整剤
本実施形態のインクジェットインク組成物は、pH調整剤を添加することができる。pH調整剤としては、特に限定されないが、酸、塩基、弱酸、弱塩基の適宜の組み合わせが挙げられる。そのような組み合わせに用いる酸、塩基の例としては、無機酸として、硫酸、塩酸、硝酸等、無機塩基として水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、アンモニア等が挙げられ、有機塩基としては、トリエタノールアミン、トリプロパノールアミン、ジエタノールアミン、モノエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリスヒドロキシメチルアミノメタン(THAM)等が挙げられ、有機酸として、アジピン酸、クエン酸、コハク酸、乳酸、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-2-アミノエタンスルホン酸(BES)、4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸(HEPES)、モルホリノエタンスルホン酸(MES)、モルホリノプロパンスルホン酸(MOPS)、カルバモイルメチルイミノビス酢酸(ADA)、ピペラジン-1,4-ビス(2-エタンスルホン酸)(PIPES)、N-(2-アセトアミド)-2-アミノエタンスルホン酸(ACES)、コラミン塩酸、N-トリス(ヒドロキシメチル)メチル-2-アミノエタンスルホン酸(TES)、アセトアミドグリシン、トリシン、グリシンアミド、ビシン等のグッドバッファー、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、トリス緩衝液等を用いてもよい。さらに、これらのうち、pH調整剤の一部又は全部として、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン等の第三級アミン、及び、アジピン酸、クエン酸、コハク酸、乳酸等のカルボキシル基含有有機酸、が含まれることが、pH緩衝効果をより安定に得ることができるため好ましい。
【0117】
1.5.6.尿素類
インクジェットインク組成物の保湿剤として、あるいは、染料の染着性を向上させる染着助剤として、尿素類を使用してもよい。尿素類の具体例としては、尿素、エチレン尿素、テトラメチル尿素、チオ尿素、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン等が挙げられる。尿素類を含有する場合には、その含有量は、インクジェットインク組成物の全質量に対して、1質量%以上10質量%以下とすることができる。
【0118】
1.5.7.防腐剤、防かび剤、防錆剤
インクジェットインク組成物は、防腐剤、防かび剤を使用してもよい。防腐剤、防かび剤としては、例えば、安息香酸ナトリウム、ペンタクロロフェノールナトリウム、2-ピリジンチオール-1-オキサイドナトリウム、ソルビン酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、1,2-ジベンゾイソチアゾリン-3-オン(ゼネカ社のプロキセルCRL、プ
ロキセルBDN、プロキセルGXL、プロキセルXL-2、プロキセルTN、プロキセルLV)、4-クロロ-3-メチルフェノール(バイエル社のプリベントールCMK等)などが挙げられる。防錆剤としては、例えば、ベンゾトリアゾールなどが挙げられる。
【0119】
1.5.8.糖類
インクジェットインク組成物は、糖類を含有してもよい。糖類の具体例としては、グルコース、マンノース、フルクトース、リボース、キシロース、アラビノース、ガラクトース、アルドン酸、グルシトール(ソルビット)、マルトース、セロビオース、ラクトース、スクロース、トレハロース、及びマルトトリオース等が挙げられる。
【0120】
1.5.9.その他
さらに上記以外の成分として、例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、酸素吸収剤、溶解助剤など、インクジェット用のインクジェットインク組成物において通常用いることができる添加剤を含有してもよい。
【0121】
1.6.用途等
本実施形態のインクジェットインク組成物は、インク注入口を有するインク収容容器を有するインクジェット記録装置で用いられる。以下インク注入口を有するインク収容容器を有するインクジェット記録装置について説明する。
【0122】
インクジェット記録装置は、上述のインクジェットインク組成物と、インクジェットインク組成物が収容されるインク収容容器と、インクジェットインク組成物を吐出する記録ヘッドと、を備えたインクジェット記録装置であって、インク収容容器が、インクジェットインク組成物を充填するための開閉可能なインク注入口を有する。当該インクジェット記録装置は、上述のインクジェットインク組成物を備えるものとする。
【0123】
インクジェット記録装置は、上述のインクジェットインク組成物と、インクジェットインク組成物が収容されるインク収容容器と、インクジェットインク組成物を吐出する記録ヘッドと、を備え、インク収容容器は、インクジェットインク組成物を充填するための開閉可能なインク注入口を有する。
【0124】
実施形態に係るインクジェット記録装置の一例について、図を参照しながら説明する。なお、インク収容容器は、媒体に対してインクを吐出することによって、媒体に画像等の記録(印刷)を行うインクジェット式のプリンター(インクジェット記録装置)のインクタンクとなっている。また、以下の説明では、インクジェット記録装置を単に記録装置と称することがあり、インクジェットインク組成物を、単にインクと称することがある。
【0125】
図1に示すように、記録装置21は、左右方向を長手方向とする直方体形状の筐体22を備えている。なお、
