(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024135933
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】ディスク装置
(51)【国際特許分類】
G11B 21/21 20060101AFI20240927BHJP
G11B 5/09 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
G11B21/21 F
G11B5/09 321Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023046849
(22)【出願日】2023-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317011920
【氏名又は名称】東芝デバイス&ストレージ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 徹
(57)【要約】
【課題】隙間測定時間の短縮化および隙間測定精度の向上を図ることが可能なディスク装置を提供する。
【解決手段】実施形態によれば、ディスク装置は、高周波成分を含む隙間測定信号が記録されたディスク状の記録媒体と、ライトヘッド、リードヘッド、および記録媒体との間の隙間を調整するヒータを有する磁気ヘッドと、コントローラと、を備えている。コントローラは、高周波成分と同じ周波数で一定の電圧振幅を有する基準信号を出力する基準信号発生部と、隙間測定信号の再生信号の成分振幅および基準信号の振幅を測定する測定部と、成分振幅の測定値および基準信号の振幅の測定値に基づいてヒータに供給するヒータ電力の電力値を制御するヒータ制御部と、を含んでいる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高周波成分を含む隙間測定信号が記録されたディスク状の記録媒体と、
ライトヘッド、リードヘッド、および前記記録媒体との間の隙間を調整するヒータを有する磁気ヘッドと、
前記高周波成分と同じ周波数で一定の電圧振幅を有する基準信号を出力する基準信号発生部と、前記隙間測定信号の再生信号の成分振幅および前記基準信号の振幅を測定する測定部と、前記成分振幅の測定値および前記基準信号の振幅の測定値に基づいて前記ヒータに供給するヒータ電力の電力値を制御するヒータ制御部と、を含むコントローラと、
を備えるディスク装置。
【請求項2】
前記コントローラは、前記磁気ヘッドが前記記録媒体に接触している状態で測定する前記再生信号の成分振幅の初期値と前記隙間が生じた状態で測定する前記再生信号の成分振幅の測定値との比、および、前記基準信号の振幅の初期値と前記基準信号の振幅の測定値との比、に基づいて前記隙間の変化量を算出する、請求項1に記載のディスク装置。
【請求項3】
前記隙間測定信号は、再生信号の3次成分振幅が再生信号の1次成分振幅よりも大きくなる信号パターンを有し、前記コントローラは、前記3次成分振幅の変化量に基づいて前記ヒータ電力の電力値を制御する、請求項1に記載のディスク装置。
【請求項4】
前記隙間測定信号のクロック数をTとした場合、前記隙間測定信号は、2T、1T、2T毎に極性反転する矩形波パターンを有している、請求項3に記載のディスク装置。
【請求項5】
前記コントローラは、ヒータ電力供給回路および増幅器を含むヘッドアンプICと、前記測定部および前記ヒータ制御部を含むメインコントローラと、を有し、
前記基準信号発生部は、前記メインコントローラに設けられている、請求項1に記載のディスク装置。
【請求項6】
前記コントローラは、ヒータ電力供給回路および増幅器を含むヘッドアンプICと、前記測定部および前記ヒータ制御部を含むメインコントローラと、を有し、
前記基準信号発生部は、前記ヘッドアンプICに設けられている、請求項1に記載のディスク装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明の実施形態は、ディスク装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ディスク装置して、例えば、磁気ディスク装置は、磁気記録層を有する回転自在なディスク状の記録媒体と、記録媒体の磁気記録層に対してデータの記録、再生を行う磁気ヘッドと、を備えている。磁気ヘッドは、スライダと、スライダに設けられたリードヘッドおよびライトヘッドと、を有している。このような磁気ディスク装置においては、記録密度、特に線記録密度向上のために、磁気ヘッドと記録媒体との間の隙間を小さくする必要がある。
