(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024013596
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】電動摩擦クラッチ装置
(51)【国際特許分類】
F16D 28/00 20060101AFI20240125BHJP
F16H 25/12 20060101ALI20240125BHJP
F16D 13/52 20060101ALI20240125BHJP
【FI】
F16D28/00 Z
F16H25/12 D
F16D13/52 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022115799
(22)【出願日】2022-07-20
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000811
【氏名又は名称】弁理士法人貴和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大黒 優也
(72)【発明者】
【氏名】山本 明弘
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 伸樹
【テーマコード(参考)】
3J056
3J062
【Fターム(参考)】
3J056AA60
3J056BB11
3J056BB21
3J056CC02
3J056CC37
3J056GA02
3J056GA12
3J062AA02
3J062AA21
3J062AB31
3J062AC07
3J062CA12
3J062CC16
3J062CG83
(57)【要約】
【課題】締結力を確実に確保する。
【解決手段】カム装置5は、軸方向片側面にカム面40を有し、使用時にも回転しない固定部材10に対して回転可能に、かつ、軸方向変位を不能に支持された駆動カム37と、固定部材10に対して軸方向変位を可能に、かつ、回転を不能に支持されたホルダ38と、それぞれが、カム面40に転がり接触する転動面69を有し、ホルダ38に保持された複数個の転動体39とを備える。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1部材と、
前記第1部材と同軸に、かつ、前記第1部材に対する相対回転を可能に支持された第2部材と、
軸方向の相対変位を可能に支持された、少なくとも1枚ずつの第1摩擦板および第2摩擦板を有する摩擦係合部と、
軸方向片側面にカム面を有し、使用時にも回転しない固定部分に対して回転可能に、かつ、軸方向変位を不能に支持された駆動カムと、前記固定部分に対して軸方向変位を可能に、かつ、回転を不能に支持されたホルダと、それぞれが、前記カム面に転がり接触する転動面を有し、前記ホルダに保持された複数個の転動体と、を含むカム装置と、
前記駆動カムを回転駆動する電動アクチュエータと、
前記第1摩擦板と前記第2摩擦板とのうちで最も軸方向他側に位置する摩擦板の軸方向他側面に対向し、かつ、該最も軸方向他側に位置する摩擦板に対する軸方向の遠近動を可能に支持された押圧部材と、
前記ホルダと前記押圧部材との間に配置された転がり軸受と、
前記押圧部材を、軸方向他側に向けて弾性的に付勢する弾性部材と、
を備え、
前記電動アクチュエータにより前記駆動カムを回転駆動することで、前記ホルダを前記駆動カムとの間隔が拡がる方向に変位させることに基づき、前記第1摩擦板と前記第2摩擦板とを互いに押し付け合わせることにより、前記第1部材と前記第2部材とが一体となって回転する接続モードに切り換わり、かつ、前記ホルダを前記駆動カムとの間隔が縮まる方向に変位させることに基づき、前記第1摩擦板と前記第2摩擦板とを互いに押し付け合う力を解放することにより、前記第1部材と前記第2部材とが相対回転する切断モードに切り換わる、
電動摩擦クラッチ装置。
【請求項2】
前記転動体は、円筒形状を有し、
前記カム装置は、前記ホルダに、それぞれの軸方向両側の端部を支持した複数本の支持軸と、前記転動体の内周面と前記支持軸の外周面との間に、それぞれ複数個ずつ転動自在に配置されたころとを含む、
請求項1に記載の電動摩擦クラッチ装置。
【請求項3】
前記カム装置は、前記支持軸が前記ホルダに対して該支持軸の軸方向に変位することを防止する抜け止め部材を含む、
請求項2に記載の電動摩擦クラッチ装置。
【請求項4】
前記第1部材が、第1筒部を有しており、
前記第1摩擦板が、前記第1筒部の外周面に支持されており、
前記弾性部材と、前記押圧部材の一部と、前記転がり軸受とが、前記第1筒部の径方向内側に配置されている、
請求項1に記載の電動摩擦クラッチ装置。
【請求項5】
前記第1部材が、第1筒部および該第1筒部の軸方向片側の端部から径方向内側に向けて折れ曲がった円輪部を有するフランジ部材と、前記円輪部の内周面に結合固定された軸本体とを備え、
前記第1摩擦板は、前記第1筒部の外周面に支持されている、
請求項1に記載の電動摩擦クラッチ装置。
【請求項6】
前記フランジ部材が、プレス加工品であり、
前記軸本体が、鍛造品である、
請求項5に記載の電動摩擦クラッチ装置。
【請求項7】
前記第1部材は、前記第1筒部の外周面に係止された止め輪を備え、
前記第1摩擦板は、前記第1筒部の外周面に軸方向変位を可能に支持され、かつ、前記止め輪により軸方向片側への変位が阻止されている、
請求項5に記載の電動摩擦クラッチ装置。
【請求項8】
前記弾性部材が、皿ばねにより構成されている、
請求項1に記載の電動摩擦クラッチ装置。
【請求項9】
前記駆動カムおよび/または前記ホルダが、焼結金属により構成されている、
請求項1に記載の電動摩擦クラッチ装置。
【請求項10】
前記カム装置が、前記駆動カムを、前記ホルダとの間隔が縮まる方向に弾性的に付勢する付勢部材を含む、
請求項1に記載の電動摩擦クラッチ装置。
【請求項11】
前記アクチュエータが、前記駆動カムを、前記ホルダとの間隔が縮まる方向に弾性的に付勢する付勢部材を含む、
請求項1に記載の電動摩擦クラッチ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第1部材と第2部材とが一体となって回転する接続モードと、第1部材と第2部材とが相対回転する切断モードとを切り換える電動摩擦クラッチ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車や工作機械などの回転機械装置では、エンジンや電動モータなどの動力源の出力を効率良く利用するために、動力源と駆動対象との間に変速機が設けられている。このような変速機として、歯車式で有段のものを使用する場合には、動力源と変速機との間に、動力源の出力トルクを変速機に伝達可能なロック状態と、伝達不能なアンロック状態とを切り替えるクラッチ装置が組み込まれる。このようなクラッチ装置としては、互いに対向する1対の摩擦面同士の摩擦により動力を伝達する摩擦クラッチや、互いに噛み合う爪により動力を伝達する噛み合いクラッチなどが使用されている。
