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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024135929
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】ブッシュ
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/08 20060101AFI20240927BHJP
   F16F 1/38 20060101ALI20240927BHJP
   B60G 7/02 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
F16F15/08 K
F16F1/38 Z
B60G7/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023046845
(22)【出願日】2023-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089875
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 茂
(72)【発明者】
【氏名】安武 嶺
(72)【発明者】
【氏名】秋竹 俊太郎
(72)【発明者】
【氏名】城 光
(72)【発明者】
【氏名】山本 佳祐
(72)【発明者】
【氏名】榎田 智幸
(72)【発明者】
【氏名】大森 幸一
(72)【発明者】
【氏名】具志堅 泰邦
(72)【発明者】
【氏名】田中 勇太
【テーマコード(参考)】
3D301
3J048
3J059
【Fターム(参考)】
3D301DB02
3D301DB05
3D301DB08
3J048AA01
3J048BA19
3J048BB03
3J048BD04
3J048CB01
3J048EA17
3J059AA09
3J059AB01
3J059BA42
3J059BA73
3J059BC03
3J059BC06
3J059DA36
3J059GA04
(57)【要約】
【課題】簡素な構成によりコストを抑制しつつばね特性を変化させる上で有利なブッシュを提供する。
【解決手段】ブッシュ10Aは、金属製の内筒12と外筒14とそれらの間に設けられた弾性部材16を備え、弾性部材16には形状記憶合金18が設けられている。弾性部材16は、内筒12と外筒14との間に設けられ、ゴムなどの従来公知の様々な弾性材料で形成されている。形状記憶合金18は、通電による自己発熱(ジュール熱)によって形状回復動作を行ないブッシュ10Aのばね特性を変化させるものである。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内筒と外筒とそれらの間に設けられた弾性部材とを備えるブッシュであって、
前記弾性部材に、通電による自己発熱によって形状回復動作を行ない前記ブッシュのばね特性を変化させる形状記憶合金が設けられている、
ことを特徴とするブッシュ。
【請求項2】
前記形状記憶合金は円筒形であり、前記形状回復動作によってその直径が拡大または縮小する、
ことを特徴とする請求項1記載のブッシュ。
【請求項3】
前記形状記憶合金は、前記内筒および前記外筒と同軸上に設けられている、
ことを特徴とする請求項1記載のブッシュ。
【請求項4】
前記弾性部材の周方向に間隔をおいて複数の空洞部が設けられ、
前記形状記憶合金は、前記空洞部に設けられている、
ことを特徴とする請求項1または2記載のブッシュ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はブッシュに関する。
【背景技術】
【0002】
車両の懸架装置として、車輪を支持するトレーリングアームあるいは車輪を支持するロアアームを、ブッシュを介して車体に揺動可能に連結したものが知られている。
ブッシュは、内筒と外筒とそれらの間に設けられた弾性部材とを備えており、例えば、内筒がトレーリングアームあるいはロアアームに結合され、外筒が車体に結合されている。
このようなブッシュは、予め設定されたばね特性(弾性係数)となるように設計されている。ばね特性とは、荷重に対するたわみの変化量の特性である。
