(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024135909
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】反射型移相器
(51)【国際特許分類】
H01P 1/185 20060101AFI20240927BHJP
H01P 5/20 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
H01P1/185
H01P5/20 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023046812
(22)【出願日】2023-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】504182255
【氏名又は名称】国立大学法人横浜国立大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】新井 宏之
(72)【発明者】
【氏名】田村 成
(57)【要約】
【課題】4端子対回路を用いた反射型移相器の性能を向上させること。
【解決手段】反射型移相器は、誘電体基板と、誘電体基板の第1面に形成され一端に第1ポートを有する第1マイクロストリップ線路と、第1面に形成されたリング状の線路であって一端に第2ポートを有し他端に第3ポートを有する第2マイクロストリップ線路と、第1面に所定の間隔を設けて形成された第1線路と第2線路とから構成され第1線路の一端及び第2線路の一端に第4ポートを有するコプレーナ線路と、第2マイクロストリップ線路の第2ポートを有する一端及び第3ポートを有する他端それぞれに接続され第2ポートと第3ポートとの間に90度の位相差を付加する反射負荷とを備え、第2ポートとの間の距離と第3ポートとの間の距離とが等しい周方向の位置に第1マイクロストリップ線路の他端が接続され第2ポートが第1線路の他端に接続され第3ポートが第2線路の他端に接続される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体基板と、
前記誘電体基板の第1面に形成され、一端に第1ポートを有する第1マイクロストリップ線路と、
前記第1面に形成され、一端に第2ポートを有し他端に第3ポートを有する第2マイクロストリップ線路と、
前記第1面に所定の間隔を設けて形成された第1線路と第2線路とから構成され、前記第1線路の一端、及び前記第2線路の一端に第4ポートを有するコプレーナ線路と、
前記第2マイクロストリップ線路の前記第2ポートを有する一端、及び前記第3ポートを有する他端それぞれに接続され、前記第2ポートと前記第3ポートとの間に90度の位相差を付加する反射負荷と、
を備え、
前記第2マイクロストリップ線路において、
前記第2ポートとの間の距離と前記第3ポートとの間の距離とが等しい周方向の位置に前記第1マイクロストリップ線路の他端が接続され、
前記第2ポートが前記第1線路の他端に接続され、前記第3ポートが前記第2線路の他端に接続される
反射型移相器。
【請求項2】
前記反射負荷は、集中定数回路によって構成される
請求項1に記載の反射型移相器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反射型移相器に関する。
【背景技術】
【0002】
反射型移相器の基本構造として、サーキュレータまたは3dBハイブリッドカプラと、バラクタ反射負荷またはスライディングショート負荷との組み合わせが知られている。このうちサーキュレータは狭帯域でしか動作せず、かつ製作が煩雑なため使用されない。最も使用される組み合わせは、3dBハイブリッドカプラとバラクタ反射負荷との組み合わせである。3dBハイブリッドカプラとバラクタ反射負荷との組み合わせは、製作が簡単である一方、狭帯域(5-10%)であることが課題である。
【0003】
ここで反射型移相器の性能を決定する要因には、製作容易性、構造性、帯域、サイズ、Figure of Merit(FoM)、及び損失移相量変動がある。これら要因のうち接続回路のみにより決定される要因は、製作容易性、構造性、帯域、及びサイズである。接続回路と反射負荷との両方によって決定される要因は、FoM、及び損失移相量変動である。
損失変動が発生せず、移相量が高い反射負荷を設計しても、反射型移相器としての最終的な性能は、接続回路の周波数特性によって決定される。そのため、接続回路の選択は、反射負荷の設計と同様に重要である。
【0004】