上記隙間を低減するため、熱アクチュエータを含む磁気ヘッドを備えた磁気ディスク装置が提案されている。この磁気ディスク装置によれば、熱アクチュエータによってスライダの一部、リードヘッドおよびライトヘッドを記録媒体の表面側に膨出させることにより、上記隙間を低減することが可能となる。
【0003】
上記隙間を狭くしていくと、周囲の環境や磁気ディスク装置内の環境変化による隙間変化への影響が大きくなり、場合によっては磁気ヘッドと記録媒体との接触が発生し磁気ディスク装置の信頼性を損なうことになる。そのため、磁気ヘッドと記録媒体との隙間変化を測定する手法が提案されている。再生信号の1次成分と3次成分の振幅変化から隙間変化を測定する方法、あるいは、信号としてサーボパターンを用いて測定する方法が知られている。
【0004】
何れの方法においても、一度記録した信号は記録媒体の熱緩和(Thermal Relaxation)の影響で信号が減衰するため、長期の測定では誤差が大きくなる。熱緩和の影響を補正するために記録周波数が異なる信号を2つのトラックに記録し、その両者の再生信号から熱緩和分を補正する技術が提案されている。しかしながら、この方法の場合、磁気ヘッドをトラック間で移動させる必要があり、処理時間および待ち時間が長くなる。この待ち時間は、磁気ディスク装置の処理速度を低下させる要因となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004-303318号公報
【特許文献2】特開2008-217841号公報
【特許文献3】特開2012-190519号公報
【特許文献4】特許第4805860号公報
【特許文献5】特許第4818449号公報
【特許文献6】米国特許第7,605,997号明細書
【特許文献7】米国特許第4,777,544号明細書
【特許文献8】米国特許第5,377,058号明細書
【特許文献9】米国特許出願公開第2005/0046982号明細書
【特許文献10】米国特許出願公開第2007/0230013号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の実施形態の課題は、隙間測定時間の短縮化を図るとともに熱緩和の影響を最小限とし長期間に亘り精度良く隙間測定をすることが可能なディスク装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態によれば、ディスク装置は、高周波成分を含む隙間測定信号が記録されたディスク状の記録媒体と、ライトヘッド、リードヘッド、および前記記録媒体との間の隙間を調整するヒータを有する磁気ヘッドと、前記高周波と同じ周波数で一定の電圧振幅を有する基準信号を出力する基準信号発生部と、前記隙間測定信号の再生信号の成分振幅および前記基準信号の振幅を測定する測定部と、前記成分振幅の測定値および前記基準信号の振幅の測定値に基づいて前記ヒータに供給するヒータ電力の電力値を制御するヒータ制御部と、を含むコントローラと、を備えている。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、第1実施形態に係るハードディスクドライブ(HDD)を概略的に示すブロック図。
【
図2】
図2は、前記HDDにおける磁気ヘッド、サスペンション、磁気ディスクを概略的に示す側面図。
【
図3】
図3は、前記磁気ヘッドのヘッド部を拡大して示す断面図。
【
図4】
図4は、熱アクチュエータにより記録ヘッド部分を突出させた状態の磁気ヘッドおよび前記ヘッド部を模式的に側面図。
【
図5】
図5は、比較例に係る隙間測定信号パターンの波形を示す図。
【
図6】
図6は、再生信号の1次成分振幅および3次成分振幅と隙間との関係を比較して示す図。
【
図7】
図7は、第1実施形態における隙間測定信号パターンの波形を示す図。
【
図8】
図8は、比較例に係る隙間測定信号および第1実施形態に係る隙間測定信号について、再生信号の周波数成分振幅を比較して示す図。
【
図9】
図9は、隙間変化への熱緩和の影響を比較して示す図。
【
図10】
図10は、隙間変化への3次成分振幅の熱緩和の影響度合を示す図。