図1は、記録装置21における筐体22内を透視した状態で簡略的に図示している。筐体22内における後方寄りの下部には、左右方向を長手方向とする支持台23が、その上面を略水平方向に沿わせるようにして設けられている。媒体の一例である用紙Pは、この支持台23の上面に支持されつつ、搬送方向となる前方に向けて搬送される。また、筐体22内における支持台23の上方位置には、左右方向に沿って延びるガイド軸24が架設され、そのガイド軸24にはインクを吐出する記録ヘッド25(インクジェットヘッド)を下面側に備えたキャリッジ26が支持されている。すなわち、キャリッジ26は、左右方向に貫通する支持孔27にガイド軸24が挿通された状態で、そのガイド軸24に対して左右方向への往復移動自在に支持されている。
【0126】
また、筐体22内においてガイド軸24の両端の近傍にあたる位置には、駆動プーリー28と従動プーリー29とがそれぞれ回転自在に支持されている。駆動プーリー28には
キャリッジモーター30の出力軸が連結されるとともに、駆動プーリー28と従動プーリー29との間には一部がキャリッジ26に連結された無端状のタイミングベルト31が巻き掛けられている。そして、キャリッジモーター30の駆動によりキャリッジ26がタイミングベルト31を介してガイド軸24にガイドされつつ用紙Pに対する走査方向となる左右方向に沿って往復移動するときに、支持台23上を前方に搬送される用紙Pに対してキャリッジ26の下面側の記録ヘッド25から用紙Pに対してインクが吐出される。
【0127】
なお、記録装置は、
図1の様に記録ヘッドが備えられたキャリッジが移動しつつ記録ヘッドからインクを吐出して記録を行うシリアル式の記録装置であってよい。または、記録装置は、記録媒体の記録幅以上の長さを有するラインヘッドである記録ヘッドから、インクを吐出して記録を行うライン式の記録装置であってもよい。
【0128】
また、
図1に示すように、筐体22の前面側において支持台23の前方側となる位置には、筐体22内で支持台23上を搬送されるときに記録ヘッド25からのインクの吐出により記録を行われた用紙Pを前方側に排出する矩形の排出口32が開口している。排出口32には、筐体22内から排出される用紙Pを支持可能な矩形板状の排出トレイ33が、排出方向である前方への出没自在に設けられている。また、排出口32内において、排出トレイ33の下側には記録に用いる複数枚の用紙Pを積層状態で収容可能な給紙カセット34が前後方向への挿抜自在に装着されている。
【0129】
また、
図1に示すように、筐体22における前面であって排出口32よりも左右方向の端部側(
図1では、右端部側)となる位置には、前面と上面が矩形状で右側面が直角三角形状をなす開閉扉35が、その下端に設けられた左右方向に沿う回転軸36を回転中心として前後方向への開閉動作自在に設けられている。この開閉扉35の前面には、矩形状の透明部材からなる窓部37が形成されており、ユーザーは開閉扉35を閉じた状態で筐体22の内部(特に、開閉扉35の前面の裏側)を視認できるようになっている。
【0130】
記録装置21の筐体22内において、開閉扉35の裏側となる位置、すなわち前面寄りで且つ端部寄り(この場合は右端部寄り)となる位置には、記録ヘッド25に対してインクを供給するインク供給ユニット40が収容されている。インク供給ユニット40は、複数(本実施形態では5つ)のインク収容容器41~45を含んで一体的に取り扱い可能とされた構造体であり、後で述べるように、各インク収容容器41~45にはインクが補給可能とされている。
【0131】
図2及び
図3に示すように、インク供給ユニット40は、前後方向に長い変形箱形状の5つのインク収容容器41~45と、各インク収容容器41~45の後面側から引き出された5つのインク供給チューブ46と、それらのインク収容容器41~45を一括にした状態で組み付けられる直方体形状のインク補給用アダプター47を含んで構成されている。このインク補給用アダプター47は、全てのインク収容容器41~45が厚さ方向を左右方向にして横並びに配置された状態において、全てのインク収容容器41~45の上部前半部分に切欠形成された段差部48に組み付けられることで、インク収容容器41~45と一体化されている。なお、
図1に示すように、インク収容容器41~45から引き出されたインク供給チューブ46は、キャリッジ26内に形成されたインク流路(図示略)に接続され、そのインク流路を介して記録ヘッド25に接続されている。尚、インク補給用アダプター47は、インク収容容器41~45を覆う筐体22の一部を構成するものであってもよく、インク収容容器41~45と一体的に形成されていてもよい。
【0132】
図4に示すように、インク収容容器41~45は、その内部にインク組成物IKを貯留可能なインク貯留室49を有している。本実施形態の場合、その横並び方向で右端に位置するインク収容容器41のインク貯留室49にはブラックインクが貯留される。そして、
横並び方向で右端のインク収容容器41よりも左側に並ぶ他の各インク収容容器42~45のインク貯留室49にはブラック以外のカラー(シアン、マゼンタ、イエローなど)インクが貯留される。また、インク収容容器41~45において筐体22の前面の窓部37を介して視認可能とされる前壁部には、インク貯留室49内のインク組成物IKの液面を視認可能とする透明樹脂で形成された視認部50が設けられている。そして、その視認部50には、インク貯留室49内に貯留されるインク組成物IKの液面の上限の目安(インクをインク入口53から溢れさせずに注入可能なインク量の目安の例)を示す上限マーク51と下限の目安(例えば、インクの補給を促す目安)を示す下限マーク52が記されている。
【0133】
図4に示すように、インク収容容器41~45において段差部48の水平部分の上側には外部からインク貯留室49内へのインクの流入を可能とする開閉可能なインク入口53(インク注入口)が設けられている。インク入口53は、インク貯留室49の内部と外部とを連通する流路54,55を有して鉛直上方に向けて延びる針56を含んで構成されている。針56の流路54,55は、各々の先端開口が針56を中心とする放射方向に並んで配置された2つの流路54,55からなり、それら2つの流路54,55のうち一方(
