(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024135943
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】二液型エポキシ樹脂接着剤、及び、樹脂硬化物
(51)【国際特許分類】
C09J 163/00 20060101AFI20240927BHJP
C08G 59/20 20060101ALI20240927BHJP
C08G 59/50 20060101ALI20240927BHJP
C09J 11/04 20060101ALI20240927BHJP
C09J 11/06 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
C09J163/00
C08G59/20
C08G59/50
C09J11/04
C09J11/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023046863
(22)【出願日】2023-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119035
【弁理士】
【氏名又は名称】池上 徹真
(74)【代理人】
【識別番号】100141036
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 章
(74)【代理人】
【識別番号】100178984
【弁理士】
【氏名又は名称】高下 雅弘
(72)【発明者】
【氏名】林 真理子
(72)【発明者】
【氏名】関口 裕実子
(72)【発明者】
【氏名】江口 朋子
【テーマコード(参考)】
4J036
4J040
【Fターム(参考)】
4J036AA01
4J036AA05
4J036AD07
4J036AD08
4J036AD21
4J036AF05
4J036AF06
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4J036DC02
4J036DC14
4J036FA05
4J036FA13
4J036FB12
4J036GA28
4J036JA06
4J040EC061
4J040HA306
4J040HC02
4J040HC04
4J040HD32
4J040JA13
4J040JB02
4J040KA03
4J040KA16
4J040KA42
4J040LA03
(57)【要約】
【課題】チクソ性の高い二液型エポキシ樹脂接着剤を提供する。
【解決手段】実施形態の二液型エポキシ樹脂接着剤は、エポキシ樹脂を含む第1の液と、アミン化合物と、エポキシ基が結合され平均粒径が1μm以上10μm以下である第1のシリカ粒子と、を含む第2の液とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂を含む第1の液と、
アミン化合物と、エポキシ基が結合され平均粒径が1μm以上10μm以下である第1のシリカ粒子と、を含む第2の液と、
を備える二液型エポキシ樹脂接着剤。
【請求項2】
前記第2の液はシランカップリング剤を更に含み、前記エポキシ基は前記シランカップリング剤によって前記第1のシリカ粒子と結合する、請求項1記載の二液型エポキシ樹脂接着剤。
【請求項3】
前記第1の液は平均粒径が1μm以上10μm以下である第2のシリカ粒子を、更に含む、請求項1記載の二液型エポキシ樹脂接着剤。
【請求項4】
前記第2のシリカ粒子には、シランカップリング剤によってエポキシ基が結合される、請求項3記載の二液型エポキシ樹脂接着剤。
【請求項5】
前記第1のシリカ粒子は前記第2の液の中に、14重量%以上83重量%以下含まれる、請求項1記載の二液型エポキシ樹脂接着剤。
【請求項6】
前記第2のシリカ粒子は前記第1の液の中に、39重量%以上79重量%以下含まれる、請求項3記載の二液型エポキシ樹脂接着剤。
【請求項7】
前記第1の液のエポキシ樹脂当量と前記第2の液の前記アミン化合物の活性水素当量が等しくなる状態で考えた場合に、
前記第2の液の中に含まれる前記第1のシリカ粒子と前記第1の液の中に含まれる前記第2のシリカ粒子の総和に対する、前記第2の液の中に含まれる前記第1のシリカ粒子の割合は5重量%以上50重量%以下である、請求項3記載の二液型エポキシ樹脂接着剤。
【請求項8】
前記第1の液のエポキシ樹脂当量と前記第2の液の前記アミン化合物の活性水素当量が等しくなる状態で考えた場合に、