4端子対回路(ハイブリッド回路ともいう)を用いた反射型移相器が知られている。2つの分岐ポート間において振幅と位相のバランスが取れた特殊な特性をもつ回路である。4端子対回路を反射型移相器に用いるには、次の2つの条件を満たす必要がある。1つ目の条件は、2つのポートに入力ポートから入力された電力を等しく分配することである。なお、この場合、残りの1ポートは結合しない。2つ目の条件は、それらの2つのポートそれぞれから出力される信号の間に90度の位相差を付加することである。
【0005】
これらの2つの条件を満たすことのできる4端子対回路として、ブランチライン結合器(例えば、非特許文献1-5)、結合線路方向性結合器(例えば、非特許文献6-10)、ラットレース回路(例えば、非特許文献11、12)、及びMagic-Tが知られている。ブランチライン結合器、及び結合線路方向性結合器は、90度ハイブリッド回路である。ラットレース回路、及びMagic-Tは、180度ハイブリッド回路である。
【0006】
4端子対回路としてMagic-Tのみが唯一70年にわたって反射型移相器として利用することが注目されていなかった。近年は、Magic-Tは両平面回路で実現でき、その応用性が盛んに研究されている(例えば、非特許文献13)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】「IEEE Transactions on Microwave Theory and Techniques」、2007年9月、55巻、9号、p.1862-1868
【非特許文献2】「IEEE Microwave and Wireless Components Letters」、2008年2月、18巻、2号、p.106-108
【非特許文献3】「IEEE Transactions on Microwave Theory and Techniques」、2015年6月、63巻、6号、p.1883-1893
【非特許文献4】「IEEE Transactions on Microwave Theory and Techniques」、2015年2月、63巻、2号、p.414-421
【非特許文献5】「2017 IEEE MTT-S International Microwave Symposium (IMS)」、2017年6月、p.897-899
【非特許文献6】「2020 50th European Microwave Conference (EuMC)」、2021年1月、p.550-553
【非特許文献7】「IEEE Microwave and Wireless Components Letters」、2018年9月、28巻、9号、p.807-809
【非特許文献8】「IEEE Transactions on Microwave Theory and Techniques」、2012年8月、60巻、8号、p.2465-2472
【非特許文献9】「IEEE Microwave and Wireless Components Letters」、2018年8月、28巻、8号、p.678-680
【非特許文献10】「IEEE Transactions on Circuits and Systems II: Express Briefs」、2017年12月、64巻、12号、p.1442-1446
【非特許文献11】「IEEE Transactions on Microwave Theory and Techniques」、2002年4月、50巻、4号、p.1146-1155
【非特許文献12】「2021 51st European Microwave Conference (EuMC)」、2022年4月、p.26-29
【非特許文献13】「2007 IEEE/MTT-S International Microwave Symposium」、2007年6月、p.37-40
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
非特許文献1-3それぞれに記載のブランチライン結合器は、帯域が狭く、単一周波数以外では、回路の特性の変化により損失の変動、及び移相量の変動が強く生じてしまう。また、ブランチライン結合器では、構造に35Ωの線路が必要であるため、線路幅が大きい傾向がある。ブランチライン結合器では、28GHz帯または60GHz帯は平面回路のリアクタンスの影響が強く、さらに狭帯域化してしまう。
【0009】