図4では右側)の流路54は、他方(
図4では左側)の流路55よりも、その先端開口の高さが低く且つその流路の断面積が大きく形成されている。なお、インク貯留室49内の後方寄り下部には、インク貯留室49内のインク組成物IKの残量を検出するための残量センサー57が設けられている。尚、残量センサー57は設けられていなくてもよい。
【0134】
図2~
図4に示すように、インク補給用アダプター47は、その上面58が針56の延びる方向と直交(交差)する方向に沿う水平な面とされ、その上面58には下面59まで上下方向に貫通する貫通孔60がインク入口形成部として形成されている。この貫通孔60は、針56が中央に配置される円孔形状のインク入口53と、インク入口53の前後に連なる前後一対の矩形孔部からなり、その下側の開口はインク収容容器41~45において針56を上方に向けて突設した段差部48の水平部分により塞がれている。
【0135】
そのため、貫通孔60において、インク入口53を中心とする放射方向でインク入口53の外側となる領域には、下側の開口を塞がれた前後一対の矩形孔部により、針56の延びる方向である上側に開口する前後一対の凹部61が、インク入口53を中心として点対称となるように鉛直下方を深さ方向として窪み形成される。すなわち、インク収容容器41~45に一体化されたインク補給用アダプター47において針56を含むインク入口53の外側となる領域には、インク入口53を中心として点対称をなす複数(この場合は前後で対をなす2つ)の凹部61が形成されることになる。なお、この場合において、円孔形状のインク入口53の中心に配置される針56の先端は、インク入口53と凹部61とが含まれる貫通孔60の開口縁となるインク補給用アダプター47の上面58よりも、インク貯留室49側に位置している。すなわち、インク補給用アダプター47の上面58は、針56の延びる方向において該針56の先端よりも外側の位置で該針56が延びる方向と交差する方向に延びている。その一方、インク補給用アダプター47の下面59は、左右方向へ横並びにした複数のインク収容容器41~45に対してそれらを一括にして上側から係合するタンク係合部として機能する。
【0136】
また、インク補給用アダプター47の上面58のうち、各貫通孔60の上側の開口縁の周辺部分は、特定の色に着色されている。すなわち、その貫通孔60のインク入口53を介してインクが流入されるインク収容容器41~45のインク貯留室49に貯留されているインクの色と同色に着色されている。この点で、インク補給用アダプター47における各貫通孔60の上側の開口縁の周辺部分は、その貫通孔60のインク入口53とインク貯留室49が連通するインク収容容器41~45が内部に貯留しているインクに関わる情報を外部に示す第1部分として機能している。因みに、インク収容容器41~45に貯留さ
れるインクは、特に制限はないが、本実施形態のインク組成物を収容したインク収容容器から供給されるインク収容容器をインク収容容器41とすれば、ブラック又はグレーのブラックインクを貯留することとなるので、インク収容容器41のインク貯留室49と連通するインク入口53が配置される貫通孔60の上側開口の周辺部分はブラック又はグレーに着色される。
【0137】
また、凹部61の内面(具体的には上下方向に沿う内側面)において、その凹部61の上側の開口縁よりも底面側(すなわち、段差部48の水平部分側)となる位置には、水平方向に特徴的な凹凸形状を呈する第1凹凸部(第1キー構造部)62が、凹部61の深さ方向(換言すると、インク入口53の中心軸の方向)に沿って延びるように設けられている。
図2及び
図3に示すように、第1凹凸部62は、複数(本実施形態では5つ)あるインク収容容器41~45のインク入口53ごとに設けられる。そのため、インク補給用アダプター47において、各インク収容容器41~45と上下方向で各々対応する位置に形成された各貫通孔60における矩形の凹部61には、それぞれ貫通孔60ごとに他の貫通孔60の凹部61の内面に設けられた第1凹凸部62とは異なる第1凹凸部62が形成されている。すなわち、これらの第1凹凸部62は、その第1凹凸部62が形成された貫通孔60内のインク入口53に接続されるインク出口65を有するインクボトル63を識別可能とする識別部として機能するものである。なお、「凹部61の上側の開口縁よりも底面側となる位置」とは、開口縁よりも若干でも底面側に後退した位置であればよいことを意味する。
【0138】
そこで次に、インク収容容器41~45と共にインク補給システムを構成し、インク残量が少なくなったインク収容容器41~45にインクを補給するインク補給容器として、インクボトル63について説明する。インクボトル63には、上述のインクジェットインク組成物が収容されている。
【0139】
図5に示すように、インクボトル63は、その主体となる円筒状の容器本体部64と、容器本体部64の先端部に設けられ、インクボトル63内からのインクの流出を可能とするインク出口65が先端に開口形成されたインク出口形成部66と、インク出口形成部66にインク出口65を囲むように付加される容器付加部67とを備えている。インク出口形成部66のインク出口65は、その周りの容器付加部67も含めて有底筒状のキャップ68により覆われることで、インクボトル63の保管時には、外部から隠蔽される。すなわち、容器付加部67の円筒状をなす下端部の外周面には雄ねじ部69が形成される一方、キャップ68の内周面には図示しない雌ねじ部が形成されており、容器付加部67の雄ねじ部69にキャップ68の雌ねじ部を螺合させることにより、キャップ68はインクボトル63の先端部に対してインク出口65を覆うように取着される。
【0140】