ところで、ブッシュは、荷重に対するたわみが大きくなるほど、言い換えると、弾性部材の剛性が低いほど、乗り心地は良化する反面、操縦安定性は低下する傾向にある。
また、ブッシュは、荷重に対してたわみが小さくなるほど、言い換えると、弾性部材の剛性が高いほど、操縦安定性が良化する反面、乗り心地は低下する傾向にある。
このように乗り心地と操縦安定性とは背反するものとなっている。
そこで、特許文献1には、弾性部材の内部に設けた複数の流体室に油圧源から油圧を供給することでブッシュのばね特性を変化させることにより、乗り心地と操縦安定性とのいずれか一方を優先させるようにする技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10-138725号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来技術では、流体室や油圧源を設ける必要があり、構成が複雑化しコストがかさむものとなっている。
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、簡素な構成によりコストを抑制しつつばね特性を変化させる上で有利なブッシュを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明の一実施の形態は、内筒と外筒とそれらの間に設けられた弾性部材とを備えるブッシュであって、前記弾性部材に、通電による自己発熱によって形状回復動作を行ない前記ブッシュのばね特性を変化させる形状記憶合金が設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明の一実施の形態によれば、形状記憶合金に対する非通電、通電を切り替えることで、ブッシュのばね特性を簡単に確実に制御することができるので、従来のように弾性部材の内部に流体室を設け流体室に油圧を供給する油圧源を設けるといった複雑な構成が不要となり、簡素な構成によりブッシュのコストを抑制しつつブッシュのばね特性を変化させる上で有利となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】第1の実施の形態に係るブッシュの説明図であり、(A)は形状記憶合金の形状回復動作前の平面図、(B)は形状記憶合金の形状回復動作後の平面図、(C)はブッシュの荷重-変位特性を示す線図である。
図2】(A)は図1(A)のX-X線断面図、(B)は図1(A)のX-X線断面図の変形例を示す。
図3】第2の実施の形態に係るブッシュの説明図であり、(A)は形状記憶合金の形状回復動作前の平面図、(B)は形状記憶合金の形状回復動作後の平面図、(C)はブッシュの荷重-変位特性を示す線図である。
図4】第3の実施の形態に係るブッシュの説明図であり、(A)は形状記憶合金の形状回復動作前の平面図、(B)は形状記憶合金の形状回復動作後の平面図、(C)は(B)のC-C線断面図、(D)はブッシュの荷重-変位特性を示す線図である。
図5】第4の実施の形態に係るブッシュの説明図であり、(A)は形状記憶合金の形状回復動作前の平面図、(B)は形状記憶合金の形状回復動作後の平面図、(C)はブッシュの荷重-変位特性を示す線図である。
図6】第5の実施の形態に係るブッシュの説明図であり、(A)は形状記憶合金の形状回復動作前の平面図、(B)は形状記憶合金の形状回復動作後の平面図である。
図7】第6の実施の形態に係るブッシュの説明図であり、(A)は形状記憶合金の形状回復動作前の平面図、(B)は形状記憶合金の形状回復動作後の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(第1の実施の形態)
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
本実施の形態では、本発明のブッシュが、車両の車輪を支持するロアアームをサスペンションクロスメンバ(車体)に揺動可能に連結するブッシュを備える車両の懸架装置に適用された場合について説明する。
【0009】
図1(A)に示すように、ブッシュ10Aは、金属製の内筒12と外筒14とそれらの間に設けられた弾性部材16を備え、弾性部材16には形状記憶合金18が設けられている。
内筒12および外筒14は円筒状を呈し、それら内筒12と外筒14との間に弾性部材16が設けられ、それら内筒12、外筒14、弾性部材16は同軸上に設けられ、弾性部材16としてゴムなどの従来公知の様々な弾性材料が採用可能である。