非特許文献4-5それぞれに記載のブランチライン結合器には、Reconfigurable Quadrature Hybrid Circuitの提案によって動作帯域を拡張したものがある。しかしそれらのブランチライン結合器では、使用する帯域を変更する移相器であり、広帯域では動作できない。また、挿入損が大きくなり、損失の変動が大きい。
【0010】
非特許文献6-10それぞれに記載の結合線路方向性結合器では、3dB分岐を広帯域で得るには、線路間の結合度を可能な限り高めたり、Defected Ground Structure(DGS)を設けたり必要がある。様々な工夫が提案されているが、製作容易性、及び挿入損が他の移相器よりも劣る。
【0011】
ラットレース回路を接続回路として用いる場合、帯域とサイズとのトレードオフが大きい。非特許文献11に記載のラットレース回路は、アナログ移相器ではなく固定移相器であり、サイズが大きい。非特許文献12に記載のラットレース回路は、右手左手系複合線路を利用して回路を小型化している。しかし、元々のラットレース回路に比べて接続回路の特性が悪化してしまう。
【0012】
非特許文献13に記載の平面型Magic-Tでは、マイクロストリップ、及びスロット線路が用いられている。この平面型Magic-Tでは、マイクロストリップとスロット線路との間の変換が複雑である。その複雑さに伴い狭帯域となり、また放射損が発生してしまう。
【0013】
上述した4端子対回路を用いた反射型移相器ではいずれも、製作容易性、構造性、帯域、サイズ、FoM、及び損失移相量変動のいずれかの性能が十分ではなかった。4端子対回路を用いた反射型移相器の性能を向上させることが求められている。
【0014】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、4端子対回路を用いた反射型移相器の性能を向上させることができる反射型移相器を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、本発明の一態様は、誘電体基板と、前記誘電体基板の第1面に形成され、一端に第1ポートを有する第1マイクロストリップ線路と、前記第1面に形成され、一端に第2ポートを有し他端に第3ポートを有する第2マイクロストリップ線路と、前記第1面に所定の間隔を設けて形成された第1線路と第2線路とから構成され、前記第1線路の一端、及び前記第2線路の一端に第4ポートを有するコプレーナ線路と、前記第2マイクロストリップ線路の前記第2ポートを有する一端、及び前記第3ポートを有する他端それぞれに接続され、前記第2ポートと前記第3ポートとの間に90度の位相差を付加する反射負荷と、を備え、前記第2マイクロストリップ線路において、前記第2ポートとの間の距離と前記第3ポートとの間の距離とが等しい周方向の位置に前記第1マイクロストリップ線路の他端が接続され、前記第2ポートが前記第1線路の他端に接続され、前記第3ポートが前記第2線路の他端に接続される反射型移相器である。
【0016】
また、本発明の一態様は、上記の反射型移相器において、前記反射負荷は、集中定数回路によって構成される。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、4端子対回路を用いた反射型移相器の性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施形態に係る平面型Magic-T1の回路構成の一例を示す図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る平面型Magic-T1の回路構成に対応する伝送線路の構成を偶数モードが励起される場合について示す図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る平面型Magic-T1の回路構成に対応する伝送線路の構成の一例を奇数モードが励起される場合について示す図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る反射型移相器6の構成の一例を示す図である。
【
図5】本発明の実施形態に係る反射型移相器6の等価回路の一例を示す図である。
【
図6】本発明の実施形態に係る反射型移相器6と従来の反射型移相器との性能の比較の一例を示す図である。
【
図7】従来技術に係るハイブリッド回路の作成方法の一例を示す図である。
【
図8】従来技術に係る従来平面型Magic-T10の構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(実施形態)