なお、容器付加部67は、その外面全体が特定の色に着色されている。すなわち、その容器付加部67が付加される容器本体部64内に収容されているインクの色と同色に着色されている。因みに、ブラック又はグレーインクを収容するインクボトル63における容器付加部67の外面はブラック又はグレーに着色される。また、容器本体部64とキャップ68の各基端部の外周面には、等角度間隔(一例として90度間隔)で複数(本実施形態では4つ)の突起70が形成されている。因みに、これらの突起70は円筒状をなすインクボトル63の転がり防止を図るために形成されたものである。更に、例えばブラックインクを収容するインクボトル63の容器本体部64は、他の色のインクを収容するインクボトル63の容器本体部64よりも太く形成してもよい。その場合、インク出口形成部66はブラックインク用と他の色のインク用と共通の太さ、形状にしてもよい。
【0141】
容器本体部64の材質は限るものではなく、プラスチック、金属、ガラスなどを用いることができる。このうち、軽量な点などの点で、プラスチックが好ましい。プラスチック
の中でも、軟質なプラスチックが好ましい。軟質なプラスチックは、手で容器本体部64の両側を挟んで凹ませることができるプラスチックである。軟質なプラスチックで形成された容器本体部64は、容器本体部64を上下逆さにし、容器本体部64の両側を指で挟んで凹ませて、インクをインク出口65から押し出しやすい点で好ましい。
【0142】
図6に示すように、ユーザーは、インク補給に用いるインク組成物を収容したインクボトル63を上下逆さまにして、インク出口65がインク補給用アダプター47における一番右側の貫通孔60の上方に位置するように保持する。すなわち、そのインクボトル63のインク出口65の中心軸線をインク補給対象のインク収容容器41のインク入口53の中心軸線と位置合わせする。このとき、ユーザーは、手に保持しているインクボトル63の容器付加部67に着色されている色(第2部分)と、そのときのインク補給対象であるインク収容容器41のインク入口53が設けられた貫通孔60の上側の開口縁周辺に着色されている色(第1部分)とを見比べる。そして、それぞれの色が同じ(この場合は、ブラック同士)であれば、今回のインク補給に適合したインクボトル63を手に保持していると確認し、インク補給を行う。つまりインクボトルからインク収容容器にインクを補給する。
【0143】
図6の様に、インクボトル63を上下逆さまにして、インク収容容器41のインク入口53の上方にインクボトル63を位置させて、インクを補給する場合、インクを補給しやすく好ましい。なお、インク補給時のインクボトル63の位置は、インク入口53の上方に限られず、インク入口53の斜め上方でもよい。
【0144】
また、
図6のように、インクボトル63のインク出口65を、インク収容容器41のインク入口53の付近に接触させた状態で、インクを補給する場合、インクをこぼし難く好ましい。また、インクボトル63がインク収容容器41のインク入口53の付近に位置が固定されるため、インクボトル63の容器本体部64を凹ませ易く、インクを押し出しやすく、補給しやすい。
【0145】
一方、これらの場合、インクをインクボトル63のインク出口65から押し出しやすいため、インクが泡立ちやすく気泡が発生しやすく、気液界面異物も発生しやすいが、本実施形態によれば、気泡や異物の発生を低減でき好ましい。
【0146】
図2等において、インク入口53は、インク補給時以外の時に、図示しないフタやキャップなどがされていてもよい。つまりインク入口53はフタやキャップで開閉可能となっていてもよい。
【0147】
上記説明したインクジェット記録装置によれば、上述のインクジェットインク組成物を適用することにより、開閉可能なインク注入口を有するインク収容容器を有していても、インクジェットインク組成物の気泡の発生が抑制でき、かつ、凝集物の発生を抑制できる。すなわち、開閉可能なインク注入口を有するインク収容容器において、ユーザー等がインク注入口を開閉して、インクジェットインク組成物の乾燥が生じやすい状況であっても、水溶性樹脂及びベタインの相互作用により、泡立ち、色材の凝集を抑制できるともに、良好な発色の画像を形成することができる。
【0148】
また、インク収容容器が、インク注入口から内底までの高さが3cm以上である場合のように、より泡立ちを生じやすい場合であっても、気泡の発生が抑制できるので、その場合には、本実施形態のインクジェットインク組成物は、さらに顕著な効果を奏するといえる。
【0149】
インク注入口から内底までの高さは、例えば1cm以上が好ましい。また20cm以下
が好ましい。さらには2~15cmが好ましく、3~10cmがより好ましい。インク注入口から内底までの高さが上記範囲以上の場合、インク容量を多くでき好ましい。インク注入口から内底までの高さが上記範囲以下の場合、インク泡立ちを低減出来好ましい。インク注入口から内底までの高さは、例えば
図4で、インク入口53(インク注入口)の下方向の終端から、インク貯留室49の内面の底までの高さである。
【0150】
1.7.製造及び物性
本実施形態のインクジェットインク組成物は、上述の成分を任意の順序で混合し、必要に応じて濾過などを行い、不純物を除去することにより得ることができる。混合方法としては、メカニカルスターラーやマグネチックスターラー等の撹拌装置を備えた容器に順次材料を添加して撹拌混合する方法が好適に用いられる。濾過方法として、例えば、遠心濾過やフィルター濾過などを必要に応じて行うことができる。
【0151】
本実施形態のインクジェットインク組成物は、インクジェット用インクとしての信頼性の観点から、20℃における表面張力が20mN/m以上40mN/m以下であることが好ましく、22mN/m以上35mN/m以下であることがより好ましい。また、同様の観点から、インクの20℃における粘度は、1.5mPa・s以上10mPa・s以下であることが好ましく、2mPa・s以上8mPa・s以下であることがより好ましい。表面張力及び粘度を前記範囲内とする一つの手法としては、上述した水溶性樹脂、有機溶剤、界面活性剤の種類、及びこれらと水の添加量等を調整することが挙げられる。