【0003】
摩擦クラッチは、互いに対向する1対の係合部材同士の位相差や回転速度の差にかかわらず、トルクを伝達可能な接続モードと伝達不能な切断モードとの間でモードを切り換えることができる。
【0004】
図31は、国際公開第2008/096438号パンフレットに記載のクラッチ装置100を示している。クラッチ装置100は、入力部材(後輪用出力軸)101と、出力部材(スプロケット)102との間に配置されて、入力部材101と出力部材102との間でトルクを伝達する接続モードと、トルクを伝達しない切断モードとを切り換える。クラッチ装置100は、第1部材103と、第2部材104と、摩擦係合部105と、カム装置106と、電動アクチュエータ107と、押圧部材108と、転がり軸受109と、弾性部材110とを備える。
【0005】
第1部材103は、入力部材101に結合固定されて、該入力部材101と一体的に回転する。第1部材103は、入力部材101に外嵌固定される小径筒部103aと、該小径筒部103aの軸方向片側(
図31の左側)の端部から径方向外側に向けて折れ曲がった側板部103bと、該側板部103bの軸方向他側面(
図31の右側面)の径方向中間部から軸方向他側に向けて突出する大径筒部103cとを有する。すなわち、第1部材103は、略F字形の断面形状を有する。
【0006】
第2部材104は、出力部材102に結合固定されて、該出力部材102と一体的に回転する。第2部材104は、出力部材102に外嵌固定される円輪部104aと、該円輪部104aの径方向外側の端部から軸方向他側に向けて折れ曲がった円筒部104bとを有する。
【0007】
摩擦係合部105は、軸方向に交互に重ね合わされた複数枚ずつの第1摩擦板105aと第2摩擦板105bとを備える。それぞれの第1摩擦板105aは、第1部材103の大径筒部103cに対して、軸方向の変位を可能に、かつ、相対回転を不能に外嵌されている。それぞれの第2摩擦板105bは、第2部材の円筒部104bに対して、軸方向の変位を可能に、かつ、相対回転を不能に内嵌されている。
【0008】
カム装置106は、駆動カム106aと、カムプレート106bと、複数個のボール106cとを備える。
【0009】
駆動カム106aは、軸方向他側面に駆動側カム面106a1を有し、かつ、外周面にギヤ部106a2を有する。駆動カム106aは、入力部材101の周囲に、該入力部材101に対する相対回転および軸方向の変位を可能に配置されている。
【0010】
カムプレート106bは、軸方向片側面に固定側カム面106b1を有する。カムプレート106bは、入力部材101の周囲に、該入力部材101に対する相対回転を可能に、かつ、軸方向の変位を不能に配置されている。
【0011】
それぞれのボール106cは、駆動側カム面106a1と、固定側カム面106b1との間に転動自在に挟持されている。
【0012】
電動アクチュエータ107は、カム装置106の駆動カム106aを回転駆動する。電動アクチュエータ107は、電動モータ107aと、該電動モータ107aの出力トルクを増大して駆動カム106aに伝達する減速機107bとを有する。このために、減速機107bの出力歯車107b1を、駆動カム106aの外周面に備えられたギヤ部106a2に噛合させている。
【0013】
押圧部材108は、複数枚ずつの第1摩擦板105aと第2摩擦板105bとのうちで最も軸方向他側に位置する摩擦板の軸方向他側に対向して配置され、かつ、該最も軸方向他側に位置する摩擦板に対する遠近動を可能に支持されている。押圧部材108は、入力部材101の周囲に、該入力部材101に対する軸方向の変位を可能に外嵌されている。
【0014】
転がり軸受109は、駆動カム106aと押圧部材108との間に配置されている。
【0015】
弾性部材110は、第1部材103と押圧部材108との間に弾性的に圧縮された状態で挟持され、押圧部材108を軸方向他側に向けて弾性的に付勢する。弾性部材110は、圧縮コイルばねにより構成されている。
【0016】
クラッチ装置100を接続モードに切り換える際には、電動アクチュエータ107により駆動カム106aを回転駆動し、ボール106cを、駆動側カム面106a1の凸部の先端面と固定側カム面106b1の凸部の先端面との間に位置させることで、駆動カム106aとカムプレート106bとの間隔を拡げ、押圧部材108を軸方向片側に向けて押圧する。これにより、第1摩擦板105aと第2摩擦板105bとを互いに押し付け合わせることで、摩擦係合部105が接続され、第1部材103と第2部材104とが一体的に回転するようになる。
【0017】
クラッチ装置100を切断モードに切り換える際には、電動アクチュエータ107により駆動カム106aを回転駆動し、ボール106cを、駆動側カム面106a1の凹部の底部と固定側カム面106b1の凹部の底部との間に位置させると、弾性部材110が弾性的に復元しようとする力により、押圧部材108が軸方向他側に向けて押圧され、駆動カム106aとカムプレート106bとの間隔を縮める。この結果、第1摩擦板105aと第2摩擦板105bとを互いに押し付け合わせる力が解放され、摩擦係合部105が切断され、第1部材103と第2部材104とが相対回転するようになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】国際公開第2008/096438号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
国際公開第2008/096438号パンフレットに記載のクラッチ装置100では、駆動側カム面106a1および/または固定側カム面106b1と、ボール106cの転動面との間で滑りが発生し、複数個のボール106c同士の間で、駆動側カム面106a1の凹部の底部からの乗り上げ量および/または固定側カム面106b1の凹部の底部からの乗り上げ量にばらつきが生じる可能性がある。このようなばらつきが生じると、押圧部材108の軸方向変位量を十分に確保できなくなる可能性がある。この結果、クラッチ装置100の接続モードへの切換時に、摩擦係合部105の締結力を十分に確保できなくなったり、切断モードへの切換時に、第1摩擦板105aと第2摩擦板105bとを十分に離隔させることができなくなって、引き摺りが発生したりする可能性がある。
【0020】
本発明は、カム装置の軸方向寸法の拡縮量を十分かつ確実に確保することができる、電動摩擦クラッチの構造を実現することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明の一態様にかかる電動摩擦クラッチ装置は、第1部材と、第2部材と、摩擦係合部と、カム装置と、電動アクチュエータと、押圧部材と、転がり軸受と、弾性部材とを備える。