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について詳しく説明する。
図1は、本実施形態に係る平面型Magic-T1の回路構成の一例を示す図である。平面型Magic-T1は、リング形状のパワーデバイダと、Microstrip-to-coplanar strips(CPS)変換構造とを有する平面型のMagic-Tである。なお、CPS変換構造を、Microstrip-to-CPS変換構造ともいう。
【0020】
平面型Magic-T1は、第1マイクロストリップ線路2と、第2マイクロストリップ線路3と、コプレーナ線路4とを備える。第1マイクロストリップ線路2、第2マイクロストリップ線路3、及びコプレーナ線路4は、誘電体基板5の表面である第1面50に形成される。誘電体基板5の裏面には、接地導体51が設けられる。
【0021】
第1マイクロストリップ線路2は、直線状の線路である。第1マイクロストリップ線路2は、一端に第1ポートP1を有し、他端が第2マイクロストリップ線路3の第1接続部32に接続される。第1ポートP1は、信号(例えば、マイクロ波)が入力されるポートである。
【0022】
第2マイクロストリップ線路3は、リング状の線路である。第2マイクロストリップ線路3は、第1アーム30と、第2アーム31とから構成される。第1アーム30と第2アーム31とは、第1接続部32において接続されている。第1アーム30と第2アーム31とは
図1において、第1接続部32と第2接続部33とを結ぶ直線について左右対称である。第1アーム30、及び第2アーム31それぞれの形状は、円弧である。
【0023】
したがって、第2マイクロストリップ線路3において、第2ポートP2との間の距離と第3ポートP3との間の距離とが等しい周方向の位置(第1接続部32の位置)に第1マイクロストリップ線路2の他端が接続されている。
【0024】
第1アーム30は、一端に第2ポートP2を有し、他端に第1接続部32を有する。第2アーム31は、一端に第3ポートP3を有し、他端に第1接続部32を有する。したがって、第2マイクロストリップ線路3は、一端に第2ポートP2を有し他端に第3ポートP3を有する。
【0025】
第1接続部32には、第1マイクロストリップ線路2が接続される。第2ポートP2、及び第3ポートP3からは、第1ポートP1から入力されたマイクロ波が分岐されてそれぞれ出力される。第2接続部33には、コプレーナ線路4が接続される。
【0026】
第2マイクロストリップ線路3には、第2接続部33においてコプレーナ線路4が接続される。第2接続部33は、第2接続部第1部分330と第2接続部第2部分331とから構成される。第2接続部第1部分330は、第1アーム30の端である。第2接続部第2部分331は、第2アーム31の端である。
【0027】
コプレーナ線路4は、直線状の線路である。コプレーナ線路4は、第1線路40と第2線路41とから構成される。第1線路40と第2線路41とは、第1面50上において所定の間隔を設けて並行に配置された1対の線路である。コプレーナ線路4は、一端が第2接続部33に接続される。第2接続部33のうち第2接続部第1部分330と第1線路40とが接続され、第2接続部第2部分331が第2線路41と接続される。
【0028】
コプレーナ線路4は、他端に第4ポートP4を有する。ここでコプレーナ線路4は、第1線路40の一端、及び第2線路41の一端に第4ポートP4を有する。第4ポートP4は、マイクロ波を検出するためのポートである。
また、第2ポートP2は、第1線路40の他端に接続される。第3ポートP3は、第2線路41の他端に接続される。
【0029】
平面型Magic-T1は、線路が平面上に配置されて構成されるが、移相器としての特性は、従来の立体形状のMagic-Tと同じである。平面型Magic-T1では、第1マイクロストリップ線路2、及び第2マイクロストリップ線路3から構成されるリング形状のマイクロストリップ線路から構成されるパワーデバイダによって、H面分岐が実現されている。また、平面型Magic-T1では、第2マイクロストリップ線路3、及びコプレーナ線路4から構成されるCPS変換構造によって、E面分岐が実現されている。
【0030】
第1ポートP1及び第4ポートP4の特性インピーダンスは、第1マイクロストリップ線路2の幅w
1、コプレーナ線路4を構成する第1線路40及び第2線路41それぞれの幅w
4、並びに第1線路40と第2線路41との間の間隔g
CPSに応じて決まる。
図1では、一例として、幅w
1は1.7mmであり、幅w