前記第2の液の中に含まれる前記第1のシリカ粒子と前記第1の液の中に含まれる前記第2のシリカ粒子の総和は、前記第1の液の中に含まれる前記エポキシ樹脂を100重量部とした場合に、130重量部以上390重量部以下である、請求項3記載の二液型エポキシ樹脂接着剤。
【請求項9】
樹脂と、
平均粒径が1μm以上10μm以下であるシリカ粒子と、
を備え、
加熱発生ガス質量分析法により得られるサーモグラムの分解ピーク温度が402℃以下である、樹脂硬化物。
【請求項10】
前記樹脂は、エポキシ樹脂を含む、請求項9記載の樹脂硬化物。
【請求項11】
前記シリカ粒子を32体積%以上60体積%以下含む、請求項9記載の樹脂硬化物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、二液型エポキシ樹脂接着剤、及び、樹脂硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂を含む液状の主剤と、アミン化合物を含む液状の硬化剤で構成され、主剤と硬化剤を、使用の直前に混合する二液型エポキシ樹脂接着剤は、部材の接着に広く用いられる。
【0003】
例えば、二液型エポキシ樹脂接着剤を構造物の壁面や天井部で用いる場合、二液の混合後の塗布の容易性と、塗布後の重力によるたれ落ちを防ぐことが要求される。二液の混合後の塗布の容易性と、塗布後の重力によるたれ落ちを防ぐためには、二液の混合後の接着剤のチクソ性(チクソトロピー性)を高くし、かつ、混合直後の初期粘度を高くすることが望まれる。チクソ性は、高粘度流体に対し力が加わった時に、可逆的に粘度が低下する性質を意味する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、チクソ性の高い二液型エポキシ樹脂接着剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態の二液型エポキシ樹脂接着剤は、エポキシ樹脂を含む第1の液と、アミン化合物と、エポキシ基が結合され平均粒径が1μm以上10μm以下である第1のシリカ粒子と、を含む第2の液と、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】実施形態の二液型エポキシ樹脂接着剤の模式図。
【
図4】実施形態の二液型エポキシ樹脂接着剤の作用及び効果の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
実施形態の二液型エポキシ樹脂接着剤は、エポキシ樹脂を含む第1の液と、アミン化合物と、エポキシ基が結合され平均粒径が1μm以上10μm以下であるシリカ粒子と、を含む第2の液とを備える。
【0009】
また、実施形態の樹脂硬化物は、樹脂と、平均粒径が1μm以上10μm以下であるシリカ粒子と、を備え、加熱発生ガス質量分析法により得られるサーモグラムの分解ピーク温度が、402℃以下である。
【0010】
図1は、実施形態の二液型エポキシ樹脂接着剤の模式図である。
【0011】
実施形態の二液型エポキシ樹脂接着剤100は、主剤10と硬化剤20で構成される。主剤10は第1の液の一例である。硬化剤20は、第2の液の一例である。二液型エポキシ樹脂接着剤100は、主剤10と硬化剤20とを混合させることで硬化する二液型の接着剤である。
【0012】
主剤10は、例えば、エポキシ樹脂11と第2のシリカ粒子12を含む。主剤10は、25℃で液状である。
【0013】
エポキシ樹脂11は、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、又は、ノボラック型エポキシ樹脂である。
【0014】
第2のシリカ粒子12は、例えば、球状、回転楕円体状、円柱状、又は不定形状であり、特に、限定されるものではない。
図1は、第2のシリカ粒子12の形状が球状の場合を例示している。
【0015】
第2のシリカ粒子12の平均粒径は、例えば、1μm以上10μm以下である。第2のシリカ粒子12は主剤10の中に、例えば、39重量%以上79重量%以下含まれる。
【0016】
第2のシリカ粒子12の材料は、例えば、溶融シリカ又は結晶質シリカである。
【0017】
なお、主剤10には第2のシリカ粒子12が含まれなくても構わない。
【0018】