【
図11】
図11は、隙間変化への1次成分振幅の熱緩和の影響度合を示す図。
【
図12】
図12は、第2実施形態に係るHDDを概略的に示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下図面を参照しながら、実施形態に係るディスク装置ついて説明する。
なお、開示はあくまで一例にすぎず、当業者において、発明の主旨を保っての適宜変更であって容易に想到し得るものについては、当然に本発明の範囲に含有されるものである。また、図面は説明をより明確にするため、実際の態様に比べ、各部の幅、厚さ、形状等について模式的に表される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。また、本明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には、同一の符号を付して、詳細な説明を適宜省略あるいは簡略化することがある。
【0010】
(第1実施形態)
ディスク装置の一例として、第1実施形態に係るハードディスクドライブ(HDD)について詳細に説明する。
図1は、第1実施形態に係るHDDを概略的に示すブロック図、
図2は、浮上状態の磁気ヘッドおよび磁気ディスクを示す側面図である。
図1に示すように、HDD10は、矩形状の筐体11と、筐体11内に配設された記録媒体としての磁気ディスク12と、磁気ディスク12を支持および回転するスピンドルモータ14と、磁気ディスク12に対してデータの記録(ライト)、再生(リード)を行う複数の磁気ヘッド16と、を備えている。HDD10は、磁気ヘッド16を磁気ディスク12上の任意のトラック上に移動するとともに位置決めするヘッドアクチュエータ18を備えている。ヘッドアクチュエータ18は、磁気ヘッド16を移動可能に支持するキャリッジアッセンブリ20と、キャリッジアッセンブリ20を回動させるボイスコイルモータ(VCM)22とを含んでいる。
【0011】
HDD10は、磁気ヘッド16を駆動するヘッドアンプIC30と、メインコントローラ40と、ドライバIC48と、を含むコントローラを備えている。ヘッドアンプIC30は、例えば、キャリッジアッセンブリ20に設けられ、磁気ヘッド16に電気的に接続されている。ヘッドアンプIC30は、磁気ヘッド16の記録コイルに記録電流を供給する記録電流供給回路(記録電流供給部)32と、後述する磁気ヘッド16の熱アクチュエータ(ヒータ)に駆動電力を供給するヒータ電力供給回路34と、磁気ヘッド16により読み取った信号を増幅する増幅器36等と、を備えている。
【0012】
メインコントローラ40およびドライバIC48は、例えば、筐体11の背面側に設けられた図示しない制御回路基板に構成されている。メインコントローラ40は、R/Wチャネル42、ハードディスクコントローラ(HDC)44、マイクロプロセッサ(MPU)46、メモリ47、基準信号発生部38等を備えている。本実施形態では、R/Wチャネル42は、再生信号の振幅を測定する測定部を兼ねている。メインコントローラ40は、ヘッドアンプIC30を介して磁気ヘッド16に電気的に接続されている。メインコントローラ40は、ドライバIC48を介して、VCM22及びスピンドルモータ14に電気的に接続されている。HDC44は、ホストコンピュータ45に接続可能である。
【0013】
メインコントローラ40のメモリ47には、後述する種々の測定値、ヒータ電力設定値等が格納されている。メインコントローラ40において、例えば、MPU46は、ライトヘッドを制御するライト制御部46a、リードヘッドを制御するリード制御部、および熱アクチュエータに供給する電力を制御するヒータ制御部46cを含んでいる。基準信号発生部38は、後述するように、磁気ヘッド16の隙間変化量(浮上量)を測定する際、ゲイン変動補正用の基準信号を発生する。
【0014】
図1および
図2に示すように、磁気ディスク12は、垂直磁気記録媒体として構成されている。磁気ディスク12は、例えば、直径96mm(約3.5インチ)の円板状に形成された非磁性体からなる基板101を有している。基板101の各表面に、下地層として軟磁気特性を示す材料からなる軟磁性層102と、その上層部に、磁気ディスク12の表面に対して垂直方向に磁気異方性を有する垂直磁気記録層103と、保護膜104とが順次積層されている。磁気ディスク12は、スピンドルモータ14のハブに互いに同軸的に嵌合されている。磁気ディスク12は、スピンドルモータ14により所定の速度で矢印B方向に回転される。なお、磁気ディスク12の1トラックに、後述する、高周波成分を含む隙間測定信号パターンBPが記録されている。