4は0.2mmであり、間隔g
CPSは0.1mmである。
【0031】
コプレーナ線路4は、マイクロ波の伝搬モードとしてTEMモード、及び高次モード(つまり、奇数モード、及び偶数モード)を伝搬させる。これらのモードはそれぞれ、インピーダンスZodd、及びインピーダンスZevenをもつ。なお、第2ポートP2、及び第3ポートP3は、例えば、同軸ケーブルによって実現される。
【0032】
接地導体51は、誘電体基板5の裏面において、コプレーナ線路4の下面に位置する領域52では配置されていない。換言すれば、接地導体51は、誘電体基板5の裏面において境界53によって示される範囲まで設けられている。コプレーナ線路4では、誘電体基板5の第1面50において、境界53から第4ポートP4までの部分が裏面に接地導体51が配置されていない領域52上に設けられている。コプレーナ線路4では、第2接続部33から境界53までの部分は裏面に接地導体51が配置されている。そのため、コプレーナ線路4には、主に奇数モードが伝搬する。なお、境界53は、第1接続部32と第2接続部33とを結ぶ直線と垂直な直線である。第2接続部33から境界53までの距離l1は、一例として、3mmである。
【0033】
第2マイクロストリップ線路3のリングの半径Rは、2πR=λ
g/2を満たす。ここでλ
gは、設計周波数における管内波長である。したがって、第1アーム30、及び第2アーム31の電気長はそれぞれ、λ
g/4である。
図1では、一例として、半径Rは7.5mmである。また、第2マイクロストリップ線路3の幅w
Rは0.9mmである。なお、幅w
Rは、第1アーム30と第2アーム31とに共通である。
【0034】
平面型Magic-T1において、第1ポートP1、第2ポートP2、及び第3ポートP3それぞれのインピーダンスは、50Ωであり、第4ポートP4のインピーダンスは、100Ωである。
【0035】
平面型Magic-T1は、従来の4端子対回路に比べて2つの利点を有する。平面型Magic-T1の1つ目の利点は、回路構成が単純であるため、製作が容易であり、また他の回路と統合することが容易であることである。平面型Magic-T1では、調整が必要なパラメータの数は最小限に抑えられている。平面型Magic-T1の性能は、第1ポートP1、及び第4ポートP4それぞれの特性インピーダンス、並びに4分の1波長の電気長の第1アーム30、及び第2アーム31によって決まる。
【0036】
平面型Magic-T1の2つ目の利点は、H面分岐としてのリング形状のマイクロストリップ線路(第2マイクロストリップ線路3)と、CPS変換構造(コプレーナ線路4)とを組み合わせることによって、回路のサイズの小型化、及び挿入損失の低減を実現できている点である。
【0037】
第2マイクロストリップ線路3には、2つの役割がある。1つ目の役割として、第2マイクロストリップ線路3は、H面分岐として4分の1波長インピーダンス変成器として機能する。なお、第2マイクロストリップ線路3のインピーダンスZTは=70.7Ω(100×50の平方根)である。2つ目の役割として、第2マイクロストリップ線路3は、E面分岐として4分の1波長ショートスタブとして機能する。平面型Magic-T1は、従来技術において挿入損失の主要因であったスロットスタブを必要としない。
【0038】
次に
図2及び
図3を参照し、偶数モード及び奇数モードを用いて平面型Magic-T1の動作原理について説明する。
図2は、平面型Magic-T1の回路構成に対応する伝送線路の構成の一例を、偶数モードが励起される場合について示す図である。
図3は、平面型Magic-T1の回路構成に対応する伝送線路の構成の一例を、奇数モードが励起される場合について示す図である。
図2、及び
図3にそれぞれ示す伝送線路では、説明を簡単にするため、インピーダンスは、50Ωの特性インピーダンスに規格化する。
【0039】
図2に示す偶数モードの励起では、第2ポートP2、及び第3ポートP3では、マイクロ波の振幅、及び位相は互いに等しい。平面型Magic-T1が配置される第1面50が磁界面となる。したがって、コプレーナ線路は奇数モードを伝搬させず、第2ポートP2、及び第3ポートP3は、実質的にオープンとなる。平面型Magic-T1は、3つのポートを有する回路となる。第2ポートP2から入力された信号は、第1ポートP1、及び第4ポートP4にそれぞれ分配され、第4ポートP4を伝搬する偶数モードは、挿入損失となる。
【0040】