硬化剤20は、アミン化合物21と第1のシリカ粒子22を含む。硬化剤20は、25℃で液状である。硬化剤20は、例えば、シランカップリング剤を含む。なお、アミン化合物21は25℃での粘度が低いため、シリカの沈降防止剤を入れてもよい。また、主剤10との混合直前に、硬化剤20を撹拌してもよい。
【0019】
アミン化合物21は、例えば、脂肪族アミン、芳香族アミン、又はイミンである。アミン化合物21は、例えば、ポリ(プロピレングリコール)ジアミンである。
【0020】
第1のシリカ粒子22は、例えば、球状、回転楕円体状、円柱状、又は不定形状であり、特に、限定されるものではない。
図1は、第1のシリカ粒子22の形状が球状の場合を例示している。
【0021】
第1のシリカ粒子22の平均粒径は、例えば、1μm以上10μm以下である。第1のシリカ粒子22は硬化剤20の中に、例えば、14重量%以上83重量%以下含まれる。
【0022】
第1のシリカ粒子22の材料は、例えば、溶融シリカ又は結晶質シリカである。
【0023】
主剤10と硬化剤20を混合する場合、例えば、主剤10のエポキシ当量と硬化剤20のアミン化合物の活性水素当量が等しくなる比率で混合する。アミン化合物の活性水素当量は、実効的なアミン当量と考えることができる。上記比率で混合することにより、主剤10の官能基の数と硬化剤20の官能基の数とが等しくなり、樹脂の硬化特性が向上する。
【0024】
主剤10のエポキシ当量と硬化剤20のアミン化合物の活性水素当量が等しくなる状態で考えた場合に、硬化剤20の中に含まれる第1のシリカ粒子22と主剤10の中に含まれる第2のシリカ粒子12の総和に対する、硬化剤20の中に含まれる第1のシリカ粒子22の割合は、例えば、5重量%以上50重量%以下である。この範囲であることで、十分なチクソ性と、硬化剤の粘度を適度に高くすることができるため好ましい。
【0025】
また、主剤10のエポキシ当量と硬化剤20の液のアミン化合物の活性水素当量が等しくなる状態で考えた場合に、硬化剤20の中に含まれる第1のシリカ粒子22と主剤10の中に含まれる第2のシリカ粒子12の総和は、主剤10の中に含まれるエポキシ樹脂を100重量部とした場合に、例えば、130重量部以上390重量部以下である。この範囲であることで、十分なチクソ性と、主剤及び硬化剤の粘度を適度に高くすることができるため好ましい。
【0026】
図2は、実施形態の第1のシリカ粒子の説明図である。
【0027】
図2に示すように、第1のシリカ粒子22には、エポキシ基が結合される。エポキシ基は、硬化剤20に含まれるシランカップリング剤によって、第1のシリカ粒子22に結合する。
【0028】
なお、結合の方法としては、硬化剤中にシリカ粒子とシランカップリング剤を入れて、例えば半日間、静置して反応させてもよい。これはインテグラル法と呼ばれる手法である。または、予めエポキシ基を含むシランカップリング剤でシリカ粒子表面を被覆処理したものを用いてもよい。これは表面処理法と呼ばれる手法である。
【0029】
なお、主剤10に含まれる第2のシリカ粒子12についても、
図2に示すようにエポキシ基が結合されても構わない。その場合、エポキシ基は、例えば、主剤10に含まれるシランカップリング剤によって、第2のシリカ粒子12に結合する。
【0030】
第2のシリカ粒子12及び第1のシリカ粒子22の平均粒径は、例えば、複数のシリカ粒子の長径を、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)で取得した画像(SEM画像)で測定し、測定した長径から求めることが可能である。
【0031】
主剤10が、エポキシ樹脂を含むか否かは、例えば、熱分解ガスクロマトグラフィー質量分析法(Pyrolysis-Gas Chromatography/Mass Spectrometry法)で判別することが可能である。
【0032】
硬化剤20が、アミン化合物を含むか否かは、例えば、イオンクロマトグラフィー(Ion Chromatography)で判別することが可能である。
【0033】
また、第2のシリカ粒子12又は第1のシリカ粒子22に、シランカップリング剤によってエポキシ基が結合されているか否かは、例えば、熱分解ガスクロマトグラフィー質量分析法で判別することが可能である。
【0034】
図3は、実施形態の樹脂硬化物の模式断面図である。実施形態の樹脂硬化物はエポキシ樹脂硬化物200である。エポキシ樹脂硬化物200は、実施形態の二液型エポキシ樹脂接着剤100の硬化物である。
【0035】
エポキシ樹脂硬化物200は、エポキシ樹脂31とシリカ粒子32を含む。
【0036】