【0022】
前記第2部材は、前記第1部材と同軸に、かつ、前記第1部材に対する相対回転を可能に支持されている。
【0023】
前記摩擦係合部は、軸方向の相対変位を可能に支持された、少なくとも1枚ずつ、好ましくは複数枚ずつの第1摩擦板および第2摩擦板を有する。
【0024】
前記カム装置は、駆動カムと、ホルダと、複数個の転動体とを備える。
【0025】
前記駆動カムは、軸方向片側面にカム面を有し、使用時にも回転しない固定部分に対して回転可能に、かつ、軸方向変位を不能に支持されている。
【0026】
前記ホルダは、前記固定部分に対して軸方向変位を可能に、かつ、回転を不能に支持されている。
【0027】
前記転動体は、前記カム面に転がり接触する転動面を有し、前記ホルダに保持されている。
【0028】
前記電動アクチュエータは、前記駆動カムを回転駆動する。
【0029】
前記押圧部材は、前記第1摩擦板と前記第2摩擦板とのうちで最も軸方向他側に位置する摩擦板の軸方向他側面に対向して配置され、かつ、該最も軸方向他側に位置する摩擦板に対する軸方向の遠近動を可能に支持されている。
【0030】
前記転がり軸受は、前記ホルダと前記押圧部材との間に配置されている。
【0031】
前記弾性部材は、前記押圧部材を、軸方向他側に向けて弾性的に付勢する。
【0032】
本発明の一態様にかかる電動摩擦クラッチ装置は、前記電動アクチュエータにより前記駆動カムを回転駆動することで、前記ホルダを前記駆動カムとの間隔が拡がる方向に変位させることに基づき、前記第1摩擦板と前記第2摩擦板とを互いに押し付け合わせることにより、前記第1部材と前記第2部材とが一体となって回転する接続モードに切り換わり、かつ、前記ホルダを前記駆動カムとの間隔が縮まる方向に変位させることに基づき、前記第1摩擦板と前記第2摩擦板とを互いに押し付け合う力を解放することにより、前記第1部材と前記第2部材とが相対回転する切断モードに切り換わる。
【0033】
本発明の一態様にかかる電動摩擦クラッチ装置では、
前記転動体は、円筒形状を有することができ、かつ、
前記カム装置は、前記ホルダに、それぞれの軸方向両側の端部を支持した複数本の支持軸と、前記転動体の内周面と前記支持軸の外周面との間に、それぞれ複数個ずつ転動自在に配置されたころとを備えることができる。
【0034】
本発明の一態様にかかる電動摩擦クラッチ装置では、前記カム装置は、前記支持軸が前記ホルダに対して該支持軸の軸方向に変位することを防止する抜け止め部材を備えることができる。
【0035】
本発明の一態様にかかる電動摩擦クラッチ装置では、前記第1部材は、第1筒部を有することができる。この場合、前記第1摩擦板を、前記第1筒部の外周面に支持することができ、かつ、前記弾性部材と、前記押圧部材の一部と、前記転がり軸受とを、前記第1筒部の径方向内側に配置することができる。
【0036】
本発明の一態様にかかる電動摩擦クラッチ装置では、前記第1部材は、第1筒部および該第1筒部の軸方向片側の端部から径方向内側に向けて折れ曲がった円輪部を有するフランジ部材と、前記円輪部の内周面に結合固定された軸本体とを備えることができ、かつ、前記第1摩擦板を、前記第1筒部の外周面に支持することができる。
【0037】
本発明の一態様にかかる電動摩擦クラッチ装置では、前記フランジ部材を、プレス加工品とし、かつ、前記軸本体を、鍛造品とすることができる。
【0038】
本発明の一態様にかかる電動摩擦クラッチ装置では、前記第1部材は、前記第1筒部の外周面に係止された止め輪を備えることができる。この場合、前記第1摩擦板を、前記第1筒部の外周面に軸方向変位を可能に支持することができ、かつ、前記止め輪により、前記第1摩擦板の軸方向片側への変位を阻止することができる。
【0039】
本発明の一態様にかかる電動摩擦クラッチ装置では、前記弾性部材を、皿ばねにより構成することができる。
【0040】
本発明の一態様にかかる電動摩擦クラッチ装置では、前記駆動カムおよび/または前記ホルダを、焼結金属により構成することができる。
【0041】
本発明の一態様にかかる電動摩擦クラッチ装置では、前記カム装置は、前記駆動カムを、前記ホルダとの間隔が縮まる方向に弾性的に付勢する付勢部材を含むことができる。
あるいは、本発明の一態様にかかる電動摩擦クラッチ装置では、前記電動アクチュエータは、前記駆動カムを、前記ホルダとの間隔が縮まる方向に弾性的に付勢する付勢部材を含むことができる。
【発明の効果】
【0042】
本発明の一態様にかかる電動摩擦クラッチ装置によれば、カム装置の軸方向寸法の拡縮量を十分かつ確実に確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【
図1】
図1は、本発明の実施の形態の第1例の電動摩擦クラッチ装置を、軸方向片側から見た端面図である。
【
図2】
図2は、第1例の電動摩擦クラッチ装置を、軸方向他側から見た端面図である。
【
図4】
図4は、第1例の電動摩擦クラッチ装置を示す分解斜視図である。
【
図5】
図5は、第1例の電動摩擦クラッチ装置を、第2部材を省略して軸方向片側から見た斜視図である。
【
図6】
図6は、第1例の電動摩擦クラッチ装置を、第2部材を省略して軸方向他側から見た斜視図である。
【
図7】
図7は、第1部材を取り出して示す斜視図である。
【
図8】
図8は、第1部材を取り出して示す断面図である。
【
図9】
図9は、固定部材を取り出して示す斜視図である。
【
図10】
図10は、カム装置を、駆動カムとホルダとの間隔を縮めた状態で示す側面図である。
【
図11】
図11は、カム装置を、駆動カムとホルダとの間隔を拡げた状態で示す側面図である。
【
図13】
図13は、駆動カムおよびウォームを取り出して示す斜視図である。
【
図14】
図14は、ホルダと転動体とを組み合わせた状態で示す斜視図である。
【
図15】
図15は、ホルダと転動体とを組み合わせた状態で、軸方向他側から見た端面図である。
【
図17】
図17は、ホルダに対する転動体の組み付け部分を示す分解斜視図である。
【
図18】
図18は、摩擦係合部を取り出して示す端面図である。
【
図20】
図20は、摩擦係合部を取り出して示す分解斜視図である。
【
図22】
図22は、第1例の変形例について、駆動カムの回転角度と軸方向変位量との関係を示す線図である。
【
図23】
図23は、本発明の実施の形態の第2例の電動摩擦クラッチ装置を示す、半部断面図である。
【
図24】
図24は、エンドプレートを取り出して示す斜視図である。
【
図25】
図25は、本発明の実施の形態の第3例の電動摩擦クラッチ装置を示す断面図である。
【
図26】
図26(A)は、ナットを軸方向片側から見た斜視図であり、
図26(B)は、ナットを軸方向他側から見た斜視図である。