内筒12は、ボルトナットなどの締結部材を介して不図示のサスペンションクロスメンバと連結される箇所であり、外筒14は不図示のロアアームと連結される箇所である。
弾性部材16の内周面は内筒12の外周面に加硫接着され、弾性部材16の外周面は外筒14の内周面に加硫接着されている。
【0010】
形状記憶合金18は、通電による自己発熱(ジュール熱)によって形状回復動作を行ないブッシュ10Aのばね特性を変化させるものである。
本実施の形態では、形状記憶合金18は円筒形であり、形状回復動作によってその直径が拡大または縮小する。
形状記憶合金18は、内筒12および外筒14と同軸上で、弾性部材16の半径方向において内筒12と外筒14との中間の箇所に設けられている。
本実施の形態では、形状記憶合金18は、形状記憶合金材料からなる線材(ワイヤー)が網目状に編み込まれることで円筒状に形成されている。
形状記憶合金18の軸心方向の両端は、図2(A)に示すように、弾性部材16の軸心方向の両端の端面と同一面上に位置していている。
また、形状記憶合金18の軸心方向の両端は、不図示のケーブルを介して不図示の電流供給部に接続されており、電流供給部からの所定の電流が形状記憶合金18に供給されることで形状記憶合金18が自己発熱する。
なお、形状記憶合金18は板状の形状記憶合金材料を円筒状に加工して形成してもよいが、本実施の形態のように形状記憶合金18が形状記憶合金材料からなる線材が網目状に編み込まれて構成されていると、板状の形状記憶合金材料が円筒状に形成されている場合に比較して、形状記憶合金18の電気抵抗値を高い値にすることができることから、通電によって自己発熱しやすくなり通電時に形状記憶合金18の形状回復動作を早期に行なうことができるため、応答性を確保する上で有利となる。
【0011】
本実施の形態では、形状記憶合金18は、弾性部材16の半径方向の中間の箇所に圧入されることで弾性部材16に組み込まれており、形状記憶合金18と弾性部材16との間に隙間が形成されることはなく、したがって、形状記憶合金18と弾性部材16とが分離することはない。
また、弾性部材16と形状記憶合金18とは接着剤を用いて接着されていてもよい。
また、本実施の形態では、形状記憶合金18は、予め形状記憶合金18に記憶されていた形状よりも縮径された状態で、すなわち縮径する方向に変形された状態で弾性部材16に組み込まれている。そして、変形された形状記憶合金18が組み込まれた弾性部材16が内筒12と外筒14の間に圧入されることでブッシュ10Aが構成されている。
【0012】
次にブッシュ10Aの作用効果について説明する。
図1(B)に示すように、電流供給部から形状記憶合金18に対して電流が供給され、形状記憶合金18が自己発熱することで形状記憶合金18の温度が形状記憶合金18に固有の形状回復温度以上となると、形状記憶合金18は、縮径された状態から拡径し記憶されていた形状に回復する形状回復動作を実行する。
したがって、弾性部材16のうち内筒12と形状記憶合金18との間に位置する第1部分16Aが伸長され第1部分16の剛性は低下する一方、弾性部材16のうち形状記憶合金18と外筒14との間に位置する第2部分16Bは圧縮され第2部分16Bの剛性は上昇することになる。
なお、形状記憶合金18単体では通電による自己発熱で一旦形状回復動作がなされると、通電を停止し自然冷却されても形状記憶合金18は元の形状に復帰しないが、図3(B)に示すように、本実施の形態では、弾性部材16からその半径方向外側に形状記憶合金18に対して荷重がかかっているため、通電を停止し自然冷却されると、この荷重により形状記憶合金18は元の形状に復帰する。
【0013】
図1(C)はブッシュ10Aのばね特性を示す荷重-変位の特性を示しており、実線は形状記憶合金18が非通電の場合を示し、破線は形状記憶合金18が通電され形状回復動作を実行した場合を示す。
形状記憶合金18が非通電の場合は、荷重-変位の特性がほぼ線形に変化している。
これに対して形状記憶合金18が通電された場合は、荷重が低い領域では傾きが非通電時の場合に比較して大きくなっている。これは、弾性部材16のうち第1部分16Aのプリロードが減り初期荷重が減少していることによるものである。これに対して、一定以上の荷重では傾きが小さくなり非通電時の場合と同一となっている(破線が実線と重なっている)。これは、一定の荷重が加わることで第1部分16Aと第2部分16Bの剛性が釣り合い、それ以降は第1部分16Aと第2部分16Bが一体となって荷重を受ける為である。