エポキシ樹脂31は、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、又は、ノボラック型エポキシ樹脂である。
【0037】
シリカ粒子32は、いわゆるフィラーである。シリカ粒子32は、例えば、球状、回転楕円体状、円柱状、又は不定形状であり、特に、限定されるものではない。
図3は、シリカ粒子32の形状が球状の場合を例示している。
【0038】
シリカ粒子32の材料は、例えば、溶融シリカ又は結晶質シリカである。
【0039】
シリカ粒子32の平均粒径は、1μm以上10μm以下である。シリカ粒子32はエポキシ樹脂硬化物200の中に、例えば、32体積%以上60体積%以下含まれる。
【0040】
エポキシ樹脂硬化物200におけるシリカ粒子32の体積割合は、例えば、エポキシ樹脂硬化物200の断面についてSEM画像を取得し、当該断面におけるシリカ粒子32の占有率で代表させる。シリカ粒子32の占有率は、例えば、SEM画像の画像解析により求めることが可能である。
【0041】
例えば、7か所の領域についてシリカ粒子32の占有率を測定し、最大の占有率と最小の占有率を有する領域を除外した5か所の領域の占有率の平均値を算出する。算出した平均値をエポキシ樹脂硬化物200におけるシリカ粒子32の体積割合とする。
【0042】
エポキシ樹脂硬化物200を加熱発生ガス質量分析法(Evolved Gas Analysis Mass Spectrometry法:EGA-MS法)を用いた分析により得られるサーモグラムの分解ピーク温度は、402℃以下である。EGA-MS法は、試料を昇温加熱して発生するガスを直接質量分析計に導入して測定する方法である。
【0043】
例えば、二液型エポキシ樹脂接着剤を構造物の壁面や天井部で用いる場合、二液の混合後の塗布の容易性と、塗布後の重力によるたれ落ちを防ぐことが要求される。二液の混合後の塗布の容易性と、塗布後の重力によるたれ落ちを防ぐためには、二液の混合後の接着剤のチクソ性を高くし、かつ、混合直後の初期粘度を高くすることが望まれる。
【0044】
例えば、硬化剤にシリカ粒子を含有させることで、二液の混合後の接着剤のチクソ性を高くすることが可能となる。特に、含有させるシリカ粒子の粒径を小さくすることで、二液の混合後の接着剤のチクソ性を高くすることが可能となる。例えば、含有させるシリカ粒子の平均粒径を1μm未満とすることで、高いチクソ性を発現できる。
【0045】
もっとも、硬化剤に含有させるシリカ粒子の平均粒径を1μm未満とすると、混合前の硬化剤に凝集が生じやすくなる。したがって、混合前の硬化剤の取り扱いが難しくなる。また、混合前の硬化剤に凝集が生じると、例えば、硬化後の接着剤の特性が不均一になる。
【0046】
実施形態の二液型エポキシ樹脂接着剤100の硬化剤20は、第1のシリカ粒子22にエポキシ基が結合される。エポキシ基が結合されることにより、第1のシリカ粒子22の平均粒径が1μm以上と大きくなっても、二液の混合後の接着剤に高いチクソ性を発現できる。また、第1のシリカ粒子22の平均粒径が1μm以上と大きいことで、混合前の硬化剤20の凝集が生じにくくなる。
【0047】
また、第1のシリカ粒子22にエポキシ基が結合されることで、混合直後の初期粘度を高くすることができる。エポキシ基を第2のシリカ粒子12及び第1のシリカ粒子22の両方が備えることで、機械強度を上げることができるためより好ましい。
【0048】
図4は、実施形態の二液型エポキシ樹脂接着剤に含まれる第2の液で生じる反応の一例の図である。
【0049】
図4の上図に示すように、硬化剤20に含まれる第1のシリカ粒子22には、シランカップリング剤によって、エポキシ基が結合されている。さらに、硬化剤20に含まれる第1のシリカ粒子22のエポキシ基は、アミン化合物と反応することで、
図4の下図に示すようにエポキシ基にアミン化合物が結合すると考えられる。言い換えれば、アミン化合物の側鎖に第1のシリカ粒子22が結合すると考えられる。
【0050】
実施形態の硬化剤20では、アミン化合物の側鎖に第1のシリカ粒子22が結合することにより、アミン化合物の見かけ上の分子量が大きくなる。したがって、平均粒径が1μm以上10μm以下である第1のシリカ粒子を用いたとしても、主剤10と硬化剤20を混合後の接着剤の初期粘度が高くなり、高いチクソ性が発現すると考えられる。
【0051】