【
図27】
図27は、本発明の実施の形態の第4例の電動摩擦クラッチ装置から減速機を取り出して示す端面図である。
【
図28】
図28は、本発明の実施の形態の第5例の電動摩擦クラッチ装置から減速機を取り出して示す斜視図である。
【
図29】
図29は、ぜんまいばねの組み付け部分を示す断面である。
【
図30】
図30は、ぜんまいばねの組み付け部分を示す分解斜視図である。
【
図31】
図31は、従来構造のクラッチ装置の1例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
[第1例]
図1~
図20は、本発明の実施の形態の第1例を示している。本例の電動摩擦クラッチ装置1は、第1部材2と、第2部材3と、摩擦係合部4と、カム装置5と、電動アクチュエータ6と、押圧部材7と、転がり軸受8と、弾性部材9とを備える。
【0045】
電動摩擦クラッチ装置1は、たとえば、自動車の駆動系のうち、電動モータやエンジンなどの駆動源と変速機との間部分、または、変速機と差動装置との間部分などに配置される。ただし、本発明の電動摩擦クラッチ装置は、自動車の駆動系にかかわらず、種々の機械装置の、1対の回転部材同士の間部分、または、回転部材と固定部材との間部分に配置することができる。
【0046】
以下の説明において、軸方向、径方向、および周方向とは、特に断らない限り、第1部材2の軸方向、径方向、および周方向をいう。また、軸方向片側とは、
図3の左側を指し、軸方向他側とは、
図3の右側を指す。
【0047】
第1部材2は、使用時にも回転しない固定部材10に対し、回転自在に支持されている。第1部材2は、たとえば、駆動源の出力軸または変速機の出力軸などの第1回転部材72(
図4参照)にトルクの伝達を可能に接続される。
【0048】
固定部材10は、
図9に示すように、固定筒部11と、該固定筒部11の軸方向他側の端部から径方向外側に折れ曲がったフランジ部12とを備える。
【0049】
固定筒部11は、軸方向片側の端部外周面に、雄スプライン部13を有する。
【0050】
フランジ部12は、周方向1乃至複数箇所(図示の例では1箇所)に、軸方向に貫通する通孔70を有する。
【0051】
固定部材10は、フランジ部12の通孔70に挿通したボルトまたはピンなどの結合部材により、ハウジングなどの固定部分に支持固定されて、使用時にも回転も変位もしない。
【0052】
第1部材2は、
図7および
図8に示すように、フランジ部材14と、軸本体15とを備える。
【0053】
フランジ部材14は、第1筒部16と、該第1筒部16の軸方向片側の端部から径方向内側に向けて折れ曲がった円輪部17とを有する。本例では、フランジ部材14は、たとえば、鋼板などの十分な強度および剛性を有する金属板に、プレス加工を施し、さらに表面に窒化処理を施すことで造られている。
【0054】
第1筒部16は、外周面に、周方向に関して凹部と凸部とを交互に配置してなる内径側凹凸部18を有する。
【0055】
軸本体15は、フランジ部材14の円輪部17の内周面に結合固定されている。本例では、軸本体15は、段付円筒形状を有する。具体的には、軸本体15は、軸方向片側の大径筒部19と、軸方向他側の小径筒部20とを、中空円形板状の側板部21により接続することにより構成されている。本例では、軸本体15は、中炭素鋼などの硬質金属製の素材に鍛造加工を施し、さらに表面に窒化処理を施すことで造られている。
【0056】
小径筒部20は、軸方向他側部分の外周面に、係止溝22を全周にわたって有し、かつ、軸方向他側の端部内周面に、雌スプライン部71を有する。
【0057】
本例では、第1部材2は、フランジ部材14の円輪部17に、軸本体15の大径筒部19の軸方向片側の端部を内嵌し、かつ、フランジ部材14と軸本体15とを互いに溶接により結合固定することで構成されている。第1部材2は、雌スプライン部71に、第1回転部材72の雄スプライン部73をスプライン係合させることで、第1回転部材72にトルクの伝達を可能に接続される。
【0058】
第1部材2は、ラジアル転がり軸受23により、固定部材10に対して回転自在に支持されている。
【0059】
ラジアル転がり軸受23は、内輪24と、外輪25と、内輪24と外輪25との間に転動自在に配置された複数個の転動体26とを備える。
【0060】
内輪24は、小径筒部20の軸方向片側部分に外嵌され、かつ、側板部21の軸方向他側面と、係止溝22に係止された止め輪27との間で軸方向に挟持されている。
【0061】
外輪25は、固定筒部11の軸方向他側部分に内嵌され、かつ、固定筒部11の軸方向中間部内周面に備えられ、軸方向他側を向いた段差面28と、固定筒部11の軸方向他側の端部内周面に係止された止め輪29との間で軸方向に挟持されている。
【0062】
本例のラジアル転がり軸受23は、転動体26として玉を使用し、かつ、接触角を有する単列アンギュラ玉軸受により構成されている。ただし、第1部材を固定部材に対して回転自在に支持するためのラジアル転がり軸受は、ラジアル荷重およびスラスト荷重を支承することができる限り、特に限定されるものではなく、単列深溝玉軸受や円すいころ軸受などにより構成することもできる。
【0063】
第2部材3は、第1部材2と同軸に、かつ、第1部材2に対する相対回転を可能に支持されている。第2部材3は、変速機の入力軸または差動装置の入力軸などの第2回転部材(図示省略)にトルクの伝達を可能に接続される。本例では、第2部材3は、第2筒部30を有する。
【0064】
第2筒部30は、内周面に、周方向に関して凹部と凸部とを交互に配置してなる外径側凹凸部31を有する。
【0065】
摩擦係合部4は、互いに軸方向の相対変位を可能に支持された、少なくとも1枚ずつ、好ましくは複数枚ずつの第1摩擦板32および第2摩擦板33を有する。本例では、摩擦係合部4は、6枚の第1摩擦板32と、5枚の第2摩擦板33とを交互に重ね合わせることにより構成されている。
【0066】
それぞれの第1摩擦板32は、略中空円形板状に構成されている。それぞれの第1摩擦板32は、内周面に、周方向に関して凹部と凸部とを交互に配置してなる外径側凹凸部34を有する。それぞれの第1摩擦板32は、外径側凹凸部34を、第1部材2の内径側凹凸部18に係合させることで、第1筒部16に対し、軸方向変位を可能に、かつ、相対回転を不能に支持されている。
【0067】
6枚の第1摩擦板32のうちの最も軸方向片側に位置する第1摩擦板32は、第1筒部16の軸方向片側部分の外周面に係止された止め輪35により、軸方向片側への変位が阻止されている。
【0068】
それぞれの第2摩擦板33は、略中空円形板状に構成されている。それぞれの第2摩擦板33は、外周面に、周方向に関して凹部と凸部とを交互に配置してなる内径側凹凸部36を有する。それぞれの第2摩擦板33は、内径側凹凸部36を、第2部材3の外径側凹凸部31に係合させることで、第2筒部30に対し、軸方向変位を可能に、かつ、相対回転を不能に支持されている。