図3に示す奇数モードの励起では、第2ポートP2、及び第3ポートP3では、マイクロ波の振幅は互いに等しくなるが、位相は互いに逆位相となる。平面型Magic-T1が配置される第1面50が電界面となる。したがって、コプレーナ線路は偶数モードを伝搬させない。さらに、H面分岐における4分の1波長の線路は、4分の1波長ショートスタブとなる。第1ポートP1、及び第2ポートP2は、完全にアイソレートする。
図3に示す回路構成は、2つのポートのネットワークとなり、挿入損失は存在しない。なお、第1ポートP1、及び第3ポートP3も、アイソレートする。
【0041】
上述したように、平面型Magic-T1では、H面分岐がマイクロストリップ線路(第1マイクロストリップ線路2、及び第2マイクロストリップ線路3)によって構成され、E面分岐がコプレーナ線路(コプレーナ線路4)によって構成される。H面分岐には、コプレーナ線路における偶数モードの伝搬によって挿入損失が発生する。一方、E面分岐には、挿入損失は発生しない。
【0042】
ここで、ハイブリッド回路の作成方法としては、6通りの作成方法が既知である。同一平面回路では、
図7(A)に示す回路が最小のサイズとなる。一方、
図7(B)に示す回路では、2分の1波長の線路が含まれている。2分の1波長の線路は、当該線路の伝送線路長を0にしたとしても位相差は同じあり、Magic-Tとしての特性は変わらないと考えられる。
【0043】
例えば、非特許文献13に記載の平面型Magic-Tは、
図7(B)に示す回路に基づいて構成されている。
図8は、従来技術に係る従来平面型Magic-T10の構成の一例を示す図である。従来平面型Magic-T10では、スロット線路101を設けてマイクロストリップ線路間の変換を実現していた。スロット線路101を設ける構成では、マイクロストリップ・スロット線路変換が複雑である。そのため、従来平面型Magic-T10では、帯域幅が狭くなり、また、放射損失が大きくなってしまう。
【0044】
一方、上述したように、本実施形態に係る平面型Magic-T1では、スロット線路による変換の代わりに、コプレーナ線路4が第2マイクロストリップ線路3に直接接続されるCPS変換構造が用いられている。平面型Magic-T1におけるコプレーナ線路4は、従来平面型Magic-T10におけるスロット線路101に比べて短い。平面型Magic-T1では、CPS変換構造を利用することによって、小型でスロット線路101より低損失な構成を実現している。また、平面型Magic-T1では、モードの直交性を利用することによって、回路の分配特性が伝送線路長に依存しない平面回路を実現している。
【0045】
次に
図4を参照し、上述した平面型Magic-T1を接続回路として用いた反射型移相器6の構成について説明する。
図4は、本実施形態に係る反射型移相器6の構成の一例を示す図である。反射型移相器6は、誘電体基板5と、平面型Magic-T1と、反射負荷7とを備える。平面型Magic-T1、及び反射負荷7は、誘電体基板5上に形成される。
【0046】
なお、
図4において示されているサイズの単位は、ミリメートルである。接地導体51は、誘電体基板5の裏面において領域52では配置されていない。領域52は、コプレーナ線路4の第4ポートP4側の一部の下面に位置する。領域52のサイズは、20mm×2.5mmである。回路のサイズは、0.17λ
g×0.20λ
gである。
【0047】
ここで4端子対回路(ハイブリッド回路)を反射型移相器に用いるには、次の2つの条件を満たす必要がある。1つ目の条件は、2つのポートに入力ポートから入力された電力を等しく分配することである。2つ目の条件は、それらの2つのポートそれぞれから出力される信号の間に90度の位相差を付加することである。上述したように、1つ目の条件は、平面型Magic-T1によって満たされている。
【0048】
一方、Magic-TのSパラメータは、式(1)によって示される。
【0049】
【0050】
このSパラメータを見ると、Magic-Tは、ラットレース回路と同様に180度ハイブリッド回路に分類され、そのままでは上記の2つ目の条件を満たしていない。そこで、第2ポートP2及び第3ポートP3それぞれから出力される信号の間に90度の位相差を付加する必要がある。
【0051】
反射負荷7は、第2ポートP2及び第3ポートP3それぞれから出力される信号の間に90度の位相差を付加する。反射負荷7は、第2接続部第1部分330、及び第2接続部第2部分331それぞれに接続される。したがって、反射負荷7は、第1マイクロストリップ線路2の第2ポートP2を有する一端、及び第3ポートP3を有する他端それぞれに接続される。つまり、反射負荷7は、第2マイクロストリップ線路3の両端に接続される。また、反射負荷7は、第2マイクロストリップ線路3のリングの内側に配置されている。