主剤10と硬化剤20を混合した場合、主剤10のエポキシ樹脂と、硬化剤20のアミン化合物21とが結合し架橋構造骨格を形成することで、接着剤が硬化する。実施形態の二液型エポキシ樹脂接着剤100では、架橋構造骨格を形成するアミン化合物の側鎖に第1のシリカ粒子22が結合している。このため、第1のシリカ粒子22を架橋構造骨格中に取り込むことができる。
【0052】
第1のシリカ粒子22が架橋構造骨格中に取り込まれることで、例えば、主剤10と硬化剤20を混合して形成されるエポキシ樹脂硬化物200中に含まれるシリカ粒子32の分散性を向上させることができる。フィラーとして含まれるシリカ粒子は、混合前の粉の状態ではある程度凝集し、二次粒子を形成している。これを主剤のエポキシ樹脂に混合する際、ミキサーなどで二次粒子を解砕させるが、全粒子が一次粒子まで完全に解砕させるのは難しい。一方、硬化剤は主剤のエポキシ樹脂と比べて粘度が低いため、ミキサーでも一次粒子まで分散が容易である。実施形態では、架橋構造に取り込まれるシリカ粒子が増えることで、架橋構造外のシリカが減り、二次粒子から、一次粒子まで解砕されていないシリカ粒子を減らすことができる。言い換えれば、架橋構造骨格に取り込まれないシリカが減ることで、シリカ粒子32が、エポキシ樹脂硬化物200中に良好な分散状態で分布するようになる。したがって、エポキシ樹脂硬化物200の特性が均質化する。
【0053】
硬化剤20に含まれる第1のシリカ粒子22の平均粒径は、1μm以上10μm以下であることが好ましく、2μm以上5μm以下であることがより好ましい。第1のシリカ粒子22の平均粒径が上記下限値よりも大きいことで、硬化剤20の凝集が抑制される。また、第1のシリカ粒子22の平均粒径が上記上限値よりも小さいことで、主剤10と硬化剤20を混合した後の接着剤のチクソ性が高くなる。
【0054】
第1のシリカ粒子22は硬化剤20の中に、14重量%以上83重量%以下含まれることが好ましい。14重量%以上であることで、主剤10と硬化剤20を混合した後の接着剤のチクソ性が更に高くなる。83重量%以下であることで、硬化剤20の粘度が高くなり過ぎず、凝集が抑制される。
【0055】
主剤10に含まれる第2のシリカ粒子12の平均粒径は、1μm以上10μm以下であることが好ましく、2μm以上5μm以下であることがより好ましい。第2のシリカ粒子12の平均粒径が上記下限値よりも大きいことで、主剤10の凝集が抑制される。また、第2のシリカ粒子12の平均粒径が上記上限値よりも小さいことで、主剤10と硬化剤20を混合した後の接着剤のチクソ性が高くなる。
【0056】
第2のシリカ粒子12は主剤10の中に、39重量%以上79重量%以下含まれることが好ましい。39重量%以上であることで、主剤10と硬化剤20を混合した後の接着剤のチクソ性が更に高くなる。また、79重量%以下であることで、主剤10の粘度が高くなり過ぎず、凝集が抑制される。
【0057】
主剤10のエポキシ当量と硬化剤20のアミン化合物の活性水素当量が等しくなる状態で考えた場合に、硬化剤20の中に含まれる第1のシリカ粒子22と主剤10の中に含まれる第2のシリカ粒子12の総和に対する、硬化剤20の中に含まれる第1のシリカ粒子22の割合は、5重量%以上50重量%以下であることが好ましい。5重量%以上であることで、主剤10と硬化剤20を混合した後の接着剤のチクソ性が高くなる。また、50重量%以下であることで、硬化剤20の粘度が高くなり過ぎず、凝集が抑制される。
【0058】
主剤10のエポキシ当量と硬化剤20のアミン化合物の活性水素当量が等しくなる状態で考えた場合に、硬化剤20の中に含まれる第1のシリカ粒子22と主剤10の中に含まれる第2のシリカ粒子12の総和は、主剤10の中に含まれるエポキシ樹脂を100重量部とした場合に、130重量部以上390重量部以下であることが好ましい。130重量部以上であることで、形成されるエポキシ樹脂硬化物の中のフィラーの割合が高くなり、エポキシ樹脂硬化物の特性が向上する。390重量部以下であることで、主剤10と硬化剤20を混合した後の接着剤の粘度が高くなりすぎることを抑制する。
【0059】
主剤10に含まれるエポキシ樹脂は、主剤10と硬化剤20を混合した後の粘度を高くする観点から、比較的粘度が高いことが好ましい。例えば、主剤10に含まれるエポキシ樹脂は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂であることが好ましい。
【0060】