【0069】
なお、摩擦係合部4は、第1摩擦板32と第2摩擦板33とを互いに離隔させる方向に弾性的に付勢するリターンスプリングを備えることができる。
【0070】
カム装置5は、駆動カム37と、ホルダ38と、複数個(図示の例では3個)の転動体39とを備える。
【0071】
駆動カム37は、軸方向片側面に、周方向に関する凹凸面であるカム面40を有し、かつ、外周面の周方向一部に、ギヤ部41を有する。本例では、駆動カム37は、中空円形状に構成された本体部42と、該本体部42の周方向1箇所から径方向外側に向けて突出した略扇形の突出部43とを有する。
【0072】
カム面40は、本体部42の軸方向片側面に備えられている。カム面40は、底部44と、傾斜面部45aと、平坦面部46と、傾斜面部45bとを順に、複数回(図示の例では3回)繰り返し配置することにより構成されている。カム面40のうち、平坦面部46が、最も軸方向片側に位置し、かつ、底部44が、最も軸方向他側に位置する。傾斜面部45aと傾斜面部45bとは、傾斜方向が互いに逆であり、かつ、駆動カム37の中心軸に直交する仮想平面に対する傾斜角度の絶対値が互いに同じである。
【0073】
ギヤ部41は、突出部43の径方向外側面に備えられている。
【0074】
駆動カム37は、ラジアル転がり軸受47により、固定部材10に対して回転可能に、かつ、軸方向変位を不能に支持されている。ラジアル転がり軸受47は、本体部42の内周面と、固定筒部11の軸方向他側の端部外周面との間に配置されている。
【0075】
ラジアル転がり軸受47は、内輪48と、外輪49と、内輪48と外輪49との間に転動自在に配置された複数個の転動体50とを備える。
【0076】
内輪48は、固定筒部11の軸方向他側の端部に外嵌され、かつ、軸方向他側面が、フランジ部12の軸方向片側面に突き当てられている。
【0077】
外輪49は、本体部42に内嵌され、かつ、軸方向片側面が、本体部42の内周面に備えられ、軸方向他側を向いた段差面51に突き当てられている。
【0078】
ラジアル転がり軸受47は、転動体50として玉を使用し、かつ、接触角を有する単列アンギュラ玉軸受により構成されている。ただし、駆動カムを固定部材に対して回転自在に支持するためのラジアル転がり軸受は、ラジアル荷重およびスラスト荷重を支承することができる限り、特に限定されるものではなく、単列深溝玉軸受や円すいころ軸受などにより構成することもできる。
【0079】
ホルダ38は、固定部材10に対して回転を不能に、かつ、軸方向変位を可能に支持されている。このために、ホルダ38は、内周面に、雌スプライン部52を有する。ホルダ38の雌スプライン部52は固定部材10の雄スプライン部13に対して、軸方向の相対変位を可能にスプライン係合されている。
【0080】
ホルダ38は、
図14~
図17に示すように、中空円形板状に構成され、径方向中間部の円周方向複数箇所(図示の例では3箇所)に、軸方向に貫通する矩形孔53を有し、かつ、矩形孔53のそれぞれの径方向両側部分から軸方向他側に向けて突出する略半円形板状の支持板部54a、54bを有する。支持板部54a、54bのそれぞれは、径方向に貫通する円孔である支持孔55a、55bを有する。
【0081】
それぞれの転動体39は、外周面に、カム面40と転がり接触する転動面69を有し、ホルダ38の中心軸を中心とする放射方向に配置された自身の中心軸(自転軸)Cを中心とする回転(自転)を自在にホルダ38に保持されている。
【0082】
本例では、それぞれの転動体39は、円筒形状を有し、円柱状の支持軸57と複数個のころ58とにより、ホルダ38に対し自転自在に支持されている。具体的には、支持軸57の軸方向中間部(支持軸57のうち、ホルダ38の中心軸を中心とする径方向に関する中間部)の周囲に転動体39を配置し、該支持軸57の外周面と転動体39の内周面との間にそれぞれのころ58を転動自在に配置している。また、支持軸57の軸方向両側の端部、すなわち支持軸57のうち、ホルダ38の中心軸を中心とする径方向に関する両側の端部を、支持板部54a、54bの支持孔55a、55bに内嵌している。
【0083】
さらに、本例では、カム装置5は、支持軸57がホルダ38に対して該支持軸57の軸方向(ホルダ38の中心軸を中心とする径方向)に変位することを防止する抜け止め部材60を備える。本例では、抜け止め部材60は、円柱状のピンにより構成されている。抜け止め部材60は、支持軸57のうちでホルダ38の径方向に関する内側部分を該ホルダ38の軸方向に貫通する通孔59と、ホルダ38の径方向内側の支持板部54aを該ホルダ38の軸方向に貫通する係止孔56とに、圧入されている。これにより、支持軸57がホルダ38に対して抜け止めされている。
【0084】
なお、本発明を実施する場合、抜け止め部材の形状、ホルダおよび支持軸に対する抜け止め部材の係合などの態様は、本例の態様に限定されず、任意に決定することができる。たとえば、
図21に示すように、支持軸57aのうちでホルダ38の径方向に関する内側部分に、係止溝79を全周にわたって形成し、係止孔56に圧入される抜け止め部材60の中間部を、係止溝79の内側に配置することで、ホルダ38に対する支持軸57aの変位を防止することもできる。
図21に示す別例によれば、ホルダ38に支持軸57aを組み付ける際に、該支持軸57aの回転方向の位相合わせが不要となり、組立コストを低減することができる。
【0085】
転動体39をホルダ38に自転軸Cを中心とする回転(自転)を自在に保持した状態で、転動体39の軸方向片側部分は、矩形孔53の内側に配置される。また、転動体39のそれぞれは、外周面に備えられた転動面69を、駆動カム37の軸方向片側面に備えられたカム面40に転がり接触させている。
【0086】
カム装置5は、駆動カム37の回転に伴い、カム面40の底部44からの転動体39の乗り上げ量が増減することで、ホルダ38が軸方向に変位する。
【0087】
駆動カム37、ホルダ38、および転動体39を構成する材料については、特に限定されるものではないが、たとえば、駆動カム37および/またはホルダ38は、焼結金属により全体を一体に構成することができる。これにより、複雑な形状を有する駆動カム37および/またはホルダ38を低コストで造ることができる。
【0088】
電動アクチュエータ6は、駆動カム37を回転駆動する。本例では、電動アクチュエータ6は、図示しない電動モータと、減速機61とを備える。減速機61は、電動モータにより回転駆動されるウォーム62を、駆動カム37の外周面に備えられたギヤ部41に噛合させることにより構成されている。
【0089】
押圧部材7は、第1摩擦板32と第2摩擦板33のうちで最も軸方向他側に位置する摩擦板、本例では最も軸方向他側の第1摩擦板32に対向し、かつ、該最も軸方向他側の第1摩擦板32に対する軸方向の遠近動を可能に配置されている。