【0152】
2.記録方法
本実施形態の記録方法は、例えば上述したようなインク注入口を有するインク収容容器を有するインクジェット記録装置を用いて行われる。そして上述のインクジェットインク組成物を、インクジェット記録装置のインクジェットヘッドから吐出して記録媒体へ付着させる工程を備える。
【0153】
このインクジェット記録方法によれば、インクジェットインク組成物が、自己分散顔料と、水溶性樹脂と、ベタインと、を含有し、自己分散顔料の含有量が、インク組成物の総質量に対し3.5質量%以上8.5質量%以下であり、水溶性樹脂に対する自己分散顔料の質量比(自己分散顔料/水溶性樹脂)が、2.8以上30未満であり、かつ、ベタインの含有量が、インク組成物の総質量に対し2.5質量%以上9.5質量%以下であることにより、インクジェットインク組成物の泡立ち、異物の発生が抑制され、色良好な発色性と摩擦堅牢性を有する画像を形成することができる。
【0154】
記録媒体としては、特に限定されず、液体を吸収する記録面を有するものであっても、液体を吸収する記録面を有しないものであってもよい。したがって記録媒体としては、特に制限はなく、例えば、紙、フィルム、布、金属、ガラス、高分子等を用いることができる。また、記録媒体に対して昇華転写を行うための転写紙についても記録媒体であり得る。
【0155】
本実施形態の記録方法で記録を行う記録媒体としては、液体吸収性の記録媒体であることがより好ましい。液体吸収性の記録媒体は、「ブリストー(Bristow)法において接触開始から30msec1/2までの水吸収量が10mL/m2超である記録媒体」を指す。ブリストー法は、短時間での液体吸収量の測定方法として最も普及している方法であり、日本紙パルプ技術協会(JAPAN TAPPI)でも採用されている。試験方法の詳細は「JAPAN TAPPI紙パルプ試験方法2000年版」の規格No.51「紙及び板紙-液体吸収性試験方法-ブリストー法」に述べられている。
【0156】
液体吸収性の記録媒体としては、記録媒体の表面に液体を吸収する受容層が設けられて
いることによって液体吸収性の記録媒体になっているものでもよい。例えば、インクジェット用紙(インクジェット専用紙)などが挙げられる。液体を吸収する受容層としては、液体吸収性の樹脂、液体吸収性の無機微粒子などから構成された層が挙げられる。
【0157】
液体吸収性の記録媒体としては、記録媒体の基材そのものが液体吸収性である記録媒体も挙げられる。例えば、繊維からなる布帛、パルプを成分とする紙などが挙げられる。紙としては、普通紙、厚紙、ライナー紙などが挙げられる。ライナー紙は、クラフトパルプ、古紙などの紙から構成されるものが挙げられる。
【0158】
インクジェットインク組成物を記録媒体へ付着させる工程は上述のインクジェット記録装置を用いて行うことができる。すなわち、インクジェットインク組成物を所定のノズルから吐出できるように、インクジェットヘッドに充填し、その状態で所定のタイミングで記録媒体に対して吐出させることで、インクジェットインク組成物を記録媒体へ付着させる工程を行うことができる。
【0159】
また、本実施形態の記録方法は、適宜、記録媒体を加熱する工程を備えてもよい。記録媒体を加熱する工程は、例えば、インクジェット記録装置を用いる場合には、上述の乾燥手段等を用いて行うことができる。また、インクジェット記録装置に限らず、適宜の乾燥手段により行うことができる。これにより得られる画像を乾燥させ、画像の滲みを抑制したり、より効率的に定着させたりすることができる。また、インク収容容器にインクを補給する工程を備えてもよい。
【0160】
本実施形態の記録方法は、さらに、他の工程を適宜付加することができ、例えば、他の組成物を付与する工程、洗浄工程等を有してもよい。本実施形態の記録方法によれば、上述のインクジェットインク組成物を用いるので、インクジェットインク組成物の泡立ち、異物の発生を抑制できるともに、良好な画質及び堅牢性の画像を形成することができる。
【0161】
3.セット
本実施形態のセットは、上述したようなインク注入口を有するインク収容容器を有するインクジェット記録装置と、インクジェット記録装置において記録に用いられるインクジェットインク組成物と、を含み、当該インクジェットインク組成物が、上述のインクジェットインク組成物である。
【0162】
4.実施例及び比較例
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。以下、「部」「%」は、特に記載のない限り、質量基準である。なお評価は、特に断りが無い場合は、温度25.0℃、相対湿度40.0%の環境下で行った。
【0163】
4.1.インクジェットインク組成物の調製
表1~表4の組成になるように各成分を容器に入れて、マグネチックスターラーで2時間混合及び攪拌した後、孔径5μmのメンブランフィルターで濾過することで、実施例及び比較例に係るインクジェットインク組成物を得た。
【0164】
表1~表4中の物質は以下のとおりである。
【0165】
・自己分散顔料:以下のように製造した。
顔料20.0g、((4-アミノベンゾイルアミノ)-メタン-1、1-ジイル)ビスホスホン酸一ナトリウム塩11.0mmol、硝酸20.0mmol、及び純水200mLを混合した。
顔料としては、カーボンブラック(商品名「ブラックパールズ880」、キャボット製)を用いた。そして、シルヴァーソン混合機を用いて、室温にて6,000rpmで混合した。30分後、この混合物に少量の水に溶解させた20.0mmolの亜硝酸ナトリウムをゆっくり添加した。
亜硝酸ナトリウムを添加することによって混合物の温度は60℃に達した。この状態で1時間反応させた。その後、そのあと、水で洗浄後、水酸化ナトリウム水溶液を用いて混合物のpHを10に調整した。
得られた顔料は、顔料の粒子表面に、-C6H4-CONH-CH-(PO(OH)(ONa))(PO(OH)2)基が結合している自己分散顔料であった。