実施形態のエポキシ樹脂硬化物200は、平均粒径が1μm以上10μm以下であるシリカ粒子32を含む。エポキシ樹脂硬化物200は、シリカ粒子32をフィラーとして含むことで、例えば、機械的強度や絶縁性が向上する。
【0061】
エポキシ樹脂硬化物200は、加熱発生ガス質量分析法を用いた分析により得られるサーモグラムの分解ピーク温度が、402℃以下である。
【0062】
エポキシ樹脂硬化物200中の主剤のエポキシ樹脂11や、硬化剤のアミン化合物21の一分子と比較して、粒径が大きいシリカ粒子が、架橋構造骨格内に取り込まれることで、架橋構造骨格の架橋点の密度が低下すると考えられる。サーモグラムの分解ピーク温度が402℃以下と低くなるのは、架橋構造骨格の架橋点の密度が低下したためであると考えられる。
【0063】
言い換えれば、エポキシ樹脂硬化物200は、サーモグラムの分解ピーク温度が402℃以下であることで、エポキシ樹脂硬化物200の中の架橋構造骨格の外のシリカ粒子が減り、シリカ粒子の凝集リスクが減り、分散性が向上していると考えられる。
【0064】
エポキシ樹脂硬化物200のシリカ粒子分散性を更に向上する観点から、加熱発生ガス質量分析法を用いた分析により得られるサーモグラムの分解ピーク温度は、401℃以下であることが好ましく、400℃以下であることが更に好ましい。
【0065】
エポキシ樹脂硬化物200に含まれるシリカ粒子32の平均粒径は、1μm以上10μm以下であることが好ましく、2μm以上5μm以下であることがより好ましい。シリカ粒子32の平均粒径が上記範囲にあることで、エポキシ樹脂硬化物200の特性が向上する。
【0066】
以上、実施形態によれば、チクソ性が高く、初期粘度の高い二液型エポキシ樹脂接着剤を提供できる。また、硬化剤の凝集が抑制された二液型エポキシ樹脂接着剤を提供できる。また、シリカ粒子が良好に分散した、機械特性に優れた樹脂硬化物が提供できる。
【0067】
以下、実施例について説明する。
【実施例0068】
(実施例1)
ビスフェノールA型エポキシ樹脂100重量部に、平均粒径2μmのエポキシ処理シリカ粒子を286重量部混合し、主剤を作製した。エポキシ処理シリカ粒子は、シランカップリング剤によりエポキシ基が結合されたシリカ粒子である。ポリ(プロピレングリコール)ジアミン40重量部に、平均粒径2μmのエポキシ処理シリカ粒子を52重量部混合し、硬化剤を作製した。
【0069】
主剤と硬化剤を、ビスフェノールA型エポキシ樹脂のエポキシ当量と、ポリ(プロピレングリコール)ジアミンの活性水素当量が等しくなる比率で混合した。硬化剤はシリカ粒子の沈降解消のために秤量直前に自転公転ミキサーで攪拌した後、主剤と硬化剤を自転公転ミキサーを用い混合攪拌し接着剤を作製した。その後、接着剤を硬化させ硬化
物を作製した。
【0070】
(実施例2)
ビスフェノールA型エポキシ樹脂100重量部に、平均粒径2μmのシリカ粒子を286重量部混合し、主剤を作製した。ポリ(プロピレングリコール)ジアミン40重量部に、平均粒径2μmのエポキシ処理シリカ粒子を52重量部混合し、硬化剤を作製した。主剤のシリカ粒子はエポキシ基が結合されないシリカ粒子である。
【0071】
主剤と硬化剤を、ビスフェノールA型エポキシ樹脂のエポキシ当量と、ポリ(プロピレングリコール)ジアミンの活性水素当量が等しくなる比率で混合した。硬化剤はシリカ粒子の沈降解消のために秤量直前に自転公転ミキサーで攪拌した後、主剤と硬化剤を自転公転ミキサーを用い混合攪拌し接着剤を作製した。
【0072】
(比較例1)
ビスフェノールA型エポキシ樹脂100重量部に、平均粒径2μmのエポキシ処理シリカを338重量部混合し、主剤を作製した。硬化剤として、ポリ(プロピレングリコール)ジアミン40重量部を準備した。
【0073】
主剤と硬化剤を、ビスフェノールA型エポキシ樹脂のエポキシ当量と、ポリ(プロピレングリコール)ジアミンの活性水素当量が等しくなる比率で混合した。主剤と硬化剤を自転公転ミキサーを用い混合攪拌し接着剤を作製した。その後、接着剤を硬化させ硬化物を作製した。
【0074】
(比較例2)
ビスフェノールA型エポキシ樹脂100重量部を主剤、ポリ(プロピレングリコール)ジアミン40重量部を硬化剤として準備した。主剤と硬化剤を混合し、硬化物を作製した。
【0075】
(比較例3)
ビスフェノールA型エポキシ樹脂100重量部に、平均粒径2μmのシリカ粒子を286重量部およびエポキシ基を含むシランカップリング剤を1重量部混合し、主剤を作製した。ポリ(プロピレングリコール)ジアミン40重量部に、平均粒径2μmのシリカ粒子を52重量部混合し、硬化剤を作製した。硬化剤のシリカ粒子はエポキシ基が結合されないシリカ粒子である。