【0090】
本例では、押圧部材7は、鋼板などの十分な強度および剛性を有する金属板を、断面略クランク形に曲げ成形してなる。具体的には、押圧部材7は、中空円形板状の側板部63と、該側板部63の径方向外側の端部から軸方向片側に向けて折れ曲がった筒状部64と、該筒状部64の軸方向他側の端部から径方向外側に向けて折れ曲がった押圧板部65とを有する。
【0091】
側板部63は、第1部材2に対し軸方向の相対変位を可能に外嵌されている。具体的には、側板部63は、軸本体15の大径筒部19の軸方向片側部分に対し、がたつきなく、かつ、軸方向の相対変位を可能に外嵌されている。これにより、押圧部材7は、第1部材2に対し軸方向の相対変位を可能に支持されている。
【0092】
押圧板部65は、略S字形の断面形状を有し、径方向外側部分の軸方向片側面を、最も軸方向他側の第1摩擦板32の軸方向他側面に対向させている。
【0093】
転がり軸受8は、ホルダ38と押圧部材7との間に配置されている。
【0094】
本例では、転がり軸受8は、ラジアル荷重およびスラスト荷重を支承可能な単列のアンギュラ玉軸受により構成されている。すなわち、転がり軸受8は、外輪66と、内輪67と、外輪66と内輪67との間に転動自在に配置された玉68とを備える。転がり軸受8は、ホルダ38の軸方向片側面と、押圧部材7の側板部63の軸方向他側面との間に挟持されている。換言すれば、外輪66の軸方向片側面を側板部63の軸方向他側面に突き当て、かつ、内輪67の軸方向他側面をホルダ38の軸方向片側面に突き当てている。
【0095】
弾性部材9は、押圧部材7を、第1摩擦板32と第2摩擦板33とを互いに押し付け合う力を解放する方向である軸方向他側に向けて弾性的に付勢する。このために、弾性部材9は、押圧部材7と第1部材2との間に、弾性的に圧縮された状態で挟持されている。これにより、押圧部材7と転がり軸受8とを介して、ホルダ38を、駆動カム37との軸方向間隔が縮まる方向である軸方向他側に向けて弾性的に押圧するとともに、カム装置5の転動体39と、転がり軸受8、23、47に予圧を付与して、転がり接触部での有害な滑りの発生を防止している。
【0096】
本例では、弾性部材9は、2枚の皿ばねを、小径側の端部同士を突き合わせるように、直列組み合わせとすることで構成されている。ただし、弾性部材を、2枚の皿ばねを、大径側の端部同士を突き合わせるように、直列組み合わせとすることで構成することもできる。または、弾性部材を、1枚若しくは3枚以上の皿ばねにより構成することもできる。
【0097】
本例の電動摩擦クラッチ装置1では、弾性部材9と、押圧部材7の一部と、転がり軸受8とが、カム装置5の軸方向寸法にかかわらず、第1部材2の第1筒部16の径方向内側に配置されている。
【0098】
本例では、転動体39が底部44に位置し、カム装置5の軸方向寸法が最も小さい場合であっても、弾性部材9と、押圧部材7のうちの筒状部64の軸方向片側部分および側板部63と、転がり軸受8と、ホルダ38の軸方向片側部分とが、第1筒部16の径方向内側に位置するようにしている。より具体的には、本例の電動摩擦クラッチ装置1では、押圧部材7の筒状部64の径方向内側に、転がり軸受8と、ホルダ38の軸方向片側部分とが配置され、かつ、筒状部64の軸方向片側部分および側板部63と、弾性部材9との周囲に、第1筒部16が配置されている。
【0099】
本例の電動摩擦クラッチ装置1は、電動アクチュエータ6により、カム装置5の駆動カム37を回転駆動することに基づいて、第1部材2と第2部材3とが一体となって回転する接続モードと、第1部材2と第2部材3とが相対回転する切断モードとを切り換える。
【0100】
電動摩擦クラッチ装置1を接続モードに切り換えるには、駆動カム37を回転駆動することで、転動体39を、平坦面部46に位置させるか、または、傾斜面部45a(若しくは45b)への乗り上げ量を増大させる。これにより、ホルダ38を、駆動カム37との軸方向間隔が拡がる方向である軸方向片側に向けて変位させ、弾性部材9の弾力に抗して、押圧部材7と転がり軸受8とを軸方向片側に向けて押圧する。さらに、押圧部材7により、弾性部材9およびリターンスプリングの弾力に抗して、最も軸方向他側の第1摩擦板32を軸方向片側に向けて押圧する。これにより、第1摩擦板32と第2摩擦板33とを互いに押し付け合わせ、摩擦係合部4を接続することで、第1部材2と第2部材3とが一体的に回転するようになる。
【0101】
これに対し、電動摩擦クラッチ装置1を切断モードに切り換えるには、駆動カム37を回転駆動することで、転動体39を、底部44に位置させるか、または、傾斜面部45a(若しくは45b)への乗り上げ量を減少させる。これにより、ホルダ38を、駆動カム37との軸方向間隔が縮まる方向である軸方向他側に向けて変位させ、押圧部材7を軸方向片側に向けて押圧する力を減少させる。押圧部材7を軸方向片側に向けて押圧する力が減少すると、主に弾性部材9の弾性復元力により、押圧部材7と転がり軸受8とが軸方向他側に向けて押圧される。この結果、リターンスプリングの作用により、第1摩擦板32と第2摩擦板33とを互いに押し付け合う力が減少していき、最終的には、第1摩擦板32と第2摩擦板33との間に隙間が形成されて、第1摩擦板32と第2摩擦板33とを互いに押し付け合う力が喪失する、すなわち解放される。これにより、摩擦係合部4を切断することで、第1部材2と第2部材3とが相対回転するようになる。
【0102】
なお、転動体39が、傾斜面部45a(若しくは45b)の途中に位置する状態で、電動アクチュエータ6への通電を停止すれば、弾性部材9の弾性復元力により、押圧部材7と転がり軸受8とが軸方向他側に向けて押圧されることに基づいて、第1摩擦板32と第2摩擦板33とを互いに押し付け合う力が解放される。これにより、摩擦係合部4を切断することもできる。
【0103】
本例の電動摩擦クラッチ装置1では、カム装置5を構成する複数個の転動体39が、自転自在にホルダ38に保持されている。このため、駆動カム37のカム面40と、転動体39の転動面69との間で滑りが発生した場合であっても、複数個の転動体39同士の間で、カム面40の底部44からの乗り上げ量にばらつきが生じることはない。したがって、ホルダ38の軸方向変位量を十分かつ確実に確保することができ、カム装置5の軸方向寸法の拡縮量を十分かつ確実に確保することができる。
【0104】
このため、電動摩擦クラッチ装置1の接続モードへの切換時には、第1摩擦板32と第2摩擦板33との押し付け力を十分に確保でき、摩擦係合部4の締結力を十分に確保することができる。また、電動摩擦クラッチ装置1の切断モードへの切換時には、第1摩擦板32と第2摩擦板33とを十分に離隔させることができる、すなわち第1摩擦板32と第2摩擦板33との間に隙間を確実に形成することができるため、引き摺りの発生を防止することができる。