【0166】
・樹脂分散顔料:以下のように製造した。
有機溶媒(メチルエチルケトン)20質量部、重合連鎖移動剤(2-メルカプトエタノール)0.03質量部、ポリプロピレングリコールモノメタクリレート(プロピレンオキサイド基=9)15質量部、ポリ(エチレングリコール・プロピレングリコール)モノメタクリレート(プロピレンオキサイド基=7、エチレンオキサイド基=5)15質量部、メタクリル酸12質量部、スチレンモノマー50質量部、スチレンマクロマー10質量部、ベンジルメタクリレート10質量部を用い、窒素ガス置換を十分に行った反応容器内に入れて75℃の攪拌下で、モノマー成分100質量部に対してメチルエチルケトン40質量部に溶解した重合開始剤である2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)0.9質量部を加えて重合させ、80℃で1時間熟成させたポリマー溶液を得た。
メチルエチルケトン45質量部に上記で得られた水不溶性ポリマーを7.5質量部溶解させて、その中に20%の水酸化ナトリウム水溶液(中和剤)を所定量加えて塩生成基を中和し、さらに顔料としてカーボンブラック(商品名「ブラックパールズ880」、キャボット製)を20質量部加えてビーズミルで2時間混練した。このようにして得られた混練物にイオン交換水120質量部を加えて攪拌した後、減圧下、6℃でメチルエチルケトンを除去し、さらに一部の水を除去することにより、固形分濃度が20質量%の樹脂被覆型顔料分散液を得た。
【0167】
・分散体樹脂1:以下のように製造した。樹脂粒子である。
攪拌機、還流コンデンサー、滴下装置、及び温度計を備えた反応容器に、イオン交換水900g及びラウリル硫酸ナトリウム1gを仕込み、攪拌下に窒素置換しながら70℃まで昇温した。内温を70℃に保ち、重合開始剤として過硫酸カリウム4gを添加し、溶解後、予めイオン交換水450g、ラウリル硫酸ナトリウム3gにアクリルアミド20g、スチレン365g、ブチルアクリレート545g、及びメタクリル酸30gを攪拌下に加えて作製した乳化物を、反応溶液内に連続的に4時間かけて滴下した。滴下終了後3時間の熟成を行った。得られた樹脂エマルジョンを常温まで冷却した後、イオン交換水と水酸化ナトリウム水溶液を添加して固形分40質量%、pH8に調整した。得られた水性エマルジョンにおける樹脂粒子のガラス転移温度は-6℃であった。
【0168】
・分散体樹脂2(ソープレス分散樹脂):以下のように製造した。
反応容器に滴下装置、温度計、水冷式還流コンデンサー、攪拌機を備え、イオン交換水100質量部を入れ、攪拌しながら窒素雰囲気70℃で、重合開始剤の過硫酸アンモニウムを0.2質量部添加しておき、スチレン40質量部、メチルメタクリレート34.6質量部、ラウリルメタクリレート10質量部およびアクリル酸15.4質量部を入れたモノマー溶液を、反応容器に滴下して反応させてシェルポリマーを重合し作製した。その後、過硫酸カリウム0.2質量部、スチレン73質量部およびn-ブチルアクリレート27質量部混合液を滴下して70℃で攪拌しながら重合反応させた後、水酸化ナトリウムで中和しpH8~8.5に調整して0.3μmのフィルターでろ過することによりソープフリー樹脂エマルジョンを作製した。
【0169】
・水溶性樹脂1:以下のように製造した。
ガス導入管、温度計、コンデンサー、撹拌機を備えた反応容器にブタノール93.4部を入れ、窒素ガスで置換した。110℃に加熱した後、スチレン101.1部、アクリル酸38.5部、マレイン酸60.0部、及び重合開始剤(商品名「V-601」、富士フイルム和光純薬製)6部の混合物を2時間かけて滴下し、重合反応を行った。110℃で3時間反応させた後、重合開始剤0.6部をさらに添加し、110℃で1時間反応を続けて、樹脂の溶液を得た。室温まで冷却してからジメチルアミノエタノール37.1部を添加して中和し、水100部をさらに添加した。100℃以上に加熱して水と共沸させることでブタノールを留去し、濃度を調整した。これにより、樹脂の含有量が20.0%である、水溶性樹脂1を含む液体を得た。水溶性樹脂1の酸価は滴定法により440mgKOH/gであり、水溶性単量体の比率は49質量%であり、重量平均分子量は12000であった。
【0170】
・水溶性樹脂2:以下のように製造した。
ガス導入管、温度計、コンデンサー、撹拌機を備えた反応容器にブタノール93.4部を入れ、窒素ガスで置換した。110℃に加熱した後、スチレン101.5部、アクリル酸98.5部、及び重合開始剤(商品名「V-601」、富士フイルム和光純薬製)6部の混合物を2時間かけて滴下し、重合反応を行った。110℃で3時間反応させた後、重合開始剤0.6部をさらに添加し、110℃で1時間反応を続けて、樹脂の溶液を得た。室温まで冷却してからジメチルアミノエタノール37.1部を添加して中和し、水100部をさらに添加した。100℃以上に加熱して水と共沸させることでブタノールを留去し、濃度を調整した。これにより、水溶性樹脂2の含有量が20.0%である、水溶性樹脂2を含む液体を得た。水溶性樹脂2の酸価は滴定法により383mgKOH/gであり、水溶性単量体比率は49質量%であり、重量平均分子量は12000であった。
【0171】
・水溶性樹脂3(水溶性単量体60%以上):以下のように製造した。
ガス導入管、温度計、コンデンサー、撹拌機を備えた反応容器にブタノール93.4部を入れ、窒素ガスで置換した。110℃に加熱した後、スチレン101.5部、アクリル酸38.5部、マレイン酸210.0部、及び重合開始剤(商品名「V-601」、富士フイルム和光純薬製)6部の混合物を2時間かけて滴下し、重合反応を行った。110℃で3時間反応させた後、重合開始剤0.6部をさらに添加し、110℃で1時間反応を続けて、樹脂の溶液を得た。室温まで冷却してからジメチルアミノエタノール37.1部を添加して中和し、水100部をさらに添加した。100℃以上に加熱して水と共沸させることでブタノールを留去し、濃度を調整した。これにより、水溶性樹脂3の含有量が20.0%である、水溶性樹脂3を含む液体を得た。水溶性樹脂3の酸価は滴定法により664mgKOH/g、水溶性単量体比率は71質量%であり、重量平均分子量は12000であった。