【0076】
主剤と硬化剤を、ビスフェノールA型エポキシ樹脂のエポキシ当量と、ポリ(プロピレングリコール)ジアミンの活性水素当量が等しくなる比率で混合した。硬化剤はシリカ粒子の沈降解消のために秤量直前に自転公転ミキサーで攪拌した後、主剤と硬化剤を自転公転ミキサーを用い混合攪拌し接着剤を作製した。
【0077】
(比較例4)
ビスフェノールA型エポキシ樹脂100重量部に、平均粒径2μmのシリカ粒子を338重量部およびエポキシ基を含むシランカップリング剤を1重量部混合し、主剤を作製した。硬化剤として、ポリ(プロピレングリコール)ジアミン40重量部を準備した。
【0078】
(比較例5)
ビスフェノールA型エポキシ樹脂100重量部に、平均粒径2μmのエポキシ処理シリカ粒子を286重量部混合し、主剤を作製した。ポリ(プロピレングリコール)ジアミン40重量部に、平均粒径2μmのシリカ粒子を52重量部混合し、硬化剤を作製した。硬化剤のシリカ粒子はエポキシ基が結合されないシリカ粒子である。
【0079】
主剤と硬化剤を、ビスフェノールA型エポキシ樹脂のエポキシ当量と、ポリ(プロピレングリコール)ジアミンの活性水素当量が等しくなる比率で混合した。硬化剤はシリカ粒子の沈降解消のために秤量直前に自転公転ミキサーで攪拌した後、主剤と硬化剤を自転公転ミキサーを用い混合攪拌し接着剤を作製した。
【0080】
主剤と硬化剤を、ビスフェノールA型エポキシ樹脂のエポキシ当量と、ポリ(プロピレングリコール)ジアミンの活性水素当量が等しくなる比率で混合した。主剤と硬化剤を自転公転ミキサーを用い混合攪拌し接着剤を作製した。
【0081】
二液混合直後の初期粘度は、実施例1が48.0(Pa・s)、実施例2が48.5(Pa・s)、比較例1が4.7(Pa・s)であった。硬化剤にエポキシ処理シリカが入ることで、初期粘度が高くなる理由は、主剤のみにエポキシ処理シリカを入れた比較例1の場合、二液混合直後、アミン化合物はシリカ粒子と結合せず、単分子として存在するので、シリカ粒子と結合している場合と比較して流動性が高く、粘度が上がらないためと考えられる。
【0082】
硬化剤にエポキシ処理シリカが入っていると、二液混合前の硬化剤中でアミン化合物とエポキシ処理シリカが結合して、見かけの分子量が増大する。そうすると、二液混合直後から硬化剤の流動性が低下し、初期粘度が高くなると考えられる。
【0083】
二液混合直後の初期粘度は、比較例3が9.4(Pa・s)、比較例4が5.3(Pa・s)であった。
【0084】
比較例3は、硬化剤中にシリカ粒子が入っているものの、エポキシ基によりアミン化合物と結合していないため、実施例のような顕著な初期粘度の増加が見られず、初期粘度が低かった。初期粘度が低い接着剤では、垂れ落ちやすい。
【0085】
二液混合直後の初期粘度は、比較例5が8.9(Pa・s)であった。比較例5は、主剤にはエポキシ処理シリカが入っているものの、硬化剤にはエポキシ基処理シリカが入っていないため、実施例のような初期粘度の増大が見られなかった。初期粘度が低い接着剤では、垂れ落ちやすい。
【0086】
図5は、実施例の測定結果を示す図である。実施例1の接着剤と比較例1の接着剤の、粘度のせん断速度依存性をレオメータにより測定した。測定結果を
図5に示す。
【0087】
図5に示すように、実施例1の接着剤の粘度は、せん断速度の増加とともに低下する。実施例1の接着剤には、いわゆる、シアシニングの傾向が見られた。言い換えれば、実施例の接着剤は、チクソ性が高い。シアシニングの傾向がある材料は、たれ落ちにくく、特に壁面や天井部の塗布時には塗りやすいという特徴を有する。
【0088】
実施例1の接着剤は、せん断速度0.01(1/s)の粘度2444(Pa・s)に対し、せん断速度0.1(1/s)の粘度は392(Pa・s)であり、せん断速度0.01(1/s)の粘度をせん断速度0.1(1/s)の粘度で除して算出できるチクソトロピックインデックスは、6.2であった。
【0089】
一方、
図5に示すように、比較例1の接着剤の粘度は、せん断速度の増加とともに粘度が増加する。比較例1の接着剤には、いわゆる、シアシックニングの傾向が見られた。言い換えれば、比較例1の接着剤は、チクソ性が低い。シアシックニングの傾向があり、低せん断速度における粘度が小さい材料は、たれ落ちやすく、特に壁面や天井部の塗布に適さない。