キャリッジアッセンブリ20は、筐体11に回動自在に支持された軸受部24と、軸受部24から延出した複数のサスペンション26と、を有している。
図2に示すように、磁気ヘッド16は、各サスペンション26の延出端に支持されている。磁気ヘッド16は、キャリッジアッセンブリ20に設けられた配線部材(フレキシャ)28を介して、ヘッドアンプIC30に電気的に接続されている。
【0015】
図2に示すように、磁気ヘッド16は浮上型のヘッドとして構成され、ほぼ直方体状に形成されたスライダ15と、スライダ15の流出端(トレーリング)側の端部に形成されたヘッド部17とを有している。スライダ15は、例えば、アルミナとチタンカーバイドの焼結体(アルチック)で形成され、ヘッド部17は複数層の薄膜により形成されている。スライダ15は、配線部材28のジンバル部28aに取付けられている。
【0016】
スライダ15は、磁気ディスク12の表面に対向するほぼ矩形状のディスク対向面(空気支持面(ABS))13を有している。スライダ15は、磁気ディスク12の回転によってディスク表面とABS13との間に生じる空気流Cにより、磁気ディスク12の表面から所定量浮上した状態に維持される。空気流Cの方向は、磁気ディスク12の回転方向Bと一致している。スライダ15は、空気流Cの流入側に位置するリーディング端15aおよび空気流Cの流出側に位置するトレーリング端15bを有している。磁気ディスク12の回転に伴い、磁気ヘッド16は、磁気ディスク12に対して矢印A方向(ヘッド走行方向)、すなわち、ディスクの回転方向Bと反対の方向に走行する。
【0017】
図3は、磁気ヘッド16のヘッド部17および磁気ディスク12を拡大して示す断面図である。
図3に示すように、ヘッド部17は、スライダ15のトレーリング端15bに薄膜プロセスで形成された再生ヘッド(リードヘッド)54および記録ヘッド(ライトヘッド)58を有し、分離型の磁気ヘッドとして形成されている。リードヘッド54およびライトヘッド58は、スライダ15のABS13に露出する部分を除いて、非磁性の保護絶縁膜53により覆われている。保護絶縁膜53は、ヘッド部17の外形を構成している。更に、ヘッド部17は、ライトヘッド58の突出し量を制御する第1熱アクチュエータと、リードヘッド54の突出し量を制御する第2熱アクチュエータと、を有している。第1熱アクチュエータは、例えば、ヒータ76aを有し、このヒータ76aは保護絶縁膜53内に埋め込まれ、ライトヘッド58の近傍に位置している。第2熱アクチュエータは、例えば、ヒータ76bを有し、このヒータ76bは、保護絶縁膜53内に埋め込まれリードヘッド54の近傍に位置している。
【0018】
磁気ディスク12の垂直磁気記録層103に形成される記録トラックの長手方向をダウントラック方向DTと、長手方向と直交する記録トラックの幅方向をクロストラック方向と定義する。
リードヘッド54は、磁気抵抗効果素子55と、ダウントラック方向DTにおいて、磁気抵抗効果素子55のリーディング側(流入側)およびトレーリング側(流出側)に、磁気抵抗効果素子55を挟むように配置された第1磁気シールド膜56および第2磁気シールド膜57と、を有している。磁気抵抗効果素子55、第1および第2磁気シールド膜56、57は、ABS13に対してほぼ垂直に延在している。磁気抵抗効果素子55、第1および第2磁気シールド膜56、57の下端部(先端部)は、ABS13から僅かに突出し、第1突部HP1を構成している。第1突部HP1において、磁気抵抗効果素子55の先端部の突出量が第1および第2磁気シールド膜56、57の先端部の突出量よりも多く、磁気抵抗効果素子55の先端部は第1およい第2磁気シールド膜を越えて突出している。
【0019】