【0052】
反射負荷7は、集中定数回路である。本実施形態において、集中定数回路は、反射型移相器6を伝搬する信号の波長よりも十分小さい形状の電子部品、及び十分短い配線長で構成され、かつ、部品間の配線のインピーダンスが無視できるほど小さい回路である。反射負荷7の回路構成は、第2ポートP2及び第3ポートP3それぞれから出力される信号の間に90度の位相差を付加できさえすれば、いずれの集中定数回路の構成であってもよい。本実施形態では、集中定数回路である反射負荷7のサイズは、第2マイクロストリップ線路3のリングの内側に配置できる程度に小さい。
【0053】
本実施形態では、反射負荷7は、一例として、ハイパス移相器またはローパス移相器と、バラクタ負荷(可変容量ダイオードともいう)とを備える。バラクタ負荷は、直流電源によって制御される。また、反射負荷7は、RF(Radio Frequency)を遮断する抵抗であるRFチョーク抵抗、及び直流カット用キャパシタを含む。反射負荷7は、一例として、14個の表面実装用部品(SMD:Surface Mount Device)を備える。
図5に反射型移相器6の等価回路を示す。
【0054】
インダクタンスLH、キャパシタンスCH、インダクタンスLL、及びキャパシタンスCLの各値は、次の式(2)から式(5)によって示される。
【0055】
【0056】
【0057】
【0058】
【0059】
ここで特性インピーダンスZ0は、第1アーム30及び第2アーム31それぞれの特性インピーダンスである。位相φは、所望の位相差である。角周波数ωは、反射型移相器6の設計周波数f0における角周波数である。本実施形態では、特性インピーダンスZ0は50Ωであり、位相φは45度であり、設計周波数f0は2.0GHzである。
これらのパラメータの値に対して、インダクタンスLHは5.6nHであり、キャパシタンスCHは3.2pFであり、インダクタンスLLは1.8nHである。
【0060】
バラクタ負荷のキャパシタンスCνは、0.63pFから2.67pFまでの範囲で可変であり、寄生容量Lνは0.7nFであり、寄生抵抗Rνは、1Ωである。バラクタ負荷は、位相差を増加させるためチップインダクタを有する。チップインダクタのインダクタンスLsは4.0nHである。RFチョーク抵抗の抵抗RDCは10MΩである。直流カット用キャパシタのキャパシタンスCDCは20pFである。
【0061】
なお、本実施形態では、第2ポートP2及び第3ポートP3それぞれから出力される信号の間に90度の位相差を付加するために、集中定数回路である反射負荷7と平面型Magic-T1とが組み合わされる場合の一例について説明したが、反射負荷7は集中定数回路に限られない。集中定数回路の代わりに、例えば、従来のラットレース回路に備えられるような90度の位相遅れを実現する伝送線路が用いられてもよい。ただし、反射負荷として伝送線路を用いた場合、回路のサイズが大きくなってしまう。
【0062】
反射型移相器6では、反射負荷7として集中定数回路を用いることによって、回路のサイズを小さくできる。
【0063】
図6は、本実施形態に係る反射型移相器6と従来の反射型移相器との性能の比較の一例を示す図である。従来の反射型移相器は、非特許文献1-10、12に記載の反射型移相器、並びに、比較例の反射型移相器である。上述したように非特許文献1-5のハイブリッド回路は、ブランチライン結合器である(
図6では、「BLC」として示されている)。非特許文献6-10のハイブリッド回路は、結合線路方向性結合器である(
図6では、「CLC」として示されている)。非特許文献12のハイブリッド回路は、ラットレース回路である。比較例のハイブリッド回路は、本実施形態に係る反射型移相器6と同様に平面型Magic-Tである。なお、比較例のハイブリッド回路では、平面型Magic-Tの構成が本実施形態に係る反射型移相器6とは異なる。
【0064】
図6では、反射型移相器の性能として、帯域、挿入損失、位相差、FoM、2種類の損失変動(FBW)、及びサイズがそれぞれ比較されている。反射型移相器6では、製作が容易でありかつ平面構造であり、広帯域、小型、高FoM、及び1dB以下の損失変動を同時に満足する。従来の反射型移相器では、これら性能を同時に満足できなかった。
【0065】