【0172】
・水溶性樹脂4(水溶性単量体60%未満):以下のように製造した。
ガス導入管、温度計、コンデンサー、撹拌機を備えた反応容器にブタノール93.4部を入れ、窒素ガスで置換した。110℃に加熱した後、スチレン150.0部、アクリル酸25.0部、マレイン酸30.0部、及び重合開始剤(商品名「V-601」、富士フイルム和光純薬製)6部の混合物を2時間かけて滴下し、重合反応を行った。110℃で3時間反応させた後、重合開始剤0.6部をさらに添加し、110℃で1時間反応を続けて、樹脂の溶液を得た。室温まで冷却してからジメチルアミノエタノール37.1部を添加して中和し、水100部をさらに添加した。100℃以上に加熱して水と共沸させることでブタノールを留去し、濃度を調整した。これにより、水溶性樹脂4の含有量が20.0%である、水溶性樹脂4を含む液体を得た。水溶性樹脂4の滴定法による酸価は236mgKOH/gであり、水溶性単量体比率は27質量%であり、重量平均分子量は12000であった。
【0173】
・オルフィンE1010:日信化学工業株式会社製、アセチレングリコール系界面活性剤・オルフィンEXP4300:日信化学工業株式会社製、アセチレングリコール系界面活性剤
・オルフィンD-10PG:日信化学工業株式会社製、アセチレングリコール系界面活性剤
【0174】
4.2.評価方法
4.2.1.記録試験
セイコーエプソン株式会社製 EW-873Tを改造し、インク注入口を備えたインク収容容器を設置したものを用意した。インク収容容器の内底からインク注入口までの高さが2cm、3cm及び5cmとした装置をそれぞれ準備した。記録試験の記録に用いた記録媒体は、XeroxP(富士ゼロックス社製)とした。記録媒体へのインクの付着量を、4mg/inch2として単色100%Dutyパターン101を記録した。
【0175】
4.2.2.印字直後LM性(記録直後のラインマーカー試験)
記録直後の画像に対して、ラインマーカーを用いて1回又は2回擦って、目視した結果を以下の基準で評価した。評価結果を表5~表8に記載した。印刷直後であることから、B以上であることが望ましく、A以上であることがより望ましい。
A:2回擦りでもこすれが目立たない
B:1回擦りでこすれが目立たない
C:1回擦りでこすれが目立つ
【0176】
4.2.3.印字5分後LM性(記録後、5分経過時点のラインマーカー試験)
記録後、5分間放置した時点の画像に対して、ラインマーカーを用いて1回又は2回擦って、目視した結果を以下の基準で評価した。評価結果を表5~表8に記載した。印刷後、5分間放置したことから、A以上であることが望ましい。
A:2回擦りでもこすれが目立たない
B:1回擦りでこすれが目立たない
C:1回擦りでこすれが目立つ
【0177】
4.2.4.目詰まり性
記録装置のインク収容容器に各例のインクをそれぞれ充填した。1日1時間印刷し、印刷しない時間はプリンターを停止し、これを1カ月行った。この間、インク収容容器のインク量が下限に達したらインク補充した。そして1カ月後、ノズル検査を行い、以下の基準で評価した。評価結果を表5~表8に記載した。B以上であることが望ましい。
A:不吐出ノズルが1%以下。
B:不吐出ノズルが1%超3%以下
C:不吐出ノズルが3%超
なお、上評価結果が「C」である例ではインク収容容器内のインク液面(気液界面)に異物が発生していた。
また、別途、上記の記録装置を、インク収容容器を備えず、インクカートリッジにインクを充填したものから直接インクジェットヘッドにインク供給を受ける記録装置にしたこと以外は同様の記録装置に改造して、これを用いて同様に評価したところ、何れの例もB以上であった。
【0178】
4.2.5.消泡性
110mlのスクリュー管瓶に各例のインク20gを入れ、栓をして密閉した。インクの入ったスクリュー管瓶を、10cmの振幅で10回/5秒程度で振とうした。その後、消泡の様子を液面が見えるまで泡が消えたか否かを以下の基準で判定した。評価結果を表
5~表8に記載した。B以上であることが望ましい。
A:1以内に液面が見える
B:5分以内に液面が見える
C:5分経過しても液面が見えない
【0179】
4.2.6.光学濃度(OD値)
単色100%Dutyパターン101を、測色機で測定した。得られたOD値により、以下の基準で評価した。評価結果を表5~表8に記載した。B以上であることが望ましい。
A:OD値1.1以上
B:OD値0.9以上1.1未満
C:OD値0.9未満
【0180】
4.2.7.容器内泡立ち評価
インク収容容器の内底からインク注入口までの高さがそれぞれ2cm、3cm及び5cmと異なる容器に対して、各例のインクを40gインク注入口から充填した。充填後、1分経過した時点の泡立ちの高さを以下の基準で評価した。評価結果を表~表8に記載した。Aであることが望ましい。
A:1分後に泡立ち高さが2mm以下
B:1分後に泡立ち高さが2mmより高い
【0181】
4.2.8.マイクロプラスチック対応評価
水不溶性の樹脂がインクに含まれるか否かを判定した。結果を表1~表4に記載した。Aであることが望ましい。
A:インクに水不溶性樹脂含まず
B:インクに水不溶性樹脂含む
【0182】
4.3.評価結果
表5~表8をみると、自己分散顔料と、水溶性樹脂と、ベタインと、を含有し、自己分散顔料の含有量が、インク組成物の総質量に対し3.5質量%以上8.5質量%以下であり、水溶性樹脂に対する前記自己分散顔料の質量比(自己分散顔料/水溶性樹脂)が、2.8以上30未満であり、ベタインの含有量が、インク組成物の総質量に対し2.5質量%以上9.5質量%以下である、各実施例のインクジェットインク組成物は、目詰まり、堅牢性(耐擦性)及び発色性が良好であることが判明した。