すなわち、ブッシュ10Aに加わる荷重が低い領域では、ブッシュ10Aの剛性が低くなることによってブッシュ10Aの変位が大きく確保されることで、形状記憶合金18が通電されない場合に比較して乗り心地が良化される。
また、ブッシュ10Aに加わる荷重が高い領域では、ブッシュ10Aの剛性が高くなることによってブッシュ10Aの変位が抑制されるため、形状記憶合金18が非通電の場合と同様にブッシュ10Aの剛性が維持されることで操縦安定性が確保される。
このように形状記憶合金18に対する非通電、通電を切り替えることで、ブッシュ10Aのばね特性を所望の特性に制御することができる。
【0014】
なお、形状記憶合金18に対する通電制御は、操縦安定性および乗り心地のいずれを優先するかを指定するドライブモードを考慮して行なうことができる。
また、形状記憶合金18に対する通電制御を、車速や外気温、ブッシュ温度などの種々の情報を考慮して行なうことができることは無論である。
【0015】
本実施の形態によれば、ブッシュ10Aを構成する弾性部材16に、通電による自己発熱によって形状回復動作を行ないブッシュ10Aのばね特性を変化させる形状記憶合金18が設けられている。
したがって、形状記憶合金18に対する非通電、通電を切り替えることで、ブッシュ10Aのばね特性を簡単に確実に制御することができるので、従来のように弾性部材16の内部に流体室を設け流体室に油圧を供給する油圧源を設けるといった複雑な構成が不要となり、簡素な構成によりブッシュ10Aのコストを抑制しつつブッシュ10Aのばね特性を変化させる上で有利となる。
【0016】
また、本実施の形態によれば、形状記憶合金18は円筒形であり、形状回復動作によってその直径が拡大するようにしたので、形状記憶合金18に対する非通電、通電を切り替えることで、ブッシュ10Aのばね特性を簡単に確実に制御する上で有利となる。
【0017】
また、本実施の形態によれば、形状記憶合金18は、内筒12および外筒14と同軸上に設けられているので、形状記憶合金18に対する非通電、通電を切り替えることで、ブッシュ10Aのばね特性を簡単に確実に制御する上で有利となり、ばね特性をブッシュ10Aの周方向に均一に制御する上で有利となる。
【0018】
(第2の実施の形態)
次に第2の実施の形態について図3を参照して説明する。
なお、以下の実施の形態において第1の実施の形態と同様の部分、部材については同一の符号を付してその説明を省略し、異なる部分について重点的に説明する。
第2の実施の形態のブッシュ10Bでは、形状記憶合金20の弾性部材16への配置構造は第1の実施の形態と同様であるが、第2の実施の形態では、形状記憶合金20は、予め形状記憶合金20に記憶されていた形状よりも拡径された状態で弾性部材16に形状記憶合金20が組み込まれている。
【0019】
次に第2の実施の形態に係るブッシュ10Bの作用効果について説明する。
図3(A)に示すように、非通電状態では、形状記憶合金20は、記憶されていた本来の形状よりも拡径された状態となっている。
図3(B)に示すように、電流供給部から形状記憶合金20に対して電流が供給され、形状記憶合金20が自己発熱することで形状記憶合金20の温度が形状記憶合金20に固有の形状回復温度以上となると、形状記憶合金20は、拡径された状態から縮径し記憶されていた形状に回復する形状回復動作を実行する。
したがって、弾性部材16のうち内筒12と形状記憶合金20との間に位置する第1部分16Aが圧縮され第1部分16Aの剛性は上昇する一方、弾性部材16のうち形状記憶合金20と外筒14との間に位置する第2部分16Bは伸長され第2部分16Bの剛性は低下することになる。
なお、形状記憶合金20単体では通電による自己発熱で一旦形状回復動作がなされると、通電を停止し自然冷却されても形状記憶合金20は元の形状に復帰しないが、図3(B)に示すように、本実施の形態では、弾性部材16からその半径方向外側に形状記憶合金20に対して荷重がかかっているため、通電を停止し自然冷却されると、この荷重により形状記憶合金20は元の形状に復帰する。
【0020】
図3(C)はブッシュ10Bのばね特性を示す荷重-変位の特性を示しており、実線は形状記憶合金20が非通電の場合を示し、破線は形状記憶合金20が通電され形状回復動作を実行した場合を示す。