ライトヘッド58は、リードヘッド54に対して、スライダ15のトレーリング端15b側に設けられている。ライトヘッド58は、磁気ディスク12の表面に対して垂直方向の記録磁界を発生する主磁極60、主磁極60のトレーリング側に設けられ主磁極60にライトギャップを置いて対向するトレーリングシールド62、主磁極60のリーディング側に対向するリーディングシールド64、トレーリングシールド62と一体に形成された図示しない一対のサイドシールドを有している。主磁極60とトレーリングシールド62とは磁路を形成する第1磁気コアを構成し、主磁極60とリーディングシールド64とは磁路を形成する第2磁気コアを構成している。ライトヘッド58は、第1磁気コアに巻き付けられた第1記録コイル70と、第2磁気コアに巻き付けられた第2記録コイル72とを有している。
【0020】
主磁極60は、高透磁率、高飽和磁束密度を有する軟磁性材料から形成され、ABS13に対してほぼ垂直に延びている。主磁極60のABS13側の先端部60aは、ABS13に向かって先細に絞り込まれ、他の部分に対して幅の狭い柱状に形成されている。主磁極60の先端部60aは、スライダ15のABS13から僅かに突出している。
【0021】
トレーリングシールド62は、軟磁性材料で形成され、主磁極60直下の磁気ディスク12の軟磁性層102を介して効率的に磁路を閉じるために設けられている。トレーリングシールド62は、ほぼL字形状に形成され、その先端部62aは、細長い矩形状に形成されている。トレーリングシールド62の先端部62aは、スライダ15のABS13から僅かに突出している。
トレーリングシールド62は、主磁極60に接続された第1接続部50を有している。第1接続部50は非導電体52を介して主磁極60の上部、すなわち、主磁極60のABS13から離れた部分に磁気的に接続されている。第1記録コイル70は、第1磁気コアにおいて、例えば、第1接続部50の回りに巻付けられている。磁気ディスク12に信号を書き込む際、第1記録コイル70に記録電流を流すことにより、第1記録コイル70は、主磁極60を励起して主磁極60に磁束を流す。
【0022】
軟磁性体で形成されたリーディングシールド64は、主磁極60のリーディング側に主磁極60と対向して設けられている。リーディングシールド64は、ほぼL字形状に形成され、ABS13側の先端部64aは細長い矩形状に形成されている。先端部64aは、スライダ15のABS13から僅かに突出している。
また、リーディングシールド64は、ABS13から離間した位置で主磁極60に接合された第2接続部68を有している。この第2接続部68は、例えば、軟磁性体で形成され、非導電体69を介して主磁極60の上部、すなわち、主磁極60のABS13から離れた部分に磁気的に接続されている。これにより、第2接続部68は、主磁極60およびリーディングシールド64とともに磁気回路を形成している。ライトヘッド58の第2記録コイル72は、例えば、第2接続部68の回りに巻付けて配置され、この磁気回路に磁界を印加する。
上記のように、主磁極60の先端部60a、トレーリングシールド62の先端部62a、およびリーディングシールド64の先端部64aは、ABS13から僅かに突出し第2突部HP2を構成している。
【0023】
図3に示したように、スライダ15のトレーリング端15bに複数の接続端子43が設けられている。第1記録コイル70および第2記録コイル72は、それぞれ配線を介して接続端子43に接続され、更に、フレキシャ28を介してヘッドアンプIC30に接続される。磁気ディスク12に信号を書き込む際、ヘッドアンプIC30の記録電流供給回路32から第1記録コイル70および第2記録コイル72に記録電流を供給することにより、主磁極60を励起して主磁極60に磁束を流す。第1記録コイル70および第2記録コイル72に供給する記録電流は、メインコントローラ40によって制御される。
同様に、リードヘッド54の磁気抵抗効果素子55は、図示しない配線を介して接続端子43に接続され、更に、フレキシャ28を介してヘッドアンプIC30に接続される。リードヘッド54によりリードした信号は、ヘッドアンプIC30により増幅されメインコントローラ40に送られる。
【0024】
第1ヒータ76aおよび第2ヒータ76bは、それぞれ配線を介して接続端子43に接続され、更に、フレキシャ28を介してヘッドアンプIC30に接続されている。ヘッドアンプIC30のヒータ電力供給回路34から第1ヒータ76aおよび第2ヒータ76bに駆動電力を印加することにより、ヒータおよびヒータの周囲を加熱し、ライトヘッド58あるいはリードヘッド54を磁気ディスク12側へ膨出させることができる。第1ヒータ76aおよび第2ヒータ76bに供給するヒータ電力は、メインコントローラ40のヒータ制御部46cによって制御される。