【0105】
また、本例では、転動体39として、円筒形状を有するローラが使用されている。したがって、
図31に示す従来構造のように、カム装置106の転動体としてボール106cを使用した場合に比べて、滑りの発生を抑制することができる。
【0106】
また、本例の電動摩擦クラッチ装置1では、支持軸57の軸方向片側部分を貫通する通孔59と、ホルダ38の径方向内側の支持板部54bを軸方向に貫通する係止孔56とに、抜け止め部材60を圧入している。このため、支持軸57が、自身の軸方向(ホルダ38の中心軸を中心とする径方向)に関してホルダ38に対し不用意に変位するのを防止することができる。
【0107】
本例の電動摩擦クラッチ装置1によれば、第1摩擦板32を支持し、かつ、第1回転部材72に接続される第1部材2の製造コストを抑えることができる。
【0108】
図31に示す従来構造のクラッチ装置100では、入力部材101に外嵌固定される小径筒部103aと、第1摩擦板105aが軸方向の変位を可能に外嵌される大径筒部103cとを備える第1部材103は、全体を一体に形成されている。このような略F字形の断面形状を有する第1部材103を、鍛造加工により造ろうとした場合、加工荷重が大きくなって、製造コストが増大してしまう可能性がある。
【0109】
これに対し、本例では、第1摩擦板32を支持する第1筒部16を有し、かつ、第1回転部材72に接続される第1部材2を、プレス加工品であるフランジ部材14と、鍛造加工品である軸本体15とを結合固定することで構成している。このため、第1部材2の製造コストを抑えることができる。
【0110】
また、
図31に示す従来構造のクラッチ装置100では、押圧部材108と、転がり軸受109と、駆動カム106aとが、軸方向に関して第1部材103とカムプレート106bとの間に並んで配置されている。このため、従来構造のクラッチ装置100は、軸方向寸法が嵩んでしまう。
【0111】
これに対し、本例では、弾性部材9と、押圧部材7の一部と、転がり軸受8とが、カム装置5の軸方向寸法にかかわらず、第1部材2の第1筒部16の径方向内側に配置されている。このため、本例の電動摩擦クラッチ装置1によれば、従来構造のクラッチ装置100に比べて、軸方向寸法を抑えることができる。
【0112】
また、本例では、押圧部材7の押圧板部65が、略S字形の断面形状を有する。すなわち、押圧部材7のうち、最も軸方向他側の第1摩擦板32の軸方向他側面を押圧する部分を凸曲面により構成している。このため、ホルダ38の軸方向変位に伴って変化する押圧部材7による押圧力の変化が過敏になることを防止できて、電動摩擦クラッチ装置1の制御性を良好にできる。
【0113】
また、本例では、弾性部材9を、皿ばねにより構成しているため、押圧部材を軸方向他側に向けて弾性的に押圧する弾性部材として圧縮コイルばねを使用した場合と比較して、軸方向寸法を抑えやすい。また、皿ばねは、非線形のばね特性を有するため、転がり軸受8、23、47やギヤ部41とウォーム62との噛合部などに過大な負荷が加わることを防止できて、耐久性を向上させることができる。ただし、本発明を実施する場合、弾性部材として、圧縮コイルばねを使用することもできる。
【0114】
なお、本例では、駆動カム37のカム面40のうちの傾斜面部45a、45bは、駆動カム37の中心軸に直交する仮想平面に対する傾斜角度が一定の平面により構成されている。ただし、本発明を実施する場合、
図22に示すように、カム面のうち、底部と平坦面部とを接続する傾斜面部を、複数の平面および/または曲面から構成することもできる。具体的には、第1摩擦板および第2摩擦板が摩耗する以前の初期状態において、転動体が底部から傾斜面部を乗り上げ、ホルダが軸方向片側に向けて移動することに伴って、押圧部材が軸方向片側に向けて移動し、該押圧部材が、第1摩擦板と第2摩擦板とのうち、最も軸方向他側の摩擦板の軸方向他側面に接触する点(初期ピストンタッチポイント)までは、駆動カムの回転角度に対するホルダの軸方向変位量が大きくなるように、すなわち、初期ピストンタッチポイントに到達するまでの時間を短縮できるように、傾斜面部の傾斜角度を比較的大きくすることができる。これに対し、初期ピストンタッチポイントを超えた後は、押圧部材により摩擦係合部の締結力の制御性を良好に確保するために、傾斜面部の傾斜角度を比較的小さくすることができる。また、駆動カムの外周面に備えられるギヤ部の形成範囲を小さくすることができて、製造コストを抑えられる。
【0115】
[第2例]
図23および
図24は、本発明の実施の形態の第2例を示している。本例の電動摩擦クラッチ装置1aでは、摩擦係合部4aは、5枚ずつの第1摩擦板32と第2摩擦板33とを交互に重ね合わせることにより構成されている。
【0116】
本例の電動摩擦クラッチ装置1aは、略L字形の断面形状を有するエンドプレート74を備える。
【0117】
エンドプレート74は、中空円形板状のプレート部75と、該プレート部75の軸方向片側面の径方向外側部分から軸方向片側に向けて全周にわたって突出する凸部76とを有する。プレート部75は、内周面に、周方向に関して凹部と凸部とを交互に配置してなる外径側凹凸部77を有する。
【0118】
エンドプレート74は、外径側凹凸部77を、第1部材2の第1筒部16の外周面に備えられた内径側凹凸部18に係合させることで、第1筒部16に相対回転を不能に外嵌されている。エンドプレート74は、凸部76の内周面を、止め輪35の外周面に、当接または近接対向させ、かつ、プレート部75の径方向内側面の軸方向片側面を、止め輪35の軸方向他側面に当接させている。
【0119】
本例では、第1摩擦板32と第2摩擦板33とのうち、最も軸方向片側に位置する第2摩擦板33を、エンドプレート74を介して、第1筒部16に係止された止め輪35に対向させることで、該最も軸方向片側に位置する第2摩擦板33の軸方向片側への変位が阻止されている。
【0120】
本例の電動摩擦クラッチ装置1では、第1筒部16に外嵌されたエンドプレート74の凸部76の内周面を、止め輪35の外周面に、当接または近接対向させている。このため、第1部材2の回転に伴い止め輪35に遠心力が加わり、該止め輪35が浮き上がろうとした場合でも、第1筒部16からの止め輪35の不用意な脱落を防止することができる。その他の部分の構成および作用効果は、第1例と同様である。
【0121】
[第3例]
図25~
図26(B)は、本発明の実施の形態の第3例を示している。本例の電動摩擦クラッチ装置1bでは、固定部材10に対し第1部材2aを回転自在に支持するためのラジアル転がり軸受23の内輪24は、第1部材2aの側板部21の軸方向他側面と、小径筒部20aの軸方向他側の端部に螺合されたナット78との間で軸方向に挟持されている。
【0122】