形状記憶合金20が非通電の場合は、荷重-変位の特性がほぼ線形に変化している。
これに対して形状記憶合金20が通電された場合は、荷重が低い領域では傾きが非通電時の場合に比較して大きくなっている。これは、弾性部材16のうち第2部分16Bのプリロードが減り初期荷重が減少していることによるものである。これに対して、一定以上の荷重では傾きが非通電時の場合と同一となっている。これは、一定の荷重が加わることで第1部分16Aと第2部分16Bの剛性が釣り合い、それ以降は第1部分16Aと第2部分16Bが一体となって荷重を受ける為である。
すなわち、第1の実施の形態と同様に、形状記憶合金20が通電された場合は、ブッシュ10Bに加わる荷重が低い領域では、ブッシュ10Bの剛性が低くなることによって変位が大きく確保されることで、形状記憶合金20が通電されない場合に比較して乗り心地が良化される。
一方、ブッシュ10Bに加わる荷重が高い領域では、ブッシュ10Bの剛性が高くなることによってブッシュ10Bの変位が抑制されるため、形状記憶合金20が非通電の場合と同様にブッシュ10Bの剛性が維持されることで操縦安定性が確保される。
このように形状記憶合金20に対する非通電、通電を切り替えることで、ブッシュ10Bのばね特性を所望の特性に制御することができ、したがって、第2の実施の形態によっても第1の実施の形態と同様の効果が奏される。
【0021】
(第3の実施の形態)
次に第3の実施の形態について図4を参照して説明する。
第3の実施の形態のブッシュ10は、図4(A)、(C)に示すように、円筒状の形状記憶合金22が内筒12の外周面の周囲に沿って延在している点が第1、第2の実施の形態と異なっている。
詳細には、形状記憶合金22の内周面が内筒12の外周面に取着され、形状記憶合金22の外周面が弾性部材16の内周面に取着されている。
この実施の形態では、図4(C)に示すように、形状記憶合金22の軸心方向の両端は、弾性部材16の軸心方向の両端の端面の内側に位置しているが、図2(A)に示すように、形状記憶合金22の軸心方向の両端を、弾性部材16の軸心方向の両端の端面と同一面上に位置させるようにしてもよい。
ただし、形状記憶合金22の軸心方向の両端を、弾性部材16の軸心方向の両端の端面の内側に位置させると、形状記憶合金22が弾性部材16から脱落することを抑制する上でより有利となる。
また、第3の実施の形態では、形状記憶合金22は、非通電状態で予め形状記憶合金22に記憶されていた形状よりも縮径された状態で弾性部材16に組み込まれている。
【0022】
次に第3の実施の形態に係るブッシュ10Cの作用効果について説明する。
図4(B)に示すように、電流供給部から形状記憶合金22に対して電流が供給され、形状記憶合金22が自己発熱することで形状記憶合金22の温度が形状記憶合金22に固有の形状回復温度以上となると、形状記憶合金22は、縮径された状態から拡径し記憶されていた形状に回復する形状回復動作を実行する。
したがって、弾性部材16が圧縮され弾性部材16の剛性は上昇することになる。
なお、図4(B)に示すように、通電による自己発熱でいったん形状回復動作がなされると、通電を停止しても形状記憶合金22は元の形状に復帰しない。本実施の形態では、弾性部材16からその半径方向内側に形状記憶合金22に対して荷重がかかっているため、通電を停止すると、この荷重により形状記憶合金22は元の形状に復帰する。
【0023】
図4(D)はブッシュ10Cのばね特性を示す荷重-変位の特性を示しており、実線は形状記憶合金22が非通電の場合を示し、破線は形状記憶合金22が通電され形状回復動作を実行した場合を示す。
形状記憶合金22が非通電の場合は、荷重-変位の特性がほぼ線形に変化している。
これに対して形状記憶合金22が通電された場合は、非通電時に比較して荷重-変位の特性は縦軸(荷重)に沿って上昇する方向に平行移動している。これは、弾性部材16のプリロードが増えブッシュ10Cの剛性が上昇することによるものである。
すなわち、形状記憶合金22が通電された場合は、ブッシュ10Cの剛性が高くなることによってブッシュ10Cの変位が抑制されることで、形状記憶合金22が通電されない場合に比較して操縦安定性が確保される。
一方、形状記憶合金22が通電されない場合は、形状記憶合金22が通電された場合に比較してブッシュ10Cの剛性が低くなることによってブッシュ10Cの変位が確保されることで乗り心地が良化される。