【0025】
次に、上記のように構成されたHDD10において、磁気ヘッド16のライトヘッド58およびリードヘッド54と磁気ディスク12の表面との間隔(隙間)を測定および調整する動作について説明する。HDD10は、出荷時、一定期間ごと、あるいは、記録動作ごとに、隙間の測定および調整動作を実施する。
図4は、記録動作時、第1ヒータ76aによりライトヘッド部分を磁気ディスク12側に膨出させた状態を模式的に示すヘッド部の側面図である。図示のように、記録動作時、ヒータ電力供給回路34から所定の電力値のヒータ電力が第1ヒータ76aおよび第2ヒータ76bに供給され、第1ヒータ76a、第2ヒータ76bが加熱される。これにより、ライトヘッド58およびその周囲の部分が加熱され、磁気ディスク12の表面の側に膨出し、ライトヘッド58とディスク表面との間の隙間G1を所定の値に設定する。ヒータへの供給電力値を増加することにより突き出し量が増加し、隙間G1、G2が低減する。ヒータへの供給電力値を低減することにより突き出し量が低減し、隙間G1、G2が増大する。ヒータ制御部46c、ヒータ電力供給回路34は、隙間G1、G2が所望の値となるように、第1および第2ヒータ76a、76bの加熱度合(供給電力値)を制御する。磁気ヘッド16は、所定の隙間G1、G2に設定された状態で、記録動作を実行する。
【0026】
例えば、HDD出荷時の隙間G1、G2の測定、調整動作では、始めに、メインコントローラ40は、ライトヘッド58およびリードヘッド54が磁気ディスク12に接触するまで(タッチダウン)、第1ヒータ76aおよび第2ヒータ76bの供給電力値を増加し、接触した際の電力値をメモリ47に格納する。メインコントローラ40は、ライトヘッド58およびリードヘッド54が磁気ディスク12に接触した状態で、磁気ディスク12の隙間測定信号パターンBPをリードヘッド54で読取る。メインコントローラ40は、読取った再生信号の1次成分振幅(V01)および3次成分振幅(V03)をR/Wチャネル42により測定し、測定値を振幅初期値としてメモリ47に格納する。続いて、メインコントローラ40は、ヒータ供給電力値を徐々に低減しつつ、すなわち、ヘッドの突き出し量を低減しつつ、磁気ディスク12の隙間測定信号パターンBPを読取る。読取った再生信号の1次成分振幅(V11)および3次成分振幅(V13)を測定し、測定値をメモリ47に格納する。
【0027】
メインコントローラ40は、以下の式(1)を用いて隙間の変化量Δdを算出し、Δdが所望の隙間となる時のヒータ電力制御量(ヒータ電力値)を定める。初期値V01、V03の比と、ヒータ電力値低減後の測定値V11、V13の比と、の差分に応じて、隙間の変化量を算出することができる。定められたヒータ電力制御量(ヒータ電力値)は、メモリ47に格納される。測定後、記録、再生時、メインコントローラ40はヒータに供給する電力値を上記定められた電力値に設定する。
【数1】
式(1)において、Δd:隙間変化、λ:基本周波数の波長である。
【0028】
図5は、比較例に係るHDDの隙間測定信号パターンを示す図、
図6は、再生信号の1次成分振幅および3次成分振幅と隙間変化との関係を示す図である。
図7は、本実施形態に係るHDDの隙間測定信号パターンを示す図である。
上述した隙間測定において、磁気ディスク12に記録されている隙間測定信号パターンが、例えば、
図5に示すような、クロック数5Tごとに磁化反転する矩形波パターン(5T)の場合、読取った再生信号の3次成分振幅が1次成分振幅に対して小さくなり、測定誤差が大きくなる可能性がある。
【0029】
そこで、本実施形態に係るHDDでは、
図7に示す隙間測定信号パターンBPを用いている。隙間測定信号パターンBPは、クロック数2T、1T、2Tごとに磁化反転する高周波を含む矩形波パターンであり、いわゆる212Tパターンと称している。垂直磁気記録方式の場合、記録媒体の磁化状態が反転するところで再生信号の極性も反転する。記録信号はクロックに同期して反転するが、反転タイミングを2T(2クロック分)、1T、2T(212Tパターン)とすると、理想的には
図6に示すような再生信号が得られる。この際、再生信号全体の基本周波数の波長は10T分となる。
【0030】
図5に示したように、比較例に係る隙間測定信号パターンは、同じ10Tの波長で書かれた矩形波であり、磁化反転は5T(5Tパターン)ごとに行われている。