【0183】
本発明は、実施の形態で説明した構成と実質的に同一の構成、例えば、機能、方法及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構
成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【0184】
上述した実施形態及び変形例から以下の内容が導き出される。
インクジェットインク組成物は、水系であって、
自己分散顔料と、水溶性樹脂と、ベタインと、を含有し、
インク注入口を有するインク収容容器を有するインクジェット記録装置で用いられるものであり、
前記自己分散顔料の含有量が、インク組成物の総質量に対し3.5質量%以上8.5質量%以下であり、
前記水溶性樹脂に対する前記自己分散顔料の質量比(自己分散顔料/水溶性樹脂)が、
2.8以上30未満であり、
前記ベタインの含有量が、インク組成物の総質量に対し2.5質量%以上9.5質量%以下である。
【0185】
このインクジェットインク組成物によれば、インク注入口を有するインク収容容器を有するインクジェット記録装置で用いても気泡や異物が発生しにくく、堅牢性及び発色性に優れた画像を形成することができる。この効果は、自己分散顔料、水溶性樹脂及びベタインの特定の配合により相互作用により奏される。
【0186】
上記インクジェットインク組成物において、
前記水溶性樹脂の含有量が、インク組成物の総質量に対し0.3質量%以上2質量%以下であってもよい。
【0187】
このインクジェットインク組成物によれば、画像の定着性がより適切で、また、粘度がより良好である。
【0188】
上記インクジェットインク組成物において、
前記インク収容容器は、前記注入口から内底までの高さが3cm以上であってもよい。
【0189】
このインクジェットインク組成物によれば、より気泡が発生しやすい状況でも気泡が発生しにくいので、より顕著な効果が得られる。
【0190】
上記インクジェットインク組成物において、
樹脂粒子の含有量が、インク組成物の総質量に対し0.1質量%未満であってもよい。
【0191】
このインクジェットインク組成物によれば、さらに異物の発生が抑制される。
【0192】
上記インクジェットインク組成物において、
前記水溶性樹脂が、アクリル系樹脂又はマレイン酸系樹脂から選択されてもよい。
【0193】
このインクジェットインク組成物によれば、得られる画像の画質をさらに良好にできる。
【0194】
上記インクジェットインク組成物において、
前記水溶性樹脂における水溶性単量体の構成比が、水溶性樹脂の全単量体を100質量%としたときに、60質量%未満であってもよい。
【0195】
このインクジェットインク組成物によれば、目詰まりのさらなる低減及びより十分な水溶性が得られる。
【0196】
上記インクジェットインク組成物において、
前記ベタインが、トリアルキルグリシンから選択されてもよい。
【0197】
このインクジェットインク組成物によれば、水溶性樹脂の凝集をより起こさせにくくできる。
【0198】
上記インクジェットインク組成物において、
前記水溶性樹脂が酸価を有してもよい。
【0199】
このインクジェットインク組成物によれば、画像の堅牢性をより良好にできる。
【0200】
上記インクジェットインク組成物において、
吸収性記録媒体への記録に用いられるものであってもよい。
【0201】
上記インクジェットインク組成物において、
標準沸点が280℃超のポリオール類を含有してもよい。
【0202】
このインクジェットインク組成物によれば、さらに目詰まりを抑制しやすい。
【0203】
記録方法は、インク注入口を有するインク収容容器を有するインクジェット記録装置を用いて行われ、
インクジェットインク組成物を、前記インクジェット記録装置のインクジェットヘッドから吐出して記録媒体へ付着させる工程を備え、
前記インクジェットインク組成物は、上述のインクジェットインク組成物である。
【0204】
この記録方法によれば、インク注入口を有するインク収容容器を有するインクジェット記録装置で用いて、気泡や異物が発生しにくく、堅牢性及び発色性に優れた画像を形成することができる。この効果は、自己分散顔料、水溶性樹脂及びベタインの特定の配合により相互作用により奏される。
【0205】
セットは、インク注入口を有するインク収容容器を有するインクジェット記録装置と、
前記インクジェット記録装置において記録に用いられるインクジェットインク組成物と、を含み、
前記インクジェットインク組成物は、上述のインクジェットインク組成物である。
【0206】
このセットによれば、インク注入口を有するインク収容容器を有するインクジェット記録装置で用いても気泡や異物が発生しにくく、堅牢性及び発色性に優れた画像を形成することができる。この効果は、自己分散顔料、水溶性樹脂及びベタインの特定の配合により相互作用により奏される。
【符号の説明】
【0207】
21…記録装置、22…筐体、23…支持台、24…ガイド軸、25…記録ヘッド、26…キャリッジ、27…支持孔、28…駆動プーリー、29…従動プーリー、30…キャリッジモーター、30g…メタクリル酸、31…タイミングベルト、32…排出口、33…排出トレイ、34…給紙カセット、35…開閉扉、36…回転軸、37…窓部、40…インク供給ユニット、41…インク収容容器、42…インク収容容器、43…インク収容容器、44…インク収容容器、45…インク収容容器、46…インク供給チューブ、47…インク補給用アダプター、48…段差部、49…インク貯留室、50…視認部、51…上限マーク、52…下限マーク、53…インク入口、54…流路、55…流路、56…針、57…残量センサー、58…上面、59…下面、60…貫通孔、61…凹部、62…第1凹凸部、63…インクボトル、64…容器本体部、65…インク出口、66…インク出口形成部、67…容器付加部、68…キャップ、69…雄ねじ部、70…突起、IK…インク組成物、P…用紙