したがって、第3の実施の形態によれば、形状記憶合金22に対する非通電、通電を切り替えることで、ブッシュ10Cのばね特性を簡単に確実に所望の特性に制御することができるので、簡素な構成によりブッシュ10Cのコストを抑制しつつブッシュ10Cのばね特性を変化させる上で有利となる。
【0024】
(第4の実施の形態)
次に第4の実施の形態について図5を参照して説明する。
第4の実施の形態のブッシュ10Dでは、図5(A)に示すように、円筒状の形状記憶合金24が外筒14の内周面の周囲に沿って延在している点が第3の実施の形態と異なっている。
詳細には、形状記憶合金24の内周面が弾性体16の外周面に取着され、形状記憶合金22の外周面が外筒14の内周面に取着されている。
また、第4の実施の形態では、形状記憶合金24は、非通電状態では予め形状記憶合金24に記憶されていた形状よりも拡径された状態で弾性部材16に組み込まれている。
【0025】
次に第4の実施の形態に係るブッシュ10Dの作用効果について説明する。
図5(B)に示すように、電流供給部から形状記憶合金24に対して電流が供給され、形状記憶合金24が自己発熱することで形状記憶合金24の温度が形状記憶合金24に固有の形状回復温度以上となると、形状記憶合金24は、拡径された状態から縮径し記憶されていた形状に回復する形状回復動作を実行する。
したがって、弾性部材16は圧縮され弾性部材16の剛性は上昇することになる。
なお、図5(B)に示すように、通電による自己発熱でいったん形状回復動作がなされると、通電を停止しても形状記憶合金24は元の形状に復帰しない。本実施の形態では、弾性部材16からその半径方向外側に形状記憶合金24に対して荷重がかかっているため、通電を停止すると、この荷重により形状記憶合金24は元の形状に復帰する。
【0026】
図5(C)はブッシュ10Dのばね特性を示す荷重-変位の特性を示しており、実線は形状記憶合金24が非通電の場合を示し、破線は形状記憶合金24が通電され形状回復動作を実行した場合を示す。
形状記憶合金24が非通電の場合は、荷重-変位の特性がほぼ線形に変化している。
これに対して形状記憶合金24が通電された場合は、非通電時に比較して荷重-変位の特性は縦軸(荷重)に沿って上昇する方向に平行移動している。これは、弾性部材16のプリロードが増えブッシュ10Dの剛性が上昇することによるものである。
第4の実施の形態によれば、形状記憶合金24が通電された場合は、ブッシュ10Dの剛性が高くなることによってブッシュ10Dの変位が抑制されるため、形状記憶合金24が通電されない場合に比較して操縦安定性が確保される。
一方、形状記憶合金24が通電されない場合は、形状記憶合金24が通電された場合に比較してブッシュ10Dの剛性が低くなることによってブッシュ10Dの変位が確保されることで乗り心地が良化される。
したがって、第4の実施の形態によれば、形状記憶合金24に対する非通電、通電を切り替えることで、ブッシュ10Dのばね特性を簡単に確実に所望の特性に制御することができるので、簡素な構成によりブッシュ10Dのコストを抑制しつつブッシュ10Dのばね特性を変化させる上で有利となる。
【0027】
(第5の実施の形態)
次に第5の実施の形態について図6を参照して説明する。
図6(A)に示すように、第5の実施の形態のブッシュ10Eは、弾性部材16の周方向に間隔をおいて複数の空洞部30が設けられている。
したがって、弾性部材16には、周方向に沿って空洞部30と中実部32とが交互に設けられている。
そして、形状記憶合金26が、第1から第4の実施の形態と異なって空洞部30に設けられている。
空洞部30は、ブッシュ10Eの直径方向で対向する2箇所に同一の内径で設けられている。
形状記憶合金26は、一対の空洞部30の内部に設けられ、空洞部30の内面に沿って延在する円筒状を呈している。
形状記憶合金26は、形状記憶合金材料からなる線材(ワイヤー)が網目状に編み込まれ円筒状に形成されているが、板状の形状記憶合金材料を円筒状に加工して形成してもよいことは第1の実施の形態と同様である。
形状記憶合金26は、非通電状態で予め形状記憶合金26に記憶されていた形状よりも縮径された状態で弾性部材16の空洞部30に圧入されて組み込まれている。なお、形状記憶合金26を空洞部30の内面に接着剤を用いて接着するなど任意である。
【0028】