図8は、比較例に係る隙間測定信号パターン(5T)の再生信号の次数成分振幅と、本実施形態に係る隙間測定信号パターン(212T)の再生信号の次数成分振幅と、を比較して示す図である。
隙間測定信号パターン(5T)の再生信号、および、隙間測定信号パターン(212T)の再生信号、をそれぞれ拡散フーリエ変換し、周波数成分毎に比較すると、
図8に示すように、212Tパターンの再生信号の3次成分振幅は、5Tパターンの再生信号の3次成分振幅よりも2倍以上大きいことが分る。すなわち、隙間測定信号パターン(212T)を用いることにより、3次成分振幅を大きくすることが可能となる。本実施形態では、3次成分振幅の変化に基づいて、ライトヘッドおよびリードヘッドの隙間変化量を測定することができる。
【0031】
熱緩和の影響を確認するため、熱緩和特性の異なる3種類(小、中、大)の記録媒体(磁気ディスク)を用意し、それぞれの記録媒体に対して高温、例えば、60℃の環境で上述した磁気ヘッドの隙間測定を行った。
図9は、その測定結果を示す図である。隙間変化量は、式(1)により求めている。
図9に示すように、熱緩和(小、中、大)の順番で隙間変化が大きく見える。この隙間変化は、実際の隙間変化ではなく、熱緩和の影響であると考えられる。垂直磁気記録の場合、記録周波数が高い方が熱緩和の影響が小さく見えるため、1次成分、3次成分のそれぞれの振幅変化から隙間変化を確認した。その際、隙間変化量は以下の式(2)、(3)により算出される。
1次成分振幅を用いる場合の式(2)は、
【数2】
3次成分振幅を用いる場合の式(3)は、
【数3】
ここで、式(2)、(3)において、符号Vの添え字の前者の0は基準隙間での測定値であり、1は隙間変化測定時の測定値を示している。添え字の後者は次数を表している。
【0032】
図10は、3次成分振幅のみにより測定した隙間変化を示す図、
図11は、1次成分振幅のみにより測定した隙間変化を示す図である。
図11に示すように、1次成分振幅のみを用いた場合、熱緩和に応じて隙間変化のバラツキが大きくなることが分る。すなわち、隙間変化の大きさは、記録媒体の熱緩和度合いに応じて大きくなっている。式(2)からも分かるように、時間が経過すると測定値V11は熱緩和により小さくなっていることが分かる。
【0033】
一方、
図10に示すように、3次成分振幅のみを用いた場合、熱緩和に応じて隙間変化のバラツキが少なく、記録媒体の熱緩和の影響が殆ど現れていないことが分る。従って、隙間測定信号パターンとして212Tパターンを記録し、その再生信号の3次成分振幅のみから隙間変化量を算出することで、熱緩和の影響を最小化することが可能となる。また、212Tパターンの隙間測定信号を用いる場合、再生信号の基本周波数は基本波長10Tに対して(10/3)T相当でよく、隙間測定に伴うアンプの回路設計変更を行うことなく高周波数領域でのゲインを保つことができる。
【0034】
上記のように3次成分振幅のみに基づいて隙間変化量を算出する場合、R/Wチャネル42のゲイン変動の影響を受ける可能性がある。そのため、隙間測定においては、ゲイン変動の影響を除去することが望ましい。そこで、本実施形態によれば、HDD10は、3次成分の周波数と同じ周波数で一定の電圧振幅を有する基準信号を出力する基準信号発生部38を備えている。一例では、基準信号発生部38は、メインコントローラ40内に設けられている。メインコントローラ40は、上述した隙間測定を実行する前に、基準信号発生部38から基準信号を出力し、R/Wチャネル42で基準信号の振幅を測定する。メインコントローラ40は、R/Wチャネル42で測定した基準信号の振幅の測定値をメモリ47に記録する。隙間測定時、メインコントローラ40は、隙間測定信号パターン(212T)を読取った再生信号の3次成分振幅V13を基準信号の振幅の測定値で除算することで、R/Wチャネル42のゲイン変動の影響を取り除く、すなわち、補正する。基準隙間での基準信号の振幅初期値をG01、隙間測定時の基準信号の振幅測定値をG11とすると、前述した3次成分振幅により隙間変化量を求める式(3)は以下のように書き換えられる。
【数4】
式(4)のように、3次成分振幅の変化率(V13/V03)をゲイン変動率(G13/G03)で除算することにより、測定値に対するゲイン変動の影響を取り除くことができる。
【0035】