なお、本実施形態では、第2マイクロストリップ線路3の形状がリング状(つまり円形)である場合の一例について説明したが、これに限られない。第2マイクロストリップ線路3の形状は、誘電体基板5の第1面50において迂回するように湾曲または屈曲した形状を有していればよい。ここで第1面50において迂回するように湾曲または屈曲した形状とは、例えば、第1アーム30、及び第2アーム31がそれぞれ、第1接続部32と第2接続部33とを結ぶ線分上の点を迂回するような形状である。また別の例では、第1面50において迂回するように湾曲または屈曲した形状とは、第1アーム30、及び第2アーム31がそれぞれ、第1接続部32と第2接続部33とを結ぶ線分から対称に離れている形状である。
なお、第2マイクロストリップ線路3の形状は、誘電体基板5の第1面50において迂回するように湾曲または屈曲した形状を有している場合であっても、第1アーム30、及び第2アーム31は、第1接続部32と第2接続部33とを結ぶ線分について対称である。
【0066】
なお、本実施形態では、集中定数回路である反射負荷7が、第2マイクロストリップ線路3のリングの内側に配置される場合の一例について説明したが、これに限られない。例えば、複数の基板を積層してビアを設け、この積層された基板の裏面に集中定数回路が配置されてもよい。ただし、本実施形態のように、集中定数回路は第2マイクロストリップ線路3のリングの内側に配置された方が構成として簡便である。
【0067】
以上に説明したように、本実施形態に係る反射型移相器6は、誘電体基板5と、第1マイクロストリップ線路2と、第2マイクロストリップ線路3と、コプレーナ線路4と、反射負荷7と、を備える。
第1マイクロストリップ線路2は、誘電体基板5の第1面50に形成され、一端に第1ポートP1を有する。
第2マイクロストリップ線路3は、第1面50に形成され、一端に第2ポートP2を有し他端に第3ポートP3を有する。
コプレーナ線路4は、第1面50に所定の間隔を設けて形成された第1線路40と第2線路41とから構成され、第1線路40の一端(本実施形態において、第2接続部第1部分330)、及び第2線路41の一端(本実施形態において、第2接続部第2部分331)に第4ポートP4を有する。
反射負荷7は、第2マイクロストリップ線路3の第2ポートP2を有する一端、及び第3ポートP3を有する他端それぞれに接続され、第2ポートP2と第3ポートP3との間に90度の位相差を付加する。
第2マイクロストリップ線路3において、第2ポートP2との間の距離と第3ポートP3との間の距離とが等しい周方向の位置に第1マイクロストリップ線路2の他端が接続され、第2ポートP2が第1線路40の他端に接続され、第3ポートP3が第2線路41の他端に接続される。
【0068】
この構成により、本実施形態に係る反射型移相器6では、4端子対回路を用いた反射型移相器の性能を向上させることができる。ここで反射型移相器6では、製作が容易でありかつ平面構造であり、広帯域、小型、高FoM、及び1dB以下の損失変動を同時に満足する。従来の4端子対回路では、回路の特性が移相器の特性に影響する。Magic-Tを使った場合のみ、移相器の特性が反射負荷の特性に等しくなる。本実施形態に係る反射型移相器6では、平面型Magic-T1によって、最小構成、低損失、かつ広帯域で動作するMagic-Tを実用レベルで実現している。
【0069】
反射型移相器6では、誘電体基板5の第1面50に形成された第1マイクロストリップ線路2、第2マイクロストリップ線路3、及び第2マイクロストリップ線路3によって、平面型Magic-T1を実現している。平面型Magic-T1では、従来技術で用いられたマイクロストリップ・スロット線路変換の代わりにCPS変換構造を用いており、放射損失の低減と、回路の小型化を実現している。
【0070】
また、本実施形態に係る反射型移相器6では、反射負荷7は、集中定数回路である。
この構成により、本実施形態に係る反射型移相器6では、反射負荷として、集中定数回路を用いることによって、回路の小型化、広帯域化を実現している。
【0071】
以上、図面を参照してこの発明の一実施形態について詳しく説明してきたが、具体的な構成は上述のものに限られることはなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内において様々な設計変更等をすることが可能である。
【符号の説明】
【0072】
1…平面型Magic-T、2…第1マイクロストリップ線路、3…第2マイクロストリップ線路、4…コプレーナ線路、5…誘電体基板、6…反射型移相器、7…反射負荷、50…第1面、P1…第1ポート、P2…第2ポート、P3…第3ポート、P4…第4ポート