次に第5の実施の形態に係るブッシュ10Eの作用効果について説明する。
図6(B)に示すように、電流供給部から形状記憶合金26に対して電流が供給され、形状記憶合金26が自己発熱することで形状記憶合金26の温度が形状記憶合金26に固有の形状回復温度以上となると、形状記憶合金26は、縮径された状態から拡径し記憶されていた形状に回復する形状回復動作を実行する。
【0029】
したがって、図6(B)に示すように、形状記憶合金26の形状回復動作が実行されることにより、ブッシュ10Eの直径方向で一対の空洞部30を結ぶ仮想線上に位置する弾性部材16の部分は圧縮され、この圧縮された弾性部材16の部分の剛性は上昇することになる。
すなわち、形状記憶合金26が非通電の場合に比較して通電の場合では一対の空洞部30を結ぶ仮想線上に位置する弾性部材16の部分の剛性は上昇する。言い換えると、一対の空洞部30を結ぶ方向における弾性部材16のプリロードが増えブッシュ10Eの剛性が上昇し、その他の弾性部材16の箇所の剛性はほぼ変化しない。
なお、図6(B)に示すように、通電による自己発熱でいったん形状回復動作がなされると、通電を停止しても形状記憶合金26は元の形状に復帰しない。本実施の形態では、弾性部材16から空洞部30の半径方向内側に形状記憶合金26に対して荷重がかかっているため、通電を停止すると、この荷重により形状記憶合金26は元の形状に復帰する。
【0030】
第5の実施の形態によれば、形状記憶合金26に対する非通電、通電を切り替えることで、ブッシュ10Eの直径方向でかつ一対の空洞部30を結ぶ方向における弾性部材16のばね特性を所望の特性に簡単に確実に制御することができるので、簡素な構成によりブッシュ10Eのコストを抑制しつつブッシュ10Eのばね特性を変化させる上で有利となる。
なお、第5の実施の形態では、一対の空洞部30を設けた場合について説明したが、空洞部30の数や配置位置は任意である。
また、第5の実施の形態では、一対の空洞部30に設けた形状記憶合金26に対する通電、非通電を同時に切り替える場合について説明したが、複数の形状記憶合金26に対する通電、非通電の制御動作を複数の形状記憶合金26毎に選択的に行なうようにするなど任意である。
【0031】
(第6の実施の形態)
次に第6の実施の形態について図7を参照して説明する。
図7(A)に示すように、第6の実施の形態のブッシュ10Fは、第5の実施の形態と同様に、弾性部材16の周方向に間隔をおいて複数の空洞部30が設けられている。
したがって、弾性部材16には、周方向に沿って空洞部30と中実部32とが交互に設けられている。
形状記憶合金28は空洞部30に設けられている。
第6の実施の形態では、空洞部30は、ブッシュ10Fの直径方向で対向する2箇所に設けられた第1すぐり部30Aと、第1すぐり部30Aと90度位相を変えてブッシュ10Fの直径方向で対向する2箇所に設けられた第2すぐり部30Bとで構成されている。
第1すぐり部30Aは、ブッシュ10Fの直径方向に延在しブッシュ10Fの軸心方向に貫通する長孔3002で構成されている。
第2すぐり部30Bは、ブッシュ10Fの周方向に延在するすぐり本体3004と、すぐり本体3004の両端からブッシュ10Fの半径方向外側に突出する一対の端部3006とがブッシュ10Fの軸心方向に貫通して形成されている。
形状記憶合金28は、第1すぐり部30Aの内部に設けられた第1形状記憶合金28Aと、第2すぐり部30Bの内部に設けられた第2形状記憶合金28Bとを備えている。
図7(A)に示すように、第1形状記憶合金28Aはブッシュ10Fの軸心方向に沿って第1すぐり部30Aのほぼ全長にわたって配置され、第1形状記憶合金28Aは、非通電状態で予め第1形状記憶合金28Aに記憶されていた形状よりも圧縮された状態で第1すぐり部30Aの断面形状の輪郭とほぼ同一形状となるように第1すぐり部30Aに圧入されて組み込まれている。
同様に、第2形状記憶合金28Bは、ブッシュ10Fの軸心方向に沿って第2すぐり部30Bのほぼ全長にわたって配置され、第2形状記憶合金28Bは、非通電状態で予め第2形状記憶合金28Bに記憶されていた形状よりも圧縮された状態で第2すぐり部30Bの断面形状の輪郭とほぼ同一形状となるように第2すぐり部30Bに圧入されて組み込まれている。
なお、第1、第2形状記憶合金26A、26Bを第1、第2すぐり部30A、30Bの内面に接着剤を用いて接着するなど任意である。