【0090】
比較例1の接着剤は、せん断速度0.01(1/s)の粘度12(Pa・s)に対し、せん断速度0.1(1/s)の粘度は11(Pa・s)であり、せん断速度0.01(1/s)の粘度をせん断速度0.1(1/s)の粘度で除して算出できるチクソトロピックインデックスは、1.2であった。
【0091】
なお、実施例2の接着剤においても、実施例1の接着剤と同様、高いチクソ性が得られた。
【0092】
図6は、実施例の測定結果を示す図である。実施例1の硬化物、比較例1の硬化物、及び比較例2の硬化物について、加熱発生ガス質量分析法による測定を行った。
図6に測定によって得られたサーモグラムを示す。
【0093】
図6に示すように、実施例1の硬化物の分解ピーク温度は400℃であった。比較例1の硬化物の分解ピーク温度は402℃であった。比較例2の硬化物の分解ピーク温度は406℃であった
【0094】
シリカ粒子を含まない比較例2の硬化物に比べ、実施例1の硬化物及び比較例1の硬化物の分解ピーク温度が低下した理由としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂とアミン化合物からなる架橋構造骨格内に、エポキシ処理された粒径が大きいシリカ粒子が入り込むことで、架橋点密度が低下し、分解ピーク温度が低下したと考えられる。
【0095】
実施例1の試料では、比較例1と比べて更に分解ピーク温度が低下していることから、架橋構造骨格内のシリカ取込み量がより増していることが推測できる。
【0096】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。例えば、一実施形態の構成要素を他の実施形態の構成要素と置き換え又は変更してもよい。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0097】
以下、本発明の技術案を記載する。
【0098】
(技術案1)
エポキシ樹脂を含む第1の液と、
アミン化合物と、エポキシ基が結合され平均粒径が1μm以上10μm以下である第1のシリカ粒子と、を含む第2の液と、
を備える二液型エポキシ樹脂接着剤。
【0099】
(技術案2)
前記第2の液はシランカップリング剤を更に含み、前記エポキシ基は前記シランカップリング剤によって前記第1のシリカ粒子と結合する、技術案1記載の二液型エポキシ樹脂接着剤。
【0100】
(技術案3)
前記第1の液は平均粒径が1μm以上10μm以下である第2のシリカ粒子を、更に含む、技術案1又は技術案2記載の二液型エポキシ樹脂接着剤。
【0101】
(技術案4)
前記第2のシリカ粒子には、シランカップリング剤によってエポキシ基が結合される、技術案3記載の二液型エポキシ樹脂接着剤。
【0102】
(技術案5)
前記第1のシリカ粒子は前記第2の液の中に、14重量%以上83重量%以下含まれる、技術案1ないし技術案3いずれか一案に記載の二液型エポキシ樹脂接着剤。
【0103】
(技術案6)
前記第2のシリカ粒子は前記第1の液の中に、39重量%以上79重量%以下含まれる、技術案3記載の二液型エポキシ樹脂接着剤。
【0104】
(技術案7)
前記第1の液のエポキシ樹脂当量と前記第2の液の前記アミン化合物の活性水素当量が等しくなる状態で考えた場合に、
前記第2の液の中に含まれる前記第1のシリカ粒子と前記第1の液の中に含まれる前記第2のシリカ粒子の総和に対する、前記第2の液の中に含まれる前記第1のシリカ粒子の割合は5重量%以上50重量%以下である、技術案3記載の二液型エポキシ樹脂接着剤。
【0105】
(技術案8)
前記第1の液のエポキシ樹脂当量と前記第2の液の前記アミン化合物の活性水素当量が等しくなる状態で考えた場合に、
前記第2の液の中に含まれる前記第1のシリカ粒子と前記第1の液の中に含まれる前記第2のシリカ粒子の総和は、前記第1の液の中に含まれる前記エポキシ樹脂を100重量部とした場合に、130重量部以上390重量部以下である、技術案3記載の二液型エポキシ樹脂接着剤。
【0106】
(技術案9)
樹脂と、
平均粒径が1μm以上10μm以下であるシリカ粒子と、
を備え、
加熱発生ガス質量分析法により得られるサーモグラムの分解ピーク温度が402℃以下である、樹脂硬化物。
【0107】
(技術案10)
前記樹脂は、エポキシ樹脂を含む、技術案9記載の樹脂硬化物。
【0108】
(技術案11)
前記シリカ粒子を32体積%以上60体積%以下含む、技術案9又は技術案10記載の樹脂硬化物。