メインコントローラ40は、測定した隙間が所望の隙間G1、G2に達した時点で、ヒータ72a、72bへの供給電力の低減を停止し、その際のヒータ電力の電力値を検出し、メモリ47に記録する。以上により、磁気ヘッド16の隙間測定および隙間調整が終了する。測定調整後、HDDの記録、再生時、メインコントローラ40はヒータに供給する電力の電力値を上記定められた電力値に設定する。
出荷後、HDD10は、例えば、一定期間ごとに、磁気ヘッドの隙間測定、調整動作を実行する。この場合、メインコントローラ40は、上述した測定工程により、再生信号の3次成分振幅(V13)および基準信号の振幅(G13)を測定し、これらの測定値(V13、G13)と、出荷時にメモリ47に格納されている振幅初期値(V03)、(G03)と、上記式(4)と、により、隙間の変化量Δdを算出する。そして、メインコントローラ40は、変化量Δdが所望の隙間G1、G2に達した時点で、その際のヒータ電力の電力値を検出し、メモリ47に格納する。以後、記録動作時、メインコントローラ40は、ヒータ供給電力の電力値をメモリ47に格納されている電力値に設定する。
【0036】
以上のように構成された第1実施形態に係るHDDによれば、磁気ヘッド16の隙間調整において、高周波成分を含む隙間測定信号の3次成分振幅に基づいて隙間測定することにより、熱緩和の影響を最小化し、測定精度の向上を図ることが可能となる。単一周波数の振幅測定精度を向上することができ、精度の高い隙間変化測定が可能となる。また、隙間測定信号は、磁気ディスク12の1トラックのみに記録しておけば良く、隙間測定時、磁気ヘッド16は1トラック上に移動することにより隙間測定を実施することができる。これにより、磁気ヘッドの移動時間を短縮し、隙間測定時間の短縮化を図ることができる。
【0037】
更に、第1実施形態によれば、基準信号発生部38から出力した基準信号を用いてR/Wチャネルのゲイン変動率を検出し、検出したゲイン変動率に応じて隙間測定値を補正することにより、R/Wチャネルのゲイン変動の影響を取り除くことができる。従って、隙間測定精度を一層、向上することが可能となる。本隙間測定に応じてヒータ電力制御を行うことにより磁気ヘッドの隙間を一定に保つことが可能となる。
以上により、本実施形態によれば、隙間測定時間の短縮化および隙間測定精度の向上を図り、磁気ヘッドの隙間を高い精度で所定値に設定することが可能なディスク装置を得ることができる。
【0038】
次に、他の実施形態に係るHDDについて説明する。以下に述べる他の実施形態において、前述した第1実施形態と同一の部分には、第1実施形態と同一の参照符号を付して、その詳細な説明を省略あるいは簡略化する場合がある。
(第2実施形態)
図12は、第2実施形態に係るHDDを概略的に示すブロック図である。
図示のように、第2実施形態によれば、基準信号発生部38は、ヘッドアンプIC30内に設けられている。基準信号発生部38は、隙間測定の前に、R/Wチャネル42に基準信号を出力する。メインコントローラ40は、R/Wチャネル42により基準信号の振幅を検出し、その検出値をメモリ47に格納する。メインコントローラ40は、隙間測定時、隙間の測定値を基準信号の検出値に応じて補正する。
第2実施形態において、HDDの他の構成は、第1実施形態に係るHDDの構成と同様である。第2実施形態においても、前述した第1実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0039】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
例えば、実施形態において、隙間測定信号のパターンは、212Tパターンに限定されることなく、再生信号の3次成分振幅が大きくなるパターンであれば、他の種々のパターンを選択可能である。磁気ヘッドのヘッド部を構成する要素の材料、形状、大きさ等は、必要に応じて変更可能である。磁気ディスク装置において、磁気ディスクおよび磁気ヘッドの数は、必要に応じて増減可能であり、磁気ディスクのサイズも種々選択可能である。
【符号の説明】
【0040】
10…磁気ディスク装置、11…筐体、12…磁気ディスク、13…ABS、
15…スライダ、16…磁気ヘッド、17…ヘッド部、30…ヘッドアンプIC、
38…基準信号発生部、40…メインコントローラ、54…リードヘッド、
58…ライトヘッド、76a…第1ヒータ(第1熱アクチュエータ)、
76b…第2ヒータ(第2熱アクチュエータ)