第1、第2形状記憶合金28A、28Bは、形状記憶合金材料からなる線材(ワイヤー)が網目状に編み込まれて形成されているが、第1、第2形状記憶合金28A、28Bを第1、第2すぐり部30A、30Bの断面形状に対応する輪郭を有する板状の形状記憶合金材料で形成してもよい。
【0032】
次に第6の実施の形態に係るブッシュ10Fの作用効果について説明する。
図7(B)に示すように、電流供給部から第1、第2形状記憶合金28A、28Bに対して電流が供給され、第1、第2形状記憶合金28A、28Bが自己発熱することで第1、第2形状記憶合金28A、28Bの温度が第1、第2形状記憶合金28A、28Bに固有の形状回復温度以上となると、第1、第2形状記憶合金28A、28Bは、膨張して記憶されていた形状に回復する形状回復動作を実行する。
【0033】
したがって、図7(B)に示すように、第1、第2形状記憶合金28A、28Bの形状回復動作が実行されることにより、第1、第2形状記憶合金28A、28Bが第1、第2すぐり部30A、30Bの内部で膨張する。
これにより、ブッシュ10Fの直径方向で一対の第1すぐり部30Aを結ぶ仮想線上に位置する弾性部材16の部分が圧縮されこの弾性部材16の部分の剛性が上昇し、ブッシュ10Fの直径方向で一対の第2すぐり部30Bを結ぶ仮想線上に位置する弾性部材16の部分が圧縮されこの弾性部材16の部分の剛性が上昇することになる。
すなわち、形状記憶合金28が非通電の場合に比較して通電の場合では、一対の第1すぐり部30Aを結ぶ仮想線上に位置する弾性部材16の部分の剛性と、一対の第2すぐり部30Bを結ぶ仮想線上に位置する弾性部材16の部分の剛性とが上昇する。言い換えると、一対の第1すぐり部30Aを結ぶ方向および一対の第2すぐり部30Bを結ぶ方向における弾性部材16のプリロードが増えブッシュ10Fの剛性が上昇し、その他の弾性部材16の箇所の剛性はほぼ変化しない。
なお、図7(B)に示すように、通電による自己発熱でいったん形状回復動作がなされると、通電を停止しても第1、第2形状記憶合金26A、26Bは元の形状に復帰しない。本実施の形態では、弾性部材16から第1、第2すぐり部30A、30Bの内側に向かって第1、第2形状記憶合金26A、26Bに対して荷重がかかっているため、通電を停止すると、この荷重により第1、第2形状記憶合金26A、26Bは元の形状に復帰する。
【0034】
第6の実施の形態によれば、形状記憶合金28に対する非通電、通電を切り替えることで、ブッシュ10Fの直径方向でかつ対向するすぐり部を結ぶ方向における弾性部材16のばね特性を簡単に確実に制御することができるので、簡素な構成によりブッシュ10Fのコストを抑制しつつブッシュ10Fのばね特性を所望の特性に変化させる上で有利となる。
なお、第6の実施の形態では、図7に示すような断面形状の第1、第2すぐり部30A、30Bを設けた場合について説明したが、すぐり部の断面形状、数、配置位置は任意である。
また、第6の実施の形態では、第1、第2形状記憶合金28A、28Bに対する通電、非通電を同時に切り替える場合について説明したが、複数の形状記憶合金28に対する通電、非通電の制御動作を複数の形状記憶合金28毎に選択的に行なうようにするなど任意である。
【0035】
なお、実施の形態では、ブッシュ10A-10Fが車両の車輪を支持するロアアームをサスペンションクロスメンバ(車体)に揺動可能に連結する懸架装置に適用された場合について説明した。
しかしながら、本発明のブッシュは、車輪を支持するトレーリングアームを車体に揺動可能に連結する懸架装置に適用されてもよく、あるいは、車両のパワープラントとサスペンションクロスメンバとを揺動可能に連結するロールロッドに適用されてもよく、あるいは、車両以外の種々の装置において用いられる部材同士を揺動可能に連結する従来公知の様々な機構に広く適用可能である。
【符号の説明】
【0036】
10A、10B、10C、10D、10E、10F ブッシュ
12 内筒
14 外筒
16 弾性部材
16A 第1部分
16B 第2部分
18、20、22、24、26、28 形状記憶合金
28A 第1形状記憶合金
28B 第2形状記憶合金
30 空洞部
30A 第1すぐり部
30B 第2すぐり部
3002 長孔
3004 すぐり本体
3006 端部
32 中実部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7