本例によれば、第1部材2の回転速度が速い場合でも、ラジアル転がり軸受23の内輪24が、小径筒部20aに対し軸方向にずれ動くことを確実に防止することができる。その他の部分の構成および作用効果は、第1例および第2例と同様である。
【0123】
[第4例]
図27は、本発明の実施の形態の第4例を示している。本例では、カム装置5(
図3など参照)は、駆動カム37を、ホルダ38との間隔が縮まる方向に弾性的に付勢する付勢部材80を備える。本例では、付勢部材80は、使用時にも回転しない固定部分81に備えられ、かつ、周方向を向いた段差面82と、駆動カム37の突出部43の周方向両側の側面のうち、段差面82に対向する周方向片側面との間に弾性的に挟持されたねじりコイルばねにより構成されている。
【0124】
突出部43の周方向両側面のうちの周方向他側面は、固定部分81に備えられたストッパ面83に対向している。これにより、電動アクチュエータ6への通電の停止時に、駆動カム37が周方向他側に向けて過度に回転するのを防止している。
【0125】
本例によれば、押圧部材7を軸方向他側に向けて弾性的に付勢する弾性部材9(
図3など参照)の弾性復元力を、第1例の電動摩擦クラッチ装置1に比べて小さくすることができる。このため、弾性部材9から、カム装置5の転動体39および転がり軸受8、23、47に付与される予圧が過大になるのを防止でき、カム装置5および転がり軸受8、23、47の耐久性を向上することができる。
【0126】
なお、付勢部材80の弾力は、電動アクチュエータ6への通電の停止時に、駆動カム37を、ホルダ38との間隔が縮まる方向に回転させることができ、かつ、摩擦係合部4(
図3参照)を接続すべく、駆動カム37を、ホルダ38との間隔が拡がる方向に回転させるために要する力が過度に大きくならないように、適宜設定される。その他の部分の構成および作用効果は、第1例と同様である。
【0127】
[第5例]
図28~
図30は、本発明の実施の第5例を示している。本例では、電動アクチュエータ6(
図3など参照)が、駆動カム37を、ホルダ38との間隔が縮まる方向に弾性的に付勢する付勢部材80aを備える。本例では、使用時にも回転しない固定部分81aと、ウォーム62aとの間に備えられたぜんまいばねにより構成されている。すなわち、付勢部材80aは、ウォーム62aに、該ウォーム62aを所定方向に回転させる方向の弾力を付与することで、該ウォーム62aとギヤ部41との噛合部を介して、駆動カム37を、ホルダ38との間隔が縮まる方向に弾性的に付勢している。
【0128】
ウォーム62aは、基端部に、外周面のうちの径方向反対側2箇所位置と基端側の端面とに開口するスリット84を有する。スリット84は、奥端側の幅狭部85と、基端側の幅広部86とを有する。
【0129】
ぜんまいばねにより構成される付勢部材80aは、径方向内側(芯側)の端部に備えられた係止片87aを、ウォーム62aのスリット84の幅狭部85に係止し、かつ、径方向外側の端部に備えられた係止片87bを、固定部分81aに形成された係止部88に係止している。これにより、付勢部材80aは、固定部分81aとウォーム62aとの間にかけ渡されている。
【0130】
本例では、電動アクチュエータ6(
図3参照)を構成する電動モータの出力軸89の先端部に備えられ、かつ、二面幅形状を有する接続凸部90を、ウォーム62aのスリット84の幅広部86に係合することで、ウォーム62aと出力軸89とを結合するとともに、付勢部材80aの係止片87aのスリット84からの脱落を防止している。
【0131】
本例によれば、第4例の構造と同様に、押圧部材7を軸方向他側に向けて弾性的に付勢する弾性部材9(
図3など参照)の弾性復元力を、第1例の電動摩擦クラッチ装置1に比べて小さくすることができる。このため、弾性部材9から、カム装置5の転動体39および転がり軸受8、23、47に付与される予圧が過大になるのを防止でき、カム装置5および転がり軸受8、23、47の耐久性を向上することができる。
【0132】
なお、付勢部材80aの弾力は、電動アクチュエータ6への通電の停止時に、駆動カム37を、ホルダ38との間隔が縮まる方向に回転させることができ、かつ、摩擦係合部4(
図3参照)を接続する際に、電動アクチュエータ6によりウォーム62aを前記所定方向と反対方向に回転させるのに要する力が過度に大きくならないように、適宜設定される。その他の部分の構成および作用効果は、第1例および第4例と同様である。
【符号の説明】
【0133】
1、1a、1b 電動摩擦クラッチ装置
2、2a 第1部材
3 第2部材
4、4a 摩擦係合部
5 カム装置
6 電動アクチュエータ
7 押圧部材
8 転がり軸受
9 弾性部材
10 固定部材
11 固定筒部
12 フランジ部
13 雄スプライン部
14 フランジ部材
15 軸本体
16 第1筒部
17 円輪部
18 内径側凹凸部
19 大径筒部
20、20a 小径筒部
21 側板部
22 係止溝
23 ラジアル転がり軸受
24 内輪
25 外輪
26 転動体
27 止め輪
28 段差面
29 止め輪
30 第2筒部
31 外径側凹凸部
32 第1摩擦板
33 第2摩擦板
34 外径側凹凸部
35 止め輪
36 内径側凹凸部
37 駆動カム
38 ホルダ
39 転動体
40 カム面
41 ギヤ部
42 本体部
43 突出部
44 底部
45a、45b 傾斜面部
46 平坦面部
47 ラジアル転がり軸受
48 内輪
49 外輪
50 転動体
51 段差面
52 雌スプライン部
53 矩形孔
54a、54b 支持板部
55a、55b 支持孔
56 係止孔
57、57a 支持軸
58 ころ
59 通孔
60 抜け止め部材
61 減速機
62 ウォーム
63 側板部
64 筒状部
65 押圧板部
66 外輪
67 内輪
68 玉
69 転動面
70 通孔
71 雌スプライン部
72 第1回転部材
73 雄スプライン部
74 エンドプレート
75 プレート部
76 凸部
77 外径側凹凸部
78 ナット
79 係止溝
80、80a 付勢部材
81、81a 固定部分
82 段差面
83 ストッパ面
84 スリット
85 幅狭部
86 幅広部
87a、87b 係止片
88 係止部
89 出力軸
90 接続凸部
100 クラッチ装置
101 入力部材
102 出力部材
103 第1部材
103a 小径筒部
103b 側板部
103c 大径筒部
104 第2部材
104a 円輪部
104b 円筒部
105 摩擦係合部
105a 第1摩擦板
105b 第2摩擦板
106 カム装置
106a 駆動カム
106a1 駆動側カム面
106a2 ギヤ部
106b カムプレート
106b1 固定側カム面
106c ボール
107 電動アクチュエータ
107a 電動モータ
107b 減速機
107b1 出力歯車
108 押圧部材
109 転がり軸受
110 弾性部材